42:名無しNIPPER[saga]
2016/11/28(月) 00:54:12.75 ID:DNIFZh1v0
「……だけ」
「ん?」
「あといっかい……、もういっかいだけぇ、ふー、はー、ふぅ……」
何度かの問答がありました。私はのらりくらりと、しかし執拗に再戦を迫りました。お酒のせいもあるかもしれません、私はきっと、ムキになっていました。
だって、幸運がなければ、プロデューサーさんを幸せにできない。彼を幸せにできなければ、私は見放されてしまうかもしれない。
私は、運だけが取り柄だから。幸運にも結ばれた縁だから、その運が失せれば、ほどけてしまう。そんな気がして。
「…………どうしても?」
「えへへ〜、こー見えて、負けず嫌いなんですよぉ?」
アイドルとして見られていなかった頃を思い出します。私は印象が薄いのか、名前を覚えてもらうのも苦労しました。そしてある程度の立場を得た今――あの頃に戻ってしまうのがどうしようもなく怖かった。
「プロデューサーさんが勝ったらぁ……なんでも言うこと、ききますからぁ」
だから、そんな言葉がするりと零れました。
「……へぇ、じゃあ、賭けよっか」
「いいれすよぉ〜、いくらにしますかぁ?」
「百億」
「……はぇ?」
呆気にとられた私の前で、プロデューサーさんはテーブルからメモ帳とペンを手繰り寄せると、さらさらと書き付けて、寄越しました。ぼやける目を凝らして見ました。誓約書でした。
あとは私の名前を記入(い)れるだけでした。
馬鹿馬鹿しい、そう思いました。ペンをひったくり殴り書きながら(それでも私の方がいくらか上手でした)、いくらプロデューサーさんでもいたずらが過ぎる、と、自分のことを棚に上げてぷんぷん怒りました。
遊びですよね? そう言おうと身を乗り出した私を強く抱きよせました。
とうとう役にならなかった私の手札が散らばります。
お酒臭い、ぞっとする声で告げられました。払えないのなら、そのカラダで払え、と。
もう、私の優しいプロデューサーさんはいませんでした。それは女の子をお金儲けの道具にする、悪い大人の顔でした。
舌舐め擦りは、どちらが舌(シタ)のでしょう。
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