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948: ◆YXKon0DK7miT[saga]
2026/10/11(日) 22:38:15.54 ID:LT1HzF8e0
『――音声の終了とともに、あなたの心は完全に解き放たれ、本来の素直な感情へと満たされていく……』

スマホから流れていた低く甘い声がふつりと途切れると、千鶴の耳元に静寂が戻った。

千鶴「……ぁ……っ……」

千鶴は深く長い息を吐き出した。

瞳にかかっていた深い霧が晴れ、先ほどまでのうつろなトランス状態からは確かに抜け出している。

刑事としての明晰な思考も、自分が置かれている状況も、すべてハッキリと思い出せる。
だが――内側の『何か』が、決定的に書き換わっていた。

頭を急激に揺さぶられたような立ちくらみが千鶴を襲い、グラマラスな身体がぐらりとよろめく。

翔太「千鶴さんっ……!?」

倒れそうになった千鶴の身体を、翔太が慌てて小さな両腕で受け止めようとした。
まだ10歳の子どもの細い腕だ。千鶴の豊かな重みを支えきれるはずもなく、二人は絡み合うようにしてフローリングの床へ膝をついた。

千鶴の胸元が、翔太の華奢な肩へと柔らかく押し付けられる。

千鶴「あ……ご、ごめんなさい、翔太くん……っ」

千鶴は咄嗟に身を起こそうとした。

いつもなら、「怪我はなかった?」「ごめんね、重かったでしょう」と、母親として慈しむように頭を撫でていたはずだった。

――だが。

トクン、と。

胸の奥で、警報のような激しい鼓動が跳ね上がった。

千鶴(……え……? な、なに……これ……?)

腕を回して自分を一生懸命に支えてくれている、翔太の小さな手。

肩越しに伝わってくる、幼いながらも温かい少年の体温。

鼻先をかすめる、まだどこか甘い子どもの匂い。

そのすべてが、千鶴の肌をチリチリと粟立たせるように刺激していた。

千鶴(どうして……? あの子は私の息子……守らなきゃいけない、大切な家族なのに……)

息が、熱い。

胸の奥がキュッと締め付けられるように疼き、頬へとカッと血潮が駆け上っていくのが自分でも分かる。

守るべき無垢な子どもを見ているはずなのに、その輪郭が、瞳が、唇が――まるで『一人の魅力的な異性』のように見えてしまう。

触れられている腰のあたりが、まるで火を押し当てられたように熱い。

翔太「ち、千鶴さん……? 顔、すごく赤いよ……? 大丈夫……?」

翔太が心配そうに、くりっとした大きな瞳で至近距離から覗き込んでくる。

その無垢な視線に、千鶴の心臓はさらに早鐘を打った。

千鶴(だめ……っ、何を考えているの、私……! あの子は翔太くんなのよ!?)

理性が悲鳴を上げている。

だが、秋月の呪いのように刻み込まれた暗示は、千鶴の奥底にある母性と情愛を歪め、

「翔太を男として愛おしく想うこと」を何よりも自然で抗いがたい欲求へと塗り替えていた。

千鶴「だ、大丈夫よ……っ!」

千鶴は震える手でそっと翔太の腕を解き、慌てて少しだけ後ずさりして距離を取った。

ここで衝動に任せて抱きしめてしまえば、何かが完全に壊れてしまう――刑事としての最後の理性が、必死にブレーキを踏み込んでいた。

千鶴「な、なんでもないの……少し、立ちくらみがしただけ……。ごめんなさいね、驚かせちゃって……」

乱れそうになる呼吸を必死に整えながら、千鶴はスーツの胸元をぎゅっと掻き抱くように手で押さえた。

けれど、一度芽生えてしまった熱は決して引くことはなく、目の前で首を傾げる翔太の姿を、千鶴の潤んだ瞳はどうしようもなく熱を帯びた眼差しで見つめてしまっていた。



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