2:名無しNIPPER[sage saga]
2016/12/05(月) 21:25:30.16 ID:ISqnSWvX0
太陽がビル林の狭間に隠れ、陰が背よりも延びた頃。
俺は担当アイドルの南条光を回収するべく、駅前のロータリーを訪れていた。
見渡すと周囲は帰宅ラッシュに差し掛かっていて、気を抜くと人波に流されそう。
十代アイドルの中でも一際小柄な光では、こんな所にいたら頭が隠れてしまうので、合流に手間がかかるかもしれない。
そんなことを考えていたら、人混みの中から幼げな声。
見ると、母親の袖を掴んでいる男の子が、光に快活なお辞儀をしていた。
「もう、この子ったら、すぐ何処かに走っちゃって……本当に助かりました」
母親もまた、深々と礼を述べている。
「ま、まぁ、これぐらいの男の子は、っ! 元気に走るのが、お仕事みたいなものっ、だから……っ!」
感謝を受けている光はというと、好青年を装った受け答えはしていても、誇らしげに笑ったりはしていない。
爽やかな美人顔は悩ましげに歪み、やや丸みを帯びつつある華奢な腰がピクピク震えている。
迷子探しの疲れでは説明できないほど呼吸は乱れ、上下する肩につられ、艶やかな長髪がゆらりとなびいた。
「あの……もしかして、どこかお具合がよろしくないのしょうか」
「あー……、あはは、夕日のせいです、たぶん……。
じゃあ、アタシは用事があるので、これでっ!」
会話を打ち切るように別れを告げて、光はそそくさと立ち去った。
強がるような大股歩きを追って、俺もまた早足で移動。
親子から距離を十分開き、混雑が落ち着いて人気もない場所を見計らって、光の前に姿を見せた。
「……! プロデューサー、ここに、いたのか!」
「まぁな。
こんな時でもヒーローをやってるんだな、お疲れ光」
そうねぎらうと光は駆け寄ってきて、赤ら顔で仰ぎ睨んできた。
「こんな時って……あの子は困ってたし、見捨てられるわけ、ないじゃないか。
……っていうかっ! 凄い顔で助けてくれって言うから心配したのに、プロデューサーは本当にこんなことがしたかったのか!
もう満足して、っ! ……した、よな……!?」
抗議をしながらも、縋り泣いて俺に抱きつく。
しゃくりあげて繰り返される不満に籠もる熱は、怒りだけなのか、それとも。
なんであれ、水鏡のような碧眼に溜まる涙滴を眺めると、宥めるより愛でてやりたくなる。
「確かに十分満足できたし……そろそろ女子寮まで送ってやろう」
「えっ……、帰っちゃう、のか?」
綯い交ぜになっていた恥じらいと怒声が、一転して名残惜しげな問いかけに遷移。
隙を見つけて緩む頬を引き締め、平時を装って質問を返した。
「何処か寄りたいところでもあるのか」
「……あっ、そうじゃないっ! そうじゃなくて、えっと、ええっと……!」
「早くしてくれ」
煮えきらなさを表向き責め、足音を鳴らして踵を返す。
最初の一歩目を踏み出した途端、掴みかかるように裾を引っ張られた。
「ま、……前連れてったホテル……あそこ、近いよな……このままじゃ、アタシ、生殺し、だから、その……!」
聞きたかった言葉を耳にして、嗜虐の喜びがじとりと潤う。
変装用のコートを頭から羽織らせ、光を宥めながら予定地へと向かった。
人の流れとは逆に進み、人通りの少ない裏通りを経由して向かった先は、毒々しく彩られた薄紫のビル。
いわゆるラブホテルの前にたどり着いたところで、光が掌を握ってせっついてきた。
「な、なぁ、こんなこともあろうかと実はもう予約を済ませてた、……みたいなことは、無いのか……?」
そこまで準備はしてないが、男を急がせるほど追い込まれた光を見たら、急がざるを得ない。
手早く手続きを済ませて鍵を借り、ふたり忍び込むようにして部屋へ向かった。
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