398: ◆e6bTV9S.2E[saga]
2017/08/28(月) 17:12:40.22 ID:zF9F496A0
いつも通り、静かに気配もなく拠点から出た放浪者は、拠点の外れまでフロートボードを持って歩く。稼働しても音が聞こえないであろう距離まで来てから、フロートボードを地面に置いた。
1本だけ持ってきていた煙草を咥え、火を点ける。ゆっくりと煙を肺に入れ、吐き出す。久しぶりに吸引するそれは、身体が少しだけ拒絶したように感じられたが、特にむせることはなかった。
「あれ? 放浪者さんって、煙草吸うんですねー」
その話しかける感じもいつも通りで、放浪者も驚きもせず振り返る。そこにいたのは、西切だった。
「…どうした?」
「もー、それはこっちの台詞だと思うんですけどね?」
そして彼に近づく彼女の距離感はいつもとは違った。吐息が感じられそうなまでの近い距離、間近に見えるその表情は、悲しみとも、寂しさとも取れた。
「……山中さんがお止めしてないなら、言えるのはこれだけです。どうか、ご無事で」
「…当然だ」
わずかに吸った煙草を、放浪者は地面に捨てて足で踏み消した後、フロートボードに乗り、西切に目配せした後、月夜の空に飛んでいった。
「……止めたかったな」
その言葉が、今流れた風と共に、放浪者へと届けばと、彼女は思わずにいられなかった。
1002Res/657.95 KB
↑[8] 前[4] 次[6]
板[3] 1-[1] l20
このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています。
もう書き込みできません。