468:名無しNIPPER[sage saga]
2018/03/04(日) 23:01:13.93 ID:z5DhT6Fio
「あっ! ママだ!」
椅子を浮かしながら、娘がテレビを見て声を上げた。
その拍子に食卓の上に並んでいた料理がこぼれそうになる。
慌ててそれを手で抑えたが、少し、スープがこぼれてしまった。
「おい、揺らすなよな」
それに不平を零したのは、正に、スープを飲もうとしていた息子だ。
見れば、左手はじっとりと濡れており、こぼれたスープを被ってしまったらしい。
熱かったのだろうが、それに対する文句は言わない。
恐らく、私達と、幼い妹を心配させないためだろう。
「……」
私は、そんな不器用な息子に無言で濡れた布巾を差し出す。
そして彼は、何も言わずに食卓にこぼれたスープを拭き出した。
まずは手を拭いて、それから手を冷やしてくるべきだと思ったのだが。
私がそれを言っても、息子は素直にそれを受け入れないだろう。
「まあ、こぼしちゃったの?」
パタパタと、台所の方から妻が食卓に駆け寄って来た。
乱れた食卓の様子を見て、ほんの少しだけ、慌てている。
息子は……心配をさせないよう、手を隠すのを選んだようだ。
誰に似たのか、本当に、不器用で、自慢の息子。
「……ごめんなさい」
妻の声を聞いて、シュンと、消え入りそうになっている。
先程のはしゃぎっぷりはどこへやら、だ。
妻に似て優しいこの子は、自分が怒られるのを恐れているのではない。
「……スープ、こぼしちゃった」
妻が作った料理を一部とは言え駄目にしてしまったのを申し訳なく思っているのだ。
長い睫毛を伏せ、肩を落とし、全身で感情を表現している。
そんな娘に対し妻は、
「ふふっ、スープは、スプーンでこぼさず、ね♪」
いつも通り、優しく微笑みかけた。
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