天空橋朋花「子作り逆レ●プのお供と言えば葡萄酒ですよ〜」
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16: ◆FreegeF7ndth[saga]
2020/05/11(月) 23:26:41.34 ID:i9qakCF1o

※14

 765プロとの残る契約期間、俺は朋花にナレーターやラジオやコラムなどの仕事を振ってお茶を濁した。
 ほかの担当アイドルに対しても、わざとライブ以外の仕事を優先して入れた。
 ヴォーカル路線重視のアイドル担当のプロデューサーなのに。

 契約満了に向けた引き継ぎも、どんどん進める。

「朋花の次のプロデューサーは……できれば、秋月さんでよろしくお願いします」
「……私が、ですか」

 秋月さん――秋月律子は、もともと事務員として765プロに入社した。
 経営に興味があって、わざと小規模なプロダクションを選んだのだとか。
 そのあと、なぜかアイドルデビューしたり、プロデューサーになったり、またアイドルに戻ったり、
 型破りな765プロの中でも波乱万丈な経歴を持つ、異端児中の異端児だった。

「理由、うかがってもよろしいですか」

 その割に、彼女は俺よりよほど堅実なやり方を好むタイプと見えたが。

「朋花は、もう一度ライブをやりたいと言っています」
「それはすでに聞いています。朋花本人からも」
「……ご両親や、『子豚ちゃん』や『天空騎士団』も、ライブを望んでいるようです」
「もともとあの子、ライブ重視のスタンスでしたからね」

 朋花は最初のソロライブの直後、ファンへのメッセージとして、
 『きょう劇場に来られなかった子豚ちゃんも、落ち込む必要はありません〜。
  聖母はこれから何回も、何度だって、ステージに立ちますからね〜』などと綴ったこともあった。

「俺は、朋花たちの希望を叶えてやれません。叶える気もありません。
 プロデューサー業は、おしまいです。『音屋』に戻ります」
「朋花は、悲しむでしょうよ。もっとも、表には出さないと思いますが」
「秋月さんが、朋花たちの希望をいちばん汲んでやれます」

 ステージには、どうしても離れがたい――『聖母』でさえ抗えない――魔力があるのかも知れない。
 それをかつて味わっていた秋月さんは、俺より抑えを利かせやすいはず。

 秋月さんは、黒縁オーバルのメガネごしに、俺の顔をじろじろと無遠慮に眺めていた。

「……なんで、アナタは、そんなにライブをさせたがらないんですか?」

 今の秋月女史の歳は、俺が朋花の担当を拝命した年齢と、さして変わらなかった。
 つい、プロデューサーをやる羽目になったばかりの頃が思い出した。

「……朋花には、気をつけたほうが良いですよ」
「そうですか? アイドルだった頃の私より、よほどしっかりして見えます」

 かつての自分が重なると、教えてやらないのが悪い気がした。
 引き継ぎ資料に書けないような、俺の憶測を。

「朋花のファンは、外から見えるほど一枚岩じゃなくなっています。
 古参は原理主義的にライブを望んでいて、ライト層はライブ以外の露出も欲しいようです」
「原理主義って、そんな。宗教じゃないんですから」

 秋月さんはカラカラと気安い笑い声をたてた。

「宗教だと思いますよ、俺は。あの人らのやっているコト。
 だから、一回ステージ上で死んだんで、ステージ上で復活してもらわなきゃ困るんですって。
 こっちの都合なんかお構いなしに。まるでイエス・キリストです」
「死んだ、って」
「いや、笑ってもいいですよ。もしかしたら、俺の妄想かもしれないし」

 笑っていいと言ったそばから、秋月さんはカラカラ笑いを引っ込めていた。
 笑ってくれてたままのが話しやすかったのに。

 本当にいまさらだが、そもそも朋花はちょっとおかしかった。
 『聖母』とは、なんだったのか。

 日本のクリスチャンの中には、たまに、アンナだのナオミだのシモンだの、
 聖書から引っ張ってきても日本人の耳に馴染みやすい名前をシレっと子供につける人がいる。
 朋花の自称・他称の『聖母』も、そのぐらい軽い意味合いの愛称……と、自分に言い聞かせてきた。

「朋花のおうちは……そう、なんです?」
「どうでしょうかねぇ?」
「ハッキリしない言い方しますね」
「……じゃあ、なるべくハッキリいいますよ」


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