一ノ瀬志希「Evermoreってウソだよね?」
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11: ◆Freege5emM[saga]
2017/03/20(月) 18:05:47.15 ID:3V0ftEOKo
◇◇◇◇◇
終わりがアタマから離れない、とプロデューサーに打ち明けてからのあたしは、
レッスンやらステージやら、お仕事のすべてを『これが最後か』と思いながら続けていた。
あたしの思考のクセだね……終わりが見えると意識だけ先に飛ぶ。過程をショートカットしちゃうの。
自分のラボの敷居をまたぐたび、『戻るときはアイドルじゃないかも』とひとりごちて歩きだした。
プロデューサーやほかの子と打ち合わせするときも、次の仕事のコトは考えなくなった。
あたしは死のニオイを貪って咲く花なんだ。
プロデューサーに中出しされて、だけど避妊してるから無駄になる精子の死であたしは咲いてる花なんだ。
精子は必ず死ぬ、実を結ばない。散らない花に実はつかないもの。
それをうっかりちょっとだけほのめかしちゃったら、文香ちゃんとかがあたしを梶井基次郎の愛読者ということにしてくれた。
痛々しさを中和してくれるフォローなのは分かってるんだけど参ったね。
そんなのが続いたせいか、あたしがドラマや映画に出ると大抵死亡シーンが入ってて、
それが話題になって、いつしかあたしのクレジットが死亡フラグとして扱われるようになっちゃった。
みくちゃんとか美嘉ちゃんとか、そーゆーあたしの見られ方に(他人事なのに、あの子たち特にイイ子だから)
憤慨してくれた。一方あたしは自分にアイドルらしいケレン味がついたと思って実は気に入ってた。
そうして門松を何本も過ぎ越した後、ついにあたしもアイドルとして最後の日がやってきた。
プロデューサーとのカンケイがすっぱ抜かれて、事務所のお偉いさんに呼びつけられたんだ。
あたしはプロデューサーと並んでお偉いさんの部屋に行った。
途中『ゴルゴダの丘に向かって歩いてるみたいだねぇ』なんて言ったらプロデューサーに笑われた。
公開処刑されて、シレッと復活したらどうだろう。しないつもりだけど。
お偉いさんのおばさんは、努めて冷厳さを装っていたけど、動揺は隠せてなかった。
あたしとプロデューサーのカンケイは、フツーのオトコとオンナに比べて殺伐とした触れ合いで、
周りからビターな雰囲気に見えたのか、あたしたちを直接知る人間ほど驚くという逆転現象を起こしてたみたいだ。
その日のあたしは、『ふっふー♪』と鼻歌が漏れ出すぐらいハイな気分になってた。
『プロデューサーと初めてこうシたときから、アイドル続けられなくなるコトは覚悟してたよ』
なんておばさんの前でしんみり切り出した時、隣のプロデューサーにまた笑われて、
あたしはプロデューサーの足を踏みつけたけど自分でも耐えきれなくて笑っちゃった。
笑っちゃうでしょ。因果が転倒してる。
アイドル続けられないというコトに耐えられなくて、あたしはプロデューサーとのカンケイに走っちゃったのに。
しかしこーゆーウソを平然とつけなくなっちゃった。もうアイドル・一ノ瀬志希は死んだんだ。
ふざけてると思われたのか、あたしたちは事務所から追い出された。
事務所を去る時、ふと見上げた摩天楼の頂は、怖気がするほど高く見えた。
一歩間違えたら、あれがあたしたちの墓標になってたかも、なんて想像がアタマを過ぎる。
もう文香ちゃんのフォローはない。
あたしたちはほとぼりが冷めるまでニューヨークへ移った。
魔法しくじった魔法使いと、魔法かからなかったシンデレラの末路――もとい門出にしては上等だよね。
お忙しいご身分で義理堅いコトに、
空港までお見送りに来てくれたみくちゃんと蘭子ちゃんと飛鳥ちゃんは、言葉は神妙だったけど、
その目は『なんてモノを見せてくれたんだ』と叫んでた。
あたしは目には目で『これがあたしの進む夢の先』と返しておいた。
ちゃんと伝わったかどうかは自信がない。
逆にお見送りには来てくれなかったけど、
美嘉ちゃんとかフレちゃんとか奏ちゃんとかシューコちゃんとか文香ちゃんとか、
日本を立つ前に最後に交わした視線がみんな生暖かったなぁ。
『EVERMOREがホント』だと無邪気には信じられない年頃の子らには、
あたしたちの一件もピリッといいクスリとして代謝してくれてたんじゃないかなぁ。
かくしてあたしたちは夢見心地の舞踏会から去った。
プロデューサーはプロデューサーを辞めちゃって、おカタい仕事に行っちゃった。
今やプロデューサーじゃなくて、あたしの旦那様ですよー。ふっふー♪
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