過去ログ - 【モバマス】岡崎泰葉「あなたが示してくれたもの」
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13: ◆TZIp3n.8lc[saga]
2017/04/29(土) 10:36:04.91 ID:++9plA0Wo
 昔はレッスンが嫌いだった。今ではたいしたことのないと思えることでも、この世の終わりのような気持ちになっていた。
 いやだ、つらい、やめたい。私の心を代弁するような声を聞いた。何度も、何度も。
 泣いていたその子が帰ってくることはなかった。
 レッスンいやだね、トレーナーさん怖いね、そんなことを話していた子が、次の日からぱたりと来なくなることは珍しいことじゃなかった。

以下略



14: ◆TZIp3n.8lc[saga]
2017/04/29(土) 10:37:20.87 ID:++9plA0Wo
 ルームランナーがペースを落としていき、やがて停止する。決めていた距離を走りきったのだけど、私はまだ物足りなかった。
 もう少し続けようかとも考えたけれど、私は他のメニューをすることにした。体力維持と体型を崩さないことが目的だから、必要以上に走るのは逆効果になる。
 スポーツをするために身体を鍛えているわけではないから、他のメニューも簡単なものだ。考え事をする間もなく終わり、クールダウンしてから汗を流した。

 着替えをして更衣室を出ると、エレベーター前の廊下で電話をしている人がいた。私が足を止めると、彼女も顔をこちらに向ける。
以下略



15: ◆TZIp3n.8lc[saga]
2017/04/29(土) 10:37:56.28 ID:++9plA0Wo
 私は促されるまま、椅子に腰を下ろした。

「最近どう?」

 軽い調子で彼が言った。久しぶりに聞いたけれど、聞き慣れた声音だった。
以下略



16: ◆TZIp3n.8lc[saga]
2017/04/29(土) 10:38:29.97 ID:++9plA0Wo
 モデル部門としては私を手放しても痛手はないのだろう。彼が私に判断を委ねたということはそういうことだ。
 高校の進学先を選んだときも似たようなことがあった。
 事務所が懇意にしている私立校がある。そこには事務所の所属の子が何人も通っていて、授業や学校生活で便宜を図ってくれるところだ。
 私はそこではなく、普通の高校を選んだ。活動と学業は両立させたいと思っていた。
 普通の学校でなければ、それに甘えてしまい、勉強をおろそかにしてしまうような気がしたのだ。
以下略



17: ◆TZIp3n.8lc[saga]
2017/04/29(土) 10:39:01.13 ID:++9plA0Wo
 電車の中は混雑していた。身体が触れ合うほどではないけれど、教科書を出すこともなく、私はつり革を掴んで立っている。
 非常停止ボタンが押されたという理由で、私の乗った電車は駅の手前で停止していた。
 人の背中で窓が見えないけれど、前の駅を出てから止まるまでの感覚では、駅はもう目と鼻の先だと思う。

 私はどうしたらいいのだろう。
以下略



18: ◆TZIp3n.8lc[saga]
2017/04/29(土) 10:39:34.91 ID:++9plA0Wo
 答えが出るよりも先に湯船が冷たくなってしまいそうだったので、風邪を引いてしまう前に私はお風呂を上がった。
 髪を乾かし、日課のストレッチをする。それが終わると、手鏡を持って、表情を作っていく。
 笑顔を作ったときに、私はそれをじっと見つめてしまった。

 何か変だろうか。私にはきちんと笑えているように見える。
以下略



19: ◆TZIp3n.8lc[saga]
2017/04/29(土) 10:40:11.69 ID:++9plA0Wo
「なんでこんなこと、もっと早く気づかなかったのかな」

 今まで私がしてきたことは、誰かに言われたことだった。大人の言うことを聞いて、笑えと言われれば笑い、泣けと言われれば泣く。
 怒られるのが怖くて、嫌われるのが怖くて、誰かに必要とされなくなることが怖くて、自分の気持ちを出したことなんてなかった。
 私はずっと誰かの言うことだけを聞いて生きてきたんだ。
以下略



20: ◆TZIp3n.8lc[saga]
2017/04/29(土) 10:40:59.36 ID:++9plA0Wo
 子供のように声を上げたことで、そのときの記憶が一緒に記憶の底から上がってくる、
 私がお母さんに子役のオーディションを受けたいと言ったのだった。
 正確にはテレビに出たいと駄々をこねたのだ。
 私もああなりたいって、お母さんにわがままを言ったのだ。
 私はテレビで見たきらきら輝く世界の住人になりたかった。自分もお姫様のようにきらきら輝くようになりたいと思った。
以下略



21: ◆TZIp3n.8lc[saga]
2017/04/29(土) 10:42:03.58 ID:++9plA0Wo
 学校が終わって、私はそのまま事務所に着ていた。
 エレベーターが待ちきれずに、階段で四階へと足を運ぶ。
 親指で人差し指の先を撫でると、ざらりとした絆創膏の感触がした。確かめるようにそこを押すと、小さな痛みが生まれる。
 絆創膏はあの日のうちに買いに行った。外は真っ暗で普段は出歩かないような時間に、私は近くのコンビニまで歩いて行ったのだ。悪い子だ。

以下略



22: ◆TZIp3n.8lc[saga]
2017/04/29(土) 10:42:53.22 ID:++9plA0Wo
以上です
読んでいただきありがとうございました


23:名無しNIPPER[sage]
2017/04/29(土) 17:49:00.95 ID:x+Wwv/b6o
おっつおっつ


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