モバP「南条光の正体がサキュバスだった」
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3:名無しNIPPER[saga]
2017/04/21(金) 19:17:26.75 ID:dh2cKL/j0

 しばし経ち、ようやく思考を取り戻した頃。

 向こうも整理が付いたらしく、扉から手だけ出して呼び寄せてきた。

 入室して謝意を表明してから、光に事情の説明を求める。

「光がサキュバス、……なぁ」

「コスプレじゃあないぞ。ほら」

 真剣さが滲む声色と間逆に、光の矮躯が軽快に翻る。

 腰まで伸びた黒髪をうなじが露出するまで掻き上げると、肩胛骨の肩胛骨の付け根ではコウモリ型の羽根がはためいていた。

 尻の付け根には黒く細長い尻尾が生えていて、なめし皮のように照り返しながら、クネクネと縄跳びのようにしなっている。

 示された証拠が事実を証明しているが、受容できるかという気持ちの問題は否だ。

 かたや男を誑かして命を啜る、淫靡と頽廃の吸精魔。

 かたや無垢かつ元気が取り柄な、夢にひたむきな南条光。

 対極同然な両者を、どうしても等号で結べない。

 戸惑って硬直する俺を眺め、光はわざとらしく頬を掻いた。

「本当は……ずっと、隠しておきたかったんだ。
 けど、最近疲れちゃっててさ、限界を見誤ってたんだ。
 いつもの格好が一番楽だったから、なっちゃってさぁ」

 殊更に鷹揚な仕草を見せるのは、人を不安がらせたくない時にする悪癖。

 それが不調や問題を隠す所作だということを、まったく知らない俺ではない。

「もしかして、教会に来るのが負担だったりしなかったか。
 この場所には魔除けの効果があるから、とか」

 いわゆる聖域といった場所には、退魔の加護というものがあるのだろう。

 体に合わない場所で過ごせば体調は崩れてしまうもので、それはサキュバスとて変わりないはず。

 その苦痛は人間に例えれば高山病に近いのだろうか、それとも、瘴気が立ちこめる山川を歩き回るようなものだろうか。

 人の身にあっては想像もつかないが、尋常ならざる負荷であるとは推測できた。

「そんなところだな。聖堂の十字架から少し離れたから、もうほとんど辛くないけどね。
 ……けど」

 言い淀んだかと思えば目を伏せ、碧眼が俺を射竦める。

 身を強ばらせた俺の方へ、光が一歩ずつ近づいてくる。

「もう、限界なんだ……見られちゃった以上、仕方ないし……
 プロデューサー……ううん、プロデューサーさん。頼みがあるんだ……!」

 距離が縮まっていくに比して、嫌な想像が胸中で膨らみゆく。

 消耗を極めたサキュバスがにじり寄ってくる意味なんて、考えるまでもない。

 命を保つために精が必須なら、人が食事を通して命を摘み取るのと同じように、自然の摂理として仕方ないのだろう。

 しかし俺を補食しようとしているのは、性と縁遠かった南条光だ。

 いや、そんな無垢じみた彼女像すら、もしかしたら芝居だったのだろうか。

 俺の存じぬ所で男を貪り、浅ましく性に溺れていたのか。

 確証無きはずの疑念が左胸を縛り、捩じ切られそうなほど痛みが走った。

「何を、手伝えばいいんだ」

 神経をがりがりと削られて、声を裏返さないだけで精一杯。

 固唾を飲んで彼女を見やると、じっと俺を見返してきた。

「……見張っていて欲しいんだ。
 誰かを襲ってしまったりしないように、アタシを監視して欲しい!」


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