過去ログ - 森久保「私に似ているプロデューサーさん」
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27: ◆8AGm.nRxno[saga]
2017/02/24(金) 13:09:41.89 ID:UKsbEgqz0
時が止まるという表現を理解した。

今俺の机の下にいる少女は、さっきまでの俺が一番求めていた少女で、それは今も変わらなくて、その少女は森久保だった。

混乱・驚き・安堵、発露するはずのそれらの感情は、吸い込まれるような森久保の瞳に凍結していた。

見つめあった時間は最長を記録したか。それとも脳内物質がもたらす遠大なる時間感覚の引き延ばしにつままれ、実際には刹那に満たない時間であったか。

目を奪われている間、まるで世界に俺と森久保の二人しかいないような感覚に脳が翻弄されていた。

やがてどちらかが瞬きをして、その世界は霧散し、口が開く。

「森久保…だよな?」

「もりくぼです…」

そうだろう。そうでなきゃおかしい。そしてそうじゃないだろ俺。

聞きたいことがたくさんあるのだ。話したこともないアイドルに電話して回ってでも。

いま事務所には人が少なく、窓際の席は多くの職員から離れた位置にある。俺たちに気付いている者はいないようだ。

「レッスンで何かあったのか?面談に来なかったのはそれが原因か?」

なぜ俺のデスクの下にいるのかはとりあえず置いておこう。

森久保は控えめに頷いた。

「…馴染めませんでした。他の人たちはみんな真剣で、私だけそうじゃなかったです。何度もミスして曲を止めて…。そのたびに他の人たちに睨まれて…もりくぼは小さくなるしかありませんでした…」

森久保の説明を聞いた俺は、その場面を克明に想像できてしまった。

研修で俺たちに声をかけてきた女の子の後ろで、四人の眼がギラついていたことを知っている。

「その手があったか」「抜け駆けしやがって」、あの眼はそう言っていた。

レッスンの間森久保は、彼女たちの獣のような視線に晒されていたのだろう。

「足を引っ張るな」「邪魔だ」「私たちはこんな奴と同じレベルだと思われているのか?」

そんな声なき声を背中に受けながら、この子は時間まで耐え抜いたのだ。


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