52:名無しNIPPER[saga]
2016/12/04(日) 18:22:35.19 ID:p8lNJQva0
恥ずかしながら、修学旅行の自由行動中に班の人間とはぐれて迷子になったことがある。
団体行動するよう口をすっぱくして注意されていただろうに、どうしてそんなことになったかは、今となってはよく覚えていない。
似たような往来に同じような土産物屋が立ち並び、軒先が切れ目なく道の両側から伸びて、その下に観光客がひしめいている。そしてめいめい全員が好き勝手に喋り呟き喚き囁き、乾いた足音と衣擦れがその二乗で一帯を飛び交っている。
しかし人ごみの中に同級生や先生の姿は見つけられず、ここがうちの学校関係者の行動圏から遠く離れていることを察する。
かといって路地を覗くと一転、寒気を覚えるほど静かでうす暗く、間違いなく地元の人間しか使わない使えない道だと考えるしかなく、よってその先に集合場所はないだろうと思い至る。
そして俺は携帯を持ち合わせていなかった。まあその頃は持っている奴のほうがまれだったけれど。
後は旅行のしおりに載っている落書きみたいな地図と、百戦錬磨の土産物屋の人間に頼るしかない。その予想される面倒にうんざりしていたところ――
「おーっ? あっちにもなんかあるなー」
俺の目の前をよく通る声が先行し、その後からスキップ気味の歩きで横切る、うちの学校の制服姿があった。そいつは別のクラスの女子――名前は並木だった。
俺は直接の付き合いはないが、結構可愛いしノリもいいってわけで評判の女子。
頭にはなぜか帽子がのっかっていた。多分おしゃれなんだろうが、制服に被るにはあまりにもミスマッチな代物だった。道中で買ったのかもしれない。
そして、並木は独りだった。ひとりで、人ごみの中をすいすい進んでいった。友達がいない、ってキャラじゃないだろうに、どうしたもんだろう。
(って、ぼんやりしてる場合じゃない!)
ここで彼女まで見失ってしまったら本当に迷子になってしまう。接点の有無なんて気にしている場合じゃない。俺は下手くそに人を掻き分けて並木の背中に追いすがった。
「な、なあ!」
「ん?」
並木は道路標識みたいに一本足で立ち止まった。
そこからくるりと軽やかに振り返る。
往来の端から端まで、灰色の川の様に人だかりがずっと伸びているその喧騒のど真ん中で、すべてが一瞬道を譲った。
「お! うちの学校の人だ! どしたのひとりで?」
ほとんど無意識のうちに、なんとか返事する。
「あ、ええと……班の奴見失っちゃったんだよ」
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