【ミリマスR-18】秋月律子「私、悪い子になっちゃいました」
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21:悪い子 20/20[sage]
2020/11/15(日) 00:06:07.65 ID:xX3rNcvs0
 * * * * *

 事務室の時計の針はさっき見た時からもう1時間経っていた。今日は定時で帰れる、と心を躍らせていたのに、未処理のままの書類が複数見つかってしまい、正座させられた挙句説教までされて、残業を余儀なくされる始末だった。俺を叱りつけた当人は、隣の席で文句を言いながら会計処理の再計算を行っている。

「ホントに、何回目なんですか、プロデューサー!」
「……いや、面目ない。領収書を出した日の内に記録するよう習慣づけてはいたんだが」
「もう……定時で上がれる日だって言ってたじゃないですか……」

 定時で一緒に上がって、夜にちょっとしたお出かけをする約束が反故になってしまったこともあって、律子は機嫌を損ねていた。今回ばかりは、全面的に俺が悪かった。
 黙々と業務と格闘していると、みんな帰った劇場の、ひっそりとした事務室でひっきりなしに響いていたキーボードの音が、ぴたりと止んだ。

「さ、こっちはもう終わりましたよ。どうですか?」
「これにハンコ押して、あと二枚転記するものがあって、日報作れば終わりだ」
「まだ結構残ってるじゃないですか。転記ならこっちでやりますから、日報進めてください」
「ああ、助かる」

 空白だらけの書類を渡すやいなや、ガリガリとペンが紙を引っ掻き始めた。

「悪いな、手伝ってもらっちゃって」
「いいんです。それより、早く済ませましょうよ」

 こんな時ぐらいしか二人っきりになれないんですから、と零しながら、律子はさっきまでせかせかとキーボードを叩いていた指を休ませることもなく、ペンを走らせ続けている。ああ確かにそうだ、と、ハンコを押し終えた書類をフォルダにしまいながら、俺も気合を入れ直した。

「終わったら、メシでも行くか。埋め合わせって言っちゃなんだが」
「ご飯だけなんですか?」
「うーん、律子から希望はあるか?」
「……当ててみて下さい」

 業務日報を半分ほど作成し終えた所で、もうペンの置かれる音がした。

「ウチ、来るか?」

 安心できるテリトリーに置いておきたい。それは、相手の希望というより、自分の希望に近いかもしれなかった。転記後のドキュメントを、律子は何回もトントンと机にぶつけて体裁を揃えている。バラバラに保管するものだから、綺麗に整える必要なんてないのに。

「……来て欲しいんですか?」
「違ったか」

 くすくすと含み笑いが聞こえた。

「しょうがないなぁ。そういうことなら、お邪魔させてもらいますね。戸締りしてきますから、早く日報作っちゃってください」

 任せた仕事を全て俺に提出して、律子はおもむろに立ち上がり、事務室の扉の向こうへ消えていった。

 かつ、かつ、かつ。パンプスが床にぶつかる足音が、ドアの向こうでせっかちに響いていた。


 終わり


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