過去ログ - 【DQ7】マリベル「アミット漁についていくわ。」【後日談】
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130: ◆N7KRije7Xs[sage saga]
2016/12/27(火) 19:17:47.20 ID:WJPu1BOR0

マリベル「…………………。」

少女は一人船縁に肘をかけ、最後の一切れを持ったままじっとそれを見つめていた。

アルス「…どうしたの マリベル?」

マリベル「…ああ アルス。いや ね 昔のことを 思い出しちゃっただけよ。」

少女は振り向きもせずに答える。

アルス「昔のこと?」

マリベル「ええ。いつだか 言ったかもしれないけど あたし おじいちゃん子だったのよ。」

アルス「それが アップルパイと……。」

マリベル「好きだったのよ。」

アルス「え?」

マリベル「死んだ おじいちゃんがね。 ……アップルパイを。」
マリベル「まだ おじいちゃんが 生きていた頃 おじいちゃんが ママに言うもんだから ママは よく アップルパイを 作ってたの。」

アルス「どうして?」

マリベル「さあね。でも 今思えば おばあちゃんとの 思い出の品だったのかなって。」
マリベル「おばあちゃんのことは 顔も 知らないけど おじいちゃんが アップルパイを食べる時の顔は なんだか 懐かしむような 感じだったもの。」

アルス「マリベルの おばあさんのことを 思い出していたのかな。」

マリベル「そうかもね。あたしも おじいちゃんと 食べる アップルパイが 大好きだったわ。」
マリベル「でも おじいちゃんが 死んじゃってからかな。アップルパイが 嫌いになっちゃったのは。」
マリベル「見たくも なかったのに。飯番が リンゴばっかり 買ってくるから。」

アルス「…………………。」

マリベル「何年たっても 忘れられないものね。おじいちゃんが 喜んでくれるからなんて言って ママに 教えてもらって 何度も 練習したっけ。」
マリベル「…………………。」
マリベル「笑っちゃうわよね。あれだけ 嫌だったのに いざやってみれば 自分でもびっくりするくらい うまく作れちゃうんだもの。」
マリベル「……二度と作らないって 思ってたのに…。」

アルス「…………………。」



アルス「きっと おじいさん 泣いてるよ。」



マリベル「え?」

アルス「マリベルが そんなこと言ってるって知ったら きっと 天国の おじいさんは 悲しむと思うよ。」
アルス「……おじいさんとの 思い出のアップルパイなんでしょ?」

マリベル「…そうだけど……っ!」

アルス「ぼくは いやだな。自分の大好きな人が 自分との思い出を 嫌だなんて言って 忘れようとしていたら。」 
アルス「大好きな人には ずっと 覚えていてほしいもん。ぼくのことも ぼくとの思い出も。」

マリベル「…………………。」
マリベル「おじいちゃん…。」

素直な感想、否、願いだったのだろうか。少年の言葉に大好きだった祖父と過ごした日々を思い出し、少女はそっと思い出の味にかじりつく。

マリベル「……おいしい。」

一度口にしだしたら止まらなかった。最後の一口まで噛みしめると少女はゆっくりと赤みを帯び始めた空を見上げる。
柔らかい微笑みを浮かべるその瞳からは名残を惜しむように滴が一筋、海の底へと消えていった。

アルス「…………………。」

空っぽになってしまった皿を見つめながら少年は少しだけ後悔していた。
今朝がた心に決めたばかりの誓いは、自らの手によってあっという間に、いとも簡単に破られてしまったと。

しかし彼の心はどこか温かい気持ちで満たされていた。

アルス「この旅が 終わったらさ……。」
アルス「また 食べたいな。マリベルの アップルパイ。」

マリベル「…………………。」
マリベル「……うん。」

少女はもはや泣いてなどいなかった。少年の願いに小さく頷くと再び空を見上げ、優しく頬を撫でる風に身を任せ、静かに目を閉じたのだった。



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