過去ログ - 橘ありす「その扉の向こう側へと」
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9: ◆kiHkJAZmtqg7[saga]
2017/04/09(日) 15:42:27.57 ID:L8J356lk0
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二週間で三度ほど歌詞が往復した。
簡潔に、現状を伝えるなら……あまりうまくいっていない。
第四稿になった歌詞は、だけど未だに代わり映えなく改善点を提示され続けている。
どうしてだろう。考えなしに書いているつもりはないのに。私の意図も伝えるようにお願いしているはずなのに。
自分の中でゆっくりと自信が失われていくのを感じる。
だからこそ、私は口ずさむのだ。
なりたい私になる、と。
アイドルという場所に、希望をくれたあの歌を。私のあこがれを。
……でも、そういえば。
私が最初にあこがれたのは――――――
――違う。……違うの?本当に?
私が2年間追いかけ続けたものは。そのための努力と我慢は。
あの胸をぎゅぅ、と握りしめるような情動が私の目指す先じゃないと、そう断じてしまえるなら。
それじゃあまるで、ここまでやってきたことが全部全部間違っていたみたいじゃないか。
そんな筈はないのに。だって今ある私は、そのあこがれの先にあったはずの自分で。
そう、追いかけなきゃ、今の憧れに出会えなかったのに。
否定していいはずなんてない……でも、事実私はそれまでの歩みに、信じてきたものに縛られて、今の憧れに手を伸ばせずにいる。
だからって間違っているはずは、きっとないのだ。
どっちも嘘じゃない。あの時聴いたお姉さんの歌にも、如月千早というアイドルの歌にも、間違いなく私は憧れたのだから。
そう信じなきゃ、向かう先を簡単に見失ってしまいそうで。
かぶりを振って、それ以上考えることをやめた。
改めて周囲に意識をやってみると、どうしてかその場にある何もかもが強調されているかのように思える。
一人のリビングが、やけに広く感じる。
きっとマイナスな思考ばかりしていたから心細くなるんだ。……それとも逆だろうか。
思い立ってつけたテレビの中のアイドルたちは、今日も明るく楽しげで、励みになる。
だけど同時に、それが目指すべき憧れから、ただ夢見るだけの憧れに近づいてきているようにも感じるのだ。
怖い。将来の夢が、眠っているときにしか見れない夢に変わっていってしまいそうで。
だから私は画面の中できらめいている彼女たちを目に焼き付けきってから、閉じていたノートを開く。
普段なら眠りについている時間も近いけど、ちょっとくらい夜更かししたっていいだろう。
だって電気まで消したら、目の前が真っ暗だ。
いやなことを考えてしまわないように、眠くなるまでは別のことに没頭していたい。
そうすればすぐにまた明日。
明日になればお母さんと朝ご飯を食べて、見送って。学校でクラスメイトと他愛のない話をして、事務所に行って、プロデューサーに笑いかけてもらえる。
そんな些細なことが待ち遠しく感じるようになったのは、いつからだったっけ。
もう、すぐには思い出せなくなっていた。
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