41:名無しNIPPER[saga]
2016/11/28(月) 00:43:24.78 ID:DNIFZh1v0
「んくっ、ん、む…………ぅ、こくん、こく…………っ」
唇を冷やし、舌を焼き、喉を焦がす、特級酒の芳醇な香り。するすると、熱を持った液体が器官を伝い、お腹の奥まで落ちてゆく奇妙な感覚。
「んく、ん……ぷは……ぁ」
杯の中身が空になり、口の中が空になり。やっと吸えた空気は、畳の匂いにもあってやけに冷たく感じます。
「はあ、はぁ、ふぁ、ふー、ふぅ……」
お膝は崩れ、二呼吸、三呼吸をようやく口でこなしていました。
「はっはっはっ、あんまり無理しなくてもいいんだぞ?」
愉快そうな声に揺さぶられ、なんとか意識を保ちます。でも頭の中は重心をずらされたみたいにぐらぐらし、項垂れそうな身体を、畳に両手をついて支えなければなりませんでした。
ぼやけた目をこすると、目の前には寝巻姿で片膝をついたプロデューサーさんが、酩酊している私を面白がって眺めていました。
二人の間には、トランプが散らばっています。
「それにしても、珍しいこともあるもんだなぁ。茄子に勝てたっていうか、勝ち越してるなんて」
能天気な、心底意外そうな声。これまでもプロデューサーさんは、私の部屋にやってきては、私を甘やかすつもりでしょっちゅうトランプやすごろくの遊びを仕掛けてきたのです。
「そ……そうれす、ねぇ〜」
調子を合わせて私は笑います。でも、きっと、目は笑えていませんでした。私は混乱していました。
「ふぅ、ふー、あぁ、熱いですねぇ……ぱたぱた〜」
どうして勝てない。
どうして、勝たない?
これまでは違いました。望む望まないにかかわらず、殊(こと)運の絡むゲームにおいて、私は負けたことがありませんでした。
「ああ、でもぉ、こんなにおいしいお酒、いっぱいおかわりしてるから、それはそれで、ふぅ、幸運、かもしれません〜」
昔から『そう』だったんです。今日も『そう』だと、疑いもしませんでした。
その、私の前提とも言うべきものが唐突に消えかかっていることは、想像以上に私を動揺させていました。
浅ましいものです――この世界は運だけではないとしたり顔で言いながら、いざ足元が危うくなると、掌を返して慌てふためいている。だけど、律することができませんでした。
そんな私の様子を察したのか、プロデューサーさんは膝に置いていた手を挙げて、切り出しました。
「ああ、なるほどな……ふむ、それじゃあ茄子、そろそろお終いにしよっか。これ以上飲めないだろ?」
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