過去ログ - 中野有香「雨上がり、今日は朝から」
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1: ◆vFEWRAh8RU[saga]
2017/03/23(木) 21:33:09.69 ID:feup4BK40
濡れた草むらに思い切り足を踏み込むと、水滴が勢い良く宙に舞い、キラキラと光った。昨日一日しとしと降り続いた雨を忘れてしまうくらい、今日は晴れだ。
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2: ◆vFEWRAh8RU[saga]
2017/03/23(木) 21:34:06.04 ID:feup4BK40
あたしの一日はランニングから始まる。元々は空手のために始めた習慣だが、アイドルにとっても体力は資本なのでずっと続けている。河川敷を走って、いつもはそのまま道場に向かうのだが、今日は少し特別だ。今からやって来るその特別な時を思うと、気持ちがはやる。
3: ◆vFEWRAh8RU[saga]
2017/03/23(木) 21:34:49.21 ID:feup4BK40
そんなことを考えていると、すぐに足音が聞こえてきた。あたしにはその足音が誰のものか、なんとなくわかる。まだ心の準備は十分には整っていないけれど、今更思い悩むことは何もない。覚悟を決める。
4: ◆vFEWRAh8RU[saga]
2017/03/23(木) 21:35:51.06 ID:feup4BK40
「おはよう。有香、誕生日おめでとう!」
「押忍! ありがとうございます!」かけられたその言葉が嬉しくて、あたしの顔は思わずほころぶ。今、自分の顔はとても空手少女には見えない、なんとも情けない表情をしていることだろう。道場では絶対に見せられない。
5: ◆vFEWRAh8RU[saga]
2017/03/23(木) 21:36:49.23 ID:feup4BK40
「俺より早く来ていたみたいだけれど、待ったか?」
「いえ、あたしも今来たところです」
6: ◆vFEWRAh8RU[saga]
2017/03/23(木) 21:38:05.72 ID:feup4BK40
「ところで有香のその服、いつもと雰囲気が違うな! 走る時はいつもそういう感じなのか?」とニカッと笑いながら聞いてきた。
今日選んだ服はあたしが持っている運動用の服の中でもとびきり可愛らしいものだ。色は白にピンク、ちょっとしたフリルまで付いている。以前、かわいい! と思って衝動的に買ってしまったが、いざ着てみようとすると自分には可愛すぎると思えてきて、いつも躊躇してしまう。アイドルだから仕事で可愛い服を着せてもらうことはたくさんあるが、プライベートではまだいまいち自分に自信が持てない。結局、今まで一度も着られていなかったが、今日はなぜか、つい衝動的に着てきてしまった。
7: ◆vFEWRAh8RU[saga]
2017/03/23(木) 21:38:59.37 ID:feup4BK40
いきなり心配していたことを聞かれてしまったので、あたしは狼狽した。Pさんには全部お見通しなのだろうか。
「いえ、今日はその……いつもとは違う感じのを着てきたのですが、似合っていないでしょうか?」
8: ◆vFEWRAh8RU[saga]
2017/03/23(木) 21:39:45.52 ID:feup4BK40
「それじゃ、早速走ろうか!」
「押忍!」
9: ◆vFEWRAh8RU[saga]
2017/03/23(木) 21:40:41.15 ID:feup4BK40
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10: ◆vFEWRAh8RU[saga]
2017/03/23(木) 21:41:56.25 ID:feup4BK40
「ところで有香、誕生日プレゼント何がいい?」
「随分唐突ですね!? あたしの誕生日明日ですよ!?」
11: ◆vFEWRAh8RU[saga]
2017/03/23(木) 21:43:07.00 ID:feup4BK40
「Pさんは明日朝時間ありますか?」
「朝? 何時かにもよるが、一応出勤する日だからな……」
12: ◆vFEWRAh8RU[saga]
2017/03/23(木) 21:44:24.31 ID:feup4BK40
「いいんじゃないですか。付き合ってあげましょうよ」と突然出てきたちひろさんが言った。
「ちひろさん! いつの間にそこにいたんですか?」とPさんは驚いた様子で言う。あたしも気づかなかった。
13: ◆vFEWRAh8RU[saga]
2017/03/23(木) 21:45:30.10 ID:feup4BK40
「じゃあお言葉に甘えさせていただきます。有香、俺は最近運動してないからお手柔らかに頼むよ」
「押忍!」
14: ◆vFEWRAh8RU[saga]
2017/03/23(木) 21:46:21.02 ID:feup4BK40
外では今も止みそうにない雨が降り続いている。明日もこの雨が降り続いたら……もしもそうなったらとても残念だと思うけれど、少しホッとする気もした。
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15: ◆vFEWRAh8RU[saga]
2017/03/23(木) 21:47:30.95 ID:feup4BK40
結局雨は夜のうちに止んだ。空が晴れると不思議と気持ちまで晴れ晴れとするもので、今のあたしの胸は嬉しさ、楽しさと、ドキドキで埋め尽くされている。この胸のドキドキは走っている時のドキドキとは違う、それを自覚すると余計に鼓動が速まった。
いつもより少しゆったりとしたペースで走るあたしの隣をPさんが走っている。自分では運動不足だと言っていたけれど、それほど脚が鈍っているようには感じない。あたしよりかなり広めのストライドを取るしなやかな脚を見て妙に感心した。
16: ◆vFEWRAh8RU[saga]
2017/03/23(木) 21:49:30.20 ID:feup4BK40
「しかし、有香は本当に良かったのか?」
「へ? どういうことでしょうか?」
17: ◆vFEWRAh8RU[saga]
2017/03/23(木) 21:50:29.05 ID:feup4BK40
「いえ、そういうわけではなくて……Pさんとはいつも仕事で忙しい中でしか会っていないので、ゆっくり話す時間が欲しかったのです」
「ゆっくり話す時間、か……それなら、わざわざランニングをすることはなかったんじゃないか? ほら、俺はおじさんだからもうクタクタ」
18: ◆vFEWRAh8RU[saga]
2017/03/23(木) 21:51:13.35 ID:feup4BK40
「ランニングにしたのは、たぶん恥ずかしかったからだと思います」
「何が?」
19: ◆vFEWRAh8RU[saga]
2017/03/23(木) 21:52:04.26 ID:feup4BK40
しばらくしてPさんが口を開いた。
「いつもはどこまで走ってるんだ?」
20: ◆vFEWRAh8RU[saga]
2017/03/23(木) 21:52:52.20 ID:feup4BK40
「あ、待ってください!」
「待たない! 待ったら負けるもん!」
21: ◆vFEWRAh8RU[saga]
2017/03/23(木) 21:53:38.69 ID:feup4BK40
Pさんが花壇の目前まで来て、もう追いつけないかな、と思ったところで突然Pさんが足を止め、うずくまった。
「どうしたんですか!?」
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