1:けいおんSS[sage saga]
2016/11/27(日) 18:25:46.96 ID:WwkYnpYs0
新幹線が新横浜を過ぎた頃になってようやく、りっちゃんから着信があったことに気がついた。
着信履歴は二時間前と一時間前の二件。LINEのメッセージも一件。
返信のスタンプを打とうとした途端、車内放送が流れ始めた。もう品川に着くみたい。降りなきゃ。
スマホをバックに押し込み、立ち上がって棚の上にある荷物を手に取る。
返事……まぁ、いいか。またあとで。
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2:名無しNIPPER[sage saga]
2016/11/27(日) 18:26:32.78 ID:WwkYnpYs0
隣の席のおじさんに軽く頭を下げ、通路に出る。すでに降車のための行列ができている。
家族連れやカップルが多い。お盆休みの新幹線は、帰省や観光のための乗客でいっぱいだ。
三人掛けの真ん中の席しかとれなかったとはいえ、座れただけでも感謝感謝。
寝過ごして富士山を見られなかったことは残念無念。
3:名無しNIPPER[sage saga]
2016/11/27(日) 18:27:11.94 ID:WwkYnpYs0
エスカレーターを上りながら、りっちゃんに電話をかけるべきか迷う。
LINEには仕事で待ち合わせに遅れる旨が送られていた。
それならわざわざ電話をかけ直して要件を確認しなくていいか。
ただ、二回も電話をかけてきていたことが気になった。
けど、仕事中だとしたら電話をするのも悪いかな。
4:名無しNIPPER[sage saga]
2016/11/27(日) 18:27:48.10 ID:WwkYnpYs0
新幹線の改札を抜けたところに、ムギちゃんの姿が見えた。
歩いてくるわたしを見つけたムギちゃんは、笑顔で大きく手を振った。
わたしも大きく振り返し、改札を目指して駆け出す。
一歩を踏み出すたび、背中のリュックがぼんぼんと跳ねる。
息を切らして改札を抜けたわたしは、両手を広げてムギちゃんに抱きついた。
5:名無しNIPPER[sage saga]
2016/11/27(日) 18:29:55.48 ID:WwkYnpYs0
「ムギちゃーん! ひっさしぶり〜〜!」
「唯ちゃーん! 待ってたよ〜〜!」
抱き合ったムギちゃんの身体は、相変わらずやわらかくてあったかい。
6:名無しNIPPER[sage saga]
2016/11/27(日) 18:30:36.26 ID:WwkYnpYs0
「ごめんね、わざわざ迎えにきてもらっちゃって」
「ううん、わたしが唯ちゃんを呼んだんだし。それに唯ちゃんに早く会いたくって!」
と、ムギちゃんは言うけれど、わたしが心配だったに決まってる。
7:名無しNIPPER[sage saga]
2016/11/27(日) 18:31:24.43 ID:WwkYnpYs0
人混みの中をするすると歩くムギちゃんにぴたりと付いていく。
ムギちゃんは、大勢のひとごみの中をするすると進んで行く。
わたしひとりなら、ぶつかったり、まごついたり、ふらふらしてるうちに違うところに行っちゃいそう。
ふたつみっつと路線を乗り換え、わたし達は電車に揺られ続けた。
8:名無しNIPPER[sage saga]
2016/11/27(日) 18:31:53.11 ID:WwkYnpYs0
「ムギちゃん、すごいね。迎えに来てくれてよかったよ」
七年も住んでいればね、とムギちゃんはこともなげに笑った。
「そーいや、りっちゃんどうしたの?」
9:名無しNIPPER[sage saga]
2016/11/27(日) 18:32:30.14 ID:WwkYnpYs0
駅前の居酒屋に入って一時間くらいが経ったころ、ようやくりっちゃんが姿を現した。
肩を過ぎるくらいまで伸ばした髪に、軽くパーマをあてたりっちゃんは、ごめんごめん、と手刀を切りながら席に座り、手をあげて店員さんを呼び止めると、笑顔で生中をひとつ、注文した。
「唯、久しぶりなのにごめんな、遅れて」
10:名無しNIPPER[sage saga]
2016/11/27(日) 18:32:59.18 ID:WwkYnpYs0
「いつ以来だっけ? 唯と会うの」
「年末に会ったじゃん」
りっちゃんの生中がやってきた。ジョッキを掲げ、三人でもう一度、乾杯をする。
11:名無しNIPPER[sage saga]
2016/11/27(日) 18:33:48.26 ID:WwkYnpYs0
「そんなになるのかぁー…みんなで毎年旅行に行ってた頃が大昔に思えるな」
「しょうがないよ、りっちゃん。結婚したり、子供できたりしたらさ。カテイノジジョーってやつだよ」
「家庭の事情、ねぇ」
12:名無しNIPPER[sage saga]
2016/11/27(日) 18:34:30.27 ID:WwkYnpYs0
大学卒業。
さすがに就職先まで同じ、というわけにもいかず、高校大学とそれまでずっと一緒だったわたし達にようやく別れの季節がやってきた。
澪ちゃんは大阪、ムギちゃんは東京。わたしとりっちゃんは地元…だったけど転勤次第ではどうなるかわかんない。まだ大学生だったあずにゃんだって、就活の結果どうなるのかわかんない。
だからわたし達はひとつ約束をした。
13:名無しNIPPER[sage saga]
2016/11/27(日) 18:35:44.24 ID:WwkYnpYs0
「集まるだけなら、次は年末?」
軟骨のからあげを頬張りつつ、わたしが尋ねる。
「その前に梓ちゃんの結婚式よ」
お銚子を傾けつつムギちゃんが答えると、
14:名無しNIPPER[sage saga]
2016/11/27(日) 18:38:06.31 ID:WwkYnpYs0
「ハァァァ〜〜あずにゃんが結婚かぁ…わたしのあずにゃんが……」
「唯のじゃない、っての。しっかし最近、ウチの職場でも結婚ラッシュでさぁ…」
「りっちゃんとこも? わたしも先月三回も結婚式に出たからさ、財布カラッカラ…」
15:名無しNIPPER[sage]
2016/11/27(日) 18:38:14.76 ID:j1i+9VNXO
唯誕生日おめでとう
16:名無しNIPPER[sage saga]
2016/11/27(日) 18:39:06.62 ID:WwkYnpYs0
「ならないならない! だって事実わたし達かわいいもーん。だから結婚してなくたって、まだまだ焦る時間じゃないっしょー。
ほらー人生、長いんだから。それにけいおん部的にも独身勢が人数優勢! いえーい!」
わたしがムダに大きな声をあげてグラスを掲げると、ムギちゃんもそれに合わせてグラスを掲げた。
りっちゃんは顔をため息をついて呆れたように笑い、申し訳程度にグラスを掲げ、乾杯をした。
17:名無しNIPPER[sage saga]
2016/11/27(日) 18:39:53.41 ID:WwkYnpYs0
わたし達の中で、一番はじめに結婚したのは澪ちゃんだった。
勤め先の銀行で、新入社員だった頃の教育係だった先輩と。
結婚式で流すため、わざわざ桜高の生徒会室を訪れて伝説のライブビデオを借り、編集した映像を披露宴で流したのはいい思い出。
そのあとの二次会で花嫁の鉄拳が、りっちゃんの頭上に炸裂にしたのは言うまでもない。
18:名無しNIPPER[sage saga]
2016/11/27(日) 18:40:48.90 ID:WwkYnpYs0
結婚してからも五人で旅行に行った。
夏、高原、星がきれいだった。それが最後。
その旅行のあとすぐ、りっちゃんが転勤になり、年の瀬には澪ちゃんに赤ちゃんができた。
19:名無しNIPPER[sage saga]
2016/11/27(日) 18:41:41.60 ID:WwkYnpYs0
「あのさ、唯」
本当は今回の東京行き、澪ちゃんあずにゃんにも声をかけていたんだけどね。
家庭の事情や仕事の都合ばっかりは、どうしようもない。どうしようもないけど……まぁ、いいか。
20:名無しNIPPER[sage saga]
2016/11/27(日) 18:42:10.01 ID:WwkYnpYs0
「いま思ったんだけど」
「どうしたの唯ちゃん」
「わたし達、黒髪ストレートロングにしたら、結婚できちゃったりして」
21:名無しNIPPER[sage saga]
2016/11/27(日) 18:42:41.88 ID:WwkYnpYs0
「ほらー。澪ちゃんあずにゃんにあってわたし達にないもの、って考えたらさ、ふと」
「そうでもないだろ、ほら。憂ちゃん」
「憂は特別だよー、憂だよ? 憂」
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