過去ログ - 森久保「私に似ているプロデューサーさん」
↓
1-
覧
板
20
28
:
◆8AGm.nRxno
[saga]
2017/02/24(金) 13:20:12.61 ID:UKsbEgqz0
「……よく耐えたな」
机の下の森久保に手を伸ばして頭をなでる。誰かに相談できて少しはホッとしたのか、肩の力が抜けていた。
「…トレーナーさんは何か言っていたか?」
「はい…最初だしあまり気にするなとみんなの前で庇ってくれました…でも…」
「ああ」
そう、それは大人の意見だ。
事務所の予算の都合で個人レッスンを早めに切り上げるという事情を知っているから出る言葉だ。
そんな理屈は未成熟な子供には通じない。これからも森久保は視線の暴力を受け続けるだろう。
この事務所に所属する以上は仕方のないこと。我慢するしかない。
それにしたってその子たちの親はどういう教育をしているんだ。
新入りの出来が自分たちより悪いと見るや陰湿な攻撃か。偉いもんだな。大したプロ意識だ。
それとも女の子っていうのは自分と違う性質をもった人間を排斥しなきゃ気が済まない生き物なのだろうか。
小学生のときに、クラスの可愛い女の子が担任から贔屓を受けていると女子グループが難癖をつけて学級会議が起きたことを思い出した。
先生側がいくら正論を並べようと彼女たちは聞かず、自らの正当性を無条件で認めることを求め続けた。
あの時の彼女たちの醜悪さが森久保を睨みつけた女の子と重なり、胸糞悪さが食道まで登ってきた。
「あ、あの…」
「えっ、あ…すまない…」
気付かないうちに森久保をなでる手に力が入ってしまったようだ。
「大変だったな…。そのアイドルたちにガツンと言ってやりたいが、俺が言っても森久保が告げ口をしたってことでエスカレートする可能性がある。トレーナーさんにはしばらく森久保に目をかけてもらうように頼んでおくから、もう少し頑張れるか…?」
ボサボサになってしまった髪を直しながら言うと森久保は静かに頷いてくれた。
「それと自分は真剣じゃなかったなんて言うな。経験の量がそいつらより少なくて実力が追いついてないだけだ。森久保はこの三週間頑張ったからこそ予定より早く集団に合流できたんだ。仕事ならともかく、レッスンに対する真剣さはそいつらにだって負けちゃいない。むしろ発展途上の森久保を笑うそいつらの方が不純だ」
「……それは少しちがいます。私は頑張ってないんです」
その言葉は一昨日にも聞いた。どういうことだろうか。
「もりくぼはいつも普通にレッスンをやってたつもりなんです。でも私の担当がPさんになったあたりから、今まで難しくてできなかったステップが何故かあっさりできるようになったり、何回もやり直しになっていた歌が一発で合格がもらえたりしたんです。」
その現象には覚えがあった。森久保のプロデューサーになってから俺の身に起きたことと似ていたからだ。
事務所に気のおける相手がいない俺は、森久保と面談をしているうちにその面談が楽しみになっていった。
森久保のレッスンが無い日は何となく仕事を憂鬱に感じ、レッスンがある日は不思議と仕事が捗った。
森久保も同じだったのだろう。
周りはアイドル活動に燃えている子ばかりで、森久保に共鳴できる人間がいなかった。
そんな寄る辺のない場所で受けるレッスンは14歳の少女には険し過ぎたのだ。
俺という同類を見つけてやっと、この事務所は森久保の居場所として機能し始めた。つまりはそういうことなのだろう。
「だからやる気を出したという訳じゃなくて…もりくぼは、いつも通りのもりくぼなんですけど…」
森久保の口調には誤解をした俺を咎めるような響きがあった。
もしかするとコイツは、俺が森久保のやる気に揺れていることを前から感じ取っていたのだろうか。
「やる気なんか出してない」「勘違いでこのサボり同盟を壊さないでほしい」
森久保の目はそう俺に訴えかけているようだった。
そうか。じゃああの笑顔の練習は俺の一人相撲だったということか。
……あー恥ずかし。
「じゃあいつも通りバリバリサボりますか」
俺は仕事を放り出して、両手で森久保の髪をぐしゃぐしゃにした。
あうあうと声を出す森久保を照れ隠しの気が済むまでいじくりまわした。
<<前のレス[*]
|
次のレス[#]>>
70Res/67.17 KB
↑[8]
前[4]
次[6]
板[3]
1-[1]
l20
このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています。
もう書き込みできません。
過去ログ - 森久保「私に似ているプロデューサーさん」 -SS速報VIP http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/kako/1487894892/
VIPサービス増築中!
携帯うpろだ
|
隙間うpろだ
Powered By
VIPservice