470:塔の主 ◆B2ErFCUzdE[sage saga]
2018/01/28(日) 22:18:36.18 ID:QJT86Pn40
「望みの、まま…?」
「そ、そうじゃ!ここのような汚い船室暮らしよりも、ずっと良い生活ができるくらいの褒美をくれてやるぞ!」
「望みか…だったら」
―だが次に男の口から洩れたのは。
地獄の底から響いてくるような、凍り付くような声だった。
「俺 の 家 族 を 返 せ よ」
「か…ぞく…?」
「俺たち一家はな…昔は普通に暮らしていたんだ。
普通に働いて、普通にメシを食って…裕福な暮らしじゃなかったけれど力を合わせて幸せに生きてたんだ。
けど…オマエが産まれてから全ては変わり始めた。
王家の連中はお前がかわいかったのかしらんが、ことあるごとに祭りやらパレードやらに税金をつぎ込んではしゃぎまわった。
やれ生誕祭だなんだと理由をつけてな。
だがそれくらいならまだいい」
男の顔が憎悪の形に歪んでいく。
「物心ついてからのお前は、とことんわがままに振舞い始めた。
綺麗なドレスが欲しい。珍しい宝石が欲しい。ペットが欲しい。
挙句の果てには景色が気に入らないから民家を壊せだの、ペット用の家が欲しいだの、新しい城が欲しいだの、その隣に綺麗な湖を作れだの…
バカバカしいことに、王家の連中は本気でそれをやりやがった!」
「俺たちの財産はむしり取られ、もともと裕福でない俺の家は一気にどん底へ追いやられたよ。
その日その日を生き延びるために、やりたくない仕事でもなんでもやった。
母さんも…俺の妹も…食いつなぐ為に、身体を売りながら生活していた。
…妹ときたら、今のあんたよりも小さくてやせっぽちだったのにな!」
あまりにも壮絶な男の告白を聞きながら、アイリーンはがたがた震えている。
「わかるか。お前のくだらない我がままのために…俺たちの人生は台無しにされたんだよ…!」
「し…しらない…わ、わらわはそんなこと知らない…」
しかし彼女のわがままは余りにも無邪気で、かつ残酷なものだった。
ドレスを手に入れる。
宝石を手に入れる。
ペットを、新しい城を、湖を手に入れる。
自分が欲しいと言えば、なんでも手に入る。
そんな生活が当たり前だったアイリーンは自分のわがまま一つで誰かの人生が犠牲になっているなどとは想像もしていなかったのだから。
「知らない、だと…俺たちを、俺たちの家族を踏みにじっておいて…自分は何も知らないと…アンタはそんなこと言うのかよ…!」
男たちの憎悪が膨れ上がっていくのがアイリーンにもはっきりとわかる。
「だ、だって、だって…だれもそんなことになってるなんて、おしえてくれなかった…わらわは…わらわは…」
そして次の一言が決定的であった。
「わらわは 悪くない―」
船内に怒号が轟いた。
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