357:愛々傘[sage saga]
2016/05/18(水) 17:05:47.82 ID:N/kDUy3x0
雨が降っていた。しんしんと。しんしんと。
走る車が水溜まりを踏み、跳ねた水しぶきは縁石にぶつかって消えてしまった。
女「雨、ひどいね」
彼女「今週末までずっとだよ」
水溜まりが版図を広げる歩道を、同じ傘の下、制服姿の少女二人が並んで歩いている。
相合い傘をしているのだから当然、距離は近い。
彼女「こうも湿気が高い日が続くと、うなじが蒸れて鬱陶しい」
女「髪、長いもんね」
それでも彼女は髪を切るとは言わなかった。
何故なら――。
彼女「そうよ、貴女好みの長い髪よ」
女「本当にお美しい限りで……大好き。――そうだ、そこのお嬢さん、私にその綺麗な髪を結わせてくれんかね?」
彼女「……あら、本当に? では、是非その長く細い絹の布もかくやと言わんばかりの美しい指で私の髪を纏めてくれませんこと?」
女「……ふふっ」
彼女「――あは」
軽口に軽口で返し、可笑しくなったのか笑い出す二人。
不意に女が彼女の腕に抱きついた。それでも彼女は傘を取り落とすなど不作法な真似はしない。
女「では、私のお姫様、貴女の家につきしだい、その美しい髪に――大好きな髪に触らせ……髪を結わせて貰います」
彼女「あはは、うん、お願い」
彼女は自身の愛しい人の顔を見つめ、ある種の期待を混じらせ続けて言った。
彼女「……ねぇ、女が好きなのは私の髪だけ?」
女「――――」
彼女の言葉を聞き、幾ばくもしないうち、女が彼女に己の“ソレ”を近づけた。
何が起こったかは傘に隠れ、周りの人々には明確には分からない。けれど、そこには確かに二人だけの空間があった。
数瞬の後、名残惜しそうに二人の顔が離れた。
女「これが、私の気持ちなのだけれど……分かった?」
彼女「……もっと、教えて欲しいなって」
それを聞いた女は気恥ずかしそうに、けれども嬉しそうに、家に着いたらね、と言った。
雨が降っている。しんしんと。しんしんと。
二人、手を繋ぐ。強く繋がりあう。例え、何にぶつかっても、今、二人の共有している気持ちだけは消え去らない。
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