38:名無しNIPPER[saga]
2016/11/27(日) 23:21:06.59 ID:07erujco0
鷹富士茄子という子がいた。
本当に何でもできる子で、見た目も良くて家柄も立派で挙句に性格まで申し分がなかった。
同世代で彼女のことを知らない奴はいなかった。
同世代じゃない人からは、それ以上の評価だった。
神様の生まれ変わりだと真顔で言う人もいた。少なくとも正月には――役職のことはよく知らないが――それに近い役目で行事の大役を担っていた。
雑草まみれの農道で、九十度近く腰の曲がった爺婆がいきなり手を合わせだして、何かと思えば遠くに鷹富士の背中があったりする。遠くは意外と見えるもんなのか、それとも、姿以外のものが見えたのか、知る由もないけれど。
極めつけは、この田舎町に降りてくる幸運は、全て彼女からもたらされているものだという冗談のような話。
時代遅れの思考だ。
しかしそれを笑い飛ばせないエピソードは枚挙にいとまがなかったし、何度かは目の当たりにした。
そんな鷹富士は、誰からも慕われながら、誰にも属していなかった。
常に鷹富士は当たり前の様にどこかに位置していた。彼女の存在は特に言及されることもなく、どこにでも自然な光景として収まっていた。
誰も鷹富士を引き入れたり、殊更に輪に加えようとしたり、個人的な関係を迫ろうとする奴はいなかったように思う。
畏れ多い――口には出さないが、そのような感覚がきっと皆の中にあったのだと思う。
だけど、俺は、たぶん最初から鷹富士のことを異性として意識していた。
自分だけなのだろうかと不思議に思うくらいだった。
中学途中で引っ越してきたよそ者だから、というのもあるかもしれない。そして、年度途中の編入ということもあり、何もかも手探りの時、一番最初に声を掛けてくれたのは鷹富士だった。
それからはまるで、お墨付きを得たから、とでも言うかのように、交友関係が広がっていった。そして自分が最初に接した相手が、どういう存在かを知った。
だけど俺の中では、鷹富士は最初の友達であって――神様みたいにありがたかったとしても――神様なんかじゃなかった。
数年かけて、高校生になって、次第に次第に積み重なった想いは、高校3年の冬、決心するに至った。元旦、受験の運だめしのために引いたお御籤で、『恋愛運 大吉』と出たのが切っ掛けだった。
そして、ついに鷹富士に想いを伝えようと思ったその日の朝――遅めに登校した俺は、小汚い靴箱の奥に真白い封筒を見つけた。注意深く、慎重に置かれたものだと、直感した。
転校してきたばかりの頃よく話をした、高校は同じだけど別のクラスの女子だった。
その子が好きだった時もある。だけど鷹富士のこともあり、告白する覚悟までを持てないまま、いつのまにかしずまった気持ちだった。
その日、俺は鷹富士の姿を見かけなかった。
全部の授業の終わりまで俺は上の空で、机の中に隠した手は、ひたすら、カサついた便箋を開いたり閉じたりしていた。
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