14: ◆S6NKsUHavA[saga]
2016/12/15(木) 22:12:07.56 ID:TASUOcfu0
「それから、一度も会えてないんだね……」
「うん……あの後も、ずっと同じ公園にいたんだけど、結局それからは一度も見てない……」
その時のことを思い出して、輝子は少しうなだれた。あれ以来彼女が公園を通ることは無く、あの男も一度ちらりと見かけた以外は二度と来ることは無かった。
小梅は輝子の三つ編みに付いているリボンに視線を向ける。少しくすんで端が僅かにほつれた、ピンクのリボン。
「これ、その時にもらったもの……?」
「そ、そう。もういい加減日焼けしちゃって色も変わってるんだけど、捨てられなくて」
「三つ編みも、それからずっとしてるんだね」
「うん。他にも色々やってみたんだけど、これが一番落ち着くから……」
そう言って、輝子はまた三つ編みをもてあそんだ。ぼさぼさの髪の中で唯一の、ほんの少しの気遣い。それは、彼女が初めて自分の可能性を意識した象徴であり、同時に名前も知らないあの人を忘れないための碑(いしぶみ)でもある。
お前は、きっとまたアタシの通る道を邪魔する。彼女はそう言った。そんな日が本当に来るかどうかはまだ分からないけれど、と思いながら、輝子はそれでも少しだけ期待していた。自分の中に風をもたらしてくれた、あの人との再会を。
「……あ、もうそろそろ、プロジェクトルームに戻らないと」
「きょ、今日は、プロデューサーさんの車で送って貰える日、だね」
休憩室で付けっぱなしのテレビが、ちょうど良い時間を告げている。輝子と小梅は慌ててドリンクを飲み干すと、缶をゴミ箱に捨てて休憩室を後にした。
空っぽになった部屋に、テレビからバラエティ番組が垂れ流される。
拍手の音に埋もれまいとする司会の声が、話題の人物を紹介すべく原稿を読み上げた。
「さぁ、今日のゲストは、衝撃のアイドルデビュー宣言で話題の、現役JK社長──」
(了)
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