過去ログ - ピエロのピエトロ・ピルエット・エルル
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1: ◆eUwxvhsdPM[saga]
2017/01/07(土) 22:06:25.51 ID:pdC/HIHz0
くるくる。
くるくる。
くるくるり。

ぼくが夢の中で見る、華麗なバレエのピルエットは。
赤と黄色の水玉模様の、だぼついた道化服を着たぼくには、到底踊れないものだった。

名前も知らないその少女は、いつまでもいつまでも、ずっと、ずっと。
美しいバレエを踊り続ける。

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2: ◆eUwxvhsdPM[saga]
2017/01/07(土) 22:06:55.11 ID:pdC/HIHz0
夢の中のぼく達は、古い大きな劇場の、ステージの上に立っていて。
観客は皆、天使だった。

6歳から15歳までの年若い女児が、ふわふわの白い服を着て。
ほわほわの白い翼をはためかせる。


3: ◆eUwxvhsdPM[saga]
2017/01/07(土) 22:07:36.58 ID:pdC/HIHz0
なんだか居心地が悪い気がして。
どうせならジャグリングの一つでも、天使に見せてあげようかと思ったけれど。

ぼくの手にはボールやピンじゃあなく、白い大きな羽根が握られていた。
これじゃあ芸の一つも出来やしない。


4: ◆eUwxvhsdPM[saga]
2017/01/07(土) 22:08:25.22 ID:pdC/HIHz0
どうしようかと物思いに耽っていると。

「ピエトロ」

と、名前を呼ばれた気がした。
以下略



5: ◆eUwxvhsdPM[saga]
2017/01/07(土) 22:09:05.90 ID:pdC/HIHz0
「ねえ、ピエトロ。あなたってもしかして、ピエロなの?」

今度ははっきりと聞こえた。
バレエのピルエットを回り続ける少女が、ぼくの名前を呼んでいる。

以下略



6: ◆eUwxvhsdPM[saga]
2017/01/07(土) 22:10:08.80 ID:pdC/HIHz0
「ねえ。ピエトロは、ピエロなの?」

「ああ、ぼくは、ピエロだよ。そして、ピエトロって名前だ」

「そう。わたしの事は、知ってる?」
以下略



7: ◆eUwxvhsdPM[saga]
2017/01/07(土) 22:11:12.38 ID:pdC/HIHz0
「ううん……あのね、わたしの名前は、エルルっていうの」

「エルル?」

「そう、エルル。バレエのピルエットを踊る、エルル」
以下略



8: ◆eUwxvhsdPM[saga]
2017/01/07(土) 22:12:33.90 ID:pdC/HIHz0
「けれど、ピエトロは、ピエロじゃあないわね」

「どういう意味だい?ぼくはピエロさ。ほら、ピエロの格好をしている」

「けれど、ピエトロは、笑っちゃいないもの」
以下略



9: ◆eUwxvhsdPM[saga]
2017/01/07(土) 22:13:35.95 ID:pdC/HIHz0
「わたし、知ってるもの。ピエロはね、どんなに辛くても、どんなに悲しくても、涙は一筋しか流さないの」

「一筋?一筋は泣くのかい?」

「その一筋は、涙の形をした化粧なの。だから、ピエロは泣いちゃあダメなの」
以下略



10: ◆eUwxvhsdPM[saga]
2017/01/07(土) 22:14:41.59 ID:pdC/HIHz0
「いつもは化粧をしているよ。ニッコリ笑った、赤い口紅を」

「そういう事じゃあなくってね。心から笑ってもらいたいなら、あなたも笑わなくっちゃあ、ね」

「…………」


11: ◆eUwxvhsdPM[saga]
2017/01/07(土) 22:15:41.42 ID:pdC/HIHz0
押し黙ってしまったぼくは、ひどく小さな存在に思えた。

しかし、観客の天使達は、ステージの上に立つぼくを見失わず、いつまでもいつまでも、ずっと、ずっと。
見つめ続ける。見つめ続ける。


12: ◆eUwxvhsdPM[saga]
2017/01/07(土) 22:16:16.53 ID:pdC/HIHz0
このまま小さくなっちゃって、消える事が出来たら楽なのに、な。
と、心の片隅で思う。


13: ◆eUwxvhsdPM[saga]
2017/01/07(土) 22:16:58.30 ID:pdC/HIHz0
少女は喋る事をやめない。
回りながら、くるくるぺらぺら。

「ピエトロは、ピエロなんでしょう?」

以下略



14: ◆eUwxvhsdPM[saga]
2017/01/07(土) 22:17:50.62 ID:pdC/HIHz0
「ピエロのあなたは、笑いたいの?」

「……笑いたいとは、思わないかな。ぼくは、笑うことが出来ないんだ」

「嘘よ。だってさっき、笑ったもの。あははははって」
以下略



15: ◆eUwxvhsdPM[saga]
2017/01/07(土) 22:18:41.87 ID:pdC/HIHz0
「回っちゃダメかしら?」

「ダメじゃあないけれど」

「練習、しないといけないの。ピルエットの練習よ。もうすぐ、発表会だから」
以下略



16: ◆eUwxvhsdPM[saga]
2017/01/07(土) 22:19:28.36 ID:pdC/HIHz0
「もう、ピエトロは何が言いたいの?」

「ぼくかい?」

「あなたよ」
以下略



17: ◆eUwxvhsdPM[saga]
2017/01/07(土) 22:20:48.03 ID:pdC/HIHz0
「ほら!止まってあげたわよ」

「ああ、止まったね」

「これで、いいの?」
以下略



18: ◆eUwxvhsdPM[saga]
2017/01/07(土) 22:22:00.73 ID:pdC/HIHz0
理由を話そうとしたら、ノドの奥がじぃんと熱くなった。
けれど、涙は出なかったから、ぼくは熱いノドを冷やすように、息を吐き出す。

「妹が、天使になったんだ。それから、ぼくは笑わない」

以下略



19: ◆eUwxvhsdPM[saga]
2017/01/07(土) 22:23:22.04 ID:pdC/HIHz0
言うべき言葉が見つからなくって、ぼくは観客席を眺めた。

年若い天使達は、身体を揺らしながら。
ヘンテコな歌を朗々と歌い始める。


20: ◆eUwxvhsdPM[saga]
2017/01/07(土) 22:24:22.71 ID:pdC/HIHz0
♪可愛い天使の作り方
まず必要なのは女の子

素直で可愛い6歳から
しっかりものの15歳
以下略



21: ◆eUwxvhsdPM[saga]
2017/01/07(土) 22:25:32.83 ID:pdC/HIHz0
♪必要なのは羽根の模様

それが身体に浮き出たら
天使になるのはすぐの事

以下略



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