鷺沢文香「アッシェンプッテルの日記帳」
1- 20
8: ◆ao.kz0hS/Q[sage saga]
2017/10/07(土) 23:56:21.80 ID:mxDxIcFa0
一瞬、踵を返して事務所に戻り、二人が何食わぬ顔で連れ立って退社する様子を観察したいという欲求が湧きました。
しかし、私がいる限り二人はいつまでも帰らないか、もしくは私の目の届かない外で落ち合うことにするかも…。

駄目です。
それではあまりに勿体ない。
つまりは、このタイミングで私が出てきたのは結果的に良かったのでは? と考えることにしました。

私はビルの玄関と駐車場の出入り口の両方を見渡せる路地に身を潜めました。
街灯の光も届かない暗闇の中でただ立ち尽くす私の姿は、端から見ればさながら幽鬼のようであったかもしれませんね。

寒さに耐えながら待ち続け、30分経つ頃に見知った顔のスタッフさんが1人、そして更に10分経つ頃に2人、ビルから出てきました。
これで今、事務所に残っているのはPさんと美波さんだけのはず。
つまりもうしばらくすれば、Pさんの車に乗った二人が出てくる…。

そのとき美波さんはどの席に乗っているのでしょう?
仕事で移動するときと同じように後部座席に乗っているのか?
助手席に乗ってPさんに視線を向けているのか?
それとも、パパラッチを警戒して身を伏せているのか?

いずれにしても、二人の胸はさぞや高鳴っていることでしょう。
私の胸も既に二人と同様かそれ以上に高鳴っていました。

しかし、10分経っても20分経ってもPさんの車は出てきません。
もちろん引き続き玄関への注意も払っていましたから、徒歩で出たわけでもありません。
一体どうしたのか?
不思議に思った私は確認するために、一度事務所へ戻ることにしました。

二人と鉢合わせてしまった場合は忘れ物をしたとでも言えば良いでしょう。
そんな風に考えながらも、念の為エレベーターではなく非常階段を使うことにしました。
高々3階分ですし、音も鳴りませんから。
目的の階まで上って廊下へ出るドアノブを掴もうとしたところで、手が震えていることに気付きました。
寒さだけでは説明のつかない尋常ではない震え方。それに呼吸も何十階も駆け上がったように荒くなっていて…。
自分の肩を抱いてみても、深呼吸を繰り返しても、一向に良くならなかったので、もう諦めてドアを開け、事務所のあるフロアへと足を踏み入れました。


まさかそんなことある筈がない、と本当にそう思っていたのです。


<<前のレス[*]次のレス[#]>>
36Res/60.06 KB
↑[8] 前[4] 次[6] 書[5] 板[3] 1-[1] l20




VIPサービス増築中!
携帯うpろだ|隙間うpろだ
Powered By VIPservice