2: ◆TOYOUsnVr.[saga]
2018/11/16(金) 02:59:59.47 ID:p3JDxvnj0
時は三十分ほど前に遡る。
フリートークを交えながら、数曲を披露し、最後に「ありがとうございました」と頭を下げて、凛はステージを降りた。
疎らな拍手を背で聞きながら、全身に浮かぶ汗も気に留めず、やりきった、という感慨にふけっていた。
トークの方はまだ改善の余地が多分にありそうだったが、歌唱やダンスは少しは見られるものになったのではないだろうか、そう脳内で自賛しながら、舞台裏で待っている自身のプロデュースを担当している男のもとへ駆け寄った。
「お疲れ様でした」
凛の担当プロデューサーは、満面の笑みで彼女を迎える。
彼は大きなタオルを凛の肩にかけ、次いでスポーツドリンクを手渡した。
凛はそれを受け取り礼を言って、そのあとで、どうでしたか、と男に訊く。
すると男は笑みを一層強烈に浮かべて、素敵でしたよ、と言った。
「汗かいてますでしょう。冷えちゃいますから……こちらへ」
男に導かれるままに、凛はその後ろをついていく。
体をねじって音響機材の間を抜けて、舞台裏の仮設テントを出て、そのまま公園の外へ。
数分ほど歩き、路地を折れた場所にあったコインパーキングで、男は立ち止まる。
そして凛へ車の鍵を差し出した。
「申し訳ないのですが、車の中で着替えを」
年頃の少女、それもアイドルを、こんな路地のコインパーキングで着替えさせるとは何事か、内心でそう思わなくもなかったけれど、男の表情から心より申し訳なく思っているであろうことが窺えたためか、凛は差し出された鍵を無言で受け取った。
何よりも、今は達成感の方が勝っていた。今日は、凛にとってまだ数えるほどしかない、お金がもらえる仕事、であった。もちろん規模はあまり大きくはない。自治体が主催する祭りのステージイベントの一部、そのほんの数十分の出番であったが、それでも、だ。手に入る金額の大小などではなく、自身の歌唱がお金を払うに値するものである、という事実が、凛は嬉しかった。
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