834:名無しNIPPER[sage saga]
2018/08/12(日) 22:57:28.42 ID:lSjNYocCo
・ ・ ・
「……」
ドアの前に立ち、進んできた道を振り返る。
臭いは未だ立ち込めているが、見た目には、普段と何一つ変わらない。
それに満足しそうに一瞬だけなったが、すぐに、気を引き締め直す。
このドアの向こうには彼女が……いや、
「入っても、大丈夫でしょうか」
この扉の向こうには、魔王が居るのだから。
「……」
……しかし、返事がない。
むしろ、ドアの向こうでゴソゴソと何かしている音が聞こえる位だ。
先程の声量ならば、彼女の耳には確実に届いているだろう。
「入っても、大丈夫でしょうか」
今度は、ノックをしながら声を掛ける。
「……」
……だが、やはり、返事はない。
ゴソゴソと何かしている音は、まだ、続いている。
それに集中するあまり、聞こえていないのだろうか?
「……」
恐る恐る、ドアのノブに手をかけて、ひねる。
カチャリ、という音がし、私の腕の動きに合わせて、ドアが開かれていく。
「……」
ドアの向こうの景色は、数箇所だけしか、違いが無い。
先ず、彼女が着ていたと思われる衣服が、靴も含めて、床に一箇所にまとめて置かれている事。
次に、彼女がいつも愛用している黒い日傘が、開かれた状態で床に置かれている事。
最後は、まあ……言うまでもなく、臭うという事ですね、はい。
「……」
悲しいかな、私は、少し感動してしまっていた。
魔王は――彼女は、私が部屋に入っても大丈夫なよう、行動を起こしていたのだ。
己の失態を嘆くのではなく、自らの出来る範囲で、後始末をしていたのだ。
ただ、その代償として、彼女は今、生まれたままの姿に近い状態にある。
そして、
「……我が友ぉ……!」
半泣きで、黒い日傘の向こう側に隠れている。
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