823:塔の主 ◆VfcsCSY7us[saga]
2019/02/05(火) 19:07:59.32 ID:gwAK1vkF0
久々なせいかトリップも変わっちゃってるけど本人です
それではいきます
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その少女は父親の愛を感じながら暮らしていたし、それなりに幸福を感じていたはずだった。
ただ周囲の人間たち、とりわけ同年代(ホムンクルスである彼女と比較する言葉として適当であるかどうかはわからないが)の子供たちのアリスに対する反応は冷たいものがあった。
「おまえ人間じゃないんだってなー」
「そうだよ。わたしホムンクルスっていうんだって」
「何考えてるかわかんねぇ 人形みたいだ」
「きもちわりー あっちいこうぜー」
そしてアリスは去っていく子供たちの背を見送りながらぽつりと呟くのだった。
「きょうも いっしょにあそべなかった」
「ダメじゃないかアリス。勝手に一人で出て行っては」
「だって とじこもってるばかりでつまんない」
「私たちがここにいることが知られてはまずいんだ。お前は世界の命運を左右できるほどの存在なんだぞ」
父親の言葉の意図はアリスには理解できなかったが、彼がそういうことを口にする時は決まって何かに怯えている様子を見せていた。
2人はことあるごとに住処を転々とした。
まるで何かに追われるように。
実際それは逃亡生活だったのだが、アリスはなぜ自分たちはずっと同じ場所で暮らせないのだろうといつも不思議に思っていた。
ある日、とある場所で父は倒れた。
元々身体が弱く、研究者として暮らしてきた彼の身体は続く逃亡生活の中で疲弊しきり、病魔に侵されていたのだ。
「アリス、ああ、アリス。私の最高傑作。お前だけは、お前だけは逃げ延びてくれ」
息も絶え絶えになりながら、彼はアリスに何かを伝えようとする。
「お前が奴らに捕まってしまえば、世界は…ああ、いや、違う。世界、なんて…どうでも、いいんだ。私は、お前が、自由に、生きていてくれさえいれば」
「おとうさん、しんじゃうの。」
「許してくれ、アリス。私には、お前にこんな…こんな忌まわしいものしか残してやれない」
布にくるまれたそれは奇怪な装飾が施された『銀の鍵』だ。
「この世でお前だけが…お前だけがその『鍵』の真の力を引き出せる…私がそのようにお前を作った…作ってしまったんだ」
言葉の端々に後悔と罪悪感が滲み出ているようだった。
「これからは自由に生きるんだ。その鍵を使って、何をしてもいい…世界を救うことも、滅ぼすことも、お前の望んだままに。だが、ああ…願わくば」
男は優しい笑みを浮かべながら、言った。
「幸せになってくれ アリス。 私の…可愛い娘」
父親はそれきり動かなくなった。
アリスは一人になった。
「おとうさんも いなくなっちゃった」
父の最期の言葉の意味を考えるよりも、アリスの心は初めて感じる孤独感に押しつぶされそうになっていた。
ふらふらと街中を歩くアリスを、人々は薄気味悪そうに遠巻きに眺めている。
その視線は、かつて自分を仲間外れにした子供たちの視線を思わせた。
一人になったホムンクルスの少女に手を差し伸べる者など誰もいない。
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