過去ログ - 輝子「三つ編みのこと」
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9: ◆S6NKsUHavA[saga]
2016/12/15(木) 22:02:16.19 ID:TASUOcfu0
 その日は……確か、ちょっと曇ってた。そろそろまた別のトモダチが何処かに姿を現すかも知れないと思って、そわそわしながらドームの中でシイタケの原木に霧吹きしてたんだけど。
 しばらくして、何処からか言い争うような声が聞こえてきたんだ。

「しつこい。お前んとことは取引しないって言ったろ?」
「まぁまぁ社長、そう仰らずに」

 一人は、いつものあの人の声。もう一人は、ちょっと甲高い感じの男の人の声。何となく良い雰囲気じゃ無かったから、ドームからちょっとだけ顔を出して、声のする方を覗いてみた。
 あの人は、遠目に見てもいつも以上に渋い顔だった。目の前には、灰色のスーツを着た中年くらいの背の高い男の人がいて、なんだかぺこぺこしてた。あの人の事を「社長」って呼んでたけど、愛称か何かだったのかな。

「うちと組んで頂ければ優先的に商品を回させて頂きますし、広告費用も」
「アタシにはアタシのポリシーがあるんで。話題性だけで乗っかるバカは要らねぇの」

 相変わらずの口ぶりだけど、あの人の声にはいつもと違う怒りみたいなのが滲んでた。きっと、かなりしつこかったんだと思う。それでも、男の人は人形みたいにぺこぺこしながら、ちょっと気味悪いくらいの猫なで声で話を続けた。

「話題性だけなんてそんな……ただうちは少しでも社長のお力になれればと」
「なら本気の仕事を見せろよ。あんなチャチい仕様書書いて来るトコが、アタシの力になる? 寝言は寝て言えって。死ぬ気でやらねぇヤツと心中とか、趣味じゃないんで」

 それに対する反論は、こっちが聞いててハラハラするくらい辛辣で、私はドームからそれ以上顔を出せなかった。二人からはちょうど死角になるような位置だったから、こっちには気付いてないみたいだったけど。
 あの人はそれ以上話すことは無いとばかりに、いつもの調子で歩いて行こうとしたけど、男の人が先回りして道を塞いだ。あの人が舌打ちすると、男の人はぺこぺこするのをやめて、目を細めて笑顔を作った。
 ぞっとした。よく分からないけど、その笑顔はとても危険なにおいがしたんだ。なんて言うか、猛毒のキノコみたいな、そんなにおい。

「……でしたら、死ぬ気で説得させていただきましょう」
「ハァ? お前何言って……!?」

 一瞬だった。男の人の右手が、あの人の左手首を掴んだ。あの人は咄嗟に振り払おうとするけど、男の人の力が強いのかびくともしない。あの人を掴んだまま、男の人は一歩近づいた。私のいる、ドームの方に向けて。私はすぐに隠れた。マズい、絶対にマズい。見つかったら、私も酷い目に遭うかも知れない!





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