17:名無しNIPPER[saga]
2017/04/18(火) 14:05:58.33 ID:MEjdUG/c0
翌日、私はある人を探していた。受け取ったお酒は事務所のスタッフではなく、高垣さんと交友のあるアイドルに託す必要がある。なにせ、私は高垣さんの仏前がどこにあるのか全く知らない。高垣さんと交友があり、なおかつ私が会える人間は、あいさん1人だった。
私があいさんに出会ったのは、事務所に初めて入ったときのことだ。右も左もわからず、建物の中で迷っていた私を、あいさんが助けてくれた。
「どうしたんだい? 小さなホームズくん」
以前からあいさんの評判を聞いていたけれど、直接会って実感した。私の手を引いてくれたあいさんは、日本中の女性が夢中になるのもしょうがないくらい、かっこよくて、温かかった。
それから何度かレッスンで会ったり、一緒に昼食をとることもあった。探偵ドラマや推理小説について話すこともあった。私が一方的に話して、あいさんが優しく頷いてくれるだけだったけど、私は嬉しかった。
何か悩みごとがあると、すぐにあいさんに相談した。あいさんは、
「私の可愛いホームズに乗り越えられない困難はないさ」
と言って、いつも励ましてくれた。
私にとって、あいさんはプロデューサーと同じくらい頼りになる存在だった。ちがいは、女性の問題はあいさんの領分ということくらい。
ようやく見つけたあいさんは、高垣さんのプロデューサーを励ましていた。
「そろそろ立ち直ったらどうだい。今の君の姿を見たら、楓くんが悲しむぞ」
「駄目だよ…。俺のせいで楓が死んだのに、平気な顔で生きてくなんて、できないよ…」
彼は、前にも増してやつれているように見えた。きっと、ここ数週間十分に眠っていないのだろう。
「君のせいではないよ、プロデューサーくん。あれは悲しい事故だったんだ。
今の私達が彼女のためにやるべきことは、前を向いて歩き出すことさ。君はもう、十分に泣いたじゃないか。楓くんのために」
あいさんは必死だった。でも、高垣さんのプロデューサーは話を聞いているのかどうかもわからないほど、虚ろな目をしてあいさんを見ていた。
「俺がやるべきこと…?」
「そう。君がやるべきことは、しっかり食事をとり、よく眠ることさ。そして時々、彼女のことを思い出してあげればいい。
まずは食事だね。よかったら、今度一緒にディナーでも…」
「俺は、まだ楓のために悲しみ尽くしてない」
高垣さんのプロデューサーは、そう言ってあいさんの前から立ち去った。その時のあいさんの表情は、ひどく弱々しかった。私は、見てはいけないものを見たような気がした。
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