9: ◆ao.kz0hS/Q[sage saga]
2017/10/07(土) 23:57:37.85 ID:mxDxIcFa0
怖気を禁じ得ないほどに、フロアは薄暗くなっていました。
フロアに入ってすぐのエレベーターホールは天井の小さなライトで照らされていました。
ですが事務所へと続く廊下は完全に消灯されているということが、その場で分かりました。
エレベーターホールのライトはいわゆる常夜灯なので、つまり普通に考えれば、このフロアにはもう誰もいないはず。
ひょっとすると非常階段を上っている間に入れ違ったのかもしれない、という考えも浮かびました。
しかし、ここまで来てしまえば実際に確認してみなければ気が済みません。
エレベーターホールを越え、角を曲がると数メートル先にある事務所のドア。
そのドアの中心に組み込まれている幅10センチ程度のガラスのスリットから、事務所内も消灯されていることがすぐにわかりました。
ドアの前まで行き、ドアノブにゆっくりと手を掛けるとやはり施錠されていて…。
しかし、スリットの向こうに微かな光源があることに気付きました。
気付いてしまったのです。
真っ暗な部屋の中でパソコンのディスプレイだけが点いていたら、そのように見えるのでしょう。
幅の狭いスリットからは、どのディスプレイが点いているのかは直接は見えませんでしたが、それはきっとPさんのデスクのものであると、何故かそう直感した次の瞬間。
“だめ……”
誰もいないはずのドアの向こうの暗闇から、声が聞こえたのです。
驚愕のカタマリが悲鳴として喉を突き破って出てきそうでした。
それを微動だにせずやり過ごすと、代わりとばかりにうなじから尾骶骨にかけての全ての毛穴が開いていく感覚がありました。
いつの間にか口内は乾きかけの唾液で粘つき、喉の奥に酷い不快感が溜まっていました。
躰の震えを抑えつけ、改めてスリットを覗いてみても、人の姿かたちはやはり見当たりません。
どうやら声の主は完全に陰になっているところにいるらしい。
こちらから見えないということは、あちらからも見えないということです。
それが分かるや否や、殆ど無意識のまま大胆に耳をドアへ押し当てていました。
36Res/60.06 KB
↑[8] 前[4] 次[6]
書[5]
板[3] 1-[1] l20