109:名無しNIPPER[saga]
2018/02/16(金) 23:27:48.51 ID:WhUJKF2CO
【……あなたは、誰? 】
一週間の昏睡状態。それから数度の覚醒を経てさらに一週間泥のように沈んだ意識。
それでも不思議と生命活動だけはしっかりとしていた美しい女狐の第一声がそれだった。
目を見開いて固まる馬鹿な、そう本当に何にも気付けなかった幸福な男。
諦めと恐怖を感じ引き下がる負けた女。
知っていた狂気を確認して鼻を鳴らした戦女神。
それからはもうとんとん拍子、なんてものではなかった。
どれだけ感覚を伝え、技術を伝えても儘ならないどころか全く発動しない力。
“ 艦娘 ”としての力を完全に喪ったただの少女が、そこにはいた。
人間としての生を受けたわけではない私たち。
バックボーンが無いというバックボーンが指針である筈の私たち。
そんな存在が唯一無二の歪みさえも失ったのだ。
殊の外平静な本人を除いて。
周囲は大わらわも大わらわだった。
前を向いて記憶を喪った少女を引き取ると宣言した男。
その夢は叶うことなんて無いだろう。
後ろを振り返って陸軍の間諜に逆戻りした女。
その背中の悲しさ、少しだけ分かるわ。
変わらず戦場だけを向いた異国の戦姫。
或いは私もあなたのようでありたかった。
あぁ、私? 私はほら、褒賞として与えられたのに与えられた張本人が退役してしまったものだから、ね。
結局元いたところに戻って、今でもお堅い姉や奔放な妹たちと愚にも付かない戦闘を。
今ではあのときの二人が何処に消えて、何処で何をしているのかなんて皆目不明。
知りたいとも思わないけれど、きっと知れないことこそ心の安寧。
私だってあの上官を認めていた部分もあったのだけれど。それも今ではただの記憶。
精々が危機的状況を自己で脱したときの付属的感慨。
「まぁ、それでも悪くはなかったわ」
「? 」
「んーん、何でもない。…………高雄、ドSのイケメンなんて知らない? 」
「あなたね、何度その感性で男性を壊してきたのよ。実はあなたがサドなんじゃないの? 」
「まっさかー。私は昔から、今でも、いつだって荒々しい海の男に抱かれたい女よぉ」
ただまぁ、もしまたあの少女か例の元上官に会えるのなら一言だけ言ってやりたいことがある。
「…………鈍感演じた私たちに、感謝なさいね」
「は? 」
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