3:名無しNIPPER[saga]
2016/07/15(金) 17:46:09.44 ID:6T4U9abn0
アタシ、南条光は変えられてしまったと思う。
夜の街を出歩こうなんて、アイドルになる前は思わなかったからだ。
場所は駅前、ネオンが桃色に照る繁華街。
悪の巣窟は言いすぎだけど、かといって中学生には相応しくない通りを、レインウェアと鞄一つで歩いていた。
夜遊びなんて不良のすること。
もし警察が来たら補導されるし、まして『正義のヒーロー』って趣旨で売り込んでるアイドルがこんなことしてたら、週刊誌にすっぱぬかれてしまうかも。
ファンを裏切っているスリルが、背筋をざわざわとチリつかせてる。
雨具の下では、雨上がりだからでは説明がつかないほどの湿気が粘ついていた。
罪悪感で火照りを帯びちゃって、こんな恥ずかしいカラダになったのは、それもこれもプロデューサーのせいだ……
そう恨めしく思っていたら、一条の夜風が不意にひらり。
翻った裾を慌てて抑え、周囲の視線に気を配った。
幸いにして、通行人は誰もアタシを気にしていなかった。……そうであって欲しい。
視線という蛇がふとももを這って、手足が恐怖に侵された。
眩暈で倒れかけたその矢先、ケータイから軽快な着信音。
ディア、光、フロム、プロデューサー。『そろそろいいぞ、秘密基地にて待つ』
メールに記されたその符丁が、心の焦げ付きを広げていった。
フラフラと歩いて向かったのは、外装がケバい紫の建物。
大人の秘密基地……とプロデューサーは冗談めかして呼んでるが、ようするにラブホテルって建物で、恋人たちがエッチになる施設だ。
その駐車場で、彼は傘を畳んで佇んでいる。
余裕そうな彼に駆け寄って抱きつき、幾つも泣き言を叩きつけた。
もうこんなことイヤだからな、とか、変態すぎることをしたら嫌いになるぞ、とか、しゃくりあげながらまくしたてる。
彼はアタシを腕で包んで、背中をさすりながら宥めてきた。
よくがんばったな、とか、ありがとう、とか、優しげな声が胸へと沈んだ。
もうしないからな……、って強気に返事をしたけど、その約束を守れる気がしない。
闊達なプロデューサーの笑顔を見てると、どんなことも受け入れたくなっちゃうんだ。
イヤイヤする素振りをしといて、手を引かれるがままなのもそのせい。
二人連れだって建物に隠れ、いやに静かなエレベーターに乗る。
三階で降りて最奥へ歩き、途中べったりしてるカップルとすれ違って気まずくなりながらも、階段のそばにある部屋に辿り着いた。
まず先にプロデューサーが入り、合図を待ってアタシも入室。
スパイ映画のような段取りだけど、緊張を楽しむ余裕なんか無かった。
けれど、もう、人目を気にしなくていい。
安堵からほっと息を付き、手狭な部屋を見渡した。
ベッドとTVぐらいしかない部屋は質素で、薄暗い照明がいかがわしい。
枕元には電話の他ツマミやコンソールが配置されてて、秘密基地のオペレート席っぽさはある。
そのベッドが部屋の大部分を占めていて、寝るためだけの場所と主張してるみたいだった。
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