85: ◆y7//w4A.QY[sage]
2017/03/26(日) 12:47:18.47 ID:+afMFJY80
賛美歌。
神話の時代、大地を生み出した際残されたもっとも硬い金属と太陽の元となったドラゴンの炎をもちいて、大地に生まれた生き物達が精霊神に捧げるため作詞されたと言われる唄である。
昼が人の世界ならば、夜は神の世界。太陽の光を閉ざし静かに横たわる神はこの唄を聞いて、実りを与えたという伝説だ。しかし、そうした表向きの意味以外に、もう一つ、裏の顔がある。
この唄を詠唱することによって生まれる、禁呪文「リバース」である。
魔族が使うことにより、存在が反転する。つまり、魔から神聖な者へと裏返るのだ。呪文を使用するためにはいくつかの制約がかせられる。
ひとつ、魔族が使用すること。
ひとつ、心の底から願うこと。
ひとつ、力の封印を受け入れること。
これらの条件を全て満たした時のみ、効果は発動する。魔族にとって神族は、気性も、性質も、ありとあらゆる意味で正反対の位置にある。お互いに持ち合わせている敵対心よりもそりが合わない者同士なのだ。ゆえに、リバースを使う、それはなりたくない自分になると同時にこれまでの自分を否定することにも繋がる。
死よりも重い選択である。
そんな大それたことを、一時の気の迷いではないと、覚悟と誓いを持ってトモエははじめたのだ。
全ては、カケルの側にいるためだった――。
伝説の存在である勇者は神の代理人でもある。そちらの都合を考慮すれば、神属性である方がいい。
カッと瞳から、口から、耳の穴から、まるでレーザーのような閃光を放つ。
トモエ「ああぁぁっ! 神よ! 魔族たる私は誓う! この者の為に生き、生涯尽くすことを!」
言葉と共に地に拳をつきたてた。
ズズーンという、重い衝撃音とともにトモエの身体に輝く粒子が纏われる。そこには、着ている衣服は露出度の高いものから、極力身を隠したものへと、まるで袴のような白と赤を基調にしたものへ変化していた。
そして、眩いほど輝くさらさらの白銀の髪、金色の瞳。体型に変化はないが、雰囲気がガラリと変わっている。
トモエ「はぁ……さようなら、魔族の私」
そっと、カケルに近づいてトモエは手を重ねる。うすいヴェールのような微笑みでそのまま撫でた。
トモエ「よろしくお願いします。マスター」
桜色の唇がカケルの鼓膜を震わせる。誰もが、声がでなかった。裏返しはここに成ったのだ。これよりさらに数万年後、トモエの意志を継ぐ子孫が、ある島国で巫女と呼ばれることになる。
しかし、それはまた別のお話――。
98Res/121.89 KB
↑[8] 前[4] 次[6]
書[5]
板[3] 1-[1] l20