3: ◆FreegeF7ndth[saga]
2018/11/18(日) 11:11:15.71 ID:h1zBAv12o
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彼がプロダクションの芸能部から籍を除かれた、との連絡を聞いた時、私は耳を疑った。
彼は、私のような20代からローティーンまで、幅広い年齢のアイドルを担当していて、
それぞれで結果をあげている芸能部のエースであったのに。
「冷たい雰囲気」に縛られてくすぶっていた私に、アイドルの道を示してくれたのも彼だった。
そんな彼が、プロデューサーの立場を追われるとは、にわかに信じがたかった。
けれど、繁華街に青い顔でうずくまっていた張本人から、
失脚が本当だと聞かされて――もう、信じるしかなかった。
彼は、嗅いだことがないほどひどく酒臭かった。悪い飲み方をしたのだろうか。
私が肩を貸して、ようやく立ち上がれるといった有様だった。
なぜプロデューサーを辞めることになったのか訊いた。
彼は、すぐには答えなかった。そのまま二人、喧騒の中でしばらく立ち尽くした。
彼は、私の肩から離れられなかった。一人ではもう歩けないらしい。
しばらく経ってから、あなたもそれを悟って、きまり悪そうに口を開いた。
失脚の理由は、担当アイドル・北条加蓮との肉体関係が露見したこと――
当人ならずとも、プロダクションの関係者であれば口が重くなるものだった――まして張本人では。
それで自棄酒をあおって立てなくなるほど――皆まで言われずとも察せられた。
「……ひとまず、私のところに来なさい」
前後もわきまえず言ってみると、彼は頭(かぶり)を振った。
「未成年の担当アイドルに手を出したあなたが、いまさら世間体を気にするのか」
と嫌味を言うと、脱力して肩によりかかってきた。
身長差が小さかったので、私は彼をなんとか引きずって帰宅できた。
「ひどい顔色よ。シャワーを浴びなさい」
と、彼を浴室へ押し込む。
水音が聞こえてきたのを確認してから、冷蔵庫を開く。
まともに食べられるものが、半人前ほどあまったハンバーグのタネしかない。
それをフライパンに放り込んで焼く。少し迷って、めんつゆに三杯酢を少し混ぜる。
「食べなさい。どうせその様子じゃ、お腹に何も入れていないのでしょう」
彼は、もそもそと挽肉を咀嚼する。
どうせならもっと美味しそうに食べてもらいたかったが、致し方ない。
空腹が癒えたからか、ポツリポツリと、北条加蓮との関係について口にし始めた。
一夜の過ちというわけではなく、かなり常習的にセックスに及んでいた――と聞いて、
それに今日まで私はまったく気づけなかった――妙に口惜しい。
「泊まっていきなさい。どうせ、しばらくその酔いは醒めないでしょう」
とはいったものの、寝られそうなところといえば、ベッドが一つのみ。
泊まり込むような友人や恋人が、私にはいなかったから。
遠慮する彼をベッドに投げ入れる。
私も寝衣に着替え、彼と背中合わせに寝転がる。
電灯を消す。彼の溜息が聞こえる。それが安堵だと信じたかった。
しばらくして、クッ、クッと抑えた声がした。
彼は泣いていた。
泣くほど後悔するなら、なぜ北条加蓮を抱いたのか。
男の性(さが)と言えば、それまでなのだが……。
私は寝返りを打った。
「眠れないわ。泣くのをやめてちょうだい」
「すまない、迷惑かけて」
「私のでよければ、胸を貸してあげるわ」
私は、胸の間に彼の頭を抱きしめていた。
「いい匂いだ……温かい……柔らかい……」
男性独特の頭髪の匂いが、流しきれずに残っていて、私の鼻腔をくすぐった。
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