過去ログ - 「死屍累々、全てを呑み込むこの街で」
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44: ◆XkFHc6ejAk[saga]
2016/11/17(木) 23:00:12.63 ID:CbSsyhlG0
「おお、随分と強そうじゃのぉ……ヒヒヒヒ」

しげしげと観察する老人に対し、キメラは低い声で唸り、筋肉を膨らませます。

ほんの一瞬の気の乱れが、大きな隙を生む――すでに見えない攻防が繰り広げられているのです。

均衡を破ったのは勿論キメラの方です。壁に両脚を向けたかと思うと、それを踏み台にして飛び掛かりました。

風圧を纏ったその突進は、まるで嵐の化身。しかし、老人はそれを紙一重で回避します。

(思っていたよりも速いか……)

「ヒヒッ!」

老人の纏う気配が変わりました。紫色に光る大量の蠅が辺りを飛び交います。

蠅を警戒したキメラは三歩下がると、水と雷、さらに炎のブレスを放ちました。しかし、それは一瞬で老人の口に入ります。

こいつもブレスを吸収する、と学習したキメラは、ヤギの口を開きました。

「メエエェエエェエェ〜ッ!!」

粘っこい、思わず耳を塞ぎたくなる不愉快な声が響き渡ります。それに対し――

「――キイィイィイヤアアアアアァアァアァ!!」

老人の断末魔のような咆哮が轟き、その声を上から塗りつぶします。びりびりびりっと空気が激しく揺れます。

近くの建物に亀裂が入り、ついにはガラガラと崩れ落ちてしまいました。

その奇声に怯んだキメラに、老人の口から、男のそれと比べて三倍ほどもある超巨大な火球が放たれます。

避ける時間、避ける空間などあるはずもなく、一瞬でキメラが包まれてしまいました。

――しかし。

「! その首は……」

「ヴオォオォオォ……」

ほほう! 驚きました! 今度はイビルイーターの首を生やしましたよ!

今度はキメラの方が老人の放った豪炎を吸い込んでしまいました。面白い生物です。

さらにもう一呼吸すると、老人の周りを覆い尽くしていた魔力の蠅が吸い込まれてしまいました。

男が考えていた通り、やはり魔力で出来たものしか吸い込めないようです。

「お前さん、どれだけ生やせば気が済むんじゃ……ヒヒッ!」

過ぎた事ですが、最初に上空から魔法で攻撃していれば、こんな事にはなっていないのです。

あらゆる生物の中でも指折りの制空能力を持つというのに……遊んだせいで、キメラはさらに強くなってしまいました。

彼が敗れると、他に誰が倒せるでしょうか? 老人ほど強い者は、この街には居ませんからねぇ。

ワタクシとしては、もう少し抵抗してほしいのですが……観察していて楽しいですし。

おや、キメラが震えだしましたよ? 今度は何が起こるのでしょうか?

「……!!」

おお、今度はオリジナルのイビルイーターが纏っていた瘴気を出しました! 全ての首の目が血のように赤く光り始めます。

先ほどの三体と違い、禍々しい呪いの気が溢れ出ています。いえ……これはオリジナルよりも強い呪いですね。

老人はどうするのでしょうか。また羽ばたきによる攻撃で仕留めるのでしょうか?

そろそろ遊ぶ余裕も無くなりそうですが……果たして彼の行動やいかに。

「ヒッヒッヒ……分かるぞぉ、進化を重ねれば重ねるほど、お主の寿命がぐんぐん減っておる」

その通りです。進化とは、そもそも生命が新たな命を紡いでゆっくりと積み上げていくものです。

それをこんな短期間……それもかなり強引なやり方で重ねているものですから、身体への負担は想像を遥かに超えるものでしょう。

「今楽にしてやろう」

そう言った老人の全身から、紫色の粒子が放たれました。


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