ドロシー「またハニートラップかよ…って、プリンセスに!?」
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739: ◆b0M46H9tf98h[sage saga]
2025/06/06(金) 01:48:41.59 ID:y9W6mgfZ0
…ネスト…

ドロシー「一体どういうつもりだ。この商売では私情を捨てなきゃならないこともあるって何度も言ってきたはずだぞ……あんな常人離れした動きを見せたらどんなバカだって注目するに決まってる」

ちせ「……すまぬ」腰に手を当てて仁王立ちしているドロシーと、床で正座して反省しているちせ……

ドロシー「はぁ……今さら謝ったってどうしようもないだろうが。一つはっきりしているのは、間違いなくお前さんは奴に顔を見られたってことで、エージェントに顔を見られたってことは覚えられたってことだ」

ちせ「……」

ドロシー「いいか「子供を助けるな」とは言わないが、もしやりたいなら目立たないようにやれ。風車に突っかかるドン・キホーテみたいな真似はやめろ」

ちせ「ドン……なんじゃ?」

ドロシー「才気あふるる騎士ドン・キホーテ・デ・ラ・マンチャ……スペインの風刺物語だよ。騎士道精神にイカれちまった郷士のおっさんがボロ槍を持って遍歴するんだ……ともかく、しばらくの間は出歩かずにじっとしてろ」

ちせ「うむ……迷惑をかける」

ドロシー「そう思うなら端(はな)っからやらないでくれよ……全く、説教をするのがアンジェじゃなくてよかったな。無表情なあいつに説教されるとおっかないことこの上ないぞ」

ちせ「うむ……」

ドロシー「ともかく、今さらああだこうだ言ったところで「こぼれたミルクは戻らない」からな」

ちせ「ふむ……こちらで言う「覆水盆に返らず」じゃな」

ドロシー「きっとそうだろう。ほら、飯にするから席に着けよ」ずっしりとしたミートパイを切り分け、ベイクドビーンズと一緒にちせの皿へ盛った……

…同じ頃・ホテルの一室…

男「……鍵はかかってない、入ってくれ」

役人風の男「失礼」

男「よう、毎日のようにご苦労だな」

役人風「商品を売りこみに来た貿易商のため、役人が関税や通関についての指南にやってくる。なにもおかしな事はないだろう……銃の手入れか?」

男「まぁな」リボルバーのレンコン穴をのぞき込み、火薬のカスや傷がないか確かめながらクリーニング用の細いブラシを突っ込む……

役人風「撃ったのか?」役人らしい堅苦しい表情のままだったが、一瞬持ち上がった眉毛は驚愕を表していた……

男「ああ、まだ一時間も経っていない。劇場の前で馬車馬が暴れてね。絡まった馬具で通行人の女の子を引きずりかけたもんだから、つい手が伸びちまった」

役人風「……どうやら時間をかけてカバー(偽装)やレジェンド(偽経歴)を作ってきたのが無駄になったな」

男「さすが、本国人らしい嫌みったらしい言い方だ……だがね、そのおかげでちょっとばかし面白いものと出っくわしたよ」

役人風「というと?」

男「馬具が絡まって引きずられかけた少女……ちっこい黒髪の東洋人なんだが……どうやらただの娘っ子じゃあない」

役人風「分からんな、東洋人がそんなに珍しいか?」

男「そうじゃないさ……そもそも馬にひかれかけたのは幼い女の子で、東洋人の娘は馬のひづめをかいくぐって幼児を救い出したところで馬具が絡まったんだが……ありゃ並の動きじゃなかった」

役人風「その「並の動きじゃない」娘が君を尾行していた?」

男「ああ……そうそう、どうも見覚えがあるような気がしていたが見本市に来ていた娘だ。小柄で人混みにまぎれていたから気付かなかったが、劇場を出てからもおれの事を尾行していたみたいだな」

役人風「東洋人のスパイ?」

男「東洋人だろうがペルシャ人だろうが他人を尾行しているってことはその類だろうよ」

役人風「……じゃあ、放っておけば馬に引きずられて勝手に処理できた相手を銃を抜いてまで助けたのか」

男「そういう言い方もできるな」

役人風「私にはそうとしか言えんね……そもそも銃を持ち歩いていいとは言っていないはずだが?」

男「持ち歩いちゃいけないとも聞いてないな」

役人風「……からかっているのか?」

男「とんでもない……だが、丸腰で歩き回るのは嫌いでね」

役人風「必要ないだろう? ここは西部の荒野じゃないんだから」

男「どこだって変わらないさ。ここじゃタンブルウィード(転がる枯れ草)が古新聞ってだけでな」

役人風「ともかく、今後は人目を引くような行為はつつしんでもらいたい」

男「ふ……おそらく東洋人の娘っ子も今ごろそう言われているだろうよ」そう言うとクリーニングの済んだリボルバーを腰のガンベルトに納めた……


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