551: ◆WEXKq961xY[saga]
2021/01/16(土) 17:04:32.71 ID:MpAzG4vF0
「ぐわあああっっ!!?」
壁に叩きつけられ、床に転がる紫電。その身体から、バッタの装甲が剥がれていく。
獅子の怪人は、ゆっくりと歩み寄った。
「…何故、この国が強大なロシア帝国を破ることができたのか。何故、並み居る列強の侵略に屈せず、東亜の守護者として君臨できたか。何故、敗戦後も領土を引き裂かれることなく、存続することが出来たか! …全て! 我々リーヴォが、陰で命を捨て、戦い抜いてきたからだ!!」
「はぁっ…くっ…」
「君のそのシンカクベルト…それは、リーヴォと人類の、絆の証となるはずだった。だが、シンカセットの製造には…リーヴォ一体分の体細胞、そして遺伝子が必要だった。雑賀君を始め、我々はどうにか犠牲を無くそうと研究を急いだ。だが、軍部は待ってはくれなかった…」
「! やめろ…」
床に転がった、緑色のカセットを拾い上げる。それを目の前に掲げると、獅子は震える声で言った。
「ジーン・ホッパー…平畑蝗一伍長。勇敢で俊敏な男だった。国のため、人類のためと…喜んで、命を捧げた」
「じゃあ…それは」
「ジーン・ホーク。鷹峯飛雄馬少尉。ドッグファイトで彼の右に出るものはいなかった。撃墜された後も、自ら空を飛び、敵機を撃ち落としてくれた。…ジーン・グランパス。海棠ツバキくん。空襲の中で覚醒し…軍部に、連れ去られた。そして…」
紫電の首を掴み、吊り上げる。
「特攻作戦で覚醒した若者は一人もいなかった。最早、人類に進化を促すことは無意味だ! ビキニ環礁…戦艦長門のメーンマストに括り付けられ、私は人類の造った最強の光を見た。それが私を滅ぼすのならば、諦めても良いと思った。だが! 私は、生き残った! ならば、人類の何物にも、私の理想を邪魔はさせん!!」
巨大な拳を振り上げ、吼える。
「滅びよ! 進化に取り残された、敗残者め…っ!!」
「…っ」
きつく目を閉じる紫電。爪を剥き出し、拳を振り下ろす獅子。
その腕が…止まった。
「…?」
薄く目を開ける紫電。その視界に、虚ろな目で固まっている獅子の姿が見えた。剥き出した牙を、ゆっくりと赤い血が伝う。
その背後に、白衣を着た男が立っていた。その手には、巨大な刃の突き出た無骨な機械を握り…その切っ先を、獅子の背に、深々と突き立てていた。
「…ぬうっ!」
男が、機械を起動した。次の瞬間、獅子の身体が急速に腐敗し、崩壊を始めた。
「…雑賀、くん」
「隊長…」
男は…機械から手を離し、獅子の目の前に駆けると、その場に土下座した。
「隊長っ…申し訳ありませんっ…! わたしは…人類の未来を、諦めることが、出来ませんでした…っ!」
獅子の身体は崩れながら、機械の刃に吸い込まれていく。
「…がはっ」
腕が崩れ、解放された紫電が床に崩れ落ちる。
僅かに残った獅子の口元が、歪んだ。
「…きみが…はじ、めて…じぶんのいし、で…わたしに、さからっ…」
額を床に擦り付ける雑賀。
獅子は…最後の一片まで崩壊し、機械に吸収された。
「…い、急がんと」
雑賀は立ち上がると、乱暴に目元を拭い、機械に駆け寄った。そしてソケットから何かを取り外すと、紫電の元へ向かった。
「…ほれ、立たんか」
「あんたは…ミライシャの」
「つべこべ言うな! 何のために社長の目を盗み、脱走する君の前にベルトを放置したと思っとる。…間もなくナイーブが来る。そうしたら、君も、人類もおしまいだ」
「! どうしたら」
雑賀は、機械から取り外した物体を紫電に握らせた。それは黄金色に輝くカセットであった。筐体には、銀の獅子が刻まれている。
「…社長を、君に託す。どうにかして使いこなすのだ。そしてタワーに登り、装置をぶっ壊せ。ええか、社長は世界で一番強いんや。覚悟して使えよ。それまでは、ワシが時間を稼ぐ」
「! そうしたら、あんたは」
雑賀は、ふっと笑った。
「…丁度いいわ。あの世で、社長に詫びんといかんからな」
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