4:名無しNIPPER[saga]
2016/07/03(日) 00:38:09.04 ID:1a597gsV0
志希
「だからあたしは帰ってきた。この国では一ノ瀬志希のネームバリューは大したものじゃないから。
テキトーに生きてれば、誰かの夢を奪わなくても済むと思った。誰も見向きもしないような基礎研究を、ちまちまやってればいいって思ってた。
――そのころだね、キミに出会ったのは。
最初は……今になっても不思議なんだけど、一目見たときに、よくわからないパルスが脳細胞にビビってきたんだよね。
それで近づいてみたらさ、いいニオイがするじゃん? 嗅いだ事ないのに、なんでか知らないけど懐かしくて、胸があったかーくなるニオイ。
プルースト効果かなって思ったけど、あたしの海馬の中にキミの情報はなかったんだよね。だからキミのことをもっと知りたいって思った。
それで、アイドルになった。最初は単純に興味本位だったし、つまらなかったらすぐに消えようって思ってた。
でも、あたしはまだここにいる。キミのそばにいる。飽きっぽいこの志希ちゃんが、まだアイドルでいたいって思っている。
……ねえ、なんでだと思う? わからない? ふーん、この期に及んでまだとぼけるんだ。じゃあ……教えてア・ゲ・ル。
それは、キミがいるから。キミだけが、あたしをただの女の子として扱ってくれたから。普通の子供として、見てくれたから。
努力したことがなかったあたしに頑張ることを教えてくれた。レッスンがうまくいかないときに励ましてくれた。初めてのライブを前にして、震えそうになるあたしに、普通の女の子みたいだって言って頭を撫でてくれた。
そうやって、天才だった私を、たくさんの人の夢を踏みにじってきた一ノ瀬志希を、アイドルにしてくれた。
誰かの夢を奪うばかりだったあたしを、誰かに夢を与える存在にしてくれた。
あたしの名前の意味を思い出させてくれた。志すべき希望を与えてくれた。
……今思えば、一目惚れってヤツだったのかな。でもあたしは誰かを好きになったことがなかったから、そのときはこの胸の中にあるものがなんなのかわからなかったんだ。
愛とか恋とかよく知らないし。愛された思い出とかも……ないし。
でもね、いまならわかる。すごいよね、恋って。誰かを好きだって気持ちは、たぶんエネルギー保存の法則を超えるもん。
好きな人のためにこうしたい、こうなりたいっていう気持ちが、簡単に人を変えてしまうんだ。まるでプロメテウスの火だね」
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