ドロシー「またハニートラップかよ…って、プリンセスに!?」
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675: ◆b0M46H9tf98h[sage saga]
2023/12/18(月) 01:54:36.67 ID:bY8OliT90
ちせ「……すぅ……はぁ」

…さしものちせも立て続けに五人と斬り合った後では息があがり、手脚もわなわなと震えている……ドロシーたちの攻撃のおかげで邸宅への襲撃がしばし小やみになったのを幸い、どうにか脇差を収めると、奇跡的に卓上に留まっていた菓子皿の羊羹をひっつかんで口の中へと押し込み、無理に飲み込んだ…

ちせ「んぐっ、むぐ……」

…羊羹の糖分が身体中に沁みていくような感じがするとともに、どうにか手の震えが収まってくる……と、レンガやしっくいの破片が散乱する前庭を通って、一つの黒い影がすきま風のように食堂へと入り込んできた…

影「ふっ……!」腰の鞘から白い一閃がほとばしり、夜風ではためいている破れたカーテンが裁ちばさみで切ったかのように切り裂かれた……

ちせ「うっ、く……!」ぱっと飛び退き、刀の柄に手をかける……

影「お見事……」

ちせ「……千代どの?」場違いな場所で耳にした聞き覚えのある声に、思わず疑問の響きが混じった……

千代「やはりちせどのでしたか……いつぞやは楽しい一時を過ごせました」

ちせ「う、うむ……じゃが、そのなりは?」先日のお嬢様らしい洋装と違って、五芒星の紋を染め抜いた黒紋付きの羽織袴姿で髪をまとめ、腰には大小二振りの刀を差している…

千代「見ての通り……そちらの暗号表を奪取せんと襲撃を企てたのは我らにございます」

ちせ「千代どのが、なにゆえ?」

千代「話せば長うございます……」

ちせ「千代どのさえ良ければ、私は構わぬが……もっとも、千代どのの同輩方がしびれを切らしたら別じゃが」

千代「その心配は無用かと……ちせどのは短い間とはいえ、私がフランスの地で出会った数少ない朋友ゆえ、かいつまんでお話いたしましょう……我らは『戊辰戦争』において薩長、そして裏で糸を引いていたアルビオン王国に抗い、いずれ再起を図ろうとフランスまで逃れた幕臣たちと『奥羽越列藩同盟』による志士の集まり」

ちせ「奥羽越列藩同盟……!」

千代「いかにも」

ちせ「じ、じゃが……すでに新政府が成立してから二十余年、千代どのは戊辰戦争の時には赤子どころか、まだ産まれてもおらぬはず……その千代どのがいまさら旧幕府方の残党に加わる必要などないはずじゃ」

千代「ちせどのはそうおっしゃってくれますが、そうもいきませぬ」

ちせ「なにゆえじゃ」

千代「……私の祖父は五稜郭の戦いで討死し、生き残った父母はフランス人の軍事顧問に率いられた志士たちと共に日本を去った者たちの中におりました」

ちせ「噂には聞いたことがある……伝習隊(でんしゅうたい)の一部や旧幕府方の兵の中には、新政府への恭順を拒んでフランス人の軍事顧問と一緒に西洋へ渡った者たちがおると……」

千代「いかにも。父母はこの異国の地にあって再び理想を掲げんと、貿易商に身をやつして暮らしておりましたが、十数年前に「どうか宿願を果たしてくれ」と幼き私に頼みながら流行病に倒れたのです」

ちせ「さようであったか」

千代「はい……丹左衛門どのは父の同輩で、私の両親亡き後は父の代わりに私のことを養い、剣術を教えてくださったのでございます」

ちせ「父の教え、それに「育ての父」である丹左衛門どのに対する恩義か……」

千代「さよう。確かに私はこのフランスで生まれ、戊辰戦争を知らぬ。だからとて父母の宿願を果たすこともせず、今さらおめおめと刀を捨てて新政府に下れるものではござりませぬ」

ちせ「しかし……」

…父と刀を交え、あまつさえ討ち取らねばならなかったちせとしては、千代の境遇がかつての自分に重なって見える……二重写しになった千代のことを思い、つい説得するような口調になりかける…

千代「くどい! 我らは幕臣として、また武士として……飢えても新政府の犬にはならぬ!」気迫のこもった声がびりびりと食堂の空気を震わせ、刀の柄にかかった手が冷徹な殺気を帯びる……

ちせ「……っ!」

…千代が青眼に構えた太刀の切っ先は微動だにしない……対して小柄なちせは下段に構えて、守りにくい下半身からの切り上げを狙った…

千代「……」

ちせ「……」

…食堂の床には壊れた家具や建材の破片、それにちせが斬り捨てた剣士たちの身体があちこちに転がり、足の踏み場もないくらいに散らかっている……二人は互いに目線をそらさぬよう注意しつつ、足元を確かめるようにしてすり足で動く…

千代「……はぁっ!」

ちせ「……っ!」

…一歩、二歩と互いに円を描くようにすり足で動きながら相手の隙をうかがっていたが、ある一瞬を見逃さず千代が飛び込んできた…

千代「はっ……!」

ちせ「う……くっ!」刃で受けた斬撃はおしとやかな千代の印象とは異なり重く強烈で、柄を持つ手が脇差を取り落としそうになるほどしびれた……



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