佐久間まゆ『太くて固くて大きくて電撃を発するもの』
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3: ◆3jMo9iZPSE[sage saga]
2020/12/24(木) 15:59:58.75 ID:p9Lr8j6Y0
 そこは346プロダクションの事務所の一室で、アイドルたちがレッスンや打ち合わせの合間、空いてしまった時間を他のアイドルと雑談をして過ごす。あるいは、特に予定はなくともおしゃべりを目的として入り浸ることもある、たまり場のような部屋だった。
 その部屋に、ひとりのアイドルが足を踏み入れた。佐久間まゆだ。

 時刻は午後の6時半、まゆはこの日予定されたレッスンを終え、シャワーで汗を流したあと、半ば習慣となっている足取りでこの部屋にやってきた。
 さっと室内を見回し、小さくため息をつく。
 もしも誰かがいるようなら少し世間話でもしていこうと思ったが、あてが外れたらしい。
 なお、彼女の担当プロデューサーは52キロメートルほど離れたイベント会場へ打ち合わせに出向いており、今日は事務所には戻らずに直帰することをまゆは知っている。
 であれば、もう事務所に用はないのだが、まゆは「うふふ」と小さく声を漏らし、そっと目を閉じた。

 その脳内では、現実と比較しても遜色ない鮮明さで、めくるめく純愛ラブストーリーが展開されている。
 大まかな内容は、まゆがプロデューサーに思いを告げ、恋人関係になる。ふたりは人目を忍んで逢瀬を重ねるが、プロデューサーは互いの立場を考え、一線を踏み越えることはしない。しかしやがて、つのる想いに我慢ができなくなり――といったものだった。
 こういった空想にふけることは、まゆにとっては珍しいことではない。誤算があったとすれば、その部屋にはもうひとり、鷺沢文香がいたことだ。まゆがやってくるよりも、遥かに以前から。
 まゆは入室した際、たしかに部屋の中を見回した。その上で無人であると判断し、安心して白昼夢へと飛び立った。しかし人間の目は、動くものを優先して認識するようにできている。ソファに身を沈め文庫本に目を落とす文香は、さながら彫像のように微動だにせず、室内の家具・調度品と同種の物質であると区別された。つまり、気付かれなかった。


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