過去ログ - 武内P「キスします」
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973:名無しNIPPER[sage saga]
2019/09/24(火) 22:56:24.31 ID:Wz4dUf4to

「っ――!?」


 お疲れ様でした……と。
 その一言を発した、次の瞬間だった。
 それまで笑顔だった彼女の顔が、クシャリと歪んだのだ。
 輝きとは程遠い、意思の力を感じない諦観の支配する表情に。


「アイドルは……」


 彼女の身に、何が起こったのか。
 私は、すぐにそれを理解する事となった。
 鳴り響いたのは祝福のファンファーレではなく。
 荒れ狂う暴風が如き、放屁の音。


「アイドルは……」


 炎上したとしても、あれだけのブーイングを受ける事はないだろう。
 尻から発射された空気の振動が、ここまで届くような爆音だった。
 その音は、幻聴であって欲しいと願う私の鼓膜に、こびりついて離れない。
 ……腹立たしい程、リズミカルだった。


「……ウンコなんかしないから!」


 彼女は、真っ直ぐに私の目を見つめて宣言した。
 恐らくではあるが、終業の言葉を聞いて――今日の仕事は終わった――と。
 ……そう、彼女の体は反応したのだろう。
 精神が、肉体を完全に支配していた結果、不幸な事故が起きてしまった。


「しないから……!」


 している。
 シャツの裾が、肩が、フルフルと揺れている。
 彼女は、何故私を真っ直ぐ見てモノが言えたのだろうか?
 コミュニケーションが不得手と言うには、あまりにも破滅的すぎる。


「あ……めっちゃでる……!」


 ……今日のレッスンを終えて、帰りの挨拶をしに来てくれた。
 その事に、距離感が少し縮まったと思い、少し喜びもした。
 もしも、ほんの少しだけ時間が戻せるのなら。
 穏やかな表情でいたであろう過去の自分を殴り飛ばしてやりたい。


「何故……トイレに、行かなかったのですか?」


 プン、と漂ってくる悪臭をかき分けるようにして、言葉を発する。
 責め立てるのではなく、単純な疑問。
 プロジェクトルームに来るまでに、何度もその機会はあった筈だ。
 もしも、嫌がらせのつもりだったら……効果的すぎます。


「……アイドル、は」


 ボフッ。
 合いの手の様に発射される、老廃物のミサイル。
 LIVEのステージでは歓声になるが、私が今あげたいのは悲鳴。
 振るうのはサイリウムではなく、白旗のみ。



「ウンコなんかしないから……尊いんだよ!」



 右手を首筋にやって……思考を始める。
 悲しい事に、「やむ」という言葉の意味が、少し理解できた。


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