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上条「身体が……熱い」 - SS速報VIP 過去ログ倉庫

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1 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2011/01/08(土) 14:58:02.65 ID:JeVAPgDO
初めてだから緊張しちゃう///

〜注意〜

>>1はSSはおろか、スレ立てでさえ初めて

・禁書についての知識も曖昧で、矛盾等あるがその場合ご都合主義で流してほしい

・多分シリアス

・二日、三日に一回という更新ペース



SS書きたい!と思って構想を練っていたが、いかんせん筆が進まない

スレ立てれば書かなきゃいけなくなるだろと自分に追い討ちをかける

頑張る

温かい目で見守ってくれるとありがたい
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小テスト @ 2024/03/28(木) 19:48:27.38 ID:ptMrOEVy0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/zikken/1711622906/

満身創痍 @ 2024/03/28(木) 18:15:37.00 ID:YDfjckg/o
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/aaorz/1711617334/

【GANTZ】俺「安価で星人達と戦う」part8 @ 2024/03/28(木) 10:54:28.17 ID:l/9ZW4Ws0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1711590867/

旅にでんちう @ 2024/03/27(水) 09:07:07.22 ID:y4bABGEzO
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/part4vip/1711498027/

にゃんにゃん @ 2024/03/26(火) 22:26:18.81 ID:AZ8P+2+I0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/gomi/1711459578/

にゃんにゃん @ 2024/03/26(火) 22:26:02.91 ID:AZ8P+2+I0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/gomi/1711459562/

にゃんにゃん @ 2024/03/26(火) 22:25:33.60 ID:AZ8P+2+I0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/gomi/1711459533/

にゃんにゃん @ 2024/03/26(火) 22:23:40.62 ID:AZ8P+2+I0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/gomi/1711459420/

2 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/08(土) 14:59:16.05 ID:JeVAPgDO

──幻想殺し。異能の力ならば何でも打ち消す。それが火であろうが水であろうが雷であろうが、神の祝福であろうが。その幻想殺しを宿す右手を持つ少年はトボトボと肩を落としながら道を歩いていた。

「はぁ、不幸だ……」

口癖のように、毎日溜め息と共に吐き出されるその言葉は夕焼けを映す空の色に溶けた。

彼が憂鬱になっているのは、いつも通っているスーパーの特売に間に合わなかった為。万年金欠生活を送っている少年にとってスーパーの特売日などというものは彼にとって受験と同等の大事なそれで、今日も今日とてその大事なイベントを逃してしまっていた。

生きるための術として、その大事な日を忘れていたわけではない。今日の朝だってそれに間に合うように時間を計算して、行動してきたはずだった。特売に合わせ昼飯でさえも抜いてその分特売に回そうと思い、放課後まで過ごした。そしてグーと鳴るお腹を押さえるのだが。

……戦場(スーパー)に向かう道すがら、不良に絡まれる人を見かけてしまうのはどうやら彼の体質らしい。それを見かけた所で彼の起こす行動は決まっている。
3 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/08(土) 15:01:04.85 ID:JeVAPgDO

「時間は……五時過ぎてる、か……」

不良から絡まれてる人を助け、引き付けて逃げ回るというのは彼の大体のパターン。普通なら大体のパターンが出来るとかその時点でおかしいのだが、治安がよくないこの学園都市という場所、それに加えて不幸体質である彼にとってもはやそれは別に特別な事ではない。

スーパーの特売を逃すというのは非常に死活問題な訳だがそれ以上に困っている人がいたら放っておけないのだ。

不幸体質の彼は、その不幸を一身に受けている故に辛さが分かってしまう。だからこそ不幸な人を見るとついつい助けてしまうのが彼の性分であった。

……すると。

「ちょっとアンタ!」

ふとこの場に声が響き渡った。
4 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/08(土) 15:03:06.18 ID:JeVAPgDO

「……おっすビリビリ」

これももはや日常茶飯事。学園都市が誇る超能力者、230万人の中の第三位である御坂美琴が仁王立ちで彼の前に立ちはだかった。

「ビリビリ言うなっての!」

そう言いながらビリビリと電撃を飛ばしてくるのだから仕方ないだろ?と思いながら彼はその幻想殺しを宿す右手を付き出し、文字通り電撃を打ち消した。

「たまには当たんなさいよね!」

当たったら無事ではすまないだろと内心思いながら、こめかみに怒りのマークを浮かべる少女に目をやった。

美琴も追撃しようとするのだが、彼の表情が沈んでいるのを見て帯びていた電気をふと消した。

「何か元気ないわね」

「……あぁ、特売、逃がしちまったんだよ……わざわざ昼飯も抜いたってのに……」

「……御愁傷様ね」

美琴が彼と会うと半分くらいは特売、特売言っている。よほどの節約生活を送っているのだろう、彼にとって特売がどれほど大事なのかは美琴にも分かっていた。と言うより、分からされていたと言うべきか。

それの半分くらいは私の事も気にかけて欲しいのに……とは思っても絶対に口には出さない。だが彼の沈んだ顔を見るのはなんとなく美琴は嫌だった。

ふとそこで道の脇に立つやたらと明るい雰囲気の建物に目をやる。

「お腹、空いてるんでしょ?」
5 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/08(土) 15:07:43.19 ID:JeVAPgDO

「あの、本当にいいんでせうか」

「ここまで来て今更帰るとか言わないでよ」

場面はファミレスの中。お腹をかなり空かしてまで臨んだ特売に間に合わなかった彼、上条を呆然としたままファミレスまで美琴は連れてきていた。

心なしか、美琴の顔は赤い。……ここに来るまで、彼の手を引っ張ってきていたから。

「……御坂?顔赤いぞ、大丈夫か?」

その言葉と共に上条はテーブルの上に身を乗り出し、手を美琴のおでこに当てた。

「ちょっと熱いな。大丈夫か?」

「なっ、なっ……!///」

いきなりおでこに手を当てられ、美琴は少し上がっていた体温が更に上がっていくのを感じた。

「……風邪引いてんのなら、無理はダメだぞ」

「べっ、別に風邪なんか引いてないわよ」

そうか、と上条は言い手を戻す。戻した手でコーヒーカップを持ち、ゆっくりと口を付けた。

6 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/08(土) 15:11:52.27 ID:JeVAPgDO

御坂美琴にとって、上条当麻は救世主であり───想い人だ。

あの絶望の縁に立たせた事件、絶対能力進化(レベル6シフト)実験。自身のDNAマップを基にして、自身のクローン(シスターズ)が産み出された。そしてそれを学園都市第一位である一方通行が二万体撃破することで計算上誰一人として辿り着くことの出来ない高み、レベル6へと上り詰める事が出来るという不条理な実験であった。

元々は幼少期、筋ジストロフィーを治す手伝いをしないかと科学者に促され、提供したDNAマップ。それが別の目的で使われ、ただ殺される人形としてシスターズは産み出された。それを知った美琴は怒り狂い、塞ぎ込み、暴れまわった。

誰一人として自分の苦悩に気付かない、見て見ぬふりを通される中。ただ一人、彼だけは立ち上がりその身をボロボロにしながらも美琴の絶望を砕いてくれた。

無能力者でありながら学園都市の最強に立ち向かうその姿、底抜けに優しい性格。実験要素でしかなかった妹達に生きる意味を教えてくれた。与えてくれた。

そして自分にも胸を張っていいんだと諭してくれた。

彼がいなかったら……もしくは彼以外の誰かだとしても、きっと自分は立ち直れなかったと美琴は思う。砕けたままの息する人形として自ら生きる意味をも手放してしまいそうな、そんなズタズタな心は彼でなければ癒せなかったであろうと、トクンと脈打つ鼓動と共に胸に刻み込んでいた。

彼がいるから、自分は笑っていられる。この想いは、恐らく一生消えることはないだろう、寧ろ消したくないと自分で再認識した。

7 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/08(土) 15:14:42.20 ID:vYGXaLwo
むむ、スレタイからどうなるか想像もつかんが支援
8 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/08(土) 15:34:14.61 ID:JeVAPgDO

「お昼ご飯抜いたって言ってたけど、ちゃんと食べなさいよね」

「別に今日は放課後の補習もなければ体育みたいな身体を動かす授業がなかったからいけると思ったんだけどな」

「自分の体質忘れた訳じゃないんでしょ?何かが起きるっていう不測の事態にいつでも対応できるようにしときなさいよ」

「うぐっ……反論できない……」

うだーっと上条はテーブルの上に項垂れた。どうしていつも俺はタイミング悪いんだーとボソボソ呟いてる声も美琴の耳に届いた。

──クスッ。

そんな彼を見て、美琴はふと笑みが浮かんでいた。不謹慎だと思うが、こうして上条と食事できるチャンスが回ってきているのだ。上条と一緒にいれるのだ、楽しくないわけがない。

「ま、懲りたらこれからしっかりと準備はしておく事ね」

顔のニヤケもそのままに美琴は断言する。

「うぃーす」

「お待たせしました。ハンバーグセットのお客様」

「あ、はい」

店員が来た途端テーブルから飛び魚のようにガタッと身を起こし、待ってましたと言わんばかりの子供のような無邪気な笑顔を見せた。

「───///」

毒牙を抜かれたとはこの事を言うのだろうか、その彼の笑顔を見るや否や美琴の顔はポンッと音を立てたような気がした。

「……///あっ、それでこちらがカルボナーラのお客様っ」

……彼のそんな言動は無差別攻撃だったらしい。

9 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/08(土) 15:35:30.62 ID:JeVAPgDO

「いやぁ美味かったな。こんなに美味しいもの食べたのなんて久し振りで。珍しく上条さん幸せです」

満足そうにお腹をさすり、人工的に作られた灯りだけが灯す道を二人歩く。あぁ、何て幸せなのだろうと言わんばかりの表情をしながらテクテク横を歩く上条をふと見上げた。

──そうね、これ以上の幸せなんてないくらい……

そう素直に言えれば美琴の恋は苦労はしないだろうが、そこは美琴だからとしか言いようがなく。

「こんなので幸せ感じるなんて、アンタはどんだけなの」

と憎まれ口を叩いてはいつも後悔する。

──ああんもうこんなの話したいわけでもないのに。

「ははっ、常磐台のお嬢様には貧乏なんて分かりませんよねー」

ご飯をおかずにしてご飯を食べる生活ーとボソボソ聞こえてきたが気のせいだろう。

「時間は大丈夫なのか?送っていくぞ」

「そろそろ帰らなきゃね、また寮監にどやされちゃう」

「またって……女の子なんだから女の子らしくしろよな」

「それはどういう意味かしら」

「なっ、深い意味はない!だからその電気をしまってくれ!」

ふふふと美琴は笑いながらビチバチと電気を手に宿す。上条は慌てながらそれを収める様に言ういつものやり取りだ。

「ぷ、冗談よ」

その上条とのいつものやり取りが美琴にとっていつからこんなにかけがえのないものになったのだろうか。

「アンタんちもこっからだと逆方向だし、送ってくれなくてもいいわよ。それに私はレベル5よ、仮に襲われても返り討ちに出来るくらいアンタも知ってるでしょ?」

文字通り、上条はその身をもって知っている。

「まぁそう言うなって。今日のお礼だと思ってくれればいい」

自分からしてみれば理不尽な攻撃でも何だかんだ言って付き合ってくれる。だからこそ。

「割りに合わないかも、だけど」ニコッ

こんなにも優しい彼に、素直に甘えたくなるのもしょうがない。

10 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/08(土) 15:41:22.43 ID:JeVAPgDO

──時計を見る。もうすぐ八時を回りそうだ。完全下校時刻が大分前に過ぎていて、周りを歩く人も昼のそれに比べて格段に少ない。

上条はそんな街並みを見ながら、少し期限良さそうに歩いていた。同居人は担任のロリ教師に誘われ、現在絶賛焼き肉中。そのまま泊まるらしいので、久し振りに一人が満喫できるというこれからの事も含めてご機嫌指数は良好線を指していた。

「……御坂、か」

ふと呟く。超電磁砲こと、御坂美琴。学園都市第三位の実力者であり、常磐台という名門校に通うお嬢様。

ふとした成り行きで、今日は一緒に食事を摂ることになった。一見完璧超人のように見えてまだまだ子供のようでもあり。上条はどちらかと受けた印象の中で後者の方が強いのだが。

いつ、どこでどう出会ったなんて、上条は知らない。『忘れた』とか『思い出せない』ではなく、『知らない』のだ。『思い出せない』は厳密には間違ってないのだが、思い出す事が『できない』。現在の同居人であるインデックスという少女を助けた際、彼の脳細胞は傷つけられ、今まで経験してきた『思い出』というカテゴリーの内容が全て切り取られてしまっていた。

上条当麻という人間が一度死んで、生まれた。

それから大分時間が経ち、恐らく上条という人間の中で主要とされてきたであろう人物達には一通り会ってきたのだが、記憶喪失という事はとりあえず隠せている。

以前の上条がどういう生き方をしてきて、どういう考え方をしてきたか。今となっては知る術はないが、最初の方はやきもきした。

借り物の自分が今している行動は正解なのか、自分を見る人達はどう見えるのか。答えのない答え合わせをしていた。
11 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/08(土) 15:58:46.64 ID:JeVAPgDO

何だかんだ過ごしてるうちに、御坂妹の件があった。絶対能力進化実験だかなんだか知らないが、美琴は一人で泣いていた。一人で震えていた。そんな美琴を見た上条は放っておけなかったのだ。

上条は頭よりも先に身体が動く。そういう性質の人間は人類の何割かは知らないが恐らく少ないのであろう。だから美琴が一人絶望の縁から叩き落とされそうになるのを見て、何よりもまず美琴の元へと走った。

何故そういう行動に走ったのか。とかそういうのは上条は一切考えない。答えるとしたら、困ってたから、放っておけなかったから。

それだけで上条は動くに値する。

結果、救えた。それが嬉しかった。再び彼女に笑顔を取り戻させてあげれた事が。

皆が笑顔でいられれば、それでいい。自分が不幸体質なのを無意識レベルで知っている。だから人が不幸になっていくのを黙ってみていられない。

……ただ、ただ。


『……そう、約束だ。御坂美琴とその周りの世界を守る』


その言葉が、何故か頭の中を駆け巡った。






「───ぐっ!?」

ふと突然の頭痛が上条を襲った。身体も熱い。意識が混濁する中で、片膝を地面につきなんとか堪えようと頭を押さえる。

「また、かよ……っ!」

ズキズキ痛む頭と、燃えるように煮えたぎる身体と。   ・・・
一体、何度目なのだろうか、この襲いかかる異変に必死に耐える。冷や汗が玉となり、上条の頬を伝った。

「……おさまって、きたか……?」

時間にして一分間くらいだったのだろうが、だんだん長くなってきた苦しみの余韻が響く頭を押さえたまま上条は立ち上がった。

「……何だよ、これ」

最近『度々』起こる突然の頭痛、身体の火照り。嫌な予感が脳裏をよぎる。ここ何日か前からだろうか、その症状が上条を襲った。

「やっぱ、病院行っとこうか」

その頻度も少し頻繁になってきている。そして、長くなってきている。少なからず早いとこかかっても準備にこしたことはないだろう。

『しっかりと準備はしておく事ね』

先程美琴に言われた事を思いだし、「勝てないな」と呟き上条は帰路についた。
12 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/08(土) 16:18:27.25 ID:JeVAPgDO

そして翌日。

授業は睡眠時間と言わんばかりに惰眠を貪っていると、昼休みを告げるチャイムが鳴り響いた(さすがに教科、担当する教師にもよるが)。

「ふあ…昼休みか」

んんっと両手を天井に向けて伸びをすると隣から声がかかった。

「カミやーん、んなに授業中寝まくるから補習というツケが回ってくるんだにゃー」

「ふっ、何を言う土御門。いい天気!優しく身体を抱き締めるお日様の光!そして何よりも子守唄のような教師の声!窓側の席に座ればその魔翌力が分かるぜ」

「それは否定できないんだにゃー」

自慢できないことを胸を張って言う上条にそれに賛同する土御門。実際に彼の目も寝起きしたみたいに赤い。

「ま、ボクは窓側じゃなくても寝るんやけどなー」

そう乗ってきたのは上条の斜め前、土御門の前の席に座る青髪ピアスだった。彼の目も彼らと同じように赤かった。

「全く貴様たちは。小萌先生の泣く姿が目に浮かぶわよ」

呆れたように三人に声をかけてきたのは吹寄という女子生徒で、このクラスの学級委員長だった。

「なっ、それはアカン!でも泣く小萌てんてーもええんやろなぁ」

しみじみと虚空を眺め、ニヤニヤし出す青ピは放っておこう。これがこのクラスの暗黙の了解になっていた。
13 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/08(土) 16:24:11.60 ID:JeVAPgDO

「ところでカミやん、昼飯はどうするんだにゃー?」

「ああ、購買行ってくるよ」

「土御門は?」

「舞夏の愛妻弁当あるから待ってるにゃー」

「このシスコンが。まぁ行ってくるよ」

捨て台詞を吐きながら上条は立ち上がった。強い口調になっているのは、ぶっちゃけ女の子に弁当作ってもらうって事は羨ましかったからだ。まぁそんな事を言い出せば、次の日からの昼食の量は半端ない事になりそうだが上条はそんな事は知る由もない。

「てんてーを慰めた後にー……ってカミやんちと待ち!ボクも行くでーっ」

上条の後を慌てて青ピが追い掛けて行った。

「制理。私も一緒に食べていい?」

「別に断りはいらないわよ、秋沙」

「おう、先に食べてようぜい」

そこに姫神も加わり、このクラスもいつものメンバーで昼食を摂ることになった。

……ちなみに。先程の上条の「優しく身体を抱き締める」云々で顔を赤くする女子生徒がこのクラスには多数いたらしいのだが特記する事でもないだろう。

14 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/08(土) 16:25:24.79 ID:JeVAPgDO
とりあえずここまで。書き溜めてまた夜に来る
15 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/08(土) 17:18:29.18 ID:egzVZ0k0
おつ
これは期待せざるを得ない
16 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/08(土) 17:26:18.95 ID:/v22fygo
乙〜
とりあえず期待!
続き待ってます
17 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/08(土) 17:29:22.20 ID:LqJ66tU0
夜になっちまったぞ
18 :再開 [sage]:2011/01/08(土) 19:59:00.25 ID:JeVAPgDO

放課後を合図するチャイムが鳴り響くと途端に生徒達は開放的な気分になる。それは恐らくどこの学校に行ってもそうなのだろう。

「カミやーん、帰りにゲーセンでも寄っていかないかにゃー?」

それはこの学校、このクラスも例外ではなく。上条に学生達のオアシスへのお誘いが土御門からかかった。

「おおー、行きたいとこだけどな。悪い、用事あるんだよ」

苦笑いして上条はやんわりお誘いを断った。今日は帰りに病院に寄ろうと決めていたのだ。最近身に起こっている異変。それはやはり放っておけるものではなかった。

「むっ、カミやんもしかして女の子と約束してるんちゃう?」

キュピーンという音が聞こえてきそうなほど目を光らせ上条を軽く睨んだ。……気のせいかその周り──いつものメンバー+αからもキュピーン音が聞こえてきたのはきっと気のせいだ。
19 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/08(土) 20:00:21.46 ID:JeVAPgDO

「んなんじゃねえって。そもそも上条さんを誘ってくれる女の子なんていないだろ」

ないないと手を降りながら笑って否定する上条に無数の殺気が飛び交った。

((((またコイツは……))))

「は……ははは……」

幾つかの修羅場を乗り越えてきた上条だからこそ、そういう殺気を感知出来るようになっていて。笑いながら冷や汗をかき後ずさる。

「さ、さらばっ」

そして脱兎のごとく逃げ出した。余程の殺気だったのだろう、かなりのスピードだった。

「全くあの男は……」

呆れたように委員長は声を出し、

「「「「……はぁ」」」」

クラスの女子生徒達も溜め息を吐いていた。ちなみに姫神のその中の一人だったらしい。


20 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/08(土) 20:01:57.68 ID:JeVAPgDO

何とか逃げ切った道すがら、上条はいつもの公園に差し掛かる。そびえ立つ建物をすし詰め状態にした学園都市にしては珍しく中々の広さの公園で、街を歩けどあまり見ることのない緑が心を落ち着かせてくれるようで、上条はここを通るのが密かのお楽しみだ。

「(やっと見つけた!)ね、ねぇ」

……高確率でその途中横槍が入るのだが。

「御坂か。おっす」

「……おっす」

手を上げ、声を掛けてきた人物に挨拶をする。これだけで相手の顔が赤くなる意味が分からないのだが、と上条は相手の真意を掴みかねていた。というか掴むことのできる人間だったならば、彼の人生は大きく変わっているのだろうが。

「帰り?」

「ん、んん、まぁそんなとこ」

上条としては自分が病院に行くと言うことをあまり言いふらしたくない。彼の性格上であるのか、余計な心配かけたくないと言うのがあった。それが誰に対してあれ、だ。

「御坂は?」

「あ、えと、その……私も帰り(待ち伏せしてたなんて言えるわけないじゃない///)」

「そか」

上条当麻という男は変な所で敏感でもある。言い淀む姿に上条は怪訝に思うのだが敢えてスルー。何か厄介事に巻き込まれている様子でもなかったためそこは追求しなかった。

「じゃ、じゃあ今から暇よね。ちょっと私に付き合いなさいよ」

「何を基準に決めつけてんだよ」

暇じゃないしな、と付け加えて上条は答える。

「何の用事があるのよ」

「んー、別に大した用事じゃないけど。悪いな、また今度な」

来たときと同じように手を上げ、上条は走った。公園に備え付けられている時計に目をやると、15:30を指している。なるべくなら、早めに行って早めにすまそうと考えていた。

21 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/08(土) 20:03:23.33 ID:JeVAPgDO

「あ、行っちゃった……。もう何なのよ」

「……」

「……もしかしたらまた何かに巻き込まれてるのかな、アイツ」

上条の後ろ姿を見ながら置いてきぼりをくらった美琴はしょんぼりした雰囲気でそう呟いていた。

「……何かあれば、相談、してほしいのに」

そんな彼女の呟きは少し赤みがかってきた空に溶けていった。

22 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/08(土) 20:07:27.62 ID:LqJ66tU0
おかえり
23 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/08(土) 20:24:39.00 ID:JeVAPgDO
>>22
ただいま

〜補足〜

・厨2展開になると思われる


〜再開〜


「上条当麻さん、どうぞ」

受付の看護師に促され、診察室のドアを開けた。病院のあの独特の薬品の匂いがさらに強まる感覚を覚え、上条は置かれていた背もたれのない丸い椅子に腰かける。目の前には、素手に白衣を着た医者の姿がある。

──〈冥土帰し〉

どんな重傷、症状であれ彼の手にかかれば快方へと導かれるという医者の中のカリスマだ。顔はともかく。

「おや、また何かあったのかね?」

上条の姿を確認してもそのカエル顔を特に変化させることなくテーブルの上に置かれていたコーヒーに口をつけた。

(……ここで飲み物とかいいんだろうか)

とまぁ聞きたいことは我慢して、ここ最近の自身の身体の異変について上条はおもむろに口にしはじめた。
24 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/08(土) 20:25:40.46 ID:JeVAPgDO

「……はぁ、まぁ。最近いきなりの頭痛、吐き気、発熱があるんです。突発的に起きて、ちょっとしたら痛みも熱も治まるんですけど」

「ふむ」

上条の言葉を聞き白紙の診断書にペンを走らせる。その様子を上条も目で追いながら続けた。

「ここ何日か、何回かあったんですけどその頻度が多くなってきてる様な気がしまして」

その旨を伝えると冥土帰しは一端ペンを置いた。

「頻度とは、どれくらいの間隔でだね?」

「最初は一日、二日に一回くらいだったんですけど、最近になって増えてきちゃって。昨日も二回ありました」

「ふむ、とりあえずレントゲンでも撮ってみようか」

「あ、はい。分かりました」

25 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/08(土) 20:28:04.29 ID:JeVAPgDO

上条がこうして自分から病院に赴くのは初めての事だった。以前の上条の事は知らないが、自分の知る限り病院に来る時は包帯やら何やら巻かれて見慣れた病室で目を覚ますというのが彼のパターンで。いつもお世話になっている冥土帰しに診てもらえるかどうかが懸念だったが、そこは杞憂だったらしく、胸を撫で下ろしていた。

「……はぁ、明日から飯どうしよう」

レントゲンを撮り終え、再び呼ばれるまで待合室で上条は待機していた。

これから飛ぶ出費の事を考え、上条は肩を落とす。だが自分の身体の異変を放っておく訳にはいかない。幸い、インデックスは上条の身体の異変をまだ知らない。

出来るなら、知らせない方がいい。知らないまま治ればそれで越した事はなかった。

「おや、とミサカは珍しい来客者に少し驚きつつ声を掛けます」

すると上条にとって聞き覚えがある声が耳に届いた。

「おう、御坂妹か」

「はい、とミサカは貴方がプレゼントしてくれたネックレスをチラリと見せます」

独特な言い回しで上条の目の前に映ったのは、美琴と全く同じ容姿をした少女だった。
26 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/08(土) 20:31:58.55 ID:JeVAPgDO

「どこか調子が悪いのですか?とミサカは心の底から心配します」

あの絶対能力進化実験の被害者の一人である、検体番号10032号と呼ばれる少女はじっと上条の目を見つめた。その目は本当に心配そうに上条を見つめており。

「ああ、いやーちょっと風邪気味っぽくてな。心配してくれてありがとな」

「……いえ」

本当に表情豊かになったな、と上条は何故か顔を赤らめた御坂妹を横に座らせた。

いまだ産まれてから数ヶ月。感情の起伏が、いや感情そのものがなく、ただ殺されるだけの予定だったはずの『人間』だった。上条が命懸けで助け、生きる意味を自分で持つことの大切さを知り始め、色んな感情を知った。

そしてその少女は感謝以上の感情を上条に持っていた。

──物を食べれば美味しいという感情が。

──可愛いものを見れば可愛いと思う感情が。

──人と話をするというのが楽しいという感情が。

──そしてこの少年と一緒にいると胸が苦しくも愛しくなるという感情が。

全てを目の前の少年が教えてくれた、授けてくれた。

彼だけにしか見せない笑顔を彼女は知った。
27 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/08(土) 20:43:47.58 ID:JeVAPgDO

御坂妹と話す内容は割りと決まっている。御坂妹の飼い猫である「いぬ」か、彼女のオリジナル、美琴の話であった。

「最近お姉様とどうなのですか?」

「ん?御坂とか?いつも通りだぞ、昨日も一緒に飯食ったし」

その言葉にピクリと眉を釣り上げ、御坂妹は上条の横顔に目線を移した。

「それは聞き捨てなりませんね、とミサカは内心お姉様ずるいぞあんちくしy……ゲフンゲフン」

「ん、ああ、美味かったもんな、あのお店」

御坂妹の言葉に冷や汗を掻きつつ答える上条。しかし残念かな、彼の思っている事と彼女の思っている事のベクトルが違う。

「今度行ってくればいいんじゃないか?御坂と」

「……ソウイウコトジャナイ、トミサカハ……」

これが上条なのだ。もう慣れてしまった(慣れちゃいけない)彼女はシクシクと心の中で泣いた。彼の方から視線をずらし、何やら諦めたような呆れたような表情でボソボソと御坂妹は呟くが上条はそれを敢えてのスルー。

お姉様も自分も前途多難すぎるなと心に思いつつ、肩を落とす。もう一気にいっちゃえと意気込んだ御坂妹は再び上条に視線を戻し、ガシッと上条の肩を掴んだ。

……心なしか、無表情のはずが上条にとって、憤怒の様な表情に見えたのは気のせいだろうか。


「そんなに美味しかったのなら、ミサカも連れていって下さい」

「あ、ああ、だから御坂と……」

「ミサカはあ・な・たに言っているんです」

「お、おお…」

肩を掴まれた事と、その迫力により上条はドキドキ2%ビクビク98%でその勢いに押されるしかなかった。
28 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/08(土) 20:48:50.73 ID:JeVAPgDO

冥土帰しは顎に手を当て、数秒間テーブルの上の診断書とレントゲンに視線を向けたまま、じっと静止していた。

──……難しい病気とかなのだろうか。

その数秒の時間が少し痛々しい。もしかしたらという悪い予感が上条の頭を駆け巡った。

不幸とか、悪い予感とか。そういう類いのものは的中率が高い。もしかしたら新種の不治の病とかにかかったのだろうか。この名医が難しい顔をしているのが更に不安を掻き立てていた。

「……ふむ」

口を開きかけた冥土帰しに、息を飲んで上条は続きを待つ。

「……」

「…………」

「………………」

「……………………」

──怖ぇよ!早く言ってほしいというのもあるが怖くて聞きづらいというのもあった。







「風邪だね」





「……はひ?」


その冥土帰しの言葉に上条は椅子から転げ落ちそうになるのを堪えた。
29 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/08(土) 20:50:17.61 ID:JeVAPgDO

「とりあえず薬出して置くからこれ飲んで今日は早目に休むように」

「風邪、ですか?」

「うん、この時期は風邪引きさん多いみたいだからね?とはいえ油断してはいけないよ?」

安堵か、拍子抜けか。肩の荷ががっと下りたように息を吐き、上条は手渡された薬をしっかりと鞄に入れた。

「今日は温かくして寝るように。また辛くなったら来るんだよ?」

「はい、ありがとうございました」

彼の言葉に安心したか、上条はホッとしたような表情で冥土帰しに頭を下げ、扉を閉めた。

「……風邪、か」

ポツリと呟き、受付で診察料(大ダメージ)を払うとそのまま家路に着……かない。

「はぁ、昨日は特売逃したからなぁ。家の冷蔵庫もすっからかんだ、何か買ってかなくちゃな」

家計と冷蔵庫の中身に落胆しながらいつものスーパーへの道を歩き出していった。



……彼は記憶喪失だ。今まで怪我以外病院のお世話になったことがなかった。

……彼は記憶喪失だ。風邪の症状など『知らなかった』。







「……もしもし。調べてほしい事があるんだけどね?」

そして一人しかいなくなった先程の診察室で、世界一と称される名医の声だけが響いた。
30 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/08(土) 20:52:01.37 ID:JeVAPgDO

「ただいまー」

「遅かったね、とうま」

家の鍵を開け、ドアを開けるとトテトテと足音を立ててインデックスが走り寄ってきた。

「悪い悪い、遅くなっちまった」

「心配したんだよ!遅くなるなら言ってほしいかも!」

お前は俺の妻かと内心思いながら、確かに遅くなったので詫びを入れる事にした。

「ご飯早く作ってほしいかも!お腹ペコペコなんだよ!」

恐らく今買ってきた食材は二日でお陀仏になるだろう。やり方によっては一日で全て目の前の少女のお腹の中に吸い込まれる。

トホホと思い確かに自分も空腹感に襲われてきたため、早速夕食の準備に取りかかることにした。

「……手伝ってくれてもいいのに」

夕食が今から作られると思うと期待してるねっと一声掛けて、ベッドの上に座り見ていたテレビ番組に再び目をやったインデックス。結局はいつもの光景だった。
31 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/08(土) 20:54:15.09 ID:JeVAPgDO

「美味しかったんだよ、ご馳走さま!」

炊飯器の中身を空にして、満足そうに笑顔を振り撒く。

「はいはい、お粗末様でしたー」

確かに粗末だった夕食でもインデックスは美味しそうに食べてくれる。それだけが救いかなと思い片付けに取りかかろうとすると。


「後片付けは私がやっておくんだよ。とうまはお風呂入ってきていいかも!」


「な、なんだってーーっ!?」


一度耳を疑った。まさかあの暴食ニートシスターが進んで自分から家事をするとは……!

頬をつねる。痛い。

目を擦る。痒い。

「その行動はどういう意味なのかな?とうま」

歯を剥き出しにして威嚇するような表情を見せるインデックス。お前は犬か。

「いや、何でもないぞ!しかし家事してくれると上条さん的に嬉しいのですよ」

噛まれる事にビクビクしつつインデックスのしようとする行いを評価すると、インデックスは任せろという風に胸を叩いた。

「昨日小萌に言われたんだよ!家事出来るといい奥さんになれるって!だからするんだよ!とうまはとっととお風呂入ってくるといいかも!」

……奥さん?お前シスターだろ?という野暮な突っ込みはせず、この場はインデックスに任せてみよう。こんだけやる気を出しているインデックスは珍しかった。

嫌な予感はするが。それよりも上条は小萌先生GJと担任に対する株は急上昇を遂げていた。

もう一度言おう、小萌先生GJッ!!
32 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/08(土) 20:57:23.10 ID:JeVAPgDO

「くぁーいい湯だな」

湯船に浸かり身体を癒す。それにしてもインデックスが家事だなんて、珍しい事もあるもんだ。自然と口ずさむ鼻歌が彼がいかに機嫌がいいかを物語っていた。

「風呂も洗ってくれてたのか」

いつもならシャワーで済ましているため、張られない湯も適温で気持ちがいい。……所々洗いきれてない所もあるが、それを言うのは野暮ってやつだろう。

「さて、身体は洗ったから次は頭を洗いますかっと……」

と言い、一旦温まった身体を湯船から出す。

……すると。







「ぐあっ!!」

──来た。激しい頭痛に襲われ、立ち上げた身体をもう一度湯船の中に戻す。
33 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/08(土) 20:59:22.22 ID:JeVAPgDO

「(ち……くしょう……!)」

失念していた。今日は比較的調子がよかったからか、症状は出ないと思っていた。

身体が火照る。意識も朦朧とする。湯船の中の温度と相乗効果でいつもよりも身体が熱くなった気がした。

「(……この……ままじゃ……マズイ!)」

火をつけられたように燃えたぎる身体を何とか上げ、外に出し、床に腰を下ろした。

「(ぐ……ぐあぁっ……!)」

声は出せない。インデックスに聞かれる訳にはいかない。早く治まれと言わんばかりに頭を押さえ、静かに悶えた。

『とうまー』

「っ!?」

閉めたバスルームの扉の外から呼ぶ声が聞こえた。何とか、何とか。答えなくては。

『……とうま?』

返事がないことに疑問を感じたのか、もう一度その声が耳に届いた。そして、さっきよりその声の元が近い。

『とうまーっ』

相手に届いてないと思ったのか、更に大きな声でインデックスは呼び掛ける。

「(くっ…治まって……きたか……)」

何とか乗り越え、引いてきた痛みを堪えて返事をしようとしたが、中々でない。
34 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/08(土) 21:00:41.87 ID:JeVAPgDO

『とうま!!』

「……ぉ、おう。どうした?」

更に怒鳴り付けるように響いた声に何とか返事をする事が出来た。

『さっきから呼んでたのに無視ってひどいかも!』

「はは、悪い。ちょっと逆上せたみたいだ」

はっきりとしてきた自身の呂律に安堵し、詫びを入れた。

『むー、しっかりするんだよ!湯加減はどう?』

「おー、よかったぞ。もう上がるから」

『わ、分かったんだよ』

何故か焦ったような口調の後に聞こえるトテトテという走る音。その位置から察するに相当近いところまで来てたんだなと上条は苦笑いをした。

「(何とか、誤魔化せたか……)」

インデックスに知られなくてよかった。知られたら知られたできっと悲しい顔をするのだろう。

上条は人が泣いたり、悲しんだりするのを嫌う。困ってる人がいれば全力で助け、泣いてる人がいれば全力で守る。

そんな彼だからこそ、皆が笑顔でいられる事、皆が幸せでいられる事が何より大事であって。自分の痛みなど、いくらでも隠してしまう。

「(薬、飲み忘れたからな。飲んどきゃ何とかなるだろ)」

うし、と声を出しバスルームのドアを開けた。
35 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2011/01/08(土) 21:03:26.48 ID:JeVAPgDO
今日の分はここまで。また明日の夜9時くらいに出没する予定
36 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/08(土) 21:34:01.98 ID:rYYQ76AO
特定のカップリングはなさげ?
37 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/08(土) 21:40:56.06 ID:PURz1Wg0
乙!
これは期待せざるえない
38 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/08(土) 21:43:20.34 ID:mpCgVk2P

どうなるか全く予想できないな
これロシア前でいいのかな?
39 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/08(土) 21:45:25.49 ID:JeVAPgDO
>>36
上琴になるけど、最初に言っておくべきだった?

後酉はつけた方がいいのかな?
40 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/08(土) 21:54:28.03 ID:KV.FbMgo
カップリングは最初に書いた方が親切だったかな
でもあえて出さないスレも稀にあるし深く気にせんでいいと思う
酉は付けたければ付ける、でいいんじゃないかな

とりあえず厨二は好物なんで期待してる
41 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/08(土) 22:01:10.54 ID:JeVAPgDO
>>38
うん、ロシア前

>>40
thx
42 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/08(土) 22:09:50.55 ID:egzVZ0k0
おつ
上条さんの病気が気になるな
43 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/08(土) 22:48:26.75 ID:wzmXi6co

期待するのである
44 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/08(土) 23:12:37.14 ID:lGEYoH.o
乙〜
これは良スレの予感…
続き期待してます!
45 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/09(日) 00:29:32.85 ID:vpe54Jso
上条さんのグルメ細胞が活性化するスレがあると聞いて


乙、楽しみにしてる
46 :ちょっと書けたのでもう少し投下 ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/01/09(日) 00:35:39.07 ID:jfkMHoDO

──ピピピピっ

起床時間を告げる電子音がバスルーム内に鳴り響いた。

「……うー後5分…」

誰に言い聞かせる訳でもないがそういい手を伸ばすが肝心の位置に届かない。いや、届いたら届いたで目覚まし機能を止めた瞬間に再び夢の世界に旅立ってしまうので意味ない。

「ふぁ…」

という事で一度は立ち上がらなければその耳障りな電子音を止める事が出来ない位置に設置してある為、身体にかけてあった毛布をどかして目覚まし時計を不機嫌そうにバシッと叩く。

──バキッ。

「ん?」

いつもと違う音が耳に届く。目を擦りその時計に目をやるとディスプレイの真ん中の部分に亀裂が入り、その亀裂から液晶の故障を意味する 紫色のあれが滲み出ていた。

「……不幸だ」

いや、叩いたのはお前だろ。自業自得ってやつだ。
47 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/01/09(日) 00:37:05.30 ID:jfkMHoDO

目覚まし時計の惨状に途方に暮れながら朝食の準備をする。いまだにベッドにてグースカ眠るインデックスからは「日本人なら朝は味噌汁なんだよ!」とご所望をいただいており。イギリス人の自覚を真っ向からゴミ箱にポイしてる事に苦笑いの心境だ。

「美味しいのが出来たな」

インデックスは別に起こす必要はない。

「美味しそうな匂いなんだよ!」

勝手に起きるから。音よりも匂い(料理限定)に反応して起きるなど、学園都市広しと言えどもきっとコイツくらいなもんだろうと構わず料理を続ける。

──朝は特に調子は悪くない。あれから風呂から出た後、インデックスに見られないようにして薬を飲み、本来ならベッドで寝るべきなのだがインデックスがいるため、今まで通りバスルームにて少し早目の就寝を取った。

しかし、上条には少し不安事項があった。
48 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/01/09(日) 00:38:29.64 ID:jfkMHoDO

「(……昨日のやつ、少しキツかったな)」

入浴中だったからであろうか。今まででは一番症状は酷く、そして長かった。

「(もう少し、様子見でもいいのかな)」

その症状が出る兆候もなく、突発的に発作に見舞われる。今までは誰かに見られる事はなかった。だが、誰かに見られたとしたら。

「……」

そこで上条は考えるのをやめ、味噌汁を温めていた火を止め、用意した2つの器に入れていった。
49 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/01/09(日) 00:40:34.44 ID:jfkMHoDO

「インデックス。ご飯出来たぞー」

お盆に茶碗やら味噌汁の器やら漬物を乗せてテーブルに運ぶ。

「待ってたんだよ!早く食べ……」

ふと両手で箸を一本ずつ持ち、テーブルを軽く叩くような仕草をしていたインデックスが上条の顔を見た途端その動きが止まった。

「……インデックス?」

その固まった表情に上条も動きが止まる。

「どうした?」

「と、とうま……」

「ん?」







「どうしたの?……その目」



「……え?」

50 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/01/09(日) 00:41:51.95 ID:jfkMHoDO

インデックスが見ていたのは、上条の瞳。その瞳は……。

純粋な黒目が赤黒く、変色していた。





「……な、何だよ、これ……」

インデックスに促され、鏡を見ると黒目の部分に赤みがさし、赤黒くなっている。

目を擦ると白目が赤くなるのだがそうではない。『黒目』が赤くなっているのだ。

そこで上条は言い様のない不安にかられた。

……もしかしたら、ここ最近の体調の異変と関係あるのか。いや、あるのだろう。

「と、とうま……?」

するとふと自分を心配する声が上条の耳に届いた。

「……っ」

ここでインデックスを不安がらせる訳にはいかない。そう、不幸な運命である彼女の安息から不安を匂わせる訳にはいかなった。

簡単に世界を滅ぼす事が出来る10万3000冊なる魔導書を、一字一句違わずにその脳に刻んでいるが故にその身がいつも危険に晒されている。世界中の魔術師なる者どもからそれを手に入れるべく、追われ、傷つけられ、記憶を奪われ。笑顔がなかった彼女の人生の中で、大切な日常。それを崩してしまう訳にはいかなかった。

自負している訳でもないが、任されている以上それに答えるっていうのが筋なのだ。

視界的には全く問題はなく、赤みがかったからと言って上条から見える世界が赤くなった訳でもなかった。

「……ふふ、ふふふ………」

「と、とうま……?」

いきなり笑い出した上条にインデックスはビクッと身を震わせ、でも上条から目を離せないでいた。

「とうとうなれたんだ……!」

「ふ、ふぇっ!?何が、なのかな……」

道化になったっていい。笑ってくれりゃそれがいいのだ。
51 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/01/09(日) 00:43:32.94 ID:jfkMHoDO









「伝説のスーパーサイヤ人4に……!」








「……は?」


インデックスは思った。あ、とうまが壊れた、と。
52 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/01/09(日) 00:44:34.36 ID:jfkMHoDO

「知らないのか!?インデックス!」

握りこぶしを作り、テーブルの上に片足を乗り上げ、突然叫び出した上条。インデックスはただあんぐりを開けているだけ。

「スーパーサイヤ人4とはな!そもそもスーパーサイヤ人っていうのがあってだな。怒りに奮えたサイヤ人が……」

右から左へと訳の分からない事をぐちぐちと言い出す上条。インデックスは固まったままだ。あれ赤くなるのは目の縁であって、そもそもお前サイヤ人じゃないし。

「その時アイツは言ったんだ!避けろナッパ!って。それでな……」

とりあえず分かったことがある。元気でよかった。



後一つ。







コイツ馬鹿だ。
53 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/01/09(日) 00:45:35.92 ID:jfkMHoDO

「ふぅ、何とか押しきれたか」

満足そうに額の汗を拭い、爽やかな笑顔を見せる上条。何を根拠にそう思えるのかは分からないが一仕事終えた様な爽快感を何故か感じていた。

……ムチャしやがって。

まぁそこはおいておこう。ふと上条は考える。黒目が赤くなるとはどういう事なのだろうか。

道すがらにあるビルの前を通る。そこには鏡張りの一角があり、もう一度そこで自身の姿を確認してみた。

……やはり、赤みがかっている。部屋の中より明るいところに出たせいか、更にそれは映えて見えた。

「……んな状態で学校なんざ、行けねぇだろ」

こんな状態で授業なんか受けられない。「カミやんが不良になったー!」とか土御門とか青ピ辺りが騒ぎ出すに違いない。小萌あたりなんか泣き出してしまいそうだ。

……それに。

「いつ、発作が起こるか分かんねぇしな」

やはり、行く訳にはいかなかった。

そう呟くと上条はポケットから携帯を取り出し、担任の番号をディスプレイに映すと通話ボタンを押した。
54 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/01/09(日) 00:46:41.59 ID:jfkMHoDO

「はぁ、昨日はアイツに会えなかったな」

溜め息を吐きながら美琴は道を歩いていた。と言いつつ歩いている方向は常磐台の方向とは実は違う。上条のいつもの通学路を知っていた美琴は毎朝会えないかなという淡い期待を胸に、遠回りながらもこの道を選んでいる。

やはり素直になれない美琴はこうして偶然を装う事でしか接触を取れない自分に少し落胆しつつ、周りに目を向ける。

するとやはり所々の道行く学生達は自分を見ていた。

それも当然だ。学園都市内の230万人の中で、たった7人しかいないレベル5の中の一人だからだ。一握りとかそういう問題ではない。

それに彼女の容姿も相乗効果を生み出していた。

「(うー、やっぱり慣れないわね)」

中にはネットリとした視線をも感じる。治安の悪いこの学園都市という街の中でそういった類いのものは少なくなく、またその者らが起こす事件もアンチスキル、風紀委員の中でも問題視されている。

「(まぁとにかくアイツに会いた……って何言ってんのよ私!いや言ってないけど!!///)」

ふるふると首を振る姿はまるで小動物みたいで。彼女の様子を見ていた周りの学生達もそんな彼女の仕草に心奪われていたみたいだ。
55 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/01/09(日) 00:47:58.15 ID:jfkMHoDO

「(……あ!あの後ろ姿は!)」

後ろからでも分かるあのツンツンヘア。昨日は会えなかったし思いきって抱きt…タックルしてやろうかしら、なんて頭に思い浮かべて少し歩くスピードを上げる。

彼に近づく度にその顔の赤みは増していき。

「(え、ええいっ、ままよっ///)」

そのまま走り飛び付いてやろうと思った時、彼の声が聞こえた。

「えぇ、まぁ。……はい、分かりました……」

「(……電話してる)」


よく見れば彼は見た事のある携帯を耳に当て、誰かと話をしているようだった。

「(誰と話してるんだろ)」

相手側が誰なのかとても気になる。こんな朝から話す相手は誰なのだろうか。……もしかして。

「(お、女の子におはようコール、とか)」

美琴にとって嫌な予感が広がる。目の前のコイツは……果てしなく、モテる。あの大星覇祭の時も、胸のでかい同級生がついてたし、常磐台の方でも話題に上がってたし……。いまだ現在進行形できっと増え続けているライバル達に戦慄を覚えながらも負けないと覚悟を決めていて。

「はぁ、ですから明日は行きますって」

そこで再び美琴は上条の声に耳を傾けた。

「(あれ、何か様子がおかしいわね)」

どんどん落ち込んでいくように聞こえる彼の声のトーン。すけすけみるみるは勘弁をーなんて叫んだかと思えば補習がどうのこうの。

「(……恐らく、先生ね)」

内心ホッと、いや周りから見ても安堵したような彼女の様子だった。
56 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/01/09(日) 00:48:59.03 ID:jfkMHoDO

しかし美琴はそこで疑問に思った。この時間に教師に連絡を入れるって事は恐らく遅刻か欠席だろう。しかし今から向かえば十分間に合う時間帯に遅刻の連絡を入れるとは考えにくい。

だが、彼の服装にも問題があった。


『制服』を着ていたからだった。


制服をキチンと着ていて、遅刻しそうな時間帯でもなく教師に欠席の断りを入れる。今まで付き合ってきた中で感じた上条の性格からすると、サボるなんて事は考えにくい。何だかんだ言って学校を楽しみにしている節があったというか、会話の中でも楽しんでいるみたいだったから。

……つまり。

学校に行けない、やむを得ない理由があるとしたら?





「(……あん馬鹿、また何に巻き込まれているのよ)」

そこで今日の美琴の活動内容が決定した。
57 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/01/09(日) 00:50:29.82 ID:jfkMHoDO
とりあえず書けた所まで!
また21時くらいに来れるように書き溜めてくる
58 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/09(日) 00:52:22.83 ID:WnJ2HC6o

赤目は厨二のお約束だよなーwwktk
59 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/09(日) 01:02:16.71 ID:i3Z2PK.o
乙である。期待がふくらむのである。
ふむ・・・。赤目と・・・・体が熱い・・・。
病気かな?・・・たぶん。
60 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/09(日) 01:24:16.15 ID:HHUgLd.o
良いところで切るな…
続きが気になる
乙です!
61 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/09(日) 01:25:33.86 ID:/mt0kgE0

上条さん類人猿だからスーパーサイヤ人になれるんだね
62 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/09(日) 01:31:04.40 ID:AIcF/6wP

気になるなぁ
63 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/09(日) 01:31:55.12 ID:29XJF.AO
赤目に頭痛…なるほど、あの設定か

期待する
64 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/09(日) 02:08:36.48 ID:U2psfDUo
上条さん「なんだ…右手が…疼く」とか言っちゃうの?
それとも「生きているのなら、神様だって殺してみせる」とか言っちゃう展開?
65 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/09(日) 12:13:05.57 ID:J/rR4zko
無駄に横に長くて読むの疲れる、適当なところで改行してほしい
66 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/09(日) 12:23:34.91 ID:7.4RMjQo
>>65
横に短い画面で見ればいいんじゃね?
67 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/09(日) 17:46:02.82 ID:rmZEmRno
    ゞつ     ,イ        ,イ                                      ,イ
  __,.─ 、    //   __     /厶   _                            ,イ     //   __
  `‐'⌒ヽヘ  __,/厶 / ヘヽ ヽニ’,r'´ , -=ニ,)  ,ィ               __        /厶  __,/厶 / ヘヽ
      │|. ´フ シ′  l│  |/  ハ     //  -=つ   ‐=ニ⊃  ./´/バヽ    ヽニ’,r'´ ´フ シ′  l│
     // くィ/’    //     __/ノ    //              !{ //  } }     //   くィ/’    //,
      //  く/     '´     ヾツヾ>  //    、__   (ヽ、_    ヾシ  //   / /    く/      ヽノ
    /´                    { {_,   `ー┘   \__)       //   ヽ゚ /
 = ´ ============== ヽ_} ===========//===//=========
                                           /'′    //
                                                /´
68 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/09(日) 21:21:56.47 ID:8ASmEN/DO

上条は病院へ向かう道の途中考える。

──治らなかったり、重病だったりしたらどうしよう。

ここ数日で起きた異変、そして変色眼。

「……魔術?いや、幻想殺しがあるしな」

と言い、右手を見る。特に代わり映えのないいつもの右手。異能ならば何だって打ち消す右手。

思えば、随分右手に助けられてきた。

インデックスの件、一方通行の件、天草式、ローマ正教、神の右席。

色んな魔術師、強敵と対峙してきたなと振り返る。死にかけた経験など腐るほど、というか毎回そんな気がする。

ただ、その放たれた魔術、異能を右手で打ち消すだけで。

「……俺、考えれば幻想殺しの事何にも知らねぇんだよな」

もしかしたら幻想殺しを打ち破って侵食する魔術や異能もあるのかもしれない。

「土御門とかにも相談してみっかな」





「……御坂にも聞いてみっか」
69 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/09(日) 21:22:39.78 ID:8ASmEN/DO

ふと自分で出た言葉に自分が驚いた。……何故美琴が?いや、能力者としてならトップに君臨する彼女だ。能力の事なら聞いてみてもいいのかもしれない。

ただ、どっちかと言うと美琴は守るべき存在だ。



……自分の異変について彼女が知ったらどういう反応をするのだろうか。どんな顔をするのだろうか。

「……」

あの実験の時に見せた涙。自分を追いかける時の姿。怒った顔。照れている顔。
笑った顔。

美琴を知ってそんなに長くはないのに、色んな顔を見てきたような気がする。記憶が剥がれ落ちる前の自分も、こういう風に接してきたのだろうか。

「……分かんねぇよな」

いくら考えを巡り馳せても、失った記憶は戻ってこない。

ただ。

自分のやって来たことは間違ってはいないと、不思議とそう思えた。
70 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/01/09(日) 21:24:41.62 ID:8ASmEN/DO

──この道を私は知っている。いつもアイツが運ばれていくあそこ。

美琴は上条の後ろ姿を追いかけながらどこに向かっているのか思慮をめぐらせていた。

そしてこの道は、いつも入院した彼を見舞う為に美琴が通っている道だ。

……もしかしたら彼の身に何かあったのか?

なるべくマイナスは思考は打ち消すようにしているが、人間である以上それは容易な事ではない。

彼の知り合いか誰かが入院していて、それを見舞う為?

──いや、それならばわざわざ欠席までする必要はない。

何か資料を提出する為?

──彼である必要がない。

研究の為?

──レベル5の能力者ならばありえる。実際自分もその経験があるから。だが幻想殺しがあるとはいえ、無能力者である彼がこうして表だって研究される可能性は皆無。システムスキャンではいくら調べてもレベル0だ。幻想殺しを持っているという情報を持っている者も少ないはず。

頭の中で都合のいい仮説を立てても即座にそれを打ち消してしまうのもまた自分の頭脳であった。そしてそれはやはり嫌な予感を感じさせる。

「(……そんな、アイツが…当麻が)」

そしてそれは肥大化していき、美琴の足を震わせた。

するとふと道の途中で上条が足を止めた。

「……っ」

上条は自身の右手を確かめるようにして裏表を見ている。それは一重にやはり彼の身に何かがあった事を暗示させているみたいだった。

「(……っ、当、麻……!)」

その上条の姿が今にも消えてしまいそうで。
71 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/01/09(日) 21:25:24.76 ID:8ASmEN/DO

……すると突然美琴のポケットの中にしまった携帯電話のバイブが着信を示した。あれから追い掛けていて、きっと授業も始まっている時間のはずだ。鬱陶しく思いながらも、一旦応対することにする。

「……はい」

追跡が上条にバレると、うまくはぐらかれそうな気がする。その為彼に見つからないように、小声で応対した。



「はい、そうです。では失礼します」

無断欠席の理由は誤魔化しに誤魔化しだ。しかし自分がレベル5であるためか、相手の方も深くは追求せず簡単に難を逃れる事ができる。適当に言っておけばいいのだ。

再び歩き出した上条を見失わないように、通話の途切れた携帯電話をしまうと美琴もまたそれを追っていった。
72 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/01/09(日) 21:26:54.70 ID:8ASmEN/DO

「おや、また来たのかね。」

冥土帰しがそういうと上条と視線を合わせる。

「いやぁ、まぁ。はは」

昨日と同じ椅子に座り、上条は苦笑いを浮かべながら頭をポリポリかいた。

「……。ふむ、その目は」

「あ、はい。朝起きたらこうなってました」

「それで昨日はその頭痛、発熱はあったのかな?」

「ええ。入浴中に」

「ふむ」

昨日の診断書に書き出していく冥土帰し。その顔は何やら思案していた。

「……あの、何か大きな病気、という線じゃないですかね?」

自身の症状について、不明瞭が事が多い。
突然の頭痛、発熱、吐き気。

……そして、変色眼。

病気なのか、それ以外の何かか。その根本さえ判明すれば対処のしようがあるのかも知れないのだが、一般的な学生である上条はこうして専門家に任せるしかなかった。
73 : ◆LKuWwCMpeE :2011/01/09(日) 21:29:21.18 ID:8ASmEN/DO
ごめん
一日頑張ったけどこんだけしか書き溜められなかった。
一重に実力不足だ
また明日書く
74 :これだけ書く ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/01/09(日) 21:54:12.68 ID:8ASmEN/DO

「……はぁ」

出費が痛い。本日の診察料を払い、財布の中身に落胆して肩を落とす。

あれから冥土帰しには大した事ないから、また何かあったらおいで?ととりあえず五日分の薬を出され、上条は病院を出た。

──トン。

玄関の自動ドアが開き、歩き出そうとすると。白衣を着た女性と肩がぶつかった。

「あっ、すみません」

目の下に隈を作った、顔立ちの整った女性と眼が合う。

「おや、君は……」

「……はい?」

女性は上条の顔を見つめ、少し怪訝な表情を作った。
……機嫌を損ねてしまったのだろうか。再度謝罪を意とする言葉を出そうとすると。

「……いや、何でもないよ。こちらこそ悪かった」

それを言うと、自動ドアが開くと共に病院内へと入っていった。

綺麗な人だったな、と感想を頭の中に浮かべ、後ろを振り向いた。






「……当麻っ」

その声がした方に顔を向けると。



「御坂……?」


栗色の髪の毛が一心に陽の光を浴び、その作った表情は今にも泣き出しそうな美琴の姿があった。
75 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/09(日) 22:31:22.45 ID:KXGwmzAdo

この人は木山先生かな?たぶん。
76 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/09(日) 22:33:57.74 ID:ls8aA96AO
>>75
木山だろうね
記憶喪失前に会ってるし
77 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/09(日) 23:27:55.44 ID:f1y6IHN60
大支援 ばんがれ
78 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/10(月) 00:51:25.93 ID:fza90t/5o
乙です!
書くペースは作者さんの好きでいいと思います
でも個人的にこの作品は好きだからちゃんと完結はして欲しい…
79 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/10(月) 05:22:27.73 ID:9ZqxMaIAo
完結さえしてくれれば投下ペースとか気にしないぜ
携帯じゃ書き溜めるのも大変だろうしなあ
PCから見ると大した量じゃなくてびっくりしたりするし
80 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/10(月) 10:59:54.12 ID:Lc+/g+1to
骨が…溶けてるみてえだ…かと思ったのに
81 :仕事中だけど少し投下 ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/01/10(月) 13:31:10.12 ID:Aax+0npDO

「!? その眼…」

美琴は上条の目を見ると驚愕の色を表情に付け加えた。

「……っ」

上条としては人に見られる訳にはいかなかった。
インデックスは仕方がない。何とか誤魔化しに誤魔化しを重ね、納得はしてないだろうが説得はした。

しかし、この目の前の少女はどうだろうか。

学園都市第三位というのも伊達ではない。『自分だけの現実』を頭の中で組み上げ、量子力学の複雑に羅列された計算式を頭の中で演算する。
それを科学的に発現させたのが学園都市で言う『能力』であり。
それは一重に頭脳の高さをも表していた。

──誤魔化せるか?幸い発作の症状は見られていない。あれを見られては余計に不安を掻き立てるだけだろう。

「ん?あぁ、別にこれは何でもねぇよ」

「病院まで通っておいて何でもないわけないじゃない!」

「……それはだな、風邪気味だったから一応先生に診てもらっただけだ」

「じゃあその目は何よ!」

「……っ」

どうする?さすがにこの目を見られては誤魔化せないのか?
目の前の少女の性格を考えると、分からない事があればそれを追及せずにはいられない質で。

そして自分と同様、困ってる人を中々に見捨てられない。それは今まで接してきた経験から感じ取っていた。

自分の不幸具合から、一緒に道を歩いている時スキルアウト達に絡まれている人をよく見る。
それを助けずにはいられない上条は助け船を出すのだが、美琴からすれば八割は女性なので黙ってはいられず(何故かスキルアウト達と共に焼かれようとする)。

上条は女の子だからと言う理由で、危ないからやめろと言うのだが、どうせアンタには効かないからいいじゃない、と意味合いが違う返答をされては押し通されるのだ。

「答えなさいよっ!」

とそこで美琴の怒鳴り声が再び耳に届き、思考を戻す。
82 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/10(月) 13:31:51.63 ID:Aax+0npDO

──どうする。どうすればいいのだろう。
しかし、ふと周りに目を向けると……

『やーねー、あれ、痴話喧嘩?』

『病院に来てるって事は……きっとあれよ』

『やだー、男が無理やりやっちゃったのね、女の子可哀想に……』

『つか、あれ超電磁砲?』

「げ」

何てヒソヒソ話が聞こえる。実際に内容が耳に届いた訳でもないのだが、結構人だかりが出来ていた。

加えて場所も病院の入り口という事もあり、人の出入りも多いのだ。

「……あのー、美琴さん?」

「……っ、何よ」

何故少しだけ表情が緩んだのかが気になるが、それは今は置いておく。

「結構僕ら注目浴びてるんで、やめませうか」

「……あっ」

そこで美琴も周りに目を向け、人だかりの光景を見て気まずそうにする。

「……場所、変えますか」

「……うん」

さっきまでの勢いとは別に、恥ずかしそうにしぼんでいった様子を見て上条は苦笑いをした。
83 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/01/10(月) 13:33:52.04 ID:Aax+0npDO

──病院から出てきたアイツを見て。肩が落ちていて。顔を見て。目を見て。

そこから美琴の心は爆発してしまいそうなほど不安になってしまって。

気付けば怒鳴り散らしていて。

気付けばいつもの公園のベンチに座っていた。

「……んで。その目は何よ」

「だから何でもねぇって。おしゃれだろ?」

「茶化さないで」

季節は冬。やしの実サイダーに惹かれたがそれを飲むと身体が冷えそうなので温かいカフェオレが自分の手に。上条の手には自分と同じものがあった。

同じものを飲んでいる。という事だけで喜んでいる自分がいたりするのだがそれはさておき。
84 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/01/10(月) 13:37:19.31 ID:Aax+0npDO

目の前の男は、いつも肝心な事を話さない。適当な事を言ってははぐらかされる。
インデックスの事もそうだ。同居しているらしいのだが、その同居するに至った経緯を聞いても答えてくれない。外人の女の子、しかもシスターで。

その状況を羨ましがりながら疑っても、「任されている」の一点張りで。二人の様子から察するに、本当に何もなさそうなのだが(と言うか問い詰めた)。

──考えれば、私ってコイツの事、何も知らないな。

自分の弱い部分……人には決して見せる事のなかった部分は大分彼に見られている。

あのシスターズの件の時だって自分の泣き顔をさらけ出した。学園都市に来て以来、誰にも見られる事のなかったあの感情。

上条のおかげで、自分はここまで立ち直れた。そんな彼なのだが──。

人には手を差し出すくせに、自分からは全く差し伸べない。

……いや、もしかしたら差し伸べているのかも知れない。だがそれは自分ではない誰かに。

「……私って、そんなに頼りない、のかな」

「……え?」

ボソリと呟いた声はしっかりと彼の耳に届いた。
言うつもりはなかった。ほら、目の前のコイツは困った顔をする。

しかし、言わずにはいられなかった。いつも助けられてばかりで。見知らぬところで傷付いて。

そんな上条を見て心が張り裂けそうになって。

対等な立場で見てほしかったのかも知れない。もっと自分を頼ってほしかったのかも知れない。

……こんなにも、力になりたかった。

自分が手にしていたスチール缶の中身を全て口の中に入れた。何故かいつもよりも甘さを感じなかった。

ほんの少し諦観の色を表情に出し美琴は立ち上がった。

「ほら、アンタも飲み終わったでしょ?捨ててきてあげるわよ」

「お、おお」

上条の飲み物が既に空を尽きているのは見通していて、手にしていた空き缶を受け取り自販機の横に設置されているゴミ箱へと歩き出した。
85 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/01/10(月) 13:38:34.60 ID:Aax+0npDO

──どうしたもんだか。

問い詰められるのは分かっていた。ここまで来たら正直に話すか?いや、それはするべきではなかろうか。

上条の頭の中で用意された返答が目まぐるしく入れ替わる。

ゴミを片付けに行った美琴の後ろ姿を見てぼんやりと考えるのだが。

『……私って、そんなに頼りない、のかな』

自嘲するように呟いたその表情は……。

「……」

あの実験の時に見せた、泣き顔と酷似していた。

「……そんな顔、させるつもりじゃなかったんだけどな」

二度とあんな顔にはさせまいと誓ったはずなのに。

御坂美琴とその周りの世界を守る──

何となく、その約束は守れている気がしなかった。









「……ぐっ……!」

そんな美琴の後ろ姿を眺めていた途端、例の発作が上条を襲った。
86 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/01/10(月) 13:39:23.13 ID:Aax+0npDO

割れるように痛む頭。冬という季節なのに関わらず汗が噴き出す程の発熱。

──まずい、御坂が戻ってくる……!

座っているのだがその姿勢を保つのも苦しい状況に焦燥感が上条の心を襲う。

「……くっ」

何とか意識を飛ばさないように踏ん張るが、それが精一杯だ。視界もぼやけてきて、グルグルと世界が回る。

美琴が戻ってくる前にせめて治まってほしい。痛みから頭を地面に向けているため、美琴が今何処にいるのか判別出来ない事にもどかしさを感じる。

汗が滴り、地面に落ちてコンクリートは色を変えた。










「当麻っ!!」

「……っ!?」

──戻って、きちまったか……。

その声に何とか顔を上げ、美琴と視線を合わせた。

何でもない、という表情さえ作ることが出来ない。もう誤魔化しはきかなくなった。
87 : ◆LKuWwCMpeE :2011/01/10(月) 13:42:58.06 ID:Aax+0npDO
ここまで。
やっぱり見てみると、思ったよりも書き溜め少ないな。
しかも所々誤字脱字もある。
また夜に来れたら投下する
88 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/10(月) 14:10:35.93 ID:1+aavp3lo

仕事中ご苦労なのである。
89 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/10(月) 14:11:49.58 ID:hMMvnku6o
おつ
90 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/10(月) 14:17:21.83 ID:n4kpF3T/o
スレタイだけでコナンかと思ったのは俺だけじゃないはず
91 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/10(月) 14:31:25.90 ID:iik1qyUHo
乙です!
続き待ってます!
92 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/10(月) 14:39:43.31 ID:tCkGzZo20
がんばれ
93 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/10(月) 15:53:43.66 ID:hMMvnku6o
ほっしゅ
94 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/10(月) 16:17:42.89 ID:kl66RDAKo
ふむ
95 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/10(月) 16:21:10.08 ID:QtwHZ5b/o
>>90
おまいは俺か
96 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/10(月) 16:33:54.59 ID:eBIeys6AO
ファフナー思い出した
97 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/10(月) 21:42:49.40 ID:tLv4R9pao
アーク2とか珍しいなと思って開いたら違かった
98 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/10(月) 21:55:59.97 ID:UdrSy5c8o
>>97
ちょこは俺の嫁
99 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/01/10(月) 22:14:07.64 ID:Aax+0npDO

缶をゴミ箱に投げ捨て、美琴は後ろを振り向いた。

冬の季節らしく、公園内を吹き付ける風は微風ながらも冷たい。先程の身体に入れたカフェオレもその温度は奪われてブルッと身体が少し震えた。

……しかし、その身体は別の意味で震える事になった。

「当、麻……?」

先程のベンチの上で頭を押さえ蹲っている。いかにも苦しそうに悶える姿を見た美琴はその瞬間駆け出していた。

「当麻っ!!」

上条の前まで着くと、彼は顔を上げた。

「……っ!?」

尋常ではない汗の量。顔も少し赤くなっていて、所々視線も定まっていない。

「当麻っ、どうしたの!?しっかりしてっ!!」

「ぐっ……!」

そのままの体勢が辛いせいなのか、身体もふらふら揺れていた。

美琴はすぐさま上条の隣に座り、自分の膝の上に上条の身体を横たわらせる。

上条の身に何かが起きている。しかし、何がどうなっているのかは全く分からない。

──どうしよう。どうしようどうしようどうしよう。

あまりの事態に美琴の思考は混乱を極める。身体を乗せた膝の上はかなりの熱を持ち、水気が伝った。

「とう、まっ……!」

息を切なそうに切らし、歪んだ表情の上条を美琴は身を屈めて包み込んだ。

「……っ!」

苦しそうに悶える上条を、ギュッと抱き締めるしか出来ない美琴。その熱さも尋常ではない。
100 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/01/10(月) 22:14:51.47 ID:Aax+0npDO

「……!救急車!」

そこで美琴はハッとなり、ポケットから携帯を出しボタンを操作しようとしたのだが、上条の手が美琴の肩をトンと叩いた。

「い、や……じきに治まるから……呼ば、なくていい……」

胸の中からかすれたような声が美琴の耳に届いた。

「呼ばなくていいって……放っておけるわけないじゃない!」

「俺は……だい、じょうぶ、だから……な?……みこ、と……」

「……っ」

上条の手も美琴の肩を抱き締めるようにそこに置かれたままで。より力を込められていた。
101 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/01/10(月) 22:15:36.00 ID:Aax+0npDO

上条の身体に何が起きているかは分からない。しかし何かに蝕まれているのは確実だ。

──コイツが苦しむのを見たくない……!

美琴は上条の記憶喪失を知っている。直接本人から知らされたわけではないのだが、そんな話をチラリと聞いた。

美琴の心は膝を付く思いだった。今までの出会い、想い出が消え失せて、なかった事になって、上条当麻は一度死んで。

それでも美琴は気付かずに接してきた。前の上条も、今の上条も美琴から見れば何ら変わりなく。

その本質で自分と付き合ってくれていたのだ。その根っこの部分は果てしなく優しく、温かく。

先程の病院に向かう上条の背中が透けて見えるのが美琴の頭の中でフラッシュバックした。


──私を、一人にしないで……!


美琴はただその一心で上条の身体を抱き締める。熱を帯びた身体が二人を支配していて。

美琴は身体の震えを押さえる事ができなかった。
102 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/01/10(月) 22:16:27.99 ID:Aax+0npDO

美琴の震えを感じた。

──泣いて、いるのか?

身体に伝わる震えはまるで暗闇に怯える子供のようで。

「……」

とにかく上条は美琴の肩をより強く抱き締めるしかしなかった。

そうしている内に発作も治まり、上条は落ち着きを取り戻す。

いまだに頭の痛みが滲むがそれを答えて美琴の肩を二回軽く叩いた。

「……御坂」

その声を聞くと美琴は身体を起こし、上条と視線を合わせた。

──やっぱり、泣いてやがったか。

ポツリと自分の頬に温かい雫が滴った。

「もう、大丈夫だ」

美琴の目元を指で掬う。一度だけでは掬いきれず、二度三度に分けて涙を拭いた。

「本当に、大丈夫なの……?」

くしゃくしゃの顔をそのままに美琴は上条から視線を外さない。

「ああ」

ハッキリと答える。呂律もしっかりし出し、余裕が出てきたのを感じた。
103 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/01/10(月) 22:17:08.29 ID:Aax+0npDO

彼女にそんな顔をさせてしまった事に対して激しく自分を責めた。せっかく、彼女の平穏を守ってられてたのに。
あの事件以来、少なかった笑顔も増えてたのに。それを崩したのは自分が原因という事に行き場のない思いを感じた。

だから、取り戻させてあげたい。再び、自分の手で。

「……ったく、御坂にそんな顔似合わねぇぞ。せっかく可愛い顔してんだからさ。お前は元気にビリビリしてろよ」

美琴の頬に手を当てたまま軽口を叩いた。

ぶっちゃけ電撃か、殴られるのを覚悟しながら、だが。



しかし。




「誰の、ヒグッ、せいだと思ってるのよ……エグッ」

飛んできたのは、というより落ちてきたのは再び出てきた美琴の涙だった。

「……っ」

嗚咽しながら上条の胸をトンと叩く。涙の堤防が決壊したみたいに、次から次へと溢れ出ていた。

その姿を見た上条は……気付けば身を起こし、美琴を抱き締めていた。
104 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/01/10(月) 22:17:52.02 ID:Aax+0npDO

「落ち着いたか?」

「……うん」

あれから数分。ようやく涙が止まった。いつもなら混乱を極める筈のこの上条との距離が、今は不思議と落ち着かせてくれる。

──また、見られちゃったな。

あの頃見せた自分の涙を、再びこの少年の前でさらけ出してしまった。
……いや、あの頃とは違う。もっと、深い所での涙だった。

「本当に、もう、大丈夫なの?」

何度聞いたのだろう。しかしあの尋常ではない苦しみ方を目の当たりにしたのだ。
何度もそう確認せずにはいられなかった。

「ああ。大丈夫だ」

はっきりとした上条の口調に、一先ず美琴は安堵の表情を浮かべる。
上条の顔に移していた視線を戻し、もう一度上条の胸に顔を埋めた。

「……心配、したんだからっ」

「……ああ、悪かった」

温かい彼の身体と匂いが美琴を包む。それは安息を美琴に与えてくれ、グルグル回っていた美琴の頭を落ち着かせてくれた。



──グゥ。


すると美琴の埋めていた身体の少し下の方から、そんな音が鳴った。

それに美琴は顔を上げて上条の顔を見ると。

「はは、腹、減っちまった」

少し恥ずかしそうに照れ笑いを浮かべていた。

時刻は昼前。体調がすっかり戻った男子学生は空腹を訴え出す時間帯で。
その事も美琴に更に安堵感を与え、自然と笑みが零れた。

「んじゃあね──」

そこで美琴は即座に頭に浮かんだ提案を口にしていた。
105 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/01/10(月) 22:18:59.83 ID:Aax+0npDO

「何か、悪いな」

買い物袋を一つ持ち、上条の学生寮の玄関に二人は来ていた。
美琴の提案とは、お昼ご飯を作ってあげるという事だった。

「気にしなくていいわよ。私もお腹空いてきたし丁度よかったから」

そういう美琴の手にも買い物袋が一つあった。
学生寮の中に入ると外とは違う、ほんの少しの温度の変化を感じる。季節が冬なだけにその少しの変化でも身体に染み渡り、寒さに縮こまっていた身を直した。

道中、美琴はずっと上条の服の袖を掴んでいた。いまだ残る不安と嬉しさと恥ずかしさがせめぎ合っていたのだが、結局最後まで離すことはなく。
上条も特に何も言わなかった。

──コイツはどう感じてんのかな。

という思いも美琴の中で感じたのだが、とにかく今は上条の身体を休める事を優先したかった。
106 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/01/10(月) 22:19:43.66 ID:Aax+0npDO

道すがら美琴と約束した事があった。

インデックスには自分の身体の異変を話さない事。

なるべくそれ以外にも話さない事。

……そして美琴には全てを話す事。

最後の条件に関して、問い詰められるかと思えば案外そうではなかった。
つまり、上条自身、自分から話す事にしたのだ。

自分の心境の変化について、何故そうする事にしたのかと聞かれれば上条は答える事は出来ない。しかし、そう決めたのだ。

信用できる、できないとかそういう問題ではない。そうしろ、と自分の中の何かが訴えていたからだった。
「多分、中に入ったらインデックスがつっかかって来ると思うぜ」

「それはどういう意味で言ってるのよ?」

「んにゃ、何故かあいつ、御坂に敵意を持ってるような気がするんだよな」

「……アンタがいるから、ね」

「……それこそどういう意味だよ」

それに、こんな会話が何故か楽しい。それが何を意味するかは上条は分からない。


ただ。


「昼飯、期待してるぜ」

ふと横に並ぶお嬢様に不敵に言う。

「任せなさい。とびっきり美味しいのを食べさせてあげるわよ」

その挑発に乗ったかのように誇る彼女の笑顔が、少しだけいつもよりも可愛らしく見えた。
107 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/01/10(月) 22:22:24.73 ID:Aax+0npDO

ガチャ──。
ドアを開け、先に中に入る。トテトテと音を立てて銀髪少女が走り寄ってきた。

「あれ、とうま?今日は早いね?どうしたの?」

頭に?マークを浮かべているのだろう、首を傾げてインデックスは尋ねてきた。

「まるで新婚のような会話ね」

すると後ろから不機嫌そうな声が上条の耳に届く。それに気付いたインデックスも、怪訝そうな表情を浮かべた。

「……とうま?何で短髪がここにいるのかな?」
「あら、この子は挨拶も出来ないのかしら」
「短髪にする挨拶なんか私は持ち合わせてないんだよ」

──お前らやめてくれ。前後から発せられる殺気がチクチク刺さるんだよ、主に胃が。
キリキリと鳴りそうな胃だがそれを我慢して、何とかインデックスを説得しよう。

「俺風邪気味だから今日は学校やめて途中で引き返してきたの。それよりもインデックス、御坂が昼飯を作ってくれるらしいぞ」

昼飯、というワードに目を一瞬光らせるがそれでもインデックスは引き下がらない。

「どうしてそこで短髪なの!こもえとかでもよかったんじゃない!」
「お前せっかく人が好意でやってくれるってのにその言い方はなんだよ。とにかく御坂が美味しいご飯を作ってくれるって事でお世話になるんだからインデックスは黙ってればいーの」

「むー……」

まさか昼飯というワードを越える何かがコイツにあるとは、と上条は内心驚きながらも説得した。
しかししぶしぶ、と言った感じで引き下がるインデックスを見てとりあえず安心だ。

「んじゃ御坂、よろしく頼む」

と後ろを見ると何故か赤く染めてニヤけていた。

「って、御坂?」

「ふにゃ……ってあい!う、ぅん、分かった……」

まじまじと美琴の目を見つめ、正気に戻すと赤い顔を更に赤くして台所へとピューッと飛んでいった。

「……どうしたんだ?あいつ」

疑問符をいくつも頭に浮かべるが、横から感じるジト目を感じ思考を中断。

「お前もどうしたんだよ……」

「うー……」

ガルルと聞こえそうなその雰囲気に冷や汗を掻きつつ、とりあえず着替えて美琴の昼食を待つ事にした。
108 : ◆LKuWwCMpeE :2011/01/10(月) 22:24:25.63 ID:Aax+0npDO
今日の分はここまで。
また明日来るよ
109 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/10(月) 22:30:08.26 ID:9ZqxMaIAo
先が気になる
でもニヤニヤしちゃうくやしい
110 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/10(月) 22:57:31.80 ID:nE2pMT/X0
インデックスが噛み過ぎたのか。
111 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/10(月) 23:40:00.78 ID:KKMMy6Ifo
待ってました!乙です!
明日も楽しみにしてます!
112 :明日になったので投下 ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/01/11(火) 01:13:00.08 ID:8otfgFSDO

──断言しよう。めちゃめちゃ美味い。

「ど、どう?」

その美味さに少し固まっていると美琴が不安そうな表情を浮かべ上条の様子を窺っていた。

THE・上目遣い。

「美味いぞ!めちゃめちゃ美味い!」

それを見た上条は、照れ隠しに一気に味噌汁を喉に流し込んだ。
ぶっちゃけかなり熱かったのだが、意識は可愛さの方に向いていて味覚、感覚よりも視覚の刺激が強いという中々にない体験をした。

「よかったぁ」

その返答に、美琴は花のように色をつけて輝かんばかりの笑顔を咲かせた。
それを見た上条はこれ以上見ていると何かがヤバくなりそうなので視線をずらしご飯に集中する事にした。

消化の事を考えてか、和食中心の料理がテーブルに並んだ。そのどれもが上条の舌を直球ど真ん中でストライクをカウントし、気付けば箸はかなり進んでいた。

「うー……うー……」

真正面では唸りながらもご飯を掻き込むインデックスの姿。既に三杯目を迎えているのは、彼女なりに認めている証拠なのだろう。

ふと横を見ると、あまり箸が進んでない様子の美琴がいた。ただ表情はニヤニヤしてはいるが。

「どうした、御坂?早く食べないと全部食われちまうぞ」

「えっ、あっ、そうね……」

ふと声をかけると慌てた様に煮物に箸を伸ばし始めた。
113 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/01/11(火) 01:13:58.28 ID:8otfgFSDO

──嬉しい。

ただその気持ちだけが美琴の心を支配していた。
 実はこうして手料理を振る舞うのは今回が初めてだ。上条の身体の事を考え、なるべく負担のかからない、でも栄養のありそうなものにしたつもりだ。

美琴が住む常磐台の寮は食事が出る。つまり料理をする機会があまりなく、学校の授業で習う時くらいしか台所に立つ機会はあまりないのだ。常磐台中学は女子中学校というのもあり、家庭科の授業も他の学校と比べて少し多い。
とはいえ、それだけでは中々上達はしないのだろう。

そこで美琴は来るべきの事を考え、料理の本を買い込みその内容を全て頭の中に叩き込んでいた。そう、全ては上条の為に。
常磐台の寮の美琴の部屋の本棚には、何冊か料理の本が並べられている。しかしその本を手に取ってみると、所々しわしわになったり折れ曲がったり少し破れていたり。落丁という訳ではなく、その本を何回も何回も使い古した為であった。
 大抵料理の本には作り方と共にコツが書いてある。しかし美琴はそれに更に要点を付け加えたり纏めたりして秘密のノートに書き写していたのだ。

ここまでするのは、一重に食べてくれる誰かのため。誰にも見せぬ並々ならぬ努力を重ねていた。

「これ、本当に美味いなぁ」

そしてその食べてくれる『誰か』……一人しかいないが、その人は本当に美味しそうに自分の作った料理を頬張ってくれている。その努力が、血と涙と汗の結晶が報われた瞬間だった。

──嬉しすぎる……。

キュンキュンキュンキュンキュンキュンキュンキュンキュンキュンキュンキュンキュンキュンキュンキュン……(以下エンドレス)

この胸の高鳴りが気持ちがいい。もう見ているだけで胸がいっぱいになっていた。
114 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/01/11(火) 01:15:06.15 ID:8otfgFSDO

「ふぃー、美味かったよ、ご馳走さま」

満足という風に手を後ろにやり、賛辞を送る。それだけでも嬉しさが胸を包み自然と笑顔が浮かんだ。

「お粗末さまでした」

「いやいや、粗末なんてもんじゃねーぞ。こんなご馳走食べたの久しぶりだ」

二日前にも同じような台詞を聞いたのだが、今回は自分の料理に対しての感想なのだ。思わずニヤけてしまう表情を隠そうと、食器を台所へと運ぼうと美琴はその場を立った。

「うー、ごちそうさま、なんだよ」

するとまるで期待してなかった少女からの言葉まで美琴の耳に届いた。

──美味しいって、言ってくれた!

耳に届いても右から左へと流していたようだが。
115 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/01/11(火) 01:17:33.74 ID:8otfgFSDO

食器をカタカタと洗う。上条は自分が洗うから、と言ったのだがそれをも断り、綺麗に食器を洗い上げていく。

普段は平日限定の聞かない、けれど知っているメロディがテレビから流れ出しているのを耳にした。

「あ、そうだインデックス。買い物行ってきてくれるか?」

「え、行ってきたんじゃなかったの?」

「上条さんヤンヤンつけボールが食べたくなりました。ほらこれで好きなもの買ってきていいから」

「えっ、じゃあ肉まんとか肉まんとか肉まんとか買ってきていいの?」

「……いっそ肉まんになっちまえよ」

食器を布巾で拭いていると、そんな会話が聞こえてきた。拭き終わった食器を置き、リビングに戻るとインデックスは立ち上がって今にも出掛けてきそうな雰囲気だった。

「んじゃ私もヤンヤンつけボールね」

「むぅ、肉まんが買える数が減っちゃう」

「ほら、これで好きなもの買ってきていいから」

「わぁい、ありがと短髪」

「……短髪っての、やめてくれないかしら」

「考えとくよ。んじゃ行ってくるんだよ!」

漫才のようなやり取りを終え、インデックスは買い物へと向かった。

「……子供だな、丸っきり」
「……大変手のかかる大きな子供ね」

それを見送ると、苦笑いが自然と出てくる。元気なのはいいと思うのだが。
インデックスの取り柄は元気な所だけ……ではないのだろう、きっと。

「ははっ、んじゃ御坂がお母さんで俺がお父さんみたいな感じだな」
「んなっ!///」

そんな事を考えていると、予想もしない展開から爆弾発言が上条の方から飛び出してきた。

──アイツがお父さんで、私がお母さんで。つつつつまりりりふふふたりりりはふふふうぅふふふ……

「……御坂?」
「ふふふふ……///」
「ど、どうした?」
「ふにゃー/// って、べ、別に何でもないわよっ///」

ヤバい。ニヤけが取れない。そんな時でも全く動じない、というか自分のした発言に気付かない目の前の男が少し恨めしく感じた。
116 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/01/11(火) 01:19:44.13 ID:8otfgFSDO

「……さて」

テレビを消す。今から話す内容は……おふざけのない真面目な話なのだ。
美琴も上条の目の前でじっとしており、上条の目を見ていた。

「俺の身体についてなのだが」

「……っ、うん……」

美琴の頭に先ほどの上条の苦しむ姿が思い浮かぶ。今は落ち着いたとはいえ、見て耐えられるものではない。

「ここ数日、さっき御坂が見た発作が急に起きるようになったんだ」

「っ……うん……」

「医者には風邪、だと言われているが」

「……」

「俺は、そうではないと思っている」

「……っ」

それは、何となく美琴にも予想はついた。あの苦しみ方は、風邪なんかではない。
発汗量、他人から見ても尋常ではない発熱。それに頭を押さえていたという事から、恐らく立っていられないほどの頭痛も。
そして、目の色の変化。

そこで美琴は自身の唇を強く噛み締めていた。目の前の愛しい少年が何かしらの病か、それとも別の何かに蝕まれていて。
見ているのは辛い。出来ることなら、代わってあげたい。
しかしそうした所でこの少年はよしとしない。でも、どうしても、力になりたかった。
117 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/01/11(火) 01:20:46.19 ID:8otfgFSDO

「この目の色だって、変わってるわけだしな」

「……うん」

「そこでだ」

「……ふぇ?」

テーブルの上に落としていた視線を再び上条の目に戻した。その目は力強く自分を捉えていて。

「御坂に、頼みがある」

「!」

「俺は幻想殺しなんていうもん持ってるけど、異能の事について知ってる情報は少ない」

「…っ…うん」

「病気ではなく、他の何かだったのなら、という考えも浮かんだんだ。だからもし何か、この症状について分かった事があれば、教えてほしい」

美琴は言葉に詰まった。今まで自分を頼った事のない上条が、自分を頼ってくれている。
正直、話してくれるとは言ってたものの、簡単に説明してはい、終わりと思っていたのだ。だから、自分を頼ってくれたと言う事が。

「……頼まれて、くれるか?」

「あっ、当たり前じゃない!アンタを、当麻を一人、苦しませる訳にはいかない……当麻にはいっぱい助けてもらってたのに……私は、いつも見ているだけだった……」

「御坂……」

とてつもなく、嬉しかった。

「でもいつまでもそういう訳にはいかない……、当麻の身体は、私が治してあげるわ!」
118 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/01/11(火) 01:21:48.26 ID:8otfgFSDO

美琴はテーブルの上に置かれていた上条の手を取り、強く握りしめた。自分の力を、全て見せてあげると言わんばかりに力強い想いを込めて、上条を守ると誓う。
……それが出来なくて何が超電磁砲だ、何がレベル5だ、何が学園都市第三位だ。上条の為なら、何だって出来る。上条がいれば、何だって叶えられる。

「……御坂。ありがとな」

だからこの笑顔を、ずっとずっと守っていこう。支えていこう。そう決めた。













「……何で二人は手を繋いでいるのかなぁぁぁぁ?」

「「!?」」

ピキピキとこめかみに血管を浮かべて立つ般若シスターの姿を見て二人の心臓は一気に脈を速めた。

「い、インデックス!いつからそこに!」

「私が帰ったら二人が手を握り合って見つめていたんだけどぉぉぉぉ、今から何をしようとしていたのかなぁぁぁぁ?」

買い物袋を静かにテーブルの上に置くが逆にそれが迫力をより醸し出していた。

「こ、これはあのだな……ほら御坂も何か言ってやってくれ!……って御坂さん?」

上条は手を離そうとするが、美琴は逆にその手に力を込めた。

「……あらぁぁぁ?私と当麻が手を繋いで何か問題がおありなのかしらぁぁぁ?」

手を繋いでいるため電撃は出ないはずなのだがインデックスと美琴の間に火花が飛び散っているように見える。

いや、実際に火花は切って落とされた。

「さっさととうまから手を離すんだよクソ短髪──!!」

「んだとぉ!?やるかゴラァァ!!」

そしてその戦いに巻き込まれた少年は決まってこう言う。


「んだぁ、もう不幸だ───!!」
119 : ◆LKuWwCMpeE :2011/01/11(火) 01:25:36.46 ID:8otfgFSDO
ここまで。
>>118
>火花は切って落とされた。
って何だよ火蓋だろJK
だから低能なんだよks
また夜10時くらいに投下出来るように頑張る

もう火花は落とさないから///
120 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/11(火) 01:31:44.68 ID:rHrd84Elo
油断してたら投下来てるだと…
いいなあこの3人…ww
121 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/11(火) 01:39:40.57 ID:jTaKmo6Do
美琴健気過ぎるだろ…
GJ!
122 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/11(火) 01:48:55.38 ID:G23b/Mv50
GJ!健気な美琴かわいい
123 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/11(火) 02:10:41.70 ID:pv1dpGlGo
>>1乙!
さて、そろそろ俺の木山先生の出番だな
124 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/11(火) 11:34:04.23 ID:7YZXei6SO
面白いよ
125 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/11(火) 19:05:45.26 ID:/vINek8Ho
赤黒い目に木山先生か......
126 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/01/11(火) 21:18:51.99 ID:8otfgFSDO

「あの人……いるかな」

上条の部屋から一旦外に出て、美琴はビルの並ぶ町並みを歩いていた。

 上条の体について、何かが起きていると言う事しか分からない。しかし上条に頼まれた手前、美琴は即座に行動に移していた。
 現在上条は彼の自室にて休養中。その際、彼の寝場所について一悶着あったのだが。


『……は?アンタ、いつも風呂場で寝てんの?』

『仕方ないだろ……ベッドはインデックスが使ってるし、同じ部屋で寝る訳にもいかないんだからさ』

『むー、私としては構わないんだけどとうまったら聞かないんだよ』

『このチビっこいのが別の場所で寝るべきだと私は思うんだけど』

『そういう訳にもいかんだろ』

『私はフカフカのベッドでしか寝れないんだよ!』

『アンタねぇ……!コイツに迷惑掛けてるという自覚はないの!?』

『それに別に短髪には関係ないと思うんだよ!』

『お、おいインデックス……煽るなよ』

『はぁぁ!?関係ないとかそういう問題!?大体アンタはご飯食べて寝るだけじゃないの!居候させてもらってるという自覚を持ちなさいよ!!』

『み、御坂も落ち着いて……ほら、な?』

『やだやだ、これだからキレやすい短髪は』

『こ・の・ク・ソ・チ・ビ・がぁぁぁぁぁっっ!!』

『ちょ、電撃はやめろ!部屋が!家電がぁぁ!』

『あーあ、とうまカワイソ』

『グガガガガガっっ!!』



『不幸だぁぁーっ!!』

 あれから荒れた部屋を片付け、上条を何とかベッドの中に押し込んだ。
何やかんやで眠りに就いた上条を確認すると、美琴は出掛けると言いそして現在に至る。
127 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/01/11(火) 21:21:23.56 ID:8otfgFSDO

──はぁ、あのシスターは。

溜め息を吐き、愚痴をこぼすが誰も聞いちゃいない。頭の中にほんの少しだけイライラが残っているが、今はそれよりもやるべき事がある。




 向かった先は研究所。ある一人の研究者を訪ねてきていた。

「……」

研究所、というものを美琴はあまりよくは思わない。あのシスターズの件の時、数々の研究所を潰して回った。
その時見た研究者達は保身、言い訳、正当化、命乞いばかりで。研究者というのにロクな人種に会った事がない。

 だが今から会う研究者は違う。やり方こそ間違ってはいたが、全ては子供達の為にその身を滅ぼそうともしていたあの女性研究者。

入り口のインターフォンを押す。特に新しくもなく、こじんまりとした建物で上条の住む学生寮と似たような雰囲気を醸し出していた。

「……」

反応がない。もう一度押す。

「…………」

やはり反応はなかった。

「いないのかな……」

ボソリと呟いても誰も聞いてる訳でもなく、美琴は研究所を後にした。
128 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/01/11(火) 21:22:11.57 ID:8otfgFSDO

「ん……」

上条が目覚めると窓の外はオレンジ色に染まりつつあり、時刻も16:00になりつつあった。

──結構眠ってたんだな。
 部屋には美琴の姿はなく、いまだ戻ってきてないようだった。
 と、そこで自分の右手を包む柔らかい感触に気付いた。

「……インデックス」

横に目を向けると、自分の手を握りながらベッドにもたれ掛かりながら寝息を立てるインデックスの姿がある。

──こいつにも、心配掛けたな……。

 実際に発作が起きている所を見られた訳ではない。
深い所は何も聞かない。それがインデックスなりの優しさなのだろうか。ただ何かあった時、インデックスはこうして心配してくれていた。

「……」

そんな自分を情けなく思いながらも感謝もしていたが。











「……とうまぁ……肉まん…ムニャムニャ」

「さっきあんだけ食ったろうが」

彼女は彼女、いつも通りであった。
129 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/01/11(火) 21:24:05.97 ID:8otfgFSDO

目的の人物の不在を確認すると、次の目的地へと歩き出す。ちらほら現れ出した学生達を見て、美琴は時刻を確認した。

「もうこんな時間か……」

携帯を取り出し、ディスプレイを開くと時刻は16:00丁度だ。気付けば夕暮れの光の色になっていて、美琴は歩くスピードを速めた。

ピピピッ。

すると美琴の携帯の着信が鳴り、その発信元を確認する。

──着信 黒子──

「げ」

その名前を見た美琴は嫌そうな表情を浮かべ、出るか出まいか迷う。
しかし白井黒子という少女、愛するお姉さまの為に出るまで鳴らし続ける習性があり、それを無視すると後々面倒くさい。

 過去に一度無視した実例があるのだが、何と彼女は初春飾利という少女に頼み込み、美琴の携帯から発する電波を元に居場所をわざわざ割り出すという犯罪まがいの事をしてまで追いかけてきた(いや、アウトか?)。
……まぁそれに激怒した美琴は黒子を丸こげにした後二度とこんな事をしないと約束させたのだが。
 その件以降は彼女なりに自重したのか、美琴が出るまで鳴らし続けるという手段に変更した。それはそれで迷惑な話だが。
気付けば着信履歴20件なんてざらな為、美琴は早目に応対しようと決めていた(上条からの着信履歴を消されない様に死守する為)。

「……はぁ。もしも『お姉様っ!!今何処にいますの!?』

──最後まで言わせろよ。

『今日は学校お休みになさったと聞いて、黒子は黒子はいても立ってもいられませんでしたの!ご無事ですの!?』

「別に何ともないわよ。ちょっと調子悪かっただけ」

本当の事を言うと面倒くさい事になりそうだから適当に誤魔化したかったのだが。

『なら何故寮にいらっしゃいませんの?お休みになったと聞いて駆け付けましたのにお姉様いらっしゃらなくて心配ですの』

「アンタまさか寮内までテレポートしたんじゃないでしょうね」

『ギクッ』

時刻を見て、学校から寮までの時間を考えるとこの短時間で辿り着くのは不可能なはず。すると考えられるのは彼女の能力である空間移動だけだ。
しかし常磐台の寮では能力の使用は規則で禁じられており、常磐台の寮を仕切るアノ寮監が逐一目を光らせている。バレたらとんでもない制裁をくらう事になる。
 美琴としては別に黒子が制裁を受ける事に特に気にはしないのだが、「連帯責任って知っているか?」と言う寮監のお決まりの台詞と共に同室である自分にもとばっちりが飛ぶのだから美琴も必死だ。
130 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/01/11(火) 21:25:16.30 ID:8otfgFSDO

『と、とにかく!お姉様今何処にいらっしゃるんですの?迎えに上がりますわよ』

下手な誤魔化しなのだが、長くなりそうなので美琴は流す事にする。

「あーいいわ。用事あるし。門限までには間に合うように帰るから」

『……お姉様。用事ってもしかしてあの殿方ですの?』

「ギクッ」

ピンポイントで付かれるその質問に、先程とは逆に美琴が言葉に詰まった。

『その反応という事は当たりですのね……おのれあの類人猿んんん』

何かと上条を目の敵にしている黒子から呪詛のようにいつもの言葉が美琴の耳に届いた。

「とにかく!夕食も食べてくるから帰りは気にしなくていいわよ。そんな事よりジャッジメントの仕事しなくていいの?」

『お姉様の為なら優先順位は変わってきますの!とにかくあの類j──ブツッ。

伝えたい事は伝えた。もういいよと言わんばかりに通話を切るとすかさず電源を切った。これでいいだろう。

「はぁ。邪魔が入ったわね……どうしよう、今日は戻ろうかな」

思わぬところで時間を食ってしまった。はぁ、と肩を落とし美琴は来た道を引き返すことにした。
131 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/01/11(火) 21:26:12.26 ID:8otfgFSDO

「……ふむ」

ある一室で、二人の人物がの姿があった。二人が囲むようにして真ん中に置かれたテーブルの上には、並べられた資料とレントゲンらしき写真。少し動けば着衣の擦れる音さえ耳に届くほどの静寂がその場を包んでいた。

白衣を着た初老の男が確認するように呟く。

「歪んでいた、ね?」

それに、同じく白衣を着た顔立ちの整った女性が答えた。

「……。今朝彼と病院の入り口ですれ違った際に、こっそり調べさせてもらった。数値的にはこのようになっている」

「これは……」

その女性の提示した一枚の紙に、男──冥土帰しの顔の目が少し見開いた。よくよく注意して見れば、程度の事だったが。

「彼は無能力者らしいのだがね……」

少し溜め息を吐きながら呟く女性──木山春生。

「いや、もっとも能力など“発現しようのない”体質のはずだが」

その心中は『ありえない』と言わんばかりに難しい顔をしていた。

「幻想殺しが関係している──と見ていいんだね?」

冥土帰しが確認すると、木山は「恐らく」と頷く。

「あの目も気になるが」

「……」

二人の視線は先程提示された一枚の紙。


 そこには、無能力者ではありえない数値が羅列されていた。
132 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/01/11(火) 21:27:35.01 ID:8otfgFSDO

「ただいまー」

「おう、おかえり御坂」

美琴が戻ると上条は起き上がっていて、テーブルの上にペンを走らせていた。
おかえり、という言葉にかなり喜んだのか照れたのか知らないが頬を赤く染める。……上条の視線はテーブルの上だったのでバレずに済んだが。

「何してんの?」

んーなんて言いながら頭をポリポリ掻くもんだから、美琴は気になって尋ねた。

「……宿題。担任の先生が今日休んだからって特別に作ったらしいんだけどな……。勘弁してほしいぜー」

やれやれと言った具合に溜め息を上条は吐いた。とは言え、これやったら補習はなしにしてあげますよーなんて言われたらやらずにはいられない。

「どれどれ……」

と美琴は上条の横に陣取りそのテーブルの上に置かれたプリントを見た。

 と、その前に。

「あれ、あの子は?」

そう言えばインデックスの姿が見当たらないな、と上条の方に視線を向けた。

「風呂洗ってくれてる。珍しいよな、あいつが家事なんて」

そう言われて風呂場の方に視線を向ける。風呂場の方から水音と共に鼻歌が混じって聴こえてきた。……何だか聞き覚えのあるアニメのテーマソングだった。

「あの子なりに心配してるんじゃないかしらね?」

「んー、そうだな……」

もちろん私も、と言おうとしたのだが上条の申し訳なさそうな表情を見てやめておいた。押し付けるものではない。

「……てか。ここ、間違ってるわよ」

「な、まじでか!」





その後は夕食の時間まで上条の宿題の採点は続き、間違いを発見する度にしょんぼりする上条の顔にキュンときたのはまた別の話。

 こうした些細なことでも力になれて、美琴は嬉しかった。
133 : ◆LKuWwCMpeE :2011/01/11(火) 21:28:55.85 ID:8otfgFSDO
また明日投下出来るように頑張る
134 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/11(火) 21:36:44.73 ID:b+moINtPo

二人とも可愛いな
135 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/11(火) 22:31:38.27 ID:+4zp1f6lo
乙です!
続き待ってます!
136 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/11(火) 22:32:49.28 ID:KB7INGYAO

上げのおかげで良作発見
137 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/11(火) 22:39:13.28 ID:hmtI1gCW0
上条さんの覚醒フラグかな

がんばれ大支援
138 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/11(火) 23:38:17.96 ID:fLfNsl5AO
美琴さん無自覚でただいまーとか言っちゃってるww
139 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/12(水) 01:03:48.95 ID:MC63WlBno


>「ただいまー」
大した奴だ…
140 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/12(水) 02:36:48.05 ID:fy6cdnXg0

 乙!!
 美琴wwwwww重症だなwwwwww登場人物がみんないい味出してる
 良スレ発見!!厨二大歓迎ですよ
141 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/12(水) 03:15:02.50 ID:E30+MhlC0
乙!続き楽しみ
142 :休憩中に投下 ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/01/12(水) 15:02:03.16 ID:2Fe6xPCDO

「美味かったよ、御坂。ご馳走さん」

夕食を摂り終え、時刻もそろそろ帰らなければならなくなってきていた。名残惜しいのを堪え、美琴は帰り支度をしていた。

「しっかり休んどきなさいよ。アンタもコイツをしっかり見ておくように」

「分かってるんだよ!ご飯美味しかった、ごちそうさま!」

素直にお礼を言ってきたインデックスに少し驚きつつも、美琴は立ち上がった。

「別にいいわよ。また明日も来るから」

「何か悪いな」

ここでいいよと言ったのに玄関まで見送りに来た二人に少し顔が綻びながら、鞄を手にした。

「こういう時くらい甘えなさいよ、私が好きでやって……と、とにかく!早目に寝なさい!分かったわね!」

思わず口を滑らしそうになった所を回避し、恥ずかしさから逃げるようにドアを閉めた。

──バタン。

「……どうしたんだろ?」

「……どんかん」

「ん?何か言ったか?」

「別にー?」

相変わらずの上条にインデックスは呆れたように視線を寄越し、リビングへとスタスタ歩いて行った。普通の人ならその何かに気付くはずなのだが、そこはさすが上条としか言えまい。
143 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/01/12(水) 15:02:42.29 ID:2Fe6xPCDO

 ポリポリと頭を掻いて、上条もリビングに戻っていった。


……すると。


ピンポーン、とインターフォンがの音が部屋に鳴り響いた。

──御坂か?忘れ物でもしたのかなと思い浮かべながらドアを開けると。

「はいはーい、どちら様ですかー」

「カミやーん、休んでると思ったら常磐台のお嬢様なんかとイチャコラ……」

ドアを開けると上条のクラスメイトであり、隣の部屋に住む土御門の姿があった。

「土御門か。どうした?」

「カミやん……?」

土御門は上条の顔を見て驚いてる様だった。

「……あ、そか」

──この目、か。
上条は忘れていたが、目の色が変化している。上条もその事について土御門に用があった。

「ちょうどよかった。聞きたい事があるんだ」

「……分かったぜい」

上条は土御門を招き入れ、再び部屋の中に入っていった。
144 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/01/12(水) 15:03:29.91 ID:2Fe6xPCDO

 今日一日で大分上条との距離が縮まったように思える。その事は美琴にとって嬉しく思えたのだが。

「……」

一人になると思い出してしまう。昼間見たあの上条の異変。苦しみに悶えたその姿が焼き付いて離れない。

この震えは冬の寒さだけではない。不安がそれに乗じていて、気を抜けば目も潤んでしまいそうで。左右に目に映る街灯、店の光や車のライトはその気持ちを和らいでくれるが、それはほんの少しだけ。

──早く帰ろう。今は一人という状況がとても心細い。まるで自分の痛みのように感じた上条の苦しみは、もう思い出したくない。

 それでも気丈に振る舞うその姿。苦しいはずなのに自分に心配をかけまいと、いつも通りの顔を見せてくれた。
そして帰る時に至ってはも送るとさえ言い出すのだ、どこまで彼はお人好しなのだろうか。

「……ばか」

その声は白い息と共に真冬の虚空へと消える。さっきまで会っていたと言うのに、ほら、もうこんなにも会いたい。

 今日一日で更に増したこの想いを胸に美琴は歩いていると、横でキュッとタイヤ音を立ててスポーツカーが止まった。

「あれ、この車……」

その車には見覚えがあった。その所有者は美琴が今日探していた人物で。

左ハンドルのその車のウィンドウが開き、運転手が自分に声を掛けてきた。

「御坂君」

「木山先生……」

そこには木山春生の姿があった。
145 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/01/12(水) 15:05:02.75 ID:2Fe6xPCDO

「……なるほどだにゃー」

目の前の土御門は腕を組んで考え込んでいた。

 土御門には全てを話していた。美琴には言わなかった、魔術関連の事も交えて上条が考えうる可能性も含めて、だった。

 土御門の事は親友として、共に戦ってきた仲間として上条は信頼しきっている。随分世話になった気もしていた。
ちなみにインデックスは隣の土御門の部屋に場所を移させた。土御門の義妹の舞夏の料理に舌鼓を打っている事だろう。

「とにかくこっちはこっちで調べてみるぜい。でカミやんは明日は学校来るのかにゃー?」

「んー明日の朝の調子次第だな。でも行くとしたらこの目、何て説明したらいいんだろ」

「イメチェンとでも言っておけばいいんじゃないかにゃー?」

「そんなんであいつらは納得せんだろ……」

鬼気迫る表情で迫ってくるクラスメイト達を想像して少し身震いがした。特に吹寄。青ピはどうでもいい。
……すると。

「……そんな事よりも、だ。聞きたい事がある」

空気が変わった。
146 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/01/12(水) 15:05:44.92 ID:2Fe6xPCDO

「……土御門?」

急に表情を引き締め、上条の目をじっと見る土御門。彼の口調は普段、にゃーだのぜいだの変な語尾を付けて話す。しかし、それが今は消えていた。

 上条の額に冷や汗が浮かぶ。もしかしたら、何かあったのか。中々見る事のない真面目な顔つき。そこには『必要悪の教会』の一員としての土御門の顔付きみたいだ。

──ゴクリ。唾をも飲む音が聞こえる静寂の中、一秒一秒時間が経過する度に焦燥感が増す。
インデックスの身に何かあったのか?それとも学園都市で何かが起こるのか?

上条は再び促そうと口を開こうとした時。












「超電磁砲と何をしていたんだにゃー?」


「………………は?」


土御門のその質問に上条はそう言うしかできなかった。

「は?じゃないぜいカミやん!さっきまでこの部屋にいたの、超電磁砲だろ?」

ニヤァァァという音が聞こえてきそうなほど口の角をつり上げ、答えを求める土御門。思わずテーブルに付いていた手を滑らせるとこだったが何とか堪えた。

「こんな時間までナニをしていたのかにゃー?ナニを」

「何を強調するんじゃねぇ!いきなり真面目モードになるから焦ったじゃねーか!」

「お、否定しないって事はヤッたと捉えていいのかにゃー?」

「何にもしてねぇよ!それに俺は御坂とそういう関係じゃねぇ!」

「禁書目録もいるってのに、可哀想な子だにゃー」

「人の話を聞けアロハ野郎!」

 ……とまぁ、結局、そこにあったのはいつも通りの二人の姿であった。
147 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/01/12(水) 15:07:50.24 ID:2Fe6xPCDO

「クチュン!」

「おや、風邪かな?」

信号待ちをしていた車の中、可愛らしいくしゃみが出た。

「いえ、身体は何ともないはずですけど」

「なら気になる異性に噂にでもされているのかな?」

「えっ、そっ、そんなっことっ///」

「君は嘘はつけないみたいだね」

隣を見ると前を見てはいるが何だか楽しそうな表情の木山だ。からかわれた事に少し不機嫌そうに頬を膨らました。

 そこで美琴は聞きたかった事を聞く事にした。上条の身体の事、少しでも手がかりがほしい。

「あの」

「ん?何だい?」

「先生は大脳生理学の研究してましたよね?」

「ああ。それがどうかしたかい?」

「……知り合いが、突然の頭痛、発熱が出るようになったみたいなんです」

「……!」

そこで木山は驚いた。その症状が出る少年について、先ほど冥土帰しと意見交換をして来た所なのだ。

だが、まだこの時点では確定ではないだろう。美琴の言葉を待った。

「それで……その頭痛とかは少し時間が立てば治るみたいなんですけど……その……」

「……」

「目の……色が変化しちゃって……」

「!」

木山はそれを聞いた時、美琴が誰の話をしているかを確信した。
148 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/01/12(水) 15:10:18.06 ID:2Fe6xPCDO

 幻想殺し──上条当麻。間違いない。先ほど話し合っていたあの少年だ。

「その目の色が……その、幻想御手の時の木山先生に似ているんです」

ちょっと違う所はあるんですけど、と加えて美琴は言った。

──なるほど、やはりあの少年なのか。そういえば幻想殺しと超電磁砲。仲が良いと言う噂を耳にした事があった。

「……ふむ、なるほどね」

この少女にも伝えるべきなのだろうか。いや、自分の中で立てた仮説も合っているとは限らない。
この世に『絶対』などというものはなく。『もしかしたら』や『偶然』という事象を突き詰めていった先に因果がある。

 だがこの少女は『自分だけの現実』を如実に現すトップの存在でもある。彼女の持っている『もしかしたら』があの少年を快方へと導くのかもしれない。

 木山は事件を通して、美琴という存在を認めている。木山からしたら年齢的にはまだまだ子供だ。しかしその子供に教わった事もたくさんある。
この子なら信じられると、木山は次の行動を決めた。



「今、私にはやる事があってね」

「……」

「ある医者に頼まれたよ。一度敗北した私を手助けしてほしいってね」

「……?」

美琴には木山が何を言おうとしているのかが分からなかった。ただ、木山の言う言葉をじっと待っていた。

「……君の言う知り合い。幻想殺しなのだろう?」

「!!」

「彼には一度私も助けてもらっててね。とは言っても駐車場の場所がわからなくなって困ってた所を助けてくれた、くらいなもんだけどね」

突然の上条の話に美琴は驚き、口には何もせずただ聞いていた。
149 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/01/12(水) 15:11:08.27 ID:2Fe6xPCDO

「彼も場所が分からなかったのに、必死になって探してくれてね」

美琴はそう言う木山の顔を見ていた。笑った顔はほとんど見た事がないのだが、彼女は今、楽しそうな顔をしていた。

 信号が赤に変わり、ブレーキを踏むと木山は美琴の方に向いた。

「君は、あの少年が好きなのかい?」

「ふぇっ!?///」

突然の攻撃に美琴は視線をずらし、下の方を向く。その顔は真っ赤に染まっていて、言葉にしなくても答えが分かってしまう。

 その事に更に楽しそうに笑った木山は続けた。

「明日、彼と一緒にあの病院に来てくれるかい?」

その言葉に再び木山の方に視線を戻すと、彼女は既に顔を前に向けていて、信号が青に変わったと同時にアクセルを踏んでいた。その表情には、何か力強さがあったと美琴は感じて。

「……はい!」

と美琴もまた力強く返事を返した。
150 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/01/12(水) 15:12:02.14 ID:2Fe6xPCDO

翌日。

まだ日も昇りきっていない早朝、美琴は支度をしていた。あとはコートを着るだけの所で、隣のベッドで眠る少女に目を向ける。

──どうかこのまま起きませんように。
起きたら起きたでしつこく絡まれるであろう。ジャッジメントの仕事が舞い込んだのか、昨日は黒子の方が帰りが遅かった。
疲れたのだろうか、昨日は早目に就寝していて今でも熟睡中だ。彼女の多忙さに感謝の念を浮かべると、なるべく音を立てないように部屋を出た。

「さむっ」

寮の外に出ると、吹き付けるような冷たい風が襲う。常磐台の規則として外出時にも制服着用義務があるのだが、冬の季節に制服の上に着るコートはその限りではない。
唯一のおしゃれポイントとして羽織るそのダッフルコートのボタンを締めて、美琴は歩き出した。

……その美琴のお気に入りのコートは、確かに可愛らしいデザイン。しかし彼女の友達──ルームメイト含むいつもの三人やら同級生達やらに言わせれば『子供っぽい』らしいのだが。
151 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/01/12(水) 15:12:52.63 ID:2Fe6xPCDO

「おおお起きてるのかな?」

上条の部屋に到着すると。鞄の中に入っていた手鏡で確認しながら、あたふた髪の毛やら服装やら直す。内心ドキドキだ。

「よよよよし」

インターフォンを押す手がプルプル震える。

「さささ寒いからね」

いや、絶対それは寒さだけではないだろう。

 ……しかし、美琴はそこで考え直す。今現在の時刻は06:00をちょっと過ぎたあたりだ。

「……まだ、寝てる、かしらね」

自分だったら普段いまだに夢の中にいる事だろう。

「……起こしたら可哀想なだけだからね」

誰に言い訳をしているのかその言葉を呟くと、美琴はある『裏技』を使って鍵を開けた。





 美琴が中に入ると、まず先にリビングの床に転がるインデックスを発見した。
そこにはきちんと敷かれている布団をはだけさせて、身体は半分出ている。

それを見ると、ちゃんと上条にベッドを使わせた様だった。

 ……そして、そのベッドには。

──ドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキ……。

規則正しい寝息を立てて眠る上条の姿があった。
152 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/01/12(水) 15:14:10.54 ID:2Fe6xPCDO

 こうなるともう美琴の目にはインデックスの姿は映らない。

──いつもと違って、ちょっと髪の毛ふにゃってなってるーだとか、意外と睫毛長いんだーだとか、寝てる姿もかっこ……ゲフンゲフンだとか。

と言う感想を持ちつつ、上条の寝顔をまじまじと眺める。何だか胸がキュンときて、温かくなって。
自分には出来ない事をやってのけるヒーロー。傷付きながらも皆を守り、心に入り込んでは人々を幸せにしてくれるこの存在が、今、とてつもなく愛しい。
将来的には毎日この寝顔を眺めていられるのかと言う妄想さえ頭の中で垂れ流されている。

──な、何想像してんの私っ!?///

寝起きドッキリ的な要素も加えてか、何だかイケナイ事をしているみたいで更に胸の高鳴りは抑えようになくなってきた。

「うぅーん……」

「ひゃいっ!」

と、いきなりの唸り声で美琴の心臓は更に揺れた。

──し、しまった!
 悲鳴を出した事によって起きたのではないか、と上条を確認したのだが。

「……すぅ……すぅ……」

再び寝息を立てた上条を見て、美琴はほっと一息ついた。

 ……ってあれ、何だ?何か上条の顔が近い。気付けば寝息も顔に当たるほどの距離。

「っっ!!///」

──ななな何でこんなに近いのよ!

実際近付いたのは美琴なのだが、焦りとテンパリでもう何が何だか分からない。
153 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/01/12(水) 15:15:19.78 ID:2Fe6xPCDO

──あ……。

ふと視界に映ったのは上条の唇。もう数cm動けば自分のそれと重なってしまうのではないか。

──寝てる時は、ノーカウントよね……。

美琴の願いが(一方的に)叶うまでその距離は僅か。
夢見た少女は、乙女心をいつまでもその胸に刻み込んでいて──。













「大根……生でも……食べられるんだよー……ムニャムニャ」

カプッ。

「痛った────────!!!」

「ななな何だっ!?敵襲か!?」

……夢見る少女は、まだその夢を叶えては、いない。
154 : ◆LKuWwCMpeE :2011/01/12(水) 15:17:32.53 ID:2Fe6xPCDO
ここまで。また書き溜めてくる
155 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/12(水) 15:25:47.30 ID:am/BS36Ro
大根・・・!
ぼくも美琴ちゃんのふとももカプカプしたいお
156 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/12(水) 16:26:02.12 ID:hM/TqWxRo
乙!
続き待ってる
157 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/12(水) 19:01:55.80 ID:WHePgaM0o
大根wwwwwwwwww
158 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/12(水) 22:18:45.96 ID:fGxRegKDO
大根と称したのがふくらはぎのことか太もものことか、それが重要だw
159 :大根はふくらはぎにしといて ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/01/13(木) 00:01:28.51 ID:OXXH7SHDO

三人でテーブルを囲んでいるが、三者三様の表情をしていた。
ムスッとしたのが一人。
お構い無しに機嫌よさそうにがつがつ米を頬張るのが一人。
チラチラ機嫌を伺いながらビクビクしているのが一人。

「ふろふき大根美味しいんだよ!美味しいんだよ!」

「……………(イライラ」

「……………(ビクビク」

「さっき何だかほっそい大根食べてた気がしたんだけど気のせいなのかなぁ……」

「チッ」

「ひぃっ!?」

さっきからずっとこんな調子だ。ビクビクしているから上条の箸はあまり進んでいない。

「調子、悪いの?」

 しかし美琴はその事に気付き、表情を一変させ心配そうな顔になった。

「ひ、い、いや、別に、そんな事はないぞ」

突然声をかけられた事、牙を向けられたと思ったのか、一瞬怯んだ様子の上条だったが咄嗟に立て直すとご飯をかき込んだ。

「おっおっおっかわりー♪」

するとインデックスはそう歌いながらトテトテと炊飯器のある場所へ向かって行く。

 それを横目で見た美琴は上条にそっと耳打ちをした。
160 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/01/13(木) 00:03:06.38 ID:OXXH7SHDO

「(アンタ今日学校休める?)」

「……?」

内心ちょっぴり近付いてきた美琴にドキマギしたが、その返答として、何で?と視線で返事をする。

「(……木山先生って、覚えてる?)」

「(……木山?いや、そんな人知らないぞ)」

「(……。研究者なんだけどね)」

──知らない……って事はあれは当麻が記憶を失う前だったのかな。いや、名前を知らないだけという可能性も……、と美琴は昨日の木山との会話を思い出しながら続けた。

「(?それで?)」

「(うん。その人がね、今日ゲコ太のいる病院に来てほしいって)」

「(!)」

そこで上条の目は少し見開いた。

「(……もしかして、昨日俺が寝てる時に御坂がいなかったのって)」

「(あ……、う、うん、その……ね///)」

美琴は動いてくれてたのか。わざわざ、真冬の寒い中聞き込みに行ってくれた事を上条は察した。
161 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/01/13(木) 00:03:50.45 ID:OXXH7SHDO

「(そっか……。ありがとな)」

「(っ!/// きっ気にしなくていいわよっ!///)」

その言葉に美琴は顔を赤くして取り繕った。でも嬉しくて、ありがとうと言ってくれた事に対してありがとうと言ってしまいそうな所を何とか堪えながらだった。

「(時間とかは?)」

「(あ、それは聞いてない。とりあえず普段学校行く時間に合わせて出ればあの子に怪しまれずに済むんじゃない?)」

「(……そうだな。そこまで考えててくれたのか。本当に、ありがとな)」

上条は美琴の行動、心遣いに感謝をした。昨日は頼むとは言ったが、自分の為にまさか即行動してくれるとは思ってなかった。
 いつも電撃を浴びせられていたので、自分の事などかなり優先順位は低いものだと思っていたのに。

クシャ──。

「(!?///)」

気付けば美琴の頭に手を乗せてしまっていた。

「(あ……悪い)」

何をしようとしたのだろう。手を離そうとしたのだが──。

「(……そこまでやったんなら、撫でて、よね……///)」

顔を真っ赤にしながら上目遣いで上条の目を見つめてきて。

 その瞳は水々しく、とても可憐に、上条は思えた。
162 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/01/13(木) 00:04:35.66 ID:OXXH7SHDO

「やっぱ外は寒いなー」

「アンタちょっと薄着なんじゃないの?もうちょっと着込みなさいよね」

「一応中には着てるんだけどな」

風車の回る、近未来的な街の中を歩く。冬らしく冷たい風が吹き、道行く人も寒そうに身を縮こまらせていた。

 上条は、ダッフルコートを着ている美琴とは違い学ラン姿だ。二人ともマフラーを着けて温かそうな格好はしてはいるが、やはり上に羽織るものが欲しいのか上条はブルッと少し身を震わせる。

「……コートとか買うお金があればいいんだけどな」

男として情けない事を言っているようなのだが、あのインデックスを養っている時点で仕方がないとも言えよう。

「……甘やかしすぎなんじゃない?」

自由気ままに暮らしているように見えるインデックス。美琴は呆れた様な声を出したが、上条は苦笑いをした。

「一応任されている訳だしなー……レベルさえ上がれば、奨学金とかにも期待できるのに」

 上条は人のせいにはしない。全て自分に責任があるとばかりに自分のせいにする。

「アンタはそういうヤツだったわね……」

上条のお人好しぶりに改めて溜め息を吐くと、美琴はある事を思い付いた。
163 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/01/13(木) 00:05:09.53 ID:OXXH7SHDO

「その病気みたいなの。治ったら何か温まるものプレゼントしてあげるわよ」

普通に買ってあげるわよ、と言っても上条は決して受け取りはしない。自分が何かしてあげたくても拒否されてしまうのだ。
だから、物をあげる時はいつも何かと理由を付けて、であった。

「ふむ、退院祝いなものか。はは、じゃそん時はありがたく貰う事にするよ」

言質は取った──と美琴は不敵に笑みを浮かべていた。どこまで妄想したのか、その顔は赤くなっていたが。



「あれ、御坂さん?」

するとそんな美琴に声が掛かり、慌てて表情を消すと声がした方を見た。

「あ、初春さん、佐天さん」

そこには彼女が様々な事件を共にしてきた、親友とも言ってよい二人の姿があった。
164 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/01/13(木) 00:06:49.40 ID:OXXH7SHDO

「おはようございますー」

「おはようございまーす」

「うん、おはよ」

少女達は挨拶をし合った。丁寧な言葉を使いながらもその雰囲気はとても仲が良さそうで微笑ましく見えた。

「御坂の知り合いか?」

上条も二人の姿を見ると美琴に尋ねる。そこで初春と佐天は驚いた表情を見せた。

「うん、友達」

そんな二人は何度も美琴と上条の両方に視線を移しては目を丸くしている。上条はその視線に気付くと、何だろうと首を傾げた。

「御坂さん!この赤目の人は?」

「この人との関係は!?」

やがて次第に初春と佐天は目を輝かせて美琴に詰め寄る。そのいきなりの様子に美琴は言葉を詰まらせた。

上条は元気な子達だなーと能天気な事を考えている。

「コイツは上条当麻って言って……」

「あ、ども。上条当麻って言います」

上条が声を出すと、矛先は上条に変わる。

「上条さん!初春飾利です。高校生、ですか?」

「上条さん!佐天涙子です!御坂さんの恋人なんですか!?」

「うっ」

ズイッと二人に近寄られて上条は一歩後ずさった。恐るべき中学生パワーか、その迫力に面食らったみたいだ。
165 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/01/13(木) 00:08:03.43 ID:OXXH7SHDO

「こここここここ……///」

助け船を出そうと美琴の方を向いたのだが、何故かニワトリになっていたので期待は出来ないだろう。

「う、うん……高校一年だけど……」

「キャー年上ー!」

「御坂さんやるぅ!」

しかし質問の一個答えただけでこの反応だ。しかも答えてないのに美琴の恋人として話が進んでるっぽい。

「あー、言っておくと」

「「はい」」キリッ

騒いでたのが嘘の様に静まる二人。二人の心中では一字一句聞き逃さずに、美琴をからかう要素を掴もうと言う心意気だった。

「俺と御坂は恋人同士なんかじゃないから」

「「へ?」」

それを言うと二人は止まり、鳩が豆鉄砲を食らったみたいな顔をしていた。

──へ?恋人じゃないの?
──何で恋人じゃないの?

と言う心の謎の声が上条に聞こえた気がした。何でってどういう事だよ何でって。

「俺なんかと恋人にさせられちゃ御坂が可哀想だ」

そこはキッパリ言っておかないとな、と説明すると二人は何故か残念そうな顔をした。

「そうだったんですかぁ……」

「せっかく面白い話が聞けると思ったのにー」

上条は思った。この二人を敵に回すと社会的に何かが終わりそうな気がすると。
166 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/01/13(木) 00:10:46.96 ID:OXXH7SHDO

 恐るべき中学生パワーをその身を持って体感した上条なのだが、ふと美琴に目を向けると下を向いていた──と言うより、俯いていた。

「……御坂?」

前髪で隠れてその表情は見えない。

「御坂さん?」

どうやら二人も気になったようで、美琴に目を向けていた。

「………………ぃ」

「ん?」

何かを呟いているのだろう。だがその声は小さく、はっきりと聞こえない。

「わ…し…そ…に…もゎ…い」

「……御坂さん?」

何だか美琴の変調に初春と佐天の二人も心配そうに見ていた。

 そして上条が美琴の顔を覗き込むと。



「私はっ!そんな風に思わないっ!って言ってんのよ!」



「わっ!?」

突然の大声に上条は驚きからか背筋が伸び、気を付けの格好になった。キ────ンと言う余韻が上条の耳を支配しながら。

そんな美琴に初春と佐天の二人も目を見開いている。

「そうよ!私はコイツの事大s────はっ!」

そこまで言って美琴は今自分が何を言おうとしたのかに気付き、自身の手で口を押さえた。

チラリと、恐る恐る上条の方を見ると。

「 」

気を付けの格好のまま硬直している。

──まままままさかきききき聞かれたたたたた──!!///

顔を真っ赤にしてアタフタと慌て出す始末。
167 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/13(木) 00:11:57.04 ID:vAMK5PP8o
イン略さん見事な自動防御です
168 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/01/13(木) 00:12:13.13 ID:OXXH7SHDO

「もももしかしていいいい今のきききき聞いた?///」

もう躍起になって上条に尋ねるのだが上条は動かない。

──ヤバい……聞かれたんだ……。

その沈黙が美琴に不安を募らせる。こんな形で言うつもりはなかった。それに。

──返事をもらうのが、怖い。

 彼の返事が怖い。自分には、自信がないから。
いっつも素直になれずに、彼には突っ掛かってばっかりで。嫌がる彼に電撃を浴びせ、追い掛け回して。
上条に好かれる要素の行動を取った試しがなかった。

 きっと今の沈黙も、自分を断る為の言葉を考えているのだろう。彼は、優しいから。なるべく傷付かない言葉を探しているのだろう。

そう思うと涙が出てきた。自分って、こんなに弱い人間だったんだって今更ながらに思う。
169 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/01/13(木) 00:13:50.48 ID:OXXH7SHDO

──ほら、断るんならさっさと断っちゃってよ。

 しかし、覚悟は出来た。断られた後でも、上条を守るという決意は揺るがない。自分が、守ってやらねば──。





「すまん、御坂」











「耳が、キ──ンってなってて、聞こえなかった」











「………………………はい?」







「ほぇー」

「ほぇー」

170 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/01/13(木) 00:14:47.68 ID:OXXH7SHDO

「だからだな御坂……耳が…………っておい!何故泣いてんだ!?」

「はぇ?」

目を拭うと、服の袖が湿った。あ、自分泣いてたんだって何故か客観的に思えた。

「……大丈夫か?」

「あっ……」

ギュ。

──あれ、私……抱き締められてる……?

何だかもう何が何だか分からなくなり。自分の身体を操っているのが自分ではない錯覚を起こすほど、この状況を客観的に見ていて。

「何で泣いてんのかは知らんが、もう泣かれんのは勘弁だぞ」

ただ、ここが。温かいと言う事だけは分かった。
171 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/01/13(木) 00:16:08.78 ID:OXXH7SHDO

「さっきの話は無しよ!///」

少し時間が経って落ち着いた途端、顔が燃えるほど恥ずかしさが込み上げていた。

「分かったよ……でもまた教えてくれよな」

「ぅ、ぅぅ……///」

必死に何とか状況を回避した美琴は、横で並んでいる二人をキッと軽く睨む。

「え、えへへー」

「あ、あははー」

とっても爽やかな苦笑いを浮かべている二人は……まぁいい。

「所で、今何時だろ?」

と、上条はふと気になりそう呟いた。

「えっと今は──」

「うっひゃああああ!!」

時計を見た二人は悲鳴を上げた。……恐らく遅刻コースなのだろう。

「すっ、すみません御坂さん、上条さん!失礼しますっ!」

「あっ、えっ、えっと。ごちそうさまでした!」

それを言うと二人はピューっとこの場を走り去って行った。

「元気な子達だなー」

「……佐天さん、今度会ったらお仕置きね」

上条と美琴はそんな事を呟きながら二人の背中を見送った。

 二人は特に急ぐ必要がない為、ゆっくり歩き出す。
172 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/01/13(木) 00:17:07.01 ID:OXXH7SHDO

「所で、あれから……あの症状は出たの?」

「ん?……そう言えば。昨日のあれ以来、ないな」

「そう……よかった」

「ん?」

「何でもない」

昨日の公園で発作が出た以降、上条は発作に襲われる事なく日常生活を過ごしていた。昨日はあの一回だけですんでいて、上条はほっと一息胸を撫で下ろしていた。

「最近は一日に二回ペースだったんだけどな」

「……そう、なの?」

その言葉に美琴は表情を歪ませる。上条が苦しんでいる──と言う事をもっと早く知るべきだった、と思いながら。

「んー調子がいいのは」

美琴がそこで隣を歩く上条の顔を見る。ビルの間に見える朝日の光が眩しかった。

「御坂が元気をくれるから、かな」

そうやってニッコリと笑顔が見れると、美琴は顔を真っ赤にして顔をそらした。
この二日間で何度顔を赤くして、青ざめて、笑って、泣いたのだろう。やっぱり上条の傍だと感情が特に露になる。改めて、好きなんだと実感させられた。

「……ばか」

この想いは、まだ大切にしまっておこう。いつか、コイツの隣にキチンと並びたい。

 そしてその後は他愛もない話をしながら、冥土帰しと木山の待つ病院へゆっくりと向かった。
173 : ◆LKuWwCMpeE :2011/01/13(木) 00:19:34.58 ID:OXXH7SHDO
今日はここまで。
改めて書きたい事の要点をまとめてみたんだけど、この先まだ長くなりそう。
でも完結はさせるよ!
書くの楽しい
174 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/13(木) 00:20:45.16 ID:wTqBGUUDo
>ありがとうと言ってくれた事に対してありがとうと言ってしまいそうな所を何とか堪えながらだった。
ニヤニヤしすぎて俺がふにゃーしそうなんだが
175 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/13(木) 00:28:51.11 ID:Q8AXLYnmo
>「(……そこまでやったんなら、撫でて、よね……///)」
>顔を真っ赤にしながら上目遣いで上条の目を見つめてきて。
> その瞳は水々しく、とても可憐に、上条は思えた。

上琴SSではよくある琴なのにこういうシチュは何度読んでもヤバい…
続き待ってます!
176 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/13(木) 00:32:23.56 ID:wTqBGUUDo
その変換ミスもよくあることだよな
177 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/13(木) 00:55:09.93 ID:Z6MHpurAO
名探偵かみやんかと
178 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/13(木) 00:57:08.65 ID:o6wfl4uAO

出来れば今の投下ペースを維持してほしい
179 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/13(木) 07:34:37.79 ID:1kwYGDu90

 御坂が可愛すぎる

 惜しむらくは、新約禁書でこれが見られそうもないということか……
180 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/13(木) 16:29:42.19 ID:zgtRepsZ0
>>1さん今日も来てくれたらとても嬉しいです。
181 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2011/01/13(木) 17:36:46.25 ID:wZbgPBKSO
来てくださいー
182 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/01/13(木) 17:58:37.94 ID:OXXH7SHDO
皆ありがとう。
今日は夜10時くらいに投下しに来るよ
183 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/13(木) 18:46:33.96 ID:MCWiEx7qo
待ってます
184 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2011/01/13(木) 21:27:05.34 ID:zgtRepsZ0
時間まであと約30分か

面白いですがんばって
SS・小説スレは本日、移民大会議を行います。(板が新しくなります)
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4gep/1279375638/

185 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/13(木) 21:55:27.38 ID:FmUq3dbu0
今日はちょっと止めといた方がよさげじゃね?
SS・小説スレは本日、移民大会議を行います。(板が新しくなります)
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4gep/1279375638/

186 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/13(木) 21:59:38.88 ID:wTqBGUUDo
新板解説予定時刻は22時
依頼を出せばスレッドを丸ごと新板に飛ばしてくれるらしい
SS・小説スレは本日、移民大会議を行います。(板が新しくなります)
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4gep/1279375638/

187 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/13(木) 22:15:33.04 ID:CyLa/bcEo
依頼ってどこでするんだろ?

ちなみに移動先の板はこちら
http://ex14.vip2ch.com/news4ssnip/
SS・小説スレは移転しました
http://ex14.vip2ch.com/news4ssnip/ Mobile http://ex14.vip2ch.com/test/mread.cgi/news4ssnip/

188 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/01/13(木) 22:20:33.95 ID:OXXH7SHDO
>>1です
さて投下しようと思ったらSS系は移転なのね
やっぱ新スレ立てるより、依頼して移してもらうのがいいのかな?
SS・小説スレは移転しました
http://ex14.vip2ch.com/news4ssnip/ Mobile http://ex14.vip2ch.com/test/mread.cgi/news4ssnip/

189 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/13(木) 22:21:21.17 ID:CyLa/bcEo
依頼先はここだってよ
飛ばしてもらった方が手間はないんじゃないかな?

■ 【必読】 SS・ノベル・やる夫板は移転しました 【案内処】
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4gep/1294924033/
SS・小説スレは移転しました
http://ex14.vip2ch.com/news4ssnip/ Mobile http://ex14.vip2ch.com/test/mread.cgi/news4ssnip/

190 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/01/13(木) 22:25:55.23 ID:OXXH7SHDO
>>186
>>187
>>189
ありがとう、依頼出して来るね
無事移転出来たら続き投下……しても大丈夫そうかな?
SS・小説スレは移転しました
http://ex14.vip2ch.com/news4ssnip/ Mobile http://ex14.vip2ch.com/test/mread.cgi/news4ssnip/

191 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/13(木) 22:27:39.27 ID:CyLa/bcEo
微妙な仕様変更(伏字に関して等)はあるかもしれん
SS・小説スレは移転しました
http://ex14.vip2ch.com/news4ssnip/ Mobile http://ex14.vip2ch.com/test/mread.cgi/news4ssnip/

192 :真・スレッドムーバー :移転
この度この板に移転することになりますた。よろしくおながいします。ニヤリ・・・( ̄ー ̄)
193 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/01/13(木) 22:33:15.25 ID:zeAeUNoDO
てす
運営様仕事早かった。
感謝!
194 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/13(木) 22:33:53.31 ID:59qfXdTgo
195 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/13(木) 22:38:32.98 ID:dMZW1+Poo
移動乙ー
みんなちゃんと移動して来れるかな
196 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/01/13(木) 22:41:20.59 ID:zeAeUNoDO
とりあえず……投下してもいい流れなのかな?
後移転のお願いした際に書いたURL間違ってた……死にたい
197 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/13(木) 22:42:14.34 ID:59qfXdTgo
移動完了してるし問題ないと思う
待ってる
198 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/13(木) 22:58:32.73 ID:XZ2f8OQx0
ふぅ…dat落ちしたかとおもったぜ

続き希望しますおそらく投下大丈夫でせう
199 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/01/13(木) 23:06:36.18 ID:zeAeUNoDO

「失礼します」

ガチャリという音を立てて、上条と美琴は冥土帰しのいる病院のある一室に入った。

「おや、来たね……随分仲がいいんだね?」

上条だけだと思っていた冥土帰しは、来客者が二人の所を見ると顔を少し綻ばせた。

「そう見えますかね」

「そっそんなこと……///」

仲、良いのかな?いや、悪くはないとは思う……けど。でもこいつはいつも電撃をうんたらかんたら。そんな上条とは違い顔を赤くする美琴。とても微笑ましい。

 二人を椅子に座らせ、まずはいつも通りの質問をする。

「調子はどうだね?」

「あ、はい。昨日病院を出た所で一度、症状が。それ以降は来てないです」

「なるほど」

それを診断書に書き込み、聴診の準備をしながら美琴の方を向いた。

「……今日は、あの子達の調整の日だね」

「!」

 あの子達……シスターズの事だ。あの実験が凍結され、ただ死んでいく運命だったはずの約一万人の美琴の生き残った妹達。
 あの事件以降、時間は大分経ったのだが、いまだに美琴の心は完全には晴れない。
妹達と決して仲が悪い訳ではない。他愛もない話もするし、連絡も取り合う。
だが今でも自身がDNAマップを提供した故に起こった実験を思い出しては胸が痛む。
200 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/01/13(木) 23:08:54.13 ID:zeAeUNoDO

──調整、か……

 妹達はクローンと言う存在ゆえに、調整を受けなければならない。本来長い年月をかけて成長するべき身体を、無理やり短時間で培養させていた。

 その事も美琴にとって、辛い現実なのだ。

「御坂……」

「……」

胸中複雑であろう。

 そこでふと美琴は隣を見ると、自分を心配したような表情の上条がいた。
美琴は思い出す。今この隣に座る少年が地獄の底から掬い上げてくれた事を。
そして今、辛いのは彼のはずなのにそれよりも自分の気持ちを優先してくれている。

「大丈夫だから」

彼の目を見て頷いた。

「……ならよかった」

彼が笑顔でいてくれたら、自分も嬉しい。その笑顔に勇気をもらって、自分の気持ちには自分で決着を付けようではないか。

 彼女も、優しく微笑んだ。


「……続けてもいいかな?」

なーんか甘ったるい空気が障ったのか、身体をボリボリ掻きながら上条の上着を脱ぐよう促す。

──あ。

服を脱ぎ始めた上条を見て、一気に顔を赤らめる。

「ちょっとトイレっ」

と、ささっと逃げるようにして美琴は一旦退室しようとドアを開けると、ボリボリ身体をかく木山の姿があった。

「あ」

「やあ」

「ちょっと行ってきます!///」

「あ、ああ」

美琴の勢いに押されたのか、歯切れの悪い返事をすると木山は入室し、ドアを閉めた。
201 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/01/13(木) 23:10:03.35 ID:zeAeUNoDO

「……よかったよ、彼女の心音がここまで聞こえてきて支障が出る所だった」

「……はぁ」

「では始めるよ」

「あ、その前にいいですか」

上条はまず言っておきたい事があった。

「……調整って言葉。なるべくあいつの前では使わないでやってほしいんです」

「……ふむ」

「御坂妹達も、れっきとしたあいつの妹達で。それをやっと認めて来れた所なんです」

「……」

上条の言葉を冥土帰しも木山も静かに聞いていた。
 上条としては、ここはどうしても譲れない所だった。人間として産み出されなかったシスターズ。そして人間として扱われなかった実験。その事に美琴は悲しんでいるのだ。

 静かに頭を下げ、言葉を続けた。

「妹達も、人間です。あいつも、妹達も、十分苦しんできました。そんなあいつらが幸せになってはいけない道理なんてどこにもないはずなんです。……どうか、どうかお願いします」

「……君達は」

「……」

「お互い、助け合い、思い合っているんだね。……心の底から」

「……」

冥土帰しはそこで一息を吐くと、言葉を紡ぐ。

「分かった。では早速始めようか?彼女達の『診察』もあるからね?」

「……っ、はい!」

そんな二人を、木山も優しく眺めている。研究者としてではなく、一人の人間としてまたこの少年に興味が湧いた。

 人をこの少年は『心』で惹き付けている。そして冥土帰しも医者としてだけではなく、その『心』で患者を救っていて。

未来を担う子供達の為に、自分も『心』でもって人々を幸せに出来るような研究をしていこうと、そう思った。
202 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/01/13(木) 23:17:03.90 ID:zeAeUNoDO

「ふう」

バシャバシャ。水が冷たい。しかし火照った今の自分にはいい塩梅かもしれない。

 上条の部屋から化粧室は少々距離があったが、今は逆に助かった気がする。
化粧室を出ると、看護師の姿がちらほら見える。掃除をしていたり、点滴の道具らしき物を運んでいたり。病院内は暖かく、少しでも動けば汗さえ出てきそうだ。……さっきは違う意味で汗が吹き出たが。

 ナースステーションを通り、先程の部屋に戻る途中──。

「……え?」












 美琴にとって、『トラウマ』でさえある、白髪の少年の姿が目に映った。

「あ……一方、通行……!」

忘れようもない。杖をついてはいるが間違いない。あの『最凶』の学園都市第一位がそこにいた。

「……チッ。オリジナルが何でここにいやがるんだァ?」

自販機の前に立っていた彼もその視線に気が付いたのか、美琴の姿に気が付くと機嫌が悪そうに舌打ちを打った。

 その少年は、妹達の姉である自分にとっての──因縁の敵だった。
203 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/01/13(木) 23:18:39.14 ID:zeAeUNoDO

 『あの時』を再現するかのように二人は対峙している。美琴は一方通行を強く睨み付け、対する一方通行は無表情で、その心中は伺えない。

「……なん、でアンタが……何でアンタがここにいるのよっ!」

何故一方通行がここにいるのか。美琴には知る由もない。焦燥感と危機感から、声も次第に大きくなってきている。

「あン?人が何処にいようが人の勝手だろォが」

「ふっざけんな!答えなさい!」

自分の中で眠っていた一方通行に対する憎しみが、沸々と再燃する。二度と目にしたくなかったのに。

──まさか!?

 まさか調整中の妹達を狙って来たのではないだろうか。実験は凍結させられたはず。しかし、実は続いているのではないかと美琴は焦る。

「妹達に手をかけておいて……! 今度は調整中に狙うつもりなの!?」

怒り、焦り、戸惑い、色々な負の感情が美琴を包み、気付けば怒鳴り散らしていた。

「……。だと言ったらどォすンだ?」

その答えとして、一方通行は嘲笑う。それを見た美琴は更に怒りを顔の表情で象った。

「いいねェいいねェ!その殺気に満ちた顔たまンねェなァ!!」

愉快に顔を歪ませる一方通行に、美琴は自我を失った──。







……しかし。





「ストーップ!!」




 幼い声が、その場を支配した。
204 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/01/13(木) 23:20:37.96 ID:zeAeUNoDO

「え……?」

──私……?

美琴の目に映った幼い少女。その姿は小さい頃の自分を模写したと言っていいほど、全く容姿が同じだった。

「全くあなたは!ってミサカはミサカはぷんぷん怒りモード!」

そしてその少女の口から発せられたワード。それを耳にすると美琴は目を見開いた。

「ミサカって……?あなたは……」

どういう事だ。美琴の思考は止まったり、加速したりして頭の中がぐるぐる回り、状況を理解できないでいた。

一方通行の二の腕辺りをポカポカ殴っている小さな女の子。予想が合っていれば、恐らくシスターズの中の一人。

「あ、はじめましてお姉様!ミサカはシスターズの最終信号、打ち止めって言うんだよ!ってミサカはミサカは元気に挨拶してみたり!」

打ち止めはそう言うと、一方通行の方を離れ、美琴の方を向いてにっこりと笑った。

「お姉様とこんな所で会えるなんてミサカはミサカは感激っ!」

なんて言って抱き付いてくる打ち止めに美琴は戸惑う。
205 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/01/13(木) 23:21:38.19 ID:zeAeUNoDO

──……最終、信号?打ち止め?

「あれれ、お姉様動かないよ?ってミサカはミサカは心配」

「放っておきゃいいだろォが」

「もしかしてあなたがいじめたのねってミサカはミサカはあなたを非難してみる!」

「……。知らねェよ」

少し言葉に詰まった一方通行を見て、打ち止めはどう思ったのか。

「あのね。お姉様も、あんまりあの人を責めないであげてねってミサカはミs──モガモガ

「余計な事言うんじゃねェよクソガキ」

いきなりそんな事を言い出す打ち止めの口を一方通行が後ろから塞ぐ。

人から見たらその姿は……じゃれ合っている兄妹のようにしか見えない。勿論、美琴にも。
かつての殺戮者と獲物には全く見えなかった。

──何が、どうなっているのよ……。

美琴の頭では色々な事がぐるぐる回っている。一つ一つの整理も全く出来ていない。頭の中で考えを巡らせようにも何一つ追い付かない。

「チッ、コーヒーが冷めてやがンぜ」

「あなたはコーヒーばっかり飲んでるからそんなに顔が苦くなるんだよってミサカはミサカは確信してみたり!」

「どォいう意味だオイ」

ただその二人の姿を見ながら、考えても考えても分からない、という事は分かった。



「おや。なかなか見ない面子が集まってますね、とミサカは颯爽と現れます」

その声がした方に顔を向けると、そこには検体番号10032号の──上条の言う御坂妹がいた。
206 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/01/13(木) 23:24:22.73 ID:zeAeUNoDO

「どうですかね……?」

上条は検診が終わると、冥土帰しに不安げに尋ねた。答えを聞くのは少々怖いが聞かずにはいられなかった。

「うん。身体は何ともないね」

しかし診断した結果、冥土帰しの出した答えはそれだった。木山もその答えに納得しているような表情だ。

「……へ?」

その返答に上条は一瞬言葉を無くした。

「何とも、ない……?」

そしてその言葉を再確認するように反芻する。
 どういう事なのだろうか。自身の体調の異変と冥土帰しの言葉の状況が一致せず、上条は少々混乱した。

「うん、身体は、ね」
「……!」

しかしその冥土帰しがもう一度、さっきの言葉を強調して言うと、ようやくその言葉の意味に気付いた。

「それは、つまり……」
「うん。君の身体に下した判断は、健康体なんだよ」

もう一度、聞かせるように冥土帰しは言った。

「身体以外で、何かが起きている、と考えていいんですね?」

「ほう、君にしては察しがいいね?」

その答えに冥土帰しは目を細めると、少し機嫌良さそうにコーヒーに口を付けた。

──身体に異常は無い。しかし身体以外の所で何かがあるんだ。

自分の視線を下の方に落とし、自分の身体を改めて見る。まず目に映ったのは──幻想殺しが宿る右手だった。

「確定的ではないが」

そこで木山が口を開いた。彼女もコーヒーを口につけていたが、カップをテーブルに置き上条の方に視線を向けた。

「恐らく君が今考えている事に関して、だと私も思うよ」

あくまで憶測だがね、と続けた木山。
自分が今考えている事……異能ならば何でも打ち消すこの右手。やはり、この右手が関係しているのか。

「……」

 この機会に、自分の右手についてもっと詳しく知れる事が出来るのかも知れない。そう思い、上条は強く右手を握りしめた。
207 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/01/13(木) 23:25:38.87 ID:zeAeUNoDO

 AIM拡散力場。能力者が無意識に展開する力のフィールドを示す。

「何か漫画で見た事あるなこういうの……」

そのAIM拡散力場を専攻している木山。昨日病院の入り口にて上条とすれ違った際、木山は彼を取り巻くそれを記録したのだ。そして、それが指し示した数値は──木山の、見た事のない数値を弾き出していた。

 それが何を意味しているのか。装置も壊れていたのかもしれない。計測に不備があったのかもしれない。

ただ、今はそれを確実に調べなければ何も進まない。

 彼女が用意したのはヘルメット型の機械に、コードがたくさん繋がれた装置。それを慎重に上条の頭に被せる。

 上条は緊張しているのか、少し表情が固い。軽口でも叩いて和らげようか。

「大丈夫、痛くはしないよ」

「それ、聞き方によっては間違った解釈しそうなんですけど……」

木山の言葉に上条は冷や汗と苦笑いのコンボを顔に作った。

「そういう意味の方がよかったかい?」

「からかわないで下さいよ……木山先生みたいな綺麗な人に言われたら誤解する男、いっぱいいそうですから」

上条の頭に青い髪をした同級生の顔が思い浮かんだが、気分的に身体に毒だったので即座に打ち消した。

「……。君のその言い方の方が誤解を招きそうなんだがね」

逆に言い返した木山は呆れ顔だ。しかしやはり彼も男だ。この手の会話は好きなのかもしれない。

 先ほどよりもほぐれた顔を見て木山も満足そうな表情をする。

「準備はいいかい?」

「あ、はい」

「それじゃ、行くよ」

木山はもう一度上条の顔を見て頷くと、彼も頷き返して。

 そして装置のスイッチを──入れた。
208 : ◆LKuWwCMpeE :2011/01/13(木) 23:26:59.31 ID:zeAeUNoDO
今日はここまで
また明日の夜に投下しに来るね
209 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/13(木) 23:28:40.21 ID:dMZW1+Poo
投下乙ー またあした揉みにこよう
210 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/13(木) 23:30:46.74 ID:dMZW1+Poo
うちのPCの変換には本当に困ったものです
211 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/13(木) 23:43:28.49 ID:59qfXdTgo

美琴たちも気になるが上条の検査の行方もきになるな

>>210
PCの所為にすんなwwwwww
212 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/14(金) 00:24:26.21 ID:U6Nkm4q0o
乙〜
続き待ってます!
213 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/14(金) 00:52:54.65 ID:7sZZRDVio
俺も明日揉みに来るぜ
214 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/14(金) 10:24:00.11 ID:buB/oZCro
俺、木山先生とゲコ太先生の肩揉んでくるわ
215 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/14(金) 16:25:28.11 ID:RiAukUrF0
投下ありがとうございます。
216 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/14(金) 17:07:42.55 ID:6ZbuGV7DO
一方さんと美琴の危なげな邂逅シーンってなんか好きだw
ほとんどの場合、今以上に関係が悪化することはなくて、上手くすれば少し
打ち解けられるはず、って期待が大きいからかな。
217 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/14(金) 17:16:12.68 ID:n0Pj1EQ1o
書き手によって持ってき方に色があって面白いよね
時々問答無用で美琴が攻撃してふっとばすのもあるけどww(大体はギャグ系
218 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/01/14(金) 21:59:31.76 ID:j1CcvvLDO

「────」

特に音もなく、ただ静寂が部屋を包む。木山はジッとパソコンの画面を見ていた。
チラリと横に視線を向けると、少々強ばった顔付きの上条。……やはり、不安なのだろう。

 今現在、冥土帰しはシスターズの『診療』の為、ここにはいない。美琴もまだ帰ってはいない。
元々、美琴には席を外してもらうつもりだったから丁度よかったと言えよう。
 レベル5の彼女が持つ力は計り知れない。そしてその彼女が放つAIM拡散力場も軽く能力者達のそれを凌駕しており、今上条を繋いでいる装置にも影響が出かねない。

──彼も、あんまり見られたくないみたいだしね……。

気丈そうに振る舞ってはいるが、その胸中は伺える。両手をキュ、と握りしめている所からもその様子は分かった。

『あいつらが幸せになってはいけない道理なんてどこにもないはずなんです──』

そこで木山は先程の上条の言葉を思い出した。

 確かにそうだ、と木山も思っていた。あの「置き去り」事件の子供達だって……普通に遊んで、普通に学校に通って。笑って生活出来ていたはずなのに。

研究者であった自分は、興味を捨てきれなかった。先生、と慕ってくれた子供達を結果的に裏切り、昏睡状態にまで陥らせた。

 子供達の幸せを奪ったのは自分だと言っても過言ではない。回避できる方法はあったはずなのだ。

 そして今ここにいる少年は、何人も、何度も絶望の底から救ってきたと聞く。それは、その加害者側でさえも、救い出してしまう。直接話をした事はないが、白髪の少年もそうらしいのだった。

──……ふ、いつか、自分もそうなれたらいいな。

 一人の研究者は、その少年に憧れのようなものを抱いた。





 ……その時。


ピコーン──。

「!!」

画面が、動いた。
219 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/01/14(金) 22:01:01.00 ID:j1CcvvLDO

──反応があった!

計測し始めてから時間にして10分程度くらいだっただろうか。心電図の様な画面を映し出すディスプレイ。ずっと直線だった線が、突如山を作っている。
そしてその頂点は……とんでもない位置にあった。

「これは……!」

木山は目を見開く。驚愕に言葉を詰まらせながら、急に歪な形を描き始めた線をじっと見ている。

──彼に、能力が……!?

 幻想殺しを有している彼がこんな数値を叩き出すとは。打ち消していたのではなかったのか。

──…一体どういう事だ!?

圧倒的な数値を叩き出し続ける彼に、木山は驚きが取れない。木山は頭の中で仮説を立て続ける。

 いや、確かに打ち消してはいたがその力の残骸が彼にこびりついたのか。しかしそれだけでこの数値はあり得ない。彼の頭の中で能力を演算し、彼自身が能力を使用しなければ──。

しかしそこで木山の思考はある一字に止まった。

──演算……?

彼は今……演算しているのか?この少年の頭の中で難解な記号ばかりで羅列された計算式を組み立てているのか──?

 木山の仮説は幻想殺しは演算されているのではないか、と一瞬脳裏をよぎった。しかしそれを咄嗟に否定する。

──何でも打ち消す……それは超電磁砲も、反射能力も演算して打ち消したのか……?いや、それはない!あれらほど複雑に演算されたものはない。そんなものを演算して打ち消したとしても、彼の能が持たない!

色々な思考、可能性が木山の頭の中で駆け巡る。答えは見つかっていない。そこで木山は改めてディスプレイを見る。

「何て……事だ……」

 木山は文字通り絶句した。今までは驚異的な数値を叩き出す線にばかり気を取られていた。しかしその線の方ではなく、種類別に横に並んだ棒グラフの方。
220 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/14(金) 22:01:34.86 ID:w6m+gP7Mo
       |
   \  __  /
   _ (m) _ピコーン 
      |ミ|
   /  .`´  \

なんかこれが頭に思い浮かんだ
221 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/01/14(金) 22:01:40.99 ID:j1CcvvLDO

 そこには、音楽を周波数で視覚化したアナライザーの様に、様々な能力の種類を示す棒グラフが、激しく揺れていた。電気、発火、水流、風力……。

もはや理解不能の領域だ。自分では、きっと一生懸かっても研究しきれるかどうかの問題の様に思えて、ディスプレイから目を離した。

「彼は……一体……」

自然にその言葉が出る。とりあえず、もういいだろう。

 そして上条の方に視線を向けた…………。











「……上条、君?」



そこには苦しそうに頭を押さえ、身を屈める上条の姿があった。
222 :今回分かりにくい部分あるかもしれない  ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/01/14(金) 22:03:51.53 ID:j1CcvvLDO

「上条君!」

その上条の様子に気付いた木山は、装置のスイッチをすぐさま切り駆け寄った。

「どうしたんだ!」

あまりの苦しさからか、椅子から転げ落ち床に倒れ込む上条。床と激突する寸前で何とか受け止めた。

バチッ──!!

「ぐっ……!?」

受け止める時に、静電気とは呼べぬほどの強い電撃らしき衝撃が木山を襲い、痛みから顔を歪ませた。

しかし手を引っ込める訳にはいくまい。介抱せねばならない。

「熱い……っ!」

横たわらせる様にして肩に手を回したのだが、上条の体温は尋常ではないほど熱く。思わず手を引っ込めてしまいそうになるが、木山は何とか堪えた。

「上条君!しっかりするんだ!」

呼び掛けるが反応はない。苦しそうに息を切らし、顔に汗が吹き出ていた。そして取り出したハンカチでそれを拭き、何とか手の届く距離にあったナースステーションに繋がるボタンを押す。

──私のせいだ……!

熱からか顔も赤く染まっている彼の表情を見て木山は悔しそうに顔を歪めた。

 気を取られ過ぎていた。叩き出された数値や、グラフばかり観察していて。一番見ていなければならなかったのは彼自身だったのではないか。前と何ら変わらない自分の失態に、木山は深く悔やんだ。

ガチャ──。

するとドアが開き、冥土帰しが看護師を引き連れて中に入ってきた。

「……! とにかく彼を治療室へ」

上条の姿を見て、一瞬目を見開いたがすぐさま元の表情に戻すと指示を飛ばし、自身も治療室に向かって行った。
223 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/01/14(金) 22:05:12.30 ID:j1CcvvLDO

「…………」

「…………」

「……この空気は耐えられないかもってミサカはミサカはきまずい空気に戸惑ってみる」

「……こうなるとは思ってましたけどね、とミサカは上位個体に告げます」

 デイルームにて、テーブルを前に座っているのは美琴、御坂妹。そしてほんの少しだけ離れたソファーに一方通行、それにべったりくっつくようにして打ち止めが座っていた。一方通行は少々機嫌悪そうに腕を組み、窓の外を眺めている。

「ほら、あなたも何かしゃべってよってミサカはミサカは二の腕つんつんしてみたり……って意外に柔らかい事にびっくり」

「黙ってろクソガキ」

 美琴が現在把握しているのは、一方通行と打ち止めは仲がよさそうだとしか感じ取れていない。しかしそれはとてつもない違和感で、美琴は中々に言葉を発する事が難しい心境だった。

 美琴の中で一方通行への憎しみは勿論消えてはいない。しかし今は、それよりもどういう事なのかと状況を把握したい気持ちでいっぱいだった。
打ち止めが一方通行に話し掛ける度、殺されてしまうのではないかと危惧しながらチラチラ二人の様子を横目で伺うばかりで。御坂妹もそんな美琴を見て、どうしたもんだかと頭を悩ませていた。

 打ち止めが何度も危険に晒されてきた際、一方通行は彼女を救ってきた。
誘拐された打ち止めを助けようと、木原数多率いる猟犬部隊との戦いに挑み。その際に銃弾を頭に撃ち込まれた事も、脳に損傷を負って演算機能を失った事も。今現在はミサカネットワークにて彼を補助している事も。そんな状態になっても、打ち止めを守ろうと奔走している彼の姿を。

美琴は、知らない。

「お姉様……」

そして御坂妹が美琴に声を掛けると、美琴も御坂妹の方に視線を合わせる。

224 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/01/14(金) 22:06:45.47 ID:j1CcvvLDO

 ここで話は少々変わるが、シスターズにもそれぞれの個性が芽生えてきている。
上条の手によって救われたシスターズ。美琴と共に、生きる意義を教えられなかった彼女達を人として初めて認めてくれたその少年だ。
 もっとも、最初は戸惑った。人としての感情はアンインストールされ、ただ目的の為のモルモットとしての自覚しかなかったのだ。
 五感はしっかり機能する。しかし、息をする、栄養を摂ると言う必要最低限以下の感情しか知らない彼女達は、突然与えられた『生』に困惑した。

 しかし、今は違う。味を知り、自然を知り、生命を知り、人を知り、心を知った。
脳波リンクのネットワークで繋がる彼女達。上条に感謝と憧憬の念を持っている者も少なくない。同時に、同胞達を奪った一方通行に対しての畏怖嫌厭を持つ者もいた。

 しかし、感情を知った後の、彼女達の上位個体である打ち止めと一方通行の邂逅。そして打ち止めを救うべく、その身を文字通り削った彼を知り。彼の苦しみを知り。
いつしか、切っても切れない不思議な繋がりが出来ていて。もう彼に対して、憎しみではない他の何かの感情も持ち合わせた。

 そんな妹達の中で、直に助けられた検体番号10032号──御坂妹を羨ましがる者も多い。上条と他愛のない世間話ができ、オリジナルである美琴とも同様で。

 そんな彼女は、妹達の中で一番に成長したと言ってもいいのかもしれない。













「お姉様。そこの色白もやし野郎は、ああ見えて実は肉食系男子です、とミサカは衝撃的事実を告げます」





「「…………………は?」」


……あの一方通行をおちょくれるほどに。
225 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/01/14(金) 22:08:32.19 ID:j1CcvvLDO

 美琴と一方通行は己の耳を疑った。あれー、何か幻聴が聞こえてきた気がするー。

と言う空気の元、再び沈黙が場を包む。美琴と一方通行はあんぐりを開けたまま動かない。

「??」

打ち止めはよく分かんない、と言う表情で可愛らしく首を傾げている。

「初めて会ったその日に上位個体の『恥じめて』ももやし野郎は奪ったみたいd「ちょっと待てテメェェェ!!」

 さすがにそこまで行けば一方通行は黙ってはいられなかった。

「何なンですかァ!?喧嘩売ってンですかァ!?」

「更に言うと夜、上位個体が寝れない時にはぶつぶつ文句を言いながらも添い寝をs「黙りやがれクソアマァァァ!!」

一方通行の物凄い剣幕もどこ吹く風と言った具合にニヤニヤしながら続ける御坂妹。何故か打ち止めも楽しそうにキャッキャ言い始めていた。

「それはどうやら事実のようですが?アクセロリータ、とミサカは確認します」
そして。


ブチッ。

しっかりと音が聞こえた。それも相当ふっといものが切れたかの様な音の大きさで。その音を出した本人はプルプル震えていて──首に掛けてあったチョーカーに手をやった。

「いいぜェ!そンなに死にてェンなら今すぐ屍にしてやンy「演算補助ストッープ!」ggghenowpquak──!」

「へっ?」

突然ソファーに倒れ込んだ一方通行に、美琴は素っ頓狂な声を上げていた。

その横でイエーイなんて言いながら、してやったりと言った具合でハイタッチをする御坂妹と打ち止め。

「え、え……一体何なの……?」

そんなドタバタが信じられないと言った感じで美琴は、もう何がなんだか分からないと、状況を把握出来ないでいた。
226 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/01/14(金) 22:10:27.59 ID:j1CcvvLDO

「…………チッ」

 それから少し時間が経ち、騒がしかった先程の喧騒がまるで無かったかの様に静まりが包む。一方通行も高ぶりを落ち着かせる為か、自販機にて購入してきたコーヒーを手にして再び窓の外を忌々しげに眺め始めた。

「そう言えば、お姉様はどうしてここに?ってミサカはミサカは聞いてみる」

その一方通行の横を再び陣取って、打ち止めはソファーの上で足をパタパタさせている。
その様子はとても可愛らしく、微笑ましいのだがその横に座る人物が目に入るとどうしても顔をしかめてしまう。

「私?付き添いってやつよ」

上条の診察はどうなのだろうか、と心配なのだが。妹達の事について聞いておきたい事も山ほどある。

 打ち止め。妹達と一方通行との関係。演算補助。

その他にも勿論色々な疑問が頭の中で浮かぶ。

「そう言えば」

「?」

「二日前、ここであの方とお会いしました、とミサカは報告します」

「え───」

来ていた?二日前……と言うと、放課後に見掛けて……声を掛けたのだが、用事があると言い立ち去った時か。

──あの時、用事って病院だったんだ。

交わした会話を思い出し、その時からついて行くべきだったかなと考えをよぎらせる。

「あの方って?あっ」

打ち止めも御坂妹の言葉を確認する様に反芻し、思い付いた表情をした。
ちなみに今現在は調整中により脳波リンクを切っている。普段なら記憶共有で取り出せるのだが、それが出来ない今は言葉による意思疏通だ。

「ツンツン頭のあの人だねってミサカはミサカは思い出してみたり」

昨日のミサカネットワークはとっても盛り上がったらしいのだが、今は関係ないのだろう。

「!」

打ち止めの言葉に美琴は驚き、咄嗟に一方通行の方を見る。

──アイツは……一方通行にとって実験を止めた敵の様なもの。病院にいるって事が分かれば、一方通行は……アイツを……。

上条と一方通行を会わせてはいけない。美琴の思考は告げている様だった。

 そして、その時は刺し違えても、死んでも止めるつもりだ。

「…………」

しかし、大して反応を見せない一方通行。一方通行が一体何を考えてるのか一切分からない。

「風邪は治ったのでしょうか、とミサカは心配します」

一方通行の一挙一動を注意しながら御坂妹と打ち止めの会話を聞く。やはり詳しい症状とかは話してないのか、御坂妹は風邪だと思っていたようだ。

「……ところで」

ふと御坂妹が話を切り替え、美琴の方を向く。先程の、無表情ながらも楽しそうな雰囲気はまるでなく、一言で表すのなら真面目と言う言葉しかない顔付きになった。

「お姉様に聞きます、とミサカは問います」





「知りたいですか?シスターズと一方通行の顛末を」

「…………!」

そして、美琴は核心に迫る。
227 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/01/14(金) 22:11:52.48 ID:j1CcvvLDO

「…………オイ」

そこで一方通行は初めて口を開いた。睨み付けるようにして御坂妹に視線を向けている。

「どうして今、上位個体と一方通行は共にいるのか。どうして演算補助を受ける事になったのか」

「オイ」

御坂妹はそれに構わず、美琴だけを見て続ける。一方通行の語気が強まった気がした。

「知りたく、ないですか?とミサカは再度問います」

「テメェ……」

一方通行の持っていた空の紙コップがくしゃっと潰れた。そして更に強く御坂妹を睨んだ。

「知りたいわ。そりゃね」

美琴も決心していた。自分は知らなければいけないのだ。一方通行に対する憎しみも、蟠りもあるが。

 打ち止めを見る。悲しそうな顔をして、泣き出してしまいそうで。しかし小さな手は一方通行のズボンの裾をギュッと握っていて。
そこには、信頼し切っている健気な姿があった。

 私は知りたい。大事な──

「大事な、妹達だもの」

心の呟きをはっきりと口にする。

「……! …………………チッ。勝手にしろ」

一方通行が舌打ちをした。その表情は苦しみとも、諦めとも、また違う何かにも取れるような色々な感情が出ているようだった。







………しかしその時。


228 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/01/14(金) 22:12:42.28 ID:j1CcvvLDO




「御坂君!ここにいたか!」


「木山先生……?」


突然の来訪者に美琴は驚いた。その木山の様子──息を切らし、冷静沈着な彼女にしては焦っている。

 ……それは、激しく美琴の心の臓を揺さぶり。とてつもない、嫌な予感が美琴を襲い。





「上条君が……倒れた……!」
















「……………………………え?」




頭を鈍器で殴られたかの様な衝動が、美琴を襲った。
229 : ◆LKuWwCMpeE :2011/01/14(金) 22:16:31.38 ID:j1CcvvLDO
今日はここまで
ちょっと熱が出た。木山先生に看病してもらいたい
また明日も投下できるように頑張る
230 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/01/14(金) 22:21:02.17 ID:j1CcvvLDO
あれ>>226ってちゃんと見れる?
231 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/14(金) 22:23:34.04 ID:kou+a5zwo
続きが激しく気になる…
GJです!
>>230
ちゃんと見れますよ!
232 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/14(金) 22:25:19.77 ID:cFYNcpDM0
>>230
「…………チッ」

から始まるやつだね。見えるよ〜。

乙です。期待してる。
233 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/14(金) 22:25:59.06 ID:w6m+gP7Mo
>>230
ちゃんと見れるよ
乙乙
234 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/01/14(金) 22:26:49.88 ID:j1CcvvLDO
>>231
ありがとう!
235 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/01/14(金) 22:27:59.31 ID:j1CcvvLDO
>>232 >>233
ありがとう!
236 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/14(金) 22:39:33.84 ID:RiAukUrF0
インフルには気をつけて

とても面白いですがんばってください
237 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/14(金) 22:42:25.18 ID:aUCFit6Ho
今日揉みに来た! 乙

おいおい>>229
それ何かが覚醒する前兆なんじゃ・・・?
238 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/14(金) 23:09:32.46 ID:lZ9gq/vAO
覚醒前
 ∧_∧
(´・ω・)
(⊃⊂)
 ∪∪

覚醒後
  __
  / )))   _
`/ イ~   (((丶
(  ノ      ̄Y\
| (\ ∧_∧ | )
丶 丶`(´・ω・)/ノ/
 \ | ⌒Y⌒ / /
  |丶  |  ノ/
  \トー仝ーイ
   | ミ土彡/
   )   |
   /  _  \
  /  / \  丶
  /  /   丶 |
239 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/15(土) 09:58:06.33 ID:uMy7Kt6bo
覚醒というか進化の域に達してるだろその変化は
240 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/01/15(土) 22:39:28.22 ID:CQ1V4yYDO

「………倒……………れた…………?」

一瞬木山が何を言ったのか分からなかった。頭の中が混濁し、意識も手放してしまいそうになる。

「……すま、ない……!私の……意識が甘かった……!」

悔しそうな、自分に対して怒っている様な複雑な表情を作り、俯く木山。そして彼女は美琴はに近付くとその肩をガッと掴んだ。

「…………当麻は、どこ……?」

「今は……治療室に入っている……」

それを聞いた瞬間、美琴は飛び出していた。
241 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/01/15(土) 22:40:18.61 ID:CQ1V4yYDO

──当麻……、当麻……!当麻っ!!

走りながら心で何度も叫ぶ。看護師や患者の驚いた顔も関係無い。今すぐ彼の元に、彼の傍にいたい。その思いだけが美琴を突き動かしていた。

「!」

そして見えた治療室のプレート。その扉の前に立つや否や、躊躇なくその扉を開けた。

「当麻っ!!」

悲鳴とも取れる叫び声が響くと、その治療室の中には冥土帰しと看護師、そしてベッドに横たわる上条の姿が目に映った。

「!? 今は安静にしていないとダメです!」

「いやぁぁっ!当麻!当麻っ!」

看護師が美琴の腕を掴み、これ以上近付けないようにするが、美琴はそれでも駆け寄ろうとする。

「落ち、着いて下さいっ」

「いや!離して!当麻!当麻ぁっ!」


眠っているかのように微動だにしない上条しか見えてないのか、看護師の押さえ付けも振りほどきベッドの傍まで駆け寄った。
呼吸器を付けた姿を見て、美琴の涙腺が一気に崩壊した。

「当麻……!当麻ぁっ……!」

上条の手を取り、それを自分の頬に当てながら顔を覗き込む。

 美琴の思考はもう止まったままだ。ただもうずっと上条の名前を、ずっと呼び続けている。

そんな美琴を見かねて、冥土帰しは美琴の肩に手を置いた。

「もう大丈夫、今は落ち着いてるよ」

その言葉に美琴はハッとし、冥土帰しの方に視線を上げた。泣き顔も痛々しく、元気な彼女は今は見る影もなかったが冥土帰しの言葉に少し安心したのか、美琴も落ち着きを取り戻した様に見える。

「……本当は面会謝絶なんだけどね?彼もその方が喜ぶだろうし、君はここにいていいよ」

治療は一通り済んだのか、そう言いながら器具をローラー付きの台の上に乗せて冥土帰しと看護師達は治療室を退室していった。

「うぅ……ヒグッ……とうまぁ……エグッ」

 二人しかいなくなった室内には、一人の嗚咽の声しか聞こえない。繋いだ手はかなり熱くなっていて、だが美琴は決して離す事はしない。

 ただ、ギュッと強く握り締めていた。
242 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/01/15(土) 22:42:16.22 ID:CQ1V4yYDO

 先程まで美琴がいたデイルームには、木山、一方通行、打ち止めの三人の姿があった。御坂妹は美琴の後を追い治療室へ向かっていきこの場にはいない。

「…………オイ」

 木山の気持ちは晴れない。己の失態を恥じ、悔やみ、ただ上条の無事を願っている。
木山の頭の中で、苦しくも昏睡状態に陥った子供達と上条の倒れ込んだ姿が重なって思い出されてしまう。
気持ちを落ち着かせようと購入したコーヒーも、あまり効果はない。椅子に座ってじっと佇んでいた。

「オイ」

すると、その声に気付き声がした方に顔を向ける。少し強まったその声色で、自分が今何も耳に届かないほど考え事をしている事に気付いた。
その少年の目線は自分に向けられていて。

「あ……ああ、すまない……で、何だい?」

声を向けられていたのは自分だとは思わなかった為、少し驚いたのだが改めてその少年を見る。

──白髪に、赤目……確か、この少年は。

「君は……第一位の一方通行かい?」

「ンな事はどうだっていい」

答えてくれなかったが、その返答から間違ってはないだろう。少々口が悪いようだが、と木山はそんな感想を抱いた。
243 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/01/15(土) 22:43:28.12 ID:CQ1V4yYDO

「話せ。何があった」

白衣を着ている木山を訝しげに睨み付けている様に見える。その眼光は鋭く、恐らく簡単に人を震え上がらせるほどだろう。
何があった、と言うよりも、何をした、と言う風にも聞いて取れた。

「……あの」

木山の耳に、小さく、まだ幼い子供らしき声が届く。

「……?」

そこで一方通行の横にいる小さな存在にも気が付いた。不安げに一方通行の服を掴んでいる少女。

「あの。あの人は大丈夫なの?ってミサカはミサカはとっても心配……」

その小さな子供と目が合った瞬間、木山の中で幾つかのワードが浮かぶ。

絶対能力進化実験、一方通行、シスターズ。……そうか。

「君は……御坂君の……?」

「……うん」

クローン──。と言う言葉を出し掛けて飲み込んだ。

少し元気なく俯くその表情と、一方通行の服をギュッと掴む姿から見て取れる不安と。

──……まるっきり、『人間』じゃないか。

シスターズというものを初めて見たのだが、あの目を覚ました子供達となんら違いはない。そう木山の目には映った。

 そこで木山は、やっと少し微笑む事が出来た。
244 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/01/15(土) 22:44:20.10 ID:CQ1V4yYDO

「いいからとっとと話せ」

なかなか肝心の用件を話さないのか、少し苛立ちを見せて一方通行は答えを求めた。

「ああ、そうだったな……」

だが。この一方通行はそれを聞いてどうするのか。木山もあの実験が凍結された事は知っている。
しかし、幻想殺しが第一位を止めた、としか把握しておらずなかなかに返事をするのを躊躇われていた。

 すると打ち止めが突然木山の傍まで身を寄せると、木山の耳に顔を近付けた。一体何をするつもりなのか、と木山も訝しげな表情になったが、彼女の動向に意識を向けた。

「(……大丈夫だから)」

「………」

ボソッと耳に届いた小さな声。その言葉は、自分が今危惧している事に向けての言葉だったのだろうか。

……しかし、先程の位置に戻っては、自分の居場所はここと言う様な表情で一方通行の隣に座る打ち止めを見て。

「何を吹き込みやがった」

「べっつにー?ってミサカはミサカは誤魔化してみる」

「テメェで誤魔化すなンつったら意味ねェンだよ。余分な事言ったンじゃねェだろォな」

「あなたは心配性だねってミサカはミサカは思ってみたり」

──大丈夫だよ、か……。

木山に、それは相手に絶対の信頼を寄せる無邪気な姿だと感じ取らせていた。
245 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/01/15(土) 22:45:22.96 ID:CQ1V4yYDO

 静かな治療室内に響き渡るのは、上条の呼吸器を介した呼吸の音だけ。

「…………」

美琴は上条の手を握りながら、じっと顔を見ていた。
あれから少し落ち着いたのか、涙は止まっていたが跡が残る顔をそのままにずっと眺めている。

 ……今にも心が押し潰されてしまいそうだった。他の何かだったら耐えられよう。
しかし美琴の思いはもはや上条一色で、いなくなったらどうしよう、とかいなくならないで、とかそればかり美琴の頭を支配していた。

「当麻…………」

答えてはくれない。しかし握った手は温かく、ほんの少しだけ安心させてくれていた。

ガラッ──。

すると治療室のドアが開き、その音に美琴が顔を向けると……

「お姉様……」

御坂妹の姿があった。彼女も上条の姿を見るや否や、苦しく顔を歪ませている。

「…………」

「……入室禁止のプレートが下げられていたのに、入って来てしまいました、とミサカは説明します」
246 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/01/15(土) 22:46:14.12 ID:CQ1V4yYDO

そう言いながら美琴の隣に立つと、彼女も上条の顔を覗き込んだ。

「眠っていますね、とミサカはひとまず安心します」

「…………うん」

そこで美琴はやっと返事をする。御坂妹も美琴の方に顔を向けると、美琴の肩に手を置いた。

「冥土帰しの話によりますととりあえず大丈夫のようです、とミサカは先程冥土帰しと会話した内容を告げます」

「…………そっか」

よかった、と小さく呟く。視線は上条に向けたまま、じっと動いていない。

「……話、しそこねてしまいましたね」

「……。そうね…………」

会話が途切れる。あれだけ一方通行との顛末を聞きたがった自分が嘘だったかのように、今は頭になかった。
しかし妹達の事はもちろん蔑ろにしている訳ではない。ただ、あまりにも上条の存在が大きかった。

でも──。

「また、聞かせてくれる……?」

「もちろんです、とミサカは答えます」

あの実験に関わった者として、姉として。全てを知り、考えた後に答えを出したい。自分が、どうするべきかを──。





「う…………」



すると上条の方から、声がした──。



「当麻!!」

「!!」



上条の目が開く。ゆっくりだが、開く。



「う……、ここ、は……。おお、……御坂、じゃねーか……」



「……! …………とうまぁ……っ」


美琴の涙腺はとっくに渇ききった筈なのだが、堤防を崩壊させ涙を溢れさせた。
247 : ◆LKuWwCMpeE :2011/01/15(土) 22:47:28.63 ID:CQ1V4yYDO
ここまで
書き溜めてきます
248 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/15(土) 23:13:10.84 ID:Oo3XSb/AO
乙!
249 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/15(土) 23:32:38.79 ID:zhPvvKLs0
おつかれさまです 明日またきてくれるよな

14話面白かった フォークダンス静止画だけだった…。
250 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/16(日) 00:54:22.14 ID:TBY+ZU8Ro
乙です!
良いところで切っちゃうな…
続きが気になる
待ってます!
251 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/16(日) 02:13:46.10 ID:GJN6XMmIO
あぁああっぁああ・・・・ふぅ
252 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/16(日) 02:25:20.25 ID:gJ+xEg130
スレタイが「力が目覚める……」と続いて上条さんがドラゴンドレッドぶっ放すと思って来たのに
なんだこのシリアス展開は…最高です
253 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/16(日) 03:00:12.31 ID:pSh3QOmDO
ドレッドヘアーなドラゴン思い浮かべちまったじゃねぇかちくしょうめ
254 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/16(日) 21:46:56.64 ID:ywJDEUgAO
まーだーかー
255 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/16(日) 22:36:45.25 ID:D/oMxwat0
22:40に奴は必ずくる…
256 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/01/16(日) 22:57:03.90 ID:6bq5BeWDO

「……何、で……泣いてん、だよ……」

いまだに意識がはっきりしないのか、ぼんやりと焦点も定まらない様子で美琴の顔を見ていた。

「当麻……っ」

美琴が飛び込むように上条の首にすがり付く

「ヒック……当麻ぁ……! ヒグッ……」

「おお……おい……」

自分の頬に何か温かいものが落ちてきている。それが美琴の涙と言う事に気付き、ようやく上条の意識ははっきりしてきた。

「御坂……ったく、本当に泣き虫だな……」

「当麻……っ、本当に……心配、した……っ」

はっきりと覚醒した意識で、改めて美琴の涙を見て上条の心は痛んだ。

「……。 悪かった、心配かけて……」

──情けねぇな……。

同時に、心配してくれた美琴に対しての感謝もしている。素直に、嬉しかった。

 美琴が身を起こして、ふとそこで上条は何かしゃべりにくい事に気付き、口元に手をやると。

「何だ、こりゃ……」

口を覆う固い感触。それが何か分からず、邪魔だな、と取り外そうとするのだが。

「あ、ダメっ!」

「ダメです」

二人に咎められ、上条はその手を止めた。……二人?
257 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/01/16(日) 22:57:39.50 ID:6bq5BeWDO

よく見ると、美琴が二人いる。上条はそこで御坂妹の姿に気が付いた。

「御坂妹……いたのか……」

「……最初からいましたよ、とミサカは気付いてもらえなかった事にちょっぴりガッカリします」

少し残念そうな表情をした御坂妹。気付かなかった自分に、上条は申し訳ない気分になった。

「まぁしょうがないです。お姉様がそこをどきませんでしたから、とミサカは少し怒ります」

本当に怒っているようには見えない安堵の表情で、怒りを表す御坂妹。彼女は美琴と上条の傍に立ち、いつの間にか繋がれていた二人の手に自分の手もそっと乗せた。

「…………」

繋がれた手の感触が、何だか心地がいい。上条も無意識で、少しその手を強く握りしめていた。
258 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/01/16(日) 22:58:50.09 ID:6bq5BeWDO

「おや、目が覚めたかい」

それから少し穏やかに時間が経過し、冥土帰しが入室してきた。

「おや、君もいたんだね」

「お姉様ばかりずるいです、とミサカは入室した理由を告げます」

そんな会話をしながら、上条のベッドの横に置かれたディスプレイに目を通し、聴診器にて上条の身体を確認していく。

この件とは関係なさそうだが、患者衣のボタンを外されはだけた身体に美琴は少し息を飲んだ。

いまだに残る切り傷や、火傷の跡や、その他にも大小の色々な傷痕。夥しいその傷痕に美琴の顔は悲しく憂いを秘めた。

「うん、脈も安定しているし、心拍数も正常だ。もう外してもよさそうだね」

 上条の身体を確認すると、彼の復調に冥土帰しは微笑む。その様子に美琴も御坂妹も顔を綻ばせた。
259 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/01/16(日) 22:59:38.39 ID:6bq5BeWDO

「よかった、これあると喋りづらかったんだよな」

「今回は少し危なかったからね。呼吸も浅くなってたから念の為付けさせてもらったよ」

「……まじですか」

その返答に少し息を飲んだ上条。一体、自分の身体はどうなってしまうのかと不安が襲った。

──気を失ってたのか……。

一瞬身体が震える。今までは気を失うまでの症状ではなかったのに。回数を追う毎に強まってきているその症状に、上条を不安と焦りが襲いかかる。

「……っ」

すると、繋がれた手に力が込められた事に気付き、美琴の方を向く。美琴も辛そうな思いをしているのだと、その表情を見て確信した。

──……御坂。

しかし、この繋がれた手の温かさに不思議と力をもらっている。恐らく一人でいたのなら押し潰されてしまいそうな不安も、この温かさが上条を安心させていた。

「さっきも言ったけど、君の身体自体は何も問題ないよ。原因さえ分かれば、治す手立てはあるさ。いくらでもね」

そしてこの冥土帰し。上条がどんな傷を負ってこようが、全て治してきた。……ある一つの事を除いて、だが。

だからこそ。

この少年がたくさんの人々を救ったように。

──僕はもう、敗北しない。

冥土帰しは胸に、そう誓っていた。

260 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/01/16(日) 23:00:24.71 ID:6bq5BeWDO

 木山と一方通行、打ち止めの三人は上条を検査していた部屋に来ていた。

あれから木山は上条の身体について、全てを話していた。頭痛に発熱、その頻度、そして計測した時に出たあの数値。見間違いでなければ、能力どころの話ではない。

「…………」

先程のディスプレイを見ているのは木山だ。その横で打ち止めも共に見ている。やはり子供に対して優しげな視線を向ける木山に、打ち止めもそれを感じ取ったのか懐いたようだった。

そして一方通行は、プリントアウトされた計測値の紙に目を通していた。やはり学園都市第一位の頭脳か、木山が説明しなくても何を表された数値か理解しているようだ。

 木山は考える。上条の身体の異変。示された数値とその意味。様々な数値と強さは、多重能力で簡単に片付けれる話ではないのだ。初めて見たそのケースに戸惑ってもいた。

やはり、本人にも話を聞きたい。

「…………あのヤロウ」

すると一方通行が口を開いた。木山と打ち止めも彼の方に視線を寄越し、難しそうな表情をしている一方通行の次の言葉を待つ。

「何か分かったのか……?」

能力者としての最高峰に立つ一方通行。能力を目覚める事に夢見る学生達の、遥か彼方に存在するある意味天の上に立つ存在。彼に期待してしまうのは仕方のない事だ。

「数値をよく見てみな」

その返事に、木山は改めて注意深くそのディスプレイを観察する。大中小、様々な種類の能力。そして、その中でも、特に強いのが。

「電気が突出しているな」

電気を表す『elect』の棒グラフが妙に観測値が高い。『other』と言う主な能力の他の色々な能力をひとくくりにしたものと並び、レベル5並みの数値を記録している。
261 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/01/16(日) 23:04:47.00 ID:6bq5BeWDO

「あァ」

どういう事だと考える。他のと比べて高い、電気、レベル5並みの数値。

「…………御坂、君の……能力……?」

一概にそれだけだと言えないが、順列を付ける為か細かく数値は表されている。そしてその最高値は、通名『超電磁砲』の彼女のデータのものとピッタリ照合している。

「奴の近くには常に超電磁砲がいやがる。……奴の幻想殺し、ただ打ち消すだけじゃないだろォな」

一方通行もまだ詳しい事は把握しかねているのだろう。いかんせん、情報が少ない。

 ……しかし、掴まねばならない。ただこのままで終わるわけにはいかなかった。
あの倒れた時の姿がいまだ木山の心にこびりつく。あの時の子供達とシンクロする様に、守るべき者を守れなかった思いが木山の心を蝕んでいくようだった。

「……ふむ、ここにいたんだね」

 部屋に現れたのは、冥土帰しだった。一方通行もそれに気付き、冥土帰しに目を向ける。

「おや、君もここにいたんだね」

「…………」

返事をする必要がない、とばかりに口を開かないのだが、冥土帰しがただここに来たわけではない、と察知したかその赤い目をただ冥土帰しに向けていた。
262 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/01/16(日) 23:06:07.34 ID:6bq5BeWDO

「彼、目を覚ましたよ」

「…………!」

その言葉に木山の目が見開かれた。

「もう大丈夫だよ。身体自体に異常はないからね」

「…………そうか」

そしてその冥土帰しの言葉にほっと一息吐く。打ち止めも安堵の表情を見せ、木山は優しく打ち止めの頭を撫でた。

「よかったぁってミサカはミサカは喜んでみたり!」

「……チッ。あのヤロウがどォなろォが知ったこっちゃねェがな」

「ねぇねぇ、会いに行こうよってミサカはミサカはあなたの手を引っ張ってみたり!」

「勝手に行ってろ。俺は帰る」

「えー!?やだやだってミサカはミサカはごねてみるっ」

「彼は今日は安静にしなきゃね。会いたかったからまた今度だね?」

「そっかぁ……また今度にするってミサカはミサカは我慢」

そんな様子を見て、木山の気持ちは更に軽くなった気がした。そして得られた手がかり。少ないかもしれないが、一歩前進したのかも知れない。

──もう過ちは、しない。

画面に映る計測値。木山は、更に何か掴めないか再び目を通し始めた。
263 : ◆LKuWwCMpeE :2011/01/16(日) 23:07:08.40 ID:6bq5BeWDO
ごめん短いけどここまで
また明日!
264 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/16(日) 23:10:30.32 ID:iE1lQ4IZP

しかしこの御坂と上条は付き合ってんのか
265 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/16(日) 23:16:35.47 ID:I4KFAdXQo
>>264
>>1から読み通すと分かるけどまだ付き合ってないもどかしすぎて床転げまわりそう
266 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/16(日) 23:21:44.81 ID:kZgAe7xFo
>>265
床に画鋲蒔いとくから何とか我慢しろ

267 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/16(日) 23:30:12.84 ID:gjogLqgZo
乙!
続き楽しみに待ってます!
268 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/16(日) 23:31:27.00 ID:D/oMxwat0
乙です
また明日楽しみにしてる
大支援
269 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/16(日) 23:33:01.25 ID:qSFrcW8AO
乙です
明日が楽しみだ
270 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/17(月) 01:19:35.15 ID:ji1beo390
乙!
271 : ◆LKuWwCMpeE :2011/01/17(月) 22:49:03.86 ID:OPdtomHDO

「今何時だろ?」

上条が気付いたように呟く。しかしこの部屋には時計はなく、美琴も携帯の電源を切っていて確認しようがない。
電撃使いである彼女は、彼女が発する電気ですぐに腕時計を駄目にしてしまう為、彼女は付けておらず。ちなみに携帯は学園都市の技術での能力用加工されたものであるが、今は話に関係ないだろう。

「恐らくもうすぐ12:00になると思われます、とミサカは説明します」

すると御坂妹が推定の現在時刻を伝えた。この部屋に入室する前に恐らく確認したのであろう。

「そうか。んー二人とも飯とか行ってきたらどうだ?」

もう昼なんだな、と思いながら上条は促した。それを考えると自身も少し空腹感を感じてきていた。
そう考えると本当にあの症状が出る時以外は健康なんだな、と苦笑いが込み上げてくる。
しかし原因は何なんだろうか。そんな事を考えていたが、握られている手の感覚が少し強まった。

「……ご飯いい」

憂いを込めた表情で、離さないとばかりに強く握っている。そんな美琴に上条は、こんなのビリビリじゃないと内心ドキマギだった。

「お姉様が行かないのなら私も行きません、とミサカは二人の手を両手で包みます」

自分も握りたいとばかりに美琴に強い視線を送る御坂妹。二人ともかなりレベルが高い女の子で、上条の手を包む柔らかい感触は上条の心拍数を更に上げている。

「おいおい……ずっとここにって訳にもいかんだろ。お前キャラ違うぞ?」

ぶっちゃけ上条もずっとこの感触を味わっていたいと思う訳なのだが、それは言わないでおいた。

「アンタはどういうキャラ期待してんのよ」

「んー……どこでも電撃かましてくるビリビリって所かな」

「…………」

軽口を叩くと、いつもなら電撃が飛んでくるのだが今繋いでいるのは右手だ。幻想殺しで封じている今、その恐れはなかったのだが。

──ん?

だんだん握られてる手の感触が強まってきている。何だか手が苦しい。動かない。……って言うか、痛い。

「アンタは・私を・何だと・思っているのよ!」

「ちょ、痛い痛い痛い〜〜っ!!」

「お、お姉様落ち着いてください」

言葉が区切られる毎に強く握り潰される感覚に上条は絶叫だ。ひぃぃなんて言いながら涙目になってきている。自業自得だが。
272 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/01/17(月) 22:50:13.02 ID:OPdtomHDO

「ったく御坂の奴……」

いまだにヒリヒリする右手に息を吹き掛けながら上条は労っていた。
美琴と御坂妹を何とか食事に向かわせた為、この部屋には今自分以外誰もいない。

「……元気になったかな」

もう美琴の泣いた顔、悲しい顔を見るのはこれ以上見たくなかった。思えばその全て、自分が原因なのだが。

 思えば、随分と自分によくしてくれているなと感じる。学校休んでまで付き添ってくれて。前も食事作ってくれて。恋人ごっこの事や、携帯のペア契約の事。

──ははっ、俺結構御坂といるんだな。

思えば色んな事を美琴としてきた気がする。何となく、温かい思い出で上条の顔も綻ぶ。しかし、やはりそれだけではない経験もしたのだが。

『借りは返すから』

あの実験の後、言われた事。

「……ったく。ここまでしてくれなくても、十分返してもらってるっつーの。天下のレベル5の第三位サマが無能力者にここまでするか?フツー。どんだけ義理堅いんだよ」

 超電磁砲。電撃使い。超能力者。レベル5。学園都市第三位。人から見れば崇めるほどの存在。
……素直にすごいと思うのだが。

「普通の、女の子なんだよなぁ……」

泣いたり笑ったり、喜んだり怒ったり。上条が知るなかでの彼女の立ち居振舞いは、他の生徒達と何ら変わりはない。

「誰が普通の女の子、だって?」

「大体誰かは予想がつくけどね」

「おわっ!?」

そんな事を考えていると、いつの間に現れたのか冥土帰しと木山の姿があった。そんなに考え事していたのか、と上条の心臓ははね上がった。

「ふむ、そこまで元気なら一般病棟に移っても問題ないね」

「あ、そう、ですか」

いまだにバクバクする心臓を押さえ、冥土帰しの言葉に反応する。一般病棟とは言っても、彼のいつもの個室なのだが。
しかし、上条は思うところがあった。

「あれ、でも一般病棟に移るって事は……」

「うん、今日はここにいてもらうよ?」

「……まじすか」
273 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/01/17(月) 22:51:23.56 ID:OPdtomHDO

上条は頭を悩ませた。今日は帰れない、と言う事は。

「はぁ。インデックスに何て言おう……」

彼の部屋にいる居候にどう説明したらよいのだろうか、と考えていた。木山はインデックスと言う言葉に頭を捻り、尋ねる。

「……インデックス、と言うのは?」

「あぁ、いつも彼が入院する度に付いてくる小さな女の子でね。同居しているらしいが」

「……同居?どういう事だ?君は御坂君と付き合っている訳ではないのか?」

さすがに聞き捨てならない言葉が上条の耳に届いた。このやり取り、朝も別の二人組とやった様な気がするのだが。

「違いますよ。インデックスは同居って言っても居候させてるだけだし、それに何で皆俺と御坂が付き合ってるって思うんですか」

「……あれで付き合ってないって言うのか……」

「へっ?」

木山の最後の言葉は聞こえなかったようで、上条はそんな間抜けな声を出した。冥土帰しは横で何故かニヤニヤしていた。

すると昼食を摂り終えたのか、美琴が戻ってきた。

「ただいま……ってゲコ太先生と木山先生」

二人の姿に少し驚きつつ、先ほどの上条のベッドの横に移動する。

「おや、噂をすればなんとやらだね」

「へっ?噂って?」

「君と上条君が付き合ってるんじゃないかって噂をね」

「なっ///」

やはりこの話には弱いのか、美琴の顔は赤く染まる。イヤンなんて両手で頬を隠す仕草をしつつ、上条に目を向けた。

それを見た木山と冥土帰しは更に顔にニヤニヤを張り付け、身体をポリポリかきながら楽しそうに笑うのだった。
274 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/01/17(月) 22:52:21.41 ID:OPdtomHDO

「結局ここか……」

第二の部屋と言わんばかりにいつもの病室に来ると、上条は溜め息を吐いた。ここの壁にこんなシミがある、と言えるほど来すぎてしまっている事に嘆息していた。

「もうお馴染みね」

美琴も美琴で上条がここに来る度に来ているので、上条の次にこの部屋の合計滞在時間は長い。

「でもよかったじゃない、いつもこの部屋空けてもらってて。あの部屋追い出されたらここに住めば」

「無茶言うなよ……結構払いきれてない病院代とかあるんだぜ……」

自分で言ってて悲しくなるほどここにお世話になってるな、と改めて思う上条。
もし追い出されたら追い出されたで美琴も今の寮を出て二人で……なんて考えているがそれはそれでかなりの重病だ。考えているだけでふにゃりそうで。まぁその時はもう一人付いてくるのだが。

「あ」

「ん?どうした?」

何かを思い出した様に美琴が声を上げ、上条が聞いてくる。

「さっきゲコ太先生が今日は入院って言ってたでしょ?あの子はどうするの?」

「俺も考えてんだけどなぁ。担任の教師に預けるしかなさそうだな」

インデックスの事で頭が悩む。上条は上条で困った時の小萌頼みを考えているのだが、回数が半端ではない。更にそれをお願いすると、補習の量が増えていた気がするので上条的に気が進まないのだ。……腹いせなのではないのかが疑問だが。
275 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/01/17(月) 22:52:57.87 ID:OPdtomHDO

しかし今回は仕方がないだろうと、小萌に連絡を入れようと決めたのだが。

「別にあの子はご飯だけあればいいでしょ?私が作ってきてあげるわよ」

すると意外な方向から助け船が。

「え……まじか?」

上条もその提案に乗りたい。乗りたいのだが。

「でもなぁ。今までさんざん世話になってたし、これ以上御坂に迷惑かけるわけにはいかない」

ただでさえとんでもないくらいの手間と世話と迷惑を掛けてしまっている。上条はその事で遠慮していた。

「……別にいいわよ、それくらいなら」

──アンタの為だし……。

自分で自分の心に呟いた言葉に赤くなりつつ、インデックスを引き受ける事を決めた美琴。彼女は本当にそれくらい大した事ないと感じていたし、上条が頼まなくてもそうするつもりだったのだ。

「う……じゃあお願いできるか?」

「いいわよ……あ」

「ん?どうした?」

途中で声を上げた美琴に上条は反応する。何故か少し顔が赤くなっている美琴に首を捻りつつ言葉を待った。

「そ、その代わり」

「??」

「今度。……買い物、その、付き合ってよね///」

顔を赤らめて上目遣いで上条の顔を覗き込み、可愛いお願いをする。そんな美琴に上条は、やっぱこいつ可愛いんだななんて思いつつ。

「お、おお。荷物持ちだな、いいぞ」

「んじゃそういう事で決まりね!」

「ん、分かった」

突然早口で捲し上げる美琴の勢いに押されながらも、上条は頷いた。

そして美琴は心の中でガッツポーズを爽やかに決めていた。買い物の約束を取り付けれた事が余程嬉しいのか、口元がつり上がりっぱなしなのだが、そこには詳しく突っ込まないでおこう。
276 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/01/17(月) 22:54:49.38 ID:OPdtomHDO

 その後は他愛もない話で盛り上がり、時刻ももう15:00になりつつあった。

「気付けばもうこんな時間かー」

と、話に夢中だったのかお互い時間を忘れていた様だった。そんな穏やかな時間が流れていくのが、美琴は名残惜しく思っていた。

「もうすぐで授業も終わるわね。……はぁ、また黒子からの電話の嵐が来そうだわ」

「嵐って……そんなにすごいのか」

毎度毎度の事ながら、黒子からの電話に溜め息を吐く美琴。上条も苦笑いを禁じ得なかった。

「もう出るまで掛け続けてくるわね、あの子」

「……愛されてるな」

「アンタならよかっ……くない!///」

「ん?何だ?」

「気にするな!ばか」

「ばかって何だよばかって」

いつも交わす会話に恒例の如く組まれているやり取りにだが、少し素直になれているようでも美琴は隠すのに必死だ。
素直になろうと心に思っていても照れ死にしてしまいそうで、それを美琴は押し留めていた。

「それにしても、悪かったな。二日も休ませちまって」

さすがに常磐台のお嬢様だ、ロクな理由も無しに二日も欠席させてしまったという事で上条は焦りを感じた。
しかもレベル5であり、責任問題等に発展したとすれば謝罪で済む問題ではない。

 レベル5というのは、学園都市ではそれほどの存在なのだ。

「別にいいわよ。とにかく、アンタは治す事に専念しなさい。いいわね!」

だが。だが美琴はこういう女の子なのだ。常磐台というお上品な事に関して完全無欠なお嬢様学校の中でも珍しい、フランクな性格の持ち主で。
女の子女の子されても、身構えてしまう上条としては接しやすく。

 と言うか、それが嬉しかった。

「……だな。ありがとな」
277 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/01/17(月) 22:56:11.60 ID:OPdtomHDO

「や、上条君。調子はどうだい?」

「あ、木山先生」

病室にいても手持ち無沙汰な為、デイルームで雑誌を読んでいると、木山が入ってきた。

「うーん、全然何ともないっす。と言うか、あれの時以外は全くの健康体らしいんで」

開いていた雑誌を閉じ、デイルームに備え付けられている自販機で飲み物を選んでいる木山の方に顔を向ける。

「コーヒーでいいかい」

「え、いいんですか?」

返答をする前にボタンを押していただろうか、自販機から飲料がコップに注入される音が聞こえてきた。
……ありがたくいただく事にする、別の物がよかったなんて今更言えないし。

「ふぅ」

椅子に座り、上条と同じくコーヒーに口を付けると木山が一息吐いた。

「先ほどはすまなかった」

「……え?え?」

すると突然、上条に頭を下げるものだから上条は戸惑った。

「……俺。何かしましたっけ」

普通この状況なら逆の言葉が出るのだが、所々相手に対して引いて考えてしまう上条はついこんな事を口走る。

「……検査していた時だ。君の身体をそっちのけにしてしまった」

「…………」

あの時だ。上条の意識が失った時。木山は上条の方ではなく、検査器具に夢中になって上条を倒れさせてしまった。その事を謝罪していた。

下げられた頭を見て、上条は逆に顰蹙を買ってしまった。謝れる謂れはないし、逆に手間を掛けさせてしまっている事を謝りたいくらいなのに。
278 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/01/17(月) 22:56:52.72 ID:OPdtomHDO

「頭を上げてください」

「……だが」

「……俺は。感謝してるんですよ」

そこで木山の頭が上がった。その顔は少し辛そうに見えて、上条の心は痛む。誰にもこんな顔をさせたくなくて。

「木山先生が俺を助けようとしてくれている事は分かってるんですよ」

「…………」

「御坂が、研究者というのを信用しない節にしているのを、知ってますか?」

「……あの実験の事かい?」

「はい」

上条は思い出す。美琴が研究所を潰しに回っていたという事を。

 後に聞いた話、筋ジストロフィーという病気を治す為に提供したDNAマップが、研究者に悪用されたという事。その事を話している節々、研究者というものに対して並々ならぬ不信感を抱いていた事を上条は感じ取っていた。

 あんな事があったのだ。嫌悪感を抱くのが普通だ。しかも美琴は普通の中学生の女の子。美琴が感じた辛さは半端ではない。

「それでも、それでも。研究者である木山先生に、俺の事、頼み込んできたんでしょ?」

「…………ああ」

美琴と木山の間に何があったのかは知らない。しかし美琴は木山の事を、研究者としてではなく、人として信用しているのだろう。

「そういう事です」

「……っ」

上条は木山の顔が少し歪んだように見えた。

「俺も御坂も、信じてます。木山先生の事」

「…………君は」

「はい」

「たくさんの幸せを与えて、たくさんの幸せを貰っているんだね」

「……不幸体質の俺が与えれているとは思いませんけど、確かに貰っていますよ」

──そう、だよな。俺は、幸せ、なんだよな……。

自分の手の届く範囲でだけでも幸せにしてあげたい人達がいる。それは上条が常々思っている事だった。

「……ありがとう」

「こちらこそ」

そう言う木山の顔も、研究者ではなく、やはり人だった。
279 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/01/17(月) 22:58:04.11 ID:OPdtomHDO

 気持ちが晴れたかのような木山は、ある質問をする事にした。

「ところで」

「はい?」

「君は御坂君の事、どう思っているんだい?」

「……御坂の事、ですか」

落ち着いた時間に考えるのは、初めてかもしれない。
自分は美琴の事をどう思っているのだろうか。

考える。

ビリビリで、意地っ張りで、怒りんぼで、泣き虫で。
でも心は強くて、笑ったり、喜んたり、照れたりしてる時は……────

「あれだけ御坂君が感情を露にする相手は、君以外に見た事がないね」

木山から見たら美琴の想いは分かる。……そして、何となくだが、上条の想いも。

 大脳生理学者としての知識、経験が全てそうだと告げている。彼女を見ている時の彼の顔は、どこか違う、と。

「御坂君はよく素直じゃないと言われてるが、君もそうではないのかい?」

上条の頭の中でぐるぐる美琴との思い出が駆け巡る。記憶をなくしてから、恐らく一番共にいるのは……美琴であろう。

──俺が……あいつの事……?

『ビリビリ言うなっての!!』

『無視するなぁ!!』

『んがー!たまには当たりなさいよ!』

『ちぇいさーっ!』

『ほら行くわよ!さっさと歩く!』

『ったくしょうがないわね。ほら、ここ違うわよ』

『……どう?美味しい?』

『アンタは私が守ってあげるわ!』

『当麻…………!』


 色んな美琴の顔を見てきた。泣いたり笑ったり、怒ったり喜んだり、照れたり拗ねたり。
280 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/01/17(月) 22:59:13.49 ID:OPdtomHDO


『……そう、約束だ。御坂美琴とその周りの世界を守る』


その全てが大切のように思える。



──……そうか。俺、あいつの事……



    好きなんだ。



281 : ◆LKuWwCMpeE :2011/01/17(月) 23:00:11.62 ID:OPdtomHDO
今日はここまで
また次回!
282 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/17(月) 23:07:44.25 ID:0wh+B7Y40
い、いやぁぁぁぁぁっ。続きが気になるのぉぉぉぉぉっっ!!

GJ
283 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/17(月) 23:17:52.21 ID:7GrEn3Ww0
上条さんがいきなり自覚しただと…












問題ないですベストタイミングです明日もお願い致します
284 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/17(月) 23:29:06.14 ID:0YD801Oio
続き気になる…
GJ!
285 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/17(月) 23:36:20.77 ID:uTMeY8vjo
いよっしゃあああああ!!!!!(ガッツポーズ
286 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/18(火) 01:12:23.79 ID:kUirYgkP0
キタァアアアアアア!   次回楽しみ   
287 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/18(火) 01:36:16.42 ID:mdjdZSHvo
えんだァ
288 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/18(火) 01:37:45.35 ID:z5vyFwqAO
イヤァァァァァァァァァァァァァァァ
289 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/18(火) 01:48:39.10 ID:hcWskxBAo
うわ
ゴミ琴かよ
290 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/18(火) 02:01:58.72 ID:ygaEc+uNo
ここまで読んで他に誰とくっ付くと思ったのかと
いや、大穴で木山せんせーとか思ってた俺が言うのもなんなんですがね
291 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/18(火) 06:23:06.20 ID:CLib5aNl0
ここからいっきに落としそうでこわい
292 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/18(火) 12:03:28.15 ID:12xZ+UfCo
素直になれそうでなりきれない美琴さんかわいいよ
しかし一方さんの所で不吉な伏線が・・・
293 :よし今なら行ける!  ◆LKuWwCMpeE :2011/01/19(水) 00:47:08.96 ID:wF5uQZlDO

 上条は恋というのがどういものかは分からない。記憶がないのだから。人に恋をする、という経験が上条は持ち合わせていない。

もしかしたら以前の上条は誰かに恋い焦がれ、誰かとその関係に発展した事があったのかもしれない。しかし関わってきた全ての人々の思い出がごっそりと切り取られていて、いくら考えても蘇る事はない。

あぁ、あの人はこういう人なんだ、とか、あの人は接しやすいとか、あの人は苦手とか。その人に対する考えも、全てリセットされていて。

 ……しかし、美琴は。今の上条にとって初対面だったあの時だって、自然に接していた。気付けば、まるでこうするのが当たり前だったかを覚えているような、そんな接し方。

記憶はない筈なのに、まるで昔からこうしてきた様な。

笑ってる時。一緒に笑いたかった。

泣いてる時。守りたかった。

喜んでる時。嬉しくなった。

悲しんでる時。傍にいたくなった。

──俺は……こう思ってたんだな。

落ち着いて考えれば、自然と答えを出す事が出来た。

好きだと。守りたいと。傍にいたいと。
294 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/01/19(水) 00:48:22.47 ID:wF5uQZlDO

「余計なお節介したかな」

上条の納得したような表情を見て、木山は少し恥ずかしそうに頭をかいた。

「……いえ」

自覚したような上条に満足そうな笑みを浮かべ、木山は『本題』に入る事にする。
その本題の前に上条に投げ掛けた言葉は、木山の優しさからくる言葉だったのだろう。

「さて上条君」

「はい?」

「先ほどの検査中の話なのだが」

そこで上条も切り替えたか、木山の方を向いた。

「……実は、君が倒れる直前に、能力の反応があった」

「!? ま、まじすか……?」

驚愕という驚愕を顔に張り付け、上条は思わず聞き返した。当然であろう。己が持つ幻想殺しの影響で、能力など発現しようがない筈なのに。

「ああ。それに……」

「それに……?」

「……数値的には。あの時観測した能力は」

一度区切る木山に、上条も固唾を飲んで見守っている。
能力……一体何なのであろうか。



「……レベル5級、だ」



「……………………はい?」
295 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/01/19(水) 00:49:10.67 ID:wF5uQZlDO

──……何だって?レベル……5?それ以前に能力の時点でありえない筈なのに、レベル5、だって?

言葉が出ない。驚きを通り越し、上条の思考は完全にストップした。もう驚きでは表せない程だった。

右手を見る。そこに宿る幻想殺しは数々の異能、魔術を打ち消してきた。打ち消してきたのに。
この右手が宿す力は……それだけではないのか。

「……あ」

──そう言えば。

そこで上条は何かを思い出したかのように声を上げた。

「何だい?」

「今思い出したんですけど。さっきあの症状が出た時、色んな声とか聞こえたような気がしたんですけど……あん時木山先生しかいなかったよな?それにしちゃやけに人数いっぱいいた様な……」

段々独り言のようになっていく上条の言葉だったのだが、木山は聞き逃さなかった。

「詳しく話してくれないか?」

「ええ……とは言っても、あの症状が出る瞬間、まるでいきなり大勢の人混みの中に放り込まれたみたいに、色んな人の声が聞こえてきた気がしたんですよ。症状が出てからはそれどころじゃなかったんですけど」

「声、というのは具体的に……?」

「男から女、小さい子らしき声も。一気にざわめく感じで来たんで、何を話してるのかとかは全く」

「ふむ……」

木山は思案顔をする。木山の頭の中でいくつか仮説を立てるのだが、候補があり、そして一致しないという不可解な答えに辿り着く。

「他には?」

「……すいません。症状出て割りとすぐに気を失ったみたいなんで」

「そうか……すまなかった」

責められていると思ったのか、申し訳なさそうな表情を見せた木山に上条は慌てて手で制するフリをした。

「あ、でも。今回それが聞こえたのは初めてでした」

「ふむ、そうか……ありがとう」

「いえ、こちらこそです」

まだまだ情報が足りない。彼を治す手立てがまだ見つからない事に気持ちが逸るのだが、焦っても仕方がない。

 見ていて微笑ましい二人を守りたい。木山はその一心でまた先ほどの検査室に向かう事に決めた。
296 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/01/19(水) 00:50:32.18 ID:wF5uQZlDO

 美琴は上条宅に夕食を作りに行く為、そろそろ夕陽がかってきているオレンジの街並みを歩いていた。もう時刻は放課後を過ぎていて、ちょうどピークだったのか、周りには下校途中の生徒達で街は溢れ反っていた。

いつもならその喧騒に触れ、コンビニで立ち読みするかゲームセンターにでも繰り出すくらいの彼女なのだが、気分的にそうはいかなかった。

──大丈夫かな……。

上条の身体の事を考え、早目に休ませようと日が暮れる前に病院を出たのだが、冬の冷たさは身体と気持ちを冷えさせる。

『上条君が…………倒れた…………!』

『……………………え?』

今でも思い出されるあの時の衝撃。深い絶望が、二度と抜け出せれない悲愴が美琴の鼓動を早める。

もしもそのまま……だったのなら、美琴は恐らく、二度と笑えなくなる。感情を全て殺され、きっと生きる屍の如く何も考えなくなる人形に化したであろう。

 それほどまで、好きだった。

「無事で、よかった……」

気を抜けば涙が出てしまう。何とか堪え、これからの事になるべく明るい未来を想像したい。二人で、笑って過ごせる未来を。

「うん、木山先生とゲコ太ばかりに任せるわけにはいかないわ。私も何かしなきゃね」

彼の力になれる事ならば、何だってしたい。
一息よし、と気合いを入れて、上条宅に向かって行った。
297 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/01/19(水) 00:52:13.45 ID:wF5uQZlDO

「カミやん、探したぜい」

「あれ、土御門」

 デイルームで木山と別れ、病室に戻った上条はデイルームからかっさらってきた雑誌を読んでいると、見慣れた金髪が入ってきた。

「今日も学校来てなかったからカミやんちに様子見に行ったら、禁書目録が『学校行ったよー』なんて言ってたから探してみればやっぱりここだったんだにゃー」

「悪かったな、すまん」

携帯は電源を切っていた為、連絡もつかない。恐らく探し回ったであろう土御門に上条は申し訳なく思った。

「いや、いいぜよ。それよりカミやんの身体の事、探ってみたんだがにゃー。恐らく魔術的な影響じゃなかったんだにゃー」

──魔術ではない……となると、やっぱり科学か……。

右手を見る。いつもと変わらない右手だ。

「そうか、分かった。手間掛けさせて悪かったな、ありがとな」

となるとやはりさっきの木山の言葉が引っ掛かる。レベル5並みの能力を観測した──考えられない事だが、きっと異変の原因はそれなのだろう。

「いいって事よ。それよりもカミやんの身体の事伝えたら、ねーちんと五和が今すぐ日本に行くって騒ぎだしたんだにゃー」

「へ?神裂と五和が?」

 神裂と五和とは、上条と共に難敵と戦ってきた天草式の凄腕の魔術師だ。
一人は世界に20人ほどしかいない聖人。
一人は聖人に並ぶほどの槍使い。
しかし上条の頭の中には、堕天使エロメイドの姿と大精霊チラメイドの姿が浮かんでいたが即座に修正しておいた。
298 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/01/19(水) 00:52:54.86 ID:wF5uQZlDO

「向こうの仕事ほっぽりだして日本に飛んできそうな勢いだったんだにゃー」

止めるのに必死だったぜい、と泣きそうな顔して話す苦労人、土御門。電話口の土御門と、現場にいるだろう建宮という男の必死ななだめが功を奏したようだった。

 ちなみに彼女らが飛んできてしまいそうだった理由としては、上条だから、としか言いようがない。

「……あいつら」

すると上条が俯き、そう呟く。土御門はそれを見て「お」なんて反応していた。



「病に伏した俺の事を亡き者にしようとしてたんだな……」



「…………は?」

何言ってんの?コイツ、なんて言葉しか土御門の頭に浮かばない。

「だってそうだろ?俺は引き受けさせられたようなもんだけど、あいつらが大事にしているインデックスは遠い地の何処の馬の骨かも分からん男に取られたようなもんだぞ?大体シスターとはいえ年頃の女の子を任せるだけで危機感ばりばりだろうが」

「…………」

「それに神裂にはまじで一度殺されかかってるし、五和だって、あん時よく目が合っていたのは護衛なんて言いながら監視の目を光らせていたからだろうが。ったく。こっちにはそんな気、サラサラないっつーの」

「一回こいつの思考回路本気で調べたいぜい……」

土御門は『哀れねーちん、五和……』と心の中で十字架を切っていた。
299 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/01/19(水) 00:54:56.15 ID:wF5uQZlDO

「そうだ、悪いんだが俺今日入院らしくて帰れないんだ。夕食は知人に頼んであるんだが、夜はどうしてもインデックス一人になっちまうから土御門時折見といてくれないか?」

「んげ」

上条が入院となると、今日一日はインデックス一人だ。その事をお願いすると、土御門はしまった、という顔になった。

「どした?あ、用事があったか?」

「だにゃー、夜はちっとな。だがカミやんの頼みだ、なるべくすぐ戻るぜい」

「……すまん」

いまだにインデックスが持つ魔導書の10万3000冊を狙う輩はいる。なるべくインデックスを一人にさせておきたくないのだ。

 一方、土御門は彼のもう一つの顔、学園都市の暗部『グループ』としての仕事の予定がこの日はあった。
だがこの日の仕事は大したものではない。すぐに終わる仕事らしく、土御門はなるべく早く戻る事を約束した。

『必要悪の教会』として仲間のインデックスを守る事の方が重大なのだ。それが当たり前だと言わんばかりに土御門は即決していた。

──カミやんにもお世話になってるからにゃー。

それに土御門は上条の希望を尊重する傾向にある。
上条の大切なものは守るという強い意志、優しさは土御門が属するイギリス清教の中でもかなりの影響を及ぼしている。

そんな彼は、土御門の中でも尊敬すべき親友だった。
300 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/01/19(水) 00:56:16.78 ID:wF5uQZlDO

ピンポーン──。

「……」

ピンポーン──。

「…………」

ピンポンピンポーン──。

「………………あれ、いないのかしら」

 美琴が上条宅に到着したのが16:30頃。その手には甚大な量の買い物袋を引っ提げていて、少し疲れた様子であった。レベル5とはいえ、美琴は腕力もない非力な中学生の女の子だ。仕方がないだろう。

 インデックスを呼ぶためにインターフォンを何回か押したのだが、反応はない。

「仕方ないわね」

今朝侵入した時と同じ方法で美琴はドアを開ける。

ガチャ──。

「やっほー……ってやっぱいない」

玄関で靴を脱ぎ、リビングまで入っていったのだが、肝心のインデックスの姿が見当たらない。

「とりあえず食材を冷蔵庫に入れておこうかな」

ビニール袋をガサガサと鳴らし、台所まで移動する。そして冷蔵庫を開けて買ってきた物を入れようとすると──。

ガタッ。

「ん?」

物音が美琴の耳に届いた。その物音がした方に美琴は視線を向けるが。

「……」

何もない。恐らく気のせいだったのだろうか。
まぁいいかと呟き、次の食材を冷蔵庫に入れようとすると──。

ガタタッ。

「!」

また聞こえてきた。今度は確かに、だ。
301 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/01/19(水) 00:57:27.44 ID:wF5uQZlDO

「え、え?き、気のせいじゃないわよね……?」

何だか少し怖くなってきた。時刻もまだ16:30とはいえ、冬の日は落ちるのが早い。電気は点けてはいるが、オレンジから黒になりつつある外の色も少し不安感を掻き立てる。

美琴もやはり女の子だ、怖いものは怖い。

「あっ……!」

バサッ……コロコロ──。

買い物袋をその場に落としてしまい、スーパーで見かけて思わず買い物カゴの中に入れていたみかんが転がる。物音がしたリビングの方に、だった。
そしてその時。

ガタタタタッ!

「なななな何なのよ!」

突然物音が騒々しくなり、美琴の心臓が飛び魚の如く跳ねた。

──おおおおお化けだったらいいいいいやよ!

この科学の街で、それはあり得るのだろうか。それとも違う何か──変質者!?

その音に美琴は思わず後ずさるが、戦闘体制を取った。手に電気を宿し、キッとリビングを睨む。

──ここここここは当麻の部屋よ!へへへ変な奴だったら私が叩き伏せるっ!!

そしてみかんが転がっていき、ベッドの下まで行くと──。



  白 い 手 が 伸 び た



「お化け──────!!」





「ムシャムシャ……このみかん美味しいんだよ」




「アンタかいっ!!」


美琴のその時の悲鳴と怒号は、上条の学生寮全部屋に届いたらしい。
302 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/01/19(水) 00:59:48.57 ID:wF5uQZlDO

「ってアンタ!そんな所で何してんのよ!」

「あ、やっぱり短髪だったんだよ。変質者対策なんだけど、よかったー」

何故かホッとしたという安堵を顔にくっつけ、インデックスがベッドの下からニュッと出てきた。

「よかったーじゃないわよ!死ぬほどビビったじゃないの!!」

よっぽど怖かったのか、涙目で美琴はキレだした。

「私だって分かってたんなら最初から出てきなさいよ!ったく!」

「だって姿を変える魔術だってあるんだよ、疑ってかかれってやつかも」

「魔術だか何だか知らないけどもうこんな事しないでよね!」

「むぅ……ホントの事なのにー」

まるでキャットファイトが行われているの如く部屋の中に甲高い声が飛び交った。青ピあたりこの場にいれば喜びそうなのだが。

「あれ?とうまは?」

上条の姿が見当たらない為か、キョロキョロしながらインデックスは尋ねた。

「…………っ。……アイツは風邪がちょっと酷くなっちゃったみたいでね。大した事ないらしいんだけど、今日は入院なんだって」

「……また何か怪我とかしちゃったの?」

「……っ」

本当に心配している表情をして、インデックスは落ち込む。美琴もやはり言いにくかったし、それに口にしたくない気分だった。

……あの時の絶望感を思い出してしまいそうで、身体が震えてくる。
303 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/01/19(水) 01:00:36.73 ID:wF5uQZlDO

「とうま、大丈夫かなぁ。でも明日帰ってくるんでしょ?」

だが。やはりこの子も本気で心配してるんだと思うと、美琴は辛そうに唇を噛み締めた。

 インデックスの為とは言え、本当の事を伝えないのは酷だ。インデックスとは口喧嘩をよくしている。だがインデックスが純粋でいいコだというのは知っている。

「……うん。明日は退院パーティやんなきゃね」

──だからこそ、アンタも早く治しなさいよ。この子の為にも……。

美琴の願いは、本当の意味での上条の身体の完治だ。そしてそれを祝ってあげたいと、そう思っていた。









「え?短髪も来るの?」

「え?ちょっ」

でもまぁ、この二人はこれが似合うだろう。
304 : ◆LKuWwCMpeE :2011/01/19(水) 01:04:56.34 ID:wF5uQZlDO
ここまで
また明日!
305 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/19(水) 01:34:14.83 ID:/2TlhzhLo
GJ!
続き待ってます!
306 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/19(水) 01:35:47.95 ID:DbKiYau40
乙!お化けが怖い美琴かわゆす
307 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/19(水) 02:20:20.45 ID:ZGJn8KEd0
インデックスと美琴の距離感が上手いな
五和、ねーちんは本気で上条さんどう思ってるのやら…
308 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/19(水) 02:50:27.04 ID:ObOTbkBso

美琴可愛いwwww
309 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/19(水) 14:40:57.30 ID:z9Ui1/9m0

 いやー美琴可愛すぎるなwwwwww
五和とねーちんがかわいそう過ぎるwwwwww
 にしても上条さんのことどうもっていくのか凄く気になる
310 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/19(水) 15:06:18.70 ID:9Bw/ojZB0
仕事の休憩かな

夜また来てくれたらうれしい

あ、俺今日誕生日だ
311 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/19(水) 16:56:56.60 ID:Tj3Ka5mgo
あ、俺も今日誕生日だ
312 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/19(水) 17:41:24.85 ID:Cna2dUiDO
じゃあ俺も誕生日だな
313 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/19(水) 19:23:31.43 ID:xkvefXmAO
おいおい、俺も誕生日だ
314 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/01/19(水) 20:04:05.05 ID:wF5uQZlDO
あ、俺もだった
315 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/19(水) 20:24:20.94 ID:OSET6SxFo
じゃあ、俺も
316 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/19(水) 22:26:43.48 ID:ObOTbkBso
何を隠そう俺も
317 : ◆LKuWwCMpeE :2011/01/19(水) 22:32:18.92 ID:wF5uQZlDO

「時間だ」

『ぶち殺しゃいいンだろォ?』

「早まるな。クロだった場合だ」

暗闇の中、男の声が響く。金髪にサングラス──土御門は感情のない声で内容を電話先に伝える。電話先──一方通行もつまらなそうに早急に済ませたいようだ。

──俺もそうしたいんだにゃー。

『グループ』としての土御門。彼は仕事を迅速に、そして確実にこなす。
今回の仕事、というのも学園都市に潜り込んだ「外」からの「脅威」と言う事は聞き及んだ。

──……脅威、ねぇ。

依頼元が何を思ってそういうのかは知らないが、恐らく学園都市の能力やら科学やらを盗みに来た輩であろう。そしてその輩が。

動いた──。

「クロだ」

「ぐあああぁぁぁっっ!!」

告げた瞬間、輩の身体に無数の穴が空けられ、悲鳴と共に命の灯が消えた。

「戻るぞ」

死体もそのままに、土御門は無表情のまま踵を返す。放っておいてもすぐに回収される手筈になっている。

──早目に終わってよかったにゃー。そう言えば、カミやんが言ってた知人って誰だったんだろうな?

もう土御門の思考には『グループ』の事はない。特に感慨もなく、土御門は「お疲れさん」と戻って行った。
318 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/01/19(水) 22:33:23.46 ID:wF5uQZlDO

 日も完全に落ちてから、大分時間が経ったのだろうか。ディスプレイを見つめ、たまにキーボードを叩き、またディスプレイを見つめる。その作業をずっと繰り返している。

「ふぅ……」

疲れた目元を揉みほぐし、木山は背もたれにもたれ掛かった。

──コーヒーでも飲もう。

いつもなら夕食はとっくに食べ終わっている時間。しかしお腹は空く気配は無い。小休憩を取る為、その場に立ち上がるとドアが開いた。

「少しは休んだらどうだい?」

コンビニか何処かで買ってきたのであろうか、小さめのビニール袋を持った冥土帰しが入ってきた。中にはクラブハウスサンドとコーヒーの缶が入っていて、木山にそれを渡すと部屋の窓側に立った。

「…………どうも」

礼を言い、コーヒーの缶のプルタブを開ける。ブラックのいい匂いが漂い、木山はそれに口をつけた。

「何か見つかりそうかい?」

窓の外を眺めながら、冥土帰しは口を開いた。

「今のところは」

何も。と言う言葉を無言で告げる。

現在分かっている事は、レベル5級の能力を観測した事と、その時に上条の頭に無数の人間の「声」が響いたと言う事。

「ふむ、声、ね」

そこで冥土帰しが振り返った。その声の事については冥土帰しに既に伝えており、彼も思案顔をして治す手立てがないか頭の中で模索しているようだ。

「その声について、内容とか何かが分かればよかったんだが」

木山はそう呟くが、それは仕方のない事だ。
今は恐らく寝ているであろう上条。彼に再びあの状況を再現してもらうなどという方法は取れない。

それで何かが掴めるとしても、荒療治過ぎる。それに再びあの声が聞こえるとも限らないし、また上条に異変が起きうる事を避けたかった。
319 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/01/19(水) 22:35:50.79 ID:wF5uQZlDO

 冥土帰しが持ち場に戻って行くのを見届け、木山はコーヒーを飲み干し、考える。

──演算、能力、頭痛、超電磁砲のデータとの一致、発熱、目の色の変化、声……。

キーワードはたくさんあるようで、無い。関係性を持つものは少なく、それが上条の身体の異変とどう繋がっているのか。いや、それとも全く関係のない事なのだろうか。

──分からない……。

苦虫を噛み潰したような表情を浮かべ、己の力の無さを嘆く。

 AIM拡散力場を専攻していた自分にとっての分野であるはずなのだが、今まで事例のなかった事だけでこんなにも自分は無力なのだろうか。

──様々な能力……多重能力……。

ふと幻想御手を思い浮かべる。自身で作り上げてしまったあのプログラム。しかしあれは特定の条件が合わなければ発動はしない。

──共感覚性を刺激させられていた……?いや、日常生活の中で能力開発を受けている学生達も過ごし方は千差万別だ。あれだけの数の能力を観測したんだ、脳波パターンがたまたまあれだけの数の学生達と一緒になるなどと言う事は万に一つも無いだろう。

それに彼は有している。

──幻想殺し。

恐らく世界に一人だけしか持っていない能力。それも学園都市にて発現した訳でもない、生まれつきのもの。

「!!」

そこで木山は何かが思い付いた様に息を飲んだ。

──全ての能力を打ち消す……

『……奴の幻想殺し、ただ打ち消すだけじゃないだろォな』

一方通行の言葉を思い出すと共にある考えが浮かぶ。

──打ち消す『だけ』じゃない……もし、能力『だけ』を打ち消していた……? ……となると……!

慌てたように、上条を検査した装置のディスプレイに飛び付く。木山が開いた画面は……脳波グラフ。

「!!」

それを確認した木山の目が、大きく見開かれていた。
そこに示されていたグラフが、信じられないと言わんばかりに木山の思考が止まった。

「どういう……事だ……」



そこにあったのは、様々な項目に分かれている検査値。そしてそのどれも一つ一つが、上条が倒れたあの瞬間──






    優に『数十人分』の脳波の量は超えていた事を示していた。
320 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/01/19(水) 22:37:53.61 ID:wF5uQZlDO

「……そういう……こと、だったのか……。 ……何という、事だ……」

木山の頭脳が全てを弾き出す。

 上条が今まで使ってきた幻想殺しは、確かに能力を打ち消している。打ち消してはいるのだが、その力の残滓が、思念波が残っていたとなると。


『頭痛がするんですよ』

能力を打ち消した後の『空白』に残った思念波を上条の意思関係なく拾い上げ、蓄積していたとしたら。


『発熱もありますね』

思念波に当てられて、上条の脳内で他人の『自分だけの現実』、能力を演算『させられてしまう』も、幻想殺しの影響で発現せず、上条の体内で残ったとしたら。


『声が、聞こえたんです』

数十人分の、『自分だけの現実』の演算式が上条の脳内でひしめき、それが脳内の幻聴として聞こえていたとしたら。


そして、目の色の変化も、恐らく木山の身に起きた幻想御手の時の影響と一緒であろう。

今まで能力者達と対峙し、また能力者達の近くにいたが故に起きた異変。

そしてそれが導く先は……。


「昏……睡…………っ」

──いや、それどころでは……済まない…………!

あの幻想御手の後に使用者達に起きた昏睡という後遺症。……その時の昏睡は、直に治ったのだが。

 だがそれとは重みがまるで違う。数十人分ではあるが、一人一人相当高いレベルの脳波の値。

持ちこたえてはいるが、その堤防が崩壊すれば──昏睡なんてものではない。その先には……。

「………………っ」

仮に、仮にだ。これからも能力を打ち消し続け……いや、打ち消さなくとも、思念波、脳波が上条の頭に蓄積され続けば……。

 既に、許容量は限界を超えていたというのに。

これからも幻想殺しを宿し続ける彼にとっての危険性は、とんでもなく、高い。
321 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/01/19(水) 22:38:38.07 ID:wF5uQZlDO

彼の精神力は強く、いまだ自我を保ってはいる。保ってはいるのだが、あれだけの脳波が頭の中に侵入しているのだ。

いつ崩壊しても……おかしくはない。

 彼は……これから。これから能力者達の近くにいてはいけない────。

 木山が机を叩き、俯く。いつの間にか握りこぶしを作っていて、それは震えていた。






「能力者の……御坂君の、近くにいればいるほど……上条君の身は……危険に晒されてしまう…………っ。あの子達こそ……!あの子達こそ幸せになるべきなのに……!!」







それは、お互いを本気で想い合っている二人にとって、余りにも残酷な『事実』だった。



322 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/01/19(水) 22:40:59.45 ID:wF5uQZlDO

「いっただっきまーモシャモシャ……」

「最後まで言い切りなさいよ!」

 食事の恒例の挨拶もそこそこに、美琴が焼いたハンバーグにがっつくインデックスに美琴が突っ込んだ。

 インデックスと二人で摂る食事は初めてだ。始めは作ったら帰るつもりだったのだが、何となく、何となくだが共に食事をする事にしていた。
主はいないが、ここにいたかった気分だった。

中々に珍しい二人組なのだが、美琴は何故か気まずさを感じてはいない。

「美味しいんだよ!美味しいんだよ!」

「ふふ、ありがとね」

子供っぽい──と本人に言ったら怒られそうなのだが、その雰囲気を持つインデックスは接しやすく、美琴も何やかんや言いながら楽しそうに箸を動かしていた。

「そういえば、もうすぐとうまの誕生日らしいんだけど」

「えっ、そうなの!?」

美琴が箸をそのままに、ガタンとテーブルに手を置いて半立ちの状態になる。

「…………」

「あ、ゴメン……」

インデックスはそんな美琴にジト目を送り、美琴は恥ずかしそうに再び腰を下ろした。

「でも、らしいって?」

インデックスの言った言葉。らしいとは、どういう事なんだろうと気になった。

「うん、水瓶座って事は聞いたんだけど、何月何日かまでは聞いてないんだよ」

「何よその曖昧な情報……」

同居しといてそれ?と言う視線を逆にインデックスに送る。
323 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/01/19(水) 22:41:46.25 ID:wF5uQZlDO

「でも水瓶座っていうのは本当なんだよ!完全記憶能力を持ってる私が言うんだから絶対かも!」

「絶対とかもを繋げて言う人に初めて会ったわ……」

「むぅ……短髪は疑り深いんだよー……」

プクーとふくれるインデックスを見て、あ、やっぱこの子可愛いなーなんて場違いな庇護欲を感じていながら話を続ける。

「でも誕生日が本当ならプレゼント用意しなきゃね」

「だから本当なんだよ」

とは言いつつ、既に美琴の頭の中には上条にプレゼントを渡しているシチュエーションを妄想していて、その顔は少しニヤけていた。

「ね、ね」

「はっ、う、うんどうしたの?」

インデックスは話題転換がどうやら得意みたいだ。しかしそれで現実に引き戻された美琴は耳を傾け、突然の話題転換について何も突っ込まなかった。



「短髪はとうまの事、好きなの?」



「………………へっ?」




しかしそこで、再び美琴の思考は止まる事になった。
324 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/01/19(水) 22:42:55.28 ID:wF5uQZlDO

「え、え」

いきなり何なんだろうか。と驚いた美琴は言葉を発する事がなかなか出来なかった。

──な、ななななな何なのよいきなりこの子はっ!?

そのインデックスは首を傾げ、美琴の返事を待っている。

「そっ、そういうアンタはどうなのよ!///」

顔を真っ赤にして返答を誤魔化すのだが。


「私?とうまの事大好きだよ?」


「え────」


さも当たり前かの様に言い切るインデックスに、美琴の心臓は大きく動いた。

 インデックスと言う少女は限りなく素直だ。好きなものは好き、嫌いなものは嫌い、とハッキリ言う。
恥ずかしさとか、意地とかそう言うものは全くこだわらず、また臆せず、だ。

──そっか、この子も、好きなんだ……。

それはそうであろう。嫌いな人とは一緒に生活など出来る訳がない。

素直にそう言えるインデックスが────美琴は『強い』と思っていた。

──アイツもやっぱり、この子の事が好き、なのかな。

そう思うと、美琴の気分は憂いが包み込む。インデックスの為を思い共に生活し、インデックスの為を思い自身の身体の不調を隠す──。

状況証拠がそれを肯定するかの様に美琴の心に突き刺さる。とても、痛かった。

「でも、ね」

再びインデックスの口が開く。

「付き合う、とか結婚、とかは出来ないんだよ」

「え……?」
325 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/01/19(水) 22:43:48.82 ID:wF5uQZlDO

何を、何を言っているのだろうと顔を上げ、インデックスの表情を見る。

インデックスは、ただ微笑んでいた。笑っていない、微笑みだった。それが何故か、悲しく見えた。

「ど……て……よ……」

その微笑みを見た美琴は俯き、唇を噛み締める。

「え?」

「どうして……なのよ……っ」

──好きなんでしょ!?

心の叫びは声には出してはいないが、何故か伝わっているのが分かる。

「どうしてなのよッ!」

美琴は叫ぶ。好きなら、手を伸ばせばいいのに。身体で気持ちで、抱き締めてしまえばいいのに。


「どうしてって、シスターだから、かな」


言葉を発したインデックスに、美琴は分からなくなった。

「は?シスターだからだって?そんなので諦めれるほどの気持ちなの!?」

『神に純潔を捧げるシスターは、神の為に一生その身体を守り続けなければならない』

しかしそんな事は美琴にとって関係ない。故に、そんな理由で身を引くインデックスに怒りを感じるのだ。

「手を伸ばせば届くアンタが、そんなんで…………!?」

しかし美琴の言葉がそこで止まった。美琴の視線の先にはインデックスがいる。そしてそのインデックスは…………。



「…………だって……ヒック、シスター、グスッ、だもん…………エグッ……」




「……インデックス…………?」

インデックスは、ただ声を殺して、静かに泣いていた。
326 : ◆LKuWwCMpeE :2011/01/19(水) 22:45:11.32 ID:wF5uQZlDO
ごめん短くて
また次回!
327 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/19(水) 22:50:10.55 ID:+InqI5IZo
待て。おい。
他とかに俺はどっちかっつーと上琴だが、上インすらヤバいってレベルじゃねえぞ。
二人とも幸せになれないのは可哀想すぎるじゃないか。
328 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/19(水) 23:06:31.93 ID:OSET6SxFo
このあとどうなるのか…
続き待ってます!
329 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/19(水) 23:21:20.88 ID:ObOTbkBso
信じてる
>>1を信じてる
330 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/20(木) 00:01:38.51 ID:Bdg/jnEGo
これは鬱る!
331 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/20(木) 02:06:11.25 ID:Pe9QRtgI0
お前ならなんとかしてくれると信じてる
332 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/20(木) 02:41:31.22 ID:dsG6hoqu0
 何たること……
もしかしてこれが今後のあれに影響を……
333 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/20(木) 16:26:12.93 ID:OQvIqMSDO
スレタイで上条さん女体化かと思ったが気付いたら読み切っていた
334 : ◆LKuWwCMpeE :2011/01/20(木) 22:44:14.71 ID:8TCp/3ADO

「ごめんね、いきなり泣いちゃって…………」

 美琴は泣いたインデックスをそのままにしてはおけなかった。
インデックスに対して聞きたい事がある。言いたい事があったのだが、その涙を見ていられなかった。

美琴の胸の中でインデックスは泣き続け、静かに時間は流れ。

落ち着いてきたのか、涙も止まり美琴に謝りの言葉を入れていた。

「落ち着いた?」

「うん……」

コクンと頷くインデックス。少し沈黙の時間が流れた。

何故、インデックスは泣いたのだろう。何故、インデックスは諦めるような事を言うのだろう。それが、分からなかった。

やがて、インデックスが意を決した様に美琴の顔を見つめ、その口を開いた。

「私が……」

「……」

「私が……手を伸ばしても……、私じゃ、……届かないんだよ」

「え…………?」

「とうまはね……私の事、何とも思ってないと思うんだよ」

「…………」

……違う。それは違うと言いたかったのだが。何故彼女はそう思うのだろうか、と美琴の頭に引っ掛かった。

「えへへ。とうまったらね、家じゃ短髪の事ばっかり話してるんだよ」

「わっ、私の事?」

美琴の背中に腕を回していたインデックスから、突然出てきた自分の名に美琴の心臓が跳ねる。ピョコっと顔を上げていて、涙の跡は残りながらも笑顔だった。

「うん。今日もビリビリされたとか、買い物行って来たとか。私を置いてご飯食べに行ったって言った時なんかは噛み付いてあげたけど」

私も連れてってほしかったかも、なんて言う胸の中のインデックスは笑っていた。泣いてスッキリしたかの様で、楽しそうに話している。

「私の……事……」

「うん」
335 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/01/20(木) 22:45:15.06 ID:8TCp/3ADO

どういう事なのだろうか──

美琴は考える。インデックスが笑顔の理由も、分からない。

「“みこと”は」

「……何?」

「とうまの事。好き、なんだよね?」

「……………………」

分からない。もう何がなんだか分からないが、インデックスは笑顔だ。そしてその笑顔は。


何となく、自分が上条の事を好きでいてほしい。と語っているみたいで。


何故か、そう思えた。

「…………うん、好き……」

「そっか」

そう言うと、インデックスは再び美琴の胸に顔を埋める。

「私ね、とうまにもみことにも。幸せになってほしいんだよ」

これも、シスターだからだろうか。何故彼女が今そんな事を言ったのか、その意味もいまだによく分からない。分からないのだが。

「頑張って……、みこと……」

 何だかとても、温かかった。
336 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/01/20(木) 22:46:53.32 ID:8TCp/3ADO

「寒っ」

 あれからはインデックスがもうこの話はおしまい!と言わんばかりに食事に戻り、美琴も食事を再開させて、後は世間話しながら過ごした。

ちなみにインデックスに「とうまと同じで美琴も鈍感かも!」なんて言われたが、そんな事はないと返しておいた。

 冬の冷たい風が吹き付ける。やはりその風は冷たく、身体を縮こまらせた。

「はぁ、明日も休みたいんだけどなぁ」

白い溜め息を吐きながら呟く。理由を付けたとはいえ、二日間無断欠席したようなものだ。

明日は朝から何か言われるだろうな、と思うと方を落とした。
常磐台は規律の厳しい学校だ。それに加え、自身はレベル5で常磐台のエースなんて言われているから教師達も期待の目……と言うか、監視の目を光らせているように思えてくる。

「……明日は行っとかなきゃ、ね」

それに相部屋の少女の口うるさい説教もある。それは何とかなりそうだが。

 美琴は基本的には人付き合いがよく、やはりそういう人達も蔑ろに出来ない人間だ。学校に行く事を決めると、よし、と気合いを入れた。そろそろ寮にも到着する。
337 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/01/20(木) 22:47:30.44 ID:8TCp/3ADO

「おっ姉様あああぁぁぁぁんっ!」

寮の玄関に到着するや否や、相部屋の少女が叫びながら美琴に飛び付いてきた。

「ちょ、黒子!アンタこんな所で何してんのよ!」

まとわり着いてくる黒子を剥がそうとするのだが、いつも剥がれなくて諦めている。今日もそうだった。

「だってぇぇ!お姉様今日も学校お休みなさったって聞いて、でもやっぱり部屋にもいらっしゃらなくて、電話も繋がりませんでしたし……!黒子はっ、黒子は!心配したんですのおぉぉっ!!」

胸にすがり付き、うぉんうぉんむせび泣く様子の黒子に、美琴はちょっぴり罪悪感を感じた。

「……悪かったわよ。明日はちゃんと学校行くし、今日は添い寝してあげるわよ。ほら、泣かないの」

よしよしなんてその頭を撫でながら美琴がそう言った瞬間、黒子の顔が跳ね上がった。

「ホントですの!?」

その顔は清々しいまでの笑顔。もちろん涙なんて、なかった。

「…………黒子。アンタ嘘泣きしたわね」

ひくひくと美琴の顔が一変し、声に怒気が混ざる。そしてその手には人ひとり軽く意識を飛ばせるほどの電気を宿し。
それに気付いた黒子の笑顔が引きつった。

「ひぃぃっ!?おっ、お姉様落ち着きなさって!ほ、ほら、今から泣くとこなんですの!ですからその電気をしまって下さいましいぃぃぃっ!!」

本当に涙目になってきた黒子。その様子を見て、美琴は思わず吹き出してしまった。

「ぷっ、あはは!アンタなんていう顔してんのよ!ほら、寒いからさっさと部屋戻るわよ」

「はいですの!」
338 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/01/20(木) 22:48:37.47 ID:8TCp/3ADO

 入浴も済まし、バスタオルで髪を拭きながら美琴は翌日の予定を考えていた。

 上条の退院パーティを念頭に、スケジュールを確認。特に別の用事もなかったはずだ。

明日は放課後に上条の病院に迎えに行って、インデックスが待つ部屋に戻る。寒いから豪華鍋にでもしようかななんて考えながら、メールか何か来ていないかと携帯を見た。

『メール問い合わせ中……新着メールはありません』

その表示を確認すると、少し溜め息を吐く。
上条からメールがないか、上条から留守電はないか、と暇を見つけては、いや暇ではなくとも気付けば確認してしまう自分に美琴は苦笑いをした。

こんな姿を現在入浴中の黒子に見られたらまたとやかく言われるだろう。

まぁ、とにかく明日の予定は決まった。ちなみに上条には退院パーティを予定している事を知らせていない。インデックスと二人、驚かせてやろうと画策していた。

──アイツ、喜んでくれるかな……。

データフォルダに入っている、以前に色々理由を付けて撮った二人の写真を見ると美琴はクスッと笑みを溢していた。
339 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/01/20(木) 22:49:43.63 ID:8TCp/3ADO

 翌日、午前9時。

「ん……」

朝日の光が目に射し込む角度になると、上条が目を覚ました。

「ふあ……今何時だ……?」

目も開ききらずに欠伸をしながらいつもの目覚ましがあるであろう位置に手を伸ばすが、空を切った。

「あ、そうか。病院なんだっけ」

いつもの部屋でもなく、バスルームでもなく、だが見慣れた白を基調とした個室に自分がいた事を思い出し、壁に掛かっている時計に目を向けた。

「げっ、結構寝てたんだな」

短針が9、長針が5の数字を指していて、一体どれくらい寝てたのかと計算する。

「久しぶりにたくさん寝た気がする……」

普段の生活ならなかなかそこまではいかない自分の睡眠時間に、何だか呆れた様なスッキリした様な、そんな気分。

 体調は、悪くない。

「起きたみたいだね?」

 すると冥土帰しが上条の部屋に入り、後ろにいた看護師に朝食を用意するように言う。そんな特別待遇いいのかよ、と上条は思ったが、言及せず。冥土帰しは手にしていたコーヒーに口を付けた。

「体調はどうだい?」

「あ、全然悪くないです」

本当に何でもないという風にあっけからんと言うと、冥土帰しは満足そうに頷いた。

「それはよかったよ。もう退院してもいいけど、昼頃に木山君が迎えにくるみたいだよ」

「そうなんですか……迎えなんていいのに」

「ふむ、君からすれば、超電磁砲の彼女の方に来てほしいと思ってるんだろうけどね?」

「へっ?」

間抜けな声が出た。

「退院して一番に会いたかったのは大好きな彼女、と僕は推測してるけどね?」

「え、え」
340 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/01/20(木) 22:50:51.51 ID:8TCp/3ADO

──……あれ、何で……?

「何でバレてるのかと言いたそうな顔だね」

冥土帰しがニヤニヤしながら突っついてくる。

「な、ち、違いますよ!」

「青春だね?」

「ぐ……」

慌てて否定する素振りを見せるが、暖簾に腕押しだろう。恥ずかしくてその暖簾に火をつけてしまいたいほどだ。

「まぁ、昼頃までゆっくりしてるといいよ」

そして冥土帰しがそう言うと、上条の部屋を出ていく。上条はその後ろ姿に頭を下げていた。

「ありがとうございました」

ドアが閉まる音がすると、顔を上げる。

──あ、結局聞き忘れたな……。

自分の身体の事。治す手立てはあるのだろうか、不安だったのだが、昨日あれから何も聞かされていない。

「まぁ、今日は体調いいしな」

だが、今の自分の身体の体調が大した事はない、と告げている様な気がして。

「…………御坂」

 携帯の電源を付け、データフォルダの中の写真を何となく見る。

何だか、美琴に会いたい気分だった。









「………………」

部屋を出た瞬間、冥土帰しの表情から笑みが消える。その顔は無表情のはずだが、何処か悲しく。

右手に作った握りこぶしを、更に強く握っていた。
341 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/01/20(木) 22:51:49.92 ID:8TCp/3ADO

──うん、今日は蟹鍋にしようかな。あーあ、早く終わんないかしら。

 シャープペンを器用に回す。聞き慣れた教師の声も、美琴の耳には入らない。つまらない授業などさっさと終えて、上条を迎えに行きたかった。

──アイツ、蟹鍋なんて食べた事なさそうだしね。

『おわ、すげぇ!蟹鍋なんて上条さん食べた事ないですよ!』

頭の中の上条が嬉しさを満面の笑みで表し、自分の作った料理を美味しいと言いながら次々と口の中に放り込んでいる。

──にへへ……。

ヤバい。慌てて手で口元を隠すが、ニヤケが取れない。もう上条の事を考えるとずっとこんな調子だ。

上条の身体の不調についての不安ももちろん残っているのだが、今日退院するという事は大した事なかったのだろうと希望的観測をしていた。

──あの子とも、もう一度話し合わなきゃね。

そして、インデックスが自分を後押ししようとしてくれてる事。何となくだが、その雰囲気は美琴はあの時感じていた。

でも、もちろん納得はいってない。

常磐台のエースだとか、レベル5だとかではなく、一人の女の子としてきちんと話し合おうと決めていた。

とにかく、放課後が待ち遠しく思えた。
342 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/01/20(木) 22:52:43.35 ID:8TCp/3ADO

「や」

「あ、木山先生」

昼になり、患者衣から前日着ていた学生服に着替え終わった所で木山が部屋に入ってきた。

「体調はどうだい?」

病室に来る人全員に毎回その台詞を言われている気がするのだが、お決まりのようなものなのだろう。

「全く問題ないみたいです」

「そうか、よかった」

その答えに木山も頷き、上条が荷物をまとめるのを見ると、木山も白衣を着直す様に整えた。

「おや、出発かい?」

すると冥土帰しも姿を現し、上条の服を見た後に尋ねた。

「はい。毎度の事ながら、お世話になりました」

冥土帰しも顎に手を当てて頷く事で返答した。

そこで、上条は聞きたい事があったんだっけ、と腰を上げる所で思い出した。

「……あの」

「ん?何だい?」

「俺の身体どうでした?」

何も言われずに退院するなんて、全く問題なかったのかなと上条は想像していた。それならそれでいい。

冥土帰しに聞くと、木山は部屋の外に出て行った。

「……?」

「……ふむ。君は心配する事ないよ?また辛くなったら来る事だね」

「はぁ……分かりました」

そう言えばこの医者はこういう人だったな、と思い出した。どんな怪我でもこの人の手にかかれば完治してしまう。

不思議な説得力を感じて、上条は返事を返していた。

──この先生がそう言うなら、そうなんだよな……。

「あ、木山先生行っちゃったし、俺も行きます。ありがとうございました!」

上条は冥土帰しに頭を下げ、木山の後を追って行った。
343 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/01/20(木) 22:54:29.06 ID:8TCp/3ADO

「オゥ……すごい車ですね……」

目の前のランボルギーニの迫力に圧倒されたか、上条の目が見開いている。そして木山がドアを開くと、更に上条は驚いた。

「ガルウィングなんて初めて見ましたよ……」

ドアが横に、ではなく縦に開く。それを見てすげーな、なんて感想を漏らしつつ上条は乗り込んだ。

「木山先生がスポーツカー、何かイメージが……」

「君が私にどういうイメージを持っていたか気になる所だね」

エンジンを点け、木山がアクセルを踏む。

「おわっ」

そのエンジン音の大きさと発進時にかかったGに上条が吃驚したような声を上げると、横で木山が少し楽しそうに笑った。

「そう言えば昼食は摂ったのかい?」

「あ、いえ。帰ってから食べようかなーなんて考えてたので」

「そうか。昼食誘おうと思っていたのだが、そう言えば同居人がいたね」

木山はその同居人が作って待っているのだろうと予測を立てていた。

「はは、まぁ。せっかくですけど」

だが実際は美琴がインデックスの為に作り置きしておいた料理なのだが、木山は知る由もないだろう。

それに、上条もそれを楽しみに思っている。

──あいつの料理、美味いからなぁ。

前々日に昼、夜通して食べた美琴の料理。それは上条のかなりの好みの味で、また食べたいと思っていたのだ。
344 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/01/20(木) 22:55:55.18 ID:8TCp/3ADO

「あ、そうだ。今朝、君の学校に連絡入れておいたよ」

「あ」

木山の言葉に一瞬上条が言葉を飲む。連絡を入れる事を忘れていた為、焦ったのだがどうやら連絡を入れてくれてたらしく、上条はほっと一息吐いた。

「何から何まですみません」

ここまでしてもらっていいのだろうか、と感じたのだがここは素直にお礼を言った方がいいのだろう。

「あぁ、いいよ。体調が悪いって伝えておいたから。随分可愛い声の子が応対してね。……声を聞く限り、教師っぽくなさそうだったのだが。うちの上条ちゃんが申し訳ありませんって何度も謝ってきたよ」

「……。 小萌先生か……」

電話口に向かって何度も頭を下げる小萌を想像してしまい、上条は苦笑いをした。

──色んな人に迷惑掛けちまってんな、俺……。

思い返せば少し情けなくなってくる。それに体調は別に今のところ、あの症状以外は何ら変わりはないのだ。

「ふふ、悪いと思っているのなら、今日はしっかり身体を休める事だ。いいね、今日は外出禁止だよ」

「うっ……。そう、すね。了解しました」

しかし木山の言う通りだ。その言葉通り、今日は休めておこうと上条は思った。
345 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/01/20(木) 22:58:09.36 ID:8TCp/3ADO

「あ、とうま!お帰り!」

あれから木山に寮まで送ってもらい、上条は一日ぶりの我が家に戻ってきた。
ドアを開けるとインデックスがトテトテ走り寄ってきて、上条の顔を見ると笑顔を輝かせた。

「あれ?みことは?」

「ん?御坂?」

だが美琴の姿がない事に気付くと、首を傾げる。

「おいおい、今日は学校行ってるだろ」

そんなにいつもいつも一緒にはいないぞ、と思いながら答えるのだが、インデックスは首を捻ったままだ。

「そう言えば帰ってくるの、早いかも」

現在時刻は13:00になったばかり。しかしインデックスの言い方はまるで予定が違うみたいな言い方だったのだが、上条はその事は置いておいた。

「インデックス、飯食ったか?」

「うん、もう食べたんだよ!」

……少し嫌な予感がする。昨日、美琴にインデックスはたくさん食べるからって尋常ではない量の料理を作ってもらうよう頼んておいたのだが。

「……それ、残ってる?」

「全部食べちゃったよ?」

──やっぱりかあああぁぁぁっ!!

心の中では膝を地面に付き泣き叫ぶ。予測できていた事なのにっ!

「あ、でも」

「ん?」

「今日の分のカレーは全部食べちゃったけど、昨日の分の焼いてないハンバーグが冷蔵庫に残ってるかも!」

それを聞いた瞬間上条は台所に飛んでいた。

冷蔵庫を開ける──

「あったああああぁぁぁ!!」

中にはボウルの中にこねられただけのハンバーグの原型が。量から察するに一人分は残っている様だった。

「昨日は本当に作り過ぎちゃったみたいで。私は食べられたんだけど、みことがもうやめなさいって焼いてくれなかったんだよ」

インデックスは少し頬を膨らませて説明したが、上条は右から左へ受け流した様だ。

ご飯が食べられる──その嬉しさも、また美琴の料理が食べられるという二つの喜びが合わさっていた。
346 : ◆LKuWwCMpeE :2011/01/20(木) 22:59:54.44 ID:8TCp/3ADO
ここまで
また明日来るよ
347 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/20(木) 23:02:03.78 ID:SfzOwAH3o
乙!
明日も楽しみにしてます
348 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/20(木) 23:07:00.27 ID:JtbgLRBAo
続きが気になる…
乙です!
349 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/20(木) 23:08:15.31 ID:qGNVt+pAO
乙!
上条さんどうなるんだ…
350 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/20(木) 23:37:35.17 ID:ZApDLaFWo
ここらで叩き落されそうだな…
しかしハンバーグ残ってて良かったな上条さんwwww
351 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/20(木) 23:55:10.72 ID:dsG6hoqu0
 ハンバーグが残ってて良かったのはさておき
ハラハラしっぱなしだなあ、上条さんと美琴どうなるんだろ
352 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/20(木) 23:55:23.09 ID:jp2C6xSAO
インデックスは相変わらず可愛いなあ
353 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/21(金) 00:17:22.78 ID:SsyrTI2go
悲しい予感がひしひしと
でも上条さん達ならその幻想をぶち殺してくれると信じてる
354 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/21(金) 01:27:35.21 ID:MG4XkG430
あぁぁ美琴かわいいなあ 俺も上条さんを信じるぜ!
355 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/21(金) 16:08:23.92 ID:/nHIfAtm0
不幸エンドなんて幻想をぶち殺して
ハッピーエンドってやつを待っている
356 : ◆LKuWwCMpeE :2011/01/21(金) 22:29:02.06 ID:khIycP6DO

「ねぇねぇ、どこ行くの?ってミサカはミサカは問い詰めてみる!」

「あァ?コンビニだコンビニ」

「ミサカも行く!ってミサカはミサカはあなたの腕にしがみついてみたり!」

「うっとォしい。離れろクソガキ」

 玄関先であーだこーだ喚く二人。一人は嫌そうな顔をしたいのだろうが、作りきれずに時折表情が崩れる。ただそれは一瞬なので、傍から見ても気付かないほどだが。

 いつもなら別に着いて来させてやってもいいのだが、今回は遊びに行く訳ではない。

「テメェの好きなもン買ってきてやる。だから大人しくしとけ」

「えっ」

言葉を無くしたかの様に少女──打ち止めは止まった。

「チッ。いらねェならいいぞォ」

それに対して一方通行は舌打ちをしながら、さっさと出掛けようと靴を履いた。

「インターホン鳴っても出るンじゃねェぞ」

他の同居人も外出している為、一人になる打ち止めにそう捨て台詞を吐くと、ドアを開けて外に出ていく。
打ち止めはそれを見て、「う、うん」と曖昧に返事をしたのだが聞こえたかどうかは分からない。

「いつもなら、買ってくれないのに……むむむ」

一丁前に腕を組み、首を傾げて難しい顔で思案する。
……内容が内容だが。

「何かある!ってミサカはミサカは推測してみたり!」

小さな女の子は、フンスと気合いを入れた。

「ネットワークも使って、あの人を追跡調査!ってミサカはミサカはワクワクしてみる!」

そして一方通行が出て行った数分後、打ち止めもこっそりと後を追うように出て行った。
357 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/01/21(金) 22:30:23.35 ID:khIycP6DO

「えっ、緊急改修工事で午後の授業がなくなった?」

ほんの少し時間を遡った常磐台中学校にて、美琴がそんな素っ頓狂な声を上げた。

「ええ。何でも御坂さんをライバル視しているあの人が、能力測定の授業中に暴れ回ったみたいで」

美琴の同級生がそう答えると、美琴は冷や汗を垂らした。

「あはは……ペットのヘビに逃げられでもしたのかしら……」

無駄に気高い気品を漂わせ過ぎるお嬢様を思い浮かべ、美琴は気付かぬ内に苦笑いしている。

──でもこれで早く迎えに行けるわ。ふふ、アイツビックリするかしら。

しかし思わぬ所で舞い降りた好機に美琴は喜んだ。特に約束はしていなかったのだが、病室にて待っているであろう上条の顔を思い浮かべ、早く迎えに行こうと鞄の中に用具を詰め込む。

「黒子に会わなきゃいいんだけど……」

常に美琴の側に付いてくる黒子の事だ、こういう日は「お姉様と長く遊べるチャンス!」とばかりに飛びかかって来るだろう。

となればさっさと教室を出た方がいいに越したことはない。
同級生達にばいばいと挨拶を済ませると、早足で昇降口まで行き、靴を履き替える。まだ回りを見ても学生の姿はあまりなく、恐らくもう少しすれば大勢の生徒達がこの昇降口に押し寄せて来るだろう。

一番乗りとばかりに駆け足で外に出て校門まで辿り着こうとしたのだが。

「うふふ、どこへ行くんですの?お姉様」

突然音もなく目の前に、美琴の頭を悩ませる後輩の姿が現れた。
358 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/01/21(金) 22:31:37.74 ID:khIycP6DO

「げっ……」

──空間移動してきちゃったか……。

やはり空間移動してきたか、と美琴は悔やむのだがこればっかりは仕方がないだろう。

「お姉様の事ですから、真っ先にお帰りになると思ったら……やっぱり先に行ってらっしゃったんですの!」

まるで美琴の全てを知っていますのよ、と言うかの様な言葉に美琴は内心戦慄を覚える。はぁ、と溜め息でも吐きたい。

「あのさ、ほら、今日も用事あるから……」

「またあの類人猿ですのね!?おのれウニ野郎……」

ワナワナと黒子は怒りに震えている。別に放っておいてほしかったのだが。

「なっ、何でそう思うのよ!」

「だってお姉様、普通の用事ならいつもキッパリ言い切りますのに、あの類人猿の事になるといつも言い淀む感じになるんですの!」

──げ、そんなに分かりやすいのかな、私。

自分の気持ちが顔や行動に出てるのかと思うと、美琴は恥ずかしそうに唸った。
と言うかまぁ、いつも美琴ばかり見ているから分かる黒子も黒子だが。

「今日と言う今日は行かせませんですの!折角学校が早く終わったチャンス!一日中お姉様といるんでs『ピリリリリリッ!』ちょ」

「あら、電話よ?ジャッジメントじゃないかしら?」

黒子の電話が着信を知らせる音が鳴り響いた時、黒子は嫌そうな顔になり、対して美琴は嬉しそうな顔になった。

「それはないと思うんですの!たまたま学校が早く終わったという情報をジャッジメントがそんなに早くキャッチするなんて事…………」

そして携帯の画面を見た瞬間、黒子の表情が引きつる。その表情で、美琴は推測が当たった事を察し、心の中でジャッジメントに賛辞を送った。

「もしもし…………はい…………はい…………」

──今の内に……。

通話をし、見るからに落ち込んでいく黒子を横目に美琴は走り出す。

「おっ、お姉様!? はっ、い、いや何でもありませんの!」

そんな声が後ろから聞こえたのだが、ごめんね黒子、と呟くと美琴はそのまま振り返らず走って行った。
359 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/01/21(金) 22:32:44.44 ID:khIycP6DO

「あれ?打ち止め?」

美琴が病院に着くと、玄関の脇からチラチラ中の様子を伺う打ち止めの姿が美琴の目に映った。

「(あ、お姉様っ)」

美琴の声が打ち止めの耳に届くと、打ち止めは静かにして、という立てた人差し指を口に当てるポーズを見せる。

何故かが気になったが、美琴もそれに従い静かに打ち止めの後ろに立った。

──遊んでんのかなー。

なんて思いながら打ち止めを見るが、打ち止めはとにかく中の様子に夢中のようだった。

美琴も気になって打ち止めの上から同じ様にして中の様子を伺う。どうやらある部屋のドアが閉まった所まで見えたのだが、誰が入ったかまでは分からない。

「(お姉様行くよってミサカはミサカは腕を引っ張ってみる!)」

するとそれを見ていた打ち止めが美琴の手を引き、中に入った。

「(何なのよ、もう)」

なるべく早く上条のいるであろう部屋に行きたかったが、打ち止めの様子も少し気になったのでそれに付いていく事にする。

──ま、すぐにアイツの部屋に行けばいいか。

何をしているのかが分かれば早々と切り上げて、上条の所まで行こうと決め、打ち止めと美琴は先ほどのドアが閉まった部屋の前に辿り着いた──。
360 : ◆LKuWwCMpeE :2011/01/21(金) 22:33:45.69 ID:khIycP6DO

「首尾はどうなンだ?」

 昨日、上条を検査した部屋に三人の姿があった。

「…………これを見てもらえば分かる」

ディスプレイを見ていた一人──木山がある画面を表示させると、席を立った。
テーブルの上に置かれたプリントを眺めていた一人──冥土帰しも難しい顔をして考え込んでいる様子だ。

そして一方通行はその様子に少しだけ怪訝に思いながらも、木山が促したディスプレイに目をやった。

「………………なンだこれは」

瞬間、一方通行の動きが止まる。彼の視線はディスプレイに向けられていて、恐らく無意識だったのだろうが、そう呟いていた。

「昨日、彼の脳波を調べたんだがね…………」

木山は見るのが辛いとばかりにそのディスプレイから目を背けた。

「あのヤロォ、とンでもねェもン抱え込ンでやがったか……」

やがてディスプレイから目を離し、一方通行はソファーにドカッと腰を掛けた。その表情は…………重い。

「脳波の量が常人のものとは比べ物にならないくらい、彼の頭の中にある」

言われなくても分かったのだろうが、口を挟まない。横槍を入れる気分にもならなかった。

「昨日彼が倒れた際に声が聞こえたらしい。これを見る限り、……恐らく能力者達の思念波が声として聞こえたと思ったのだろう」

「…………」

「……能力者達のAIM拡散力場の残滓が、彼の頭を占拠し始めている」

「…………演算式か」

「幻想殺しの影響で発現はしない。そもそも『自分だけの現実』を他人が使えるはずがないのだが」

「だが奴のAIM拡散力場を観測した。超電磁砲や、他の超能力者、高能力者どものデータと一致したンだな?」

頷く──────。

「データに無い、見た事もない能力らしきものもあったのだが…………それに」

「……………………」

「…………恐らく、とんでもなく複雑な君の能力も」

木山は少し見辛そうに一方通行を見る。
361 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/01/21(金) 22:35:17.15 ID:khIycP6DO

「………………チッ」

一方通行は面白くないとばかりに舌打ちをしたのだが、今の論点としてそんな事は大事ではない。

「この事、三下のヤロウには伝えてあるのか?」

「いや、伝えてはいない。伝えた所で彼の困っている人を助けるという行動をやめると思うか?」

「……………………チッ」

伝えた所で、上条は恐らくその行動を曲げる事はしないだろう。一方通行もそれを知っていた。

今それを伝えて、彼が混乱してしまうのも避けたい。
その混乱をきっかけに彼の自我が崩壊する危険性と言うのも十分考えられる。

しかし、早急に手を打たなければならないのも事実だ。

「…………私が、時期を見て話す。なるべく、早く」

「…………早い方がよさそうだね」

「………………あのヤロォ」

少し沈黙が場を包む。三者三様だが、これからどうすればいいのかと言う考えの方向性は一緒だった。

「……とにかく、彼が幻想殺しを使えば、能力者達の近くにいれば、危険が付き纏う。 …………このままいけば」

木山が再び口を開く。言い難いのか、一旦区切るように言葉を止めた。



「このままいけば、恐らく彼は…………」

冥土帰し────



「脳の破壊、自我の崩壊…………いや」

一方通行────



「…………………………死ぬ」

木山──────



362 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/01/21(金) 22:35:59.45 ID:khIycP6DO





この三人の会話は───────








「どう、いう…………………………事……………?」

      一人の少女によって止められた。



363 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/01/21(金) 22:37:06.42 ID:khIycP6DO

ドアが蹴破られるかの如く勢いよく開かれ、三人の会話は中断させられた。

「みっ、御坂君…………!?」

木山の顔色が驚愕に染まった。何故、何故彼女が今ここにいるのか。

しかし、それよりも。

──聞かれた……のか……!?

美琴の表情は俯いていて見えない。しかし、震えが見てとれるほど分かってしまう。

「…………ねぇ…………どういう……事なの…………?」

「…………御坂君……」

「アイツが……………当麻が…………死ぬなんて、嘘…………よね……?」

両手で握り拳を作り、それをギュッと力強く握り締めている。声色もいつもの彼女のものとは違う。
身体全体が震えている様で、声も震えていた。

「ねぇ…………何で…………? 何で…………誰よりも優しい、当麻が…………死ななくちゃ…………いけないの……………?」

木山に近付き、白衣を掴む。そして俯いていた顔を上げた。

「…………っ、御坂……君…………」

「嘘…………ですよね…………?」

その顔は見るに耐えない。見ているこっちが辛くなるほど悲しみを含んでいて、涙も目に溜まっている。

「お姉様…………」

いつの間にいたのだろうか、打ち止めも一方通行の横に立ち、美琴の様子を伺っていた。

「答えてよ………………」



「答えてよッ!!!」



悲鳴とも取れる少女の叫び声が響いた。
364 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/01/21(金) 22:38:57.39 ID:khIycP6DO

「ねぇ…………答えてよ…………」

「…………御坂君……」

木山の胸元で再び美琴は項垂れる様に俯いた────。


「あァ、そのままいけばアイツは死ぬ」


「え………………?」

美琴の背中から聞こえてきたその声。

彼女が妹達の仇としている、一方通行が美琴の叫びに口を開いた。



 その声に美琴が振り向いた。ほぼ睨み付けるようにして一方通行に視線を送るが、彼は構わず続ける。

「アイツの脳波なんだがな。既に限界を超えてるンだとよォ」

「一方、通行…………!」

その声に美琴はやり切れない怒りを覚える。殺気を込めた様にじっと見ていた。

「さンざン能力やらよく分からねェ力やら打ち消し続けた結果なんだとよ」

「………………て」

「レベル5級の力がアイツの身体に溜まって、いつ爆発してもおかしくねェンだとよ」

「……めて」

「これからも幻想殺しを使い続けたらどォなンのかなァ?運がよけりゃ昏睡、悪けりゃ死だ」



「やめてよッッ!!!」



突如叫ぶ。耳鳴りがするほどの大声。それは一重に美琴の感情が、今どれだけ揺れているかを如実に現しているかの様だった。
365 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/01/21(金) 22:40:07.16 ID:khIycP6DO

「オリジナル。テメェの力、脳波もアイツを蝕ンでるンだぜ?」

「っ!!??」

しかしそれを真っ向から叩き落とすかのような一方通行の言葉。

「一方通行!」

打ち止めも非難するかのように一方通行を呼ぶ。しかし一方通行は止まらない。




「テメェがアイツの近くにいりゃいるほどアイツは死に近付いてンだぜ?」




そしてその言葉は────美琴を絶望に叩き落とした。

「テメェも仮にもレベル5の頭脳持ってンなら分かンだろォが。全部聞いてやがったンだろ?」

その一方通行の言葉も全て聞き終わらない内に──────


「……………っ!」



「御坂君っ!!」

「お姉様っ!!」


美琴は部屋を飛び出して行った。
366 : ◆LKuWwCMpeE :2011/01/21(金) 22:41:27.08 ID:khIycP6DO
ここまで
また明日来る!
367 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/21(金) 22:44:40.48 ID:i29e2IY7o
乙です
368 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/21(金) 22:44:40.50 ID:X5PoubAJo
乙何だけど…
切り方がものすげぇwwwwww気になって仕方ないじゃないか!!
股明日も待ってます
369 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/21(金) 22:55:50.15 ID:MOBWaanmo
これは辛い…
続き待ってます
370 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/21(金) 23:16:06.49 ID:bA34mrhAo
乙です!
一方さんいいやつだなぁ
371 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/21(金) 23:42:55.17 ID:1XfuRqdvo
一方さんはすぐ憎まれ役を買って出るんだから…
372 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/22(土) 00:06:41.97 ID:AJhq2VeO0
まぁ一方通報さんが憎まれながらも何とか助けてくれそうだ
373 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/22(土) 00:35:03.91 ID:AGa91q0so
            _
           ,´  `ヽ   / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
          l ノリ从从.〉 < 通報しますた
          `(lリ゚ ー゚ノリ  \
          /,  /      ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
         (ぃ9  |    
          /    /、
         /   ∧_二つ
         /   /
        /    \
       /  /~\ \
       /  /   >  )
     / ノ    / /
    / /   .  / ./     (゚Д゚) <しますた
    / ./     ( ヽ、     @( )>
   (  _)      \__つ   / >
374 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/22(土) 03:25:00.35 ID:Rkr5c3nr0
 一方通行……辛いだろうに、仮にもオリジナルの憎まれ役だしなあ
美琴も自我が崩壊してしまいそうで怖い。俺まで辛くなる
良く分からない力って……まさか魔術?あれでもAIM拡散力場つったよな?

 乙です。
375 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/22(土) 15:16:54.01 ID:ujuZa4sHo
ステイルとかじゃねーの・
376 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/01/22(土) 16:34:27.15 ID:t9zirSDDO
>>374
しまった、魔術ってAIM拡散力場、観測しないんだっけ?
377 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/22(土) 16:46:28.23 ID:ujuZa4sHo
変換しちゃったことにすればいいじゃない
378 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/01/22(土) 17:19:32.14 ID:t9zirSDDO
>>377
それ
皆のレスに励まされてる
379 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/22(土) 20:56:47.94 ID:M709XmDHo
おバカな上条さんは能力の炎も魔術の炎も同じに見えてるだろうしなーww
賢くなくて良かった
380 : ◆LKuWwCMpeE :2011/01/22(土) 21:36:00.60 ID:t9zirSDDO

──何で…………?何で……?何で、何で何で何で何で何でっ!? 何で当麻が……っ!

 美琴は走っていた。自分がどこに行くのかも分からない。どこに行けばいいのかも分からない。

「当麻っ…………当麻ぁっ……」

涙で視界が霞む。怪訝に思っているだろう、すれ違う学生達の姿も識別できない。拭いても、霞む。



『テメェがアイツの近くにいりゃいるほどアイツは死に近付いてンだぜ?』



分かっていた。あの時の言葉が、嘘ではない事くらい。
でも信じたくなかった。嘘であってほしかった。

「グスッ…………ヒッグ、当麻…………当麻ぁ…………!」

上条に会いたい。声が聞きたい。一緒にいたい。傍にいてほしい。抱き締めてほしい。慰めてほしい。


…………しかし、それは許されない事。自分の力が、自分の能力が。彼を蝕んでいたなんて、知らなかった────。


「っ!」

足を取られて転び、草むらに寝そべる様な形になる。
気付けば、美琴は上条と勝負したあの河原まで来ていた。

「うぅ…………当麻…………当麻ぁ…………会いたい……会いたいよぉ…………」

立ち上がる気にもなれず、寝そべったまま美琴はただ涙を流していた。
381 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/01/22(土) 21:37:18.42 ID:t9zirSDDO

「みこと遅いなぁ」

 インデックスが時計に目をやり呟いた。現在時刻は18:00を回っていて、美琴を待っているのだが。

「とうま、みことから連絡ないの?」

「ん?別にないぞ?」

インデックスの奴、御坂と約束なんかしてたのかなぁ、と思い浮かべながら、上条は携帯に目をやったが、音沙汰もない。
そろそろ時間も時間だ、夕食の準備に取りかかろうとしたのだが、インデックスに止められた為に怪訝に思いながらも暇を持て余していた。

「それにしてもインデックス、お前がいつから御坂を名前で呼ぶようになったんだ?」

上条の知る中で、インデックスは美琴の事を「短髪」と呼んでいた。気付けばいつの間にかインデックスは美琴を名前で呼ぶ様になっていて、少し気になった。

「むふふー、女の子の秘密なんだよ」

何やら含み笑いを浮かべるインデックスを見て、恐らく何かがあったのだろうと推測する。

──ま、仲良くなった様な雰囲気だし、いい事か。

秘密と言われれば気になるのが上条の性分であったが、「女の子の」と主張されるとさすがに聞き辛い。
納得したような表情を浮かべ、自分も時計に目をやった。

既に外は暗闇に包まれており、気温も相当低そうだ。
インデックスが住むようになってから付け始めたエアコンが部屋の空気を暖めているのだが、窓を見ると水滴がガラスに付いていて外との気温差を察知させる。

──さすがに今日は来ないよな?でもインデックスが御坂が来ないのを不審がってるし、やっぱ約束でもしていたのかな?

上条自身は特に美琴と約束はしていない。ただインデックスが言う通りにしていたのだが、インデックスの言い分では美琴はすぐにここに来るらしかったのだ。

「パーティーの約束、忘れちゃったのかな……?」

「ん?パーティー?そんな約束あったか?」

「い、いや!何でもないんだよ!気にしないでほしいかも!」

さっきから何か気になるな、と上条は首を捻る。
それにこのまま何もしないという訳にもいかないだろう。

「…………電話してみっか」

「うん!」

インデックスが嬉しそうに頷く。何だかなぁと頭をポリポリ掻いたのだが。

美琴の声を聞きたい、というのもあり上条は携帯の通話ボタンを押した。
382 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/22(土) 21:37:54.86 ID:ujuZa4sHo
キテター
383 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/01/22(土) 21:39:27.73 ID:t9zirSDDO

 美琴が出ていった部屋に、冥土帰し、一方通行、打ち止めの三人が残っていた。美琴が出て行った後、木山は後を追い今はこの場にいなかった。

「……………………」

沈黙が場を包む。美琴に知られればこうなる事は分かっていた。分かってはいたが、いつかは知らせないといけなかった。

「お姉様………………」

美琴を案じ、打ち止めが呟く。その顔は悲しみと心配の色が見て取れた。

「チッ。打ち止めがいるのは分かったがな。超電磁砲までいやがるとは想定外だった」

打ち止めの行動パターンを大体把握している一方通行は、気難しそうに舌打ちをした。
どうせついてくるというのは分かっていた。打ち止めになら誤魔化しはいくらでもきくだろうと放っておいたのだが……しかし美琴はまた別だった。

「…………ひどいよ」

「あァ?」

すると打ち止めが俯き、震える声を響かせた。

「ひどいよ!どうしてお姉様にあんな言い方したの!? 事実かもしれないけど…………あんな言い方じゃお姉様かわいそうだよ!」

やがて憤怒の様な表情になり、打ち止めは一方通行に詰め寄る。打ち止めのオリジナルであり、尊敬する姉が泣いたのを見て、打ち止めは黙ってはいられなかった。

いつも打ち止めが使う語尾を言う事なく、ただ一方通行を責める様に叫ぶ。

「お姉様泣いてたよ!あなたはお姉様の気持ちが分からなかったの!?」

胸を掴むようにして捲し立てる。小さな手は震えていて、感情も揺れているのだろう。
384 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/01/22(土) 21:40:22.02 ID:t9zirSDDO

「…………いつかはあァなってただろォが」

「それでも!」

たった一人の姉を重んじて、打ち止めは思いの丈をぶつける。…………でも。

一方通行の言いたい事は分かる。分かるのだが、打ち止めはただこうするしか出来ない。美琴の無念さを考えると、やり切れなかった。


「…………それに、余計な希望を持ちゃ更に辛くなンだろォが」


その言葉にハッとして、一方通行を見る。別にいつもと変わらない様な表情。でも今は、その無表情が何だか悲しんでいる様な気がして。

「…………うぅ…………お姉様…………ミサカは……ミサカは…………」

胸にすがり付き、嗚咽を漏らす。
一方通行は一方通行なりに、美琴を案じているのが分かったのだった。

「…………君も素直じゃないね?」

「事実を言ったまでだ」

別に何とでも思ってないような素振りで、彼の事を知らない人達は気付かなかったのだろうが、冥土帰しには彼が今何を思っているのかが大体分かっていた。
385 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/01/22(土) 21:41:43.71 ID:t9zirSDDO

「うぅ…………ヒグッ…………当麻ぁ……エグッ……」

 冬の寒空の下、一人の少女の泣き声が響き渡る。誰一人として他の人影はなく、それを聞いているのは草木だけであった。

『おっすビリビリ』

『おわっ、危ね!』

『…………不幸だ』

『顔赤いぞ、大丈夫か?』

『美味いぞ!めちゃめちゃ美味い!』

『……ったく、御坂にそんな顔似合わねぇぞ。せっかく可愛い顔してんだからさ。お前は元気にビリビリしてろよ』

『何で泣いてんのかは知らんが、もう泣かれんのは勘弁だぞ』

上条との思い出が走馬灯のように甦る。たくさん笑って、たくさん泣いて、たくさん怒って、たくさん愛して。
そのどれも全てが、かけがえのないものだ。

…………でも。

自分の持つ力が、自分の存在が、彼を知らずの内に苦しめていた。危険にさらしていた。

──もう、会えないの…………?

身震いがする。寒さではなく、恐怖から。彼を失うという絶望から、身が震えてしまう。




   とにかく、会いたかった。




ピリリリリリっ────

「っ!!」

突然美琴の携帯が着信を告げる音を鳴らした。
画面を開き、確認すると美琴の目が見開かれる────


    『着信 当麻』


今すぐにでも会いたい、会いたくて会いたくてしょうがない少年の名前が表示されていた。
386 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/01/22(土) 21:43:26.60 ID:t9zirSDDO

トゥルルルルルル────

電話の発信音が鳴り続く。上条の横でインデックスもその様子を伺っていた。

「……………………出ねぇな。もっかい掛けてみっか」

「うん」

相手が出ないと思うと、おもむろに一度通話を切り、再びボタンを押した。

トゥルルルルルル────

「…………」

トゥルルルルルル────

「……………………」

トゥルルルルルル────

「………………………………」

「…………みこと、忙しいのかなぁ」

「…………出ねえな」

通話を切る。インデックスも落胆した様に肩を落としていた。

上条は少し怪訝に思った。
今まで美琴に何回か電話を掛けた事はあったのだが、決して出ない事なんてなかった。少し出るまでに時間は掛かっていたのだが、必ず出ている。

「も、もしもし、どどど、どうしたの?」なんて開口一番何故か焦ったような口調がいつもは聞こえてくるはずなのだが。

──ま、こんな日もあんのかな…………。

美琴はレベル5であり、比較的多忙な毎日を送っている。そう納得しようとしたのだが。
387 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/01/22(土) 21:44:14.24 ID:t9zirSDDO

「…………今日約束してたのに」

インデックスが呟いた言葉が上条の耳に届いた。

「やっぱ約束してたんじゃねーか」

何故隠すんだと言う意味も持たせ、インデックスにジト目の視線を送る。

「うん、でもね…………みことから言い出した事なのに」

溜め息と共に落胆を織り交ぜながらインデックスは俯いた。

「…………何かあったのかも」

そしてそれに心配の色が加えられ、上条は外を見た。

既に暗く、窓をほんの少しカタカタ揺らす冷たいであろう風。少し、嫌な予感がする。

「インデックス。少し出て来るわ」

その言葉を言い切る前に、外出禁止の言葉も意に介さず上条は立ち上がり上着を羽織っていた。
388 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/01/22(土) 21:45:09.49 ID:t9zirSDDO

 鳴り止まない着信を告げる電子音。何度も通話を押そうとするのだがその指は踏み止まっている。

世界で一番嬉しいはずの着信。ボタンを押せば、世界で一番好きな人の声が美琴の耳に届くであろう。

「…………っ」

しかし、だからこそ。だからこそ押せない。これを押してしまいそうのは自分の弱さだ。

好きだからこそ会わない。
守りたいからこそ傍にいない。
愛しているからこそ離れる。

泣いている間に決めたのはどこのどいつだ。紛れもなく自分だ。

「…………当麻……!」

なかなか途切れてくれないその音。長くなれば長くなるほど出たいと言う気持ちが増していく。どうすればいいのか、分からない。


ピリリ! …………………………

「あ…………」

音が鳴り止み、着信中から着信ありの画面に変わるのを見ると美琴は物悲しそうに声を上げた。

──当麻………………。

しかしこれでよかったはずだ。自分の選択は間違ってはいない。
冬の寒さも何故か感じない。腰を下ろしている冷たいはずの地面も気にならない。

 いつの間にか、着信ありの画面がいつも自分が見ていた画像に切り替わっていて。

それを見た瞬間、更に涙が溢れ出してきた。
389 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/01/22(土) 21:46:27.57 ID:t9zirSDDO

「帰ってきてないんですか?」

常磐台の寮で、上条の聞き返す声がする。

「うむ、もうすぐ門限だと言うのに…………困った奴だ」

妙齢の女性管理人がそれを告げ、溜め息を吐いた。頭を悩ませる寮生だ、とでも思っているのだろうか。

「…………はぁ、分かりました。ありがとうございます」

寮監に頭を下げると、上条は踵を返した。
すると、少し歩いた所で見知った少女と顔を合わせた。知り合い、程度のものだが。

「あら、あなたは…………」

「…………白井か」

美琴の後輩の黒子の姿が上条の目に映る。ジャッジメントの帰りだからか、少しだけ疲れた様子だった。

「…………こんな所で何してらっしゃるんですの?」

不審そうな目で上条を見る。しかし別段慣れた様で、意に介した様子も上条にはない。

「御坂がまた戻ってきてないんだとよ」

「はあぁ!?どういう事ですの!?お姉様はあなたと一緒にいたんじゃなかったんですの!?」

「いや?いなかったぞ」

なぜ黒子がそう思ったのか気になるが、今はそんな事はいい。

「とにかく、俺は探しに行くから。じゃあな」

「ちょ、ちょっとお待ちになるんですの!私も探しに行きますの!」

「そうか。んじゃそっち側頼めるか?俺はこっちから探してみるから」

一人よりも二人の方がいいだろう。それに黒子は空間移動能力者だ。心強い仲間を得たとばかりに、上条は走り出した。

──ったく、どこにいるんだあいつは!

先ほどの会話でも出たのだが、用事で戻りが遅くなるのなら寮監には知らせるはずだ。だが寮監が知らないとなると、恐らく何らかの事があったのだろう。

──緊急の用事か?それだったらまだいいが……

上条は走る。木山から外出禁止と言われた事ももはや関係ない。妙な胸騒ぎがして、とにかく早く美琴に会いたかった。

──無事で…………いてくれ…………!

いつしか願望に変わりつつある心の声。
390 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/01/22(土) 21:47:44.82 ID:t9zirSDDO

今すぐに声が聞きたい。今すぐに顔が見たい。今すぐに会いたい。

そうして、上条はあの河原までやってきた。上条にはこの河原は記憶にないはずなのだが、何かが告げている様な気がした。説明しろと言われても、そう答える事しか出来ないだろう。





「…………見つけたぜ」


もはや上条にとって、愛しくなっていた少女の後ろ姿が目に映った。
391 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/01/22(土) 21:48:30.01 ID:t9zirSDDO

「え……………………」

美琴の思考が一瞬止まる。

「ここにいたか…………探したぜ」

その姿、その声。美琴が愛してやまない少年が今、目の前にいる。

──どうして…………?

どうしてここにいるのか。
どうしてここに来たのか。
美琴の心臓が揺れる。感情が、嬉しさが悲しさが怖さが、揺れる。

「インデックスと約束してたんだってな。 ……いつの間にそんなに仲良くなったんだよ」

近付いてくる。彼の足が一歩一歩、自分に向けて踏み出してくる。

「あぁ、寮監さんも怒ってたぞ?何かあれば連絡しろっつってた。ったく電話も出ないでこんな所で何してたんだよ」

近付くにつれ、彼から聞こえる声も大きくなる。そして、美琴の身体も震える。

「ほら、用事ないんなら帰るぞ。こんな所にずっといたら風邪引いちまうだろうが」





自分に近付けば…………彼に危険が近付く…………





「────来ないでっ!!」


────なら、遠ざければいい。
392 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/01/22(土) 21:49:44.41 ID:t9zirSDDO

 彼の身体が止まった。突然発せられた自分の叫び声に驚きでもしたのだろうか、その表情も固まった様だ。

「…………御坂?」

「それ以上…………近付かないで」

美琴と上条の距離は5メートルくらいだろうか、どれだけ離れればいいのか分からない。

しかしその距離とこの夜の暗さ。涙を流していたのを知られずに済んでいた。

「…………どうしたんだ?」

「何で?」

「え?」

「何でここに来たの?」

吹き付ける風は冷たく、言葉も凍らせるかの様。彼を凍えさせない為にも、とにかく彼を自分から引き離したい。

彼は、優しいから。ちょっとやそっとの事では動いてはくれない。自分がどうなろうと、他人を助けるのが彼だから。

「私が探してくれって頼んだ?来てくれって頼んだ?」

「御坂…………?」

「アンタはいつもそうよね。頼んでもないのに、勝手に首を突っ込んできてさ」

「お、………おい………?」

「あの件だって私が泣いてたから駆け付けた? はっ、そりゃ結果的には助かったかも知れないけどさ」

「………………」

哀れだ。まるで自分じゃない誰かがまるで口を動かしているかの様。

「分かる?天下のレベル5が無能力者に助けられたっていう意味が。世間に知られたらもう恥ずかしくて外出歩けないわ」

「それ、は………………」

「そりゃ相手が相手だったかも知れないわ。でもね、別にアンタじゃなくてもよかった」

──違う!当麻だから私は助けられた。心から助けてくれたのは、当麻だけなのに……!

「それに恋人ごっこ?してた時のアンタなんか見てられなかったわね。何?ヘラヘラしちゃってさ」

──違う!嬉しくて、とにかく嬉しくて笑ってたのは私なのに……!

「それにアンタが宿題出来ないからって私に見せたけど、何なのあれ?頭悪いのにもほどがあるわ」

──もう…………いいでしょ?
393 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/01/22(土) 21:51:54.76 ID:t9zirSDDO

「………………っ」

上条はただ下唇を噛んでいる。言葉はなく、じっとこっちの話に耳を傾けていた。
 …………それでいい。後はとにかく距離を取る事。


「お姉様ああぁぁぁ!!」


するとそこで美琴にとって聞き慣れた呼び名が響き渡った。

「お姉様!探しましたの!」

黒子が必死な形相をして美琴に詰め寄る。そこで上条の姿に気が付いた様だった。

「ムッ、お姉様を見つけるのは私のお仕事ですのに。先を越されましたわ」

「黒子?どういう事?」

「そこの殿方が寮まで探しに来てたんらしいですの。私もジャッジメントのお仕事が終わって、帰り道に殿方とお会いしまして。お姉様がいないとの事でしたので、私も探しに来たんですの」

そう言い黒子は美琴の腕を抱くようにして隣に立った。されるがままの美琴は上条に視線を向け。

「アンタ、寮まで来てたのね。何?彼氏にでもなったつもりなの?」

それだったならどんなにいい事だろうか。
394 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/01/22(土) 21:53:11.70 ID:t9zirSDDO

……しかし今は、決して叶わぬ夢。




「そういうの、やめてよね……………………迷惑だから」




「…………っ」

上条はもう自分に視線を向けてはいない。言いたい事もあるのだろうが、口は開かない。

とにかく、身体を休めてほしかった。
とにかく、無事でいてほしかった。

彼が無事なら、それでよかった。

「…………黒子、帰るわ。テレポートお願い」

「了解ですの!」


そう言った瞬間、美琴の視界が変わった。


もう目の前には、愛しくて仕方がない少年の姿はなく。ただ自分の住む建物が凛と構えているだけだった。

「お姉様!先ほどあの殿方に言ったあのお言葉は本当ですの!?黒子は嬉しくて嬉しくて……………………」





美琴の目に映る全てのものが変わった瞬間────────





「うぅ………………エグッ…………当麻…………ヒグッ、当麻ぁ…………!」



もう涙なんて、堪えられなかった。
395 : ◆LKuWwCMpeE :2011/01/22(土) 21:54:34.07 ID:t9zirSDDO
ここまで
皆いつもありがとう!また次回!
396 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/22(土) 21:57:07.55 ID:ujuZa4sHo
おちゅ
397 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/22(土) 22:00:11.23 ID:IGsZfWYko
うあああああああ。
美琴……(泣
綺麗なインさんが頑張れ。
398 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/22(土) 22:03:49.95 ID:R6C9AYkyo
これはキツイ…
399 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/22(土) 22:42:33.16 ID:Umh5RzUXo
一乙
PCの画面がかすんで見えないんだが、どうなってんだこれ?
400 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/22(土) 23:11:44.22 ID:AJhq2VeO0
このSSただのSSじゃねぇ…

この作品はインなんとかさんがインデックスさんに変わる気がするぜ
401 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/22(土) 23:27:52.31 ID:AJhq2VeO0
上条さんショックで学園都市抜けてヨーロッパに高飛びしそうで怖い
402 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/22(土) 23:28:14.22 ID:ZXPj9YwAO
うわああああああああいやああああああああえんだあああああああ
403 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/23(日) 00:34:00.52 ID:vQQ2kr35o
胸が痛い…でも今はこうするしかないんだよなあ…
404 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/23(日) 00:47:35.18 ID:So4zyAmVo
身体が熱くなるな
405 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/23(日) 01:11:49.13 ID:8Tp5qiSwo
やっぱそうするよな、美琴なら・・・
ああもう畜生早くその幻想をぶち殺してくれ誰か
406 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/23(日) 01:56:20.44 ID:rRmahhwRo
乙!次も楽しみ!
407 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/23(日) 03:01:17.49 ID:ddx2xaCO0
乙です
ほんとに、書き手さん(>>1やその他を含む)は尊敬します。
自分にはできないことなので・・・
408 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/01/23(日) 09:32:48.01 ID:BcktIUkG0
 何と……半分放心状態になってしまった。
美琴がステイル化してしまいそう
409 : ◆LKuWwCMpeE :2011/01/23(日) 21:59:10.60 ID:AYqXrfdDO

──はは………………。

 冬の寒空の下、上条は一人取り残された様に立ちすくんでいた。

足がすくむ。気を抜けば倒れてしまいそうなほど。
身体も震えている。寒さだけではなく、胸の内から来る表現し得ない得体の知れない感情。

──そうか…………俺、そんな風に…………思われてたんだな…………。

乾いた笑いが出た。胸も苦しい。

──あんだけ付き合ってくれてたのも…………違ってたんだな……。

「ははっ、舞い上がっちまってたんだな…………」

思わず上を見上げる。込み上げてくる何かを必死に耐え、深呼吸する。

『借りは返すから』

──…………お前の中で……ちゃんと、返し終わってたんだな…………。

明確な拒絶。あそこまで嫌われているとは思わなかった。もしかしたら、と考えていた自分が浅はかだったみたいだ。

こんなに気分が沈んだのは生まれて初めてだ。
それは恐らく、記憶を失くすまでの自分をも含めて。言葉も出ない。

──…………こんなにも…………好きだったんだな……。

まるで自分の全てが否定されたかの様。全て自分の独り善がりだったみたいだ。今はもう、口から出る言葉も心の声も、聞く者は誰一人として…………いない。

目の前にいた少女が自分を拒絶した。それだけの事。しかし今の上条当麻にとって────。

  それが、全てだった。
410 : ◆LKuWwCMpeE :2011/01/23(日) 22:00:40.08 ID:AYqXrfdDO

「お姉様…………」

あれから大切な先輩は、ただひたすら泣き続け、ひたすらある少年の名前を叫び続けていた。

現在二人が住む部屋にて、泣き疲れたのか眠ってしまったようだ。
いつも憧れている先輩の、悲鳴とも取れるあそこまでの泣き顔など見た事がなかった。
まるで二度と這い上がれない地獄の底にまで沈んでしまったかの様で。まるで罪人が許しを請うかの如く、ごめんなさいとただひたすら泣き続けていた。

黒子が猿と罵るあの少年と、何かがあったのは明白だ。何があったのかは想像もつかない。ただこの先輩がここまで精神が乱れるほどのこの事態は、とてつもなく大きいものだと悟らされる。

同時に、それ以上に美琴のあの罵りの後でさえも、いや後だからこそどれだけあの少年の事を想っていたのかも思い知らされていた。

美琴があの少年を突き放したという状況は、黒子にとって喜ばしい事のはず。喜ばしい事のはずなのだが。

『当麻ぁ…………!ごめん…………ごめんなさい…………っ!当麻ぁ…………っ!』

あれだけの咆哮。あれだけの取り乱し。
黒子が憧れた先輩の姿では、なかった。
411 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/01/23(日) 22:02:07.30 ID:AYqXrfdDO

「御坂君…………!どこにいるんだ…………!」

 街灯が照らす暗い夜道、スポーツカーが重低音を響かせ走る。運転手の顔には焦りの色。
完全下校時刻も過ぎ、学生達の姿もほとんどない街で木山は車を走らせていた。

彼女の涙。動揺したと言う言葉では表現できないほどの取り乱し。放っておけるはずがない。

キキッ──────。

音を立てて赤信号の交差点の前で止まる。この時間でさえも惜しかった。
早く変われとばかりにハンドルを指で叩く。焦りは増すばかりだった。

「あれは……………」

すると交差点を俯いた様子で歩く少年の姿が目に映る。

「────────!!!」

その少年が誰か分かった瞬間、木山の目が大きく開かれた。
何故、何故彼がこんな所に。フラフラとしている様に見え、何処か様子がおかしかった。

「上条君!!」

停車している車もそのままに、飛び出す様に車を出た。

渡り切った歩道で、その声にハッとしたのか俯いた顔を上条は上げた。

「…………!?」

見た事もないほどの憂いを込めた顔。しかしそれは一瞬の事で、木山の顔を見た瞬間引き締めた様にいつもの顔を作る。

「あ、木山先生…………。すいません。外出しちまいました」

もうそこにいるのはいつもの上条の様。しかし先ほどの姿を木山は見逃してはいない。……だが。

「……送ろう。乗るんだ」

いつもの上条の様だが、やはり腕を引っ張り、車に乗せる際に足取りが違う事に気付いた。
412 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/01/23(日) 22:03:23.43 ID:AYqXrfdDO

「……………………」

「……………………」

沈黙が響く車内。聞こえるのはエンジン音だけ。彼の様子から察するに、何かがあったのは明らかだ。

しかし彼の身体が倒れるほどの事態ではない事を見て、取り敢えずはほっと一息胸を撫で下ろす。
美琴を探しに行くのは、彼をとにかく送り届けてからだ。

『全く君は!自分の身体がどうなってもいいのか!』

とは言えない。言いたいのだが、そういう空気でもない事と、彼は自身の身体に起きている事態をまだ知らないのだ。
しかしこの今の上条の状態の中、伝えるのは憚られる。木山の目から見て、心神耗弱の様な状態だ。こんな状態の今、伝えられるはずがない。

「………………先生は」

すると上条が口を開いた。彼の言葉に木山は神経をそれに集中させる。

「…………いや、何でもないです」

しかし自身の出し掛けた言葉を仕舞ってしまった。
何があったのか、と聞きたい。しかし出来ない。割れ物を扱うかの様な心境だった。
言いたい時に言えばいい。

「…………さっき」

「…………ああ」

「…………御坂に、会いました」

「!!」

しかしその言葉にハッと息を飲んだ。探していた彼女は、彼と会っていたのか。

「…………はは、俺何かしちまったみたいです」

自嘲する様な彼の声。どういう事だろうか。彼と彼女の間に、何があったのか。

「…………御坂、本当に俺の事嫌いだったみたいで」

罪を告白するかの様に途切れ途切れ話している。チラリと横を見ると、涙こそ出てはいなかったが。

「もう関わるな、近寄るな。 …………そう言われました」

木山には、泣いてる様にしか見えなかった。
413 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/01/23(日) 22:04:35.26 ID:AYqXrfdDO

 美琴の気持ちは伺える。彼の身を案じて、あえて突き放す。あれだけ彼の事を好いていた彼女だ、そう決めたのだろう。

しかし横に座るこの少年も、恐らく彼女が彼を愛しているのと同じくらい彼女の事を愛しているのだろう。

…………彼女は、それを知らない。気付いていない。

「ここでいいです。すいません、迷惑掛けました」

「お大事に。しっかり休むんだ」

「はい」

 車を降り、上条が住む学生寮の建物の中に入って行った彼の後ろ姿を見つめ、考える。

人の好意に気付かない彼は、恐らく最近まで自分の好意にも気付いてなかったのだろう。
しかしそれを自覚し、恐らく彼の中では彼女と共にいると言う希望があって。

彼女もそうだ。これからも鈍感な彼に振り回されながらも幸せに過ごしていくはずだった。
だが彼の身を心配して、愛しているが故に彼を突き放した。

何という因果。何という悲劇。お互いの気持ちは、今計り知れないほどの暗い闇に塗り潰されているのであろう。

「君の行動は正解だったのか…………? 御坂君…………」

誰も聞かない呟きは、冷たい風がさらって行った。
414 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/01/23(日) 22:06:10.10 ID:AYqXrfdDO

──…………っ。 ………………よし。

いつもと同じ様に振る舞う。やれば出来る事だ。余計な心配は掛けなくていいだろう。

 意を決して玄関を開ける。中からトテトテ走り寄ってくるインデックス。その顔は心配の色を浮かべている。

「ただいま」

「おかえりとうま。寒かった?」

よし、何とか振る舞える。インデックスも怪訝に思ってないだろう。

「みことは?」

「ああ。見つかったんだが、大切な用事があったらしい。もう時間が時間で今日は帰ったぞ」

「そっか」

残念そうに呟くインデックスを見て、上条は罪悪感を感じる。あの事は、言えない。

「それよりインデックス、お腹空いただろ?ご飯にしよう」

「私はお風呂のお湯沸かしてくるんだよ!」

トテトテと風呂場に向かうインデックスの後ろ姿に、聞こえない様にごめんと呟いた。

情けない自分に腹が立つ。
舞い上がっていた自分に腹が立つ。
希望を持っていた自分に腹が立つ。

考えれば相手はレベル5の、230万人の中の第三位。対して自分は底の無能力者。分かりきった事ではないか。
幻想殺しなどと言う訳の分からない右手があっただけで、あそこまで関われたのは奇跡の様なものなのだろうに。

今までの思い出は社交辞令の様なものだ。実力を持ちながら傲慢に振るう事ない、その優しさなのだろう。

──俺なんかじゃ、釣り合う訳がなかったんだよな。

玉葱が目にしみる。だが視界が滲むのは、恐らくそのせいだけではない。
後ろから風呂を沸かす作業が終わったのか、トテトテと歩く音が聞こえて必死に目を拭いた。
415 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/01/23(日) 22:08:01.86 ID:AYqXrfdDO

「終わったんだよ!早く作ってくれると嬉しいかも!」

「おう。もうちょっとで出来るぞ。箸とか並べといてくれるか?」

「分かったんだよ!」

いつもと変わらない様子のインデックスに、上条は何処か救われた様な気がして。

──…………ありがとな

感謝の言葉が、自然と心の中で出ていた。







「……………………」

箸を並べ終えたインデックスは、上条の背中をただじっと見つめている。その表情は、何処か憂いを込めた悲しげな表情だった。
416 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/01/23(日) 22:09:06.61 ID:AYqXrfdDO

 ある病院の一室で、並べられた資料に目を通している医者がいる。
その顔は彼の特徴的な朗らかなそれではなく、真剣そのもの。人から見れば怒っているのではないかと疑うほど。
彼は集中していた。

「………………」

無言の帳がこの場を支配しているが、彼の頭の中は騒がしいほど様々な『方法』『打開策』『治療』が交錯する。

ガチャ──────。

手に缶コーヒーを持った白髪の少年が入室して来た。
その少年はソファーで毛布にくるまれて眠る小さな女の子に視線を送り、自身も椅子に腰を掛けた。

「で、どォなンだ?」

自分の声で小さな女の子が起きぬよう、小さく呟く様に問い掛けた。彼も資料に目を通すが、自身よりも専門職の者に任せると言わんばかりにすぐに目を離した。とは言え、何度も熟読したのでもう見なくても分かる。

「…………ふむ、今のところは」

「………………」

大方その返答が返ってくるのであろうと予想していたらしく、特に返事をする事もなく缶コーヒーのプルタブを開けた。

「…………君は」

「なンだ?」

白衣を着た男は少し言いにくそうに言葉を止めた。その事を珍しく思い、白髪の少年は聞き返していた。

「僕が一度。敗北した事を知っているかい?」

「…………なンだ、それは」

彼の言葉に、少し驚いた様子が言葉に加えられる。
この医者が敗北…………それだけで十分驚愕に値する。それは一重に患者を助けられなかったと言っている意味なのだ。
417 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/01/23(日) 22:10:29.64 ID:AYqXrfdDO

その医者は、どんな患者のどんな症状も治してしまう。
かつて、自分も救われた。

脳に銃弾を撃ち込まれ、普通なら命も落としたであろうあの時。
奇跡的に死を回避したのだが、脳への損傷で自身の『演算能力』が二度と出来ない身体に見舞われたというのに。

この医者は、それされも治してしまったのだ。もっとも完全に、という訳でもないのだが、自身が『やってしまった』実験の被害者の少女達の力を借りてここまで復活させたのだ。

少年が珍しく、一目置いている存在。しかし今その医者が断言した『敗北』。その言葉の持つ意味は、大きい。

「もっともその患者を死なせてしまった訳ではないよ。結果的には」

「…………どォいう意味なンだよ」

彼の言いたい事は何なのだろうか。じれったく話す彼の特徴を分かっていながらも急かしてしまう。

「でも、確かに一度“死なせてしまった”んだよ」

「……………………」

何となく、何となくだが大体彼が一体誰の事を言っているのか、少年は察している。

「それでね、誓ったんだ。その患者が、彼が再び苦しむ状態になった時に」

「……………………」



「僕はもう、敗北しないってね」



「………………ふン」

少年は彼の顔を見た。いつもと変わらない顔、雰囲気。
しかし、決意を感じた。

「アイツはもう、手を付けられねェ状態じゃなかったのか?」

「一つ言っておこう」

「…………なンだ?」



「『治る』『治らない』ではなくて、『治す』んだ」


その医者の頭の中で、白髪の少年の顔を見た時。

「…………君に、力を貸してほしい」


   キーワードが揃っていた。
418 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/01/23(日) 22:12:19.64 ID:AYqXrfdDO

『ビリビリ言うな!』

『こら、逃げんなぁー!』

『なっ!何言い出すのよアンタは!///』


『そういうの、やめてよね…………迷惑だから』



「ハッ!!」

 上条は勢いよく身を起こした。まだ暗いがいつもの自分の部屋。

──夢、か…………

何だか息苦しい。真冬なのに、汗で服も濡れている。

「とうま…………?」

上条が眠っていたベッドの下で、同じ方向を向いて眠っていたインデックスも身を起こし、上条の方を心配そうに見ていた。

「あ、悪い…………起こしちまったか?」

「ううん、いいんだよ。それよりも大丈夫?魘されてたけど…………」

「…………ああ」

──魘されてたのか…………。

「大丈夫だ」

「そっか」

情けない。つくづく情けない。インデックスにもいつも心配させてしまっている。
419 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/01/23(日) 22:13:31.24 ID:AYqXrfdDO

──喉渇いちまったな。

 喉の乾きを潤す為、身を起こす。

「おっと」

足がもつれ、倒れそうになったが何とか踏み止まった。何故か少し視界が回る気がしたのだが、大丈夫だろう。

「…………ん」

冷たいお茶が心地いい。
ふと時刻を見ると午前3時だった。

──妙な時間に起きちまったな。あ、でも今日休みなんだっけ……。

三日学校へ行ってなかったのだが、週末に差し掛かってしまったようだった。
……来週はきっと補習地獄の一週間になるだろう。そんな予測を立てて少し気分が沈んだ。

「…………ん?どうした?インデックス」

ふとベッドへ戻ろうとすると、インデックスはいまだに身を起こしていて上条をずっと見ていたようで、暗い中でも目が合ったのが分かった。

「とうま今日は何か予定あるの?」

「いや、何もないぞ?どっか行きたかったか?」

最近はよく美琴と一緒にいたのでインデックスとはあまり出ていない。前はよく銭湯とか行ってたのだが、真冬の寒さの中で銭湯に行くのは少し躊躇われ自宅で済ましてしまっていた。
まあ何もないし、たまにはインデックスといるのもいいなと思いそんな返事をしたのだが。

「私今日はちょっと外行って来るね」

「? お、そうか」

インデックスはそう言うと、おやすみと言って再び布団の中に潜ってしまった。
そんなインデックスの様子に疑問符を浮かべながら上条も布団の中に入り、目を瞑った。
420 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/01/23(日) 22:14:46.23 ID:AYqXrfdDO

──当麻…………

土曜日の昼下がり、美琴はフラフラと街を彷徨う様にして歩いていた。どこに行くでもなく、誰に会うでもなく、ただ一人の名前を延々と呟きながら。

気付けば上条との思い出の場所を巡っている。
公園、ゲームセンター、デパート、レストランやその他にも、色々と。
まるでその思い出をなぞる様に、今隣に上条がいるかの様に。

「………………っ」

しかし今、隣には誰もいない。
ツンツン頭の気だるそうな顔も見えないし、彼の声も聞こえない。

──当麻ぁ…………っ。

防寒具では温もり切らない心を温めてくれる存在が、今は隣にいない。


いてはいけない。


彼は今何をしているのだろうか。何処にいるのだろうか。
会いたい。でも会えない。
どこの三流の流行歌か。そんな歌にも鼻で笑われそうな今の自分の心境。
あれでよかったはずだ。よかったはずなのに。

どうしてこんなにも、自分は泣いてしまっているのだろう。

気付けばあの公園、あの自販機の側にあるベンチ。あの時上条を介抱した場所で、ただ美琴は涙を流していた。

  その時。






『………………見つけたぜ』

あの時、自分を探し回ってくれた彼の姿と。


「………………探したんだよ、みこと」


銀髪の少女の姿が重なって見えた。
421 : ◆LKuWwCMpeE :2011/01/23(日) 22:16:10.23 ID:AYqXrfdDO
今日はここまで
また明日来る!
422 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/23(日) 22:21:38.60 ID:0jG7LiQio
乙!
明日も楽しみに待ってます
423 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/23(日) 22:32:15.80 ID:+KalbnIAO
乙です!
明日が待ち遠しい
424 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/23(日) 23:08:30.22 ID:yjUiO5+1o
乙です!
明日?も続き待ってます!
425 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/24(月) 00:20:42.68 ID:tB+DU1dAO
毎日お疲れ
426 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/01/24(月) 00:32:57.19 ID:VB9d2Bl+0
 乙です!!
ゆけ!インデックス!!冥土帰し!!
上条さんと美琴に救いを!
427 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/24(月) 04:45:12.22 ID:UfqN52fOo
うおおお…おねがいしますよインデックスさん…
428 : ◆LKuWwCMpeE :2011/01/24(月) 21:33:16.15 ID:ZMOy06lDO

「イン、デックス…………」

「泣いてるの…………?」

涙を必死に堪えている美琴の様子がインデックスの目に飛び込む。
ハッとして、勢いよくゴシゴシと目元を拭くのだが、もうインデックスは見てしまっていた。

昨晩、上条が帰ってきてから彼の様子が変だった。妙にいつもと同じだと言わんばかりに振る舞っているのが、インデックスには分かっていた。

特に、自分が隣で泣く少女の名前を出す度にビクッと肩が揺れるのを、インデックスはしっかりと見ていたのだ。

「何か、あったの?」

何もなければ、彼女も泣いたりはしない。彼も落ち込んだりしない。

今までここで生活してきて、二人を見てきて目に焼き付けてきたから分かる。
この二人は強い。精神的に、きっと何かを乗り越えてきたのだろう。

「べ、別に何もないわよ!何でアンタがここにいるのよ」

だからそれから出る強がりも、分かっている。特に彼女は筋金入りだ。

「私?みことに会いに来たんだよ?」

でもだからと言って、黙ってられるはずがない。伝えたい事は、たくさんある。

「昨日、とうま泣いてたよ?」

「!!」

その瞬間、美琴の顔色が変わった。ビクッと肩は揺れ、頬に残る涙の跡もそのままに、インデックスを見つめる。
429 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/01/24(月) 21:34:07.42 ID:ZMOy06lDO

「何も話してくれなかったけど。何か、あったんだよね?」

もはや質問から確認に変わっていた。

「とうまの目。今朝、真っ赤に変わってた」

「それって…………」

そして上条の目。黒から赤に変わりつつあった濁った目は…………今朝、更に赤みを増していた。

うん、と頷きインデックスは返事をした。美琴の目に更に焦りの色が混じるのだが。

「…………っ、それが、何?」

「…………とうまってね、何があっても話してくれないんだよ。いっつも怪我しても、問題ない、大丈夫だって」

美琴の質問を意も介さずインデックスは続ける。

「多分ね、ううんきっと。何かを隠しているんだよ」

「………………」

「でもね、私に話さないのは。…………頼りないから、だと思うんだよ」

そんな事────言いかけては閉じる美琴の口。
430 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/01/24(月) 21:35:00.18 ID:ZMOy06lDO

 ここで一つ記さねばならない事がある。

「………………で?」

美琴の想いは強く、また一度決めたら彼女は曲げる事のない性格の持ち主だ。

「でもきっと、私に言えない事も。みことにいっぱい、いっぱい話してるんだと思うんだよ」

自嘲する様に呟くインデックスを見ても、美琴は曲げない。

「…………知らないわ、別に」

知らない。上条の事など、何も知らない。インデックスは話してくれると言ったが、上条は自分に何も言ってくれないと美琴は思っている。

毎回病院に運ばれる事態も、怪我をする理由も。何も、話してくれない。
それは確かに自分を心配させぬという心遣いなのは分かっている。分かっているのだが。

自分の知らない上条をこの少女は知っていて、自分に言えない様な出来事もあって。
上条にとって、自分など必要のない存在なんだと心の中で思ってしまう。
彼の前では超電磁砲ではなく、レベル5でもなく、一人の女の子でいたかった。

こんな力など、いらなかった。

しかし持ってしまった力は、捨てられない。
一人の女の子としても超電磁砲としても上条を守れない自分が恨めしい。

「とうまは、みことを信頼しているんだよ」

「………………っ」

何故そんな事を言う。この少女は私の何を知っていると言うのだ。
自分より近しい存在なのに。自分より傍にいれるのに。
自分より、彼に好かれているというのに。
それにあんな啖呵も切ってしまった。何なのだあれは。嫌われて当然の事をしてしまったのだ。それなのにこの少女は尚、彼の傍にいろと言うのか。

「だから何よッ!アイツの事なんかもう知らないわよッ!アンタが、アンタが支えてやればいいじゃない!」

醜い、ああ醜い。何という人間なのだろう自分は。

「はっ!前にアンタにね、アイツの事が好きなんてつい口走っちゃったけど、あんなの嘘よ!大嘘よ!あんな唐変木の朴念仁なんてね、いなくなっちゃえばい──────」



パシッ──────。



乾いた音が響き渡った。
431 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/01/24(月) 21:36:35.64 ID:ZMOy06lDO

一瞬何が起きたのか分からなかった。その音と、少し間があって感じた頬の痛みと。

目の前の涙を流した少女が振り切っていた手と。

ああ、自分はぶたれたのだなと理解するのに少し時間が掛かった。

「…………とうまは昨日、病院から帰って来たばかりだったのに……、それでもみことを探しに行ったんだよ…………?」

「………………っ」

「昨日だって最初は内緒にしてたけど、みことが来るってわかったら嬉しそうな顔してたんだよ…………?」

──アイツの身体の事、知らない癖に!

言ってしまいそうになった自分の口を強く閉めた。
それよりも、上条がそんなに自分の事を、と深く考えてしまう。

「昨日だって寝てる時、みことの名前を呼びながら魘されてたんだよ!?」

「!?」

「とうまの気持ち!考えた事あるの!?」

──そんな…………。

彼が自分の名を呼び続けていた…………?

やがてジンとし出した頬は、冬の寒さと相俟って余計に痛く感じた。

「みことのばか!!」

溢れ出した涙もそのままに、走り出してしまった銀髪の少女の背中を見るだけした出来ない。

──当麻の、気持ち…………。

彼女が発した言葉。彼の気持ち。

「…………分かんないわよ…………分かん、ない…………わよ…………」

自身の視界も滲んでくる。
銀髪の少女の掌は、自分のした事が間違いだったのではないか、とそう言っていた様な気がした。
432 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/01/24(月) 21:38:31.31 ID:ZMOy06lDO

「………………」

 壁に掛けてある時計がコチコチと音を立てて時刻を記している。その音が聞こえるほどこの部屋は静かだ。

何もする気が起きない。壁側に置かれたテレビもつける事なく、床に転がって天井を見上げている。

──何してんだろうな、俺は…………。

起きたのはいいが、食欲もなく顔も洗っていない。もう昼の時間帯だとは思う。外から射し込む陽の光が暖かく、部屋の中は暖房をつけるまでもなかった。

インデックスは早朝に言った通り、外出中で今はこの部屋に一人だ。

『そういうの、やめてよね…………』

目を瞑れば思い出されるあの拒絶。頭の中で繰り返されるあの言葉。

「迷惑だから、か…………」

暗に近付くな、関わるなというメタファー。そこまで嫌われていたのだ。

「…………嫌いなら嫌いだって言ってくれりゃよかったのによ……」

自分で呟いた言葉に嘲笑してしまう。もうどうする事も出来ないのだろう。

「何が…………あいつとその周りの世界を守るだよ。俺自身が違ったんじゃねーか」

美琴とその周りの世界を守る。あの時誓うようにして言い切った言葉は、もう効力を持たない。
彼女が自分を必要としないのなら、その役目も果たす意味はない。
彼女は強いから。蔑むほど憎む自分と関わりたくないから。影ながら守るとしても、彼女の心はまた傷付くから。

「本当は、嫌がってたんだな…………」

彼女が自分を介抱してくれた時も。
彼女の友人達が自分との関係を疑った時も。
涙を流させたくなくて、つい抱き締めてしまった事も。

「……………………」

全て、嫌悪感を感じさせてしまっていたのか。
433 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/01/24(月) 21:39:51.48 ID:ZMOy06lDO

──ったく、救いようのねえ馬鹿だな、俺は…………。


どうしようもない怒りを自分自身に抱いた時──────。





「……………………ぐっ!?」




例の激しい頭痛に突然襲われた。



「ぐっ…………が……!」

やがて身体も火照り出し、視界がグルグル回る。
あの気を失った検査の時以来だ。あの時と同等の頭痛────


  いや、それ以上だ。


「な、なん、だ…………!?」

突然上条の頭に聞こえてきた無数の声。老若男女問わない様々な声。

そして、見た事もない計算式が上条の頭を駆け巡る。記号ばかりの複雑な式。
しかしそれは浮かんではすぐに消え、浮かんではすぐに消えを繰り返す。

「ぐ、おお…………っ」

横になり、丸まるように身体を曲げ、両手で頭を抱える。
434 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/01/24(月) 21:41:00.70 ID:ZMOy06lDO

「まだ、か…………っ」

長い。いつになく長い。気を失うか失わないかの境目をなぞる様に意識が飛び掛けては戻る。吐く息も熱い。

「……ぐ、ぐああ!!」

バチッ!と言う音を立てて壁に掛かっていた時計が落ちた。気のせいだろうか。電撃の稲光の様なものが見えた。

「……………っ」

そしてようやく、症状は収まりを見せ始めた。

「……う……ぐ……」

段々と引いてくるその痛みと熱。頭の中の声も、もう届いては来ない。

──お……さまった、か…………?

抱えていた頭をようやく離す事が出来た。いまだ視界がボヤけているが、恐らく直に元に戻るだろう。

「…………俺の身体、どうなっちまうんだ……」

持ちこたえはしたが、さすがに今回は危なかった。

上条は再び天井を見る様に仰向けに転がる。
この言い様のない焦りは何だろうか。

──…………怖え、な……。

『恐怖』だ。
恐らく次にこの症状が出た時、自分は意識を失ってしまうだろう。
段々と強くなってきているこの症状。そして次は…………。

もしかしたら、意識を失ったまま起きる事はないのかもしれない。

何故かと言われれば答える事は出来ないが、自分の身体の事は自分で何となく分かってしまっている。

そこでふと、部屋に置いてある鏡が自分を映している事に気が付いた。

「────!?」

そこに気付いたのは自分の顔────いや、目だ。
赤くなりつつあった己の黒目が、更に赤みを増していて。赤黒いのではなく、純粋な『赤』にもはや近い。

「…………はは、人外の化け物にでもなっちまうのかな…………」

自身に響き渡った声がまるで自分を操ってしまうのではないかという予感。
いや、直感と言ってもいいのかもしれない。

「………………御坂」

会いたい。自分がどうにかなってしまう前に。

もう一度だけ、会いたい。

気が付くと、上条は身を起こしていた。
435 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/01/24(月) 21:42:37.33 ID:ZMOy06lDO

「……御坂さん?」

 インデックスが去った公園にて、茫然自失した様に俯く美琴に向けられて、少年の声がした。

「…………」

しかしそれに気付く事なく美琴はただ俯いていて、傍から見れば泣いている様にも見えてしまっている。

「御坂さん」

少年は少し語気を強めて改めてその名前を呼んだ。

「あ…………」

いや、泣いている様に見えるのではない。
実際、泣いていた。

「海原…………光貴…………」

美琴が呟いた少年の名、海原光貴。美琴が通っている常磐台中学の孫であり、美琴とも面識のある少年だ。
……しかし、もっとも目の前の彼はそれとは違う人物。扮装魔術を得意とし海原光貴に成り済まして、嘗て彼の属していた組織からの命で上条を消し去ろうとしたアステカの魔術師で。

魔術師──と言うのは知らないが、上条を殺そうとした憎い相手だった。

「…………何しに、来たのよ」

ベンチの隣に座り、美琴の顔を窺う様にして覗き込む。

「やっぱり、泣いてましたね」

「アンタには関係ないでしょ?」

海原はこれはまたキツい、と苦笑いして見せる。自身のやった事は確かに美琴に好かれる行動ではなかったから納得はしてはいるが。
436 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/01/24(月) 21:43:58.26 ID:ZMOy06lDO

海原は美琴に好意を寄せている。美琴もそれを知ってはいるが、どうにも好きになれない人種らしい。

「どうですか?最近、彼とは」

「………………」

「おや?うまくいってないのですか?」

「………………っ」

沈黙で返される返事。

彼──とは上条の事を差している。
海原にとって上条は、美琴とその周りの世界を守らせる約束をしたとは言え恋敵の様なものだ。

「困ったものですね、彼も…………」

「………………」

口も聞いてくれないのか、と肩をすくめたが少し踏み込む事にした。

「彼と、何かあったのでしょう?」

「………………っ」

そこで海原は確信する。
美琴の少し焦った様な、怯えた様な感情がごっちゃになって少し見開かれた目を見て、確信した。

「彼とは前に約束したんですがね」

「…………!」


約束────御坂美琴とその周りの世界を守る────


彼らが交わした約束を、美琴も知っている。
437 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/01/24(月) 21:45:09.88 ID:ZMOy06lDO

あの時は嬉しかった。
喜びに震えていた。
でも、守られるだけでは嫌だ。
あの時の感情が甦りそうになるが、それはやはり憂いで塗り潰される。



「彼がそれを破棄するというのなら、こちらも相応に行動させていただきます」



しかしその時動いた少年の行動で、美琴の思考は止まる。



「え…………?」







少年の顔が、美琴のそれに近付いてきていた。





438 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/01/24(月) 21:46:15.32 ID:ZMOy06lDO

 何処にいるのかも見当もつかない。だが走る。

「ハッ、ハッ…………」

息が簡単に切れてしまう。
先ほどの症状のせいか、身体がまだあまり動かなかった。

「外に、いてくれたら、いいん、だがな……」

寮内にいられたらお手上げだ。それに電話を掛けると言う手段は真っ先に捨てていた。
当然だ、自分からの電話など出るはずがなかろう。

「ハッ……ハッ……」

足が鈍い。身体が重い。でも、走る────。

 会って何になるというのだ。会ってどうなるというのだ。彼女の嫌悪感を掻き立てるだけではないのか。
また罵られたいのか。
蔑まれたいのか。

──はっ、とんだ性質の持ち主だな。

可笑しい。自分自身が可笑しかった。
自分の想いに気付かず今まで過ごしてきた。大切なものは傍にあったと言うのに、それに気付かずにいた。
そして彼女を知らずの内に傷付けていた。原因は分からない。しかし自分にあるというのは分かる。

もう罵られてもいい。
蔑まれたっていい。


ただ、『最後』に。一目会いたかった。元気な姿を見たかった。


「く………………」

一体どれくらい走ったのだろう。分からない。たった数百メートルなのか、数キロなのか。分からないが、たくさん走ったのだろう。
439 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/01/24(月) 21:47:37.71 ID:ZMOy06lDO

真冬なのに額を伝う汗。喉もカラカラだった。

「あそこは……………………」

自身が通う学校の通り道にある公園。それが目に入った瞬間、無意識で上条は足を踏み入れていた。



思えばこの公園でいつも彼女と会っていた。

勝負と言われ追い回され。
自販機にお金を飲み込まれ彼女に笑われ。
倒れた自分を介抱してくれ。

他にもこの公園での思い出はたくさんあった。
何故か、また会えるような気がした。

「…………ジュースでも、買うか」

御坂の好きな物はヤシの実サイダーだっけな、と思い浮かべてあの自販機に向かう。

「ん?あれは………………?」



途中、あのベンチが視界に入る。


440 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/01/24(月) 21:48:27.88 ID:ZMOy06lDO

ベンチに座っている二人組が視界に入る。



男女だろうか。



重なって見える。



接吻でも交わしているのだろうか。



「………………!?」



気付く。二人の内の女…………いや、少女が誰かに。







「み、さか……………………?」


441 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/01/24(月) 21:49:08.94 ID:ZMOy06lDO



栗色の髪の毛。少し幼い感じのダッフルコート。常磐台の制服のスカート。





間違い、なかった。





「………………そう、いう………………事か………………」





彼の世界は、音を立てて崩れていく──────。


442 : ◆LKuWwCMpeE :2011/01/24(月) 21:50:23.48 ID:ZMOy06lDO
ごめん今日はここまで
読み返すと誤字脱字ばっかだな
また次回!
443 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/24(月) 21:55:30.15 ID:QerY8Uizo
(´;ω;`)
前が見えない…
444 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/24(月) 21:58:10.71 ID:mgYLgysdo
落とすときは徹底的にやるべしそして乙
445 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/24(月) 21:58:41.77 ID:U0igygrAO
海原もげろ壊死しろ
446 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/24(月) 22:34:40.96 ID:M5+vCGafo
後の浮上のために落ちていると考えればどうってことないさ。


いや、落ちっぱなしも大好きですよ?
447 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/24(月) 22:34:51.08 ID:1VHwMQuBo
さらに落とすとは……
もうゲス条さん来いよ
448 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/24(月) 23:26:24.66 ID:9Xg6JbvDo
すれ違いだなー
449 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/24(月) 23:28:43.09 ID:Xl4srqH1o
乙です!
続き待ってます!
しかしとことん落とすな…
450 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/24(月) 23:33:29.58 ID:Ln1T3p6w0
>>435
海原光貴は常盤台中学の孫だったのか…

1さん毎回楽しみにしてます
451 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/24(月) 23:41:05.84 ID:UfqN52fOo
海ァァァァァァ原くゥゥゥゥゥゥゥン!!!?
452 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/01/24(月) 23:52:49.73 ID:ZMOy06lDO
げげ
『理事長の』がなかった
テラ建物wwwwww
皆いつもありがとう!明日は仕事休みだから頑張るね
453 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/25(火) 01:16:20.65 ID:bJbu83Xio
これは辛いな上条さんwwwwww
なんにしても乙です
454 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/25(火) 01:22:12.56 ID:W6nsEIvR0
エツァリさんは義妹とイチャイチャしてろよw
455 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/25(火) 01:30:20.58 ID:PuMPR5SM0
海ァァァァァァ原くゥゥゥゥゥゥゥン!!!?
456 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage ]:2011/01/25(火) 12:49:47.18 ID:1gYwGHvT0
 エェェェェェェツァァァァァリくゥゥゥゥゥゥゥゥン!!!!!!
スクラップの時間だぜェ!!!!愉快なオブジェにしてやンよォォォォォォ!!!!

 乙です……このまま上条さんは戦いに突っ込んでいってしまうのか?
すれ違いが解けないままで……結末がどうであろうと俺は見続ける!
457 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/25(火) 16:08:13.61 ID:qW7ieEdT0
>>1
がんばれえええええええええええええええええええ

上条さんの世界が音をたてて崩れていく

誰かその幻想をぶち殺して      
458 : ◆LKuWwCMpeE :2011/01/25(火) 18:02:09.10 ID:a5JnTgtDO

 そうか。そういう事だったのか。

彼女が自分を拒んだ理由。
罵った理由。
蔑んだ理由。
自分に嫌悪感を抱いた理由。

全てのパズルがカチッとはまったみたいに照合した。

──…………そうか、そう、だよな……。

美琴には愛する恋人がいて。本来ならその相手と過ごすはずだったのに。
『借り』を返す為だけに自分に接してくれて。研究者に掛け合ってくれて。

この三日間束縛してしまった様なものだ。
好きでもない相手に料理を作らされ。
好きでもない相手に抱き締められ。
好きでもない相手に心配して憔悴する素振りを見せぬ様笑顔を作らされ。
好きでもない相手に涙さえ流させられて。

嫌悪感を催さない訳がないではないか。

「御坂………………!」

それに相手はあの海原だ。中身はあのアステカの魔術師だとしても、美琴を傷付けるという事はしないだろう。
何故なら海原も美琴に好意を寄せているから。相思相愛だろう。

顔立ちも整っている爽やかな少年。恐らく、頭もいいのだろう。

…………何だ、お似合いではないか。
無能力者で何の取り柄もない自分とは大違いで。

「………………っ」

美琴が幸せなら、それでいい。
会話こそ出来てはないが、顔こそ視界が滲んできて見えないが、恐らく幸せそうに笑っているのだろう。

自分が愛した少女が幸せなら、それだけで十分だ。

459 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/01/25(火) 18:03:30.48 ID:a5JnTgtDO

──守ってやれよ…………あいつとその周りの世界を…………。


「幸せ、にな………………」


そっと上条は静かに、踵を返し、走り出そうとしたが。


──あれ…………


目が霞む。


視界が揺れる。


身体が……熱い。


たくさんの、声が聞こえる…………。


──……………………御坂…………。


そこで上条の意識は、深い闇に落ちていく。

彼が最後に呟いたのは、彼女の名だった。

460 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/01/25(火) 18:04:27.34 ID:a5JnTgtDO

 咄嗟に瞑ってしまった目。
今自分の心を埋め尽くしているのは恐怖。
見えない視界の中でも近く感じる他人の体温。それは威圧感とも取れた。

「………………っ」

「………………」

「…………当麻……っ」

「!」

自身の無意識な呟きに、相手の息を飲む音が聞こえる。
美琴が感じた恐怖────唇を襲うであろう感触は、なかった。

「………………」

ふと自分から離れる気配。
それに気付き、美琴は目を開ける。
目の前の少年は、やれやれと言った表情で自分を見ていた。

「キスをされるとでも思いましたか?」

「…………っ」

思い切り目の前の少年を睨む。殺気の様なものも混ぜて、睨み付けた。

「御坂さんも目を瞑っていたので、いただこうと思っていたんですけどね」

何だこの少年は。何が言いたい。
沸々と沸き上がってくる怒り。後一歩で、大切なものを汚されそうになったというのに。奪われそうになったというのに。

「あそこで他の男の名前を、彼の名前を出されたらさすがに」

ね?と言う視線を自分に向ける。
その視線も、自分にとったら不快なものにしかならない。

それは一重に自分に対しても言える事であったが。
461 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/01/25(火) 18:05:51.46 ID:a5JnTgtDO

易々と受け入れてしまいそうになった自分にも怒りが沸き上がる。
恐怖からだからといって、あそこで目を瞑れば待っていると言っている様なものではないか。
自分の初めての相手は決めたはずなのだ。このいけ好かない男ではない。

 心を丸ごと温めてくれたあの少年、ただ一人。
この先どんな人に出会おうがそれは揺るがない。

そう、揺るがないのだ。





ふと、視線を彼から外す。この目の前の彼の顔など見たくなくて、自販機の方を見る。

「それにその彼、そこにいる様ですしね」







「……………………え?」

美琴の目に映ったのは、踵を返した少年の後ろ姿。

美琴の目は大きく見開かれた。

「なん、で………………………………」

信じられなかった。

何故。何故。



「………………当、麻……?」



何故彼が、今ここにいるのだろうか…………?


462 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/01/25(火) 18:07:01.79 ID:a5JnTgtDO

背を向けて走り出すツンツン頭。彼のいつもの私服のジャンバーに、学校に通う時と同じマフラー。

…………間違いない。確かに、彼だ。


   見ラレタ…………?


──………………もしかして…………見ら、れた…………?



先ほどの海原との出来事。
未遂だったとはいえ…………あれは接吻しているとしか、見えなかっただろう。



「幸せ、にな…………」



背中越しではあったが、風に乗ってほんの小さく聞こえてきたその声。
両手で口を押さえ、青ざめてしまう。

──違う!違う!違う違う違う違う!違うの!当麻!当麻ぁ!!

否定したかった。
しかし彼に見られたという恐怖からか声が出ない。
声を上げて、違うと叫びたい。誤解してほしくない。

しかし、あの時彼を拒絶したのは誰なんだ?
今更弁解したって、何になるのだ。

追い掛けそうになって、身体を止める。
葛藤が美琴の心の中で激しく争う。
彼の身体を思い、突き放す自分と。
嫌われたくない、自分と。

彼から告げられる「さよなら」同じ意味の言葉。
463 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/01/25(火) 18:08:13.06 ID:a5JnTgtDO

一体どうしたらいいと言うのだ。分からない。分からないが。

美琴の頭の中で上条との思い出が駆け巡る。

泣いて、笑って。
怒って、照れて。
守られて、介抱して。
抱き締めて、抱き締められて。

涙が溢れ出す。涙腺は渇きを知らず、次から次へと流れ出していた。



──…………やっぱり、私は…………!当麻と…………当麻と一緒にいたい…………!



 距離を離してさえすれば、話くらいは出来るのかも知れない。

自分の肩を掴んでいた海原の手を思い切り振り解き、離れていく彼の背中を追い掛けようとしたその時────。




彼の身が大きく揺れ──────



「…………当、麻……?」



そのまま横倒しになる様に、地面に崩れ落ちていった──────






「……当麻っ!!? 当麻ああぁぁっ!!!」



力の限り叫び、美琴は彼の元へと走った。
464 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/01/25(火) 18:09:23.27 ID:a5JnTgtDO

 彼が倒れていく様子がスローモーションの様に思えた。
ゆっくり倒れるその身体。
ドサッと言う音が美琴の耳に届いた瞬間、彼女は駆け出していた。

「当麻っ!?当麻!当麻ぁっ!!」

もう美琴の頭の中には距離の事などなかった。
彼の傍にいてはいけないと決めた自分など、とっくに消え失せていて。

「当麻!いやああぁぁ!!しっかりしてっ!!」

彼の身体を抱き上げ、仰向けにさせる様に後ろから支える。

「当麻っ!!当麻ぁっ!!」

息が浅い。
身体も熱い。
尋常ではない量の汗が彼の身体から出ていて、美琴のダッフルコートに染みを作っている。
そしてどれだけ呼び掛けても、彼は反応しない。

「当麻ぁっ…………!目を、開けてよぉ…………っ!!」

彼の身体を後ろから思い切り抱き締め、お互いの頬をくっつける様にしながら叫び続ける。

自分はこんな所で彼を失ってしまうのだろうか。
あれだけ彼を突き放しておいて、それでも自分を探してくれたというのに。
自分の身体の事など他所にしてまで来てくれていたというのに。

こんなにも優しく、愛しい彼に自分は何をしてしまっていたのか。
何をしてしまおうとしていたのか。

自分は、救いようのない馬鹿だ。
自分の気持ちに嘘を吐いてまで、何を守ろうとしていたのか。

「答え、てよぉ…………っ!」

嫌だ。
失いたくない。
自分を置いて、何処かに行ってほしくない。

「当麻ぁ………………っ!!」

貴方が、好きだから──────
465 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/01/25(火) 18:10:55.55 ID:a5JnTgtDO

 上条が集中治療室に運ばれてから、どれくらい時間が経ったのだろう。
ただ廊下で長椅子に座り、俯くようにして美琴は座っていた。

「………………」

隣で同じく両膝をキチンと揃え、頭にゴーグルを掛けた少女、御坂妹も治療室のドアを見つめていた。

二人の胸中は共に上条が助かる事を願っているだけ。
御坂妹も上条の身体については、現場に居合わせた打ち止めからの脳波リンクで把握していた。
もっとも、その後の美琴と上条に何があったのかは知らなかったが。

憔悴しきった自分のオリジナル、姉を見れば何かがあったのだろうと予測は立てれてしまう。

彼がこの病院に運ばれてきた時の慟哭。
担架に付き添い、彼の手を握りながらずっと名前を叫び続けていた。自身も共に治療室へ入ろうとする勢いだったのだが、救急車を手配した少年と自身のなだめで美琴は下がった。
あの時の姉はまるで、赤ん坊の様でそんな姉を見た事がなかった。

「……………………」

震えているようにギュッと握っている拳を見て、その上にそっと自身の手を乗せた。
その震えは御坂妹にも伝わり、どれだけ美琴の心が揺れているか分かる。

「お姉様…………」

そんな彼女を一人にさせておけなかった。
466 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/01/25(火) 18:11:33.04 ID:a5JnTgtDO

 また別室では、一方通行と打ち止め、そして木山の姿があり。
こちらも同じく彼が運ばれたという連絡を受けて集っていた。

「………………恐らくもう、時間はない」

木山が呟いた言葉に打ち止めの身体がビクッと揺れる。一方通行の服の裾をまた強くギュッと握っていた。

「………………」

時間がない。
それを指す事の意味は、冥土帰しが提示した手段が間に合わなくなる、という事だと一方通行は悟っている。
いや、自身もそれを知っている。知っているのだが、今の所は手の打ちようがない。

演算補助、ネットワーク、脳波リンク、シスターズ、代理演算システム────。

今の一方通行を支えるそのキーワード。チョーカー型デバイスを経由して彼の脳に演算能力を呼び起こすもの。

   冥土帰しが提示した手段とは、そこにあった。

しかし、それには冥土帰し本人が手を付けなければならない。
そして、彼にも持ちこたえてもらなわければならない。

「………………チッ」

自分でも無意識の内に舌打ちが出てしまう。一体どうすればいいのか思案するが、今はどうする事も出来ない。

一方通行がしようとしている行為は、贖罪というものに該当するのかもしれない。
しかし彼が犯した「罪」の償いが、それだとしても、彼にその気はサラサラない。

だが何故かは分からない。何故自分がそうするのかが。

「……………………」

分からないのだが、そうするという事だけが、彼の頭にあった。
467 : ◆LKuWwCMpeE :2011/01/25(火) 18:12:48.93 ID:a5JnTgtDO
うお……短ぇ……
また夜来られる様に書き溜めしてくる
468 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/25(火) 18:20:31.03 ID:egIdETTBo

うわあああ辛い
469 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/25(火) 18:27:15.39 ID:TSGwnmpCo
自分ではそれなりな量書き溜めたつもりになっても、投下してみると少なく感じたりするんだよな
わかってはいるけど続きが気になる
470 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/25(火) 19:12:25.80 ID:TG81QCOZo
続き待ってます!
471 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/25(火) 20:23:14.45 ID:qW7ieEdT0
今日来てくれるというだけでうれしいよ

その後海原はどうしたんだろう
472 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/25(火) 20:53:17.95 ID:PuMPR5SM0
海原さんキス未遂したのか…
473 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/25(火) 21:10:49.22 ID:qW7ieEdT0
だれかショチトルへの電話番号知らないか
474 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage ]:2011/01/25(火) 21:26:00.59 ID:1gYwGHvT0
 上条さんも美琴も大丈夫かな……
乙です!!
475 : ◆LKuWwCMpeE :2011/01/25(火) 23:57:57.52 ID:a5JnTgtDO

 休日の街並みは喧騒に溢れ返っている。周りを見渡せど人、人、人。
休日を満喫しようと解放感に満ちている学生達の色んな姿がある中、一際目立つ異国の少女が涙を流したままトボトボと道を歩いていた。
そんな彼女を学生達は物珍しそうに眺めながらも、少女、インデックスは構わず時折涙を拭き歩いては涙を拭く、それを繰り返していた。

「…………エグッ……グスッ」

まるで約束を破られたかの様な、誓いを裏切られたかの様な心境。
あれだけ彼を好いていた彼女が何故、あんな言葉を吐いたのかは分からない。

彼女の様子から、それなりの理由はあったのかも知れない。
でも彼女は彼を傷付ける様な事はしないと思っていたのに。
お互い愛し合っている事を知っていたから、自分は身を引こうとしていたのに。

美琴は上条を愛していて、また上条も美琴を愛していて。
その気持ちは確かな筈なのに。本物の筈なのに。

「みことの、ばか…………」



「禁書目録!!」

しかし彼女の呟きは、一人の男によってかき消された。

その声にインデックスは顔を上げた。
金髪にグラサンをした男、土御門だという事に気付き、インデックスは返事を返そうとしたのだが。

「カミやんが…………病院に運ばれたらしい……!」

「え…………?」

焦っている様な彼から出された言葉に、インデックスの心臓は一瞬跳ねた。
476 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/01/25(火) 23:59:06.47 ID:a5JnTgtDO

「みこと………………」

その声が美琴の耳に届くと、美琴はハッと顔を上げた。

「………………っ」

インデックスの顔を見た瞬間、何故か再び涙が溢れそうになった。

「………………とうまは?」

「…………うん……」

そう言い、治療室のドアの方に視線を向ける。
言わなくても分かった様で、インデックスはそっか、と呟き美琴の左隣に座った。

「クールビューティも……」

美琴の右隣に座る御坂妹とも目を会わし、御坂妹は軽く会釈をする。


「インデックス…………ごめん……ごめん……ね…………」

「…………みこと?」

涙をポロポロ流しながら、美琴は何度も謝っていた。
自分が彼にした事。彼女にした事。
どちらも傷付けてしまっていた。
自分の気持ちを偽ってまで自分がしたかった事とは一体何だったのか、もはや分からなかった。
その自分の勝手な持論で、無意味な意地で傷付けてしまったと言うのに。


「ううん、いいんだよ」

どうしてこんなにも、彼も彼女も、自分によくしてくれるのだろう。

肩を優しく抱き締められ、包まれるような温かい感触が美琴を包んだ。
477 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/01/26(水) 00:00:19.78 ID:+As7ZGLDO

 気を利かせたのか、御坂妹は席を立っていた。

「ヒグッ…………ごめん……ごめんね……エグッ、インデックス…………当麻ぁ……グスッ……」

ただ静かな廊下に響き渡っているのは美琴の泣き声だけ。
包み込む様に、受け止める様に、まるで全てを赦してくれるかの様に。
自分の泣き声を一つ残らず救い上げてくれている様な気がした。

「…………いいんだよ」

その言葉が。その温かみが。
全てを慈しむ聖母の様な光に感じられて。

「…………人ってね」

「…………うん」

「許し合える力を持って生まれてるから、笑って暮らしていけるんだよ」

「…………うん、っ……」

「取り戻せないものなんて、きっとないんだよ」

「…………うんっ……ヒグッ」

「だから、とうまにも言ってあげなきゃ、だよ? とうまは、分かってくれるんだよ」

「うん…………エグッ……」

美琴の心の氷は、もう溶けきっていた。

  そして。

バタン──────。

扉が開いた。
478 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/01/26(水) 00:01:34.20 ID:+As7ZGLDO

「「!!」」

二人が息を飲む。中から出てきたのは……看護師数人と。

冥土帰し────。

「当麻は!?」

思わず立ち上がり、美琴は冥土帰しに詰め寄った。
インデックスも息を殺して冥土帰しの言葉を待つ。
この冥土帰しは今まで運ばれてきた上条がどんな状態でも難なく完治させてきた医者。

そんな医者の腕を期待して、二人は答えを待ったのだが。



「…………何とか、一命は」



「一、命は…………?」


しかし彼の口から発せられた重い雰囲気の言葉。

「どういう、事…………?」

「────…………すまない。僕は少し失礼するよ」

そして投げ掛けられた美琴の質問に答えようと、一瞬開きかけた口を閉じると冥土帰しは背を向け、歩き出してしまった。

呆然とした表情でその場に立ちすくむ美琴とインデックス。
最悪の結末が二人の脳裏をよぎっていた。

「当、麻…………」

無意識に口から出た愛する少年の名前。
もう彼からは自分を呼ぶ声は聞こえて来ないのか。
もう彼の笑った顔は見れないのか。
もう彼の傍にはいられないのか。
もう彼は…………
479 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/01/26(水) 00:02:31.29 ID:+As7ZGLDO

頭を抱える。
イヤだイヤだと首を振る。
胸が張り裂けそうになる。
倒れ込んでしまいそうになる。

ガタガタ震え出した身体をどうする事も出来ない。
気付けばインデックスも自分を抱き締める様に寄り添ってくれていたが、彼女も震えているのが分かった。

「でも、一つだけ言っておく」

踵を返した冥土帰しが振り向き、美琴とインデックスに視線を送る。
二人もお互いに震えを抑えながら耳を傾けた。



「必ず、助けるよ……彼を信じなさい」



それだけ言い切ると、冥土帰しは再び歩き出す。

必ず助ける…………医者として、絶対に吐けない言葉だった。
確証など何処にもない。不測の事態だっていくらでもある。
しかし、普通の医者になど出来ない事を平気でやってのけてしまう冥土帰しの約束。

やはり少しでも希望にすがりたい。

と、無理矢理自分を元気付けると冥土帰しの背中に頭を下げ、美琴とインデックスは治療室の中に入る事を決めた。
480 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/01/26(水) 00:03:46.00 ID:+As7ZGLDO

「………………」

「………………まだかな……ってミサカは……」

「…………もう少し待ちましょう……」

別室では、先ほどの三人に御坂妹を加えた四人が冥土帰しを待っていた。

木山はテーブルの上に置かれたプリントと、革で出来た輪っかに目を通していている。
その顔は、真剣そのものだ。
自身に宛てられた大役をしっかりと頭に叩き込み、イメージをトレースする。

はっきり言って、冥土帰しの提示した『手段』というものが訳が分からなかった。
自身の持つ経験と知識、常識はそんな事はあり得ないと告げていた。

しかし、一方通行を見る。
彼はその『手段』を乗っ取り失った演算能力を取り戻しているのだ。
それに、シスターズ。クローンの脳波リンクをあの様に使うなど、木山からしてみれば常識はずれの様なものだった。

しかし、常識はずれがどうした。

一人の人間を助ける為に、常識にとらわれて何も出来ずにオロオロする方が無益だろう。
それに一方通行という存在が、クローンという存在が、冥土帰しという医者の存在が常識とは並外れているのだから。

『手段』を注意深く確認する。恐らく美琴は、彼につきっきりでいるだろう。

この目で見た想い合う二人を、幸せにしてあげたい。
幸せにせねばなるまい。
481 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/01/26(水) 00:05:24.02 ID:+As7ZGLDO

『あいつらが幸せになってはいけない道理なんてどこにもないはずなんです』

──……それは君にも言える事なんだよ。

一方通行を、打ち止めを、御坂妹を見る。
皆思い思いの気持ちを胸に抱いているのだろう。
冥土帰しが提示した手段も、皆役割が違う。

しかし、皆同じ方向を向いている。
皆で、歩き出せばいい。
皆で、走り出せばいい。

皆で、支え合えばいいのだ。



ガチャ──────。

「待たせたね」

そして、役者は揃った。
482 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/01/26(水) 00:06:17.38 ID:+As7ZGLDO

 呼吸器を付け、腕にも色々な管が付けられている上条の姿が目に入る。

「…………っ! 当麻……!」

痛々しい彼の姿。目をキュッと閉じていて、動いている様子はない。
やはりこんな状態の彼が目に入ると、美琴の胸は軋むほど痛い。
彼の手をギュッと握り、上条の顔を見つめた。

「…………とうま……」

インデックスも上条の姿に目をやると、苦しそうに顔を歪めてトテトテと上条の傍に寄った。
インデックスも美琴と上条の手に自分の手も乗せて、彼の顔を見る。

「……………………」

「…………何も、聞かないの?」

ただじっとしているインデックスに美琴が呟いた。
しかし美琴の質問に、インデックスはフルフルと首を振って返答する。

「みことも…………辛いと思うから。私が心配しないように、してくれてたんでしょ…………?」

確かにそうだ。上条と二人、インデックスの為を思って内緒にすると決めていた。
インデックスも知りたい筈だろう。知りたい筈なのにそれでも人の心を思いやる事が出来るのか。

やっぱり、インデックスは強い────

美琴はその強さを羨ましがった。憧れの様なものも抱いた。
自分にはない強さをインデックスは持っていて。

「あの先生も言ったんだよ、必ず助けるって。だからとうまが治ったら、とっちめてやるんだよ」

そんな強い彼女だから、希望を持っているんだろう。
そしてそんな彼女に感化されて、自分も希望を抱き始めている。
でもだからと言って、後手に回る気もサラサラない。

「ふふ、その時は私が当麻を守るわ」

いや、だからこそ負けない。
この少女以上に、彼に見合う女になりたいから。
483 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/01/26(水) 00:07:28.18 ID:+As7ZGLDO

 病院の待合室では土御門、海原の二人の姿があった。

「……………………」

「……………………」

しかしお互い話す事もないのか、『グループ』の時の仕事以外で馴れ合う必要がないのか、お互い会話はなく沈黙が場を支配している。

一人は親友の為。
一人は自身が好意を寄せる少女の為。

お互いが何を考えているのかは知らないが、それぞれの意思を持ってこの場にいる。

「…………あなたは」

そこでふと海原が口を開く。土御門は視線を向けはしないものの耳を傾けた。

「あなたは、彼をどうするつもりなのですか」

その言葉の意味は親友としてなのか、本来の自分の本職の立ち位置としてなのか。
それは分かりはしないが。

「…………どっちにしたって、あいつは重要な存在だ。必要とあらば、お前とも戦うぞ」

言葉に威圧感を乗せての返答。
しかし海原は特に感慨深くなさそうにそうですかと呟いた。

上条は土御門の属する『必要悪の教会』からしても重要な存在だ。
幾多もの事件も、彼の手があって解決に導かれている。

もっとも、それ以上に上条は土御門の親友だ。
上条に危険が忍び寄るのなら、土御門はどんな手を使おうがそれを排除する気だ。
484 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/01/26(水) 00:08:53.60 ID:+As7ZGLDO

「そんな事を聞いてどうする」

疑いの色も含め、海原に問い掛けた。

「いえ…………御坂さんも、あなたも大分彼に熱を入れている様なので」

少し溜め息を吐き、肩をすくめる。彼の癖なのか、その仕草をよくしている様な気がした。

「お前には分からんだろうな」

「やれやれ、です」

言った所で分かる訳がない。いや、上条のよさは口では伝わらない。
そういうものなのだ。



ピリリ──────



すると突然、土御門の携帯が着信を告げた。
特に表情を変えず、電話を取り出して場所を移す。

「………………何?」

応対した土御門の目が少しだけ見開かれた。
そんな土御門の様子を後ろから眺めていた海原も表情を引き締めている。

「分かった。 ………………仕事だ」

土御門は海原に用件を伝えると再び携帯のボタンを操作し耳に当てた。

485 : ◆LKuWwCMpeE :2011/01/26(水) 00:09:46.11 ID:+As7ZGLDO
今日はここまで
また次回!
486 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/26(水) 00:10:41.84 ID:raccOkOzo
相変わらず引き込まれるぜ…インデックスさんのシスター力半端ねぇ
487 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/26(水) 00:10:57.93 ID:b9GvCejko
ああくそ続きが気になるww
いっつもいいところで切られるから毎日巡回しなきゃいけないじゃないか
488 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/26(水) 00:18:55.76 ID:bBTGRZPAo
上琴みにきたのにインさんも良いなって思ってる俺ェ
489 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/26(水) 00:55:18.91 ID:gJ+RrFd0o
上琴SSだとインデックスを放置しがちだけどこのSSはインデックスにもしっかり役割があってイイです
続き待ってます!
GJ!
490 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage ]:2011/01/26(水) 01:27:52.13 ID:z8/GtUfG0
 ここのインデックスは本来のインデックスだ
乙です!続き楽しみです
491 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/26(水) 02:00:40.43 ID:uSIgyGFs0
乙! 懐かしい1巻の頃のインデックスだった
492 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/26(水) 03:23:17.31 ID:fWCuNOwS0
グッジョブだぜい
493 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/26(水) 07:31:06.67 ID:yz6M/k3v0
がんばれー。とミサカはため息交じりに応援します。
はぁ、でもいつになったらあの人に会えるのやら
494 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/26(水) 23:59:47.64 ID:HJviDpmso
今日は来ないのかな…
495 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/27(木) 02:18:54.61 ID:Gf1j6nKxo
まあ>>1だって人間なんだから色々あるさ
496 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/27(木) 16:24:44.20 ID:B16ylqJ80
良SSでは禁書さんが光るな
すぐに月詠家に居候先移したり帰国とかさせちゃうと何とも言えない
497 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/27(木) 23:39:31.12 ID:1rtBy9FAO
今日は>>1こないのかなぁ…

いなくなるのだけは止めてよね
498 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/27(木) 23:48:04.81 ID:op7rEL580
>>1さんが今日なかなか来ないからってそんな不安になるなよ
499 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/28(金) 00:01:21.22 ID:82CYwTLco
2週間とかあいてるならともかくまだ2日だぞ…
最近書き手にもリアル生活があるんだってこと忘れてる奴多すぎね?
>>1にも「・二日、三日に一回という更新ペース」って書いてあるんだしさ
ここんとこ連日更新だったし期待するのも分かるけどあんま急かすのやめようぜ
500 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/28(金) 00:10:21.23 ID:dSqNT/mzo
まぁ、不安になったり、続きが気になって仕方がないのはわかるけどね
自分もそうだし
気長に待とうぜ
501 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/28(金) 00:15:16.13 ID:2QzbPGYNo
引きが引きだけにうずうずしちゃうんだよな
俺もそうだし分かるぜwwww
502 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/28(金) 15:56:37.75 ID:kU20QVrm0
というわけで黙るのみ
503 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/01/28(金) 17:07:25.68 ID:pV5t+oEDO
皆ごめん!
携帯紛失しちゃって来れなかったなんて言い訳にしかならんな
今日の夜投下しに来ます!
504 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/28(金) 17:14:38.31 ID:82CYwTLco
待ってる
見つかってよかったなー
505 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/28(金) 17:58:02.64 ID:MdyLoaKH0
待ってました!
506 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/28(金) 17:59:10.35 ID:zc5QvB7AO
おかえり
楽しみにしてるぜ
507 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/28(金) 20:13:59.16 ID:NiFTjgfAO
>>498>>502
すいませんでした
勝手に一人で
>>1さんが来なくなるんじゃないか
とか妄想してしまいました
これからは>>1さんを信じて静かに待ち続けます

>>503
>>1さんがいない間にこのような事態を引き起こしてしまい、申し訳ありません

これからも頑張ってください
508 : ◆LKuWwCMpeE :2011/01/28(金) 20:56:50.27 ID:pV5t+oEDO

 街のある商店街にて、大勢の学生達がその場に集っていた。

「きゃー!可愛い!」

「何あれ、凄い!」

「どうやって動かしてんのかな……」

などなど、色々な歓声や感嘆とする声が上がっている。

「ね、ね、佐天さん!凄いですね!」

「こりゃぶったまげたよ……」

その人混みの中にいる少女二人、初春と佐天も周りと同じ様に驚きながらもキラキラと目を輝かせて目の前の物に目をやっていた。

そんな二人の前にあるのは大小、無数のぬいぐるみ達。
クマ、犬、猫、馬、豚、羊や他にもテレビで見る様なキャラクターのぬいぐるみも含めて、ざっと数えると百くらいはありそうなぬいぐるみ達。

それだけでは当然ここまで騒ぎ立てはしない。
そう、特にこの学園都市と言う街にいる以上、ほんの少し不思議な事が起きても皆驚かないのである。

しかしどういう事か、そんな学生達の度肝を抜いてるぬいぐるみ達とその持ち主。

持ち主はぬいぐるみ達の後ろにあぐらをかいて座っている、見るからに明らかな異国の男と女の二人組だった。
 その二人組も楽しそうにギャラリーとぬいぐるみ達に目をやっていて、その一挙一動に観衆が湧く。

それだけなら特に騒ぐものでもないだろう。
しかし何に騒いでいるのかと言うと。



   無数のぬいぐるみ達が、独りでに動いているからだった。


509 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/01/28(金) 20:57:56.69 ID:pV5t+oEDO

「面白かったですね!佐天さん」

「可愛かったね!あれでもどうやって動かしてたんだろ?」

見せ物を見終わり、街を歩きながら興奮気味に話す二人。
さすがに中学生の女の子だ、可愛いものには目がなかった様だった。

「電池とかじゃないんですかね?」

「あれが機械の動きに見えた?まんま動物の動きだったっぽい気が」

見た目は確かにぬいぐるみ。しかしその動きは完全に生きているものとしか見えない様な動きを見せていた。
ギャラリーもその動きに驚き、また感動して騒いでいた。

「ですねぇ……。イイコイイコとかしてあげたかったなー」

「私がしてあげるよ。ほらいいこいいこっ」

「私じゃないですーってやめて下さい!お花が散っちゃいます!」

ギャーギャー騒ぐ二人。
元気な女子中学生の姿だった。


「あノ、すみまセン」


するとそんな二人に後ろから女性の声が届いた。
少し片言だった日本語に二人が振り向くと。

「あっ!さっきの!」

先ほどのぬいぐるみショーをしていた二人組の内の女性が少し困った様な表情をして立っていた。
隣では男の方もいたが、視線を少しキョロキョロとさせている。

「さっきは凄かったですぅ!ってあれ、日本語分かるかな……」

「あ、どうしました?」

興奮してはしゃぐ初春を他所に冷静に返事を返す佐天。
まぁ佐天も日本語分かるのかなという不安はあったのだが。
510 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/01/28(金) 20:59:10.79 ID:pV5t+oEDO

「あ、ハイ。道が分からナイデス」

あ、日本語分かるんだ、と感心した佐天。
改めて見ると、日の光を浴び輝いている様な金髪に透き通る様な碧眼の女性で、綺麗な人だなーと言う印象を受けながら、道を教える事にした。
大きなボストンバッグに入りきらなく、顔をちょこんと出しているぬいぐるみを物欲しそうに見つめる初春は取り敢えず放っておく。

「この辺りで素晴らシイdoctorがいるhospitalがあると聞いたんですガ、どこにありますカ?」

「へっ?ホスピ……」

佐天の耳に聞き慣れない様な単語が届き、少し戸惑ってしまう。
しかしその単語の前のドクターと言う単語に気付いたのだが、違ってたらどうしようなんて返答に迷っていた。

「Oh……in Japanese……?「病院」oh!」

「あぁ、病院ですね」

隣の男が口を挟むように呟くと、ああやっぱり合ってたんだとホッと一息佐天は納得した様な表情を見せた。
素晴らしい医者がいる病院……やはり、あそこしかないだろう。
それを言うとその男はまたぶっきらぼうに口を閉じ、街並みに視線を送り始めてしまったが。

「えと、この道をこう行って……」

二人とも日本語うまいんだなーなんて思いながら、女性の手にしていた手書きで描かれた簡略化された地図と街並みを指差して教える。

「Thank you!」

道を知れたのが嬉しかったのか、女性は喜んだ様子で佐天の手を握り握手をする。
わっ、外人さんと握手してる、と佐天も少し興奮すると羨ましかったのか初春も外人に握手を求めたがそれは別にいいだろう。








「間違い無さそうだな」

「……ええ、そのようね」

二人と別れ、少し歩くと男が確認する様に呟くと口角をつり上げる。
それに女性も同じく歪んだ微笑みを見せると、返答しながら再び歩き出した。

その二人の会話は、片言ではない流暢な日本語であった。
511 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/01/28(金) 21:00:42.92 ID:pV5t+oEDO

「…………彼は……今どんな状態、なんだい?」

戻るや否や、首輪に自身が持ってきた小型の機械の様な物を付け始めた冥土帰しに木山が尋ねる。
少し言いにくそうにしていたのだが、やはり彼の容態が心配だ。

「今の内に手を尽くさないと…………彼は持たない」

「…………っ」

その言葉に御坂妹の顔が辛そうに歪む。
医者として絶大な信頼を寄せている彼からの言葉だから、一重に重い。
そしてその言葉は手遅れになると…………死だと言う事を意味していた。

「10032号……」

彼女が上位個体と呼ぶ打ち止めは、脳波リンクによる感覚共有にて、どれだけ彼女が上条の事を思っているのかは分かる。
自身が命を賭してまで助けてくれた一方通行に寄せる想いと、彼女が上条に寄せる想いは全く同じであった。
同じであるからこそ、彼女の気持ちは痛いほど分かる。
もしそうなるのが一方通行だったのなら……と考えるだけで打ち止めは震えてしまう。
だからこそ、『家族』である御坂妹と唯一の姉、美琴の為にも、助けてあげたい。

「この方法を取るにあたって確認しなきゃいけない事があるよ」

冥土帰しが打ち止めと御坂妹に視線を送った。
512 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/01/28(金) 21:01:33.74 ID:pV5t+oEDO

「分かっています」

「うん、ミサカも大丈夫だよ」

この方法を取れば、元々一方通行への演算補助にて下がっていた彼女達の能力が更に著しく低下してしまう事を冥土帰しは懸念していたのだが。

好意を寄せる相手の為。
生きるという道を示してくれたあの人の為。
御坂妹と打ち止めには、既に覚悟は出来ている。

「…………君も複雑だろうね」

そして、一方通行。彼の細かい心理は分からない。
しかし、酔狂でここにいるのではない事は分かっている。

「…………ふン、妹達が決めた事だ。俺がとやかく言う筋合いはねェだろォが」

そんな事は何でもないと言う風に言い切る一方通行に、冥土帰しは目を細めて再び首輪……チョーカーに手を掛けた。


シスターズの脳波リンクを用いて、彼の脳に侵入する脳波、演算式をシャットアウトするシステムをチョーカー型デバイスに組み込み、彼に装着させる。

それが上条に施す手段だった。

 それは奇しくも、今の一方通行を形成するチョーカー型デバイスを経由したシスターズの『代理演算システム』を真逆に応用するもの。


『演算代理解除システム』。


正に、光と影。
それぞれの正義を胸に刻み込む『救いし者』と『滅ぼし者』に、間に立つシスターズの力は必要不可欠だった。
513 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/01/28(金) 21:02:36.81 ID:pV5t+oEDO

「………………チッ」

土御門は舌打ちをしながら耳に当てた携帯を乱暴に閉じる。

「出ないのですか?」

土御門の電話の相手が応対しないと分かると、海原は少し驚いた様子を見せた。
『グループ』としての仕事は、属する彼らにとって重要事項であった。
雨が降ろうが槍が降ろうが雷が落ちようが、関係無しに与えられた任務は遂行する。
特に誰かが決めた訳でもないのだが、学園都市の『暗部』に属する者達にとって任務は絶対なのだ。破れば何が起きるかは想像に難くない。
電話先の相手はそれを知っている筈。しかし応対しないとなると学園都市を敵に回す事を決めたか、それ相応の事態が起きているかの二つだ。

「………………」

いや、前者の可能性はないであろう。
電話先の相手が常に一人なら考えられるが、その相手にも守るべき存在ができ、その存在の為に自ら『暗部』に身を置いたのだ。
もはやその彼にはそうする手段は真っ先に捨て去っている事を土御門は知っている。

なら、彼は今何処で何を。

「結標さんは後二十分ほど掛かるそうです」

「そうか」

だが土御門は考えを直した。

与えられた任務は特に大きそうな問題ではない。
たった『二人の侵入者』の偵察、そして動きを見せれば排除だ。

依頼元から詳しい情報は伝えられていない。
しかし別に学園都市最強の男がいなくとも、さほど支障をきたす任務でもないと判断した土御門は、集合場所へ向かう事にした。
514 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/01/28(金) 21:04:34.28 ID:pV5t+oEDO

「…………ねぇ」

 治療室にて、上条の手をただ握り続けている美琴が横に座るインデックスに声を掛ける。

「なに?」

同じく上条の顔をじっと見つめていたインデックスが、美琴に視線を移した。

「前に……言ってた事。あれ、どういう意味だったの?」

前……とはどの事を指すのか。
だが通常の人間なら首を傾げてしまいそうな質問も、完全記憶能力を持つインデックスは察する。
美琴が、何を聞きたいのかを。

インデックスが美琴を後押しする理由。
そして、上条の気持ち。

「………………」

「………………」

「…………それは」

「…………それは?」

「とうまから、聞くべきなんだよ」

「………………でも」

何故彼女は自分を後押ししようとしてくれているのか。
何故彼は、自分の身体の異変を押してまで自分の事を探しに来てくれたのか。

考える。
彼が、彼女がそんな行動に移っている理由を。
そしてその理由は、美琴にとって……喜ばしい事、だという事を期待してしまうのだ。

だからこそ、怖い。
だからこそ、しっかり確認したい。
はっきり口にしてもらった訳でもないのだから、もし違った時の落胆、恐怖は大きい。

「でも?」

「アンタは…………何で…………」

それに、この少女も彼の事が好きな筈だ。
そしてこれは憶測ではあるが、何故彼と自分が共にいる事を望んでいるのかだろうか。
515 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/01/28(金) 21:05:25.96 ID:pV5t+oEDO

違うと言うのなら違うとはっきり言ってほしかった。
もし違っても、自分が上条の事を諦められるかと言えばそうでもないのだが、美琴から見れば自分と共に彼に想いを寄せる彼女が一番上条に近い筈なのだ。

それなのに、何故。

「シスター、だから?」

「………………」

違う。そんなのは理由にならない。
常に自分に素直な彼女だからこそ、今まで見てきた中で上条の事を一番に念頭に置いているから。
どれだけの信仰心が彼女にあるのかは分からない。
しかしそれよりも、上条の事を大切に思っている節は感じられるのだ。

「…………私は」

「…………うん」

「とうまの事、大好きなんだよ」

「………………」

やっぱりそうではないか。
非難の意も込め、インデックスに目をやるのだが。

「…………でもね」

しかし彼女は…………慈しむような、温かくなるような、そんな表情を浮かべていた。

「とうまの事大好きなんだけど。 …………みことの事も大好きなんだよ?」

「………………!」

そう言い、美琴に微笑みかけるインデックス。
本当に身近な、自分が心を置ける存在に向ける笑みを浮かべていて。

「やっぱりとうまの気持ちはとうまに聞くべきなんだけど、とうまもみことも。 …………二人の気持ちを、尊重したいんだよ」

「イン、デックス…………」

美琴にもたれかかる様にして寄り添うインデックスに、美琴は再び目頭が熱くなるのを感じた。

自分なら、ここまで人の為に動く事が出来るのだろうか。
自分なら、ここまで強くなれるのだろうか。

気付けば、上条とインデックスの二人の手をギュッと握り締めていた。
516 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/01/28(金) 21:06:25.57 ID:pV5t+oEDO

「奴の様子はどうなんだ?」

「ええ、いまだに意識ないみたいね」

「ククク…………」

「幻想殺しがあの状態なら、仕事は簡単そうね」

 ある建物の屋上にて、二人の会話が響いている。
先ほど人通りの多い街並みで、ギャラリーを沸かした異国の二人組だ。
会話が進む毎に二人の顔は凶悪に歪んでいき、目の前の建物に視線を向ける。

「ククク…………!10万3000冊の魔導書さえ手に入れれば、世界は俺達の物だ……!」

「ふふ…………!ようやくチャンスが巡ってきたようね……!」

これから起こる事を予想すると、二人は興奮が止まらない。
男が手にしていた地図をくしゃっと握り締めると、女はおもむろにボストンバックのチャックを開ける。

中から取り出したのは、あの無数のぬいぐるみ達。

「さぁお前達!スペクタクルを見せてあげな!」

屋上からぬいぐるみ達をある建物に向けて放り投げると、ぬいぐるみ達はまるで意思を持った様に滑空していく。
その途中でそれらはまるで卵から孵る様に、ぬいぐるみの生地を裂いて変形していった。
517 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/01/28(金) 21:07:23.99 ID:pV5t+oEDO

「何あれ?」

「な、何だあれは……?」

「何か落ちてきてる?」

 病院の玄関辺りでは患者、見舞い客、医師、看護師などたくさんの人が出入りする。
一人の通行人が空から落ちてくる『何か』に気付き声を上げると、周りにいた大勢もそれを見て疑問の声を上げていた。

その落ちてくる『何か』は方向を転換し、唐突に形を変えていく。
そしてその方向とは……この建物。

「な、何か来る!」

「一体何なんだ!?」

「危ないっ!!」

「きゃああっ!?」

そして、それらは地面との衝突時の爆音を上げ、次々に着地していく。

物凄い衝突音と共に砂埃が辺りに充満し、たちまち視界を遮ってしまった。

「きゃあっ!! え!? 何!? 何なの───」

悲鳴と共に声を上げた女性客の声が──────途中で途切れた。

女性の顔を掴んだ『何か』は腕を振るい、まるでゴミを捨てるかの様に投げ飛ばす。
壁に激突した女性の意識は一瞬で吹き飛び、動かなくなった。

砂埃が晴れる。通行人達が目にしたのは────。




「うっ!」

「おええぇぇっ!!」

「ばっ……化け物だ……!」




  まるで生きたまま皮を剥いだ様なグロテスクな人や様々な動物の肉の塊、だった──────。
518 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/01/28(金) 21:09:15.82 ID:pV5t+oEDO

「来たかっ!?」

突然起きた爆音と悲鳴に土御門と海原に戦慄が走る。
待合室にいた人々もその音に驚き、そして怖れた様子だ。

ガシャーンッッ!!

「きゃああっ!?」

「うわっ、な、何だ!?」

病院の玄関の窓ガラスが吹き飛び、場にいた人々の悲鳴が木霊した。

「──────!!」

土御門と海原の目が大きく見開かれた。
扉を破り中へと侵入してきたそれらは。

「おい…………何だぜい……、あれは…………」

「あれは……一体……」

まるで学校の理科室で見た人体模型、解剖図形の様な『異形』達だった。

いや、模型の方がまだかわいい。

顔は識別出来ないほどグチャグチャで原型を留めてないものや、腕や脚が肥大化し皮を裂いて液体がダラダラと流れ出しているもの。
内蔵も飛び出ているものや、四足歩行の動物の形をしたものなどその数はざっと見て数十、いや百はあるだろう。
まるでB級のゾンビ映画に出てくる様なそれで、とてもこの世の物とは思えない禍々しさを放っている。

「ひいいぃぃぃぃっ!!」
「うわあああぁぁぁっ!!」

そのあまりもの恐ろしさと気味の悪さに悲鳴が周りから上がっていく。

「……ag……ne……b……nd…x…pr……」

「……in……br……hi……ima…n…rak……」

一歩一歩ゆっくりと歩き出し、こちらに向かってくるその異形達から発せられる聞き取れない声。
何を言っているのか分からない。

いや、分からなくともいいだろう。
519 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/01/28(金) 21:10:32.84 ID:pV5t+oEDO

「うわああぁっ、たっ助けてくれ!!」

「いや、来ないでえええぇぇっ!!」

「ここはヤバい! 全員下がれ!!」

その異形達を見る限り自我はなく、形振り構わず人々に襲い掛かるだろう。
余計な犠牲を出す前に場にいた人間達を下がらせる事が先決だと考えた土御門は、異形達の前に出た。
横では海原も戦闘体勢を取っている。

──クソ! こんなのが来るなんて聞いてねぇぞ!!

この異形達が侵入者の手先かどうかは分からない。
はたまた別の何かなのか。
相手がどんな手を使ってくるのか分からない以上、下手に動きは見せられない。

だが狙いは絞れている。

ここに来た以上、相手方の狙いは恐らく『幻想殺し』、『禁書目録』だろう。

ピンポイントに病院に攻めて来たのだろうか……向こうは上条があの状態という事を知っているのであろうか。

「クソッ、結標はまだか!?」

「恐らくもう少しかかると思われます! 一方通行がいない以上、苦しくなりそうですね」

だが今は考え事をしている時ではない。
とにかくこれ以上、異形達に侵入させる訳にはいかない。
しかしそれらに気を取られてばかりでもいけないのだ。
これらを陽動にして本丸に上条やインデックスに接触されたら一貫の終わりだ。
だがこの数の異形達相手に二人でも苦しい。せめて一人でも早く加勢に来てもらわねばならない。

──こんな事になるんだったらねーちん達を呼んでおくべきだったぜ!

しかしそんな時間など無かったのも事実。仕事の依頼を受け僅か数分ほどでここまで攻め込まれていたのだ。

「来るぞっ!!」
520 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/01/28(金) 21:12:04.10 ID:pV5t+oEDO

人型の異形の腕が伸びる。
それを横に跳ぶ事で回避し、廻し蹴りを浴びせた。

「グガアアアァァッッ!!」

咆哮を上げ、それはその後ろにいた異形達をも巻き込み後ろに吹き飛んだ。

土御門の本来の戦法は魔術を用いる。しかし彼の魔術には術式を必要とし、それを組んでいる暇はない。
横の海原も同じく魔術師で、彼も同じ様に術式を組む時間などなく己の体術で異形と戦っている。

「はッ!!」

犬型の異形が歯を剥き出しにして海原に飛び掛かると、海原はしゃがみ込み異形の腹に思い切り拳をブチ込んだ。

「ギャン゙ッッ!!」

「うへぇ……この皮膚は要りませんね……」

「チッ! こいつら効いてねぇのかよ!!」

薙ぎ倒した筈の異形が立ち上がるのを見て土御門は舌打ちを打つ。
渾身の蹴りを入れた筈の異形は、その部分が窪む変形をしながらも再び土御門に襲い掛かってくるのだ。
海原の吹き飛ばした犬型の異形も、すぐさま立ち上がりその歯を剥き出しにしていた。

後ろでは、大勢の患者や見舞い客達が恐怖に震え上がりながらもその戦いを見守っている。
異形一体でも通してはいけない。

「グガアアァァァッ!!」

雄叫びを上げて、土御門に噛み付かんと飛び掛かってきた人型の異形の首を、飛び蹴りでへし折った。

「グギギッ…………」

首があらぬ方向に曲がったままでも再び立ち上がる様子を見せた異形に、土御門の表情は焦りを見せる。

「キリがねぇ!」

そんな耐久力を備えた異形達は後何体いるのか。
結標が来るまで持ちこたえられるのか。

そう思ったその時─────!




「ジャッジメントですの!!」



異形達の後ろに姿を現した、『風紀委員』の腕章を腕に付け常磐台の制服に身を包んだ少女の声が響き渡った。
521 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/01/28(金) 21:13:30.30 ID:pV5t+oEDO

「何なんですの!? これは一体!」

吐き気さえ催してしまうこの異形達を目の前にして、見た事のないものにほんの少し引け目な黒子なのだが、まずは状況を把握しようとする彼女はさすがにジャッジメントだけの事はあった。

「超電磁砲の付き人の嬢ちゃんか!」

「貴方は……あの類人猿のご友人の!?」

「説明は後だ! とにかくこいつらをこれ以上中に入れる訳にはいかない!」

「白井さん! 気を付けて下さい!」

「う、海原光貴まで!?」

一先ず空間移動にて土御門の後ろに移動した黒子は、そこで海原の姿に気付き驚いた様な声を上げた。

「これは一体何なのですの!?」

「詳しくは分からん! だがこいつらはとにかく中に入ろうとしている!」

「白井さんはどうしてここに?」

「通報を受けたんですの!」

「世間話している暇はないぜい! 来るぞッ!」

黒子の前に二人立ちはだかる様にして土御門と海原は同時に蹴りを放つ。

「グブアァァッ!!」

「グゴオオォォッ!」

後方の異形達を巻き込み吹き飛ぶが、他の異形達がすぐに襲い掛かる。

「ガアアッッ!!」

「ぐおっ!」

異形の左右同時の攻撃に土御門は対処し切れず、真横に2メートルほど吹き飛んでしまった。
522 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/01/28(金) 21:14:43.59 ID:pV5t+oEDO

「土御門さん!」

「くっ……!」

そして黒子に近付く異形達。
見た事のない生物。見た事のない形に黒子の足は少しすくんでしまう。
仕方のない事だった。
いくらジャッジメントという厳しい環境に身を置こうが、相手は全て人間だ。
それが今は自分の想像もつかない様な見た目の怪物達を目の当たりにしている。
ジャッジメントと言えども、黒子は中学一年生の女の子だ。怖がるのは当たり前の事だった。

「くっ!」

海原も横目でそれを見たが、異形の相手をしているので彼も精一杯だ。

異形の手が黒子の首に伸びる──────!



「ジャッジメントをなめないで下さいませんこと」



「グッグガアアアアアッッッッ!!」

しかしそこで絶叫を上げたのは異形の方だった。
異形は痛みからか腕を振り回し、周りの異形を巻き込み倒れ込む。

その異形の伸ばした腕には…………鉄芯が埋め込まれていた。

「おお、嬢ちゃんさすがだぜい」

回復したのか、土御門は黒子の横に再び立ち体勢を整えた。

「咄嗟でやってしまったのですけど、良かったのでしょうか?」

激痛に暴れ回る異形を見て黒子は呟いた。

「奴らに自我はないんだにゃー。ボコスコ殴ってもすぐ立ち上がるからあれくらいがちょうどいいんだにゃー。拘束とか考えない方がよさそうだぜい」

「…………その様ですの」

調子が出てきたのか、気付けばいつもの口調に土御門は戻っていた。
黒子の攻撃は、生き物相手には良心が少し痛んだのだが、ああでもしなければ自分がやられていた。
523 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/01/28(金) 21:15:50.74 ID:pV5t+oEDO

「今度はこちらから行くんですの!!」

鉄芯を握り締め、異形に向けてそれを空間転移をさせようとしたのだが────。

「グ…………グバアアアァァァッッ!!」


  後ろの方にいた異形が、火を吐いた。

「なっ!」

ゴウッ!と音を立てて吐き出された火。
突然の炎に、黒子は対処出来ずにその場に立ち尽くしてしまう。

「危ねぇッ!」

「危ないっ!」

そんな黒子の盾になるべく土御門と海原が前に飛び出る──────!


「あ…………!」


二人が…………燃えてしまう!!



そう思った瞬間──────。



「ったく、今回こんな気持ち悪いのが相手なの?」



「え………………?」

黒子の目が大きく見開かれた。

    炎が綺麗さっぱり消えたのだ。

……いや、それは実際には消えたのではない。
吐いた筈の炎が『まるで移動したかの様に』異形の身体を包んでいたのだ。

「グギャアアアアッッッ!」

そして耳に届いた女の声。

「ようやく来たか…………結標」

異形達の後ろに更に姿を現したのは、空間移動系能力者の最高峰、『座標移動』の結標淡希だった。

「あつッ! 結標さん! 転移し切れてないです!」

「結標…………淡希…………!」

彼女を見た黒子の目は、次第に睨み付けるかの様に変わっていった。
524 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/28(金) 21:16:43.61 ID:PoJE8VcAO
骨が溶けてるみてーだ
と思ったが違うのか
525 : ◆LKuWwCMpeE :2011/01/28(金) 21:18:30.90 ID:pV5t+oEDO
今日はここまで!
また明日投下しに来るよ
>>507
気にしないで
元々>>1がドジふんだのが悪かったんだから
皆いつもレスありがとう!
526 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/28(金) 21:18:52.19 ID:82CYwTLco
乙!
wwktkが止まらない
527 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage ]:2011/01/28(金) 21:45:02.76 ID:m6taShEB0
 乙!!面白くなってきたぜェ!!
さァてと、It's a Show Time !!!
528 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/28(金) 23:23:10.68 ID:3smhezrto
乙〜
続き待ってました
次回も楽しみにしてます!
529 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/29(土) 01:39:04.20 ID:vkNVYh4AO
急展開だなwwww
まぁ乙
530 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/29(土) 01:42:14.71 ID:9klWPAGfo
バイオハザードktkr
531 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/29(土) 02:00:32.65 ID:gxieedXDO
ネクロマンサーかね
なんにしても人間相手じゃないから派手な戦闘シーンが期待できそう
532 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/29(土) 04:47:37.15 ID:3o8KRYlAO
追い付いた
全くなんてもの書きやがる
533 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/29(土) 10:08:48.63 ID:CgFPjz940
スリラーか…
534 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/29(土) 10:25:12.70 ID:auv2DOzUo
きっと魔法名は、Mickey000(中の人などいない!)だな
535 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/29(土) 19:08:07.03 ID:DRP2wxYyo
なんでそれなんだ11!
536 : ◆LKuWwCMpeE :2011/01/29(土) 23:21:25.83 ID:DwohupyDO

「…………なンだ?」

「な、何の音……?」

 チョーカーと機械を繋げ、コンピューターを手繰っている冥土帰しを見守っている木山達の四人が部屋の外から届いた爆音に身構えた。

悲鳴、叫び声、怒声、衝撃音。恐らく、ただ事ではない。

「何かが戦ってる……音……?」

打ち止めがその音に怯えたか、震えながら呟いた。

「…………チッ」

打ち止めを部屋の真ん中辺りに下がらせる様に一方通行、御坂妹、木山は周りを囲み扉の先から聞こえる音に神経を集中させる。
一方通行が携帯を取り出し、ディスプレイを確認すると舌打ちをした。

──……仕事かよ、ンな時に。

着信ありの画面を見て発信元を確認すると、土御門と表示されている。
もちろん着信には気付いていたのだが、今はこの場を離れる訳にはいかなかった。

 チョーカーを上条に装着させる際、まずは彼を取り巻くAIM拡散力場を解析し、そして操作せねばならない。
それを怠れば、チョーカーを着けた所で今彼を圧迫している力が消え去らないのだ。
『ベクトル操作』と言う彼の持つ学園都市第一位の能力は、この方法には必要不可欠だった。

しかしこの騒音は一体何なのか。
『グループ』の仕事と関係のある事なのかも分からない。
とにかく打ち止めがいるこの場と上条のいる治療室は死守せねばならない。
537 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/01/29(土) 23:23:12.25 ID:DwohupyDO

すると御坂妹が打ち止めと一方通行の顔を確認し、口を開けた。

「ミサカが確認して来ます、とミサカは述べます」

「10032号!?」

「あの人への『演算代理解除』が始まるまではもう少し掛かるのでしょう。特に問題なければすぐに戻ります、とミサカは約束します」

驚いた様子の打ち止めにまるで姉が妹に安心させるかの様に、御坂妹は打ち止めに微笑みかけた。
横の一方通行も頭をポリポリ掻く様な仕草を見せ溜め息を吐いていた。

「その問題があった場合はどォすンだ?」

「あの人の為にミサカは戦います、とミサカは即答します」

「危険なのかも知れないんだぞ!?」

しかし木山の言う事ももっともだ。
演算代理解除の事もそうなのだが、彼女の能力はおおよそレベル2程度だ。
これだけの爆音、轟音が耳に届くほどの何かが起きているのだ。
彼女の能力では対処しきれな事態も十二分に考えられてしまう。

「…………それに」

御坂妹は扉の前に立ち、木山達に背を向けた。
538 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/01/29(土) 23:24:24.57 ID:DwohupyDO

「あの人に危険が近付くのなら、ミサカは尚更引けません」

「10032号…………」

「く…………」

御坂妹の見せた覚悟、想いに打ち止めと木山は何も言えなくなった。
今の彼女を止められるものは恐らく、無い。

「チッ、三分だ。三分経ったら絶対に戻って来い」

一方通行が舌打ち混じりに扉に手を掛けた御坂妹に言い放つ。
三分経ったら俺が行くぞと言わんばかりの言葉。
御坂妹もそのつもりだった。
恐らくその時間ほどで冥土帰しの準備も全て整うのであろう。

「心得ています」

そして扉を開け、御坂妹は外に出ていった。

「………………っ」

一人の想い人の為に少しでも危険を減らす為に行動を起こす御坂妹。
そんな彼女を見て、木山は改めてクローンなんかではない『人間』だという事を思い知らされた。

そう、その姿は木山が今まで関わってきた人間達や研究者達よりもずっと、よっぽど『人間』だったのだった。
539 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/01/29(土) 23:26:45.36 ID:DwohupyDO

「何か……あったのかしら……」

「何か、すごい音っぽいんだよ」

一方では上条を見舞っている二人の方にももちろんその音は届いていた。
治療室は雑菌や細菌から保護する為の分厚い壁で覆われている。
それはその理由だけではなく、外からの騒音や雑音にて治療の際に集中を切らされない様にする為、防音壁にもなっているのだ。
しかしその壁でさえも突き通してしまうその爆音に、美琴とインデックスはたじろいでいた。

 上条を見る。
意識はない様だが、口に付いている半透明の器具越しに確かに呼吸をしているのが分かる。

「当麻…………」

上条の事は心配だ。しかし外の様子も気になる。
何しろこの部屋にまで届くほどの騒がしさだ、何か大事でも起きているのだろう。

しかし考える。
外の騒ぎは確かに気になる。
だが自身が騒ぎに赴き、電気の能力を使うような事態だったとしたら。

病院内の電子機器に悪影響を及ぼす────つまり上条を繋ぐこの機器にも影響を及ぼしてしまうかも知れないのだ。

「………………」

それに。
繋いだこの手をもう二度と、離したくはない。



ギュ────。



「………………当麻?」

繋がれた手にほんの少し力が込められた気がして。

「…………うん。 何処にも…………行かない」

いまだに眠り続けている様な上条の手を更に強く握り返し、そう呟いた。
540 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/01/29(土) 23:28:10.21 ID:DwohupyDO

「で、何なの? こいつらは」

「今日の仕事だ」

 結標がまるで汚物を見ているかの様な表情で異形に目をやっていて、土御門も牽制しながらそれに答える。

「……………………」

黒子は何かを言いたそうに結標を見ていたのだが、さすがにこの状況はそればかりに気を取られている場合ではなく、すぐに異形に視線を戻した。

「一方通行はどうしたの?」

「繋がらなかった」

「珍しい事もあるのね」

結標が来た事により、戦況は大分変わる。
土御門の言葉の様子にも余裕が戻り、飄々と返していた。

「来ますよ!」

しかしやはりそんな暇は与えてくれない。
熊型の異形が海原に襲い掛かると、海原は何処からかナイフを取り出していて、異形の切り裂かんとする爪をかわし躊躇なく心臓部に刺し込んだ。

「グヲオオオオォォォォッッ!」

大量の鮮血を吹き出し、異形はその場に倒れ込んだ。

「どうやらここまでやれば倒れてくれる様ですね」

ナイフを抜き、付着した血を振り払う。

「随分乱暴な殺り方ね」

「仕方ないですよ」

海原の扱う魔術にもやはり幾つか条件がある。
発動させる事が出来れば、物であろうが生物であろうが文字通り『分解』させる事が出来るのだが、条件が厳しい上に制御も難しい。
541 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/01/29(土) 23:29:41.82 ID:DwohupyDO

もっとも、海原の戦い方はそれだけではないのだが、ここには無関係の人間達や黒子までいる。
なるべく学園都市にて穏便に暮らしたいと考えるアステカの魔術師は己の体術一つで立ち向かう事にしていた。

それは土御門も一緒なのだが、彼の場合は魔術を使用した際に自身に掛かる負荷が大きすぎる。
魔術を使えばその一回で戦闘不能という事態になりかねない。
しかしそんな魔術など使わなくとも、この異形相手には彼の強靭な肉体で十分渡り合えていた。

「…………色々聞きたい事もあるのですが、とにかく今はやるしかなさそうなんですの」

人間としての戦い方ではこの場は無意味だという事を悟った黒子も、物質を異形の体内にテレポートさせる事で難なく異形を退けれている。

「せいっ!!」

土御門が人型の異形の急所に拳を撃ち込んでいく。
人中、天突、水月、丹田。
並の人間ならその一つ一つに撃ち込むだけで卒倒なのだが、異形はその倍以上撃ち込まなければならない。
しかし土御門は、それを難なくほぼ一瞬でこなすと異形は崩れ落ちた。

「ガアアアァァァッッ!!」

異形の口から時折吐き出される炎を結標の座標移動が防ぐ。

「どんな怪獣なの?これ」

溜め息吐きながらも、11次元の座標の計算と言う難易度の相当高い演算をしていく。

「すごいですね、結標さん。やっぱりあなたがが一番レベル5に近いんじゃないですか?」

「簡単そうに言うけどかなりしんどいわ」

海原も異形の心臓にナイフを突き刺しながら称賛の声を上げる。

「………………」

黒子の心境は複雑だ。
殺し合った仲なのに、今は共闘している。
そして先ほどは、助けられた。助けられてしまった。
542 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/01/29(土) 23:31:30.52 ID:DwohupyDO

悔しかったのだ。
同じ空間移動系の能力者で、結標はそのトップ。
そして何よりも、『あの時』とは違い、結標が大きい存在の様に見えてしまっていた。

「グオオオォォォッ!!」

「くっ!」

噛み付かんと飛び掛かってきた異形を空間移動でかわし、自身の全体重を乗せた踵落としを頭に叩き込む。

「グゲッ!!」

一度では倒れなかった為、二撃目を追撃した所で異形は倒れ伏した。

「荒れてるな、嬢ちゃん」

横から掛かった声に耳を傾ける。
異形の顎に思い切り膝蹴りをかましていた土御門の声だった。

「………………」

「ま、心中お察しするがな」

そしてその土御門。
得体が知れなさすぎる。
黒子の持っている情報は、『上条の友人』ただそれだけ。
543 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/01/29(土) 23:32:49.52 ID:DwohupyDO

人間離れした格闘術、そして結標との交流。
海原を加えた三人がどんな関係なのかは分からないのだが、ただ者ではない事は先ほどの言葉で十分に把握した。
しかしそれだけだ。
ジャッジメントとしての直感か、海原や結標はもちろん、この土御門からも「裏」の匂いが漂っている。

「グオオオォォォッ!」

「はっ!」

鉄芯を撃ち込む。
だが今はとにかくこの場を収束させねばならない。
色々考えるのは後回しだ。
ジャッジメントとして、この場にいる民間人達に危害が及ばない様にする事が先決だった。










「…………何ですか、これはとさすがのミサカも理解しかねます」

待合室の騒ぎを確認しに来た御坂妹は、異形達、そして黒子と海原の姿を確認すると何か嫌な予感がよぎった様で、別室に戻る事を決めた。
544 : ◆LKuWwCMpeE :2011/01/29(土) 23:34:06.03 ID:DwohupyDO
今日はここまで
また次回!
545 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/29(土) 23:50:58.04 ID:bKXB/jHto
乙〜
続き待ってる
546 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/30(日) 00:00:13.35 ID:0U4j9ITPo
病院内じゃ電気使いはじっとしてた方が得策だもんなー…
547 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage ]:2011/01/30(日) 01:05:48.14 ID:1jyE0fzo0
 さあ、妹達の蓄えている
強力な銃器類で化け物どもを愉快なオブジェにしてやるんだ!!
……そういう訳にもいかないのかねー
 今日も乙でした!!
548 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/30(日) 02:03:37.27 ID:HpZbWFVIo
乙。
御坂妹がちゃんと引き返す冷静な子でよかった。
549 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/30(日) 04:19:55.49 ID:sjxB39CQ0
追いついたー
美琴はもう少し強くなって欲しいな…精神的に…
550 : ◆LKuWwCMpeE :2011/01/30(日) 22:51:07.48 ID:gS5mDIZDO

「あら、入り口辺りから進んでないわね」

「チッ。能力者とやらがいやがったのか?」

 建物の屋上では、異国の男女がそこから見える病院の玄関口に視線を向けていて、舌打ちをもらした。

「ふふ、あのコ達苦戦している様ね」

その下では彼らが放った異形達がひしめき合っている。
病院の入り口に溜まっている様で中の様子まで伺えはしないが、進まない様子から何か不測の事態が起きている様なのだが。

彼らの顔色に、焦りは無かった。

「まぁこんな事も予想していたけどね」

「出すのか?『あいつ』を」

男が見ているのはもう一つのボストンバック。

チャックこそ閉めてはいたが────中から何かを主張するかの如く、動いている。

「まだね。その能力者ってのがあのコらと戦って、退けていると言う優越感に浸っている時にこのコを向かわせるわ」

女も口角を上げ、ボストンバックに目をやる。

「その時までせいぜい足掻きなって事か。性質悪いな、オマエ」

「味気ない『前菜』を与えればより深く味わえる筈だわ…………」

ボストンバックの外から手を置き、中の感触を楽しむ様に撫でる様に手を動かし。

「絶望と言う名の『メインディッシュ』をね…………!」

勝利と言う甘いデザートを目の前に、異国の男女は不気味に笑っていた。
551 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/01/30(日) 22:52:56.31 ID:gS5mDIZDO

「何、あれ…………」

「あァ?」

「どうしたんだい?」

虚空を見つめていた打ち止めが突然素っ頓狂な声を上げた。

「人が、戦ってる。 …………何かと」

「どォいう事だ?」

「……彼女との感覚共有か。戦闘が起きているのか? いや、何かとは…………?」

ネットワークを繋げ、御坂妹の視覚を共有して打ち止めの脳に届いた映像。
しかし打ち止めには『何か』を表す単語が見つからず言葉を詰まらせていた。

「あれは…………人、なの…………? ううん、動物……?」

「…………チッ。その問題とやらが起きてやがったか。妹はどォした?」

「あ、うん。すぐ戻ってくるってミサカはミサカは後三秒で10032号が到着するって予想してみたり」

「とりあえず無事でよかったよ」

何が起きていたのかは実際に見た御坂妹に聞かねばなるまい。
しかし打ち止めが発した言葉に一方通行は少し嫌な予感がよぎっていた。

──なンでまたいきなりンな所で戦闘が始まってやがンだ?

打ち止めの様子から、入院患者達のイザコザとかそういう類いのものではないと感じられた。
つまり、『戦闘』。
実際にあれだけの音が聞こえてきていたのだ、尋常ではない事態という事は予想していたのだが、打ち止めの言う『何か』は何処か予想以上の事を秘めている様に思ったのだった。

ガチャ────。

「予想だにしない事態でした、とミサカは宣言します」

ドアを開け、再び顔を出した御坂妹に視線が集中した。
御坂妹の様子は少し狼狽気味で、一方通行と木山にも緊張が走っていた。
552 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/01/30(日) 22:54:38.27 ID:gS5mDIZDO

「戦闘が起きていました。戦っていたのはお姉様のストーカー二人、金髪にサングラスを掛けた男性とサラシを巻いた女性です、とミサカは報告します」

それを聞いた時、一方通行は心の中で舌打ちを打った。
やはり、グループの面子が揃っていた。
つまりあの電話は仕事だった事を意味していた。
しかし美琴のストーカーが二人いたと説明され、首を捻る。

一人は分かる。あのアステカのよく分からない男だろう。
なら、もう一人は一体誰なのか。

「…………もしや、白井君、か?」

「そうです、とミサカは肯定します」

「…………誰だ?それは」
聞き慣れない名前に一方通行は顔をしかめた。

「ああ。彼女はジャッジメントの女の子でね。空間移動の使い手だ」

「お姉様を慕う特殊性癖の持ち主でもあります、とミサカは付け加えます」

それでもピンと来ないのか、首を捻ったままなのだがジャッジメントと言う言葉を聞いて一方通行は事態を把握した。
しかし、今はそれよりも重要事項がある。


「で、何と戦ってたと言うンだ?」

グループの仕事の相手だとしたら外からの侵入者、己の欲だけにとらわれた研究者、不穏な動きを見せる者────あの木原を含む者共どれをとっても見た目普通の『人間』だ。
暗部としての今まで通りの標的なら、属してはいないが御坂妹もそこまで狼狽する事はない筈だ。
553 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/01/30(日) 22:55:54.50 ID:gS5mDIZDO


「あれは…………化け物、と言うしかありません」


「化け、物…………?」

反芻する様に木山が呟いた。

「それしか表現する言葉が見当たりません。しかも…………およそ、数は百、以上でしょう」

「………………チッ」

面倒臭い事態になってきやがった、とばかりに舌打ちを打つ。
只でさえやっかいな事態に、更にややこしくされた様な重なる出来事に一方通行は内心舌を巻く。
問題はその化け物が何を狙ってここに来たのか、なのだがとにかく今は冥土帰しの準備が終わるのを待つしかない。

そして────。



「準備は整ったよ」



   刻は来たのだった。
554 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/01/30(日) 22:56:52.30 ID:gS5mDIZDO

「せいっ!!」

異形を土御門が殴り倒す。
倒れ伏した異形を見て、次の異形に飛び掛かる。

床に転がる異形の数はようやく数十くらいなものなのだが、まだ半数以上は残っている。

「はぁ…………はぁ…………っ!」

しかし土御門は疲労が溜まっていきていた。
並の攻撃は通用しない上、数も多い。

「はっ!」

隣の海原も懸命にナイフを振るい、確実に倒していくのだが彼にも疲労が伺える。

黒子も結標もかなりの数の空間移動を多用している為、只でさえ難しい演算に辟易している。

「こりゃ……終わらない、ぜい……!」

呟きながら喉頭隆起に拳を撃ち込み、異形を倒す。
しかしその言葉通り、まだかなりの数の異形が残っているのだ。

状況は、厳しい。

重火器でも使いたい気分なのだが、手元には無い。
しかもここには民間人達も多くいる為、使おうにも使えないのだ。

「もっと真面目に能力開発しとくべきだったぜい……!」

愚痴でも吐きたい状況だった。
その時、犬型の異形が飛び掛かった────!

「ぐあっ!」

疲労からか、足が上手く動かず腕に異形の歯が食い込んだ。
555 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/01/30(日) 22:57:39.54 ID:gS5mDIZDO

「土御門さん!?」

海原が叫ぶ。彼も手助けに向かおうとしたのだが、途中で異形の伸びた腕がそれを制止させる。

「くっ…………!」

それを何とか横にかわし首に一閃、頸動脈をかき斬った。

黒子も結標も自身に向かってくる異形への対処の為、土御門を援護する事は出来ない。

「調子に…………」

土御門が腕に力を溜める。
「乗るなッ!!」

いまだに噛み付いて離さない犬型の異形の腹にもう片方の拳をぶち込み、異形を引き離した。

「ギャンッ!!」

「大丈夫ですか!?」

自身の腕からダラダラ流れ出す血に、土御門は舌打ちをした。

「…………右腕がやられちまった」

深い所まで食い込んだ様だ。
痛みで力を込める事が出来なくなってしまっていた。

「ちょっと大丈夫なの!?」

ここで土御門が戦線離脱するとなると更に戦況はぐっと悪くなる。
やっと半分くらいになってきたのだが、結局は半分だ。
疲労が重なる毎にまだまだこれからもっと厳しくなるのだ。
556 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/01/30(日) 22:58:24.57 ID:gS5mDIZDO

「大丈夫だ、問題ない!」

それを分かっているからこそ、今ここで離脱する訳にはいかない。
利き腕一本の負傷というハンデは果てしなく大きいのだが、引けはしないのだ。

「しかし、その怪我では……」

横目で黒子が心配の表情を見せた。

「心配するな、嬢ちゃん。俺はやる時はやる男なんだぜい」

──…………カミやんなら、この状況でも諦めたりしないんだぜい。

恐らくいまだに眠り続けているだろう親友の姿を思い浮かべ、土御門は体勢を整えた。

今まで散々上条には助けられた。
悲しい結末を迎える筈だったインデックスの記憶。
ローマ正教に牙を剥かれたイギリス清教。
どれも過酷な状況の中で自身がどんな負傷を負おうが、上条は立ち上がった。

大切なものを守る為────土御門にも、それはある。

「気を引き締めろ、来るぞ!」









「ハーイ、大分威勢がいいのね」

突然この場に響いた声。
四人の視線が、姿を現した異国の女に集中した。
557 : ◆LKuWwCMpeE :2011/01/30(日) 22:59:23.41 ID:gS5mDIZDO
ごめん短いけど今日はここまで
また次回!
558 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/30(日) 23:01:58.87 ID:M86vdacN0
おかえりなさい
明日があるから無理しないでね
559 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/30(日) 23:05:08.15 ID:M86vdacN0
>>558です
おわりましたか ミスりました
毎日お疲れさまです
560 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/31(月) 00:01:42.97 ID:kl1iWPeuo
561 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/31(月) 00:12:18.79 ID:Bwovh4dCo
乙〜
続き待ってます!
562 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/31(月) 00:30:05.29 ID:gwsl74+50
乙。次回も楽しみ
563 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/31(月) 00:48:16.62 ID:AxxFWLqAO


ちょっと土御門さんがぜいぜい言いすぎな気がするにゃー
564 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/31(月) 01:21:41.38 ID:v++LxbrB0
>>566
一行目はあのネタか?

何はともあれ乙
565 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/31(月) 01:50:21.69 ID:1qDdOA67o
>>564
どのネタだ

566 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/31(月) 02:49:11.76 ID:xim5huzBo
エルシャd
567 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/31(月) 05:07:39.00 ID:wRc8DAFao
>>566
そんなネタで大丈夫か?
568 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/31(月) 06:43:51.27 ID:UtseynzAO
>>567
私見一、大丈夫じゃない
解一、問題だ
569 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/31(月) 14:45:34.94 ID:EiXQMbwdo
>>568
どんまい
570 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage ]:2011/01/31(月) 17:45:17.32 ID:VTF7G6YR0
 一方通行と上条当麻、御坂美琴が戦えない状況でどうするのか、
上条さんの演算解除が上手くいくのか、禁書ちゃんは大丈夫なのか……
続き楽しみです!!
571 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/31(月) 17:47:52.18 ID:VfBof9Z2o
>>563
表の人間がいるからじゃね?
単に>>1がノリノリで書いてただけかもしれんが
572 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/31(月) 22:48:13.78 ID:rxhvQ1Zdo
>>570
垣根がいないと仮定すると学園都市サイドでの戦力トップ級の三人だからなぁ・・・
どうなってしまうのか手に汗握るは・・・
573 : ◆LKuWwCMpeE :2011/01/31(月) 23:09:13.04 ID:IErFwi6DO

「では、もう一度手順を説明するよ」

「はい」

「うん!」

「ああ」

「………………」

冥土帰しの言葉にそれぞれの返事をし、手順を確認する。

「まずは木山君だ。彼の脳波を確認してほしい」

「了解した」

「次に一方通行。君は彼のAIM拡散力場を解析して、操作してほしい」

「………………」

言葉を返さずに冥土帰しに視線で答える。
そんな彼の性格を分かっている冥土帰しは続ける。

「最後に君達だ。このチョーカーにはもう君達のネットワークに繋いであるから合図を出したら開始してほしい」

「はい、とミサカは返事をします」

「うん!ってミサカもミサカも頷いてみるっ」

微笑ましく思ったのか、彼女達に優しく冥土帰しは微笑むとすぐさま表情を戻し、席を立ち上がった。

「よし、行こう」

そして五人は、上条の眠る治療室へと向かった。
574 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/01/31(月) 23:10:15.80 ID:IErFwi6DO

「…………誰だ?」

土御門が冷たい視線を浴びせる。
目の前にいる女が現れた瞬間、異形の攻撃は止まっていた。
恐らく女は異形の仲間、いや、司令官といった所か。

「答える義務はないんだけどー……ま、いいか」

女は面倒臭そうに前髪を掻き分け、馬型の異形の背中を叩く。

「このコ達の親代わりみたいなものね」

「狙いは何だ?」

そんな事は知っていると言わんばかりに土御門は続ける。
痛む右腕を左手で押さえ、その額には脂汗が滲んでいた。

「あら、つれない男。あなたは知っているかしら? ネクロノミコン、エイボンの書、ナコト写本、イステの歌、断罪の書…………」

その言葉に黒子と結標の顔は怪訝な表情を浮かべるのだが、土御門と海原の二人の肩がビクッと揺れた。

「…………『禁書』、か」

「あら、あなた見た目よりも博識なのね。それを知っているって事は『こちら側』の人間なのかしら?」

土御門の答えに嬉しそうに女は笑みを浮かべた。
女が口に出したのは、どれも閲覧禁止とされた『魔導書』。
そのどれも一つ一つ、見るものが見れば発狂、精神崩壊してしまう程の異世界の法則が書かれた『毒』の書物だ。

──やはり『禁書目録』が狙いだったか。

そしてそのありとあらゆる書物を一字一句違わず、完全に保持している禁書目録──インデックス。

「ふふ、それともただの神話好きなのかしらね」

「あなたの狙いは分かりました。しかし、これは一体何なのですか?」

土御門と同じく事態を把握したのか、海原が口を挟んだ。
海原の表現した『これ』。
彼の視線の先には異形達の姿がひしめき合っている。
575 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/01/31(月) 23:11:38.60 ID:IErFwi6DO

「あなたはネクロノミコンの原典を持っているのですか?」

「あら、そこの可愛い男の子も色々知っているのね」

女は更に嬉しそうに一歩前に踏み出て、馬型の異形の顔を優しげに撫でた。
黒子と結標の二人は何を話しているのかは分からない。
ただ、その会話の行方を見つめていた。

「持ってないわ。このコ達はね、ちゃんと『生きてる』わ」

海原の口に出したネクロノミコン。
世間一般には架空のものとされているのだが、実際にインデックスの脳には刻み込まれている、死者蘇生の可能性をも持つ最大級の魔導書だ。
それだけに留まらず、様々な事象を引き起こすと言われるその魔導書なのだが、故に制御が困難であった。

しかしこの異形達はまるで屍に生命を吹き込んだかの様な姿だ。

「おや、予想が外れましたね」

残念です、と付け加えながらも戦闘体勢は崩していない。

「ふふ、このコ達はね? ……そちらの学園都市が生み出した様なものよ」

「…………どういう事だ?」

女の回りくどい言い方に、さっさと吐けと言わんばかりに土御門は眉間に皺を寄せた。
女はほくそ笑んでいて、さも楽しんでいるかの様に更に口を開いた。



「そっち、『実験』でやったんでしょ?」



「…………! な…………まさか…………!」

実験。
その言葉を聞き土御門の目が見開かれた。
576 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/01/31(月) 23:13:41.41 ID:IErFwi6DO

「どういう事なんですの!?」

痺れを切らしたか、黒子が叫ぶ。
必要とあらば、と拘束具を手にしていたのだが。




「そっちの第三位の超電磁砲ってコと同じよ。こっちは適当なDNAを拾って使っただけだけどね」



「クローン、か…………!」


「当たり!」



「え………………?」

ジャランと言う音を立て、拘束具は地面に落ちていた。
577 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/01/31(月) 23:14:47.52 ID:IErFwi6DO

「クローン…………?」

クローン。
遺伝子レベルでの同一の個体。
耳にした事はあっても日常生活の中で使われる事はほぼ無い。

一瞬何を言っているのかが分からなかった。
いや、ある一つの単語が黒子を混乱させてしまっていた。

「超電磁砲って…………お姉様、なんですの…………?」

クローンと美琴。
これが何を指しているのか。
黒子は完全能力進化実験も知らなければ、一方通行も知らない。美琴の妹達の事も知らなかったのだ。

海原はもちろん、結標も小耳に挟んだ程度でその事は知っていた。

「あら、オフレコだったのかしら。ま、そっちの事は知らないしね」

『表』側の人間なら知る由もない話だ。
女の口から告げられた事実に黒子はただ呆然としていた。

「そっちのある研究者とこっちは繋がっていてね。造り方を教わって『出来た』時は感激したわ」

「『出来た』?これが成功したとでも言うのか?」

土御門の視界には、自我のない異形の姿が映っている。
姿は人間、動物とは程遠い醜いもので、軽々しく言う女に沸々と怒りが湧いてきていた。

「ふふ、技術も設備も整わなくて。培養途中で無理やり引きずり出したからね。皮膚や肉の細胞も中途半端に形成されたままだけど、そっちの方があなた達も心が痛まないでしょ?」

学園都市の科学力は世界の中でも飛び抜けている。
他が真似しようが、なかなかにそれは困難を極める。
しかしその研究者とやらが中途半端に設備や技術を与え、その結果このクローン、異形達が産み出されてしまったのだ。

「…………最低ね」

結標も侮蔑の表情を女に向ける。
しかし女は全く気にしていない様子で、愉快だと言わんばかりに笑みを浮かべ続けた。
578 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/01/31(月) 23:16:44.00 ID:IErFwi6DO

「ま、プログラムもインストールしてあるし、私の命令には従順なの。使えれば問題ないわ」

「てめぇ…………」

生物を冒涜するかの様な台詞。
土御門は顔を歪ませ、女を思い切り睨み付けた。

「プログラム、とは?」

海原も冷静の様だが、その実、ナイフをギュッと握り締めている。


「『禁書目録』の奪取、及び────」

「………………!」

やはり、狙いは10万3000冊の魔導書だったか、と海原は気付くのだが。

「『幻想殺し』の始末よ」

海原の顔付きが変わった。

「…………『幻想殺し』を始末ですって?」

「あら、そんな怒った顔しちゃって。 あなた『幻想殺し』のお友達なのかしら」

女は海原から発せられた殺気に気付くが、特に構いもしない様子だ。
海原も女の言葉に笑った様に頬を緩めるものの、殺気を解きはしない。

「そんなんじゃありませんよ。少し彼とは、大事な約束を交わしただけです」

「へえ……」

約束────。
それは海原にとって、自身よりも大事な事。
好意を寄せる少女の幸せを願うが故に交わした約束だった。

「それに」

そしてその交わした相手も、只の相手なら許しはしない。
しかし、守る事に正義を抱えどんな状況でも諦めたりはしない男だからこそ。
そういう上条だからこそ。
美琴を託した筈だったのだ。

「あなた程度の人間が彼に勝てるとは思いません」

海原が言い切った瞬間、女の雰囲気が変わった。
579 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/01/31(月) 23:18:00.81 ID:IErFwi6DO

「ま、おしゃべりはここまでよ。見た所、半分くらいは倒してくれた様だけども」

そう言い、女は床に置いてあったボストンバックの側面の部分を、まるでスイッチを押すかのように人差し指で突いた。

「「「「………………!!」」」」

四人は息を飲み、構える。



「地獄を見るがいいわ!!」




すると突然『何か』がボストンバックをバラバラに引きちぎりながら、黒く巨大な姿に瞬く間に変わっていった。
580 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/01/31(月) 23:18:57.91 ID:IErFwi6DO

ガチャ────

「「!!」」

 治療室のドアが開き、美琴とインデックスはバッとその方に視線を向けた。

「入るよ」

「ゲコ太、先生…………? 木山先生も…………」

姿を現したのは冥土帰し、木山。

そして。

「妹に……打ち止め……? …………!!」

最後に入室してきた少年の姿に目が見開かれた。

「一方、通行…………!?」

「………………」

一方通行は美琴が驚くか怒りを露にするかの反応は予想していた様で、特に美琴を視界に入れてはいなかった。

「何しに、来たのよ…………!」

「あれ、この前ご飯食べさせてくれた人?」

「あァ? あン時のシスターか?」

「え?」

インデックスが一方通行の姿に気付くとそんな声を上げ、美琴はインデックスの顔を見た。

「なンでシスターがこンな所にいるンだ?」

「何でって、とうまのお見舞いに決まっているかも!」

「知り合いだったのかよ……」

「「ちょ、ちょっと待って!」」

二人の声が重なった。
581 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/01/31(月) 23:20:06.09 ID:IErFwi6DO

「「ん?」」

声を出したお互いの顔を見る。

「打ち止め?」

「お姉様?」

お互いポカンとしている表情をしていて、首を捻った。
二人の心境は違う。
美琴は一方通行と会っていたインデックスに対する心配。
打ち止めは一方通行とインデックスがどういう仲なのかという心配だった。

「インデックス、どういう事なのよ?」

「私がお腹減っていた時、ご飯食べさせてくれただけなんだよ」

急に振られたインデックスはキョトンとするが、一方通行と会った時の事を思い出して呟いた。

「「本当にそれだけなの!?」」

「うん、そうだけど」

「………………」

再びハモってそれぞれに問い詰める二人。
一方通行は別にどうでもよく、無言を貫いていた。

「さて、悪いけど」

冥土帰しが口を開くと、美琴はハッとなり姿勢を正した。

そうなのだ。
この五人がここに来たという事はただ来た訳ではなく、何か用があって来たに違いない。
しかし、どうしても一方通行がいる事に違和感を覚えてしまう。

いや、違和感だけではない。
焦燥感、危機感やら色々な感情が出てきてしまう。
いくら打ち止めや妹達、インデックスと仲良さそうな場面を見せ付けられても、一方通行は憎むべき仇。
美琴の頭にはどうしてもそれが先行してしまうのだ。

「…………御坂君」

木山が美琴を見ていた。
それに気付き、美琴も木山の方に視線を向けると、木山はそれ以上何も言わずに、ただ頷いただけだった。
582 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/01/31(月) 23:20:56.62 ID:IErFwi6DO

「………………」

それが何を示しているのか。
だが美琴には分かった様な気がしている。
一方通行も、危害を加える為にここに来ている訳ではない。
そもそもそれなら、この面子と共に姿を現す筈はないのだ。

つまり一方通行は、上条を助ける為に来ている────。

上条を見る。
苦しそうに少し顔を歪めているのが痛々しい。
出来る事なら、治してあげたい。
いや、どうしても治したい。
だから。

「今から『治療』を始める。悪いけど二人は、外で待っててくれるかな?」

「…………、はい、分かりました」

「…………分かったんだよ」

いまだに納得いかない部分はあるが、ここは冥土帰しに任せる事にした。
583 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/01/31(月) 23:21:44.53 ID:IErFwi6DO

「木山君。脳波はどうだね?」

「あの時と変わってはいない」

脳波グラフは歪な線を描いている。
あの時と一緒の、並の量ではない脳波だ。

「一方通行。AIM拡散力場の解析を」

「…………」

そして一方通行がチョーカーのスイッチを入れ、手をかざし上条を取り巻くAIM拡散力場を解析する。

「………………っ!」

やはり、予想はしていた。
レベル5級の能力の残滓が漂っている。
それも、一つなどではない。
様々な種類の能力が逆に一方通行を圧迫する。

「…………!」

一方通行の今までに解析した事のないベクトル。
目を瞑り、五感の全てを演算に集中させる。
汗が頬を伝った。

──……よし、解析完了だ。

一人の人間が包むには大きすぎる程の量の能力だ。
それを解析するという事はそれ相応の負担が一方通行にも掛かるのだが、やはり学園都市第一位だ。
順調にクリアしていったのだが。

「ぐ………………!?」

「「「一方通行!?」」」

そして、そのベクトルを操作し、彼から切り離す。
それは解析よりも、更なる負荷が掛かるのだ。
呻き声を上げた様な一方通行に、木山、御坂妹、打ち止めの三人が心配の色を込める。

「彼なら、出来る筈だよ」

しかし冥土帰しの一方通行を信じているという様な言葉に、一方通行に詰め寄ろうとした三人もグッと堪え視線で一方通行を援護する。
584 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/01/31(月) 23:22:27.97 ID:IErFwi6DO

──ンにゃろォ…………! とンでもねェ力だ……!

一方通行の頭では嘗てないほどの演算がなされている。
生半可なものではないその力に、一方通行も苦しそうに顔を歪めていた。

──だがよォ…………! 第一位を嘗めンじゃねェぜ…………!

しかし。
彼の孤高のプライド、そしてそれを実証する彼の能力が己を更に高みへと向かわせる。

──俺に不可能なンざ…………ねェ!!

そして上条から、能力を引き剥がしていった。

「…………完了、だ」

「よし! ではチョーカーを装着させるよ。演算代理解除の準備はいいかい?」

「うん!」

「はい!」

一方通行の役割の行方を見守っていた打ち止め、御坂妹は完了したのを見届けると、笑顔で返事をした。
585 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/01/31(月) 23:23:46.40 ID:IErFwi6DO

「あの白い人とみことって知り合いだったの?」

治療室の前の長椅子で美琴とインデックスが並んで座っていた。

「…………知り合いって言うか…………」

実験の事は中々口に出して言える事ではない。
美琴の中で一方通行はいまだあくまで敵でしかないのだ。

「あの人、悪そうな人には見えないんだけどな」

そんな美琴の心境が分かっていたのかは知らないが、インデックスはそう呟いた。

「………………」

それは、何となく────。

美琴も分かってきていた。
打ち止めと御坂妹とのやり取り、インデックスの言う一方通行の印象。

そして何よりも、一方通行の打ち止めを見る目。
まるで大切なものを見るかの様な彼の目は、悪などではないのだ。
前は聞きそびれた一方通行と打ち止めの間に起きた出来事。
それがどんな事かは美琴は知らないのだが、今こうして打ち止めと一方通行は共にいる。

「…………本当は悪くないのかもね」

「ご飯を食べさせてくれる人に悪い人はいないんだよ」

その事実と、隣に座るインデックス。
何故だろう、少し心が軽くなっている様な気がした。

…………そして。









「『治療』完了だ。もう大丈夫だよ」


「ホントっ!? よかったよ!」

「! …………よかった……! 本当に……! …………グスッ」

更なる希望の光が、未来を眩しく照らし出した様な気がした。
586 : ◆LKuWwCMpeE :2011/01/31(月) 23:24:41.86 ID:IErFwi6DO
ここまで
また明日!
587 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/31(月) 23:29:27.99 ID:YpZZtvXro
おおおおおお
588 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/31(月) 23:38:47.93 ID:ccMpzg2go
乙!
589 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/31(月) 23:39:38.28 ID:AxxFWLqAO
>>571
にゃーも使って欲しいなって思っただけwwww
590 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/31(月) 23:40:43.77 ID:oelZ1xCJo
今から今日の分読む

その前に>>1
591 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/01(火) 00:53:55.06 ID:sSerPgdQ0
乙! 良かったね…美琴たん
592 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/01(火) 00:54:54.53 ID:sSerPgdQ0
乙! 良かったね…美琴たん
593 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage ]:2011/02/01(火) 11:10:35.47 ID:HeaJtAGT0
 みんなよかったね……
さァてとォ、クソ魔術師をスクラップにする時間だぜェ!!
594 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/01(火) 11:38:37.10 ID:0aR4InQso
でもこれって根本的な解決には遠いんだよな。
幻想殺しで打ち消すたびに蓄積されるダメージにカウンターを入れる
ってことは、デタラメな出力や理解不能な能力を打ち消すたびに妹達に
高負荷がかかりつづける。
常時スイッチ入れられないからエンゼルフォールみたいな長時間さらされ
続けるタイプのものだと電池切れでアウト。

一方通行も上条も激しい戦いから逃れることは出来ない
妹達が二人のための代理演算をやめるわけもない

どうなっていくかますます今後が楽しみ。
595 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/01(火) 20:41:07.82 ID:5ZHMQcIJo
一巻クライマックス、
インデックス自動防衛の時の記憶消去応用できたら何とかならないか?
596 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/01(火) 22:36:33.87 ID:0VaD50qQo
>>595
上条さんにはそういう類の魔術効かないんじゃね?



あとこれから先は>>1の迷惑になりそうだしやめたほうがいいのでは?
597 : ◆LKuWwCMpeE :2011/02/01(火) 22:38:39.78 ID:YlFjMlFDO

「「当麻(とうま)!」」

勢いよく治療室の扉が開き、二人の少女が再び姿を現した。

いまだに呼吸器は付けてはいるが、心なしか顔が楽になって、ただ眠っている様にも見えた。

「まだ寝ているんだ。騒いではいけない」

「あ、ごめんなさい…………」

元気良く入ってきた二人を見ると木山が騒がしくしていた事を咎めるのだが、そんな彼女もすぐに表情を緩ませていた。

「これは…………?」

美琴が上条の首に装着しているチョーカーに気が付くと、冥土帰しを見た。

「うん。これはね、シスターズのネットワークの力を使って彼の脳に侵入する脳波を遮断する為の物なんだ」

それを聞くと打ち止めと御坂妹の方を見た。

「もう演算代理解除始まってるよってミサカはミサカは説明してみたりっ」

「順調にいってますとミサカはある意味であの人の一部になれた事を喜びます」

誉めて誉めてと言わんばかりにその場でピョンと飛び跳ね、彼女の癖毛をピコピコ揺らしていた。
少し御坂妹の言い方に眉がつり上がったのだが。

「うん、始まってから脳波の量も減少してきている。そろそろ正常の数値に戻る所だよ」

木山もモニターを確認しながら続けた。ギザギザだった歪な曲線が今ではゆったりとした線になってきている。

「でも、根本的な部分が治った訳ではないからね。これから研究して治療法を探すよ」

そうだ。
木山の言葉通り、完全に治った訳ではない。
あくまでの一時しのぎなのだ。
598 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/02/01(火) 22:39:53.30 ID:YlFjMlFDO

「………………」

その事実が少しまた美琴の心に憂いを込めさせるのだが。

「……だが、すぐに見つけてみせるさ」

木山の力強い言葉に美琴も頷く。
彼を助けようとするのは一人だけではない。
皆で支え合っていけばいいのだ。

「あの人がいたから成功したんだよ!それにこの人に付けているのはあの人のと色違いなんだよってミサカはミサカは確認してみた……り…………ってあれ?」

打ち止めがそこで一方通行がいた場所に目を向けたのだが。

「セロリがいなくなりましたね、とミサカは報告します」

「あれ?さっきまでいた筈なのだが」

一同、突然にいなくなった一方通行に驚いていた様子だった。

「コーヒーでも飲みに行ったのかなってミサカはミサカは予想してみる」

美琴の手を握り、ぶんぶん振り回しながら打ち止めは楽しそうにしていた。

「…………後でお礼でも言っておかなくちゃね」

扉を見つめ、美琴は複雑な気分ながらもそう呟いていた。

「とうまー、早く起きるんだよ。起きたらたくさんご飯食べるんだよ」

「この人の分まで食べないで下さいね、とミサカは忠告します」

ふと上条の眠るベッドの方からそんな声がしたもんだからそっちの方に目を向けると。

「ちょ、アンタ逹!何してんのよ!!」

何故か上条のベッドの上に添い寝をする様な形で左右に寝そべるインデックスと御坂妹を見て美琴は叫ぶ。
木山は溜め息、冥土帰しは苦笑いを浮かべていた。

「そこは私の定位置なんだから! …………って私は何を言ってるのよ!///」

「わっ、お姉様過激な発言だってミサカはミサカはニヤニヤしちゃう」

ギャーギャー叫ぶ集団。
いつもの彼女逹の姿が戻ってきていた。










「………………!!」

上条のいた部屋を後にしていた一方通行は『戦闘』の起きている場所に向かったのだが、そこで見た光景に一方通行の目が見開いていた。
599 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/02/01(火) 22:41:36.12 ID:YlFjMlFDO

「さぁ……食事の時間よ!」

女がその言葉を吐いた瞬間、場の空気は騒然となった。

「何だよ…………あれ…………」

「うくっ…………!」

 土御門が信じられない光景を見ているかの様に呟き、黒子は吐きそうになる口を咄嗟に押さえた。
傍観していた民間人逹からも悲鳴や嘔吐している様な声が上がった。

「グガアアアッッッ!!」
「グワァァッッ!?」


ボストンバックを中から引き裂き、出てきたより一際大きな異形は、女の合図と共に仲間である筈の異形逹を──────喰らい始めていた。


「化け物以外の何者でもないわね…………」

結標も必死に吐き気を抑えている様子をその表情が語っていた。

正に阿鼻叫喚。地獄絵図もいいところだった。

「あら、何処がおかしいのかしらね? あなた逹も食べるでしょ? お肉くらい」

愉快に顔を歪め、女は嘲笑う。この光景をさも当たり前かと言う様な言葉だった。

大きな口を開け、獰猛な牙を剥き出しにする。
腕を引きちぎりむしゃぶりつく。
ほぼ一瞬の内に異形一体、一噛みで飲み込んでしまっていた。

「…………身体が……!?」

そして『食事』が進む度に肥大化していく異形の身体。
海原も驚き、そして嫌悪感を顕にしている。

「グガアアッッ!!」


そして一瞬の内に、数十匹いた異形を全て食い尽くしてしまった────。


「!! マズイ、来るぞ!」

そして食事が終わった瞬間、異形の視線はこちらを向く。
600 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/02/01(火) 22:42:47.66 ID:YlFjMlFDO

「結標!」

「あぐっ!?」

土御門が叫んだ瞬間、結標の身体は空を舞っていた。

「速いッ!?」

文字通り、一瞬だったのだ。
結標は壁に激突し、動かなくなる。

──喰われてしまう!?

あれだけの光景を見せ付けられて、そう予想した海原も異形に飛び掛かった。

「ヌガアッッ!!」

「ぐはっ!!」

しかし、飛び掛かってきた海原を裏を見ずに裏拳の様に腕を振るい殴り飛ばした。

「海原っ!」

「海原さん!」

土御門と黒子の叫び声がこだました。

「ヌグゥゥゥ?」

その声に反応するかの様に土御門に視線を向ける。

「ぐほっ!!」

来る!と体勢を整える前に異形の突進にて土御門の身体はまるで玩具の様に回転しながら飛んだ。

「あはははは!! どう!? 一味違うでしょう!?」

女の笑い声が響き渡る。

黒子の足は震えていた。
一瞬の内にあの三人がやられてしまったのだ。
仲間────とも言うべきか、今まで共闘していた傍から見ても相当な戦闘力を持っている三人が、一瞬だ。

「さすがのあなた逹もこのコの前では為す術無しみたいね!」

そして異形は、黒子の前に立ちはだかっていった。
601 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/02/01(火) 22:44:20.41 ID:YlFjMlFDO

 一方通行の目の前には、異国の女がいた。
周りには夥しい数の見た事のない生物の様なものの屍。
その中に土御門、海原、結標が地面に倒れ伏している光景が映っていた。

「…………うぐっ……」

そして女の横には、首根っこを掴まれている黒子の姿がある。

「…………チッ。何が起こってやがンだ?」

「あ…………一方、通行……か…………」

地面に倒れている土御門からかすれた様な声が届いた。その上では激突したのか、壁にヒビが入っている。
彼からも大量の出血が見られた。

「あら、あなたは」

女が一方通行の顔を確認するや否や、何かを思い出した様に呟いた。

「白髪に、赤い目…………もしかして第一位さんかしら?」

「あァン? 誰だテメェは?」

いつでもスイッチを入れれる様に、首のチョーカーに手を掛け臨戦態勢を取る。
目の前の女が何者かは知らないが、状況を見る限り十中八九、敵だ。

──チッ、残り五分くらいしか残ってねェか。

先ほど能力を行使したばかりだ。
電池も残り少なくなってきていた。

「もっとゴツい男かと思ったら全然違ったわね。イケメンじゃない。目付き悪いけど」

一方通行の容姿がイメージと反していた様で、驚いた表情を顔に貼り付けながらも笑っている。

「うっせェ。聞きたい事はンな事じゃねェ」

そんな女の言葉を投げ捨てる様に舌打ちを打つ。
苛立ちが沸き上がってくる様だった。

「テメェは誰だ。それとコイツらは何なンだ?」

「あなたもつれないわね」

ハァと溜め息を吐きながら前髪を掻き分ける仕草を見せた。
また説明しなきゃいけないの?とでも言いたい様な表情だ。
602 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/02/01(火) 22:45:37.85 ID:YlFjMlFDO

「ま、このコ逹はあなたにも縁のあるもの、とでも言っておこうかしらね」

「あァン?」

何言ってやがると言う目できつく睨み付けた。

「もう面倒臭いからいいわ。それよりもそこをどいてくれないかしら? もし邪魔をすると言うのなら」

女が一歩前に踏み出る。

「…………どォすンだ?」

「こうするわね」



「あぐっ…………ぐ…………!」



一際巨大な身体の異形に首根っこを掴まれていた黒子が呻き声を上げた。

「………………チッ」

あの少女が先ほど木山が言った白井という少女なのだろうか。

──チッ。ジャッジメントだが何だか知らねェが下手に首突っ込みやがって。

以前までの一方通行なら迷わず人質など切り捨てた。
しかし打ち止めと出会い、守るべきものというものが出来てから一方通行の気持ちも変わっていった。

 自身は一流の悪党だ。
『表』の人間を『裏』に巻き込もうとする三流以下のやり方には怒りが沸く。
ましてやその人質は自身が苦しめてしまった妹逹のオリジナル、美琴の親友とも聞いた。

──…………クソッタレ。

芽生えた優しさが甘えとも感じる事は少しはある。
しかし打ち止めと過ごしてきた生活。
それは陽の光を知らなかった一方通行を照らしてくれていた様でもあった。
603 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/02/01(火) 22:46:55.00 ID:YlFjMlFDO

それを知った一方通行だからこそ、守りたいものが出来た。
人の気持ちが少しは理解できる様になった。
元々は他人を下手に傷付けぬ様にあの実験を通しレベル6へと上がろうとしていた一方通行だ。
自身をどんなに蔑もうが、打ち止めから見ればヒーローの様なものだったのだった。

──さて、どォ出るか。

考える。
黒子を傷付けず、化け物を倒す方法を。
横を見る。
倒れている海原の手が、少し動く。


一方通行は、心の中でニヤリと笑った。


「と言う訳で、どいてくれないかしら? 早く幻想殺しを始末しておきたいの。放っておいても死ぬらしいんだけどね」

「あァ。その前に一個質問いいかァ?」

「何かしら?」

歩み出た女と黒子を掴んでいる異形を見て、一方通行は道を空ける様に横に歩いた。

「幻想殺しが無事だったらどォすンだ?」

「…………何ですって?」

ピクリ。
女と異形が歩みを止め、一方通行に視線を向けた。

「どういう意味?」

女の表情が一変したのが面白いのか、一方通行は顔に手を当てて笑った。

「クカカ! 言葉通りの意味だァ! で、どォすンだよ?」

「何が可笑しいッ!」

憤怒を表し、女の叫び声が響き渡った。
手を首元に下げ、指をチョーカーに掛ける。

604 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/02/01(火) 22:48:58.44 ID:YlFjMlFDO

「残念だったなァ」


「………………まさか!」


スイッチを入れる。


「三下は…………無事でしたってかァ!!」


そして、海原の手元に転がっていた『何か』を蹴り飛ばした。

 ベクトル操作。
運動量、熱量、光、電気量など、あらゆるベクトルを思い通りに操作する一方通行の能力。
上条との戦闘の際、工事現場の建築用の鉄骨でさえも任意に操作した彼だ。


『ナイフ』の運動エネルギーを操作する事など、造作もない。


「なっ!?」

「グヲオオオォォォッッ!!」


ナイフは放物線なのではない綺麗な直線を飛び、黒子を掴んでいた異形の腕を切り飛ばした。


ヒュン────!

そして一方通行は一瞬で異形と女の間に移動すると、黒子を蹴り飛ばす。
しかし黒子の身には、ベクトル操作で痛みも衝撃も何もなくソファーにふわっと下ろされた様な感覚だけだった。

「え…………っ?」

一方通行の両隣には女と片腕を無くした異形が隣接している様に立っているだけ。

「クカッ!クカカカカカカッッ!!」

女の驚愕の顔が相当愉快だったのか、一方通行は笑いを抑えきれない様子で笑っていた。

「なっ…………! そんな、まさか……!」

人間業では到底出来うる事ではない事を一瞬でやってのけた一方通行に女は言葉を失っていた。

「オマエさ」

「ウガアアアァァァッ!!」

痛みと怨みみたいなものからか、一方通行の倍以上はある大きさの異形から繰り出される引っ掻き。
しかしそれに対して一方通行は背を向け立ったままだ。

「嘗めてンじゃねェぞ」
605 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/02/01(火) 22:50:17.26 ID:YlFjMlFDO

「グガアアッッ!?」

一方通行に触れた瞬間、逆に吹き飛んだのは異形の方だった。
吹き飛んだ異形は壁に激突し、壁さえも崩して貫き瓦礫の中に埋もれた。

「そ、そんな…………私の、最高傑作、が…………」

それを見た女は知らずの内に膝を付いていた。









しかし、俯いた表情の女の顔を一方通行は見てはいなかった。
606 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/02/01(火) 22:51:17.44 ID:YlFjMlFDO

「さてとォ、コイツをどう料理してやりますかァ?」

座り込み、俯いている女を一方通行は上から見下ろしていた。
異形の方にも気を向けるが、動く気配は無い。

「爪でも剥いでやるかァ? それとも顔でも炙ってみるかァ?」

ニヤリと笑う一方通行。
彼は敵と判断した相手には必要以上に冷酷だった。

「お待ちになって下さいの!」

「あァ?」

女の頭でも踏んでやろうかと足を上げようとしたのだが、声が掛かり一方通行は動きを止めた。

見ると黒子が手に拘束具を持ち、立ち上がっていた。

「ご助勢、感謝ですの。そこの者はジャッジメントが拘束します!」

黒子はそう言うと一方通行と女の間に立ち、女の腕を腰まで回すと拘束具を付け始めた。

「………………チッ。そォかい」

一方通行はそれを見ると、詰まらさそうに舌打ちをしたのだが。
内心、あれだけの目にあったのに気丈に振る舞う黒子を感心したりもしていた。

「ジャッジメントの肝は座ってやがンな」

ふぅ、と一息吐いた一方通行は、ソファーに腰を掛け残り時間も僅かになってしまったチョーカーのスイッチを切った。

「聞きたい事があるんですの」

縄をしっかり持ち、携帯を取り出した黒子は電話を掛ける前に一方通行に視線を向ける。

「あなたは、一体…………?」

あれだけの力を持った異形を一方的に追い詰めた一方通行だ、黒子はそれが気になっていた。
レベル4の自分や結標よりも明らかに圧倒的な力を持っている男。
ただ者などではない雰囲気をも醸し出しているのだ。

「さァな?」

答えるのが面倒だと言わんばかりにそれだけ言うと一方通行は黙ってしまった。
607 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/02/01(火) 22:53:00.69 ID:YlFjMlFDO

「ですが…………」

「ンな事よりもそいつを連れてくか、ここにいる連中の手当てが先なンじゃねェのか?」

「…………そうですの」

しかし的を得すぎている一方通行の言葉に黒子は黙ってしまった。
携帯を操作し、アンチスキルに連絡を入れようとしたが。

「嬢ちゃん、待ってくれい」

何とか身を起こし、身体が痛むのを見ても分かる程ゆっくり立ち上がる土御門の姿があった。

「ご無事なんですの!?」

意識がある事に安堵したのか、土御門を見て黒子は声を上げた。

「ああ、何とかな。一方通行も、助かったぜ」

「………………ふン」

別にテメェを助けた訳じゃねェんだがな、とでも言う風な視線を土御門に向けるが、土御門は分かっていた様で気にはしていない。

「…………そこの女に聞きたい事がある」


「聞きたい事、とは……?」

いまだ俯いている様子の女に目を向け、黒子は反芻した。



「もう一人は何処だ?」



「もう、一人…………?」

「チッ。まだいやがンのか」

土御門の言葉に黒子と一方通行は反応した。
女は動かない。俯いたままだ。
608 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/02/01(火) 22:53:43.70 ID:YlFjMlFDO

「お前逹は二人という情報は掴んでいるんだ。何処だ?」

低い冷たい声色にして尋問する様に問い質す。

 情報によれば、侵入者は二人の筈。しかし姿を現しているのはこの女一人だけだ。

「それって…………」



「ククク…………」

突然、女から笑い声が響いた。

「…………!?」

黒子は更に強く縄を縛り、一方通行は首元のチョーカーに再び手を掛けた。

「あはは!! 今頃どうしているかしらね!?」

「…………何?」

突然俯いていた顔を上げ、歪ませていた顔を見せた。
その顔は…………計画通り、と言わんばかりだった。

「よく二人いるって掴んだわね。まぁいいわ。どうする?」

「何がですのっ!?」

黒子も女の様子を怪訝に思いながら離さない様、注意深く縄を握り締めた。



「もう一人が、既に幻想殺しの元に向かっていたとしたら、よ!」



「何だと…………?」

一方通行の声が場に響いていた。
609 : ◆LKuWwCMpeE :2011/02/01(火) 22:54:37.27 ID:YlFjMlFDO
今日はここまで
また次回!
610 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/01(火) 22:56:17.29 ID:GncvOw7U0
おやすみなさい
611 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/01(火) 22:58:29.70 ID:5QxnlUaco
王です
612 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/01(火) 22:59:01.31 ID:5QxnlUaco
貞治じゃなかった

乙です
613 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/01(火) 23:02:29.66 ID:TBBWH+mWo
乙〜
続き待ってます!
614 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/02(水) 01:39:40.80 ID:+mEFijmI0
乙!
615 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/02(水) 02:39:24.17 ID:nLbtm8hAO
名探偵かみやんではなかったのか
616 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage ]:2011/02/02(水) 11:23:46.49 ID:VM9xNj1R0
 乙です〜!!
面白くなってきたぜ!
617 : ◆LKuWwCMpeE :2011/02/02(水) 22:44:08.13 ID:vnRLT0pDO

コンコン────。

 治療室の扉をノックする音が響いた。

「あの人、帰ってきたのかなってミサカはミサカは迎えに行ってみるっ」

打ち止めが元気よく言うと、扉に向かう。

「…………ノックをする様な人でしたっけ?とミサカは疑問に思います」

御坂妹がそう言い切る前に打ち止めは扉を開け、外にいた人物を迎え入れてしまった。

 姿を現したのは、学園都市内ではほぼ見かける事の無い異国の者、大柄の男だった。

「どうも」

「えっと、誰かな?ってミサカはミサカは見知らぬ外人さんに戸惑ってみたり」

金色の中の金色と言う程の明るい髪色をした体格の良い男が中に入ってくる。

「…………っ!? 打ち止め!?」


「え──────」


突然に打ち止めは後ろから羽交い締めされ、美琴の叫び声が響き渡った。

618 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/02/02(水) 22:45:39.91 ID:vnRLT0pDO


「全員動くな!!」


突然の男の怒号に、この場にいた全員に戦慄が走る。
突然の事態に、誰一人として動く事が出来なかった。

「そうだ。大人しくしていれば君逹には何もしやしないよ」

そしてインデックスの姿を見るや否や、男の顔が凶悪に歪む。
男と視線が合ったインデックスはビクッと肩を揺らし、怯える表情を見せた。

「ここにいたか。『禁書目録』」

「………………!?」

「イン、デックス……?」

インデックスはこの男の正体が何者かを察する。
自身の頭の中に宿す、10万3000冊の魔導書。それを狙ってきた……魔術師だ。

「丁度『幻想殺し』といたとは運がいい」

「と、とうまをどうする気なの!?」

『幻想殺し』というワードを聞いて、美琴の肩が揺れた。

「な、何なのよ、アンタは…………!?」

上条の眠るベッドとインデックスを後ろにして一歩前に出る。
いつもなら電撃を宿している所なのだが、男の手に打ち止めが掴まれていて、更に状況的に上条を繋いでいる医療器具の事もある。
下手に動けはしなかった。

「『幻想殺し』をどうするかって? 始末するに決まってる」

「え…………?」

「な…………!!」

男の言葉に全員息を飲む。
特に美琴、インデックス、御坂妹の三人の心臓がバクッと鼓動を打った。
619 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/02/02(水) 22:46:30.56 ID:vnRLT0pDO

「な、何でよ…………!?」

「何故かって? 俺達の計画の邪魔になるからに決まっているからだ」

「計画って何よッ!」

「お前逹に言う必要はない。邪魔だ!」

「ぐふっ!?」

上条のベッドとインデックスを背に立ちはだかった美琴の腹部に、男のブーツの先端がめり込んだ。

「みこと!!」

「お姉様!」

「御坂君!」

蹴り飛ばされた美琴は上条のベッドに激突し、崩れ落ちてしまう。
インデックスと御坂妹、木山の悲壮の叫び声がこだました。

「うぐ…………っ、けほっ……」

痛みから立ち上がる事が出来ずに美琴は蹲る。
インデックスが美琴を介抱しようと駆け寄るのだが、先に男の脚が美琴とインデックスの間に踏み入り、インデックスは立ち往生してしまった。

「………………」

そんな美琴とインデックスを一瞥し、構っている時間など無いとばかりに男は内ポケットから手帳の様な物を取り出し、紙を一枚ちぎって上条に投げ付ける。

「けほっ…………と、当麻、が…………」

男が何をしようとしているのかは分からない。
しかし上条に害を与えるものとだけは美琴は苦しみながらも認識出来た。

しかしここで電気を出す事は出来ない。
一体どうすればいいのかを必死に思案するが、危機的状況と痛みに中々頭が回らなかった。



「────『Del.』」



男がそう呟くと、ひらひら舞っていた紙切れが突如光の矢の様な形になり、意思を持った様に上条の胸を貫かんと飛んだ。
620 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/02/02(水) 22:47:38.25 ID:vnRLT0pDO








「と、当麻あああぁぁぁぁ!!」













「…………よう、クソ魔術師」





眠っていた筈の少年の声が、場に響き渡った。
621 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/02/02(水) 22:48:34.62 ID:vnRLT0pDO

「なっ、何だと…………!?」

上条の突き出した右手が光の矢に触れた瞬間、ただの紙切れに戻る。

「『幻想殺し』、貴様────!?」

「………………おい」

上条が呼吸器を外しながら、ゆっくりと起き上がる。
その様子に男は狼狽した様子を見せた。

「一つだけ聞く」

紙切れを掴んだ右手を深く握り締め、上条は問う。


「美琴に、何をしやがった…………?」


「…………っ!?」

上条のただならぬ様子に男はたじろぐ。
彼の何時もよりも尖った様な口調が、彼の怒りを如実に表していた。


「美琴に、何をしやがったか聞いてんだろうが!!」


上条が紙切れを握り締めていた右手を突き出す。
そしてその右手から、先ほど男が現出させた光の矢が飛び出し、打ち止めを羽交い締めにしていた左腕の肩を抉った────!

「ぐおおっ!?」

激痛から腕を押さえて打ち止めを離してしまい、瞬時に御坂妹が駆け寄り打ち止めを抱き上げた。

「け、けほ……っ……。 当、麻…………?」

「無事か? 御坂」

上条からベッドから出る。
美琴は上条の様子を心配の表情で見つめていたが、彼の逆に気遣う言葉に頷くしか出来なかった。
622 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/02/02(水) 22:50:03.73 ID:vnRLT0pDO

「『幻想殺し』あああアアァァッッ!!」

顔を歪ませた男はポケットに押し込んでいたぬいぐるみの様な物を取り出すと、ぬいぐるみの中から異形が破り出て来る。
たちまち成人男性ほどの大きさに肥大化した人型の異形は牙を剥き出しにし、真っ先に上条に襲い掛かった。

「危ないっ!!」

誰の声だろうか、その声が響いたのだが────。



「ヌガアアアアッッッ!!?」



上条に触れた瞬間、逆方向に飛んでいったのは異形の方だった。



「何ィッ!?」

吹き飛んで来た異形の躰を両手で構え、ぶつかる。

「ぐおおッ!!」

先ほど抉られた左肩から血が吹き出したが、何とか堪え異形と共に男は体勢を整えた。
623 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/02/02(水) 22:51:23.00 ID:vnRLT0pDO

「………………」

そんな異形と男に冷たい視線を送りながら、上条は胸ポケットに入れていた一枚のコインを取り出す。



ピン────。



音を立て、親指で真上にコインを弾いた。



「ま…………、まさか…………」



その行動に真っ先に気付いたのは美琴だった。
続いて御坂妹、木山が気付く。








「超電磁、砲…………?」





美琴が呟いたと共に上条の指から眩い光が一瞬轟いた。



「ウガアアアァァァッッッ!!」

「ぐおおおおっッッ!!」



その閃光は直線を描き、爆音を上げ異形の躰にめり込みながら男共々巨体を吹き飛ばした。
624 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/02/02(水) 22:52:28.26 ID:vnRLT0pDO

 治療室の扉をも吹き飛ばした異形と男が廊下の壁に激突し、ヒビを入れて倒れ込んだ。

視界が霞む程の砂煙を巻き上げたそれは威力の物凄さを示していた。

「と…………当麻……?」

やがて砂煙が晴れ、床に伏す異形と男の姿が確認出来た頃、美琴の声が響いた。

「わり、御坂。技借りちまった」

ポリポリと頬を掻きながら、恥ずかしそうに上条は美琴の方を向く。

「怪我ないか?」

「うん…………私は大丈夫」

「そっか」

「インデックスも無事か?」

「うん…………大丈夫、なんだよ」

美琴の無事が分かると、上条は嬉しそうに微笑む。
美琴の隣にいるインデックスにも目を向けると、彼女も無事な事にホッと一息安堵の表情を見せた。

「上条君…………一体……何が…………」

木山がいまだに驚愕を貼り付け、恐る恐るの様子で上条に尋ねる。
当然だ。
男が放った光の矢をそっくり返し、異形の攻撃を反射させ────。


更には、超電磁砲まで撃った。


「いやー何か出来る様な気がしまして」

とても場の空気に合わない乾いた苦笑いを浮かべ、上条は答えた。
625 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/02/02(水) 22:53:38.89 ID:vnRLT0pDO

 実際、上条自身にも分からなかった。
何故男の魔術を真似る事が出来たのか。
何故反射すると思ったのか。
何故超電磁砲が撃てると思ったのか。
聞かれても、出来る気がしたとしか上条は答える事しか出来ない。

「そ、そうか」

絶対納得していない表情で返事をした木山。
しかし、上条にも説明出来ないのだからしょうがない。

「はは、ははは……」

少し重くなってしまった空気を、上条は申し訳なく感じて場を和ませようと笑ってみせたのだが、効果はあまりないだろう。

「当麻…………」

美琴の呼ぶ声が上条の耳に届く。

「………………」
626 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/02/02(水) 22:54:15.33 ID:vnRLT0pDO

複雑な感情に今、上条はとらわれていた。
あれだけ突き放した美琴が何故ここにいるのかを疑問に思っていた。

 自身の記憶に残った最後の美琴の姿は、あの公園での事だ。
どうしても会いたかった。
話をしたかった。
話を聞きたかった。
探し回って、そしてそこで見た海原との行為。

「………………っ」

思い出しては胸が痛む。
しかし自分が愛する少女の為。身を引こうと決めていたのに。


「当麻…………?」


そんな声で呼ばれたら…………


  揺らいでしまうではないか。






しかし。

「君達、大丈夫か!?」

冥土帰しの叫び声に、上条、美琴、インデックス、木山の四人が振り向いた。
627 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/02/02(水) 22:55:02.21 ID:vnRLT0pDO

「御坂妹!? 打ち止め! どうした!?」

「妹、打ち止め!?」

御坂妹と打ち止めが頭を抱え、苦しそうに蹲っている光景が目に写った。

上条と美琴が駆け寄り、介抱をしようとしたが、御坂妹の手が上条のそれに触れた。

「くっ………だ、大丈夫です、とミサカは、頭を押さえ、ます……」

「頭を押さえるって…………大丈夫じゃねぇじゃねえか!」

「大丈夫だよって…………く、ミサカは、ミサカは言ってみたり」

「打ち止め…………」

御坂妹に止められ、上条は戸惑った様子で握られた手をそのままにしていた。
何かしてあげたいと冥土帰しの方を見たのだが。

「……すぐに、治まる筈だよ」

少し冥土帰しも辛そうに言ったのを見て、上条は視線を御坂妹に戻した。

美琴は打ち止めを抱き抱えていて、額から出た汗を拭っている。
美琴は何故御坂妹や打ち止めが苦しんでいるのかを何となく理解していた。

 恐らく、上条の演算代理解除の影響だろう。
それがどんなに彼女逹に悪影響を及ぼしているのか程度は分からない。

「ひっ、ひっ、ふー……ってミサカは、ミサカは言ってみたり…………」

「バカね…………それ意味違うわよ…………」

でも、こうして打ち止めも心配掛けまいと冗談を言いながら、皆で上条を助けようとして、支えようとしている事が美琴は嬉しかった。

 それは妹逹も勿論同じだ。
今まで上条には助けられ、守られてばかりだった。
あの実験の時に、妹逹の未来を照らしてくれた上条には何一つ恩返し出来ていない気がしていた。
628 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/02/02(水) 22:56:11.87 ID:vnRLT0pDO

だから、こういう形になってしまったとはいえ上条の力になれた事が御坂妹、妹逹はとても嬉しかったのだ。
それた多少苦しかろうが、耐えられる事だった。

やがて苦痛は薄まり、御坂妹と打ち止めは落ち着きを取り戻した。

「もう、大丈夫です、とミサカは心配を掛けてしまった事に申し訳なく思います」

「お、おお…………本当に大丈夫、か?」



「はい。 ……あ…………ソウダ」



「え……?」

実際御坂妹に掛かる負荷は無くなり、大分楽になっていたのだが。

「やっぱりダメです、とミサカはあなたの胸に倒れ込みます」

「おいおい、無茶するなよ…………」

上条からは心配の色はまだまだ取れなく、御坂妹の肩に腕を回した。

しかし──────。



「……………………何してんの? アンタ」



「ひぃっ!?」

ドス黒いオーラを放ち始めた美琴に御坂妹は小さく悲鳴を上げた。

「おい御坂、御坂妹はまだ苦しんでるんだぞ」

そんな様子の美琴に上条も気付き、咎める様に言うのだが。

「打ち止めの様子を見ればアンタももう平気って分かってるのよ。それに生体電気を見ればもうとっても正常そうだしね─────」

打ち止めももう平気な表情をして何々?とインデックスと共にこっちの様子を窺っていた。

「バ、バレてる…………とミサカはふ、震え上がります」

「とっとと離れなさいっ!!」

「ひゃいっ!」

嗚呼、恐怖と言う感情が更に芽生えました、とミサカは心に秘めますーと言った表情で上条からピョンと跳び跳ねたのだった。
629 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/02/02(水) 22:57:38.89 ID:vnRLT0pDO

「で、説明してくれるか?」

取り敢えず納得し、椅子に腰掛けた上条が美琴、御坂妹、打ち止めに視線を寄せた。
インデックスは上条の横にちょこんと座っている。

「僕から説明するよ」

上条を繋いでいた機械を操作しながら、冥土帰しが口を開いた。

「…………はい」

真剣な表情をして、冥土帰しを見る。

自身の身体に何が起きたのか。
自身が意識を失ってから何が起きたのか。
恐らく妹逹が苦しんだのと意識を失っていた自分が回復したのは関係あるのだろうと直感が告げていた。

「君にはある装置を付けておいたよ。首にね」

その言葉を聞くと、上条は自身の首元に手をやった。

「これは…………」

「チョーカーだよ」

意識するまで気付かなかったが、首輪の様な物が付けられている事に気が付いた。

木山から手鏡を渡され、自身の首元を見る。
深紅の綺麗な色をしたチョーカーが掛けられていた。

「これが、何か…………」

「それにはね。シスターズの脳波ネットワークが繋がれているんだよ」

「え…………?」

御坂妹と打ち止めを見る。
二人は上条に頷いて見せた。

「上条君の脳波を見てみれば、常人では考えられない程の脳波の量が検出されてね」

「それは、つまり…………」

「うん。能力者逹の脳波が、君の脳に入り込んでいたんだ」

その言葉を聞くと、あの時自身の脳に響いた声を思い出した。
630 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/02/02(水) 22:58:36.35 ID:vnRLT0pDO

「じゃあ、あの時聞こえた声みたいなものは」

「恐らく、能力者逹の演算式だろうね」

──…………やっぱりか。

あの時を思い出して、上条は目を瞑った。
聞いた事もない難しい言葉ばかり響いていたのだ。
それは能力者の『自分だけの現実』。
理解しようにも理解出来る筈がない訳だ、と上条は心の中で呟いた。

「それが上条君の脳を圧迫していてね。頭痛の原因はそれだったんだ」

「…………なるほど」

木山の言葉に上条は納得してみせた。
痛み出した当初は少しズキッと来る程度のものだった。

 しかし、能力者に絡まれた人を助けた時や、能力者の近くにいた後、頭痛が激しくなり出した気がしていたのだ。
能力を打ち消した後が、特に。

「でもそれが、妹逹の脳波ネットワークっていうのとどういう関係が…………?」

上条が一番聞きたかったのはそれだ。
何故自身が妹逹のネットワークの力を借りる事になったのか気になっていた。
そもそも、そんな事が可能なのか、とも。

「そのチョーカー型デバイスはね、シスターズの脳波ネットワークの力を使って君の脳に入り込んでくる他人の脳波を遮断する物なんだ」

「ん…………ん?」

少し難しい単語が出たのか、上条は分からないと言う表情をした。

「お守りの様な物と思ってもらえればいいです、とミサカは補足します」

「お、おお…………そ、そうか」

納得した様な納得していない様な上条だが、取り敢えず妹逹の力で自分を補助してくれていると言うニュアンスだけは分かった。
631 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/02/02(水) 22:59:54.95 ID:vnRLT0pDO

「でも、さっき御坂妹と打ち止めが苦しんだのは…………」

「…………。 ……それは」

少し冥土帰しが言い淀む。
上条としては、自身の為に御坂妹や打ち止めが苦しむ事など自身が苦しむよりも辛い事だ。
先ほどの苦しみを見れば、恐らくかなりの苦痛だったのだろう。
自身のせいで、こんなにも小さい女の子が苦しむ事になったのかと思うと胸が痛んだ。

「…………っ」

唇を噛む。何だか自身が情けなかった。

「当麻…………」

美琴もそんな上条を思いやり、声を掛けたのだが上条は顔を上げない。

「あれはただ慣れていなかっただけです、とミサカは言い切ります」

「御坂妹…………」

御坂妹が上条の顔を見つめ、口を開いた。

「慣れればどうって事ないです、とミサカは宣言します」

「そうだよ、楽勝楽勝ってミサカはミサカは10032号に便乗してみたりっ」

「打ち止めも…………」

そんな上条を元気付ける様に御坂妹と打ち止めは軽い口調で言う。
効果はあったか、上条の顔色も少し戻った様な気がした。

「すまん…………」

「気にしないでってミサカはミサカはどんと来い!」
632 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/02/02(水) 23:01:24.80 ID:vnRLT0pDO

途中、御坂妹は冥土帰しを見ていた。

『余計な事は言うな』

それを視線で告げると、冥土帰しも困った顔をしながら頷いていた。

 少し落ち着いたか、上条がチョーカーを指で掛けながら呟いた。

「でも、このチョーカーがねぇ…………」


「実はこの方法を使って、妹逹はもう一人サポートしているんだよ」


「へっ?」

素っ頓狂な声を上げ、上条は聞き返す。

もう一人、サポート?
その人物が誰なのだろうと思案するが全く想像が付かない。
自分と同じ様な症状の人間なのかなくらいしか考えがつかなかった。

「君のとは逆で、演算出来る様にシスターズで補助しているんだよ」

そんな事も出来るのか、と上条は驚いた。

「まあ、勝手に言ったら彼に怒られてしまいそうだからね。聞きたかったら本人に聞くんだよ?」

「彼…………?」

一体誰なのか。想像もつかなかった。

「まぁ取り敢えず今はゆっくり休みなさい。また倒れでもしたらこの子逹が泣いてしまうからね?」

冥土帰しがそう言うと、上条の視線にはまず美琴が映る。

「う…………確かに。心配掛けてすまなかった」

ちょこんと頭を下げる。
今ならインデックスの噛み付きも甘んじて受けようという心意気でもあったのだが────。



   上条を包んだのは別の感触だった。
633 : ◆LKuWwCMpeE :2011/02/02(水) 23:03:35.10 ID:vnRLT0pDO
今日はここまで
いつも少ない量の投下ばっか続いてごめん
何となくこのスタンスで始めちゃったから変えられないや
また明日!
634 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/02(水) 23:06:02.44 ID:x9kfMFNho
乙!
つーか上条さん超絶チートじゃねぇかww
635 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/02(水) 23:08:09.73 ID:BDY42wn4o
乙〜
続き楽しみにしてます!
636 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/03(木) 00:41:47.07 ID:Xkd3wwH90
乙! 勘違いを晴らさないとな美琴ちゃん
637 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage ]:2011/02/03(木) 04:51:56.90 ID:gZ0BDLI80
 乙〜!!なんか上条さんもの凄いことになってるなww
さあ御坂ちゃんとやるんだぞ!!この美琴ならできると信じてる
638 : ◆LKuWwCMpeE :2011/02/03(木) 23:19:58.67 ID:CjNZCsaDO

 上条の頭を包んだのは柔らかい感触。

「え、え………………」

「当麻が無事で、良かった………………」

今まで上条が耳にした事のない程の優しい声。
そしてその声は、上条が一番聞きたかった声だった。

「み、さか………………?」

頭を包む柔らかい感触が心地良い。
こんなにも安心する場所は他にもあるのかと思うくらい、心地良い。

だが。

心地良いからこそ、複雑だった。

「…………離してくれないか?」

「………………ヤだ」

「おい………………」

美琴がギュッと抱き締めている上条の頭に力を込めれば込める程、上条は安心感と戸惑い、恐怖感と言った色々な感情が強くなる。
疑心暗鬼に陥り、心のモヤモヤが増していった。

「俺じゃないだろ?」
639 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/02/03(木) 23:20:48.23 ID:CjNZCsaDO

「え………………?」

その言葉に美琴は上条の頭を離し、視線を合わせた。

「こう、したい相手。俺じゃ、ないんだろ?」

「………………っ」

美琴が何故今こんな行動を取っているのか分からない。
しかしそれは恐らく、一種の感情の揺らぎ。
たまたま近くにいた人間が倒れて、回復して。
その相手が安らぐ様な行動をきっと無意識に取っているだけなのだろう。

レベル5の第三位サマは、優しい普通の女の子なのだから。

 あの実験が起きて全て自分の責任の様にして、誰も傷付かない様に一人だけで朽ち果てようともどうにかしようとしていた、温かい心を持った女の子なのだから。

そしてようやく持った心の拠り所は、彼女に似合う爽やかな少年だ。

「違うんだろ? だから、やめよう。 …………な?」

救いようの無い。
自分で投げ掛けた言葉に自分が心痛くなってどうするのだ。
でも、この少女の事は何よりも大切だ。
だから、心をも守ろうと思った。

ポン、と美琴の肩を軽く叩いて離そうとする。





「………………わよ」



「え………………?」



──当麻しか、いないわよ………………!





美琴は、そう口にしようと思ったのだが──────。



「オイ」



白髪の少年の声が響き、場の視線は全員それに集中した。
640 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/02/03(木) 23:22:19.85 ID:CjNZCsaDO

「あっ、おかえり!ってミサカはミサカは飛び付いてみるっ」

「反射」

「ひゃんっ」

打ち止めをかわし、場に姿を現した一方通行。
彼は上条と美琴の様子を見ると、しまったと言う顔をした。

「ひょっとしてお邪魔でしたかァ?」

「うん、お邪魔さんだったかもってミサカはミサカは頷いてみたり」

「いえ、ナイスタイミングでした、とミサカは称賛を送ります」

おちゃらけた様子で返事をした打ち止めと御坂妹。
ぶっちゃけ御坂妹の方は少し本気でそう思っていたのだが。

場に姿を現した少年の姿と、仲良さそうに話し掛ける打ち止めと御坂妹の様子に上条は驚いていた。

「あ、一方、通行…………?」

一方通行はそれを見て何か気まずいか苛立ちかよく分からない顔をしていた。

「何で、お前がここに…………?」

「彼も君を救う為に一役買ってくれたんだよ」

「え…………、え?」

冥土帰しの言葉に上条は更に混乱した様子だ。
641 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/02/03(木) 23:23:25.28 ID:CjNZCsaDO

 上条も美琴と共に、あの実験以降顔は合わせてはいない。
一方通行のその後、打ち止めや妹逹との顛末を美琴と同様に知らないのだ。

故に、あの実験時の一方通行の姿しか知らず、上条が戸惑うのは当然の事だった。

「勘違いすンじゃねェぞ。テメェを助ける気なンざさらさら無かったンだがな」

「…………そう言いながらも一番大変な役を返事一つで引き受けた癖に、とミサカは呟きます」

「あァン?」

ボソッと呟いた御坂妹の言葉が一方通行の耳に届いたかは定かではない。
しかしそれよりも一方通行は気になった事があった。

「ンな事はどうでもいい。何でドアがぶち壊れてそこの壁に穴が開いてンだよ」

尋常ではない衝撃があったかの様な痕跡。
正しくそれはここで戦闘があった事を示している様で、一方通行はそれが気になっていた。

「あ、ああ…………外人の男が襲い掛かってきたんだが…………」

上条の目がそこで見開かれた。
美琴逹もその様子に吹き飛んだ扉の方に目を向ける────。










「………………いない……?」

そこに倒れている筈の異形と男の姿が無かった。
642 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/02/03(木) 23:24:52.47 ID:CjNZCsaDO

──…………しくじった。

上条は心で呟いていた。
いくら余程の力で吹き飛ばしたとは言え、魔術師とその仲間らしき化け物の様なモノが直ぐに息を吹き返しそうだと言う事を見落としてしまっていた事に。

自身の身体の事と、美琴への気持ちや戸惑いに気を取られ過ぎてしまっていた。

「外人の男だァ?」

「うん、後ろから羽交い締めにされたんだよってミサカはミサカはちょっと思い出して怖くなってみたり」

「………………んだと?」

そこで一方通行の肩がピクリと動いた。


「(やっべ、セロリがブチ切れてます、とミサカはあなたに耳打ちをします)」


「(ん? どうしてだ? ってかセロリって何だよ?)」

「(セロリはセロリです。まぁ、色々ありまして。上位個体を傷付ける輩に容赦ないんですよセロリは、とミサカは教えます)」

「(何でそう言う経緯になったのか知りたいが、あの様子を見る限りそうだよな…………)」

「(ね、ねえ……アンタ逹何ボソボソ話してるの……?)」

隣で内緒話をしているのが気になったのか、美琴が参加しようとしたのだが。



「……………ごめん、なんだよ……」



「…………インデックス?」

インデックスの懺悔の様な謝罪の言葉が場に響き渡った。
643 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/02/03(木) 23:26:41.38 ID:CjNZCsaDO

「どうしたのよ? インデックス…………」

全員の視線がインデックスに集まる。
…………いや、俯いた上条を除いて、だった。

「らすとおーだーを危険な目に合わせたのは、私が原因、なんだよ…………」

「………………シスター。どういう事だ?」

ポツリポツリと話し始めたインデックスに一方通行が聞き返す。
打ち止めも一方通行の隣で頭に疑問符を浮かべていた。
インデックスは申し訳なさでいっぱいだった。

「私、狙われているんだよ…………魔術師に」

「魔術師だァ?」

「魔術、師…………?」

「お、おい…………インデックス…………」

心配そうに上条がインデックスを呼び止める。
魔術の事は何としても隠さねばならない事ではない。

しかし、インデックスの頭の中に秘める10万3000冊の魔導書────。

これだけは、大っぴらに出来る訳がない。
話の流れからそれが出てしまうのかを上条は懸念していた。

このメンバーに知られる事には大した問題にはならないのだが、なるべくなら秘密にしておきたい事実。
それを知ったが故に、と言う美琴逹に被さる危険性も危惧していた。
644 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/02/03(木) 23:28:23.74 ID:CjNZCsaDO

「さっきも当麻が言ってたけど、魔術師、って…………」

「あ…………」

──あー、またドジ踏んでいたか。

「私がここにいるのは、狙われていたのをとうまに助けてもらったからなんだよ」

インデックスが表した『ここ』とは、学園都市の事だ。
この東京都の三分の一を占める学園都市は、能力開発を夢見た学生逹でひしめき合っている。
その中にポツンといる修道服姿の異国の少女は、確かに奇特にも見えていた。

「インデックスが、どうして狙われているの…………?」

「それは…………」

美琴の言葉にさすがにインデックスも言い淀んだ。
上条が口煩く口外しない様に言い付けていて、彼女もやはり自身が宿す魔導書を危険に感じてあまり人に話したりはしなかった。

 以前の上条に出会った当初の頃はペラペラ上条に話していたのだが、消えゆく記憶と言う状況が彼女を後押ししていたのが原因だったのかも知れない。
しかし記憶を消さずに済んで以降、いや、自身のせいで上条が深く傷付いたのを見て彼女の心境にも変化が起こっていた。

「…………ううん、答え辛いんなら、言わなくてもいいわよ…………インデックス」

「みこと…………」

「御坂…………」

辛そうにしていたインデックスを見かね、美琴は聞くのをやめた。
確かに原因は気になる。
しかし言いたくない事を吐かせる様な事をしたくはなかった。
それに…………。

それに。

上条も、何だか辛い顔をしていたからだった。
645 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/02/03(木) 23:29:25.45 ID:CjNZCsaDO


「…………チッ。とにかく、外人の男とやらを探しに行く。先に見つけたらすぐ俺に知らせろ」


その雰囲気を見て、一方通行がそう言うと踵を返し、扉があった筈の部屋と廊下の仕切りに歩き出した。

「当麻」

「どうした、御坂?」

そんな一方通行の背中を見ていた美琴が呼び、上条は返事をした。

「名前で…………呼んでくれないの?」

美琴に視線を向ける。美琴も上条を見ていて、目が合った。

「…………俺がそういう訳にもいかんだろ」

そう呼べるのは、呼んでいいのは一人だけだ。
自分が呼ぶ訳にはいかないだろう?と視線に意味合いを含めて見つめる。

「…………っ」

言葉が詰まった様に間が出来たのだが、それは一瞬の事。

「私もさっきの男を探してくるわ。当麻はここにいて」

「お、おい、御坂…………」


「色々…………後で話したい事あるから。大丈夫、すぐ戻って来るわよ」


心配するなと言う表情を作り、美琴は上条の手を握る。

「………………」

そんな美琴の様子に、上条は何となく頷くしか出来ないでいた。
646 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/02/03(木) 23:30:40.68 ID:CjNZCsaDO

「一方通行!」

 自分を呼ぶ少女の声に一方通行は振り向いた。

「あァン、オリジナル? 何でテメェが来てやがンだ?」

杖を付きながらも歩く速度が速く、美琴は走って来ていた。

「私も探すわ」

「いらねェ。三下とイチャついてればいいじゃねェか」

「い、イチャ…………///」

「………………チッ」

顔を赤く染めた美琴を見て面倒臭そうに一方通行は舌打ちを打った。

 一方通行はどうにも美琴と接するのが苦手だ。
出来れば、関わりたくはない。
妹逹の件を思い返せば、自分がどう接していいのか分からなくなる。
そんな弱くなった自分を見るのも嫌だったのだ。

「あのさ…………」

「………………」

「ありがと、ね…………?」
647 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/02/03(木) 23:31:46.56 ID:CjNZCsaDO

「はァ?」

──何を言っているンだ? コイツは。

突然礼を告げた美琴が一方通行は意味が分からなかった。
蔑み、罵り、憎しみ、妬み。
てっきりそんな言葉が飛んで来るのかと思いきや真逆の意味の言葉だった。

「何考えてンだ? テメェは。俺が妹逹にした事忘れた訳じゃねェだろォな?」

「そんな事分かってるわよ…………憎んでるわよ、勿論。忘れられる訳ないじゃない」

「それがさっきの言葉は何なンですかァ? 三下心配しすぎてネジでもブッ飛ンだンですかァ?」

全く意味が分からない。理解不能だ。
礼など言われる謂れもないし、言ってほしかった訳でもない。
溜め息を吐きながら出た自分の言葉。
打ち止めにいつも言葉遣いを何とかしてと言われてはいるが直すのは無理な話だ。

「…………当麻を、助けてくれて。打ち止めを、助けてくれて」

一方通行の眉がつり上がった。

「…………オイ。聞いたのかよ?」

打ち止めを、助けてくれて。
その言葉が示す意味は、美琴は全てを知ったのかどうかという事。
打ち止めか妹か、どちらかが話してしまったのだろうか。

「やっぱり、助けてたのね」

「…………あァ?」

──…………知ってはいなかったのか? コイツ────。

そこで一方通行は気付いた。自分が、かまをかけられた事に。
648 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/02/03(木) 23:33:22.68 ID:CjNZCsaDO

「妹逹と何があったのかは知らないけど、妹逹、特に打ち止めがアンタになついているじゃない? あの実験を覆す様な何か大きな事が起きたのね?」

「………………」

「無言は肯定と受け取るわよ?」

「チッ」


何か無性に苛々してきた。
何故かは分からないが、無性に、だ。


「何があったのかは知らないけど…………言っておくわ」


あぁ、そうか。この苛々は自分に対するものか。



「ありがとね」



お礼された事に心がスッとした様な感覚を覚えた自分の心にか、と。

649 : ◆LKuWwCMpeE :2011/02/03(木) 23:34:31.69 ID:CjNZCsaDO
ここまで
また次回!
650 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/03(木) 23:39:14.96 ID:LcRWTGAyo
乙!
原作でも一方さんと美琴のこんなやりとり描かれないのかねぇ?
651 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/03(木) 23:46:06.72 ID:Jg1zAVeBo

深くは聞かない美琴がかわいい
652 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/04(金) 00:08:20.94 ID:Gaa9sEoUo
乙〜
まだまだ続きそうで先が気になる…
653 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/04(金) 00:26:23.64 ID:WjaSCnU5o
自暴自棄の上条さんはいまごろ裏口から這ってでも出撃かな
654 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage ]:2011/02/04(金) 00:44:14.26 ID:r43V5TQh0
 一方さんは自分の罪の意識の比重が
礼を言われることによって減じるかもしれないのが怖いんだろうな。
早く原作でもこうやってちゃんと話す機会があってほしい。
 にしても美琴も上条さんも、いいときにタイミング悪く誰かが入ってくるから大変だ
美琴が出ていく前にああ言ったから、上条さんは悩んだり葛藤したりこそすれ、
インデックスを護りきらなきゃいけないんだし自暴自棄にはならないんじゃないかな
 
655 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/04(金) 01:19:30.42 ID:n3tqpDiAO
大惨事以降かと思ったら違うのか
まぁ乙
656 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/04(金) 01:38:40.65 ID:VAjKrcJY0
美琴かわいいよ美琴
657 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/04(金) 02:29:50.92 ID:qr37tUEw0
ゲームの一通さん愛せないけどこれイイなァ!
原作は美鈴さんや通りすがりの妊婦さんですら助けにいく人なのに
658 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/04(金) 08:12:45.12 ID:vRIHXoYPo
二回ほど前から 達 が 逹 になってるのが気になって仕方ないよ!
659 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/02/04(金) 09:48:23.14 ID:KsBMSIZAO
待機
660 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/04(金) 16:08:23.58 ID:JrJPuT7M0
sage忘れが多いよ

E-mail欄しっかりチェック
661 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/04(金) 18:48:41.27 ID:kr0MzfTAO
>>659の奴は今日そこかしこでageてるけどな
662 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/04(金) 19:12:37.92 ID:ytkPg5oPo
さすがAO見るところが違うぜ!
663 : ◆LKuWwCMpeE :2011/02/04(金) 21:49:02.10 ID:Ob3s/dSDO
>>1です
風邪引いてしまった…………
今日投下したかったけど頭回らなくて書けなかった
申し訳ないです。
でも明日は来るからね
皆いつもありがとう!
664 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/02/04(金) 21:50:52.24 ID:Ob3s/dSDO
あ、
あと誤字の指摘感謝!
665 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/04(金) 22:05:50.61 ID:MqGr4u2io
風邪流行ってんなー
お大事に!
666 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/04(金) 22:17:41.94 ID:Z9gl07t1o
インフルエンザも流行ってるらしいから気をつけてな
>>1お大事に
667 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/04(金) 22:38:02.83 ID:I1OKDa1Bo
お大事に〜
668 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/05(土) 00:30:55.31 ID:zG4tZ0f20
罰ゲーム完璧だったな
669 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/05(土) 00:46:08.08 ID:7h7b1sOko
>>668
うむ 特に手を回すところがよかった
670 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/05(土) 10:08:29.21 ID:zwMSvmuO0
上条さんもなんだかんだで
頬を染めてたり
671 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2011/02/05(土) 11:52:40.44 ID:CUGxtKg+0
くそ、俺は美琴が嫌いなのに...嫌いなのに
この気持ちは.....恋...なのか?
でも俺には姫神がいるのに
どうすればいいんた?
672 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/05(土) 14:03:43.82 ID:MDekgVjCP
それを捨てるなんてとんでもない
673 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/05(土) 14:15:27.58 ID:i8CzGXJYo
逆に考えれば美琴は上条さんに任せれば姫神はお前のものだ
674 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2011/02/05(土) 14:37:42.72 ID:CUGxtKg+0
そうか、いい解決策ありがとう 俺は姫神と結婚するは
式には来てくれよな
だから誰か上条さんが過労で倒れる→姫神が看病する っとていう
ss書いてくれ
675 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/05(土) 14:52:32.18 ID:Mk58m28AO
結局上条さんに明け渡すのか渡さんのか
676 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2011/02/05(土) 15:33:20.90 ID:CUGxtKg+0
渡さねー
でもさ、ほら、わかるだろ?三次元→二次元は想いが伝わってもさ
二次元→三次元へは想いが伝わらねぇだろ?
だから仕方なく、仕方なくだぞ、こういうリクエストしてんだよ!!
わかるだろ?お前らならわかるだろ?わかってくれるだろ?(泣)
677 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/02/05(土) 16:06:42.73 ID:Ru221yHXo
今日このスレを読んですごした
678 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/02/05(土) 18:15:40.88 ID:XO4p3uiAO
続きが気になりすぎて受験に落ちました
679 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/05(土) 18:17:01.04 ID:Mk58m28AO
>>678
まだ一般があるさ
680 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/02/05(土) 19:18:41.74 ID:XO4p3uiAO
大学受験です_ト ̄|○
681 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/05(土) 19:21:06.35 ID:6L+To+Vzo
受験生自重しろよ
お前らの日記帳はここじゃない
682 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/05(土) 19:29:14.62 ID:XdAFfYQAo
>>678
人のせいにすんな。おめえの実力だ。
683 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/05(土) 19:30:32.43 ID:RbXsOu5Jo
さすがAOはちがうな
684 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/05(土) 19:32:19.31 ID:J7B1L1Qho
>>680
大丈夫、いつまでも受からないあなたを親御さんだけは応援してる
685 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/05(土) 20:03:06.10 ID:rahwbWLZo
確かにあちこちのスレで勉強していない自慢が多いな。
正直作者の動向以外はどうでもいいわ。
686 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/02/05(土) 20:45:01.00 ID:XO4p3uiAO
ごめん
687 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/05(土) 22:21:30.33 ID:A25BWigzo
>>680
気にするな。大学なんて腐る程ある。
名前書けば1校くらいは受かるさ。
688 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/05(土) 22:23:19.74 ID:iEhmuNyGo
受験生の情緒不安定っぷりくらい生暖かい目で見守ってやろうぜ
689 : ◆LKuWwCMpeE :2011/02/05(土) 23:09:31.72 ID:IHKgETkDO

「泣くなよ…………」

あれからインデックスは涙を流してしまい、インデックスの頭を打ち止めが撫でていた。

「大丈夫ってミサカはミサカは気にしてないよ」

「…………ごめんね? ごめんね……グスッ」

木山と冥土帰しと御坂妹もどうしたもんだかとお互い顔を見合わせていた。

「とにかく、御坂と一方通行の第三位サマと第一位サマが動いてくれてんだ、これ以上安心出来るもんはないだろ?」

「うん………………」

「よく考えれば、物凄いな…………」

木山の呟きに上条も苦笑いだ。
確かに凄い。凄すぎる。
690 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/02/05(土) 23:10:35.49 ID:IHKgETkDO

学園都市の広告塔の様な存在の230万人の中の三位の美琴。
更にはその上の最強と言う名も欲しいままに頂点に君臨する一位の一方通行。
そんな二人が揃ってこの部屋にいた。
そして、揃って上条と言う一人の少年を救う為だけに尽力している。

「ふむ…………贅沢にも程があるな」

「俺なんかにゃもったいないっすよねー…………はは」

溜め息と共に吐き出された木山の言葉に上条は苦笑いした。

 しかし何故この上条にこんなにも人が集まるのか、木山は何となく理解していた。

彼の人望、人柄、優しさ、強さ────。
そのどれもが人のそれよりずば抜けていて、尚彼は自慢気にする事無く、虚栄する事も無く、押し付ける様子もおくびにも出さない。
そうするのが当たり前かの様に、無自覚でやってのけてしまう。

だからこそ、上条の周りにはこんなにも人が集まって来るのだろう。
第三位だろうが第一位だろうが関係なく、隔たりなく接してしまう。
様子を見る限り一方通行とはまだそうはいかないのだろうが、ゆくゆくはそうなっていくのを何故か容易に想像出来てしまっていた。

「全く、君と言う少年は」

「へ…………何か悪い事しましたかね」

「したさ。だからこそ早くその身体を治してしまえ」

「………………そう、ですね……面目無いです」

申し訳無さそうにした上条を見るが、木山は微笑んでいた。

──人として、何が大切かを既に弁えているこの少年の未来はきっと明るいものになるのだろう。

「…………頑張るんだ、御坂君……」

「ん? 御坂がどうしました?」

「いや、何でもないよ」

ふと無意識の内に、そう呟いていた。
691 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/02/05(土) 23:11:31.84 ID:IHKgETkDO

「あれ、黒子?」

「お姉様!?」

一方通行と共に周りを警戒しながら歩いていると、風紀委員の腕章を着けた彼女の相部屋の少女の姿が目に写った。
黒子の方も何故美琴がここにいるのかと驚いていた様だった。

「何、これ…………」

周りを見れば大量の先ほど見た化け物の様な異形の屍。
それを黒子が呼んだアンチスキル達が片付けていたが、夥しい血や体液らしき液体、そして崩れかけている壁や扉を見て美琴の顔色は驚愕を示していた。

「ここでドンパチやり合ったんだにゃー、超電磁砲。カミやんは無事か?」

「あれ、土御門…………舞夏のお兄さん。アイツは無事です……って知ってたんですか?」

「まあな。それにしてもよかったにゃー」

美琴に話し掛けた土御門は、椅子に座り看護師らしきナース姿の女性に手当てを受けていた。
美琴は知らない事なのだが、海原と結標がいた筈なのだが別室で治療を受けている為か、現在この場にはいなかった。

「あれ、一方通行じゃん」

「チッ、黄泉川…………やっぱいやがったか」

一方では一方通行の同居人でアンチスキルに所属している土御門と上条の通う高校の教師、黄泉川が一方通行の姿に気付いていた。

「黄泉川。外人の男を見なかったか?」

「いや? 見たのは外国の女だけじゃん?」

黄泉川は親指で後ろを指差し告げる。
そこにはちょうどアンチスキルに連行されていく女の姿があり、美琴もそれを見ると思案顔をした。

「黒子はどう?」

「いえ、私も見ておりませんの」

「そっか……」

「あの女も共犯者がいるらしき事を言ってたんですの。私も探しますの」

空間移動の黒子がいれば心強い、と美琴は頷いた。
692 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/02/05(土) 23:12:33.63 ID:IHKgETkDO

「あの、お姉様。お姉様はどうしてここに?」

「それは…………」

美琴が何故ここにいるのか。
何となく黒子は予想が付いていた。
何故かは分からないが、何となく。

「いらっしゃるんですのね? あの類j……上条さんがここに」

「………………うん」

「やっぱりですの」

溜め息を吐く黒子に、美琴は少し気まずい気持ちを抱く。
以前、自身が黒子の前で上条に告げた酷い罵倒がまだ美琴の頭の中でこびりついている。
心にも思ってない言葉を、言いたくもなかった言葉を彼に浴びせてしまった事を思い出してしまっていたのだ。

「全く、お姉様は…………お姉様の頭の中は上条さんしか無いんですの?」

とは言いながら黒子の内心は実は軽い。

 冷たい言葉を浴びせたあの時の美琴と、今上条がいるからと言う理由でこの場にいる現在の美琴と。

決定的に、顔付きが違っていた。

何時仲直りの様なものをしたのかは知らないが、恐らくあの時とは状況が違うのだろう。
693 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/02/05(土) 23:13:28.65 ID:IHKgETkDO

あの時の美琴と、今の美琴。
どっちが黒子の大好きなお姉様?と聞かれれば答えは既に決まっている。

「そっ、そんな事無いわよ…………!///」

ほら、これが何時ものお姉様だ。
しかし悔しいので安心した様子はしてやらない、と黒子は決め込んでいた。



「カミやんも隅には置けないんだにゃー」

「ん?上条って、あの上条か??」

その他二人はそんな事を呟いていたらしいが。
694 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/02/05(土) 23:14:23.94 ID:IHKgETkDO

「チッ。ンな無駄話なンかしてる時間はねェ。置いてくぞ」

不機嫌な様子が彼にとっては普通なのだろう。
美琴と黒子はお互いに顔を合わせ、苦笑いを浮かべた。
しかし彼の言う事ももっともで、彼女達は背を向けた一方通行の後に続こうとしたのだが──────。


ドォォォォォォン!!!


「!?」


連行する為に女を乗せた車の方から、突然爆発音の様な音がした。



「うわっ!?」

「きゃっ!?」

「な、何だ!?」

場にいる人々の騒然とする声が響き渡る。
美琴達が壊れていた扉の外に目を向けると、異形達よりも更に一際大きい異形の車を破壊している姿が目に飛び込んできた。

「無事だったか?」

「ええ。何とかね」

そしてその横には、あの異国の男が女の手を引き車から連れ出していた。

「あ、あの外人!」

男と女は美琴達を見ると、ニヤリと顔を歪ませた。
異形はいまだに暴れていて、取り押さえにかかったアンチスキル達が吹き飛ぶ。
そして男と女は、ゆっくりと再び病院内に踏み込んで来た。
695 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/02/05(土) 23:15:16.28 ID:IHKgETkDO

一方通行はチョーカーに手を掛け、美琴は電撃を手に宿し、黒子は構えて戦闘体勢を取った。

「気を付けて。男の方は魔術と呼ばれるものを使ってくるわ」

「ま、魔術?」

「あァン?男の方とやり合ったのか?」

「さっきは当麻が吹き飛ばしたけどね」

「三下がか?」

「…………、うん」

超電磁砲を使って、とは言わなかった。
今はそれよりも、先に異国の男女を迎え撃つのが先決なのだ。

 男の戦闘スタイルはまだ詳しくは把握していない。
しかし先ほど見せた様な、よく分からない能力────恐らくあれが魔術と呼ばれるものなのだろう。
女の方も、恐らくそうだろう。
そしてその後ろで暴れ終わったのか、男女の後に付いてくる異形。
異形の方は見る限り戦闘という戦闘はしない。ただ襲い掛かるだけ。
しかし鍛えられたアンチスキル達を吹き飛ばす程の力を持っているのを見ると、掴みかかられるのは避けなければいけないだろう。

「私もやるじゃんよ!」

「俺もいるぜい」

黄泉川と土御門も揃って美琴達の横に並んだ。
しかし土御門の方は手当てを終えたばかり。まだ痛むのだろう包帯を巻いた腕からは血が滲んでいる。

「土御門さん、あなたはその傷では…………」

「心配ご無用だにゃー。何せこっちには超電磁砲と一方通行がいるんだぜ」

「あの、この方はやはり…………」

そうだ。土御門の言う通り、こちらにはあの一方通行がいる。
黒子も一方通行と言う単語を聞いて、驚いた様な顔を見せた。
恐らく噂には聞いていたのだろう。第一位の通名、一方通行という話を。
696 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/02/05(土) 23:16:01.52 ID:IHKgETkDO

 かつての敵だった筈の憎き第一位。彼が味方についているのだと思うと、これ以上安心出来るものはないのだった。

「クク、ククククク…………」

しかし男の方から、突然笑い声が聞こえてきた。

「第三位と第一位が揃ってここにいるとはな…………どれ、こいつでも試してみるかな」

男がそう言い、ポケットから何かを取り出そうとする。
それを見た美琴達は、更に腰を落として身構えた。

「あれは、何ですの?」

男が取り出したのは小型トランシーバーの様な大きさの黒い箱形の機械。
アンテナが付いていて、男はそれを伸ばす。

「そんなのが本当に効果あるの?」

女の方も疑問の声を上げてそれを怪訝そうに見ていたが、男は構わずそれにスイッチを入れた──────。





キュイイイィィィィン──────。





「……………………ぐっ!?」

「チッ………………!?」

「あぐ…………っ……!?」

「ははは!ご覧の通りだ!」

その機械から発せられた超音波の様な高音に、一方通行、美琴、黒子の三人が苦しそうに顔を歪ませた。
697 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/02/05(土) 23:17:15.37 ID:IHKgETkDO

「キャパシティダウンか!」

「ご名答。お前に効かないという事はお前は無能力者という部類か?」

即座に言い当てた土御門、男は含み笑いを持たせながら言う。

 キャパシティダウン。能力者の演算を阻害する音響兵器の事だ。

「だが超電磁砲や一方通行程の能力者に効くキャパシティダウンは持ち運び出来ない筈だ…………!」

土御門の言う通り、彼らに効く程の完成型のキャパシティダウンは大型化し、易々と持って歩けるものではない筈なのだ。

「ククク。この化け物共を造る技術を提供した研究者がな、これも持たせてくれたのだよ」

「ぐ…………!」

「う…………あ…………!」

「大丈夫か!?」

とうとう蹲ってしまった美琴と黒子に、黄泉川が駆け寄る。

「誰だよ、そのクソ研究者は…………!」

土御門が苛立った顔を隠しもせず、男と女を睨み付ける。
そこまで情報、技術を漏洩してしまっている研究者というのは、間違いなく『グループ』の標的にされる程の学園都市にとっての悪人の筈なのだがそんな仕事はした事が無かった。

「噂によれば、そこの第一位に殺されたみたいなんだがな。ま、そんな事はどうでもいい。通してもらうよ」

男がそう言うと、パチンと指を鳴らす。それを合図に異形が土御門に向かって飛び出していた。
698 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/02/05(土) 23:17:44.15 ID:IHKgETkDO

「!? くそっ!」

巨体の割りに予想以上の素早い動き。更には痛む身体の為に反応できず、異形のなぎはらう腕を避ける事が出来なかった。

「ぐはぁっ!!」

「土御──────」

その様子を見て黄泉川も叫ぼうとした瞬間、一瞬で移動してきた異形に突き飛ばされ、黄泉川を吹き飛んでしまった。

「がっ!!」

「雑魚には用は無い。とっとと通してもらうよ──────」







「おい、てめぇら………………いい加減にしろ」




男と女が歩こうと足を踏み出した瞬間、その声が響き渡った。
699 : ◆LKuWwCMpeE :2011/02/05(土) 23:19:07.81 ID:IHKgETkDO
短いけどここまで
書き溜めてくる
もたもたしてごめんね
700 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/05(土) 23:27:05.11 ID:OpRqvwrGo
乙!
まさか木原くんが生きてるのか…?
701 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/05(土) 23:32:26.18 ID:zwMSvmuO0
>>1さん
このスレで終わってしまいますか

次スレもアリですか
702 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/06(日) 00:32:19.54 ID:68oPIlxh0
一方さん黒翼どうしたんすかww
703 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/02/06(日) 00:35:22.61 ID:lWXheqsAO
wwktk
704 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/06(日) 00:39:54.79 ID:ZYTZEzKVo
いや天井くンかもしれない
705 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/06(日) 00:49:35.18 ID:v86kKjlZo
ワクワクが止まらない!
706 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/06(日) 00:52:17.22 ID:09/7J5Zl0
バトル物のSS読んでて思うけどさ、毎回当たり前のように
キャパシティダウン食らうのはなんなんだ。
美琴達は一回食らってるし、一方さんも存在を全く知らない訳じゃないだろう
せめて耳栓くらい持ってけよと
707 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/06(日) 01:00:30.62 ID:ZYTZEzKVo
キャパシティダウンは本来大型すぎて持ち運びが困難な代物
しかもこのSSに限ってはまさか魔術師が持ってるなんて思わないだろ
708 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/02/06(日) 01:10:37.73 ID:rU4IAG5y0
一通さん反射忘れてますよ
709 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/06(日) 01:34:25.47 ID:vGQ4Y58V0
 まあ流石に魔術師が持ってるとは思わんだろうな。
暗部の土御門も一方通行も対応できてなかったし。
 あーあ、上条さんの登場はどうしていつもこんなにかっこいいんだ畜生……
710 : ◆LKuWwCMpeE :2011/02/06(日) 01:50:44.54 ID:Zqh8XHEDO

「ぐ…………と、当、麻…………?」

何故ここに────。
拳を握り締めている上条を見て、美琴は苦痛に顔を歪ませながらも声を上げた。
上条も美琴に目をやると、拳に更に力を込める。
ギュッと力強く握り締めたそれは、怒りに震えていた。

「『幻想殺し』、まさか貴様の方から来るとはな」

「うるせぇよ魔術師。さっさとそれを止めろ」

男の言葉に被せる様に上条は吐き捨てた。
美琴達を苦しめるものはどういうものかは分からないが、恐らく男が手にしている機械の様なものだろう。

「貴様にはこれが効かないのか?」

キャパシティダウンが効いてない様子の上条に男は驚いていた。

上条の手に宿す幻想殺し。
魔術でもない、能力でもない、原石でもない上条の生まれつき持っている力。
その力はいまだ詳細不明で、上条自身もよくは分かってはいない。

しかし今はそんな事はどうでもいい。

「………………っ」

自身の持つ力の些細な事など上条の頭には無い。
美琴が苦しんでいるのだ。
男をぶっ飛ばし、美琴を苦しめる機械を壊す────それしか上条の頭には無かった。
711 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/02/06(日) 01:51:39.52 ID:Zqh8XHEDO

「三、下ァ…………妹達は、無事、か……?」

「……部屋にいたら急に苦しみ出してな。飛び出てきちまった」

キャパシティダウンの音が上条達のいた部屋にも届き、御坂妹と打ち止めも頭を押さえて蹲っていたのだ。
それを見た上条は嫌な予感のまま飛び出してきたのだが、やはり、美琴も苦しんでいた。

グッ──────。

右手を握り締める。強く、深く。血が出るほど。


「まあいい。殺れ────」


「グオオオォォォッッ!!」

男がそう言い、上条に指を差すと異形が飛び掛かってきた。

「カミやんッ!」

異形の巨体に似合わぬ俊敏性で上条の首目掛けて獰猛な爪が襲い掛かる。
しかし上条は顔色一つ変えずにそれを見ていて──────。

ガギンッッ!

上条に触れた瞬間、異形の爪が吹き飛んだ。

「チッ、やはりか」

「ちょっと!どういう事よ!?」

男が舌打ちをし、女は顔を驚愕に歪める。

「なっ…………!」

「カミやん…………!?」

一方通行と土御門も驚きを隠せず、目を見開く。
美琴も先ほど見た光景なのだが、やはり彼らと同じ反応をしていた。
712 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/02/06(日) 01:52:48.01 ID:Zqh8XHEDO

そして吹き飛んだ異形に手を向け、上条は力を込める。

「………………」

「ヌグアアァァァッッ!」

学習能力が無い故か、再び上条に向かい異形は突進する。

「な、何だ…………!?」

しかし突如、場の温度が跳ね上がったかの様に熱くなり出す。
男は何事かと上条に目をやり、そして理解した。


上条の突き出した腕が、高温で蜃気楼の如くゆらめいている。
そして、炎が渦巻き始めた。


「ば、バカな…………!」

「幻想殺しが何で…………!?」

情報が違うとばかりに男と女は焦り出す。
幻想殺しは、魔術は使えない筈なのに…………。


「…………まじかよ…………あれは、ステイルの…………!」




上条の手に現出したのは、『必要悪の教会』の魔術師、ステイルの技の筈の炎剣だった。




「はっ!!」

上条は出来た炎の剣を襲い掛かった異形に振り払う。

「ウガアアアアァァァァッッ!?」

異形の身体が切り刻まれ、そこからたちまち炎が噴き出した。
713 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/02/06(日) 01:53:56.04 ID:Zqh8XHEDO

「畜生!何なんだあいつは!?」

パチパチと音を立て、やがて真っ黒の炭になって物言わない骸となってしまった異形。
そんなとてつもない光景を見せつけられ、男と女は危険を感じずにはいられなかった。

「当、麻…………?」

美琴の苦しそうな声が上条の耳に届く。
上条はハッとし、美琴に目を向け駆け寄ろうとしたが。






ビクッ──────。






美琴の身体が一瞬震えたのを見逃さなかった。
美琴の目に浮かんだのは、畏怖の色──────だろうか。

「………………っ。すまん、まだ辛いんだったな……」

男と女の方に目を向けると、背中を見せ逃げ出そうとする姿が写る。
それを見た上条は、文字通り一瞬で男と女の目の前に移動していた。


「なっ!?」

「きゃ!?」

突然目の前に現れた上条に男は立ち止まり、女は尻餅を付く。
714 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/06(日) 01:54:46.58 ID:d5ScQ59Ao
上条さんまじチート
715 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/02/06(日) 01:54:56.30 ID:Zqh8XHEDO

「テレ、ポート…………?」

それに気付いたのは黒子。
上条には使えない筈の彼女の能力である空間移動によって上条が移動したのを苦しみながらも理解した。

「カミやん…………?」

土御門も驚きを隠せない。

「………………」

「チッ!や、殺れ!」

そして何処にいたのか、上条の後ろに現れた片腕の無い異形に男が命令し、腕を振り下ろす。

しかし上条はそれを避ける事なく、振り下ろされた腕を振り向きざまに掴み、簡単に止めた。


バチッ──────!!


「ヌガアアッッ!?」

突然稲光の様な閃光が一瞬轟き、異形の身体は崩れ落ちた。

「切れ」

それに目を向けず、上条は冷たく男を見下ろす。
上条が言っているのは美琴を苦しめる、キャパシティダウンの装置だった。

「畜生!『Del.』!」

もう破れかぶれか、男は再び紙切れを上条に投げつけ、光の矢を作る。

「もう一度言う。切れ」

しかしそれが上条の身体に当たった瞬間、逆に男の脚に突き刺さった。
716 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/02/06(日) 01:56:14.93 ID:Zqh8XHEDO

「ぐああああッッ!?」

「ひいいぃぃっっ!?」

何が起きたのかは分からない。
男の脚に穴が空き、焼けた様な音と共に血が吹き出た。
女はもう悲鳴を上げる事しか出来ない。

「………………」

男はまたもや抵抗を見せようとする。
上条はそれを見ると溜め息を吐きながら、仕方なしにキャパシティダウンの装置を壊す為に電気を宿したのだが。









「上条君!もう能力は使うんじゃない!!」

木山の声が響き渡った時に──────。







「ぐあっ!?」





上条に再び、あの症状が襲い掛かった。

717 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/06(日) 01:57:03.79 ID:vGQ4Y58V0
 さあ、上条さんのターンだっ!!!!
718 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/02/06(日) 01:57:18.87 ID:Zqh8XHEDO

「と、当、麻…………!?」

「上条君!?」

その場に膝を付き、頭を押さえて上条は苦しみ出す。

「ぐああああっっ!?」

「うおおっ!?」

「きゃああっ!?」

彼の苦痛の叫びと共に、爆発の様な衝撃が上条を中心に巻き起こり男と女は吹き飛んだ。

「くっ!?」

衝撃に腕で顔を押さえ、何とか堪えた木山の足元に小さい機械の様なものが転がってきた。

「これは…………!?」

それを見た瞬間、一瞬で把握した木山はすぐさま拾い上げ、美琴達を苦しめるそれの電源を切った。

「キャ、キャパシティダウンの音が…………」

「消え、たか…………」

脳に直接響かせる不協和音が消え、美琴達は苦痛から逃れられた。

………………しかし。





「当麻っ!!」



「うがああああっっ!!」


苦しみ悶え出す上条に美琴が駆け寄ろうとするが、一瞬怯んでしまう。
719 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/02/06(日) 01:58:22.32 ID:Zqh8XHEDO

──な、何で…………私…………?

何故足がすくむ。彼が身体をおして救ってくれたというのに。
何で、何で。

「うぐああああっ…………!」

苦しむ上条を目にして、自分は何を考えてしまった?

怖い──────

誰が?

カレガ──────

自分の知らない魔術の世界に身を起いてきた上条。
魔術を使い、火を出した上条。
一方通行の反射や黒子の空間移動を行使した上条。
そして、超電磁砲を撃った上条。
…………しかし。

それがどうしたと言うのだ?

彼は人を助けようとしただけなのに。
あれだけ突き放した自分にも優しく気に掛けてくれたのに。

何故、私は──────。



しかしそんな美琴の考えも途中で止まる。
720 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/02/06(日) 01:59:15.01 ID:Zqh8XHEDO

上条の様子がおかしい。
苦しみ方が、違う。

「当麻ぁっ──────ぐっ!?」

決心し、上条に駆け寄ろうと美琴にバチッ!と電撃の様なものが起き、身体を止めさせられた。





「え……………………?」



そして突然、様々な事象が上条を中心にして巻き起こった。

電気、炎、水、風、光、影──────

「ぐああああああっっっ!!??」

そしてそれは一際彼の絶叫とも取れる叫びと共に、彼に降り注ぐ様に集まり目映い光が発生した。
721 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/02/06(日) 01:59:56.04 ID:Zqh8XHEDO

「くっ…………!?」

「一体、何が起きてますの…………!」

木山や黒子達も堪え切れずに、目を覆い隠す。
サングラスを掛けている土御門でさえ、直視出来ない程だった。

「チッ!!」

一方通行がチョーカーに手を掛ける。
上条を包む力を操作してやらねばならない。
このままいけば、上条は………………。

木山も上条の身に何が起きているのかを直感で察知する。

──AIM拡散力場が暴走している…………!?

あの後に発現してしまった、『幻想猛獣』。
しかしあの力の渦巻き方とはまるで違う。
規模は、比べ物にならない。

「当麻!?当麻ぁっ!!」

美琴からも悲痛の叫び声が聞こえる。
上条が苦しむ事への悲しみと、躊躇してしまった自分への怒りと。
一言では言い表せない苦悩が美琴を支配していた。



「ぐあああああああああぁぁぁっっ!!」



そしてその叫び声と共に、上条は光る竜の様なものへと姿を変えていった──────。
722 : ◆LKuWwCMpeE :2011/02/06(日) 02:00:57.71 ID:Zqh8XHEDO
ここまで
書き溜めてきます!
723 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/06(日) 02:04:51.02 ID:vGQ4Y58V0
 まさか中の人の形が幻想猛獣に?半端なくやばい予感が……
724 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/06(日) 02:15:48.29 ID:68oPIlxh0
上条が進化しただと・・・!?
725 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/06(日) 03:00:04.91 ID:hJDaxsyR0
まさかの上条バースト現出か?
今回も面白かったです。続き期待してます!
726 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/02/06(日) 03:03:38.88 ID:Zqh8XHEDO
>>701
長引きすぎるのもあれなので、このスレで終わる予定!
727 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/06(日) 03:18:23.07 ID:v86kKjlZo
マジか
寂しいが確かに引き伸ばすのは難しそうな展開だな…待ってるぜ
728 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/06(日) 08:00:57.02 ID:m3BIQ43Ko
BBBBBBB
729 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/02/06(日) 13:51:58.00 ID:lWXheqsAO
期待機
730 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/06(日) 14:04:27.43 ID:hx2J2GjN0
フィアンマ「……」
☆「ぷ、プランドオリダ…」
731 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/06(日) 16:01:30.31 ID:g19Mt0xj0
BBBBBBBBBBBBBBBBBBB
732 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/06(日) 16:47:28.24 ID:35c4GqFs0
>>701です
分かりましたありがとうございます
作者さん書き溜め頑張って

アウレオルスの時の竜王か…
続き楽しみです
733 : ◆LKuWwCMpeE :2011/02/06(日) 17:37:11.97 ID:Zqh8XHEDO

「当、麻………………?」

「御坂君、危ないっ!!」

 呆然と立ち尽くす美琴に、木山が駆け寄る。
出現した竜に取り巻く力のせいか、崩れた壁の破片が舞っていた。
木山が美琴の手を連れ、中の方へと下がらせると、一方通行が一歩前に踏み出た。

「カミ、やん…………?」

魔術、科学共に詳しい土御門でさえも上条の身に起きている事が理解出来ない。
いや、理解する云々の問題ではない。
変わっていってしまった親友の姿に土御門も呆然としてしまい、ただ見る事しか出来なかった。

「あれは…………幻想猛獣、なんですの……?どうして、上条さん、が…………」

黒子もただ見守るしか出来ない。
竜は少しずつ形を形成していった。

そうしている内に、場に二人の声が響く。

「一方通行!」

「あれは…………まさか!」

打ち止めと御坂妹が姿を現し、二人も上条だったであろう姿を見て驚愕していた。

「打ち止め!ここは危険だ!テメェは来るンじゃねェ!」

打ち止めの姿を見て、この場は危険だと判断した一方通行は咄嗟に下がらせる。
寄ってきた打ち止めを背中に回し、一方通行は身構えた。
734 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/02/06(日) 17:38:13.58 ID:Zqh8XHEDO

「お、お姉様がもう一人!?それにこっちは小さなお姉様なんですの!?」

その二人に黒子はまた驚き、そして察知する。

クローン────。

先ほど耳にしたあの単語。
そっくりなこの二人は、恐らくそうなのだろう。
だがジャッジメントと言う気持ちからか、今はそれよりも一方通行と同じく、危険なこの場からどうにかせねばならないと言う思いが先行した。

「あの人、代理解除振り切っちゃったよ!あなたはどうするの!?」

打ち止めが叫ぶ。

「テメェらはどっか避難してろ!」

一方通行は答え、チョーカーのスイッチを入れた。

──チッ!!充電が残り少ねェ…………!

チョーカーに残された充電ももう残り僅かしかない。
相手は幻想猛獣の様なものだ。
しかも恐らく、自分なんか比較にならない程の力を持っているのだろう。
しかし、だからと言って引ける訳は無い。
暴れるかどうかは分からないが、完全に形成されたそれを見る限り、恐らく暴れるだろう。

「グルルルル………………」

翼を生やし、大の大人の二倍くらいはあるであろうその身体。
獰猛な牙と爪を剥き出しにして、辺りに視線を送っている。





そして、一方通行を先頭とする集団が目に入った瞬間、竜はその口を大きく開けた──────。





「グアアアアッッ!!!」

「クソッ!?」

竜の口から火が飛び出し、一方通行は食い止めようと手を突き出した。
735 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/02/06(日) 17:39:15.20 ID:Zqh8XHEDO

もし。
その炎に幻想殺しが宿っていたとしたら────。

嫌な予感が一方通行の脳裏をよぎる。
幻想殺しが宿っていたら、反射、解析、操作も何も出来ずに焼かれるだろう。
しかし後ろには打ち止めがいるのだ。

例え焼かれたとしても、守らねばならない──────。

「ぐッ!!」

反射は………………効く!

しかしどういう事か、全ては反射し切れない。

「クソ…………があああァァッッ!」

反射し切れない分を解析して、操作し方向をずらす。
手が焼かれ、やがて痛みが感じ出したが一方通行は突き出した腕を下ろしはしない。

「三下がァァッッ!」

怒号と共に、その炎を弾き返した。

「一方通行!!」

打ち止めの声に無事だったのかと安堵するが、気を抜く暇はない。

「当麻…………」

いまだ呆然としている美琴の声が耳に届く。

「チッ…………」

ダメだ。
今の美琴は使い物にならない。
この状況では猫の手も借りたいほどだ。
736 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/02/06(日) 17:40:25.02 ID:Zqh8XHEDO

無能力者の土御門、黄泉川。彼らは怪我もしている。
空間移動能力者の黒子。
そして、超電磁砲の美琴。
打ち止めと妹達は演算補助にて参加はさせられない。
状況のまずさに一方通行は苦虫を噛んだ。

しかし、ここでこの竜を止めなければ…………恐らく、全員殺されてしまう。

あの上条がそんな事をする人間だとは思わない。
しかし今はそう考えねば、そうなりかねないのだ。
それに、あれは今上条などではない。

ただの、化け物なのだ。





しかし。





「一方通行!充電が…………!」



「クソッ────────!?」




とうとう、一方通行の演算を補助するチョーカーの充電が………………切れてしまった。
737 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/02/06(日) 17:41:26.49 ID:Zqh8XHEDO

──クソ…………!

「一方通行!!」

 演算補助が効かなくなり、薄れ行く意識の中で打ち止めの叫び声が届く。

ズサッと音がして、自分が倒れた事だけは分かった。

──…………俺は結局、誰も守れねェクソタレの三流の悪党、なのかよ……?

竜が倒れた一方通行を訝しげに見ている。

──三下ァ…………テメェはそンなに、むやみやたらに誰かを傷付ける奴だったのかよ…………?


「ウゴオオオォォォォ!!」

倒れて動かない一方通行を見て、勝利の余韻にでも浸っているのか雄叫びを上げた。
竜に自我はあるのかどうかは、分からない。
上条の意識も残っているのかどうかも、分からない。

「一方、通行…………っ」

──打ち止め…………クソガキ、マセガキ、泣き虫がァ…………

打ち止めが涙を堪えている。
顔こそ動けずに見えないが、何故かそれだけは分かった。

「グルル…………グワアアアアッッッ!!」

竜の咆哮がこだまする。
やがてその大きな口を再び開け、バチバチと電気が口の回りから発生している。

「…………!」

それを見た打ち止め達に戦慄が走った。
間違いなく、何かを放ってくる──────。

そう感じた打ち止めは、倒れた一方通行の前に立った。
738 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/02/06(日) 17:42:29.54 ID:Zqh8XHEDO

「この人はミサカが守る!今まで、いっぱい助けてくれたもんっ!!」

「グルル………………?」

「あなたと言えども、この人に何かしたら、絶対許さないんだからっ!!」

木山達も危険と感じたのだが、身体が動けない。
余りもの状況に、動ける者は誰一人としていなかった。

「グルル…………グガアアアァァァッッ!!」





そして、竜の口から電気か炎か、どっちとも取れない凄まじい光線が吐かれる──────!






──アホかテメェは…………!守るのは、俺に決まってンだろォが!!




突如一方通行の背中から現出した黒い翼が打ち止めを包んでいた。


739 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/02/06(日) 17:43:19.78 ID:Zqh8XHEDO

「一方通行!?」

翼が光線を弾き、打ち止め、そして後ろに待避している全員を守る。
ゆっくりと立ち上がる一方通行は、打ち止めを抱き抱え黒い翼を振るい完全に光線を弾き飛ばした。

爆音と共に逸らされた光線は壁を天井を突き破り、穴を開ける。
一瞬にして溶けた様な跡が残った穴は、どれだけのエネルギーが込められていたのかを理解させていた。

「──────gd打止at」

打ち止めは突如出現した一方通行の翼に驚いている様子だ。
後ろにいる全員も────美琴も同じ、光線を放った竜もまた同じだった。

「グルルルル…………?」

何事かと様子を見守る竜。
それは自分の攻撃が弾き返された事に苛立っている様にも見えた。

「──────gw守mda!」

ノイズが混じり、言語とも取れない様な言葉を吐く一方通行。
しかし打ち止めには、彼が何を言っているのか何となく、分かる様な気がした。

 翼を竜の方に向け、光線を受けた際に散った一枚一枚の羽根が矢の如く竜に襲い掛かる凶器へと化す。
目にも止まらぬスピードで飛んだそれは、竜の身体へと突き刺さっていく。

「ヌガアアアァァァッ!?」

恐らく直感からだろうか、飛来してくる羽根を腕を振るい弾き飛ばすが、全ては振り払えない。
いくつもの羽根が竜の身体へと突き刺さった。

そっと優しく打ち止めを地面に下ろした一方通行は、再び竜を睨み付ける。

「───────am三下tjp──!!」

いまだ痛みに暴れる竜へと、一方通行の身体が飛び跳ねる様に爆発的なスピードをえて、拳を突き出す。
そしてそれは、竜の腹へと突き刺さっていった。
740 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/02/06(日) 17:44:39.42 ID:Zqh8XHEDO

「グガアアァァァッッ!!」

身体を吹き飛ばされ、激突した壁を破壊させながらも体勢を整える竜。

「当、麻………………!」

美琴の声が響き渡る。
しかし一方通行は更に竜を追い討ちを掛けるが如く両手を突き出した。

視界が、歪んだ。

「なっ!!AIM拡散力場全てのベクトルを操作すると言うのか!?」

一方通行に向かい、またその口を大きく開け、先ほどの光線の様な光を灯し始めた。
しかし次第にその光は集束する様に縮まっていき、そして終には消えてゆく。

「──────jd愚あmtg!」

だが黒翼を現出させた一方通行の全能力解放状態でさえも、その全てのベクトルを操作するのは困難を極める。

当然だ。
今上条を包み込む様に形成した竜は、彼が秘めていた能力、魔術の力の残滓によるもの。
ステイルの炎、黒子の空間移動、美琴の超電磁砲、そして一方通行の反射、ベクトル操作。
もちろん、それだけではない。
数え切れない程の能力、魔術の量が組み合わさって、レベル5の力など問題にならない程のAIM拡散力場のベクトルなのだ。

その重さは、計り知れないほど。

あの光線を消すのがやっとだったのだ。
竜は自分の攻撃がかき消されたと察知すると、一方通行に向かいその身体を突撃させる為に翼をはためかせる。
しかし一方通行のベクトル操作の力が強力だった為か、思う様に身体を浮かせられなかった。



それは、一重に見れば弱っているかの様。



「──────ぐっ!?」

そこで一方通行から現出した翼は、彼の体力の限界を告げたかふっと消えてしまったのだった。
741 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/02/06(日) 17:46:15.10 ID:Zqh8XHEDO

「当麻………………」

あのいつもの顔は何処?
あのいつもの声は何処?

「グルアアアアァァァッッ!」

一方通行のベクトル操作の力により、苦しみ出した様に見えた竜が唸った。

あれが、上条、なのか…………?
あれが、自分の愛した少年の姿なのか…………?

その少年の面影は、あの竜からは微塵も感じられない。
ただ破壊に身を任せた、化け物の様。

「一方通行!」

再び倒れ込み、彼の背中に現出していた黒翼も消えてしまったのが視界に入った。
それに打ち止めが駆け寄り、一方通行を抱き止める。

「グルルルル…………?」

竜の身体がゆらめく。
所々鱗がめくめるみたいに剥がれ落ち出していた。

「グアアァァァァッッ!!」

しかしそんな事は構わず、より一層大きな雄叫びを上げ打ち止めの身体がビクンっと跳ねたのが分かった。





「とうま………………?」



そして美琴と共に、誰よりも彼の身を案じる少女の声が場に響き渡る。

742 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/02/06(日) 17:47:14.33 ID:Zqh8XHEDO

「イン、デックス…………っ」


「とうま、だよね…………?」

その竜が、上条だと肌で感じたのだろうか。
修道服に身を包んだ少女が、黄泉川と木山の横を通り過ぎ。
土御門と御坂妹の横を過ぎ。
自分の横を通り過ぎ…………。

打ち止めと一方通行の横を通り過ぎた。

「とうま、どうしちゃったの…………?」

「禁書目録!危険だ!近付くな!」

美琴の後ろから土御門の叫びが響くのだが、インデックスには聞こえてはいない。
ただ、上条に近寄るだけ。




「グルル…………!?」




それを見た竜の口が──────凶悪に歪んだのが、美琴の目には見えた。


743 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/02/06(日) 17:47:55.66 ID:Zqh8XHEDO


もはやそれは自我も無いただの殺戮の化け物で。



美琴の大の親友ともなったインデックスに牙を剥き出して。



一方通行のベクトル操作を振り切り、再びその口を開けて。



あの光線の様な光を再び灯し始めて。



──インデックスが…………危ない!!

美琴の頭にはそれだけが浮かび──────





「インデックス────ッッ!!」




そして竜の口目掛けて、美琴の指から超電磁砲が放たれた。





ドオオオォォォン!!!



その音速を越え放たれたコインは、竜の喉元へと突き刺さり、首と胴体を引きちぎっていく。

   パリーン………………

何だかガラスが破られた様な、グラスを割った様な、そんな音が場に響き渡った──────。
744 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/02/06(日) 17:48:47.35 ID:Zqh8XHEDO

「グガアアアァァァッッ────!!」

悲鳴を轟かせながら、地面に崩れ落ちる竜。
美琴はインデックスをそれ以上前に行かせないように後ろから抱えていて、二人共その様子を固唾を飲んで見守っていた。

それ以上前に進めば、身は危なかった。
割れたガラスの様に竜の身から段々と剥がれ落ちていくその破片が高温の鉄の塊の様に壁や床を焼けただれさせていく。

「………………っ」

悲鳴も聞こえなくなり、落ちた首は床の黒い染みに溶けていき。
……次第になくなってしまった。

「当、麻…………!」

胴体の方からも、上から溶けていく様に形を失ってゆく。
木山も御坂妹も土御門も黄泉川も打ち止めも、ただ呆然と見ているだけだった。

そして、一瞬目映く閃光が轟いた。







「くっ………………」





「とうま!」



その閃光の後に残ったのは、膝を付いている上条の姿だった…………。
745 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/02/06(日) 17:49:27.85 ID:Zqh8XHEDO

──俺は、一体何を…………!?

ようやく意識を取り戻せた。
意識を一瞬で奪ってしまった症状。
自分の中の黒い何かが、まるで上条の身体を支配してしまったかの様だった。

汗が地面に垂れ落ち、ボロボロの床に染みを作る。
そこで上条は、周りに目を向けた。

「………………!?」

焼けた様な跡の惨状。壁は崩れ、所々溶けているかの様。

──これは…………俺が、やったのか……?

御坂妹、土御門、黄泉川、木山がいる。

一方通行は倒れていて、打ち止めが傍にいる。

インデックスがいる。



そして、美琴がいる。



「………………っ」



美琴の目に見えるのは何なのだろうか。
自分を、どんな風に見ているのだろうか。
自分は、愛した少女に何をしてしまおうとしたのか。


怯え、侮蔑、畏怖、敵対──────。


そんな顔にさせてしまったのは、自分なのだろうか。
746 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/02/06(日) 17:50:21.49 ID:Zqh8XHEDO

 理解出来た。
倒れた一方通行も、崩れた壁も床も。
怯えた美琴も。

やってしまったのは、全て自分だと。

「………………」

立ち上がる。

ビクッ────────。

自分の一挙一動を見守る少女の、震えた様子が手に取る様に分かった。

一歩美琴に近付く。
ギュッとさらにインデックスを抱く腕の力が込められていた。

──…………はは、とんだクソ野郎の化け物だな、俺は。

その目は来ないで、近寄らないで。
言葉に無くても、そう語っている気がした。

「………………っ!」

近付く事に震えが増している様に、美琴の身体は震えている。
インデックスも回された美琴の腕を、自身も抱く様に持っている。
彼女に触れたい。
声が聞きたい。

そして、一歩、また一歩と進むと。

キュッと、美琴の目が瞑られた──────。






「…………無事か?怖がらせて悪かった………………美琴」







上条は、気付けば踵を返し走り出していた────。
747 : ◆LKuWwCMpeE :2011/02/06(日) 17:51:13.66 ID:Zqh8XHEDO
書き溜めてきます!
748 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/06(日) 17:52:26.47 ID:YXBPIb2Vo
舞ってる
749 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/02/06(日) 17:54:33.10 ID:XzKI0HTH0

750 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/06(日) 18:09:19.46 ID:N9FONvgto
乙〜
続き待ってます!
751 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/06(日) 18:10:55.70 ID:0D5tq2aKo
752 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/06(日) 18:21:42.65 ID:rAMRvkjAO
面白いじゃァありませンかァ
753 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/02/06(日) 18:36:23.80 ID:lWXheqsAO
ヘ(^o^)ヘ
  |∧   いいぜ
  /


      /
  (^o^)/
 /(  ) 
/ / >



   (^o^)三
   (\\ 三
   < \ 三




(/o^) まずは
( /  
/く     ぶち[ピーーー]
754 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/06(日) 22:04:40.56 ID:5xwY5QCu0
処女作のSSとは思えない出来の良さだな
755 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/06(日) 22:15:42.61 ID:rU4IAG5yo
書き溜める速度半端ないな
乙です
756 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/06(日) 23:48:20.72 ID:vGQ4Y58V0
 たし蟹処女作には到底見えない
 にしても上条さん、心中御察し申し上げます
 自ら命を絶つ追うな人じゃないはずだから大丈夫だと思うけど……
757 : ◆LKuWwCMpeE :2011/02/07(月) 00:40:09.23 ID:3y0709oDO

「当、麻………………?」

上条の深い優しさ、呼んでくれた名前、そして悲しみの含んだ声が美琴に届く。
美琴は瞑ってしまった目を開けると、上条はもう近くにはいない。
この建物の入り口にて、まるで逃げるかの様に走っていく上条の背中が見えた。
…………その背中は、悲しげに寂しげに見えて、泣いていたかの様で。

「当麻………………!」

自分は…………彼をまた拒絶してしまったのか?
優しく声を掛けてくれた彼に対して、化け物の様に思ってしまったのか?
あれだけの人に対して底抜けに優しい彼が、こうなった事態に誰よりも自分を責めてしまう少年なのに?


何よりも、彼を愛していたのに?


「当麻……当麻っ!!」

「みこと………………」

「いや…………私……いや……そんな、当麻…………!!」
758 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/07(月) 00:40:19.50 ID:bCEdtaBDO
今日は終わり?
759 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/02/07(月) 00:41:15.49 ID:3y0709oDO

 彼の寂しさに沈んだ背中が美琴の脳裏で何度も再生される。
公園での時も。
そして、つい先ほどの時も。
彼は何度も救ってくれたのに。

自分は、何度も彼を拒絶してしまった。

美琴よりも少し小さな少女に回していた腕を放し、顔を押さえて蹲る美琴。
インデックスも美琴の背中に手を置き、気を静める様に慰めるが効果は無いだろう。

「私…………当麻に…………いや…………いやあああぁぁぁッッ!!」

「御坂、君…………っ」

「お姉様…………!」

ただその場には、美琴の悲痛な泣き声が、こだまするだけだった。
760 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/02/07(月) 00:42:11.35 ID:3y0709oDO

 あれから美琴は何をどうしていたか覚えていない。
気付けばある一室の部屋の椅子にただ座っているだけ。
隣にはインデックスがいて、御坂妹、木山の二人は少し離れた所に座っていた。

「………………」

「みこと…………」

今の彼女を表現するならば、放心状態……言わば脱け殻の様な姿だった。
その顔は悲愴に濡れ、溢れる涙も拭う事なく彼がいつも使っていたベッドを見つめている。

そう。
彼女達がいたのは、上条専用と化しているあの病室だった。

インデックス達もそんな美琴に対してどんな言葉を告げれば良いのか分からず、口を開き掛けては瞑ってしまっている。

「当麻………………」

美琴はただ誰もいないベッドに、少年の名前を呟くだけ。
痛々しいその表情に、光を与える者はいなかった。

 時刻ももう夕方に差し掛かるという所。
あの時吹き飛ばされた異国の男女は完全に戦意を喪失し、黄泉川のアンチスキル達が連行していった。


コンコン────


するとノックの音が響き、扉が開く。

「白井君…………」

事後処理を終えたのか、腕に着けた腕章を外しながら入室する黒子の姿があった。
761 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/02/07(月) 00:43:28.12 ID:3y0709oDO

場を見る。とんでもなく空気が重かった。
美琴を見る。いつもの彼女……では、ない。

「お姉様」

「黒子…………」

泣いた顔もそのままに、振り向き入室者を確認した美琴。
そんな美琴の顔は、黒子は知らなかった。

どれだけあの少年が美琴の中で大きな存在かは知らない。
美琴と少年の間に、何が起きたのかも知らない。

「お姉様は」

しかし、今の美琴は黒子の憧れの先輩なんかではない。
絶望に濡れ、ただ地団駄を踏む様に泣き崩れるだけの美琴など、黒子の知る美琴ではないのだ。

あの世間を揺るがせた『虚空爆破事件』、『幻想御手』、『乱雑解放』等の様々な事件。
あれらを解決させる為に、希望の為に各地へと赴いた彼女の勇ましい顔は、今は見る影もない。

だからこそ。

「お姉様は、それでいいんですの?」

見たくないから。いつもの彼女に戻ってほしいから。
活き活きとしたいつもの彼女の顔が好きだから。
笑顔でいてほしいから。

「そんなお姉様は、お姉様じゃありませんの」

だからこそ、叱咤をする。
762 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/02/07(月) 00:44:51.79 ID:3y0709oDO

「黒、子…………?」

その泣き顔に少しだけ驚いた色が付け加えられる。
インデックスも御坂妹も木山も、ただ見守っているだけだった。



──良いわけ、ないじゃない…………!

しかし自分が彼に顔を合わせる資格など有り得ようか。
こうして、かつて彼のいた場所で彼の身を案ずる。
贖罪にもなりはしないが、自分にはもうこうするしか出来ないというのに。

黒子の口が再び開く。

「あの類人猿がお姉様にとって、どれだけ大切な存在かは分かりませんの」

──だったら…………!

だったら放っておいて欲しい。
何せ彼は自分の全てだったのだから。
自分の生き甲斐そのものなのだから。
それを自分から突き放してしまった苦悩、悲しみなど分かってたまるか。

「でも」

黒子が続ける。美琴に嫌われるのを。
何よりも大好きな先輩に嫌われるのを、覚悟して。

「でも、私がお姉様の立場だったのなら、そんな弱虫みたいにいじけるだけの惨めな姿にはなりませんの」

「………………っ!」

「私だったらば、じっとはしていられませんの。大好きな方があの様な状態になっても」

黒子の目はじっと美琴の目を見つめている。
少しでも、伝わってくれればいい。
彼女を救うのは、自分ではない。
それでも少しだけでも、伝わってくれればいい。
763 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/02/07(月) 00:46:05.67 ID:3y0709oDO

「死ぬほど追い掛けて、追い掛けて」

美琴がそうなったとして。
例え自分がどれだけ傷付こうが酷い目に会おうが。

「この手で、どんな手を使っても捕まえてみせますの」

美琴の手が震える。身体が、震える。

自分は、何をしているのだ────?

もう彼の傍から離れないと決めたのではないのか?
愛する彼と何があっても共にいると決めたのではないのか?


『当麻の身体は、私が治してあげるわ!』


あの時、その言葉と共に笑顔をずっと守ると決めたのではないのか?






「立ちなさい!超電磁砲、御坂美琴!」






その黒子の叱咤が、いつしか美琴を立たせていた。
764 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/02/07(月) 00:47:08.80 ID:3y0709oDO

「うぅ…………ミサカは、ミサカはぁ……」

「………………チッ。ピーピー泣くなクソガキ」

また先ほどのロビーにて、演算補助を再始動した打ち止めと復活した一方通行の二人がソファー腰を掛けている。
一方通行の胸の中で打ち止めは泣きじゃくっていた。

「でも……グスッ、ミサカは…………あの時、ヒック、あの人にあんな事、言っちゃって…………グスッ」

打ち止めが言っているのは竜化した上条へのあの言葉。

許さないから────

打ち止めはその吐いてしまった言葉が、上条を傷付けてしまっていたのではないかと後悔していた。
上条がこの場から姿を消してしまったのも、自分のせいだと自分を責めてもいたのだ。

いくら一方通行が傷付けられようとしたからと言って、自分を含む妹達約一万人の命を救ってくれた相手に投げていい言葉などではない。
しかし打ち止めは感情に身を任せ、そう吐いてしまった。

「………………チッ」

こういう時どう慰めればいいのか分からない一方通行は困った様な顔をしながら舌打ちをした。
ここで打ち止めの身体を、頭を撫でられる素直さが彼に備わっていれば話は別だったかも知れないが、気恥ずかしさが先行してしまう彼にはそれが出来なかった。

「あァン?」

そこで走る様な足音が響き渡り、音を立てている少女の姿が目に入った。

「一方通行と打ち止め…………」

自分の胸元で泣きじゃくる打ち止めのオリジナル、美琴だった。
765 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/02/07(月) 00:48:06.12 ID:3y0709oDO

──…………息吹き返しやがったかァ。

先ほど見た絶望していた美琴の顔とはまるで違う。
涙の跡は残るが、それは何かを本気で決意したか、そんな様な顔付きだった。

「うぅ……お姉様ぁ……」

「打ち止め、…………どうしたの?」

美琴が身を屈め、泣く打ち止めと視線を合わせた。

「ミサカは……あの人に謝らなくちゃ……グスッ」

「…………っ、そう、ね」

打ち止めはそんな事を言う。

しかし美琴にとって、一番に謝らなくてはならないのは自分だった。
何度も自分を気に掛けてくれた彼を拒絶した自分が、許せないのだ。
だからこそ、彼に会いに行く。
だからこそ、想いを伝えに行く。
自分が彼に抱く想いを包み隠さず、全て。

「オリジナル。奴の居場所は分かってンのか?」

「…………ううん、分からないわ。でも、探す」

「お姉様…………」

美琴に何があったのか、何が彼女を奮い立たせたのかは分からないが、その心境の変化に打ち止めと一方通行は驚いた。
見ていられなかったあの状態から、ここまで活力を取り戻した美琴。

    上条に会う。

今の美琴の全てだった。


「俺も奴には言いてェ事があるなァ」

「み、ミサカも!」

「…………それじゃあ、行くわよ。皆で、連れ戻すわよ」

そして三人は、病院の外へと、己が望む希望へと向かっていった。
766 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/02/07(月) 00:49:28.90 ID:3y0709oDO

「ンで、探すあてはあンのか?」

「取り敢えず、アイツのいそうな場所に行ってみようと思う。まずは家ね」

「お姉様あの人のお家知ってるの?行った事あるの?ってミサカはミサカは聞いてみる」

「う、うん…………ま、まぁ…………」

少し元気になったか、茶化すような打ち止めの言葉に美琴は頬を染めながら答える。

「何処だ?」

「うん、第七学区なんだけど……」

「お姉様の寮と近いの?ってミサカはミサカは問い詰めてみたりっ」

「うん、意外とね」

そんなやり取りを見ながら一方通行はチョーカーのスイッチを入れた。

「テメェら二人とも俺に掴まれ。飛ぶぞ」

「うんってミサカはミサカは飛び付いてみるっ!」

一方通行がそう言うと打ち止めは背中に飛び付いた。
美琴は何だか分からない様な顔をしていたのだが、強引に一方通行が手を引っ張った。


「え、え?な、何──────ひやあああぁぁっっ!?」


美琴が言い切る前に一方通行の脚が強く地面を蹴り、文字通り飛んだ。
767 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/02/07(月) 00:50:36.28 ID:3y0709oDO

有り得ないほどのスピードで50メートル程の高さまで一瞬で上がり、第七学区の方角へと進行方向を変える。

「舌噛むンじゃねェぞ」

そんなスピードの中、一方通行の言葉が届いたのかどうかは分からない。
気が付けば美琴の知っている道、いつもの上条宅へと向かう道に着地していた事に気が付いた。

「す…………凄いわね…………」

感想はもはやそれしか出ない。
無理に引っ張られたからか、少し肩が痛んだが別に気にならないほど。
もう向こうにここ数日間で何度か通った白い建物の姿が目に写っていた。


「あそこよ」


視線で告げると、再び三人は風になる。
ものの数秒で入り口まで到着していた。
768 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/02/07(月) 00:51:29.26 ID:3y0709oDO

「当麻………………」

いるかどうかは分からない。
電気がつけられていない様子を考えると、いないのだろうか。
しかし行動しない事には分かりはしない。

ピンポーン──────。
意を決して、インターフォンを押す。
後ろで打ち止めも少し緊張している様な様子が伝わった。

「………………」

反応は、無い。

もう一度、押した。

ピンポーン──────。

「…………………………」

待てど、やはり反応はない。

「いないのかな…………ってミサカはミサカは……」

打ち止めも残念そうに呟く。一方通行は予想していたのか、別に表情を変えたりはしていなかった。

「………………当麻」

呟く。
いないのか。
…………いてほしい。
その想いで美琴のいつもの方法で、ドアを開ける。

ガチャ──────。

ドアが開くと、夕暮れの陽が射し込む窓ガラスがまず目に映った。
そして、中に入った。
769 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/02/07(月) 00:52:33.05 ID:3y0709oDO

「当麻………………?」


反応は、ない。
物音一つしない。



やはり、いなかった。




「いなかったねってミサカはミサカは…………」

探した少年の姿がなかった。
だが、美琴はそんな事ではもうへこたれなどしない。

「次、あの公園に行くわ」

少し落ち込んだ様子の打ち止めに対して、気にするなと言う意味合いも含ませて気丈に言う。

「掴まれ」

美琴が鍵を閉めるや否や、一方通行が美琴の腕を掴んだ。
打ち止めは既に彼の背中に張り付いていた。

「うん」

そして、視界は空中へと移っていった。

上条が自分との思い出の場所にいるのかどうかは分からない。
しかし、いてほしかった。
自意識過剰だと言われたっていい。
彼の特別でありたかった。
「ン──────」

すると飛びながら、一方通行の喉の奥からそんな声が聞こえる。
打ち止めも美琴にそれに気付き打ち止めが尋ねる。

「一方通行?どうしたの?ってミサカはミサカは聞いてみたり」

「…………。いや、何でもねェ。それよりももう着くぞ」

眼下に広がったのは緑が生い茂るあの公園。
美琴にとって、色々な…………本当に色々な思いが詰まったあの公園だった。
770 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/02/07(月) 00:53:55.99 ID:3y0709oDO

 あの自販機の前に着地する。
あのベンチもすぐ近くにあり、人が座っていた────。


「当………………」


しかしそこに座っていたのは、何処の誰だか知らない男子学生。
自分の探した少年ではないと分かると、美琴も悲しそうな表情を作った。

「この公園、あの人といつも会う所なの?ってミサカはミサカは聞いてみる」

「うん…………って言うか私がいつも待ち伏せてるだけなんだけどね」

「ストーカーですかテメェは?」

自分の言葉に美琴は何かを気付く。

待ち伏せ──────。

ここで待ってれば、彼が現れるのではないか?
いつもの登校時間や下校時間辺りになるとダルそうな顔をして、彼が歩いて来るのではないか?

『お、おっす』

『…………ふあーあ』

『人が挨拶してんのに無視すんなゴラアアァァッ!!』

『ちょ、御坂待て!ビリビリすんなああぁぁぁ!!』

『ビリビリ言うなあああぁぁぁ!!』

『ぎゃあああぁぁぁ不幸だあああぁぁぁ!!』

何故自分はいつも彼にすぐ攻撃的な態度を取ってしまっていたのか。

しかし、今なら分かる。
好きだから。
自分に気を向けてほしかったから。
彼に自分の気持ちを気付いてほしかったから。
771 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/02/07(月) 00:54:48.19 ID:3y0709oDO

──でも、あんなんじゃまるで子供ね…………。

自身がやった照れ隠しの行動は、紛れもなく子供だった。

そんな事を思い出し、少し切なくなってしまった。

「ちょっくらコーヒー買ってくらァ」

一方通行の声にハッとし、美琴は意識を咄嗟に戻す。

「うん、ってミサカはミサカはお姉様とここで待ってるよ!」

「って一方通行、どこ行くのよ?自販機そこにあるわよ?」

しかし一方通行が歩いて行った方向はあの自販機のある方向とは逆方向だった。

「そこのには俺の飲みてェのが無ェ。テメェらはそこで大人しく待っとけ」

一方通行はそう言うと、背中を向けツカツカと歩いて行ってしまった。

「あの人の好みって結構うるさいからってミサカはミサカは納得してみたり」

打ち止めもそんな事を言って、美琴の手を握る。

「そうなんだ」

美琴はそんな二人を見て、やっぱり打ち止めと一方通行、凄い仲いいんだなという感想を抱いていた。













やがて二人から姿が見えなくなる所まで行くと、一方通行は切っていたチョーカーのスイッチを入れる。

「……………………」

そして地面を蹴り、一方通行は目にも止まらぬスピードである場所へ向かって行った。
772 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/02/07(月) 00:56:02.99 ID:3y0709oDO

「美琴………………」

上条は今自分が何処に向かって、これからどうするのかを自分自身でもよく分かっていなかった。

自身の頭にあるのはあの時の恐怖に震えた美琴の顔。

「………………っ」

明らかな拒絶、明らかな畏怖。
自分と言う化け物に、何処か行け、いなくなれと言っている様な表情。

思い出しては、胸が苦しくなった。

自分は好きだった少女に何をしようとした?
守ると決めた少女に、何をしようとした?
一歩遅ければ、殺してしまっていたのかも知れなかった。

右手を見る。
異能の力を消す幻想殺し。
この力で、救うと決めたのに。
守ると決めたのに。

「くそ………………!」

視界が滲む。もう何がなんだか分からない。
とにかく自分に腹が立っていた。

舞い上がっていた。
美琴に近付けて、仲良くなれた様な気がして。
あの実験の時だって、救えた様な気がして。
773 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/02/07(月) 00:57:03.99 ID:3y0709oDO

しかし自分がやった行為は、美琴にとって全て逆効果だったのではないのか?


『そういうの、やめてよね…………迷惑だから』

その言葉と、海原とのキス。

「…………う……あ……っ」

悔しい。何が悔しいのか分からないが、とにかく悔しかった。

もう自分は、彼女といてはいけない。
もう誰ともいてはいけない。
この訳の分からない力で、傷付けて苦しめてしまうから。

こんな力など、いらなかった──────。


「ここは…………」

 そこで上条は、あの実験の時のあの場所にいる事に気が付いた。

御坂妹、一方通行、美琴。
色々な事があった。
戦って、守って、倒れて、介抱されて、救ってくれて、気を失って、死なせてしまいそうになって──────

「美琴………………っ」

会いたい。とにかく、会いたい。
でも………………会えない。
彼女が幸せならそれでいい。
幸せにするのが自分でなくともいい。

とにかく、彼女が愛しかった────────。











「よォ、三下ァ」



そしてその『操車場』に、一人の男の声が響き渡った。
774 : ◆LKuWwCMpeE :2011/02/07(月) 00:58:50.92 ID:3y0709oDO
今日はここまで
>>758
本当は今週中に終わらせるつもりだったけど終わらなかった
来週中には完結するよ!
775 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/07(月) 01:01:53.30 ID:/jFI0dH3o
おつ!
776 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/07(月) 01:06:32.18 ID:xnSep9rb0
 乙!!
流石一方通行。ヒーローを助けるのもまたヒーローか……
777 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/02/07(月) 01:06:40.54 ID:bCEdtaBDO
乙!がんばってくれー
778 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/07(月) 01:09:12.49 ID:vHg3PfkQo
乙〜
続き待ってます!
779 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/07(月) 01:15:00.99 ID:xNhbWIGwo
おおお終わっちゃうか…いや当たり前だけど
寂しいけどとにかく期待!
780 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/07(月) 01:59:35.54 ID:ZvivTv6N0
やべぇおもしろい
781 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/07(月) 02:19:30.49 ID:HxezJJaU0
力が目覚めちゃったかー
ドラゴンドレッド的な意味で
782 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/07(月) 02:53:40.14 ID:vs0nagioo
追いついてしまっただとおつ
783 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/07(月) 03:13:29.45 ID:aYhyYgvIO
追いついた!と思ったら月曜の3時だと!?おのれ魔術師!
784 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/07(月) 03:29:55.24 ID:IRScnUlbo
僕の三下も爆発しそうです><
785 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/07(月) 10:40:26.87 ID:Mmm1fmxno
上条さん…キャパシティダウンで妹達が苦しんでるの見てから飛び出してきたのに
アホみたいに能力使いまくっちゃだめだろ。ちょっと使っただけで妹達悶絶したの
忘れたのか・・・。
考えなく右手振り回しながら自分の主張を押し通すお馬鹿が上条の売りだが
今回は輪を掛けて馬鹿すぎる、せめて躊躇えww
786 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/02/07(月) 17:36:31.04 ID:v9RcRH9AO
保守
787 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/07(月) 19:02:19.56 ID:/inblVTAO
この板では保守などイランッ!
788 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/02/07(月) 20:36:58.53 ID:v9RcRH9AO
そうなのか
すまん
789 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/07(月) 20:46:18.69 ID:3Ot9TG4AO
>>785
冷静に状況判断する上条さんなんて
790 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/07(月) 21:30:37.68 ID:gYsRp5QAO
>>785
なんかうぜえ
791 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/02/07(月) 21:40:23.40 ID:7vs+g7sAO
面白いよ〜
792 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/02/07(月) 23:16:19.92 ID:bCEdtaBDO
まだか
793 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/02/07(月) 23:37:10.29 ID:v9RcRH9AO
今日は更新はなしなのかな?
794 : ◆LKuWwCMpeE :2011/02/07(月) 23:47:33.64 ID:3y0709oDO

「三下ァ、何処へ行くつもりなンだァ?」

白髪の少年が上条に近付いて来る。

「一方通行…………!?」

上条の赤目に驚きの色が混ざる。
何故、一方通行がここに?何処から現れたのかは分からない。
周りを見渡すが、彼一人の様だった。

「テメェも気付いていたんだろォが」

「………………っ」

あの時。
目にも止まらぬ速さで飛ぶ何かが上条は見えていた。
遥か上空の、目にも止まらぬスピードだった為によく分からなかったのだが、何となく一方通行とだけは気が付いていたのだが。

しかし、一方通行だけならまだいい。
もし、美琴が一緒にいたのなら…………。
それを思った上条は、その場にいられなく、場所を移したのだが。
やはり気付かれていた様で、さすがに彼からは逃げ切れない様だ。
少々の焦りを上条は感じる。

「…………で、何しに来たんだ?」

しかし上条の一方通行に対するイメージは前とは全く違っていた。
以前はあの腐った実験を嬉々としてやっていたあの残虐な一方通行しか知らなかったが、打ち止めに危険が迫ったと知って激昂した一方通行を見て、上条の彼に対するイメージはがらりと変わった。
795 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/02/07(月) 23:48:43.42 ID:3y0709oDO

それに、自分をも救ったらしいのだ。
以前なら想像もつかない様な一方通行の行動。

しかし、事実なのだ。

「…………まあいいぜ。とにかく、俺を連れ戻しに来たってんなら、俺はお断り────」

「テメェに言っておきてェ事があってよォ」

上条の言葉の上から被せる様に一方通行が口を開く。
一方通行は笑いを堪えきれないといった様子で口角をつり上げていた。

「何だよ?」

「ククク、クカカカカカ…………!!」

そしてついには、声に出して笑い始めた。
そんな一方通行を上条は訝しげに見る。

「何だよ…………?」

「なァ、どォするよ!?」

「何がだよ?」

言いたい事があるならすぐに言えよ────その言葉を吐こうとしたのだが。











「実験が再開したって言ったらよォ!?」





「何………………?」


上条は一瞬、彼が何を言っているのか分からなかった。
796 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/02/07(月) 23:50:14.06 ID:3y0709oDO

「再開…………だと…………?」

「クカカ!告げられたのはついさっきの事でよォ!テメェに止められて以来、生温い日々を送ってたンだがなァ、とォとォおさらば出来たぜェ!!」

「…………何……言ってんだ…………?」

あの実験?再開?
目の前の男は一体何を言っているのだ?
冗談にしては質が悪すぎるだろう?
余りものその言葉に、上条の思考が止まる。

蘇る。
あの時の理不尽さ、憤りが。
美琴を基に妹達が人工的に造られ、ただ殺されてゆくだけの非人道的にも程がある実験。
人間を人間とも思わないその所業。
欲だけにとらわれた研究者、そして目の前の男。

何より、美琴を泣かせた──────。

「クカカ!再開って聞いた時なァ、まずは手始めにあン時殺れなかったあの10032号を手に掛けたンだけどよォ」

「……何だと?」

上条にとって、聞き捨てならない言葉が吐かれた。

「あのネックレス、テメェがくれてやったんだってなァ。引きちぎってやった時にゃ返せと涙ぐみやがってなァ」

「まさか…………!」

「テメェが無駄に助けなきゃよォ、余計な感情も芽生えず、苦しまずにお陀仏出来たンだがなァ」
797 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/02/07(月) 23:51:47.86 ID:3y0709oDO

「一方通行!御坂妹をどうした!?」

「ここまで聞きゃ分かンだろォが。   殺ってやったんだよォ!」

「てめぇ…………!!」

「お次はあのクソガキだったなァ。ちょっと優しくしたらつけあがりやがってよォ。10032号を殺ったらピーピー喚いて五月蝿かったから腕もいでやったらパタリと泣き止みやがってたなァ」

「黙れ…………!」

「そんでもって…………」

そこで一方通行は一度口を閉じた。
だが続きがありそうなその言葉の雰囲気。
御坂妹に手を掛け、打ち止めに手を掛け────。

上条を嫌な予感がよぎる。
最悪の、予感が。






「邪魔しやがったから、オリジナルも殺ってやった」





「…………何だと?」



その瞬間、上条を中心に爆風が起き、幻想殺しを宿すその右腕に光の衣を纏うが如く、竜が螺旋状に巻き付いていた。
798 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/02/07(月) 23:53:29.13 ID:3y0709oDO

 一方通行は許せなかった。
上条の自身の隠された力に驚き、怯え、他人の為を思ったつもりで取ったその行動を。

あの実験を止め、光を与えられたのは妹達とオリジナルの被害者達だけではない。
あれがあったから、打ち止めに出会えた。
あれがあったから、守るべきものの大切さを知れた。
あれがあったから、光を知れた。
加害者であった筈の自分にも、上条は光を与えたのだ。

それが何だ。
それが何だ、今の上条のザマは。
今の上条の逃げ惑うその姿は一方通行には、ろくな覚悟も持たずに大罪を犯し、『光』へ必死に逃げようとする『裏』の世界のクソッタレ共と重なって見えてしまっていた。

 一方通行から見れば、上条は一種のヒーローだ。
悪者をやっつけて、弱者を救い、最後は笑顔で終わるそんな物語。
小さい頃だったか最近だったか覚えてはいないが、テレビで見た事がある様な気がする。
そしてあの起きてしまった実験は、まるでその物語の様で。
悪者(自分)を倒し、弱者(妹達)を救い、ヒロイン(美琴)を笑顔にし、ハッピーエンドで終わった筈なのに。
そんなヒーロー(上条)は、今は何処にもいない。


だからこそ、自分でも反吐が出る様な嘘を吐いた。


再び上条の目に、火が灯る様に。
奇しくも場所はあの時対峙したあの操車場。
彼を奮い立たせる為に、咄嗟だったとはいえあんな嘘を吐いてしまったこの口に、自身で全力で憎しみを抱きながら全身で受け止めてやろう。





「かかって来い、三下。最強と最弱の格の違い、見せてやる」





「てめえ…………!ただじゃおかねぇぞ!!」



799 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/02/07(月) 23:55:14.03 ID:3y0709oDO




──そうだ、それでいい。それでも、いまだにテメェが自分の力に怯え、誰も救えなくなっちまった様な臆病者に成り下がっちまうってンなら────









「まずはその甘ったれた様なふざけた幻想、俺がぶち殺してやる──────」





「一方通行あああぁぁぁッッ!!」



上条に竜、一方通行に黒翼が現出し、そしてぶつかり合っていった。



800 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/02/07(月) 23:56:45.17 ID:3y0709oDO

「があああぁぁッッ!!」

上条の怒り任せに振るう右手。
自身の身体にベクトル操作を最大限に使い、顔に突き刺さるかの所で横にかわす。

「ッ!!」

上条の突き出した腕から竜の光の様なものが飛び出し、爆薬が積まれていたか如くその先にあったコンテナが大きな音を立てて爆破した。
そしてかわした筈なのだが、一方通行の頬から切れた様に血が流れ出す。

「ダアッ!!」

かわした動きから半身を翻し、一方通行は裏拳を上条の顔めがけて撃ったのだが上条の身体能力で身を反らしかわされる。

「ハッ!!」

そして至近距離のまま一方通行は黒翼を振るい、上条もまた右手を突き出した。

ガギンッ────!!

金属がぶつかり合った様な、そんな音と火花を散らして二人はお互い後ろに5メートル程、後退った。

「テメェ、やっぱ面白ェ右腕持ってやがンな」

数メートル後ろには大破したコンテナ。それを見ると、遠距離攻撃にも気を割かねばなるまい。
しかも、恐らく竜が宿る幻想殺し。
当たれば自身のベクトル操作、反射はたちまち消えてしまう。
黒翼でさえ、当たった部分はそこだけちぎり取られた様に無くなってしまっていた。
801 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/02/07(月) 23:58:27.45 ID:3y0709oDO

「何でだ!?」

「あァ?」

「何でまた実験しようと思いやがったんだよ!?」

「…………。力の為だ」

上条の問いに、一方通行は一瞬言い淀む。
元より嘘なのだ、そんなに答えは用意してはいない。

しかし、『力の為』。

何となしに答えたその言葉は、嘘ではないのかも知れない。
誰かを、打ち止めを守る力が、もっと。

「んな自分勝手な理由でだと…………? ざけんな…………!」

一方通行の深い真意を知らない上条はただ激昂する。
一方通行も別に知ってもらう必要はないと感じているのか、気にした様子は無かった。

「あの部屋で打ち止めは…………打ち止めは楽しそうにあの人は、あの人はって話をしてたんだぞ…………!? てめぇを信じてたんだぞ!? それなのにてめぇは何も感じてなかったのかよ!?」

「………………」

知っている。
打ち止めがクソみたいな自分に信頼を寄せてくれているのだろうと言う事は、肌で感じている。
こんな悪党でしかない自分に向き合い、笑顔を見せて。
自分も打ち止めが将来を誓える相手が現れるまで、いや現れても守っていくつもりだった。
何も感じない筈は、無い。

だが。




「その言葉、そっくりテメェに返すぜ」




「…………何?」


上条の顔が歪んだ。
802 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/02/07(月) 23:59:40.75 ID:3y0709oDO

 打ち止めのオリジナルである超電磁砲、美琴。
美琴も上条がどうにかなる度に泣いて、笑って、また泣いたのを見た。
そして上条に逃げられた時の最後の顔は痛々しいものであり。
…………打ち止めと同じ顔であったから、より感じる所があったのだ。

「テメェがあン時逃げなかったら、オリジナルは笑ってたンだぞ?テメェに掛けた誤解を必死に謝りたくて、泣いてたンだぞ?」

「どういう…………事だよ…………!?」

何が言いたいともそれるその言葉。
誤解云々は打ち止めを通して聞いていた。
互いを想い合うがあまりに起きたその誤解。
物悲しいものではあったが、一方通行は核心を教えてやろうという気はない。

気になるのなら自分で決着をつけろと。
逃げてしまった自分と、求める相手と二つの事を思い戒めろと。



一方通行は、上条の背中越しに写ったものを見て腰を落とす。


803 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/02/08(火) 00:00:45.91 ID:xQJ3T/5DO



「話は終わりだ。まァ奴らもいねェし、次にどっちが生きるか死ぬか、テメェと俺で決着付けよォぜ」



一方通行の黒翼が羽を開く。
美琴達もいない────
上条もその言葉を聞き、それを見て心の内が再燃し右手を強く握り締めた。



「行くぜ三下ああああァァァァッッ!!」





「来やがれ一方通行あああぁぁぁぁッッ!!」










「当麻!!」


「一方通行!!」



二つの白と黒の光がぶつかり合い、凄まじい爆音と爆風を巻き上げたその場にまた二つの叫び声が混ざり合っていった。
804 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/02/08(火) 00:01:24.59 ID:xQJ3T/5DO

 いくら待っても一方通行は戻って来なかった。
何となく、胸騒ぎがした気がした。
何故だか分からない。
分からないのだが、打ち止めもまたそうだ。

「お姉様…………っ」

「………………」

ギュッと打ち止めの手を握る。

胸騒ぎ…………上条に、会えなくなってしまうのかという胸騒ぎだった。
もう夜に近い闇が押し迫っていて、この公園を照らすのは備え付けられた街灯だけが頼りだ。
その暗さもまた美琴の心に不安を塗り付けている。

「あの人…………能力使ってる…………」

「え…………?」

そしてその打ち止めの言葉が美琴の心臓を鷲掴みにするみたいに響いた。
一方通行が能力行使の状態になっている、という事は。

「戦ってるの…………?」

それなら、誰と?



…………いや、恐らく。考えるまでもない。




「ツンツン頭のあの人に、もう演算解除出来ないの。振り切られて、ずっとそのままだからあの人とかどうかは分からないけど…………」

分からないけど──────感じる。

説明出来ないが、感じる。

「打ち止め!行くわよ!」

「うん!」

気が付けば美琴は走っていた。
自分と、妹達と、一方通行と、そして上条の縁のあるあの場所へ。
805 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/02/08(火) 00:03:21.19 ID:xQJ3T/5DO

ぶつかり合った後、何が起きたのかは分からなかった。
一方通行は黒翼を、そして自分は右手をぶつけて、光と衝撃と音が破裂した。

「ぐあっ!!」

「があァッ!」

自分の幻想殺しは、確かに黒翼を消したのだが消え方が今まで打ち消してきた異能のものとは違った。
いや、魔術のものと近い様な、そんな感触。

そして、その時に聞こえた二つの何かが割れた様な音。
凄まじい衝撃音の中に確かに聞こえた小さなその音だが、何故だか頭の中には衝撃音よりもその割れた様な音の方がしっかり残っていた。

自分は今、何をしているのだろうか。
どういう状態なのだろうか。
顔に、身体に、手に冷たい感触を感じる。
冬の寒さに冷えた、冷たい硬いもの。

そうか。
自分は今、倒れているのか。
それがコンクリートだと分かると、上条は妙に納得してしまった。

視界が全く見えない程の煙と砂煙の中、誰かの足が上条の頭の近くに寄って来ていたのを感じた。

──…………負けたんだな、俺……。

その足ははっきりと見えないが、恐らく一方通行なのだろう。
諦めない精神力には自負があるのだが、今はもう指一本たりとも動く気がしない。
まるで自分の中の全てを出し切ってしまったかの様な疲労感と痛むズタボロの身体。
しかし意識ははっきりしていた。
806 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/02/08(火) 00:04:51.74 ID:xQJ3T/5DO

──俺も、お前の所行けっかな…………。

自分で心の中で呟いて苦笑いをする。
全て、美琴で埋め尽くされていた。
それほどまでに、大切な大好きな女の子だった。



ザッ──────。



とうとうその足が顔のすぐ上にまで来た。

それを感じると、上条は目を瞑る。
色々な思い出が駆け巡った。
記憶を無くして、魔術師と戦って、能力者と戦って、イギリスに行ったりイタリアに行ったり。
楽しい思い出、辛い思い出、色んな事があった。

しかし、やはりどんな時でも浮かぶのが美琴の顔。
泣いた顔、笑った顔、喜んだ顔、照れた顔、怒った顔────

そのどれも一つ一つが大切だった。
大好きだった。
だから、幸せを願う。
自分などいなくても既に幸せなのだろうが、彼女の幸せをより一層。
彼女の不幸分を全て引き受けてもいい。

ただ、美琴が幸せになってくれれば、それでいい。


807 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/02/08(火) 00:05:54.11 ID:xQJ3T/5DO





上条の身体が、引き上げられた。

──悔しいなぁ…………。会いたいぞ、美琴………………。












「やっと…………やっと捕まえた………………当麻」


引き上げられた上条の耳に届いたのはその言葉。

上条の身体を包んだのは、世界で一番優しい感触だった──────。





808 : ◆LKuWwCMpeE :2011/02/08(火) 00:06:41.65 ID:xQJ3T/5DO
今日はここまで
また明日来る!
809 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/08(火) 00:07:28.88 ID:urqWTW5AO
乙です

もうそろそろ終わりか…
810 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/08(火) 00:07:44.44 ID:t+xxarbAO
随分焦らしやがりますね
811 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/08(火) 00:12:01.36 ID:Lmi6SMLAO
何か上条さんらしくない
敢えてかな
812 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/08(火) 00:17:03.07 ID:Rjym/QgQo
乙〜
続き待ってます!
813 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2011/02/08(火) 00:17:35.45 ID:YSc0ZwLa0
ちょ、俺の姫神は?でてこないのか?
まぁ出てこないんだろーな〜
orz

これすごく面白いな 今まで見てきたシリアスな禁書目録のssの中で一二を争う面白さだ
814 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/02/08(火) 00:21:23.16 ID:/asnEx7AO
焦らしプレーか
興奮してきたww
815 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/08(火) 01:21:30.44 ID:/skeY9c+0
 実際、上条さんの本当の力が発現したとして、
もし誰かを傷つけてしまったらこんな風になりかねないな。
救わなければならない対象を認識できれば話は別だけど。
それに対して一方通行は長年それと向き合ってきたから、
その時上条さんを助けるのはここみたいに一方さんかもしれないな。
 早く続きが読みたい……
816 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/08(火) 01:50:34.28 ID:80tnkpKE0
乙です

一方通行が黒翼を、上条さんが竜をコントロール出来るようになった・・・!?
817 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/08(火) 03:21:10.13 ID:C0UIy3r5o
オウフ
追いついてもーた
818 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/08(火) 16:25:23.94 ID:/asnEx7AO
期待あげ
819 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/02/08(火) 20:37:51.14 ID:/asnEx7AO
まだかな
820 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/08(火) 20:39:39.86 ID:heN4UJino
明日って言ってるだろ
sageろ荒らし携帯
821 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/02/08(火) 20:41:15.94 ID:/asnEx7AO
昨日からは明日は今日だろ
822 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/08(火) 20:43:26.49 ID:3raDypsj0
もう残り二百もねえんだ

需要ねぇレスは控えろよ分かったな
823 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/02/08(火) 20:55:52.88 ID:/asnEx7AO
それならお前もだろ
824 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/08(火) 21:03:55.59 ID:qSVzqMnfo
止まれ
825 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/02/09(水) 00:45:21.87 ID:QKtWtTWAO
下げる意味ってあるのか?
826 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2011/02/09(水) 00:49:20.02 ID:wnVR3SMO0
>>825
おい

















おい
827 : ◆LKuWwCMpeE :2011/02/09(水) 00:53:14.92 ID:kI7EFVyDO

 その声が上条の脳に染み渡る。
しかし上条は理解が出来なかった。

「え……………………?」

何故。
何故彼女が、今ここにいる?
一方通行に、殺されたのではなかったのか?

──夢、か?
  幻、か…………?

自分の五感を疑う。
この感触、この声、この匂い────。
確かに、自分の知る感覚だ。

「当麻…………!もう、何処にも、行かない、で…………!」

自身の顔は彼女の胸に押し付けられている為、目を開けても何も見えない。
しかし、確かにその声は。

「み、こと………………?」

「当麻…………当麻ぁ…………!」

自分を呼ぶその声と共に、首に回された腕の力がギュッと強くなった。
感情が昂ったのか、涙混じりの声色になっていた。
自身の手を動かし、自分もまた抱こうと考える。

しかし身体の痛みや、信じられないという気持ちで手がどうしても震えてしまっている。

この手が、空を切ってしまわないかと。
この自身を包む温かい感触が、無くなってしまうんじゃないかと。

自身はこんなに臆病な人間だったのだろうか。
しかしそれほどまでに、信じられない、信じたい、抱きたい────
828 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/02/09(水) 00:53:51.29 ID:kI7EFVyDO

「あ………………」

肩を触る。確かな感触。

「当麻ぁ…………グスッ」

背中に回す。…………間違いない。




美琴は、ここにいる。




「本当に…………美琴、なんだな………………?」

「当たり前じゃない…………他に誰が、いるってんのよ……」

「そっか…………よかった」

「もう、離さないわよ…………絶対に…………」

そのまま、二人は深く深く抱き合っていた。
829 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/02/09(水) 00:54:32.17 ID:kI7EFVyDO

 ようやく上条も落ち着き、身を起こそうと足に力を入れる。

「…………つっ」

「大丈夫…………っ?」

美琴も上条の身体を支えながら、屈んでいた自身の姿勢も立たせる。
そこではっきりと上条の顔を見た。

あぁ、彼がここにいる。

その事実だけで美琴の心はこれ以上無いくらいに満たされていくみたいだった。

しかし彼の顔のある部分を見た瞬間、美琴の目が大きく見開かれた。

「当麻…………目が…………!?」

「ん……?」

上条の目。真っ赤になりつつあったあの黒目が。

そのかつての黒の光を、取り戻していた。

「戻った、のか…………?」







「恐らく、あの……得体の知れねェ、竜の力を…………使い切ったせい、だろォな…………」





「一方通行…………!?」

その出し辛そうな声と共に、上半身を起こしていた一方通行の姿が目に入った。
830 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/02/09(水) 00:55:29.43 ID:kI7EFVyDO

「完全に、テメェに取り込まれたって…………考えても、いいかもな……」

そしてその一方通行を、打ち止めが支えている。
しかしそれを見ても、上条はいまだに状況を把握出来ていなかった。

一体どういう事だ。
打ち止めも、一方通行に殺されたのではなかったのか。

上条の目に写る、横にいる美琴と前方にいる打ち止め。
そこで上条はハッと気付く。

「おい、一方通行…………実験が再開したってのは…………」

「へ?ミサカはそんな事全然聞いてないよ?」

一方通行の身体をギュッと抱き締めながら、打ち止めは素っ頓狂な声を上げる。

「でも、あいつは再開したって…………」

「え?何言ってるの?この人がもうそんな事する訳無いよってミサカはミサカは言い切ってみる」

その一方通行を全て信じている様な打ち止めの言葉、行動に上条は事実を悟った。

「ね?」

「嘘、だったのか…………?」

「…………。 …………チッ」

打ち止めの無条件で一方通行を信じている一途な心。
一方通行に向けられた、そんな打ち止めの純真無垢な笑顔と上条のその問いに返したのは、舌打ちだけ。

…………一重にそれは、肯定を意味していた。

「当麻…………一方通行も、アンタを探してくれてたのよ……?」

そして上条の耳元に届いた美琴の声。
他のどんなものよりも、上条の脳に染み渡るその声に、上条もやっと肩が下りていった。
831 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/02/09(水) 00:56:10.16 ID:kI7EFVyDO

「そう、だったのか…………」

「…………ケッ。目ェ、覚めたかァ?」

「……一生寝られなくなる気持ちだったぜ」

「死んだ魚のよォな目ェしてた奴がよく言うぜ」

一方通行も溜め息を吐く。
それは暗に、手間取らせやがってと言っている様だった。

「悪かったな、一方通行………………サンキュ」

本当に、色んな人に迷惑や心配を掛けたと感じた上条は、自然とそう口が動いていた。

「ありがとな」

その言葉は一方通行だけに向けたものではない。
打ち止め、そして勿論一番に美琴にも向けた、上条の今の素直な思いだった。
832 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/02/09(水) 00:57:02.57 ID:kI7EFVyDO

「あなたは、よかったのですか?と、ミサカは…………問います」

「クールビューティ?」

あれから美琴が出て行った後の病室に残った、インデックス、御坂妹、黒子、木山。
彼女らはただ無事に、美琴達が戻ってくるのを願っていた。

「お姉様に行かせて…………よかったのですか?」

御坂妹はインデックスに尋ねる。
お互い想い人は同一人物で、その気持ちは本物の筈。
故に御坂妹は聞きたかった。
インデックスが、敢えて美琴に行かせたその真意を。

「うん、いいんだよ」

躊躇もせず、まるでそうするのが当たり前かの様にインデックスは言い切った。
だから気になった。
まるで始めから諦めていたかの様なその言い方に。


「でも、あなたもあの方の事を」

「それは」

途中でインデックスが口を挟む。
微笑みを浮かべて、まるで優しく言い聞かせる様に御坂妹の目を見てその口を開かせた。

「クールビューティも、一緒でしょ?」

自分も、一緒。
それは単に彼に好意を寄せているという事だけに関してなのか。
それとも。

それとも、自分のその思いと共に奥深くに感じていた想いも含めて、なのか。
833 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/02/09(水) 00:57:42.67 ID:kI7EFVyDO

目の前の、小さな修道服姿の少女の目を見る。

「………………」


その深い緑色の瞳は、まるで全てを見透かしている気がして────。


ああ、やはり彼女も自分と一緒なのだ、と御坂妹は察知した。

色々な部分で、一緒だった。
彼に好意を寄せるのも、彼を追っていった少女を大切に思っているのも。
そしてその少女が、彼の傍にいる時が一番幸せな顔をしているというのを知っている事も。

だから、彼女に行かせたのかと悟った。

そしてその彼と彼女は、もうすぐここに戻って来る事を打ち止めとの通信を通して知らされている。

御坂妹とインデックスの気持ちは一緒だ。
彼が戻って来るのをまだ知らない筈のインデックスなのだが、戻って来るのを信じている様子で。





笑顔で、迎えてあげよう。



ガチャ──────。





「…………その。 …………ただいま」




「おかえりなさい」

「おかえり!とうま」

834 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/02/09(水) 00:58:19.10 ID:kI7EFVyDO

「ふむ、安定してるね」

「目も戻った様だし、特別なAIM拡散力場も、もう君からは観測しない」

脳波のモニターを見ていた冥土帰しと、AIM拡散力場を計測していた木山が告げた。
その言葉に、椅子に座っていた上条と後ろで固唾を飲んで見守っていた少女達の口から安堵の溜め息が漏れた。

「しかし、何があったんだ?」

突然に常人の脳波、AIM拡散力場の数値になった事を疑問に思った木山が尋ねる。

「うーんと…………」

上条は言い淀むが、考える。

 ここはハッキリさせておかなければいけない事だ。
有耶無耶にして、もしまたあんな事が起きてしまえば────。
だからこそ、原因を究明しておきたい。おかなければならない。

「さっき、一方通行と戦った時に」

「…………戦った?」

木山が表情を一変させて上条を見た。
上条と後ろのソファーに座っていた一方通行は、少し気まずそうにしていたが続けた。

「右手、幻想殺しから竜みたいなのが出まして。…………多分、俺の知らなかった力だと思うんですけど」

「竜…………」

あの時の竜、か。
病院のロビーで暴走したみたいに暴れ回り、一方通行と美琴の超電磁砲で何とか静めた、あの竜。
835 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/02/09(水) 00:59:08.62 ID:kI7EFVyDO

あれが放っていたAIM拡散力場は、もう計り知れないものだった。
無意識に展開する力のフィールド。
例えて言えば湯気の様なものだ。
そしてあの時、その湯気自体がもうレベル5同等のものなのだった。
近くにいるだけで吹き飛ばされてしまいそうな、そんな圧倒感をあの竜は放っていた。

「戦っていた時、何故か制御出来ていた様な気がします。それで最後に」

「…………ふむ。それで?」

「一方通行とぶつかった時に、パキンって音がしました」

あのぶつかり合った時に、上条の身に感じたのは凄まじい衝撃と、そしてグラスが割られた様なあの音。

「音?」

「はい。俺が幻想殺しで能力を打ち消す時に感じるあの音と…………同じだった様な気がします」

「俺の黒翼を消した音、だったか?」

後ろから一方通行の声が届く。
あの時、一方通行の黒翼も根こそぎ打ち消されていた。
もしかしたら、その音なのかも知れない、と一方通行は思う。

「…………いや、違うと思う。一方通行の方からじゃなく……」

あの時を思い起こす。
色んな事があって、上条の記憶は前後してしまうのだが。
大事な事なのだ。


「俺の身体の方から、だった」

そう。
まるで自分の能力が打ち消されたみたいに。
まるで自分を蝕む何かがかき消されたみたいに。
まるで自分の幻想がぶち殺されたみたいに────。
836 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/02/09(水) 01:00:45.62 ID:kI7EFVyDO

「…………そうか」

その言葉に木山は腕を組み、難しい顔をして考える。
幻想殺しについて、彼の身体について未知な事が多過ぎた。
これから研究してはいくが、自分に研究しきれるのかどうか。

「俺の考えなンだがな」

「ん?」

一方通行の声に場の視線が集中した。

「テメェが持つ幻想殺しは、テメェとは別に自我を持ってやがると思うンだがな」

「俺とは別の、自我…………?」

上条は右手を見る。今は何の変哲もない右手だ。
しかし右腕ごともがれたあの錬金術士と対峙した時を思い出した。

あれは、あの竜は自分の意志と関係無しに動いた。

その後気を失ってしまいどうなったか分からなかったのだが、今は上条の斜め前に立っている冥土帰しが右腕をくっつけた為にあの時発現したその竜は姿がなくなっていて。

まるで、自身で自分の身体に『封印』したかの様な気がした。

「恐らくテメェの幻想殺しの中に眠る竜が、能力やら魔術やら喰っちまってたンだなァ」

その一方通行の言葉に上条は妙に納得してしまった。
しかし、何故今になって発現したのだろうか。

「テメェの精神力次第だと思うぜ」

まるで上条の頭に浮かんだ疑問に答えるかの様に一方通行は続ける。

「精神、力…………?」

「確証は無ェがな。まァ、また出やがったら俺ン所来い」

上条は考え込んでいたのだが、最後に一方通行が言った言葉に眉がつった。

「へ?」

「今回は引き分けだったンだがなァ。次があったらその右腕ごとミンチにしてやンぜ」

そして、顔が引きつった。
837 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/02/09(水) 01:02:10.11 ID:kI7EFVyDO

「ちょ、ちょっと!」

「お姉様?」

しかしさすがにそこまで聞けば美琴も黙っていなかった。
一方通行を睨み付け、上条を守るかの様に身を乗り出す。
黒子がそんな美琴に声を掛けたが、美琴は黒子は眼中に無い。

「ミンチって何よ!?そんな事したら私がアンタを逆にミンチにしてやるわよ!!」

「あァ?ンだとオリジナル?なンならテメェを今からミンチにしてやってもいいぜェ!?」

一方通行も首のチョーカーに手を掛けると、美琴と焦りをほとんど見せない冥土帰し以外のその場全員の顔が上条と同じく引きつった。





「「「「ちょ、ちょっと待って(待つんだ)!」」」」





「レベル5の二人にここで暴れられたらシャレにならんわ!」

「落ち着いて!ってミサカはミサカは演算補助ストップの準備をしてみるっ」

「取り敢えずお前ら、落ち着けとミサカは溜め息を吐きます」

「はぁ、一方通行も御坂君ももっと大人になってくれないか…………?」

「ただでさえここは壊されたから、やるなら外でやるんだね?」

こうして、上条に騒がしいいつもの日常が戻っていく。
上条は、そんなやり取りを不幸だと思いつつも、何だか嬉しさが勝っていた様だった。
838 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/02/09(水) 01:03:22.65 ID:kI7EFVyDO

「追い出されちまった…………」

「騒ぎ過ぎちゃったね」

「…………ごめん」

 月明かりと街灯だけが照らす夜の公園を歩く。

あれから冥土帰しに病院を追い出され、上条と美琴とインデックスの三人は家路につく道の途中にあるあの公園を歩いていた。
もっとも、ロビーやら治療室やら大破したあの病院に泊まらせる訳もなく、上条は家へと帰らされていた。
それは冥土帰しが上条の身体を一通り診察して、家に帰ってもいい、という判断を下したと言う経緯もあったのだが。

「…………なぁ」

「どうしたの?」

「何?とうま」

歩いている途中で立ち止まり、上条は美琴とインデックスの二人に目を向ける。
上条の顔は、申し訳ない気持ちやら感謝の気持ちやら色んな感情がごっちゃになった、そんな表情だった。

「…………すまん。悪かった」

口から出たのは謝罪の言葉。
今回、本当に二人…………いや、皆には迷惑と心配を掛けてしまった。
そして何よりも、危険にさらしてしまった。


 自身が許せなかった。
守ると決めた筈の二人を、この手に掛けてしまいそうになった自分に。
易々と意識を飲み込まれた、自分の弱さに。
姿を消してしまえばいい、と考えた自分の安易な逃げに。
どうしても、許せなかった。

いつしか、俯いていて、手を握っていて。
二人の顔が見れなかった。

罵ってくれてもいい。
蔑んでくれたっていい。
そんな安っぽい自分の謝罪など、してもし切れはしない。
救うだの守るだの偉そうな事を抜かしておいて、自分が晒してしまったあのザマはとんでもない弱虫の男だ。
それで二人の気分が少しでも晴れてくれれば、いくらでも甘んじて受けるつもりだった。
839 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/02/09(水) 01:04:34.24 ID:kI7EFVyDO



しかし、俯いた上条の頭を包んだのは。



「…………謝らないでよ…………バカ」




ここ数日で何度味わったのだろうか。
それでも何度でも味わいたい、いくらでも包まれたい。


そんな感触だった。



「み…………さか……?」

俯いた頭を美琴の肩に置く様にそっと優しく美琴は首に片腕を回した。
そして背中に感じるもう一つの腕の感触。
温かい、優しい感触が上条の身体全体に伝わる。

「アンタは、何で…………」

「………………」

「何でそんなに、全部一人で背負っちゃうのよ…………!」

そして彼女の身体が震え出すのが伝わった。
840 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/02/09(水) 01:05:22.92 ID:kI7EFVyDO

「少しくらい…………私にも、背負わせてよ……!」

「………………っ」

「アンタの人を傷付けたくないって気持ちは、分かるわよ…………でもね」

でも。

「私は、もうアンタが一人で傷付いてくのを…………見たくないの…………!」

「御、坂………………」

握り締めた自分の手を更に強く握り締める。
自分を抱き締めるこの少女は、また泣いているのだろうか。

自分だって見たくない。
この少女が、傷付くのが。
自分が傷付けられる以上に、痛むから。

だから、余計な心配も掛けたくなかった。
美琴と会うのは、いつも笑顔でいい。
危険な世界を知らないまま、笑顔でいてくれればいい。
そうずっと思っていた。




841 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/02/09(水) 01:06:20.07 ID:kI7EFVyDO




「当麻、私さっき病室で言ったわよね? ………………後で、話したい事あるからって」





「……………………ああ」





「何で、私がアンタが傷付くのを見たくないか…………分かる?」






何故だろう。

何故、彼女はそんな優しい言葉を投げ掛けてくれる?

何故、彼女はそんなに自分を気に掛けてくれるのだろう…………。

聞きたい。

知りたい。

美琴の事なら、何でも知りたい。

例え他の男のものであろうが、知りたい──────。





842 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/02/09(水) 01:07:14.53 ID:kI7EFVyDO









「私が、アンタの事──────









     大好きだからよ」











「え……………………?」

843 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/02/09(水) 01:08:25.42 ID:kI7EFVyDO


上条は耳を疑った。
美琴は、今何て言った…………?

スキ…………?
ダレガ…………?
ダレヲ…………?


「アンタの事が、好き。世界で一番、好き」


更に聞こえてきたその声。
夢ではないかと疑う程のその言葉の意味。

「嘘、だろ………………?」

だって。
だって美琴は、自分を蔑む程嫌いではないのか。
憎んでいるのではないのか。
海原が好きなのではないのか。
あの時のあの光景は。

「何時言おうかずっと迷ってた。何度口にしかけたか分かんないくらい、アンタの事ばっか考えてた」

「御坂………………?」

「嘘でこんな事…………言える訳ないじゃない…………!」

ギュッと回された腕に更に力が入る。
それはもう、苦しいくらいに。
でもそれよりも、いまだに上条は信じられない。

「アンタが名前で呼んでくれた時、凄く嬉しかった。作った料理を美味しいって食べてくれた時、凄く嬉しかった」

「……………………」

「アンタが私を頼ってくれた時、凄く嬉しかったの。何があっても守ろうって、そう思ったの」

「………………御坂……」

思い出される美琴との思い出。
ご飯を食べて。
料理を作ってくれて。
勉強を教えてくれて。
擬似デートをして。
笑って。
泣いて。
抱き締めて。
抱き締められて。

それを美琴は喜んでくれていたのか?
嫌がってはなかったのか?
844 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/02/09(水) 01:09:21.16 ID:kI7EFVyDO

「アンタが倒れた時、心が壊れそうだった。アンタが…………背中を見せた……時…………グスッ、当麻が…………死にそうって、わかった時…………ヒック……」

声色に涙が混じる。
話すのも辛いだろう言葉を、それでも口に出す。

「当麻に…………あんな事を言っちゃった時……エッグ、当麻に…………勘違いされた時…………」







「もう、いい………………美琴」



「………………っ!」



気付けば、上条も強く美琴の背中に腕を回していて────。



強く、その小さな身体を抱き寄せていた。
845 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/02/09(水) 01:10:01.09 ID:kI7EFVyDO

「当麻ぁ…………っ!当麻ぁっ!」

畜生。
自分はなんていう大馬鹿野郎だ。

自分の気持ちに向き合いもせず、美琴の気持ちにも気付こうとせず。
美琴を一番傷付けていたのは、自分のそういう部分だったのではないか。

自分の想いを込めて、ギュッと抱き締め返す。
どうしようもなく、自分の胸の中の少女が愛しかった。
ずっと、守りたかった。
ずっと、好きだった。


その少女が、自分を求めてくれている。



だったら答えは分かるだろう? 上条当麻。





846 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/02/09(水) 01:10:41.18 ID:kI7EFVyDO







「…………美琴。俺もお前の事────





    大好きだぞ」







「……………………っ!!」





「嘘なんか吐けるか。紛れもない、俺の本心だ。…………ずっと、好きだった」



「当麻……っ!当麻ぁっ!」



そして、二人の想いは深く繋がっていった────────。
847 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/02/09(水) 01:11:29.01 ID:kI7EFVyDO

「よかったね、みこと」

寒空の下、公園で繋がった二人の想いに素直にインデックスは喜んでいた。

「インデックス…………」

上条と抱き合いながら、美琴は首だけをインデックスの方に向ける。
二人を見れば、本当に幸せそうで。

「…………恥ずかしいとこ、見られちまったな」

「言うな!顔から火が出るほど恥ずかしい」

「それでもお互い離さないんだね」

「ぐ…………」

見ているだけで微笑ましい。お腹いっぱいだ。
とても、何だか嬉しかった。

「でも、インデックス…………」

美琴の少し寂しい様な、そんな声。
インデックスも彼が好きなのを、彼女も知っていた。
それなのにその美琴を応援してくれた様な行動の意味は、何故だったのだろう。

「私ね、とうまもみことも大好きだから。私からはそれだけ!」

しかしそれを言うときっぱり口を閉じ、先をトコトコ歩き出してしまう。
上条と二人、顔を見合わせて美琴は首を捻った。

「あ」

声を上げ、インデックスは立ち止まった。

「浮気したら噛み付いてあげるからね、とうま」

それを聞くと上条の顔が引きつる。
彼女の噛み付きは本気で痛いのだろうと言う事はその表情を見れば分かる。
しかしすぐに表情を戻り、次第にはて?という顔になった。
848 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/02/09(水) 01:12:06.04 ID:kI7EFVyDO

「いや待て。そもそも浮気なんか出来ないだろ。こんな上条さんを相手してくれるのは美琴さんしかいないぞ」

「…………よくそんな事言えるね、この歩くフラグ製造機」

上条の言葉にインデックスは呆れた様な顔をする。
美琴はあんぐりを開けて顔を真っ赤にしてどこかにトリップしている様だった。

「上条さんにそんなフラグなんてありませんよ!それに美琴がいれば他には何もいらん!」

キリッという擬音まで聞こえてきそうな程キメた上条に、インデックスは呆れというよりイラっときていた。

「ふにゃー///」

「ちょ、美琴!?ど、どうしたんだよ!?」

そして顔から文字の如く、湯気が出て倒れ込みそうになった所を上条が支える。
冬だったから、余計に湯気の量も多い。

「べーだ」

するとインデックスは舌を出して走ってしまった。

「こら、インデックス!ちょい待て!」

「あはは!先行ってるねー、ごゆっくりー!」

追い掛けたかったが、美琴を放っておける訳もなく仕方なく回復まで待つ事にした。




「…………ったく。 …………ありがとな、インデックス」




上条は自然とその言葉が口に出ていた。

849 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/02/09(水) 01:13:42.47 ID:kI7EFVyDO

「にゃっ!」

「お、気が付いたか?」

あの公園のベンチに二人で座り、そしてやっと美琴は正気を取り戻した。

「あれ、私何を…………」
上条の肩にもたれ掛かる様にしていた美琴は、そこで思い出して顔を再びポンっという音と共に赤らめる美琴。

──やっべ………………可愛い…………。

そんな美琴が素直に可愛いと思ったのだが、口に出掛ける所を何とか飲み込んだ。
口に出したらどんな状態になるか分かったもんじゃない。

「私、どれくらい…………?」

「時間にして約三分間くらいだ。良かったな、カップ麺作れるぞ」

「何言ってんのよ、アンタは…………あれ、インデックスは?」

「先行っちまった。ごゆっくりーだってよ」

そう言いながらその言葉を聞くと、上条の胸にキュッと抱き付く美琴。
上条は内心心臓をバクバクさせながら、そっと美琴の背中に腕を回した。

「寒いか?」

「ううん、あったかい」

「そっか」

「うん」

淡々と交わされるその会話。
何となく、もう何も言う必要は無い。
お互い、全てを出し切った。
奥深くの想いを、包み隠さず。
嬉しさと愛しさで、お互い爆発してしまいそうな、そんな気持ち。
850 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/02/09(水) 01:15:56.98 ID:kI7EFVyDO

「あ、そうだ」

「どうしたの?」

上条が何かに気付いた様に声を上げる。
いや、何かを思い付いた様な、そんな雰囲気だ。

「前言ってたよな?退院したらプレゼントくれるって」

「言ったわね」

確か、上条が入院する朝。
上着もろくに着ずに外に出た上条を見かねて、コートでも買ってあげようと思い付いた美琴の提案だった。

「それがどうしたの?」

ふっと顔を上げて上条の顔を確認する。
上条は少し躊躇している様な、覚悟を決める様なそんな表情をしていた。






「よし決めた。先に貰っておくぞ」





851 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/02/09(水) 01:16:29.78 ID:kI7EFVyDO






「え………………?」











「        」












二つの影が、夜を優しく照らす月明かりの下────






    重なった──────



852 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/02/09(水) 01:17:37.86 ID:kI7EFVyDO


 顔を離せば目を見開いて、呆然とする様な表情をしている美琴。

いまだに何が起きたのか理解出来ていない様な、そんな顔だった。



「え………………え………………///」



そしてその反応。
目をグルグル回して、混乱してしまったかの様だ。

「もしかして、嫌、だったか…………?」

上条はそんな美琴の様子を見て不安になる。
自分を好きと言ってくれはしたのだが、やはりこれはやり過ぎたのではないのか、と。

「!」

そしてようやくハッとした美琴は、ブンブンと首を振る。

「嫌な訳、ないじゃない…………!」

そしてはち切れんばかりの笑顔。
その顔は、どんなものより輝かしいものに上条は感じた。



「へへ、俺のファーストキスだ。美琴の初めては俺じゃないのはちょっぴり悔しいがな」



自分で言っておいて心がキュンと痛む上条。

ダメだ、重症だ。
こんなにも、美琴が好きなのだった。


853 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/02/09(水) 01:18:20.62 ID:kI7EFVyDO




「私も…………初めてだよ?」



「え………………?」



しかし美琴の口から飛んだ言葉に、上条は驚く。

え、でも、だって。
あの時。



「でも、美琴………………」




「あの時はキスなんかしてないわよ」




美琴にとっても、思い出すのが少し辛いあの時の事。

でも、誤解されたままはイヤ──────。

自分の初めての相手は、決めていたから。



「アンタ以外に、いないわよ………………絶対に」




やっと、夢が一つ叶ったから。

やっと、大好きだった少年と繋がる事が出来たから。



「当麻以外とは、絶対にしないから…………」




そして美琴は、再び顔を近付ける。

自分が愛しているのは彼だけ、という印を優しく。

優しく、記していく。


854 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/02/09(水) 01:19:20.25 ID:kI7EFVyDO


「夢、なんかじゃねぇよな」


「夢なんかじゃないわ。当麻とやっと通じ合えたこの瞬間が夢だって言うんなら────





   まずはその幻想、私がぶち壊してやるわよ────」





これから先、どんな事があるのか分からない。

二人を揺るがす、何かがあるのかも知れない。

引き裂こうとする脅威があるのかも知れない。



でも。



でも二人なら、きっと乗り越えていけるのだろう。

こんなにも好きな相手が、近くにいるのだから。

こんなにも信じ合える相手が、傍にいるのだから。





だから、二人で歩んでいく。




二人なら、何だって出来る。

何だって、守れる。

何だって、救える。


「うし、帰るか!」


「うん!またご飯作ってあげるわよ」


「まじか!楽しみだ!」


そんな想いを胸に、美琴と二人で。
         当麻と二人で。


855 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/02/09(水) 01:20:22.08 ID:kI7EFVyDO












これが二人の、確かな想いなのだから──────。







      〜fin〜


856 : ◆LKuWwCMpeE :2011/02/09(水) 01:23:48.41 ID:kI7EFVyDO
あれれー、最初は150レスくらい、一週間で終わるつもりだったのに……気付けば一ヶ月かかっちまったよ
疲れたけど、目茶苦茶楽しかった!
結構見苦しい所まであったと思うけど、読んでくれた人ありがとう!

特に皆のレスが物凄い嬉しかった。

本当に皆ありがとう!
857 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/02/09(水) 01:24:13.35 ID:i6HeBzwDO
乙!激しく乙!
858 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/02/09(水) 01:25:11.53 ID:L+LGIL760
乙!!
月並みだがありがとう!
859 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/09(水) 01:25:17.39 ID:gDKLM/NUo
お疲れええええ
よかった ハッピーエンドでよかった……!
告白の流れでニヤニヤしすぎて顔面の筋肉が相当ヤバイことになってた

ちょっともう一周読み返してくる
860 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/02/09(水) 01:25:20.36 ID:kI7EFVyDO
あれ、>>853>>854ってちゃんと表示されてる?
861 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/09(水) 01:26:56.05 ID:gpue6cLK0
激しく乙

こっからは後日談を待ってていいんだよね
862 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/09(水) 01:28:33.32 ID:8sHagGa4o
乙でした!!!

>>860
表示されてると思う
何かあったんですか?
863 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/09(水) 01:31:22.68 ID:wZMluj8V0
乙!乙! また上琴書いてくれるの待ってる
864 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/02/09(水) 01:33:12.32 ID:kI7EFVyDO
>>862
ありがとう!「おまいが書き込んだ時は混雑してる〜」とか言われて、レス確認したら一応書き込まれた事になってたけど不安になっちゃって。

こんな糞もしもしだったのに、皆ありがとね
865 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/09(水) 01:33:22.58 ID:gDKLM/NUo
>>860
されてる
866 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/09(水) 01:33:30.47 ID:OBY/2Gmb0
 ほんとに素晴らしいものを読ませてもらった。
乙でした!!テストが終わったらもう一回読み返そう。
867 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/09(水) 01:37:57.60 ID:9z8IMCuu0
乙!!
シリアスでwwktkできるスレは久々だったから終始テンションが高く読ませていただいたよ
868 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/09(水) 01:41:46.19 ID:C66V157ao
乙!
おもしろかったよ!
869 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/02/09(水) 01:43:27.20 ID:kI7EFVyDO
後日談か
明日でいいなら書きたい!
870 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/09(水) 01:44:56.37 ID:WoLPnU5DO
乙です!
良かったら後日談とか見てみたいです!
871 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/02/09(水) 01:51:08.18 ID:E7qevOMAO
乙!

ふぅ〜、腹いっぱいだ。

あっ、でもデザートは別腹なので大歓迎ですよ!
872 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/09(水) 01:53:19.66 ID:JRyfy5ljo
明日でいいならとかwwwwww
私は一向にかまわんッッ!!
873 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/09(水) 02:07:29.80 ID:TMRgym4Yo
GJです!
美琴の気持ちが丁寧に描かれてて良かったです
2人が互いを思う気持ちには心が温まりました
紆余曲折いろいろあったけど2人が幸せになれ良かったです
毎晩楽しみにしてたこれもこれで終わりかと思うと少し寂しい…
後日談のほうも楽しみにしてます!
874 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/09(水) 02:24:41.24 ID:+0m4vql2o
えんだああああああいやああああああああ
すっげー面白かった!
後日談も楽しみにしてます!
875 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/09(水) 02:29:03.61 ID:imHU0lKEo
お疲れ様でした!
後日談正座して待ってます!
蟹なべとかやんのかな?
876 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/09(水) 02:40:21.76 ID:RFQyiKy30
さぁデザート作るんだ
877 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/09(水) 03:15:53.87 ID:U8+MIj6UP
乙。いいものだな。
878 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/09(水) 05:02:52.11 ID:jTZNu4Ibo
うあああああああああああああああああああああああ
乙!!!!!
禁書SSで一番感動したわ
本当に面白かった
パンツは脱いでていいんだよな?
879 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/02/09(水) 07:54:56.08 ID:QKtWtTWAO
次回作に期待!
880 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2011/02/09(水) 09:14:22.71 ID:U5MjBLkP0
乙☆
次回作とデザートに激しく期待!!
個人的に主人公が傷つく→ヒロインが心配する って流れが好きだから
美味しくいただきました。一方通行さんもかなりかっこよかったな。
もう掘られてもいいな、きっとベクトル操作で痛くなくしてくr(ry
まぁ何が言いたいかと言うと、次回作をはやく書いてねって事だ。
長文すまそ
繰り返しだが、超乙でした!!
881 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/09(水) 11:53:27.19 ID:tJzIOOpZ0
おつかれさまあああああ!
うわああああああ甘いよ甘過ぎる!
ところでアステカさんが八つ裂きにされるのはまだー?
882 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/09(水) 12:08:45.76 ID:6ukuW8Dz0
乙!
初スレとは思えない構成と安定更新マジスゲェっす
展開も〆も綺麗で感動したわあ・・・
あまあまな後日談楽しみにしてる!!
883 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/09(水) 17:06:00.11 ID:WENCtsVko
お疲れさん

楽しかったよほほほ

884 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/09(水) 17:24:20.76 ID:FtFBSvaZ0
上琴よかったな…お幸せに
一方さんはとことん不器用wwかわいい奴め
インデックスと御坂妹にも拍手を送りたい

もちろん作者さんに最大級の乙を!
885 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/09(水) 17:34:30.15 ID:klTlCn720
登場するキャラがみんないい雰囲気出してて
とても良い上琴だった!!

デザートで口直しをしないとな
886 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/09(水) 22:29:07.18 ID:JU5hW+uLo
砂糖に砂糖かけて食べた気分だな乙
887 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/09(水) 22:35:41.75 ID:NjmJUNcqo
乙!
涙あり、手に汗握る展開ありで最高のssでした
後日談も期待してます
888 : ◆LKuWwCMpeE :2011/02/09(水) 23:23:09.10 ID:kI7EFVyDO

 翌日の、午前九時過ぎ。
日曜日らしく、周りも私服姿の学生達が休日を満喫している中、上条は美琴と待ち合わせをしたあの公園に向かっていた。

「今日は暖かいな」

真冬だというのに太陽はポカポカ元気に働いている様で、マフラーもいらないくらいだった。

 思えば、改めてこうしてデートという認識で美琴に会うのは初めてで、上条も少し緊張している。
待ち合わせ時間は午前十時なのだが、何となく早く家を出てしまい、公園に足を踏み入れたのはついさっきの事。

まあ、コーヒーでも飲んで待っていようとあの自販機がある場所に向かったのだが、自販機の近くにあるあのベンチに座る少女の姿が目に写った。

「美琴?」

「あ、当麻」

彼女も上条の姿に気付くと、笑顔になって走り寄ってくる。
889 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/02/09(水) 23:23:49.93 ID:kI7EFVyDO

「早いじゃねーか。もしかして待ってたか?」

「うん。でも当麻だって早いじゃない」

今日は暖かいとはいえまだ冬、特に朝は冷たい風が吹き付く。
待たせてしまっていた事を上条は申し訳なく思っていた。

「いつから来てたんだよ?」

「でも、私も今来たばっかりよ」

待ち合わせのテンプレとも言える言葉を告げる美琴。
その言葉を素直に受け止め、上条はそっかと笑った。



実の所、今より更に三十分ほど前に来ていたのは美琴だけの秘密だ。

「何だか今日は楽しみでな、ちょっと早く家、出ちまった」

そんな彼と同じ気持ちだった事が、美琴は嬉しかった。

だから、キュッと手を握る。







「………………美琴。本当は随分前からいたんだろ」

「ふえっ!?」

まさかバレるとは思わなかったけど。

890 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/02/09(水) 23:25:09.27 ID:kI7EFVyDO

 そのまま手を握り合いながらセブンスミストに着いたのは午前十時になった所で、開店時間とちょうど重なっていた。

「いらっしゃいませー」

店内に響き渡る、事務的な挨拶の声。

「ほんとにいいのか?」

「いいわよ。アンタに風邪なんかひかれたら困るし」

本日セブンスミストに来たのは、上条の上着を買う為。
しかし退院のお祝いだからと言い張っても、上条の遠慮する様子に少し強く出なければいけない。
彼のいいところであるのだが、欲が無さすぎるというのも少し難点。

「ほら、こんなのどう?」

ハンガーに掛けられたコートを手に取り、上条に当ててみる。
温かそうなコートだ、故に少しずっしり重量感を感じた。

「…………違うわね」

しかしそのコートは合わないと感じた美琴はすぐさま戻した。




上条はチラリと見えた値段の書かれたタグを見て顔をひきつらせていた様子だった。
891 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/02/09(水) 23:25:52.06 ID:kI7EFVyDO

「これなんかどうだろ?」

そう言い、上条が自身の手に取ったのはファー付きのダウンジャケット。
それを自身に当ててみて、鏡で確認している。

「着てみたらどう?」

上条にしてはいいセンスをしていて、悪くないかも、と思いながら美琴は試着室へと促す。

「ん、ちと行ってくる」









「どうだろ?」

「  」

そして時間にして一、二分後、上条が試着室から出る。
上条は少し見られる事が恥ずかしい様な緊張している様な赴きだったのだが。

美琴は口を開けて数秒間静止してしまった。



少し身体にフィットする様なそのダウンジャケット。
彼の男らしい身体つきを殺さずに生かしている。
黒っぽい色がまた彼の魅力を引き立てている様な気がして、その姿に美琴は悩殺されていく。

と言うか、上条スキスキフィルターが完全に掛かっている為何でも似合ってしまうと美琴は感じてしまっているのだが。
892 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/02/09(水) 23:26:56.61 ID:kI7EFVyDO

「い、いいんじゃない?」

「何か歯切れ悪いな」

似合わないのかな?と上条は心配そうにしていたのだが、美琴は首を振った。

「あ、でも、ちょっと待って」

「やっぱダメか」

「そ、そうじゃなくて…………」

「どうしたんだ?美琴」

何だかそんな様子の美琴に上条は怪訝そうに見る。
体調でも崩してしまったんじゃないのかと心配している表情だった。



上条は、どっちかと言うとカッコいい部類に入る。
美琴フィルターが掛かって超絶イケメンに見えてしまっている為、更にそれを引き立てるアイテムを着けてしまったら彼は更にモテてしまうのではないかと美琴は危惧していた。

付き合っている彼氏がモテる事は、客観的に見れば羨ましいで済む。
しかしその当人ともなればうかうかなんかしていられない。
でももっとカッコいい彼氏が見たい。

そんな葛藤が美琴の胸中で渦巻いていた。

「いいと思ったんだけどなぁ」

残念そうにジャケットを脱ぎ、ハンガーに掛けた上条を見て美琴はハッと意識を現実に戻した。
893 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/02/09(水) 23:27:42.10 ID:kI7EFVyDO

ああ、彼が残念そうな顔をしている。
あれは確かに、似合っていたのに。
自分の身勝手な我が儘で彼を困らせてしまっていたという失態を美琴は恥じ、覚悟を決める。

「…………それ、貸して。買ってくるから」

「ん?でも」

「気に入ったんでしょ?それ」

「…………まあ」

ポリポリと頬をかきながら答える上条。

他の人に取られそうになっても、渡さなければいい。
それに、彼も自分を好きだと言ってくれたのだ。
それを自分が信じないでどうする。
自分も、彼が好きなのだから────








「ありがとな、美琴」

袋を持って微笑みを見せる上条。

「べ、別にいいわよっ///」

彼のそんな微笑みに一番弱い美琴はついそんな口調で返してしまうのだが、お礼を言ってくれたのが嬉しい。



ぶっちゃけ、服を買うだけの話だったのだが何故こんなにも大袈裟に悩むのだろうか。

それほど、彼の動向を気にしているから。
それほど、彼の全てが知りたいから。

「ん…………」

「どうした?」

「手」

「あいよっ」

この温もりは、絶対に誰にも渡さない。渡してなるものか。
894 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/02/09(水) 23:28:40.05 ID:kI7EFVyDO

店から出て、お互いの温もりを確かめ合いながら道を歩く。
それだけで、満たされる。
それだけで、嬉しくなる。

「夜は鍋にしようと思うんだけど」

「鍋か、いいな」

「ふふ、美琴スペシャルを食べさせてあげるから覚悟しなさい」

「はは、何だよそりゃ。まぁでもインデックスには気を付けなきゃなぁ。油断すれば全部食われちまう」

楽しい。相手と話をするだけで、道を歩くだけでこんなにも楽しい。

するとそこで、上条がキョロキョロ周りを確認した。



「よし」



どうしたの?と尋ねようとすると、上条がそう意気込んだ。




895 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/02/09(水) 23:29:18.37 ID:kI7EFVyDO





「ありがとな、美琴。お礼だ」








「    」






柔らかい、感触。




896 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/02/09(水) 23:29:56.01 ID:kI7EFVyDO



「つーかまぁ、俺がしたかっただけだったな。はは、悪い」




「あう………………///」




もう。

すぐ彼は謝る。

謝る事など何も無いのに。




「当麻」




「ん?」








「もう一回…………お礼して?」







自分に向けてくれているこの幸せの現実に、美しい琴の音を奏でていこう。




彼と二人で、ずっとね。



897 : ◆LKuWwCMpeE :2011/02/09(水) 23:33:44.24 ID:kI7EFVyDO
これにて終わり!

何だろう、甘々な上琴が書きたかっただけだった。

本当に大好きだこの二人
898 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/09(水) 23:36:09.54 ID:TLrhC4GAO
おつうううう!!!
899 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/09(水) 23:38:53.40 ID:/xKC2Ioko
超乙
900 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/09(水) 23:41:18.06 ID:imHU0lKEo
乙乙
やっぱ上琴はええのお
901 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/02/09(水) 23:59:48.71 ID:E7qevOMAO
おっつ!


そして、ありがとう〜!
902 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/10(木) 00:21:45.90 ID:n7uodBkZo
乙。これからは砂糖不足で悩む日々が始まるのか
903 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/10(木) 00:25:26.95 ID:lL6YCqcIO
おつ!
禁書の世界観を活かした山場を作りながらも甘々なラスト
とてもよかった。同じくSS作者として勉強になりました
次回作にも期待してます
904 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/10(木) 00:35:25.21 ID:j2WKdvMe0
おつ!!!!幸せな気分になれた
905 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/10(木) 00:53:51.36 ID:kXmGzrZao
おつかれえええええ
おいおい誰だよガムシロップがジャリジャリ言うほど砂糖混ぜたの…
906 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/10(木) 00:59:20.78 ID:PQMHZABk0

マジで書いてくれるとは思わなんだ
これで悔いなく逝ける
ありがとう
907 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/10(木) 01:40:33.36 ID:9aqCIMdSo
乙〜
甘すぎ…吐きそう
908 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/10(木) 02:08:34.85 ID:/xJcdEfF0
すげぇ…甘いです。
909 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/10(木) 02:38:50.06 ID:P5Ni3qK+0
 正統派禁書×味の出る立派なキャラ達×メープルシロップ

 ほんとにありがとう!!!!永久保存決定かも!
910 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/10(木) 06:30:00.59 ID:ISyA5/+bo
むほおお
たまらんこの甘さはたまらん
乙乙乙
911 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/10(木) 09:58:51.42 ID:cxcl2vSDO
>>881
安心しろ、ショチトルには俺が連絡しておいた。


とりあえず>>1乙ゥ!
912 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2011/02/10(木) 11:45:23.55 ID:8FevprMr0
ぐわぁ 胸焼けが、胸焼けがーーー!!
おかわりしたいな、なーんてね。
乙乙乙乙乙でした!!
913 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/10(木) 12:25:33.52 ID:ZaE61WNAO
激しく乙!
甘すぎておかわりしたくなったぜ

上条もげろ

やっぱもげんな、美琴を幸せにしてやれ
代わりに俺がもげとくわ
914 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/10(木) 16:45:13.76 ID:yGfA5m1Qo
いや待てお前だけ行かせねぇぜ俺ももげる
915 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/10(木) 17:40:04.62 ID:ioZ95uZL0
じゃあ俺も
916 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/10(木) 17:55:51.21 ID:7Qszv/vDo
お前らだけには任せられねェ

 俺だけで充分だ
917 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/10(木) 18:04:48.32 ID:8bSROlO8o
じゃあ俺は五和とイチャラブしてますね
918 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/10(木) 19:22:21.55 ID:LjA2qPV0o
ずっとタイトル「身体が……痒い」だと思いこんで読んでいなかった。
勿体ない
919 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/10(木) 22:21:41.30 ID:Tjdxfa9/o
乙!
やっぱし上琴最高!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
920 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/11(金) 00:12:50.35 ID:hxLYr7fIO
>>918
何そのバロディ
921 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/02/11(金) 00:34:58.21 ID:IZ5RBuRDO
よし
明日後日談2を投下する!
922 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/11(金) 01:07:17.52 ID:W2/hcGObo
まさかの大盤振る舞い(服を脱ぎながら
923 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/11(金) 01:12:44.70 ID:1b1hN/2ho
マジでか!
924 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/11(金) 02:01:14.70 ID:DsyfvKuao
ヒャッホー
925 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/11(金) 10:02:16.49 ID:LclNhbfD0
待ってるぜぇ!
926 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/11(金) 10:30:37.21 ID:gfchMNlc0
皆にワクテカの魔術が舞い降りたッ!
927 : ◆LKuWwCMpeE :2011/02/11(金) 23:39:55.58 ID:IZ5RBuRDO

 ワイワイガヤガヤという騒ぎの中、見知らぬ部屋に一方通行はポツンと女性達…………いや、少女達の群れの中にいた。

「ンで、どォして俺はここにいるンだァ?」

とっても居辛そうな気まずい表情を浮かべ、一方通行は壁にもたれる様にして座っていた。

それにしても、狭い。狭すぎるぞ、この部屋は。

自分を含め、既に八人。
右から見れば、打ち止め、御坂妹。
ベッドの上にはインデックスが座っていて、正面には木山がいる。
そして左にあの時にいたジャッジメントの少女と、そして何故か知らない少女も二人座っていた。
一人は頭お花畑、もう一人は小さな花の形のヘアピンを付けている少女だ。

いや、花畑の方は…………見た事があるな。
そんな事を思い浮かべながら周りを見る。

しかしこれだけの人数が部屋を占拠していると言うのに、この部屋の主がいないとはどう言う事だ。
そしてその人物に一番近しい少女の姿もなかった。

ワイワイ、キャピキャピ────。

女三人寄ればかしましいと言うが、それどころの人数ではない。
計算上、倍以上の人数の黄色い声が場を支配していて、一方通行は非常に場の空気に馴染めずただ窓の外を眺めていた。

「むー、あなたも会話に参加してよってミサカはミサカは人付き合いが苦手そうなあなたを心配してみたり」

「断る」

そんな打ち止めの誘いを一刀両断し彼の機嫌が悪いせいもあった。
928 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/02/11(金) 23:43:18.05 ID:IZ5RBuRDO

何故悪いのか。簡単に説明するとこうだ。





      拉致られた。





それしか言えまい。
だって演算補助を解除され、身動きが出来なくなった所を打ち止めと御坂妹に運ばれ、見知らぬ部屋に連れて来させられていたから。

いや、見知らぬ部屋というのも違って実は一度来た事があったのだが、その時は部屋の形や模様を堪能する暇など無かった為に見知らぬ部屋という表現はそのまま当てはまっていた。

何処だと聞けばあの男の部屋だという事を聞かされ。
何故連れて来させられたと尋ねればニヤリとだけ返され。
帰ると言えば、演算補助解除するよと言って脅される。

何となく打つ手なしと言った形で渋々この部屋にいるという様子だった。

「で、ちょっと気になってたんだけど、あの人って誰なのかな?」

すると少女の中の一人が一方通行に視線を向けてそう尋ねる。
目が合ったのだが、答える義務はないし面倒臭い。
人の名を聞くならまず自分から名乗れ、とは言わずに特に興味なく窓の外を眺めるのを続行していた。

「一方通行って言うんだよってミサカはミサカは代わりに返事をしてみたり!」

「通称セロリです、とミサカは補足します」

「誰がセロリだコラ」

流石にそれには口を挟まざるを得ないが。

「一方通行、さん…………?日本の方じゃないのかな?」

その名前に髪飾りの少女、佐天は首を捻る。

「いや、違うよ。彼の能力がそのまま名前になっているんだ」

苦笑いしながら答えたのは木山だった。
929 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/02/11(金) 23:46:11.44 ID:IZ5RBuRDO

「能力、ですか…………この人もさぞ凄い能力者なんだろうなぁ……」

それを聞くと、佐天は少し複雑な顔をしていた。
能力というワードに反応した様で、何かコンプレックスでも抱え込んでいるのだろうか、と一方通行はその呟きに感想を持った。

「凄いなんてものじゃありませんの。230万人の中の第一位なんですの」



「「ええっ!?」」



黒子の言葉に反応したのは佐天だけではなく、お花畑…… 初春の声も混ざっていた。

「だだだ、第一位!?そんな人が何でこんな所に!?」

特に佐天の驚きは半端ない。
その大きな目を更に大きく開かせて、一方通行に指を差して口を大きく開けていた。
何気に失礼な行動にも見えるのだが、一方通行は気にしない。
それよりも早く帰りたいとばかり思っていて、ぶっきらぼうに窓の外をじっと見ていた。

「どんな能力なんですか!?」

まるで有名人を見つけた!とばかりに一方通行につかみ掛かる勢いで尋ねる佐天に目を移して、舌打ちを打った。
面倒臭いが、答えてやった方が早そうだ。

「ベクトル操作」

「ベクトル、操作…………?」

パッと言われた言葉に首を傾げ、反芻する。
何だかよく分かんない、という表情をしているのは分かった。

「あらゆる熱量、光の量、運動量、電気の量とか色々なベクトルを操作できるんだよってミサカはミサカは説明してみるっ」

「言うなればチートもやしです、とミサカは付け加えます」

いちいち御坂妹の言い方に眉がつるのだが、怒るのも面倒臭い。

「そうなんだぁ…………まだよく分かんないけど、凄いんだね、第一位だし」

「…………」

やけに第一位につっかかるな、という印象を一方通行は持った。
顔を見れば悩み事があるかの様な、そんな表情。

930 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/02/11(金) 23:47:36.59 ID:IZ5RBuRDO

「それに比べて、私なんか能力つく気配もないし…………」

その呟きが一方通行の耳に届いて、何となく把握する。

 佐天は能力が発現しない事にコンプレックスを抱いていた。
美琴や黒子、初春という彼女の友人達は既に能力が発現しているというのに、自分だけはどうしても出ない。
一方通行は知らない事なのだが、あの『幻想御手』に手を出してまで能力を欲しがっていたのだ。
あの事件をきっかけに佐天は変わったのだが、それでも心の奥底ではやはり能力者というのに憧れを抱き、セコい近道はもうしないもののどうにか能力が出来やしないか常に考えていたのだ。

「私なんか、どうせ頑張ってもダメなんだろうなぁ…………」

しかしいつまで経ってもその気配が無い事に、佐天は焦りと不安を感じていた。
自分のやっている事は全て無駄な事ではないのか、と。

──………………チッ。

気付けば一方通行は舌打ちを打っていた。
ウジウジしている様子が妙に腹立たしく感じていた。

「佐天さ────」





「だったらやめちまえばいいじゃねェか」





「え…………?」

空気が止まる。
突然に口を開いた自分に視線が集まったのが分かった。
931 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/02/11(金) 23:49:04.39 ID:IZ5RBuRDO

「無理だと思っているンだろ?ンならもうやめちまえばいいじゃねェか」

「…………っ」

「ちょ、一方通行?」

打ち止めが咎める様に名を呼んだが、一方通行はそれを手で制した。

「ンなウジウジしてる奴に、能力なンざ出るかよ。もう荷物纏めてここから出て行きゃいいだろォが」

「……………………」

佐天の目に段々涙が溜まっていく。
下唇を噛み、必死に堪えようとする表情は悔しさを表していた。

「……………………さい」

「あァ?」

とうとう俯いてしまった少女から、掠れた様な声が響いた。
手をグッと握り締め、それは震えてもいる。



「勝手な事言わないで下さい!!あなたに…………私の何が分かるって言うんですか!私の苦しみが分かるんですか!?第一位に無能力者の気持ちが分かるんですか!?」



「佐天さん!?」

怒りに任せ、怒鳴り散らした佐天に初春が止めようとするが。

打ち止めが初春の手を取って、落ち着いてと視線で訴えた。

「あァ、分かンねェな」

「だったら…………!」










「だが、諦めたらそこまでなンじゃねェのか?」






「え………………」
932 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/02/11(金) 23:51:22.58 ID:IZ5RBuRDO

「俺は知ってるンだがな。どンな状況だって諦めねェで、俺でさえ困難な状況を気持ち一つで乗り越えてきやがった『無能力者』を、な」

「………………!」

「そいつは自分がどンなに傷付こォが苦しもォが、諦めずに誰もが逃げ出すような状況も乗り越えやがったンんだ」
その姿を思い出す。
間違っていた自分を変えたあの姿を。
クソッタレの幻想をぶち殺した、あの姿を。

「腕っぷしとか、特別な能力とか、そういうのじゃねェ。諦めねェ気持ち一つでな。気持ちだけで、俺に勝ちやがった」

「第一位のあなたに…………勝った……?」

思う。
おそらくその少年が幻想殺しを持っていなくとも、自分は負けていた。
始めから、負けていたのだ。

「諦めるンなら、死ぬほど努力しやがれ。死ぬほど足掻いてみやがれ。そっからでも遅くねェだろォが」

だが、自分にも守るべき者は出来た。
とてもしきれるとは到底思えないが、償いの方法も見つかった。

だからそいつにも負けない様な『想い』の力を、自分もつけてやろう。

そう、思っていた。
933 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/02/11(金) 23:53:43.24 ID:IZ5RBuRDO

「あの、すみませんでした…………」

あれから佐天は泣き出してしまい、黒子と初春が佐天の背中を優しく慰めていた。

「チッ。ウジウジしてンのが気に障っただけだ」

「全く…………君も素直じゃないな」

「うるせェ」

木山の言葉に不機嫌そうに一方通行は答える。
木山の膝の上に座っていた打ち止めも何だか嬉しそうな表情を一方通行に向けていた。

「しかし、佐天君に能力がつかないかと聞かれればそんな事は無いと私は思うんだがね」

「え?」

そんな木山の言葉に佐天は泣き腫らした顔を上げて木山の顔を見た。

「『幻想御手』の時。君は確かに能力を使えていたのだろう?」

「…………はい」

「あァン?」

一方通行が怪訝な顔をする。
幻想御手の事は耳にしていたが、詳細は知らない。
しかし今はそっちではなく、能力が使えていたと言う事が一方通行の中で引っ掛かっていた。

「オイ」

「はい?」

少し一方通行に引け目を感じてしまったか、ビクッと反応をして佐天は返事をする。
そっと、佐天の頭に手を乗せた。

「一方通行?」

「オイ、そン時の感覚は覚えているか?」

木山の何をしているんだという声を無視して佐天に問い掛ける一方通行。
もしかしたら、という考えが一方通行の中で浮かんでいる。
934 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/02/11(金) 23:55:01.93 ID:IZ5RBuRDO

「ええと……あんまり…………で、ですけど!思い出します!」

頭に置かれた手の感覚がどう感じているのかは分からない。
ただ少し、緊張しているだけ。




「あ、何となくこんな感じだったかな────────






その時、突如風が部屋の中に巻き起こった。






「きゃっ」

扇風機の中くらいの強さの突然の風に、スカートがめくれそうになるのを押さえる初春。彼女はいつもこんな役回り。

「え、え、何今の!?」

一番驚いていたのは佐天だった。
その風は自分を中心として巻き起こり、髪の毛がふわふわとなびいている。

そこで佐天はハッとした。
確か、あの幻想御手の時に使った能力は『空力』。
もしかしたら、という予感が佐天の頭の中でよぎり、一方通行の顔を見た。
935 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/02/11(金) 23:56:14.34 ID:IZ5RBuRDO

「この風は、テメェの能力だ」

「私の、能力…………?ほ、本当に今、私が……!?」






風を起こしているのか。






佐天は興奮を抑えられなかった。
一方通行が頭を置いた途端、あれほど欲しがっていた能力が発現したのだ。
確かな、自分の能力。
何だか状況はよく掴めないが、嬉しかった。

「あ…………」

しかし一方通行が手を離した瞬間、風はパタリと消えてしまった。

「能力っつーのは一種のプラシーボ効果の延長線上のもンを科学的に発現させたよォなもンだ。パーソナルリアリティのもう一つの言い方を知ってるか?」

そして一方通行の口からよく分からない話が飛び出してきたが、授業でも聞いた事がある、そんな気がした。

「『自分だけの現実』、ですよね?」

「そォだ。要するにだ」

 プラシーボ効果とは、人体にも影響を及ぼす『思い込み』だ。
ある被験者にただのビタミン剤を渡して、下剤と告げる。
そしてそれを飲んだ者は、実際に下剤を服用した効果が現れたという検証結果も出ていた。
それほどまでに、人間の『思い込み』の力は影響を及ぼすのだ。

事実、この学園都市の能力の発現の方法も、学生達の『思い込み』の力を利用したものだ。

自分ならこれが出来る、こういう能力が使える────

実際どれだけ思い込んだかによって能力の強さの差が出るのだ。
故に、脳が形成されてしまった成人には発現しない。
こうなる筈がない、出来る筈がないという雑念がどれだけ思い込んだ『つもり』になっても、成人の脳はそれを邪魔してしまうのだ。
936 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/02/11(金) 23:58:02.73 ID:IZ5RBuRDO

だから、『脳が未完成の内』ではないと能力の発現見込めないのだ。



「つーわけで自分で出来ねェと少しでも思ってンなら、絶対出ねェ」

「なるほど…………」

一通り説明した後だが、分かった様な分からない様な表情を浮かべる佐天。

確かに、自分は無理だと思ってしまっていた。
絶対、出る筈が無いという気持ちが少しでも脳内にこびりついていた。

でも今は違う。
一方通行の補助があったとはいえ、先程能力を実際に使い風を起こした。
だから。

「もう一回、やってくれませんか?」

出来た時のイメージを定着させておきたい。
絶対、出来るんだと自分に自信をつけておきたい。

「ン」

一方通行が佐天の頭に手を置き、再び風のベクトルを操る。
佐天の目は先程とは違い、希望を秘めていた。
景気付けに少し強めのやつにしてやるか、とその目を見て考えていた一方通行。
己のベクトル操作で、彼女が起こした『無風』をレベル4と同等の力に増幅させていく────




ガギンッ!





その瞬間、ドアが飛んだ。





「ぶほっ!?」




レベル4もの力になると、大型トラックでさえ動かせる程のその力。
一方通行の操作によって玄関先にむけてコントロールされ、放たれた空力は、ドアを吹き飛ばす事など造作もない。
ドアが外れた大きな音と共に、飛んできたそのドアに吹き飛ばされたのだろう少年の悲鳴が響き渡った。

「げっ!?」

「当麻ぁっ!?」

佐天がヤベ、といった表情をし、同時に少年の隣にいたのだろう少女の叫び声が響く。

「ナイスですの!」

上条の最後に耳に届いた言葉は、佐天に対する黒子の嬉々とした称賛の声だったという。

937 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/02/11(金) 23:59:15.51 ID:IZ5RBuRDO

「で、妹達は分かるとして、何で黒子達はここにいるのよ」

気絶した上条の頭を膝に乗せながら佐天と黒子をベッドの前で正座をさせ、不機嫌そうな表情をしながら美琴は尋ねた。

本日はサプライズで上条退院パーティを開こうとインデックスと計画していて、あの件に関わった御坂妹、打ち止め、木山を上条に内緒で呼んでいたのだ。
…………一方通行まで来るとは思ってなかったのだが。

しかし黒子もあの時居合わせていたとはいえ、美琴は何となく黒子まで呼ぶのをやめとこうと話してなかったのだが、何故彼女が今ここにいるのか疑問に思っていた。
というか、何故黒子がここを知っているのだろうか。
それに上条とほとんど面識の無い初春や佐天までいるのだ。
気になるのは仕方の無い事だった。

「お姉様の純潔を類人猿から守る為に決まってるんですの!」

「ば、バカ!いきなり何を言い出すのよ!///」

黒子の返した答えに美琴は顔を真っ赤にさせ反論する。
しかし上条に膝枕をしているという姿の為、彼女が否定しようが説得力は無い。

「だってお姉様!昨日あんな遅くまで隣で乙女声を出しながら電話されれば誰だって気になりますの!」

「「「「へー」」」」

「ほう」

「ちょっと!///」

黒子の言葉にインデックス、打ち止め、初春、佐天、木山が興味津々といった様子の顔付きになり美琴に視線を送る。
御坂妹は笑顔で握り拳を作っていた。

「何なんですの!?『明日は楽しみにしてるから』って!隣にいた私の事完全に世界の外に置いてしまわれて!」

「………………///」

「まるでお付き合いでもなさってるかの様な挨拶交わしてんじゃねえですのおおおおおぉぉぉ!!」







「あれ、みことまだ言ってないの?」




「ほォ」

「「「「「「えっ」」」」」」



インデックスがそう言った瞬間、空気が止まっていた。
938 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/11(金) 23:59:28.66 ID:tsiRKmGho
こんなの一通さんじゃない=ω=
939 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/02/12(土) 00:01:23.72 ID:UNVgwFaDO

「まさか付き合っていたとは」

木山は次々に鍋に具材を入れながら冷やかす様に美琴に告げる。
台所では佐天が野菜や肉を切り、初春が運ぶ。
インデックス、打ち止め、一方通行は何もする事が無いと言われた為にただじっと座っている様だ。
美琴といまだに起きない上条は体勢は変わらずだ。

「チクショウアノルイジンエンイツカコロス…………」

「ミサカハカクゴシテイマシタケドマサカコンナニハヤククッツイテシマッテイタトハトミサカハ…………」

肩を落としながら呪詛の様にぶつぶつと呟いている黒子と御坂妹は放っておいた方がよさそうだろう。

「ん…………」

「あ、当麻。大丈夫?」

するとそこで上条が気が付いたのか、目を開ける。
それに美琴は心配そうな表情をして尋ねた。
940 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/02/12(土) 00:03:04.20 ID:UNVgwFaDO

「おお…………あれ、俺どうしたんだっけ」

記憶が前後しているのか、起き上がりながら頭を押さえて目をパチクリとさせるのだが、まずはこの状況に戸惑った。

「え、え、何だここ。何でこんなに人がいっぱいいるんだ?」

この部屋にいる人数は自分の知る限り過去最高だ。
自分を含め、何とその数十人。
見れば知らない少女の姿も…………いや、一度会った事あるなと記憶を呼び起こすのだが。

「ここ、俺の部屋だよな……?」

しかし今はそれよりも状況をまず把握する事が先決だろう。

「うん」

上条の体調を心配しながら美琴が答える。

「皆はとうまの退院祝いでここにいるんだよ!」

「へっ?」

インデックスの言葉に上条は素っ頓狂な声を上げた。
退院祝い、だって?

「そうなんだ。大勢の方が楽しいだろうから、皆でやろうという事になっていたんだがね」

「まじっすか。俺なんかの為に」

「もっとも、御坂君と二人っきりの方が良かったかい?」

からかうように上条に木山は突っ掛かった。
いや、実際からかっているのだが。

「いや、嬉しいです」

しかし上条は鈍感故にそのからかいも効かなかった。

素直に嬉しい。
たくさんの人が自分の為に集まってくれているのだ、嬉しくない筈がなかった。
941 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/02/12(土) 00:04:19.01 ID:UNVgwFaDO

「んじゃ、皆飲み物持った?」

「持ったー!」

「おなかぺこぺこなんだよ、早く食べるんだよ」

「うお!蟹だ!上条さんこんな高級なもの食べた事無いですよ!うおおおおいっぱい食べ過ぎて蟹条さんになってしまわぬ様気をつけなければ!」

「シスター、オマエは少し自重しとけ。三下、テメェは落ち着け。もっと食生活なンとかしろ。蟹ごときで騒ぐンじゃねェよ」


美琴が音頭を取る。
隣に座る上条を見て、頷いた。

「まずは当麻、退院おめでとう。そして、おかえりなさい」

「美琴…………」







本当に、美琴には迷惑、心配、悲しい思いをさせてしまった。


それでも美琴は自分の為に身を削り、助けられた。


もう、一生掛かってもお返しできない、そんな気分。



942 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/02/12(土) 00:05:17.09 ID:UNVgwFaDO







なら、一生掛けてでも美琴の傍にいよう。






「それじゃあ皆、カンパイ!」





「「「「「「「「カンパイ!」」」」」」」」






彼女が望む限り──────永遠に。


943 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/02/12(土) 00:06:28.35 ID:UNVgwFaDO

〜おまけ〜

「そういえば、チョーカー無駄になってしまいましたねとミサカは少し残念そうに呟きます」

「「「チョーカー?」」」

豆腐を箸で割りながら御坂妹は話した。
彼女の言葉に黒子、初春、佐天が聞き返している。

「ああ、そうだな」

蟹の足をくわえながら答えた上条だが、ポケットに入っていたそれを取り出すとまじまじと眺めた。

自分と、妹達を繋いでいたもの。

今となってはもうそのチョーカーに込められた力を使う必要は無くなったのだが、上条は大事に肌身離さず持っていた。
力は必要なくとも、それに込められた思いは上条を元気付かせるお守りになっている。

「随分と、助けられたもんな…………」

その場にいる全員、そんな上条の様子を見ていた。
初春と佐天は事情を知らないのだが、何となく思い入れがあるんだなーと感じていた。

「でも一番残念に思っているのはこの人かもってミサカはミサカは事実を告げてみる」

「はァ?」

一方通行を見ながら言い切った打ち止めに彼は素っ頓狂な返事をする。
何を言っているんだこのガキは、と言う表情を向けていた。

「え、だってあの人とお揃いのやつ付けれなくて残念だって思っているんでしょ?」

「「「えっ」」」
944 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/02/12(土) 00:07:38.61 ID:UNVgwFaDO

絶句したのは一方通行、美琴、御坂妹だ。
美琴達は一方通行の方を見た。
上条は頭に?を浮かべていたが。




「え、だって赤かった目が治った時もちょっと寂しがってたんじゃなかったの?ってミサカはミサカは聞いてみる」





「ちょっと待てクソガキ────






「あなたの大好きなヒーローさんとお揃いが出来なくて残念だったねって慰めてみたり!」





945 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/02/12(土) 00:08:43.59 ID:UNVgwFaDO





「一方通行………………アンタって…………」

「ちょっと待てオリジナル!何を思ってるのか知らンが変な誤解すンじゃねェよ!!」

「第一位さんって………………そういう人d「違ェ!!」」

「ロリコンとホm「テメェは口を開くな!!」」

「あ、ここにまだ蟹が残ってるんだよ」

「それは俺ンだ!」

「ん?どういう事だ?」

「テメェは知る必要はねェ!!」

ああ、やっぱり来るんじゃなかったと一方通行は後悔していた。
一人一人に対して律儀にツッコミを入れている為、もう身体から出る汗は凄いことになっている。










「鍋にこの部屋の温度と一方通行の熱気……………………熱い」


「「「「「「「「「脱ぐな!」」」」」」」」」


さすがにそれには全員でツッコまざるを得なかったらしい。


946 : ◆LKuWwCMpeE :2011/02/12(土) 00:11:17.27 ID:UNVgwFaDO
正真正銘これで終わり!
能力云々については>>1の個人的解釈がかなり入ってます。
色々拙いSSだったけど、皆本当にありがとう!
947 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/02/12(土) 00:12:40.63 ID:Ngl9HpQUo
乙!全力で乙!
皆が笑いあえるハッピーエンドはいいもんだなあ……

蟹上さんでワロタwはしゃぎすぎだろwww
948 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/12(土) 00:14:43.87 ID:HhbwDgZno
乙乙

次回作は?
949 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/02/12(土) 00:17:00.48 ID:7PjWCctAO
乙乙!

みんな幸せそうでなにより。


素敵な作品アリガト!!
950 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/12(土) 00:36:28.26 ID:MZCw2rARo
GJです!
951 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/12(土) 00:37:58.44 ID:mPsVxAOyo
幸せほのぼのな後日談をありがとう!
また何か書いてくれる事を期待してるよー!
乙でした!
952 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/12(土) 01:21:43.40 ID:AfvhCM6H0
一通さん、中身は子供っぽいからありえそうwwwwwwww
953 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/12(土) 01:33:27.04 ID:FDDXJHHQo
乙。一方通行いれば佐天さんの能力発動はもはやテンプレなのか?
954 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/12(土) 02:03:48.74 ID:d5vxan2IO
>>1が佐天通行見ていたに一票
955 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/02/12(土) 09:42:21.79 ID:D+MjjIhAO
あげ
956 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/12(土) 10:01:42.53 ID:vO+OVyzF0
>>955 うざいから無意味にあげんじゃねえよ、ボケ。
957 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/02/12(土) 19:10:20.17 ID:UNVgwFaDO
Html化の依頼ってタイミング的にもうするべきかな?
958 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/12(土) 19:14:20.42 ID:zCk6u/bdo
面白かったおつ。
あと50もないから感想で埋まる気もしないでもない

HTML化するならもうしてもいいと思う
959 : ◆LKuWwCMpeE [sage]:2011/02/12(土) 20:07:33.33 ID:UNVgwFaDO
ありがとう!
出して来るね
960 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/12(土) 20:09:36.33 ID:xwWmLTmx0
乙。
>>927
>黄色い声
ってとこでヴェント?って思ったのは俺だけでいい
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