828:塔の主 ◆VfcsCSY7us[sage saga]
2019/02/05(火) 20:06:37.94 ID:gwAK1vkF0
港町の寂れた裏通り。
物音と言えば大通りの喧騒が微かに聞こえてくる程度。
2人のはぐれ者はしばし無言のまま対峙していたが、やがて黒衣のローブをまとう少女―ウェルが口を開いた。
「―それで?
私に追いついてどうするつもりだったのかしら。もしかして」
わずかに吊り上げた唇から紡がれる、少々の嘲りを含んだ言葉。
「私をギルドの仲間に引き入れて…『なかよしごっこ』でもさせたいのかしら?」
一瞬だけククッと哄笑するかのように喉を鳴らすが、次の瞬間にはキッとアリスの瞳を見据え真顔で言い放った。
「残念だけど答えは ノーよ。 私は貴方たちとつるむつもりはない」
ぴしゃりと放たれたウェルの拒絶の言葉に、アリスの無表情が一瞬だけ狼狽の色を見せる
「あはは。アリスもそんな顔するんだ」
けらけらと今度ははっきりと声に出して嗤う。
「もし捕まえていたなら調教中にもそんな顔が見られたのかしら? そのへんはちょっと惜しいかもね。ふふっ」
「ウェル…なんで…そんな…」
同じような境遇を感じた。
共感を得られたと思った。
仲間に…友達になれると思った。
―でも、なぜ? なぜウェルはそんなことを言うの?
「今度は『信じられない』って顔してる」
ウェルは地面に落ちていた一枚の紙きれ(そこに倒れている賞金稼ぎの持っていたものだ)を拾い上げ、さっと目を通すと自嘲めいた笑みを浮かべてソレをアリスに見せつける。
「わかる? これ私の手配書。『毒使いのウェル 賞金額3500万エイン ※生死問わず』…ちょっと額が上がってたわね」
手配書にはウェルの人相書きや賞金額の他にこれまで彼女が犯してきた様々な罪状が記載されていた。
「―この通り。奴隷調教師『毒使いのウェル』の名は結構売れてるのよ?
貞淑なお嬢様も強気な女戦士も。私の手にかかれば男の腹の上で卑しく腰を振る肉人形に早変わり。なかには美少年とかもいたかしらね。ふふっ」
妖艶な笑みを浮かべながら、重ねてきた悪行を自慢げに並べ立てるウェル。
「つまり私はあのジェネラルオークみたいな奴らの同類。人間を食い物にして弄ぶ側。そんな私が―」
その妖艶な笑みがふっと陰る。
「―あなたたちと一緒にいられるわけないじゃない」
「ウェル…」
透き通るようなアリスの瞳がウェルの歪んだ笑みを映しだす。
「そんな綺麗な目で私を見ないでよ、アリス」
自嘲めいた笑みのままウェルの言葉は続く。
「あなたの仲間たちも私を同じように見つめてくれるのかしら。でも私はそんな人たちをどんなふうに見つめ返せばいいわけ?」
ウェルは見てきた。自分自身が体験した、そして自分が他人に体験させてきた汚らわしい地獄のような光景を。
「そこは私の居場所じゃない。…いるべきところじゃない」
そして放たれる拒絶と断絶の言葉。
「だから一緒には居られない」
「…」
再び二人の間を重苦しい沈黙が包んだ。
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