過去ログ - 入り口に座って
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1:名無しNIPPER
2017/09/12(火) 00:18:18.85 ID:KdxeMUnZ0
ワンマン電車の出入口に座る。迷惑行為だとわかっていても、どうせド田舎、誰も乗らない事は2年も乗っていればわかる。
ジジババは家にまで来てくれるバスを使うし、その他多数の大人達は車を使う、中学生は自転車に乗り、高校生は原付に跨る。この町で電車を活用している人間は私だけだ。
別に電車が好きなわけではない。ただなんとなく、ド田舎の原付マンセーに抗いたくなったのだ。その結果、駅までの2km半の徒歩が生まれたのも仕方ない。私が選んだことなのだ。
全部、私の選択なのだ。

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2:名無しNIPPER
2017/09/12(火) 00:18:55.83 ID:KdxeMUnZ0
外が薄い夕焼けに染まる、出入口の適度な薄暗さに思わずウトウトしながら。目的地までの距離を思い描く。まだ先は長いのだ、山を超えて、街を渡って、その先の山の中まで進まなければならないのだ。
カバンを抱えて、スカートをももで挟んで、本格的に座り寝に入る。いいんだ、どうせ誰も乗ることはない。

いや、あるいは1人だけ。


3:名無しNIPPER
2017/09/12(火) 00:19:29.14 ID:KdxeMUnZ0
誰も乗ることは無いと言ったが、それは今の話である。そう、いたのだ、かつて1人だけ、私のような天邪鬼が。
私よりも少し年上で、大人の人だった、とても、綺麗な人だった。
私が捻くれるよりずっと前から捻くれていた、捻くれ者の大先輩である。
その人は一つ隣の町の人で、名前は知らない、何をしてる人かも知らないし、極端なことを言えば本当に女かどうかも分からない。めちゃくちゃ女装の上手い人かもしれない。
わかるのは、その人もまた天邪鬼で、電車の入り口が定位置であることだけだ。
以下略



4:名無しNIPPER
2017/09/12(火) 00:19:57.14 ID:KdxeMUnZ0
居心地がよかったのかと聞かれると、そりゃあ最初は悪かった、知らない人の横に立ってる訳である、混んでるわけでもないのに、どう思われてるかを気にする思春期、ソワソワするに決まってる。
だけど、居心地の悪さは案外スグに消えていった、恐らくは雰囲気が合うんだろう。
会話は殆ど無かった。距離感が縮まる訳では無かったけれど、私は何故か、今思っても何故だか分からないけど、他人のあの人に少し惹かれていた。


5:名無しNIPPER
2017/09/12(火) 00:20:22.53 ID:KdxeMUnZ0
横顔が、とても綺麗なのだ。ケータイを取り出してふと見せる些細な表情の変化や、冬の寒さに赤みがかった鼻と頬を、少し暖めるようにマフラーに埋めた横顔がとてもとても綺麗で、愛らしかったのだ。
こうやって書くと、私が他人をジロジロと見つめる変態になるが、そうではないと言っておく。
不意に横を見た時に、これまた不意に見える「いつもと違う」その瞬間の破壊力が凄いのだ。
別に、綺麗で愛らしく、あの人に惹かれたからと言って「その先」は求めてなかった。
美しい美術品を、その手に収めたい人もいれば眺めるだけで満足の人もいる、私は後者なのだ。
以下略



6:名無しNIPPER
2017/09/12(火) 00:20:52.92 ID:KdxeMUnZ0
眺めているだけでも、時間は経っていく。夏を超えて冬を超えて、春を過ごしてまた夏になる。
極めて他人行儀かつ、社交辞令的な会話を幾つも重ねても、距離が縮まることはなく、それは私も望んでいなかった。
遂には、終わりを迎える時がきた。

「私ね、車の免許とったのよ。MTで、凄いでしょ。」
以下略



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