過去ログ - 椎名法子「トキコ」
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9: ◆saguDXyqCw
2017/01/13(金) 17:50:12.17 ID:wEYB5TOK0

 あたしは時子さんの隣に座って、膝の上で箱を開けた。

 色とりどりのドーナツが、透き通った陽光に照らされて宝石みたいにきらきら輝いてた。

 顔を近づけると、小麦粉の指揮に乗せられてチョコやいちご、ホイップクリームの甘い香りが早く食べてってあたしに歌い掛けてくる。


「時子さんどれがいい……あ、たくさんあるけど一個だけだからね。ゆかゆかやプロデューサーの分も残しとかなきゃだから」

「一個で十分よ。そうね……あまり甘くないの、あるかしら」

「じゃあこれかな?」


 あたしは黒いチョコのかかったドーナツを差し出した。ビターチョコドーナツ。プロデューサーかちひろさん用に買ってあった、ちょっと苦めな大人のドーナツだった。

 それから、今度は自分用のハニーディップを取り出すと、パクッて一口。

 思わず顔が綻んじゃう。

 蜂蜜のとろけるような甘さに、レモンの風味がドーナツにしっとり染みてて。


「うー、美味しいー!」


 そのままぱくぱく食べ進んじゃって、半分まで食べたところで時子さんの視線に気がついた。


「どうかした?」

「貴方……豚みたいに素直ね」

「それって褒めてるのかな?」

「やっぱり豚ね」

「それより、まだ食べてないの?」


 時子さんの手には、奇麗なリングを作ったままのドーナツが乗っていた。





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