9:名無しNIPPER[saga]
2016/11/26(土) 17:46:24.23 ID:aK0UkAGEo
◇◆◇◆
季節の巨大なうねりが街を支配するようになってどれくらい経っただろう。
一昨日は秋の終わりだった。
『今日から明日にかけ、全区的な冬模様となるでしょう。時折南方から強い春風が吹く恐れがあります。また第九地区では午後、一時的な夏波が予想され……』
季節予報士によると、今月いっぱいは最小で三日周季の波が続くらしい。
幸い、私たちが住む第二地区は気温の変化はそれほど激しくないから、気をつけるのは雨天や気圧くらいのものだ。
それでも三日毎に季節がコロコロと変わるのは気が滅入るし、四季の逆流現象なんていう物騒な災害も起きたりして、
この街の住人にとっては、周季が短くなるというのは基本的に悪いことでしかない。
このめまぐるしい季節の移ろいを無邪気に喜んでいられるのは、広場や公園で元気に遊んでいる子供たちと、それからあなたくらいだ。
「何もこんな時に外へ出なくても……ほら、雪も降ってきましたよ」
「こんな時だからこそ、ですよ。変化のない旅なんてつまらないじゃないですか」
「はあ……」
街を出て、どこへ行くかは聞かなかった。
あの展覧会の夜のように、ただあなたの後ろについて行くだけだった。
私は持てるだけのお金をポーチに詰め込み、作りかけのシチューをそのままにしてアパートを出た。
もう二度とここへは戻って来ないような気がした。
「この格好、ヘンじゃないかしら」
急いで着替えたのは秋用の服で、ベージュ色をしたハイネックのニットに、下は動きやすいスキニージーンズだった。
念のため冬用のダウンも羽織っていた。
「全然ヘンじゃないですよ。美優さんらしくて……でも、その靴はどうにかした方がいいかもしれませんね」
「あっ、サンダル……」
私たちはまず靴屋へ向かった。
あなたは仕事用の大きなキャリーバッグを引いていて、私がその横に並んで歩いていた。
日はすっかり暮れて、街灯が行き先を照らしていた。
辺りの民家から夕飯のおいしそうな匂いが漂ってくる。
お腹空いてきました、と言うと、私もです、と返された。
それならせめてシチューを一緒に食べればよかったのに、と思った。
けれど私もあなたも、家に戻るなんてことは考えもしなかった。
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