ドロシー「またハニートラップかよ…って、プリンセスに!?」
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595: ◆b0M46H9tf98h[sage saga]
2022/01/28(金) 01:08:45.58 ID:VGjoX0eq0
…数日後・イーストエンドの裏通り…

アンジェ「……対象の人物とは向こうのパブで待ち合わせをすることになっているわ」

ちせ「さようか……しかしどうにもガラの悪い所じゃな……」


…露骨にちょっかいを出されたり邪魔をされるということはないが、辺りをブラブラしているちんぴらや、横目でちらちらと通行人の品定めでもしているごろつきからよこしまな視線を感じる……アンジェは黒のシルクハットに長いコートで、コートの襟を立てて出来るだけ顔を隠している……ちせは長いマントに使用人らしいボンネットをかぶり、やはり顔が分からないよう濃い色のヴェールを垂らしている…


アンジェ「ええ。何しろこの辺りはお世辞にも上品とは言えない街区だもの。 あえて言うなら小悪党だとかちんぴら、ごろつきのような連中がしのぎを削っている場所よ」

ちせ「ふむ……」

アンジェ「今回の商談も、諜報機関と取引をしようという「生き馬の目を抜くような」連中が相手だから油断は出来ない……彼らが頼りにしているのはそれぞれの才覚と得物、共通している価値観は「現金」(げんなま)に対するものだけ……もっとも、それだけにかえって取引そのものはやりやすい」

ちせ「……というと?」

アンジェ「欲得ずくで動く連中なら、札びらを切ればいくらでも転ばせることが出来るということよ……自分の持っている信条にこり固まった理想主義者だの、ころころと考えを変える「良心」の持ち主なんかよりも、ある意味ではずっとアテになる」

ちせ「なるほど」

アンジェ「とはいえいいことばかりではない……金で動くということは、相手方がより多くの金を出せばそちらに転ぶということにもなる」

ちせ「確かに……」

アンジェ「だから今回は「飴と鞭を使い分ける」ために、このカバーを選んだというわけね……」

ちせ「ふむ……闇社会のけちな情報屋は王国情報部を相手にこざかしい真似はしない、ということじゃな」

アンジェ「ええ。少なくともそれくらいの知恵があることを願っているわ」

…薄汚いパブ…

アンジェ「……あの男よ」

ちせ「うむ……」

歯並びの悪い男「……」


…日差しの悪いイーストエンドでもとりわけ薄暗い一角に建っている一軒のパブ……待ち合わせ場所として相手方と取り決めたその店にアンジェとちせが入ると、店主の注意がちらりと二人に注がれ、また無関心へと戻っていった……店内には四人ほどが座れるカウンターと二人掛けのテーブルがいくつか、そして指定された奥の角にあるテーブルには小汚い男が座っている…


アンジェ「……」

ちせ「……」アンジェは無言で男の向かいに座り、ちせもそれに習う…

男「……よう、待ちかねたぜ」


…男は数週間は着たきりらしい汚れた上着とすっかりよじれたクラヴァット(襟飾り)を締めていて、薄汚れたグラスでジンをあおっている……噛み煙草ですっかり黄ばんでいる歯は歯並びも悪く、ニヤついた笑い方は人を小馬鹿にしているような不愉快さと同時に、常に卑怯な手段で相手から何か巻き上げようとたくらんでいるような印象を与える…


アンジェ「……」

男「待ちくたびれて喉が渇いちまったもんだからな、先に一杯飲(や)らせてもらったぜ」

アンジェ「……そう」

男「よかったらあんたらも何か頼めよ、な?」そういうと人差し指を立てて招くように動かし、カウンターにいた給仕を呼びつけた…

給仕「へい」盆を小脇に抱えてやって来た給仕はどうやら給仕と用心棒を兼ねているらしく、低い天井につかえてしまいそうな身長と炭鉱労働者のような太い腕、それにヤミの拳闘試合か何かに出場していたらしく潰れ折れ曲がった鼻をしていて、うなるような声をしていた…

男「おれには同じのをもう一杯……」

給仕「……そちらさんは?」

アンジェ「紅茶を……カップは二つ」

ちせ「……」

男「レディ、あんた酒は飲らねえのか」

アンジェ「ええ」

給仕「……へい、お待ち」むすっとした口調で紅茶の入ったポットとカップを持ってきたが、硬貨を受け取るまでは絶対にテーブルに置くつもりはないような顔をしている……

アンジェ「……」

給仕「……毎度」

…商売相手の男から目をそらさないようにしながら、アンジェが硬貨を盆に置く……給仕がぞんざいな手つきでドスンとポットを置くと、注ぎ口からばちゃりと薄い紅茶がこぼれた……

アンジェ「……」黒い革手袋をはめた両手をテーブルの上に置いたまま、やって来た紅茶を注ごうともしないアンジェ……


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