10:名無しNIPPER[sage saga]
2017/03/31(金) 00:23:06.48 ID:n/U0KpIm0
ーーみんなのために何かをするのが好きだった。
プロデューサーを見送ると、響子は彼のマンションの一室から出る。
ーー家事が趣味なのも、喜んでくれる相手の顔がみたかったからだ。
曇り空からわずかに差す日の光さえ、今の彼女の目をくらませるには十分だった。
ーーアイドルを始めたのも、楽しんでくれるファンのみんなの顔、私が活躍することで周りの人がうれしくなるのを見たかったからだ。
階段を上る。それは昔登っていたキラキラした目に見えない階段ではなく、コンクリの無機質な、冷たいものだ。
ーー私が私のために何かをしても、結局満たされなかった。
目的地にたどり着く。
ーー私自身が、わたしのためにほしいものって、なんだったんだろう。
コーティングされた針金でできた柵の向こう側は、アイドルになる前テレビから見ていた景色のようで。
ーーわたしのほしいものは。
<わたしのほしいものは、わたしがこわしてしまったんだから>
ーーまだみつからない。そして、これからもみつかることはないのだろう。
「ごめんね」
私は、柵を超えてその景色の中に飛び込んだ。
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