天空橋朋花「子作り逆レ●プのお供と言えば葡萄酒ですよ〜」
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17: ◆FreegeF7ndth[saga]
2020/05/11(月) 23:27:18.14 ID:i9qakCF1o

※15

 アイドル親衛隊とその模倣文化が廃れてずいぶん経つ今日このごろ、
 デビュー前からあれだけ組織された親衛隊を従えている15歳が、そうそういるものか。

「天空橋家ってプロテスタントもどきの新宗教やってて、たぶん朋花のお祖父さんが開祖で、
 朋花にくっついてる人たちは、ファンというか、文字通りの信者(ファナティック)ですよ」
「え……ええっ?」

 いくらお金持ちだからって、山の手の屋敷に礼拝堂をつける家がそうそうあるものか。

「デビューしてしばらくは、そんなカルト臭さはなかったんで、スルーできたんですけどね。
 去る者は追わず来る者は拒まず、とか……朋花風に言うなら『規律』がなってました」
「……なってまし『た』って、アナタ」

 朋花のプロデュース方針が、もともとの『聖母』という軸からあっちこっち揺れたり、
 朋花がステージ中に墜落して療養を余儀なくされたり、それで朋花との絆(締め付けともいう)が緩んだり、
 さらに俺が活動内容を広げてファン層を新規開拓――言い換えれば、異分子の流入――を進めたり……

「たぶん『天空騎士団』の皆さんにとってみれば、弾圧されてるユダヤ人の気分なんでしょうね。
 それで、自治に気張らなきゃいけないって義務感にかられて、行き過ぎて内ゲバを起こし始めた」

 非合理的な序列と、それからくる内ゲバは、カルトのお約束だ。
 そして天空橋家をうがって見るようにして、ようやく気づいたのだが、
 天空橋家の取り巻きに『アイドルなんてけしからん、天空橋だけの聖母でいてほしい』派もいるらしい。
 それは今まで朋花のアイドルとしての勢いで火消ししてきたのだが、転落事故を機にくすぶり始めたとか。

「あの、プロデューサー殿は……それを、切り回していたんですか?」
「朋花からは、そもそも内ゲバをなんとかするためにアイドルになったって話も聞いてます。
 今思えば、前任のあの人から俺が引き継いだ時の『切り回されている』状態が特別だった気がしてます」

 ともあれ、朋花は彼ら・彼女らのためにステージに立ち続けたい……らしい。
 また朋花は、それを成立させるほどの才能を持ってしまっている。

「昔は、歌の才能に恵まれたせいで、舞台と引き換えに自分の心臓を食う羽目になった人もいたらしいですが、
 どうも俺は朋花がその類の人間に見えてなりません。ならば、それを担ぎ上げるファンは……?
 そうそう、もっとも熱心な冒瀆者は、もっとも熱心な崇拝者……なんて言葉もあります」
「それはそれは……文学的で、アイドルのプロデューサーらしからぬお言葉ですね」

 俺は統合失調症じみた見解を垂れ流してるのに、秋月さんったら、うまい相槌を打つ。
 俺自身でさえ、証拠を集める前に辞める見通しがついたから放置した程度の説だってのに。

「どっちも昔の小説家の受け売りですから。最近、がんばって本を読むようにしてるんです。
 作詞をやってたら、教養がないせいでひどい目を見たもんで」

 うまい相槌うってくれるものだから、整理しないまんま吐き出してしまっている。

「秋月さん。俺はもう、朋花とその取り巻きを切り回す自信がないんです」

 あの人たちは、アイドルを、登山家や軍人といった危険不可避の職業と勘違いしているかもしれない。
 あるいは、俺が知らないだけで『聖母』はそういう職業なのかもしれない。

 何も言うことが無くなった。秋月さんは下アゴを指でさすって思案に耽っていた。
 俺にとって、ここまでが、アイドル・天空橋朋花の、資料に書き残せない引き継ぎ事項だった。

「……朋花以外のプロデュースも、辞めてしまわれますよね。
 それは、朋花だけあなたの担当を外されると、角が立つからですか?」

 そう言われると、千早や、ジュリアや、亜里沙……他の担当アイドルに対して申し訳なさが滲んでくる。
 一番ソリが合わなかったのが朋花なせいか、俺はきっと朋花ばっかり構っていた。
 ただ彼女らへの罪悪感は湧いても、何かで償おうという気力は湧かなかった。

「俺は音楽が一番おもしろいんで、DTMで食っていけるなら、それ以外はなるべくしないんです。
 今度お声がけいただけるチャンスがあるなら、作曲や編曲の発注とかにしてくださいね」

 朋花が聞いたら嫌な顔するだろうが、今でも俺はプロデュース業よりDTMのほうが面白かった。

「……もしかして、なんですけどね。プロデューサー殿。
 私のこれから言うこと、私の見当違いだったら、ゲラゲラ笑い飛ばしてほしいんですけどね」

 秋月さんがもったいをつけるので、俺は奥歯を噛み締め身構えてしまった。
 いったい、何が飛んでくるのやら。
 冗談の前フリに聞こえたが、秋月さんから冗談を聞かされた記憶はない。

「朋花の事故は……アナタが一番深い心的外傷(トラウマ)を負っているのでは?」




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