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佐天「…アイテム?」 - SS速報VIP 過去ログ倉庫

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1 :投げんな匙 ◆t4xyS9bQ1M [saga]:2011/01/14(金) 18:40:20.42 ID:RxVAfjGZ0
時系列は幻想御手を使って昏倒した後。夏休み。

以前総合に投下した作品、

麦野「電話の女ってどんなやつなんだろうね」

の長編改編作品です。
ダークな雰囲気でやっていきたいと思います。
取りあえず、少し投下しましょう。



注※話現実性を持たせたい!というわがままで実際の製品名が出ることもあります。
後、ファッション描写が無駄に凝っている可能性があります。
それよりももっとちゃんとするべき所が…という指摘もあるでしょうが、自分の今注げる全力でやっていますので、ご容赦を
匙投げないで完遂させます。では、
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【モバマス】12歳小学生組! 的場梨沙CDデビューおめでとう編 @ 2020/01/28(火) 12:47:24.51 ID:tQ9zRTuCO
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【書籍化】パートスレッドまとめスレ【漫画化】part.2 @ 2020/01/27(月) 23:04:07.08 ID:yLhmENBT0
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【ガンダム】アリア「安価とコンマでデラーズ〜グリプス?」 @ 2020/01/27(月) 20:35:32.88 ID:1PF0CEhh0
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善子「暖冬が続いて気分がいいから安価で行動するわよ」 @ 2020/01/27(月) 19:44:57.19 ID:W1X83+uw0
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さてと @ 2020/01/27(月) 15:41:57.06 ID:jIdWZrAKO
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果南「善子ちゃん、ダイヤ、ちょっといいかな?」 @ 2020/01/27(月) 13:53:17.98 ID:wL9OCFnwO
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【ガルパン】ダージリン「私はどんな時でも紅茶を一滴たりともこぼしませんわ」 @ 2020/01/27(月) 07:52:06.31 ID:OHuhzL+3O
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2 :投げんな匙 ◆t4xyS9bQ1M [saga]:2011/01/14(金) 18:43:32.47 ID:RxVAfjGZ0
八月第一週のとある日


「今日もお疲れ様のですー!今度は補修に来ちゃだめですよー!」



ピンク色の髪の毛の小さい先生が教室にまばらに座っている学生に対して挨拶をする。
講義を聴いていた学生達は次々にバックに教科書を入れて立ち上がり、帰宅していく。



その生徒達の中に一人、柵川中学の学生がいる。
彼女の名前は佐天涙子。
彼女が何故補修に参加しているか。



彼女は7月24日に幻想御手(レベルアッパー)に手を出して倒れてしまったからだ。
彼女は能力がいつまでたっても上がらない事に嫌気が差し、飛び級して能力を得ようとした。



そんな人達に努力してレベルを上げる事の大切さを説く為、夏休みであるにも関わらず学園都市側は補修を開いているのだ。
3 :投げんな匙 ◆t4xyS9bQ1M [saga]:2011/01/14(金) 18:45:03.02 ID:RxVAfjGZ0
さて、今日の講義も終わり。
これでやっと補修の全てのカリキュラムは終了したと言う訳だ。


(いやー…やっと終わった。補修めんどくさかったなー)


(自業自得なんだけどねー、でもこのクソ熱いのに外走ったり、その後にキンキンに冷えた部屋で長時間講義とか…疲れちゃうわ)


(…でも、そんなめんどくさいのもおしまい!仕送りも今日来てるだろーし、ちょっと自分にご褒美しちゃおっかな)



めんどくさい補修が終わって彼女は柵川中学校の学生寮に向かう。
佐天が講義を受けていた高校は多摩センターにある。



そこから多摩都市モノレールで一気に立川まで出る。
立川駅から降りると再開発地区として開発されている所の近くにある寮へ。



そこが彼女の家だ。


モノレールから降りるとうだるような熱気が漂っている。
そんな中をトボトボと佐天は自宅に向かって歩いていく。


途中コンビニに立ち寄ってお金を下ろす。


(五千円、これで一週間もつかなー…)


仕送りと言っても自由に使って言い訳ではない。
月ごとの携帯電話のお金や水光熱費などのお金。
水光熱費は柵川中学側がある程度負担してくれるとは言え、全額ではない。


(お金のやりくりとかめんどくさいなー…セブンスミスとに新しく入った服屋も行ってみたいし…)


そんなお金の計算をしながら佐天は寮の前に着き、鍵をガチャガチャを開けていく。
4 :投げんな匙 ◆t4xyS9bQ1M [saga]:2011/01/14(金) 18:46:13.82 ID:RxVAfjGZ0
昼下がり。
太陽はまだまだ遥か高い位地に。


(あー…冷房タイマーでつけとけばよかったなー…部屋の中、暑すぎるー…)



HARUTAの革靴を脱ぎ捨て、整えずにそのまま上がっていく。
バックをベッドに放り投げようとしたその時だった。



机の上に小さい小包がおいてある。



(ん?なんだこれ?)



佐天は小包を手に取る。


(あれれ?宛名もなし…?)


何も記載されてない小包。
とりあえず彼女は制服のまま冷房が当たる位置に移動してその小包を開けて見ることにした。



ジジジ…ビリビリ…
5 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/14(金) 18:47:12.51 ID:JvZbOa950
おお、久しぶりだな>>1よ!!スレ立て乙!wktk
6 :投げんな匙 ◆t4xyS9bQ1M [saga]:2011/01/14(金) 18:48:20.16 ID:RxVAfjGZ0
小包を破ると中にプチプチで丁寧に包装されているipadの様なタブレット型携帯電話が入っていた。
いや、正確に言えば通話可能なノートPCと形容がしたほうがいいかもしれない。


(な…なにこれ?いたずら…?)



ともあれ包装されているプチプチを取ってその携帯電話を見る。
市販で売られているipadと形は殆ど同じだが、通話機能が付いている点が大きくことなる。
製造されたメーカーの名前も彫られてない。


(…な、何よ?これ、マジで…)


(ちょっと…押して見ようかな…)


そんなことを考えて佐天が電源起動ボタンと思しき所に指を当てようと思った時だった。
音を立てず、静かに携帯電話が起動するではないか。


(えっ!?あれ?ボタンを押そうと思ったけど…勝手に起動した?)


動揺するよりも寧(むし)ろ、じーっとあぐらをきかながら携帯電話を見つめる佐天。
冷房の風が冷たい。
7 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/14(金) 18:49:22.56 ID:IMUBRcO3o
すげー細かい事なんだけどさ補『習』だと思うんだ
8 :投げんな匙 ◆t4xyS9bQ1M [saga]:2011/01/14(金) 18:49:30.66 ID:RxVAfjGZ0
携帯電話の電源が起動する。
すると各種のソフトをダウンロードしているようで小さく機械音が聞こえる。
そしてダウンロードが終了すると、いきなり電話がかかってきた。


プルルルルルルル…………


最新機器の携帯電話から奇妙なくらいにレトロな音が鳴る。
その音で彼女の肩がびくりと震える。



「はい…もしもし…」


『あ、出たねー、こんにちわ』


受話器越しに聞こえる声は明朗快活な好青年の様な感じだった。


「えーっと、どちらさまですか?」


『あー、自己紹介遅れちゃったね!俺は…そうだなぁ…名前は言えないんだけど、人材派遣って言ってくれればいいよ』


「マネジメント?」


佐天は人材派遣という言葉を聞き返す。


(マネジメントって何よ?)


『あー、まぁ…名前の通り?かな、人材を募集したり、必要な機器をいろいろな人々に供給する、学園都市の影の功労者みたいな感じかな?』


電話の相手はペラペラと自分の事を話していく。
佐天は坊主の野球部員をなぜか想像していた。
9 :投げんな匙 ◆t4xyS9bQ1M [saga]:2011/01/14(金) 18:51:42.44 ID:RxVAfjGZ0
「…その人材派遣さんが私になんの用なんですか?」


『あ、鋭い指摘だね、単刀直入に言うけど、君に引き受けてもらいたい仕事があってさ』


「引き受けてもらいたい仕事…?」


『うん、出来ればその業務内容、ちょっとだけ聞いてくれないかな?』


佐天は思った。
明らかにこれはおかしい。
何かしらの性質の悪い勧誘か、最近はやっている詐欺の一種とか新興宗教の勧誘だと思った。
ほら、最近噂の三沢塾とか。



そんな彼女の不振の念など携帯電話の通話相手はつゆ知らず、ベラベラと喋っていく。


『あー、平気平気。取りあえず、俺のはなし聞いてくれない?五分だけでもいいからさ、はは、CKBの健さんみたいだね、って知らないか』


何か勝手に冗談を一人で言っているが、佐天にはわからないようだ。
それより、この男は何を持って平気と言えるのだろうか、佐天は首をかしげる。


「…なんなんですか…さっさと要件言ってください、いたずらですか?」



ちょっと強い語調で言い放つ。
すると即座に電話の相手の男は答えた。


『違うよ』
10 :投げんな匙 ◆t4xyS9bQ1M [saga]:2011/01/14(金) 18:53:42.18 ID:RxVAfjGZ0
その言葉を聞き、答えに窮する佐天。
たいして男は佐天が黙っている事をいいことに喋る。


『取りあえず、段ボールの底を見てほしい』


電話の男は佐天の家に届けられた小包の底を見てくれと言ってきた。
それが一体、この電話が冗談かどうか、どういう関係があるのかはわからない。


取りあえず、佐天は電話の男には答えずに小包の底を見る。
そこには茶の封筒が入っていた。


(な、なにがはいってるの???)


佐天はガサリとその袋をつかむ。
その音が通話している男にも聞こえたのだろうか、『封筒見つけた?』と聞いてくる。


そして、次には佐天が驚く事を男は言った。


『100万ね、それ』


「100万…?何がですか?」
(え…、まさか…?お金?)


『佐天さん、まだあけてないの?封筒開けてみてよ』


その男の声に導かれるがままに佐天は封筒を開けてみる。
ビリビリと封を切ってあけるとそこには新札で大量の一万円が入っていた。
11 :投げんな匙 ◆t4xyS9bQ1M [saga]:2011/01/14(金) 18:56:39.33 ID:RxVAfjGZ0
佐天は試しにぱらぱらと一万円に目を通す。
本物かどうかは中学生の彼女には判定できないが、見た目はちゃんとした一万円のようだ。



「こ、こんな大金…一体…私に何をさせたいんですか?」


彼女の心拍数は一気に早くなる。
こんなお金の束、見たことない。
テレビ画面ではよく身代金を要求するシーンで札束を目にすることがあるが、彼女がこんな大金生で見るのは生まれて初めてだった。



『何をさせたいって…まぁまぁ、焦らず聞いて』


男は落ち着き払った声が聞こえてくる。
緊張で手汗をかいている佐天とはおそらく正反対の態度であることは容易に想像できる。



『取りあえず、これで俺が冗談を言ってるって訳じゃないことが分かったよね?ちなみに本物だから、それ』



「…はい…」
(ほんと?…ひゃー…)


『そのお金を見たうえで君に質問何だけど、能力者に嫉妬してる?』


「え?いきなりなんですか?その質問?」
12 :投げんな匙 ◆t4xyS9bQ1M [saga]:2011/01/14(金) 18:58:11.78 ID:RxVAfjGZ0
佐天はいきなり自分の心の内面がえぐられる様な気分を味わう。
なぜなら今、彼女は幻想御手のショックから回復して学校で補習を受けており、只今絶賛、能力についての話を受けているからだ。


正直、あまり能力とかそういう話はしたくないのが今の彼女の本音だ。


「その質問の答えを、私があなたに…言う必要があるんですか?」



佐天は顔も見たことのない相手に自分の事を言われ、若干苛立つ。
しかし、男はそんな彼女の事を全て知り尽くしているかの様な口ぶりで話していく。


『いやー…佐天さんを怒らせる気はないんだよ?あくまで嫉妬してるかどうかを聞いただけだから』


「…それが私の気に障るんです、電話切りますよ?」


『あ、ちょっと待って!たんま!』


電話を切ろうとすると男は慌てふためいている様で、動揺した声が佐天に聞こえてくる。


『君にお金を渡した理由はね、君にある組織に電話をかけてほしいからなんだよ!』


「組織に電話…?」
13 :投げんな匙 ◆t4xyS9bQ1M [saga]:2011/01/14(金) 19:01:39.35 ID:RxVAfjGZ0
『そうそう、えーっとね…これ以上電話で言うことはできないから…今日会えるかな?』


「なんですか、それ。ついさっき電話掛けてきた人にあれよれよと会おうなんて気がしません」


『平気だって、拉致とか、薬使って眠らせたりはしないからさ』


「…そういうと余計心配になります」


『だったら小包に本物の100万円なんて置くはずがないだろ?』


「………」


佐天は黙っていたが、正直、確かに、と納得してしまった。
そして、律儀な彼女はお金をもらったからには、もらい逃げするのもなんだか気が引けてしまうのである。


「…じゃあ…良いですよ…会うだけですからね」
(会うだけならいいかな…?我ながら…大したクソ度胸ね…)


佐天はお金をもらったことと、なんだか分からないが、このままではすっきりしないと判断したのだろう、男と会うことに決めた。



『ホントに?やったね、じゃ、19時に町田でどうかな?』


男は指をパチン!とはじく。
その音が佐天に受話器越しから聞こえてくる。



「町田って?JRの町田駅ですか?」


『そうだね。…じゃ、町田駅のオブジェ前でどうかな?改札出たらすぐわかるから、そこにいてよ、迎えに行くからさ』
14 :投げんな匙 ◆t4xyS9bQ1M [saga]:2011/01/14(金) 19:03:46.42 ID:RxVAfjGZ0
「あ、わかりました」


『あ、そうそう、それとこの電話は持ってきてね、今佐天さんがもってる電話で説明するから』


「はい…じゃ、切りますよ?」
(この携帯で…?)


『うん、いいよ』


佐天は電話を切るために電源ボタンを小刻みに何度も押す。
電話が終了した時、彼女の思考能力は半ば停止していた。



能力、嫉妬、100万、電話、仕事…



見ず知らずの男に言われたさまざまな単語が彼女の頭の中に浮かんでは消える。
ごちゃごちゃにして全く合わないパズルのよう。



(あぁ…お金をもらっちゃった手前、拒否出来なかったけど…どうしよう…行くしかないかな…?)



行くと決めておきながら、やっぱり町田駅に行くかどうか逡巡する。
取りあえず彼女はスカートのファスナーに手を駆けて着替えることに。



ジーッ…っとファスナーを下ろしていくと、ストンとスカートが床に落ちる。
衣類が入っているタンスを開けて、スウェットを履く。


上着も制服から半そでの白いシャツに着替える。


冷房の空気が冷たく当たり、寒い。
冷房の電源を一度切って窓を開ける。


もわっと熱気が部屋に侵入してくる。
しばらくして彼女は窓を閉めて横になった。
15 :投げんな匙 ◆t4xyS9bQ1M [saga]:2011/01/14(金) 19:04:39.41 ID:RxVAfjGZ0
警備員の詰所に佐天はいた。


『あら、佐天さん、今日も詰所にきていらしたんですの?』


『すいません、白井さん、お邪魔しまっす!』


『白井さん、佐天さんは今日は暇って言っているので、ここに来ました…』


初春の苦笑した様な顔。
どうやら彼女は佐天を詰所に連れてきたことを後悔しているようだ。


『…もしかして、今日はきちゃだめでしたか?』


彼女はこういう時、決まって苦笑いをする。


(いやぁ…今日は来ちゃまずかったのかな?)



『いえ…別に来るな、とは言ってませんの、ただ…』


『ただ…?』


『いえ、なんでもないですわ、ホラっ、初春!警邏に行きますよ?』


『あ、はい!』


佐天を置いて二人はどこかに消えていく、彼女はそれを追いかけて…風紀委員の詰所のドアを開けていく…。


ガチャリ、



そこには何もない。真っ暗な空間…。
16 :投げんな匙 ◆t4xyS9bQ1M [saga]:2011/01/14(金) 19:05:34.43 ID:RxVAfjGZ0
『待って!私も行って良いですか?』


そこは虚空。何もない。誰も答えない。



気付けば、周りには私以外誰もいない。
ただの空間だけ。


いきなりシーンが変わる。



『あれ?ここはどこ?まさか、セブンスミスト?』


佐天は周りをキョロキョロ見回す。
初春達を見つける。


『ういはるー!白井さーん!御坂さーん!』


『あ、佐天さん!どこに行ってたんですか?探しましたよ?』


『ごめんごめん、ちょっと風紀委員の詰所に…?ってあれれ?』


混乱する。自分がどこにいたのか良く分からない。
確か、風紀委員の詰所にいて、初春と白井を探そうとして、彼女はドアを開いた時…。


『ま、どこ行ってたって良いわよ?それより、ホラ、今日は美琴先生のおごりだから、美味しいパフェがどこにあるか教えてよ!』


『あら!お姉様が奢るなんて珍しいですの!さては…何か良いことでもありましたか?』


『は?な、な、な、ないわよ!あの馬鹿とかどうでもいいから!』


『あの馬鹿?まさか…あの類人猿とまた遭遇しましたの?噂に聞けば、あの類人猿は無能力者らしいですわよ?』


急激に情景が切り替わったと思えば、佐天は白井達といつもしているごく、他愛のない話の輪にいた。
17 :投げんな匙 ◆t4xyS9bQ1M [saga]:2011/01/14(金) 19:12:41.14 ID:RxVAfjGZ0
『初春?あなたからも何か行ってあげて下さい!お姉様は無能力者の男に気があるそうなのですが…お姉様の様な上品な御方とはどう考えても釣り合わないですの…!』


『…私は人それぞれで良いと思いますけど…ダメですかね?佐天さんはどう思いますか?』


『あ、私は…はは、無能力者がどうとか、って言うよりかは自分の思った相手だったら誰でもいいと思いますけど…』


『ちょっと!初春さんに佐天さん!そんな話じゃなくって!ってかいつから私はあの馬鹿の話をしたのよ?』


『だって、お姉様が私たちといて、上の空の時はたいていはあの類人猿がからんでいるんではなくて?お姉様は否定できまして?』


『うっ…///』

顔が赤くなっている御坂。
そしてそれを複雑な表情で見ている白井。



初春と佐天は、ははは、と笑っている。


佐天は一緒に笑っている初春をちらりと見る。
彼女は御坂と白井の痴話げんかの様なやりとりを聞いている。


(私は…どうかな…?)


佐天は自分が本当に心の底からこの会話を楽しんでいるか、自分に聞いてみる。
答えはわかりきっている。


この会話は彼女にとって苦痛以外の何ものでもなかった。


(御坂さんが気に言ってるかどうかなんてわからないけど…)


(無能力者だって良いじゃない…白井さんも御坂さんも、能力なんて気にしないでさ…?)


彼女の思考がまた切り替わる。
すると今度は誰かが佐天を呼んでいる。
18 :投げんな匙 ◆t4xyS9bQ1M [saga]:2011/01/14(金) 19:15:34.32 ID:RxVAfjGZ0
またシーンが暗転する、今度は声だけだ。
聞き慣れない男の声だ。


『おーい!おーい!起きろ!超電磁砲が…!』


(私を呼んでるのは…誰?)



『結局…私のお姉ちゃんの話何だけど…』


『オマエがあの電話の…へぇ…』


『わたしは…そんな境遇の………応援……』


『超、私とためですね…!』



(誰?声だけが聞こえてくる…!?)


聞こえてきた声は五人。



そして…?
19 :投げんな匙 ◆t4xyS9bQ1M [saga]:2011/01/14(金) 19:18:06.89 ID:RxVAfjGZ0
「はぁ…はぁ…夢?」


佐天はベッドに横になったまま寝ていたようだった。
やけにリアルな夢を見ていた。


いや、むしろ…現実のワンシーンのフラッシュバックを思わせるもの。
しかも最初の二つは自分があんまり思い出したくない、風紀委員の詰所で感じた疎外感の話や能力者特有の会話だ。


けれども、彼女が納得できない夢が一つあった。

それは――


(あの五人の声は一体誰の声だったんだ?)


彼女を呼んだ五人の声。
声からしておそらく四人は女性だろう。あんな声の知り合いなんて誰もいないが。
勿論、男も聞き覚えがない声だった。



とにかく、嫌な夢をみた気分だった。
冷房のタイマーは切れていて、室内はうだる夏のクソみたいに熱い熱気に浸食されつつあった。


汗もじっとりと書いている。
嫌な汗だ。
さっさと体を洗いなあがしたい衝動にかられる。



(軽くシャワーあびよっかな…)


(時計、時計っと…今何時何だろう?)


取りあえず彼女はベッドに置いてある携帯電話をパカリと開く。
時刻は17時半。今からシャワーを浴びて、支度をすれば、19時には町田につく。


(時間的には余裕かな…?シャワーあびよ…)


(っていうか…なんだったんだろう…あの夢…あー、もう思い出せない!)

薄れゆく夢の記憶。
つい先ほどまで見ていた夢の内容はもう頭から消えていった。
20 :投げんな匙 ◆t4xyS9bQ1M [saga]:2011/01/14(金) 19:20:19.27 ID:RxVAfjGZ0
なんか、早速字間違えてますね…。


今日から二泊でスノボ行きます!
更新はまた今度!


アイテム、と佐天、ゲレンデにいないかなぁ…
21 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/14(金) 19:22:43.59 ID:JN4H+TzAO
>>1の前作って何だったっけ?
22 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/14(金) 20:19:54.42 ID:Qy4yHppto
>>1がゲレンデでビームババァに真っ二つにされるよう祈っとくね!おつかれ!
23 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/14(金) 21:04:59.16 ID:aNC7ETjd0
>>1
待ってるよ
24 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/14(金) 21:19:39.88 ID:OSrSwGcto
何これ面白そう
25 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/15(土) 05:21:30.75 ID:8VmR3o+AO
またお前か!また糖尿病スレか!!
26 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/15(土) 07:16:08.55 ID:szoZEDqDO
>>13
学園都市にJRの町田駅はないと思うの
27 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/16(日) 01:58:21.64 ID:8eL3x6XMo
小田急民の俺はJR町田駅に違和感を覚えるのであった
28 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/16(日) 14:37:31.66 ID:Jya9eBqgo
立川からわざわざ町田に行くのに違和感が
29 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/16(日) 14:38:19.49 ID:wPBz6w64o
いまから町田行けば16時にはつくな…(小田急江ノ島線民)
30 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/16(日) 19:48:37.31 ID:QMS6SuZBo
自宅から10分以内には町田駅に行ける俺が来ましたよ
あの謎オブジェの前は集合場所としては重宝するよね、初めてきた人でも分かりやすいし
31 :投げんな匙 ◆t4xyS9bQ1M [saga]:2011/01/17(月) 01:23:49.61 ID:xlIuk44d0
帰ってきてみたら、こんなにレスが!ありがとう!うれしいよ!

いやー、ゲレンデ最高だね
筋肉痛ぱねぇWWWって事で投下はキツイので報告とレスを。

なんか、ダークな雰囲気のSSって書くの難しい…遅筆になるかも。
さて、この話しに興味を持って開いてくれた皆さまに多大なる感謝を。

作者は挑戦的な意味合いでも糖尿病(!?)以外の物でどうしても暗部にスポットを当てたいと思ってるので今回はあまあまにはならないです…。すいません


>>21さん

黒歴史前作:番外個体「あなたが考えた私の名前、ミサカに聞かせてくれるかな」(一方座標、番外通行)

黒歴史デビュー作:フレンダ「アイテムでスノボって訳よ!」(浜麦、垣滝、若干フレ旗)

って感じですね。


>>26さん
町田って学園都市の範囲に含まれないのかな…?
wikiみてもよーわからん。


32 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/17(月) 04:29:35.62 ID:Dxf9YJkDO
第一学区とかそんなんでいいんだよ
後ジャッジメントって警備員じゃないんじゃね
33 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/17(月) 05:18:28.18 ID:Pdl80G+Xo
学園都市ってwikiだと東京都中央部って書いてあるけど、「とある魔術のインデックスノ全テ」だと東京西部ってなってるんだよな。
でもどちらにせよ町田は学園都市に含まれるかかなり微妙な位置だな。入ってるとすれば二、十、十一学区のどれかだ。
と、こういう無駄な議論を呼ぶので地名はボカした方がいいかも
34 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/17(月) 16:45:17.17 ID:VhMgYWTAO
浜麦がアメ横でデートする世界だから細かい事は良いんだよ!
35 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/17(月) 18:32:21.24 ID:fhxQmBzIO
>>33
第七学区が立川辺りにあるから正しいのは後者でしょ
36 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/17(月) 20:31:10.57 ID:IMHJZxWpo
どうでもいいけど
番外個体「あなたが考えた私の名前、ミサカに聞かせてくれるかな」
めっちゃおもしろかったよ!
37 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/17(月) 20:53:15.36 ID:4db2cgqIo
番外個体「あなたが(ryの人だったのか!
知らないで読んでたぜ
これからもがんばってくださいね!
38 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/18(火) 00:51:56.36 ID:GlVYDOMw0

 一方座標と番外通行の話ほんとによかったよ

 この話も楽しみです!!

スレが壊れたところ、直します。。@荒巻 http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/operate/1161701941/
39 :投げんな匙 ◆t4xyS9bQ1M [saga]:2011/01/19(水) 02:24:02.90 ID:Hnml+c0n0
こんばんわ。
沢山のレスを頂いて恐縮、これからも精進していきたいと思います!!
それでは少し投下しましょう。

注意
作者の勝手な我がままで実際の地名や製品名等がしばしば出ます。
また、学園都市の地理を独自解釈しています。

おいおい、そりゃねーよ、と思いつつ、暖かく見守ってくれると嬉しいです。


あらすじ
佐天涙子は幻想御手で昏倒していたが、そこから復活し補習を受けていた。
そんな補習も終わり、学生寮に帰った8月の第一週の日。家に送り主が分からない小包が。

それをあけるとタブレット型携帯電話と百万円が。
携帯電話を起動すると男と通話することになる。

男は佐天と町田で会おうと提案する。
佐天は昼寝して町田に行く決意をする。

40 :投げんな匙 ◆t4xyS9bQ1M [saga]:2011/01/19(水) 02:25:56.32 ID:Hnml+c0n0
町田駅は神奈川県と東京都の県境にある駅だ。
同時にここは学園都市と日本の境目でもある。



巨大な貨物ターミナルもあり、長津田から横浜線と分線し多摩センターの地下にある第二十二学区の地下街まで延びているそうだ。



小田急線、横浜線とが交わり、国道十六号線や町田街道も近くにある町田駅は学園都市の交通の要衝でもある。
そして町田周辺の小中高大に登校するのに欠かさないこの駅の周りは多数の施設が乱立し学生達の遊びの場になっている。



多数の学生達の遊び場となっているこの駅の周辺は日本と学園都市の境目に位置する都市であるため、人の流出入が激しい。
その人の多さゆえ、治安の乱れが懸念されている地域でもある。
41 :投げんな匙 ◆t4xyS9bQ1M [saga]:2011/01/19(水) 02:33:27.55 ID:Hnml+c0n0
>>すいません、間違えた!
40の前にいくつか文が入ります!訂正です!


――佐天の学生寮の部屋のバスルーム

シャワーの温水を浴びて佐天は汗を流していた。

彼女が汗をかいた理由――おそらくそれは彼女の夢の内容に依るところが大きい。


佐天はシャワー浴びつつ、通話していた内容と夢の内容とを反芻して思い出す。

電話してる時の相手が言ってた『能力者に嫉妬してる?』という言葉。

その指摘は正しいと言わざるを得ない。



佐天の頭の中でその言葉が浮かんでは消えていく。


(嫉妬かぁ…どうなんだろう…)


(幻想御手の時に痛い目みて…なお、能力者に憧れるか…)


(補習に出た時、あの小さい先生が言ってたよね、努力して自分の能力を上げることが出来るって)


(…そういう意味だったら憧れてるのかもしれない…けど)


けど――

彼女は思った。
結局は努力をし続ければいけない。それに対して別段嫌な気はしない。でも、努力する事について正直面倒だとも思っていた。
42 :投げんな匙 ◆t4xyS9bQ1M [saga]:2011/01/19(水) 02:34:39.53 ID:Hnml+c0n0
(確かに…自分でも能力者に対して憧れる気持ちがあるのは認めるけど)


(なんていうか…もっと違う気がする…能力に関してはあんなに痛い目見たわけだし…)


そこで彼女は自分の気持ちがわかりかけた様な気がした。


(能力があってもなくてもいい、ただ、白井さんや御坂さん、初春の様に何か自分に誇れるような事をしてみたい?)


(御坂さん達が自分たちの能力を鼻にかけてる事はない…と思うけど…自分たちの能力に絶対の自信は持ってる…)


(私も…何か、自分に誇れて自信を持って出来る事をしてみたい…のかな)


(…それとも、ただの興味?人に言えない事をしてみたい…のかな?)


佐天はシャワーを浴びながら自分の思考がどんどん遅滞していく感覚を覚える。
結局、自分は能力者に嫉妬しているかどうか、答えは出なかった。


そして、自分がいつも一緒にいる友人たちと同じように能力者になりたいと思っているのか、それとも何か人に言えないことをしたいのか…。


ぼんやりとお風呂にある防水時計を見る。
そろそろ風呂から出なければ遅刻してしまう時間だった。
43 :投げんな匙 ◆t4xyS9bQ1M [saga]:2011/01/19(水) 02:37:27.33 ID:Hnml+c0n0
(出よっと…)


シャワーの蛇口を閉めて、裸体のまま浴場から出る。
佐天のすらっとした腕、太もも、両脚…体の四肢を伝って滴り落ちる水をバスタオルでふきとっていく。


股のあたりから綺麗な脚の先まで丁寧に拭き取る。
最近生えてきた恥毛をぼんやりと見つめながらそのあたりについている水滴をふきとっていく。


身体を一通りふき終わるとパンツをはく。


白い脚にかかるパンツ。
すらりとした脚をするすると彼女のパンツが上がっていく。


パンツをはくと次はバスタオルでふいた髪をドライヤーで乾かしていく。
自慢の黒髪だ。



しばらくして髪が乾くと、慎ましい胸ながら、発達中のそれにブラを着用する。
その後、白いユニクロのポロシャツを着る。
タイトめに着ると次はジーンズ。Leeのブーツカットデニムをはき、靴下をはき、エアフォースワンの白のスニーカーを履く。

さわやかでボーイッシュな感じで元気闊達な佐天ならしっくりくる。



(さて、行こうかなー…)


百万の内、一万円を一枚だけ財布に入れる。
残りは冷凍庫の奥の方にねじ込む。



(夕飯は…この中から買えばいいかな…?)


先ほど小包の底にあった封筒の中から出した一万円だ。
なぜか罪悪感がしたが、それは気にしないことにした。
44 :投げんな匙 ◆t4xyS9bQ1M [saga]:2011/01/19(水) 02:39:04.44 ID:Hnml+c0n0
柵川中学校のバックにipad型携帯電話を丁寧にいれる。
自分の元々持っている携帯電話はジーンズのポケットに。


机の上に置いてある寮の鍵を持ち、戸締りの確認をする。


(じゃ…いってきまーす…)


(なんだか緊張する…)


見ず知らずの男、いや、待ち合わせ先にいる人物は性別もわからない。
一体誰なのだろうか、そんな不安に彼女はかられる。


しかし、お金をもらった手前と、なんとなく、話を聞いてみようという興味本位で彼女は町田に向かっていった。

45 :投げんな匙 ◆t4xyS9bQ1M [saga]:2011/01/19(水) 02:41:45.13 ID:Hnml+c0n0
ここで40の文章を読んで下さい!
一応もう一度貼り付けますね。





町田駅は神奈川県と東京都の県境にある駅だ。
同時にここは学園都市と日本の境目でもある。



巨大な貨物ターミナルもあり、長津田から横浜線と分線し多摩センターの地下にある第二十二学区の地下街まで延びているそうだ。



小田急線、横浜線とが交わり、国道十六号線や町田街道も近くにある町田駅は学園都市の交通の要衝でもある。
そして町田周辺の小中高大に登校するのに欠かさないこの駅の周りは多数の施設が乱立し学生達の遊びの場になっている。



多数の学生達の遊び場となっているこの駅の周辺は日本と学園都市の境目に位置する都市であるため、人の流出入が激しい。
その人の多さゆえ、治安の乱れが懸念されている地域でもある。
46 :投げんな匙 ◆t4xyS9bQ1M [saga]:2011/01/19(水) 02:43:11.68 ID:Hnml+c0n0
さて、町田近辺の説明はここらでいいだろう。
佐天は町田駅についた。



第七学区の立川駅前、あるいはそれ以上の数の人がいた。
夏休みということで遊んでいる学生が多数いるのだろう。


(十九時ちょっと前かぁ…早かったかな?)


彼女は町田駅前のオブジェの前にいた。
どんな人が来るのかわからないので緊張する。いや、どんな人が来るかわかっても初対面なので緊張するだろう。


(あー…私も結局何してるんだかねぇ)


(電話をする簡単な仕事か…)


佐天は寮でした電話の内容を思い出す。



(組織ってなんなの…?)





(私が…能力に嫉妬かぁ…)


彼女の頭の中をいろいろな事が駆け抜けていく。
そうして考えて気付けば下を向いて地面とにらめっこをしていると、不意に声がかかった。
顔を上げるとボディシェープされたこぎれいなグレーのスーツを纏った男がいた。


「ごめん、仕事で遅れちゃって」


「!!」


「申し訳ない!」
47 :投げんな匙 ◆t4xyS9bQ1M [saga]:2011/01/19(水) 02:45:04.07 ID:Hnml+c0n0
「へ、平気ですよ…」


「はは、恐がらない、恐がらない。取って食っちまおうってわけじゃないからさ!」


佐天に話しかけている男は優男といった感じで、大学生くらいの男だった。
案外に優しく見える。組織だの電話だの、能力だのと言ったこととは無縁そうに見えるただの学生然とした風貌だ。

けれど、この街の学生は皆そういう風に見えて、実はとんでもない能力を持ち合わせているからわからない。
取り敢えず、佐天から見た男の第一印象は概ね良かった。集合時間に遅れることもなかったし、見るからにおかしいヤツじゃなかったから。


(ま…まぁ、普通の人ね…)


(このひとが 私にさっき電話した人…だよね?)


そんなことを考えながら佐天は目の前にいる好青年に緊張しつつも話しかける。


「あ、あの…さっきの電話の詳しいお話なんですけど…」


「そうだね、その話しをしに来たんだった、ってか立川から町田までわざわざ申し訳ないね!今日は町田で一仕事あったんで!」


「あ、良いですよ、気にしてないんで!」


「そう、ありがとね、じゃ、立ち話もあれだし…こっちにきてくれ」


男はそういうとオブジェの近くの階段から下の道路の方に降りるように佐天に指示した。
佐天はその男から少し距離を置いてついていく。するとそこには大型のキャブワゴン「VELLFIRE」がハザードをたきながら止まっていた。


「さ、どうぞ」

男は黒のブルガリのキーケースをポケットから取り出すと、トヨタのロゴが彫られているキーのボタンを押す。
キュッキュッとアザラシの鳴き声のような音が小さく響くと後部座席のドアがゆっくりと開いた。
48 :投げんな匙 ◆t4xyS9bQ1M [saga]:2011/01/19(水) 02:47:27.05 ID:Hnml+c0n0
(え?ちょっと、これは大きすぎるでしょ…?何この車…)


佐天の実家の車よりも全然大きい車、しかも中を覗き込むと相当な広さだ。
彼女は外から見た、「VELLFIRE」の車内の広さに驚いているようだ。



「ほら、乗りなよ」


「あ、はい」


男に言われるがままに佐天は後部座席に座っていく。
携帯電話が入ったバックを大事に抱えて。



佐天が恐る恐る車に乗り込と、その動作を見ていた男が後部座席をハンドル脇のボタンを押す。
すると後部座席のドアが静かに閉まっていく。



(あ、ドア閉まっちゃった…出れない…)


どうしよう、と佐天が考えていると、運転席に座っている男がミラー越しに話しかけてくる。


「単刀直入に言うけど、これは遊びじゃない」


「………………」
(な、な、なによ?え?え?)



「まぁ、そんなかたくならず、リラックスして」


「あ、はい…」
(お前がそんな事言うからだろー!)


後部座席に乗ってからずっと彼女の体は小刻みに震えていた。そして背筋はぴんと張っている。
男に楽にするように促されても全然出来なかった。
49 :投げんな匙 ◆t4xyS9bQ1M [saga]:2011/01/19(水) 02:49:40.94 ID:Hnml+c0n0
佐天の様子を見て、男はふぅ、と男はため息をつく。
まるで、やれやれと言った素振りだ。


「緊張しすぎだって!平気だよ!リラックス!」


男は両手を宥めるようにして佐天に音付くように促す。
佐天ははい、と答えるものの、どうしてもリラックスできない。



そんな動作を見て男はさっさと話し始めてしまおうと思ったのだろう。
男はスーツの胸ポケットから煙草を取り出して吸い始める。佐天はその素振りを見ていた。


「あ、煙草ダメだった?」


「いや、良いですよ、気にしてないんで」


「ごめんね、気を使わせちゃって…」


男はその後数回煙草を吸ってはいてを繰り返すと設置してある車内の灰皿に煙草をぎゅっと押しつけて火を消す。



「自分で単刀直入って言っておきながら話がそれちゃったね、そろそろ本題を話そう」


「携帯電話を出して欲しいんだ」


男はミラー越しに佐天を見つめ、話す。
佐天はバックのファスナーを開けて携帯電話とは名ばかりのipadの様なタブレット型コンピュータだ。


「これは学園都市の技術で詳しくは言えないんだけど、電池はほぼ無尽蔵なんだ」


「む、無尽蔵?」


その言葉に佐天は驚きを隠せないでいる。

(いくらなんでも無尽蔵…確かに小包を開けた時に充電器はなかったけど…)
50 :投げんな匙 ◆t4xyS9bQ1M [saga]:2011/01/19(水) 02:53:56.36 ID:Hnml+c0n0
「こうした技術を外部に漏えいさせないために学園都市の情報を守る部隊がいるんだ」


「え、っと…それって警備員とか風紀委員みたいな感じですか?」


「あー、ちょっと違うな!それはあくまで公的な組織なんだ!」


「公的じゃない組織…ってことですか?」


佐天の警備員や風紀委員ではない、それでもって新設の組織…果たして一体?
彼女には見当もつかない。


「公的、の裏側って言ったら良いのかな?そりゃ、風紀委員や警備員も学園都市の治安維持機関だけど、教師や学生の集まりだけでこの学園都市の治安が守れると思うかい?」


「………」
(え?違うの?どうなの?)


「当然、守りきれるわけがないよね」



「………」

佐天は黙りこくってしまった。
それもそのはず。今まで彼女が見てきた学園都市に存在する治安機関は警備員と風紀委員の二つしか存在しないのだ。
それ以外の組織に学園都市が守られているなんて想像出来ない。飽くまで彼女は一般市民なのだ。現時点では。


「じゃ…その組織に私は…はいる…?」
(警備員と風紀委員以外に何か…あるの?)



「入るって言うとちょっと違うんだなぁ…!…うーん…そーゆー組織に君が指示を出してほしいんだ」


「わ、わたしがぁ???」


「なに、難しい話しじゃないよ、指示って言ってもこっちでするからさ、佐天さん、君にはぜひ、その内容を彼女たちに伝えてもらいたいんだ」
51 :投げんな匙 ◆t4xyS9bQ1M [saga]:2011/01/19(水) 02:55:29.63 ID:Hnml+c0n0

「は、はぁ?」
(え?なんで私なの?)


「ま、いろいろ疑問もあると思うけど、まずは携帯のアプリを起動して?」


男に言われるがままに佐天はアプリを起動する。
すると『極秘』と書かれたファイルがあった。


(極秘?な、なによこれ…?)


「このアプリを見たことは他言無用だよ?ってか今日の出来事はなかった、いい?」


「………は、はい」
(…なんだかやばそうな雰囲気ね…!)


アプリはどうやらファイルを取り組んでいるようだった。
しばらくすると、四人の少女たちの顔が出てきた。


「女の人たち…?」


「そ、彼女たちに指示を出してもらいたいんだ、名前はアイテム」







「…アイテム?」
52 :投げんな匙 ◆t4xyS9bQ1M [saga]:2011/01/19(水) 02:57:33.56 ID:Hnml+c0n0
「そ、アイテム、じゃ、誰でもいいから押してみて」


佐天は男に言われると適当にボタンを押してみる。


(じゃあ…、この黄色いコート着た人)


ぽち、タッチパネルのボタンを押すと四人の画像から切り替わって黄色いコートを着た女性の詳細が反映される。



「む、むぎの…しずり…?」


佐天は思わず名前を言う。
そして画面に映っている麦野という女の画像をマジマジと見つめる。


(きれいな人だなー…ちょっと横顔向いてて正面からじゃないからわからないけど…)


(私より大人っぽいなーってか生年月日も私より普通に年上じゃん)


(へぇー…高校二年生かぁ…ってかレベル5…原子崩しねー…)


佐天が麦野の詳細が記載してある記事を飛ばし飛ばしに読んでいく。すると男が不意に彼女に話しかける。


「一応、記事に載ってると思うけど、彼女がアイテムのリーダーだね」


「は、はぁ」


「記事と内容は重複してると思うけど、一応彼女について簡単に説明するね、彼女はレベル5で学園都市第四位の手だれだよ」


「だ、だ、だい四位!?」
(み、御坂さんと一つしか変わらない!?す、すごっ!飛ばし飛ばしで読んでたけど…はんぱないなぁ…!)


佐天は記事を飛ばし読みに読んでいたのか、男から麦野と言う人物の強さを知らされて驚きを隠せないでいた。
53 :投げんな匙 ◆t4xyS9bQ1M [saga]:2011/01/19(水) 02:59:11.65 ID:Hnml+c0n0
「うん。ってか君記読んだはずなのに驚きすぎだよ…」


「す、すいません、飛ばし飛ばしで読んでてつい…」
(うわぁ…すごいなぁ…こんなにかわいいのに…レベル5で第四位かぁ…次はどんな人なんだろう?)



佐天はその記事を一通り読み終えると次のページをめくる。興味津々だ。
電子書籍の様にペラッと本をみる調子だ。



「彼女の名前は…」


男が言いかけると佐天が答える。


「フレンダ…?外人?」
(国籍は…カナダ…?カルガリー出身…カルガリーってどこよ…?)



佐天は世界地図を思い出す。適当にアメリカの上あたりのでっかい土地だろう位に考えておく。
そして、食い入るように記事を読んでいった。


(爆薬の取扱のプロ…銃器の扱いにも長ける…へぇ…すごい…この人は…あ、)


佐天はあることに気付いた。
そしてちょっぴり親近感が湧いた。


(レベル0なんだ…フレンダ…さん…って言ったらいいのかな?)



(にしても…本名はなんて言うんだろう…?ま、いいか)
54 :投げんな匙 ◆t4xyS9bQ1M [saga]:2011/01/19(水) 03:00:13.19 ID:Hnml+c0n0
佐天は本名ではなくて名前だけ表示されている『フレンダ』に疑問を抱きつつ、次のページを開いていく。
運転席に座っている男は佐天が真面目にアイテムの記事を読んでいる事に配慮してか、静かに腕を組んで運転席に座っている。



(滝壺…り…なんて読むんだ?これ?りこうであってるのかな?)



(当該組織のリーダーである…麦野沈利の粒機波形高速砲の照準補佐を行う、なお…その能力の発露には…体晶をもちい…)



(体晶…?なんなんだろう?)


聞き慣れない名前が出てきて佐天は記憶を探ってみるが『体晶』なるものが一体なんなのかわからなかった。
彼女は能力を誘発する特殊な環境か何かだろうと、適当に決めて次のページをめくった。



(絹旗最愛…うわ、この子、私と同い年くらいじゃない?)


(ほうほう…絹旗さんはレベル4…窒素、装甲?聞いたことない能力)


(アイテムの中でも攻守の応用性に優れており、非常に広範な任務で活躍している…すごいなぁ…最年少なのに…)



佐天は流し読みになってしまったが、一通り『アイテム』のメンバーについて網羅されている記事を読み終わると携帯を隣に置き、男を見る。



運転席に座っている男は佐天がアイテムの記事を呼んでいた時間、別段苛立つ表情など見せなかった。
そして佐天が記事を読み終えると話しかけてきた。


「彼女たちに電話をしてもらうのが君の仕事だ。そして君にこの仕事を任せた理由は…」


佐天は自分の心臓がドキリと反応し、一気に鼓動が速くなっていくのを知覚する。


「君も何かやってみたいって思わないかい?」


「ど、どういうことですか?」
55 :投げんな匙 ◆t4xyS9bQ1M [saga]:2011/01/19(水) 03:01:36.35 ID:Hnml+c0n0
質問の意味がわからずうっかり質問に質問で返してしまう。
男は気まずそうに笑顔を浮かべている。


「君が幻想御手を使って昏倒してから、回復する今に至るまで君の生活は完全に監視されていたんだ」


「は?監視?」
(ちょっと、どういう事よ?)


いきなり出てきた『監視』という言葉に佐天は動揺を隠せないでいた。
なぜ、自分の様な――無能力者――が監視されなければならなかったのだろうか。


彼女の頭の中に次々と疑問が浮かび上がってくる。



「すまない。学園都市の統括理事会の命令で滞空回線(アンダーライン)という超小型のナノデバイスを散布していた」


佐天は何か言おうとして口をあけていたが、何も言えなかった。
結局、男が話を続ける。


「その中で君の周囲の会話も勿論聞かしてもらった。結果、君は能力者達にたいして憧れがある」


「決めつけないでください…」


「じゃ、否定してくれ」



「…………」
(そう言われると何も言えない…)



「そして、君は“自分も何か能力者の様に活躍したい”って思ったり、能力者の会話が嫌いだったりする」



「それがどうしたんですか?確かに私は無能力者です。そして周りにいる能力者の友人たちの話がたまにとてつもなく嫌になる時だってあります!」


佐天はつい、語気を荒げて本音をいってしまった。
56 :投げんな匙 ◆t4xyS9bQ1M [saga]:2011/01/19(水) 03:08:40.17 ID:Hnml+c0n0
言ってからはっ、と気付いて佐天は頭を男にペコペコ下げて謝る。


「謝らなくていいよ、むしろ、今の君のそういう感情があってこそ、この仕事はやりがいがあると思うんだ」



「?」




佐天は何も言わず、首をかしげる。
なぜ、無能力者である、と言う劣等感が仕事をするうえでのやりがいになるのだろうか、全然わからない。



「考えてみてくれよ、君ははっきり言って無能力者だ、けれど、能力者たちの様に何かしてみたいと思うだろ?」


「そう、滞空回線で監視していたけど、御坂さん達の様になりたいって気持ちがあったはずだよ、或いは彼女達の様に自分だけの特殊な環境が欲しいって」


佐天は何も言えない。
けれど、こくんと頷く。当たっているから。決して御坂達や初春の事が嫌いな訳ではないが。

男は構わず話し続ける。

「だったら、幻想御手の事なんかさっぱり忘れて、能力者たちに学園都市の治安を維持する様な伝達をするのも良いとと思わないかい?君には被害が出るわけじゃないんだし」


「た、確かに…そうですね…」
(……私だって、何かしたい…一人だけ何もない無能力者はやっぱりやだよ…!)


佐天は自分の両手をグッと力強く、男の見えない、影になっている部分で握る。



「君の知り合いの風紀委員やレベル5よりも、もっとこの街の最奥を知ることが出来るいい機会だよ、ただし、誰にも言ってはいけないけどね」


「この街の最奥を知ることが出来る…機会…」


佐天の脳裏には友人達の顔が浮かび上がる。しかし次の瞬間、佐天は言い知れぬものを感じた。
甘く、何かこう危険な香りを。男の発言にちらほらと見え隠れしている甘美な響き。

しかし、それでもそれは佐天にとっては危険なものと言うよりかは、むしろ、淡い乳香の様な香りを漂わせるような、且つファンタスティックで魅惑的なものとして認識された
57 :投げんな匙 ◆t4xyS9bQ1M [saga]:2011/01/19(水) 03:09:54.09 ID:Hnml+c0n0
「そう、あなたの友人たちが関わっている様な世界に君も来れるかもしれないね。しかも何のリスクもなくて」


真剣に聞けば、ちゃんちゃらおかしい話だと言う事はわかる。
佐天自身もそれは承知していた。


「何のリスクもない…っていうのは信じられません…失礼ですが…あなたは電話をかける仕事をしたことがあるんですか?」


「あぁ、あるよ。ここ最近いろいろ立てこんでいてね、元々人材派遣の方が本業なんだけど、最近多忙で副業の電話をかける仕事まで手がつかなくなってさ」


「立てこんでる…?」


「うん、えーっと…ツリーダイアグラムを搭載した衛星が何ものかに撃ち落とされたり、学園都市第一位の男が…なんてね、いろいろさ」


「は、はぁ…」


「俺自身は何年かやってきて自分の身に危害が及ぶことはなったよ」


人材派遣の優男はそういうと自分の胸をどんと叩く素振りをする。
佐天に悪印象を与えないようにという配慮だろうか?それは分からない。


「そ、そうですか…」


「で、どう?やってみる気になった?」


その質問で佐天の顔が強張る。

しばらく沈黙が車内を支配する…。









「はい、私でよければ…」
58 :投げんな匙 ◆t4xyS9bQ1M [saga]:2011/01/19(水) 03:11:57.05 ID:Hnml+c0n0
「ホント!?やった!そっか、ありがとう!じゃぁ…詳しいことは追々連絡するね!」


男は指をぱちんとならす。嬉しそうだ。


佐天は決心した。
まだ右も左もわからない状態だが、この仕事を引き受けると。
いつまでも迷惑をかける無能力者ではなく、学園都市に貢献する無能力者になると。



手は震えている。
100%ドキドキしている。
いや、もしかしたらワクワクしているのかもしれない。





そして佐天の言い知れぬ感情をよそに「VELLFIRE」は動き出す。



「佐天さんの家の近くまで送るよ」



町田の高層ビル群が前から後ろに流れていく。
スモークがかかった後部座席からそれを眺めている佐天の表情は期待と不安がごちゃ混ぜになった複雑な表情をしていた。
それとは知らずに、今日もうるさい街の喧騒が響き渡っている。
59 :投げんな匙 ◆t4xyS9bQ1M [saga]:2011/01/19(水) 03:14:36.11 ID:Hnml+c0n0
今日はここでおしまい。
見苦しいミスあってすいません…。

ではまた近日中に投下します。
60 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/19(水) 03:33:00.15 ID:rqqVIftAO
61 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/19(水) 05:01:38.06 ID:z9Ui1/9m0

 乙!!
「電話の女」佐天涙子、か……
62 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/19(水) 05:49:01.54 ID:o/7V/Hx10
実在する物の名前を出すの、嫌う人もいるけど私は好きだな。
>>1さんが言うとおり現実感があっていいし、何より作者の趣味嗜好が透けて見えて凄く好きだ。

超乙 ワクワクしながら待ってます
63 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/19(水) 08:59:48.79 ID:WSojajNDO
実在云々以前に重要視されないとこに蛇足をつけてる感じだな毎回
64 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/19(水) 09:08:24.39 ID:NH+TALBAo
うーむ...ちと商品名があざとく感じるかなぁ
65 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/19(水) 15:53:39.40 ID:fk7fOqIF0
キングやクーンツだと思えばどうってことはない
66 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/19(水) 17:36:15.70 ID:vwMW11sRo
佐天さん堕ちていきそうだな・・・
67 :投げんな匙 ◆t4xyS9bQ1M [saga]:2011/01/20(木) 02:53:22.25 ID:RdTWuuq30
沢山のレスありがとうございます。
嬉しいです。励みになります。

商品名来たら、読み飛ばして頂いて結構です!
あざといですよね…

昨日のあらすじ

佐天は人材派遣の男と会った。
そこでアイテムという非公式で学園都市の治安維持お担っている部隊の存在を知る。
彼女たちに指示を出して欲しいと人材派遣の男に言われる。

自身の無能力者ぶりを嘆くよりは学園都市に貢献したい、能力者の様に頼られたいという気持ちを強く持っている佐天。
彼女は人材派遣の男に請われ仕事の件を了承する。



では少しだけ投下。
68 :投げんな匙 ◆t4xyS9bQ1M [saga]:2011/01/20(木) 02:54:22.28 ID:RdTWuuq30
――翌日

「うーん…?もう朝?」
(あれ?私いつから寝てたんだ?服もぬぎっぱだし…)


気付けば朝。
佐天は疲れて寝てしまったようだ。


(えーっと確か昨日は人材派遣の人にうちんちの地近くまで送ってもらったのよね…?)



そう。佐天は人材派遣の男の車で佐天は町田から立川の学生寮の近くまでわざわざ送ってもらったのだった。
そうして彼女は学生寮に着くなり、適当に服を脱いでそのままバタンキュー。



そして翌日の朝、現在に至る、と言うわけだ。





「ねむーい…今何時…?」



佐天は眠気眼をこすりながら小さい目覚まし時計を見る。
時刻は9時半、本来なら大遅刻だが幸にも今日は夏休みだ。
もう補習もない。


(ふー…今日は何しよっかな?)


彼女にとって本格的な夏休みは今日から始まったと言える。佐天は頭の中で今日のプランをぼんやりと考える。
69 :投げんな匙 ◆t4xyS9bQ1M [saga]:2011/01/20(木) 03:00:18.21 ID:RdTWuuq30
ベッドに横になりながら自分用の携帯電話をいじる。
すぐに思い浮かぶのは同年代で同じ中学校の初春だった。彼女の唯一無二の親友である。



(初春誘ってどっかいこっかなー…風紀委員の集まりとか無ければ良いんだけどなー…それとも…昨日貰ったお金…使ってみようかなー)


不意にお金の事を思い出す。
タブレット型携帯電話の底にあったお金だ。


(……百万かぁ)


佐天は昨日人材派遣の男と合う前にしまった一万円の束が入っている金庫代わり(!?)に使用されている冷凍庫をちらと見る。
中学生にとっては百万という膨大な金額がなんだか恐くてしまって冷凍庫に入れてしまったのだ。

厳密に言えば九十九万円だ。一万は佐天が財布に入れているので。
買いたい物はいくつかある。服とか、靴とか、水着とか。一杯。



(…いやー、でもまだ仕事してないしなぁー…)


頭の中にお金の事が浮かびながらも一つずつそれらの欲を打ち消していく。


(お金は使うのはやめとこう。まずは仕事してからじゃないと!しっかりしよう)




(ちょっと携帯みてみよー)



昨日から佐天の仕事道具になったタブレット型携帯電話。それの電源ボタンをポチッとおす。

どうやらこの携帯は佐天の眼光光彩と指紋が完全一致しなければ電源がつかない仕様に変更されているらしく、佐天が指だけ起動ボタンに押しても起動しない。
70 :投げんな匙 ◆t4xyS9bQ1M [saga]:2011/01/20(木) 03:01:23.23 ID:RdTWuuq30
真っ黒なモニターをしばらく彼女はベッドで寝ながら見つめる。
そこにうつる自分の顔。昨日と何にもかわらない彼女がそこにいた。


(元気かな、お母さん、)



(久しぶりに会いたいかも…あの馬鹿弟はいじめられてないかなー)


何故か佐天は母親や弟の事を思い出す。
一週間に一回は連絡を取っているので取り他立てて寂しいわけではないが。


ぴとり、


家族の事を考えながらも佐天は指を再び起動ボタンにあてる。すると携帯電話が起動した。



(やっとついた)


(しばらく触って、モニターを見なきゃ付かないのかな?)


佐天の予想通り、しばらくモニターを見つめなければこの携帯はつかない。
厳重なセキュリティ機能がこのタブレット型携帯電話には付与されているのだ。



“おはようございます、佐天様”


モニターに出力されるかわいい文字。
様付けで表示される自分の名前をみて彼女は一人苦笑する。


(昨日の朝はただ補習出てただけなのにね、なんか笑える)
71 :投げんな匙 ◆t4xyS9bQ1M [saga]:2011/01/20(木) 03:05:26.71 ID:RdTWuuq30
佐天の予想通り、しばらくモニターを見つめなければこの携帯はつかない。
厳重なセキュリティ機能がこのタブレット型携帯電話には付与されているのだ。



“おはようございます、佐天様”


モニターに出力されるかわいい文字。
様付けで表示される自分の名前をみて彼女は一人苦笑する。


(昨日の朝はただ補習出てただけなのにね、なんか笑える)


そう。

昨日まではただの柵川中学校の学生だったが、今では学園都市に貢献する一端を担う一員なのだ。
そしてそれは学園都市の最奥を知る事が出来る存在だ。


しかし、佐天は学園都市の最奥という響きに甘美なもの感じずには居られなかった。


(学園都市の最奥かぁ…)



昨日男が言っていた言葉を思い出す。



(最奥ってなんだろう…)



佐天は学園都市の最奥なるものを自分なりにぼんやりと想像した。

学生の間で噂になっている、人間の脳をいじくる計画に人柱として犠牲になった人達がいる、とか、学園都市の人目につかないところでレベル5が6になる実験を始めるだ、いやまた、それが既に始まっていてクローンが大量に殺害されていた
り、とか。
そうした出来事の詳細を知れるのだろうか?


(あくまで噂よねー、そんなの)



(でもー、学園都市の最奥って要はフツーの人が知らない学園都市の秘密を知るって事よね?…………ふふ)
72 :投げんな匙 ◆t4xyS9bQ1M [saga]:2011/01/20(木) 03:06:40.12 ID:RdTWuuq30
(皆が知らない、秘密を私が知るって事かー、御坂さん達も、初春も…アケミ達も知らない秘密…)


まだ佐天はなにもしていない。携帯電話とお金を貰い、一日が過ぎただけ。
しかし、それだけで気分は既に一般人とは違う心持ちだった。いや、実は彼女はこれだけでもう十分なのかもしれない。


昨日、彼女は一時、人材派遣なる男と話しただけでフツーの中学生が経験できないような経験をした。


むしろ、実際に何をするのか、『アイテム』なる組織に連絡をするだけの簡単な仕事といっても何をすればいいのか、皆目見当がつかない。



(実際に連絡するってなーにすんだろ?)



佐天が携帯をいったんまくらの横に置いて元々持っている携帯を見ようと思ったその時だった。


うぃーん…うぃーん


仕事用の携帯電話がバイブしている。



(……?えっ?)



佐天はもぞもぞと毛布の気持ちのいい触り心地を足で確かめていたがそのバイブレーションを聞き、ガバッと飛び起きる。



恐る恐るベッドの上に置いた携帯電話を見てみる。
ピカピカと光り、携帯が輝いているではないか。


「ひゃう!」
(ま、ま、ま、まさか、しごと?)

とっさのことでついつい素っ頓狂な声が出てしまった。



佐天は一瞬なにも考えられなくなる。しかしその次には携帯のモニタを見ていた。
73 :投げんな匙 ◆t4xyS9bQ1M [saga]:2011/01/20(木) 03:07:28.87 ID:RdTWuuq30
(うわー…携帯鳴ってるよー…)



そう考えつつ佐天は嫌々ながら携帯のモニターをみる。どうやらメールのようだ。


(メールが一件、あはは…メルマガ?かな?……な、訳あるかっつーの、)



佐天が手紙のマークをポチッと触る。
送り主は人材派遣だった。


(人材派遣さんか…なんだろう…?)



佐天はベッドの上であぐらをかきながらメールを開く。そして内容を目で追っていった。



(えーっと……おはよう、佐天さん。早速だけど初仕事だよ、って言っても気張らず、電話をするだけ…ふむふむ…ってはいいいー?)




佐天はメールの内容に目をパチクリさせる。
早朝、心臓ははやくもバクバクに。



(昨日の今日でもう仕事?ってか何すればいいのよー!)


人材派遣の男のメールをもう一度読み返す。


(…そ、そんなぁー…連絡ってなによー、何すればいーんだー…)


メールには丁寧に、麦野沈利の携帯番号が記載されている。


(…こ、これがリーダーの麦野さんの…番号…?まさか…ここに?)


彼女は更に携帯の文を読む。
74 :投げんな匙 ◆t4xyS9bQ1M [saga]:2011/01/20(木) 03:08:33.72 ID:RdTWuuq30
(…連絡したら今度は俺のこのアドレスに完了報告のメールしといてね、麦野に電話すれば適当に答えてくれるから…だってさ…どーする、涙子!)


佐天はこのメール内容を見た時、冬の柵川中の合否発表よりもドキドキしたそうだ。
しかし、いつまでもうじうじしてられない。佐天の脳裏に浮かぶのは昨日もらった100万。


(……かけるっきゃない。お金までもらっといて…トンズラなんてだっさい真似できない…!そんな事したら、佐天涙子の名折れだよね!)


クソ度胸で、カーソルを麦野沈利の携帯電話にあわせる。


(よっし……!掛けちゃうぞ、掛けちゃうぞー!………………………できねぇぇぇぇぇぇ!)


緊張から汗がたれる。折角の気持ちのいい朝なのに、気分はいっきに緊張へと様変わりした。



(…やぁばい!けど…やるしかないっ!)


頭が真っ白になる。なにも考えられなくなる。しかし、彼女はボタンを押す。


(えいやっ!)


ポチッ


(か、かけちゃったー!何話すか決めてないのにー!)


電話は無慈悲にも麦野沈利を呼び掛ける。
しばらく呼び出し音がなる。


(頼む、出るなー!ってか年上か、だったら出ないで下さいー!麦野さーぁぁん!)


ぷるるるるるる…ぷるるるるるる…ぷるるるるるる…ぷるるるるるる…


ずいぶん携帯の呼び出し音が長い。
普通ならここらへんで留守番電話に繋がっても良い頃会いだ。
75 :投げんな匙 ◆t4xyS9bQ1M [saga]:2011/01/20(木) 03:10:38.89 ID:RdTWuuq30
佐天は電話でアイテムのリーダー麦野を呼び出しをしている最中に家にある掛け時計をちらりと見る。

時刻は八時を少し回ったくらいだ。


(麦野さん、寝てるのかな?ここらできっちゃおうか?)


佐天は一瞬電話を切ってしまおうかと思ったが、それは躊躇した。
折角仕事を任せられているのに、そんな半ば仕事を放棄する様な事は出来ないと律儀にも思ったのだろう。



(いやーでも…仕事だ!切るのはダメ!)


と、ここで唐突に呼び出し音が切れる。
そして受話器から眠たそうな女の声が聞こえてくるではないか。


「あ、あのー…」
(出てしまったー…!やばいやばい!もしかして起こしちゃったかな?)





『はい、麦野ですー…ふぁーあ…』


麦野が電話に出る。
佐天の心臓が取れそうな位どきどきする。


「えーっと…あの、あの…えーっと」
(うわー…絶対寝起き起こしちゃったよ…)



『…あぁ?定時連絡じゃねぇのかよ』




「えーっと…定時連絡をしろって…人材派遣の男の人に言われて…」
(ひー!麦野さん、ちょっとご機嫌斜め?)
76 :投げんな匙 ◆t4xyS9bQ1M [saga]:2011/01/20(木) 03:11:58.39 ID:RdTWuuq30
佐天は受話器越しの麦野の声に怯えつつも話す。
麦野はため息をつく。


『お前、人材派遣じゃねーんだ、お前が新しい連絡相手?』


「あ、はい…!そうです。よろしくお願いします!」
(この人がアイテムのリーダー、麦野さんか…声こわいよー…><)



『へぇー…よろしくね、それで定時連絡なんだけど、特に言うこともない。以上、仕事はなんか来てないの?』



「あ、いや、特に何も言われてません…」



『あ、そ。じゃ、仕事はいったらまた連絡よろしくねー…』


「え、あ、ちょっと…!」
(お、おしまい?)



麦野はそういうと電話を切ったようで、ツーツーと電話が切れた音が聞こえるのみだった。
一方的に電話が終了すると佐天はフー!っとため息をはく。

「…………?」
(初仕事…完了かな…?)


たった数秒の電話だった。しかし、佐天には妙な達成感があった。


(取りあえず…人材派遣の人に報告した方がいいのかな?)



佐天は定時連絡を終えると、仕事用の携帯電話から人材派遣の男が指示したアドレスに連絡完了のメッセージを作成する。



カチカチ…ピッピッ…
77 :投げんな匙 ◆t4xyS9bQ1M [saga]:2011/01/20(木) 03:12:37.00 ID:RdTWuuq30
慣れないタッチパネル型の文章編集モードでメールの文章を佐天はつくって行く。


(うーん…なんて送ればいいんだろ…?報告完了、とかかな?)


(報告書の書き方は初春とか知ってそうだけど…この事は他言無用だからなぁ…)


(取りあえず…簡単に連絡終了、でいっか…)


タッチパネルをポチポチと押し、連絡用にメールを打っていく。
送信が確認され、やっと佐天は肩の重荷を下ろしたようにベッドに倒れ込んだ。



(もっかい寝よ…疲れた…寿命が縮まるかと思ったわ…)
78 :投げんな匙 ◆t4xyS9bQ1M [saga]:2011/01/20(木) 03:13:05.94 ID:RdTWuuq30
――第十五学区の麦野沈利のアジト

アジトと形容すべきだろうか?
いや、ここは彼女の豪邸と言っても良い。


学園都市の高級マンションの一角に麦野沈利はアジトを構えていた。


麦野は学園都市の治安維持組織のうちの一つ、『アイテム』の実質のリーダーだ。
学園都市に七人しかいないレベル5の内の一人で学園都市第四位の屈指の実力の持ち主だ。


勿論『アイテム』という組織が公式の組織である事は言うまでもないだろう。
警察力を警備員と風紀委員の二つの組織に頼っているというのはあくまで表向き。


実際は彼女の様に、実力者が数人まとまって行動する組織や統括理事会の私兵部隊も学園都市の治安維持に一役買っているとか。



さて、ついさっき麦野の携帯に連絡があった。


(女になったのか…新しい連絡先…にしても妙に声が若かったな…私よりも年下か…?)



以前は人材派遣とか言う男がメールなり電話なりで連絡してきたそうだが。
今日の朝かかってきた定時連絡の声は女だった。


(誰だったんだ…?あの声…声から判断する限りだと…まだ高校生か中学生くらいだぜ?)


(かわいそうに…とは言わねぇ…ようこそ、暗部に、ははっ)


ベッドで寝っ転がっていた体を麦野は無理やり起こす。
そして、バスローブのまま寝ていた体を起こす。


カーテンをシャッ!と全開にする。
高層マンションから望む学園都市の光景を見る。
朝の通勤ラッシュ、うごめく人、車。
夏休みになったこともあり、各方面からの人の流出入が激しい。
79 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/01/20(木) 03:15:00.26 ID:5bVEXwja0
アイテム作品よめて幸せ>>1頑張って
80 :投げんな匙 ◆t4xyS9bQ1M [saga]:2011/01/20(木) 03:16:19.47 ID:RdTWuuq30
(はぁー…今日はこの後仕事はないって言ってたし…今日は取りたてて予定もないし、アイテム招集すっかなー…)


そんな事を考えていると麦野の腹が鳴ってしまう。
朝ご飯時でお腹が減っているのだろう。



ぐぅー…




時刻は8時。


朝ごはんの時間帯だ。
麦野は実は朝起きれない。


しかし、彼女は定時連絡の為にいつも頑張って早起きしているのだ。
その定時連絡も終わり、彼女だ誰かを待っているようだ。


(お腹へったなぁ…そろそろ来るかな…?)



麦野は何をそろそろ来る、と期待しているのだろうか?
と、その時、外の光景を麦野が窓越しに見ていると部屋のドアがこんこんとノック音が。



「おーい、麦野、買ってきたぞー?」


「はいはーい…いつもいつも早起きごくろうね、浜面」


「ったく、俺が暗部に堕ちてからはもっぱら弁当係かドリンクバー係かよ!」


「そう言わないの、ほら、はいってきなよ。ドアの前でつったてないでさ」


浜面と呼ばれる男、ガラの悪いB-Boyの様な、ウーフィンやサムライに出てきそうな格好の男。
この高級マンションの雰囲気にはてんで似つかない。
81 :投げんな匙 ◆t4xyS9bQ1M [saga]:2011/01/20(木) 03:18:13.70 ID:RdTWuuq30
「で、今日のシャケ弁はあったの?」


「いやー…それがよぉ…銀髪のほっそい男に最後のシャケ弁取られてさ…わりぃが今日はサバ弁勘弁してくれ…」


「………は?」


どうやら彼女はシャケが相当のお気に入りな様で、どうしてもシャケ弁以外の弁当は受け付けないようだった。
浜面がコンビニの袋からサバ弁を取り出した時の彼女の表情は落胆とも怒りとも言えない複雑な表情だった。



「…やっぱ、サバじゃダメか…麦野?」


「…仕方ないわねぇ…一日だけフレンダの気分でも味わうかしらねぇ…」


そういうと麦野は浜面から弁当を受け取り、パカリと袋を開けてサバをつまむ。
アイテムの中でもフレンダはサバ好き、麦野はシャケ好きで通っている。

「あ、そうそう、定時連絡の男の代わりが来たわ」


「へー、あの悪趣味な男がねぇー…ついに死んだか?」


「いや、女の言う限りでは、なんだか人材派遣の男が本業一本で打ち込みたいらしいから、新しく女を雇ったみたいだよ」


「へー…あの男、相当趣味わりぃぜ…?麦野あった事あるか?」


「いや、ないけど」


「なんか、前にトカレフの弾もらいに行った時にぼこぼこに殴られた女がいたな…あわれなこった」


「ふーん…どんまいね…」



食事の時間帯だとういうのに、殴られただの、トカレフだの物騒な話が出てくるものの、二人はさも普通の様に話していく。
麦野に至ってはむしゃむしゃをサバ弁をほおばっている。
82 :投げんな匙 ◆t4xyS9bQ1M [saga]:2011/01/20(木) 03:20:27.91 ID:RdTWuuq30
「で、次の女はどんな奴だったんだ?麦野、」


「いやー、普通だった。ただ、声が若い感じがした。ほら、前の人材派遣の男って大学生くらいって自分で言ってたじゃない?それに比べれば相当若いと思う。声だけだからなんとも言えないけど」


「へぇー…仕事の連絡係は人手不足なのかねー」


「さぁ?」



気付けばサバ弁を食べきっている麦野。
彼女は腹一杯になったのだろう、ベッドに再び寝っ転がる。
その一見怠惰な生活を見て浜面がついつい指摘する。


「おいおい、食っちゃ寝は太るぜ?」


「うっせぇなぁ、馬鹿面、こう見えてもちゃんと美容とかダイエットはちゃんとしてるんだよ」


「はいはい、じゃ、俺帰るぞ?」


「…待ちなさいよ」


「あぁ?なんだ?また“いつもの”か?」


「…う、うん」
83 :投げんな匙 ◆t4xyS9bQ1M [saga]:2011/01/20(木) 03:23:50.91 ID:RdTWuuq30
浜面は頭をポリポリとかくと少し照れながら麦野の寝ているベッドの方へ向かう。
麦野はベッドで寝ている体を起して浜面を待っているようだ。

少し赤面しているその表情はいつもの仕事をする時の鬼の様な形相と比べるとまるで別人のなのではないかと思うくらいだ。


ともあれ、二人の距離は一気に縮まっていく。
そして気付けば二人の距離はもうほぼゼロ。


吐息の音が聞こえるくらい近い。


「はいよ、麦野」



ぴと…



二人の唇が重なる。
麦野はそのまま浜面をベッドに引き寄せる。

そして浜面の耳元で囁く。


「いつも、弁当ありがとねー、これはそのお礼って事だから…」


「お、おう…」


麦野と浜面はしばらく唇を重ねる。
浜面が暗部に墜ちて少ししてからこのいびつな関係は始まった。


付き合ってるかどうか、定かではないが、弁当を買ってきてくれるおかえしに…、二人はいつも少しだけキスをする。
84 :投げんな匙 ◆t4xyS9bQ1M [saga]:2011/01/20(木) 03:26:19.81 ID:RdTWuuq30
――第七学区のファミリーレストラン『ジョセフ』 浜面と麦野が唇を重ねて数時間後…(同日正午)


「麦野の招集って超なんなんですかね?フレンダ」


「私もわからないわよ、いきなり呼ばれるなんてー、服見たかったのにー」


「待ってください、超暇人のフレンダと一緒にしないで下さい、私は映画を見ようと思ってたらいきなり招集かかったんですよ?」


「一緒じゃん、予定無いから映画行こうとしたんでしょ?」


「うー…超何も言い返せないですー」


ファミレスの窓側の席にフレンダを絹旗最愛は座っていた。
彼女達二人は学園都市暗部組織『アイテム』の構成員だ。


「あ、きぬはたとフレンダ。もうきてたんだ」


「あ、滝壺さん」


もう一日の半分ほどが終わろうとしているのにも関わらず、眠そうな半袖ジャージの出で立ちで登場したのは滝壺理后だった。


「あれれ?麦野は?」


「それがさー、招集掛けといた張本人のくせにまだ来てないって訳よ」


「ふーん…」


ファミレスの店員がシルバーがはいったケースを持ってくる。
しかし、そのケースの中には五人分のシルバーがはいっていた。


どうやら『アイテム』はいつも五人で来るらしい。
三人は座席に座ってアイテムのリーダーともう一人が来るまでそのまま待機していた。
85 :投げんな匙 ◆t4xyS9bQ1M [saga]:2011/01/20(木) 03:29:19.85 ID:RdTWuuq30
カランカラン…

入店を告げるベルが鳴る。
どうやら客が来たようだった。


「わりぃ、わりぃ…遅れたわ」


金髪の男、浜面仕上が遅れながらやってきた。


「浜面ー?結局、最近麦野に朝呼び出されてるっぽいけど、結局何にもない訳ぇー?」


「そうですよ、超浜面を麦野が弁当を届けさせるだけな訳がないと思うんですが?」


浜面は来た途端に絹旗とフレンダの質問責めにあう。
アイテムの中でも浜面は結構いじられキャラだったりする。


そして今日のトピックは浜面が最近麦野の朝のシャケ弁当を買いに行かされて、麦野の家に持って行ってるらしいという話だ。


「あぁ?なんもしてねーよ、こっちは朝っぱらから起きてコンビニ行って、弁当買わされてそれだけですー!」
(キスした後は…結局何もしてねーよ…ってかキスするだけ…だし…!わりぃか!って言いてぇ!!けどいえねぇ!!)


「ふーん…何にもしてないってわりには…マンションはいってから出るまで一時間もかかってる訳よー」


「あぁ?お前ら何だよ?まさか、麦野ん家の前に貼ってたのかよ?」
(こいつら…暇人どもめ…!)


「結局、何にもしてないって話しは超嘘ですよね、弁当なんて渡して直ぐに帰ればものの数十秒で済むし」


「だーかーらー…なんもしてねぇって!マジで!」



「じゃ、一時間半何してたの?はまづら」


(超ナイスです、滝壺さん)

(結局、滝壺の冷静質問からは何人も逃げられないって訳よ!)
86 :投げんな匙 ◆t4xyS9bQ1M [saga]:2011/01/20(木) 03:30:47.16 ID:RdTWuuq30
フレンダと絹旗がぎゃぁぎゃぁ騒いでいる間、浜面はずっと滝壺から視線を感じていた。
いつも眠たそうにしている滝壺だったが、なぜか目がカッ!と見開かれ、浜面を刺すような視線で見ている。
もしかしたら、彼女は浜面に気があるのかもしれない。


「いやー…だからな、まず弁当渡すだろ…?」

うんうん、と頷く三人。


「…その後はな…あいつが全然起きねぇからよ…待ってたんだよ…」


「へぇー…。はまづら、それはおかしいよ、だって弁当渡す前になんで待ってるの?むぎのは鍵かけてなかったのかな?」


「そうですよ、超浜面の言い分はおかしいですよ」


「滝壺の言うと通りって事よ、浜面、正直吐いちゃいなさい!麦野と付き合ってるんでしょ?」


「ぐぬぬぬ…!」
(俺だってあんなカワイイヤツと付き合えたら付き合いてぇよ!けどなぁ…俺だって今の関係、よくわかんねぇんだよ…)


浜面のへたっぴな嘘が看破られようとしていたその時!
ちょうど麦野がきた。


お姉系のワンピースを着ている。
化粧はナチュラルで、かわいい。顔のかわいさとスタイル全てひっくるめて学園都市第一位の美貌を持つのは間違いなく麦野だ。


「盛り上がってるわねー、どうしたの??」


「いやー、麦野、聞いてくれよ、こいつらがな…」


「窒素キーック」
「人形爆弾&イグニスー」


「ビブルチッ!」


浜面の両脚に猛烈な痛みが!
87 :投げんな匙 ◆t4xyS9bQ1M [saga]:2011/01/20(木) 03:31:57.90 ID:RdTWuuq30
「?どうしたの?ま、あんたらが何話してたかは構わないわ。で、招集掛けたのは、私が暇だったからなのよ」


「むぎの。ひどい…」


「ごめんね、滝壺、パフェ奢ったげるから許して><!」



「すいませーん、このジャンボパフェとイチゴパフェと焼き立て林檎パイお願いします、あとチェリーパイ」


麦野の奢る宣言が飛び出した瞬間に滝壺は近くにいた店員を呼んで注文する。
絹旗とフレンダもメニューを見て咄嗟に注文する。


浜面はなぜか注文しないでドリンクバーにジュースを取りに向かっていく。


「そうそう、浜面、私ウーロン茶、わかってるじゃない」


ジンジャエール、ペプシ、コーラ、カルピス…さまざまな注文が浜面に殺到する。
へいへい、と浜面はぱしり根性全開でドリンクバーを往復し始めた。



……一通りアイテムの構成員のドリンクオーダーが落ち着くと麦野が口を開く。


「いやー…いつも仕事の合間に報告してきたり、定時連絡うっさいヤツいたの覚えてる?」


「あー…あれねー、人材派遣とか言う暗部の構成員でしょ?確か…大学生くらいだった気がするけど…」


「そうそう、今日の朝も定時連絡でアイツから電話かかってきたと思って電話に出たらさー」


「どうしたんですか?」


「気になる。わくわく」


「連絡してきた相手が女だったのよねー!眠かったんだけど、私驚いちゃったわ」
88 :投げんな匙 ◆t4xyS9bQ1M [saga]:2011/01/20(木) 03:33:22.10 ID:RdTWuuq30
「そうですねー…仕事の対象で女っていうのはいままで何回かありましたけど、仕事の受注をよこしてくる連絡が女ていうのは初めてですね」


「でしょ?ほら、このメンバーで仕事始めたのが今年の四月からでしょ?そっからずっとあの人材派遣とかいう男が仕事のまわしてきたんだけど…」


麦野の言う通り、人材派遣の男が今までアイテムに仕事を回してきていたのだが、どうやら今日の朝麦野の連絡をよこしてきたのは女だった。


アイテムの主力構成員、麦野沈利、フレンダ、絹旗最愛、滝壺理后の四人。
彼女たちの集まりで仕事を行い始めたのは絹旗が中学に入学して祝!暗部堕ちした四月一日からだ。
それ以降は繰り返しになるが人材派遣の男がアイテムに仕事の仲介をしていたのだ。


しかし、今回から女がその仲介をすることになった。その事は彼女たちにいやおうなしに興味を抱かせた。



「結局、…名前は電話の女ってところかな?」


「そうねー…どんなやつなんだろうね、電話の女って」


「確かに、超気になりますね…」


「気になる。だれなんだろうね」


アイテムの面々が“電話の女”に興味を抱き始め、話が始まろうとした時、ちょうど注文した鬼のようなでかさのパフェがきて話は中断する。
89 :投げんな匙 ◆t4xyS9bQ1M [saga]:2011/01/20(木) 03:34:17.32 ID:RdTWuuq30
――佐天の暮らしている学生寮、同日午後

午前中、気持ちのいい二度寝から佐天は目覚めた。
そしてお昼ご飯を軽くすませてテレビを見ていた時だった。


ういーん…ういーん…

またしても携帯のバイブレーションがなっている。
どうやら仕事用の携帯電話にメールがはいったようだった。


(また電話かなー…やだなー…)


いやいやながらもメールフォルダを見る。
宛名は不明、と記載されているがおそらく学園都市の誰かお偉いさんだと検討をつける。


(すごいなー…本当にメール来るんだー…)


ポチポチ…


(ふむふむ…)


佐天の見ていたメールの内容はこうだった。
90 :投げんな匙 ◆t4xyS9bQ1M [saga]:2011/01/20(木) 03:34:51.77 ID:RdTWuuq30
------------

From:学園都市治安維持機関

Sub:お疲れ様です

今日の朝、『アイテム』のリーダー麦野沈利に対しての連絡ごくろう。

さて、夏休みで暇を持て余している君に指令だ。佐天君。

学園都市内の裏路地でマネーカードをばらまいている不逞女子高生がいる。
その女子高生がまいているマネーカードを出来うる限り回収してほしい。


なお、その回収したカードの内の一枚の番号を回収次第、ランダムで送ってほしい。
そのカードに今後君の収入が振り込まれることになる。



添付ファイル
マネーカード予想配置図.jpg


------------



(ま、マネーカード?銀行のカードの事かな…?まぁ…暇だし、ってか命令だからいくしかないか…)


佐天は携帯電話にあるjpg画像にタッチする。
するとマネーカードのイラストと予想配置図が展開される。


(へー…かたつむりのかわいらしいカード…これってたしかL銀行のカードよね?)


(特に予定もないし…行くか…)


佐天は部屋の冷房を切って洗面所で鏡を見る。


(でも、何でマネーカードなんてもつんだろう?)



(理由なんてどーでもいっか…とにかく、この中の一枚が私の給料が振り込まれることになるカードなんだし…)
91 :投げんな匙 ◆t4xyS9bQ1M [saga]:2011/01/20(木) 03:36:00.06 ID:RdTWuuq30
(理由なんてどーでもいっか…とにかく、この中の一枚が私の給料が振り込まれることになるカードなんだし…)


佐天はメールを見ると学生寮のカーテンをピシャ!と締め切り、カーテンを閉じる。戸締りはOK。


(服は何着ようかなー…ってか百万もあるんだし、何か買ってみよっかなぁ…初仕事もした事だし)


すると佐天は冷凍庫から一万円の束を適当に掴んで財布に入れる。
ひんやり冷えている一万円というのもなかなかにシュールだ。



(あー…なんか靴とか買ってみようかな…ふふ、何買おう…)


(たまには一人でいろいろ歩いてみよっと…!)



佐天は戸締りを済ませると私服に着替える。


上着はインハビタントの青と白の上半分がチェックのポロシャツ。夏っぽく、アクティブな彼女にとってはもってこいだ。
ズボンはディッキーズのレディースで茶の半ズボン。
そしてスニーカーはAdidasのミディルコート。
仕事用の携帯電話をいれるために同じくAdidasのヨーロピアンクラブのミニショルダーバックを肩に掛ける。




(よっし!行くぞ!マネーカード探し!)


携帯電話を大切にバックにいれると彼女は元気よく外へ出て行った。
92 :投げんな匙 ◆t4xyS9bQ1M [saga]:2011/01/20(木) 03:37:25.17 ID:RdTWuuq30
――アイテム構成員フレンダの暮らしているマンション 第七学区立川駅前 十八時頃


「ただいまーって結局誰もいない訳よ…はは」



アイテムの構成員フレンダは自分の専用のアジトに帰ってきた。
麦野の急遽かかった招集はただのおしゃべりだった。


(はー…全く我が儘お姫様ですねー…麦野は、ま、結局そこがいいんだけどね)


フレンダは麦野の事がお気に入りだった。なので結構不意の招集にも喜んで足を運ぶのだ。
そんな彼女は家に着くと、まず頭からお気に入りのベレー帽を取って机の上に適当にぽふんと置く。



(いやー…でも疲れたなぁ…最近暑いし…私あんまりお金持ってないからなぁ、麦野達に比べて…)



一人愚痴る彼女。
実はファミレスの出費は浜面のおごりになっているのだが、ファミレスに行くまでの交通費等がかさみ、フレンダは若干金欠だったりする。


(お金貯めなきゃなぁ…結局、いつまでこんな暗部の生活暮らしなんかしてるんだか…)


彼女はカルガリー出身のカナダ人。
なぜカナダ生まれの白人がこんな所にいるのだろうか?



(はー…疲れちゃった…)


彼女は何に疲れたのだろうか?
暗部の暮らしか、それとも日本に暮らしているということ自体にか。



(帰りたいなー…お姉ちゃん、元気にしてるのかなー…)

不意にフレンダの思索に出てくるお姉ちゃんという言葉。
彼女のお姉ちゃんとは一体誰なのだろうか?
93 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/20(木) 03:38:29.62 ID:y/hS8iruo
私だ
94 :投げんな匙 ◆t4xyS9bQ1M [saga]:2011/01/20(木) 03:41:52.94 ID:RdTWuuq30
フレンダが思い出すのは自分より少し年の離れたすらっとした容姿端麗の姉の姿だった。
しかし彼女は長らくその姉にもう四年から五年ほど会っていない。音信不通なのだ。


いきなり失踪した姉が最後に目撃されて場所、そこが学園都市だった。
その姉を思い出し、フレンダは一人思い出す。



(私より少しだけ年上だけど、優しくて、熱くて…)



フレンダの幼少時代の記憶だ。
彼女の家庭は両親が交通事故で死に、残ったのは彼女の姉とフレンダだけだった。



フレンダの姉はフレンダが学園都市に行くことにしきりに反対していた。
姉自身は学園都市で教鞭を取り、治安維持機関に所属していたというのに。


(結局、学園都市に来て何年かたったけど、お姉ちゃんは見つからなかった…って訳よ、)


フレンダが非公式なルートで学園都市に来た時、姉は既にいなかった。
教職を辞していたのだった。
姉が居ない学園都市なんて何の意味もない。



(そろそろこっから出たいよ…!なんで暗部なんかにはいっちゃったんだろう…!)



フレンダのマンションのリビングにある写真立て。
そこにはフレンダと同じくらいに綺麗な、背がすらっと伸びた姉らしき人と一緒に映った写真が飾ってある。
小さいフレンダと仲良く手を繋いで笑っている姉。


写真は二人だけ。両親はいない。
95 :投げんな匙 ◆t4xyS9bQ1M [saga]:2011/01/20(木) 03:47:23.50 ID:RdTWuuq30
(会いたいなぁ…お姉ちゃん…!)



もう、何度も探した。
学園都市に来てからフレンダは姉の情報を得ようとして躍起になって裏表の世界に関わらず情報を得ようとした。
全ては姉に会いたい一心で。



しかし、結果はどうだったか?


(裏の世界にどんどん首突っ込んで…今や暗部の一構成員ですよ…結局ね)



彼女は学園都市の暗部で活躍しつつ、情報収集も欠かさなかった。


そこでは姉に関していろいろな噂を聞いた。
コスタリカで戦ってるとか、華僑を相手に戦ってるとか、コンビを組んだ傭兵と一緒に戦っているとか、



しかし、どれも信憑性のないものばかり。
そして、気付けば姉を探すなんて、と、たまに気持ちが折れそうになる。そして今や彼女は惰性で暗部に身をやつしているというわけだ。


それでも、彼女は姉に会いたいと思った。その葛藤の繰り返し。
唯一の家族である姉に会いたい、とフレンダは強く思っている。


(お姉ちゃん…!?私はここにいるよ?)


フレンダの思いは届くのか?
陽気で明るい彼女が誰にも決して見せる事のない寂しそうな表情。


(お姉ちゃんを絶対見つけてやるんだから…!それまでは暗部なんかで死んでられない…!)


そう。フレンダ=ゴージャスパレスは死ねないのだ。
大好きな姉に会うまでは絶対に。
96 :投げんな匙 ◆t4xyS9bQ1M [saga]:2011/01/20(木) 03:49:02.55 ID:RdTWuuq30
なーんかとんでも設定きたよー!
読者逃げちゃうよー。

俺の妄想をここに全て出し切るぜ!
じゃ、また近日中に。


投稿中にレスくれて嬉しかったです!
97 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/20(木) 03:50:45.95 ID:dsG6hoqu0
 リアルタイムで追っかけてました。乙です!
ゴージャスパレス…とな……
しかもはーまづらぁとむぎのんの関係が……
98 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/20(木) 03:51:57.70 ID:y/hS8iruo
ごじゃっぺさんが姉設定か
99 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/20(木) 08:09:44.07 ID:SS26T1FDO
途中からまさかと思ったが、ステファニーが姉ちゃんとはw
作者はキャラ設定を結び付けるのが上手いなぁ
100 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/20(木) 09:37:41.38 ID:xik5UdQ+0
乙だぜ
フレンダとステファニーが姉妹設定って前にもどっかで見たな
ブロンド&銃火器使い&軽めの性格だし、似た者同士だよね
101 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/20(木) 16:25:44.37 ID:udRYrJhvo
また滝壺さんが噛ませかよ!
102 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/20(木) 18:10:45.02 ID:sfnp6NW9o
浜麦とはなんて俺得
103 :投げんな匙 ◆t4xyS9bQ1M [sage]:2011/01/21(金) 23:54:07.64 ID:v2j3tsgt0
すまん、もうちょっと待って。
色々立て込んでて申し訳ない。

明日投下します!
104 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/22(土) 04:46:56.31 ID:0HJVp+gAO
>>101
公式カップリングなのに涙目だよなあww
まあ明確なカプSS以外なら大体遵守されてるけど
105 :投げんな匙 ◆t4xyS9bQ1M [saga]:2011/01/22(土) 11:50:40.49 ID:Cyk8wUxI0
こんにちわ。
ちょっとだけ投下します。

佐天はマネーカードを拾って一枚を給与振り込み様のカードに。
麦野と浜面はいびつな関係です。

フレンダの本名はフレンダ=ゴージャスパレスと言うことが判明しました。


とんでも設定ですが、いきましょうか。
106 :投げんな匙 ◆t4xyS9bQ1M [saga]:2011/01/22(土) 11:52:38.58 ID:Cyk8wUxI0
――佐天の学生寮、二十一時頃

「ただいまーって誰もいないかー…」


佐天は疲れた身体を引きずる様にして帰宅した。
彼女は指令にあったマネーカードを午後に送信された配置予想図に従って回収していた。
その後、気付けば日が暮れはじめており、作業を中断し、暗部に堕ちた当日に貰ったお金で軽く買い物を済ませた。


(はぁーあ…適当にマネーカード拾ったけど、これ拾う事で何の意味があるんだろう?)


佐天は拾ったマネーカードをトランプのババ抜きのように広げてみる。
見た目は何も変わらないフツーのマネーカードだ。
何か細工が施してあるとも思えない。


(このカードなんだろ…ってかそうだ、これのカードの中から一枚番号選ばないと!)


佐天はL銀行のカードを適当に一枚チョイスすると番号を仕事用の携帯電話に打ち込み、送信する。


(これで、このカードに今度から私のお金が入るって事なのかな?)


佐天がメールを送信すると、直ぐに返事が返ってきた。
107 :投げんな匙 ◆t4xyS9bQ1M [saga]:2011/01/22(土) 11:53:12.16 ID:Cyk8wUxI0
-----------------


From:学園都市治安維持機関

Sub:お疲れさま

マネーカードにはお金がおおかれ少なかれ入っているようです。
佐天君はその中に入っているお金を自由に使っていい。


なお、カードをばら撒いている犯人は現在調査中である。

恐らく犯人は絶対能力進化計画に反対する組織の構成員だろう。
佐天君はこの計画を知らないだろう。

ここでまだこの業務を始めてから二日の君にこの計画の全容を説明するわけにはいかないが、近日中に詳細を説明する。
なお、本日君が打ち込んだカード番号のカードにはお金を振り込んでおいたので確認しておいて貰いたい。
以上

-----------------
108 :投げんな匙 ◆t4xyS9bQ1M [saga]:2011/01/22(土) 11:54:07.48 ID:Cyk8wUxI0
(ふむふむ…そのなんたらとか言う計画はよく解らないけど…ま、いっか、その内知れる日が来るかー)

佐天がメールを送って数秒できた返事を読む。
その内容を彼女はじっくりと目で追っていく。


(…今日は仕事はこれでおしまいかな?)


仕事ついでと、思い佐天は立川駅の構内近くのBEAMSで買ってきたかわいらしいピン止めを机の上に広げる。


(ふふふ!初任給で買った最初の品、髪留めのピン!ちょっとしょぼいけど、中学生に取っちゃ身分相応だよね?)



佐天はふふと笑いながら楽しそうにBEAMSの袋をパリパリと開けて髪留めを頭につける。


(ふふ…BEAMSのヘアピン全部買っちゃった☆大人買いってやつ?)


KEYヘアピン、アクリルリボンポニー、スカシバレッタ、レインボウバレッタ等のヘアピンをざっとつけてみる。
そして机の前に小さい鏡を持ちだして、ピンをつけて、鏡を覗き込む。



彼女はにこりと笑ってみる。
自分のお金で買ったはじめてのもの。
喜びもひとしおと言ったところか。
109 :投げんな匙 ◆t4xyS9bQ1M [saga]:2011/01/22(土) 11:54:50.54 ID:Cyk8wUxI0
(これは大事にしよう…!何かアイテムに電話して、マネーカード拾っただけだけど、何か達成感があるわね…!)


まだ社会に出た事のない中学生ながら佐天は仕事の達成感と言うものを味わっていた。
自分のお金で買ったものをざっと見てみる。
それらがさらに、自分が何かをしたんだ、という気持ちにさせてくれる。妙な高揚感だ。



(ふふっ、今度このピン、初春に自慢したいなー、かわいいだろー!って☆)



ピンの一つを頭につけて、鏡の前で暫くポーズを取っていろんな表情をしてみる。
すると携帯の鳴動している音が聞こえてくる。


ういーん…ういーん…



鳴動しているのは仕事用の携帯電話だ。


(…なによ?今日はもう終わったんじゃないの?)


そんなことを考えながらも佐天はいやいやながら携帯電話のメールフォルダをチェックする。
110 :投げんな匙 ◆t4xyS9bQ1M [saga]:2011/01/22(土) 11:56:55.27 ID:Cyk8wUxI0
(はいはい、バイブ止まっていいよー、今から携帯見るからー)

タッチパネル操作でメールを開いていく。

ぽちぽち…



-------------------

From:人材派遣

Sub:助言

こんばんわ。初仕事終わったかな?取りあえず暇な時に読んでください。


いきなりで申し訳ないんだけど、『アイテム』のメンバーにはタメ口でいいと思うよ。
なんか佐天さんの律儀な性格だと敬語使っちゃいそうだなって思って笑


ってかもうとっくに定時連絡しちゃったよね?
なら、次から敬語はやめて、タメ口でいきな!正体特定されても面白くないからねー
(ってかもうタメ口かな?笑)


俺なんか気が弱くて最初の方はずっとタメ口だったし。
その内あいつらの口車に乗せられて正体特定されちゃったしね笑 
ま、めんどくさくて自分で口わちゃったんだけど。


ちなみにこのメールに返信はいらないよ。

--------------------



(へぇー…了解。そうよね、私の年齢とか当てられたら嫌だしなぁ…)


(じゃー、ため口でいっかなぁー、会ったことないんだし…出来るはず…!)

次からタメ口で行くか…、とおもむろに考えながら仕事用の携帯電話のメールを佐天は閉じる。

111 :投げんな匙 ◆t4xyS9bQ1M [saga]:2011/01/22(土) 11:57:28.44 ID:Cyk8wUxI0
「ため口ねー…出来るかなー…」


一人ごちりつつ携帯電話を見て、佐天はごろりとベッドに横になる。


(年上の人にタメ口ってちょっと抵抗あるなぁー…麦野さん、声聞く限りだと恐そうだったし…)


(でも――)


佐天は思った。
無能力者の自分が敬語を使わないでレベル5や、高位の能力者たちに対して全く物怖じしないで話が出来るこの環境。


(無能力者の私が――ハイテンションでべらべら話す…『こいつらときたらー!』とか言ってみたり…あはは…難しいかな?)


そんなことを考えながら佐天はポフン、とベッドに横になる。


(ふあー…寝むい…)


久しぶりに一人で歩いた。
炎天下の中での散歩は案外疲れた様だった。マネーカード拾いと立川のショッピングは想像以上に彼女の体力を奪っていたようで、
気付けば彼女はその疲れからか着の身着のままで寝てしまった。
112 :投げんな匙 ◆t4xyS9bQ1M [saga]:2011/01/22(土) 11:58:09.20 ID:Cyk8wUxI0
――翌日 佐天の学生寮

気付けば彼女は寝ていた。
マネーカードで炎天下歩き回ったことが体に応えていたのだろう。


「あれ?…あ、そっか…私寝ちゃったのか…」


彼女は私服でベッドに倒れ込んだまま寝てしまった。
時刻は朝の六時半。早く寝た代わりにかなり早い時間に起きれた。


(携帯見てみるかなー…)



仕事用の携帯電話の電源はいれたまま。
そのままメールフォルダを開き、新着メールのチェックをしていく。

(お、一件来てた…!なんだろ?)
113 :投げんな匙 ◆t4xyS9bQ1M [saga]:2011/01/22(土) 11:59:15.70 ID:Cyk8wUxI0
----------------


From:学園都市治安維持機関

Sub:定時連絡に関して

二日に一回で良い。
なので今日はなし。

定時連絡はないのだが、君にはアイテムに指令を出してもらいたい。
作戦予定日は明日だ。

佐天君がこの動画を見たら、この動画をアイテムの専用ワゴン車に送ってもらいたい。
ワゴン車据え付けのPCアドレスを下に添付しておく。

なお、終了した際にアイテムの構成員達から正否の報告を聞く事。
作戦が終了した場合、アイテムから報告を受けて上申する様に。
上申先はこのアドレスで構わない。




指令.mpeg

車載ワゴンの連絡先:----------------@***.jp.

以上

--------------
114 :投げんな匙 ◆t4xyS9bQ1M [saga]:2011/01/22(土) 11:59:45.00 ID:Cyk8wUxI0
いろいろな内容が記載されおり、佐天は何が何だか分からなくなる。
取り敢えず重要なのは麦野達に今作戦を知らせることだ、と考える。


(指令内容ってなんだろう…?)


その言葉を疑問に思いながら、佐天はメールに添付されている動画ファイルの拡張子をタッチする。
すると高画質の動画が再生される。
それはいつか佐天の弟がやっていたゲームの画面に似ていた。


(弟がやってたエースコンバットの作戦解説画面…?見たいなのに似てるなー…)


彼女はそんなことを考えながらぼんやりとCGで丁寧に作られた映像を見つめる。


映像が開始されると、液晶画面に学園都市のロゴが表示される。
その直後に音声が流れてくる。


(なんか妙に凝ってるなぁ…)


佐天が感心しつつ画面を眺めていると指令内容は淡々と流れ始める。
115 :投げんな匙 ◆t4xyS9bQ1M [saga]:2011/01/22(土) 12:00:30.87 ID:Cyk8wUxI0
『さて、今回の任務だが…


学園都市と比較的良好関係にあるイギリスの軍需会社スーパーマリン社をご存じだろうか?
そこから学園都市にある河崎重工に出向している社員が学園都市のエンジン技術をを第三国に売りさばこうとしている、という情報を得た。


どうやらこのスーパーマリン社の社員は英国人に扮したロシア人の産業スパイらしい。


このスパイが明日、学園都市の鉄身航空技術研究所付属実験空港に併設されている調布国際空港から出発する。
その人物は調布国際空港発モスクワ行きの飛行機に乗り込むらしい。


飛行機に乗り込む前にアイテムの構成員で当該人物を処分してもらいたい』



その後、動画は産業スパイの乗るであろう当該飛行機の発着時間、空港に繋がっている道路の地図、産業スパイの身元、家族構成etcの重要情報も添付されていた。
最後に『健闘を祈る、以上』と無感情なトーンで言葉が添えられて動画は終了した。


(ふーん…ダグラス・ベーター、イギリス出身のロシア人、青年時代にロシア当局からスカウトを受け、思想改造…ふむふむ…)


(コードネームはソユーズ…へぇ…)


佐天は携帯電話の作戦説明画面に表示されている産業スパイの顔写真やプロフィールを見る。
116 :投げんな匙 ◆t4xyS9bQ1M [saga]:2011/01/22(土) 12:01:08.44 ID:Cyk8wUxI0
(人種…白人…年齢…三十代…ふーん、ずいぶんほりが深い人ね、ちょっとはげかかってる…ってどうでもいいか…)


(本籍は英国のシュロップシャー…家族構成は、妻と子供…ふんふん…ってあれ?何か…?)



不意に佐天は何か思い出し、動画をもう一度見る。
先ほどの説明が繰り返し再生される。


そして佐天は肩をぶるりと震わせる。


それは無感情な言葉の羅列の中にひときわ冷酷な響きを感じたからだった。


『当該人物を処分してもらいたい』


その言葉に佐天は動揺を隠せないでいた。


(しょ、処分って…まさか、殺すって事…?)


(いや、まさかね…?技術流出しただけだし…法に則って処罰を下せって事よね?)


佐天はこの時アイテムの残忍さを理解していなかった。
彼女は脳裏に出てきた“殺害”という選択肢を排除する。あくまで順法で引き渡すのだ、と自分に言い聞かせる。
117 :投げんな匙 ◆t4xyS9bQ1M [saga]:2011/01/22(土) 12:02:00.67 ID:Cyk8wUxI0
そしてそれらの思念を取り敢えず頭の隅に置く。そして深呼吸。


(と、取りあえず、これをアイテムに送らなきゃ…!)


部屋に据え付けの時計をちらりと見る。
時刻はまだ七時。麦野はまだ寝てるだろう。


(仕事の内容は明日だし、今日の朝八時位でいいかな?)


佐天は送られてきたファイルを添付されていたアイテムのワゴン車に搭載されているというパソコンのアド宛にメールを作成してそこに動画ファイルを張り付ける。


(取りあえず、動画は先に送っとこう…!)


学園都市治安維持機関なる組織から送られてきたメールを佐天はワゴン車に送る。


八時までまだ一時間ほどある。佐天はその間に昨日入りそびれたのでシャワーを浴びる。


冷房をつけて、テレビはつけたまま。
夏の日差しが差し込む部屋。

いつも適当に流している音楽。


カーテンと窓はあけっぱなし。
静かな夏。
118 :投げんな匙 ◆t4xyS9bQ1M [saga]:2011/01/22(土) 12:02:36.70 ID:Cyk8wUxI0
――甲州街道 佐天が連絡を受けた時間帯とほぼ同時刻。

車のスピーカーからは浜面のお気に入りのラッパー、Rhymesterとラッパガリヤの『Respect』が流れている。
アフリカンビートにのりにのったこのトラックは夏にぴったりだ


さて、浜面仕上はここ最近の日課になっている麦野の家に弁当を届ける業務に奔走していた。
奔走と言っても自分が汗を流して走る訳ではない。


アイテムの商用車とでも言おうか、シボレー・アストロ。
4300CCの排気量で八人乗りの巨大キャンピングカーを運転し、麦野のアジトとは名ばかりの高級住宅街の一角にあるマンションに向かう。



(ったく…何で俺が早起きして麦野の家に行かなきゃいけないんだよ…)


昨日はシャケ弁を買えなかったが、今日は買えた。


(今日もキス出来んのかなぁ…)


そんな破廉恥な事を浜面はおぼろげに考える。
浜面がスキルアウトというチンピラ武装集団を抜けてから、暗部に墜ちて、数週間か、数ヶ月か。
彼はこのシャケ弁当の買い付け係を拝命してからの事を思い返す。


(いや、まぁ最初に暴走したのは俺なんだけどなー)


浜面は初めてキスした事を思い出す。
119 :投げんな匙 ◆t4xyS9bQ1M [saga]:2011/01/22(土) 12:03:39.79 ID:Cyk8wUxI0

『おーい、麦野ー、弁当買ってきたぞー』


何回かアイテムのメンバーの送迎や後片付けをこなし、ある程度仕事に慣れてきた頃だった。
浜面は初めて麦野の家に弁当を届けに行った。


麦野はバスローブでそんな浜面出迎えた。


『悪いわねー、浜面だっけ?名前』


『あぁ、よろしく、麦野』


『ホラ、シャケ弁当買ってきたぞ?』


『ありがと、ねぇ、浜面?』


『な、なんだよ?』


『こっち来ればいいじゃない』


机にシャケ弁当を置いてさっさと浜面はトンズラしたかった。
何故なら、麦野の部屋全体に漂う女の香りに耐えきれなかったからだ。
120 :投げんな匙 ◆t4xyS9bQ1M [saga]:2011/01/22(土) 12:05:53.58 ID:Cyk8wUxI0
気づけば浜面は無能力者でパシリであるという領分を越えて麦野に抱きついていた。


『は?ちょっと?こっち来ればいいとは言ったけど、あんた自分が何してるか分かってるの?』


『…俺のせいだ、完全に、俺が頭やられちまった』


『そう…』


ちゅ…


触れる唇。
直後、浜面は麦野をちらと見る。彼女の表情は無表情だった。
まゆひとつピクリとも動かさなかった。


ただいきなり抱きつかれて動揺したのだろうか、心臓の鼓動は妙に早かった事だけ覚えている。


麦野は能力を行使すれば浜面を即殺出来た。
しかし、彼女はしなかった。それは彼女が浜面を気にいってたのかもしれないし、馬鹿な浜面なんてどうでもいいとか思ってたのかも知れない。
ともあれ、あの梅雨が明けて夏が始まりかけている日の晴れた日の朝、浜面は麦野に抱きつきキスした。ただそれだけの話。



(ってなーに思い出してるんだか…そろそろか)


交差点を曲がり、シボレー・アストロは麦野の住んでいるマンションの地下駐車場に入っていく。
マンションの警備員(けいびいん)が眠たそうに敬礼する。
121 :投げんな匙 ◆t4xyS9bQ1M [saga]:2011/01/22(土) 12:06:47.88 ID:Cyk8wUxI0
――麦野の住んでいる高級マンション

(浜面来ないかなー…お腹減ったー…)


麦野は朝七時半頃に起床した。


唐突だが、麦野は浜面に惚れている。否、惚れさせられている、と言った方が良いかもしれない。


(浜面…初めてあった時に完全に惚れちゃったのよねー…あーゆーバカみたいな鉄砲玉みたいなタイプ…)


スキルアウトから暗部に墜ちた男、浜面。


麦野はその男の風貌に一目惚れした。初対面ながら性格も良さそうだった。
彼は自他共に負け犬であることを認めている。その事も彼女の浜面に対してのポイントを挙げる事に役立ったようだ。


口ではスキルアウトをまとめていたボスだとか抜かしておきながら実際は命令を唯々諾々と聞く犬みたいな男。


そんな男に半ばパシリの様に「シャケ弁当買ってこい」と命令したのはいつだっただろうか。
彼女自身、あんまり覚えていない。



正直、弁当買わせるのなんて絹旗や滝壺、フレンダでも良かった、自分で買いにいっても良いとも思う。
それでも浜面に買いに行かせたのは朝、浜面に会えるという期待からか。
122 :投げんな匙 ◆t4xyS9bQ1M [saga]:2011/01/22(土) 12:08:02.02 ID:Cyk8wUxI0
麦野はそんな事をぼんやりと考えているといつしか仕事が終わって一人帰ってくると決まってオナニーをした。


無能力者の浜面に犯される事を考えて何度も何度も。大好きな浜面の事を考えて。


(バカよねー…私も、なんであんな男を求めてるんだろうかねー…)


(で、誘ったらまんまと来たのよね、私もバスローブなんて着て胸とかきわどいくらいに露出して…)


抱きつかれたとき、麦野は当然だが、浜面を殺す気など毛頭無かった。
寧ろ、抱きつかれた時、麦野の恥部からは愛液が太ももを伝っていた。


(あの根性無し…早く私で童貞捨てろっての…って朝からなぁに考えてるんだか…)


浜面の事を考えるといつも理性が吹っ飛びそうになる。
まるで緑の葉っぱに巻かれて幻覚を見ているかのよう。ガンジャ。



(ってなーに考えてるんだか…)


こんこん…


麦野の家のドアがノックされる。
彼女の顔が自然とほころぶ。
けれど、飽くまでアイテムのリーダーとして?いや、自分は一人の女として?振る舞おうとする。けどわからなかった。



「良いわよ、入って」


麦野の甘ったるい声が浜面の耳朶に響く。

123 :投げんな匙 ◆t4xyS9bQ1M [saga]:2011/01/22(土) 12:08:32.96 ID:Cyk8wUxI0
「弁当買ってきたぞ?麦野」
(まぁたバスローブだよ…その格好辞めてくれ…かわいすぎる)



「あら、シャケ弁当あったんだ、今日もサバかと思ったわー…」
(脚見過ぎ…濡れるっつの)


浜面は麦野の部屋に入ってこない。
いつも彼女の許可が降りるまで、ドアをあけて廊下で待つ。
そんな律儀な所も忠犬の様な感じがして麦野は好きだったりする。



「良いわよ、入ってきて」


「おう…」


机の上にコンビニの袋ごとシャケ弁当を置く。


「じゃ、俺はこれで…」


これは浜面のいつもの口癖だった。
絶対に帰らない。
124 :投げんな匙 ◆t4xyS9bQ1M [saga]:2011/01/22(土) 12:09:08.48 ID:Cyk8wUxI0
「待ちなって…」


浜面は麦野のこの言葉をいつも期待していた。


「あぁ?何だよ?麦野」


「もうちょっとゆっくりしてきなよ」


「フレンダとかがうっせーんだよ、何かしてるだろとか、だから…」


「だから…?」


麦野のみずみずしい唇を浜面はついつい見てしまう。
魅惑のグロス、蠱惑な瞳。


「だから…いや…今日もいいか?」

自分自身の言葉を打ち消して、浜面は麦野を見据える。
すると彼女は仕事をするときの表情ではなく、一人の女の表情になる。


「うん」


浜面は麦野のベッドの隣に座る。そして唇を寄せようとする。
125 :投げんな匙 ◆t4xyS9bQ1M [saga]:2011/01/22(土) 12:10:27.79 ID:Cyk8wUxI0
しかし、その直後に浜面が何か思い出したようにキスを辞める。


いきなりもの欲しそうに麦野は浜面を見つめる。


「どうかしたの?」


「そうだ、キスする前に、一つ言っておくことがあったんだ。仕事だよ」


「仕事?」


「あぁ」


浜面がシボレーで麦野の家に向かっている最中、車載PCの電源が入る。
オートで点く仕様になっている。
それで仕事の案件を受信した事をPCのデスクトップを見て知ったそうだ。


「多分そろそろ連絡が来ると思うから…それ先にいっておこうと思って」


「あら、そうなの…仕事いつかしら、多分今日じゃないと思うけど、見てないの?その動画」


「わりぃ、見てない」


麦野の手が浜面の手に当たる。
そして小さいが、その動きは浜面の手を包み込んでしまうかのように這い回る。
126 :投げんな匙 ◆t4xyS9bQ1M [saga]:2011/01/22(土) 12:11:22.72 ID:Cyk8wUxI0
「じゃあ、連絡が来るまでここで待ってようか?新しい電話の女の声がどんな声だか浜面も聞いてちょーだい」


「良いのか?ずっとここ俺がここにいても」


「帰りたいなら帰って良いわよ?」


「……………ここにいていいか?」


「上出来、電話の女からの連絡が来るまでここで待機ね、あ、浜面」


「何だ?麦野」


「携帯電話、取って?」


麦野は自分の胸元をちょんちょんと指さす。
バスローブから覗いている豊満な胸に浜面は釘付けになってしまう。


「ば、ばか…!自分で取れよ…!」


「いいじゃん…」


時刻は八時、五分前。連絡が来るのは大抵八時だ。それは人材派遣の時から変わらないルーティン。
127 :投げんな匙 ◆t4xyS9bQ1M [saga]:2011/01/22(土) 12:11:49.90 ID:Cyk8wUxI0
ごくり、浜面は生唾を飲む。


「じゃ、じゃ…じゃあ…携帯探すだけだからな…?」


浜面は律儀に目をつぶって携帯電話を探そうとする。
胸の谷間に手を突っ込む。


(目なんかつぶっちゃって…そういうまじめな所も良いのよねー…)


「む、麦野?な、ないぞ?」
(胸でけぇー…やべぇ…襲いてぇ…!襲うって言っても何したら良いか分からないけど…)



「目、あけないと分からないんじゃない?はーまづらぁ?」


「だ、ダメだ!あけたら!ダメだ!」


「ふふ、なぁんで?」


「お、お前の胸、み、み、見ちまうだろ…?」


「それってダメなの?」


「…ダメだ!」


ういーん…ういーん…


麦野の携帯がなる。


「あ、待って浜面。電話きちゃった…!」


電話は麦野の寝ていた枕の下にあるようだ。
要するに浜面はただ麦野の胸を触っていただけ、という事になる。
128 :投げんな匙 ◆t4xyS9bQ1M [saga]:2011/01/22(土) 12:12:33.05 ID:Cyk8wUxI0
浜面は目を開けるわけにもいかず、そのまま目をつぶったまま麦野の胸を触ったままただ固まっているだけだった。


(麦野の胸…すげぇ柔らけぇ…やばい…)


浜面が麦野の胸を目を閉じながら当てている最中、麦野は枕の下にある携帯電話を取ろうとして横になる。
バスローブがはだけて豊満な胸がそのままはみ出る。目を閉じている浜面からは見えない。


麦野は枕の下にある携帯電話を横になって取る。
上半身はほぼバスローブがはだけて彼女の胸を隠す物は何も無い状態になっている。


横になったことで浜面の手から麦野の胸が離れていく。
その代わりに麦野は浜面の太ももの辺りに寝っ転がって電話をする。
勿論、浜面は緊張と興奮で目を固くつぶっている。が、浜面のそれは固いジーンズの上からうっすら分かるくらいにいきり立っていた。



浜面のジュニアの状態は麦野も十分承知していた。
しかし、今は仕事の案件の話の方がちょっとだけ重要だ。


なので麦野は通話ボタンをぽちっと押す。


「はい、もしもし、麦野だけど?仕事か?電話の女ぁ?」


『電話の女?何?私の名前…?あだ名?それ』
129 :投げんな匙 ◆t4xyS9bQ1M [saga]:2011/01/22(土) 12:13:09.41 ID:Cyk8wUxI0
あれ?麦野は違和感を感じた。
昨日の定時連絡の時は初めてと言うこともあって敬語だったが、いきなりタメ口になっている。


「おいおい?昨日まで敬語だったじゃねーか、どうした?電話の女」


『い、いいじゃない、私のか、勝手でしょ?』


「まぁー…あんたの素性なんか興味無いけどね…」
(声が震えてんだよ、電話の女…!誰だよ、こいつぁ…!)


『あ、そうそう、アイテムのキャンピングカーに仕事のファイルは送ったからそっちを見てくれると助かるんだけどー』


「まぁ、そう言うなって、電話の女。今車に居ないんだわ」
(仕事の内容を把握してない?…と見ると新人…だよな?)


『あー…』


電話の女は言葉に詰まっている様だった。
麦野のマンションに静寂が訪れる。
130 :投げんな匙 ◆t4xyS9bQ1M [saga]:2011/01/22(土) 12:15:04.37 ID:Cyk8wUxI0
――佐天の学生寮

佐天は定時連絡がない代わりに、仕事の案件を麦野に報告していた。
八時ちょうどに麦野の携帯電話に電話をかけると麦野は起きていた。電話に出るまで少し時間がかかったので起こしてしまったのかも知れない。


「あー…」
(なんだっけ?確か産業スパイだかなんだかって話よね…落ち着け!涙子!)


佐天は自分に落ち着くように言い聞かせる。


(あ、この携帯、ノートパソコンみたいな感じだから、さっきの説明画面の音声だけでも聞かせることが出来るんじゃ…?)


「ちょっと待ってね…動画が来てて、その音声だけでもしか流せないけど、今から流すから聞いてて」
(これであっちにも作戦内容が伝わる…かな?)



『はいよ…』


通話モードのままタブを開き、そのタブから先程治安維持機関だとか言う所から配信された作戦動画の音声をながす。
すると佐天が先程聞いていた産業スパイの脱出に関しての内容が受話器を通して伝わっていった。



「同じ動画をアイテムの車載PCのアドレスにも送信しといたから、そっちで詳細を確認しといて貰うと助かるんだけど…」
131 :投げんな匙 ◆t4xyS9bQ1M [saga]:2011/01/22(土) 12:16:15.71 ID:Cyk8wUxI0
また後で。

滝壺出演させるのすっげぇむずい…

読者に多大な感謝を。では
132 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/22(土) 12:50:27.89 ID:0NfHG7w/o
乙。タメ口だとそれっぽくなってきたね。
あと浜面は爆裂しろ。
133 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/22(土) 14:50:56.56 ID:Rkr5c3nr0
 佐天さん口調が変わると一挙に仕事人っぽくなってきたねww
小鼠の処分=消滅って知ったらどう思うんだろ……
 そして浜面!お前の理性はその程度なのか!wwww
乙でした!
134 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/22(土) 15:02:29.64 ID:IGsZfWYko
この麦野と浜面の関係いいなぁ。
なんか付き合ってるSSより羨ましい。
135 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/22(土) 15:19:31.72 ID:hlQiAfZDO
そうか?
俺は逆にいくら何でも無理矢理感がすごいと思ってしまった
136 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/22(土) 18:03:50.16 ID:zpEVZyvAO
この歪みっぷりがむしろ私のご褒美。いいぞもっとやれ
137 :投げんな匙 ◆t4xyS9bQ1M [saga]:2011/01/22(土) 21:21:55.84 ID:Cyk8wUxI0
賛否両論ですね。いい感じっす!
無理矢理感ありますか…すいません…。
取りあえず、匙なげないで頑張ります!!



でも、こうして意見をくれる皆さまに感謝。
参考にさせてもらってます!!

ほんのちょっとだけ投下します!
138 :投げんな匙 ◆t4xyS9bQ1M [saga]:2011/01/22(土) 21:22:24.92 ID:Cyk8wUxI0
――佐天の学生寮


『処分』。

その一言の放つ重み。


佐天に送られた指令は産業スパイを処分しろという旨の指令だった。
彼女が直接手を下すわけでは勿論、ない。


佐天がアイテムという非公式組織に命令を下すだけ。
そしてその正否を確認するだけ。


彼女はその指令を受信し、アイテムのリーダーである麦野に伝達した時、初めて自分が行おうとしている仕事の正体が分かった気がした。


正体――人材派遣の男が言っていた言葉、“学園都市の最奥”。その正体は決して中学生の少女が受け入れるには酷な環境だった。
ただ、繰り返しになるが彼女自身が手を下すわけではない。


それがせめてもの救いだった。
ダグラスとかいう人物がどうなるのか、その結果を見ないで済むから。



ともあれ、佐天はアイテムに指令を出した後、無性に友人に会いたくなった。
非現実的な現実から乖離したかったのかも知れない。
139 :投げんな匙 ◆t4xyS9bQ1M [saga]:2011/01/22(土) 21:23:24.02 ID:Cyk8wUxI0
------------------

To:初春

Sub:やっほー

今日暇?
暇だったら遊ばない?どーよ?

------------------



(うーん…こんな感じで良いかな?)



佐天はカチカチとメールを入力していく。
仕事用のタブレット型携帯電話と違って折りたたみ式の携帯電話なのでボタンを押す音が聞こえてくる。


初春宛のメールを作成し、送信する。
夏休みで風紀委員の仕事もあんまり入っていないだろう、と佐天は勝手に予想する。


(よっし…!後は返事が来るまで適当にシャワーでもあびっかなぁ…)


佐天はそう思うとバスタブにむかっていった。
140 :投げんな匙 ◆t4xyS9bQ1M [saga]:2011/01/22(土) 21:23:49.92 ID:Cyk8wUxI0
午前十時。
部屋はすでにサウナ。

この暑さじゃ目が覚めちまうなぁ。


「はーまづらぁ…童貞そつぎょ?」


「そういうことになる」


「なぁに神妙な顔つきしてるのよ」


浜面は童貞を卒業した。
麦野で。


八時ちょい過ぎに電話の女から仕事の依頼電話が来た。
その後、浜面は麦野のベッドへ…。

そんな真っ昼間。
こんな時にはZEEBRAの真っ昼間が良く似合う。


ってか歌詞まんまなんだけどね。


さて、麦野は浜面の隣でぐったり寝ている。
141 :投げんな匙 ◆t4xyS9bQ1M [saga]:2011/01/22(土) 21:24:17.82 ID:Cyk8wUxI0
初めて、と言うこともあって浜面はそれこそ犬同然に腰を振った。


まずは復活のシャワーを浴びよう。


「おい、麦野?」


「なぁに?さっきは沈利沈利って馬鹿みたいに呼んでたのにー」


「あれはあれ、これはこれ…だ」


「意味わかんないよー」


けだるそうに麦野はうつぶせていた状態から浜面の方に向き直る。


「いいの?好きな人いないの?浜面ぁ」


「お前だよ」


「嘘ばっか」


「いつも滝壺の事ばっかみて」
142 :投げんな匙 ◆t4xyS9bQ1M [saga]:2011/01/22(土) 21:24:43.85 ID:Cyk8wUxI0
「見てねぇって」


「怒らないから言ってみな?」


「だぁかぁら…ちげぇって」


「なら、信じちゃおうかな」


浜面は麦野を抱き寄せる。


「そろそろ、アイテム招集かけますかねー」


基本、アイテムの面々は学校など行ってない。留学や不登校、あらゆる理由で学校の出席を免除されている。
麦野はメーリングリストでアイテムを呼びだす。
143 :投げんな匙 ◆t4xyS9bQ1M [saga]:2011/01/22(土) 21:25:12.36 ID:Cyk8wUxI0
すまん仕事いく。
またな!
144 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/22(土) 21:30:04.02 ID:QZ7KIaHAO

待ってる
145 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/22(土) 22:15:19.78 ID:w8EulUEfo
いってらっさい
146 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/23(日) 01:40:51.14 ID:xAVqqfGIO
電話の女から招集がかかったんだな
147 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/23(日) 03:04:52.10 ID:tqRggCq90

いびつな愛っていいよなァ…
148 :投げんな匙 ◆t4xyS9bQ1M [saga]:2011/01/23(日) 03:12:44.95 ID:qjaYsugY0
投下しましょう。
149 :投げんな匙 ◆t4xyS9bQ1M [saga]:2011/01/23(日) 03:13:10.30 ID:qjaYsugY0
To:アイテムメーリス

Sub:明日の招集
明日、仕事よー。

浜面が皆ピックアップするから、各自準備ー。
絹旗とフレンダ、あんたら多分出番あるから。
150 :投げんな匙 ◆t4xyS9bQ1M [saga]:2011/01/23(日) 03:14:09.28 ID:qjaYsugY0
(こんな感じでいいかしらねー)



裸のまま麦野はケータイのメール送信ボタンに手をかける。
メールはあっと言う間に送信される。


麦野はベッドから裸で歩く。
ワインクーラーから冷えたシャンパンを一本。


シャンパンはフレシネ、ワイングラスはバカラ。無駄にたけェ。


「飲酒運転になっちまう」


「どうせ暇でしょ?泊まる?」


「…考えとく」


「あ、そ。取り敢えず、カンパイ」


カチン 


夏のうだるような暑さを打ち消すグラスの音。
151 :投げんな匙 ◆t4xyS9bQ1M [saga]:2011/01/23(日) 03:14:36.96 ID:qjaYsugY0
二人が一つになったことは秘密。
そっちの方が面白そうだから、と麦野。



軽くシャンパンを飲むと、浜面と麦野はシャワーを二人で一緒に浴びる。


「麦野、今日暇だから俺泊まるわ」


「最初からそう言ってれば良いのよ、はーまづらぁ」


バスルームでお互いの体を拭きながら。
浜面は麦野を抱きしめながら泊まる旨を伝えた。
152 :投げんな匙 ◆t4xyS9bQ1M [saga]:2011/01/23(日) 03:15:03.56 ID:qjaYsugY0
(結局初春ダメだったかぁ…)


佐天は“処分”と言う言葉を聞き、一人でいるのがなぜだか怖くなってしまった。
そこで親友の初春と会おうと思いつき、そのままの勢いでメールしたのだが、あっけなく断られてしまった。


「あーあー…暇になっちゃったなぁ」
(初春ダメだったかぁ…何しようかなぁ…)


ダグラスという男の顔写真が佐天の脳裏にちらほらと浮かぶ。あの男は明日殺されることになるのかも知れない。
勿論、自分が狙われていることなど梅雨知らず、スパイ行為にいそしんでいるのだろう。


ダグラスのなにがしかに興味があるわけではない。
明日、彼の命が終わるか否か、その一点において佐天は興味を持っていた。


もし、明日の定刻になった時、ダグラスはただの肉塊に果てるのだろうか。
それとも学園都市の順法によってしかるべき処置を受けるのだろうか。


その結果が死刑になるのならば…えげつない話しだが、正直、どうでも良い。
ただ、アイテムのメンバーが己の能力に自信を持って殺害したとなればそれは自分が間接的に手を下したことになる。


(人殺し…には…なりたくない…)


佐天は頭をもたげる。
153 :投げんな匙 ◆t4xyS9bQ1M [saga]:2011/01/23(日) 03:15:35.20 ID:qjaYsugY0
例え自分が直接的に殺害しなかったとしても、自分の命令で直ちにターゲットに向かっていく部隊を動かせる権限を彼女は付与されていた。
男が産業スパイだろうと、学園都市の技術を他国にかっさばこうと、佐天にとっては本当にどうでも良かった。


ただ、人を殺す、という一点において佐天は頑強に反対したい気持ちに駆られた。
が、周囲にそれを理解してくれる同じような境遇の人など居ない。
こんな大それた話しを教師達が真剣に聞き入ってくれるだろうか。


様々な焦りや同様が浮き上がってくる。



男には家族が居るそうだ。
また先程の思考が浮かび上がってくる。

一家の大黒柱である夫を失った彼女達は一体、どうやって生きていくのだろうか…。


佐天は仕事用の携帯電話を起動すると彼女の初仕事のターゲットのダグラスとその家族たちの写真をぼんやりと見つめていた。


結局この日は佐天は一人で川を散歩したり、適当にぶらぶら歩いて時間を潰した。
そのどれもが彼女の複雑な心境をはれさせることには到らなかったが、何かしなければ本当におかしくなってしまいそうだった。


そして初春にまた遊びのメールを送った。
154 :投げんな匙 ◆t4xyS9bQ1M [saga]:2011/01/23(日) 03:16:00.55 ID:qjaYsugY0
To:初春

Sub:こらー!

暇してたら明日私と遊ぼーよ?
返事待ってるよー?




明日はアイテムが作戦を決行する日。
その報告が来るとき、佐天は自分の近くに誰かいて欲しい、そう思った。
155 :投げんな匙 ◆t4xyS9bQ1M [saga]:2011/01/23(日) 03:16:26.79 ID:qjaYsugY0
――アイテムの作戦決行日 佐天の学生寮

結局佐天は熟睡できなかった。

一、二時間寝ると必ず起きてしまった。
夏の暑さと相まって彼女はじっとりと嫌な汗を掻いていた。


(全然寝れなかったよー)


佐天はベッドから身を起こし時計を見る。
時刻は八時を指していた。定時連絡の時間帯だった。



(取り敢えず…義務はやっとかなきゃね)


ベッドの枕の下に大事にしまってある携帯電話を佐天は取り出し、麦野の電話番号に掛ける。
156 :投げんな匙 ◆t4xyS9bQ1M [saga]:2011/01/23(日) 03:18:07.10 ID:qjaYsugY0
――麦野の高級マンション

「ホラ、掛かってきたぞ?麦野」


「えー?浜面出てよ」


「下部組織の俺が出ても良いのかよ?」


「んー…まずいかも、と言うことでやっぱり私が出るわ」


麦野は折りたたみ式の携帯電話の受話ボタンを押す。
すると電話の女の声が聞こえてくる。


つい最近まで人材派遣の男が連絡をよこしていたのだが、もうその声は思い出せなくなっている。
とっかえひっかえなんだんぁー、とか思いつつ麦野は通話をする。


「はいはい、麦野ですー何よ、電話の女ぁ」


『定時連絡の時間だからしたんだけどー?』
157 :投げんな匙 ◆t4xyS9bQ1M [saga]:2011/01/23(日) 03:19:26.12 ID:qjaYsugY0
「あぁ…定時ね、今日は仕事だからね、がんばるわー。じゃあね」


『ちょ、ちょっと、何時くらいに終わりそうなのか、教えてよ!?』


「あぁー…多分午後。飛行機の乗り場で仕掛けるわ」


『わかったわ…健闘祈ってるからねー』


電話の女はねぎらいの言葉を吐くと電話を切ってしまった。
麦野は隣ですやすや寝ている浜面を起こそうとする。



「おい、起きろ、はーまづらぁ」


「んんん?まだ八時じゃねぇか…フライト予定時刻は午後じゃ…?」


浜面は眠そうな瞳をこすって再び寝てしまった。
麦野もそんな浜面の顔を見て少ひだけほほえむと再び寝てしまった。


昨日から続くお泊まりで二人の距離はずっと近づいた。はず。
158 :投げんな匙 ◆t4xyS9bQ1M [saga]:2011/01/23(日) 03:21:22.84 ID:qjaYsugY0
麦野はある懸念があった。
それは浜面が滝壺の事を好きなんではないか、という懸念だった。
そして逆に滝壺も浜面のに好意を寄せているのではないか、と。


浜面がアイテムのメンバーにいじられてアホだ、なんだ言われているとき、滝壺は決して浜面の事をバカにしない。
真剣なまなざしで寧ろ、無言でいじられている浜面にエールを送っているかの様にも見える。


(浜面も…受け狙ってるときとか滝壺の事ちらちら見てさ…何よ)


(私じゃダメなの?)


麦野は確かに学園都市の中でも最高級の美女だ。
しかし、浜面はそんな麦野に、滝壺の機嫌を伺ってちらと表情を覗くことなんか一度もしなかった。


(あーあ―…弁当買ってこいだ、なんだ言って命令してて、浜面の事を犬だなんだって言ってたけど)


(ホントの犬は私だったのかな…)

すぅすぅ寝息を立てている子供の様な浜面を麦野は裸で抱きしめる。
浜面は少しだけ「うーん?」と小さくうなる。麦野のお腹の辺りでうずくまろうとしている浜面の髪の毛をゆっくりなでる。


「私も雌犬ね…ふふ」

自嘲気味に麦野はつぶやいた。
その声は空調の音にまぎれ消えていく。
159 :投げんな匙 ◆t4xyS9bQ1M [saga]:2011/01/23(日) 03:23:20.99 ID:qjaYsugY0
――正午頃、麦野の暮らしている高級マンション

「じゃ、行くか」


「そうね」


電話の女から連絡が来て暫くして二人は起きる。
支度を済ませると浜面と麦野はマンションのドアをあける。


するとむわっと熱気が二人の頬を打つ。
熱気に支配されたマンションの廊下から空調の効いたエレベーターに乗る。

地下駐車場に着くまでに二人はねっとりと、唇を重ねる。

「む…ふぁ…ん…」


「ぷちゅ…くちゃ…」


滝壺の事を浜面が好きだなんて話、自分だけの勝手な勘違いや妄想、幻想の類かも知れない。
浜面はその負け犬根性を全く臆面もなく自分の前でひけらかしてくれたのかもしれない。


信じたい。現に昨日浜面は麦野の事が好きだと言ったではないか。

空調の効いたエレベーターも地下に着くと終了。
ごうごうと空調のうなる音が聞こえる地下駐車場に到着した。
160 :投げんな匙 ◆t4xyS9bQ1M [saga]:2011/01/23(日) 03:23:49.25 ID:qjaYsugY0
エレベーターには幸い誰も乗ってこなかった。
地下駐車場に着くと浜面はシボレーのロゴのキーケースを503のジーンズのバックポケットから取り出す。


一瞬シボレーのライトが光る。ドアが開いた証拠だ。


「ちょっと待ってろ」


「はいはい」


きざったらしくかっこつけながら浜面はシボレーの運転席に座ると麦野の方に車を走らせる。
そしてゆっくりと止まる。


浜面は地下駐車場からシボレーを出すと相変わらずお姉系のカッコの麦野を助手席に迎え入れ、出発していく。


車のステレオからは浜面の大好きなhiphopトラックMo Money Mo Problemsが流れる。
The Notorious B.I.G.のトラックに揺られて浜面と麦野はアイテムの仲間の個人アジトに向かっていく。
ささやかな戦端の幕が切って下ろされようとしていた。
161 :投げんな匙 ◆t4xyS9bQ1M [saga]:2011/01/23(日) 03:24:16.44 ID:qjaYsugY0
――調布国際空港へ向かう道中にて


正午ちょい過ぎ。麦野の号令の元、浜面の運転する車に拾われ、アイテムの面々は全員集合した。
というのも昨日、電話の女が受注したと言う産業スパイの処分作戦の為だ。


麦野は一応作戦の状況説明の動画を車内でアイテムの面々に見せる。
すると絹旗がはぁ…とだるそうにため息を吐く。


「…この任務、超浜面でも出来るんじゃないですか?だってただのスパイ社員ですよ?」


「そうだねぇ…でも、スパイとして訓練は受けてると思うから、絹旗。あんたがいきなさい」


「…ちゃっちゃっと終わらせることに超したことはありませんしね。わかりました。援護は?」


麦野の使う“原子崩し”という能力はいかんせん破壊する当該物がでかくないとどうしようもない。
こういう時は絹旗やフレンダの様に暗殺が得意なメンバーにやらせるのが定石と言っていいだろう。


因みにアイテムの照準である滝壺は勿論出撃しない。
彼女が出撃するとき、それは麦野が出撃することを意味するのとほぼ同義だからだ。


絹旗の質問に麦野は考える。
実際、能力者でも無い限り絹旗を倒すことは不可能だろう。
162 :投げんな匙 ◆t4xyS9bQ1M [saga]:2011/01/23(日) 03:24:56.18 ID:qjaYsugY0
しかし慢心は敗北を誘発する可能性が非常に高い。
念には念を、と言うことで麦野はフレンダと二人でペアを組むよう絹旗に指示する。


「援護かー…フレンダいい?」


恐らく敵もそれなりに鍛えられているだろうし、油断は出来ない。
最近ではキャパシティダウンとか言う能力者対策の音響兵器も開発されているという噂だ。


「絹旗と一緒に行動しな。んで、適宜援護ね」


「OK、無能力者の私と能力者の絹旗で行けばどっちかが落伍してもどうにかなりそうね、たかが一人だし」


「ま、そうゆうこと。じゃ、今回は二人で気を付けて。目標は…捕獲するなり、なんでも良いわ。殺っちゃっても構わないから」



「「はーい」」


麦野の指示を聞き終えると二人はシボレー・アストロから降りて空港のメインゲートから中に入っていく。
あくまでただの一般人にしか見えない二人だが、学園都市の暗部工作員と見抜いている人物はこの空港でどれほどいるだろうか。


二人が暫く歩くと調布発モスクワ行きの航空機乗り場の待機所に男はいた。
車内で見た状況説明動画に出ていたまんまの人物。
ダグラス・ベーダーらしき人物だった。
163 :投げんな匙 ◆t4xyS9bQ1M [saga]:2011/01/23(日) 03:26:48.59 ID:qjaYsugY0
(流石…当局関係者だけあって顔つきも鋭いわね…)


フレンダは飛行機のチケット保持者の列近くにある休憩所の影から冷静に男の体躯や隠し持っている武器の大まかな位置を分析しようとする。


(足に一丁…銃器の詳細は不明…胸内ポケットにプラスチック製のデリンジャー…)


空港には多数の人が居る。
そんな中フレンダと絹旗は白昼堂々どうやって男を処分するのだろうか。


と、ここで男の近くにいた絹旗が歩いて向かっていく。


「すいません、落とし物落としましたよね?この旅券、違いますか?」


「ん?」


絹旗が拾った旅券は勿論偽物だ。
しかし、それに興味を持った男は一瞬絹旗の方に振り向いてしまった。
その時、男の死角になっている所からフレンダがサイレンサー付きのシグザウエルP230で一発、ハンカチをサイレンサーの上にかぶせたまま撃ち、素早い動作でスカートの中の裏ポケットにしまう。


「…っぐ…」
(このにおいは…?)


ダグラスは弾を背後から撃たれた事に気づく。
164 :投げんな匙 ◆t4xyS9bQ1M [saga]:2011/01/23(日) 03:27:16.96 ID:qjaYsugY0
が、時既に遅く、即効性の麻酔弾は筋肉質な体躯のダグラスにも効果を現し、突如、彼は千鳥足になる。


周囲の客はそれを見て不審に思っているが、フレンダが英語でダグラスに話しかけ、介抱をしているそぶりを装っているのであまり気にしていない。
因みにダグラスが麻酔弾を撃たれる直前に嗅いだにおいはフレンダがハンカチに染み付けていたイブサンローランの香水『ベビードール』だった。


もうろうとする意識の中ふらつくダグラスを抱えて調布空港から出て行く絹旗。
三人は空港の前の大型ロータリの前で止まっているシボレーにダグラスを乗せる。


絹旗がダグラスを載せるまで残っていたアイテムの面々は静かに状況が終わるのを待っていた。
この時には既に男は麻酔弾が効き、眠っている状態だった。


「お疲れ、フレンダ、絹旗、ってあれ?てっきりぶっ殺しちゃうかと思ったけど」



「無理ですよ、あの状況じゃ、人が超多すぎます」


事実空港にはモスクワ行きの旅客機に乗る人以外にも多数の人が多数いた。
あの場で殺害を目論むなど、出来る芸当ではない。


電話の女がアイテムの車に配信した作戦説明動画で言われていた“処分”という内容にフレンダ達が行った方法――麻酔弾の使用――
が合致しているかどうかは分からない。
165 :投げんな匙 ◆t4xyS9bQ1M [saga]:2011/01/23(日) 03:28:05.95 ID:qjaYsugY0
しかし、ともあれ、産業スパイ、ダグラスの情報がロシア当局に持ち帰られる事はこれで阻止された。


「結局麻酔弾使って眠らせたから、後は学園都市の治安維持機関に引き渡せばいいって事じゃない?」


麦野に話しかけながら、フレンダがブロンドの髪に手を当ててふぁさりと後ろに持って行く。その素振りは優雅ささえ感じさせる。


「そうね。ねぇ、浜面?下部組織に連絡してこの男を引き渡して頂戴。私達の任務は終了」



「あれ?なんだかしょぼくねぇか?今日の仕事」



ドライバーで車に乗っていた浜面は麦野の任務終了の知らせを受けて驚く。
絹旗とフレンダが車から出てからものの数十分しか経っていない。
しかも産業スパイを生け捕りにしたという殊勲ものの功績をひっさげての凱旋だ。


「しょぼくないよ。はまづら。スパイの生け捕りは難しいんだよ」


「滝壺の言うことも一理あるわね」
(スパイとかぶっ殺しちゃっていいんじゃないの?)


「は、はぁ」
(む、麦野!?お前だって最初は殺しちゃって良いとか言ってたじゃねぇか!)
166 :投げんな匙 ◆t4xyS9bQ1M [saga]:2011/01/23(日) 03:28:32.77 ID:qjaYsugY0
なんにせよ、学園都市の技術漏洩をアイテムは防いだ。
ダグラスがどうなるかは分からないが、取り敢えずはアイテムの勝利と言えよう。
浜面がドライバーを務めるシボレー・アストロはダグラスを乗せて調布空港から出て行く。
車は途中、下部組織と合流してダグラスを引き渡す。


下部組織の連中曰く第十七学区の府中にある拘置所に連れて行かれるそうだ。



「今日は私達の出る幕は無かったわね、滝壺?」


「うん。でも、空港でむぎのが能力使ったら空港なくなっちゃうよ」


「ふふ、違いないわ…あ、作戦終了の報告しないとね」


滝壺のジョークにもならない言葉を麦野は字義通り受け取ると携帯電話をお姉系のワンピースのポケットから取り出す。
そして電話帳に登録した番号にカーソルを合わせてボタンを一押し。


麦野は電話の女に電話をかけた。
167 :投げんな匙 ◆t4xyS9bQ1M [saga]:2011/01/23(日) 03:29:51.60 ID:qjaYsugY0
――第七学区 セブンスミスト

「いやー、初春、結構似合ってると思うわよ?このカチューシャ」


「えー?そうですか?実際、問題こんなのカチューシャじゃないですよぉ」


「え?結構シンプルで良いと思うけど?」


「ダメダメですよ、佐天さん。カチューシャはもっと花とか点いてないとダメです!夏なんで…彼岸花とか!」


「うーん…それは絶対に辞めた方が良いと思うよ…?初春?」



他愛もない(!?)会話。いつもの二人。
佐天と初春はセブンミストの髪留めピンの新作を見ていた。


初春に送ったメールは正午過ぎに帰ってきた。なんでも風紀委員の会議だったとか。
午前中はやはりぼんやりと過ごした佐天にとっては初春の返事が来たことは僥倖だった。


(いやー…返事帰ってこないと実際暇だったからなぁー…アケミ達は実家帰ってるって言ってたし…それに、御坂さん達は…)


佐天は今日の午前中に初春から返事が来ない間、他の友人達――御坂と白井――に遊ぼう、とメールを送る事に逡巡していた。
何故かあの二人と初春抜きで会うことに佐天は抵抗を感じていたのだ
168 :投げんな匙 ◆t4xyS9bQ1M [saga]:2011/01/23(日) 03:30:22.85 ID:qjaYsugY0
(私…どうしちゃったんだろ…午前中、御坂さん達に遊ぼうって、メール送れなかったよ…)


彼女の心の奥底で何かがつぶやく。その声はこう言っている。


『お前はあの二人と会って自分の無能力ぶりをさらけ出したくないんだ』
(うるさい…)



『風紀委員の詰め所に行っても煙たがられるだけだからな』
(黙ってよ…!)


心の声は否定的な事しか言わない。佐天は考えれば考えるほど思考の深みにはまっていった。
浮かび上がるのは負の感情だけ。


(私だって…無能力者になりたくてなった訳じゃ無い…!)


(それに…今の私には御坂さん達と同じように他人に言えない様な事だってしてる…)


佐天はそう言い聞かせて自分の心に納得させる。セブンスミストの空調とはまた違った冷ややかな風が自分の付近に滞留しているような感覚を覚える。
初春が気にかけてのぞき込むまで佐天はしばらく考えていた。



「佐天さん?」
169 :投げんな匙 ◆t4xyS9bQ1M [saga]:2011/01/23(日) 03:30:53.36 ID:qjaYsugY0
「へ?あ、初春!?ごめん、ぼーっとしてたよ!」
(くだらない事考えるのやめやめ!)


初春は両手に派手な花がくっついたカチューシャを持っていた。
そしてニコニコ笑うと佐天にどっちがいいでしょう?と話しかけてきた。

「うーん…こっちはバラメインねー…って痛っ!トゲあるじゃん!これ!」


「え?トゲ??ホントだ!これは…ちょっと怖いですね…こっちはどうでしょう?」


「これは…ツクシ?カチューシャにツクシってどうなのよ…?」


「え?ダメですか?」

佐天は初春のカチューシャ選びのセンスにあきれつつ、他のカチューシャコーナーを見ようとした時だった。


ういーん…ういーん…


佐天のショルダーバッグがにわかに振動しているではないか。


(ゲッ!こんな時に何よ?)


佐天は突然の電話に驚きつつも、焦らず、初春に話しかける。
170 :投げんな匙 ◆t4xyS9bQ1M [saga]:2011/01/23(日) 03:31:20.72 ID:qjaYsugY0
「ご、ごめん初春。ちょっと電話が鳴ってるから待ってて」
(誰よー!こんな時に電話かけるなんてー!切って遊びに集中したいのにー!)


電話を切りたい衝動に駆られつつ佐天は近くの休憩用のソファに腰掛け、タブレット型の携帯を取り出す。
そしてイヤホンをつなぐ。

(えーっと、なるべくタメ口で…年齢がばれないよーに…)


佐天は人材派遣の助言を思い出し、脳内で反芻させる。そして受話ボタンをぽちっと押す。

「はいー、何よー!?こっちは遊んでるのにー?」


『おーおー、遊んでるったぁ…良いご身分なことで…電話の女ぁ?』


「む、麦野…さ…」
(おっとっと…タメ口タメ口…!)

佐天は、「…さ」、とでかかったところで口を紡ぐ。
危うく「麦野さん」と言ってしまう所だった。


「で、どうしたの?仕事は終わった?」


『あぁ、終わったよ。今回はフレンダと絹旗が首尾良くやってくれたから』
171 :投げんな匙 ◆t4xyS9bQ1M [saga]:2011/01/23(日) 03:31:48.53 ID:qjaYsugY0
「へぇ…お疲れ様、で、ダグラスは…?」


佐天の脳裏に浮かぶのは“処分”と言う言葉。果たしてダグラスはどうなったのだろうか。
彼女の興味はその一点に注がれる。


『ダグラス?あぁ、今回の目標ね。つつがなく下部組織に渡したわよ?』

「…そう」
(死ななくて済んだの…?)


麦野の言葉に自然と安堵する佐天。
自分が人殺しを命令しなくて良かった、と思った。免罪符を得たのだ。


『じゃ、今日の所はこれで終わりね?』


麦野の質問に佐天はメールを思い出す。


(ないね…あとは暇があったらマネーカードを拾うだけ…ってこれは私の雑務か…)


そんな事を考えながら佐天は麦野に「ないわよー」、と軽い調子で答える。
すると通話先でクスクスと割る声が聞こえる。


「どうしたの?」
172 :投げんな匙 ◆t4xyS9bQ1M [saga]:2011/01/23(日) 03:32:15.43 ID:qjaYsugY0
『いやいや、お前ってどういうヤツなのかなって話しを今車の中でしてたのよ…ふふ』


「…あ、っそ」
(なにぃー!?)


『ま、私の予想だと…私より年下ね…?必死に言葉を選ぶようにタメ口使ってるみたいだけど?電話の女?』


「べっ、べっつにー!?そんな事ないわよ?」
(そ、そりゃ年上にタメ口って簡単にできるわけ無いでしょー!)


佐天は冷や汗が流れるのを肌に感じた。
正体がばれるわけではないが、ここで自分の身分が分かってしまうのはちょっと抵抗があった。
それは正体がアイテムのメンバーにばれることが学園都市の最奥、いわゆる暗部に完全に堕落する事だと本能的に知覚していたのかもしれない。


麦野はその後何も話さない。というか通話モードにしたままアイテムの面々と話している様だった。
するといきなりアイテムの面々の声が聞こえてくる。
麦野がどうやら外部スピーカーモードにしたようだった。


まず最初に拾ったのは絹旗の声。とげんこつの音。


『超若いですね…麦野よりも全然…ってイタっ!』
173 :投げんな匙 ◆t4xyS9bQ1M [saga]:2011/01/23(日) 03:33:05.67 ID:qjaYsugY0
直後ゴチンというくぐもった音が聞こえる。どうやら絹旗が麦野に一発お見舞いされたようだった。


『私より若いィィ?そりゃない。私はピチピチの十歳だから』


『ちょ?麦野?私より超若いじゃないですか?』


『そしたら、きぬはたはむぎのより年上だからタメ口オッケーだね』


『あ、なるほど。滝壺さん。超名案です。おい、麦野、パン買ってこい!』


『きぬはたぁ!それはあんたの未来の明暗を分ける言動だァ!そげぶっ!』


『ひぃぃ!』


『あ、きぬはたの窒素装甲が破れたさすが怪力』


『た・き・つ・ぼ・ぶ・ち・こ・ろ・し・希望かにゃん☆?』


『とある日常はぱられるー♪はい、フレンダの盾!』


『あわわ…介入しなかったのにぃ…結局私を盾にするなってわけぇぇぇぇ!むぎのぉぉぉ!』


『お前等おちつけぇぇぇぇぇ!!』
174 :投げんな匙 ◆t4xyS9bQ1M [saga]:2011/01/23(日) 03:33:37.62 ID:qjaYsugY0
最後に男の叫び声が聞こえてくる。
これは昨日の朝方麦野の所にいた浜面という男だろう、と佐天は勝手に推測する。


声から推察するに、アイテムの車内は阿鼻叫喚の地獄絵図の様相が繰り広げられている様だ。
佐天はその状況を聞きながら、自然と笑みがこぼれていた。


(はは、面白い連中ね―…こいつら)


「ちょっとー!おまえらー!ケンカすんなー!」


『お・ま・え・ら?』


佐天のケンカ(!?)を制止する声は火に油を注ぐ行為になってしまったようだ。
電話の女=アイテムの構成員より年下、という図式が彼女達の頭の中にできあがってしまったようで(事実なのだが)、全員が佐天の声に反応する。


(ちょっと!?なんで私が皆の怒りの終着点なのよー?)


口げんかを諫(いさ)めようとちょっとした気持ちで口出ししたのがたたってしまったようだった。


佐天はアイテムに電話をするだけで実際に彼らに顔を合わせることは…恐らくないだろう。
しかし、話すだけでも面白い、と佐天は思った。


会計を済ませた初春がこちらに向かってくるのがちらと見えたので佐天は「切るね」、と言い残し電話を切った。
175 :投げんな匙 ◆t4xyS9bQ1M [saga]:2011/01/23(日) 03:34:06.81 ID:qjaYsugY0
通話先の麦野の携帯は外部スピーカーに接続されてアイテムの車内で放送されている。
なので運転に集中している浜面以外の四人の「はーい」という元気の良い声が佐天のイヤホンにもたらされた。


ガチャリ…。そして通話は終了した。


「どうしたんですか?佐天さん?何か嬉しそうですよ?」


「いやね、知り合いがちょっとさ」


「知り合い?学園都市外の友達ですか?」


初春が怪訝そうに聞く。まだ中学一年生の彼女達は小学生で離ればなれになった友人達も居るのだ。
佐天は初春の問いに対して「いや、」と否定の言葉を発して苦笑いをしてごまかす。
その素振りに「?」と首をしかめる初春。


「さーって、私も買いたい財布があるからちょっとばっかし見ても良いかな?初春」


「良いですよー、どこにします?」


「ふふ…ちょっと高いけどお財布を買ってみたくてね…サマンサタバサとかいうやつなんだけど」


「あ、それでしたらすぐ下の階にありましたね、いってみましょう!」


初春はマップを覚えているのだろう。ひょこひょこ佐天の後ろを歩きながら言う。
佐天は今使っているポーターの小さい財布の中身をちらと見やる。
中には一万円しか入っていない。webで調べたら確か一万以上はしたはずだ…。
176 :投げんな匙 ◆t4xyS9bQ1M [saga]:2011/01/23(日) 03:34:37.46 ID:qjaYsugY0
(うーん持ち合わせ、あんまりないなぁ…どうしよ、ちょっとお金おろそうかな?)


お金が無いのに物は買えない。
なので佐天は初春にお金をおろしたいと言う。


「ごめん、初春!この辺りでL銀行のない?」


「L銀行ですか?確か…って私はセブンスミストの案内役ではありませんよっ!佐天さんっ!」


「だよねー!ってことでちょっと一緒に探さない?今持ち合わせが無くてさ…これじゃ財布買えないのよねー」


「わかりました。二人でさがしましょうか」


「うん、ありがとね、初春」


二人はエスカレーター付近のマップを見てこの階にATMが無いことに気づく。
そのままエスカレーターを下っていく。


「そういえば、佐天さん、そのL銀行のカード、最近作ったんですか?」


「え、あぁ…まぁね。それがどーかした?」


佐天の表情が一瞬曇る。初春がL銀行のカードの事を聞いてくるなんて予想外だから。
177 :投げんな匙 ◆t4xyS9bQ1M [saga]:2011/01/23(日) 03:35:23.49 ID:qjaYsugY0
「いえ、他意は無いんですけど、最近L銀行のカードをばらまいている人が居るらしくて…」


初春はそう言うと困ったように首をひねる。どうやら風紀委員の方“でも”マネーカードの散布は話題に上がっているようだった。


「へー…カードをばらまくなんて…理解できないねー…なんなんだろー?」
(確かに意味不明よね…)


「しかもカードがまかれている所は決まって裏路地とか人目につかないところなんですよねー」


「へぇ…そーなんだ…」
(風紀委員の方でもカードをまいている人の真相はわからないって事…?)


(なんか…気分が良いわね…風紀委員の話についていけるって…)


佐天は真相不明のマネーカードをばらまきに関して話題を密かに共有している事がなんだか嬉しかった。
風紀委員にならずとも、こうしたある程度の情報が自分の耳に入ってくる事に言いしれぬ優越感の様な物を感じられずにはいられなかった。


(初春…私もその話し知ってるよ…って言いたいー!けど、がまんがまん!)


佐天が一人マネーカードの話しで葛藤している間に初春は弁を続ける。


「なんで裏路地ばっかにまくんですかね…ここ最近で急増してるんですよ?」
178 :投げんな匙 ◆t4xyS9bQ1M [saga]:2011/01/23(日) 03:35:50.88 ID:qjaYsugY0
「今日の朝、返事返せなかったのはちょっとこの件に関して立て込んでまして…今日で確か32件ですよ?総額六十五万円ほどだって…」



「そうなんだ…結構バカにならない金額ね…」
(その中の一枚は私が持ってるんだけどね…あ、32件にはカウントされないか。私が拾ってる分は報告してないし、使っちゃったし)


「でも、佐天さんにこんな話ししても意味ないですよね、すいません」


「あはは!無能力者の私にゃどーでもいいってか!コラ―!初春!こいつときたらー!」


佐天はクレヨンしんちゃんのみさえ張りにぐりぐりげんこつを初春にかます。
初春は「他意はありませんよー!勘ぐり過ぎですー!」と言って泣く素振りを見せている。


「あっはっは。許す!私は風紀委員じゃないし、こーゆー事は私に話しても意味ない話って事でしょ?分かってるよ、初春」
(初春、いつもありがとね、あんたは優しいよ)


佐天はにこりと初春に笑い、答える。
初春の無意識の中から繰り出される言葉に少しだけズキンと心に響く気持ちには気づかない振りをして。
179 :投げんな匙 ◆t4xyS9bQ1M [saga]:2011/01/23(日) 03:36:30.12 ID:qjaYsugY0
それから数日。
佐天は初春、御坂達とも一緒に遊び、夏休みを楽しんだ。


勿論、その間にもアイテムに対しての定時連絡は二日に一回欠かさず行った。
定時連絡が無い日は大抵仕事の依頼が来る。


そのお陰でアイテムに電話をかける事も数日ながらかなり手慣れてきた。


そして八月十日。
夏休みの半ば、まだまだ夏まっさかり。蝉の鳴き声がうるさい位に聞こえてくる日。


佐天は取り立てて予定も無かったので学園都市治安維持機関なる組織からの命令でマネーカード配置図に従ってカードを拾っていた。
彼女にとってこれは暇つぶしになったし、一種の小遣い稼ぎの様なものだったので結構楽しかった。


因みに、彼女のギャラ(給与)についてはこんな感じだった。

アイテムに定時連絡:一万円
アイテムに仕事の要請:三万円
アイテムの仕事が成功:十万円


アイテムの面々がいくら支給されているかわからないが、佐天より少し多いようだ。
フレンダが電話の時に「あんな危険な事したのに二十万しか貰えないの?」と愚痴っていたのを耳にしたからだ。


彼女達は少ない危険手当で学園都市の治安維持に従事しているのだ。
180 :投げんな匙 ◆t4xyS9bQ1M [saga]:2011/01/23(日) 03:38:38.19 ID:qjaYsugY0
眠い。
ちと中途半端だけど寝る。
いつもレス数が変わらないってことは固定の読者さんがいるのかな…?
っていう妄想をしながら寝ることにしましょう。ではまた近日中に!
181 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/23(日) 09:33:26.26 ID:aDqMCrGno
超むぎのん可愛いってわけよ!!
乙でした!
182 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/23(日) 10:36:08.49 ID:c/0O80hKo
待ってるだろう泥沼が楽しみだなぁ……
183 :作者 [sage]:2011/01/23(日) 17:53:27.72 ID:RsDt704DO
テスト

携帯から報告

今日の深夜か明日の午前に投下します


グダグダ話しに付き合ってくれている皆様に感謝。ありがとう。
184 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/24(月) 09:09:02.78 ID:3V24UJv/0
固定の読者さんならここにいますよっと

佐天さんの葛藤に、アイテムの三角関係。
ダークな展開に滾りすぎて変な汗出そう。
支援
185 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/24(月) 12:37:27.55 ID:WHzxJiIAO
同じくここにも居ますよ
支援
186 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/24(月) 13:57:53.16 ID:JJ24pEhKo
総合スレの時のあんな感じになるのか、それとも違う流れになるのか楽しみだなー
187 :投げんな匙 ◆t4xyS9bQ1M [sage]:2011/01/24(月) 16:52:17.44 ID:bdgWWS4p0
もう少しまってくだせぇ…!!!
今書きために終始してます!

投下詐欺になっちまってすまん
188 :投げんな匙 ◆t4xyS9bQ1M [saga]:2011/01/25(火) 14:50:03.96 ID:SVOiBc3o0
さーって書きため結構溜まったので投下しますよ。

支援とか乙とかうれしいですね。
期待裏切らない様に頑張りましょう。
俺の初めて禁書読んだ時の妄想をここに書ける機会があることに感謝。


あらすじ
佐天は初めての仕事の依頼をつつがなく終了させた。
ターゲットは死なずに済んだ。

そしてアイテムに電話をすることが彼女の日常になっていく。
アイテムのメンバーは彼女の事を電話の女と呼んでいます。

189 :投げんな匙 ◆t4xyS9bQ1M [saga]:2011/01/25(火) 14:50:35.26 ID:SVOiBc3o0
因みにスーパーマリン社の産業スパイ摘発以後、佐天の元に寄せられた仕事の依頼はこんな感じだった。



1:クローン技術漏洩に関して容疑がもたれている品雨大学教授の“処分”
2:横田基地の米軍将官達と学園都市の理事会員達主催の友好記念祭りの警邏活動
3:日本国防衛庁幹部の学園都市兵器群の視察団の護衛


例えば、防衛庁幹部が学園都市に来園した時、絹旗は警備員に扮したテロリストが乗っているハマーを叩きつぶした。
その手際は防衛庁幹部をテロの恐怖におびえる暇を与えず、むしろその手際の良さから彼らの拍手を誘った。


また、横田基地の交流祭りでは品雨大学の件と同様にフレンダが活躍した。
彼女はアキュラシー・インターナショナルAWSを利用し、過激派のスナイパーを一弾で射殺した。
消音機が常備装着されている狙撃中を放つ、7.62mm弾を持ちいた中距離狙撃を敢行。
ピシュ!と見事な手際で過激派の男を一弾で血と肉の塊にかえた。


佐天はこれらを実際に見た訳ではないが、報告時の彼女たちのハイになった声と麦野の冷静だが、素直に褒めている口ぶりを聞いただけだ。
しかし、それだけで二人は相当な腕前だと言うことが分かる。


滝壺と麦野はまだまだその力の正体を明らかにした訳ではないが、彼女たちは二人とも能力者だ。
その実力は推して知るべし、と言ったところだろう。
190 :投げんな匙 ◆t4xyS9bQ1M [saga]:2011/01/25(火) 14:51:36.33 ID:SVOiBc3o0
これらの依頼の内、防諜活動と言うよりか、寧ろ護衛の様な仕事もある。
これから推測するに、アイテムは雑務も行っているようだ。


とりわけ、1の任務終了後の報告で佐天は衝撃を味わうことになる。
何故なら、品雨大学の教授はアイテムに殺されたから。


顛末はこうだ。


(フレンダの報告書から抜粋)

私が教授を追い詰めた時、彼は腰の背の部分から拳銃を抜く動作を行った。

その動作に気づいた私が彼が引き金を押す前に拳銃を発砲。

頭部と心臓付近に一発ずつ被弾し教授は即死。


押収した武器:デリンジャー
用いた武器:シグザウエルP230

以上。




佐天はこの報告を上層部にメールで送信する時、苦虫をかみつぶしたような表情だった。
それもそのはず。彼女自身が出した指令で初めて死者が出たのだから。
191 :投げんな匙 ◆t4xyS9bQ1M [saga]:2011/01/25(火) 14:52:41.62 ID:SVOiBc3o0
例え、彼女の友人達である初春や白井でもレベル5の御坂美琴であっても人殺しはしていないだろう。
ましてや同じ無能力者のアケミ達なんて絶対に。


佐天はこの時、初めて自分が連絡をするだけの立場では無く、自分が人を殺せる命令を出せる立場にあることを知って恐怖した。


彼女には“殺人をした”という後悔の気持ちだけが心に残った。


(私が…殺した…!)



彼女は罪の意識に苛まされる。
殺人を命じた立場としての重責が彼女にズシンとのしかかる。


(何でおとなしく降参しないのよ…?)


佐天は知らないが、学園都市はその優位性を保つために、最高級の機密を誇っている(らしい)。
その資源も何もない一丘陵地帯が世界の中でトップを誇る技術力と軍事力を誇り続けるためには技術漏洩は御法度だった。


なので降参しても待っているのは長い禁固刑か、死刑だ。
ならば死を選ぶのも懸命な選択肢だと言えよう。


(降参しない、敵が悪いのよ…?私は悪くない…はは…そうよね?みんな?)


みんな、とは誰の事を言っているのだろうか。
192 :投げんな匙 ◆t4xyS9bQ1M [saga]:2011/01/25(火) 14:54:35.24 ID:SVOiBc3o0

いつも一緒に初春や御坂達か。アケミ達か。
或いは、まだ一度も目にしたことのないアイテムのメンバーか。


(飽くまで悪いのは…ターゲットの教授だったのよ…おとなしく捕まっていれば…よかったのに…)


善悪の二元論に陥り、自己を正当化しようとする。


最初の依頼で引き受けたダグラスの様に穏当に行かなかったのはたまたまだ、と自分に何度も言い聞かせる。
彼女はそうする事で人殺しをした免罪符が欲しかったのだ。


(はぁ…なんかとんでもない事やってるのかなぁ…私…)


後悔をしていても、今更後には引けない。


中学生には破格の収入、取り立てて自分の周囲に危害は及ばない。
実際に死んでいる様を見たことが無い故に生じる安堵の気持ち。

人の死がただの数字に見えるまでそれほど時間は必要なかった。


幻想御守の時の様にズルズルと、佐天は学園都市の最奥とは名ばかりの暗部に墜ちていった。
193 :投げんな匙 ◆t4xyS9bQ1M [saga]:2011/01/25(火) 14:55:23.37 ID:SVOiBc3o0
――八月十日

佐天の今日(八月十日)の日課は第七学区におけるマネーカードの捜索だった。


「うーん…この辺りにはもう無いかな…」


「あの…佐天さん?なにやってんの?」


佐天の背後から突如声が掛かる。
彼女の事を呼んだのは一体誰だろうか、後ろを振りかえる。


「あ、御坂さん!!御坂さんも例のカード探しですか?」


「あ、いや…」
(いっつも元気だなぁ…佐天さんは…)


御坂は今年学園都市に来た佐天と風紀委員の白井、初春の交友ルートから知り合いになった。


(えー!?なんで御坂さんがここにいるのよー?)


佐天は動揺しつつも御坂と話す。


「じゃーん!私もう四枚もゲットしましたよー!」


佐天はそう言うと御坂の前で拾ったマネーカードが封入されているカードを見せる。
御坂は「わスゴイわね」と驚く。
194 :投げんな匙 ◆t4xyS9bQ1M [saga]:2011/01/25(火) 14:56:00.71 ID:SVOiBc3o0
「何かあたし金目のものに対して鼻が利くみたいで…」


口から適当に出任せを言う。
マネーカードの予想配置図の存在を言えば、自分の身がどうなるか分かったものではない。


「鼻が利くって…」


という御坂の突っ込みを受け流すと佐天は適当に腕を掴むと走り出す。


(御坂さんと適当に雑談しながらカード探しますかねー)


結局、日が暮れるまで二人は一緒にマネーカードを捜した。
と言っても佐天の適当に探す振りをしてカードを見つけると言う超めんどくさい、出来レースだったが。
195 :投げんな匙 ◆t4xyS9bQ1M [saga]:2011/01/25(火) 14:58:04.72 ID:SVOiBc3o0
「じゃ、今度は初春達と一緒にさがしてみましょー!」


「あ、ばいばい!佐天さん」
(いっちゃった…)


美琴は佐天と裏路地でマネーカード探し一緒にした後、帰ろうとした。
すると背後から男達の会話が聞こえてくる。


「…女が例の封筒を置いてるのを見えてさ…」


なにやら女の話をしている。例の封筒とはマネーカードが包まれている封筒の事だろうか?
男達の会話内容に興味を持った美琴はこっそり後をつけてみる事にした。


(見るからにガラの悪い集団ね…あったま悪そう…何企んでるんだか…)


暫く歩き、男達の後をつけていくと使われなくなった雑居ビルに到着した。
何人かの男の中に一人の女がいた。白衣を着ているので研究者だろうか?


(この状況…結構まずくない…?いつでも男達、ぶっ倒せる様に待機してた方が良いかも)


美琴は白衣の女に万が一の事があった時に備えてビルの影からこっそりと見る。
するとその部屋の電気が消えた。


(ちょっと…!中の女の子…平気なの?)
196 :投げんな匙 ◆t4xyS9bQ1M [saga]:2011/01/25(火) 14:59:39.62 ID:SVOiBc3o0
美琴の懸念をよそに、電気がつくと白衣の女を囲っていた女だけ一人で突っ立っていた。
男達は失神して地面に倒れ込んでいる。


「いやーオモシロイもの見せてもらったわ」
(実際にある能力か怪しいけど…話だけで男を黙らせちゃうなんてすごいわね)


美琴は部屋の電気を暗くた際に白衣を脱いだ女に向かって話しかけた。
するとその女はじろりと美琴を見つめると一言言った。


「あなた、オリジナルね」


「?」
(お、オリジナル?何よ?それ)



美琴がレベル5になってからたまに聞く噂があった。


『超電磁砲のDNAをつかったクローンが製造されるんだって』

『軍用兵器として開発されててもうすぐ実用化されるらしいぜ』


あり得ない、あり得ない。
美琴は今の今までそう思っていた。
しかし、美琴に似ている人物を見た、という目撃談もある位だ。
このギョロ目の女の話をただ笑殺し、看過するのも抵抗があった。
197 :投げんな匙 ◆t4xyS9bQ1M [saga]:2011/01/25(火) 15:00:07.49 ID:SVOiBc3o0
「アンタあの噂の事何か知ってるの!?」

美琴は気づけばギョロ目の女の肩を掴んでいた。


「知っても苦しむだけよ。あなたの力では何も出来ないから」


「私に出来ないってアンタだったら…」


ドゴッ


ギョロ目女のローリングソバットが美琴の脇腹に突き刺さる。
どうやら彼女の前では長幼の序はしっかり守らないといけないようだった。


「マネーカードをまくのもその一環」


そう言うとギョロ目の女はマネーカードを撒く理由を説明する。
カードをまいて普段意識が向かない路地や裏通りに意識を向けさせ、そこで行われるであろう実験を阻止している、と言うのだ。


「え?ちょっと…どういう事?意味が分からないわよ…?」
(実験…?阻止…?しかも私じゃどうにも出来ない事…?)


美琴はギョロ目の女に更に詳しく話しを聞き出そうとするが女は机の引き出しにある冊子に火をつけるとそのままどこかに消えていった。
198 :投げんな匙 ◆t4xyS9bQ1M [saga]:2011/01/25(火) 15:00:46.32 ID:SVOiBc3o0
「え?ちょっと…どういう事?意味が分からないわよ…?」
(実験…?阻止…?しかも私じゃどうにも出来ない事…?)


美琴はギョロ目の女に更に詳しく話しを聞き出そうとするが女は机の引き出しにある冊子に火をつけるとそのままどこかに消えていった。


結局美琴は心の中のもやもやが晴れず、電話ボックスの端末回線から彼女の通っている学校にアクセスしてみる事にした。


(布束砥信…三年生十七才…………樋口製薬第七薬学研究センターでの研究期間を挟んだ後…本学に復学…)


(って言うことは彼女は…ここで私のDNAマップを利用した研究を…?)


現段階で分かるのはここまでが限界だった。
ならば、実際に行って確かめてみるしかない。


今日拾ったマネーカードを利用して大型量販店のラ・マンチャで替えの衣服を購入すると美琴はホテルで着替えて樋口製薬の研究センターに侵入する。




侵入はあっけなく成功した。
電気的な警備システムは美琴の前では全く用を為さない。稚戯に等しい。


セキュリティと言うにはほど遠い勤労意欲に欠けるガードマン達の合間を縫って美琴はいとも簡単に樋口製薬の内部に潜入した。
そこには製薬会社とは名ばかりで人一人が軽く入れる培養器がいくつも配備されていた。
199 :投げんな匙 ◆t4xyS9bQ1M [saga]:2011/01/25(火) 15:01:14.73 ID:SVOiBc3o0
薄明るい研究所のライトに照らされてぱっくりと口の開いた培養器は今にも何か出て来るような気配を彼女に感じさせた。



(な、なによここ…製薬会社にこんなに大きな培養器がなんで…?)


美琴は思った。まさか、ここで私のクローンが作られているのではないかと。
そんな事を考えつつ彼女は奥の部屋に向かっていく。制御室だ。


彼女の得意技であるハッキングで砥衛薬会社のパソコンを起動させる。
そしてデータを復元させる。
するとディスプレイに次々を言葉が表示されていく。



『超電磁砲量産計画 妹達 最終報告』


美琴は一瞬唖然とする。そしてその次に瞬間に体に言いしれぬ悪寒を感じた。


(え?ちょっとあの時のDNAマップが?)

あの時…美琴は幼少時代に医師にDNAマップを提供した事がある。
今回のクローンもそこから作られたと最終報告書には記載されている。

美琴は後悔した。
実は幼少時代、DNAマップを提供したことによって自分のクローンが生まれてしまったのだという事実に。


しかし、この文章には続きがあった。
美琴は最終報告を読み進めていく。

どうやら御坂美琴のクローンはレベル5にはならず、よしんばレベル3のクローンまでしか製造できない、との事だった。


これによって美琴のクローンである妹達は中止し、永久凍結されたそうだ。この研究に携わった各チームも順次解散しているらしい。


「はは…は、やっぱ私のクローンなんているわけないんじゃない…」


「さ、寮監に門限破りがバレる前にさっさと帰りますか」
(何よ、あのギョロ目、脅かしてくれちゃって)


美琴は夕方会ったギョロ目、もとい布束砥信の言っていた事の事実確認を済ませると足早に去っていった。
200 :投げんな匙 ◆t4xyS9bQ1M [saga]:2011/01/25(火) 15:01:53.01 ID:SVOiBc3o0
――八月十五日

美琴は以前風気委員の仕事で知り合った子供達と一緒に街を歩いていた。
その時、不意にキィィィー…と言いしれぬ感覚を感じ取った。


子供達と解散すると美琴はその感覚を知覚した方向に向かって歩いて行った。


そこには木を見つめている、常盤台中学校の制服を着た御坂美琴にそっくりな女の子がたっていた。


「――――――――」


その女は無言で美琴を見据える。
美琴はその視線に耐えかね、たらりと冷や汗を掻く。



「あんた…何者?」






聞けば彼女は御坂美琴のクローンらしい。
しかし美琴には懸念があった。それは数日前に侵入した樋口製薬の中で確かに見た妹達製造計画の凍結。


(確か…妹達の計画は終わったはず…何で私のクローンが?)


「例の計画とやらは終わったはずでしょ。何でアンタみたいのが存在するのよ」


そう。確かにあの計画は終わったはずなのだ。クローン製造計画は中止。
美琴が自分のクローンから答えを待つ。


「ZXC741ASD852QWE963'……」

意味不明な言葉の羅列が帰ってる。
美琴は「あ?」と首をかしげる。


「やはりお姉様は実験の関係者ではないのですね…」


暗視ゴーグルを頭に嵌めた美琴そっくりのクローンは抑揚がない調子で言い放つ。
201 :投げんな匙 ◆t4xyS9bQ1M [saga]:2011/01/25(火) 15:02:19.91 ID:SVOiBc3o0
どこの誰が彼女を作ったのだとか、何の為に作られたのか。
それらの事を美琴はクローンに聞いてみるが機密事項の様で、何も言えない。


ついに業を煮やした美琴はぐいとクローンの腕を引っ張った。


「力ずくで聞いても良いんだけど?」


彼女の力はレベル5。クローンでは劣化した能力を生成するのが限度と昨日の樋口製薬の最終報告書を読んで熟知していた。
それもあってか彼女は強気になってクローンに話しかける。


シーン…


クローンは何も答えなかった。
美琴はあきれ、手を話す。


「もういいわ、私がアナタの後を追いかけて製造者の事とっちめてやるから」
202 :投げんな匙 ◆t4xyS9bQ1M [saga]:2011/01/25(火) 15:02:46.31 ID:SVOiBc3o0
すっかり日はくれてしまった。
美琴はクローンの後を追いかけ(半ば遊ぶような形になったが)ていたが結局彼女の製造者はそれにかんする情報は全く得られなかった。


「ちょっと…いつになったら帰るつもりなのよ」


「ミサカは実験があるので帰りません」


「あ、そうそう。お姉様が知りたい実験の内容や製造者に関してですが、お教えすることは出来ません」


「は?」


美琴の半日が無駄になった。


(おいおいおいおい!マジかい)


だが、美琴とてクローンにあって、「はい、そうですか」と言って帰れる訳がない。


(そう言えば…この子、座標コードみたいなのつぶやいてたわよね…?)


美琴はコードを解析しようと思い、スカートのポケットに入っているPDA端末を取り出そうとする。
203 :投げんな匙 ◆t4xyS9bQ1M [saga]:2011/01/25(火) 15:03:16.02 ID:SVOiBc3o0
カラン…


ポケットから何かを落とす。缶バッチだ。


「これは…?」


美琴が拾うよりも早くクローンが反応する。


「あ、いや、これはハハハ……!」
(あ、良いこと考えた)


美琴はクローンが凝視している缶バッチを拾うと彼女の制服の下腹部の辺りにそのバッチをパチンとつけてやる。


「何でしょうか?」


「これで見分けがつくでしょ?鏡で見るよりももっと客観的にわかるわ」


「いや、ねーだろ」


「?」


その言葉に一瞬狐につままれたような表情になる美琴。
204 :投げんな匙 ◆t4xyS9bQ1M [saga]:2011/01/25(火) 15:03:54.28 ID:SVOiBc3o0
「こんな幼稚なセンスなんて…素体のセンスの無さにミサカは動揺を隠せません」


「じゃ…じゃぁ返しなさいよ…」
(クッソ…自分のクローンにもセンスを否定されるなんて…!)


若干の恥ずかしさと悔しい気持ちが湧く。
美琴はクローンに手を伸ばし、バッチを回収しようとする。


ペチン


「え?」


クローンに手を伸ばした美琴の手ははたかれる。


「な、何よ?」


「お姉様の今行った行為は強奪です。バッチの所有権はミサカに移ったとミサカは主張します」


その後、小一時間バッチの奪い合いに興じる事になるが、美琴は拉致があかないと判断し、バッチを渡した。





「お姉様から頂いた初めてのプレゼントですから」

美琴のクローンは一瞬、ほんの一瞬、笑った。
205 :投げんな匙 ◆t4xyS9bQ1M [saga]:2011/01/25(火) 15:04:21.01 ID:SVOiBc3o0
(結局実験の事は何も聞けなかったなぁ…)


クローンは時間がきたとかなんとか言って立川駅のロッカーに向かっていってしまった。
美琴は寮監にばれないようにどうやって帰ろうか、と考えながら街を一人歩いていた。



(コード…何だったんだろう)


ZXC741ASD852QWE963'…クローンが言っていたコード。


(初春さんならわかるかも…)


美琴は公衆電話に駆け込む。
そこで初春に電話をかける。


「ちょっと良い?初春さん」


美琴はコードの事を初春に聞く。
能力は低いものの、演算能力の早さではかなりの速度を誇る初春なら、このコードも解読できるのではないか、そう考えた。


受話器越しにカタカタと打鍵するキーボードの音が聞こえる。
206 :投げんな匙 ◆t4xyS9bQ1M [saga]:2011/01/25(火) 15:04:49.26 ID:SVOiBc3o0
『なんだかよくわかりませんねぇ…妹達を運用したレベル6への進化法…なんですかね、コレ。一応御坂さんにも送信しますね』


「妹達を運用…?」


嫌な予感がした。
妹達…即ち先程まであっていたクローンの事…『達』と言われている限り、一人ではないと言うことだろうか。


(何よ?レベル6なんて…そんなの存在するの?)


美琴が逡巡していると、初春からメールが送られてくる。


『すいません、御坂さん。私、風紀委員の夏季公募と夏休みの宿題に終われてて…すいませんが…』


「あ、うん!お手数かけちゃってごめんね!」


電話が唐突に切れる。
美琴は初春から送られてきたファイルを食い入るように読んでいく。
207 :投げんな匙 ◆t4xyS9bQ1M [saga]:2011/01/25(火) 15:05:17.33 ID:SVOiBc3o0
『絶対能力進化法(レベル6)』

『学園都市には七人のレベル5が存在するが……レベル6にたどり着ける者は一名のみと判断した』


『当該被験者にカリキュラムを施した場合レベル6に到達するには二五○年もの歳月を要する』


『これを保留し実戦による能力の成長促進を検討した』


『ツリーダイアグラムの予測演算の結果…』




『超電磁砲のクローンを一二八回殺害する事でレベル6にシフトする事が判明した』


『しかし、超電磁砲のクローンを用意する事は不可能な為、妹達のクローンを利用し性能差を埋めることとし…』


『二万体の妹達と戦闘シナリオをもってレベル6へのシフトを達成する』
208 :投げんな匙 ◆t4xyS9bQ1M [saga]:2011/01/25(火) 15:06:07.55 ID:SVOiBc3o0
「ハハハ…狂ってるわよ…こんな事出来るわけがない…」


「私を殺す…?代わりに妹達を…?レベル6?」


美琴は口では否定しつつも頭では否定できなかった。

つい先程まで一緒にいた妹達の内の一人。缶バッチをつけたクローン。
彼女は実験をするためにどこかに消えていってしまった。


美琴はPDA端末のカーソルを下におろしていく。
すると座標が指定されていた。


(ここで…実験が…?)


(…まさかね…?)


彼女はそう思いつつも、拭いきれない懸念と悪寒を胸に、公衆電話を飛び出し、座標地点に向かっていった。
209 :投げんな匙 ◆t4xyS9bQ1M [saga]:2011/01/25(火) 15:06:45.01 ID:SVOiBc3o0
分倍河原 
ここには貨物の操車場がある。


一般人は立ち入り禁止となっているこの場所で戦いと言うにはおこがましい程の戦いが行われていた。


「逃げてばかりじゃァ、オレの事は倒せませンよォ?」


真っ白な肌に、夜でも分かる赤い目、そして銀色の髪。
学園都市第一位一方通行。
彼は缶バッチをつけた御坂美琴のクローン――性格に言えばミサカ9982号と戦っていた。


「ク…ッ…!」


9982号は逃げる事しかできなかった。
銃器の類は全く効かない。どういう訳か全て反射してこちらに跳ね返ってくるではないか。


「オイオイ…逃げ足だけは速ェのな…クカカ」



一方通行はとぼとぼとゆっくり9982号に向かって歩いてくる。
勝敗こそ決していないが、その足取りは既に勝ち誇った勝者のそれだ。
210 :投げんな匙 ◆t4xyS9bQ1M [saga]:2011/01/25(火) 15:08:23.22 ID:SVOiBc3o0
歯医者いってくる。
原作のセリフまんま流用してすいません。
夜投下します。


あと、前の書き込みにあったステファニーとフレンダの姉妹設定のSSってなんすか?超読みたい
211 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage ]:2011/01/25(火) 16:13:16.93 ID:1gYwGHvT0
 乙乙!!
無能力者と超能力者の友達は知らないうちに命の遣り取りを……
いや違う一方的に狙うことになるんですね……
212 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/25(火) 17:17:04.98 ID:8TcIlNxW0
>>1乙ェ…

ついに一方さんまで絡んできたァ!!
いいねェ!最っ高だねェ!!
213 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/25(火) 20:05:07.58 ID:dmPIlNkf0
SS速報禁書sswikiに収録させていただきました↓
http://www35.atwiki.jp/seisoku-index/pages/704.html
>>1さん続き楽しみにしてます!
214 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/26(水) 01:13:19.69 ID:Y+Pzo+hAo
とうとう来たか…
第一位…
すげえワクワクする

>>1
215 :作者 携帯から :2011/01/26(水) 01:37:50.91 ID:202nBwlDO
家族がパソコン使ってるので投稿は明日になります…。待っていたかた、申し訳ありません!!
216 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/26(水) 03:13:03.89 ID:oAr+tTHKo
姉妹設定は俺の覚えてる限りだと1コ前の小ネタスレにあったな
スレ立ってるかは知らんけど
217 :投げんな匙 ◆t4xyS9bQ1M [saga]:2011/01/26(水) 10:30:09.09 ID:kFxmX+Fj0
昨日はすいませんでした。
バイトに行く前に少しだけ投下。

ちなみに小ネタスレにステファニとフレンダが姉妹設定のはなし書きこんだの俺でしたWW


あらすじ
仕事に慣れてきた佐天は今日も雑務のマネーカード拾い。
一緒にカードを拾っていた美琴は帰り際にスキルアウトに絡まれている少女(布束)を見つける。

彼女から聞かされた話によると美琴のクローンが作られているとか。

数日後、実際美琴はクローン(9982号)を目撃する。
そしてそのクローンは夜、学園都市第一位の男、一方通行との戦闘に赴く。

美琴はそれを目撃する…?
218 :投げんな匙 ◆t4xyS9bQ1M [saga]:2011/01/26(水) 10:32:10.83 ID:kFxmX+Fj0
そんな一方通行がジャリ、ジャリ…と線路の石の上を歩いて9982号に向かってくる。


「(目的地への誘導に成功しました)」


かすれるような小さな声で9982号がつぶやく。
そのつぶやきがまだ良い終わらぬうちに付近の地面が爆発する。


切り札の対戦車地雷だ。


(吹き飛べ、第一位)



ベアリングを混入した高性能火薬を用いたかなりの破壊力を秘めた地雷だ。
米軍の正式採用タンク、エイブラムスクラスなら軽くふき飛ばす程の大型地雷が炸裂する。





ドゴォォォン…!





爆煙が巻き上がる。


(終わった…?)


9982号が爆煙を見つめる。
219 :投げんな匙 ◆t4xyS9bQ1M [saga]:2011/01/26(水) 10:36:04.85 ID:kFxmX+Fj0
9982号が爆煙を見つめる。
「目標…沈黙…?」


じっと爆煙を見つめる。もう動ける体力など殆ど残っていない。
体の至る所が痛い。


(早く治療しなければ…ミサカはかなりヤバい…状況ですね…そーいえば、救急車なんてきてくれるんですかね…?)

怪我の治療の事をふと考えたその時。



ボヒュ…


煙の中から一方通行が飛び出してきた。
電光石火の勢いで9982号の脚を鷲づかみにすると軽く引っ張る。


ぶちブチ ボギャ


「あは…ぎゃっは…脆れェなァ…!」


「――――――――――!!」


声にならない叫びが木霊する。
9982号の脚が太ももの上の部分から引きちぎられた。


一方通行は引きちぎった脚からしたたり落ちる血をぺろりとなめる。


「まじィ…クローンの血はまじィなァ…腹の足しにもなンねェ…」


「…クッ!」
220 :投げんな匙 ◆t4xyS9bQ1M [saga]:2011/01/26(水) 10:39:43.83 ID:kFxmX+Fj0
9982号は最後の力を振り絞った電撃を浴びせるが、それも反射して自分に当たる。
即座に勝てないと判断した彼女はとぼとぼと残された一本の足を引きずってイモムシの様に前進する。


「…く…は…ひ…ぐぐ…」


彼女は喋れるような精神状態ではない。
自分の体液が目の前の得体のしれない人物にのまれ、理不尽にその綺麗な脚を引きちぎられることは犯される事と同じ位に屈辱にまみれることだろう。
彼女は一本の脚と二本の手で逃げようとするが…落し物をした事に気付く。

美琴からもらった缶バッチだ。



「オイオイ…そっちは行き止まりだぜェ?逃げねェのかァ?」
(ったく逃げる奴をなぶる方がおもれェのになァ…この手の相手は…クカカ、それともこの状態のコイツを犯すか…ヒャハ…悪くねェ…)


「ハァはぁ…ハァ…」


9982号はいつの間にか外れていた缶バッチを拾おうと思い、行き止まりの方へと歩をすすめる。


「ふーンそのバッチ、大事なもンなのか?」


「アナタに答える義理はありません」


「あー、そォ。なンか同じ女何回犯してるかわかンねェケド…オマエはやっぱ良いや、なんか脚ねェし…クカカ」
(犯す話はなし。もういーや)


「…そうですか。では早く殺して下さい」


「いわれなくとも」
221 :投げんな匙 ◆t4xyS9bQ1M [saga]:2011/01/26(水) 10:40:12.86 ID:kFxmX+Fj0
ぽいっとまるで何かを投げ捨てるような感じで一方通行は線路の測定調整車を投擲する。
その車輌はゆうに一トンを越える。


ドゴンという炸裂音の中に僅かながらプチっと生ものがつぶれるような音が聞こえる。



「本日の実験、終了ォー☆」


白い悪魔は口元だけ不気味に歪ませ、数十分の戦いを締めくくる一言をはいた。
222 :投げんな匙 ◆t4xyS9bQ1M [saga]:2011/01/26(水) 10:41:42.70 ID:kFxmX+Fj0
一方通行の実験を近くの高架鉄橋で見ていた美琴。

(な…ちょ…え?)


目の前で繰り広げられる凄惨な光景を直視していた彼女はしかし次の瞬間、一方通行が9982号の血を舐める光景を目にする。


「う…お…オエ…」


美琴は高架におう吐する。
だが、ここで座していてはいたずらに自分のクローンが死ぬだけだ。




自分とうり二つな人が死にかけている。
そんな光景を目の前で見た事がある人はいるだろうか。恐らく居ないだろう。
世界にただ一人、御坂美琴を覗いて。



ドガァアアアアアアアアアン


爆音が響き渡る。
一方通行の投擲した車列が片足をもがれ、真っ白な骨をむき出しにした美琴のクローンに投擲されたのだ。


最後に見えた光景――それはクローンが大切そうに、本当に大切そうに缶バッチを握りしめた光景だった。




「―――――――――!」


自分でも何を言ったかよく覚えていない。
9982号は車両の下敷きになった。おそらく生きてはいないだろう。
223 :投げんな匙 ◆t4xyS9bQ1M [saga]:2011/01/26(水) 10:43:13.40 ID:kFxmX+Fj0
(…なん…てことを…!)


美琴は雄々しく、勇敢に一方通行に立ち向かっていった。


彼女の目に狂いがなければ、9982号は確かに缶バッチを大切に握りしめながら死んでいった。
彼女はその光景をまざまざと見た。理性を保てるはずがなかった。


胸の内に沸く憎しみ、憎悪、混乱…。
あらゆる感情を内包した彼女は一方通行に全身全霊の攻撃を仕掛けた…。



砂鉄の嵐、線路の枕木を外した鉄による殴打、そして最強を誇る…と信じていた超電磁砲を放つ。



「クカカ…足りねェ足りねェ…小さすぎるぜェ…第三位…」


「…はぁ…はぁ…化け…もの…め!」


「最後の…コインぶっ放すヤツ…あれが切り札っぽい感じだったが…ひゃひゃひゃ…全く効いてませェン」


美琴の攻撃を全て立ちつくすだけで、受け流した、否、反射した男。
その男は禍々しく美琴を嗤う。


彼はすたすたと美琴に歩いて来た。


「いっつもいっつもお世話になってンぜ?お前のクローンにはよ」


はぁはぁ、と肩で呼吸する美琴の隣にゆっくりと一方通行が歩いてくる。


「オレの名は…」


「一方通行だ…」



「よろしくゥ」


美琴はすとん、と腰を抜かしてしまった。
そして戦場となった操車場の事後処理をする妹達が現れる。
224 :投げんな匙 ◆t4xyS9bQ1M [saga]:2011/01/26(水) 10:44:14.56 ID:kFxmX+Fj0
――八月十六日

美琴は多摩センターの駅前で座っていた。
目からは全く生気が感じられない。


それもそのはず。
彼女は昨夜二十一時から始まった、第九九八二回目の実験を目撃し、介入し、敗北したから。


「ベンチで夜明かししている少女がいると思ったらあなただったのね」


目の下に大きなくまを作った美琴はおもむろに顔を上げる。
そこには数日前に雑居ビルで遭遇したギョロ目の女。布束砥信がいた。


「その様子だと…計画を知ってしまった様ね…」


「あなたには止めるすべがないから関わらない方が良と言ったのに…」


「…何であなたはこの実験に加担して居たのにマネーカードをばらまいていたの?」


布束が妹達の量産計画に加担していた事はPDA端末ファイルで入手した情報で美琴は既に知っている。
しかし、そんな彼女が何故、量産計画の延長に当たるこのレベル6シフト計画を妨害しているか美琴には分からなかった。


「世界とは…こんなにもまぶしいものだったのですね」


「は?」


「以前ラボの屋上から外の景色を見せた時、あの子が言った言葉よ」


「…そう」
225 :投げんな匙 ◆t4xyS9bQ1M [saga]:2011/01/26(水) 10:45:48.94 ID:kFxmX+Fj0
布束が以前妹達量産計画が凍結して一度研究チームから外れた際、布束と妹達の一人は施設の屋上から街の風景を見た。
その時に妹達の一人が発した言葉。その一言が布束の心を揺さぶった。


「あの時から私は彼女達を作り物とは思えなくなったわ」


「あなたは彼女(クローン)達の事をどう思ってるの?」


布束は美琴に問いかける。
彼女は体育座りをしたまま黙っていたが、やがて顔を上げる。


「私は…クローンを人間としてなんてみれない…」


「でも…人のDNAマップをくだらない実験に使っている奴らを見過ごすことは出来ないわ」


「私が撒いた種だもの。自分の手で片をつけるわ」


美琴はそう言うと重い腰を上げる。
目の下に出来たくまと、この狂った学園都市の闇に対する負の感情が彼女を起き上がらせる。


「研究関連施設は20をくだらないわよ?一人でやるつもり?」


「私を誰だと思ってるの?」


美琴は後ろから聞こえる布束の声に振り向き、答える。




「常盤台のレベル5、最強のエレクトロマスターよ」





美琴はそう言うとふらふらした足取りでその場を後にした。
一方通行に勝てない事は昨夜の戦いであっけなく証明されてしまった。


ならば研究に関連している施設を吹き飛ばすしかない。
施設を吹き飛ばしてこれ以上の犠牲者が出なければそれで良い。




美琴は街の雑踏に消えていった。
その後姿は彼女を知る人が見たならば、まるで他人に見えるだろう。
幽鬼の乗り移ったような彼女のうつろな表情はどこか妖艶な、しかし、妖刀の様な雰囲気をはらんでいた。
226 :投げんな匙 ◆t4xyS9bQ1M [saga]:2011/01/26(水) 10:46:28.51 ID:kFxmX+Fj0
――佐天の学生寮 八月十九日(美琴が一方通行の事件を目撃してから四日後)

「じゃ、また明日ね、初春、白井さん」


「はい、また明日ー佐天さん、白井さん」




佐天は夏休みまっさかりと言うことで初春や白井と第二十二学区の地下街で遊んでいた。


当初は美琴がいないのがいやだ、なんだ、と言っていた白井は結局来た。
だったが遊び始めるとわいわいと騒いでいたので、一応楽しんでいたのだろう。


美琴はなんだか最近とりつく島がない、との白井談。なにやら緊急事態だろうか?
白井に聞くところによれば、何でもここ最近寮の方にも戻っていない、との事。



(御坂さん、最近どうしたんだろう?)



佐天は美琴の事をぼんやりと考えながら日焼け対策の水スプレーを肌に振りかける。


(何かあったのかな…?)


ういーん…ういーん…


(お、きたきた)
227 :投げんな匙 ◆t4xyS9bQ1M [saga]:2011/01/26(水) 10:46:56.24 ID:kFxmX+Fj0
電話の女。


アイテムのメンバーからはそう呼ばれる様になった。
興味本位でやり始めたこの電話をする仕事に彼女は最近慣れはじめていた。


いや、“慣れている”…少し語弊があるかもしれない。
八月の第一週に人材派遣の勧誘で始めたこの仕事。


初めて死者が出た―フレンダが射殺した―品雨大学の一件。
そこから何件かの依頼が佐天の携帯電話に入ってきた。


送信者はすべて学園都市治安維持機関とかいう所から。
仕事の依頼を出し、報告が来るときに記載される任務の詳細。


死傷者の数や捕獲した兵器やサンプル資料。
佐天が必ず目を通すのは死傷者の項目だった。


事後処理として下部組織が詳細をまとめた報告書を送ってきたり、アイテム自身が報告書を送ってくる事もある(こちらはかなり大雑把な感じだが)。
これらの報告書を佐天は学園都市治安維持機関に転送するのだ。
かなり大雑把な報告書でもいいので、おそらく治安維持機関は任務させ完遂すればいいのだろう。


ここ最近は二日に一回、佐天の携帯に仕事が舞い込んで来る。
それを彼女はアイテムに伝達する。


佐天は任務が終了して送られてくる報告書を軽く流し読みすると治安維持機関に報告する。
彼女自体、その機関がなんなのかよく把握していないが、恐らく風紀委員や警備員とはまた別の組織なのだろうと勝手に推察する。


(ふーん…昨日の仕事…あ、二人死んだんだ)


フレンダの中距離射撃で一名死亡、絹旗の投擲した車に押しつぶされて一名死亡


初めて品雨大学の教授が死んだ報告書を受け取ったとき、佐天は謝罪の念に駆られた。
人の人生を奪ってしまったから。


しかし、今ではその死傷者の報告はただの数字と化し、彼女の興味をそそるまでには到らなくなっていた。
一人殺せば殺人者だが、百人を殺せば英雄である、というチャップリンの言葉はまさしく的を得ていた。


人を殺すことはもちろん重罪だ。
しかし、その人が何かしらに違反しているのだ、佐天はそういう人物を斃していると、自分に言い聞かせてこの仕事をこなしていた。
いや、もはやそれすら辞めて、ただ任務を通達しているだけなのかもしれない。
228 :投げんな匙 ◆t4xyS9bQ1M [saga]:2011/01/26(水) 10:47:23.01 ID:kFxmX+Fj0
『えー続いてニュースです』


佐天がテレビをポチッとつける。


『品雨大学の研究棟で火災が発生しました』


(品雨大学…ってあの教授が抜けたとか…この全く人騒がせな大学ねー)


日焼けした肌にしっとりしめったタオルをあてがいながらニュースを見る佐天。
ニュースの内容からすれば死傷者は居ないものの、研究棟で行われてい研究は暫く凍結するとの事だ。


(ふーん…なんか物騒な世の中ねー)


佐天は他人事の様にテレビの内容をぼんやりと見ながら思った。


『続いて新たに入った情報です…!磁気異常研ラボにも火の手があがった様です…』


『なお…侵入の形跡はなく…いきなり電子機器がショートした模様で、学園都市に電力を供給している会社の技術者達が緊急招集され…』


『あ…あらたに入った…情報ですと…バイオ…』



テレビのキャスターは刻一刻と入る情報にてんてこ舞い状態だった。
ニュース内容よりも動揺してあたふたしているキャスターを見ている方が佐天は面白かった。

229 :投げんな匙 ◆t4xyS9bQ1M [saga]:2011/01/26(水) 10:47:53.20 ID:kFxmX+Fj0
(電子機器のショートとか…ってか破壊されすぎじゃない?)


(外部からの接続だけでこんな事出来るの?テロって言うからにはもっと直接侵入する様なイメージがあるけど)


(電子セキュリティを破壊するだけで目的は達成されてるのかしら?)


ここ最近で得た知識で佐天は考える。
ニュースをみる限りだと何故か生物学的分野で頭角を現している方面の施設ばかりが攻撃を受けている。


(電子セキュリティを外部から解除出来てなおかつ施設のパソコンに侵入するってまさか初春?)


彼女の親友である初春飾利は確かに高度な演算能力を買われて風紀委員のハッキングを未然に防ぐ防衛ラインを構築した実績がある。
しかし、初春がこの施設を破壊する理由が全く思い浮かばない。


(ははは…いくら初春が演算できるからってこんな事はしないよ)


(誰なんだろ?こんな事するの?)


(…もしかして…御坂さん?…ってアホか私は)


ここ最近遊びに誘っても来ない美琴。白井は言っていた。「とりつく島がない」と。


(…あ…はははは…まさかまさかぁ…だって…ねぇ?御坂さんも研究所を吹っ飛ばす理由なんてないに決まってるじゃない)


(学園都市には二五〇万も人がいるんだし…まさかね)
230 :投げんな匙 ◆t4xyS9bQ1M [saga]:2011/01/26(水) 10:48:28.36 ID:kFxmX+Fj0

佐天は再びニュースを見る。
今度は逆にキャスターのあたふたする素振りが妙にうざったく見える。


『蘭学医療研究所でも新たに火災が発声したと…!』


(…なによ…これ…!)


聞けば学園都市の複数施設が既に電子セキュリティが解除され、通信回線からの攻撃をしているとの事だった。


『サイバーテロが行われている様です…!引き続き情報が入るまでお待ち下さい…!』


初春は学園都市の治安を守る風紀委員に所属している。
学園都市の施設を破壊する様には見えない。理由もない。


しかし、御坂美琴は…?
サイバーテロを起こさないと断言できる理由が思い浮かばない。



(考えすぎ…よね?)


佐天はニュースを見ながら次の情報が入ってきたその時だった。


ういーん…ういーん…


仕事用の携帯電話が鳴る。
231 :投げんな匙 ◆t4xyS9bQ1M [saga]:2011/01/26(水) 10:49:08.80 ID:kFxmX+Fj0
またあとで
232 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/26(水) 12:09:56.97 ID:paUguyuDO
乙 盛り上がってきたな
233 :投げんな匙 ◆t4xyS9bQ1M [saga]:2011/01/26(水) 16:44:56.96 ID:kFxmX+Fj0
あらすじ
一方通行のレベル6シフト実験をまざまざと目撃し、そして戦いを挑んだ美琴。
しかし、彼女は指一本触れられず敗北する。
翌日布束と遭遇した美琴は狂った計画を阻止しようと考えた。
美琴は各施設を潰していく。

ちょうどその時、佐天の携帯に連絡が入ってくる。
234 :投げんな匙 ◆t4xyS9bQ1M [saga]:2011/01/26(水) 16:45:59.10 ID:kFxmX+Fj0
(ま、まさか…?仕事?)


このタイミングで仕事の依頼が来る…?佐天はおそるおそる携帯のメールをタッチする。


−−−−−−−−−−−
From:製薬会社

Sub:仕事依頼・緊急

アイテムには明日、施設を防衛して欲しい。
なお、この依頼は当社からの依頼で上層部に裁可されているオーダーだ。


さて、仕事に関してだが、通信回線と電気的なセキュリティに引っかからない事から、エレクトロマスターの犯行ではないかと思われる。


なお、アイテムにはターゲットが施設に侵入した際のみ、邀撃。
それ以外にこちらから攻撃を仕掛ける事を禁ず。


当該目標である犯人の素性の詮索も同様に禁ず。
これらの事をアイテムにも伝えて頂きたい。


施設見取り図.jpg

以上。
−−−−−−−−−−−
235 :投げんな匙 ◆t4xyS9bQ1M [saga]:2011/01/26(水) 16:48:17.44 ID:kFxmX+Fj0
(エレクトロマスター…)

佐天はその言葉を反芻する。
まさかアイテムと御坂美琴が戦う事になるかもしれない。


学園都市には他にもエレクトロマスターの人間が居る…はず。
何も御坂だけではない。


(まさか…ね。御坂さんな訳がないよね?)


佐天は自分に言い聞かせる。
しかし、御坂ではないと言い切れる証拠がない。



(どうか…御坂さんじゃありませんように…)


もはや祈るような気持ちだった。彼女が施設を襲撃したのか、それとも。


(詮索はダメか…とりあえず…麦野さんに電話…っと)


電話の時は年上の人の名前を呼ぶと「さん」付けで呼んでしまう可能性がある。
なので「こいつら」とか「こいつー」とかの方が呼びやすかったりする。


佐天はメールタブを開いたまま、通話ボタンを押す。
今日もアイテムは仕事に従事しているはずだ。


アイテムや下部組織からは仕事の終了連絡はまだ来ていない。
だが、緊急と指定されている案件なので佐天は麦野の携帯に電話をかけた。
236 :投げんな匙 ◆t4xyS9bQ1M [saga]:2011/01/26(水) 16:48:54.65 ID:kFxmX+Fj0
(御坂さんじゃ…ないよね…ははは…)


犯人の素性の詮索を禁止する、という事は当該人物の身元が明らかになって、その人物が関わっていることが知れたらまずい事態になるのではないか。
だからこそ、その人物の詮索を禁止するのではないか。と言うことは仕事をよこしてきた製薬会社は侵入者の正体を知っている可能性がある。


(侵入者の正体…製薬会社は知っているの…?)


(なのに敢えて言わない…って言うことはその人は学園都市の裏事情に通じていない人って事…?)


佐天は麦野が携帯に出るまで必死に推理をめぐらす。
そして、その推理が外れる事を祈る。


(学園都市の裏以上に通じてなく…且つ…エレクトロマスター…御坂さんしかいない…!)


エレクトロマスターなんて沢山いる学園都市。
だが、学園都市広し、と言えど、通信回路を外部から遮断し、火災を発生させるほどのエレクトロマスターはおそらく限られているだろう。



(こんなお子様中学生の推理なんか外れてくれ…!)


ベッドに座りながら麦野が電話に出るのを待つ。
佐天の手にじわりとにじむ汗。

ベッドにそれをなすりつける。
ニュースから流れる声がただの雑音に聞こえる。



『はぁい、アイテム』


麦野が電話に出る。
佐天は震える声で言い放つ。





「し、仕事よ…!」
237 :投げんな匙 ◆t4xyS9bQ1M [saga]:2011/01/26(水) 16:49:39.69 ID:kFxmX+Fj0
「でも、結局水着って人に見せつけるのが目的な訳だから、誰もいないプライベートプールじゃ高いヤツ買った意味がないっていうか」


「でも市民プールや海水浴場は混んでて泳ぐスペースが超ありませんが、っていうか私達が外泊申請出して通るかどうか…電話の女に掛け合ってみましょうか?」


「うーん…まぁそれもあるわね…滝壺はどう思う?」


「私は浮いて漂えるスペースがあればいいかな?」


「「はぁ」」


アイテムのメンバーは今日もお仕事。
ちょっとした武装集団との戦闘だったがいかんせん簡単すぎた。
麦野と滝壺は今回も一回も能力を顕現させることはしなかった。


「でも、きぬはたの言ってた事が重要かも…私達の外泊申請が通るかって事だよね」


「問題はそこですよねー…暗部の私達がしゃぁしゃぁと外に出て良いのかって事ですよ」


「かー!小さいことは気にしないって事よ!今度みんなで海いこう!ってかさっさと外出たいなー」


「だから、フレンダ。外泊申請が…」


「いや…外泊じゃなくてさ…」


「?」

滝壺が首をかしげる。



「製薬会社からの依頼ー?」


麦野の甘ったるくちょっと大きい声が裏路地に響く。
アイテムの三人は雑談を辞めて一斉に麦野の方を向いた。
238 :投げんな匙 ◆t4xyS9bQ1M [saga]:2011/01/26(水) 16:50:27.88 ID:kFxmX+Fj0
「取り敢えず仕事中にゴメンね」


佐天は受話器越しに一言麦野達にあやまる。


「昨日今日でちょっとサイバーテロが起きてるのは知ってる?」


すっかりこの仕事が板についた佐天。
最初は敬語を使うかどうかで悩んでいた彼女も今では同年代の友人と話す様な感覚で喋っている。


『サイバーテロ?』


「うん。複数の施設が何ものかに潰されててね…」


佐天は通話モードのタブをタッチパネルで右に追いやり、器用に先程送られてきたメールを開く。
そしてすらすらと製薬会社の依頼メールを読み上げていく。


「で、なんだか知らないけど、守る施設は既に決まってるみたいで、みんなにはそこに行って欲しいの」


佐天はそう言うとシボレー・アストロの車載PCにメールを送る。
239 :投げんな匙 ◆t4xyS9bQ1M [saga]:2011/01/26(水) 16:50:56.17 ID:kFxmX+Fj0
『りょーかい、後で見とく』


『にしても…』


「ん?何よ?」


『エレクトロマスターねぇ…』


「その可能性が高いって話ね」


麦野のため息の様な声が聞こえてくる。
佐天は見た事がないが、麦野も能力の根本においてはエレクトロマスターのそれに似ている所がある。
なにかしら思う所があるのかもしれない。


佐天は続けてメールの内容を読み、麦野達に知らせる。


「通信回線を使ったテロと電気的なセキュリティに引っかからない事から、そう推測されるみたい」


「てゆーか依頼主はどうも犯人が特定できてるっぽいんだけどねー…」


佐天に送られてきたメールに記載されていた言葉、“犯人の素性の詮索も同様に禁ず”。
これは製薬会社は知っているがアイテムは知らなくて良いと言っている様にも聞こえる。


『目星がついてるならこちらから襲撃すれば良いのでは?』


最年少の絹旗の声が聞こえてくる。
佐天は内心私もそう思ったわよ!と言いたい衝動に駆られる。


「いやー…製薬会社の依頼なんだけどね」と佐天は一言区切る。
240 :投げんな匙 ◆t4xyS9bQ1M [saga]:2011/01/26(水) 16:52:18.17 ID:kFxmX+Fj0
「手出しはターゲットが施設内に侵入した時のみ襲撃者の素性は詮索しない事が依頼主(製薬会社)のオーダーよ」


『はぁ?何それ?結局意味わかんないんだけど』


「こいつらときたら!私だって………やりたくて受けたわけじゃないわよ!」
(もし…御坂さんだったら…私達…友人とかそういう関係じゃなくなっちゃう)


佐天はむしゃくしゃし、髪をかく。
そして適当に「それにこの手の依頼には色々事情があるんだっつーの!」と言っておく。


『はいはい、ギャラ弾むように上に言っとけよ、電話の女』


「うっさーい!ごちゃごちゃ言ってないで仕事しろー!」


そう言うと佐天は電話を切る。
アイテムとの通話は終了した。


後は報告が来るまで待つのみだ。
今まで彼女達の仕事が終了する連絡が来ることに何も思わなかったが、今日ばかりは何だか気が気でなかった。



(ホントに…御坂さんじゃなければいいんだけど…)



この世に神様がいるなら祈りたい。
そんな気持ちに電話の女、もとい、佐天はかられる。
241 :投げんな匙 ◆t4xyS9bQ1M [saga]:2011/01/26(水) 16:53:32.65 ID:kFxmX+Fj0
ごめん。今日はここまで。
今、アイテムと美琴の戦い書いてるんだけど、漫画をちょっと改編してます。セリフとか。

許してくださいな!
ではばーい
242 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/26(水) 21:48:33.43 ID:hdDplCqW0
>>1乙です

あードキドキしてきた。
いよいよ佳境って感じだなあ
243 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/26(水) 22:32:38.73 ID:x+C9dXiRo
乙でした!!

244 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/27(木) 00:23:20.59 ID:TA8gHQi5o

いよいよ盛り上がってきたな
佐天さんのダメさが結構リアルだな
245 :作者 携帯から :2011/01/27(木) 11:48:47.11 ID:lfGWje3DO
携帯から。
色々誤字ありますね。
マジですいません!
それでも盛り上がって来たとか言われるとうれしいです。ありがとう!


訂正
>>230
学園都市の複数施設が攻撃しているんじゃなくて攻撃うけてる、に変更で。

>>234
製薬会社からの依頼メールの内容を『明日』→『本日』に脳内変換たのんます!
246 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/27(木) 12:58:10.40 ID:BDi6VSSR0
なんだろうこのハラハラ感
続きまってます
247 :投げんな匙 ◆t4xyS9bQ1M [saga]:2011/01/28(金) 03:08:18.64 ID:scyQj+zN0
あらすじ
アイテムは仕事をしている間、急遽一件の仕事を受注する。
その仕事の内容は製薬会社から寄せられたものだった。

内容は目下起きているサイバーテロの鎮圧と予想されるであろう侵入者の邀撃。
高位エレクトロマスターの犯行と疑われており、佐天は自分の友人である美琴を疑う。

アイテムはそれぞれの持ち場につき、戦闘配置に移行しつつあった。
248 :投げんな匙 ◆t4xyS9bQ1M [saga]:2011/01/28(金) 03:09:51.91 ID:scyQj+zN0
ういーん…ういーん…

佐天の携帯電話がバイブレーションし、メールの着信を知らせる。



From:麦野沈利

Sub:無題

施設の電気セキュリティが破られた。
多分そろそろ来るわ。

あ、ちなみに絹旗とフレンダ、別々の施設に待機させたから。
何か、一方面だけっていうのが怪しいのよね。


じゃ、私と滝壺は待機してるから、また情報が入ったらそっちも連絡お願いね。




麦野が送ったメールはニ方面作戦を行う事を知らせるメールだった。
佐天は戦術に関しては何も知らないので麦野に任せることにした。



To:麦野

Sub:わかった

じゃ、しっかり頑張ってね


(後は…戦いが終わるまで待つだけね…)



佐天はメールを作成して編集する。
彼女にとっては永遠と感じられる数時間が到来する。
249 :投げんな匙 ◆t4xyS9bQ1M [saga]:2011/01/28(金) 03:11:33.79 ID:scyQj+zN0
――絹旗が待機している施設


(超…待機しても敵が来ませんね…セキュリティは破られたようですが…)


窒素装甲の大能力者である絹旗は麦野の指示でSプロセッサ社の施設の一角で待機していた。
ここから少し離れた所にいるフレンダのところに当該目標であるエレクトロマスターは向かっていったのだろうか。



(フレンダが引き受けてるんでしょうか?)


(こっちはなにやら撤収作業が始まってますが…)


絹旗は通路の端っこでプロセッサ社の従業員達の撤収作業をパーカーを外し、少し見上げる。
一人の白衣を着た若い女性従業員とすれ違う。


「どうも」


「撤収作業の調子はどうですか?」


「あぁ、私は今ついたばかりなので」


「そうですか…」
(やけに目つきがキツイ人ですね)


「では…ここらで」

二人の白衣を着た研究員と女は一緒に角を曲がると見えなくなった。
従業員達は突然の撤退に動揺しつつも理路整然と撤収作業を行っている。
250 :投げんな匙 ◆t4xyS9bQ1M [saga]:2011/01/28(金) 03:12:22.77 ID:scyQj+zN0
先ほどまで静まり返っていた研究施設から、まるでありの巣をつついたように多数の従業員達が出てきた。
絹旗はその中で驚くほど場違いな格好で鎮座していた。


絹旗はノーブランドのパーカーに半そで、リーバイスのショートパンツ、スニーカーはバンズのハイカットスニーカー。
動きやすい格好だ。パーカーのフードを目深に被り、ポケットに両手を突っ込む。


(この状況でこられたら…超マズイですね…作業している人も巻き込む可能性があります…)


でも…と絹旗は思う。


(でも…私にとっては超どうでもいいですけどね…敵と戦ってさっさとぶっ潰しちゃえば)


目の前で作業している烏合の人々の群れを絹旗はぼんやりと見つめながら再びパーカーを目深に被った。
251 :投げんな匙 ◆t4xyS9bQ1M [saga]:2011/01/28(金) 03:14:29.53 ID:scyQj+zN0
――フレンダが待機している排気ダクト


敵が来るかどうかも定かではないこの状況。
フレンダは愛銃であるアキュレシー・インターナショナルASWのサイレンサーの手入れをしていた。
施設には即席だが各種の爆弾をふんだんに配置した。導火テープも思いつく要所に設置した。



(後は…来るのを待つだけ…って言ってもこないわねぇ…)


(実は…待機って結構しんどいのよねぇ…)


しんどい、といいつも彼女は緊張していた。
これから数分後には自分と相手の命をかけた戦いを繰り広げる事になるのだから。
この心情は戦いに身を置くものしにかわからない独特なものがある。

そして、その緊張を隠すようにフレンダは「はぁ」とため息をつく。


「…結局、来るかどうかも解らない相手を待つのって退屈なのよねぇ…」


フレンダは独りごちる。
電話の女が仕事をこなしている最中に新しくよこしてきた謎の指令。
それに備えてフレンダは急ごしらえながらも最善の装備ではせ参じた。



眼鏡を吹くようなきめ細かい布でアキュレシーを丁寧に、いたわる様に磨いていく。
要所要所にたっぷりとグリスを塗ってやった。


最近行われた横田基地の基地祭の際に米軍から横流ししてもらった爆薬もたまたま持ち合わせていたのが幸いした。
C4、セムテックス等のプラスチック爆弾、陶器爆弾、モーションセンサー、スプリング形式の爆薬を横流ししてもらった。
252 :投げんな匙 ◆t4xyS9bQ1M [saga]:2011/01/28(金) 03:17:45.10 ID:scyQj+zN0
相手を一回爆殺してもなお、お釣が返ってくる量の爆弾をSプロセッサ社の隅々に配置したフレンダ。
邀撃準備が済んだ今、彼女は人が寝そべってもなお余裕のある排気ダクトに身をひそめて、敵を待っていた。


(…お姉ちゃんだったら…こーゆー時どうするんだろう)


フレンダの思考に突如浮かび上がってくる姉の存在。
姉は確か私以上に派手にぱーっとぶっ放すタイプだった。
姉とカナダで同居していた時の記憶をおぼろげながら彼女は思い出す。


(オクトーゲン使って丸ごとふっ飛ばしたりしちゃって…!)


確かに派手好きだった姉だったらあり得るな、とフレンダは一人思いついた妄想をし、自分で「うんうん」と納得する。
実際、TNT爆薬の爆速の優に数十倍のスピードで拡散するオクトーゲンは大規模な施設を吹き飛ばすにはもってこいだ。


(…って最近お姉ちゃんの事よく考えてるなぁ…私)


(結局…いつまでも暗部なんてやってられるかって訳よ…)


姉がかつて居たとされる学園都市。
彼女はカナダでの安穏とした生活を捨て、学園都市にやってきた。
しかし、彼女が学園都市についた時にはすでに姉は居なかった。


情報収集をするために裏の世界に身を投じて既に数年。
気付けばいっぱしの殺人者になっていた。
その事に関しては取りたてて思うことはなかった。


むしろ、自分に殺される人の今わの際を見る時の愉悦。
あぁ、こいつは私に殺されるために生まれてきたんだ、そう考えると脚ががくがくするほどの快感すら感じる。
そんな特殊な性格を持つ彼女はわれながらイかれていると思った。
253 :投げんな匙 ◆t4xyS9bQ1M [saga]:2011/01/28(金) 03:20:39.77 ID:scyQj+zN0
しかし、そんなきちがいじみた性癖(?)、性格(?)のフレンダにも親族がいる。
大好きな姉だ。その姉に会うまでは死ねない。例え、今まで殺してきた者たちの怨念に呪い殺されそうになっても。


(私だって…殺したくて殺した訳じゃないって訳よ…)


彼女も電話の女の様に自分の殺人を他者の落ち度に仮託しているあたりが狡猾である。


(…私は必ずお姉ちゃんを見つけてこの学園都市から出る…って訳よ…ってお姉ちゃんは学園都市にいないかもしれないか…ってあれれ?)


どちらにしろ、暗部を抜ける事は絶対だと言い聞かせるフレンダ。しかし、途端、彼女の思考が打ち切られる。
彼女が耳につけている高感度集音機に靴の音が聞こえたから。


ギッ…ギッ…ギッ…


床を踏むわずかな音が集音マイクに入る。
どうやら敵はフレンダの待ち構えているゾーンに侵入してきたようだった。



(日ごろの行いかな…?結局、お金を貰うのは私って訳よ!ドンマイ絹旗!)



足音はフレンダにどんどん近づいてくる。
彼女が今いる排気ダクトの近辺にもう侵入者がいる事は明らかだ。

フレンダはお気に入りのパンプスに布を巻きつけると、足音が出ないように大型ダクトを移動する。
そして排気口のわずかな隙間から見る。


(へぇ…私と同じ位の女の子かぁ…いけないなー…暗部に首突っ込んだら)


フレンダは気付かれないようにダクトを移動し、当該目標であるインベーダーの後ろに移動する。
セキュリティはとっくのとうに遮断されているが予備電力でまかなっているのだろう。
施設はまだ薄明るい状態だ。
254 :投げんな匙 ◆t4xyS9bQ1M [saga]:2011/01/28(金) 03:22:16.14 ID:scyQj+zN0
フレンダはカチャリと暗視ゴーグルを装着する。
インベーダーが電燈が切れているゾーンに入ったからだ。


(いちお、米軍からもらっといてよかったって訳よ…結構値が張ったけどね…とほほ…)


そんな悠長な事を考えながらも、彼女の顔は笑っていない。
持ち込んだツールボックスから導火テープを発火させる小さいボールペンの様なものをポケットから出す。


(導火テープに着火…っと)



ジジジ…と火がつき、しばらくすると施設の構造物がゴゴゴゴ…と巨大なもの音を立てて崩れ落ちる。

フレンダは構造物が崩れ落ちる前に音を立てずに静かに着地する。
着地先はインベーダーの前方150メートル。
即殺し、蹴りをつけるために地上に彼女は舞い降りた。


背中には世界最高級の狙撃銃、アキュレシーインターナショナル。
フレンダはそれをスーッと構える。


(よし…着地成功…って訳よ!)


物影からカチャリとアキュレシーインターナショナルを構える。


(出てきたら…即射殺してやるって訳よ)


ガラガラと音を立てて崩れた構造物からインベーダーが出てくる。
傷一つ負ってない。


(へぇ…やるじゃない…ケド…)
255 :投げんな匙 ◆t4xyS9bQ1M [saga]:2011/01/28(金) 03:23:36.87 ID:scyQj+zN0
フレンダは一瞬、ニヤと笑う。
直後、アキュレシー・インターナショナルのトリガーにフレンダのかかったか細い綺麗な人指し指がかかる。



(Time to die, good bye Invader…)



姉の事を考え悩んでいる乙女の様な彼女はもうそこには居ない。
いや、むしろ戦姫と言った方が適切だろう。


フレンダはヘンソルト十倍率のスコープを通してインベーダーの動きを捉える。
こちらに向かってくる。


亜発射されるであろう弾丸は音速でインベーダーをただの肉塊にするであろう。


フレンダはアキュレシー・インターナショナルのトリガーに指をかける。
瓦礫から出てきた傷一つ負っていないインベーダーは一瞬、フレンダの方をむく。


その瞬間をフレンダ=ゴージャスパレスは見逃さなかった。
照準に写り込んだキャップを目深にかぶったインベーダーの眉間に照準を合わせ、ためらいもなくトリガーを引く。


ピシュ!ピシュ!


驚くほど乾燥した小さい発射音だけが響く。
インベーダーの女の顔を破壊しようともくろむ狂気の弾丸が亜音速でインベーダーに殺到する!
256 :投げんな匙 ◆t4xyS9bQ1M [saga]:2011/01/28(金) 03:25:15.76 ID:scyQj+zN0
フレンダは弾丸がターゲットに着弾するか否かというタイミングで後退する。


(後で取りに来るからね…!)


インベーダーに7.62mm弾が効かない事がわかると、フレンダは大切もの惜しそうにアキュレシーインターナショナルを床に置く。
そしてはポケットから先ほど使った導火ツールを再び用意する。


その導火ツールをテープに近づけると「ヒュボッ!」と音が出て一気にテープが燃焼する!その先には人形の中に仕掛けられた高性能爆薬が詰まっている。



グァアアアアアン!!



大きな爆発音が施設にこだまする。


「やった?」


フレンダは念の為に腰にあるシグザウエルP230を抜いて構える。
灰色と黒で塗られたP230は消音機つきだ。


「これくらいじゃ死なないって…」


黒のキャップに同じく黒の半そで、短パン、スニーカーといういでたちでインベーダーが喋りながらフレンダの前に現れた。
目を凝らして見てみるとインベーダーの女はどこで買ったのかわからないが弾帯を肩からぶら下げている。
それには缶コーヒー小のサイズの大きさのビンが三本はめられている。


(あの弾帯は…?)


手りゅう弾でもない、迫撃砲弾でもない。
257 :投げんな匙 ◆t4xyS9bQ1M [saga]:2011/01/28(金) 03:27:09.67 ID:scyQj+zN0
フレンダは弾帯にはまっている見たことの無い武器(!?)の様なものをマジマジと見る。


「あぁ…これ?気になる?これはね……」


フレンダはインベーダーがセリフを言い終わる前に無言でP.230の引き金を引く。


パシュ!パシュ!


再び施設に乾いた音がこだまする。
しかしその弾丸も先ほどの7.62mm同様にインベーダーの目の前で静止し、ポトリ、と落ちる。


「効かないって。ってか人の話は聞きなさいよ…」


「……」
(鉄がはいっている物は効果が無いって事…?)


冷静に戦況を分析するフレンダ。
精一杯のいやみな顔を彼女は浮かべ、タオルをパンプスから剥ぎ取ると一気に走り出す。
目指すは階段だ。


階段にはたっぷりと導火テープが配置されている。
滑落させてインベーダーを殺害しようとする。


タンタンタン…!
フレンダは勢いよく階段を駆け上る。
インベーダーはその後を走って追撃する。
258 :投げんな匙 ◆t4xyS9bQ1M [saga]:2011/01/28(金) 03:28:22.28 ID:scyQj+zN0
途中彼女のブービートラップがインベーダーめがけて破裂する。
陶器爆弾だ。
しかし、これも全く効かない。


(陶器爆弾も一蹴かぁ…やっぱエレクトロマスターっていう情報は確かだったのね…)


爆弾の破裂片を電気で停止させるか、目の前で意図的に破裂させる所みるとかなりの能力者のようだ。


(ま…階段に来れば…お陀仏確定でしょ)


フレンダは階段を上る際に導火テープを着火させる。
彼女が上り終わる頃にはテープは焼け落ち、階段が崩れていく。



ガァン!ドドドド…!


床が抜けてしまうのではないだろうか、と思わせるほどの大音響が響き渡る。


「にししし…これでさすがに死んだでしょー!」


「だーかーら…効かないって」


フレンダがちらと階段のあった場所を覗き込むと階段の鉄骨を器用に利用した足跡の階段が出来上がっていた。
恐らくインベーダーが即席で作り上げたものなのだろう。


「私を殺したかったら…鉄分を抜いた階段でも作る事ね」


冷淡な調子でインベーダの女は言い放つ。
259 :投げんな匙 ◆t4xyS9bQ1M [saga]:2011/01/28(金) 03:29:33.65 ID:scyQj+zN0
「チッ…」


フレンダは奥歯をぎりと噛み、舌打ちをする。


(クッソ…コイツ…レベル5クラスの怪物ね…)


崩落させた鉄出てきた階段を繋ぎとめると言った芸当をこなしてみせたインベーダの女。
フレンダは相手がかなりの高位能力者であると判断する。


「チッ…インベーダーめ…」


「何よ、その侵入者って。私には御坂美琴って名前があるんだけど」


「そんなの聞いてないって訳よ!」


フレンダは捨てセリフの様に言い放つとそこから一目散に走り出す。
彼女は近くの大きい部屋に向かっていった。


インベーダーもとい、美琴もフレンダの後を追いかけていく。
フレンダが走ったところは行き止まりになっていた。



キャップを目深にかぶった美琴はあたりをキョロキョロ見回す。
トラップがないかどうか確かめているのだろう。
260 :投げんな匙 ◆t4xyS9bQ1M [saga]:2011/01/28(金) 03:30:38.53 ID:scyQj+zN0
「袋小路ね…」


美琴が小さくぼそりとつぶやく。



「結局…ここまで追い込まれるとは思っても見なかったわけよ」

観念の言葉をつぶやくフレンダ。
現有の最新兵器で戦った彼女はしかし、学園都市第三位の美琴に追いつめられていた。


「…暗くてよく見えないけど…あんた外人?」


「…まぁね…。ジャップとは訳が違うスタイルのよさでしょ?」


わざとらしく相手を挑発するようにフレンダは言う。
しかし、そんな安易な挑発に美琴は乗らず、淡々とフレンダに質問する。


「あんたを雇ったのは誰なの?」


「さぁ?」


「ま、誰だろうとこの計画を主導しているヤツを叩き潰すまで止まるつもりはないけど」


「あら、そうなんだ、こわーい」


「あーそうそう。このイカレた計画にあんたも協力しようって言うんなら…」


「結局、説教?そーゆーのどーでもいいから」
261 :投げんな匙 ◆t4xyS9bQ1M [saga]:2011/01/28(金) 03:31:47.40 ID:scyQj+zN0
「雇い主の目的とかさぁ…理非善悪とか…どうでもいいのよねぇ…」


フレンダはそういうと本当に、本当にだるそうに「はぁ…」とため息をつく。
そして彼女は言い放つ。


「結局どーでもいいんだわ。そーゆーの」


「あ、そう…ならここで死ぬ?外人さん?」


美琴はそういうと弾帯にはまっている三つの缶コーヒー小の大きさのビンを空中に向かって投げる。
最初に投げた一つのビンが床に着いて割れる寸前、美琴は電撃をビンに当てる。



カチャン!カチャン!カチャン!


三つのビンが矢継ぎ早に空中で壊れる。
しかし、その中に入っていた黒い粉は床に散らばることが無く、美琴の細く綺麗な腕の周りに集まっていく。


その黒粉をフレンダは注視する。すると気付けば美琴の手に真っ黒の日本刀の様なものが握られているではないか。


「刀?」


フレンダは怪訝そうに言う。
262 :投げんな匙 ◆t4xyS9bQ1M [saga]:2011/01/28(金) 03:37:47.67 ID:scyQj+zN0
突如として彼女の目の前に現れた真っ黒の日本刀。
砂鉄を集めて作ったものか、と勝手にフレンダは推理をめぐらす。



「えぇ…刀…幻想虎鉄…イマジンソード…なんてね…ふふ」


そういうと美琴は右手に握られた刀をれろぉ…と妖しく舐める。
その素振りはどこか妖艶さを感じさせる。


「…へぇ…切れ味の方はどうなのかしら…?」


「まだ試し切りはしてないわ…」


カチャリ…柄に相当する部分を美琴は掴むとダッ!とフレンダに駆けていく。
駆けてくる美琴を細めた目から見据えたフレンダは腰に指してある黒い鞘から大きめのナイフを抜刀する。


「へぇ…面白い形のナイフねぇ…」


「グルカから伝わった湾刀よ…英連邦の盟邦、グルカに伝わる名はククリ刀、とくとごらんあれ!」


そういうとフレンダは美琴に合わせて駆け、距離を詰める。
間合いの関係上、フレンダが不利だが、戦闘の経験回数では圧倒的に彼女が有利だろう。


勇猛・敏捷のグルカ兵が持つククリ刀を持ったフレンダと真っ黒の日本刀のを持った美琴の真剣勝負が始まる。
263 :投げんな匙 ◆t4xyS9bQ1M [saga]:2011/01/28(金) 03:45:04.18 ID:scyQj+zN0
キィン!


ククリ刀と幻想虎鉄が重なりあい、綺麗な火花が散る。
その様子を見ながら美琴はほれぼれしているのだろうか、魅惑的な表情で幻想虎鉄を見つめながら言う。


「へぇ…いつも電撃しかしてなかったけど…こういう戦い方も結構ありねぇ…」


美琴はそういうと目の下にあるクマと相まってかいつもと違った表情で妖しくわらう。
幻想虎鉄が一度フレンダのククリ刀から離れる。


「一度…」


「何?白人」


美琴がむき出しの敵意を向けてフレンダに話しかける。


「一度…抜刀したククリは血を吸わせなければ納刀してはならない…!」


フレンダは口元だけ不敵に歪め、「ふふ」と笑い、美琴を嗤う。
この発言に美琴は首をかしげる。
264 :投げんな匙 ◆t4xyS9bQ1M [saga]:2011/01/28(金) 03:47:10.71 ID:scyQj+zN0
「どーゆーこと?」


「あなたの血を吸うまで辞められないってわ・け☆」


「ふーん…上等じゃコラァ!」


再び剣戟を交える二人。
二人の真剣な表情はともすれば戦いを楽しんでいる様にも見えた。


何度も交わされる剣戟。
まるで舞台で踊る二人の舞踏家の様に、しかし、激烈で予断を許さない命のやりとり。
床に飛び散る二人の汗。飛び交う怒号。



「…ッ…!」


不意にフレンダが体勢を崩し、床に倒れそうになるがなんとか持ち直す。



「くたばれ白人!」



美琴の言葉とほぼ同時にボッ!と振り下ろされる幻想虎鉄。
まっすぐにフレンダに向かっていく砂鉄を凝縮させた刀。



キィン!



フレンダの頬のぎりぎりにまで近付く幻想虎鉄。
ククリ刀では些か間合いに関して部が悪い。
265 :投げんな匙 ◆t4xyS9bQ1M [saga]:2011/01/28(金) 03:50:53.11 ID:scyQj+zN0
「もうあきらめたら…?」


「…あきらめる?」


美琴は幻想虎鉄を押しつけつつ、フレンダに降伏を勧告する。
しかし、フレンダの目の色は戦いを諦めた敗残将のそれではない。

まるで死ぬまで戦う軍鶏(しゃも)の様に、ぎらりとした目を輝かせる。
それは美琴を不快にさせたが、それは表情に出さず、あくまで淡々と告げる。


「えぇ…よく戦ったわ…白人さん?」


火事場の馬鹿力というものが存在するならばこういう時の事を言うのだろう。
フレンダは頭に血管を浮かび上がらせながら徐々にゆっくりと幻想虎鉄を押し上げていく。


「う、…グググ…ウェアああああ!」


「…なっ…?」
(こっちは全力で押してたのに…!)


今度は美琴がバランスを崩して床に倒れそうになるがフレンダと同様に持ち直す。
その間にフレンダは立ち上がり、美琴を見、にやりと笑う。美琴もにやりと笑い返す。
266 :投げんな匙 ◆t4xyS9bQ1M [saga]:2011/01/28(金) 03:51:27.92 ID:scyQj+zN0
「こい、御坂美琴」
(コイツの妖刀の様な雰囲気…これがレベル5の実力って訳…?)



「言われなくとも行くわっ!」
(これが無能力者なの?あの馬鹿よりと同じくらい手ごわいわね…!)



死の舞踏を踊ろう。
祭りだ。

妖刀とククリ刀を持った二人の戦姫達はアドレナリンをスパイスに狂気に彩られた輪舞曲を踊る。

267 :投げんな匙 ◆t4xyS9bQ1M [saga]:2011/01/28(金) 03:52:34.79 ID:scyQj+zN0
――麦野と滝壺が待機しているとある部屋

麦野と滝壺はフレンダと絹旗の張っている中間地点で待機していた。


『はい、わかりました。ではそちらに向かわず私は待機と言うことで』


「うん、じゃ、だるいと思うけどもうちょっと待機で」


麦野はそういうと携帯電話を切る。
ちなみに今の通話はアイテムの構成員、絹旗としていたものだ。


「むぎの。フレンダの援護に行くの?」


「そうね、絹旗の方に向かってないってことはフレンダが相手してるだろうしね」


「わかった」


滝壺と麦野は歩いてフレンダが戦っているであろう地点に向かっていく。
同じチームであるフレンダがもしかしたらピンチなのにもかかわらず麦野と滝壺はゆっくり施設内の通路を歩いていく。


「ねぇ、むぎの?」


「どうした?滝壺」


「はまづらの事好き?」


麦野は「いきなりなによ、滝壺」と不機嫌そうに言う。
彼女は眉に皺をよせながら後ろを歩いている滝壺の方を振り返る。
268 :投げんな匙 ◆t4xyS9bQ1M [saga]:2011/01/28(金) 03:55:43.31 ID:scyQj+zN0
「なんか最近よく…お弁当かわせてるって聞いたから…」


「あぁ…それだけだよ、滝壺は浜面の事好きなの?」


「私ははまづらの事すき」


「へぇ…いいじゃない」


そういうと麦野は再び前を向きなおす。
滝壺の無垢な表情の前で無表情を繕うのが難しかったから。
麦野と浜面の関係はシャケ弁当を買わせているだけ、なんて真っ赤なウソ。


当初は麦野が浜面を誘って成立した歪な関係。
ここ最近では浜面はよく「好きだ」とか「愛してる」とかつぶやくけど、果たしてどうだか。
麦野はそうした高位に応じるものの、そうした愛の言葉を言わなかった。


最初は麦野が浜面に首輪をかけたつもりになっていたが、気付けば麦野自身が浜面抜きの生活に耐えきれないからだになっていた。



本当は朝からお昼ごろまでずっと一緒にいる。
いや、むしろここ最近ではシャケ弁当を買わないで麦野が料理を作ることもある。



そしてその後に体を重ねる事もままある。だが、ここ最近は仕事が多いのでキスだけ。
欲を言えば毎日浜面と一緒にいて抱き合って体を重ねていたいと考えていたが、ここ最近、仕事が多くなってきているのでそれもかなわない。
そんなどうでもいいことをぼんやりと考えながら麦野は目の前にいる黒髪美人の女、滝壺が浜面をめぐるライバルであると認識した。
269 :投げんな匙 ◆t4xyS9bQ1M [saga]:2011/01/28(金) 03:57:13.27 ID:scyQj+zN0
「滝壺は浜面と付き合いたいって思うの?」


「うん」


「なんでいきなりそんな事聞くの、滝壺」


「え?だってむぎのとはまづら付き合ってそうだから」


質問の答えになっていない。
ってかここで「付き合ってます」とか答えたら滝壺はおとなしく浜面をあきらめたのだろうか。
それはわからない。


麦野は滝壺の質問の真意を考えつつ、自分に問いかける。


(私と浜面は付き合ってるのかな?)



不意に麦野は今の浜面と自分の関係を振り返る。
キスをして抱き合い、名前を言いあい、セックスをする。
それは果たして付き合ってるからするのだろうか、それともただの肉欲なのだろうか。


(こーゆーのがめんでぇんだよ、恋愛は)

270 :投げんな匙 ◆t4xyS9bQ1M [saga]:2011/01/28(金) 04:00:59.46 ID:scyQj+zN0
滝壺が浜面の事を好きだと臆面もなく告げた。
その事に対する彼女に与えた動揺は計り知れないものがある。
むしろ、滝壺が浜面に告白すれば、あの男の事だ、ころりと滝壺になびくかもしれない…。


アイテムの女王とアイテムの女王補佐はその後無言で戦場へと向かっていった。

フレンダがいるであろうゾーンまで壁をぶちぬいて歩くしかない。
こういうときは迂回する面倒くささを解消する為にも原子崩しはもってこいだ。


「いくよ、滝壺」
(よし…仕事だ…!)


「うん、久しぶりだね、むぎの」
(しんきいってん)


「あぁ、よろしくね、滝壺」
(さて、戦いのドラムをならしますか)


ふぃーん……


高音が響き渡る。
その直後に麦野の手から原子崩しが顕現する。


ドバァアアアア…


光の光芒が一筋になって隔壁をぶち破っていく。
フレンダの戦っているであろう部屋まで後少しだ。
271 :投げんな匙 ◆t4xyS9bQ1M [saga]:2011/01/28(金) 04:02:38.89 ID:scyQj+zN0
――フレンダと美琴が戦っているラボ(麦野が現れる少し前)


刀とは本来、刃を重ねてはいけないものだ。


しかし、二人は刃こぼれを気にせずまるで子供のように刃をぶつけ、火花を散らしている。
砂鉄を集約させ、、刃こぼれを起こすと即座に演算をしなおし幻想虎鉄を修復する美琴と良く研いでいるククリ刀ではそれでも、後者の方が部が悪かった。


「はぁ…はぁ…どう、白人さん…降参する気になってくれたかしら?」


「全然ッ!あきらめないって訳よ!」


不撓不屈の信念でフレンダは美琴に立ち向かう。
しかし同時に勢いよく突撃をしてきた美琴に力負けし、フレンダは体勢を崩し、床に手をつきそうになる。


「しまった…!」


「今だっ!」


ボッと振り下ろされる幻想虎鉄。しかし、その斬劇がフレンダを捉える事はなかった。


「…なぁんてね」


「え?」


バン!


フレンダの袖口の下から閃光弾が滑り落ち、炸裂する。
272 :投げんな匙 ◆t4xyS9bQ1M [saga]:2011/01/28(金) 04:03:20.66 ID:scyQj+zN0
ベレー帽で光をさえぎる事に成功したフレンダは咄嗟にスカートの下から持ち出した簡易ロケット砲をぶち込む。

シャークマウスのノーズアートがペイントされているロケット弾が矢継ぎ早に美琴が居るであろう地点に着弾する。


ドドドン!


手りゅう弾サイズの爆発が巻き起こる。
フレンダは美琴の死体があるであろう目の前の地点を見遣る。


(…死体が無い?)


フレンダの発射したロケット弾の着弾点にはただ焦げた床があるだけ。それ以外に何も残っていなかった。


(死体が残らないほどの炸薬量は使用していない…まだ…生きている?)


フレンダは後ろを恐る恐る振り返る。
するとそこには一度構成した幻想虎鉄を解体し、一枚のゲームセンターのコインを持った美琴が立っていた。


「あんただけじゃないでしょ?この施設を守備している人たち」


「言う訳ないでしょ…!」


フレンダは美琴の質問には答えずに苦虫をかみつぶしたような表情で舌打ちをする。


美琴がゆっくりとフレンダに近づいてくる。
彼女はククリ刀を止むなく鞘に納め、じりじりと壁際に下がっていく。
273 :投げんな匙 ◆t4xyS9bQ1M [saga]:2011/01/28(金) 04:04:01.06 ID:scyQj+zN0
と、その時だった。
フレンダが一瞬の隙を見てビンを投擲する。
反射的に美琴はそのビンを電撃で破壊する。


(って…空のビン?)


美琴は一瞬おかしいと思いつつも電撃を放ち、それはそのままビンに直撃する。
直後大きな爆発がビンの周りで起こった。


香水瓶程の大きさのビンがこれほど派手に爆発する事など常識的に考えてあり得ない。
しかし、ビンは爆発した。


その爆発に美琴が動揺している間にフレンダは一気に壁際に接続されているバルブを緩める。
すると排気ダクトや近くの床から染み出るように白煙が巻き起こる。
空間は一気に白色の戦場と化し、フレンダはぼそりと言う。


「さっき投げたビンは学園都市の気体爆薬イグニス…」


シュー…


フレンダが喋っている間にも続々と白煙がダクトから流入してくる。


「香水瓶程度でさっきのあの威力電気なんか出したら…どうなるか…ふふ」
274 :投げんな匙 ◆t4xyS9bQ1M [saga]:2011/01/28(金) 04:05:15.87 ID:scyQj+zN0
全く笑える状況ではないのだが、フレンダはほくそ笑む。
そして先ほどしまっていたククリ刀を再び抜刀すると一気に美琴に襲いかかる。


「もう…幻想虎鉄を出そうなんて思わない方がいいわよ…?剣戟で電気が出たら誘爆して死んじゃうわよ?」




「…チッ!…めんどくさいことを!」
(私が電気をだしたらここらが吹き飛ぶ事に…!?)


美琴が喋っている間に一気に詰め寄るフレンダ。



「うあぁああああ!」



フレンダは叫ぶと一気に美琴に蹴りかかる。
気体爆薬の誘爆等全く恐れていない。次々にフレンダは手足から攻撃を繰り出す。


美琴は反撃する際に能力を使わないように意識するだけでまともな抵抗が出来ない状態になっていた。



「さっきより格段に運動量が落ちてるわね?」
(結局こっちも疲れてるっつーの!)


思いはすれど、フレンダは自分の疲れを表面には絶対に出さない。

あくまで余裕の表情を浮かべるように努める。
自分と相手の絶対的な体力の差を見せつける。そうすることで相手にさらなる絶望を提供する。
死へいざなうスパイスなのだ。
275 :投げんな匙 ◆t4xyS9bQ1M [saga]:2011/01/28(金) 04:06:53.17 ID:scyQj+zN0
「あんた…恐くないの?吹き飛ぶのよっ!?」


美琴はフレンダの攻撃をかわしつつ怒鳴る。
フレンダはその問いを一蹴するかの様に「ふふ」と鼻で笑い、美琴に言い放つ。



「こっちは暗部に入ってまで人探してんのよ…!死ぬのが恐くてやってられるかっての…!」



そう。フレンダ=ゴージャスパレスは絶対に死ねないのだ。
姉を見つけるためにわざわざ暗部に身をやつした。
姉を見つける前に死んでしまえば、それこそ本末転倒の事態だ。


絶対に死ねない。彼女の瞳に強い意志が宿る。




「たかがあんたごときに負けてたまるかって訳よ…!」



乾坤一擲のフレンダの蹴足が美琴の下腹部に直撃する。


「か…は…!」


美琴は倒れこそしなかったものの、その場で腹を抱えて悶えている。
フレンダは無様に腹部を抑えているレベル5の姿を見て、見下すような視線で見つめながら言う。
276 :投げんな匙 ◆t4xyS9bQ1M [saga]:2011/01/28(金) 04:07:21.74 ID:scyQj+zN0
「私はこーゆー時にねぇ…言い知れぬ感覚を味わえるの…」


気付けばフレンダは恍惚とした様な表情になっている。
まるで快楽にひたる淫美な美女の様。
フレンダは自分の口を開くと真っ赤な口腔を覗かせ、そこからぬらぁ…と舌を出し、自分の中指の先をぺろと舐める。
よだれのついた指の腹をゆっくりと唇の端から顎まで這わせる。



「人の命を摘む…この瞬間、私は相手の運命を支配した気になれるの…」


「はぁ…はぁ…!」


美琴は息も絶え絶えの状態でフレンダの言う事に耳を傾けていた。
しかし、次のフレンダの発言が彼女の最後の力を振りしぼらせる!



「結局コイツは私に殺される為に生まれてきたんだ…ってね♡」





「……じゃ…ないわよ…!」


「最後にいい感じの悲鳴を聞かせて頂戴☆」


「ふざけんじゃないわよっ!」


一度目は小さくてフレンダは聞こえなかったが、二回目の怒声はフレンダにしっかり聞こえた。
そして美琴の怒声と同時にフレンダの回し蹴りはガードされ、蹴りをした方の靴が遠くに飛んいってしまった。
277 :投げんな匙 ◆t4xyS9bQ1M [saga]:2011/01/28(金) 04:07:57.90 ID:scyQj+zN0
美琴は激昂していた。
それはフレンダのセリフが彼女をそうさせた。


『結局コイツは私に殺される為に生まれてきたんだ…ってね♡』


妹達(シスターズ)に何の落ち度があろうか?
あの車両につぶされた9982号は何も…何も罪に問われることはしていなかった。
むしろ…缶バッチを付けて喜んでいたではないか!


そんな彼女は最後に何をされた?
一方通行に足をもがれ…ちぎられ…あまつさえ…体液を飲まれた…。
犯される事と同義の屈辱を味わった末に救いの神は9982号にはさしのばされなかった。



まるでプチプチつぶされるアリの様に、虫けらのように蹂躙されて死んでいった。
278 :投げんな匙 ◆t4xyS9bQ1M [saga]:2011/01/28(金) 04:08:24.77 ID:scyQj+zN0
「あの子が死ぬ理由は全くない…!」


「私に生み出した責任があるなら…あの計画を主導した人達を裁断する事が私の役目…!」


「あの子もあの白い悪魔に殺されるために生まれてきた?はぁ!?納得できるわけがないっ!」


フレンダは蹴足をはじかれ一歩後退しつつ美琴の怒声を神妙な表情で聞いているが全く理解できない。
おそらく美琴もフレンダにわかってもらえるよう、言ってる訳がない。


美琴は怒鳴り散らすと再び演算を行い、即座に幻想虎鉄を顕現させた。



「…あの狂気の実験に参加した人の皮をかぶった悪魔は決して許すことは出来ない」


パンプスが脱げ、不安定なバランスを保つことに必死になっているフレンダに幻想虎鉄が降りかかる。






「…ちょ…マジ…?」
279 :投げんな匙 ◆t4xyS9bQ1M [saga]:2011/01/28(金) 04:14:15.69 ID:scyQj+zN0
(こんな事になるんだったら…仕事なんて引き受けなければ…!仕事なんて辞…)


一瞬佐天の脳裏に浮かびかけた“辞めようかな”という言葉。
しかし、佐天は思い出す。完全に無能力時代で能力者や学園都市の治安や武勇伝を聞いている時の一歩冷めた感覚の自分を。



(何もない…自分なんて…やっぱり…いやだよ…!)


自分に被害がこないなら、と思い始めた電話の女という仕事。
物的被害は確かにないが、何だ、この尖ったカッターにえぐられるような気持ちは。血を吐いてしまいそうな衝動になられる。


佐天は友人を傷つける可能性があることと自分が無能力で何もないという劣等感を天秤にかけた。
その結果は…………後者に軍配があがった。


(ははは…だって…御坂さん…レベル5だよ?麦野さんもレベル5でしょ?死なないよ…!)


佐天は寮のベッドの壁に背中をぺたっとくっつけ、勝手な推論をめぐらす。
どうなるかなんてわからない。


(次にあった時は御坂さんの前で…普通に笑えるかな…?でも…)


人材派遣の男がかつて佐天に言っていた“学園都市の最奥”。
今ではそれは理非善悪等の価値観が全て一緒くたになったカオスをほうふつさせる。


仕事の終了報告が入ってくるまでまだ少しの時間があった。
彼女は同じ押し問答を繰り返し、美琴とわかった訳じゃないと、一人納得させ、また質問…の悪循環を繰り返すことになるのであった。
その循環に彼女が仕事を辞めるという選択肢はついに浮かんでこなかった。
280 :投げんな匙 ◆t4xyS9bQ1M [saga]:2011/01/28(金) 04:19:14.02 ID:scyQj+zN0
なんか最近メモのフォントでかくしたら見やすいけど、あんまり思ってる以上に文章がたまらない事にきづいた。

多分明日か明後日にまた投下出来ると思います。
自分の想像した戦いをちょっと書いてみました。

確かブラックキャットのクリードの持っている武器も幻想虎鉄っていう名前でしたっけ?
中二っぽいけど良い。


あと、麦野「私が〜〜〜」の作者様へ、俺も作品読んでます、楽しませてもらってます!
では、ではお休み。感想まってます!読んでくれてる皆さまに多大なる感謝を。
281 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/28(金) 04:52:38.65 ID:qm2O8D42o
282 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/28(金) 06:11:00.10 ID:0Ylpdzob0
乙!!
物の描写が自然な感じになってきてる気がする。
御坂さんマジ格好いい…!バトルが熱い!!

夜更け…ってかこんな朝早くに投下とか頭が下がります。
体調に気をつけて頑張ってください。
283 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/28(金) 10:46:03.40 ID:7O3SnpyAO


麦野の如く砂鉄と一体化してる美琴がみえる……
284 :投げんな匙 ◆t4xyS9bQ1M [saga]:2011/01/28(金) 10:51:54.10 ID:scyQj+zN0
すいません。
今読みなおしてたら抜けがありましたので追加。

>>279の前に入れて下さい!

以下挿入部分

――柵川中学の学生寮

佐天はアイテムからの任務遂行の連絡を待っていた。


(御坂さんだったら…どうしよう…)


アイテムに製薬会社からの依頼を伝えた後、彼女はどうしようか、どうしようか、と反芻していた。


(御坂さんだったら…アイテムに勝てるの?)


(いや…四人対一人だったら絶対アイテムが勝つに決まってる…)


(もしそれでアイテムが勝って御坂さんが…その…死んだら…?)


佐天はぎゅっと自分のこぶしを握り締める。
血の通っているこぶしがみるみる内に白くなっていく。


(死ぬわけがない…!御坂さんは常盤台中学の超電磁砲なんだ!)


(でも麦野さんも原子崩しの異名を誇る第四位…!)



(もし…二人が戦ったら…どうなるんだろう?)

佐天は最悪の結末を考える。それは――最近慣れ始めていたもの。
そう。「死」だ。


(二人とも…死んだら……わ、わからないよ…)


佐天は麦野にはあったことが無い。電話をしただけ。声は聞いたことがある。
しかし、美琴は実際に遊んだ事もある友人だ。
285 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage ]:2011/01/28(金) 14:21:02.73 ID:m6taShEB0
 美琴もフレンダもかっこいいね!!
真剣での斬り合いがあってよかった。
てかフレンダの戦闘能力パネエ……
286 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/28(金) 14:24:01.50 ID:2QzbPGYNo
乙乙
自分もちょっと前にアイテム物書いてた位にはアイテム好きなんでこの作品楽しませてもらってる
自分のはBAD ENDだったけどなwwww
287 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/29(土) 01:20:09.56 ID:4NkbVn3x0
クリードが使ってるのは幻想虎徹(イマジンブレード)ですよ
288 :投げんな匙 ◆t4xyS9bQ1M [saga]:2011/01/29(土) 14:38:27.68 ID:iSm8z8mn0
こんにちわ!
第二部の展開で四苦八苦してるけど、取りあえず投下しましょう。
活路が見えるかもしれません!いつも読んでくれてる人たちに感謝。

雑談ですが、俺のデビューSSがグーグルの予測ワードに出てきたのがちょっぴりうれしかったです!

>>286もしかして、麦野とフレンダの作者様でしょうか?

>>287幻想虎『徹』か!ありがとうございます!



今までのあらすじ

佐天は学園都市の防諜部隊、アイテムに連絡する電話の女になる。

夏休みのさなか、学園都市内のいくつもの施設がサイバーテロの被害を受けていることが判明する。
そのサイバーテロを防ぐためにアイテムに出動命令が下る。

テロの首謀者はなんと佐天の友人の御坂美琴だった。
彼女はアイテムの構成員フレンダを辛くも撃破したが…?
289 :投げんな匙 ◆t4xyS9bQ1M [saga]:2011/01/29(土) 14:46:55.93 ID:iSm8z8mn0
――フレンダと美琴のいる施設

「ちょ…マジ?」


フレンダの上ずった声が聞こえる。
美琴に隙を突かれた彼女は今、危機一髪の状況だった。

幻想虎鉄(イマジンソード)がフレンダに一閃して振り落とされようとしている。
美琴は口元を歪め「さようなら♪」と言いながら刀を振り下ろしたが、その切っ先がフレンダを捉えることはなかった。


ズアアアアアア!

とてつもない光の奔流が美琴の至近を通過していく。その光の流れに幻想虎鉄が巻き込まれていく。
そして美琴が気付いた時にはすでに幻想虎鉄の柄から上の部分が消滅していた。


「ずいぶん頑張ったじゃない、フレンダ」


「む…麦野?それに滝壺も!?」


フレンダは突如壁が溶けてなくなった場所から出てくる麦野と滝壺を見る。
麦野は美琴を見据え、滝壺はフレンダの方に手をやりいたわってやる。

美琴は柄が無くなった幻想虎鉄の柄をハーフパンツのポケットに入れて後ろに下がる。
幻想虎鉄が消滅させられたのはあの二人の能力によるものだろう、と美琴は推測した。

「チ…新手か…」
(やっぱり施設を守ってたのはあの白人一人だけじゃないってことね、どいつもこいつも私より弱い癖に…)


邪魔しやがって…!と眉間にしわを寄せて苛立ちをあらわにする美琴は次の瞬間に施設の給水タンクを能力を使ってブン!と投擲する。
290 :投げんな匙 ◆t4xyS9bQ1M [saga]:2011/01/29(土) 14:50:47.80 ID:iSm8z8mn0
「うらァ!」


美琴の掛け声と同時に投擲されたタンクは麦野にめがけて一直線に進んでいくがそれが彼女に触れることはなかった。
投擲したタンクが麦野の前でかき消えたから。


(投げたタンクを消した?)


音もなくただチリの様に燃えてなくなったタンク。

「ったく…早漏が…少し待てって言ってるのがわからないのかにゃー?」

麦野は甘ったるい声で美琴の方を向きながら告げると、肩のあたりから一気に原子崩しを顕現させた。


フィー…と風を切る様な音が不気味に美琴の耳朶を打つ。
直後、白熱したビームが美琴に遅いかかり、彼女はそれを間一髪でよける。

綺麗にまとめた美琴の短髪が少しだけ焼けて髪が焼けたいやなにおいが周囲に漂う。


「こいつ…!」
(かなりの高位能力者…?誰…?)


美琴は学園都市第三位のレベル5だが、他のレベル5はあまり知らない。
知っているとしたら同じ常盤台で精神感応系では最高峰の実力を誇る心理掌握(メンタルアウト)とあの白い悪魔くらいだった。


(限りなくレベル5に近いレベル4…或いは…レベル5…?)


美琴は後退し、壁に磁場を形成しながら張り付き、目の前にいる能力者の対策を考える。
291 :投げんな匙 ◆t4xyS9bQ1M [saga]:2011/01/29(土) 14:58:40.72 ID:iSm8z8mn0
「ふふふ…まるでクモみたいね…」

「…ッ!!」
(ダメだ…今は我慢よ…取りあえず…体力を回復しなきゃ…)


麦野のせせら笑う声が美琴の耳に届く。
クモ、その一言に美琴は反応しそうになるが、今はフレンダとの戦いで疲れた自分の体力回復を目指すのが先決だ、と判断を下す。
相手の能力を把握しなければ対策は打ちようがない。

美琴が壁に張り付き、麦野達の様子をうかがっているさなか、麦野は一瞬滝壺を見てすぐ美琴に備えて、前を向く。

「滝壺…一応待機…フレンダの調子は?」


「目立った怪我はないよ…ただ相当疲れてる。大健闘だよ、フレンダ」


「結局…止めることは出来なかったって訳よ…はぁ…はぁ」


フレンダは申し訳なさそうに下を向きながら二人にぺこりと頭を下げる。
美琴との戦いは悔しいがフレンダの負けだった。
しかし、美琴を疲弊させるという、勲章ものの戦功をあげた。


「良いわ、フレンダ、そのまま下がってなさい」


フレンダは最初はその声に聞こえないふりをする。まだ戦おうと思ったのだろう。
しかし、「フレンダ」と語気を強くする麦野の前でははばかられ、おとなしく「わかった」と承服した。
292 :投げんな匙 ◆t4xyS9bQ1M [saga]:2011/01/29(土) 14:59:30.20 ID:iSm8z8mn0
しかし、「フレンダ」と語気を強くする麦野の前でははばかられ、おとなしく「わかった」と承服した。

フレンダが後ろにとぼとぼと下がっていくと美琴を見つめていた麦野が口を開く。


「あんた、常盤台の超電磁砲?」

「…そうだけど…?」

「何であんたみたいな平和な世界に居る女がこの世界に首突っ込んでくるの?」

「あんたにいう義理が私にあるのかしら?」


美琴の返答に麦野は苦笑する。
確かにそうだ、美琴が麦野の質問に答える義理は全く持ってない。
しかし、麦野にとってかんに障る一言だった事は確かだった。


「生意気なガキ…」
293 :投げんな匙 ◆t4xyS9bQ1M [saga]:2011/01/29(土) 15:02:19.28 ID:iSm8z8mn0
麦野は腹から憎悪と共に一言絞り出すと人差し指を美琴に向ける。
同時、その先からビームが打ち出される。それをよけると美琴は一度回復のために目をくらませる。


(三人対一人じゃ分が悪すぎるわ…体力もけっこうやばいかもね…まずは先に施設の核の部分を破壊しなきゃ…)


美琴はこの場から撤退すると同時に施設の核であるコンピューター室を破壊しようと目論む。
その為の電力も残しておかなければならない。無駄に戦闘で使ってしまえば、再び実験が開始され、暴虐の嵐が吹き荒れる事になるだろう。


「動力室はどこ?核となる施設は…?」


侵入する前に施設の見取り図は頭にたたき込んだハズだったが、戦闘で目まぐるしく動いた末、おまけに部屋ごと融解する化け物ときた。
混乱した彼女の思考では施設の見取り図を思いだし、現在の地点を把握する事などほぼ不可能だった。


(どこかに…地図はないかしら…?)


美琴は部屋にこの施設の見取り図がないか探す。
とその時、肌が粟立つ感覚を覚える。本能が危ないと告げているのだ。
とっさに美琴は体をひねってビームを交わす。


ガガガガガガ…


進行上のあらゆるものをとかしつくすビームが美琴を融解させようとする。
しかしそれを美琴はぎりぎりで交わす。
294 :投げんな匙 ◆t4xyS9bQ1M [saga]:2011/01/29(土) 15:04:58.94 ID:iSm8z8mn0
攻撃された美琴はキッと麦野をにらみつける。
すると麦野も美琴の方を見ていたようで、二人はにらみ合う。


「よそ見禁止だぞー!学校で教わらなかったかにゃん?」


麦野の場違いな位に甘ったるい声が美琴の耳朶に届く。
何かを殴りたい衝動に駆られた美琴はしかし、いつまでたっても見つけることが出来ない動力室を手探りで探すよりかは…と判断し果敢にも麦野達と戦おうと決意を固める。


(体力の心配なんて…もういい…アイツ等を叩きつぶして、即座に施設を破壊する!)


磁力を利用して麦野から放たれる原子崩しを避けつつ反撃の機会をうかがう。
麦野の少し後ろには滝壺とフレンダが息を潜めて見守っている。


(先にあの二人から殺るか?特に…あの黒髪…雰囲気が尋常じゃない…何かしたのかしら?)


先程美琴が撤退する際にはフレンダに手をさしのべていた彼女はしかし今では目をカッと見開きまっすぐに美琴を見ていた。
それは睨みを利かすとかそんな生やさしいものではなく、まっすぐに、目をずっと見てくる、何とも形容し難い雰囲気を醸し出していた。
295 :投げんな匙 ◆t4xyS9bQ1M [saga]:2011/01/29(土) 15:07:25.95 ID:iSm8z8mn0
美琴は知るよしも無いのだが、麦野は滝壺に体晶を使うように指示した。
体晶とは能力の暴発を誘発するいわば劇薬である。
滝壺はこの薬を服用しなければ、能力を発露する事が出来ないのだ。



美琴が麦野の攻撃の回避に終われているとき、密かに麦野と滝壺の間で行われたやりとりがあった。
フレンダを介抱していると滝壺に投げかけられた麦野の一言。



『使っときなさい』



麦野の一言と同時にぽいっと何か捨てるようにシャープペンの芯を入れる容器の様な物が投げられ、両手で滝壺は麦野からそれを受け取る。
そしてその容器のふたをスライドさせ、僅かに出てくる白い粉をぺろと舐める。


『………』


滝壺は突如無言になる。


『どう?滝壺、あのクモ女の力、記憶した?』


『確かに記憶した』
296 :投げんな匙 ◆t4xyS9bQ1M [saga]:2011/01/29(土) 15:09:25.43 ID:iSm8z8mn0
いきなりだが、ここ最近、滝壺は能力を使ったことがなかった。
というか滝壺が能力を使う程の強敵が居なかった、と言った方が正しいのだろうか。


滝壺が能力を使ったのはこれで二度目。
一度目は同じ暗部組織のスクールとか言ういけ好かない長髪の男と麦野が戦っている際に使った。


垣根だか谷垣だかと言った能力者にアイテムは以前完敗した事があった。
その時に躍起になった麦野に滝壺は体晶を奨められて、その人物の“力”を記憶したのだとか。


“力”とはAIM拡散力場とか言う能力者が多かれ少なかれ体から出している一種の電波の様な物を指す。
滝壺は体晶を使用する事でそれを頭に記憶する事が出来るのだ。


彼女に記憶された物は永久に逃れることができない。
そう、滝壺はアイテムの照準であり測距儀でもあるのだ。
297 :投げんな匙 ◆t4xyS9bQ1M [saga]:2011/01/29(土) 15:13:33.95 ID:iSm8z8mn0
「悪いけど、あんたらに付き合ってる時間はない」


不意に美琴が麦野達に向かって言い放つと、目をつぶり砂鉄を右手の辺りに凝集させる。
原子崩しに消滅させられた砂鉄もあったが、まだそれなりの量が床に残っているはずだ。


「―――――」


美琴は集中してそれらを再び自分の手に凝集し、ハーフパンツのポケットから幻想虎鉄の柄を出し、融合させた。
すると先程より少しだけ短い幻想虎鉄を美琴は顕現させる事に成功した。


彼女は「いくわよ」と小さく一言つぶやくと一気に麦野に斬りかかった。


「うああああ!」


麦野はそれを交わし、原子崩しを顕現させ、膨大な力で美琴を消滅させようと目論む。
その第一弾が到達する前に美琴は麦野達が出てきた穴に入り、身をくらませた。


「チッ…すばしっこい女だ…クモじゃなくて狐ね…女狐」


独り言のように麦野は初めて出会った能力者の感想を言う。
彼女はフレンダに「常盤台の超電時砲だっけ…アイツ?」と問いかける。


「そう…名前は御坂美琴って言って…たわよ…はぁ…はぁ…」


壁に寄っかかりながらそう言うとフレンダは腰を落とし、座ってしまった。
滝壺に支えられていたのだが、どうにももう少し待たなければ歩けそうにないようだ。
298 :投げんな匙 ◆t4xyS9bQ1M [saga]:2011/01/29(土) 15:17:15.90 ID:iSm8z8mn0
「御坂美琴…あぁ…あいつが」


麦野は合点がいくように「ほうほう」と言いながら頷く。
実は麦野は超電磁砲の名前を聞いたことがあった。そしてその人物が第三位である理由も。

原子崩しと超電磁砲。
根っこのところでは似通っている能力。それらを所有している彼女たちの格付けは即ち学園都市に対して利潤を生むか否か、で判断出来る。

それは個々の能力差や優劣ではなく、学園都市にの能力者に対しての期待値としての格付けに他ならなかった。


「学園都市に利益をもたらす順番で第三位かぁ…ククク…」


麦野は思い出したようにつぶやくと「滝壺」と呼びかける。


「今、あの女狐はどこにいる?」

「ターゲット北西に二十メートル移動…今も移動している…」

「りょうかい☆」

ウインクをしながら麦野は手から原子崩しを顕現させ、その方角へ向けて放出するがなかなか当たらない。
しかし、判然としないものの、滝壺の報告で美琴の動きが徐々に鈍ってきている事が分かった。
299 :投げんな匙 ◆t4xyS9bQ1M [saga]:2011/01/29(土) 15:21:32.26 ID:iSm8z8mn0
(徐々に移動距離が短くなってきている…ここで滝壺を使うのは割にあわないか?)


滝壺は能力者を追尾する面ではどんな透視能力者や精神感応系能力者よりも能力者をサーチする事にひいでている。
反面、能力発露に際して起爆剤である体晶を使わなければならないといった弊害がある。


弊害とは単に薬品を服用する事を指し示す訳ではない。
体晶は体が徐々にむしばまれていく劇薬なのだ。
なので麦野も滝壺がいないとどうしても倒せないと判断した時のみ、体晶の使用を求めるのだった。


現に滝壺は激しい運動をしていないにもかかわらず、「はぁはぁ」と肩で呼吸をしている。
同じく疲労で疲れて座っているフレンダよりも見た感じではやばそうだった。


「ん…!また移動…した…今度は…」


滝壺は言葉の節々に疲労を滲ませながらも麦野に指示を出す。
麦野も的確にビームを放つのだがいかんせん、高速で動き回る相手では仕留めにくい。


ビームを発射した地点からターゲットに着弾するまでの数秒で敵も動く。
予知能力が無い滝壺はあくまで測定をした現行の位置だけを麦野に伝えるだけでなので、敵が移動している数秒のラグは埋めがたいのだ。
それをカバーする様に麦野の原子崩しは広範な破壊力を持って多少の誤差を無いものとしているのである。
300 :投げんな匙 ◆t4xyS9bQ1M [saga]:2011/01/29(土) 15:24:31.99 ID:iSm8z8mn0
しかし、それでも麦野の原子崩しは当たらない。
ここで麦野は推理する。


(私と超電磁砲の能力は根底では同種のもの?だとすると…超電磁砲の野郎…まさか…私の原子崩しを曲げているのか…?)


先程から感じ始めている妙な違和感の正体。
もしかしたら超電磁砲は原子崩しを屈折させているのではないか?という懸念。
麦野は滝壺から再度超電磁砲の方角を聞き直し、集中し、原子崩しを放つ。

数秒後、着弾が認められた物の、やはり途中で意図的に曲げられている様な感覚を彼女は感じた。


(やっぱり…曲げてるっぽいわね…)


ならばどうするか、麦野は冷静に思考を巡らす。

(曲げられるなら…何故逃げた?)


(戦う程の電力は無いから?)


(それとも私達と戦うよりも何かしらの目的がある?或いはその二つか…?)


(絹旗に施設の核のコンピューターは防衛する様に厳命した、仮に超電磁砲が絹旗に戦いを挑んでもおいそれと絹旗は負けないだろう…)


(いや…なら何故最初から絹旗の待機している施設に行かない?超電磁砲はオトリか?)
301 :投げんな匙 ◆t4xyS9bQ1M [saga]:2011/01/29(土) 15:28:13.47 ID:iSm8z8mn0
様々な推論が頭に浮かんでは消える。
麦野は携帯電話をお姉系のワンピースドレスのポケットから取り出すとGPSで現在の位置を確認する。


(ここが…現在地…動力室と…当該施設の核になっている接続地点…あぁ…ここで待機してりゃあ勝手に来るだろ…?)


ここからそう遠くない地点に動力室と当該施設のコンピュータールームに接続する場所を見つけた。
若干大きいホールほどの大きさだ。
麦野は携帯を閉じると、滝壺とフレンダに撤退するように言い、そこへ向かおうとする。

「そうそう、フレンダ、滝壺あんたらはもう帰りな。電話の女には私から連絡しとくから」


「え?だってまだ終わってないよ?」


「そうだよ。むぎの。私だってまだいけるよ」


二人は撤退を拒み、なお衰えない闘志を見せるが、いかんせん滝壺にしろ、フレンダにしろ、体力的に一杯一杯なのは誰の目にも明らかだった。


「バカ、お前等肩で呼吸してるじゃない、さっさと休んで、後詰めは絹旗に任せてさっさと撤退しなさい」


二人はなお、「でも…」と抗弁してくる。
その素直に共闘しようとする姿勢は麦野にとっては嬉しかったが、正直足手まといだった。
それに相手が常盤台の超電磁砲とあればタイマンでけりをつけたい、と熱望する自分がいたのも正直、思う所だった。


「滝壺、あんたはよく頑張った。フレンダ、滝壺が体晶使ってヤバイのは分かるよね?」


「う、うん」


「じゃ、さっさと愛銃持って撤退しなさい」


フレンダは思い出した様に崩落した階段の下にあるアキュレシー・インターナショナルを思いだし、痛む体の節々に耐えるよう言い聞かせ、遠回りをして取ってきた。
彼女は安全装置をしっかり入れると背中に背負う。
そして滝壺に肩をかして「よいしょ…っと」と一人ごちると二人でとぼとぼとSプロセッサ社の出口に向かっていった。

麦野は撤退していく二人を見届けると美琴が来るであろう接続地点に向かっていった。
302 :投げんな匙 ◆t4xyS9bQ1M [saga]:2011/01/29(土) 15:32:59.04 ID:iSm8z8mn0
コツンコツンとブーツが床を踏む音が施設内に響く。
麦野はフレンダと他あ旗壺が撤退完了した事をフレンダのメールで確認した。
そしてしばらく連絡が来なかった絹旗からも連絡が来ていた。


どうやら長点上機学園の研究者を裏切り者として捕縛したそうである。
連絡が来た携帯を閉じると、麦野は壁に寄っかかる。


(はぁ…滝壺…ライバルかぁ…)


(ってライバルって認めてる時点で私は浜面の事が好きなんだな…)


(私の事認めてくれる男なんて浜面くらいしかいないよ…だから…滝壺の所にいかないで…)


美琴に追い詰められてピンチの状態のフレンダを助け出すために向かっていく時に話した内容。
実は滝壺が浜面の事が好きという事実。
麦野は確たる証拠もないのだが、勘で浜面は滝壺の事だ好きなのではないか、とずっと思っている。
そして今日発覚した新事実。滝壺は浜面の事が好き、と言うこと。

303 :投げんな匙 ◆t4xyS9bQ1M [saga]:2011/01/29(土) 15:34:18.60 ID:iSm8z8mn0
麦野は今まで能力者故に煙たがられ、まともな恋愛を送った経験が極端に少なかった。


今ではスクールとか言う組織の親玉をやっている垣根とかいう男と付き合った事もあったがうざくてすぐ別れた。
上から目線でごちゃごちゃうるさかったから振った。泣きながら。


(ってなーんで思い出してるのよ、クソ垣根の事なんざどうだっていい)


(浜面…私の言うことも聞いてくれて、私にしっかり意見してくれる…)


浜面と一緒にいると落ち着く。麦野はそう思っていた。


(けど…浜面…いっつも滝壺の事ちらちら見てさ…私がどんな格好してもあんまり良い反応しないし…)


戦いに身を置く者のいっときの小休止。
麦野は元彼の垣根と浜面、そしてライバルである滝壺の事を考えていた。


(はぁ…今日浜面とあえるかな?)


仕事が終わったら浜面にちょっと会いたいな、と考えている時、人の気配がした。
片手には幻想虎鉄、背後には無数の人形爆弾をひきつれた美琴だった。


再び女の戦いの幕が切って落とされようとしていた。
304 :投げんな匙 ◆t4xyS9bQ1M [saga]:2011/01/29(土) 15:41:43.76 ID:iSm8z8mn0
また後で投下する
305 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/29(土) 16:19:51.69 ID:WF88Ao/DO
美琴さんの性格が安定しないな
306 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/29(土) 16:25:27.36 ID:e4ab6Boio
これの時の美琴は色んな意味でテンパってるからな
でも流石に私より弱いとかそういう思考はこの場面では変ではあるなww
307 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/29(土) 16:43:41.57 ID:WF88Ao/DO
この時の美琴は冷静だったと思うんだがなぁ。じゃなきゃ不眠不休満身創痍で麦のん撃退できなかっただろ
なんかダークサイド落ちしてるし。自分より弱いとか[ピーーー]とか小物臭がする
逆になんか麦のんおとなしい
308 :投げんな匙 ◆t4xyS9bQ1M [saga]:2011/01/29(土) 16:44:48.76 ID:iSm8z8mn0
>>305-307
嗚呼…。すいません…すいません…すいません…><
309 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/29(土) 16:45:04.64 ID:e4ab6Boio
もしかして:死亡フラグ
310 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/29(土) 16:45:43.18 ID:e4ab6Boio
>>308
Oh...
いや別にそんな謝る事じゃww
311 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/29(土) 16:48:16.09 ID:O2mqzJKIO
でも美琴ってこういうイメージあるわ
自分以外を見下してるような感じ
312 :投げんな匙 ◆t4xyS9bQ1M [saga]:2011/01/29(土) 16:50:35.45 ID:iSm8z8mn0
自分的には生き写しが暴行されて死ぬ様をみたら発狂するだろうなって思って…
ちょっと不安定な美琴を書きたかったんです…。でも性格が不安定なだけに…><

もう一度しっかり読みなおして投下します><
指摘されるほど読んでくださってうれしいです!
もうちょっと待って下さいな
313 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/29(土) 17:01:56.65 ID:WF88Ao/DO
>>311
>自分以外を見下してるような感じ
むしろそれは麦のんのほうだな。公式の設定であるし冷静さを保てないのが弱点でもある
美琴は媒体によって性格違うってかアニメの改変があったから変なイメージついちゃったんだろ
314 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/29(土) 17:02:18.97 ID:z41SiJMAO
どうでもいいんだが麦野の原子崩しって着弾に数秒もかかるの?電子ビームってそんな遅いのか
315 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/29(土) 17:05:21.37 ID:e4ab6Boio
>>312
妹達の件については思う所複雑で美琴としても不安定になって仕方が無いかとも思えるし
一方通行になすすべなく敗れた後なんで自分の力への自信も揺らいでる裏返しとしちゃあアリかもしれませんぜ
316 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/29(土) 17:39:42.64 ID:WF88Ao/DO
>>314
一応は物体にぶつかっても減速しない高速の光線って設定
317 :投げんな匙 ◆t4xyS9bQ1M [saga]:2011/01/29(土) 18:00:09.97 ID:iSm8z8mn0
>>314 自分はエースコンバットのエクスキャリバー程度の速度を想像しています。
数秒だとこの場合遅く感じちゃいますね…ご指摘ありがとうございます。
では次から投下…!
318 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/29(土) 18:00:58.81 ID:b4PBVFpAO
高速ってどれくらいから高速なんだろうな
319 :投げんな匙 ◆t4xyS9bQ1M [saga]:2011/01/29(土) 18:01:32.93 ID:iSm8z8mn0
「遅いじゃない…常盤台の超電磁砲、御坂美琴」


「…知ってたんだ、私の事」


「フレンダから聞いたわ…」


麦野は施設の柱によっかかりながら丁寧な口調で説明する。
美琴はフレンダと言う名前を聞いてククリ刀を持ち、立ち向かってきた白人を思い返す。


「そうなんだ…」


「にしてもスゴイ量の人形ね…集めるのに時間かかったでしょ?」
(フレンダしっかり後始末しろや)


狙撃銃を忘れるな、とは言ったが、まさか自分のしかけた爆弾の後始末をしないで帰るとは。
今度あった時に拷問確定だな、と胸中でつぶやくと麦野は一気に美琴に向けて原子崩しをぶっ放した。


美琴の背後でフワフワと浮遊している人形群の内、数十をくだらない人形爆弾が猛烈な爆風をまき散らし炸裂する。
しかし、それでもなお美琴は数百の人形を背後に従えている。


そしてその人形の内のいくつかが麦野の発するビームをスルスルとよけて近づいてくる。


(…人形に何か仕込んでるのか?)


原子崩しを放出しつつ、麦野はスルスルと奇妙な動きで近づいてくる人形を見る。
320 :投げんな匙 ◆t4xyS9bQ1M [saga]:2011/01/29(土) 18:02:38.13 ID:iSm8z8mn0
(中にベアリングが入っているプラスチック爆弾もあるだろうが…爆弾の中に通電したら起爆する…有線でもあるめぇし…一体どういう原理だ、ありゃ)


麦野は誘導爆弾の正体を看破しようと推理を巡らしていく。
何故、人形があそこまで奇怪な運動を出来るのだろうか?


(まさか…鉄でも中に仕込んだか?)


人形を集めるだけならすぐに出来るがいちいち鉄の塊を入れたら美琴の能力ならば浮遊させることが可能だ。
麦野は「鉄か」と言おうとしたところでちょうど美琴が喋りだしたので控える事にした。


「中に鉄塊を仕込んでるのよ、爆弾だけだったら電気が通電して死ぬけど、これだったら…鉄塊が入ってるからコントロール出来るのよ」


「へぇ…鉄塊をねぇ…便利な能力だ事」


考えている内容を頭ごなしで言われて若干イラっとするも、麦野は納得した。
確かに彼女の能力なら撤回がしこんであればある程度の重さのものであれば浮かすことが出来る。


「鉄塊があるなら自由に誘導も出来るわね…」


「えぇ」


美琴はそう言うと一気に数十体の人形爆弾を麦野に差し向ける。
それらの全てが高性能爆薬を内包している。
321 :投げんな匙 ◆t4xyS9bQ1M [saga]:2011/01/29(土) 18:04:45.81 ID:iSm8z8mn0
人形は美琴の制御化の元、麦野を爆殺しようと、それぞれが違う方向から麦野に殺到する。


「吹き飛べ…!」

「しまった…!」


美琴は勝利を確信し、笑った。
ビームの間隙を捉えた数個の爆弾が爆弾が麦野を捉えたのだ。


しかし、麦野は美琴の笑ったそれよりもさらに口元をゆがめてにんまりと笑った。


「にゃーんてねん☆」


麦野のポケットから出されるトランプほどのカード。
それを空中にかざすと一気にそれめがけて原子崩しを顕現させる。
すると白熱した光がそのカードに当たる。


ビームが高射砲の弾丸の様に空中に飛散し、美琴の投擲した人形が次々と破裂していく。


「な…っ?あれは?」


「拡散支援半導体(シリコンバーン)」


麦野の弱点は膨大すぎるエネルギーを制御する事の難しさにある。
多方面からせめて来られた場合、何も出来ないのが彼女の致命的な弱点だった。


「私の弱点は私が一番知悉している。アイテムを舐めるなよクソガキ」
322 :投げんな匙 ◆t4xyS9bQ1M [saga]:2011/01/29(土) 18:06:13.54 ID:iSm8z8mn0
麦野の弱点をカバーする為に学園都市の治安維持機関がかつて彼女に送ったもの、それがこの拡散支援半導体だった。
カードにビームを照射するとカードが飛散し、同時にビームも拡散すると言うわけだ。
単純な構造ながら、麦野が一対複数の戦いに陥った場合、かなり有用な道具だった。


「ッたくよぉ…学園都市に貢献する利益の期待値で私が第四位でお前が第三位っておかしいだろぉが」


麦野は心底美琴を軽蔑するように言い放つと拡散支援半導体で広がった原子崩しで次々と人形を破壊していく。
気づけば人形は数えれるくらいにまで減っていた。


「けどよ…ここでお前を殺せばそんな利益の期待値なんて関係ねぇって証明できるんだよなぁ?」


「………」


黙って聞いている美琴をよそに爆弾人形はいよいよラスト三個までに減った。


「残り三個だぜ?超電磁砲?」


「………」


三個の内二つを左右に展開させ、麦野を爆殺しようとする。
しかし、セムテックス入りの人形はあっけなく融解させられる。
最後の一個が麦野の正面めがけて突撃してきた。


「は!聞かないって言ってんだろ!この売女がぁ!」
323 :投げんな匙 ◆t4xyS9bQ1M [saga]:2011/01/29(土) 18:06:47.55 ID:iSm8z8mn0
麦野はそういうと指の先でバシン!と勢いよく人形を消滅させる。
しかし、その人形の背後には幻想虎鉄が…。

(なっ!人形の裏に…?ヤバイ!)

即座に原子崩しで砂鉄の刀、幻想虎鉄を融解させる。


ザシュウウウウ…と刀が背後の壁に突き刺さる。
後少し遅かったら顔面に刀が突き刺さり、即死していただろう。

間一髪でその攻撃をかわした麦野だったが、ふわふわした大事に手入れをしている栗色の髪の束が刀に持って行かれる。


「いッ…てェェ…!…のやろォ…!」


「油断したあなたがいけないのよ?」


「畜生がァ!」

自分の手入れの行き届いた髪の毛の数十本が犠牲になった事で麦野の怒りはマックスに達した。
無傷だった自分が傷つけられ頭に一気に血が上る。

しかし、その直後に麦野の思考は中断する事になる。


コツン…


四つめの人形があっけなく頭に当たったのだ。
324 :投げんな匙 ◆t4xyS9bQ1M [saga]:2011/01/29(土) 18:08:07.60 ID:iSm8z8mn0
美琴の背中に隠していた人形だった。
麦野に気づかれないように背中にはっつけていた最後の切り札だった。


「…んの…ア…マァ…!」


麦野は怒りと苦痛に表情をゆがめ、最後につぶやくとどさりと床に体を沈めた。
美琴は「ふぅ」とため息をつく。
そして失神している麦野の様子をうかがう。


麦野と美琴の戦いの軍配は美琴に上がったようだった。


(手ごわい相手だった…早く復活する前に行かないと…)


美琴は施設の中枢があるであろう方面に向かって歩を進めようとするが、いや、と思い立ち止まった。


(あの狂った計画に…コイツも参加していた事になる…このまま逃がしておいていいのかしら?)



一瞬美琴は逡巡するがこの大規模な施設の全容を未だに把握していないので保留する。
一度刀を砂鉄に戻し、自分の所に引き寄せると、麦野の頭にヒットした人形を引き連れ、施設の奥に向かっていった。
325 :投げんな匙 ◆t4xyS9bQ1M [saga]:2011/01/29(土) 18:09:05.31 ID:iSm8z8mn0
「ここね…中枢は」

美琴は疲労でパンパンになった脚を引きずりながらもSプロセッサ社の中枢であるコンピュータールームに到着した。
フレンダの残していった人形の最後の一個を起爆させる。セムテックスは轟音を響かせ、パソコンの機器を吹き飛ばしていった。


そしてさらに念の為にそれらの機器を電撃でショートさせる。


(よし…後はあの女にとどめをさして…)


どす黒い感情が美琴の中でうごめく。
しかし、彼女は思った。
相手を倒すことはできても、殺す事が出来るのだろうか、と。


(殺せるかしら…?私に)


美琴は逡巡する。
果たして自分に人殺しという最低最悪な行為が出来るのだろうか。
人の生涯をいきなり断ち切る行為。それは自分がやられて最も納得できない行為ではないか。


ふと美琴はいつもいる四人組を思い出す。


(黒子、初春さん、佐天さん…みんな、私がこんな事してるって知ったらどう思うんだろう?)


美琴はよく遊ぶ友人たちの事を考えた。


(そんな事したら…私…)
326 :投げんな匙 ◆t4xyS9bQ1M [saga]:2011/01/29(土) 18:09:52.44 ID:iSm8z8mn0
(…何考えてるんだ私…人殺しなんて…でも…)


美琴は人殺しは出来ない、と思った。

しかし、あの計画のワンシーン…9982号が無残にも虫けらのように殺された光景が頭の中によみがえる。
美琴は目をつぶり、あの時みた凄惨な光景を払しょくするかのように頭をぶるぶると振るう。


(けど…あの実験に関わったヤツは絶対に許さない…!二度と戦おうなんて思わないくらいに叩きつぶす?)


(またあの計画がスタートして施設の防衛にアイツらがいたら絶対に許さない…けど…今日は…許してやるわ…!)


結局美琴は人殺しに手を染めなかった。
彼女はその場から一度出て、もう一つの施設に向かおうとする。


しかし、施設の高架を歩いている時だった。美琴の下腹部に猛烈な痛みが走る。
麦野にけられたのだ。


「ぐ…はぁ…!」


「待てよ…趙電磁砲…!今から…テメェにやられた事兆倍にして返してやるんだからよっ!」


出血しているこめかみのあたりを抑えながら麦野は美琴に原子崩しをゼロ距離で放つ。
美琴は間一髪でそれをよける。
麦野はそれをかわすと原子崩しを美琴に放つ。いや、美琴にではない。
目の前の物体、全てを吹き飛ばそうとする悪意に満ちたビームだ。


「な、何をする気なの?」
327 :投げんな匙 ◆t4xyS9bQ1M [saga]:2011/01/29(土) 18:11:49.21 ID:iSm8z8mn0
「うるせぇよ…超電磁砲…!」

動揺する美琴をしり目に麦野は手のひらの中に原子崩しを顕現させる。
美琴は幻想虎鉄を顕現させて一気に切りかかる!が、麦野の顔に幻想虎鉄が触れそうになる瞬間。
頬をかばうように麦野が腕を顔の前に出す。

その瞬間幻想虎鉄が焼け焦げた。
麦野は原子崩しを手の周りから撃ち出し、幻想虎鉄を完全に滅却させる。


「超電磁砲…私の顔に傷をつけた罪はぁ…!」


こめかみから流れる地は固まったようだが、その凝固した血が真っ黒に変色し、麦野は異様な雰囲気を醸し出している。


「死ね…超電磁砲ッ…!」


麦野は肩の辺りから一気に原子崩しを放出し、美琴を焼き尽くそうとする。

美琴は能力を使ってよける事しか出来ない。
もう体力もあまり残っていない。
体も限界に近づいていた。


「パリィ!パリィ!パリィ!ってかぁ!?学園都市の暗部の女王に喧嘩吹っかけといてそのざまかぁ?第三位ィ!」


美琴は麦野の怒鳴り声に「あ、ぐ…」とうめき、原子崩しをよける事しかできない。
しかし、ついに体力に限界が来て、美琴は床にへたへたと倒れこんでしまう。


「どぉしたぁ?もう終わりかぁ?第三位もこの程度かぁ?よくみらぁ…小便くせぇただの処女豚じゃねぇか…!」
328 :投げんな匙 ◆t4xyS9bQ1M [saga]:2011/01/29(土) 18:12:49.99 ID:iSm8z8mn0
麦野の吐く罵詈雑言に美琴は言い返す気力もなかった。
大事な髪の毛を持って行かれた事と出血し、しかも失神していた事がよほど屈辱だったのだろう。

アイテムの女王は狂える化け物として美琴の前に立ちはだかった。


「おい、もしかしてこれで終わりかよ…?超電磁砲、あれみてぇんだよ、あれ」


麦野はそういうと「テメェの必殺技の超電磁砲撃ってみてくれねぇかなぁ?」といきまく。
しかし、勿論美琴にそんなものを撃てる程の体力など残されているわけなかった。


(絶体絶命ねぇ…クッソ…!)


(何か…何かこの状況を逆転できるものはないの…?)


(考えろ美琴…!考えるんだ…)


ふと彼女は下を向く。すると白いテープが無数に設置されているではないか。
美琴はそれをちらとみるとこれしかない、と思った。


「ねぇ…この…白線…おたくの仲間が置いていったものでしょ?」


「あぁん?……?」


麦野は鬼も睨み殺してしまいそうな形相で美琴を見つめる。
が、美琴が床に指を差している白線を見て一気に身体が震え上がる。
329 :投げんな匙 ◆t4xyS9bQ1M [saga]:2011/01/29(土) 18:13:18.74 ID:iSm8z8mn0
「な…そ、それは…」


「そうね、えーっとフレンダさんだっけ?お宅の白人。…このテープを今ここで着火したら…どうなるかしら?」


「ば…か…やろう…フレンダぁ…!」


そう。フレンダの着火テープの未処理分がたっぷりこの区画に残っていたのだった。
美琴は偶然それを見つけたというわけだ。


「今の私でもこれを着火させられるだけの電気くらいなら残ってるわ」


「ば、やめ…!」


ビリッ…!

美琴の手からヒュボッ!っと青白い電気がはぜる。
手から発生した小さい電気はしかし、一瞬にして着火するとテープを焦がす。
そして一気に延焼していく。


ガラガラ…!



施設間を繋ぐ橋がテープの焼失に合わせて次々にバラけ、崩落していく。
底は全く見えない。
ここから落ちたらおそらく無傷ではすまないだろう。
330 :投げんな匙 ◆t4xyS9bQ1M [saga]:2011/01/29(土) 18:15:33.84 ID:iSm8z8mn0

美琴は最後の力を振り絞って崩落を免れた柱に捕まる。
彼女の近くにいた麦野はそのまま落ちていく。


(助ける…?いや、どうなんだ…!)


美琴は麦野を助けるか躊躇していた。
頭は彼女を殺そうとした。このまま落ちてしまえ。そう考えていた。



しかし、気付けば彼女は近くにあった鉄製ワイヤを電力で投擲していた。


「つかまって!」


「…!」


麦野は美琴が差し伸べた最後の命綱に手を伸ばしかける。
しかし、その手がワイヤをつかむことは無かった。
彼女はその手でワイヤを溶かすとにやと不気味に笑って漆黒の闇に消えていった。


「ば…馬鹿な?どれほどの高さだかもわからないって言うのに…」


美琴は唖然とした。
しかし、いつまで悠長にとどまっているわけにはいかない。美琴は撤退しようとする。


キィィィィ…!


撤退を決めた直後、多数のビームが下方から撃ちあがってくる。
おそらく着地に成功した麦野がやけくそでビームをぶっ放しているのだろう。


あてずっぽうに撃つビームを美琴は難なくよけて施設から撤退する。



戦いは急速に幕が引かれていく……。
331 :投げんな匙 ◆t4xyS9bQ1M [saga]:2011/01/29(土) 18:16:31.58 ID:iSm8z8mn0
佐天はサイバーテロのニュース速報を見ながらぼんやりとアイテムからくる任務完了の報告メールを待っていた。


戦闘が始まっておよそ一時間半。
連絡がやってきた。


ういーん…ういーん…



仕事用の携帯電話はいつもと変わらずバイブレーションの音を佐天の小さい部屋に響かせる。
彼女はなるべく平静を装ってメールフォルダにタッチする。
332 :投げんな匙 ◆t4xyS9bQ1M [saga]:2011/01/29(土) 18:17:03.65 ID:iSm8z8mn0
From:麦野沈利

Sub:作戦終了

全員良く敢闘した。

ふふ…学園都市の闇に引きずられていくといいわ。
あのクソ売女。

取りあえず施設防衛は失敗したけど、五分五分にもつれ込んだわ。
だから給料の振込に関してなるべく早く連絡頂戴ねー☆

333 :投げんな匙 ◆t4xyS9bQ1M [saga]:2011/01/29(土) 18:18:35.13 ID:iSm8z8mn0
(ふーん…施設防衛は失敗したけど…五分五分…取りあえず、上には私が報告しておきますかね…)


まず新規作成で学園都市治安維持会宛のメールを作成する。



(ってクソ売女って…やっぱり侵入してきたひとってやっぱり女だったんだ…女のエレクトロマスターって…)


今回の侵入者は事前にエレクトロマスターと言われていた。
そして麦野の任務完了連絡が正しいとすれば今回のインベーダーは女。


佐天の交友関係上にも一人のエレクトロマスターの友人がいる。御坂美琴だ。


(まさか…御坂さんじゃないよね?)


余計な詮索は依頼主の製薬会社からの依頼で禁じられている。
ここでフライングして麦野に聞いてしまえば、と思うがそれはご法度だ。

佐天は麦野に事の顛末を聞きたい衝動にかられたが、まずは任務完了メールを手がけることにした。



(今回の戦い…どうなったんだろう…)


佐天はこの時点で美琴以外にアイテムと戦い、五分五分にもつれ込む事が出来る人物はいないと勝手に決めつけていた。
果たして、今回の施設に侵入したインベーダーの正体はいったい誰だったのだろうか。


佐天はもやもやした思考を払しょくしようとベランダに出てみるが、外のじめじめした暑さにたちまち部屋に戻ってきた。
一人の時間が異様に長く感じた。
334 :投げんな匙 ◆t4xyS9bQ1M [saga]:2011/01/29(土) 18:28:29.93 ID:iSm8z8mn0
「結局…疲れたって訳よ」


下部組織の構成員の送るキャンピングカーの中でフレンダは「はぁ」とため息をつく。
今日の相手は強敵だった。


「じゃ、ふれんだ。ここらへんでおりよっか」


「あ、そうね、今日は集団アジトでいっか」


滝壺は体晶を使って麦野の膨大すぎる原子崩しの射撃補佐に当たって、インベーダーをあと一歩のところまで追い詰めた。
しかし、体調に不調をきたし、戦線から後退した。


下部組織からはいった連絡によれば麦野は擦り傷程度ですんだらしい。
絹旗も治安維持機関とかいう組織に布束を引き渡して無事帰還中との事だ。
インベーダーとの勝負はつかずじまいになったが、リーダー不在という事態は避けることが出来た。


「お疲れ様です」

「送ってくれてありがとね」


下部組織の名前も知らない男にフレンダは律儀に礼をする。
滝壺もベンチコートをはおったまま小さくぺこりとお辞儀をする。


「滝壺、鍵持ってる?」
335 :投げんな匙 ◆t4xyS9bQ1M [saga]:2011/01/29(土) 18:29:09.40 ID:iSm8z8mn0
「うん。私のジャージのズボンのポケットにあるよ」


「自分で取れそう?」


「ちょっときつい」


「はいはい。じゃ、私がとってあげよう」


フレンダはそういうと滝壺のポケットに手を伸ばして共同アジトの鍵を採る。
彼女はキルグマーのストラップがついているかわいらしいキーホルダーに繋ぎとめられた鍵をアジトのマンションのカギ穴に差し込んでいく。


ガチャリ…キィィ…


ドアを開け、電気をつける。
フレンダと滝壺が共同アジトに到着した。
二人はやっと肩をなでおろす。
336 :投げんな匙 ◆t4xyS9bQ1M [saga]:2011/01/29(土) 18:30:08.41 ID:iSm8z8mn0
♪I believe miracle can happen


フレンダの携帯電話の着信が鳴る。
Daishi Danceのシークレットカバーの曲、「I believe」だ。
フレンダは実はこのフレーズが大好きだ。
日本語に訳せば、“信じれば奇跡は起きる”このフレーズが大好きで、わざわざ有料のサイトに登録してダウンロードしてしまったくらいだ。
この曲をかければ姉にも会えるかも、とフレンダは思い、それ以降、着信音はずっとこれ。ゲン担ぎの様なものだ。


「フレンダ。携帯なってるよ」


「うん、わかってる。ちょっと待ってくれい」


明かりをつけてベレー帽を机に置く。
携帯をちらりと見ると麦野からだった。


「えーっと?麦野は今日個人アジトに戻るってさ。浜面が送迎してるそうね」


「…はまづらが送ってるんだ」


「うん。そうみたい。下部組織のまとめ役任されてたっぽいし、ちょうどそれの業務が終わったタイミングとバッティングしたんじゃないの?」


「かもしれないね」


フレンダは滝壺の一定のトーンの口調をおかしいと思い、ちらとリビングのソファに腰をかけている彼女の顔を見る。
いつも何を考えているかわからないといった調子の滝壺の表情が僅かながらゆがんでいるように見えた。
337 :投げんな匙 ◆t4xyS9bQ1M [saga]:2011/01/29(土) 18:30:41.44 ID:iSm8z8mn0
「ね、滝壺?あなた浜面の事…気になるの?」


「いや、別にそんなことないよ」


フレンダは滝壺につい質問していた。
ソファに座っている滝壺の顔が僅かながらゆがんでいる様に見えたからだ。


「ホント?」


「それを聞いてフレンダはどうしたいの?」


「え?い、いきなりそんなこと言われても」


「私もいきなり浜面の事いわれてもわからないよ。フレンダ」


滝壺の表情は心なしか悲しそうな表情をしていた。
フレンダは思った。


(滝壺、浜面の事好きなんだね)
338 :投げんな匙 ◆t4xyS9bQ1M [saga]:2011/01/29(土) 18:31:13.01 ID:iSm8z8mn0
お茶らけているように見えるフレンダ。
実はこう見えて結構鋭い。


(結局…アイテムのリーダーとその相棒が同じ男に惚れてるって状況…難解な訳よ)

(これからどうなるのやら…)


滝壺がまだ浜面の事を「好き」と言った訳でもないし、先のフレンダの質問に対して滝壺が首肯した訳でもない。
あくまでフレンダの女性的な勘だ。




「じゃ、私から先にシャワー浴びてもいいかな。疲れちゃった」


「あ、私も一緒に入る。汗一杯でちゃった」



「え?」
(結局何で一緒に?)


「え?」
(つかれた…)
339 :投げんな匙 ◆t4xyS9bQ1M [saga]:2011/01/29(土) 18:33:59.83 ID:iSm8z8mn0
「あーあ疲れちゃった」


「相手は誰だったんだ?」


「常盤台の超電磁砲」


「まじかよ」


「うん。まじ」


麦野は電話の女に報告するべくメールをカチカチといじくりながら浜面の質問に答える。
彼女は仕事が終わり、研究者に今回超電磁砲の阻止しようとしていた計画をはかせていた。
そのさなかに下部組織の仕事も終わり、居合わせていた浜面に自宅まで送迎させているといった具合だ。


浜面は運転しながら車載テレビを起動する。
彼はモニターを見れないが、座席のシートに埋め込まれたテレビモニターを麦野は目で追っていた。


『サイバーテロは沈静化した模様です…近隣の学生や研究者の方々にはご迷惑を…何かございましたら付近の警備員や…』


テレビに映っている女性キャスターはヘリから施設の上空を飛行しながら撮影を続けている。
そこはつい先ほどまでアイテムと美琴が激闘を繰り広げていた所だった。

テレビではサイバーテロと言い報道しているが、その一言の陰に隠れていくつもの思いが交錯していった事か。


さらりと“サイバーテロは沈静化”と言うが、その背後にアイテムの並々ならぬ努力があった事は確かだが。
暗部の彼女たちは決して表に出る事はない。アイテムの構成員達も自分たちが裏の存在であることは重々承知していた。
340 :投げんな匙 ◆t4xyS9bQ1M [saga]:2011/01/29(土) 18:34:45.15 ID:iSm8z8mn0
「今日はお前の単独アジトでいいのか?」


「うん」


「絹旗はどうする?途中で拾うか?」


「いや、絹旗はいいってさっき連絡来た。自分のアジトに帰るってさ」


「そうか」


絹旗は麦野、滝壺、フレンダの三人とは違う区画の防衛に回されていた。
そこで捕縛した人員がどうやら優秀な学者との事なので一応引き渡しまで立ちあうとの事だった。

「フレンダと滝壺は共同アジトか?」


「えぇ」


「滝壺は平気なのか?」


麦野はカチカチといじっている携帯の手をぴたと止める。
そして後部座席からミラーに映る浜面をぎろとにらんだ。


「平気よ。よく戦ったわ。今頃先にアジトで休んでるんじゃないかしら。安心しなさい」


「そっか」

早口で、棒読みの状態で麦野は淡々と言い放つとすぐに下を向いて携帯をいじり始める。
浜面はその素振りがちょっとだけ気に入らなかったが仕事を終えたばかりの麦野に何かを言おうとする気はわかなかった。


浜面は運転しつつ肩をそっとなでおろす。
その素振りは麦野をイライラさせる。彼女は浜面に話しかける。


「何よ…浜面。滝壺が無事で安心してるの?」
341 :投げんな匙 ◆t4xyS9bQ1M [saga]:2011/01/29(土) 18:38:24.07 ID:iSm8z8mn0
「あぁ。だってあいつ病弱そうっつかなんかおっとりしてそうな所あるじゃねぇか、お前も滝壺が無事でよかったろ?」


「あ、当たり前でしょ…」
(そういう事じゃなくてさ…)


麦野は自分の擦り傷を見る。
美琴が崩落させた接続通路から落ちた時、着地に失敗して出来た傷だ。
頭部も人形がぶつかったせいで裂傷があったがそれほど深くなく、凝固した血を拭き取って消毒したので浜面にはその傷は見えない。


「…何よ…そんなに滝壺の事が気になるんだったら滝壺の所に行けばいいじゃない」


「そんなこといってねぇよ」


「言ってる」


「言ってねぇって」


「……私だって…怪我したんだよ?」


こんなことを言って何になるんだろうか、いや何もならない。
麦野は分かりつつも浜面に膝の部分がすれてなくなったニーハイソックスを見せる。
浜面はミラー越しにちらとそれを見る。


「怪我…平気か?」


「…ばかづら」


「は?なんだよ、いきなり」


「もう疲れた、アジトについたら教えて、私寝るから」


「あ、あぁ」


浜面の運転するシボレー・アストロは学園都市の街の夜景をその黒いボンネットに映しながら走り続ける。
342 :投げんな匙 ◆t4xyS9bQ1M [saga]:2011/01/29(土) 18:39:17.05 ID:iSm8z8mn0
――滝壺とフレンダがいるアジト

「フレンダ。ダメ?」


「あ?え?ちょっと…滝壺?」


「別に…私、そっちの気がある訳じゃないから、安心してフレンダ」


「結局…二人ではいるのは確定って事?」


フレンダがシャワーに浴びるといいだした時、滝壺もなぜか入ると言いだして始まったこの問答。
アイテムの共同アジトといいう名の大型マンション。風呂も無駄にでかい。なので二人で入る分には全く問題はないのだが…。


♪あと五分ほどで入れます


風呂の自動給湯システムがお湯張りが完了するであろう旨を告げる。
場違いな位に明るい声が流れてフレンダは苦笑する。


「今日、熱かったし、一杯汗かいちゃったから早く入りたい」


「あ、それも、そうね、あはは」
(滝壺と二人でお風呂?ちょっとぉ…)


フレンダはまよった。自分が譲って後でお風呂に入ってしまえばいいではないかと思った。
しかし彼女は滝壺の提案を快く受け入れた。
特に拒否する理由もないし、滝壺なら構わないとなんとなしにフレンダが思ったからだ。


「ま、いっか。じゃ、滝壺、はいろ?」


「うん」


二人はバスルームの脱衣所で服を脱ぐ。
フレンダは手なれた手つきでぱっぱと服を脱ぐと、「お先!」と言ってバスルームに入っていった。
343 :投げんな匙 ◆t4xyS9bQ1M [saga]:2011/01/29(土) 18:39:50.06 ID:iSm8z8mn0
ざばぁ…ざばば

フレンダはお湯をざぶんと桶(おけ)で背中にかける。
すると今まで彼女は気付かなかったが、お湯を浴びたことで体から煙の匂いが落ちていき、バスルームにそれらが広がっていく。


(うわー…結構激しい戦いだったんだぁ…)


そんなことを考えながら彼女はお湯で何度か体を洗い流すとぽちゃりとぬるま湯にはいり、滝壺を呼ぶ。


「いいわよー、滝壺」


「はーい」


滝壺も風呂で背中を軽く流す。
人二人が入ってなお余裕のある風呂に二人は体を預けた。
344 :投げんな匙 ◆t4xyS9bQ1M [saga]:2011/01/29(土) 18:40:40.65 ID:iSm8z8mn0
「はぁ…誰だったんだろう?今日のエレクトロマスターって」


佐天は任務終了の報告を学園都市治安維持機関にした後、風呂に入り汗を流す。
風呂から出ると治安維持機関からの折り返しの連絡が届いている事に気付く。
メールの内容はギャラはアイテムと佐天にしっかり振り込まれた連絡の様だ。


エレクトロマスター


その言葉が佐天の思考を駆け廻る。
一体誰だったのだろうか。


(麦野さんに聞いてみよう…)


相手の素性の詮索は禁止、と固く言われていたが、アイテムに聞き出すくらいならいいだろうと思い、佐天は麦野宛のメールを作成する。




To:麦野沈利

Sub:無題

お疲れ様。
誰だったの?今回の侵入者





(短文だけど、いっか…)


佐天はベッドでごろごろしながらメールを作成し、送信する。
しばらく佐天は元々持っている携帯でゲームをして遊んでいると仕事用の携帯に連絡が入る。
麦野からだ。




From:麦野沈利

Sub:無題

そんなに知りたいのかにゃん?





「こ、こ、こ、こいつときたらー!」
345 :投げんな匙 ◆t4xyS9bQ1M [saga]:2011/01/29(土) 18:42:06.53 ID:iSm8z8mn0
「こ、こ、こ、こいつときたらー!」


佐天はついメールを見てうなった。
待望の侵入者の正体が聞けると思ったら肩すかしを喰らってしまった。



To:麦野沈利

Sub:あたりまえじゃない

麦野ー、お願いだから教えてー



(よし!これでいいわね。さっさと教えてくれー)


ボタンをひと押しするとメールは送信された。
次のメールが来るまで待つ。


メールを送って一分もしないうちに返信が返ってきた。




From:麦野沈利

Sub:無題
常盤台の超電磁砲




麦野のメールを読み佐天は心臓がとまるかと思った。
346 :投げんな匙 ◆t4xyS9bQ1M [saga]:2011/01/29(土) 18:42:39.34 ID:iSm8z8mn0
正体はやはり超電磁砲こと御坂美琴だった。


(えええええええええええ?マジで?????どうしよ、どうしよ、どうしよ)


(今度会ったら普通に話せるかなぁ…どうしよう…)


度胸は人一倍強い佐天もこればかりは衝撃を受ける。
まさか自分の予想が的中するとは夢にも思っていなかった。


(まさか…御坂さんが…今回の首謀者だったなんて…五分五分って言ってた麦野さんって言ってたよね?)


佐天は先ほど送られてきたメールの内容を思い出す。


(麦野さんと五分五分って…御坂さんなら出来ない芸当じゃないかも…?)


麦野の力はあくまで能力上の数値でしか知らない。
粒機波形高速砲とか言う得体のしれない高速ビーム。


(やっぱりレベル5同士の戦闘はすごいなぁ…)


直接見た訳ではないが、佐天は戦いのすさまじさを想像する。


(御坂さんにも聞いてみたいなぁ…って無理か…あはは)


佐天はいまさらながら自分がそんなこと聞けない立場にいることに気付く。
御坂がSプロセッサ社の脳神経応用分析所まで出張って単独でアイテムと激闘を演じたのはそれなりの理由があるのだろう。


それは決して安易に聞けるような内容ではない。
いわんや、佐天がそれを聞く事は即ち、佐天が学園都市の裏事情に精通している事を美琴に証明してしまうことになってしまう。

もし仮にそんなことを言おうものならば、御坂はどういった反応を示すのだろうか。
そして、二人の関係はどうなってしまうのだろうか?
347 :投げんな匙 ◆t4xyS9bQ1M [saga]:2011/01/29(土) 18:43:56.65 ID:iSm8z8mn0
――再び滝壺とフレンダのいるアジト

「フレンダ。綺麗だね、胸とか脚とか」


「にしし…!でしょ?結局、私の体のよさを分かってくれるのは滝壺だけってことよ!」


蛇口からでるぬるま湯。四十度の温水がちょぼちょぼと二人の浸かっている浴槽に入っては溢れていく。
換気扇から排出されていくケムリ。


「滝壺も結構きれいな体だよ…?」


「そう?ってかふれんだ胸見すぎ…」


「あはは、結局あんまり無いね―!滝壺も」


「うるさい。ちょっと気にしてるの」


「麦野に負けないように?」


「…………うん」


風呂に入る前までは浜面の事を好きかどうか、否定していた。
しかし、滝壺は自分の胸が小さい、と言うことを気にしていた。しかも麦野に負けないように、と意識していた。


(ふふ、結局、浜面、アンタって男は…)



滝壺とフレンダは二人とも体を洗い終わって湯船に入りなおし、仕事の疲れをたっぷり流している。
しばらくすると滝壺の顔がほんのりと赤くなり出す。


「ちょっと熱い。先にでるね、フレンダ」
348 :投げんな匙 ◆t4xyS9bQ1M [saga]:2011/01/29(土) 18:44:32.27 ID:iSm8z8mn0
「あ、うん。私ももうちょっとしたら出るから」


ざばんと滝壺が湯船から立ち上がる。
体から滴り落ちるお湯。ともくもく浮き出ている湯気。


いやらしさは全く感じない。
むしろ、優しい、あたたかい表情。


フレンダは幼少時代に亡くなった母の面影…等覚えていないのだが、滝壺の穏やかな表情に何か落ち着くものを見出した気がした。


バタン。
滝壺はバスルームの扉を開けて先に出ていく。
一人分の容積が抜けた湯船は一気に水が減って少なくなる。
フレンダは胸の膨らみのあたりまで減ったお湯をすかさず継ぎ足していく。


(あー…今日はしんどかったなぁ…実際滝壺と麦野の援護がなかったら死んでておかしくないわね…)


今日の戦いをフレンダは思いかえす。






『こっちは暗部に入ってまで人探してんのよ…!死ぬのが恐くてやってられるかっての…!』





我ながらレベル5の前でよくあれほどの啖呵を切ったな、と思う。
絶対に死ねない。その一心で彼女は美琴と真剣勝負を演じた。


(はぁ…ホント、死ぬのが恐くてやってられっかっての)


フレンダのこの街に於ける掟。それは――やられる前にやれ。
彼女がこの腐った最先端都市の路地裏の戦いに身を投じ、早数年。
彼女が培ったこの街で生き残るための処世術だ。
349 :投げんな匙 ◆t4xyS9bQ1M [saga]:2011/01/29(土) 18:45:09.92 ID:iSm8z8mn0
元々姉を探すためだけに、ちょっとだけ人よりも銃器や爆薬の扱いに長けているからといった理由で興味本位で投じたこの世界。


(お姉ちゃん…いつになったら見つかるんだろう)


一度はあきらめかけていた姉に会いたい、という期待が再び発露する。
もうこの学園都市にいないかもしれない。それはわからない。


「はぁ…お姉ちゃん…会いたいなぁ」


ぼんやりとつぶやく。


「なにしてるんだろう…?」


キィ…バスルームのドアが開く。
風呂から出た滝壺だった。どうやら外に声が漏れていたようだ。


「フレンダ?どうしたの?何か聞こえたけど」


「あ、いや、なんでもないって訳よ…」


「そう…」

しばらく沈黙が支配する。
ぴちょんとバスルームについている蛇口から水滴が滴り落ちていく。
滝壺は裸のまま、フレンダの事をじっと見つめる。


「……そっか。わかった」
(聞こえてたよ、フレンダ)


「あ、私もでるからさ…滝壺、体拭いたらタオルこっちによこしてちょーだい」


「はーい」


「なんかお腹減ったね、滝壺」


「うん」
350 :投げんな匙 ◆t4xyS9bQ1M [saga]:2011/01/29(土) 18:47:21.14 ID:iSm8z8mn0
――浜面と麦野が乗っている車

「送ってくれてありがと、浜面」


「あぁ」


「寄ってく?」


「お前、怪我してんだろ、休まなくてもいいのかよ」


その言葉に麦野はかぁと体が熱くなる感覚を覚える。
浜面が自分の怪我を気にしてくれた。その事だけでもうれしい。



「怪我はもういいの…、で、どうなのよ?来るの?」


浜面に家に来てほしいと思う反面、答えを聞くのが恐かった。
もし、「いや、今日はいいや」とか言われたら、一人泣いてしまうかもしれない。
さびしい。一緒にいてほしい。彼女はそう思った。


「…じゃ、ちょっとだけ」


「ちょっと…じゃなくて…泊ればいいじゃない…」


後部座席にいる麦野を浜面はミラー越しに見つめる。
アイテムの女王と自他共に認める麦野。しかし、その女王は無能力者のスキルアウト上がりの男に完全に恋していた。
浜面の返答次第で彼女は一喜一憂するかわいらしい女の子になる。

ただ、彼女のプライドか、はたまた恋愛に対して臆病な所が彼女を一歩踏み出せない臆病者にしていた。

「…じゃ…泊るかな…取りあえず…お前ん家着いてからだな…」


「ん。わかった」


麦野は後部座席の窓を半分ほど開けて、新鮮な空気を吸う。
今日の任務は久しぶりに激しい戦いになった。


「今日はお疲れさまだったな。相手は…常盤台の超電磁砲だったんだろ」
351 :投げんな匙 ◆t4xyS9bQ1M [saga]:2011/01/29(土) 18:48:02.02 ID:iSm8z8mn0
「あぁ…憎たらしい奴だったわ。しかも助けられそうになったしね」


「いい奴じゃねぇか」


「そうかしら?」


「…いや、わからねぇけど」


最後の最後で麦野は超電磁砲に助けられそうになったが彼女の意地がそれを阻止した。
原子崩しをうまく使って助かったから良かった。


しかし、そうは言ったものの、彼女の絶対に目標を成功させようとする意地と勝利への執念がいつしかあだになる日がこないと言いきれない。
その後、二人は他愛もない会話をしながら麦野の住んでいる高級マンションの地下駐車場に到着する。


二人は車から降りる。
浜面は二人分の荷物を持つとエレベーターに入る。
エレベーターのボタンをあけたまま麦野を待つ。
すると少し足を引きずる様な歩き方で麦野がやってきた。


膝の部分だけ片方すりむいている麦野の脚が痛々しい。
彼女がエレベーターにゆっくりと乗ると浜面は最上階を押す。


麦野は浜面に抱きつき、唇を重ねる。


「おい…むぎ…?」


「うっさい、浜面」


くちゅくちゅと二人の唇からは淫靡な音が流れ出る。
最上階に上がっていくエレベーター。
動揺する浜面をよそに麦野は二度と離さない意思表示をするかの如く、ずっと唇を重ねてくる。
352 :投げんな匙 ◆t4xyS9bQ1M [saga]:2011/01/29(土) 18:48:40.57 ID:iSm8z8mn0
「滝壺の事ばっか見て…私の事も見てよ」


「俺はお前が一番だって。マジで」


「嘘」


「好きだぜ、麦野」


シャケ弁を買ってくるパシリが気付けば麦野の歪な恋人になっていた。
狂狂(くるくる)と回り始めた関係はいつしか麦野が浜面に懇願するような関係になっていた。


命令する立場だった麦野はいつの間にか気付けば命令を聞く浜面がいなければ何もできない一人の女になり果てていた。
付き合ってるとか、両想いだとか、そういう言葉の遊びはどうでもいい。
そんな遊戯の様な事に固執する気は彼女にはなかった。


ただ、今すぐ欲しい…、そんな衝動的な感情が彼女の思考を埋めていく。

「お前…頭も怪我してるじゃねぇか」


「平気…下部組織に所属してる医者は軽傷って言ってたから…多分平気だよ…」


傷の幅はそこまで広くなく、軽い裂傷程度。
浜面は「傷、気付いてやれなくて、ごめん」と唇を一度離すと麦野にあやまる。
ヒールブーツを履いていてもなお、浜面の身長には届かない。

麦野は下から浜面の事を見上げ、「ばかづら…」と一言、照れながら言うだけだった。
つい先ほどまで美琴と激闘を繰り広げていた麦野の偽らざるもう一つの姿だった。

353 :投げんな匙 ◆t4xyS9bQ1M [saga]:2011/01/29(土) 18:49:15.00 ID:iSm8z8mn0
「麦野…俺らって付き合ってるのか?」

「え?」

「だから、俺ら付き合ってるのかって」

「…………」

麦野は答えられなかった。
本当のところは「うん」と言って付き合ってしまいたかったが、麦野の脳裏には滝壺が思い浮かんだ。
そしてその滝壺をちらちらと見ている浜面の姿もまでもれなく。


「…部屋ついてから話そうよ…?ね?」

「わかった」


チ―ン……とエレベーターが最上階に到着した事を告げる。
最上階に出ると夜のせいもあってか、夏にも関わらず冷えた風が吹き込む。


「ついたぜ、麦野」


「…うん」


浜面は麦野と自分の荷物を抱えて彼女の後をとぼとぼと歩く。
麦野はポケットから家の鍵を取り出すと、ガチャガチャと鍵を回し、鍵を開ける。

「はい、どうぞ」

「おう。お邪魔します…」


麦野がブーツを脱ぎ、そのままの勢いで風呂のお湯をいれる音が聞こえてくる。
浜面はその間に荷物をリビングのはじっこの方に置き、所在なさげに窓から見える学園都市の高層ビル群を観望していた。


浜面は窓から見える学園都市の夜景から転じて同じく窓に反射している自分の顔を見つめる。
354 :投げんな匙 ◆t4xyS9bQ1M [saga]:2011/01/29(土) 18:49:41.10 ID:iSm8z8mn0
(麦野は…どう思ってるんだ、俺の事)


(俺の事求めてくるのに…好きなのか…それすら…わからねぇ…)


浜面は金髪の頭をバリバリをかく。
彼は麦野の事が好きだった。ただ、滝壺をちらちらと見ている自分が居るのも事実だった。
正直、滝壺も麦野もどっちも捨てがたかった。こんな事を言ったら即、殺されるので勿論浜面は公言しなかったが。


(先に俺の事…誘ってくれたのが、麦野だったってのが大きいなやっぱり)


初めてアイテムで仕事をこなした時、浜面に声をかけてきたのは麦野だった。

滝壺は静かでおっとりしてかわいい、ちょっと無口。
麦野は自己中だけど、綺麗だし、ああ見えて純粋そう。

これが浜面が抱いている二人の最初の印象だった。
全く正反対に見える二人になぜ浜面が興味を持ったのか。それこそ、彼の守備範囲の広範さが物を言わせている。


(今でも…正直滝壺の事ちらちら見てるのは認める…。すまん、麦野。ケド…俺は麦野が好きなんだ)


散々麦野にこき使われた揚句の決断だった。それでも後悔していない。
浜面は滝壺に対する好意よりも麦野に対する好意の方が上回っているのだ。


しかし、それを踏まえたうえで浜面が麦野に以前告白した時、彼女は浜面に「滝壺のことばっかり見て」と言い切り、返答をうやむやにした。
浜面は「見ていない」と答えたがやはりその質問の答え方は歯切れの悪いものだった。
なので麦野に一層の不信感を与える事になってしまったのだ


(…ちゃんと言おう!)


浜面がリビングで勝手に覚悟を決めていると洗面所から「痛いっ!」と声が聞こえてきた。
彼が駆け足で洗面所に向かっていくと消毒液をひたしたティッシュを裂傷した部分に当てがっている最中だった。
355 :投げんな匙 ◆t4xyS9bQ1M [saga]:2011/01/29(土) 18:50:30.84 ID:iSm8z8mn0
「麦野?大丈夫か?」


「平気じゃないから叫んだんでしょうが…!」


半ば浜面に裂傷の痛みをぶつけてきそうな雰囲気だったが、さすがにそれは辞めた様だった。
ティッシュを持ちながらマキロンを染み込ませ、それをこめかみのあたりにあてがおうとして何度も辞める麦野の素振りがなんだかたまらなく愛おしかった。

そして、浜面は気付いた時には後ろから麦野の事を抱きしめていた。


「は、浜面?何よいきなり」


「さっきの質問の答え、聞きてぇ」


「付き合ってるかどうかのやつ?」


浜面は麦野の問いに「あぁ」と小さく耳元で囁く。


「俺は麦野の事が好きだ」


その言葉に後ろから抱かれている状態の麦野はびくりと方を震わせる。


「いっつもいっつもセックスしてる時からずっと言ってるわよね、浜面」


「あぁ、そうだな」


「じゃ、私の答え…」


洗面所に貼られている三面鏡。
浜面は三面鏡に映り込んだ麦野と自分の姿を見る。


ちょうどその時、麦野と目が合う。


「私も…あんたの事大好きだよ…?」
356 :投げんな匙 ◆t4xyS9bQ1M [saga]:2011/01/29(土) 18:50:59.58 ID:iSm8z8mn0
「本当か?」


「うん…」


「じゃ、付き合えるのか…?俺ら」


「そう…ね…ただ…ひとつ条件があるの」


浜面は後ろから麦野を抱いたまま「なんだ?」と聞いてくる。
彼の息遣いが麦野の耳元で行われている。
彼女はその事を考えて体がかぁと熱くなる感覚を覚えつつ、答えた。


「私を…レベル5の麦野沈利としてでじゃなくてね…、一人の女の子として…見てほしいっていうか…後あと…」

麦野は鏡に映る浜面の目をまっすぐ見つめて話す。
浜面の腕に抱かれている彼女は鼻から下が彼の腕で見えなくなっている。


「オイオイ…ひとつじゃなくて、新しい条件が出てきたぞ!?」


「あ、えっと…あのね…」


動揺する麦野をしり目に浜面はわざとらしく笑うと「で、なんだ?麦野?」と優しい口調で聞きかえす。


「私の事…ちゃんと見てよね?滝壺…の事ばっかり見てるから…」


「…あぁ」


「ホラ、やっぱり見てたんじゃん。はーまづらぁ」


「悪い…。けど、もうお前だけしか見ないから…安心してくれ…」


「お願いね…?」

麦野は今にも消えそうな声で浜面につぶやく。
浜面はそれには答えず、ぎゅっ、と強く抱きしめる。
357 :投げんな匙 ◆t4xyS9bQ1M [saga]:2011/01/29(土) 18:52:02.74 ID:iSm8z8mn0
「ふふ…幸せだよ、浜面」

「俺も…」


麦野は後ろを振り向く。
それに気付いた浜面も麦野に応えようとして自然と唇を重ねあわせる。
走った訳でもないのに、疲れた訳でもないのに、「はぁはぁ」と運動選手の様に息まく二人。

戦いの疲れの反動からか…もう、何でも理由なんてどうでも良かった。
この光景が駄誰かに見られてもいい。
二人の歪な関係に楔を打ち込む契機になったのだから。




今日の戦いは疲れた。麦野は失神したし、死ぬかと思った。

浜面と一緒にいれればそれでいい。もう、暗部とかどうでもいい。


「恐いのよ…私からあなたが離れたら…」


「誰も私の事なんて覚えてくれない…だから…浜面だけは覚えててほしい」


「俺は絶対にお前の事を忘れない…だから、そんな事言うなよ…!」

女王が求める物は平穏と安息の場だった。
彼女は浜面と唇を重ねつつ思う。



(浜面…?大好きだよ?)
358 :投げんな匙 ◆t4xyS9bQ1M [saga]:2011/01/29(土) 18:52:30.71 ID:iSm8z8mn0
さて、フレンダと滝壺は共同アジトで一泊する事を決め、戦いの疲れをいやすべく、お風呂に入った。
風呂から出た後、二人は夜食でピザを注文した。


食べ終わると大きいもふもふしたソファで二人はぐだーっとしていた。



「振り返ると…そこは…風の街…浮かんでは消える…生まれ今日までの…ストーリー…」


「ふれんだ?その歌、何?」


「あー…浜面がいつもつぶやいてる歌あるじゃん…結局…浜面のhiphop講義を前に熱弁されてさ…殆ど覚えてないんだけど…これだけ何か記憶に残ってさ」


「浜面、hiphop好きだもんね」


「人間交差点 SD Junkasta…とかなんとか…この透き通った男の声が良いとか…今ではちょっと浜面の言ってたことが分かるかもって思う訳よ」



「生まれ今日までのストーリー、ほんの何小節かの旅路…老いた大木の様にそれぞれ分かれていく道は…」



フレンダはこの唄を初めて聞いた時、なぜか姉の事を考えた。
人は離合集散を繰り返す、人生という旅を歩む。


この街のコンクリートジャングルを時期は違えど歩いたフレンダの姉。
もう最後に会って数年になる。フレンダが学園都市に入ってから、入れ代わりで消えていったステファニー。


けれど、再び、会いたい。
359 :投げんな匙 ◆t4xyS9bQ1M [saga]:2011/01/29(土) 18:52:57.51 ID:iSm8z8mn0
バイト行く。さらば
360 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/29(土) 18:53:42.42 ID:Zap/OV+po
おつー
361 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/29(土) 21:38:48.33 ID:e4ab6Boio
やはり浜麦か
佐天さんと美琴たちの今後の関係も気になる早く続き読みてえ・・・!
362 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/29(土) 21:57:51.08 ID:wihOMriAO
すんでの所で人を殺さなかった美琴と間接的とはいえ人を殺して正当化してる佐天。さらに麦野と浜面、珍しいフレンダと滝壺の絡み。

見所が多くて面白すぎるわこのSS。期待してるんで頑張って下さい。
363 :投げんな匙 ◆t4xyS9bQ1M [saga]:2011/01/30(日) 01:38:29.82 ID:WUoUVnwX0
>>361-362
ありがとうございます!
そういっていただけると本当に嬉しいです。
バイト中に携帯見てにやにやしてしまった!

取りあえず自分の中で考えている第一部を終わらせますので、少しだけ投下します!

今までのあらすじ

Sプロセッサ社におけるアイテムVS美琴の戦いは終わり、それぞれの生活空間に帰っていく。
休戦のひとときを皆それぞれ過ごす。

電話の女:佐天
浜面と麦野は付き合い始めました、アイテムはこの事を知りません。
滝壺は浜面が好き。
フレンダは生き別れた姉がいます。

ま、こんな感じです。
364 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/30(日) 01:41:15.56 ID:sOCmqGZEo
>>363
あらすじに名前が出てこない絹旗ェ・・・
365 :投げんな匙 ◆t4xyS9bQ1M [saga]:2011/01/30(日) 01:46:41.90 ID:WUoUVnwX0
フレンダの唯一の身内と言うだけではない。大好きな姉だ。
この腐った街で短い人生の旅路を終わらせるつもりは彼女は毛頭ない。
いかなる手段を使おうがフレンダは姉にあおうとする決意をひそかに強くする。


しかし、どうすれば姉に会えると言うのだ。
どだい、どこにいるのかもわからない。
しかし、フレンダはある人物を思いつく。

(…!あ、そっか…あいつに掛け合ってみれば…探してくれるかも…!)


(電話の女なら…教えてくれる…かも?なんだかんだでバンクにアクセスできる権限とかもってそうだし…)

電話の女、その正体は判然としない。しかしかなりの有力人物なのではないだろうか。
フレンダはあくまで希望的観測に過ぎないこの推論を都合がよすぎね、結局、と考え苦笑し頭の中から排除する。


ぼんやりとソファによっかかりながら姉の行方をフレンダは考える。
しかし、その思考は不意に覗き込んだ滝壺の無垢な表情で立ち消えになる。


「ど、どうしたの?滝壺」


「フレンダこそ。ぼーっとしてて何考えてたの?」


「あはは…いや…結局…どうでもいいくだらないことって訳よ」


「お姉ちゃんの事?」


「は?」
366 :投げんな匙 ◆t4xyS9bQ1M [saga]:2011/01/30(日) 01:49:01.43 ID:WUoUVnwX0
滝壺の質問にフレンダは動揺する。
彼女の風呂での独り言はどうやら滝壺の耳に届いていたようだ。


「…ま、そんなところかな」


「いるんだ、お姉ちゃん」


「…うん、まぁね…私以上にテンション高い人だったけど…一体何してるんだか」


フレンダは「ははは」と笑ってごまかして話を終わらせようとするが滝壺は真剣なまなざしでフレンダを見つめている。


「どこにいるかわからないの?」


「…うん」


「なんかごめん…失礼なこと聞いちゃったかな?」


「あ、良いよ!気にしてないから…!ははは…」


フレンダはソファで隣に座っている滝壺を見る。
ちょっとションボリしている様に見える。
そこまでおち込む必要はないのに、とフレンダは思ったが反面、親身に気にしてれてちょっと嬉しかった。


そして、そんな滝壺が姉の様に見えた。
かつての姉の温かいぬくもりを古い記憶の断片から思い出させてくれそうな気がした。
367 :投げんな匙 ◆t4xyS9bQ1M [saga]:2011/01/30(日) 02:01:46.41 ID:WUoUVnwX0
「ねぇ…滝壺、アイテム辞めたいって思ったことある?」


「…いきなりどうしたの?」


「いや…あはは…暗部で長いこと戦ってると、いつ死ぬとも知れないじゃない?」


フレンダは今回の施設防衛戦では使用したアキュラシー・インターナショナルAWSをちらと見る。
あの弾丸で何人の敵…いや、何人の人を殺しただろうか。


暗部にはいったころは殺害した人数を地中海戦線のドイツ軍の88よろしく、銃身にペイントしていたが、途中で馬鹿らしくなり辞めた。
その銃身はどこかに捨てた。


戦功を誇る事よりも一回の戦闘に生きて帰ってくることの方が偉大な事だと思ったから。
生き抜くために他者の人生を奪うという最低な行為をしている事はわかっている。

私が行くのは地獄って訳よ、と自分の心に彼女は語りかける。
それでもわがままで傲慢だと言われるかもしれないが、彼女は自分の命が何より惜しかった。



「自分が沢山の人の人生奪っといて言うのもなんだけどさ…結局私は命が惜しいって訳よ」


「姉に会いたいっていう願望がある。殺されていった人にも、もしかしたらそういった願望はあったかもね…」


フレンダは自嘲気味につぶやき、天井を見上げる。


「私は人の人生奪って、それで生かされている。それだけで飽き足らずに、自分の幸せを追求しようとしてる…」
368 :投げんな匙 ◆t4xyS9bQ1M [saga]:2011/01/30(日) 02:10:52.80 ID:WUoUVnwX0
「罰があたっちゃうんじゃないかって思う訳よ…快楽殺人者がここまでのうのうと暮らせるわけがない、いつか体真っ二つとかにされちゃうんじゃないの私?…はは」


フレンダは自分が姉に会いたいと思う願望をかなえようと思っている事がいつか神にばれて罰が当たるのではないか、と笑って言う。


フレンダは自分が殺人者であると認めている。
そしてそれが決して許される行為ではないとも自覚している。


彼女は現に人を殺す時に快楽を感じる性質(たち)だ。
そんな彼女が幸せを追求する事を神は…いや、人は許すのだろうか。


「それは私も一緒だよ…死ぬのは…恐いけど…でも、生きるためには…戦わなきゃ。アイテムの為に…」


「…自分の為にも…ちゃんと戦わなきゃだよ滝壺。体晶使ったのは今日で二度目だけど…あれはどう見ても滝壺の体に悪いって思う訳よ!」


フレンダは滝壺の発言に首をかしげる。
『アイテムの為に』という彼女の言葉にフレンダは「何でそこまで?」と尋ねる。


滝壺は「私の居場所…ここしかないから…」と穏やかだが語調は強くはっきりとフレンダに告げる。


「…そっか…私もアイテムしかないかなぁ…それとも、もしかしたら、どこにもないかも知れない…結局…迷子って訳よ…」


「お姉ちゃんがいるんじゃないの?」
369 :投げんな匙 ◆t4xyS9bQ1M [saga]:2011/01/30(日) 02:15:14.66 ID:WUoUVnwX0
「もう連絡先とかもわからないし…ははは…」


「さっきから…なんかごめん…フレンダ」

フレンダは「いいって訳よ」と滝壺の方を叩き、思う。
自分は本当にアイテムに根をおろしているのかと…。
フレンダは滝壺と違って、自分の居場所がアイテムにあるとは考えにくかった。
その懐疑の心は彼女の平凡さからくるものだろう。


銃器の扱いに長けてるとは言え、所詮能力者には太刀打ちできない、しかもこんな無能力者の代わりなんてごまんといる。
そう彼女は思っている。


本当はアイテムという組織を維持していくうえでも重要な盛り上げ役としての地位を確保しているフレンダだが、彼女はそんな事知る由もない。


「とにかく、アイテムでこのまま身を擦り減らして死ぬなんてまっぴら御免だって事よ…結局」


フレンダは「はぁ」とため息をつきながら自嘲気味に嗤う。
滝壺はじっとフレンダの事を見ている。


「滝壺も…いつか他に居場所が出来ると良いね」


「…うん、フレンダもね」


学園都市の暗部という常人からは可視化できない夕闇でもがく二人の少女。
それぞれの運命は一体どうなるのだろうか。
370 :投げんな匙 ◆t4xyS9bQ1M [saga]:2011/01/30(日) 02:17:13.24 ID:WUoUVnwX0
「そろそろ寝ようか」


「そうね、ちょっと疲れちゃったし…ふぁー…あ」


気付けば時刻は二時。常盤台の超電磁砲との激闘の疲れからかいつのまにか睡魔が体を支配し始めていた。
ソファでうつらうつらし始めたフレンダと滝壺はそれぞれベッドに入る。

寝室につくと滝壺が遠隔操作のリモコンで部屋の電気を消す。


「お休み、フレンダ」


「あ…ちょっと…滝壺」



「ん?何?フレンダ」


「…一緒に寝ていい?」
(お姉ちゃんのはなししたら…人肌が恋しくなっちゃったって訳よ…われながらガキね)


「…いいよ?」


もぞもぞとフレンダは自分のベッドから滝壺いるベッドに移動してくる。


「二人だとちょっと狭いね…けどあったかいね」


「ご、ごめん、滝壺いやだったら隣のベッドに戻るからさ…」
371 :投げんな匙 ◆t4xyS9bQ1M [saga]:2011/01/30(日) 02:18:13.20 ID:WUoUVnwX0
「別にいて良いよ」


「…じゃ…ごめん…」


謝りつつフレンダは滝壺のベッドにはいってくる。
滝壺はフレンダの方を向く。顔が一気に近くなるが暗くてあまり見えない。


「ねぇ…滝壺?」


「なに?フレンダ」


「あんたよくお母さんっぽいとか抱擁力あるとか言われない?」


「うーん…言われたことないなぁ」


「あ、そう…。ねぇ、滝壺…今日だけ…お姉ちゃんって呼んでいい?」


「…良いよ?…いろいろ思い出しちゃったのかな?フレンダ」


「うん…ちょっと…」
372 :投げんな匙 ◆t4xyS9bQ1M [saga]:2011/01/30(日) 02:19:29.50 ID:WUoUVnwX0
フレンダがまだ学園都市に来る前。
カナダにいる時の記憶とか、いろいろな事を滝壺との会話で思い出したフレンダは唐突に甘えたい衝動にかられた。
そしてその突飛な衝動にかられた発言を滝壺は否定することなく、快く受け入れてくれた。


「お姉ちゃん、大好き」


「…私はどうすればいいのかなフレンダ」


「…うーん…ちょっとわからないわ…ははは、ちょっと頭がおかしくなった人が隣にいるくらいで見てやって下さい」


フレンダはそういうと滝壺のお腹のあたりにうずくまる様にして縮こまる。
滝壺はその彼女の動作を見て、優しく肩をとんとんと叩いてやる。


「お休み…フレンダ」


「うん、お休み、ありがとう、滝壺…」


「今はお姉ちゃんだよ?」


「あ、そうだった…ありがとね、お姉ちゃん」


「うん」


程無くして二人はすやすやと寝息を立てて眠りについた。
373 :投げんな匙 ◆t4xyS9bQ1M [saga]:2011/01/30(日) 02:20:08.02 ID:WUoUVnwX0
――八月二十日

Sプロセッサ社の脳神経応用分析所での戦いが終わり、翌日。


御坂美琴は昨日の戦いの場に再び来ていた。
アイテムとかいう少女の集団と激闘を重ねて、体はへとへとだったが、つぶし損ねたデータがある。
それを破壊しに来たのだが、S社はつぶれていた。


(これで…計画を主導している会社はつぶれた…これでもう妹達は死ななくて済むのかしら?)


美琴はほっと一息つく。
完全に戦いが終わって訳ではない。
しかし、計画がとん挫したことは事実だった。


(どうなったんだろう…?これでひとまず…安心なのかしら…?)


完全に計画がとん挫したと決まった訳ではない。
けれど、ここで計画を中断させる楔を打ち込むことには成功した、と自分に言い聞かせる。


美琴は不意に昨日の戦闘中の憧憬を思い出す。
最初に戦った無能力者の白人、リーダー格だった女、そしてじっと開眼してこちらを見つめていた謎の女。
どいつも強敵ぞろいだった。


今後、計画が再開した場合、施設をつぶす際に直接出向いた場合、また遭遇する可能性がないとは言い切れない。


(あの白人…人の命をもてあそぶことに快感すら感じている様に見えたわ…)


美琴は昨日の戦いを思い出す。


『私に殺されるために生まれてきたんだって…』
374 :投げんな匙 ◆t4xyS9bQ1M [saga]:2011/01/30(日) 02:21:06.05 ID:WUoUVnwX0
相手の運命を支配した気になれるとか、正気の人間の言うことではない。
美琴は改めて昨日戦火を交えた集団に恐怖の念を抱いた。


(もっとあーゆー能力や特技を有効利用すれば良いのに…)


(ま、どーでもいっか…あんなやつら…でもあいつら…私と同い年くらいで計画に加担しているなんて…)


(いかなる形であれ…絶対にあの計画に加わっている奴らは許さない…人のDNAマップを勝手に使って…!)


(あいつらに指令を送ってるやつや…上層部の奴らも絶対に…いつか…絶対に…)


美琴はふつふつと浮かび上がってくるどす黒い感情を何とか制して落ち着かせる。
彼女は目の前にあるS社の施設を憎々しげに見つめると常盤台の学生寮に帰ろうとした時だった。


いつもの壊れた自動販売機のあたりを歩く。
八月も後半になっているのに、セミは絶賛求愛中。
みんみんうるさい。
その自動販売機のあたりにつんつん頭の少年が立っている。


「どうしたの?珍しいじゃない、あんたがこんな所にいるなんて」


「おう…ビリビリか…ってあれ?なんでまたビリビリが?」


美琴はツンツン頭の少年のセリフを聞いて不審に思った。


(ど、どうゆことよ?まだあの計画が続行してるってこと?)
375 :投げんな匙 ◆t4xyS9bQ1M [saga]:2011/01/30(日) 02:24:10.36 ID:WUoUVnwX0
とその時、不意に美琴を呼びかける声がかかる。
お姉様、と呼ぶのは彼女の知り合いでは白井ともう一人いる。美琴のクローンだ。


「…お姉様?ですか…?」


「は…ちょっと…何であなたが…?」


美琴の前にもう一人の美琴が現れる。
いや、正確に言えばそのクローン。妹達だ。


「私の名前は10031号です」


「10031…?ですって…?」


(まだ…続いているの?あの悪魔の様な計画が…)


ツンツン頭の少年は困惑していた。
なぜなら目の前に全く同じ格好をした少女が二人いるから。
「え?え?」と動揺しているツンツン頭の少年をしり目に美琴は9982から10031まで妹達の番号が繰り上がっている事に気付き、落胆した。
それは確かにあの狂った計画が依然進行していることを指示(さししめ)している。


(…学園都市はどこまで私を苦しめれば気が済むのよ…!)
376 :投げんな匙 ◆t4xyS9bQ1M [saga]:2011/01/30(日) 02:25:19.75 ID:WUoUVnwX0
しかし…美琴の懸念は長くは続かなかった…。
消化試合と称される戦闘の中で数人の妹達が9982号との戦いのあとに一方通行に殺されたが。



その事実を知ったツンツン頭の少年が一方通行を打ち倒したのであった。
これにより、計画は完全に頓挫したようだった。



しかし、この事で美琴の一方通行や、その計画を行っていた人物達に対する憎しみの感情が消えたわけでは、全く、ない。



ともあれ、いつも通りの笑顔を彼女は再び出来るようになった。
目の下につくった大きなくまはもうない。


屈託の無い笑顔。しかし、思い出せばふつふつと浮かび上がってくる、あの操車場での惨劇。
まだ、彼女が抱えている闇が根本的に解決した訳ではない。


今後、彼女の周りにあの正気の沙汰とは思えない計画の関係者が現れた場合、彼女は絶対に、いかなる弁解をしようとそいつらを許すことはないだろう。
377 :投げんな匙 ◆t4xyS9bQ1M [saga]:2011/01/30(日) 02:26:26.56 ID:WUoUVnwX0
――中国 北京

日本の四国程の面積を持つ北京市。
天安門から程近いマンションで静かな戦いが行われた。


キン、キン…

カラカラ…


転がる薬きょう、硝煙。床に広がるどす黒い血。
男と女が死体の身元を調べている。


「あーあー学園都市と取引していた華僑の抹殺って任務だったけど…なんだかんだでちょろいもんでしたねぇー」


「相手は武器も碌なものを持ってなかったからな。貴様の大きいショットガンを見てたまげていたぞ」



男はそういいながら女の持っている物を指さす。
フランキスパス12。大型ショットガンで機関銃の連射能力は持ち合わせていないが、数百、あるいは数千の弾丸を四散させる破壊力を持ち合わせている。
女は金髪で白人。男は身長180センチ程で日本人。金髪の女も日本語を話している。


「パーっとぶっ放す方がいいじゃないですかぁ。手っ取り早く終わることだし」


女は軽い調子で言い放つと華僑の男たちが持っていた書類を適当にパラパラとめくっている。
どうやら学園都市の技術を利用してひと儲け考えたいたようだったが、学園都市の統括理事会から依頼を受けた二人がそれを阻止した。


学園都市内の内訌問題ならば警備員や風紀委員とかいう組織が事態に当たるそうなのだが、いかんせん公に警察機関がないと言っている学園都市側にとっては
外部に漏れた情報を裁く組織がない状態になる。


なので学園都市はフリーの傭兵や非公式機関の暗部に海外に出張ってもらうこともあるそうだが、今回はその典型例のうちの一つだ。
378 :投げんな匙 ◆t4xyS9bQ1M [saga]:2011/01/30(日) 02:28:16.03 ID:WUoUVnwX0
中国の公安や武警(ウーチン)に学園都市の技術漏えいを目論んだ者の殺害を依頼すれば学園都市の技術が少なからずそうした外部機関の目に触れる事になる。
なので面倒だがこうしてわざわざ中国まで来ているのだそうだ。


「にしても沢山の書類がありますね…っちゃんとデジカメで重要書類は撮っておかないと…」


「そうだな」


そういうと二人はカシャカシャとデジカメで書類の束を撮影していく。
あまりに多い書類の束なので全て押収するのは不可能だった。


男はせっせと写真を撮っている女をちらと見る。
金髪で長髪のブロンド女。ともすればモデルと勘違いされてもおかしくない美女。
彼女はその目立ちすぎる容姿ゆえに、この仕事には不向きだと、再三伝えた。しかし、女は男の警告なんてお構いなしだった。


(我ながら…親切心で言ってやった積りなんだがな…全く…)


心中で男は一人ごちると再び写真の撮影に没入しようとする。


四菱…川石島播磨…河崎…常陸…日本の誇る重工業企業と学園都市との技術協力の報告書などの極秘ファイルがここにある事がおかしかった。


(やはり…風紀委員と警備員では防諜もままならないか…)


男は学生と教員で構成されている学園都市の警察力や防諜力に限界を感じ、日本の技術も失われていくのか?と今後の日本を考える。
しかしその男の思考は同行している女が書類とにらめっこしているのに気づき、話しかけた。


「どうした?何をしている?」
379 :投げんな匙 ◆t4xyS9bQ1M [saga]:2011/01/30(日) 02:29:01.42 ID:WUoUVnwX0
「これ…私の妹なんです…」


「妹?」


女は男に中国語で“項目”と書かれているファイルを男に見せ、その中の白人を指さす。
そこには女四人の顔写真が映っており、事項に行けば“学校”“集団”…といくつかの組織のリストが続いている事に男は気付く。
しかし、男は取りあえずは同僚の女がポツリとつぶやいた発言が気になっていた。


「オイ、貴様今まで妹がいると、俺に言った事があるか?」


女は「いや…」と言葉を濁す。

何やら言えない過去でもあるのだろうか?男はいつも能天気でハイテンションの女の真剣な表情を初めて見た気がした。


「妹か…まぁ、貴様に親族がいても俺にとってはどうでもいいことだがな…」男はそう言うとパラパラとページをめくる。


このファイルが学園都市の治安維持組織のリストである事は明白だった。
しかもそれらの組織は未成年とおもしき人物で大半が構成されている。


「あはは…そうですよね」


女はそういうともの惜し気にそのファイルの白人をじっと見つめている。
380 :投げんな匙 ◆t4xyS9bQ1M [saga]:2011/01/30(日) 02:30:26.22 ID:WUoUVnwX0
「もう…会ってなくて久しいのか?」


女は無言でコクンと頷く。
男は思った。この女に妹が居る事、それはどうでもいい。
…ただ、なぜ、その妹がこのファイルに乗っているのだ?


「私の妹は私を探しに学園都市にやってきたんです…私がちょうど学園都市の仕事に飽き飽きしてフリーの傭兵に転向する時に…」


「入れ替わりという訳か」


「はい…」


男は当たり障りのない言葉を選び、会話に応じていく。
金髪のこの女は以前学園都市で英語と歴史の講義を担当していたと以前、女本人から聞かされていた男は「ほう」と相槌を打つ。


「砂皿さん…妹に会いたい…一度コンタクトをとって見てもいいですかね?」


「貴様の好きにすればいいだろうが」



金髪の女に砂皿と呼ばれた男はだるそうに答える。
以前からこの女は仕事以外でも俺に意見を求める事が多かったな、とぼんやりと男は思いだしていた。


「…でも…ここのリストに載っているってことは…私の妹は…フレンダは…危険な世界に身を置いているんじゃ…?」
381 :投げんな匙 ◆t4xyS9bQ1M [saga]:2011/01/30(日) 02:34:42.65 ID:WUoUVnwX0
「…でも…ここのリストに載っているってことは…私の妹は…フレンダは…危険な世界に身を置いているんじゃ…?」


女は「ならおいそれと会えないかも…」と勝手に悲観している。
感情の起伏に富んだやつだ、と砂皿は内心吐き捨てると女に話かけた。


「このファイルに記録されている限りだと…何かしらの部隊に所属していたと判断するのが妥当だろうな…」


「ですよね…私の妹…自分で言うのもなんですが…私の事大好きで…それでついてきちゃったのかな…?」


「そして妹は入れ替わり立ち替わりで学園都市に来た。そしてステファニー、貴様が出て行った事を知らずに今でも下働きをしている…」


金髪の女、もといステファニーは学園都市の裕福な生活に飽き、世界の戦場を回ることを決意した。
妹はそんな事、つゆ知らずと言った感じで学園都市にわざわざ来て、姉を探しつつ、学園都市の闇にからめ捕られている…。
本来ならば実の妹が見つかって喜ぶところなのだが、学園都市の治安維持に従事している事が彼女を落胆させる大きな要因だった。


ともすれば命を落とすことになるやもしれない学園都市。
その危険さは以前その地で教鞭を握り、警備員として勤務した実績もあるステファニー自身が一番知悉している事だった。


学園都市には色んな能力者がいる。
治安維持に従事していればいつ命を落とすかわからない…。


「…砂皿さん…私、もう一回学園都市に行こうと思います」


「ほう。そうか」


砂皿は鷹揚に答えると再び重要書類の撮影を始める。
ステファニーは“項目”と書かれているファイルをぐいっとロスコの小さいショルダーバッグに詰め込んでいく。
382 :投げんな匙 ◆t4xyS9bQ1M [saga]:2011/01/30(日) 02:35:42.31 ID:WUoUVnwX0
「砂皿さん…協力してもらえますか…?」


砂皿はカメラを持ったままステファニーの方を向く。


と、その時

パァン!と砂皿のグロックG17が火を吹いた。
ステファニーの後ろに華僑の残党がいて、ステファニーに発砲しようとしていたのだ。


「お前が一人でいった所で命がいくつあっても足りないだろう…いくか……学園都市」


「は、はいっ!ありがとうございます!!」


二人の傭兵は学園都市に向かう。
383 :投げんな匙 ◆t4xyS9bQ1M [saga]:2011/01/30(日) 02:38:45.82 ID:WUoUVnwX0
第一部はSプロセッサ社の戦いが終了し、ステファニーと砂皿が学園都市に向かう所で終わりです。
下手な繋ぎになりましたが、どうか今後も見ていただければ幸いです。

あらすじに最愛ちゃん書き忘れました。すいません。あんま出番なかったなぁ…><

第二部はフレンダ学園都市脱出作戦と佐天と美琴に関して書いていこうと思ってます。
ではまた!
384 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/30(日) 02:40:34.86 ID:2cOqgEfPo
乙!
385 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/30(日) 04:28:07.08 ID:N8jPWNO3o
皆悲しいな・・・
386 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/30(日) 04:39:37.58 ID:sJAHidB80
>>1乙って訳よ!!

>(もっとあーゆー能力や特技を有効利用すれば良いのに…)

こういう表層だけ見て正論振りかざす感じとか、リアル中学生らしいウザさがあってゾクゾクした。
自分にとっての悪を、直情的に極悪だと決めつけて全力で憎むところとか堪んないね!


だけど美琴は女で、子供で、精神的に未熟で。
そんな中でも寸でのところで殺しは思いとどまれるレベル5なんだな…。
そして佐天は管理職っていう宙ぶらりんな場所で、指令という目に見えない力を平然と振りかざして人を[ピーーー]無能力者。

美琴さん、カッケェっす。

今佐天さんは、美琴の中の排除すべき闇の部分にいるんだな…
第二部期待してます!!!
387 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/30(日) 08:55:37.84 ID:f61Zqvcjo
>>386
管理職に謝れ
388 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/30(日) 10:22:03.59 ID:mbIuSezAO
>>386
全オレに謝れ
好きで胃潰瘍なんて作ってねーぞ
389 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/30(日) 12:09:15.35 ID:QwCXzMJHo
>>386
胃が痛くなり始めた俺に土下座しろ
390 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/30(日) 12:40:09.97 ID:KjT/SSO3o
もうやめて!とっくに>>386と管理職達のライフはゼロよ!
391 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/30(日) 13:17:36.08 ID:kEQrE8eDO
>>386
>こういう表層だけ見て正論振りかざす感じとか、リアル中学生らしいウザさがあってゾクゾクした。
>自分にとっての悪を、直情的に極悪だと決めつけて全力で憎むところとか堪んないね!

表層だけも何も一般人にしちゃただの人殺しクズなんだし「もっと有効活用しろ」とか普通の意見だろ
中学生らしいとかアホか
392 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/30(日) 13:24:46.23 ID:6ryJ9NIzo
>>386 の土下座まだー?
393 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/30(日) 14:55:54.06 ID:kw/6Ok78o
美琴なら仕方ないなー
くらいにしか思わん
394 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/30(日) 15:11:37.41 ID:YQV/m0Hto
>>386は社会の現状をネットでしか知らない引きこもりなんだからしょうがないよ
395 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/30(日) 15:40:41.38 ID:kEQrE8eDO
てかアニレーの時もいたけどそれぞれの立場になって考えるってことできない人多いな
396 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/30(日) 17:14:15.33 ID:vlOOQs2I0
>>386
正論振りかざして何とかって・・・お前、上条さんの事ディスってんのk(そげぶ
397 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/30(日) 19:06:14.12 ID:f+1oB6J3o
電話するだけで管理職になれるなら必死こいて大学なんて行きません
398 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/30(日) 20:06:49.91 ID:m70Gpz+bo
なんで>>386がこんなに叩かれてるんだ?
399 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/30(日) 20:22:49.64 ID:N8jPWNO3o
ごめん、というより物語上ある程度制限付けないと動かしにくいからってのもあるんだ・・・
まあシリアスやらなきゃいいだけのことなんだけどさww
400 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/30(日) 20:23:29.69 ID:N8jPWNO3o
誤爆した・・・ごめんなさい
401 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/30(日) 20:28:36.38 ID:JKKAJNtno
つか、上条さん記憶無いのになんで御坂の事わかるんだ?
インデックスいない設定か?
402 :投げんな匙 ◆t4xyS9bQ1M [sage]:2011/01/30(日) 22:38:25.85 ID:WUoUVnwX0
とりあえず平和にしましょ!と月並みな事しか言えなくてすいません。
こんなに俺の作品を読んでくれてる人がいて嬉しいです。

投下は一日、二日待ってくだせぇ…。展開が思い浮かばない…><


>>401さん
インデックスと知り合ってても上条、ビリビリって言ってなかったっけ?
403 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/30(日) 22:48:43.13 ID:N8jPWNO3o
いや、自販機前シーンって原作通りだとインデックスでの記憶破壊後に初めて美琴に会う場面だから、
実質初対面で美琴の事も誰だか分からなかったって事じゃないかな?
404 :作者 携帯から [sage]:2011/01/30(日) 23:02:35.66 ID:qAOnWMNDO
うわー!そうだった……。すっかり忘れてた…。

細かいことは気にしないでもらえると助かります………すいません><
読者の皆様、ここ最近ミスばかりで申し訳ありません!
以後鋭意頑張ります。

ではまた今度!
405 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/30(日) 23:17:14.39 ID:kw/6Ok78o
佐天さんとアイテムメインだからそれ以外はこまけryで流すぜ
406 :投げんな匙 ◆t4xyS9bQ1M [saga]:2011/02/03(木) 03:16:35.40 ID:oYpetpT80
更新停滞すいません…!

只今20kb位書き上げました。
50kbくらいかいたら投下しますんでもうちょっと待って下さい!
407 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/03(木) 08:57:08.27 ID:49DJSZfao
wktk
408 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/04(金) 19:30:07.12 ID:o9Fvsk4SO
>>401 そんな事言ったら浜面はまだ暗部落ちしていない
面白ければ何でも許される
409 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/02/05(土) 15:40:02.19 ID:yYI07h5E0
むぎのーん
410 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/05(土) 17:43:40.72 ID:o0C5LEnAO
パリイ!パリイ!パリイ!てかァ?
411 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/02/08(火) 11:02:03.67 ID:4/Yp8CWbo
はじめてJanestyleから。
更新遅れてすいません。
携帯で皆さまのレスを見て恐縮でした。
これからも見ていただければ嬉しいです。

少し投下します。



あらすじ
佐天の指示の元、アイテムは美琴とSプロセッサ社で戦火を交えた。
その頃、北京のゲットーで行われた華僑の掃討戦。

華僑の資料をあさっていた、砂皿緻密とステファニーはアイテムと書かれた冊子を見つける。
そこに記載されていたのはステファニーの実の妹、フレンダだった。

ステファニーは砂皿と協力して学園都市に向かうことを決心する。

412 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/02/08(火) 11:08:48.70 ID:4/Yp8CWbo
――八月下旬

相変わらず暑さが続く。


佐天は柵川中学の制服のポケットから鍵を取り出す。
最近、白井たちと一緒に行ったゲーセンで取ったUFOキャッチャーのゲコ太ストラップがついている鍵を取り出す。


「ただいまー」


ガチャガチャとドアを開け、ローファーを揃えずに脱ぎ、学校のバックをぽいっと投げる。
そしてベッドにぼふん、と倒れかかる。


学生寮に帰ると誰もいなくても、自然と「ただいま」と言ってしまう。
一人暮らしに慣れていない証拠だろうか。
そんな事をぼんやりと考えながら熱気でまいっている体を佐天は起き上がらせる。


(ジュースのも…)


喉を潤そうと考え、彼女が冷蔵庫に向かったと時だった。


ういーん…ういーん…


彼女の携帯電話が鳴る。
それはアイテムが任務を遂行して、麦野が佐天によこしてくる任務終了を告げるメールだった。




(いつもお疲れ様、皆)


内心に佐天はアイテムに対して謝意の気持ちをつぶやく。

413 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/02/08(火) 11:11:13.83 ID:4/Yp8CWbo
佐天が学校に登校したり、補習に参加したり、遊んでいる間にもアイテムは戦い続ける。
以前も言ったが、彼女たちはさまざまな理由で学校を欠席している。


学園都市と銘打っておきながらも学校に通うことのない生徒がいると言う矛盾。
彼女達はその矛盾の中に生きている存在なのだ。


(よっし…まず上に報告しなきゃね…)


冷蔵庫に行くことをあきらめ、ポチポチとタッチパネルを動かしていく佐天。
アイテムが任務終了の旨のメールをよこすと、佐天は未だ見たことのない治安維持機関に任務が終了したことの連絡をする。


(上…ってどんな人達なんだろう)


ポチポチとタッチパネルで、メールを作成しながら佐天は“上”の正体を考える。
メールの送り主の名前だと“学園都市治安維持機関”となっているが、果たしてそれが何なのかもわからない。


(上の指示…っていうのも果たしてどうなんでしょーねー…)


佐天は不意に自分が学園都市に良いように扱われているのではないかと考える事がある。
しかし、それも実際に銀行に振り込まれている金を見れば霧散してしまう。


彼女は“上”に報告するメールを作成すると、狭いベランダに出て干していた洗濯物をしまう。
しまうためにベランダに出ると、ベランダは日差しに照らされていてかなり熱かった。


学生寮から見える立川の市街地は夕日に照らされて真っ赤になっている。
とても綺麗に見えたし、逆に真っ赤に燃えている不気味なオブジェ群にも見えた。
414 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/02/08(火) 11:13:34.54 ID:4/Yp8CWbo
――数日後、学園都市、柵川中学校学生寮

「初春〜宿題わかんない〜」


佐天はそういうと机に置いてあるコップに注いだお茶をくいっと飲み干す。
夏休みの宿題をためにためた佐天は親友の初春に宿題を手伝ってもらっているのだ。


「佐天さんー…頑張りましょうよ!もう少しで学校始まっちゃいますよ!」


「えー!初春、答え分かるんでしょ?だったら教えてよ!ねっ!?」


手を合わせて「頼む!」とまるで武士の様にお願いする佐天に初春はついつい答えを言いたい衝動に駆られる。
が、ここは我慢。情けは人の為にならずだ。


「だぁめです!ちゃんと自分で考えましょうよ!佐天さん!」


「ふぁーい」


シャープペンを鼻と唇の間に挟んで腕をだるそうに後頭部に持って行くと佐天は最近買った大きいソファに寄っかかった。
初春の喝に応えつつも宿題は全く手につかない。


(最近…仕事入ってこないなぁ…)


宿題の山から目をそむけ、佐天は天井を見上げながらおもむろに考える。

ここ最近は仕事の案件が著しく少なくなっているようで、麦野からも「今日は仕事ないの?」と連絡が来る位だった。
彼女が治安維持機関に連絡した所、何でも学園都市で名をあげて目立ちたいヤツがいるとか。

415 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/02/08(火) 11:18:59.45 ID:4/Yp8CWbo
治安維持機関もその縄張り争いに必死らしい。
しかし、上位下達の最も下、つまり最前線で働くアイテムの面々や佐天には知るよしもない話しだ。


(なんだっけ…確か…スクールだったけ?そこのリーダーが交渉権がなんだかんだ…)


佐天は結局は自分たちには関係の無い話だな、と思う反面、麦野をアイテムのご意見番として、「金がない」といってくるアイテムのクレームにも対応しなければならない。
なのでここ最近無駄にアイテムとの電話が多くなっている。

最初は麦野から、掛ってくる電話の対応にうんざりさせられたが、彼女たちと話せば案外面白く、ついつい長電話になってしまうこともあった。


しかし、アイテムと佐天の関係は仕事を受注して、通達する係とそれを実行する部隊の関係でしかない。
やはり最終的にはじゅんぐりまわってお金の話になってしまうのだった。


(スクール…なんなんだろう?学校って意味だよね…ってか仲良くやりましょうよー…同じ治安維持機関の端くれじゃないの?)


スクール…おそらく同じ暗部の組織で学園都市の治安を維持している部隊なのだろう。
学園都市を守る…目的は同じなのにもかかわらず…。
何無駄な事してんのよ、と佐天は他人事のように考える。


醜い縄張り争いは最前線で戦うアイテムにとっては想像すら出来ない事だろう。
しかし、そうした争いの弊害を直接的に被るのは縄張り争いをしている上ではなく、やはり最前線で身を粉にして戦う人たちなのだ。


佐天は戦いをしないこそすれ、アイテムに連絡を行う役目を受け持っている。
彼女はスクールという組織に漠然と仕事を取られ、なんだよ、全く…と思いつつも平和が一番!と考え、再び机に溜まりに溜まった宿題と取っ組み合うのであった。

とここで初春が何かを思い出したように「あっ!」とつぶやく。
佐天が「なに?」と言うよりも早く初春は弁を続けた。


「そう言えば、佐天さん。昨日風紀委員の詰め所に御坂さんが遊びに来たんですけどね?」


「御坂さんが?」


初春は「はい」とにっこりわらいながら答える。
佐天はあのSプロセッサ社の戦いの後に数回美琴にあっているが、特に何もなく話す事が出来た。
416 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/02/08(火) 11:20:32.59 ID:4/Yp8CWbo
(私も…よくアイテムと戦った御坂さんと普通に話せたよなぁ…)


佐天は我ながら自分のクソ度胸と二面性に感心した。
二面性というかなんというか、精神が分裂してしまったのではないか?と思うくらいだったが、案外に普通に話せるものだ。


「で、御坂さんがなんだって?」佐天は初春に興味深そうな話を聞くように首をかしげる素振りをする。
なんでも初春いわ「“今度新しく見つけた喫茶店があるから四人で行こう”って言ってましたよ?パフェが美味しいらしんですよ」だとか。


佐天は両の手を会わせて期待に胸ふくらます初春を見つつ「へぇ〜」とため息を吐く。
初春は「その為にも!」と語気を強くして喋り続ける。


「放課後残らない必要がありますねよね?佐天さん?宿題はしっかりやりましょう!」


初春はそう言うと人差し指をズイ!っと佐天に向ける。
彼女は「ひー!」と悲鳴をあげる。
417 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/02/08(火) 11:22:09.04 ID:4/Yp8CWbo
いつからだろうか?


“みんな”と言う言葉に抵抗を覚え始めたのは。
多分、あのSプロセッサ社の戦いの前後からだろう。


初春がいう“みんな”には白井と美琴が含まれている。
佐天は美琴に会うのが気まずかった。
勝手に気まずいと思っているのは佐天だけだが、どうしても美琴に会うとあの戦いの時に一人で学生寮に籠もっていたことを思い出すのだ。


友人を失うかもしれない。そう思ったあの日の夜。


意を決してこんな仕事辞めてやろうか、と思ったが、結局辞めれなかった。
それは友人を失うというリスクと自分が人に言うことが出来ない仕事をしているという環境に居続ける事を秤にかけて、出した彼女の答えだった。


学園都市の最奥を知れる存在だとか、友人達の様に何か秘密を持って行動している事が最初はうらやましいと思った。
反面、今ではそんなものクソ喰らえだ、と思っている自分も居る。


いざ、電話をする仕事を辞めようと思っても、佐天は躊躇してしまうのだった。
それはやはり彼女が抱えている劣等感や周囲の能力者の会話を思い出すたびに思うことだった。


(やっぱり…辞められないよ!ただの無能力者は嫌だよ…!)


“周囲の能力者”と言うのが佐天が気を許せる友人なのだ…。
佐天は普段一緒に居る四人でする会話を思い出すたびに劣等感を感じずには居られないのだった。
しかし、彼女がこうしたどす黒い感情に包まれるのは日常生活の中のほんの少しだった。
418 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/02/08(火) 11:24:16.59 ID:4/Yp8CWbo
(我ながらグダグダ…情けない…)


そう思いつつも佐天は電話の仕事を辞められなかった。
結局は自分の今置かれている環境でそれなりのお金を得、良い暮らしをしている。
美琴との事もあの戦いの時の事を意識しなければいつもどうりやっていける、彼女がそう考えたからだった。


(何事も、時間が忘れさせてくれる)


彼女はそう思った。


彼女が実際に電話の女として得た報酬でゲーム機や私服もちょっと買ったりしている。
ガラにも無く親に仕送りをしている。


内訳としては一月で使い切れず、余ったお金を学園都市外の両親の宅に送金している事にしてるのだが、当の両親は気付くこともないだろう。
初春には親に送金している事だけを言うと「へぇ!私なんて余ったお金パソコンとか観賞植物買っちゃいますよ!」と驚いていた。


親に仕送りをすること。
それは親孝行かもしれないが、佐天はこれを一つの免罪符としていた。


ここ最近は少なくなったとは言え、仕事がなくなった訳ではない。
ひとたび仕事が始まれば誰かが傷つき、もしかしたら死ぬかもしれない。


彼女が上から受注したオーダーをアイテムに伝える事で死人が出る。
佐天はその直接の犯人でこそないが、彼女の命令が無ければ存命できたハズの人物も少なからず居た事だろう。


誰かの父であり、誰かの母であり、子であり…、そうした人たちの命を絡め取る仕事は決して気持ちのいいものではない。
しかし、人は“慣れ”という恐ろしい機能を持っている。
419 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/02/08(火) 11:25:01.15 ID:4/Yp8CWbo
初めてアイテムの報告で死人が出た時、佐天は自分の命令によって人を殺したことに苛(さいな)まれた。
しかし、いまではただの報告書に載る数字の羅列同然と化してしまった。
彼女にとっては命の重みは等しい訳ではないのだった。


そんな環境に慣れてしまった彼女であったが、死んでしまった人たちに謝罪の意志も込めて、金の一部を親に送金している。
それは佐天が自分なりに考えた謝罪の気持ちの表れなのかもしれない。

しかし、謝罪といっても暗部の戦いで亡くなった人の遺族に送金するのが妥当であるが、彼女にそこまでする勇気は無かった。


恐かったのだ。
遺族から何かしら言われることが。


しかし、一番彼女が恐れていたこと…。
それは…いつか治安維持機関から自分に仕事が宛がわれなくなり、いつもの何もない、無能力者としての生活に戻ることだったのだ。


友人は居る。交友関係にも表面上は何も起きていない。

ただ、彼女は今の環境が変わることに恐れていた。

………。

考え事をしつつ彼女はうとうとと寝てしまっていた。




「佐天さん〜?すいませんー!起きて下さいー!」


「はっ!ごめん、初春!」


「いきなり謝ってどうしたんですか?嫌な夢でも?」


初春はその優しい表情を佐天に向ける。
どっぷりと嫌な事を考えていた佐天は「いや、ごめんなんもない」と言って初春を見る。
彼女の屈託のない笑顔が佐天にとってはやけにまぶしくかった。


初春の掛け声で不意に佐天は我に帰ると、学習机にある小さい時計をちらと見る。
最終下校時刻まであと少しだった。


「ごめん、考え事して寝ちゃってたわ」


「宿題から逃避するんじゃなくて、しっかり取り組みましょうね。じゃ、最終下校時刻が近くづいてるんでもう帰りますね?」


そういうと初春は玄関に向かう。
彼女はローファーをひょいと履き、佐天の家を出る。

佐天はひょこひょこ歩いて行く彼女に手を振る。


「まったねぇ〜!初春ぅ〜!」


「そんなおっきぃ声出さないでださぃ〜!!恥ずかしいですよ〜!」


佐天は真っ赤な夕焼けの光に初春がまるで溶けて見えなくなるまで手を振り続けた。
420 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/02/08(火) 11:25:47.35 ID:4/Yp8CWbo
また後で投下します。
421 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/08(火) 12:29:20.74 ID:ofa5QVfQo
色々思考のドツボにハマりつつあるな佐天さん・・・
422 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/08(火) 12:39:41.00 ID:3EpVTLu0o
おつおつ
あっちでは初春がスクールに
こっちでは佐天さんがアイテムに

悩める佐天さんには俺の嫁という職業を与えよう
423 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/08(火) 12:53:30.63 ID:f/Cbd3wAO
>>422 佐天さんは俺の嫁だからあなたは初春で我慢してください
424 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/08(火) 14:29:30.08 ID:AwulkAcao
初春は俺の嫁だって言ってんだろ

青ピやるから向こう行ってろ
425 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/02/08(火) 23:11:59.48 ID:4/Yp8CWbo
こんばんわ
Janestyleすごいな、これ。
投下のプレビューが見れるなんて。

相変わらず、拙稿を読んでくれる方々がいて、恐縮の極みです。
レスを見てにやにやしてます。
さて、少し投下します。



あらすじ
佐天は電話の女としての仕事に罪悪感を感じていた。
何故なら自分の命令で人の命が奪われているから。

その罪悪感を払拭したいと思い、彼女は親に仕送りをしていた…。
そんな事までしつつも彼女は電話の女を辞めようとは思わなかった。

結局は何も出来ない無能力者ですごす事がなにより嫌だった佐天。
彼女はかつてアイテムと戦火を交えた美琴にも自分の事をひた隠しにして交友関係を続ける。
426 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/02/08(火) 23:15:36.64 ID:4/Yp8CWbo
――とある雑木林(初春と佐天が宿題をして数日後)


「はい、今日の任務終了って訳よ」
(あっついわねー…猛暑ね…)


フレンダは学園都市の雑木林で暗部の任務を終えた事を麦野に携帯電話越しに伝え、リラックスする。
拳銃、シグザウエルP.228を腰のガン・ホルスターに収納しながらつぶやく。


彼女の足下にふと視線を転じてみると、ぼてりと男性が寝そべっている。
どうやら彼はフレンダに麻酔弾で眠らせられた様だ。


『はい、お疲れ、今浜面そっちにむかってるからぁ。電話の女に連絡しとくねー』


アイテムのリーダー麦野の声が受話器越しに、フレンダの耳朶を打つ。
彼女は「了解」と麦野に任務の終了報告を済まし、雑木林の木陰に身を寄せる。


木と木の合間から差し込む夏の光はまるでフレンダを焼き殺そうとしているかの様。
そんな、さながら殺人光線に耐えかねて、彼女は休息を取ろうと考えたのだった。


(ったく夏はやだねぇ…ってか夏に外に出るのがヤダ。暑すぎ)


任務の内容と言うよりも、任務を遂行する環境―即ち天候―がフレンダの集中力を根こそぎ奪っていった。
今回の任務も無事に終了したとはいえ、やはり極端な暑さは集中力が鈍るということもあり、彼女にとってかなりネックなのだそうだ。


地理的に言えば、学園都市は日本国の東京都西部の盆地に位置している。
盆地は熱気が滞留し、うだる様な暑さが形成されるのだ。


フレンダは服の胸元のあたりをパタパタとさせながら熱気から逃れようとするが、余計に汗が滴り落ちてくるので辞めた。
そしてぼんやりとここ最近の生活を思い返してみる。
427 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/02/08(火) 23:22:57.99 ID:4/Yp8CWbo
そんなフレンダの思索にふと浮かんでくるのは、滝壺理后だった。


(最近、夜、滝壺とばっかいるなぁ…)


超電磁砲との激闘を繰り広げ、約一週間ほど。

それ以後、フレンダは仕事が終わったり、仕事が無い日もなにかとアイテムの共同アジトに身を寄せていた。
何故なら、同じアイテムの構成員、滝壺がそこにいるから。


彼女は別に百合だとか、レズビアンだとか、そういう気質があるわけではない。
超電磁砲と戦い戦線離脱して滝壺とともにアジトに帰った時だ。


(あん時に不意に感じたのよねぇ…お姉ちゃんっぽいんなぁって…)


フレンダは共同アジトのベッドで不意に滝壺に姉のぬくもりを感じた。
雰囲気も性格も全く違う滝壺と彼女の姉。


しかし、暖かくフレンダを包み込む様なぬくもりが二人にはあった。
その夜以降、フレンダはアイテムのみんなには秘密でいつも滝壺に甘えていた。


(今日も滝壺暇だったら甘えちゃおうかなぁ…)


イタズラとかそんな気は彼女には全くなかった。
ただ、純粋に甘えたい、フレンダは姉であるステファニーの姿を滝壺に見いだしていた。


滝壺も滝壺で甘えてくるフレンダをとがめることも否定をする事もせず、ただ「いいよ」と彼女の要望に付き合っている。
滝壺の純粋な優しさにフレンダも安心して身を預けていたのだった。


(我ながら…バカよねぇ…今更ながらお姉ちゃんのぬくもりだなんだって…そりゃ、会いたいけどさぁ…)


実際どこにいるかもわからないし、と悲観的な思考に陥るフレンダ。
いつまでも滝壺に甘えてちゃダメだ、とフレンダは自分に喝を入れる。
428 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/02/08(火) 23:30:27.55 ID:4/Yp8CWbo
フレンダはとにかくここ最近よく姉の事を考えていた。

その度に断片的に思い出す、カナダに居たときの記憶。


フレーザー河でのアトランティックサーモン・フィッシングや冬に姉と一緒に行ったゲレンデ。
姉はスノーボードが得意だったな、とフレンダは思い出す。


そして姉の姿に憧れて始めたスノーボード。
学園都市に来てからは暗部の仕事でめっきりいけなくなってしまったゲレンデ。


「はぁ」とフレンダはため息をはきつつ、姉との懐かしい思い出を思い出す。

優しく包み込む様な母性本能とでも言おうか、滝壺のぬくもりから姉と暮らしていた時の記憶をよみがえらせる。
性格、容姿、年齢、ありとらゆる事が違うにも関わらず、ステファニーと滝壺が被ってみえる。


(滝壺に甘えれば甘えるほど…結局、本当のお姉ちゃんに会いたいって思う訳よ…)


すこし感傷的な気分に浸り、ちょっとだけ浮かない表情を作り上げる。
そのとき、フレンダの耳に不意に車のクラクション音が届く。
浜面の運転するシボレー・アストロが到着を告げる音だった。


(お、浜面きたきた!)


フレンダはクラクションを聞くと、浮かない表情を打ち消し、強引にいつもの笑顔をにんまりと作る。
そして彼女は「浜面遅いっ!」と言い、浜面の運転する車に乗り込んだ。


「あぁ、わりぃ。道が混んでてよ」


「結局私をあっつい中待たせて…!」


浜面はぺこぺことフレンダに頭を下げつつも車を走らせる。
二人は麦野達がいるであろうファミレスに直行していった。
429 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/02/08(火) 23:32:27.84 ID:4/Yp8CWbo
――多摩センター近辺(フレンダが任務を行っている時)

佐天は学園都市のとあるホールに向かっていた。
なんでも今日は講演会に呼ばれたとか。


(やっばい!間に合わないかも!)


このクソ暑い中、多摩センター駅から降りるやいなや全力で彼女はホールまで突っ切っていく。
目的地のホールは既に視野に入れているのだがいかんせんとおい。しかも軽く傾斜ががっている。


(なんなのよ!合同会議って!)


内心に愚痴りつつ、彼女は数分走る。
そして汗びっしょり。


柵川中学の制服の中に入っているタオルを取るとおでこにぷつぷつと浮かび上がっている汗をぐいっと拭き取る。
そして電話をして得た収入で買ったハミルトン・カーキ・シークイーンの腕時計を見る。


(ぎりぎりね…!ホールはあっちか!)


彼女は講演会が開催されるホールの位置を館内に設置されているマップで確認すると、一気に走っていく。

佐天がドアをあけると、壇上に講演会の進行の人物とおぼしき金髪の女性が上がっていく最中だった。
彼女が回りをキョロキョロを見回すと誰もいない。


中規模のホールで百人ほどは入るであろうこのホールに何故誰もいないのだろうか。
疑問に思いつつも彼女は周りを見回すが誰もいない。
どうしよう、そう不意に思った時、壇上の女性から声が掛かった。


『最後ね、そこの列の席に座って下さい』
430 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/02/08(火) 23:37:10.52 ID:4/Yp8CWbo
佐天は壇上から不意に掛かった声に大声で答える愚行を演じることだけはなんとか避ける事に成功する。
無言で何度かうんうん頷くと彼女は司会の女性とおぼしき人物の言われるがままに座席に座った。


佐天はなんとか講演が始まるぎりぎり前に着席する事が出来たようだった。


『本日は皆様お集まり頂き有り難うございます。テレスティーナです』


佐天は自分の周りと壇上をきょろきょろと見回す。
女の発言が正しいなら、自分以外に誰かいても良いはずだ。
テレスティーナとかいう女と二人きりな訳がない。


佐天の疑問がテレスティーナに伝わったのだろうか。
このテレスティーナはホールの奇妙な状況を解説する。


『実は光学プロジェクターであなた方と私以外の姿が見えないように細工しております。どうかご了承下さい』


金髪の女は壇上で恭しく頭をぺこりと下げる。
ぎりぎりでホールに来た身分の佐天だったが、余りに丁寧なその動作になんとなしに嫌な感覚を覚える。


定型句の様な挨拶を述べると話しの本題に移行していく。
内容は学園都市の治安維持についてだった。


(治安維持機関の連絡で来てみれば、何か難しい話しだなぁ…初春のスカートめくりでもしてれば良かった)


電話をかける仕事を始めて三週間ほどたった今。
佐天は徐々に仕事の要領を心得ていた。


佐天は壇上に居る女の話にはあまり興味が湧かず、ただぺらぺらと話している女をぼんやりと見つめていた。
イヤに空調が効いたホールで彼女はいやいやながら、肘掛けに肘を当てて、自分の顔を支えながら退屈そうにテレスティーナの話しを聞く。
431 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/02/08(火) 23:43:22.16 ID:4/Yp8CWbo
『学園都市の治安はやはり警備員と風紀委員だけでは守りきれません』


『公式では学園都市は警備員と風紀委員で秩序を保っていますが、実際にそれだけでは治安維持や防諜面で多分に不備が生じてしまいます』


佐天は面倒くさそうにしながらも、テレスティーナの話しを聞きながら「そうなのよねぇ」と内心につぶやく。


それは彼女がここ最近アイテムに連絡をする様になってから気づいたことだった。
結局は教師と生徒だけで学園都市を守ろうなんて考えが絵空事なのだ。


現に佐天の電話一つで学園都市の機密を盗みだそうとするスパイを捕獲したり、殺害したこともあった。
土台、教師と生徒で多摩丘陵と多摩の盆地を守ろうとするのがおかしい。


『今回お集まり頂いた皆様のお陰で学園都市の治安は守られています』


お集まり頂いた方々…やはり佐天と同じように暗部の組織に連絡をしている同業の人達のことだろうか。
彼女は光学プロジェクターで見えないこそすれ、自分の周りにも同じ仕事をしている人達がいるんだ、と考える。


そして自分の行っている事はやっぱり正しいことなの?と佐天は自分に問い質した。


佐天はホールに同じく出席しているであろう連絡要員達に取りたてて、親近感は沸かなかったが、自分と同じ事をしてる人達がいるんだと考え少し安心した。
それは人殺しをしているのは自分だけではない、という安心感かもしれないし、正義の為に、学園都市の為に働いているんだ、といった安心感なのかもしうれない。


佐天はその安心感を特に分析しようとはせず、テレスティーナの話を引き続き、めんどくさいながらも聞くことにした。


『私もMARと言った警備員の一部所を任されていますが、やはり産業スパイや技術漏洩を完全に阻止する事は難しい』


女は心底悔しそうに表情をゆがめ、下を向くと、首を横に数回振る。
佐天は「MARって何?」と首をかしげるとその疑問を見計らっていたのか、彼女が「MARとは…」と話しを始めた。


テレスティーナによれば、なんでもMARと言うのはMulti Active Rescueの略称で邦訳が“先進状況救助隊”とかいう警備員下の一組織だ。
432 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/02/08(火) 23:44:05.53 ID:4/Yp8CWbo
(何だそれ?初めて聞くわね)


佐天は初めて聞く組織名だな、と内心一人ごちる。
が、彼女は私の知らない組織が一つあっても不思議じゃないな、と自己解釈し、疑義は挟まない事にした。


『今後も学園都市の技術を狙う輩は増えると思われます…』


佐天はテレスティーナの話しを聞くのにうっとうしさを感じつつもやることが無いので聞く。
自分に興味の無い話程聞かされてうざったいものはないが、我慢だ!と内心に叱咤激励すると同時に早く終われ、と祈った。


『今後は学園都市から不正に脱出する人物には厳罰を適用し、学園都市の防諜や治安維持によりいっそう注力し…』


テレスティーナの講演が続いていく。
対照的に佐天の意識はゆっくり遠のいていく…。


睡魔だった。
433 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/02/08(火) 23:46:36.35 ID:4/Yp8CWbo
――同日、学園都市のレストラン「ジョセフ」

麦野、滝壺、絹旗の三人は既に店内の窓側座席に鎮座していた。
しかもなぜかイライラしている。伝票はドリンクバーが三人分。


卓におかれたグラスは一つもない。


「あー!完全にミスった。人選ミスよ!」


「超どうしたんですか、麦野」


絹旗が映画の雑誌の特集から目を離し、雑誌からちらと顔をのぞかせて麦野に質問する。
麦野は絹旗の質問に「ドリンク係がいない」と言い切ると卓に指を当ててトントンとリズムとる。よほどイライラしているようだ。


「あぁ、超そういう事ですか。なら自分が取りに行きますよ」


「あら?ホント?助かるわね。じゃ、私メロンソーダ」


絹旗はしぶしぶながらドリンク係を買って出た。
何も浜面に義理立てするつもりは毛頭ない。ただ、いらいらしている麦野がちょこちょこと視界に入り、雑誌を読むのに集中できないからだ。
そこで絹旗はさっさと麦野達にドリンクを渡して、早い話が黙らせちまおうと考えたのだ。


「滝壺さんは何がいいんですか?」


「うーん…私はコーラかな…ありがとう、絹旗」


ぼんやりと天井で回転しているプロペラの様なものを見つめながら滝壺は鷹揚に絹旗の質問に答える。
絹旗は「わかりました」と答えると座席に座るなり脱ぎすてたナイキのターミネーターを再び履きなおす。
434 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/02/08(火) 23:49:51.06 ID:4/Yp8CWbo
そして絹旗はかかとを踏んだままぎこちない足取りでドリンクバーに向かっていった。

浜面とフレンダが来たのはドリンクバーに絹旗が向かい、戻ってきた時だった。
いやぁ、遅れてごめん!と元気よくフレンダがいつも通り、元気いっぱい!という風な素振りで手を合わせて軽い調子で謝る。
浜面も「わりわり道が混んでてよ」、と頭をかきながら窓側座席に腰を落ち着けようとするが…まだ座れない様だった。


「浜面、やっと来たのね…全く…絹旗があんたがこない間にドリンク係を買って出てくれたんだから」


「そうなのか?絹旗、ありがとな」


ちゃんちゃらおかしい会話だが異論をはさむ人はアイテム内には誰も居なかった。
永久指定ドリンクバー係の浜面は既にその負け犬根性もたっぷりしみついたのか、ドリンクバー係を辞すことをあきらめているようだ。

まるで座る素振りを含めて冗談だったといわんばかりに浜面は立ち上がる。
すると彼は「何が良い?」とアイテムのメンバーに聞きはじめた。
各々のドリンク注文を受けてさながら一人私服のアイテム専属店員の様に浜面はドリンクバーと窓側座席を行き来した。


アイテムのメンバーの喉が潤い、ご飯も食べ終わり、いつものぼーっとする時間がやってくる。
この時にやっと浜面はお昼ご飯にありつけるのだ。


「いやぁ…冷えたハンバーグもうめぇなぁ…」


「憐れって訳よ…浜面」


フレンダが浜面の肩をポンポンと叩く。
今日の仕事で迎えに来てもらったねぎらいのつもりだろうか、とにかくフレンダは浜面を励ましてやった。
浜面は「ありがとな、フレンダ」と言いながらハンバーグにかぶりつく。
麦野が不意に言葉を発したのはこの時だった。





「ねぇ、電話の女って誰なんだろうね…」
435 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/02/08(火) 23:55:10.52 ID:4/Yp8CWbo
――立川駅前

佐天はテレスティーナとかいう人の講演会を聞き、空腹でぐぅとなるお腹を押さえながらモノレールを下りた。
彼女は初春とランチを食べる約束をしていたので約束のレストランに向かっていった。


(何だったんだろう。今日の講演会…なんかお前らは表には出ないけど、頑張れ的な?)


テレスティーナの言ったことを噛み砕きまくり佐天テイストに解釈した結果たどり着いた答えがコレ。
途中ウトウトしてしまった事もあり、何を話したかは断片的にしか記憶していない。


(確か…学園都市から不法に出ようとしている人たちには厳重に対処しろとか…)


なんか物騒だなぁ、と他人事のように佐天は考える。


彼女はここ最近初春とよく遊んでいた。
「風紀委員の夏季公募に遅れちゃいますよ!」と初春は悲鳴に近い叫びをあげつつも彼女は手際よく夏季公募の課題や宿題をこなしているそうだ。


宿題をスラスラと解く彼女を想像し、やっぱ初春は頭いいなぁ、などと考えながら佐天は立川駅前のオブジェで彼女を待った。
すると少したってから柵川中学の制服姿で初春が佐天の前にやってきた。


「す、すいません!風紀委員の警邏活動中に熱中症者が出て、付き添いで病院に向かっていました…!」


初春はそういうと「すいません、佐天さん」と申し訳なさそうに頭を下げる。
佐天は「いいよ私も今来たんだし」と言うと彼女はほっと肩をなでおろした。


「いやぁ、最近暇で暇で…と言う訳で初春!そこのレストラン行こうよ」


「ジョセフですか?いいですよー」


二人は駅からちょっとだけ歩いたレストランに向かっていく。
436 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/02/08(火) 23:57:21.57 ID:4/Yp8CWbo
ジョギング行くわ。
今日はここまで。

なるべく私用が立て込んでてるから、投下間隔が開いたらごめん!
そうなりそうなときはちゃんと報告します!

では、また!
437 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/09(水) 00:16:28.17 ID:oAekBF+Jo
おつおつ
これは…次回まさか…!?
438 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/09(水) 00:21:03.08 ID:8/URS7UIo
              l三`ー 、_;:;:;:;:;:;:j;:;:;:;:;:;:_;:;:;_;:-三三三三三l
               l三  r=ミ''‐--‐';二,_ ̄    ,三三三彡彡l_   この感じ・・・!
              lミ′   ̄    ー-'"    '=ミニ彡彡/‐、ヽ
                  l;l  ,_-‐ 、    __,,.. - 、       彡彡彳、.//  アイテムと遭遇・・・!
_______∧,、_‖ `之ヽ、, i l´ _,ィ辷ァ-、、   彡彡'r ノ/_ ______
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄'`'` ̄ 1     ̄フ/l l::. ヽこ~ ̄     彡彳~´/  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
                 ヽ   ´ :l .l:::.         彡ィ-‐'′
                ゝ、  / :.  :r-、        彡′
              / ィ:ヘ  `ヽ:__,ィ='´        彡;ヽ、
          _,,..-‐'7 /:::::::ヽ   _: :_    ヽ      ィ´.}::ヽ ヽ、
      _,-‐'´    {  ヽ:::::::::ヘ `'ー===ー-- '   /ノ /::::::ヘ, ヽー、
439 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/09(水) 01:35:12.31 ID:agzG5azyo

                          刀、           , ヘ
                  /´ ̄`ヽ /: : : \_____/: : : : ヽ、
              ,. -‐┴─‐- <^ヽ、: : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : }
               /: : : : : : : : : : : : : :`.ヽl____: : : : : : : : : : : : : : : : : : /
     ,. -──「`: : : : : : : : : :ヽ: : : : : : : : :\ `ヽ ̄ ̄ ̄ フ: : : : :/
    /: :.,.-ァ: : : |: : : : : : : : :    :\: : : : :: : : :ヽ  \   /: : : :/
    ̄ ̄/: : : : ヽ: : : . . . . . . . . . . .、 \=--: : : :.i  / /: : : : :/
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.    /: : /  . : : :! ヽ: : l\_\/: : : : :\: ヽ彡: : |  /: : : : :/            |\
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      |: : :ト、: |: :ヽ ___,彡     ´ ̄´   ヽl-‐'     \: : : : : : : : : : : : : : : : : : イ
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      V  ヽ|    }///  r‐'⌒ヽ  イ〉、
              ヽ、______ー‐‐' ィ´ /:/:7rt‐---、       こ、これは>>1乙じゃなくて
                  ィ幵ノ ./:/:./:.! !: : : : :!`ヽ     ポニーテールなんだから
              r‐'T¨「 |: | !:.∨:/:./: :| |: : : : .l: : : :\   変な勘違いしないでよね!
               /: : .|: :| !:.!ィ¨¨ヾ、:.:/ !: : : : l: : : : : :.\
440 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/09(水) 01:37:51.10 ID:OBY/2Gmb0
 乙です。
二つの存在が至近距離をすれ違うフラグ!?
441 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/02/09(水) 03:30:04.40 ID:ofO3IuS6o
寝れないので投下。
今回は以前総合に投下した作品に近い雰囲気になっています。


なので焼きなおし感が感じられますが、どうかご了承ください。
では投下


あらすじ
アイテムはフレンダの任務が終わり、ちょうどファミレスでお昼ご飯。
その頃、学園都市の暗部の連絡要員を集めたテレスティーナ主催の会合に参加した後
初春とランチをする約束をしていた佐天は待ち合わせをした後、ファミレスにはいっていく。
442 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/02/09(水) 03:31:45.89 ID:ofO3IuS6o
レストランのドアを開けるとカランカランと入店を知らせる音が聞こえる。
佐天と初春はウェイティングのかかっている状況の店内を一瞥する。


ワイワイガヤガヤという擬音がまさに当てはまる情景だった。
ランチの時間帯、しかも駅前、そんでもって夏休み。


来店してください、と言わんばかりの立地にあるファミレスはこの日、案の上、大盛況だった。
そしてそのファミレスに佐天と初春はやってきた。


「うげー…込んでるね…どうする?他にする?」


「他って言っても…この時間帯はどこも同じだと思いますよ?」


「確かに…」


お昼時のこの時間帯は夏休みと言うことで主に学校が休みで遊ぶ学生でごった返していた。
佐天と初春はレジ前に置かれている台座に置かれている記帳ノートに名前を書き、店員に呼ばれるまで待つ事にした。


待ってる間に二人は他愛のない雑談をするのだが、初春の質問が佐天をびくりと震わせた。


「佐天さんは今日午前中にどこに行ってたんですか?」


「あ、えーっとね…あはは…えーっと多摩センターだよ、多摩セン!」
(言えない!絶対初春には言えない!)


午前中に学園都市の治安維持機関主催で連絡要員向けの会合があり、それに参加していたなんて口が裂けても言えなかった。
しかも、その会合で司会を務めていたテレスティーナとか言う白人女性は警備員の一部門の指揮官だった。
その名を出せば初春に、自身が何か、警備員や風紀委員といった組織に関与しているのではないか、と思わせてしまうかもしれないと考え佐天はその場を濁そうとした。
443 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/02/09(水) 03:32:37.28 ID:ofO3IuS6o
「そうですか、佐天さん…その言いにくいんですけど…」


初春も何やら言いにくそうに頭の中で何を言おうか考えながら言葉を選んでいるといった素振りをしている。
その様子を見て、佐天は「どした?」といつもの元気な表情で下を向いている初春を覗き込む。


(何よ?初春?まさか、今日のホールに入っていく所…見てました…とかそんなオチじゃないでしょーね!?)


一瞬最悪なシチュエーションを想像し、ぞっとするが、彼女の懸念は外れた。
何故なら「やっぱり幻想御手に関していろいろあったんですか?」と心配げに聞いてきたから。


佐天は初春の問いを「違うよ〜」と笑って否定して見せる。
「補習は終わったんだけどね…ちょっと知り合いがさ…」と言ったは良いものの、先が思いうかばない。


初春の質問に窮し、彼女は気まずそうに「あはは…」とひきつった笑顔を浮かべる。
佐天の言動に初春は首をかしげるがあまり気にしていない様子だった。
というのも、彼女たちの前にいる学生の客が開いた座席に通され、次に自分たちが呼ばれる番だったからだ。


「ではご案内します。佐天様ー」


ファミレスの店員に名前を呼ばれ二人はレジ前の椅子から立ち上がり、店員の案内の元、指定された座席に向かう。
がその時、佐天の視野にはとんでもない光景が映った。


なんと目の前にいるのはアイテムだった…。
444 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/02/09(水) 03:33:57.64 ID:ofO3IuS6o
(ちょっと…何でここにアイテムが?ってかあれってアイテムよね?)


「こちらでよろしいでしょうか?」


店員がにこり、と営業スマイルを浮かび上がらせる。
初春は「はい、ありがとうございます」と気品が求められる風紀委員に恥じない素振りで店員に礼をする。


初春のそんな丁寧な対応とは対照的に、佐天はドキドキする鼓動を落ち着かせて初春に気付かれないように、静かに深呼吸する。
その間に「どうしたんですか?佐天さん」と質問する初春に「大丈夫」と小さくか細い声で佐天は言い放つとアイテムの隣の座席に座った。


(うわぁ…生で見るアイテムだ…)


今まで写真でしかみたことのないアイテムが今、座席を隔てて佐天の隣にいるのだ。
ほんもののアイテムが彼女の目の前にいた。


佐天と初春は座席に座る。
初春がアイテムが見える位置に、佐天はちょうど背中を向ける具合に座った。
と言っても、初春はアイテムという組織の事なんかしらないだろうが。


佐天はアイテムが何を話すか気になってどれどれ、とちょっとだけ耳をそばだててみた。
するととんでもない内容の話をしてるではないか。


「ねぇ、電話の女って誰なんだろうね…」


確かに聞こえた。
麦野と思しき声が佐天の耳元に到達し彼女の耳朶を打つ。
瞬間、佐天の血が沸騰するかのように体が熱くなる。
自分の隠していた何かがはがれてしまった様な感覚を彼女は覚える。


お昼御飯を食べるとかそういうレベルではない。
佐天は一気に緊張し、はやくなる自分の心臓の鼓動を落ち着かせようとする。
445 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/02/09(水) 03:34:36.43 ID:ofO3IuS6o
麦野自身もふと思いついて言いだしただけだった。
しかし、一度話し始めると皆、話に乗ってきた。なので麦野はこのまま電話の女の話を続ける事にした。


「電話の女の正体ねぇ…確かに、気になる訳よ…」


「うーん…機械音声じゃないしね」


フレンダと滝壺が一様に首をひねる。
確かにいつも自分たちに指示ばっかりだしている電話の女が一体誰なのか、それはアイテムのだれしもが思う事だった。


ここ最近まで人材派遣とかいう男がアイテムに指令を送っていたものの、夏休みに入ってから人材派遣にとってかわられた。
それが電話の女だった。


「年齢不詳…わかるのは女って事だけ…口癖って程でもないけど“こいつときたらー”って言うわね」


麦野が右手を頭にあてながら思いだしていく。
他のアイテムの面々は「むぅ…」と電話の女の特徴を思い出そうと考える。
麦野が不意に言った疑問を解決しようとアイテムは懸命に考えているようだ。


「なぁ、麦野?」


「ん?」


と、その時、浜面が麦野に話しかける。
彼は何か妙案でも思いついたのだろうか。
446 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/02/09(水) 03:35:02.53 ID:ofO3IuS6o
「電話しよーぜ、今」


「あ、それいいかも!で、この際に聞けば!」


浜面の提案にフレンダは指をパチン!と鳴らして賛成するが、麦野のため息にそれも打ち消される。


「馬鹿…そんな簡単に答えてくれるわけないだろ、あっちは学園都市の治安維持を本職にしてるんだぜ?馬鹿っぽそうな声出してても曲りなりにね」


麦野はそういうと再び「むぅ…」と考え込む。
しかし、浜面が言いだした計画以外妙案が思いつく事はなかった。
そこで絹旗が「何も良い計画が思い浮かびませんが…」と前置きをして小さい口から言葉を発していく。


「でも、正体は超知りたいですね、気になります」


「ね、私も気になるって訳よ」


「むぅ…でもどうやって正体突き止めればいいんだろう?」


滝壺が「はぁ」とため息をはく。
万策尽きたか?
447 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/02/09(水) 03:37:15.57 ID:ofO3IuS6o
砂をかむような思いとはこの事だろうか?
佐天は注文してから数分して出てきたハンバーグランチを食べていた。


しかし、先ほどからちらほらと聞こえてくるアイテムの会話が彼女を食事どころではない精神状態に追いやっていたと言っても過言ではないだろう。
彼女が注文した美味しそうなハンバーグランチはただの何も味がしない、無味乾燥な三流料理になり下がってしまった様だった。
おそらく緊張によるものだろう、と佐天は推察する。


聞こえてくる会話から判断して、なんでもアイテムの構成員達は電話の女の正体を知りたがっているようだった。
アイテムを見るだけでも彼女にとっては大事件なのに、あまつさえアイテムのメンバーが自分の正体をつきとめようとしているなんて前代未聞な事態だった。


「どうしたんですか?佐天さん?さっきからテンション低いようですが…何かありました?」


「え?あ、あぁ!気にしない!気にしない!私は元気だよ!」
(あぁ…何でよりによってアイテムが後ろに…あー!あいつらときたら!!)


「ならいいんですが…」


初春は怪訝そうに佐天を見つめながら特大パフェを平らげていく。


「にしても佐天さんの後ろにいる人たちにぎやかですね見てて面白いです」と初春は呟きながら、くすりと笑って顔をほころばせる。
しかし、佐天はそんな悠長な事を言える余裕も後ろを振り向く勇気もなかった。


(私みたいな年下の子供に指示されてたなんて知れたらぶち切れて、きっと私の事拷問とかかけちゃうのかな…?)
448 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/02/09(水) 03:38:03.35 ID:ofO3IuS6o
麦野さんとかプライド高そうだし…年上の人のふりしてきた私が実は中一なんてばれたら…やばいやばい。
佐天は取りあえずは目の前にあるハンバーグランチを全て食べようと決め、ハンバーグをかっこむ。
折角初春と約束してまでファミレスに行ったというのに…待っていたのはアイテム。


佐天は内心「不幸だー!」とどこかのつんつん頭の少年の様に内心に慟哭の叫びをあげた。
彼女の背後数十センチを隔ててアイテムがいる。
振り向きたい衝動にかられつつも振り向いたら負けな気がする!と思い必死に振り向きたい衝動を抑え、冷静にハンバーグを食べていく。


「あ、佐天さん、すいません」


「ん?どした?初春」


初春が不意にスカートのポケットに手を当てる。
携帯電話を片手に持っている。
どうやら風紀委員の緊急連絡の様だった。


「はい、初春です。もしもし…はい…はい…」


電話を続けていくうちに初春の表情がどんどん曇っていく。
どうやら風紀委員の緊急招集という事らしい。
電話が終わるころには初春はすかりローテンションになった表情を佐天の前に浮かべる。


「すいません…ちょっと緊急で風紀委員の招集が掛けられて…いろいろ久しぶりにはなしたいことがあったんですが…」


「いいよ…初春は風紀委員だもん。ちゃんと頑張ってね。ほら、なんだっけ…よく白井さんと初春が言ってるやつ…」


佐天は思いだせないと言った風に頭のおでこの部分をこする。
初春が間髪置かずに「己の信念に従い、正しいと感じた行動を取るべし」と言い放つ。


佐天は「うん、それだ」と頷くと「風紀委員頑張って」と親指をぐっと立てる。
「はい、また近いうちに遊びましょうね、佐天さん」と初春が言うとスカートのポケットから腕章を嵌めてレストランを飛び出していった。


佐手のいる座席には伝票と食べ終わった食器が置かれていた。
「あ、初春、特大パフェの金払ってない…」と佐天はぽつりと言った。
449 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/02/09(水) 03:39:40.86 ID:ofO3IuS6o
「へぇ…風紀委員ですかぁ…超頑張りますね」

ついさっきまで隣の座席で特大パフェを頬張っていた少女が携帯電話の連絡一本で血相を変えてレストランを出ていくのを絹旗は映画雑誌の上からぼんやりと見つめる。
残った一人は一人っきりで超かわいそうですね…と、どーでもいいことを考えながら再び彼女は雑誌の映画特集の項目を見つめていく。


「結局、電話の女の正体はわからずじまいって事?」


「うーん…そういうことかなぁ…あ」


フレンダの質問に一度は首肯したものの、麦野は何かを思い出したようで、再び下を向き考え始める。


(そういえば…今日の任務終了連絡はしてなかったよなぁ…ちょっとメールで聞いてみるかね…)


取りあえず任務終了連絡をしようと思った麦野は携帯電話のメール作成ボタンをポチポチと押し、任務完了の旨が記載されたメールを送った。
麦野はメールを送ると再び電話の女の正体はどんなやつだろう、という興味に注がれていく。とその時だった。


ういーん…ういーん…


麦野がメールを送った直後に携帯電話のバイブレーションの音が鳴る。
彼女は「誰かの携帯なってるわよ」とアイテムのメンバー一人一人を見ながら確認を取るが誰も居ない。


(おいおい、ちょっと待て。私が任務終了メール送って何でちょうどこのタイミングでバイブレーション音が聞こえるんだよ…)


麦野はおかしいな、と思い、周囲を見渡す。


窓側座席の一番端に位置しているアイテムの座席から携帯のバイブレーションが聞こえる座席と言えばとなりの座席しかありえなかった。
通路を隔てて前に位置している座席に座っていた客は麦野が電話の女に携帯電話の番号を送る前に退店している。
450 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/02/09(水) 03:40:34.10 ID:ofO3IuS6o
偶然なったと言うこともあり得る。
確かめるために、麦野はもう一度メールを送ってみた。


今度は何も記載していないメール。
もし電話の女に怒られたら適当に間違えた、とでも言っておけばいいだろうと考える。


麦野は窓側座席の隣に座り、こちらに背中を向けている女…あれはどこの中学の制服だったか?と記憶を思い返そうと思った時だった。
不意に携帯電話のバイブレーションが鳴った。
音の発信源は間違いなく隣の座席の女だった。


「おい、そこの中学生」


麦野は背中を向けて座っている中学生に、外れていたらごめんと思いつつも話しかけていた。
呼びか掛けられた女は「私ですか…?」と緊張した面持ちだ。


違うか?と麦野は自分の推測が外れたのか?と後悔する。
アイテムの他の構成員達も麦野に懐疑の目を向ける。


「おい、麦野、いきなりなんだって女の子に話しかけるんだよ」


「そうですよ、中学生超びびってるじゃないですか」


「結局、麦野のオーラに圧倒された女子中学生Aって訳ね」


「麦野にすごまれた中学生を私は応援するよ」


四者四様とでもいおうか。
麦野に話しかけられた中学生に同情するように佐天を見つめる。
しかし、麦野はその中学生の少女に懐疑の眼差しを向けるのを辞めなかった。
451 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/02/09(水) 03:41:56.98 ID:ofO3IuS6o
「おい、そこの中学生」


心臓が止まるかと思った。
佐天は初春が風紀委員の仕事に引き抜かれた時に同時に帰れば良かったのだ。


しかし、いまさら帰ることなど出来ない。
仕事用のタブレット型携帯電話は柵川中学のバックにしまってある。


電池が無尽蔵なのでここ最近は電源を切っていなかった。
いや、バイブレーションの設定だけでもオフにしておけば…。


よりによってなんで数あるファミレスで偶然アイテムと鉢合わせしてしまうんだ?
しかも隣の座席!私が一人になって時に…携帯が鳴る…!


携帯電話が鳴った直後に話しかけてきていると言うことは…今送られてきたメールは麦野さんから送られてきた任務終了の報告メールだろうか?
佐天は自分が麦野に背中越しに呼ばれているさなかにどうしてばれたのか、ということを反芻していた。


いや、まだばれた訳では…と思ったが無駄だった。
二件もメールを送ってきた麦野の事だ。しっかり佐天の携帯電話が鳴っているのを確認しているだろう。


佐天は突如として訪れた自分の正体がばれるという危機に怯え、体がぶるっと震えるのを感じた。
振り向こうと体を動かした時に麦野達以外の人からフォローが入る。


佐天をただの一般中学生と思っているアイテムのメンバーの麦野のあてずっぽうの様な推理で指名された彼女(佐天)に対する配慮だろうか?
彼女はそれらのフォローを聞きつつも体の半身をよじり、アイテムの座っている座席の方に振り向く。


「なんですか…?」


「…いや…わりぃがちょっとそのままで居てくれ」


人違いの可能性も麦野は懸念しているのだろう。
彼女はまだ電話の女と確定した訳でない、佐天の方に少しだけ頭を下げると麦野の片手に握られた携帯から再び無言メールが送信されていく。
すると間髪置かずに佐天の携帯電話が震える。
452 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/02/09(水) 03:42:50.48 ID:ofO3IuS6o
「お前…まさか…ホントに」


麦野が息のむ。
フレンダ達もやっと柵川中学の生徒の正体に気付いたのだろう。


案外にも自分達に指令を出していた女の正体は若かった。
というかほとんどのアイテム構成員よりも年下だった。


「はい…私が…その…」


佐天は覚悟を決めた。
もう自分が電話の女だとばれてしまっているのだ。


麦野の送った無言メールによって震えさせられている携帯電話がひどくかわいそうなものに見えた。
そして佐天は所在なさげに、ぽつりと一言言う。


「私が…電話の女…です…」


今にも消え入りそうな声だった。
ともすればそのまま消えて行ってしまいそうなくらいにか細い声。


「オマエがあの電話の…へぇ…」


麦野はうんうん、と頷きつつ佐点を見つめる。
アイテムのリーダーであり女王である彼女がまるで宝物を査定する鑑定師の様にじっくりと見つめる。
ふーん…と鼻で息を鳴らし、うんと麦野は頷くと「はー、笑える」と一言無表情に言い放った。
453 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/02/09(水) 03:43:26.71 ID:ofO3IuS6o
「いくつよ」


「中学生です…中学一年生…」


麦野以外のメンバーから多かれ少なかれため息がこぼれる。
やはり自分たちに指示を送っていた人物が自分たちよりも年下であると言うことに驚きを隠せない様だった。
絹旗は「超、私とためですね…!」と声に出して驚いている。


「私達が今まで色んな危険を冒してまで任務にあたっていたって言うのに、とうの依頼人は中学一年生かよ」


「………すいません」


佐天は何を言ったらいいのかわからないので、取りあえず謝る。
先ほどまで騒いでいたアイテムの座席が急に静かになって重苦しい空気が彼女たちの卓のあたりに滞留し始めた。
フレンダが「まぁまぁ…」と麦野が生み出す重苦しい空気をなんとか宥(なだ)めようとしている。


「ちょっとこっちこいよ」


「は、はい…」


まるで古き良き学園物アニメの番長よろしく、麦野はアイテムの座っている座席に来るように指示する。
同時に浜面に「そこの二人用の座席くっつけて」と指示し、「はいはい」と浜面が答える。
浜面がメニューと店員呼び出しボタンを窓側座席に置き、机を動かし二名用の座席と椅子が接続された。

454 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/02/09(水) 03:43:55.32 ID:ofO3IuS6o
「ほら、ここ」


「はい…」
(何?何が起きるのよ?拷問?ひぃ…こわいよぉ…)


佐天は出来あがったばかりの即席の二名用の椅子にぺたんと腰を下ろす。
自分の手が緊張と恐怖でカタカタと揺れているのを知覚する。おそらく麦野達も気づいているのだろう。
アイテムのメンバーは佐天の両手を見て、無表情になる。


「別に今からお前に何をするって訳じゃねぇよ」


「は、はい」


浜面が二名用の座席に座って相対する佐天を見据えてつぶやく。
その発言にほんの少しだけ安堵の気持ちを覚える。が、依然緊張による手の震えは収まりそうになかった。


「浜面、あんたが仕切るな、っつの」


「へいへい」


佐天が安堵したのもつかの間、麦野が再び二人に割って入る。
やはり、この手の震えを収めるには麦野と話す必要がある、と佐天は内心につぶやく。
455 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/02/09(水) 03:44:27.68 ID:ofO3IuS6o
「どうして電話の女なんかに?」


「……それは…、幻想御手事件以降…いきなり携帯電話が送られてきて…」


脳内に浮かび上がる単語一つ一つを慎重に選ぶようにして佐天はゆっくり話す。
アイテムの面々は佐天の言うことに小さく頷いたり、ジュースを飲みながら話を聞いている。
皆一様に色んな事をしているが、佐天の事を見つめていた。それが彼女の緊張をいやがおうにも維持させてしまっているのだが。


「幻想御手ねぇ…あの音楽ツールのヤツね…」


麦野は思いだすようにして頷く。
そして「携帯電話が送られてきたのはいつ位なのよ?」と質問を繰り出す。
佐天は「幻想御手の一件で補習があったので…八月の第一週目です…」と今にも消え入りそうな声で話す。


「で、リクルーターからスカウトされて電話の女になったって訳ね…」


「はい。そうです…」


佐天が答えた後、しばらく沈黙が彼女たちの座席に舞い降りた。
レストラン内のスピーカーから漏れる軽快なジャズサウンドと空調の音が妙にうざったく皆の耳朶をうつ。
この状況を現出させた張本人である麦野は何とも言い難い雰囲気にうざってぇと内心ツバを吐くが、自分のせいだな、と自覚し一人苦笑する。


「はい、このムード耐えられない、浜面クン!何か一発芸!はいっ!どーぞ!」
456 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/02/09(水) 03:45:14.97 ID:ofO3IuS6o
「は…はぁ??」


浜面が自分に指を指して「え?俺?」と怪訝な表情を浮かべている。
麦野は浜面のすっとボケた表情を確認することなく「そうよ」と冷淡に言い放つと両手を顎に乗せてにこりと笑って見せた。


「じゃ…じゃぁ…仕方ない…変顔いっきまーす」


「………」

何をやろうとしても結果は見えていたと言うべきだろう。
浜面が変顔するぞ、と宣言した所でアイテムの面々が期待に表情をほころばせる事はなかった。


しかし、与えられた任務を遂行するのが浜面という男だ。
彼はぐにゃりと顔をゆがめて「いっひいっひ」と変顔をする…。


「………」


シーン…死ーん…。
空気が完全に凍りついた。
その場の空間がバキバキと壊れていくような音すら聞こえてきそうな白けっぷりだった。


「はぁ…死にてぇ…」


浜面の人生終了させたい宣言が飛び出すのもつかの間、アイテムの面々から大きなため息がこぼれた。
しかし佐点は「ぷぷぷ…」と今にも吹き出しそうになっている表情を何とかこらえそうとして必死だった。


「ぷぷぷ…すいません…おもしろすぎです…!あ…あっははは…!」


佐天は腹に手を当てて笑いこける。
その光景を目の前で目撃したアイテムの面々もつられてぎこちなく笑った。
さきほどの凍てついた空気が多少緩和された様だった。


「これからもよろしくって事かな?」


「あ、はい。そうなります…!」


窓側に座っていた滝壺が初めて佐天に対して口を開く。
佐天は滝壺の方に向くとがばっとお辞儀をする。
457 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/02/09(水) 03:46:28.70 ID:ofO3IuS6o
「お前、家族とかいるんだろ?」


「学園都市外に両親と弟がいます…」


「なら、何で暗部落ちしたんだ?」


「は?暗部落ち?」


佐天は浜面の言っている事が理解できなかった。
あくまで佐天は治安維持機関から連絡を受けて、その命令を伝達しているだけ。それが何故、暗部などという名前で呼ばれているのだろうか。


そして落ちた、とは一体どういう事なのだろうか?
佐天が脳内で浜面の質問に対する答えを見いだそうとしている間にフレンダが口を開く。


「あんた、まさか電話をするだけで自分に危険が及ばないとでも思ったの?」


「いや、だって人材派遣の人だって安全って前に言ってたし…」


「そりゃ、言うに決まってるわ。自分の後釜が決まりかけてたんだもの」


佐天はフレンダの言葉に「はぁ」と首をかしげるだけだ。
実際に危険が及ぶかどうかは分からないけど、やっぱり気をつけた方がいいと思う訳よ、とフレンダは親切心からか佐天にアドバイスを送る。


対して彼女は電話をかける仕事を始めてから数週間がたった今、身に危険が及ぶ事がなかった。
なのでフレンダの言っている事が大げさに感じられた。

458 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/02/09(水) 03:47:42.27 ID:ofO3IuS6o
「アイテムをつぶそうと課投げてるやつがいたとして、実際に手を出せないとわかったらもしかしたらあなたを攻撃して指揮系統をつぶしにかかってくるって事も十分あり得る訳よ」


「ちょっと、フレンダ?いくら何でも言い過ぎじゃないですか?」


「そうだよ、フレンダ。電話の女、ちょっとびびっちゃってるよ」


絹旗と滝壺は一様にフレンダを見つめるが、見つめられた彼女自身はその視線をよそに話し続ける。


それで良い、内心にフレンダはつぶやき、電話の女が動揺している様を確認する。
そしてちらとアイテムの女王である麦野の方を見る。
彼女はただ黙って話しを聞いているだけだった。


「いや、ダメだって思う訳よ。結局、電話の女が狙われないとも限らないでしょ?」


「確かに…」
「まぁ、フレンダの言う通りですけど」


滝壺と絹旗の二人はフレンダの指摘に頷く。


対して麦野はフレンダを見ると「言い過ぎだってフレンダ、まじでビビっちゃってる」と言い、とあごで佐天の方をくいとしゃくる。
当の佐天はフレンダの発言にすっかり怖じ気づいてしまっているようだった。
459 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/02/09(水) 03:48:40.33 ID:ofO3IuS6o
確かにアイテムに連絡するだけ、といった人材派遣の男の言葉はちょっと考えてみれば、危険な物だと判断出来るのだが、佐天はそれが出来なかった。


仮にアイテムの撲滅を願う組織が存在して、能力者であるアイテムを狙うよりもそのアイテムに指示を出している大本を絶ってしまえば…。
そう考える敵もいないとも言い切れない。
そして、その場合、間違いなく、佐天の身の周りには危険が及ぶ可能性もすかなからず、発生するだろう。


「確かにあんたの言うことは一理あるわね、フレンダ」と麦野がフレンダの発言に賛同する。
するとフレンダは「そうよね…」と得意げな表情を浮かべる。


「電話の女、お前の名前はなんて言うんだ?」


「え?私ですか…?」
(言っていいのかなぁ…?)


「佐天です…佐天涙子…」


フレンダの質問は麦野が話を変えたことによって終わっていく。
そして話題は変わって行った。

460 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/02/09(水) 03:49:59.87 ID:ofO3IuS6o
レジの会計を終えて、佐天とアイテムは解散する事になった。
いや、もはや佐天を含めてのアイテムと言ってもいいかもしれない。


佐天とアイテムの間に友情関係と言ったものは構築されていないが、彼女たちは赤の他人ではなくなったのだ。
個人的にどういった感情を抱いているかどうかは考慮しないとして、単純な繋がりで見れば、アイテムに佐天涙子は加入したと言っても差支えないだろう。


(いやー、ノリでアイテムと話したけど、ちょっと恐かったなぁ…)


佐天は麦野とは安した時の事を考える。
彼女はファミレスの駐車場で止まっている浜面の運転するシボレー・アストロを横目に映しながら自宅である柵川中学の学生寮に向かっていった。


そして、ここはアイテムのの構成員を乗せたシボレー車内。
滝壺は共同アジトに到着し、シボレーから下車。絹旗は自分の単独アジトに身を寄せた。
フレンダは「歩いて帰る」と言い、歩いてどこかに行ってしまった。


さて、車内には麦野と運転手である浜面の二人きりになった。
重苦しい沈黙が続くのか、と浜面は思ったが、それは麦野の思い出したように話す声は彼の思索を打ち消していく。


「私達ってあんな中学生に命令されてたんだ…」


「まぁ…、そういうことになるな」


中学生から発せられる命令を唯々諾々として行ってきた麦野。
ただ、それに従ってきた自分が悔しいような、笑えるようなきがした。
461 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/02/09(水) 03:50:36.67 ID:ofO3IuS6o
――第七学区、立川駅前の再開発地区

佐天は日が傾き初めた時分にファミレスを出ると一人で学生寮に向かって歩いていた。


(はぁ…まさかアイテムと話すとは…)


初めて見たアイテムの印象は何だか普通の女の子の集まりといった風だ。
取り立てて四人の仲が良いという訳でもなく、一般的な友人関係の様だ。


(にしても…私の命の危機って…どうなんだろう?私の事狙う人なんているのかしら?)


佐天は思う。
自分の命を狙う人なんて果たしているのだろうか、と。
アイテムに喧嘩を売ろうなんて考える奴、恐らく居ないだろう。


そう。御坂美琴以外と不意に彼女の頭に美琴の顔が浮かび上がるがそれをぶんぶんと頭を振って打ち消す。
佐天はおう一度ファミレスでフレンダに言われた事を思い出す。


『電話の女が狙われないとも限らないでしょ』というセリフを思いだし、いやな気分を味わう。
フレンダに気をつけた方がいい、と言われ、了承したは良いものの、実際に何をすればいいのだろう?
佐天は具体的な対応策も思いつかず、ただ、ちょっと注意深く周りを見る位の事しかできなかった。



夕日が学園都市と日本の境目である山岳地帯にかかり、真っ赤になって沈んでいく。
佐天はその夕日を見つつ、学生寮の鍵をポケットから取り出そうとしていた。
462 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/02/09(水) 03:51:19.66 ID:ofO3IuS6o
柵川中学校の制服のスカートのポケットから鍵を取り出すとカチャリと鍵穴に鍵を差し込む。
そこから勢いよく鍵を回すとおもむろにドアが開いた。


学生寮の通路の真っ赤な夕日とは対照的に部屋の中は案外に暗く、佐天は電気のスイッチに手をかけた。
その時だった。


「ねぇ?電話の女、ちょっと頼みがあるんだけど?」


不意にかかった呼び声に佐天はガバリと後ろを振り向く。
声も出さずに振り返ると柵川中学の学生寮の通路にフレンダがいた。


「さっきはごめんね、ちょっと言い過ぎちゃった」


「いえ…気にしてない…よ」


敬語で答えればいいのか、ため口でいいのか、限りなくあいまいにして佐天は答える。
フレンダはその事には別段何も言わずに、ずいと佐天の家に片足を掛けて、閉じかけていたドアを開けっ放しにする。


「聞いてほしい話があるんだけど…?」
463 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/02/09(水) 03:52:59.16 ID:ofO3IuS6o
「ごめん、実際に連絡係が狙われたことなんてないの」


「えぇ?そうなんですか?良かった」


「私たちはその可能性が捨てきれないけどね…うらやましいよ、指示するのは楽だろうね…」


フレンダはそういうと「ごめん、皮肉に聞こえちゃったかしら?」と佐天が出した氷水を啜りながら話し続ける。
佐天も「いや、こっちもごめんなさい!」といつも通りの元気の良さを端的に表している様に、ガバッ!と頭を下げる。


「結局…あんな話をしたのも一つ頼みがあるからなんだけどさ」


「なんですか?」


「ちょっと人探しを頼みたくて…」


フレンダは苦笑した。
会ってまだ数時間しかたっていないの電話の女とか言う治安維持機関からの指令を伝達する人物に接触を図っている。


彼女がなぜ佐天に接触したのか。
それは彼女が姉を探すのに佐天の権限を必要としたからである。
464 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/02/09(水) 03:53:52.41 ID:ofO3IuS6o
元々、フレンダは自分より年上の女性を想像していた。

任務を伝達する時も結構たタメ口だったし、能天気な感じがしたから。
しかし、今日偶然会ってみれば自分よりもいくつか年下のまだ中学生になって間もないあどけない少女だった。


身を危険にさらしている可能性を示唆することで佐天の周りの警備状況を推察してみたところ、彼女はどうやら護衛などを付けていない様だった。
先ほどのファミレスで露骨に「護衛はちゃんとつけてるの?」とか聞いてもアイテムの仕事仲間に怪しまれるだけだ。
ならば、多少誇張した言い方になるが暗部に所属している事から生まれる危険をほのめかし、反応を試す。


その反応を踏まえたうえで直接佐天を尾行した訳だ。
「人探しを頼みたい」とうフレンダの要求に佐天は「は?」と口を開けて聞き返していた。


「人探し?」


「えぇ。探せないの?仕事用のツールとか…そういうので」


フレンダはベレー帽を外すと佐天の小さい部屋にある鏡を見てブロンドの髪の毛を手で優しくとかす。
そしてどう?とかわいらしく首をかしげながら佐天の方を向く。


「ちょっと待ってね…」


佐天はそういうとおなじアイテムのメンバーと言うことでフレンダを信頼しているのだろう。
柵川中学校のカバンからタブレット型の携帯電話をおもむろに取りだす。

そしてそれを大切そうに佐天の家のかわいらしいちゃぶ台におき、アプリを起動する。
465 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/02/09(水) 03:54:42.54 ID:ofO3IuS6o
「やけにて慣れてるじゃない」


「最近覚えたの。かなり便利なのよね、コレ」


フレンダが「へぇ」と息まくのを視界の端に見つめながら佐天は自分の見れる権限までの情報を拡大していく。
彼女がこの携帯電話のさまざまな機能に関して気付いたのはつい最近のようだ。


「私はまだ…暗部…いや、仕事を始めてから日が浅いし、おそらく幻想御手を使った事も関係してると思うんだけど、見れる情報が限られてる…それでもいいなら」


佐天は“暗部”と言いかけた所を途端に“仕事”と言いなおす。
やはり自分が暗部に落ちた事を認めたくない、という僅かながらのプライドが彼女にまだ存在するのだろうか。


ともあれ、佐天はそういうとタブレット型携帯電話の液晶をフレンダに向ける。
フレンダが携帯電話をいじろうとするがそこに待ったがかかる。


なんでも佐天以外の人が携帯電話を触った場合強制的にシャットダウンするとか。
指紋認識にうからない場合、電源を起動する事すらままならない代物。セキュリティはピカイチだ。


学園都市関連人物ファイル、という名前のフォルダを開くと佐天が現状で見れる人物達がリストアップされていく。
右端にあった大きかったスクロールバーが徐々に小さくなっていく。
見た感じだと、警備員や風紀委員、果ては他の暗部組織に至るまで、数十から数百の人間のデータが登録されているようだった。


「誰を探せばいいの?フレンダ」
466 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/02/09(水) 03:55:54.70 ID:ofO3IuS6o
「えーっとねぇ…ステファニーっていう人なんだけど…」


「ちょっと待ってね」


膨大な人物ファイルの渦中からたった一人の人間を探しだす。
そのきの遠くなるような作業をフレンダは今までずっと一人で行ってきた。


フレンダは佐天が熱心にタッチパネルで名前を入力する光景をちらと見つつ、内心で苦笑した。
自分が人一人から情報を聞き出すまで、いろいろな下調べをしてきた。


しかし今はその煩雑な動作も不要。
ただ、データの渦中から検索してヒットを引き当てればいいだけ。


フレンダがエレクトロマスターでもない限り、学園都市関連人物ファイルに接続する事は出来なかった。
それが暗部に落ちて一カ月ばかりの少女がアクセスできるとは…。
なんというか、もはやあきれるレベルである。フレンダが色んな所に足を運び聞き取りをした結果が今一瞬で明らかになるかもしれないのだ。


フレンダは永遠と思われた時間を外の学園都市の高層ビル群の景色を見つめつつ待った。
実際には三十秒ほどだったのだが、それはフレンダにとっては長く感じられた。
部屋に訪れた沈黙が破られたのは不意に発せられた佐天の音読によってだった。


「あった、ステファニー=ゴージャスパレス…カナダ出身…」

「第十四学区の…高校の教諭で英語(この場合国語に相当)と世界史を担当…第XXX支部の警備員で勤務するも辞表…現在は傭兵として活躍している」
467 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/02/09(水) 03:58:53.97 ID:ofO3IuS6o
フレンダの期待とは裏腹に佐天が提示した情報はフレンダも把握している情報だった。
そしてそれは噂と事実が入り混じった情報が本物の信頼できる情報になった瞬間でもあった。


姉が傭兵職についているなんて話、あくまで眉唾もののうわさと断じていた。
しかし、まさか本当に傭兵稼業をしているとは、フレンダは読み上げられたデータを聞くと大きくため息をついて肩を落とした。


今佐天が読み上げた内容は知っている。
半信半疑の噂だった情報が確かな情報になっただけでも大きな手柄だったが、いかんせんこれだけでは姉を探すには情報が足りなかった。


フレンダは内心にどうしよう、とつぶやく。
結局は佐天の見れる情報はこれが限界だった。
実際問題、情報を照会する限りだと、フレンダの姉は既に学園都市を後にした様だった。


フレンダがため息を吐くと、佐天が話しかけてきた。


「ごめん、フレンダ…バンクに記載されてる情報はこれだけだよ?この人、フレンダの知り合いなの?」


佐天の当然わく興味にフレンダは本当の事――実の姉であること――を言おうか迷ったが、辞める。
情報バンクに記載されていない情報を言って後顧の憂いにしてはならない、とフレンダの本能が告げる。
申し訳ないがここでは佐天に嘘をつくことに決めた。



「あぁ、私の恩師でさ…」
468 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/02/09(水) 04:00:16.23 ID:ofO3IuS6o
知り合ったばかりの佐天には本当の内容は言わない。
適当に恩師と言っておくが、フレンダの胸中はザザと焦りという波がうねり始めていた。


結局、姉がここを出てから数年たっていた。
そんな姉と、どうやってコンタクトを取ればいいというのだ。


佐天に聞いたところ、情報データバンクにはステファニーの連絡先は記載されていないようだ。
わかることと言えば、学園都市で教鞭を握っていた事と警備員として活動していただけ、と考えたところでフレンダの頭に電撃が走った感覚を覚える。


「ねぇ、ごめん涙子」


「え?」


いきなり名前で呼ばれたことで佐天は驚くが、そんな事にはお構いなしにフレンダが続ける。


「第十四学区のどこ高校だかわかる?」


佐天は再びタブレット型の携帯電話に目を通す。
そしてフレンダに高校の名前を告げる。


彼女は佐天に「メモ帳ある?」と言ってメモ用紙を貰うと高校の名前をさっと書きとめて、その紙をぐいっとポケットに入れる。
そしてフレンダは「ありがと!」と言うとドアを出ようとしていつものお気に入りのパンプスをはく。


最終下校時刻まであと少し。第十四学区はここからそう遠くない。
フレンダは勢いよく走りだしてかの地へと向かっていった。



一人残された佐天は誰なんだろう、ステファニーって、と思いつつ寮の外を出て走っていくフレンダを窓から見つめていた。
469 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/02/09(水) 04:01:58.75 ID:ofO3IuS6o
眠い。寝るわ。
またな!
470 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/09(水) 04:04:55.06 ID:NLKKPItKo
乙です
471 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/09(水) 04:21:28.14 ID:/sQw6tvAO
佐天さんが暗殺とかされませんように乙
472 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/09(水) 11:59:29.81 ID:OBY/2Gmb0
乙!! フレンダ(と佐天さん)に救いの手を!!
473 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/09(水) 12:56:37.82 ID:oAekBF+Jo
佐/天ェ……
474 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/09(水) 20:25:48.45 ID:/sQw6tvAO
>>473
おいやめろ
475 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/02/12(土) 02:07:37.77 ID:8hjNMdxho
レス感謝。
更新が滞りがちになってすいません。


では投下。


あらすじ
佐天はファミレスでアイテムと遭遇して正体がばれてしまった!

ファミレスから帰ってきて寮に入ろうとしたと所でフレンダに呼び止められる。
佐天を尾行してきたフレンダは、佐天の携帯電話に目をつけ、ステファニーの情報が載っているかどうかを佐天の仕事用の携帯電話で調べてもらうことに。

するとかつてステファニーが教鞭をとっていた学校が第十四学区にあることが判明。フレンダはそこへ向かっていく。
476 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/12(土) 02:09:43.62 ID:1KMdJxRxo
キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!
477 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/02/12(土) 02:10:56.40 ID:8hjNMdxho
第十四学区は外国人の受け入れを主体に作られた学園都市の中でも海外の言語の説明が付け加えられている珍しい学区だ。
面積は小さいながらもかなりの数の外国人留学生がここで学園都市の能力開発教育を受けに来ている。


そんな第十四学区にフレンダはいた。
既に最終下校時刻は回っていた。
しかし、陽の光がまだともっているのでステファニーが教鞭を務めていたとされる学校へ走って向かっていく事に。


(うわー久しぶりだなぁ、ここ)



フレンダは高校に向かいながらも感慨深い思いを味わっていた。

彼女が初めて学園都市に来た時、彼女を受け入れてくれたのがこの学区だった。
その裏では密入国同然のフレンダを受け入れてほしいと、ステファニーが学園都市のお偉方に掛け合ったそうだが、フレンダはあまり覚えていない。



(えーっとここでいいのかな?)



太陽の陽が没し始め、警備ロボがうろうろしだす時間帯にフレンダはかつてステファニーが教鞭を取っていた高校についた。
ここであってるよね?と携帯電話のマップに指定されている学校の名前と住所を確かめる。


「ダメだよ、もう最終下校時刻回ってるよ!?」


学校の警衛がフレンダに声をかける。

校内の二階の職員室と思しき場所には周囲の電気の消えた部屋とは別に煌々と明かりがともっているのがフレンダの網膜に映る。
フレンダは警衛に姉とは伝えず、かつての知り合いに関して聞きたいとを伝えた。
478 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/02/12(土) 02:14:38.28 ID:8hjNMdxho
職員室に繋がっているであろう無線のスイッチを警衛がカチッと押す。
しばらく間を置いて、警衛に返信が入ってきた。


返信内容は「手短に」との事。
警衛は忌々しそうに門を開ける。

フレンダは特例を認めてくれた警衛にぺこりと一礼すると構内の見取り図を見つつ職員室に向かっていった。





海外の人を受け入れるからと言って教室の中までその国のテイストに合わせる事もあるまい。
かつてステファニーが教鞭を採っていた高校の渡り廊下をぎしっと音を立てながらフレンダは職員室に向かっていった。


既に日が差し込まなくなっていた階段をゆっくり登っていく。
妙にひんやりした階段のタイルが黒タイツ越しに伝わる感触をかみしめながら、フレンダは職員室に通じる階段へと伝っていった。


職員室の前につくと何人かの外人教師が雑談をしている。
さまざまな国籍を持っているであろう教師たちが一様にフレンダの方を向く。


日本の学校の作りである木のタイルの廊下に容姿端麗な外人教諭がいる光景はフレンダの目に滑稽に映った。
彼女は職員室前で雑談をしている教諭陣に一礼する。
すると、雑談をしている教員の内の一人がこちらに近づいてきた。


「えーっと先ほど連絡したフレンダですけど…」


「あぁ、ガードの人から連絡は聞いていたから、どうぞ」


教員はフレンダについてくるように目で促す。
フレンダは「はい」と頷くと職員室の隣にある応接間に通された。
彼女を応接間に案内した教員はドアを閉めてすぐに退出していった。


フレンダが応接間の中に入ると一人の男性の黒人教師がいた。
黒人は坊主でかなりの体躯。こぎれいにスーツを身にまとっており、体育教師か?とフレンダに思わせた。


(かなりガタイの良い人ね〜…ってか英語の方がいいのかな?)


フレンダはフランス訛りの英語を話そうか逡巡するが、日本語で話すことにした。
彼女の目の前にいる黒人教師が日本語を話したからだ。
479 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/02/12(土) 02:17:06.60 ID:8hjNMdxho
「こんにちわ、あ、もうこんばんわの時間かま、適当に座ってください」


フレンダは「あ、はい」と言い、クリーム色のソファにゆっくりと腰を落ち着ける。
「君の知り合いの…ステファニーだっけ?」と男はウェイファラーのレイバンの眼鏡をくいと少しだけ下にやり、フレンダに頬笑む。


フレンダは黒人教師の問いかけに「はい」と答える。
黒人はふふと、口元をほんの少しだけつり上げて笑う。


「知り合いねぇ…?違うなぁ」と黒人教師はにやりと笑い、フレンダを見つめる。

その発言を聞くや、一瞬眉をひそめるフレンダ。
「怪しいものじゃないさ」と黒人は両手を上下にゆっくりと宥めながら再び、笑う。


「………」


「繰り返し言うが、私は怪しいものじゃない」


黒人教師はそういうと教員免許証と警備員の証明書をゴツゴツしたワニ革の財布から取り出してフレンダに見せる。
同時に男は民間軍事会社に所属している証明書をも見せた。


「へぇ…軍人って訳?」
(めっちゃ怪しいじゃない…)


「だね。いやー君には以前お世話になったよ」
480 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/02/12(土) 02:23:15.46 ID:8hjNMdxho
黒人教師はわらいながら坊主頭をばりばりと掻きむしる。
フレンダは初めて会ったと男に感謝されるいわれはない、と思いつつ、「あれ?初めてお会いしたんじゃ?」と聞く。


「確かにそうなんだけどさ、前に横田基地で主催したお祭りの警護で君たちが活躍したって話を小耳にはさんでさ」


「あぁ…あの祭の…」


フレンダの目の前にいる男はどうやら横田基地の祭の警護を務めたフレンダの事を知っているようだった。
数々の肩書を持つこの黒人教師のは日米同盟を隠れ蓑にして学園都市に出向している軍人だったのだ。



フレンダは八月の中旬に行われた横田基地の警備を思い出す。
アキュレシー・インターナショナルで過激派のテロを未然に防いだ功績を彼女は思い出す。


しかし、フレンダは今日に限ってはどうでも良いと思う。
あくまで今日来たのはこの男の出自や彼女自身の事を聞くのではなく、唯一の家内である姉の事を聞きにきたのだから。


黒人教師もフレンダの純朴な瞳に込められた意志を感じ取ったのだろうか、「話が逸れちゃったね」と笑うと直後、きりと真剣な表情になり、弁を続ける。
フレンダは男の目をその瞳に捉えるとまっすぐに見据える。


「散々聞かされたよ?かわいい妹がいるって。君は本当にステファニーの知り合いなのか?」


男は自分の出自を話しすぎたことで目の前にいる少女をイライラさせてしまったのではないかと反省する。
そしてこれ以上自分の事を話しても話が進まないと考え、フレンダに自分の知る限りの情報を姉に伝えようと決心した。


「あなたは…ステファニーさんとどういう関係だったんですか?」


フレンダはあえて「さん」とつけて呼ぶ。
まだ、目の前に居る黒人には自分がステファニーの妹である事を伝えていない。
481 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/02/12(土) 02:34:59.96 ID:8hjNMdxho
飽くまでフレンダから情報を話すのではなく、男が口を開くのを待つ。
彼女は男と姉の関係が判然とするまで自分と姉の関係を口外する気になれなかった。


「彼女は…教諭である前に一人の軍人だった」


男はフレンダの方を見ながら思い出したようにつぶやき始めた。
答えになってるのかなっていないのかイマイチわからないまま、しかし、黒人男性は話を続ける。


聞く側のフレンダは無表情を装っているこそすれ、黒人教諭の発言に全神経を傾ける。
一語一句聞き逃すまいと内心につぶやく。


フレンダは知っていた。
交通事故で両親が死んだ家でしのぎを削ろうとしてステファニーが若くしてカナダ軍に入隊した事を。


Joint Task Force2、統合タスクフォース2という特殊部隊に入隊した彼女は数年後に退役。
母語である英語の他にフランス語と日本語を学んだ。
そして退役をした後に学園都市にやってきたと言う訳だ。


「…姉の経歴は知っています…今姉がどこにいるのか…知っていますか?」


「確か各地の戦場を転々としてるような…コスタリカで出会った傭兵と一緒に行動しているとか…」


姉。
フレンダは黒人教師の前で姉と確かに言った。
彼も取り立ててその事に関して深く突っ込むようなことはしなかった。


彼女も自分が知り合いと言って嘘をついていた事を謝るのではなく、真実を話す事でそれを清算する。

「姉」と言ってフレンダは自分の鼓動が高鳴るのを確かに知覚する。
そして屈託の無い笑顔で自分を迎えてくれる姉の顔を想像する。



既に聞き及んでいる情報といえども、やはり他人から姉の事聞くと新鮮な気持ちになれた。
いや…既に聞き及んでいる情報?とフレンダは頭にふと疑問符が浮かび上がる。
初めて彼女が聞く情報が一つだけあったから。
482 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/02/12(土) 02:47:11.11 ID:8hjNMdxho

(行動を共にしている傭兵…?一体誰?)


フレンダはステファニーとともに行動している傭兵という情報を今まで眉唾だと断じて信じようとはしなかった。
しかし、真剣な表情で話す黒人を見ると彼が嘘をついている様には見えなかった。


彼女はその傭兵の詳しい情報に関して聞きだそうと思い、考えると同時に「どんな人なんですか?」と男に問いただしていた。


「あー…自衛隊からフランス傭兵部隊に入って、オーストリアのコブラ特殊部隊に入った後はフリーの傭兵をやっているって聞いたなぁ…」


「その人の名前は?」


フレンダは身を乗り出していた。
二人を隔てる机が無かったら、彼女はずいと詰め寄っていただろう。
男はそんなフレンダの様子を見て、しかし「すまない、名前までは…」と悔しそうに坊主頭をざらと触る。


「そうですか…わかりました」


フレンダは落胆する。
結局、姉がどこにいるのかはわからずじまいだった。


しかし、姉の事を覚えている男に礼を言おうとして「今日は…」と言いかけた時だった。
黒人の男が「そういえば、これは機密情報なんだけどね」と人差し指を口に当てる素振りをする。


「八月の第一週に警備員に雇われた傭兵の凄腕スナイパーがいたって聞いたな…それともしかしたら関係があるかもしれない」
483 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/02/12(土) 02:49:48.59 ID:8hjNMdxho
フレンダはがばっと首をあげて男の方をまっすぐに見据える。つい先程まで落胆していた彼女が一転して瞳をキラキラと輝かせている。
男はその動作を視界に捉えつつ弁を続ける。


「派手な戦い方を好むステファニーと対照的な凄腕の狙撃手…考えられない組み合わせではない」


「その狙撃手…どこの警備員の部署が要請したか分りますか?」


「いやぁ…かさねがさねで申し訳ないがそこまでは機密上、こちらも把握できる権限がないんだ、すまない…」


フレンダは男が悔しそうに顔をゆがめているのを見て、わかりました、と頷く。
しばらくの沈黙の後、男が再び口を開く。


「姉を探してるのか…?」


「えぇ」


「何で姉を探すんだい?」


「私の唯一の家族だからです…。死んでほしくないから…」


フレンダ自身もいつ死ぬとも知れない。
唯一の肉親である姉を見つけて、彼女はここから脱出しよう、そう心に決めた。
黒人の教諭が「家族のつながりは重要だからな」とあたりさわりのない言葉を述べてその場は終わりとなった。


短い会話だったが、フレンダは姉を探す手がかりを十分に得たと思った。
ともあれ、学園都市に要請されて狙撃を行った人物を割り出さなければ、と彼女は自分に言い聞かせる。
484 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/02/12(土) 02:56:53.61 ID:8hjNMdxho
「ここらへんでいいわ」


「じゃあ、また何かあったら気軽に学校にでも来てくれ」


フレンダは結局最終下校時刻を回っているから、という理由で男の車で送迎された。
彼女を乗せたダイムラークライスラー300Cはアイテムのアジトの近くまで行く。


アジトの場所を特定されるのを警戒したフレンダがアジトの大分前で車を止めてもらう様に指示する。
男の運転するクライスラー300Cは律儀に指定された場所に止まる。


フレンダは丁寧にお辞儀をすると小気味の良いクラクションの音が帰ってきた。
車は甲州街道に繋がる道に接続する道に消えて行く。




アジトに着くと滝壺がいた。


「ただいまー」


「おかえりフレンダ。遅かったね」


「ちょっと色々あってさ」


「お姉ちゃんのこと?」


フレンダはうんと頷く。
485 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/02/12(土) 02:58:39.75 ID:8hjNMdxho
フレンダは滝壺には気を許しているのだろう。
姉の事に関してフレンダは滝壺には腹蔵なく話していた。
それはフレンダが超電磁砲との戦いの後で滝壺に見出した姉の様なぬくもりや優しさによるものなのかもしれない。


「何か進展あった?」


「うん。お姉ちゃんと傭兵のペアを組んでる人が八月一日に警備員の要請で来学して狙撃をしてるんだってさ」


「なるほど。だったら警備員の部署にあたってみればもしかしたら新しい情報が手に入るかもね」


フレンダは「そうだね」とちょっぴり嬉しそうに笑う。
姉と再会した時のことを考えているのだろうか。フレンダは顔をほころばせる。
その表情は滝壺にかわいいと思わせると同時に、反面ちょっとの寂しさを感じさせた。


「ねぇ?フレンダ?」と滝壺は気付けばフレンダに話しかけていた。


なぜ、寂しさを感じたのか。彼女はその正体を自分で知ってしまった気がした。
そしてその正体を聞かずにはいられなかったのだ。


フレンダは「何?」ときょとんとした表情で滝壺の顔を覗きこむ。


「もし、お姉ちゃんが見つかったらフレンダはどうするの?」
486 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/02/12(土) 03:02:08.11 ID:8hjNMdxho
自分ではその答えを出したつもりだった。
しかし、いざ口に出そうと思うとはばかられるのは何故だろうか。


アイテムに入ってからは約十数万という安月給で学園都市の治安維持に影ながら貢献してきた。
姉の背中に憧れて学園都市にやってきた彼女は、姉の所在を見つけようと思い、気付けば学園都市の暗部に転落していた。


暗部に墜ちた時、即ちアイテムに入った時、から今に至るまで、この組織には特に何も感慨深いものなどなかった。
ただ、この最先端の街の裏で繰り広げられる生命のやり取りに従事していただけ。


しかし、そんな彼女が姉が見つかったらどうする?という単純な質問に答える事に躊躇していた。
それはアイテムに何も思い入れがない彼女自身が最も以外に感じていることだった。


(まさか…自分はこの環境に満足していたって訳?)


そんな感情、や環境、馬鹿らしいと吐いて捨ててしまいたい衝動にフレンダは駆られる。
しかし、どうしても滝壺を前にして答える事が出来ない。
自分は葛藤しているのだろうか?


(…まさか私はアイテムをやめたくないって事?)


姉を探そうと思い、学園都市の裏事情にどんどん足を突っ込んでいった彼女は今では立派に身体ごととっぷりこの学園都市の闇に浸かっている。
アイテムをとんずらして自由になりたいと思っている反面、認めたくはないが、自分の現状の環境に満足しているのかもしれない。
487 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/02/12(土) 03:06:24.27 ID:8hjNMdxho
「…私は…お姉ちゃんが見つかったら…ここを出ようと思う…」


やっと絞り出した言葉のなんと力のない事か。
自分がどんな表情で言ったのだろうか。フレンダは知る由もない。


しかし、恐らくフレンダ自身が驚くほど顔を歪めていただろう。
滝壺はそんなフレンダの顔をじぃっと見つめている。


今日の夕方、第十四学区で黒人と話し、アイテムを抜けて、学園都市を出ようと決心したフレンダ。
しかし、自分とともに暗部を駆け抜けた滝壺の前ではその事をいうのに躊躇しなければならなかった。


アイテムのメンバーを知り合い程度にしか考えていなかったフレンダ。
繰り返しになるが、彼女自身が最もこの事に驚いていた事は言うまでもない。


(さっきあの黒人教師と話してた時は学園都市から抜けたいって思ってたけど…本当の所どうなのよ?ねぇ!)


フレンダは自分に言い聞かせるが答えが出ない。
姉に会いたい、その気持ちは勿論ある。でなきゃ、わざわざ暗部に落ちたりなどしない。


しかし、なぜ、その事を滝壺に言えない?アイテムの他のメンバーに密告される事を恐れている?いや、そんな矮小な気持ちではない。
滝壺という最近できたもう一人の姉…の様な存在と離れ離れになることが嫌だから?
488 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/02/12(土) 03:10:09.52 ID:8hjNMdxho
「滝壺と離れたくないからかもしれないなぁ」


気付けば口に出していた。
実の姉に会いたいと思う反面、自分の要求通りに応えてくれる姉の様な存在、滝壺と離れたくないのだ、とフレンダは思った。
彼女の出した答えを聞いていた滝壺は何と答えていいかわからない、といった感じで所在なさげにキョロキョロとあたりを見回していた。


「そ、それって、フレンダが私の事お姉ちゃんみたいな人って思ってるから離れたくないってこと?」


「うん…滝壺、あったかいよ。だからかもしれないなぁ。私、ここ最近滝壺に甘えすぎだし、離れたくないって思っちゃったのかもしれないね☆」


「なんて反応すればいいかわからないよ、フレンダ」



「ご、ごめん…あはは…」


滝壺は確かに包容力がある。しかも自分の意見を言わないし、話を聞くのがうまい。しかも優しいときた。
姉の様な存在に見えていた滝壺は一人の女性としても非常に魅力のある存在に見えた。


このまま一緒にずっと…フレンダはそんな事を考えつつ頭を振ってその考えを頭の中から払しょくする事に努める。
あくまで滝壺は姉の様な存在であって、恋愛の対象ではない。
しかし、そう思えば思うほど、目の前にいる滝壺理后という女性が魅力的な女性に見えた。


「フレンダ。ご飯にしようよ」


「あ、うん!」


フレンダのゆがんだ思考は滝壺の声に突如、遮られ、夕ご飯にする事になった。
暗部で蓄えた潤沢な資金を利用して今日も宅配のご飯を注文する事にした。
489 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/02/12(土) 03:10:58.44 ID:8hjNMdxho
「結構おいしかったね、滝壺」


「うん。シャケ弁当、初めて頼んでみたけど結構おいしかった」


二人は夕食で頼んだ弁当セットの感想を各々述べるとリビングにあるソファにぐったりと腰を落ち着ける。


「ねぇ、滝壺?」


「何?フレンダ」


「いつもありがとうね、私のおままごとに付き合ってもらって」


フレンダは横に座っている滝壺の表情をうかがうように、のぞきこみながら,日ごろ一緒に居てくれている事についての感謝の言葉を述べる。
滝壺は「ううん、いいよ」といつものやさしい表情で答える。


「ちょっと、目つぶって?」


フレンダの抑揚のない声が滝壺の耳朶に響く。
滝壺は素直に目をつぶり、なんで?フレンダと言おうとするが、そのセリフが彼女の口から出る事はなかった。
何故なら、滝壺の唇がフレンダの唇でふさがれたから。


「…ん」
490 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/02/12(土) 03:12:23.92 ID:8hjNMdxho
「感謝の印だよ、滝壺。ううん、お姉ちゃん、いつもありがとね」


フレンダは少しだけ顔を赤らめて前髪を恥ずかしそうに掻き分けながら言うと、にこりと笑って見せた。
当の滝壺は自分が何をされたかいまいち理解してないような表情だが、自分の唇に手を当てる。


滝壺はつい先ほどまでそこにフレンダの唇が重ねられていただろう箇所をゆっくり自分でなぞっていく。


「ねぇ、フレンダ」


「な、何?」


「海外の人は姉妹でもあーゆーキスをするの?」


フレンダの顔がみるみる赤くなっていった。



「結局…」


「結局?」


「滝壺!ゴメン!」


フレンダはがばっ!と頭を垂れる。
海外でも唇はあんまりしないって訳よ…とフレンダは小さい声でつぶやく。
491 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/02/12(土) 03:16:49.89 ID:8hjNMdxho
フレンダは顔を赤らめながら天井を所在なさげにぼーっと見つめる。
今日一日で色々なことがあった。


電話の女の正体が自分よりも断然年下の少女だった。
そしてその彼女を尾行して聞いた姉の情報。

錯綜するこの環境の中で、フレンダは誰かに甘えたいのかもしれない。


そして、その甘えが少しだけ変質した。

滝壺の姉の様な抱擁力と、まるで小動物の様な小さく、かわいらしい一面。

それらを同時に直視したフレンダは一瞬後者の姿に見せられたのだった。
492 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/02/12(土) 03:20:13.72 ID:8hjNMdxho
――同日、学園都市のジャンクションエリア 調布 夜

巨大な壁…と言われて想像するもの…万里の長城、ベルリンの壁、西サハラの壁…。
それらとは規模こそ違えこそすれ、外敵や侵略者から防備するといった名目で敷設された学園都市の壁もそれらの壁と同じ効力を持つ。


「あー、見えてきましたねぇ」


「あぁ」


砂皿が運転する黒のレクサスIS350Cはサンルーフを全開にあけ、首都高を乗り継ぎ、学園都市の行政下に置かれている調布ジャンクションに向かって下りていく。

ジャンクションの左右に広範に広がる壁。

これが日本と学園都市との間に言わば、国境を構成している壁だった。

そこを越え、壁の下をくりぬかれたトンネルをくぐっていくと一気に視界が開ける。そこが学園都市だ。


「お前にとっては…久しぶりだな、ステファニー」


「えぇ…ここのどこかに妹がいるんですね…」


ステファニーは砂皿と話をしながら現れては後ろに流れていく巨大なビル群を見回す。



数年前に学園都市を離れた時よりもさらに多くの高層ビル群が立ち並んでいる。

彼女はかつて同じ学校で教鞭を採った教諭達や警備員で知り合った他学区の教諭達の顔をおぼろげに思いだしてみる。
493 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/02/12(土) 03:22:38.14 ID:8hjNMdxho
(もう、知り合いはあんまりいないのかな…?)


学園都市の生活に飽き、世界を見てみたいと思って自分の足で気の向くままに勝手に世界を旅して、傭兵になった。

そして、結局はここに戻ってくるのか、我が儘なお姉ちゃんだね、とフレンダの事を考えながら内心につぶやくとステファニーは左右に流れていく夜景を再び目で追っていく。


「砂皿さんはここに最近来たんですよね?」


「あぁ。かつてお前が所属していた組織…アンチスキルとか言ったか。教員だけで構成される警備部隊だったか…」


「そうですね、警備員は教諭だけで基本的に構成されています」


「ふん。それで技術漏えいを防ごうと言うのが土台無理な話なんだよ、ま、その話しはいいとして、俺は八月の最初にここに来た」


「じゃ、砂皿さんにとっては久しぶりって言うよりかは、またかよって感じですね」


「あぁ」


砂皿とステファニーは基本的に二人一組で行動している。
しかし、要請があった場合、それぞれ単独で行動する事もある。

例えば、砂皿は八月の冒頭で警備員の要請にこたえて狙撃を敢行した事もあった。
494 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/02/12(土) 03:34:15.09 ID:8hjNMdxho
「八月の狙撃のおかげかどうかはわからないが、武器の搬入は比較的楽だったな」


「えぇ。結構多めに見てくれましたね。気付かないの武器がほとんどでしたけど」


暑さでサンルーフを全開にして走るIS350Cの後部座席の下には大量の武器が隠匿され、持ちこまれていた。
ジャンクションを下りる時には厳密な審査はないですしね、とステファニー。


後部座席には二つのアタッシュケースが置かれていた。名目はただのアタッシュケース。
だが、その中身は二つともヘッケラー&コッホ社のMP5クルツ・コッツァーが収納されていた。


先述したが、後部座席のシートの下には武器が収納されている。
それらはそれぞれ二人のえもので今後の戦いのパートナーでもあるのだ。


狙撃を最上の暗殺手段と考えている砂皿はM16突撃銃をカスタムしたSR25をばらして車に搭載した。
コッツァーのはいっているトランクの中にはSR25に着脱できる各種光学照準器や暗視装置等、また大量の予備弾が仕込まれていた。
また、在日米軍基地で武器の横流しをしてもらうために事前に取得しておいた大量のドル札も入っていた。


そんな砂皿緻密とは対照的に、ステファニーは派手好きな破壊魔とでもいおうか。
アタッシュケースに入れられているヘッケラー&コッホが改修したM4カービンの新モデルであるHMK416を持参した。
赤外線や各種光学照準器を装備しているが、あくまでレールに接続するだけで使うことはないだろう。


HMK416よりも、その銃の下部レールに接続されているグレネードランチャーが彼女の派手にぶちかます性格を如実に表しているようだ。
495 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/02/12(土) 03:39:18.58 ID:8hjNMdxho
一般人が見たらおおよそ卒倒する様な兵装だが、学園都市の能力者や警備員との戦闘が起きないとも限らない。
妹を学園都市から連れ出すにはそれなりの覚悟が求められるのだ。


「にゃはーん、取りあえず、今日は適当にアジト構えちゃいましょっか?」


「そうだな」


ステファニーの提案に砂皿は首肯するとカーナビで至近にあるホテルをサーチする。

検索でヒットしたホテルに二人を乗せたツードアクーペが勢いよく向かっていく。


戦端が始まるまでまだ相当の期間を待たなければならない。

北京で押収した学園都市の裏組織…暗部とでも言おうか?



そのファイルに掲載されているフレンダの情報以外はまだ何もわからない。

しかし、状況が更新されるまでそう時間はかからないだろう。








妹を救出する為、姉に会う為。二つの思いが交差するとき、物語は始まる。
496 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/02/12(土) 03:41:40.24 ID:8hjNMdxho
寝ます。
近日中に投下する。

武器や私服の説明ながったらしくてすまんなぁ。
誤字脱字拙い表現で色々問題はあるだろうけど、頑張るんでこれからもよろしくっす。
497 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/12(土) 03:46:52.95 ID:QG8LHIgQo
おつおつ
安心のHK印

滝フレがツボにきたでござる
ちょっと浜面去勢してアイテム+佐天さん+あげ子でめくるめく百合の世界作ってくる
これで誰ももげなくていい、誰もが笑って暮らせる学園都市ができるはずだ

498 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2011/02/12(土) 04:07:18.14 ID:BnGTyW7AO
滝フレ…だと…
まあ浜麦作っちゃってるから何となく想像はついた
カプ厨じゃないから気にしないけど
>>1

>>497仕上子はねーよw
499 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/12(土) 18:45:36.82 ID:6+gFVEwDO
佐天さんももう少し堕ちてもいいかな

御坂と間接的でもいいから戦って欲しい

フレンダ絡みで何か事件起こりそうだしな

500 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/02/14(月) 01:09:25.16 ID:J4PEtpCFo
こんばんわ。
投下します。
レス読みました。貴重な意見、考慮します。

読み返せば、本当に蛇足が多くて、要所が足りないSSですね…。
この作品を読んでくれる皆様、レスくれる皆様に多大な感謝を!


あらすじ

フレンダは外国人を積極的に受け入れている第十四学区に向かっていく。

そこでステファニーを知る人と出会うものの、現在のステファニーの状況に繋がる情報は得ることが出来なかった。


しかし、フレンダはステファニーと一緒に行動していると思われる傭兵の正体を掴む事に成功する。
その情報を得ようとし、彼女は翌日に向けて滝壺と一緒にちょっとキスして休む。


同日、ステファニーと砂皿緻密が学園都市に来学する。
姉と妹の思いが交わるとき、物語は始まる――!
501 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/02/14(月) 01:11:46.06 ID:J4PEtpCFo
――翌日

ステファニーは宿泊した調布付近のホテルで目を覚ます。


「うー…今何時?」


寝起きの顔にはまだ少しだけ少女の様なあどけなさが残っている。
彼女は起き上がる。
気づけば隣のベッドで寝ていた砂皿がいない。


砂皿さん、どこいったんだろう?と思うが直後にシャワーの音が聞こえてきた。
その音を聞いてひとまず彼女のパートナーがいることで安堵する。


(今日は情報収集かなぁ、やっぱり。昔のツテでも当たってみますかね)


妹が学園都市のどこにいるか。
そう考えたステファニーは妹であるフレンダの目撃情報を募る事にした。
となれば行く先は大体決まっている。


外国人を主体に受け入れている第十四学区。
そこで旧知の間柄の黒人男性に接触する。

連絡先はわからないので直接アポイントメント無しで行くことになるが、構わなかった。


(後は…アシの確保ですね、金には困ってないんで車かバイクを買った方がいいんじゃないですかね)


彼女は今日一日の予定を頭の中で組み立てていく。
まずは第十四学区へと向かうアシの確保。


レクサスIS350Cは砂皿の車なのでとりあえずは自分用の車かバイクを手配しなければならない。


(アメリカンとかいいかも…ってまた砂皿さんに目立ちすぎだって言われちゃいますかね?)
502 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/02/14(月) 01:14:00.92 ID:J4PEtpCFo

ステファニーはその目立ちすぎる容姿ゆえ、この暗殺稼業には向かない。
砂皿はそのことを慮り、何度もこの業界から足を洗うように警告したが、いかんせん、それは彼女には受け入れられない内容だった。


学園都市の教諭として教職に就いた傍ら垣間見てきた路地裏で展開される抗争。
教員として裕福な暮らしをし送る反面、能力を用いて戦う学生達や徒党をなすスキルアウトをも見てきた彼女はいつしか、世界の戦場を見てまわろうと決心した。


果たして、本当の戦場とはどんなものなのだろうか?


彼女の探究心は実際に戦場に赴くまでにむくむくと膨れ上がっていた。
しかし、彼女の傭兵としての人生のデビュー戦であるコスタリカでは対戦車ヘリでボコボコに打ちのめされ、最悪な結末。


カナダ軍として統合タスクフォースに身をおいていた時は、軍務に服しながらも、戦闘に参加する事はなかった。
学園都市でも警備員としてスキルアウトや能力者と戦ったものの、大規模な戦闘は経験する事はなかった。


そんな彼女は自分の腕を試してみたい、という思いがあったのかもしれない。
ステファニーは気付けば学園都市の安全な生活空間から離れ、硝煙の立ち込める戦場に向かおうと決意したのだった。


しかし、いざ実際に戦場に来てみれば、学園都市で起きている抗争とは比べものにならない惨劇が展開されていた。
結局は人は死ぬ直前まで行かなければ自己の生命をの危機を顧みることはしない。


コスタリカで対戦車ヘリに追い詰められたとき、ステファニーは初めて自分がぬるま湯の生活を送っていたことを自覚したのである。
503 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/02/14(月) 01:15:47.27 ID:J4PEtpCFo
(けど、結局、ここに戻ってきたって訳ね)


妹の口癖を不意に思い出して心中でつぶやいてみる。
久しぶりに対面したら妹は私になんていうだろうか?「バカなおねえちゃん」とか「何で早く迎えにきてくれなかったの」とか。


とにかく、妹にどんな事を言われようが構わない。

妹がこの街の闇に浸っているというのならば奪い返すまで。


自分は戦場に身をおくことをよしとしている反面、ステファニーはそうした何かしらの惨劇な光景や凄惨な話しを妹にする事を極度に嫌っていた。
ステファニーは両親を失って以後、汚いものは自分に、綺麗なものだけを妹に見せようと思っていたのだ。


理由は単純だった。
交通事故で両親が亡くなった時、フレンダはおお泣きした。
あんな妹の姿をもう、二度と見たくなかったから。





フレンダにだけはせめて良い人生を。
どうか、彼女に、どうか、どうか、今後、良い人生が待ち受けていますように。
504 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/02/14(月) 01:17:10.29 ID:J4PEtpCFo
両親が亡くなってから、ステファニーは両親に代わって、フレンダを守るために強くありたいと思うようになった。
カナダ軍に入隊したのもそれがきっかけなのかもしれない。


しかし、彼女がそう思えば思うほど、フレンダと会う時間はなくなっていった。
そして、いつしか高校生に相当する年齢に達した時、二人は別離していた。


取りたてて中が悪くなった訳でもないのに。


ステファニーはフレンダを守ろうと思う反面、世界を見てみたいと思ったのだ。
学園都市の裕福な生活にひたっているのも良い。警備員としての格闘技術も修得し、それなりに自信があった。


ちょっとだけ、そんな気持ちでステファニーは学園都市を離れ、戦場を回った。
しかし、気付けば学園都市を抜けだし、はや数年が経っていた。




そして傭兵生活が板についてきた、と思った矢先だった。
そう。先日、北京に退避した華僑の連中の襲撃現場で見つけたフレンダの顔写真。

あの写真がステファニーを再び学園都市に舞い戻らせるきっかけになったのだ。




(今度はもう絶対にフレンダから離れない)





汚れた世界を見るのは自分だけで良い。フレンダ。
お前まで私みたいな事をしちゃダメじゃないか。


ステファニーはひそかに妹をこの学園都市の闇から掬(すく)いあげようと決心した。
そう考えると、自然と顔が強張り、こぶしに力が入る。
505 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/02/14(月) 01:18:35.73 ID:J4PEtpCFo
(フレンダ、私は学園都市に戻って来たよ。一緒に故郷に帰ろうね)



ステファニーは妹を救おうと固い決意を胸に秘める。



とその時、ガチャリと砂皿がバスタブから着替えて出てくる。
ステファニーはいつもの笑顔の能面を作っていく。


「にゃははーん、今日は色々まわってきますねん☆」


「わかった。俺は横田の在日米軍に掛け合って爆薬を購入してくる」




二人の傭兵は妹を助ける為の下調べと下準備を始めた。
506 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/02/14(月) 01:19:31.17 ID:J4PEtpCFo
――アイテムの共同アジト(ステファニーと砂皿が下準備を始めたのとほぼ同時刻)

「ねぇねぇ」


「何?フレンダ」


フレンダの顔が滝壺の胸の辺りからひょっこり顔を出す。
何も身長差がそこまであるわけではない。


フレンダが滝壺の顔を見れるように、あえて下がっているのだ。なのでベッドから足が出てて、フレンダはちょっと寒かったりする。
けれど、その寒さを埋めてなお余りある滝壺の温かさに身をゆだねてしまえば、寒さなどどうでもいいと彼女は思う。


「今日も…その、ありがと」


「平気だよ、気にしなくていいよ」


滝壺はそう言ってやさしく微笑み返す。


フレンダは滝壺の背中に手を回す。
片方の腕がちょっとしびれるけど気にしないでおく。


「フレンダって甘えん坊だったの?」


「まぁ…ね…もう少し…こうしていい?」


「いいよ」


フレンダが滝壺の薄い胸板に顔をうずめる。
507 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/02/14(月) 01:20:50.65 ID:J4PEtpCFo
それに応えるように滝壺はフレンダの頭を優しくなでてやる。


その状況がしばらく続いて、フレンダはおもむろにベッドから立ち上がる。
フレンダを抱きかかえる体勢になっていた滝壺は立ち上がった彼女を見上げる。


「今日も…探しにいくの?」


「うん。ちょっと警備員に聞きに行ってみる…私みたいな子供に機密情報なんて教えてくれるかわからないケド…」


「行ってみないとわからないよ…。一緒にいこっか?私、今日暇だし…」



「良いの?結局、何も情報なくて肩透かしに終わっちゃうかもなのに?」


しばらくの沈黙のあとフレンダは滝壺にそういった。


仕事のない日はそれぞれ自由に行動するアイテムのメンバー。
フレンダは、私の勝手な人探しに付き合ってもらわなくても…と思う反面協力してくれる姿勢を見せてくれる滝壺がちょっと嬉しかった。
でも…と彼女は思う。


(滝壺…確かに嬉しいよ。でも…私は…お姉ちゃんの手がかりを見つけたら…アイテムを抜けるかもしれないのよ?)


そんなアイテムを裏切ろうとしてる私に協力してくれるの?フレンダはベッドから起き上がって眠気眼をこする滝壺をまっすぐに見据えながら思った。
508 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/02/14(月) 01:21:45.27 ID:J4PEtpCFo
今日はまだ麦野から連絡が来ない。
急に仕事が入ることもあったが、現段階では仕事はない、と決めてフレンダは外出する支度に取りかかる。


「肩透かしになってもいいよ。私、仕事ない日はここでずーっとぼーっとしてるだけだし」


滝壺はそう自嘲気味につぶやくと「ね?」とフレンダに同行する許可をもらうために首を少しだけかしげて見せた。
結局、フレンダは滝壺の協力を断り切れず、一緒に警備員の詰所に行くことになった。


フレンダは思う。

姉が学園都市に来ているかどうか、それすらも定かではない。
しかし、このまま学園都市の暗部に身を沈めていく事は絶対に承服できない。


姉を探すために暗部に堕ちた彼女が、そこで斃れてしまうなど本末転倒だ。
大好きな姉はまだ生きているのか。どこかの戦場でのたれ死んでいるのか?


それすらもわからない。
ただ、アイテムで身を擦り減らして終わるつもりなど毛頭ない。



電話の女との接触によって回り始めた姉の捜索作戦という歯車が回り始めた。
まだまだ解決しなければいけないことは山ほどある。



しかし、フレンダは姉を探すための小さな、小さな第一歩を歩み始めたのだ。
509 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/02/14(月) 01:22:47.42 ID:J4PEtpCFo
――第十四学区 

ステファニー=ゴージャスパレスはバイク屋でハーレーのFLSTSBを購入する。

大排気量を備えたアメリカンバイク。バイカーの垂涎の的でもあるハーレー。
その中でもファットボーイと呼称されるソフテイルファミリーで大排気量を誇るこのバイクは妹捜索の今後のよきパートナーとなるのである。


ファットボーイをとある学校の校門の前に止めるとステファニーはヘルメットを華麗に脱ぎ、抱えたまま学校に入る。
この高校にかつての友人が働いているのだ。


立哨の警衛に話をつけるとなにやらつぶやいている。
昨日も白人が云々とぼやいているが気にしない事にする。


(職員室は…確かこっちだったわね…)


ステファニーはかつて教鞭を握っていた頃の職員室の配置図を思い出し、階段を上っていく。
記憶が正しければ二階に職員室がある。


昔の顔なじみがいるだろうか、と考えるが、ほんの数年の教員生活だ。
自分の事を覚えてくれている人の方が少ないだろう。そんな事を考えながらステファニーは職員室の扉をノックする。
510 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/02/14(月) 01:23:57.19 ID:J4PEtpCFo
ノックをして彼女はドアを横にスライドさせる。
職員室はやはり外国人受け入れの第十四学区らしく、外国籍の教員の姿が目立つ。


何人か見知った顔があり、ぺこりと挨拶をすると、ステファニーはその中に面会を希望する黒人教師を見出そうとする。
しかし、一通り見ても見あたらない。授業中だろうか?とステファニーが考えるのもつかの間。


「あぁ…隣の部屋に来てくれって言ってましたよ、ステファニー先生」


久しぶりに“先生”と呼ばれ、一瞬動揺しつつもステファニーは隣の教室へ。
彼女の事をよんだ人物はかつて警備員として一緒に働いた英国人の教師だった。


その男性に「よっ!相変わらず結婚してないんですかぁ?」と隣の部屋に向かいつつ、茶化し文句を言ってやる。
男は顔を赤くして「Shut up!」と言うと腕時計をちらと見て教室を後にしていった。


ステファニーはその男と反対側の出口から退出すると隣の応接室にノックをして入っていく。
すると黒人教師が待っていた。ステファニーはその黒人に軽く会釈をする。
511 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/02/14(月) 01:25:16.11 ID:J4PEtpCFo
「こんにちわ、久しぶりですね」


「久しぶりだな、ステファニー」


二人はお決まりのあいさつをいくつか述べて世間話を交える。
そして一通り懐かしい話も終わると男がため息をつく。
それを合図にするかのように男の目が冗談めいた会話をする時とは異なる真剣なまなざしになった。


「昨日お前の妹が来た」


開口一番に黒人教師はフレンダが昨日この場所に来た事を告げた。
ステファニーは一日前に自分が探している妹がこの場に来ていた事を聞かされ、自分の肌がぶると粟立つのを感じた。


警衛がつぶやいていた”白人が云々”とはフレンダの事だったのかも知れない、と内心につぶやく。


「にゃははーん。いっきなり本題来ましたね、ま、私も世辞とか話すつもりはないんですけどね」



ステファニーは飽くまで平静を装っているが、高鳴る胸の拍動を抑えられそうにはなかった。
妹がこの学校に来ていたと言う事実、そしてここらから話すであろう妹の所在に関して…胸をときめかせない訳にはいかなかった。
512 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/02/14(月) 01:27:03.25 ID:J4PEtpCFo
ヒュボッ…


しかし、期待と不安に渦巻く心境のステファニーの要求にはおいそれと応えない黒人教師。
彼はスーツの裏ポケットからデュポンのジッポーを取り出して、胸ポケットから取りだした煙草に火をつけていく。


着火した煙草をひょいとくわえ、「ふーっ」、と男は口から煙りをはく。
そして、一拍置いてから口を開く。


「妹さん、お前の事を聞いて来たよ」


瞬間、自分の体を確かにびりりと電気が走り抜けるのをステファニーは知覚した。
彼女は「本当?」と黒人教師に聞き返すと、その男はこくりと頷く。


「私の妹、フレンダは、何を聞いてたんですか?」


「お前の行方だよ」


ステファニーが妹を探している様に、妹も私の事を探しているのだ。
それが彼女にとっては嬉しかったし、同時に辛かった。
513 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/02/14(月) 01:28:26.39 ID:J4PEtpCFo
フレンダ…お前は何で私の事を探してるの?ステファニーは妹が自分の事を探す理由…が何となくわかり、自分の胸が締め付けられる様だった。
半ば放置同然で妹を学園都市においたまま海外へ。
それを知らずに学園都市で姉を捜し続けた妹…ステファニーは罪悪感を感じずにはいられなかった。


彼女は散々フレンダの来学には反対した。しかし、フレンダは学園都市に来た。
しかも、北京で回収した資料を見るからではどうやら学園都市の闇で活躍しているようだった。


いや、活躍ではない。とステファニーは自分に言い聞かせる。



結局は戦火に身を置き、苛酷な命のやり取りをしているのだろう。
活躍というたった二文字の背後には何かこう、硝煙と血生臭い雰囲気をステファニーは感じずにはいられなかった。



アイテムという組織が学園都市の治安を維持している一部隊なのはわかった。何をしているのかも大体想像できる。
しかし、そうした汚れ仕事をしているフレンダに対して取り立てて、しかるとか、おこるとかそうした感情はステファニーには湧かなかった。


寧ろ、自分の明るい性格の反面、勝手に我が道を行き、妹が心配するから、と理由付けして勝手に放置同然で妹をおいて学園都市を去った自分のせいだ、とステファニーは自分の内心に言いつける。
514 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/02/14(月) 01:29:29.18 ID:J4PEtpCFo
かつて教諭として学園都市に来て、警備員としても勤務していたステファニー。
風紀委員と警備員以外にも治安を維持する部隊がいるとは…と彼女は内心に少し驚くが、反面、学園都市の治安を維持する為にはやはりそういった組織があるのか、と納得する。


(有志の教諭と学生だけってのが無理な話しなのよねー)


いまさらながら、学園都市の治安維持体系を嘆いても、何もはじまらない。
ステファニーの黙考を見つめていた黒人教師はおもむろに話し始めた。


「で、君も妹を探しにきたってのか。妹とすれ違いかー」


「そうなっちゃいましたね」


平坦な表情で淡々とステファニーは黒人教師に言い放つ。
男は目の前にいる彼女の淡々とした表情の中に妹を奪い返そう、と固く決めた炎の様なものがゆらとその双眸に映るのをみた気がした。


「ちなみに、妹はどこにすんでるかとか、わかりますか?」


「すまない、そこまではわからないんだ」


「……許されるなら、赤坂の情報網でどうにかなりませんか?私じゃもう警備員の情報バンクにアクセスする権限がないんで…」



ステファニーは不意に男の本業の地である赤坂の名前をついつい口に出してしまった。そして彼女は学園都市外に存在する地名を思い返す。
六本木、溜池山王と言った一等地から程近い所には在米大使館が置いてあり、その一区画には極東CIAが本拠を構えている。
515 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/02/14(月) 01:30:05.67 ID:J4PEtpCFo
在日米軍は隠れ蓑。
この黒人教師の本質は極東CIAの在日支部の男なのだった。


ステファニーはかつての教諭友達でありながら警備員としても活躍している、有能な情報将校でもある彼を信頼して妹の事を聞きだそうとした。
しかし、男からの返答は苦笑いと二本目の煙草を吸おうとして取り出したジッポのカチンという音だった。


ステファニーは内心に舌打ちしながら、黒人教師―とは名ばかりのCIA要員―が口を開くのを待った。


「すまないなぁ…学園都市だけはわれわれの諜報能力をもってしても…手厳しく監視されていてね…情報収集もままならないんだ」


「そうですか…」



ステファニーは少しでも期待した自分をたたきつぶしてしまいたい衝動にかられると黒人教師から聞き出せる情報はない、と判断した。
そして早くも次は…と次点での訪問先を考えていた。



だが、黒人教師の「待てよ…」という発言にステファニーの金髪の眉がぴくりと反応した。
そして「何?」と彼女は聞き返す。
516 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/02/14(月) 01:30:40.34 ID:J4PEtpCFo
「八月の最初の週に学園都市で狙撃事件が起こった。知っているだろう?」


「えぇ。もちろんですとも」


ステファニーはその狙撃があたかも自分の手柄であるかのように胸にドンっ!と手をあてる。
実際は彼女と行動を共にしているスナイパーによるものなのだが。


「その狙撃手の狙撃を要請した警備員の部署に行くとか行ってたな…」


「なるほど」

(じゃ、妹はどこからか得た情報で私と狙撃手…砂皿さんが一緒にいるって事を知ってるって事か?)


けど、とステファニーは思う。フレンダは警備員のどの部署が狙撃を要請したか知っているのだろうか?
適当に警備員の部署に行けばいいと言う訳ではない。果たして、フレンダはどのようにして砂皿に狙撃を要請した部署を知りえたのだろうか?


まさか当てずっぽうに行くわけでもあるまい。
各学区にある警備員の支部だけでも相当数に上るのだ。
それをひとつひとつ聞き出していたらいくら時間があっても足りないだろう、とステファニーは思う。


ともあれ、ステファニーは妹も自分の事を探してくれているという事に嬉しく思った。
と同時にいつも迷惑かけてごめんね、とまだ見ぬフレンダに頭を下げたい気持ちになるのであった。
517 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/02/14(月) 01:31:47.15 ID:J4PEtpCFo
――柵川中学校の学生寮

佐天は夏休みを最後の最後まで満喫しようと思い、今日は秋物の服の偵察にでも、と思い吉祥寺に行こうとした。
しかし、その予定を実行に移そうと思い、パジャマから私服に着替え始めた時だった。


インターホンがピンポーンとなる。
佐天は一週に留守を装おうと思ったが良心の呵責で結局ドアを開ける。
するとそこには寝起きの佐天と同じくらい、いや、それよりももっと眠たそうな表情の少女。滝壺がいた。


「おはよう。電話の女」


「あ、え、あぁ…おはよう…」
(滝壺…理后?)


昨日、ファミレスで会ったばかりなのだが、その時と全く同じ眠たそうな表情を浮かべている彼女は佐天の暮らしている寮のドアの前に立っていた。
佐天は動揺しつつも滝壺の後ろに申し訳なさそうにしている金髪ブロンドの少女も目撃した。


「フレンダも…どした?」


「今日は、ふたりで来たの」


滝壺の後ろに隠れているフレンダに変わり、滝壺が佐天の問いに応える。
時計は既に十一時。夏の日差しが徐々に上がっていき、さながら殺人まがいの熱線になりつつある頃会いだった。
佐天は「えーっと何か?」と苦笑しつつ首をかしげた。


「涙子には申し訳ないけど、今日一日付き合ってもらいたい訳なんだけど…」


「わ、私が?」
518 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/02/14(月) 01:32:36.27 ID:J4PEtpCFo
佐天はフレンダの要望を聞き驚きを隠せない様子だった。
しかし、そこはクソ度胸の佐天。
驚きはしたものの、どうしたのだろう?と興味が先行し、彼女はフレンダに質問していた。


「な、なんの用なの…?」


「昨日の続きなんだけど…いいかしら?」


昨日の続き…佐天はふと思い出す。
確か昨日は夕方レストランからかながら帰還した時にフレンダの人探しに協力して少しだけ情報データを閲覧したのだった。
とりたてて拒否する理由はなかった。佐天はいいわよ?と鷹揚に答え、寮の部屋に二人を案内した。


「「おじゃましまーす…」」


「はい、どーぞ」


佐天は取りあえず二人を寝室とリビングを兼ねている部屋で二人を待つ様にいうと箱で売っているアイスを三本取り出し、二人に渡す。
一本は自分用だ。


「ありがと」、とフレンダと滝壺がいう。
アイスを頬張りながら佐天は「私は何をすればいいの?」とフレンダに問いかけた。


「昨日みたいに情報バンクに入ってほしんだけど…」


フレンダの申し訳なさそうに頼み込む姿に佐天は拒否する理由もないので寮の入室と同じように許可。
佐天はアイスをくわえながら枕の下にしまってあるタブレット型携帯電話を取り出す。
519 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/02/14(月) 01:33:22.74 ID:J4PEtpCFo
既に電源はつけられており、佐天はモニタにタッチして情報バンクにアクセスした。
そしてバンクの目次の所まで簡単にやってくると何を調べればいいの?と言った素振りでフレンダに向き直る。
するとフレンダは「警備員の報告書とか見れないの?」と恐る恐る佐天に告げる。


「は?」


いきなりの質問に佐天は一瞬目が点になってしまった。

警備員の報告書。果たしてそんな代物が佐天の目に触れる事が出来るのだろうか?
そしてフレンダはなぜ、それを見ようとしているのだろうか?


さまざまな質問が彼女の頭の中に浮かんでは消え、それを繰り返しつつ、佐天はフレンダの要望通り、警備員の報告書ファイルにアクセスを試みる。
やりかたはwebの検索の様に簡単にできる。

ただ、その内容が一般人に触れられるレベルにあるか否か、それに尽きるのであった。


「何を検索すればいいの?見れる情報は限られると思うんだけど…」


「八月の一週目の狙撃に関して」


即答。まさしくこの通りだった。
フレンダは佐天の質問に即座に答えると、食べ終わった、アイスの木の棒をくわえながら結果を待つ。
520 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/02/14(月) 01:34:08.69 ID:J4PEtpCFo
(八月の狙撃?なんだそりゃ?)


佐天はアクセスできるか疑問に感じつつも、警備員の情報が開陳され、時系列順にまとめられているサイトに到達した。
そしてその時系列の中から今年の八月をピックアップする。すると八月の狙撃に関しての情報が出てきた。


佐天はフレンダと滝壺にその事を言う前に自分で情報を読んでいく。
報告書にはおそらく記載されているのであろう、狙撃手を要請した警備員の場所は見えない様にぼかしてあるが、それ以外は閲覧できた。


「砂皿緻密…警備員の要請で狙撃をした男の名前ね」


「その男…情報バンクでヒットしないかな?」


フレンダが佐天の後ろからモニタをひょいとのぞき込む。
佐天はフレンダの要望通り、“砂皿緻密”という男の情報を調べていく。
検索結果からヒットしたものの、現段階でどこにいるかどうかは把握できなかった。
521 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/02/14(月) 01:35:59.86 ID:J4PEtpCFo
フレンダの知り合いのステファニーにしろ、砂皿とかいう狙撃手にしろ、現段階でどこにいるかを把握する事は出来なかった。
けれど、と佐天は思った。
一人だけ…もしかしたら、フレンダが知りたがっている砂皿という男の正体を知っていそうな人物がいる。


佐天はほんの少しだけ、心当たりがあった。いや、心当たりと言うかむしろ、ほぼ確証など無いのだが。


ともあれ、情報バンクで調べても、出てくるのは最近の情報だけで、連絡先や、現時点でどこにいるかと言ったことは把握できずじまいだった。
ならば、実際に外へ出て、行くしかなかった。そう。佐天がおよそ面識があると思える警備員の人物は一人しかいなかった。


あの秘書然とした出で立ちで金髪の女性。
学園都市の治安維持部隊の一派MARの指揮官、テレスティーナ。


「ねぇ、フレンダ?」


「何よ?涙子」


「一人だけ…。その人なら知ってるかもしれない!」


「え?ホント?」


確証はないとは言い切れない。
警備員の一部門であるMARを束ねる彼女なら、外部組織に仕事の要請をした警備員たちを良く思っておらず、その腹いせで情報を教えてくれるかも知れなかった。
僅かな、ほんの僅かな可能性に掛けようと、佐天は思い、とっくに食べてなくなったアイスの木の棒をくわえている滝壺とフレンダを見据える。


「なんとも言えないけどね、いくわよ。一か所だけ心当たりがあるの」
522 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/02/14(月) 01:36:39.93 ID:J4PEtpCFo
――Multi Active Rescue(先進状況救助隊)指揮所ビル前

佐天、滝壺、フレンダ。
数日前までは決して顔を合わせる事はなかったであろう三人。
彼女たちは夏の日差しにさらされ、汗を滴り落としていたが、佐天のナビでなんとか到着した。


彼女たちの前にはビルと各種車両を収容するであろう広大な敷地があった。
このビル内にいるであろうと思われるテレスティーナに佐天は会おうというのだった。


「結局、ここまでしてもらって悪いわね…」


フレンダが申し訳なさそうに謝りながら佐天に頭を下げる。
一応、以前の多摩センターのホールで行われた会合に出席した佐天ならば、テレスティーナに会えるだろうと浅薄ながら考え、レールに敷かれた門の前にいる警衛に声をかけた。


その光景を遠巻きから滝壺と一緒に見ているフレンダは佐天に感謝した。
佐天は連絡用に使っている携帯電話を出して身振り手振りで話す。
その熱意に警衛もうんざりしたのだろうか?佐天をMARの所有しているビルに招き入れたのだった。


「フレンダ達も良いってさ!」


佐天は遠くにいう滝壺とフレンダに手を振ってこたえる。
彼女に呼ばれた二人はおそるおそる、ゆっくりと佐天の方に向かって歩いてきた。
警衛の男は佐天達に一礼すると再びMARのビルの警備という名の暇つぶしに没入していくのだった。
523 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/02/14(月) 01:38:31.64 ID:J4PEtpCFo
ビル内は案外に冷えていた。
警衛の男が佐天を代表とする女性三人がテレスティーナとの面会を希望している旨を無線で誰かしらに伝えていたのを三人は見たので、後は会うだけだった。


「ねぇ、昨日の人探しの人物とは違うようだけど」


「そうね…涙子にはなんて言ったらいいかわからないけど、昨日探してもらった人とパートナーを組んでる人なのよ」


砂皿が狙撃手として学園都市の依頼した任務を遂行したなら、彼の連絡先を掴むのも不可能ではない。
この時に問題なのが、テレスティーナが佐天の事を知っているかどうかだった。
いきなり見ず知らずの人が「連絡先を教えてください」といった所で怪訝な表情をされるのは目に見えている。


三人はオフィスビルのとある一角のまえで立ち止まる。
そしてドアをノックすると内側から「どうぞ」と声がかかり、三人の少女たちは佐天を先頭に部屋に入っていった。


部屋の中は大きな机の上に置かれたPC、壁にはテレスティーナの一家と思しき家族の写真が多数掲載されていた。


顔面に刺青が施してある、さながら顔面凶器の様な男から、果ては頭部にシミがある胡散臭そうな好々爺然とした男まで。
そして極めつけは目の前のデスクに鎮座しているこの女。テレスティーナ。
524 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/02/14(月) 01:39:01.06 ID:J4PEtpCFo
壁にかかっている彼女の一家と思しき人々のポートレイトの人物達とはあからさまに人種、肌の色が違う。
しかし、そんなあずかり知らぬ事に思索を回す事はなく、佐天は大きな回転座イスに座っているテレスティーナにしゃべりかける。


「そちらは覚えていないかもしれませんが…以前多摩センターのホールでお話をお伺いしました…」


「世辞はいいわよ?で、何のようかしら?アイテムの連絡係と、アイテムの皆さん?」


三人は一様にびくりと肩を震わせる。
MARの警衛が報告したのかどうかわからない。
しかし、テレスティーナに佐天達の正体は露見していた。


佐天が懸念していたテレスティーナが自分たちの事を知っているかという懸念はどうやら回避されたようだった。
自分たちの立場を隠すつもりは特にないので佐天は「えーっと…」とつぶやきながら頭をかく。


「肩の力抜いて?緊張しすぎよ?」


テレスティーナはそういうとガチャリと自分の大きい机の引き出しを開ける。
佐天達からは見えないがそこからひょいっとマーブルチョコレートの入っている筒状のケースを取り出す。
525 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/02/14(月) 01:40:01.64 ID:J4PEtpCFo
「黄色かな?」とテレスティーナが何かを考えるようにして一粒チョコレートをケースから取り出す。
するとお見事。黄色のマーブルチョコレートが彼女の手の平に転がり落ちてきた。


それをぱくりと口にし、カリカリと噛み砕いていく。
その素振りを見つめていたフレンダが緊張している佐天の代わりに口を開いた。


「すいません。今日来たのは一つお伺いしたい事がありまして」


「どーぞ?何かしら?」


フレンダの両手にぐっと力が込められる。
そして緊張を押し殺すようにして彼女は喋った。


「八月一日の狙撃に関してなんですけど…」


「あぁ、あれね。狙撃の何を知りたいの?」


「いえ、狙撃の実行犯の連絡先がわかればぜひお教えいただけないかと」


「連絡先?ちょっと待ってね?」


テレスティーナは二粒目のチュコをぱくりと口に放り込む。
フレンダはその素振りを見、はやる気持ちを抑えて、両手にぐっと力がこもる。
526 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/02/14(月) 01:40:54.78 ID:J4PEtpCFo
「今どこにいるのかはわからないけど、当時の連絡先ならわかるわよ?」


「本当ですか?」


テレスティーナは「えぇ」と言うと彼女は机の引き出しからDOLCE&GABBANAの黒ぶち眼鏡を取り出す。
サイドに小さくロゴプレートが刻まれている眼鏡を品よく身にまとうとPCに何やら打ち込んでいく。


「えーっと、電話番号は登録されてないわ。けど、アドレスならわかるわ」


教えようか?という素振りでテレスティーナがフレンダ達に向かって首をかしげる。
フレンダは「よろしければ教えて下さい…」と柄にもなく頭をぺこりと下げた。


「良いけどこれは八月の第一週の連絡先よ?それ以後、かえてる可能性もあるわ。それと」


「それと?」


「知り合いっていう理由以外に何であなたがこの男の連絡先を知りたいのか、理由があるなら教えて下さらないかしら?」


おそらくテレスティーナのPCモニタには男の詳細が反映されているのだろう。
ときたま彼女の眼鏡にゆらと反射して見えるPCのモニタに映し出された情報をフレンダは無理とわかってても見入ってしまう。
眼鏡に反射するモニタに映し出される情報を読み解こうとするものの、テレスティーナの質問に答えなければと思ったフレンダは押し黙ってしまう。


「理由ですか…」


実の姉を探すための手がかりなんです!とは言えなかった。
フレンダはテレスティーナに質問する時に姉であるステファニーの事をこの女に聞こうとしたが、狙撃手の名前を聞く事にした。
527 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/02/14(月) 01:41:51.92 ID:J4PEtpCFo
ステファニーは学園都市から出ていった身。
それを学園都市の警備員のテレスティーナが快く思っていないのではないか?と仮定したからだ。


フレンダがテレスティーナの質問に窮していると彼女はそんなフレンダにいいわよ、と優しさをみせる事等はしなかった。
「じゃ、無理ね」と小さく息まくテレスティーナ。彼女は頭に手をやると「はぁ」とため息をつく。


「知り合いなら連絡先を知ってるはずでしょ?なら、機密上、教えることはできないわ?」


「いや、だからその連絡先が…」


言い訳をしようと思うのだが、フレンダは密かに結局はここもだめか、と思った。
その時、テレスティーナが何かを思い出したように「そういえば…」と机の引き出しにあった上質紙の束を取り出す。


「ねぇ、佐天さん?」


テレスティーナの会話の矛先がフレンダから突然、佐天にシフトチェンジする。
話を急に振られた佐天は「あ、はいっ!」と素っ頓狂な声を上げて曲がっていた背筋をピンとのばした。


「ここ最近学園都市の治安維持に警備員と風紀委員だけでは手がつかないって事は知ってるわよね?」


佐天はテレスティーナの質問に無言で頷く。
528 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/02/14(月) 01:42:30.91 ID:J4PEtpCFo
「実際に学園都市の統括理事会に気に入られようとして躍起になっている組織もあるって話もあるわ」


「そういう身内の恥をさらすようで恥ずかしんだけど」とテレスティーナは苦笑しつつそのファイルを取り出して佐天に手渡そうとする。
数歩歩いてテレスティーナからその通達が記されている紙を受け取って、佐天はその資料に目をやる。


佐天が読めない単語の羅列も散見される。
内容を理解する為に国語辞典か初春が必要だな、と思いつつ、書類に記載されている、読めない漢字を飛ばして読んでいこうとする。
途端、彼女の思考をテレスティーナの言葉が遮った。


「連絡係に護衛をつけるのよ」


「え?」


佐天は素っ頓狂な声を出していた。
昨日、フレンダが佐天にいった言葉。“電話の女が狙われないとも限らないでしょ”という言葉を思い出す。


フレンダは電話の女が狙われるのは冗談だよみたいな事を昨日言っていた。
連絡係に護衛をつけるとは、やっぱり連絡係も狙われるじゃないの!と佐天は内心に吐き捨ててテレスティーナの弁に耳を傾ける。


「内訌(ないこう)問題でかなり学園都市は荒れてるのよ…縄張り争いに固執して何やってんだか…」


テレスティーナは忌々しそうに愚痴をこぼす。
そして話が逸れかけていた事に気づき、「ごほん」と咳をして一度、律する様な素振りを見せるとモニタを見るために掛けていた眼鏡を外した。





「その護衛役に砂皿緻密をつけてあげようか?」
529 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/02/14(月) 01:44:18.94 ID:J4PEtpCFo
「は?」


テレスティーナの驚くべき提案に佐天は驚きを隠せないと言った表情だった。
仮に砂皿緻密が佐天の護衛に就くことになるなら、フレンダに取って話しが有利に展開する可能性が大だ。


砂皿と佐天が接触する時にフレンダを同行させてしまえば、その場で情報を聞き出すことも不可能ではない。
情報バンクで閲覧した厳しい目つきの男の表情を佐天は想像する。


暗部の組織に任務を伝達する連絡係は今まで狙われたことが無い。
しかし、ここ最近の学園都市の治安維持部隊による縄張り争いが激化してきた今、仕事の通達係にも身の危険が迫っている可能性が無いとは言い切れないのが学園都市の本音なのだった。

テレスティーナは返事に困っている佐天を尻目に話し続ける。


「統括理事会をひっくり返そうとか考えている馬鹿な高校生とか、一杯いるのよねぇ〜…」


「はぁ…そうなんですか」


「ホントに危ないらしいのよ、最近。だから、護衛をつけるわね。で、その護衛が砂皿緻密。連絡先は教えられないけど、こっちで取っておくから。で、そこで勝手に話したいことあったら話して頂戴」


佐天はただ「あ、はい」の繰り返しで話しがすすんでいく。
テレスティーナは「もし、その男に連絡繋がらなかったらごめんね☆」と彼女達にウインクする。
彼女は「じゃ、今日はここまで。会議があるから…」とつぶやき、筒状のチョコケースを引き出しにしまうと立ち上がる。
530 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/02/14(月) 01:45:03.51 ID:J4PEtpCFo
「あ、じゃ、私たちも出ますね」と佐天が言い、テレスティーナのオフィスを後にした。
部屋にひとりぽつんと椅子に座っている彼女はキーボードをカタカタと叩き、メールを作成していく。

宛名は砂皿緻密。


(金髪の女の子がどういった理由で砂皿緻密と連絡を取ろうとしてたかはわからないけど、取りあえず護衛に当ててやるか)


携帯電話のアドレスをメールの宛先欄に添付する。
暗部組織の連絡係のボディガードとして砂皿に佐天を守って欲しい旨のメールを送信した。


メールは無事に送られたようだった。後は砂皿が今回の案件を承諾するかどうかだった。


にしても、とテレスティーナは思った。
なぜ、アイテムの金髪女が砂皿緻密の連絡先を聞き出そうとしたのだろうか。
知り合いだとしたら連絡先くらいは知っているはずだ。


さっきはフレンダ達に笑顔を見せて応対していたテレスティーナの顔が考えながら徐々に曇っていく。

MARという組織の長になってからというものの、何事にも不信感を抱くようになってしまった自分を彼女は内心で嗤う。

しかし、その不信感から発信されている信号に彼女は正直に従う事に決めていた。
531 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/02/14(月) 01:45:35.49 ID:J4PEtpCFo
バーバリーの特注のグレーのストライプスーツのポケットから携帯電話を取り出すとどこかに電話をしている。
発信ボタンを押すと相手は即座に受話器を取ったようだった。


『なんだ、お前か、仕事かと思ったぞ』


「久しぶりね、兄さん」


『で、要件はなんだ?』


久しぶりに電話したのに世辞も世間話もなしか、とテレスティーナは思ったが、そんな話を今電話している通話相手とする気はサラサラなかった。
彼女は携帯電話で通話しつつ、器用にPCをいじっていく。


「えーっとね、何人か監視して欲しい人物がいるんだけど、出来る?」


『めんでぇなぁ…こっちは今、手が離せねぇんだよ。クーデター企ててる部隊とかあるらしいからよぉ…』


テレスティーナの通話相手は心底めんどくさそうにそう呟くと最終的に『手短に言え』と命令口調で言ってきた。
ともあれ、彼女の通話相手はテレスティーナの要望を聞く気にはなったそうである。

テレスティーナはPCに映るアイテムのフレンダ、佐天涙子、砂皿緻密の顔を見つつテレスティーナは受話機に呟いていく。


「アイテムのフレンダとその通達係佐天涙子、その護衛の砂皿緻密を監視して欲しいの」


『はぁ?疑わしい奴は即殺でいいだろぉがよ』


「ダメ。まだ、何を考えてるかわからないし、単に人探しって言う線もあり得る」


テレスティーナの通話相手―おそらく彼女の兄―は監視よりもすぐさま殺そうと提案する。
532 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/02/14(月) 01:46:02.71 ID:J4PEtpCFo
すぐ殺すことばっか、と言いたい衝動にかられたが、兄の機嫌を損ねない程度にやんわりと否定しておく。
そして兄が返事をよこすのを待った。


『ったく仕方ねぇ。そいつらはいまん所、何も問題起こしてないんだろ?最低限の人員を派遣すっから、で、お前に連絡が行くようにさせるわ』


「ありがと、助かるわ」


テレスティーナが礼を言っている最中に電話がぶつりと切れ、彼女に嫌な不快感を与えた。
533 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/02/14(月) 01:46:52.35 ID:J4PEtpCFo
――横田基地

旧日本陸軍の横田基地を拡大整備したこの基地は学園都市内にありながら唯一、米国扱いされている土地だった。
そんな基地内のハンガーに止まっている車はトヨタのランドクルーザー。
砂皿がレクサスの他に所有している車の内の一つだった。


車に搬入されていく数々の武器弾薬。
実際に使うのかもわからないが、念には念をだ、と砂皿は自分を納得させると武器を横流ししてくれた兵士にドル札の束を渡す。


英語で「また頼むよ」と白い歯を見せながら笑う米兵。
それに片手をあげるだけで答えると砂皿は車内に乗り込み、キーを回して武器格納ハンガーから出て、門に向かっていく。


(ずいぶん手に入ったな…)


後部座席に置かれている武器弾薬や備品を感慨深げに見つめる砂皿。
セムテックス、数十キロのHMXオクトーゲン、マガジン、手榴弾、グレネードランチャー、などなど、まるで今から戦争にでも行くかの様。


ずっしりと重たい各種部品を搭載したランドクルーザーが程無くして在日米軍基地内を抜けて昭島方面に出る。
そこから本拠を構えている調布方面に向かっていく。
534 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/02/14(月) 01:47:33.40 ID:J4PEtpCFo
横田基地を出てすぐ、赤信号でランドクルーザー(ランクル)が止まる。


砂皿は黒のランクルのボンネットに反射しているまぶしい夏の太陽を忌々しく思いレイバンのキャラバンシリーズを手に取る。
光を遮断し、快適な運転空間を創出したサングラスに砂皿は満足すると携帯に視線を移す。


八月の狙撃以後更新していない携帯電話。赤信号のさなかにメールを確認しようと思った砂皿はちょうどメールが来ていた。
誰からだ、と思うよりも早く受信フォルダを開き、メールを見ていた。
ステファニーが何か新情報を掴んだのか?と思いつつ携帯を開くが、宛名は以前狙撃を依頼してきた学園都市からだった。


(一体なんの用だ?)



From:Multi Active Rescue

Sub:要請

しばらくとある人物の護衛を頼みたい。

護衛リスト:アイテム.jpg 佐天涙子.jpg
535 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/02/14(月) 01:48:47.38 ID:J4PEtpCFo
アイテム。
砂皿とステファニーが探しているフレンダが所属している組織の名前は確か中国語で“項目”だった。
邦訳すると“アイテム”。予想だにしない展開に砂皿は息をのんだ。


(何らかの手段を使って俺たちの行動を予想した学園都市の牽制か?)


学園都市からアイテムにフレンダを救い出すという作戦。
昨日来学したばかりだったが、どんな最先端技術がつかわれているか判然としない学園都市。
結局情報と言う物はいつしか看破られるもの。それがはやいか遅いかだ、と自分を納得させた砂皿は冷静に返信メールを作成する。


護衛の要請を承り、ステファニーの妹に接近しようと考えた砂皿はMARに仕事を受ける旨のメールを送信した。
いくら学園都市の技術が進歩しているからと言って、まだフレンダに接触してすらいないので情報漏洩の線は無いと判断する。



何も情報が集まってこない状況。
ならば、まだ実質何もしてない。
砂皿は学園都市からの仕事の要請を渡りに船だと考えた。
536 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/02/14(月) 01:49:22.07 ID:J4PEtpCFo
――MARのオフィスビル外

「ありがとね!涙子!」


「へ?いや、私は何もしてないよ!?ただ、一緒に行っただけで…」


フレンダがしきりに頭を下げる。
滝壺は先ほどから一言も発していないが、何かを訴えかける様な目でフレンダと佐天を交互に見ていた。


「ま、これで実際に警護に来てくれた砂皿緻密に接触すればいいって訳よ!」


「そ、そうなるね。でも、警護ていっても私の住んでる学生寮の回りでしょ?」


「…そうね。だから涙子の所に来たら私に連絡してほしいって訳よ…!良いかしら?」


佐天はお願い!と懇願するフレンダを見て宿題を一緒にやってほしいと初春に頼み込んだ自分自身もこんな姿だったのかな、と場違いな事を考える。


「良いよ。ってかそうしないとフレンダの恩師だっけ?見つけられないものね」


「あ、ありがとー!涙子ー!」


フレンダは勢いよく佐天に飛びかかる。
このクッソ熱いのに、こいつときたら!と佐天はフレンダを引きはがそうとする者の離れなかった。
ぎゃあぎゃあと喚き散らしている二人を視界にとらえている滝壺はぼそりとつぶやいた。


「お腹減った」
537 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/02/14(月) 01:50:34.30 ID:J4PEtpCFo
――レストラン「Twigy」

立川駅の近辺にあるレストランに到着した佐天達一向。


「いやー、にしてもありがとね、涙子」


「もーいいよ、フレンダ、私も今日暇だったし」


「うん。滝壺もありがとね、一緒に来てくれて!」


フレンダは先ほどから一緒に来てくれた滝壺と佐天にしきりに礼を述べていた。
時刻は14時。
朝ごはんを食べてきたとはいえ、それ以外に何も食べていない三人はかなり疲れていた。


三人は料理を頼むとソファになっている座席に腰をだらんと伸ばして座る。


「にしても、面白いわねー、まさか暗部の連絡係と仲良くなるなんてさ」


「本当。電話の女の正体って誰なんだろうって話してたらたまたま隣の座席にいるとか奇跡だよ」


そう言うとフレンダと滝壺が目を見合わせてクスクスと笑う。
佐天は苦笑するしかなく、あはは…と気まずそうに笑って見せた。


にしても…佐天は思った。
昨日まで連絡をよこすだけの繋がりだったのが、今では一緒にご飯を食べるまでに。
いつも共に行動している四人やアケミ達とはまた別の繋がりが出来た様な感じがして佐天はうれしかった。
538 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/02/14(月) 01:51:02.95 ID:J4PEtpCFo
雑談に興じていると時間はあっと言う間に過ぎていった。
かつ丼を食べ終わると佐天は三人でプリクラを取ろうと提案する。


ゲーセンのプリクラ撮影機の中に入り、百円ずつ入れていく。
四百円でとれるプリクラ。足りない百円はフレンダが今日一日付き合ってくれたお礼として出す。


コインを入れるとお勧めに任せるがままに撮影を開始する。
撮影が終了すると撮影されたプリクラに楽書きをしていく。


出来栄えは上々だった。
三人とも昨日初めてあったとは思えないくらいに親密なのが小さいプリクラの画像からはうかがえた。


落書きを終えたプリクラがしばらくして撮影機械の横からぺろんと出てくる。それをゲーセンにすえ付きされているハサミで三等分していく。
佐天はそれを仕事用の携帯電話にぴたっと一枚張る。

「にひひ…私もはろっと」


「私も」


佐天がプリクラの写真を一枚携帯に貼ったのを見てフレンダと滝壺も携帯電話に同じくプリクラを張り付ける。
539 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/02/14(月) 01:51:38.08 ID:J4PEtpCFo
ゲーセンから出ると最終下校時刻が近付いていた。
三人は夕日の多摩川の土手沿いを仲良く歩いていた。
部活がえりの学生やまだ練習中の学生達が頻繁にすれ違っていく。


その景色の一つを構成しながら佐天達は歩いていた。


「今日一日でかなり仲良くなった気がするって訳よ。涙子」


「そーだね!私も面白かった!」


「電話の女は電話越しでも実際に会ってもテンション高いんだね」


滝壺の言葉に佐天は顔を夕日の様に真っ赤にする。
こいつときたら、と言いたかったが、実際今日の自分はかなりハイな感じだったと佐天は思った。


「そ、そうかな?ま、他の人に私明るいとか言われるけど…そんなに?」


「うん。かなり明るいと思うよ」


歓談しながら三人は土手を歩いて行く。
その情景だけ見れば青春映画の一コマにも見えなくもなかった。
540 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/02/14(月) 01:52:22.16 ID:J4PEtpCFo
――対岸

多摩川の川幅は広い。
といっても霞ヶ浦程でもないのだが、やはり対岸にいる人がどんな人なのかは双眼鏡でもない限り確認は難しいだろう。


「待てや、コラ!勝負しろ!」


「ま、待てよ!ビリビリ!」


「だからビリビリって言うなって言ってるだろ〜ー!」


一見、仲の良い男女が遊んでいる様に見えるのだが、実際はそうではなかった。
手のひらから繰り出される電撃を放つ美琴はその電撃を打ち消す少年―一方通行の絶対能力進化計画を阻止した男―に戦いを挑んでいるのだった。


「待ってくれ、ビリビリ!何で俺が攻撃されなきゃいけねぇんだよ!」


「うっさい!とにかく戦いなさい!あんたも男ならちゃんと決闘に応じなさい!」


「け、決闘?」


「そうよ!その通り!あんたは得たいの知れない能力を持ってる!いっつもいっつも私の電気を打ち消して…!ちゃんと戦え!!」


美琴はそう言うとバシン!と勢いよく地面を踏みつける。
アスファルトを伝って電撃がつんつん頭の少年に向かっていくが彼は自身に右手を当ててそれを打ち消す。


「はぁ、はぁ、もう良いだろ?」
541 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/02/14(月) 01:53:02.78 ID:J4PEtpCFo
「…うっさい…!」


「あ!あんな所に!」


少年が虚空に向かって指を指す。
その動作についついつられてしまう美琴。
一拍後に彼女が視点を元に戻すと遙か先に少年は移動していた。


「チックショウ…!また逃げて…!」

名門、常盤台の少女らしからぬ舌打ちをすると美琴は流石に少年を追う気にもなれず、帰ろうと思い、多摩都市モノレールに乗ろうとする。


(こっからだったら万願寺が近いかしら?)


夕日が陣馬の山々に沈みつつある。
既に遙かに小さくなった少年を見つめると美琴は勢いよく踵をかえしてモノレールの駅に向かおうとする。


(そろそろ帰りますかねぇ〜…あんまり遅いと黒子が気にするからなぁ…)


学生バックをぶんと勢いよく持ち、美琴は歩き出す。
ここ最近、彼女の機嫌は良かった。
542 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/02/14(月) 01:54:22.50 ID:J4PEtpCFo
美琴は八月の後半につんつん頭の少年に遭遇し、一方通行の狂った計画を話した。
彼はそれに応え、何の見返りも求めずに戦い、勝利した。


もう不毛な争いは終わった。
美琴は夕日を見つめつつ、そう思った。


(夏休みもそろそろ終わりね…新学期は楽しく迎えられそう…)


あと少しで新学期が始まろうとしていた。
恭しく挨拶をする後輩やいやみったらしい心理掌握と合うのはちょっぴりめんどくさいと思ったが、それすら全てひっくるめ、美琴は今の生活に満足していた。


もう、誰も死ななくて良いんだよね?
狂気の計画が終わり、美琴は平和な世界が少なくとも自分の周りに訪れたと思う反面、不安だった。


自分の知らない事で水面下で進行していたあのきちがいじみた計画。
またその様な計画が進んでいたら?


分倍河原の操車場で行われた9982号と一方通行との戦いを今でもたまに思い出すことがあった。
一方通行は確かに、9982号の脚をちぎり、そこからしたたり落ちる血を飲み、ペッと吐きすてた。


そして直後に9982号はあっけなく圧死した。


思い出す度にぐっと美琴の手が強く握られる。
そして金髪の女…人を殺すことをなんとも思っていない、いや、寧ろ快楽さえ感じれていた様な挙措だった。


許せない。狂った計画に加担した奴らを許すことは出来ない。
既に計画が破綻したからと言って一方通行やあの女達が消えて無くなったわけではないのだ。


美琴は徐々に自分が下を向きながら歩いていることに気づく。
河原に降りて自分の顔をのぞき込んでみると先程まで喜々として少年を追いかけていた時とはまるで違う、全く無感情な表情になっていた。
543 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/02/14(月) 01:55:34.08 ID:J4PEtpCFo
彼女はあの時の事を不意に思い出すたびに、ゆらと自分の内面に形容しがたい憎悪の念が吹き出るのを知覚する。
かといって、とりたてて何か復讐しようとかそういう気持ちになるのではない。
しかし、実際に一方通行やあの女達にまた会ったらどうなるのだろうか?と美琴は思う。


(ま、いつか、時間が忘れさせてくれるよね?)


黙考しつつ、美琴は河原に石をぽいと投げつける。


対岸に視線を移すと部活がえりの学生や練習中の学生達が歩いている。
その景色の一つを構成しながら歩いている一団に見知った顔があるのを美琴はちらと見た気がした。


(佐天さん?)


対岸から呼びかけたら聞こえるかな?と思いつつ、美琴は周囲に人がいない事を確認する。
すぅ、と息を吸い込み呼びかけようとひた時だった。


(誰かと話してる?)


野球部のジョギングの列が佐天達とおぼしき数人の集まりを通過していく。
544 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/02/14(月) 01:56:19.50 ID:J4PEtpCFo
(うわ、野球部邪魔…)


大会に向けての追い込み練習だかしらないが、美琴にとってはただの邪魔な壁程度にしか映らない野球部。
その何十人もの列が通過していくと佐天と話している人達が土手から降りていくのがちらと見えた。

佐天は消えていく二人に手を振っている。振られた方も振りかえしているようだった。


(へぇ、柵川中の知り合いかな?)


真っ赤に燃えている太陽の光が多摩川の水面にぎらとうつりこんで一瞬視界がふさがれる。
その直前にベレー帽と金髪のブロンドの女が土手から降りていく風に見えた。



一瞬、カッと体が熱くなり、Sプロセッサ社で戦った光景を思い出す。
まさか、と美琴は思い、対岸にいる佐天を呼びかけようと思った。


しかし、美琴の方にも他校の部活のジョギングの走列がやってきて佐天を呼びかける事は出来なかった。
走列がいなくなった時には既に佐天はいなくなっていた。
545 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/02/14(月) 01:56:45.64 ID:J4PEtpCFo
――調布の市街地

ステファニーはホテルでゆっくりと沈みゆく太陽を眺めていた。
高層ビル群に隣接してるこのホテルから見る学園都市の夕日は格別だった。


(結局ダメでしたねー…)


第十四学区の黒人教師と離した後はステファニーは適当にしばらくバイクを飛ばし、ホテルに帰ってきた。
なじみの警備員仲間に会いに行ってもいいと思ったのだが、妹を探している事がばれて面倒なことにならないためにもホテルに帰って来たのだった。


砂皿緻密が大事な事なので口頭で伝えると電話をよこしてから数時間。
ステファニーはその“大事な事”とは一体なんなのか推察して遅い動きの時計の針を見ないように心がける。


と、その時だった。
ホテルのドアがノックされる。
俺だ。と砂皿の声がドア越しに聞こえてくる。


しかし、声が聞こえて来たからと言ってそれが砂皿の声だと確証がとれるわけではない。
ホテルを出る前に決めておいた暗号をステファニーは思い浮かべると、Dieselのジーンズの腰の部分にグロック17拳銃を差し込み、安線装置を解除する。
そしてドアに貼りつき、取りきめ通りの暗号をつぶやく。
546 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/02/14(月) 02:02:34.58 ID:J4PEtpCFo
「デーニッツ」

『レーダー』

「ウルトラ」

『インテリジェンス』


ドア越しの男と合言葉が合致したのでステファニーはがちゃりとドアをあける。
部屋にずいと入ってきた砂皿は両手に大きめのバックを二つ持っている。


「にゃはーん。お疲れです!砂皿さん!」


「あぁ…疲れた…やはり熱い…」


砂皿はAvirexのブーツにリーバイス503のジーンズ、上着はアルファのカーキのミリタリーTシャツをタイトにきていた。
その上から明らかに鍛え上げられた体だとわかる。

ステファニーはジーンズに英国軍のラウンデルが記載されている彼女お気に入りのTシャツを着用していた。



「砂皿さん、砂皿さん!なんですか?口頭じゃなきゃダメな情報って」


砂皿はステファニーに横田から出て、学園都市のMARから連絡を受け、アイテムの護衛役の連絡を受けた、という情報をステファニーに伝えなかった。
ただ、電話で「口頭じゃなきゃ伝えられない情報を得た」とだけ言ったので、ステファニーは否が応でも気になっているのである。

期待と不安が入り交じった表情で砂皿が話すのを待つステファニー。
それを見て砂皿は苦笑しつつも、口を開く。
547 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/02/14(月) 02:04:28.53 ID:J4PEtpCFo
「俺がアイテムの連絡係の護衛役に抜擢された」


「ええ!?本当ですか?」


砂皿はあぁ、と頷くと自分でも信じられないようで肩を上下させる。
いつからですか?とステファニーが砂皿に詰め寄る。


「今すぐ行こうと思うんだが、どうだ?お前も来るか?」


「行っていいんですか?」


「あぁ。お前が言った所で状況が変わる訳ではない。おそらく平気だろう」


ステファニーは砂皿の発言に勢いよく返事をする。
砂皿は新しいTシャツにその場でさっと着替えると、腰にグロック17を差し込む。
予備のマガジンも足のくるぶしの上にあるベルトに括りつけ、準備は完了。


ステファニーはアタッシュウェポンケースを手につかみ、カチャリと開ける。
中にはヘッケラー&コックの短機関銃クルツと予備マガジンが数本。そして焼夷手榴弾が入っていた。


「にゃはは☆まさか学園都市に来て二日目になって妹の手がかりがつかめるなんて想像もしてなかったですね☆」


「あぁ。俺もだ」


砂皿とステファニーは鍵を閉め、ホテルを後にした。
548 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/02/14(月) 02:04:54.41 ID:J4PEtpCFo
――木原数多が勤務しているとあるオフィス

顔に刺青が入った男を見たことがあるか?
あまり居ないだろう。


高名な科学者や博士は時として奇行ともとれる行動を起こすことがある。
日本の細菌テロでもかつては有名な理系の学生が毒ガスを作っていたとか、そういう話もある位だ。


馬鹿と天才は紙一重。そんなことわざがある。
木原数多という男を物差しで測ってみたらどうだろうか?
間違いなく、天才だろう。


学園都市第一位の男、一方通行の開発を担当したこの博士。
学者と言う一面ともう一つは猟犬部隊(ハウンドドッグ)という部隊の指揮官も務めているのだ。


学園都市の研究分野にかなりの影響を与え、且つ、軍務にも造詣がある。
顔だけで見たら刺青が入って金髪のチンピラの様な出で立ちだ。しかし、その認識は彼においては大きな間違いである。


彼は今、妹の木原=テレスティーナ=ライフラインの頼みで部隊の数名を監視に着けさせ様としている。
妹の要請と言うこともあり、渋々ながら、と言うのが本音だったが、拒否する理由も特にないので、訓練ついでに数多は妹の要請を受けたのだった。


「よーし…っじゃ、人選はじめんぞ」
549 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/02/14(月) 02:05:34.32 ID:J4PEtpCFo
数多の間延びした声とは裏腹にザッ!と数十人の隊員の踵を揃える音が聞こえてくる。
彼はその音が自分の耳に届くか否かという時に淡々とした口調で話し始めた。


「妹からオーダーが入った。アイテムのボディガードとアイテムの連絡係の監視、それと、あ、そーだ、忘れてた、あと、肝心のアイテムの監視だ」


数多の声だけが広いオフィスに響く。
軽い冗談を吐いたつもりだったが誰も何も言わない。ま、いっかと言いつつ、木原は首をコキンを鳴らす。


「オスカーがえーっと…じゃ、てめぇはフレンダ監視な」


「ラジャ」


「ベティ。お前えーっと佐天とかいう奴の監視」


「ラジャ」


「ケイト、お前は砂皿とかいう狙撃手な。ってかコイツ前に学園都市が依頼した狙撃手じゃねぇか」


「で、それぞれ交代要員を一人ずつ回すから、計六人で監視体制に当たれ。不穏な動きがあれば逐一報告しろ」


選抜要員として選ばれた三人はザザと脚を揃えて数多に向けて敬礼をする。
そして合図も無しに同じタイミングで敬礼を辞める。

その場で猟犬部隊が解散すると数多は残った先程コードネームで呼んだ三人をちらと見る。


「監視しろ、って言われても相手が何を考えてるかわからねぇ」


「妹自身、アイテムの奴らが何を考えているかどうか分からねって言ってた」


「けど、だからと言って油断するなよ。妹も妹なりに危険で不穏なにおいを感じ取ったから俺等猟犬部隊に依頼してきたんだからよ?」
550 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/02/14(月) 02:06:03.50 ID:J4PEtpCFo
妹の感じ取った不穏な雰囲気を信じ、最低限の兵力だけれども油断せず監視に当たれと厳命する。
顔にトライバルの様な刺青の入った数多は腕を組みながら指示する。


猟犬部隊で名前が上がった選抜要員達は木原の指示通りに動く駒だ。
しかし無能な駒ではない。ひとつひとつの任務を正確にこなす数多に忠実な暗部の特殊部隊なのだ。
彼らは数多の指揮下に置かれた部隊だと言えよう。


「装備を確認し、準備ができ次第監視ポイントへ迎え」


「「「はっ!」」」


コードネームで呼ばれた三人の要員達は装備を互いに確認する。
荷物は必要最低限。数多からそれぞれ教えられる座標に向かって三人はそれぞれ向かっていった。
551 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/02/14(月) 02:06:29.75 ID:J4PEtpCFo
――移動中の車内 オスカー オーソン

オスカーはフレンダが暮らしていると言われているアイテムの共同アジトに向かっていた。
同僚の隊員が送る車の助手席に腰を落ち着かせているオスカーは折角、定時で上がれたのにと内心に愚痴る。


監視任務は解かれるまで常に見張らなければいけない。
これが結構つらかったりする。


因みにオスカーはフレンダの暮らしているアイテムの共同アジトの反対側のビルの屋上から超望遠スープによる監視。
コンビニで漫画でも買っとけば良かった、と暇つぶしのツールを買い忘れたので猟犬部隊の同僚に自分が監視中に買ってきて欲しいと頼んどいた。


「にしてもなんだって同じ暗部組織の監視をやらなきゃいけねぇんだろうな」


「言うなよ、オーソン。これは任務なんだ、木原さんに抗命したら殺されるどころじゃ済まされないぜ?」


オーソンはわかってるよ、とハマーのハンドルを握りながらつぶやく。
もうそろそろでアイテムのフレンダが住んでいるとされるアジトの反対側にあるビルに到着する頃合いだった。


どれほど監視任務が続くか分からない。
しかし、オスカーは脳裏に数多の顔を思い浮かべ、しっかりやらなきゃな、と身を引き締めるのであった。
552 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/02/14(月) 02:07:14.21 ID:J4PEtpCFo
――柵川中学付近の雑居ビル ベティとケイト

高層ビル群が建ち並ぶ再開発地区の付近にぽつねんと建てられている柵川中学の学生寮。
スキルアウトの根城とか言われていたが構わない、とベティは思い、ケイトの差し入れでお湯が入ったカップ麺を食べていた。


(実際、監視っつてもなぁ…何かごく普通の中学生じゃねぇか)


移動中に携帯端末で見た情報だと、幻想御手の一件で学園都市の暗部に墜ちた少女。
ベティ個人としてはかわいそうに、と思ったがカップ麺を啜っている最中にそんな事は頭の片隅から永遠に紡がれることはなく、消えていく。


リューポルド社製のスコープにずいと片目を宛がい、洗濯物をしまい込む佐天涙子とかいう女を覗いていく。


(普通の女の子じゃねぇか…)


真っ黒な特殊部隊の格好の男はレミントンM24スナイパーウェポンシステムと銘打たれた往年の傑作狙撃銃のスコープからのぞき込みつつ思った。
その横には照準補佐をする為に双眼鏡を首からかけ、オークリーのサングラスをかけているケイトがいた。
彼はバックの中からレミントンM24を補佐する昼夜使用可能の大型スコープをずいっとと取り出す。


「見てる限りだと、何もしねぇな…」


「あぁ…ま、話す奴が居て助かったよ。監視任務って言ってもかなり暇そうだしな」


「ってかよケイト。お前はあの子の護衛に来る狙撃手の監視だろ?いいのかよこっちに来て」


ベティはケイトに狙撃手の居場所を尋ねる。
ケイトはここら辺で見張ってたら近い内来るだろ、と笑いながら昼夜両用の暗視装置付きのスコープを組み立てていく。

恐らく木原さんの妹の過剰な警戒心から来た今回の任務なんだな、と割り切り、再び二人は佐天の監視体制に移行していった。


スコープに移るただの少女を見ている内に二人の作ったカップ麺はのびていった。
553 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/02/14(月) 02:07:46.26 ID:J4PEtpCFo
――佐天の学生寮付近

トヨタのランクルが佐天の学生寮の近くに停車する。

夕日に照らされてぎらと光って反射するボンネットを見て、まぶしいな、と砂皿はつぶやく。
ステファニーを助手席で待たせておいて腰にグロック17を差し込んだまま、佐天の学生寮に向かう。


(僥倖か…?それとも、罠?)


アイテムのフレンダ―即ち、ステファニーの妹―と接触し、救出するという作戦の第一ステップはまず、アイテムの連絡係、佐天涙子との接触で始まったのだ。
彼は学生寮の佐天が暮らしている部屋のドアをこんこんとノックする。


『はい、どちらさまですかぁ〜?』


ドア越しから声が聞こえてくる。
元気な女の子の声だった。


「護衛の任務を承った砂皿という者ですが…佐天涙子さんのお宅でよろしかったでしょうか?」


『あ、そうです、佐天です。ど、どうぞ、入って下さい…』


ドア越しに聞こえる声の主がガチャリとドアをあける。
チェーンロックを外し、すっとドアが開く。


砂皿は一礼するとお邪魔しても?と再確認。どうぞ、と佐天は言うと砂皿を家に上げた。
554 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/02/14(月) 02:08:35.68 ID:J4PEtpCFo
「え…っと何から話せばいいか…」


佐天は帰ってきて直後に、不意にやって来たボディガードの男に動揺しつつも氷水を出す。
彼女に寡黙な男の印象を与えた砂皿は水には手を着けず話しの本題に入っていく。


砂皿は一度深呼吸すると「整理しよう」と一言言う。
言われた佐天は「は、はい!」とうわずった声で返事をする。


「この仕事の依頼主が誰だか分かるか?」


「依頼主というか…護衛を頼んだのは…私って事になるのかな?」


「なんだ、君もよく把握してないのか?」


「いえ…ここ最近学園都市の中でも内訌問題がなんたらって…それで連絡係をやってる私にも身の危険があるって」


「つまり…くだらない縄張り争いに巻き込まれないようにするために俺が君を守るために派遣された…って事か」


「そういう事になると思いますね…」


砂皿はそこまで聞くと「ふむ」と一度区切り、腕を君で考え込む。
その光景を見ていた佐天は砂皿から視線をそらし、一度外をぼんやりと見つめる。
555 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/02/14(月) 02:09:02.10 ID:J4PEtpCFo
「君は何で俺を護衛に推したんだ?」


「あぁ…えーっと、フレンダさん?ちゃんって言ったら良いのかな?とにかく、フレンダっていう人が砂皿さんの事を知りたくて、今日、MARに言ったんです…連絡先を教えてくれって」


「何故、フレンダと言う子は俺の連絡先を知りたがっているんだ?」
(フレンダ…ステファニーの探している妹ではないか)


「砂皿さんの知り合いなんですよね?しかもフレンダちゃんも知り合いって言ってまして…、その…ステファニーっていう人と…」


「あぁ。知り合いだ」
(成る程。連絡係の彼女にはフレンダは姉との関係を“知り合い”と言っているのか。同じ仕事をしている関係の間柄でも一応の区切りはつけている、と言うことか?)


「やっぱり知り合いだったんですね。あ、それで、フレンダちゃんが砂皿さんの連絡先を知れれば、砂皿さん経由でステファニーさんと連絡を取れるって彼女は考えています」


砂皿は「ほう」と否定をするわけでもなく、肯定をするまでもなく、応用に相槌をうって佐天に答える。


「そしたら、砂皿さんの連絡先を教えて頂けませんか?フレンダの連絡先わかったら砂皿さんに連絡するので、砂皿さんはそこからステファニーって言う人にフレンダちゃんの連絡先を教えれば二人は連絡を取れると思うんです」


「少し面倒だが、現在では一番手っ取り早い方法だな…」


「そうですねー…でも、フレンダの連絡先は私がなんとかアイテムのリーダーに聞こうと思います!なので…近日中には教えることが出来ると思います!」
556 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/02/14(月) 02:09:27.88 ID:J4PEtpCFo
「少し話しは変わるが…フレンダは何故、知り合いのステファニーを探しているんだ?」


「……さぁ?」


「何だ、知らなくて協力しているのか」


「は、はい…」と佐天は気まずそうな表情を浮かべる。
砂皿はそんな彼女を見つつ、お人好しだな、と内心にひとりごちる。


彼は佐天の方を向くと、伝言を頼みたい、と彼女に伝える。
言われた佐天は「伝言?」とオウム返しに聞き返す。


すると数々の戦場を疾駆した男がゆらと立ち上がり佐天に伝える。






「姉も、妹の事を探しているから、待っていろ、とな」
557 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/02/14(月) 02:10:56.68 ID:J4PEtpCFo
今日はここまで。

この後四日間ほど卒業旅行に行きます…。
なので更新はその間出来ません。

ではまた><!
558 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/14(月) 02:11:24.12 ID:NJMzITd2o
乙!楽しい!
559 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/14(月) 11:53:10.57 ID:zIrSJJTSo
先が気になる引きだな・・・!
間が空いても次回を楽しみに正座して待つぜ!

ところでどうでもいいけど美琴が上条さんに勝負勝負言ってたのって3巻時点じゃもう収まってたような
560 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/14(月) 12:18:28.30 ID:19O1fpBDO
実験阻止後ってことはこの上条さんは二代目なのかな?
561 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/14(月) 19:47:40.88 ID:wAYGk9Hj0
フレンダ復活?

http://res.mgsred.chatx.whocares.jp/attach/123246.jpg
562 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/15(火) 01:09:18.59 ID:XgxdKuPDO
乙 今回も面白いな

修学旅行楽しんでこいよ


木原君が出てきたなら一方通行も少し絡むか?
563 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/02/17(木) 08:21:18.10 ID:foBb/sZVo
佐天さん可愛い
564 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/18(金) 14:57:08.82 ID:X19x2o9P0
今んとこなかなかスムーズだな
565 :投げんな匙 ◆t4xyS9bQ1M [sage]:2011/02/19(土) 04:04:56.31 ID:p/ocpvSS0
卒業旅行から帰ってきたは良いものの、書きためがまたも停滞中…。
近日中に投下できると思いますが、文量はあまり多くないかもです。

報告したので皆様の質問に答えます!
レス感謝です!!


>>559 マジかよ…いつも勝負勝負うっさいイメージがあった…。

>>560 うーん…すいません…最近原作読み返してないからわかんねぇ…!

>>561 フレンダでは無いことを祈る…!

>>562 出演して頂く事になりますね。恐らく。
566 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/02/19(土) 18:18:20.83 ID:p/ocpvSSo
長らく更新停滞しててすいません。


さて、書きために奔走しているんですが、なかなか書きためが進まない!
ですが、ためすぎもあれなんで投下します。


あらすじ

佐天がフレンダと滝壺と一緒にテレスティーナの所属しているMARに向かう。
そこでステファニーと共に行動している傭兵砂皿緻密の情報をキャッチする。



その砂皿が佐天の護衛役としてテレスティーナの連絡でやってきた。
砂皿はフレンダに伝言して欲しいと佐天に告げる。



一方で木原数多とテレスティーナはその行動に不審を感じつつ、徐々に部隊を集め始めていた。
567 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/02/19(土) 18:20:13.90 ID:p/ocpvSSo

――ランクルで待機するステファニー


助手席でFEN(在日米軍放送)を垂れ流しにして聞いているステファニー。
しかし、視神経は飽くまで柵川中学学生寮の周辺に集中している。



ステファニーの乗っているランクルの後方にある雑居ビル。
彼女はそのビルをちらと見る。
逆光でよく見えないが、雑居ビルの屋上に僅かに何か光って見えた。



(ん?)


おかしい、とステファニーの戦場で培った勘が黄ランプを照らしている。
彼女はその信号に素直に従うことにした。



素早くランクルの運転席に移動して予備のキーをポケットから取り出す。
ドアの横に着いているサイドミラーのスイッチに手をあてて角度を調整してみる。



サイドミラーが適角に移動するのを確認したステファニーは再び助手席に移動する。
FENから流れるKanye Westの「Slow Jamz」のトラックに決して揺られることはなく、冷静に雑居ビルに居るであろう何かの正体を精査しようとする。
568 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/02/19(土) 18:22:13.74 ID:p/ocpvSSo

(にゃはーん。監視されちゃってますねぇ〜)


悠長なことを一人内心につぶやきながらも、彼女の採った行動は迅速だった。
まずは砂皿に連絡。携帯電話で砂皿の番号にワン切りする。



そしてもう一度ミラー越しに監視している人数の正体を見極めようとする。


(一人…いや、二人?獲物はレミントン…?アキュレシーかしら…)


ともあれ、中距離から遠距離にかけての狙撃銃だと吟味する。
そして次に、得物は一つだけ?と推測する。



一人はスコープに片目を押し当ててアイテムの連絡係の部屋を監視している。
恐らく砂皿とアイテムの連絡係が接触している所がキャッチされているだろう。



妹を救出しようとする計画がばれた?と思い、舌打ちをする。
射殺するか?と一瞬考えたが、待機。


情報はばれていない。
砂皿さんが裏切り者でも無い限り平気です、と自分に言い聞かせる。



(と言うことは…何かしらの思惑が…?)



自分達以外の何かしらの勢力が動く気配をざわとステファニーは感じた。
しかし、その正体が何者か定かではない。
569 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/02/19(土) 18:23:36.38 ID:p/ocpvSSo
しかし、はっきりしている事がある。
アイテムないしはアイテムの連絡係は監視されている。



途端、ステファニーの内面にめらと燃え上がる炎。
妹も監視されている?



そう考えるといてもたっても居られなくなり、ステファニーは苛立ちを隠せない様子で切歯扼腕する。


彼女はガムを食べて風船を作り、イライラをごまかすのだった。
570 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/02/19(土) 18:24:35.30 ID:p/ocpvSSo

「は?そのステファニーって言う人は、フレンダちゃんの知り合いじゃないんですか?」


「姉妹だ。君はフレンダから知り合いと教えられていたそうだったが、ステファニーという人物はフレンダの姉だ」


佐天はそう言われると驚いて、仕事用の携帯電話を取り出し、アイテムのプロフィールを確認していく。
名前はフレンダとだけ。佐天は確か、ステファニー…なんだっけ?と長ったらしい名前を思い出してみよう思い、ステファニーのデータを引き出す。


(ステファニー=ゴージャスパレス…変な名前…じゃ、フレンダも…?)


データにはフレンダとしか名前が記載されていない。


佐天はアイテムのメンバーにフレンダと呼ばれている彼女の本名に今まで何ら興味を示してこなかった。
しかし、今になってみれば、名だけで、姓がない人なんて、存在しない、と当たり前の事を思い出す。


「フレンダ=ゴージャスパレス…フレンダの本名だ」


「フレンダちゃんの本名が…それ」


砂皿はそうだ、と力強く頷く。
571 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/02/19(土) 18:25:47.04 ID:p/ocpvSSo
「そしたら…フレンダ…は姉に会おうと…?」


「そうなるな…」


「で、砂皿さんがフレンダと会いに来たって事ですか?」


砂皿はあぁ、と再び頷くが、佐天はその表情をみる前に下のフローリングに目を向けていた。
どうするつもりなの?それが彼女の最初に頭にもたげた疑問だった。


(フレンダは姉と会ってどうするつもりなの…?知り合いに会うってだけなら…)


知り合いに会うだけなら学園都市のどこかで落ち合える。
しかし、フレンダは昨日の夕方からついさっきまで知り合いを探すと称し、MARのテレスティーナの所まで足を運ぶ程の行動力を見せた。


学園都市で会うだけならばここまでのことはするだろうか?いや、しないだろう。


「君には言っておくが、姉は妹を救出する気だ。君にも協力して貰いたい」


佐天が頭をひねって今後、フレンダがどういった行動をとるか予想している最中に、彼女の体に衝撃が突き抜けていく。
救出?と自分の言った言葉の意味を頭で反芻し、理解しようとする。
572 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/02/19(土) 18:26:29.77 ID:p/ocpvSSo

まさか、学園都市から脱出するつもりなのだろうか?
姉と妹、二人とも学園都市で仲良く暮らすつもりなのだろうか?


種々の疑問が頭に浮かび上がって来て、それらは氷解する事なく、佐天の脳にストックされていく。



「じゃあ…フレンダとその…お姉さんが遭遇した場合…一体どうするつもりなんでしょうか…?」


「救出してから…以後は…さぁな…だが、学園都市にいる事は無い」


「…そうですか……私はどうすればいいんでしょうか?」


「だから、協力して頂きたい、と言ったはずだが」


「協力…何をすれば良いのかわかりません」


「学園都市は暗部に居るフレンダがここから脱出する事を決して許す筈がない」


暗部で仕事をしている人物は即ち学園都市の見せたくない面を外部の世界に伝わってしまう可能性があった。
技術で他国に大差をつけて先頭を行くこの地の防諜に実は子供達を使ってしました、なんて事が漏洩してしまった場合、他の諸国からの信頼は失墜する事は火を見るよりも明らかだった。
573 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/02/19(土) 18:27:50.11 ID:p/ocpvSSo

アフリカや中東の諸国と同様に子供兵がいるなんて事が知れたらそれこそ学園都市とその自治を認めている日本の信用に関わる重大問題だ。
佐天は子供ながら、こんな事が表に出たらまずい、と思いつつも自分はどうすればいいのだろうか、とただ悩む事しか出来なかった。


「…フレンダがもし学園都市から出るといった場合、砂皿さんはその脱出を手助けする…って事ですか?」


「あぁ」


「その…お姉さんは今、どこに?」


「下のランクルの中に居る」


「……そうなんですか」


佐天は自分の知らない所でフレンダの脱出計画が進行しているんだな、と気づく。
しかし、と思う。フレンダの連絡先を知らないから、砂皿はここにきたのではないか?


『貴女(あなた)の知り合い…いや、組織の構成員であるフレンダに連絡を取って欲しい』


砂皿は確かにそう言っていた。
しかし、佐天はフレンダの連絡先を知らないのだ。



「じゃ、私はフレンダの連絡先を聞いて、あなたに伝えれば良いんですよね……」


「そういう事になる」
574 :作者 :2011/02/19(土) 19:09:52.01 ID:0nuwUu+DO
家族がパソコン使うので少し待って下さい
575 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/19(土) 19:14:19.02 ID:swpS0qBDo
576 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/19(土) 19:23:26.89 ID:SExfFqOAO
どうなるかな…
577 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/02/19(土) 20:34:58.71 ID:p/ocpvSSo

その後は?
フレンダはどうなる?

佐天はその後の事を想像した。アイテムは一体どうなるのだ?まさかそのままフレンダが抜けて何もない、という訳にはいかないだろう。
全く予想が付かない今後の展開に、彼女は息を?む。



と、その時だった。


プルルルルルル……


砂皿の携帯の着信音が佐天の狭い学生寮の部屋に木霊する。
佐天はわずかながら肩をふるわせて着信音の音源の方を見つめる。



しかし、砂皿はその携帯を取り出して通話することはなかった。
携帯はそのワンコールの後、切れてしまった。



きょとんとしている佐天を横目に見つつ、彼はステファニーからか、と考えつつ、ポケットに入っている電話を取り出す。
何か見つけたのだろうか?と砂皿はステファニーから掛かってきたワンコールの意味を考える。



(ひとまず…この場から退くか。ホテルもここの近くが良いだろう…)



まずは調布近辺にあるホテルから、護衛がしやすい様に彼女の家から程なく近い所に居を構える必要がある。
そう考えた砂皿は自分の連絡先が書いてある紙を佐天に渡す。



「フレンダの連絡先、頼んだぞ」と砂皿が言い、部屋を出ようとすると、不意に佐天から「待って下さい」と声が掛かった。
「ん?」と砂皿が後ろを振り向くと、なにやら不安げな表情の佐天が視界に映った。
578 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/02/19(土) 20:38:50.43 ID:p/ocpvSSo

「アイテムは…どうなるんでしょうか?」


「……」


暫く沈黙が彼女達の居る空間を支配する。



「……アイテムのメンバーに伝えるかどうかは君が決めろ」
(いきなり押しかけて自分で決めろ、っていうのもひどいか…?)


ひどいと思いつつも砂皿としてはフレンダを助け出すだけ。
そしてそれを阻止する者を排撃するだけ。
後の事は正直、知った事ではなかった。


「…そうですか…では、フレンダの姉が助けに来たって事はフレンダに伝えときます…その時に、今後どうするか、本人とアイテムの他のメンバーに話してみます」


「そうしてくれ」


砂皿はそう言うと、ブーツを履き、部屋を出て行った。
自分の身があの男に護衛されていると思う安堵の気持ちの反面、いつしか学園都市から居なくなる護衛。
そしてその時には恐らく居ないであろう、フレンダ。


(アイテムは…どうなるの?)


様々な思いが一緒くたになる。
しかし、佐天は携帯電話を起動して麦野に連絡を取ることにした。




To:麦野沈利

Sub:久しぶり〜

よっ☆

いきなりで悪いんだけど、フレンダの連絡先分かる?><
知ってたら教えてくれ〜




タブレット型携帯電話をピコピコと押して
麦野に連絡する。あとは返事が来るのを待つだけだった。
579 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/02/19(土) 20:40:10.64 ID:p/ocpvSSo

――麦野沈利の住んでいる高級マンション


「おい、麦野、携帯鳴ってるぞ?」


「取ってぇー、はーまづらぁ」


はいよ、と浜面は答えながらマホガニーの机の上で鳴動している携帯を手に取る。
麦野は浜面から携帯電話を受け取るとメールフォルダを開いてみることに。


(また電話の女から?ってかあの女、私より年下って分かってるくせにタメ口かよ…ったく…)


(で、肝心の内容っと…はいはい、ってフレンダの連絡先?)


フレンダ単独に寄せられる仕事の案件なのか?と麦野は一瞬予想を巡らすが、それはないと否定する。
今まで絹旗にしろ、フレンダにしろ、単独の仕事の場合でも必ず麦野を通して伝達されて行われていた仕事の案件。


(さては電話の女…何かあったか?)


脳裏にちらと思い浮かぶ電話の女の表情。
580 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/02/19(土) 20:41:07.48 ID:p/ocpvSSo

つい数ヶ月前までランドセルを背負っていた小便臭いガキに何か企む狡知は蓄えられていないだろう、そう考えた麦野は電話帳からフレンダの連絡先をドラッグする。
そしてコピーすると電話の女に送信するメールに貼り付ける。これで完了だ。


(よし、これで送信っと…)


メールが送られた事を指し示す送信完了の文字が浮かび上がると画面は自動的に切り替わり、待ち受け画面に。
その画面には浜面と遊んだ時のプリクラ画像が貼り付けられていた。
最近のゲームセンターではプリクラを赤外線で携帯に移送する事が出来るのだ。


「ね、浜面?」


「何だ?」


「電話の女がフレンダの連絡先を聞いてきたんだけど、どういう事かしら?」


「いんや、よくわからねぇな…?仕事の案件?」


それはないわ、と麦野は言い返す。
ま、いっかと頭の片隅に追いやると麦野は浜面に抱きつく。


ここ数日、麦野と半同棲生活を送っている浜面はこの甘えてくる麦野が大好きだった。
普段裂帛の気合いで任務を遂行し、鬼の様な強さを誇る麦野。
そんな彼女が唯一女の子の様に振る舞える場所が浜面という男にはあった。
581 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/02/19(土) 20:41:39.09 ID:p/ocpvSSo

――柵川中学学生寮

「あ、連絡来た」

砂皿は一度装備を整えて近くのホテルで警護すると言ってきたので佐天は連絡を待つ。
携帯のメール受信フォルダを見ると麦野からだった。


フレンダの連絡先が記載されているメールだ。
これで砂皿緻密と行動を共にしているフレンダと連絡が取れる。


(案外にチョロかったわね…)


これでフレンダと知り合いというステファニーが会えるわけだ。
昨日から続く人捜しの様な任務は終了したと言うことだ。


けれど、と佐天はあごに手をやり、考える。



フレンダは姉にあってどうするんだろう…?そして私達は?
582 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/02/19(土) 20:42:49.30 ID:p/ocpvSSo
――佐天の学生寮を監視しているベティとケイト


「さっきの男が砂皿緻密か…」


「そう言うことになるな」

二人の足下にlころがるカップラーメンの容器。
ケイトは監視をベティに引き継ぐと情報バンクにアクセス出来る端末をノートパソコンに接続し、データを走査する。


(砂皿緻密…どんな男なんだ?)


数多の妹でMARの指揮官であるテレスティーナの厚意でアイテムの連絡係の護衛を仰せ付かった砂皿という男に興味が湧くのは自然な流れだった。
レミントンのスコープをぱたりと閉じて、最新の暗視ゴーグルを使って監視するものの、何も変化はない。
暗視装置から浮かび上がってくる彼女の生活はたまに携帯電話をいじったりするだけで取り立てて普通の暮らしだった。


夏の長い陽が暮れ始めている。
砂皿緻密が一度連絡係の暮らしている寮からどこかへ向けて帰ってから既に二時間ほどが経過していた。


二人は再開発で慌ただしい立川のビル群を見つめる。
無機質な建築物がもの言わぬプレッシャーを与えているようにケイトには映った。
583 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/02/19(土) 20:44:16.42 ID:p/ocpvSSo

と、そこでダウンロード中のデータが更新された。
ピピピと機械音が雑居ビルに小さく響くと、ケイトがモニタに映し出された文字を目で追っていく。
音を聞いたベティもついついモニタに目をやってしまう。


「おい、どうなんだ?」



一瞬モニタを見て再び監視体勢に移行するベティはケイトがなんてやつだ…と驚く声を聞き逃さなかった。
ケイトは「今から…砂皿緻密の経歴を読みあげる…」と少し震える声で言う。
ベティは暗視装置でアイテムの連絡係である佐天を監視しつつ「な、なぁにビビってんだよ?」と少しだけ震える声で茶化す。


「砂皿緻密…高校卒業後、自衛隊に入隊、五年間市ヶ谷の特殊作戦群に所属、後、フランスとスペインの傭兵部隊に所属」


「以後、民間軍事会社に就職した後、オーストリアのコブラ特殊部隊で教官後、フリーに…っておい、コイツ一級の暗殺者じゃないか?」


ケイトはパソコンに映し出されている目つきの悪い男の顔を見つめながら端的に感想を述べていく。
こんな奴があの連絡係の護衛なのかよ、と一瞬弱気になったケイトはちらと前を向く。


ベティもケイトが読み上げた砂皿の経歴に驚いている様で暗視装置に佐天の宅を見つめがなら「あぁ」と小さい声で首肯するのをケイトは見逃さなかった。
584 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/02/19(土) 20:45:14.85 ID:p/ocpvSSo

「油断は禁物だな…」


「そうだな…俺にもそいつの経歴しっかり見せてくれ」


暗視装置から一度目を離し、ベティはケイトが調べたデータに目を通す。
ケイトはベティがごくりと生唾を呑み込むのを見逃さなかった。


「こいつ…相当な手練れだ…」


「あぁ…」


二人は先程までスコープに映っていたいかめしい目つきの傭兵を思い出し、震えつつもアイテムの連絡係の寮の監視行動を続ける。
585 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/02/19(土) 20:47:10.21 ID:p/ocpvSSo

――学生寮の近隣にあるホテル

砂皿とステファニーは調布近辺のホテルから移動し、立川近辺のホテルに拠点を移動した。
と言うのも、砂皿に入った依頼の為だ。


「さっきのワンコールは一体どうしたんだ?」


「その事なんですけど…私達かアイテムのどちらかが、監視されている可能性がありますね。或いはその私達とアイテム、どちらも…」



「成る程…アイテムの連絡係の彼女の家も…か?」


「えぇ。恐らく…。しかも狙撃銃を携帯していました…にしても、アイテムの連絡係の護衛の依頼とか、ちょっとおかしいですね」


「おかしいとは?」


「だって、変じゃないですか?私達が私の妹を助け出そうとしているのに合わせて、学園都市側が牽制球を放ってきたとしか思えないですよ?」


「…なんとも言えないな…ただ、電子機器による通信は辞めた方が良いかもしれないな」


「傍受される危険…ですか?」


「あぁ。学園都市の技術は数年から数十年進んでいる。その事は貴様が一番知っているはずだぞ?ステファニー」


ステファニーはえぇ、と頷きながら答える。
586 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/02/19(土) 20:48:38.72 ID:p/ocpvSSo

彼女は砂皿が机に置いた佐天の連絡先が記されているメモ用紙を見つめる。


(あの紙に書いてある連絡先からフレンダの連絡先を聞いて、すぐにでも…連絡を取れれば…!)



目の前に妹と連絡を取ることが出来るかもしれない連絡先が記されている。
彼女達は知らないが、事実、佐天はアイテムのリーダー、麦野からフレンダの連絡先を教えてもらい、ステファニーに送信しようとしていた。




ステファニーは妹と連絡を取れない事に歯がみした。
しかし、もし学園都市側が何らかの手段で警戒行動を取っていた場合、うかつに連絡を取ることは出来なかった。



学園都市のなんらかの技術によって砂皿と佐天の行った行動が傍受されるとも限らない。
そう思った砂皿はNECの最新式の暗視装置でもう一度学生寮の付近を監視する。
ステファニーが先程車内でワン切りコールをよこしてきた事で佐天が監視されている事を知った砂皿。



現在も雑居ビルの屋上でひそひそと隠れながら監視している工作員とおぼしき連中がちょこんと見える。
何が始まるんだ?砂皿は推測する。
587 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/02/19(土) 20:49:29.29 ID:p/ocpvSSo
「もう一度アイテムの連絡係と話しをしてくる」


「…既に私達の会話や通信記録が傍受されてる…と?」


「いや、その線は薄いと思う。まだ、我々は何もしていないしな…ただ、念には念をだ…」


「そうですね」


砂皿は立ち尽くしているステファニーの横を通り過ぎ、ガチャリとドアをあける。
眼下に小さく見える柵川中学の学生寮へ砂皿は再び向かっていった。
588 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/02/19(土) 20:49:59.57 ID:p/ocpvSSo

――柵川中学学生寮

「さーって、フレンダの連絡先も分かった事だし、さっさと連絡しちゃいますか」


不意に掛かってきたマコチンとの電話も終わり、佐天は仕事用の携帯を取り出し、先程貰った砂皿の連絡先を打ち込んでいく。
そしてそこにフレンダの連絡先を貼り付けして完了。


と、その時だった。
ドアのノック音が鳴る。俺だ、と佐天の護衛に就任してまだ数時間の男、砂皿がそこにいた。


「あれ?また来たんですか?一体どうしたんですか?」


「…もうフレンダの連絡先を俺の携帯に送ったか?」


佐天はいや、まだです、と答える。
砂皿は良かった、と一言つぶやく。


「何か問題でもあったんですか?」


「既に誰かに監視されてる可能性がある」


「か、監視ですかぁ?」


「あぁ」


ホントですか?と目をぱちくりしている佐天をよそに砂皿は暗視装置から出力した粗い目の画像を見せる。
589 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/02/19(土) 20:50:43.44 ID:p/ocpvSSo

佐天はその画像を見せられて。どうすれば…?と何をしたらいいか分からない、といった風に首をかしげる。


「取り敢えず、そのまま生活してくれれば問題はない…ただ、フレンダと連絡を取るのは辞めた方が良い。あと俺にもだ」


「何でですか?」


「普段の友人との交信は良いとしても、イレギュラーな内容の交信は慎んだ方が良い。監視されている危険があるかもしれない」


佐天はそんな…と驚きを露わにする。
何故、監視される事になったのだろうか?と疑問が頭にもたげてくる。


「恐らく…君が今日フレンダ達と一緒にテレスティーナの所に私の所にいったからだろうな…」


「何でそれで監視をされる事になるんですか?」


「君たちアイテムが何か企てている、と考えたんだろう…」


「では…フレンダが学園都市から抜け出すっていう計画には気づかないまでも、何かしようと考え、一応監視を出したって事ですか?」


「あぁ。そう見るのが大筋だろう」



砂皿は佐天の暮らしている学生寮が展望できる付近のホテルに拠点を構えた。
590 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/02/19(土) 20:51:38.63 ID:p/ocpvSSo

カーテンの隙間から暗視装置をちらとだけ覗かせ、佐天に危険が及ばないか監視していた。


その時に小さく見えた監視の兵隊の画像を佐天はちらと思い浮かべる。





(何よ…事態はそんなに深刻って事…?)



佐天は自分の身に危険が及んでいるのでは?と思う。
しかし、自分ではどうしようもないし、護衛の男の顔をみて佐天は少しだけ安心した。


佐天は砂皿に入手したフレンダの連絡先を渡す。
彼はそれを受け取るとすっくと立ち上がり、学生寮を出て行った。
591 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/02/19(土) 20:52:08.78 ID:p/ocpvSSo

――アイテム共同アジト


「涙子、護衛の人と接触したのかな?」


「どうだろうね?」


フレンダは心配そうな表情を滝壺に向けて浮かべる。
姉と二人組んでいるという傭兵。
その傭兵とコンタクトを取れれば一緒に行動している姉と連絡を取ることが出来るかもしれない。


そんな一縷の望みにかけたフレンダはアジトに一緒にいる滝壺の肩に寄っかかる。
ソファに座っている二人。
後ろから見ると金髪のブロンドが黒髪にもたれかかる様に見える。

滝壺は肩に寄っかかってきたフレンダに動揺することなく、ちらと少しだけ見つめる。


「ねぇ、フレンダ?」


聞いておきたいことが彼女にはあった。
それは今後のアイテムという組織の存続も掛かっている非所に重要な議題だ。


なぁに?と甘えるような声でフレンダは滝壺に答える。


「お姉ちゃんが見つかったら……フレンダはどうするの?」
592 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/02/19(土) 20:52:55.57 ID:p/ocpvSSo

「……結局、問題はそこよね…」


「このまま、学園都市にいるつもりは…」


「ないわよ…うん……」


姉が見つかって、それでもアイテムで命をすり減らしてこの学園都市に殉じる…最悪だ。
姉を見つけるため、少しでも何か手がかりがないかと思って入った暗部組織。


姉が見つかったからには暗部を抜け、学園都市から去り、さっさとどこかに住んで、普通に学校に通って…といきたいところだ。
しかし、おいそれと学園都市からでられるものか。


学園都市から逃げる…。
高校に行かず、暗部に身をやつしているフレンダが学園都市から出ようとした時、「はい、いいですよ」という訳がない。


「…じゃあ、アイテムから抜けるってこと…?」


「うん…そうなるかな」


「麦野達にも言うの?」


「……言った方が良いかな?」


「……わからない…むぎのの性格だと…」


滝壺は思う。
アイテムのリーダー麦野にフレンダがアイテムを抜けると言ったら…彼女は恐らく烈火のごとく怒るであろう。
怒らないにしても「いいわよ?」という訳がない。麦野はそういう女だ。
593 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/02/19(土) 20:53:56.19 ID:p/ocpvSSo

アイテムという身内の中から出る裏切り者、彼女は、フレンダがいかなる理由を告げようと、そう判断し、フレンダの学園都市の脱出行を認めないだろう。


(裏切りは許さない…私がアイテムを辞めるって事が、もしばれたら…?)


フレンダは麦野の怒りに狂った姿を想像する。
最悪、死も考えなければなるまい…普段は服や美容の話しに興味が有り、博学の彼女だったが、ひとたび戦闘になると目的を達成するまで執念深く、それを遂行しようとする。
そして、任務に失敗や不備があればそれを補い、補完しようとし、他の目標を見いだす。


そんな彼女がフレンダの脱出行を納得するか…?
話してみなければわからない…一体どうすればいいのか。
フレンダは思考を巡らすが、どうすればいいか検討も付かない。


「話してみようよ…?きちんと順序だてて話せば…ね?」


「……麦野も分かってくれるかな?」


滝壺の双眸に映るフレンダは日中、姉と接触できるきっかけを掴んだ時の嬉しそうな表情とは打って変わって、今にも泣き出しそうな表情だった。
そんな表情を目の前で見せられた滝壺は、ここ最近しているように、ぐっと自分の方に泣き出しそうなブロンドの少女を引き寄せる。
594 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/02/19(土) 20:54:26.71 ID:p/ocpvSSo

「…滝壺?」


「まだなにもしてないよフレンダ。考えすぎは止そうよ」


「うん…そうだね…、次の仕事で全員が集まったときにちゃんと言ってみる…」


「言うタイミングはフレンダが決めたほうが良いよ。私はそれを支持するから」


「支持してくれるのは……それだけ?」


「…ううん。フレンダが決めた事は支持する…暗部から抜けるって話しも、ね?」


フレンダは滝壺の肩に体を預け、目をつぶる。
彼女の頭を滝壺の小さい手がゆっくりとなでていく。その動作がたまらなく心地よかった。
595 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/02/19(土) 20:55:28.91 ID:p/ocpvSSo
――佐天の学生寮を監視しているベティとケイト

ケイトの無線が任務の更新を告げる。
全身漆黒の特殊部隊のいかめしい格好をしているこの人物に連絡をよこしたのは木原数多という猟犬部隊の指揮官だった。


げっ!木原さんか!俺なんかしたか?とケイトは自分がミスをしたかどうか考える。
あの人の前で失敗は決して許されない。無慈悲で有名な数多の前で生き残るには正確に、そう。まるで機械のように任務を遂行する事が重要なのだ。


『オイ、ケイト…砂皿緻密が学生寮を見渡せるホテルに移動したっていう情報が入った…猟犬部隊の他のメンバーが発見したそうだぁ。今から座標を送る』


「あ、はい!了解いたしました…!」
(良かった任務の更新か…!ったく!寿命が縮まるぜ…!)


ケイトは数多の指定してきた座標ポイントに向かうために準備を始める。
リューポルド社製のスコープをばらし、アタッシュウェポンケースにレミントンM24を収納していく。
その間にも監視を続けるベティを横目に見つつ、ケイトは指定された座標のホテルに向かっていった。


砂皿が宿泊している部屋の隣に移動しろ、との命令を受領したケイトは雑居ビルの一階に来た猟犬部隊の補給部隊から衣服やその他ツールを貰う。
雑居ビルの一階で特殊部隊の衣装からスーツ姿に着替え、オフィスマンの様な格好になったケイト。


「…準備は出来たか?」と同僚が彼に声をかける。
ケイトはあぁ、と小さく頷くと同僚の運転してきた2010年モデルのシボレーサバ―バンに乗り込み、砂皿緻密が構えているというホテルに向かっていった。
596 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/02/19(土) 20:56:13.24 ID:p/ocpvSSo

――柵側中学の学生寮付近のホテル

砂皿がステファニーのいるホテルに帰還する。
フレンダの連絡先を手にした彼はホテルのドアをノックする。


「MI」

『水』

「不足」

『ロシュフォート』


決められた言葉でお互いが本人であることの確認を取る。
がちゃりとホテルのドアをあけるとステファニーが今か今かと心待ちにしていた様で、「妹の連絡先は?」と目をきらきらと輝かせながらやってきた。


砂皿はステファニーの問いに答える前に、まぁ落ち着けとなだめ、さっと紙を渡す。


「これが…妹の連絡先?」


「あぁ」


「フレンダ…」


ステファニーはそうつぶやくと大切そうにそのメモ用紙を両手で抱きしめる。
まるでそこに妹のフレンダがいるかのように…。


「砂皿さん、それで…アイテムの連絡係と話しはつけてきたんですか?」
597 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/02/19(土) 20:57:10.66 ID:p/ocpvSSo
「あぁ…日常の連絡は取ってもらってかまわないが、学園都市から貴様の妹と貴様が脱出しようとしている事やそれにかんする連絡は取らないように言っておいたぞ」


「そうですか、ありがとうございます。ここで妹に私がメールしてしまえば…それも意味ない事になってしまう可能性が有り得ますよね…我慢しなきゃ…!」


ステファニーは妹に一言連絡を取りたい一心で携帯電話を取り出すが、メールを送ることは断念。
いつもは明るいステファニーの表情がこの時ばかりはしょんぼりとする。


「いつになったら…私はフレンダと…妹と会えるんですかね…?」


「アイテムのメンバーで話し合いをすると言っていた。それがまとまって貴様の妹が脱出行に参加した時だ」


しかし、と砂皿はステファニーの弁を遮りつつも話す。



「…その時には恐らく戦いは避けられないだろうな…」


「わかってます。妹を助け出すのに無傷でいようなんて思ってません!」


ステファニーはそう言うとぐっと両手に力を込める。













「私は妹の為なら悪魔にでもなります」
598 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/02/19(土) 20:57:51.33 ID:p/ocpvSSo

冗談交じりだろうか?
砂皿には表情こそ笑っているものの、その目にはゆらと滾る炎の様な雰囲気を感じ取ったそうだ。
彼もそのオーラに答えるようにあぁ、と力強く頷いた。



砂皿はそう言うと集音マイクをリュックから取り出し、ステファニーに渡す。
ステファニーは首をかしげつつも、集音マイクを壁にあてる。どうやら反応はない。



そう思い彼女は砂皿にぐっと親指をつきたてて砂皿の顔を見る。
視線に気づいた砂皿は首を横に振る。


その表情は曇っている。
どうやら憂慮すべき事態が起こっているようだ。
599 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/02/19(土) 21:01:00.88 ID:p/ocpvSSo

――アイテムの共同アジトの近隣マンション オスカー

マンションの部屋を急遽手配した猟犬部隊。
オスカーはそこの部屋から大胆にもカーテンをあけながらアイテムを監視していた。


ベランダを出るとその隙間からちらと双眼鏡を覗かせる。
二人の人物が居る事は確かだった。
それはソファに座っている二人の後姿で確認できる。


(あんな奴らを監視して何になるんだ?)


自分みたいな下っ端には分かる訳がない、と思う反面、何故、暗部といえどもあんな小さい少女達を監視しなければいかないのだろうか?と頭にもたげてくる疑問を払拭しきれずに苛立ちを覚える。

今頃、他の奴らは何してるんだ?オスカーは自分と同じように数多に不意に名前を呼ばれた隊員とそれの交代要員達の事を考えながら少女達の私生活を監視する事に務めた。
600 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/02/19(土) 21:02:45.53 ID:p/ocpvSSo

――佐天の学生寮を監視しているベティ


結局何も起きないのではないか?
そんな不安がベティに去来していた。


(おいおい…さっき護衛の男が一回戻ってきたが…ありゃ何だったんだ?)


ベティはつい先程砂皿が再び戻って来た事を疑問に思いつつ、リューポルド社製のスコープを覗く。
交代要員はまだか?いい加減休みたい…。そんな気が沸いてくる。


監視要員は常にスコープに目を宛がい、監視する訳ではないのだが、いかんせん疲れる。
スコープを覗いていないときでも疲労はたまるものである。


(はぁーあ…ったく話し相手のケイトは砂皿とかいう傭兵野郎の監視に持ってかれちまうし…交代要員は来ないし…)


ベティがため息をついたときだった。
彼の無線がピカピカと光っている。彼の高感度無線機が何かを受信した合図だった。


おもむろにベティがスイッチを入れ、会話に応じる。

「はい、こちらベティ…」
601 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/02/19(土) 21:03:18.35 ID:p/ocpvSSo

『俺だ…ケイトだ。そっちの様子は?』


「無線で遊ぶなって、ケイト。ばれたら木原さんに殺されるどころじゃ済まないぞ?」


『いや…遊んでねぇ。あいつら、とんでも無いこと考えてやがる…!!』


「とんでも無いこと…?」


オウム返しの要領でベティがケイトの言ったことを聞き返す。
するとケイトは落ち着き払った様子で言い放った。


『妹を捜しているらしいぞ…で、妹の方はその事実に気づいていない。しかし、近い内にその作戦が実行に移される可能性をも示唆していた』


「本当か?」


『あぁ。先程高感度マイクでキャッチした情報だ…!今から姉のデータをそっちに送る!俺が送っても良かったんだが…!』


「わかった。お前がそこでキャッチした情報を俺に送れ…!そのデータを俺が木原さんに送る!」


一気にベティに緊張が走る。
どうやら砂皿のホテルの隣の部屋に移動したケイトは移動そうそうとんでもない重要情報を手にしたのだった。

『じゃあまた連絡する……ぴんぽーん…』


ベティの耳朶に不意に機械音が流れる。
ケイトはホテルの人か?と最後に無線機に吹き込み電源を切った。


恐らくホテルのインターホンが鳴った音だろう――そう考えた刹那、ベティの本能が警鐘を鳴らしていた。
そのドアをあけるな!ケイト!!
602 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/02/19(土) 21:03:59.66 ID:p/ocpvSSo

――砂皿達が宿泊しているホテルの隣の部屋のドア前

ぴんぽーん…。


砂皿緻密は弾を装填したグロック17を構える。
消音器をまとったそれを右手にちゃかっと構え、左手でインターホンをおす。


先程から隣の部屋に人の気配がする。
それを察した砂皿は怪しいと判断し、状況を伺う事にした。



「はいはーい」と陽気な男の声が聞こえてくる。
そしてその直後にがちゃりとドアが開くとチェーンロックがかかっているようでほんの僅かな所から男が顔を覗かせているのが見えた。


「どうしたんでしょうか?」


「いえ、こちらで何か音が聞こえたので、何かあったのかな、と思いまして」


「はぁ…音でしょうか」


「はい…」


砂皿とケイトが会話をしている最中、もう一つの動きがあった。
在日米軍から拝借した超高感度集音マイク。


念には念をの一環で砂皿緻密が両サイドの部屋にそれぞれ集音マイクを配置していたのが吉と出た。
どうやら敵さんは学園都市の治安維持部隊らしい。しかも隣にいるのは偵察任務の特殊部隊…。
603 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/02/19(土) 21:04:25.27 ID:p/ocpvSSo

角の部屋を予約できなかったのが悔やまれる所だったが、角を取れば柵側中学の学生寮が見えにくいという欠点があった。
学生寮が見えて護衛の任務を全うしやすい所は?そう考えるとやはり両サイドが空き部屋のこの部屋しかなかった。


しかし、チェックインした時にあいているとホテルマンが言っていたにもかかわらず、隣の部屋から人の声が聞こえてくるのは何故だ?
そしてその会話の内容が、自分たちに関する会話なのは何故だ…!?


学園都市側に自分たちが目論んでいる計画が露見しつつある。
そう考えた砂皿はステファニーと共同して会話が聞こえてくる隣の部屋にお邪魔することにした。


「本当に知らないのか?今ここで音がしたんだぞ?」



「いや、こっちの部屋では聞こえてこなかったが…?」


ケイトは砂皿との会話に応じつつ、自分がドアをあけてしまった軽率さを呪った。
簡単な監視任務だと思っていた。
604 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/02/19(土) 21:05:09.00 ID:p/ocpvSSo

“油断するなよ”


木原の言葉がケイトの頭の中に反芻してゆっくりと淡い水玉のようにはじけていく想像を浮かべる。
このまま強引にドアをしめるか?いや、待て、さっきからジーンズの後ろに当ててるその右手は何だ?傭兵っ!


怒鳴って、一気にドアを締めようとケイトは一瞬で考える。
そこから一度練り直しだ。そこでちゃんと詳細を木原さんに伝えて…正規部隊で殴り込みをかけて一網打尽だっ!!


(3、2,…)


「だぁーめですよー!ぴしゅ!」


ケイトの背後から間の抜けた女の声が聞こえてくる。
しかしケイトはその声が耳に入ってその言葉の意味を理解するまでの間に意識が遠のいていった。
背後から撃たれたのだった…。


ケイトは永遠の眠りについていった。
605 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/02/19(土) 21:05:57.28 ID:p/ocpvSSo

――ケイトの監視していた部屋

「学園都市の治安維持部隊か…」


ステファニーが窓から侵入し、男の背後から撃った。
死亡が確認出来たので、身元の確認を行っていく。
どうやら身分を証明する者は何も持ってない。


特殊部隊の隊員の胸ポケットから出ていた彼女か?それとも妻?と一緒に撮った写真を砂皿は忌々しそうに眺め、丁寧に元の位置に戻してやる。


「この通信機で連絡をとっていたそうですねぇー」


学園都市製の無電池無線電話を取り上げる。
この隊員が使っていた電話だろう。


「俺たちがしていた会話の内容は聞かれていたか…?送信記録も見れれば良いんだが…」


砂皿はそう言うと無電池電話をステファニーから受け取る。
送信記録は見る事が出来ないようだった。


しかし、はっきりしたことがある。
それは砂皿達も監視されているという厳然とした事実だった。
606 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/02/19(土) 21:07:27.73 ID:p/ocpvSSo

――猟犬部隊のオフィス

「おせぇ…何で連絡が取れねぇんだ!!」


木原数多はいらだっていた。
砂皿とかいう傭兵の周囲に不穏な動きが展開されている、とベティから連絡が入り、直接聞いてみようと木原はケイトの無電池電話に連絡をかけているのだが通じない。


(まさか…監視がばれて殺られちまったのか?おいおい、ケイト、そりゃないぜ?)


猟犬部隊は良く訓練された特殊部隊だ。
ベティが調べあげた経歴を読む前に数多もその経歴の輝かしいウォーモンガーっぷりにあきれていたが、まさかこんなに簡単にやられるわけがない、そう思った。


(って待て待て。確かベティの報告だと砂皿って奴は部屋の中で誰かと会話してたんだよな?まさか連れてきた女でもあるめぇし…一体誰だ?)


数多はデスクに猟犬部隊の作業用のデスクにすわりながら推測を巡らしていく。
砂皿という男と通話をしていたのは一体誰なんだ?男なのか、女なのか?


数多はベティとケイトが取っていた交信内容を思い出す。
正確な音声記録として残しておらず、数多はベティに交信する。


「オイ、ベティ」


『はい、木原さんですか』


「さっきのてめぇとケイトの交信を思い出せ。傭兵は誰と会話してたって言ってた?」
607 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/02/19(土) 21:08:09.22 ID:p/ocpvSSo

受話器越しにベティの頼む、という声が聞こえてくる。
交代要員の男性に関し任務を引き継いだのだろう。



『はっ!“妹を捜しているらしいぞ…”とケイトは申しておりました』


数多はその話しを聞くとにやりと笑う。
妹ねぇ…。わかった、と数多は頷く。


「引き続き関し任務に当たれ、順に交代要員は派遣するからローテーションしろ、オーバー」


『はい!了解しました』


数多はベティの元気の良い声を受話器越しに聞きつつ電話を置いた。
そしてデスクに散らばっているファイルをざっと見ていく。

それを照らし合わせるように机の上においてあるパソコンから情報バンクにアクセスしていく。


(アイテム…アイテム…姉妹がいる奴を洗えばいい…)
608 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/02/19(土) 21:08:43.66 ID:p/ocpvSSo

数多の広いデスクのパソコンに入力されていく情報。
学園都市の統括理事会とほぼ同等の権限を持っている彼にとっては学園都市にいる或いは関わったことがある全ての人物のデータを照合できる立場にいる。


(麦野沈利…絹旗最愛…滝壺壺后…一人っ子……)


(で、アイテムの連絡係、佐天涙子…こいつは弟がいる…でも、学園都市外か、なら会えるな…何も捜索するほどじゃない)


(フレンダ…カナダのカルガリー出身。どうしてこいつだけ名だけで登録されているんだ?外人だからか?)


外人でも暗部落ちしている奴は何人も居る。
決してそれはおかしいことではないのだが、数多が気になったのはフレンダという人物が名だけ暗部に登録されていると言うことだ。


(オイオイ…学園都市側はこんなに雑な仕事してたのかよ…?)


(今は学園都市のミスなんざどうだっていい…!このフレンダとかいう奴の身を洗わないとな…!)


数多は自分の権限をフルに使って情報データを見ていく。
しかし、いかんせん、名だけで金髪ブロンドの少女の親族を見つけることなど出来る訳がない。


二百数十万という数の学生が居るこの学園都市の各地に住んでいる外国人のデータを一度全部洗うか?と数多は考えるが膨大な作業になるだろう、と判断して辞める。
むしろ学園都市にその姉が住んでいない可能性の方が高い。
姉は外部から救出に来たと見て良いだろう。


(…そうか…砂皿とかいう傭兵の周囲を探ってみれば良い…!)
609 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/02/19(土) 21:11:15.28 ID:p/ocpvSSo

(そうと決まれば話しがはえぇ…!)


数多はそう考えると砂皿緻密の周囲の関係を調べていく。
調べていくと数多の顔がにやと歪む。


(砂皿緻密…こいつの経歴は確かに化け物だ…市ヶ谷の特殊作戦遂行軍か…で、フランス、スペインの傭兵部隊…でオーストリアのコブラか…すげぇ…!)


(で、この化け物と一緒に行動しているのは…?誰だ…?)


(…ステファニー…ゴージャスパレス…こいつか?)


数多はステファニーの詳細を調べていく。
金髪のブロンドヘア。カナダはカルガリー出身。
かつてはカナダ軍に所属しており、その後学園都市で教鞭を握りつつ警備員としても活躍。


砂皿緻密ほどではないしても彼女の経歴も立派な軍人だ。
二人を猟犬部隊にオファーしてみたいと数多は思った。しかし、それは敵わないだろう。
彼らは既に数多の頭の中では敵として認識されたのだった。


(ステファニー=ゴージャスパレス…コイツがフレンダとかいう奴の姉か?)


確かにフレンダよりも年上だ。
そしてブロンド。何より出身地がカナダのカルガリーという共通点。
かなりの確率で二人が姉妹であると言える。
610 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/02/19(土) 21:11:47.58 ID:p/ocpvSSo

(これは一応…作戦発動とみて良いのか?それとも…捜索だけという線も有り得る…もう少しだけ様子を見るか?)


数多が思考を巡らしている最中だった。
がちゃりとドアがあく。


「クカカ…こンな夜中に引きこもり宜しく何パソコンいじってンだァ?」


「テメェか。いやな、まだ決まった訳じゃねぇが、学園都市内で何かが起きそうな予感がするんだ」


「反乱か何かか?」


「あくまで俺の予想だが…逃亡だなこりゃ」


「へェ…。誰が逃亡するんだ?」


「アイテム…テメェも名前くらいは知ってるだろ?」


「あぁ…まだ暗部に墜ちてからまだ日は浅ェが名前くらいなら」


「その中の構成員の内の一人が姉の救出の元、学園都市の暗部から抜ける可能性がある」
611 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/02/19(土) 21:12:20.45 ID:p/ocpvSSo

一方通行。
最強の名を欲しいがままにしている男。


得体の知れない男に敗北を喫し、学園都市の絶対能力進化計画は凍結した者の、依然一方通行の操るベクトル変換能力に魅せられる者は多い。
一方通行は絶対能力進化計画が自分の敗北で頓挫した事で簡単に言えば暇になったのだ。


かといって統括理事会が彼を学園都市の闇から下野させることはなかった。
彼に新しく与えられた任務はグループという組織に加われ、という命令。


命令を出してきた組織はうざったいから取り敢えず全員ビルの屋上のタワーにブラド公宜しく串刺しにしてやったが。
それすらも不問にして統括理事会は学園都市の治安を守るために暗部に彼の参入を求めたのだった。


ツリーダイアグラムの破片…即ちレムナントを回収使用とした女をそうそうと片付け、暗部に加わらせた。
にゃーにゃーうるさい頭の切れる男と魔術師と自称してはばからない男をくわえて誕生した組織『グループ』


「へぇ…木原クンの猟犬部隊が惨敗したら、俺もアイテムをぶっつぶすのに参加して良いかなァ?」


「抜かせ。猟犬部隊は警備員の能力者対策方法を熟知している意味でも特殊な部隊なんだ。貴様達に出撃命令が下る前にこちらで鎮圧する」
612 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/02/19(土) 21:12:47.65 ID:p/ocpvSSo

「はっはは…いいねェ…いいねェ…そしたら余ったアイテムの女ども…確かあそこは全員女だと?皆殺しは辞めな」


「あ?何でだよ?裏切り者は許さないに決まってるだろぉが」


「…いや、最近女とヤってねェ…クカカ…ご無沙汰なんだわ。しかも、最後にヤったのがよォ…」


「ぷっひゃひゃひゃ…だっせぇぜぇ?一方通行ぁ?あのクローンが初めてで、最後もあのクローンってかぁ?あーひゃっひゃっひゃ…ったく…婦女子暴行はお前の専売特許だからなぁ…」


くだらない話しに二人は興じる。
一方通行と他に三人がいるという『グループ』。
彼らの出撃命令はいつくだるのだろうか?


「でよォ、実際には俺等グループが招集かけられるのはどういったタイミングなンだ?」


「猟犬部隊が壊滅してもお前等には出動命令はくだらないだろうな…もし仮に猟犬部隊が潰されたとしたら…」


数多はその極悪な人相をさらにぐにゃりと歪め、笑いながら言う。


「俺ともう一つの部隊が動く」
613 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/02/19(土) 21:13:43.71 ID:p/ocpvSSo

「はっ!たいそうなこった。研究者が戦うとか、見物だねェ…!」


「相変わらず口のへらねぇ野郎だ」


「ハッ!知ったことかよ!」


「ほら、そろそろ行け、俺も疲れてんだ。猟犬部隊の一人と連絡が取れねぇんだ」


一方通行は数多からその話を聞くとご愁傷様ァと全く悲しそうな表情を浮かべずにオフィスから出て行った。
614 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/02/19(土) 21:14:09.74 ID:p/ocpvSSo

――MAR司令部のビル

テレスティーナは兄である数多からフレンダとその身辺に起こりうるであろう事態の推測をしていた。

(うーん…本当にフレンダが学園都市から脱出しようとしているっていう証拠がないんだよね)


(猟犬部隊の隊員から連絡が来ないって話しだけど…恐らく殺られたと見ていいでしょーね)


連絡が来ない。
それだけで事態は進んでいるのだと理解することが出来る。


定期的に連絡をよこせと厳命しているにも関わらずここであえて抗命する理由がない。
しかも、最後の連絡を聞く限りだと、任務続行を唱えていた…とすればその後に連絡が入ってこないのはおかしい。


(こっちから牽制球を打ってみるか?兄は飽くまで関し任務…いや、それとも一度上に掛け合ってみるか?)


テレスティーナは統括理事会にこの不穏な事態の事を告げようかどうか逡巡する。
統括理事会にアイテムの事を報告しても、結局はアイテムの管理をしっかりしていないのはだれだ、と限りなく責任の所在を曖昧にする日本的責任転嫁、または責任をないがしろにするシステムが発動する事は否めなかった。


統括理事会の頂点に君臨するアレイスターに言って支持を仰ぐという手もあるにはあるが、いかんせん得体の知れない輩だ。
テレスティーナは治安維持に関与している必要最低限の統括理事会の面々にだけその事を伝えようと思い、ホットラインを取り出した。


テレスティーナは軍事や学園都市の防備に興味を持っている連中にだけホットラインをつなぎ、現況を説明した。
数人の統括理事会の男達はテレスティーナに任せると言う。


(トカゲの尻尾かい…私は)
615 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/02/19(土) 21:14:35.81 ID:p/ocpvSSo

数十分かけて現況を説明し、しばらくの間に帰ってきた言葉は「君の思う通りにやってくれ」の一言だった。
何でもやっていいと解釈してしまいたくなる反面、その責任はお前一人だけが取れ、と言われたようなものだった。


しかし、テレスティーナには愛国心ならぬ、愛都心というものがあった。
自分を木原一族の列にくわえた貰った事に対する感謝。それは常に彼女の心にあった。


自分を育ててくれた学園都市の治安が乱れるのを未然に防ぎたいと彼女は強く思う。
テレスティーナは自分の内面にガラにも無くそんな気持ちがあることに苦笑しつつも、即座に行動に打って出た。


(まずは…アイテムのリーダーに連絡…っと)


(…情報バンクに接続…麦野沈利の連絡先…これね…)



テレスティーナはパソコンに文章を打ち込んでいく。
その作業は程なくして終わり、彼女は椅子にぐっとよっかかり背筋を伸ばす。
616 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/02/19(土) 21:15:31.45 ID:p/ocpvSSo









To:麦野沈利

Sub:無題

フレンダがアイテムを抜けようと画策している模様。
警戒されたし。


by MAR指揮官 テレスティーナ=木原=ライフライン
617 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/02/19(土) 21:16:43.05 ID:p/ocpvSSo
明日からまたゲレンデに行きますので、暫く更新が出来ません…。
ではまた!

グダグダ進行すいませんがおつきあい下さいな!
では読者に変わらず感謝を…!
618 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/02/19(土) 21:40:18.84 ID:330kfWTAO
乙。気が向いたときにゆっくり書きゃいいよ。
619 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/20(日) 00:02:10.10 ID:YTdTu9/60
一方通行はチョーカーなし?
620 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/20(日) 02:22:06.99 ID:s9UV4LCo0
乙 一方通行は打ち止めと接触してないのかな?
悪人全開の一方さんもなかなかかっこいいぜ
木原くンとの絡みもいいな
621 :作者 [sage]:2011/02/20(日) 02:41:52.39 ID:EWXmFVfDO
>>620
うん。チョーカーなしです。強いっす
622 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/20(日) 05:22:23.58 ID:VVMgSAHfo
ガチ悪人の第一位…だと?
アイテム逃げてー!

おつ
623 :作者 [sage]:2011/02/20(日) 11:37:14.32 ID:EWXmFVfDO
打ち止めとは接触してません
624 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/20(日) 23:23:04.36 ID:um+Z7is/o
つーか時系列がいつなのかわからん
あとテレスティーナとは超電磁砲メンバー全員接触してんのか
625 :作者 [sage]:2011/02/21(月) 01:11:55.29 ID:lSB+yYtDO
夏休み終わる直前くらい。
超電磁砲の四人とは接触してません。アニメでテレスティーナと接触した時期とほぼ同じくらいかなぁー。
626 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/22(火) 01:31:10.62 ID:mOJ7P8yY0
やっと追い付いた。

設定が深くて面白いですね。
作者様頑張ってください。
627 :作者 携帯から :2011/02/24(木) 19:34:52.15 ID:PWbeAcfDO
更新停滞本当にすいません。私事の予定があり、書き溜めが思うように溜まりません。
申し訳ありませんが3月始め辺りまでお待ち下さい…。

数々のレス嬉しいです。励みにして頑張ります
628 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/24(木) 21:21:59.16 ID:rr0t9Szc0
>>627
まじか

全然遅くなるのはかまわんしゆっくり書いてもらっていい作品ができる事に越したことはないが

生存報告だけはしてくれると助かるんやでー


作者がんばってー
629 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/25(金) 16:24:14.54 ID:WYhTq/BJo
>>1がいない間佐天さんをぺろぺろするのは任せろ
630 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/25(金) 16:25:09.61 ID:pI+U6QiGo
ペロペロ(^ω^)
631 :作者 携帯から :2011/02/28(月) 18:05:25.79 ID:vcrNxHaDO
生存報告

旅行から帰ってきたはいいものの、書き溜めすすまないっす。一週間以内には投下できるかと思います。
632 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/28(月) 18:58:00.92 ID:G5nJLz3ao
乙 気長にまってる
633 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/03/06(日) 03:57:37.50 ID:9DJGvsKGo
長い間更新停滞本当にすいません。
書きためがある程度たまったので投下します。



あらすじ

テレスティーナはフレンダが暗部から足を洗おうとしていると疑念を抱き、麦野に連絡した。
麦野はその連絡を受け取る。果たして、どの様な対応をするのだろうか?
634 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/03/06(日) 03:58:45.67 ID:9DJGvsKGo

――麦野の住んでいる高級マンション

テレスティーナ…?一体誰なんだろうか。
麦野の携帯電話に送られてきたメールの送り主の名前に彼女は首をかしげる。


「ねぇ〜、浜面ぁ。テレスティーナって誰だっけぇ?」


「いやぁー俺はしらねぇなぁ」


「どっかで聞いたことあるのよねー……」


「俺は外人の知り合いだったらフレンダくらいだなっ。ってか、麦野。胸当たってるって」


「ふふ、いいじゃない。さっきまで普通に抱き合ってたんだし」


麦野はそう言うと浜面の厚い胸板に顔を寄せる。
二人は今ベッドで仲良く寝ているのだ。


「で、そのテレスティーナって奴がどうしたんだ?」


携帯電話を見ている麦野。
浜面の胸板の辺りに麦野がいるので彼女の携帯電話に掛かったメールの内容をうかがい知ることは出来ない。
635 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/03/06(日) 04:00:25.62 ID:9DJGvsKGo

「……」


「おい、麦野?何か言えよ?」


「MARって確か警備員の一部署よね?」


「…そうなのか?今までさんざん警備員にはお世話になったが、そんな部署も組織も聞いたことがねぇ」


「あ、そ」


つい先程まで愛の言葉を囁いていた麦野は携帯電話を見てからというものの、何だか浜面に対して素っ気なくなってしまった。
浜面はそんな彼女の所作に寂しさを感じつつもその正体を確かめたいと思い、聞いてみた。


「さっきから警備員やMARだなんだって、一体どうしたんだ?」


「テレスティーナって奴から来たメールがこれ。信じられる?」


麦野はそう言うと見ていた携帯をぽいっと浜面に見せる。
彼女が腕を上げた拍子に浜面の視界にちらと綺麗な乳房が見え、彼はそちらに視線が向かってしまうが、なんとか携帯を受け取る。


浜面は自分のどうしようもない下心に内心で苦笑しつつ、携帯の液晶に映し出されている文字の羅列に目を通していく。
すると彼の表情がみるみるうちに曇っていくのが麦野からも分かっていった。


(ちょっとまて…フレンダが学園都市から出るってどういうことだ…?ってか何でこいつはそんな事知ってるんだ?)


浜面は自分の頭の中に思い浮かんでくる数々の質問を内包していきながらも、まずはこのメールの内容について審議しなければならない、と思った。
「なぁ、麦野」と彼は話しかけていた。
636 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/03/06(日) 04:01:24.40 ID:9DJGvsKGo


「この情報信じるか?」


「信じるも何も…いきなりこんな事言われてもってのが本音よね」


「うーん…アイテムを潰したい何者かによる罠?非公式ながら警備員の中にはMARという部署が存在するのは聞いたことがあるわ」


だから、と麦野は一言前置きを重ねる。


「組織の名前を名乗っておいて、私達の仲間割れを誘おうって魂胆かも知れないわね」


「かもしんねぇな。とにかく、招集かけますか、アイテム」


「そうね。……ねぇ、浜面。私さっき電話の女から連絡先教えてくれって連絡来たわよ?もしかしたら…それも何かと関係があるのかも知れないわね…」


麦野はこうしちゃいられない、と言わんばかりに携帯電話をかちかちと打ち込んでいく。
そして携帯を閉じると浜面の方を上目使いで見つめる。


浜面はその表情に赤面しつつも、自分の胸板にいる麦野をぐいっと顔の辺りまで引き寄せ、唇を重ねた。
637 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/03/06(日) 04:02:03.37 ID:9DJGvsKGo

――フレンダと滝壺の共同アジト 同時刻

ん…と小さく声を上げるフレンダ。
どうやら滝壺の方に寄っかかったまま寝ていたようだった。


(あれ…?私寝ちゃったみたい…、滝壺は?…隣にいるね…)


ちらと横を見ると滝壺は寝息を立てて寝ている。
しかし、このままここで寝てしまったらいつも寝る時間に寝れなくなってしまう。そう思ったフレンダは滝壺の肩をとんとんと優しくたたいて起こす。


「滝壺?起きよ?」


「……ん、フレンダ?あれ?寝ちゃってた?」


フレンダはうっつらうっつらとしている滝壺に「ちょっとね」と答えると、携帯電話を取り出し、メールを打ち込んでいく。
滝壺は隣でフレンダのメール編集画面をのぞき込む。


「なにしてるの?フレンダ」


「あー、ちょっとさ、近い内にアイテムのみんなには私がアイテムの事抜けるって事ちゃんといわなきゃなって思ってさ…明日にでも集まれたらな、って」


「明日はまだ仕事が入ってないから平気かもね、みんな集まってくれるかも」


フレンダは滝壺の発言に「そうだといいんだけどね」と相づちをうつ。
メールの編集が終わり、それを滝壺に見せると、「いいと思うよ?」と小動物の様にちょこっとだけ首をかしげる。
638 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/03/06(日) 04:02:34.25 ID:9DJGvsKGo

To:アイテムメンバー

Sub:明日

いつものファミレスに集まれる?時間は正午。
返事待ってるって訳よ( ´ ▽ ` )ノ
639 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/03/06(日) 04:03:29.04 ID:9DJGvsKGo


(絵文字なんて使って緊張感ないかな?ま、いっか)


フレンダが送信しようと思った時だった。
メール送信ボタンに自分の指を宛がったときだった。

突如、彼女の携帯の着信音が鳴る。
DAISHI DANCEのI Believe だ。



(このタイミングでメール?誰?メルマガ?)


ちょうど良いタイミングでメールが来て驚くフレンダ。
自分が作成したメールを送ろうとした矢先に一体誰よ?といらっとするが、その感情がわき起こったのも一瞬。
そのイライラは霧散していく。


「…む、麦野?」


フレンダはつい声に出していた。
全く同じタイミングで滝壺の携帯もバイブレーションが鳴動している。


フレンダは何故か嫌な予感がしつつも受信フォルダに蓄積されているメールを読む。
640 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/03/06(日) 04:03:59.69 ID:9DJGvsKGo





From:麦野沈利

Sub:明日

仕事なさそうだから、明日はいつものファミレスに正午にきてほしいにゃん☆
641 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/03/06(日) 04:05:28.88 ID:9DJGvsKGo

(どーゆー事?何で?麦野の事だから…暇だから適当にって感じでアイテム招集かしら?)


フレンダは特に麦野主催の招集には何もないと考えつつ、彼女から送られてきた受信メールを何度も読み返した。
そのうちに、フレンダは気づけば体が小刻みに震えていた。
今日、共同アジトに帰ってきて滝壺と話した内容に依るところがあるのかも知れない。


麦野はフレンダが学園都市の暗部を抜けることをよしとするか、それが最大の焦点だった。
そして、暗部から抜ける事を彼女がよしとする筈がない。


(私が姉の事探してるていう事が誰かに結局ばれたって訳?どうなのよ…!何でこのタイミングでメールが来るのよ?)


麦野の不意に送られてきたメールに動揺をしつつもフレンダは「了解☆」と返事を返す。
結局フレンダの作成したメールはアイテムのメンバーに送信されることなく、削除されてしまった。
642 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/03/06(日) 04:06:09.16 ID:9DJGvsKGo

――翌日正午 いつものファミレス

ランチで真っ盛りの店内。
いつもの窓際の卓に絹旗が鎮座していた。


(私が一番ですかね?)


絹旗はランチの時間帯で込んでいるレストラン内をぐるっとのぞき込む。
どうやら絹旗が一番最初に来店したようだ。


店員は絹旗が常連であるのを知っているのだろう。
五人分のナイフやフォークが入っているケースを持ってきた。
ことりとおかれる、それらが入ったシルバーケースを見つつ、彼女は思った。


昨日のメールは一体なんなんでしょうか?仕事は今日は休みなので映画でも見たかったのに…。
しかも、何でよりによって正午なんでしょうか?そんな疑問が頭をもたげてくる。


確かに午前中とか夕方から集合にすれば映画は一本くらいなら余裕で見れる。
ここ最近仕事が無い日はもっぱら映画を見ている絹旗は脳裏に麦野の顔を思い浮かべてちょっぴりいらっとしたりする。
643 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/03/06(日) 04:07:38.40 ID:9DJGvsKGo

「ごめん!待たせたって訳よ」


「ごめんね。きぬはた、待った?」


二人の女の子の声が掛かる。
絹旗は手にとって見ようとしていたレストランのランチメニューを一度卓において声の掛かった方を見直す。


「フレンダに滝壺さんですか、平気です、私も今きたばっかですから」


絹旗の声を聞きつつフレンダと滝壺は定位置となった座席に腰を下ろす。
今日の招集は一体なんなんでしょうね?と絹旗は首をかしげつつ二人に聞く。


「なんだろうね。私達もわからないんだよね?フレンダ」


「…う、うん」



フレンダがちょっと緊張している様に見えたのは目の錯覚か?絹旗は自問する。
よく見てみれば、目の下にくまができている。寝れていないのだろうか?


「まぁ、もうすこしで麦野達も来るでしょうし、それまでの辛抱でしょう。それより、フレンダ」


絹旗がフレンダを呼びかけると「な、なに?」とうわずった声を上げる。
明らかにおかしい。体調でも悪いのだろうか。絹旗はそんなフレンダを慮って「大丈夫ですか?体調悪そうに見えますよ?」と声をかける。
644 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/03/06(日) 04:09:17.60 ID:9DJGvsKGo

「ちょっとね……」


「ちょっと…?何ですか?」と聞くが、あはは…と気まずそうに笑いを浮かべるだけだ。
的をえない会話のやりとりに絹旗は辟易し、窓から見える道路に止まっている車列に視線を向けることにした。

するとファミレスの駐車場に入ろうとしてウインカーを出している黒い日産のセダンが一台見えた。
浜面の買ったセドリックだった。助手席には麦野も座っている。



(パシリなのに遅刻…超許しませんよ、浜面…!しかも麦野と一緒に来るとは…全く…!)



絹旗は正午から少しだけ遅刻してきた浜面を見て、あの車を鉄くずに変えてやろうか思案する。
そんな事つゆ知らず、いや、そうなるのを避けたい。と意思表示しているかの様に浜面の車はウインカーを出しながらちょこちょこ道路を横切って駐車場に入ろうとしている。


浜面は運転席のミラーをあけてレストランの中を見ている。
どうやらアイテムがどこに座っているかどうか見ている様だ。
ファミレスのある車線とは反対方向側からやってきたセドリックはやがて駐車場に入っていった。



数分して浜面と麦野がやってきた。
浜面はすまん!遅れた!と入店して真っ先に絹旗達が座っている座席に向かって行くと謝った。
浜面が入店して一拍間が開いてから麦野が入店する。


「ごめん、ちょっと遅れちゃった」


軽く麦野は謝るとアイテムのメンバーをぐるっと一瞥する。
絹旗は何で浜面と麦野が一緒に来たか、聞き出したかったが、聞いて地雷でも踏んでしまっては…と思い、のど元まで出かかっていた質問をごくりと飲み下す。


そんな絹旗の葛藤等関係なしといった風に麦野はどかっと座席に腰を下ろす。
645 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/03/06(日) 04:09:48.50 ID:9DJGvsKGo

「浜面、コーラ」


麦野の浜面に対するオーダーが合図だ。
アイテムの女性陣はいつも通り、それぞれ飲みたいものを浜面に注文する。


「わたしはメロンソーダがいいな。はまづら」


「私も滝壺さんと同じやつでお願いします」


「……私は…水で」


麦野以外の三人が注文を済ませる。
浜面は了解、と言いつつ、内心に変な感覚を覚えた。


(ドリンクバーなのに、水でいいのかよ?フレンダ)


そう思った浜面は声をかける。


「おい、フレンダ、水で良いのか?ドリンクバーだぜ?後で注文するから先に飲んでも問題ないのは分かってるだろ?」


「…あ、あぁ。平気よ?また後で浜面に注文するって訳よ!」


「そっか、ならいいんだけど」


浜面はそう言うとドリンクバーにジュースを取りに行く。
絹旗は空腹を抑える事が出来なかったのだろう、近くを通りかかった店員にランチハンバーグセットを注文する。
646 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/03/06(日) 04:11:00.47 ID:9DJGvsKGo

麦野は珍しくシャケ弁当を持参し忘れたので、デザートのチョコパフェを頼む。


「フレンダも何か食べれば?」


麦野はフレンダに声をかける。
声をかけられた彼女はちらと麦野を見て「あ、良いって訳よ!あんまりお腹減ってないしさ」とぎこちない笑顔で答える。
そう。ならいんだけど、と麦野は一人頷くと浜面が他の客がドリンクバーを持っていくのを待っている。



(いつも、ドリンクバーありがとね、浜面)


他の面々の前では絶対に言えないことを麦野は一人内心につぶやく。
いたわりの目線を向けていた麦野はしかし、次には座席に鎮座しているアイテムの面々を見つめる。


「今日招集かけたのはさ」麦野が話しを切り出すと全員がゆっくりと顔を上げる。
浜面はまだドリンクバーでジュースを注いでいるが、麦野は昨日来たメールの事を言う。



「昨日テレスティーナって奴から連絡が来たのよね。で、そいつがさぁ…とんでも無いことを喋ってたのよねん☆」


絹旗はほうほう、と頷く。滝壺とフレンダは無表情に麦野を見つめる。
うるさいランチの時間帯にもかかわらず、この座席だけはリーダーの話しを聞こうと思い、話しを聞こうとする、静かな空間が展開されていた。
647 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/03/06(日) 04:13:19.85 ID:9DJGvsKGo

「…どんな連絡だったんですか?超気になります」


「それがね…フレンダ。ははは、あんたの事に関してだったのよ〜」


絹旗の質問に麦野はそう言うと、信じられないとでも言うように笑い、フレンダの方を見つめた。
フレンダはそんな笑っている麦野の事を見つめながら「どんな内容だったの?」と抑揚の無い調子で言う。



「あなたが暗部を抜けるんじゃないか、ってだから警戒しろってメールが来たのよねー…」


「わ、私が暗部を抜ける?…意味わからないわ?大体、ここまで墜ちといて今さら抜けるなんて…」


フレンダはここで警戒線を引いた。
“今さら暗部を抜けるなんて…”と言いよどませ、この後麦野が喋るであろう答えを聞き出そうと考えたのだった。
願わくば「いや、私は別に構わないわよ?」と言ってくれるのを待つだけだった。



「そうよねぇ☆フレンダだけ勝手に暗部から抜けたら、残された私達だけでアイテムやれって話になるもんね?テレスティーナとかいう野郎の見当違いよね?」




「結局、アイテムに対する情報戦を挑んできた奴がいるって訳ね!ったく…誰がデマ飛ばしてるんだか…!」



ダメだった。
麦野はフレンダの予想通り、この街の暗部から抜けることをよしとしない人だった。
むしろ、フレンダの学園都市から脱出する事に「冗談じゃないの?」とでも言い出しそうな雰囲気だった。
フレンダは自分が深い海におもりをくくりつけられて沈んでいく気分を味わう。
648 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/03/06(日) 04:14:15.16 ID:9DJGvsKGo

麦野はフレンダにその事を聞くと満足そうな笑みを浮かべて、パフェが来るのを待っている。
フレンダはそんな麦野を視界に捉えつつ、思う。

何故、テレスティーナが自分の脱出情報を知っているか?
昨日は電話の女に姉とコンビを組んでいる傭兵までつけてくれた。もしかして、自分が姉ではなく、”知り合い”と姉との関係を正直に述べなかった事で嫌疑をもたれたから?


先日テレスティーナは、フレンダ(と滝壺、そして佐天)に協力する姿勢を見せた。
しかしながら、彼女は何故フレンダを抱えている組織『アイテム』の長、麦野にフレンダの裏切りとも取れるメールを送ったのか。


(どうなってるのよ…この状況)



フレンダに取ってわからないことだらけだった。



(結局…私は、テレスティーナに裏切られたって訳!?)


フレンダの中で疑念が猜疑心になり、沸々と怒りに変わっていく。


(護衛はどうなったのよ?涙子にはお姉ちゃんのパートナーの傭兵がついたのかしら?)

なら、まだ学園都市から脱出するチャンスはある。とフレンダはおもう。


「…組織内がぎすぎすしたり、内ゲバなんて真似したくないけど、再確認ね」と麦野が再びフレンダに問い掛ける。
一メートルあるかどうかといったファミレスの卓を隔て、麦野とフレンダが相対する。



二人以外は言葉を発しない。
ドリンクバーから人数分のジュースや水を取ってきた浜面も、普段とは違う雰囲気に呑まれ、日産のロゴが彫られている車のキーを弄る事位しか出来なかった。
再確認?とフレンダは首を傾げる。彼女はへへんと鼻をならすそぶりをする。
649 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/03/06(日) 04:16:08.64 ID:9DJGvsKGo

「麦野も結局人を信じないねぇー!私がアイテムから抜けるぅ?結局、意味不明って訳よ!」
(ここで本当の事を言ったらダメって訳よ……!)


「信じていいのね?フレンダ」


麦野はその両の眼でフレンダをいすくめる。フレンダは回りの皆にばれない様にゴクリと生唾を飲み込む。
二人以外のアイテム構成員はそんなやりとりを同じく生唾を呑み込みながら展開を見守っていた。


(信じていいって…結局……一番その言葉が辛いって、麦野)


フレンダの心にずきりと響く麦野の言葉。自分は嘘をついたことになる。
結局はテレスティーナが警戒の意を込めて麦野にメールを送った。


フレンダは誰に嘘をついても、騙しても、あらゆる謗りを受けようとも、成し遂げなければいけない目的がある。
それにしても、ちくりと刺すような胸の痛み。アイテムに、自分に嘘をついたことになる。


そんな事は把握していない麦野は学園都市暗部から抜け出さない。その誓いを信じてもいいか、とフレンダにした問い掛けが帰ってくるまで、じぃっと彼女の瞳を見つめた。
時間にしてみればほんの数秒の沈黙だった。沈黙が長引けば長引くほど、フレンダが学園都市から抜け出すのではないか?という嫌疑を与える事になってしまう。
嫌疑を思考する時間を与えまい、と考えフレンダは答えた。








「うん」







麦野の「信じていいのね?フレンダ」という質問に対してフレンダ自身が言った答だった。
650 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/03/06(日) 04:16:46.39 ID:9DJGvsKGo

フレンダはにこと笑いながら彼女に応える。
表面上の表情とは裏腹に、彼女の心臓は高鳴る。そして早まる鼓動。
嘘をついてこんなにも胸が痛いなんて、と彼女は思った。胸が焼けるように熱い。


「そう…ね、」



麦野はフレンダの屈託の無い笑顔を見てほっと胸をなで下ろす。
「こんなデマ情報に惑わされるなんて、うちらもダメだにゃーん☆」と笑いながら麦野が言うと、場の空気が少しだけ和やかになった気がした。



「大変お待たせしました、ご注文の料理になります」


店員が料理を運んでやってきた。
アイテムのメンバーは少し遅めの昼ご飯にする事にした。
651 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/03/06(日) 04:18:48.04 ID:9DJGvsKGo

久しぶりの投稿ですが、眠いのでここでおしまい。
新約…表紙の子、フレンダではないことを祈る…!



SS、いつも拙い文章ですいません。
よんでくれてる人には変わらぬ感謝を。

ではまた!
652 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/03/06(日) 09:13:03.65 ID:0y/Ap2g60

あれはエイワスらしい
653 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/06(日) 12:26:26.07 ID:SSSC4gpLo
まじか
拾ったフレンダのBパーツから再構成でもしたんかねww
654 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/06(日) 15:52:53.60 ID:E3ULvuJpo
新約いつ出るんだっけ?
655 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/06(日) 15:53:34.28 ID:frmcbBIno
10日
656 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/06(日) 16:53:41.89 ID:E3ULvuJpo
>>655
スレチに答えていただき、どうもです
657 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/03/07(月) 03:34:43.27 ID:bmKUI2Yro

レス感謝です。
エイワスかい。あれ。
今日も少し投下!!




あらすじ

時期は夏休みがあと少しで終わる位。
テレスティーナから麦野に送られたメールの内容はフレンダがアイテムを抜けようとしているのではないか?
という猜疑のメールだった。

麦野はリーダーとしてフレンダにそのメール内容が事実か否かをフレンダに問いただすが、フレンダはそんな話しは嘘だときっぱり断言する。
要するにアイテムを裏切る事はない、と宣言した様なものだった。
658 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/03/07(月) 03:35:31.30 ID:bmKUI2Yro

――木原数多の指揮する猟犬部隊のオフィス


『今日の朝、多摩川河川敷で発見された男性の遺体は身元不明ですが、依然として捜査は…』


今朝から流れているニュース。
数多はオフィスにあるテレビから流れてくるニュースを忌々しげに見つめた。


(ったく消されたな…ケイトの野郎…!)


数多は歯をぎりっと鳴らしつつ、ケイトの死は確定だな、と思う。
ニュースで報道されている男の遺体はおそらくケイトだろう。配下の猟犬部隊を確認に向かわせているがそいつらの報告をまつまでもない。
数多の勘がそう告げていた。彼はオフィスの机をダァン!と強く殴った。


猟犬部隊を殺した犯人は砂皿と見ていいだろう。
ケイトがベティに報告した情報によれば、奴らは妹を捜している。


推論になるが、砂皿とペアを組んでいるステファニーとアイテムのフレンダは姉妹だ。
そして何らかの手段で彼らは接触をはかろうとしているに違いない。


(……俺の妹の読みはあたったのか?アイテム、いや、フレンダが怪しいという線はヒットしたな……)


プルルルルル


数多のオフィスの電話がなる。彼は受話器を取ることなく、デスクに据え付けられている、外部音声の接続ボタンを押す。


「木原だぁ。符丁確認」


「こちら、符丁はベニントン。警備員の浸透要員からの報告に依りますと、身元はケイトでした」


「……ちっ。わかった」
(やっぱりやられたか)
659 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/03/07(月) 03:37:05.73 ID:bmKUI2Yro

数多は苦々しい表情で部下から掛かってきた電話を切る。
今の報告に依ればケイトは死んだ。


ここで砂皿の居を構えているホテルに攻勢をかけて叩き潰すか?
しかし、砂皿はアイテムの連絡係の護衛役を請け負っている。
連絡係、もとい電話の女の護衛という任務を遂行中の砂皿を今の段階で殺してしまえば、妹のテレスティーナの出したオーダーに形式上ではあるが逆らったことになる。


そうなれば数多は学園都市に抗命した事になる。
しばしの独考の後、数多は妹、テレスティーナ=木原=ライフラインに連絡した。


「俺だ、数多だ」


『何?』


「朝からやってるニュースみたか?」


『えぇ、見たわ。まさかとは思ったけど、兄さんの所の隊員だったのね』


「まぁな、恐らく砂皿の野郎による仕業だな」


『経歴からするに、砂皿緻密はよく訓練された兵士よ』


「そんなこたぁ、わかってる。で、テレスティーナ。頼みがあるんだが」


『なに?』


「砂皿緻密をアイテムの連絡係の護衛役から下ろして欲しいんだが」
660 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/03/07(月) 03:40:38.43 ID:bmKUI2Yro

『それで、どういう反応を砂皿がとるか見るって事?』


「あぁ。お前の力でなんとかならないか?」


『私の権限、というか砂皿をアイテムの連絡係役に当てたのは私だから、問題はないとおもうわ。それに今回の件は統括理事会から自由にやれって言われてるから平気よ』


数多はテレスティーナの話しを聞いてにやと笑う。
これで砂皿がどういった反応に出るかがわかる。
今まで後手で回っていた対応からこちらから仕掛ける形に展開出来る。


砂皿が佐天の護衛役を解任された時、どのような反応を見せるか、これでアイテムの間にある何らかの策謀を看破出来る。
数多はそう考えたのもつかの間、大事な事に気付いた。


(ケイトを殺した時点で砂皿がどこにいるかわからないんじゃねぇか?)



直ぐに砂皿を捜さなくては、と数多の体に電撃が走る。
ケイト殺害された時点でそのホテルに砂皿がいるとは考えにくい。
数多はデスクについているパソコンから電話番号を引き出す。


(小出しじゃダメだな。猟犬部隊が一人殺害されてる時点でこっちが出撃する口実は出来てるんだ。なんなら学園都市全体を捜索すればいいさ)


戦闘に於いて戦力の小出しは最もやってはいけない行為だ。
人海戦術で砂皿緻密を探しだしてさっさと学園都市に潜んでいる不逞(ふてい)な輩を排除しなければならない。
661 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/03/07(月) 03:42:30.56 ID:bmKUI2Yro

――猟犬部隊の所有しているビル前の訓練場にて

数多が招集をかけると、数分後には行動中の猟犬部隊以外のメンバーが全員集結した。


「今から砂皿緻密の居を構えているホテルを強襲する。良いな?」


「はっ!」


特殊部隊の隊員達は特殊部隊の格好をせず、寧ろ一般人に扮した出で立ちで数多の前に立っていた。
彼らは勢いよく返事をすると踵を揃えて数多の話しを傾注する。


「相手はよく訓練され、貴様等よりも多く場数を踏んでいる傭兵だ。決して舐めて掛かるな。遺書は書いたか?てめぇら!?」


「いいえ!」


勢いよく隊員達が返事をする。


「それでいい。任務を達成すれば生きて帰ってこれる。単純だ。砂皿緻密の首を取ってこい!」


数多の声を聞くやいなや、私服に着替えている猟犬部隊の隊員が訓練場の前に配置されている一般車両に乗り移っていく。
理路整然と隊員達が乗り移っていく光景を数多は見つつ、自分も車に乗り込む。
そして携帯電話を取りだし、テレスティーナの番号に電話をかける。


「おい、お前か?今から砂皿の首を取りに行ってくる」


『ちょっと!いきなりじゃない?』


「あっちはもう猟犬部隊の隊員を一人殺してんだぜ?相手の目的はまだ不透明で確定はしていないが、俺たちに敵対している事には変わりないからな。制圧する」
662 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/03/07(月) 03:47:26.97 ID:bmKUI2Yro

『わかったわ。そしたら、こっちからMARの隊員何人かよこそーか?』


「いや、良い」


『そ、わかったわ。じゃ、気を付けてねー』


テレスティーナが電話を切ると数多も携帯を切る。
そして数多が乗るであろう車の後部座席のドアが開く。


「どうぞ、木原さん」


隊員のうちの一人であろう男がドアを抑えたまま数多が乗り込むのを待っている。
それを見た数多は体をかがめ、乗りこむ。


日産の真っ黒のムラーノに乗り込む。
数台の車は砂皿がチェックインしていたホテルに向かってそれぞれ違う方面から向かって行く。


まだ砂皿がそこにいるとは限らない。
しかし、それを確かめる必要がある。このままの状況が続けば、徒(いたずら)に猟犬部隊の兵力を削がれるだけだ。


「待ってろよ、砂皿緻密」
663 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/03/07(月) 03:49:18.42 ID:bmKUI2Yro

――浜面が運転するセドリックの車内

アイテムの少しだけ遅いランチタイムは終了した。
フレンダが学園都市から抜け出そうと考えているかどうかの問いかけ以外はごく普通の会話だった。


麦野はテレスティーナに送られてきたメール。

“フレンダがアイテムを抜けようと画策している模様”

このメールの審議を麦野はアイテムのリーダとして、フレンダに問いただしたのだった。
そして今は浜面の運転するセドリックの車内で考え事をする彼女。



「フレンダがアイテム辞めるなんて、考えられるのかよ?」


「うーん…まだ納得出来ないのよねぇ…」



浜面が「何が?」と質問する。
すると麦野が言う。


「いやね、テレスティーナとか言う奴がデマ情報を流してきたとしてもだよ?何でフレンダなのかなぁって思ってさ」


「適当にでっちあげたんじゃねぇの?」


「そしたら、なおさら何でフレンダなのよ…?“アイテムの中にアイテムを抜けようとしている奴が居る”の方がうちらに疑心暗鬼を引き起こせそうだけど」


「…確かにな。でも、いいじゃねぇか。結局はフレンダもアイテムを抜けることはなかったんだしよ…」


麦野は浜面の発言に「ま、そうだけど…」と言うと窓の外に視線を向けることにした。
664 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/03/07(月) 03:51:15.14 ID:bmKUI2Yro

――砂皿緻密がチェックインしているであろうホテル

猟犬部隊はそれぞれ所定の持ち場についた。
砂皿のいるであろう部屋に強襲をかける手はずだ。


ホテル側には既にその事を伝え、秘密裏に避難は済ませていたのでいつでも突撃出来る状態だ。
猟犬部隊の突撃の一番手がドアをノックする。


その男の片手にはベレッタM92の消音器搭載モデルが握られている。ホールドは既に解除されており、いつでも射撃出来る状態にしてある。
彼はインカムでホテルの脱出に使われるであろう予想箇所の一カ所で張っている数多に連絡するためにインカム型電話で報告する。


「砂皿緻密が宿泊しているとおぼしきホテル前に到着しました。どうぞ」


『よし、速やかに突撃しろ』


数多の声を聞き、男は了解と答える。そして突撃の一番手の男は後ろにいる三人の猟犬部隊の隊員の顔を見、無言で頷く。


5、4、3、2、1…!


指で合図をしていく。カウントが1に近づくにつれて上がる心拍数。
ドアの先には銃を構えている傭兵が手ぐすね構えて待っているかも知れない。
何が起こるか分からないこの状況でしかし突撃の一番手は勇敢にドアを蹴破った。


部屋の中に入るとカーテンは閉ざされて、午後の高い日差しにも関わらずうす暗かった。
一気に砂皿のいた部屋に突撃した四人の男達は緊張しつつも僅かに肩をなで下ろす。


すると隊員の一人がバスルームから音が聞こえる旨を報告する。
突撃の一番手がささとバスルームの近くの壁に移動する。
665 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/03/07(月) 03:54:37.90 ID:bmKUI2Yro

「ただいまからバスルームに突撃します…!なにやら不審な音が聞こえる模様。音は…シャワーだと思われる」


男は数多に現況を伝える。
突撃の件に関して数多は了承の旨を無線で知らせる。
暢気(のんき)に砂皿がシャワーを浴びているとは思えなかったが、水が出しっ放しにしてあると言うことはこの部屋のどこかに潜伏している可能性がある。


他の隊員達にリビングの捜査をするように言って男ともう一人の隊員は一気にバスタブに突撃する。
蛇口から出ているであろう水は全く出ていなかった。高性能スピーカーから出力されている水音が猟犬部隊の隊員達に水が出ていると錯覚させたのだった。


チッ!やられたか!と思い、他の部屋に移動しようと思った矢先だった。
ふと高性能スピーカーのコードを目で追っていくと浴槽の中に繋がっているコードを一本見つける。


浴槽にしかれているふたをパタパタと半分ほど開けていくと、中にはなにやら大きい不審物が入っていた。



「ふっ、伏せろ!!」


男は浴槽に爆薬が仕掛けてある事を確認したのもつかの間、声を張り上げる!
突撃の一番手の男がみたもの。それは数キロのHMXオクトーゲン爆薬だった。


猟犬部隊の男の意志とは無関係にTNT火薬のおよそ23倍の爆速を誇るオクトーゲンは9200メートル秒のスピードで周囲を吹き飛ばしていく。


突撃隊員の一番手の男は伏せようが伏せまいがどうしようもなかった。
浴槽から解放された膨大なエネルギーは部屋毎、焼き付くし、そこに人がいた形跡自体を跡形もなく抹消してゆく。


それは他の部屋にいた猟犬部隊の隊員も同様だった。
猛烈な火の奔流は荒れ狂い、留まる事を知らずに全てを塵に帰した。
666 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/03/07(月) 03:58:57.36 ID:bmKUI2Yro

――猟犬部隊の強襲したホテルの近く

数多はその音をインカム越にきくと、ホテルを見上げる。
ホテルの近くに張っていた彼は爆発するホテルの階層を見つつ歯ぎしりをする。


またしてもやられた。



一度目は奇襲を受けて部下が一人やられた。そして二度目はまんまと嵌められたビル階層爆破。


「応答しろぉ…」


数多が無線で呼び掛ける。無線は永遠に沈黙した。
何度呼び掛けてもざざと不快な無線音がするだけだった。



と、その時だった。
667 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/03/07(月) 04:04:29.71 ID:bmKUI2Yro

砂皿がチェックインしていたと思われていたホテルの地下駐車場から大排気量のバイク、ハーレーソフテイルが出て来る。


フルフェイスのヘルメットを被り性別等は確認できない。
わかることは男にしろ女にしろスタイルが相当いい。


(オイオイ!さっき避難勧告は出したぜぇ?あのハーレーのドライバーは誰だ?オイ!)


数多は避難勧告を出して大多数の人達が避難したのを確認していた。
しかし、何故、今更地下駐車場からバイクが出てくるんだ?


しかも、そのライダーが運転するハーレーはギャギャギャと後輪から煙を巻き上げ、方向転換すると数多達のいる車両に向かってくるではないか!

数多の乗っている日産のムラーノの前には同じく黒塗りのトヨタのヴァンガードが止まっていた。
これも猟犬部隊の所有している車だった。


ハーレーはこちらに向かってくる。
ドライバーはハーレーのサイドからグレネードランチャーを取り出す。


ベトナム戦争で使われた骨董品だがまだまだ使えるコルトM79グレネードランチャーのカスタムモデル。
ハーレーのドライバーが右手でそれのトリガーを弾く。
すると、ランチャーはキュポンと間の抜けた音をあげる。


肉眼では確認できないが缶コーヒーより少し小さいサイズの弾がヴァンガードに向かっていく。
数多はそれら一連の動作をぽかんと見ている事しかできなかった。


数瞬、派手な炸裂音が道路にこだまする。ヴァンガードが爆発したのだ。
運転席付近に進入したグレネードは猟犬部隊のドライバーの男の右頬で炸裂する。
668 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/03/07(月) 04:08:32.95 ID:bmKUI2Yro

すると、弾頭に収納されていたベアリングが四散し、弾け、車内の隊員達を殺戮する事に貢献した。
そうしてヴァンガードの車内は猟犬部隊の阿鼻叫喚の叫び声が響く地獄と化した。


「…今のハーレーを追え!」


数多の怒号が彼の乗っているムラーノの車内に響き渡る。
その怒声を聞いた猟犬隊員のドライバーは跳ね上がる様にしてキーを回してハーレーを追走する。


「次いで周囲の猟犬部隊に援護要請」


数多はつい先程の怒声を張り上げた様子と打って変わり、冷静に部下に命令を伝える。
その命令を聞いた隊員は運転しつつ、無線で数多の命令を吹き込んでいく。






ステファニーはヴァンガードが吹き飛んだ光景を見つつも、「ちっ」とフルフェースのヘルメットの下で軽く舌打ちをする。
ハーレーのサイドミラーで確認してみると猛スピードで追撃してくる黒塗りのムラーノ。



(にゃはーん、もう一台いましたかぁー。さっきぶっ飛ばした一台だけかと思ってましたね)



ホテルに侵入したと思われる邪魔者は彼女が仕掛けたオクトーゲンで吹き飛ばした。
戦果確認ができないと砂皿はオクトーゲンの使用に反対していたが、ホテルの階層を丸まる吹き飛ばす破壊力だ。


恐らくあの階の生存者はいないだろう。しかし、ステファニーは現在、敵に追尾されている状態だ。
自分の派手好きな性格に少しだけ辟易しつつも直ぐにこの状況をどう切り抜けるか?という事に全神経を集中させる。
669 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/03/07(月) 04:11:49.16 ID:bmKUI2Yro

妹、フレンダを救い出す為には悪魔にだってなる。
例え妹が自分を罵ろうと学園都市の闇から救い上げる。
ステファニーはハーレーを運転しながら、妹を救い出すのも私の勝手な独善なのかな?と思い、つい「ふふ」と自嘲気味に嗤う。


しかし、戦闘はそうした思考をする時間を与える事はそう長くない。
ステファニーは後ろを見、未だに追撃してくるムラーノに向かってグレネードを発射する。
彼女はハーレーのサイドミラーからムラーノの車内を見る。


(顔にがっつり彫り物入ってる人、目据わってますね、あれが指揮官ですかね?)


ステファニーは網膜にトライバルの入れ墨を持つ男の表情を焼き付け、再びグレネードランチャーを放つ。


ガギャギャギャ……!


荒々しいハンドリングでムラーノが射出された弾丸を回避する。
肉眼では確認出来ないのだが見切っている。ドライバー、或いは指示を出している人物は相当戦場に慣れているプロだろう、とステファニーは推測する。



(お見事ですねっ!)



ステファニーはムラーノの運転手に感嘆しつつ、片手でポンプアクションを行うとカシャリと次弾を装填する。
そしてトリガーを絞り、グレネードを射出する。しかし、これも回避される。


(チッ!砂皿さんとさっさと合流したいのに…!)


彼女ははハーレーを走らせつつちらと横を見る。
すると護岸でコンクリートに加工され、干上がっている川があったと思しき場所を見つける。
670 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/03/07(月) 04:13:02.79 ID:bmKUI2Yro

(さぁ?ついて来れますかね?)


ステファニーは後ろからやってくるムラーノを見て、考えを巡らす。


キュポンと再び間の抜けた音がグレネードランチャーから発せられる。


射出された弾は干上がっている川に張られた金網を破壊する。
ステファニーはそこに勢いよく飛び込む。


(撒いたか!?)


ステファニーはハーレーを護岸工事で整理され通路と化した川を走りつつ、後方を見る。
するとムラーノが勢いよくステファニーをおいかけてきた。


(着いてきますか…!)



ステファニーはムラーノに乗っている人達の執念に感嘆すると同時に引導を渡すためにポンプアクションし、グレネードの弾を装填する。


(よく着いてきましたケド、ここらでおしまいですよ☆)


ステファニーはカチャリとグレネードランチャーを構える。次は外さない。
今まで撃った二発が避けられている。


しかし、次は決める。覚悟を決め、走り続けながらトリガーにゆびをかける。
そしてしっかりムラーノの車体を狙う。


(やっぱり派手にパーッと吹っ飛ばすのが一番ですね☆)
671 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/03/07(月) 04:14:04.51 ID:bmKUI2Yro

パートナーの砂皿には敵の生死確認ができないと言われ、大破壊力の兵器はあまりつかわない様に言われているが飽くまでステファニー流で仕留める。
ステファニーがトリガーを勢いよくひく。
と、その時、橋桁にグレネードが触れてかぁん!とステファニーの手から離れていく。


彼女が「あ!」と声をあげた時には既にグレネードはムラーノの遙か後方に置き去りになっていた。








――ムラーノの車内

「おい、あいつ得物を落としたぞ」


「その様ですね」


助手席に座っている数多はハーレーに乗っている人物が得物であるグレネードランチャーを落としたことを運転している隊員を見ないでつぶやく。


「楽しくなって来やがった」
数多は独り言の様につぶやくと大理石超のダッシュボードから拳銃、ベレッタM92INOXを取り出す。
がちゃりとバレルを後方に絞り、弾倉から弾丸を銃筒に送る。


数多は窓をウイーン…と開く。
かなりの速度で走っており、一気に風が車内に入り込んでくる。それにもお構いなしに数多は半身を乗り出してINOXを発砲する。


パァン!パン!と乾いた音が木霊する。
発砲される度に薬莢が車内に入っていく。


「クッソォ…!あんまりあたらねぇなぁ」
672 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/03/07(月) 04:15:19.25 ID:bmKUI2Yro

そうつぶやきつつ発砲を続けると一発が当たったのだろうか、ハーレーがぐらと揺らいだ。
どうやらライダーの左肩を打ち抜いたようだった。


その光景を見つつ運転手がやった!と嬉しそうに声を上げる。
しかし、当てた当人である数多は一言も発しない。
寧ろ、ダッシュボードから次のマガジンを取り出すと再び発砲を続けた。



(生け捕りで何を考えているか吐かせてやる…!)



そう考えた数多は今度はハーレーのタイヤに弾丸を収束させる。
しかし、なかなか当たらない。


そうしてマガジンを何本か消費したときだった。
左右に用水路が別れているのが確認出来るではないか。ハーレーがどちらに行くか。


(ここでミスったらやべぇな…)


恐らくハーレーの運転手もどちらに行くか逡巡しているだろう。
遠くに見えた用水路の分岐点はだんだんと近づく。



あのハーレーはどちらに行くのだ?
673 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/03/07(月) 04:17:57.67 ID:bmKUI2Yro

――先行するハーレー

ステファニーの左肩が打たれた。
弾は貫通した様だった。しかし、焼けるような痛みが彼女の体を突き抜けていく。


(貫通ですかッ!…チク、ショ…!)


もうすぐ用水路が左右に分かれている箇所だ。どちらへいく?ステファニーが逡巡する。
これ以上の戦闘行為は出来ない。一度治療してから出直そう。


まずは猛追してくるムラーノをどう撒くか。意識はその一転に集中される。
打たれた肩を押さえる暇はない。
もうすぐそこまで分岐点は迫ってきている!!



ミラーを見ると刺青を入れている男がM92の弾丸を装填し終わったのだろう。
またしても半身を乗り出して銃口をこちらにむけて、構えている。


(結構痛いですね…)


革のジャケットは貫通しており、ぬらぁと暖かい血がしたたり落ちるのが自分で分かる。
砂皿さんと決められた合流地点に向かわなければ…!そう考え、ステファニーは痛みを払拭するように更にアクセルを強く踏んだ。


(左に行くと見せかけて、右…!)


あまりの痛みに左右にジグザグと進むことが出来ない。
これでは相手の射弾を回避することは難しい。が、走る。こんな所で死ぬわけにはいかない!捕縛されることなどあってはならない。


相手の正体はわからないが、私に発砲したということは敵だ。とステファニーは言い聞かせる。
674 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/03/07(月) 04:18:49.72 ID:bmKUI2Yro

そんな思考の時間すら与えまいと、パン!と再び乾いた音が用水路に響きわたる。
痛む肩を気にかけながらもかながら弾丸を回避するものの、一発が更に右足を擦過していく。


黒革のズボンからうっすらと血が滲むと同時にステファニーに痛みが走る。
彼女は手と足からジンジンと伝わってくる痛みに苛まされつつ、ヘルメットに手をかける。


(まさか…私が女だと思ってるはずないですよね?)


身元不明の人物。追撃してくる人物はそう思っているだろう。
たとえ女だと予測していたとしても、その表情をさらせば一瞬は動揺するはずだ。

確実に敵をまいて砂皿と合流する為に彼女は自分の素顔をさらす決心をした。



…分岐はもう目の前だった。
ステファニーは右にバイクを向ける。ムラーノもそれに合わせて追随してくる。


右から左へ。
その間に振るフェイスのヘルメットを取り去る。

すごい勢いの風がステファニーの顔に直撃する。
ブロンドの髪の毛がぶわっと棚引きつつ後方に押しやられる。


苦悶の表情を浮かべず、ムラーノの方を振り向く。
そしてにこりと笑う。直後彼女は一気に再び右の用水路にバイクを向け、加速する。


ムラーノはフェイクにまんまと引っかかり、左の用水路に突っ込んでいった。
急ブレーキを掛けるが、そのときには遥か先をステファニーの運転しているハーレーが突き進んでいった。
675 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/03/07(月) 04:20:11.80 ID:bmKUI2Yro

――数多達の乗るムラーノ

「クッソ!」


数多が悪態をつきつつ、がぁん!とダッシュボードを殴る。
その動作を見た運転手は直ぐさま車の向きを転換し、追撃しようとする。


「無駄だ…あのハーレーじゃもう追いつけねぇ…さっさとオフィスに戻って車載カメラの解析だ」


「はっ!……了解しました」


数多は開けた窓越しに遠ざかっていくハーレーの音を聞いた。
彼にとっては忌々しい音となって記録された。


「にしても…あいつ、女か」
(男かと思ったわ)


木原はつい先ほど、フルフェイスのヘルメットを取り、こちらに微笑みかけた金髪ブロンドの女を思い浮かべる。
あれが昨日ケイト達の報告にあった姉か?砂皿とコンビを組んでいる傭兵だろうか?


ヘルメットを外した直後、数多はトリガーを引く事を一瞬。ほんの一瞬だが躊躇(ためら)った。
何故ならライダーが女だったから。


猟犬部隊の隊員の追撃を振り切り、怪我こそすれどそれを振り切った正体が実は女だった。
そんな偏見にも似た彼の感情。それはムラーノを運転していた男にしても同じだったのかもしれない。


運転手も一瞬、ハーレーの運転手に微笑まれ、つい、進行方向を惑わすフェイクに引っかかってしまったのだった。


「す、すいません…木原さん…自分があの女のフェイントに引っかからなければ…」
676 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/03/07(月) 04:20:44.26 ID:bmKUI2Yro

男は今更ながら自分の運転ミスを悔悟しているようだった。
しかし、数多はそんなミスよりも自分があのハーレー乗りの女に致命傷を加えられなかったことを悔いた。


「……うるせぇ。俺も一瞬動揺して撃てなかった。隊長としてあるまじき行為だ。お前のやった不手際も不問だ、いいな?」



数多に言われた言葉で「は、はい」と動揺しつつ猟犬部隊の男は返答する。
彼は車をバックギヤに入れてもと来た道を帰っていった。
677 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/03/07(月) 04:24:06.41 ID:bmKUI2Yro

今日はここでおしまい。
ターミネーター2みたいな追撃戦を書きたかったけど、うまくいかん。

これからは少しでもちょこちょこ投下しますんで、どうかよんでやって下さいな。

ではまた!
678 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/07(月) 05:06:46.35 ID:meLXULRK0
ここの木原くンは少しだけ仲間思いだな
679 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/03/07(月) 05:07:31.06 ID:VssDCklu0

木ィィィ原くゥゥゥゥゥゥゥゥン!!が女に動揺しただと!?
680 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/07(月) 06:29:17.73 ID:OmEL6FmDO
一方さんはこれくらいキチってるほうがカッコイイよな
最近の一方さんは妙にヒーローってるから困る
681 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/07(月) 13:17:49.59 ID:FLE5vB3Eo

新約のネタバレはまだ真偽不明の情報が飛び交う段階なので信じないほうが…
682 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/07(月) 14:15:38.01 ID:XvO7ZoJAO
普通に人間くさい木原くンとは珍しい
683 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/07(月) 19:02:39.48 ID:Ym8eQlFMo
アクセラさんを一方的に戦略的にも1vs1でも嬲れる木原くンが
ここまで手こずるとは…

しかし外部の傭兵にここまでやられるって学園都市大丈夫かwww
684 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/07(月) 19:25:14.05 ID:h9hOKnIbo
一方通行に対する木原無双は相手を知り尽くしてるからこそだし
相手が一流で情報不足ならしょうがないのかな
685 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/03/07(月) 19:26:27.01 ID:bmKUI2Yr0
今日の投下も深夜になります。

明日の朝にでもチェックして下さいな。
いやぁ、レスが着くとにやにやしてしまう。


読者の方々には相変わらず感謝です。


>>683 すいません…!砂皿とステファニー好きなんで、ちょっと補正かかってますかも><
申し訳ないっす!
686 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/07(月) 19:45:32.18 ID:3bNJsgfIO
木原と一方通行が仲良く悪いとか神スレ
一方はあれくらい悪くて丁度良い。
あと木原クンが少し人間味あって良いな。
687 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/03/08(火) 03:30:56.05 ID:1Ac6BJ7uo

>>686そう言って頂けると嬉しいですね。
賛否両論ありますが、全てを励みにして頑張りたいと思います。
では、今日も投下していきましょうか。


あらすじ

木原数多率いる猟犬部隊は砂皿緻密がいると思われるホテルに強襲をかける。
しかし、強襲は失敗し、逆に隊員達の内の何人かが死傷してしまう。


その状況をホテルの外で見ていた数多の車の前をハーレーが横切っていく。
そのハーレーを追撃していくと、正体は何と女(ステファニー)だった。
彼女の正体を確かめるために猟犬部隊は一度帰還し、体勢を整える。

ちょうどその頃、佐天の家には砂皿がいて…。
688 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/03/08(火) 03:33:51.16 ID:1Ac6BJ7uo

――同日柵川中学の学生寮

猟犬部隊とステファニーの追撃戦が始まる少し前。
早めにホテルを出た砂皿はアイテムの連絡係りである佐天と接触していた。
時刻は少しさかのぼって、午前中。


「…私の、護衛役を放棄し、地下に潜伏する?」


「あぁ。そういうことになるな」


佐天は砂皿の言った事を反芻する。
砂皿は自分達が何者かによる盗聴を受けたことを佐天に伝える。そしてその事実を踏まえた上で地下に潜伏することを伝えた。


「このままどこかにいれば学園都市の何らかの勢力から攻撃を受ける可能性がある。なので暫く地下に潜伏しようと思う」


「ち、地下ってどこに?」


「地下と言っても実際に地下にもぐるわけではない。要は潜伏だ」


「潜伏…」


砂皿は目の前にいる中学生の不安そうな表情を見つつ話を進める。


「柵川中学の学生寮付近にあるあの雑居ビルだ」


砂皿はそう言うと立ちあがってカーテンをあける。
彼が指を指した先には小さく雑居ビルが見えた。


確か私達、あのビルから監視されてるはずじゃ?と疑問に思う彼女だったが、しかし、そんな事を気にすることなく砂皿は窓も開けて夏の熱気を堪能する。
689 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/03/08(火) 03:34:47.69 ID:1Ac6BJ7uo

(平気なの?私監視されてるんじゃなかったけ?)


カーテンが開ききってから今更ながら自分の身を案じる佐天。
しかも、砂皿はあの雑居ビルに潜伏するという。それでは監視している組織の人間達に発見されるのではないか?
彼女は素人ながらそう考えると砂皿さん平気なんですか?と訪ねる。


「平気?あぁ。あのビルに張っていた男か。あのビルの脅威は排除した」


「…は、排除?」


聞き覚えのある言葉だった。
2週間ほど前にアイテムが仕事をこなして佐天に報告してきたときに使った言葉。
確かあのときは“処理”だったかな?と思い出す。あの頃はその言葉が持つ意味を考え、相手の事を色々と考えていた。


しかし、今、砂皿が言った“排除”という言葉を聞いて彼女の胸に去来したもの。
それは死んだ相手の事を考える事ではなく、自分の命を狙っているかも知れなかった一人の人間がこの世から去ったことによる安心感だった。


「ありがとうございます」


「いや、礼には及ばないさ」


佐天は砂皿の言葉を聞いてほっと肩をなで下ろす。
自分の命が狙われているという実感はなかった。
しかし、自分を監視していて、殺害の機会をうかがおうとしていた人物が死んだとなればそれは、彼女にとってはそれは喜ばしいことだった。



「私が住んでいる学生寮の近くに居つつ、護衛任務を放棄するってのはどういうことなんですか?」
690 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/03/08(火) 03:35:57.54 ID:1Ac6BJ7uo

「私と行動を共にしている女は学園都市から追われている。しかも、君の護衛を行うよりも、優先的にやるべき事があるんでな…」


「…それで、最後に私を監視している人間にとどめを刺して護衛の任務を全うしたって訳ですか」


「まぁ…半ば当てつけのような形になったがな…。しかし、ここで君の護衛が居なくなるわけではない」


佐天は砂皿の話しを聞いて、「じゃあ、誰か護衛に来るんですか?」と聞いた。
すると彼女にとって驚愕の事実を砂皿は喋った。


「フレンダを護衛につけて貰えないか?そうすればここからそう遠くない所で潜伏するステファニーと会えるかも知れない。また、救出行になった時に行動しやすい」


「そうですか…確かに一理あるかもしれませんね…フレンダにはその事を聞いておきますね」



フレンダを自分の護衛につければ確かに相当な実力者が現れない限り、佐天の身に危険が及ぶ事はないだろう。
彼の提案に佐天は納得する。


「フレンダを護衛につかればどうか?という提案には納得出来ます。けど、…砂皿さんは学園都市に反抗したって事になっちゃいませんか?」


「そうだな。というか、学園都市の特殊部隊の隊員を殺害した時点で既に俺は狙われる身になったわけだ」


「潜伏する理由は分かりましたが、それではフレンダを救出するっていう姉はどうするんですか?まさか別行動?」


「いや、彼女も潜伏する。同じ雑居ビルに拠点を構えるつもりだ」


「その…変な話し、風呂とか清潔面の心配はどうなんですか?」
691 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/03/08(火) 03:41:00.94 ID:1Ac6BJ7uo

「その点に関しては問題ない。排泄物を科学分解出来る応急キットと食品がそれぞれ一ヶ月分。それに仮に私の拠点が学園都市側に露見したとしても安易に攻めてくることは出来ないだろう」


「何でそう言いきれるんですか?」


砂皿はそういうと、持ち込んでいたアタッシュケースをぱかりとあける。
ヘッケラー&コッホのクルツ短機関銃とその弾倉が差し込んであるのを含めて六本。


その光景を見て佐天は息をのんだ。砂皿はクルツ短機関銃を収納してある容器を更に半分ほどあける。
するとそこには数珠つなぎになっているいくつかの弾が綺麗に収納されていた。


砂皿は丁寧にそれを見せると「強力な毒ガスだ」と言い放つ。
佐天は学校の授業で教わったことを思いだした。確か国際法上ガスの使用はいかなる場合禁止されているはずじゃ?


「これは拳銃や機関銃の銃筒に接続して射出したり、時限爆弾のように遅効性で破裂させる事も出来る。局所的な範囲でしか使用出来ないが、相当な破壊力を持つ兵器だ」


彼はそう言うと「これを使えば多数の死者が出ることになるのでなるべく使いたくないが…」と付け加えた。
佐天に毒ガスを見せると、砂皿はアタッシュケースをかちゃっと閉じる。


「で、アイテムのメンバーには話しをしたのか?フレンダの学園都市脱出行に関して」


「すいません、こっちでは把握してないです」


「分かった。ではその件も分かり次第連絡をよこしてくれ」


佐天はわかりました、とただ目の前にいる戦いのプロフェッショナルの言うことに頷く。
幾多の戦場を駆け抜けてきた傭兵の言葉は一中学生の佐天に取って千鈞の重みを放っていた。
692 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/03/08(火) 03:42:03.88 ID:1Ac6BJ7uo

ここで佐天は思った。
自分と砂皿が連絡を取れるならば、フレンダの姉とか言う人とフレンダも連絡を取れるのでは?と。


「すいません、今思ったんですけど、私と砂皿さんが連絡出来るなら、フレンダとステファニーさんの間で連絡を取る事も出来るんでは?」


「ふむ…。それも考えた。しかし、ここで連絡を取り合えば、フレンダとステファニーが何らかの陰謀を企てている事を証明する事になりかねない。なのでそれは避けたい」


砂皿は「私と君の護衛する側とされる側だからこそ連絡を取ることに不自然は生じないのだ」と付け加えた。



「そうですか…でしたら、以前にも砂皿さんが言っていた様に、救出に向かっている事だけを伝えときますね」


「あぁ。そうして欲しい。…ところでここ数日で何か学園都市で何か大きな動きはないか?」


「大きな動き、ですか…、これと言って特にありませんね…」


佐天は不意に美琴がSプロセッサ社に侵入した事を思い出したがそのことは関係がないと思い、いわないことにしておく。
その代わりに思いついたことがあった。それは取り立てて大きな動きでもないのだが、ここ最近彼女が気になっていることだった。



「学園都市の暗部の組織でも縄張り争いみたいなものが激化してるとは聞きましたね…」


「ほう…僭越ながらその組織の名前は?」


「確か…スクールとか言いましたね」


「スクール?」
693 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/03/08(火) 03:42:55.99 ID:1Ac6BJ7uo

佐天は「はい」と頷く。
彼女の持ちうる権限ではバンクで閲覧することが出来なかったアイテムと同様の暗部組織だった。


しかし、砂皿は華僑から入手した冊子を先ほどのアタッシュケースを再び開けて、そこから中国語の簡体字で書かれたW学校”という文字を見る。
その中には四人の構成員達の写真が掲載されていた。


「スクール…華僑の奴らが持っていたファイルなので日本語と対応している。ヘッドギアをはめている男と俺と同業の軍人が一人」



砂皿は冊子をぺらとめくって先にその二人を佐天に見せてやる。
四人のうち、二人はさして脅威ではないことを告げる。


しかし、と砂皿は佐天に告げる。


「この二人は別格だ」


ぺらっと見開きの冊子を広げ、二人の顔写真を見せる。
説明は簡体字で記載されているので読めることは出来ない。


(垣根帝督…それと心理定規…レベルは…)



佐天は冊子に記載されているLv:5とLv:4という記載に注目する。



(垣根って人がレベル5で心理定規って言う人はレベル4…)
694 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/03/08(火) 03:44:25.30 ID:1Ac6BJ7uo

この人たちがスクール…テレスティーナさんが言っていた縄張り争いに執心している組織の構成員って事よね?)


佐天はここ最近学園都市で起きている縄張り争いの中心点にいる人達を初めて見た。
自分たちと同年代、或いは少しだけ年上。
砂皿は佐天にスクールの構成員が乗っているファイルを手渡す。


「…この組織以外でも良い、何か学園都市で騒動を起こそうとしている奴らはいないのか?」


「……」


佐天は困惑した。
今砂皿に言ったスクールという組織も縄張り争いをしているだけであって、それ以外のことは何も言えなかった。
彼女は少し考えてから「すいません…ちょっと分からないです」とぽつりとつぶやいた。


「わかった。では、今後の学園都市の祝祭日関しての聞きたいのだが、九月後半に大覇星祭と学園都市の独立が十月の初旬」


佐天は何も見ないで学園都市の定めている祝祭日の日程を大まかに把握している事に驚いた。
彼女に取ってみれば「あぁ、そんな日あったな」程度の認識だった。


学園都市の人間でもないのに、祝祭日の日程を把握している砂皿に彼女は感心しつつ、柵川中学校の生徒手帳を学習机の中から取り出して確認する。


「…えっと…そうですね……砂皿さんの言っているとおりです…」


「わかった。どちらにしろ一ヶ月とちょっとは潜伏しなければならないな…」


佐天は思い出したようにつぶやく砂皿を見て疑問に思った。
潜伏するのは義務なのだろうか?フレンダ救出作戦が決行されれば行動を起こすのは速いほうが良いのではないか?
戦術や軍事に全く造詣がない彼女は砂皿に質問する。
695 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/03/08(火) 03:47:15.58 ID:1Ac6BJ7uo

「直ぐに行動を起こした方が良いんじゃないですか?まだアイテムのメンバーの意志決定とか色々問題があると思いますが……」


「ダメだ。どんなに早くても学園都市の大多数の生徒達が参加する大覇星祭か学園都市の日本国からの独立記念日…その二つのうちどちらかまで待機せねばなるまい」



「…その間は?砂皿さんとフレンダのお姉ちゃんはどうするんですか?ずっと潜伏するんですか?」


「そうだ」


こともなく、きっぱりと自分が一ヶ月潜伏することに関して言い放つ砂皿に佐天は驚く。
フレンダを学園都市から逃が為には毒ガスを使うこともいとわず、また潜伏生活もいとわない気概に佐天は砂皿に畏怖の念を見いだした。



「…では潜伏する間…くれぐれも…気を付けて」


「あぁ…君もな。ずっと潜伏するわけではない。監視の目をぬって出てくる事もある。君も…フレンダやアイテムの他のメンバーと話し合っておくことだ」


砂皿は自分で言っておきながら俺は身勝手な奴だな、と思った。
勝手に学園都市に来て、フレンダを救出すると彼女の所属している組織の連絡係に伝え、後は救出するだけ。


フレンダが身を置いていた環境は?そうした事を一切考慮しないで行われるであろうこの作戦。
大覇星祭にしろ、学園都市の独立記念日にしろ、後一ヶ月ほどある。
それが短いか、長いかはわからない。
しかし、この一ヶ月は彼女達に否が応でも今後どうするか決めなければならないのであった。




「フレンダには今すぐに話をしてほしい」




砂皿はそういって帰っていった。
一体なんなんだろう?そう思った佐天はしかし、「は、はい」と返事をして、砂皿の言うとおり直ぐにメールを送った。
696 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/03/08(火) 03:48:00.92 ID:1Ac6BJ7uo

――アイテムの共同アジト

アイテムのファミレスでの集まりは終了した。
今日集まった理由…それはフレンダが学園都市の暗部から抜け出そうとしている、情報に基づいて麦野が行った尋問だった。


がちゃり…フレンダはキルグマーのストラップがついているカギを鍵穴に差し込みドアをあける。
その直後に滝壺も共同アジトに上がっていく。


カーテンをぴしゃりと締め切っているのでアジトの中は比較的涼しかった。
家を出てから四時間ほどなので冷房が排出した冷気がまだ少しだけ残っているのを二人は知覚する。


ファミレスからここまで帰ってくるまで二人は一言も話さなかった。
その発端としては恐らくフレンダが醸し出す気まずさと滝壺の寡黙な正確が生み出していると言える。


部屋に上がってフレンダがipodを取り出してBOSEのスピーカーマシンにかちゃりと接続する。
しんと静まりかえり、ひんやりとしたアジトにしっとりとした音楽が流れる。


確か…これはMicroとL-VokalのApple pieとかいう曲だったがどうでもいい。と思いフレンダはソファに身を沈める。
滝壺は洗面所に行って手と顔を洗って、部屋着に着替えてからフレンダのいるソファにやってきた。



「ねぇ?滝壺?」


ファミレスから帰ってきてやっとフレンダが口を開いた。
滝壺は「なに?」といつも通りの優しい表情でフレンダをのぞき込む。


「私…みんなに嘘ついちゃったね」


「……うん」
697 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/03/08(火) 03:50:26.41 ID:1Ac6BJ7uo

「“私がアイテムから抜けるぅ?結局、意味不明って訳よ!”とか、もうね…よくあんな事言えたわ…」


フレンダはそう言うと「ははは…」と笑いながら言うが、その表情は全く笑っていない。
むしろ滝壺からしてみたらフレンダの表情はやや苦悶しているようにも見える。


「もし、私が学園都市を抜けるときに麦野に見つかったら…私、殺されちゃうかも知れないわね…」


「……フレンダ」


滝壺はただ弱々しくフレンダの名前を呼ぶことしかできなかった。
彼女はフレンダの隣にすとんと座るときゅっと手を握ってあげた。


「こんな嘘つきの汚い白豚の手を取ったら…滝壺も汚くなっちゃうよ?」


「平気だよ。どんなフレンダでも私はフレンダを応援するって決めたから」


「そっか……ありがとね……」


「…うん」


滝壺はちょっとだけ嬉しそうな表情を浮かべる。
フレンダも滝壺のその表情を見てちょっとだけ頬をほころばせる。


「でも、私が嘘ついたことには変わりないって訳ね。結局は麦野にも滝壺にも、みんなに迷惑をかけるかも知れない」


「そうだね。絹旗や浜面にも…迷惑かけちゃうかも知れないね」
698 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/03/08(火) 03:51:39.17 ID:1Ac6BJ7uo

「…はぁ。やっぱり、テレスティーナの指摘したことは事実って事を認めれば良かったのかな?」


「ダメだよ。あれは事実じゃない。学園都市から脱出するていうのは…まぁ…事実だけど…目的があるもん。フレンダ」


結局は言葉遊びなのだが、そこも重要だった。
フレンダはアイテムを裏切るわけでない。形式的にはそうなるかも知れなかったが。


「そうだね…」


フレンダは思う。
テレスティーナの採った行動は何もおかしくない。
学園都市を守る者として、僅かながら感じた不穏な臭いは払拭しなければならない。なので念には念をと言うことでフレンダを試したのだろう。


♪I believe Miracles can happen

考え事をしているとフレンダの携帯電話が不意に鳴った。
とっさにポケットから携帯を取り出すとメールが一件来ていた。



(なになに?今から遊ぼう?はぁ?ま、暇だから良いけど…)


フレンダは佐天から送られてきたメールを返信する。
取り立てて予定も無いので良いかな、と思い佐天に返信する。
699 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/03/08(火) 03:52:28.77 ID:1Ac6BJ7uo
To:涙子

Sub:OK

いいわよ。涙子の寮に行けばいい?





(よし…これでいいわね、送信っと)




フレンダがメールを送ると直ぐに返事が返ってきた。
恐らく涙子も暇してるんだろうな、とテキトーに推測する。




From:涙子

Sub:ありがとね!

じゃ、待ってます!!!!



(ったくメールでも元気全開だな、涙子)


フレンダは佐天から送られてきたメールに返信をすると滝壺に送られてきたメールの内容を一応言っておく。
滝壺も一緒に行く?と言うが、つかれちゃったから寝たい、と言いアジトで待機する事に。



フレンダはいつもの格好から着替えるとまだ日差しが照りつけている道を歩いて佐天のいる学生寮に向かっていった。
700 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/03/08(火) 03:59:27.07 ID:1Ac6BJ7uo
――柵川中学の学生寮

「結局、こんな所に呼び出して、どうしたの?」


「あぁ、遊ぼうって言ったのは嘘。ちょっと重要な話があって」


「嘘かい!ま、いいわ、結局、暗部の女として私にいうことがあるって事?」


「仕事の依頼って言ったら依頼だけど…」


佐天はそういうとなにやら言いよどんでいる。


「…結局どうしたの?」
701 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/03/08(火) 04:00:13.89 ID:1Ac6BJ7uo

「私の護衛を頼めないかなって…ははは」


「私一人じゃ、涙子を守るのは無理」


「キー!こいつときたら!私の命がどうなってもいいんかい!」


「ちょ…なによ…だって元々の護衛役は砂皿さんじゃないの?」


「砂皿さんはさっき私の所に来て、潜伏するって言ってたわ…で、その潜伏するのに…」


「……?」


「フレンダ。フレンダの姉も一緒に潜伏するのよ…もう学園都市に来ているのよ。それで、あなたのことを探している」


「…お姉ちゃんが学園都市にいる…!」
702 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/03/08(火) 04:01:24.80 ID:1Ac6BJ7uo

フレンダは姉が自分を探しに学園都市に来ていることが何より嬉しかった。
彼女は佐天に質問する。


「探してるってのは…あの前に行ったテレスティーナとか言う女がつけてくれた涙子の護衛の男の人と一緒って訳?」


「えぇ。その人もさっきまでここにいたんだけど、『フレンダと接触するのはまずい』って言って帰っちゃった」


「…そっか…そしたら…いつまで待てばいいのよ?会えるなら、私はお姉ちゃんにすぐ会いたいな……」


佐天はそういう姉との再会を切望するフレンダに近くの雑居ビルに潜伏することを伝えた。
柵川中学校の学生寮から程近い雑居ビルにいることを伝えると直ぐに向かおうとしたがそれを佐天は食い止める。


「ちょっと!待って!フレンダ!気持ちはわかるけど、今行ったら砂皿さん達とフレンダが何らかの関係があることを学園都市に教える事になるからまずいよ」


「うっさいなぁ…結局すぐそこにいるのに何で…!」


フレンダはそういうとぎりと歯軋りをする。
確かに目の前に探している人がいるにもかかわらず、会いに行くなと言われれば誰でも苛立ちを覚えるだろう。
つい先ほどまで姉が探していると聞いて喜んだフレンダだったが、今は二人は気まずい雰囲気になっていた。


「涙子、知ってる?テレスティーナが麦野にメール送ったんだよ?」


「…?どんな内容のメールなの?」


「私が暗部から抜けようとしてるって話よ!!私たちがMARに行って砂皿さんを護衛に抜擢してもらった所まではよかったんだけどね」


フレンダは佐天が何か言おうとしたがそれを封じて先に話す。
703 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/03/08(火) 04:02:17.57 ID:1Ac6BJ7uo

「それが裏目に出ちゃったて訳よ。テレスティーナは間違いなく私たち、いや、私のことを警戒している」


「……ご、ごめん。私がMARに行こうって言ったばかりに…」


佐天は謝罪するも、フレンダは「もうすぎた事だし、仕方ないよ」と言ってくれたが、かなりイライラしているように見えた。
しかし、佐天はもう一つ重要な事を言わなければならなかった。


「…ここにフレンダの探しているお姉ちゃんの連絡先があるの。一応渡しておこうと思って」


「え?」


佐天は「だからここに…」と言うとポケットから砂皿から渡されたメモ用紙を渡す。
そこにはステファニーの連絡先が記載されていた。


「これが…」


フレンダは佐天から貰った小さいメモ用紙の切れ端を片手で掴むと大切そうにポケットに入れた。


「今、連絡してみてもいい?」


「いや…ちょっとそれは…」


フレンダは言いよどんだ佐天をキッと睨みつける。
さっきを孕んだ視線で射竦められた佐天は黙ってしまったものの、直、抗弁の姿勢は見せていた。


「結局、涙子が何で私と姉が連絡を取るのを許可しないの?あなたにそんな権限があるの?」
704 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/03/08(火) 04:03:12.60 ID:1Ac6BJ7uo

「…私はないわよ…私だってむしろ……フレンダがお姉ちゃんと会えれば嬉しいって思うけどさ」


「なら、対面できないまでもメールくらいさせてくれたってよくない?」


「ダメだよ…そしたらフレンダと姉が接触してるって事を裏付ける事になっちゃうんだよ?」


「……姉と砂皿さんも私が学園都市から脱出する事に協力してくれてるの?」


「そうみたいね…直ぐそこの雑居ビルに潜伏するって言ってたから、相当の覚悟で臨んでるみたいよ?」


佐天は自分が思った事を素直に吐露した。
フレンダはどこか焦点が定まらない視線を泳がせ、「潜伏って…」と姉達の強固な意志を垣間見た気がした。


「そっか…お姉ちゃん達、すごいな…私もがんばらなきゃ」



「…そうだね。で、砂皿さん達が動き出すのは人の流れが流動化するときって言ってたわ」


「つまり…大覇星祭か、学園都市の独立記念日って事ね」


「そういうことになるわね」
705 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/03/08(火) 04:04:39.04 ID:1Ac6BJ7uo

フレンダは佐天と話し合いを終えると窓越しから外を見る。


「夏も、もう直ぐ終りね」


「えぇ」


「涙子は…どうするの?」


唐突に放たれた質問に佐天は答えに窮してしまった。
砂皿にも聞かれたその質問の答えはまだ見出していなかった。


「…私は…」


「うん。滝壺も答えに困ってるって感じだった、ただ…私がいなくなったらみんなどうするのかなって思って」


アイテムが任務をこなすたびに入る報酬の幾らかを親に送金していた。
それらはを人を傷つけるたびに自分自身の免罪符として。
706 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/03/08(火) 04:05:38.16 ID:1Ac6BJ7uo

「フレンダを学園都市から逃がすって事は…殺人者を学園都市の外に放り出すって事?」


佐天のトゲのある発言にフレンダの眉がぴくりとうごめく。


「……まぁ…否定はしないわ」


フレンダは思った。
確かに究極的に見れば私は殺人者だと。そんな人が学園都市の暗部から下野すればそれはそのまま殺人者が牢から出るに等しい行為だ。


佐天の発言で暗鬱な考えに浸ろうとしているフレンダに対して「けど」と言葉が発せられて、フレンダの思考が一旦中断される。


「でも…フレンダだって姉に会いたいから学園都市から脱出しようとしてるんでしょ?」


「…そうね」


「フレンダの逃がすって事は学園都市であなたに殺される人がいなくなるって事よね?」


「ん。ま、まぁ」


「なら、私がやろうとしてる事は人助けになるのかもしれない」


佐天は自分の思った事を口に出して免罪符を得ようとして、それを取得した。
自分の納得できる理論を自分で構築する。
そして、後は他者にそれを認めてもらえればいい。フレンダの回答を待つ。


「…そうね。結局はそういう事になるわね」


「そういってもらえると助かるわ」
707 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/03/08(火) 04:06:51.80 ID:1Ac6BJ7uo

佐天はまるで幻想御手の時から変わってないな、と自分で思う。
幻想御手の時は自分の意思で善悪を超え、自分の興味で使い、昏倒した。
今回も自分が免罪符を得たいからという理由でフレンダを学園都市から脱出させる事に協力しようとしている。


誰かに自分の事を認めてもらいたい。役に立ちたい。目立ちたい。
そうした様々な心理状態が絡み合って、今の彼女、佐天涙子を形成していた。



「涙子は…私に協力してくれるの?」


「えぇ」


「あなたはアイテムの連絡係よ?上からの命令で私を捕縛しろとか、もっと過酷な命令が下るかもしれないわ」


「そのときはそのときよ!」


佐天はそういうと自分の胸をどんと叩いてみせる。


「結局、私のやりたい事をやらせてもらう。それだけ」


「涙子…あんた根性あるわね」


「そうかしら?今までさんざっぱら色んな人に迷惑掛け捲ってきたダメ人間よ?」



「いやいや、結局自分のやろうとしてる事だけを貫き通すってのはむずかしいって訳よ」



「そうね。でも自分の成し遂げたい事だとか、やってみたい事をやらないってのは損よ」


「ふふ…涙子は強いね、自分に興味のある事は真っ先に手を伸ばすのは素直にすごいと思うわ」
708 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/03/08(火) 04:07:37.90 ID:1Ac6BJ7uo

感心するフレンダを佐天はちらと見ると「この仕事も自分の意思ではじめたしね…」と小さい声でつぶやく。
先ほどの暗い雰囲気は多少は和らいできた感じだった。


とそのときだった。


ドルルルルル……


外に大きなバイクの音が聞こえる。


「うるさいわね?暴走族?スキルアウトかしら?」


佐天は忌々しそうにつぶやきながら冷蔵庫にあるパック麦茶を浸しているボトルを取り出す。
夏休みの最終日を前にしてスキルアウトたちが暴走行為をしているのだろうか?
佐天たちのいる学生寮の前にバイクの音がひびく。


フレンダは「だー!うっさい!」と言いながら窓越しに下を見る。
佐天は「誰よ?」と窓越しに立っているフレンダに話しかけるがその背中からは返事が返ってこない。
おかしいと思った佐天は恐る恐るフレンダの隣に並び立ってみる。



「…お姉ちゃん…」


「え?」


フレンダが発した一言で佐天はぎょっとした表情で窓越しに道路の真ん中に止めてあるバイクを見る。
距離は離れているがどうやらこちらを見ているようだ。
709 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/03/08(火) 04:08:11.26 ID:1Ac6BJ7uo

――柵川中学学生寮前

正直笑うのも億劫だった。
しかし、砂皿さんからの連絡でこの時間帯だったら君の妹がいるかもしれないといわれれば、無理やりにでも笑顔を作る。


(確か二階にいるのよね?フレンダの連絡係は)


ステファニーは数多の増援に追いつかれる前に潜伏先の雑居ビルの近くにやってきたのだった。
まさに僥倖とも思えるこのタイミングでフレンダとステファニーは一瞬の邂逅を果たすことになった。


フレンダはアイテムの連絡係に呼ばれた可能性が高い。
会うならこの時機しかない。


ステファニーは左肩の銃創貫通と右足に擦過していった銃弾の擦り傷が痛む中、ハーレーソフテイルを勢いよくドルルン!とふかした。


(本当に居るんですかね?フレンダは)


一度停車するとどっと汗が出てくる。
真っ黒のレザーで上下会わせているステファニーにとってはかなりきつかったが妹に会えるのであらば、ちょっとやそっとの事は気にしなかった。


(フレンダぁ…居るなら出て!)


祈るような気持ちでステファニーは柵川中学校の学生寮の前を見る。
バイクを走らせれば直ぐそこに砂皿が潜伏している雑居ビルがある。時間的余裕はあるのだが、銃創からは血がしたたり落ちている。
710 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/03/08(火) 04:08:55.58 ID:1Ac6BJ7uo

(まだ居ないのか?来てないのかな?)


半ば諦めかけていた時だった。
学生寮のカーテンが元々開いてる部屋からのっそりとこちらを見ている金髪の少女が居た。


(…フレンダ!)


よく分からなかったがフレンダは「お姉ちゃん」と言ったはずだった。いや、言った。
妹の口の動きをつぶさに感じ取ったステファニーは数年ぶりの再会に思いを馳せた。


ステファニーは目頭が熱くなるのを感じたが、涙がこぼれるのは必死にこらえる。
ぐっと左腕を高く掲げ、窓の外にいるフレンダに親指をぐっと突き上げる。


フレンダは窓越しにその素振りを真似る。
ステファニーからは心なしかフレンダも目が潤んでいる様に見えた。


「待っててね!フレンダ」


大声でステファニーは叫ぶともう一度ハーレーをドルルン!と勢いよく吹かす。
フレンダは窓越しにうん!と精一杯の笑顔を浮かべて手を振っている。



(にしし!今日はフレンダと会えました!今度会うのはいつになるんですかねぇ?)



ステファニーは後方に遠ざかっていく学生寮を見つめながら潜伏先の雑居ビルに向かっていった。
711 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/03/08(火) 04:10:19.21 ID:1Ac6BJ7uo
すいません。
今日はこれで終わりです!

あとどんくらいで終わるんだろうか…


ではまた!皆様の感想お待ちしております!
いつも読んでくれる人ありがとう!
712 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/08(火) 04:21:30.78 ID:ezhTANSC0
乙!

目と目が合う瞬間〜♪
713 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/08(火) 13:19:16.18 ID:YJ2qwifSO


佐天さんの口調がスゴく大人っぽくなったな…。
714 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/08(火) 23:29:17.56 ID:Tzsvx5Us0
結局フレンダは復活しなかったらしいな
715 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/03/09(水) 01:53:15.20 ID:irmETSjMo

こんばんわ。
ご指摘有り難うございます。

佐天の会話ちょっと固く(?)しすぎちゃったかな?すいません。
今日も少し投下しましょう。


あらすじ

猟犬部隊の追撃から逃れたステファニーはちょうど柵川中学の学生寮にいたフレンダの姿を見た。
お互いに自分たちの事を確認した二人。


一方、大規模な学園都市のイベントに合わせて行われる事になった。
一ヶ月後に来る学園都市の独立記念日に合わせて自体は動き出すことになるだろう。
716 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/03/09(水) 01:54:43.32 ID:irmETSjMo

――柵川中学学生寮


「涙子!見た!?あれが私のお姉ちゃんなの!」


フレンダは先程まで姉がいた所を指さしている。
佐天は「うん、見たよ!」と頷く。



「良かった…少しだけでも会えて…」


佐天はフレンダに相槌を打つ。
そしてちらと彼女の表情を見てみようとすると笑いながらも大粒の涙をこぼしていた。


「…あー…ゴメン、情けないわね、結局私」


「そんな事ないと思うよ」


その後フレンダは「あー」とか「ふー」とか適当に深呼吸している。
そして双眸からは涙をぽろぽろと流しながら、姉と一瞬の邂逅を出来たことを彼女は心から喜んだ。
717 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/03/09(水) 01:56:12.45 ID:irmETSjMo

――雑居ビル


ステファニーの乗っていたハーレーは雑居ビルの中に巧妙に偽装されて配置されている。
当の本人は?


「…グ…ク…ッああ!イタいです…!砂皿さん!」


「我慢しろ!」


数多率いる猟犬部隊に追撃されたときに負った傷を治療していた。
幸い、貫通銃創と擦過しているだけなので、重傷は免れたが、暫くは安静が必要だった。


食料は約一ヶ月分。簡易トイレや傷の手当てをする応急キットはあるにはあるが、いつまで持つのやら。
しかし、この傷の痛みにも耐えなければなるまい。やっとフレンダと会えたのだ。後一ヶ月。


「砂皿さん…っつつ…痛い痛い!」


「仕方ないだろう。麻酔の量にも限界がある。ここで全て使ってしまえば後々の作戦に影響が出かねないぞ」


「はい…」


シュンと落ち込むステファニーの肩に砂皿が肩を当てる。
肩を露出している彼女は「ひゃう!」と突然に触れられた手の冷たさに驚く。


「終わりだ」
718 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/03/09(水) 02:01:09.42 ID:irmETSjMo

「あ、ありがとうございます…!」
(何だ、終わった合図ですか…いきなり触られたら緊張するじゃないですか…!)


雑居ビルの中でも半埋め込み式の地下に居住区に住んでいる二人。
他の部屋にはスキルアウトや住居様々な理由でなくしたアウトローな人々がすんでいる。
高層ビル群の間にひょっこり残ったゲットーの様な場所に二人は拠点を構えたのだった。



「脚の傷は擦過しているから消毒する…」


太ももの辺りを擦過している銃弾で出来た傷。
消毒するためにはレザーパンツを脱がなければならない。


「…ちょっと待って下さい…消毒は…自分でも出来ます」


「そうか」


ステファニーは砂皿がほかの部屋に向かうのを確認するとゆっくりとレザーのズボンを脱いでいく。
擦過したとレザーパンツがすれる度に想像出来ない痛みが全身を駆け巡っていく。


「…!…!」
(これ…痛すぎですよ…!)


気づけばステファニーは脂汗をじっとりとかいていた。
ステファニーはビクトリノックスの十徳ナイフを取り出して器用にレザーパンツを切ろうとするが良質のレザーなので刃がうまく入っていかない。


(クッソ…めっちゃくちゃ痛いじゃないですか…!)


結局痛みに耐えかねて、ステファニーは床にごろんと転がってしまった。
719 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/09(水) 02:02:36.05 ID:ca2QynDNo
おつおつ

>>714
そういうのはいりません
720 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/03/09(水) 02:02:50.87 ID:irmETSjMo

「砂皿さんー!消毒してくださいー…!」


ステファニーはじっとりと汗を掻いたまま助けを求める。
するとトレーニングを中断した砂皿がやってきた。


「すいません…自分では無理でした」


「ほら、言わんことない」


砂皿はそう言うと血がドス黒く凝固しつつある床を見ながら止血が出来ているのを確認するとステファニーから十徳ナイフを拝借し、丁寧にレザーパンツを切っていく。
すると擦過した傷跡が生々しく残っていた。
数十分の後、傷口は適切に治療され、包帯が巻かれた。


「あ、ありがとうございます」
(わ、私の脚みといてなんも思わないですか…とほほ…)


「困ったときは最初から頼むんだな」
(ったく…これだから綺麗な女は傭兵に向いていないんだ…こちらも集中しないと目移りしかねん)


「すいません…以後気を付けます。所で砂皿さん、どれくらい潜伏するんでしょうか?」



ステファニーは砂皿からどれくらい潜伏するか聞いていなかった。
というのもステファニーの性格だと「一ヶ月も潜伏出来る訳ないじゃないですか!」とか愚痴をこぼしそうだったから。
つい今し方考えていたステファニーに対する女に向けた感情を払拭し、砂皿は弁を続ける。
721 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/03/09(水) 02:04:22.62 ID:irmETSjMo

「…俺の計画だと大規模なイベントがあるまで潜伏しようと思っている」


「大規模って言うと…まさか…大覇星祭とか…学園都市独立記念日とかまでですか?」


砂皿は言うか言うまいか逡巡したが、ステファニーに大まかな予想だけどな、と前置きをして告げた。
するとステファニーは砂皿の予想とは全く違う反応を示した。


「妹を救出する事も出来て、一ヶ月も砂皿さんと二人っきり…フフ…!これは…これこそイベントですよ!」


肩と脚を包帯でくるまれている女は傷口からジンジンと発せられている痛みもなんのその、という風に立ちあがる。
そしてその直後に「いったーい」と言って再び床に崩れ落ちるのであった。
砂皿はこの女となら一ヶ月の潜伏は苦ではないな、と思った。
722 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/03/09(水) 02:05:36.43 ID:irmETSjMo

――同日 MARのオフィス


木原を乗せたムラーノは猟犬部隊のオフィスではなく、妹のテレスティーナが指揮しているMARのオフィスに到着した。
ここの機材は優秀で警備員のメンバーが利用するハイテク機材が揃っている。


「わりぃな、テレスティーナ。お前ん所の機材をちょいとかりるぜ?」


「あら、お兄さん久しぶりね?別に良いわよ?ここの機器の使用権限は私が持っているから、どうぞ使って下さいな」


数多はテレスティーナに軽く会釈をするとムラーノの車内に据え付けられていた車載カメラを取り出したファイルを持っている隊員をオフィスに入れる。


「何か解析するの?」


「あー…さっきまでカーチェイスをしててだな、それで砂皿の野郎と同じホテルから出てきた女がつえぇのなんのってよ」


「襲撃でも喰らったの?」


「まぁ、そんな所だ。前のヴァンガードがぶっ壊されて隊員三人死亡、一人大やけど、で援軍が追いつく間に負傷しつつも相手は逃げ切りやがった」


「あらま。かなりの腕前のようね」


「認めたくねぇがな」


数多はそう言うとテレスティーナから解析室のカードキーを受け取ると部屋に入る。
テレスティーナも興味があるようで、猟犬部隊の何人かと一緒に部屋に入っていった。
723 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/03/09(水) 02:07:38.61 ID:irmETSjMo

MARの解析員達がムラーノから回収した車載カメラの解析を行っていく。
その間に数多の無線に交信が入った。


『…こちらズユース…砂皿緻密の移動経路判明しました…現在立川近辺の雑居ビル群に潜伏している模様』


「わかった。良くやった…踏み込めそうか?」


『いえ…こちらからは見えませんが、奴ら先ほどなにやら敷設している様に見えました』


数多は「敷設ぅ?」とうざったそうに交信しているズユースに向かって吠えた。


『こちらからはあまり見えませんが…恐らく毒ガスかと…超望遠レンズで見た結果何ですが…』


「今投影機はない。口頭で説明しろ、ズユース」


数多はズユースがファイルを送ろうとしたのを一度中断させて無線交信で正確に伝えるよう言った。


『はっ…ただいま超望遠レンズで解析した結果………』


言いよどんでいるズユースに数多は「おい、コラ、しかり言え」と発破をかける。
724 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/03/09(水) 02:09:04.44 ID:irmETSjMo

『VXガスに収納方法は酷似しています。しかし、ステンレス容器に収めるのではなく、透明の容器に収納していますね…正確な種類は判別不可能です…』


「ほう…VXガス…或いは違う種類だとしても安易に踏み込めねぇな…」


『はい。…部屋に近づいた瞬間におだぶつ……という事も有り得ます…!』


「敵ながらあっぱれだな、こりゃ」


数多は独り言の様につぶやく。


(普通のVXでさえ相当な威力だ…あれが改良型だとしたら…質がワリィなオイ)


数多は透明の容器に収納されている改良型のVXガスを想像しつつ、交信を切った。
するとちょうど解析のアルゴリズムが終了した様で、解析員達は「おお」と歓声を上げていた。というのも解析されたファイルに映っている女性はかなりの美人だったからだ。


数多は解析員達の歓声に釣られて振り向くと大型プロジェクタに反映されている金髪ブロンドの女性の姿が見えた。
こちらを見て不敵な笑みを浮かべている白人だった。


「こいつ…まさか」


「ステファニーよ、これ」


数多の思考がテレスティーナの声で中断される。
「知っているのか?」と数多はモニタに投影さえているステファニーを指さす。


「えぇ。コイツ、以前学園都市の警備員で働いていたわ。同じ白人だったから記憶に残ってるわ」
725 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/03/09(水) 02:10:34.93 ID:irmETSjMo

「なぁるほど…そしたら…砂皿の野郎と一緒のホテルから出てきて且つ、猟犬部隊に攻撃を加えたって事はだ…」


「えぇ。砂皿と共に行動していると、みていいんじゃないかしら。しかも、アイテムのメンバー…恐らくフレンダでしょうけど…接触をはかってる可能性があるわね」


「そしたら…今直ぐにでも雑居ビルに襲撃をかけたいが…正体のわからねぇ毒ガス祭ときたか…実際に毒ガスなのかよ?」


「そればっかしはわからないわ。実際に言ってみないと」


「しかたねぇ、猟犬部隊から行かせるか。オイ、今無線で聞いてた奴ら」


『………』


何人かの隊員の交信音が聞こえてくる。
しかし、この状況で名乗りを上げた場合、待っているのは死以外ないのは明白だった。



「聞こえねぇのか?なら、お前等の親に行かせるぞー?いいんだなぁ??」
726 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/03/09(水) 02:11:51.85 ID:irmETSjMo

『…………………ズユース…了解しました』

『………………………リシャール了解です』

『………………………………テオ了解です』




突如掛かった死の呼びかけに反抗する余地はなかった。
男達は死ぬと分かってていても数多の命令に承服せざるをえなかった。
親に行かせる…それが荒唐無稽な冗談ではない事を猟犬部隊は承知していた。ならば…本当に苦渋の決断だが自分が行くしかあるまい。例え死ぬとしても…!


彼らは念じた。どうか、あれが致死性のガスではありませんように…と。


「戦場じゃぁ諦観は美徳だぁ。行ってこい」


まさにお前が言うかと、と言いたい衝動に駆られているだろう猟犬部隊の隊員達はしかし反抗出来なかった。
テレスティーナは「ひどい人」とぼそっと言うが、数多に「ん?んんん?」と凄まれて「好きにすれば?」と首を横に振った。



「じゃぁ、お前等の勇姿はこっちで見届けてやるから、頑張れ。突撃時刻は最終下校時刻を回ってからだ。いいな?」



『サー……』
727 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/03/09(水) 02:14:01.56 ID:irmETSjMo

数多は勿論男達の断末魔を見届けることなどなかった。
そして毒ガスが用いられたという形跡でだけ確認する。周囲に人が居なかっせいで、周辺にどれほどの影響を与えたかは確認出来なかったが。



「これで毒ガスを使ってるって事が判った。なら、うかつに忍び込むのは不可能だ…」


じゃあどうするの?とテレスティーナが数多に聞き返す。


「…なぁにあっちだってぐずぐずしてられねぇ筈だ…学園都市の大規模なイベントに乗じて作戦を実行するに違いねぇ…」


「ここ一ヶ月くらいだと…そうねぇ…大覇星祭か…学園都市の独立記念日だろうな…!」


「我慢比べって事ね?」


「あぁ。こっちから言って、無駄に戦力を減らす訳にはいかねぇからなぁ…!」


数多はそう言うと従えてきた猟犬部隊と一緒に自分のオフィスに帰って行った。
テレスティーナは帰って行く彼らの背中を見つめていた。





果たして、砂皿達が期待している様な出来事は一ヶ月後に起きるのであろうか?
アイテム、電話の女、猟犬部隊、MAR、グループ、スクール、御坂美琴、そして砂皿緻密とステファニー。

一ヶ月後、皆が交わるとき、キリキリと絞られた戦弓は放たれるのであった。
728 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/03/09(水) 02:15:01.08 ID:irmETSjMo

――学園都市独立記念日当日 佐天

この一ヶ月ちょっと、色々あったと言えば、あったし、いつも通りの平凡な日常と言えばそうだったかもしれない。
学校に行く者、潜伏する者、仕事を忠実に行う者、交渉権を獲得しようと躍起になっている者…様々な人の運命が交わり、時に激しくせめぎ合う。


佐天涙子は携帯電話を持ってそわそわしていた。


(ったく…ここ一ヶ月スクールにお株を奪われてばっかだったわね)


ため息混じりに仕事用の携帯電話をいじりながら彼女は思う。
大覇星祭は何事もなく終わった。
そして…今日、学園都市の独立記念日。何かが起きる事は確かだった。
というのも前日の夜のこと……






『明日、フレンダ脱出作戦を決行する』





昨夜砂皿が佐天の家にやってきて一言報告した。
彼女はこくんと頷くことしか出来なかった。


ついにやってきたのか。そう思うと彼女はなぜだか眠れなかった。
729 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/03/09(水) 02:16:00.85 ID:irmETSjMo

結局…砂皿さんの読み通り、独立記念日の前に暗部組織の幾つかが動き出した…どうなるのよ?)




佐天はこの一ヶ月、フレンダを護衛に付ける事はしなかった。それには特に意味はない。
強いて理由付けをするとすれば、自分の身に危険を感じられなかったから。


今、佐天はジョセフに向かっている。
そう、アイテムの構成員達が待機しているレストランだ。


今日は祝日。家に居てもつまらない。いや、そんな理由で彼女はアイテムの会合に来たのではない。
いつもアイテムの面々がどんな会話をするか。それをこの目と耳で見聞きしてみたかった。



そして、何より、フレンダが今後どういった行動を採るか…。例え同行出来なくても、今日フレンダの顔を見ずにはいられなかったのだ。
色々な事を考えながら歩いているとレストラン「ジョセフ」の駐車場が見えた。
浜面の仕事用の車、シボレー・アストロが停まっている。既に会議は始まっているのだろうか。



(おーおー…話してますねぇ、アイテム)



佐天がちらとジョセフの窓をみるとアイテムのメンバー四人が待機していた。
それぞれが思い思いの行動をしているようだ。
その姿を見つつ、彼女はジョセフの入店口に足を踏み入れる。
730 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/03/09(水) 02:17:47.04 ID:irmETSjMo
――麦野沈利


彼女は久しぶりに入った仕事にワクワクしていた。しかし、その反面緊張もしていた。


垣根帝督。第二位の怪物。未元物質を繰る男。



自分の思った物質を構築できうる限りまでの範囲なら作り出せる。
麦野は彼に対して面識があった以前付き合った事があるから。


しかし、そんな事は戦いになってしまえば関係ない。
任務を遂行してしまえば明日からはまた普通の日々。浜面にたっぷり抱いてもらうのもいいかも。



そんなことを考えながら彼女はふと気づいた。
朝ごはんにいつも食べる鮭弁当にいつもの惣菜が乗ってないのだ。






「あれ?今日のシャケ弁と昨日のシャケ弁はなんかは違う気がするけど。あれー?」
731 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/03/09(水) 02:18:24.96 ID:irmETSjMo

――絹旗最愛


超、超、一ヶ月ひまでしたね。
いや、アイテムに入ってからスリリングな日常を過ごしたことはあるだろうか?
絹旗は自分に言い聞かせる。


正直彼女は自分の能力をふんだんに使った戦いをしたことがなかった。しかし、
電話の女からここ最近入った情報に依れば今回の相手はスクール。


かなりの強敵であることには間違いない。
相手は得体の知れないヘッドギアの男、プロスナイパー、心理操作に長けた女、そして第二位の男。


いきなり本番の殺しあいだ。
こればっかしはうまく行くかわからない。しかし平静は保たれている。いける気がする。


そんなことを考えながら寡黙に、じっと映画のパンフレットを読んでいく。






「香港赤龍電影カンパニーが送るC級ウルトラ問題作……様々な意味で手に汗握りそうで、逆に超気になります」
732 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/03/09(水) 02:19:12.16 ID:irmETSjMo

――滝壺理后

スクール…学園都市第二位を擁する組織。
その組織の他にも幾つかの組織が学園としないで行動を開始したようだった。


それは即ち学園都市の治安を守る組織「アイテム」に出撃命令が下るのと同義だった。
今日はもしかしたら相当な激戦になるかも知れない。


しかし、その激戦下で行われる一つの脱出劇。
その伸展がどうなるか。滝壺は気が気でなかった。



(…フレンダ…見た感じ普通だけど、昨日も遅くまで起きてたし、やっぱり緊張してるのかな?)



滝壺はぽーっと眠そうな視線を虚空に向けながらも、とらとフレンダの方を見ると元気そうに大好きな缶詰をつついていた。
その光景に滝壺は苦笑しつつ能力者達が発する力場の波に揺られるのであった。






「……南南西から信号が来てる……」
733 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/03/09(水) 02:21:11.40 ID:irmETSjMo

――フレンダ=ゴージャスパレス

ついに来たか。
それが正直な感想だった。


涙子程じゃないけど、私もクソ度胸の持ち主かな?と彼女は思った。
というのも昨日の夜まで学園都市から抜け出すなんておよそ絵空事のように感じられたからだ。


流石に昨日の夜は緊張したが、夏休みの最終日以降、昨日の夜までは取り立てて緊張したり不安に駆られることはなかった。
もしかしたら真剣にむきあってないだけかもしれないが。


(お姉ちゃんの事、少しでも見れたのが大きいのかな?)


佐天の暮らしている学生寮にやってきた時、バイクの排気音が聞こえた。
音に釣られて窓を見てみると姉の姿が。
あれだけで、フレンダは今まで姉を探してきた苦労は全て吹き飛んでしまった。



(今日で…学園都市の闇からおさらばになるって事よね…結局うまく行く訳?)


砂皿からは何も連絡が来ない。
しかし、連絡先は交換している。後はいつ、いかなるタイミングで連絡が来るか。それだけだった。



腹が減ってはいくさは出来ない。日本人の口にすることわざをフレンダは思い出す。
そして大好きな鯖の缶詰をつつく。






「結局さ、サバの缶詰がキてる訳よ。カレーね、カレーが最高」
734 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/03/09(水) 02:25:17.82 ID:irmETSjMo

――砂皿緻密 ステファニー=ゴージャスパレス


「いやー…やっと出れますね、砂皿さん☆」


「あぁ。一ヶ月と少しか…長かったな」


砂皿とステファニーは立川郊外の雑居ビル群から出てきた。
一ヶ月以上籠城していたにもかかわらず、特にその表情からは疲労は感じられない。


毒ガスという実物でのブラフを利用したせいもあってか、この一ヶ月は外出するのを極力控えていた事以外は特に変化はなかった。



「恐らく…私達の行動も監視されちゃってるんですかねぇ?」


「あぁ」


二人は悠長なことを言いつつ、地上に出る。
恐らくこの時点で学園都市の治安維持部隊の照準に二人は映っているのだろうが、二人は何故撃たれないのだろうか?


それは彼らが持っている毒ガスに起因しているだろう。
一ヶ月ほど前猟犬部隊の三人の隊員が哀れにも毒ガスを浴びて死んだ。

毒ガスの成分は二人しか知らないのだが、彼らの手にはしっかりそれを治めた容器を手に提げていた。
仮に狙撃が成功したとしてももしショックを与えてしまって毒ガスがまき散らされでもしたら?


左手にはアタッシュウェポンケース、右手には数珠つなぎになっている透明の容器を納める透明のスーツケース。
背中には大きめのリュックを背負っている。恐らくそれぞれの得物が入っているのだろう。


砂皿とステファニーは雑居ビルの影に巧妙に偽装されているハーレーに乗り込む。
今回の運転は砂皿だ。


「行くぞ」


「はい」


ハーレーは心地よい排気音を上げ、一ヶ月以上の籠城直後とは思えない、健康な様子の二人を学園都市のビル群に向けて送り届けていった。
735 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/03/09(水) 02:25:59.41 ID:irmETSjMo

――木原数多

「へぇー…やっと動いたかぁ。待たせやがってよ」


数多は砂皿達が雑居ビルから出てビル群に向かっていった報告を聞いた。
彼は思う。結局はあいつらは必ず学園都市を出るのだ。そこで一網打尽にしてしまえばいい。


(一方通行の奴は悔しがってたなぁ、仕事が入ってそっちにいけねぇとか言ってたわ)


一方通行は実はアイテムと戦うのを熱望していた。
しかし、ここ最近慌ただしい学園都市の内情と世界情勢によって治安維持部隊が著しく不足している状況で一方通行擁するグループにも治安維持の要請が入ったのだった。


(まぁ、あいつなら命令無視してでも飛んできそうだが…果たしてねぇ…?)



数多は首の骨をコキンと鳴らすと妹であるテレスティーナに学園都市と日本の境の警備を強化するように要請した。
すると「人手が足りないけど頑張るわ」と頼りない返事が。


(チッ…猟犬部隊からも少しだしてやっかなぁ…)


そう思った数多は増援を送る旨を伝える。
ここ一ヶ月で新たに補充された人員達で新旧の隊員が混同している猟犬部隊。



(あいつらも呼んでやるかねぇ)


数多はそう思うと“あいつら”を呼んだ。
736 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/03/09(水) 02:26:58.56 ID:irmETSjMo

「呼びましたか?とミサカは猟犬部隊指揮官に質問します」


「あぁ。呼んだぜ。お前等にも出撃命令が下る可能性がある」


「了解しました。では、しばらくはここで待機ですね?とミサカは隊長に命令の確認をします」


「あぁ。そうだ、待機だ。頃合いを見て俺がお前等を呼ぶから、そんときその場所に来い」


数多の命令を復唱した御坂美琴のクローン四人はオフィスを後にした。
他の隊員達も集合しており、猟犬部隊の一部は数多の命令で出撃する事になった。
737 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/03/09(水) 02:30:20.94 ID:irmETSjMo

今日はここまで。
短くてすいません。

色々突っ込みたいトコあると思いますが、こまけぇことは気にするな精神で見て頂ければ助かります。
時系列は原作十五巻です。

ではまた!読者の方には感謝。
投稿中のレスはにやにやしてしまいますね。
738 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/09(水) 02:40:40.84 ID:H0UHYox7o
木ィィィィィィ原くゥゥゥゥゥン!?
いいキャラしてるな

とうとう来たか…俺のフレンダちゃんがどうなるか気になって一日10時間しか寝れない…
739 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/09(水) 02:46:11.92 ID:ca2QynDNo


こっからスクールとの攻防か…
まさか…な…
740 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/09(水) 10:04:44.87 ID:oEAsSTbSO
新刊で、フレ/ンダのフルネームがわかっちゃう…
741 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/09(水) 15:10:25.85 ID:L14+4MiE0
フレンダに妹なんていなかった、いなかったんだ…
742 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage ]:2011/03/09(水) 19:13:52.11 ID:KLmv8RlD0
何故か口絵に初春・春上・佐天さん……
743 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/09(水) 19:46:15.34 ID:foTVXrTKo
なんで解禁前なのに普通にネタバレ書いてる馬鹿がいるんだ
744 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/09(水) 19:57:38.49 ID:MJksdZB1o
先に知ってる俺カッコイイ(笑)
みんなにも教えてやるよ
とか思ってんだろ
745 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage ]:2011/03/09(水) 20:27:16.05 ID:KLmv8RlD0
え?売ってるよ、三省堂では。
746 :作者 携帯から :2011/03/09(水) 23:01:40.62 ID:xsbClNnDO
今日は私事で投下できません。すいません。

明日投下します!
747 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/09(水) 23:19:23.84 ID:5YRqsKjK0
>>1乙 待ってるさ
 てか、悪セラレーターさんが性欲のために飛んできそうな悪寒
748 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/10(木) 06:31:59.30 ID:yAHeaBpSO
神保町の、三省堂や書泉では、1、2日前にはおいてる
同じく神保町では、3、4日前にはおいてある個人店もある
749 :作者携帯から :2011/03/10(木) 15:04:29.90 ID:hYuVhLPDO
今日の夜に投下する。
新約……………。畜生が
750 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/10(木) 22:24:21.27 ID:D3HNEXXAO
まあ気にするなSS書いてりゃそんな時もある
唯一気になるのはもはやロリ祭りになってるところか
751 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/11(金) 17:51:50.50 ID:adi9qYGM0
平行世界だと考えるからこのままでおk
地震情報:http://ex14.vip2ch.com/earthquake/
752 :投げんな匙 ◆t4xyS9bQ1M [saga]:2011/03/12(土) 03:23:58.33 ID:l+YljqSK0
作者です。
皆様無事でしょうか??

自分は東京二十三区外なので強い揺れはありましたが無事です。

昨日は投下詐欺になってしまい、すいません。
書きためはありますが、この雰囲気で投下するのも…と思い、今日は自粛します。

今日の夜に投下出来たら、と思います。
地震情報:http://ex14.vip2ch.com/earthquake/
753 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/03/13(日) 18:06:42.66 ID:RnZvJev9o
マジで投下遅れてすいません。
言い訳はしません。すいません。



あらすじ

砂皿とステファニーの一ヶ月の潜伏期間が終わり、彼らはフレンダ救出作戦に向けて動き出す。
彼らが行動に移った日は学園都市の日本国からの独立記念日。

他の暗部組織も行動を始める中、アイテムもスクールの討伐に動き出す。



※フレンダとステファニーが姉妹という設定です。
フレメアさんは出てきません。
また、セイヴェルンという名前ではなく、フレンダ=ゴージャスパレスという事になります。

ま、パラレルワールドみたいな感じです。
754 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/03/13(日) 18:10:53.98 ID:RnZvJev9o

――ファミレス ジョセフ


「あれ?あれは超電話の女じゃないですか?」


「おはよー!」
(ちょっと寝坊しました、すいません)


佐天は持ち前の元気の良さでアイテムの面々に挨拶する。
会うのは夏休みの一回目以後初めてだったが、特に気兼ねなく挨拶出来た。


「にしても…みんな朝から早いわねー…」


「何でお前が直接来るんだよ、電話の女」


「いや、まぁ、あのその…今日は祝日だし、アイテムがどういう感じで仕事の話しをしてるのかなって思って…」


麦野は「ふーん…」と鼻を鳴らすだけ。
他のメンバーは浜面が持ってきたドリンクバーを飲みながら麦野と佐天のやりとりを聞いている。


「単刀直入に言うけど、今回の任務はスクールの鎮圧…で、ついさっき入った情報だと、スクールは八王子の素粒子光学研究所に向かったって情報だわ…!」


佐天はそう言うと柵川中学校の鞄から仕事用のタブレット型携帯電話を取り出す。
以前滝壺とフレンダと一緒に撮ったプリクラは携帯の裏面に張ってあるので見えない。
755 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/03/13(日) 18:11:32.37 ID:RnZvJev9o

「えーっと…これが今回戦いに参加している人達の顔写真とデータね」


佐天はみんなが見やすいように掲げて見せる。
高画質の液晶から出力された画像にはアイテムの面々の顔も映って見える。


「超いっぱい居ますねー。にしても今暴れ回ってるのは…この四人組ですか?」


佐天と同い年の絹旗はスクールの垣根帝督の顔写真を指さす。
その質問に佐天は「えぇ、どーやらそーみたい」と答える。


「こいつら、ここ最近ずっと暴れてますね。同業なのに何で目立とうとしてるんですかね?」


「うーん…そこまでわからないわ…ごめん」


佐天は気まずそうに絹旗に返答する。

「で、アイテムのみんなには早速清掃工場に向かってスクールの鎮圧に取りかかって欲しい」


「へいへい、りょーかい」
756 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/03/13(日) 18:13:42.73 ID:RnZvJev9o

麦野はシャケ弁をつつき、悪態をつきながらも返事をする。
他のメンバーもいやいやながら「はーい」と返事をした。


「じゃ、いきますかねー。スクールぶっつぶしますか」


麦野のかけ声に「おー!」とアイテムのメンバーが反応する。
すっくと麦野が立ちあがると他のメンバーも立ちあがる。


浜面はその光景を見、伝票入れに入っている伝票をレジに持って行きいち早く会計を済ますと駐車場に向かっていく。
彼は「ちょっと待っててくれ」とアイテムのみんなに一言言うと走って車を取りに行く。


「あ、ゴメン、ちょっとトイレ言ってくる」


浜面が車を取りに行く為にレストランを出たのと同じくしてフレンダがトイレに行きたいと言い出した。
麦野は「はやく済ませてきな」と言い放ち、先にレストランの外に出る。


フレンダは麦野がファミレスに出るのを確認するとトイレに向かう。
その時、アイテムのメンバーから少し遅れて歩いて来た佐天に彼女は目配せする。

首をかしげつつも佐天はフレンダについていった。
757 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/03/13(日) 18:14:50.81 ID:RnZvJev9o

――レストラン「ジョセフ」のトイレ


「時間がないけど、私と会うのもこれが最後かな?」


「そうね、フレンダ…」


「涙子はどうするの?」


「…私は前にも言ったようにあなたをここから逃がす…それに協力するのが免罪符だと思ってるから…」


そう。
佐天は人の命が最も軽んじられている学園都市の暗部に身をやつしている。
そんな世界で彼女が最も求めていた物。
それが自分の命令で人が死んだ、という罪を忘れさせてくれる免罪符だった。


「協力ね…涙子は充分協力してくれたわよ?一ヶ月前に砂皿さんと私に接触するきっかけを作ってくれたじゃない」


「でも…あれはテレスティーナさんのメールでフレンダに迷惑かけちゃったよ?まだ何か出来る事があるなら…」


「平気。もうこの学園都市から出る覚悟は出来てる。涙子はこの後も連絡係を?」


「いやー!それが全然考えてないのよねー…これからどーすんのか。取り敢えず、安全な場所まで避難したら連絡頂戴。コレ、私の元々持ってる携帯の連絡先」


佐天はそう言うとアドレスと連絡先が記載されている紙を渡す。
フレンダはその紙をポケットにしまうとトイレを出る。


「あ、そうそう。これ、今日お姉ちゃんから来たメール」


「え?どれどれ見せて?」
758 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/03/13(日) 18:17:15.83 ID:RnZvJev9o
――――――――――




From:お姉ちゃん

Sub:よっ!

にゃははーん☆
連絡今まで出来なくてゴメンね!
今日の日程はまた後ほど連絡するよ〜☆




――――――――――
759 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/03/13(日) 18:19:13.60 ID:RnZvJev9o

佐天はメールからしてテンション似てるわ…とフレンダの様な明るいキャラもう一人いる様を想像した。
そして、フレンダとはもう会えなくなる、と考えると、たった数ヶ月の中だったとしてもちょっと寂しさを感じる。


「じゃ、行ってくるわ。結局、見送りに来てくれてありがとね」


「こいつときたら……頑張ってね…!」



数十秒後、大きな排気音でシボレー・アストロがファミレスの入り口前にやってきた。
フレンダはファミレスのドアを勢いよく開けて乗り込んで行った。


佐天はぶぉおおおん!と音を立てて昭島方面に向かって行くアイテムを見送っていく。
彼女は報告が来るまで学生寮で待機しようと思い、元来た道を帰ろうとした。
しかし、彼女は目の前に居る人物を見て脚が震え、歩が停まった。





「み、み、御坂さん…?何でここに?」



「何でって…祝日だから散歩よ、散歩。っていうか、佐天さん、あんた、今、誰と話してたの?」





常盤台の超電磁砲、御坂美琴と佐天はばったり遭遇してしまったのだ。
760 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/03/13(日) 18:21:32.48 ID:RnZvJev9o

――八王子の素粒子光学研究所の駐車場


(あいつら無事なのか?)


つい先程研究所に入っていったアイテムのメンバーを浜面は気にかける。
スクールの構成員達がいるという電話の女の情報が正しければ、今頃は研究所内で苛烈な戦闘が繰り広げられているに違いない。


浜面の薬指には以前麦野と買いに行ったペアリングが嵌っている。
アイテムのメンバーには付き合っている事が知られているのだろうか?


彼はシボレー・アストロのハンドルを握りながらぼんやりとその指輪を見つめる。



(麦野は…頑張ってるかな?それに…滝壺も…体調崩さないか…)



浜面は麦野の事を案じつつ、滝壺の事も考えている自分のどうしようもなさにあきれるようにため息をつく。



(おいおい、俺は麦野と付き合ってるんだぞ、何で滝壺の事心配してるんだ…?)



それはみんな真剣に戦ってるからだ、と自分を納得させ、浜面は再び思索の海に出航しようと思ったその時だった。
761 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/03/13(日) 18:22:44.76 ID:RnZvJev9o


(オイオイ!一千万軽く越えるじゃねぇか…!にしても飛ばしてんなぁ…)



浜面は走り去っていくメルセデスのステーションワゴンをぼんやりと見つめている。
メルセデスが通り過ぎると、今度は研究所から麦野が走ってきた。走っている麦野の右手にはなにやらヘッドギアが。一体何だろうか?


浜面がヘッドギアに疑問を抱いていると麦野の姿は次第に大きくなり、彼女はドアを勢いよく開けると車に飛び乗ってくる。
その麦野の後姿に隠れ、滝壺も一緒に居る。


「浜面!ぼやっとすんな!今走ってったベンツ追うの!早く!」


既に遠くなっているメルセデスを追撃しろと指示を出す麦野。
いつも一緒に居るときの甘えっぷりとは大違いだ。


麦野と滝壺はアストロに乗り込む。
浜面は戦闘モードに移行している麦野の表情をちらと見て確認しつつシボレーのキーを回し、メルセデスを追う。
762 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/03/13(日) 18:25:18.21 ID:RnZvJev9o

「お、おい。絹旗とフレンダはの二人はどうしたんだよ!?」


浜面の質問に麦野はぎりと歯をならしつつ「あいつらはあれぐらいじゃ死なない」とぶっきらぼうに言い放つ。
彼が麦野の表情を確認しようとするとそのコートの端は焦げ、心なしか頬も少しばかり腫れているように見えた。




「相手のスクールのリーダーの垣根…うざってぇ…!」




浜面も流石に垣根の何がうざったいのか、そんな事を麦野に聞くヘマは犯さなかった。
アクセルをベタ踏みし、ひたすら昭島方面に向かうバイパスをひた走る事に全神経を集中させるが、直後後ろの合流点からずいっとクレーン付き大型トラックがやってきた。
しかも建築物破壊用の鉄球付きだ。



「お!おいおいおい!後ろ!やべぇぞ!」



浜面は左サイドミラーに映っているトラックを見るやいなや更に加速しようとするがいかんせんファミリーカーのシボレー・アストロはスピードの限界だった。
アメ車といえど、大馬力を誇るクレーン車には勝てない。
クレーン車は据え付けの鉄球をぶんと振り回してくる。


シボレー・アストロの後部が一気にひしゃげる。
後部のガラスが派手にはじけ飛び、寒風がびゅうっとシボレーの車内に押し寄せてくる。


浜面はミラーで化け物の様な動きで動いているクレーン車を視野に捉える。
運転手は誰だ?ふとそんな思考に駆られ、浜面がミラー越しに目をこらすと女だった。しかもキャバ嬢の様に派手派手なドレスを着ている。



「お前等、早く降りろ!この車は多分、もたない!」
763 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/03/13(日) 18:27:02.33 ID:RnZvJev9o

「分かった!」


「浜面!ここは三手に別れよう!滝壺も!良い!?」


「うん」


麦野は返答を待つまでもなく、一気に道路に降りる。
道路は車が玉突き事故を起こしており、地獄絵図の体をなしていた。


麦野はクレーン車の燃料タンクに原子崩しを放ち大爆発を巻き起こすが、ドライバーはすんでの所で退避する。



「オラ!てめぇんトコのヘッドギア男の手土産だぜっ!」


血がこびりついているヘッドギアを麦野はクレーン車のドライバーに投擲して走り出す。
そのヘッドギアを投げられたトラックのドライバーはシボレー・アストロから降りた滝壺を追っている様だ。



(チッ!スクールの狙いは滝壺?)



麦野の能力の照準補佐を行う滝壺が居なくなれば麦野の原子崩しは無用の長物になってしまう。
それだけは避けなければならない。麦野は一度走った道を戻って、大型トラックのドライバー…よく見ればドレスを来た女に原子崩しを適当に放つ。


「きゃっ!」


それに驚いたのだろう。
ドレスの女は声を上げて退避する。
その退避する通路には麦野の彼氏…浜面が!
764 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/03/13(日) 18:28:46.34 ID:RnZvJev9o

「私の男に手ぇ出してんじゃねぇ!」


「はぁ?そんなつもりないし!」


麦野の怒声を意に介さず、ドレスの女は後続でやってきた下部組織の連中を従えて一気に麦野達を捕縛しようとする。
麦野はもう一度適当原子崩しを発動させる。太陽の光にてらされて麦野のペアリングがぴかっと一瞬光る。


「じゃ、集合はアジトで!」



「おう!」



「わかった」



三人は今度こそ三手に別れてそれぞれ散らばって走り去っていった。
そこでドレスの女は軽く舌打ちをしつつ、携帯電話を取りだし、連絡を入れる。
765 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/03/13(日) 18:34:03.18 ID:RnZvJev9o

「帝督ー?私だけど、そっちの方はどう?こっちはアイテムとその下部組織の構成員入れて三人、全員逃げられちゃった☆」


てへっ☆と舌を出しつつ心理定規は謝る。
帝督と呼ばれた男は受話器越しに聞こえるようにわざとらしく舌打ちすしながら会話をする。



『ったくよー。心理定規、お前の能力なら、ちょちょいと感情いじくってどうにかなんねぇのかよ?』


「ごめんごめん、帝督」


『はいはい。じゃ、取り敢えず、下部組織にの奴らをさっきの研究所に呼び戻せや。例のモン、お前が持ってるんだろ?』


「あぁ…ゴメン私じゃないわ。でも、狙撃手の運転するメルセデスが持ってるから、今から狙撃手の所に合流したほうがいいかしら?」


『頼むわ。あーそうそう。アイテムの白人、一人いるんだけど、どーするよ、心理定規』


「そうねぇ…さっきアイテムの奴らが集合場所って言ってたから、その場所だけ聞き出しちゃいましょ。多分知ってるだろうから」


『りょーかい』





事務的な通話を終えるとドレスの女、もとい心理定規は下部組織の運転するメルセデスC180に乗り込む。
味方の狙撃手と合流するのは後だ。まずは捕縛したアイテムの捕虜に尋問するのが先決だ。


「おーい!どかねぇか!テメェ等!」


「うっさいなぁ…」


心理定規は通路をふさいでいる彼女達にクラクションを鳴らすうざったい車とドライバーに向かって適当にグレネードを撃って黙らせる。
直後彼女を乗せたメルセデスは一路、研究所に向かっていく。
766 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/03/13(日) 18:35:47.12 ID:RnZvJev9o

――八王子の素粒子工学研究所


時は少しさかのぼり、研究所前。



シボレー・アストロから降りた麦野達アイテムは研究所に向かう。



「スクールはこの研究所の中のどこに潜んでるか分からないわ。気を付けて」


麦野も言葉でいやがおうにも緊張の度合いが高まっていく。
大規模な研究所はしかし、静かにたたずみ、アイテムが足を踏み入れていくのを待っているかのようだ。


研究所に入ると麦野と滝壺、フレンダと絹旗の二組別れて捜索をする。



「見つけ次第、即、殺っちゃっていいから」


麦野の冷淡な指示がアイテムに下される。
フレンダと絹旗は麦野達とは別のルートで研究所をまわっていく。


(結局…静かすぎるって訳よ…なんだってこんな所に潜伏したのかしら?)


フレンダと絹旗はなるべく気配を殺して曲がり角を曲がろうとするが、ここで停まる。


「(絹旗、ちょっと待って)」


「(何か居るんですか?)」
767 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/03/13(日) 18:37:03.84 ID:RnZvJev9o

フレンダは絹旗の質問には答えずシッ!と口に指を当てて静かにするように伝える。
彼女は手鏡を出して通路の先が安全かどうか確認する。


(奥の方に警備の狙撃手がいる…スクールの配下の人間かしら?)


フレンダは音を殺して静かに背中に背負っている狙撃銃、アキュレシー・インターンナショナルを構える。
通路の反対側に積み重なっている段ボール機材の方にタッ!と跳ぶ。


タァン!


一瞬。静寂を打ち破る射撃音が工場内に響き渡る。


(やっべ、ばれちゃった?)


瞬間、絹旗が一瞬の内に飛び出して、狙撃手が居ると思われる所に一気に目の前にあった消化器をブン!と凄い勢いで投擲する。
しかし、投擲された消化器はガァン!と音を立てて、破裂し、真っ白の消化液を派手にまき散らすだけだった。


「完全に読まれてましたね…相手は対人レーダーでも装備してるんですかね。確かに気配は殺したんですが…!」


絹旗は通路を隔てて反対側にいるフレンダに話しかける。
恐らくここから出れば弾丸に撃ち抜かれるのは明白だった。
彼女の能力である窒素装甲を使っても良かったのだが、いかんせん薄い窒素の膜を張れるのは手のひらから数十pの範囲のみ。足を打たれでもしたら失血死もあり得る。


「ここは二手に分かれて通路の先に居る狙撃手を片付けましょう…!フレンダ、援護頼めますか?」


「OK!やってみるわ」


敵ながらあっぱれの防衛方法だな、とフレンダは思った。
研究所の通路の角を曲がれば長い渡り廊下。


まっすぐに突き進むだけなのだが、シンプルながら最も施設防衛しやすい構造だ。
なにせ、敵が出てきたら鉛玉をありったけぶち込めばいいのだから。
768 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/03/13(日) 18:38:23.38 ID:RnZvJev9o
フレンダは来た道を戻っていく。
絹旗はフレンダの行動がばれないように派手に研究所の物品を投擲する。


(これで裏手に回って…!狙撃手をぶっつぶせば…こっちのもんって訳よ!)


絹旗が派手に飛び回っている最中に素早く通路を戻り、狙撃手の裏手に回る。
スピードが勝負だ!いかに敵の狙撃手に感づかれずに背後に回れるか!通路は長い!かなり走らなければ…!


フレンダは約七キロの重さがある狙撃銃と腰にさしてあるククリ刀と拳銃の重さに息を切らしつつも全力で走った。




「…!…っ…!はァ!」


単に絹旗の援護に回る為ではない。
今日の任務の最中にフレンダは姉と会合し、学園都市から抜け出すのだ。こんな所で死んではいられない。



(…あれ…?まだ?まだ着かないの?)


フレンダは走っている。
確かに走っているのだが…!全く進んだ感じがしない。



(あれ?この研究所…こんなにこの通路、長かったけ…?)


確かに狙撃手は通路の終着点に陣取って狙撃を敢行していた。
しかし、それにしてもだ。もう相当走ったぞ?とフレンダは首をかしげる。
769 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/03/13(日) 18:39:16.44 ID:RnZvJev9o

「…はぁ…ハぁ…はぁ…ハァ…!」
(結局…あとどれだけ走ればいいの?)


フレンダは気づけば肩で呼吸をしていた。
予想以上に疲労が蓄積していた事に彼女は驚いた。



しかし、彼女が最も驚いたのは不意に男の声が掛かった事だった。




「いやー…お前よく走るなぁ…マラソン選手か?」




抑揚のない、しかし、自信に満ちた男の声。
フレンダはとっさに拳銃を構えるがそこに男の姿はなかった。


彼女は「誰!?」と辺りを見回しながら叫ぶ。




「垣根帝督…スクールのリーダーだ」



フレンダはその男の名前を思い出す。
今日の朝、佐天が言っていたスクールに所属している学園都市第二位の男。それが垣根。



「ここまで俺の未元物質の幻覚に嵌ってくれるとは…いやー…楽しませてもらったわ」



直後、垣根の手がブンとふるわれる。
瞬間、フレンダの意識は遠のいていった。
770 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/03/13(日) 18:41:02.96 ID:RnZvJev9o

――研究所前の駐車場 アイテムとのカーチェイス後


「あら?目が覚めたかしら?」


「……ここは?」


女の声でフレンダは目が覚めた。
気付けば目の前には自分と同い年か、ちょっと年下ほどの女がいた。派手な赤いドレスを着ている。


(この女は…朝、涙子が言っていたスクールの構成員のうちの一人…?)


視界に映っているのは赤いドレスの女だけだった。
フレンダは研究所の外に駐車している下部組織のメルセデスのC180ステーションワゴンの後部座席に座っていた。
ドライバーは不在で、フレンダの隣に赤いドレスの女が座っているといった感じだった。


「…ここはスクールの下部組織の車の中よ」


「わ、私に何するつもりなの……ってか絹旗は?」



「あぁ、あの小さい子?あの子は内のリーダーにやられて逃亡中。他のアイテムのメンバーもどっかに逃げてったわよ?私が追撃したけど、逃げられちゃった」


赤いドレスの女は淡々と喋り続けると、フレンダの方を見てくすっと笑う。


「ふふ…ねぇ?そんな怖がらないで。あなた手、震えてるわよ?」


ドレスの女がフレンダの手をさっと掴む。
するとその光景を見ていた垣根が「能力は使うなよ、心理定規」と言う。
771 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/03/13(日) 18:42:20.13 ID:RnZvJev9o

ドレスを着た女は「えぇ」と言い、フレンダから手を離した。


「単刀直入に聞くけど、アイテムのアジトってどこ?」


「そ、そんなの答えられるわけないじゃない…!」


フレンダがそう言うと、心理定規の能力使用を制していた垣根の表情が歪んだ。


「それはダメだなぁ。じゃあ、取引だ。お前がここでアイテムのアジトを言ったら見逃してやるよ」


「……もし言わなかったら?」


「ここでお前を殺す」


垣根はそう言うと「仕方ないな、心理定規」と彼女の首をしゃくって合図を送る。
すると垣根に指示された彼女はなにやら目をつぶっている。フレンダは何が始まるのか、と思いその光景を見つめている。


「…ふぅん…あなた、姉の事が大好きなのね。距離単位もかなり近い」


「へぇ…お前に親族いるのか…それで暗部たぁ…哀れな奴だよ、お前も」


「…余計なお世話って訳よ…!」


フレンダがそう言うと「姉から先に見つけて殺して良いんだぞ?」と垣根はにかっと真っ白な歯茎を見せて笑う。
彼にそう言われたフレンダは「名前もわからないのに?」と挑発するような素振りで垣根に答える。
772 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/03/13(日) 18:42:45.67 ID:RnZvJev9o

「外人が沢山いるのは第十四学区か、横田基地だろ、いずれ見つかる…それか、コイツの能力で名前は把握したから、見つけ出す事も出来なくわねぇ…!」


「グッ…!」
(八方ふさがり…?)


フレンダの額にじっとりと汗が浮かび上がってくる。このままアイテムのアジトを教えなかったら彼女のいま、 最も会いたい人物に危険が及ぶ可能性が。



(心理定規とかいう奴の言ってることがホントかどうか分からないけど、名前からするに心や精神を操る系統の能力者のようね…)


フレンダは目の前にいる垣根と心理定規を交互に見る。
そして長い沈黙の内に彼女は口を開いた。




















「……ア、アイテムのアジトは……」
773 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/03/13(日) 18:43:16.70 ID:RnZvJev9o
今日はここまで!節電します!
774 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/13(日) 20:03:38.97 ID:9ry92Wg+o

>足を打たれでもしたら失血死もあり得る

衝撃は殺せないけど銃弾なら防げるさ
775 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/03/13(日) 20:36:00.19 ID:buWAWr320
おつー
776 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/03/13(日) 20:44:37.47 ID:5UXpKoiSO

支援します
777 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/13(日) 21:48:00.30 ID:DdyEkCdko

このままだとフレンダが・・・
778 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/03/14(月) 03:58:16.63 ID:cchNeYqBo

明日長時間停電になるので投下します。

>>774
絹旗って手の周りだけ窒素装甲してるかと思いきや、すいません。解釈不足でした。


あらすじ

フレンダはスクールに捕縛されてしまった。
そして彼女は自分の保釈の条件としてアイテムのアジトをスクールに……?


※フレンダとステファニーが姉妹という設定です。
フレメアさんは出てきません。
また、セイヴェルンという名前ではなく、フレンダ=ゴージャスパレスという事になります。

ま、パラレルワールドみたいな感じです。
779 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/03/14(月) 04:01:46.23 ID:cchNeYqBo

「ありがとさん、フレンダだっけか?」


「……」


フレンダはぼんやりと足元を見ていた。
数十秒前、彼女はアイテムのアジトの居場所を全て吐いた。自分の命と引き替えに。


スクールのリーダー垣根はフレンダに礼を告げると、彼女に車から降りるように指示した。
なんでも、これからアイテムを含めて他にも敵対する組織を叩き潰すのだとか。


「ってかヘッドギアのヤローと連絡が取れねぇ…どーしたアイツ。死んじまったのか?」


「みたいね、さっき下部組織の奴らが遺体を確認して保護したわ」


構成員の一人が死んだ所で垣根は眉一つ動かさずに心理定規に次の指示を下す。


「おいおい、狙撃手の野郎はどうした?」


「しっかり退避したわ。所定の場所に退避したって連絡が来たわよ?」


彼女の報告を聞くと垣根は上出来だ、と一言言い、フレンダが車内に要るにも関わらず、心理定規に唇を寄せた。
彼女も彼女でそれを全く拒むことなく受け入れている。


フレンダは赤面して、彼らの動作に目を背けた。
すると垣根がフレンダの方をみてい言った。


「…じゃ、フレンダ、お前にゃわりぃけど、ここで降りろ」
780 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/03/14(月) 04:03:00.98 ID:cchNeYqBo

「…もしかして、用無しになったからやっぱり殺すとか?」


「戦意がない奴を殺す気にはならねぇよ」


垣根はそう言うと外に待機している下部組織の隊員達にフレンダを外に出すように指示。
静かな音でメルセデスの後部座席のドアが開く。


フレンダは無言でメルセデスから出る。
すると下部組織の構成員達が彼女の得物を渡す。どうやら他の車に置いあったようだ。


「…律儀に取っといてくれてたんだ…ありがとね」


フレンダはメルセデスに乗っている垣根と心理定規に礼を言う。
垣根は鷹揚に手を振って答えると彼らを乗せたメルセデスはそのまま走り去っていった。



去っていく車輌を見つめていき、見えなくなるとすとんとフレンダの腰が抜ける。


殺されずにすんだ事への安堵の気持ち。
しかし、自分の命と引き替えに彼女は仕事仲間の命を売った。


アイテムを裏切る。一度目は麦野に対して暗部を抜けない、といった事。
二度目は、アイテムの集合アジトを教えた事。


「…私…最ッ低だ…!」


口に出して彼女は思う。
自分に対する恨みや憎悪の気持ちをもしはき出せるのならば、ここでぺっと吐き出してしまいたい衝動に駆られる。しかし、そんな事は出来ない。
781 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/03/14(月) 04:03:47.06 ID:cchNeYqBo

最低。
そう言いつつもフレンダは自分が生きている実感を噛みしめる。
こうしてはいられない。彼女は砂皿に連絡する。



フレンダは佐天からもらった紙で砂皿のアドレスを見つつ、罪悪感で胸が指されるような思いを味わいながらもメールを作成する。


(…"どこにむかえばいいですか?")


送信すると携帯を閉じて周囲を見渡す。
つい先程まで戦場と化していた場所は再び静かになった。


フレンダはスクールの下部組織の構成員達が置いていった狙撃銃を抱える。


何か考えなければ。
彼女はそう思った。そうしなければ、自分がアイテムを裏切った罪悪感に押し潰されそうだったから。


(結局…私は…何やってるんだ…仲間裏切って…)


仲間を売った罪悪感。初めて味わう気持ち。反対に沸々と沸き上がる生への執着。
それらの感情の波に押しやられ、彼女は泣いた。



「……くっ、け、じゃあ!結局さっきのはどうすれば良かったのよ……!」



フレンダは狙撃銃の銃底を地面にガァン!とたたき付ける。
782 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/03/14(月) 04:04:53.90 ID:cchNeYqBo

なんでこんなにも心が痛む?
アイテムの奴らは仕事仲間以上でも以下でも無い。
数カ月だけ一緒に仕事をしただけの間柄だったが、アイテムとして働いた期間の短さと背反して胸の疼きはズキズキとフレンダの内面をえぐり取る。



(自分だけ助かろうって魂胆が今更許せないって?仲間を売った事が気になっちゃう訳?)


でも、とフレンダは思う。
仲間を裏切った。けど、やっぱり、私は姉に会いたい、と。


スクールにアイテムの情報を売ったのは自分が生きて為すべき事があるからだ。
身勝手は今に始まった事ではない。滝壺に、佐天に散々迷惑をかけた。


(滝壺には姉紛いのおままごとに付き合ってもらったわねー)


(涙子にはテレスティーナのところまで案内してもらった。もしかしたら私を紹介した事で学園都市から嫌疑を掛けられるかもしれない)


(結局、駄目女ねー……私)


迷惑を掛けたと思いつつも彼女達の元には行こうとは思わない。
佐天は朝ファミレスで別れ、滝壺はこの一ヶ月間一緒に過ごした。
零れ落ちる涙を拭い、フレンダは携帯をみるとちょうどメールを受信していた。


(誰?)


テラテラと光る携帯のランプ。
メールフォルダを見ると二件来ていた。


一件は砂皿から。もう一件は滝壺から。
涙を拭いて、フレンダは携帯をパカリとあけるとメールを読む。
783 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/03/14(月) 04:05:26.98 ID:cchNeYqBo

――ファミレスジョセフ

フレンダと佐天がファミレス前でちょうど別れた直後、美琴と佐天は遭遇してしまったのだ。
そして今、二人は店内に入り、話していた。その雰囲気はお世辞にも良いとは言えない。


「佐天さん、あなた、なんであいつらと?」


「いやーあはは……」


美琴は笑ってないでしゃべって、と言わんばかりに無表情な瞳を向ける。


「私たちと一緒に遊びながら、あいつらともつるんでたの?」


「……つるんでたっていうか…」


二人はファミレスの窓側座席に対面している。


「っていうか……?何よ」


「……」


「まさか、まさかとは思うけど…あの狂った計画に加担してたの?佐天さん」


「け、計画?」
(な、何よそれ?)


美琴の言う計画。それは一方通行の行っていた絶対能力進化計画だろう。
佐天は当然ながらその計画をしらない。彼女の反応を見て美琴はほっとした。
784 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/03/14(月) 04:07:15.77 ID:cchNeYqBo
(良かった…佐天さんが知ってる訳ないよ、でも、なんで、あの白人と面識があるのよっ!?)


美琴は再び佐天にアイテムとのつながりを聞き出そうと口を開こうとするが、対面している佐天が先に口をひらく。


「計画ですかー…知らないなぁー…私が知らない事ってたくさんあるんだなぁー」


痴呆でほうけた人の様に佐天はぼやく。
美琴はそんな彼女に怪しいものを見る視線を注いだ。


「私、無能力者じゃないですか。だから、御坂さん達に憧れてたんですよ。最初は」


最初は、と佐天は語尾を強調する。


「何が言いたいのかしら?」


「言葉通りですよ?御坂さん」


「?」


「私は幻想御手に手を出した前科がありますよね?能力者に憧れてたのはそこまで」


御坂は前科って…と言い澱んでいるが構わず佐天は弁を続ける。


「幻想御手の事件後にすぐ勧誘がきたんですよ、学園都市の治安を守らないかって」


「最初は迷いましたよ?でも、連絡するだけで法外なお金が入りますし、けど身の丈に合ってないって思ったのでめっちゃ迷いましたが」
785 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/03/14(月) 04:10:15.83 ID:cchNeYqBo

「けど、私に任された役目は簡単でしたよ?ただ学園都市の命令を彼女達に伝えるだけ」


プツン、
佐天の一言で美琴の頭の中の何かが吹っ切れた。



『ただ、学園都市の命令を彼女達に伝えるだけ』


美琴が最も嫌いなもの、それは自分で考えず、誰かの言うことをそのまま鵜呑みにする奴ら。
一方通行の能力進化計画を知ってから美琴はそういう人達を嫌悪する様になった。


そうした考えを持っている美琴にとっては今、目の前にいる自分の友人、佐天涙子は彼女が最も嫌う人種として映った。
美琴は気づけば佐天に質問をしていた。




「今佐天さん何て言った?」


「だから、ただ学園都市の命令を彼女達に伝達するだけ……」


「そこに自分の意志はなかったの?ただ唯々諾々と学園都市の命令を彼女達に伝えていただけ?何も罪悪感とか、そーゆーのを感じなかったの?」


「私は唯々諾々と彼女達に命令を流していました。それが私の意志です。そして私は自分の命令で他人を傷付きてしまった事も理解しています」


「私は……佐天さんが、そんな事をする人だとは思わなかったわ…!もっと強くて豪快で…こんな事とは無縁で…」
786 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/03/14(月) 04:10:56.45 ID:cchNeYqBo

「私も人を傷付けるような事はしたくありませんでしたよ!けど、何かしたかったんです!御坂さんの様に!風紀委員とかカッコイイじゃないですか。御坂さんも誰だ
かわからないけど無能力者だけど凄腕の男の話いつもしますし、さっきの計画って何ですか?学園都市のバンクに多少アクセス出来る私でも知りませんよッ!?」


「あの計画はもう凍結したから、今更話したところで意味ないわ。………」


美琴はそう言うと黙りこくってしまう。
対面している佐天は何かあったのかと思い、美琴をのぞき込む。


「ねぇ…佐天さん…?あなた、あの計画の関係者だったんじゃない」


美琴は何かこう絶望したような雰囲気だった。
彼女の作り出す表情は無表情とも哀れみとも言えない複雑なものだった。


「…私は御坂さんが言っている計画の話しなんて知りませんよ!」


「いや、知ってるわよ!だって……あなたが彼女達に指示を出していたのはいつよっ!?」


半ば怒声とかしている美琴の声。
朝の客が少ない時間帯だが、客はまばらに座席に座っている。その客の視線が美琴の怒声によって窓際座席に座っている当事者二人に注がれる。


「…さっきも言ったとおり、幻想御手の事件が終わってから直ぐです…」


「だったら佐天さんもあの計画の関係者よ…直接的に関わって内こそすれ、あなたはあの計画に加担していたって事になるのよっ…!」


美琴は机をバン!と強く叩き両手で頭をもたげる。
彼女は何で、こうなっちゃうのよ!?とうわごとのようにつぶやいている。


「……やっぱり、あのSプロセッサ社の研究所の侵入者は御坂さんだったんですか……」
787 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/03/14(月) 04:12:30.87 ID:cchNeYqBo

「そうよ…」


佐天は以前麦野に聞いたメールを思い出す。
研究所に侵入した人物は御坂美琴…そして今佐天は目の前にいる美琴本人に研究所侵入が本当だったことを聞いた。


「佐天さん、もしかして…マネーカードを回収していたのも…」


「あぁ…あれも、そうですね…上からの指令が送られてきてやったって感じですね、はい」


「佐天さん…じゃあ、あなたが“金目の物に鼻が利く”って言ってたのは…」


まさか嘘だったのか。
確かにあの時は何言ってるんだ?佐天さん。位にしか思わなかったが、あれは出来レースだったのか?


「えぇ。嘘です…すいません…だけど、マネーカードが一体どうかしたんですか?」


「…あなたは間接的に計画に関わっていたのね…」


「マネーカードを回収する行為が御坂さんの言う“計画”に加わっていた事になるんですか?」


「……」


美琴は黙る。
それは佐天にとって、美琴が質問に対して肯定したと映った。





「御坂さん、私、能力者に対して憧れてたんですけど、だんだんそれが変わって、気づいたら御坂さんや初春達みたいに人には言えない何かそうしたものを扱いたかったのかも知れません」


佐天はそう言うと「はは、意味分からないですね」と嗤う。
その嗤いは自分の事を嗤っているのかも知れないし、美琴の事を嗤っているのかも知れない。
788 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/03/14(月) 04:13:07.01 ID:cchNeYqBo

「…佐天さん…、私はどんな理由があれ…あの計画に関わった人を許すことは…出来ない…!」


美琴は本当に苦しそうに目をつぶりながら、思い出したくもない記憶を思い返す。
操車場で一方通行と9982号が繰り広げた戦い。
あの戦いを思い返すたびに胸が詰まりそうになって、激しい吐き気に見舞われる。


あの学園都市第一位は…!私の…妹の、いや、私の生き写しの娘(こ)の足からしたたる血を飲んだ!
そしてその計画を妨害しようとしていた布束のマネーカードを拾っていたのは今目の前にいる彼女、佐天だ。



「御坂さん、何だか私はいっぱい迷惑かけちゃったみたいだね」


「……」


佐天はそう言うとすっくと立ちあがる。
どこに行くのよ?と美琴はまだ話は終わってない、という視線で立ちあがった佐天を見つめた。


「今日一日だけは待って下さい…御坂さん」


「?」


「悪いことをしていたっていう自覚…うーん…あるのかなぁ…でも、やっぱり免罪符が欲しいって思ったって事は…やっぱそうなのかなぁ」


「……」


美琴は黙って佐天のつぶやきに怪訝な面持ちで聞く。


「御坂さん、私行きます…今日は見届けないといけない人が居るんです。その人からの報告が来るまで待たせて下さい…報告が来たら…御坂さんの気の済むようにして下さい…」


「あ!ちょっと!」


佐天は美琴の制止を聞かずファミレスを出るとそのまま出て行き、寮に向かっていった。
789 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/03/14(月) 04:13:33.39 ID:cchNeYqBo

――素粒子工学研究所前



From:砂皿緻密

Sub:無題

私達は第七学区のオフィス群のビルに居る。
今から第三学区の個人サロンに向かうが、これるか?



From:滝壺

Sub:がんばってね

今日は何も言えなくてごめんね、フレンダ。

色々葛藤あったと思うけど、それはフレンダが悩み抜いた末に出した結果だから。
私はそんな悩み抜いたフレンダを応援してる。





二件のメールをフレンダは読んでいく。
チェロの収納ケースより少し小さい位のケースにフレンダは狙撃銃をばらして収納する。
ククリ刀もその中に鞘(さや)ごと入れる。



(よっし!じゃ、いきますか!)


滝壺から来たメールがフレンダの心をえぐった。自分はスクールにアイテムのアジトを密告したのに…。
ここではただ生きていてくれ、と祈ることしかできない。


自分が組織を売ったのにもかかわらず自分を応援してくれる滝壺の優しさに目頭が熱くなる。





フレンダは近くのバイパスでバスに乗り込むと一気に第三学区の方面に向かって行った。
790 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/03/14(月) 04:14:07.18 ID:cchNeYqBo

――第七学区立川駅前のオフィス群


砂皿は敵がいつ侵入してきても良い様に雑居ビルで待機していた。
途中で顔面刺青の男の指揮しているであろう部隊の車列を何台か撒いてきたが、ここのアジトが特定されるのも時間の問題だろう。



キュッ…キュッ…とグリスをたっぷりと染みこませたタオルで砂皿はSR(ストナー・ライフル)25狙撃銃の手入れを行っていく。
フレンダの持っている遠距離狙撃銃と比べると多少性能的には見劣りするものの、セミオートとオートで使い分けが出来る点で砂皿はこの銃を気に入っていた。


(よし…!これで…いつ敵が襲撃してきても良い…にしても敵はあの特殊部隊だけか?)


フレンダを学園都市から脱出させるのにどれだけの軍備が彼らを待ち受けているのだろうか?
砂皿の予測は多くても数百人程度。あるいは上級の能力者による奇襲で速攻をかけてくるか。


とにかく、フレンダに連絡を送ったからには後は近づき次第接触して彼女を確保するだけ。
どんな戦場に居てもやるべき事はあまり変わらない。任務を果たして生還するだけ。


「にゃははーん…敵さん来ませんねぇ…にしても人が少ないってかいませんね…戒厳令でも敷いてるんでしょうか?」


「戒厳令とまではいかないまでも…うむ、道路を封鎖して我々以外に誰もいない様にしているのかも知れない」



砂皿はステファニーの質問に答えるとバームクーヘンをぱくりと口にする。
彼はバームクーヘンが大好きだった。
オーストリアのコブラ特殊部隊時代から食べ続けている砂皿の好物だ。



「私にも一個下さい、バームクーヘン☆」


ステファニーは袋に入っている幾つかのバームクーヘンの中から一個取り出すとぱくりと口にくわえる。
彼女はウインクをし、がらんと人通りが途絶えた街道を見る。
791 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/03/14(月) 04:14:41.44 ID:cchNeYqBo

「私達だけの為にここまでしますかね?」


「…分からない…ただ…私がフレンダにメールを送った時点で完全に彼女と我々が繋がっている事が明らかになっただろうな」


「ですね。だとしたら、途中で捕まってなければ良いんだが…」


ここまで来たら信用するしかない、と砂皿はステファニーを見つめ、告げる。
そう。今はフレンダがこちらに来るまで待たねばならないのだ。


「待ちに入るこの時間が、私一番嫌いなんですよね…」


「……」


「結局は私のエゴのせいで妹を学園都市の闇に堕とさせて、そんな私と妹で今後やっていけるんですかね?」


「今後どうするか…それはお前達のさじ加減だろう?ステファニー」


「そうですね…私がしっかりしないといけないんですよねー……」


「お前だけじゃない、お前達、二人でだ」


「…二人で、ですか…」


砂皿はステファニーの方を見ずにいつもは賑わっている筈の繁華街を見つめる。
人はまばらに歩いているがやはり断然人は少ない。もしかしたらまばらに歩いてる人々も他の組織の工作員なのかも知れない。


そんな状況をぼんやりと視界に入れつつ砂皿はステファニーのぼやきに「あぁ」と答え、袋に手を伸ばしてバームクーヘンを頬張ろうとする。
しかし、その手がステファニーの不意の発言で停まった。
792 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/03/14(月) 04:16:47.41 ID:cchNeYqBo

そう。今日は学園都市の暗部組織の戦いが起きるであろう祝日だ。
遠くから反響して木霊してくるこの音はどこかの組織が戦っている音である事は間違いなかった。


その大音響の炸裂音がまだ消えないうちにステファニーが街道を指さす。


「あ!あれ!敵ですかね?」


彼女が指を指した先には猛スピードで飛ばすメルセデスだ。
この街道をずっと突き抜けていけば、学園都市で最も物価の高い第三学区の吉祥寺方面や国際空港がある調布方面にも接続している街道に接続する。


砂皿は猛然と走るメルセデスをSR25のリューポルド社製のスコープに入れる。



(ドライバー一人のみ…こちらに気づいている様子は全くないな…我々とは全く関係ない者だろう…)



砂皿はスコープから目を離す。
するとメルセデスが彼らの籠もっている雑居ビルを通過していく。
一般道でも関わらず速度は優に百キロを超してるだろう。



通り過ぎていくメルセデスを見つめながら安堵する二人はしかし、直後に数台の車がこちらに向かってくるのを確認した。


「……あれだ…恐らくな」


「黒塗りの商用ハイエースが四台、二十から三十人くらいですかね?」


「あぁ…ざっとそんなもんだろう…」


二人はこちらに向かってくる車列を見つめる。
その中で行動に出たのはステファニーだった。
彼女は走って二階のベランダに上るとグレネードを構える。
793 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/03/14(月) 04:17:18.34 ID:cchNeYqBo

無線インカムを耳に装着すると下で待機している砂皿に告げる。


「派手にやっちゃいますね☆」


「許可する」


数十メートル先にいる車列に向かってステファニーが劣化ウランが混入しているグレネードを撃つ。
コーティングされた弾丸は敵にぶつかって始めてその汚染物質をまき散らす。


戦闘を走っていたハイエースの付近でグレネードが派手に弾ける。
確認するまでもなく、次弾装填。全ては機敏に。速度が戦機を決する!


ステファニーは黒革手袋を嵌めた手で次の弾丸を込める。
次は局所殲滅用のVXガスを装填したグレネードをぶっ放す!


キュポン!間の抜けた音とは対照的に人を悶絶させる恐怖の毒ガスを充填した弾丸が猟犬部隊のハイエースに向かって行く。
狙われた二台目のハイエースが勢いよくはじけ飛んだ。


(ふっふーん☆これじゃ楽ちんですよ?)


道路の真ん中で立ち往生した猟犬部隊の車列を見つめながらステファニーは通常弾頭のグレネードをぶっ放す。
猟犬部隊は車からとっさに飛び降り、散開するとビルの側面に隠れたり、車輌の残骸から散発的に反撃を始めた。


「ったく…だらしねぇなぁ…てめぇら…。ま、いーや、隊長は最後に格好良く登場だろぉ?普通?」


顔の半分ほどにトライバル調の刺青がある金髪の男が煙の中から出てきた。
彼の部下である猟犬部隊の隊員達が散発的に射撃をする中で、この男だけがてくてくと硝煙くすぶる道路を歩いてくる。


ステファニーがその男を照準に捉えた瞬間、煙幕が彼の当たりを包み込み、道路の周辺は鈍色の空間になってしまった。
794 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/03/14(月) 04:18:31.78 ID:cchNeYqBo
訂正>>792の前にこれをいれてください


「…二人…、いや、三人がいいなぁ」


「どういうことだ?まさか、フレンダ以外にも親族が居るのか?」


「違いますよ」


ステファニーはそう言うと市街地を見つめている砂皿の視界の前にぴょんとジャンプしてやってきた。
怪訝な表情でそんな彼女を見つめる砂皿は内心に自分の思い違いか?と浮かび上がってくる感情を処理しようとする。


「私は砂皿さんとも一緒にいたいって思ってるんですよ……?」


「……今は来るべき戦いに集中しろ」


ステファニーはそうですね☆と気まずそうに、ちょっとだけ微笑む。
そして床に置いてあるヘッケラー&コッホが改修したカービンライフルHMK416を構える。


レーザーもバッチシ。ダットサイトに嵌められたスコープとライトもいつも通りメンテが行き届いている。
下部レールに装着したグレネードランチャーも今日は特製弾丸を装填している。
マガジンもありったけ持ってきた。準備は完了。いつでも来い。



その時だった。遠くでバァァアアアン!と大規模な爆発音が聞こえる。


「始まったようですね…」


「あぁ。今日は他の組織も動き出すって話しだからな」
795 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/03/14(月) 04:19:28.74 ID:cchNeYqBo

(チッ!敵は煙幕を張った?…こいつらの戦力をある程度そぎ落とさなきゃ厄介ですね…!)


ここである程度学園都市の治安維持部隊の戦力を減殺(げんさい)してフレンダと合流する。
取り敢えずはフレンダがくるまでの間に絶対に倒しておかなければならないのが煙幕の先に居るであろう部隊だ。


ステファニーは雑居ビルの二階からグレネードランチャーで射撃を行っていたが、煙幕が張っているので射撃をやめ、一階にいる砂皿に合流する為に一階に戻る。


「派手にやったな。敵も動揺していたぞ」
(しかし、あの白衣を着た男は一体なんだったんだ……?)



「えへへ。ありがとうございます」



初めて自分の戦い方がほめられた瞬間だった。
ほめられた彼女はそれが嬉しくて、小躍りしたい気分になるが、煙幕が徐々に張り詰め、雑居ビルにも立ちこめてきたのを確認し、撤退する。



「ステファニー、ここから退こう、煙幕の中に入ると誤射する可能性も有り得る、ひとまず退却だ」



砂皿はそう言うと大きなノースフェイスのバックをぐっと持ち上げて退却する。
ステファニーが立ちあがり、彼女も自分の武器が収納されたケースを持つ。


砂皿は彼女の退却準備が出来たことを確認すると先に走らせる。
そう遠くへは行けない。重い荷物を背負っての移動寄りかは煙幕が届くぎりぎりの範囲に張り、漸次敵の戦力を削げばいい。
796 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/03/14(月) 04:20:13.21 ID:cchNeYqBo

「あのビルに入れ!ステファニー!」


「はい!」


ステファニーは中腰で屈みつつ、ビルの入り口に入る。
警戒警報でも発令されたのだろうか?ビルは大きなホテルだった。


「地下駐車場へ行こう。そこで足を確保する」


「了解です☆」


ホテルの従業員はがたがたと震えながら机の下に籠もったり、手をあげ、反撃の意志がないことを砂皿達に見せる。
砂皿はその光景を視野に入れつつ、地下駐車場に向かっていく。



「エレベーター、エスカレーターは使うな、電気を止められたら元も子もない。階段で行こう」


「え?そんなぁ、へとへとになっちゃいますよぉ」


早くも愚痴を吐いたステファニー。冗談半分のつもりで言ったのだったが、砂皿は自分の手で持っていたSR25を背にぐるっと回し、ステファニーの手を取る。
軽い気持ちで言った彼女の顔が紅潮する。


「ま、待って下さい!嘘です!平気ですよ!平気です!」


あわわわ…!と少女の様に動揺するステファニーの表情は確認することなく砂皿は階段を下っていく。
階段をするすると下っていくと地下駐車場の出口に出た。
いくつかの車が静謐を保ちつつ置かれていた。
797 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/03/14(月) 04:20:41.05 ID:cchNeYqBo
「どれに乗る?」


「車の事はわかりませんので…任せます…はぁ…はぁ…」
(めっちゃ緊張しました…!初めて砂皿さんと手つないじゃいました…!)


「わかった。じゃぁ、これで良いだろう」


ステファニーは砂皿と手をつないだことでどきどきする鼓動を抑える事に集中する。
その間に砂皿はガン!と勢いよく運手席のガラスをたたき割る。


盗難防止用の警報が鳴り響くが、車内にある警報装置を破壊すると忌々しい警報も鳴り止んだ。
砂皿が用意した車はトヨタのランドクルーザー。


ステファニーは自分の重たい荷物を積み込むと駐車場の出口の方からギャガガガガガ!と勢いよく車が入ってくる音が聞こえる。
運転席に座った砂皿の表情が曇っていく。


「ステファニー…今の音…」


「えぇ」


勢いよく音を立てた車はしかし、砂皿達の前に現れることはなかった。代わりに車から降りた声が聞こえてくる。
会話の内容から推測する限りだと、どうやら猟犬部隊の隊員の様だった。


ステファニーは車の合間を張っていく猟犬部隊の隊員達を目視する。
彼女の手元には一つのスーツケースが。そして取っ手を掴み、かちとスイッチを押す。


アタッシュケースに収納されているクルツ短機関銃が火を噴いた。
防弾チョッキを着ている隊員達の胸に弾丸が当たると、当たった人達は失神した。
798 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/03/14(月) 04:21:10.32 ID:cchNeYqBo

「へぇ…お前強えなぁ…猟犬部隊の奴らの全員ぶっけても勝てねぇよ」


ステファニーが射撃に集中している間にガン!と後頭部を殴られる。
この痛みは…グリップアタック?銃の底でたたかれたの?と思いつつ、ステファニーはうつろな目を砂皿に向け、失神してしまった。



「ステファニー!」



砂皿はとっさに運転席から飛び降り、地下駐車場に倒れ込んでいるステファニーに話しかける。


「…貴様がこの部隊の隊長か?」


「あぁ。そうだ。ここで死ね、すn」


数多が喋っている最中、砂皿は背中に手を回す。すると良く研がれた日本刀がぬらっと出てきた。
直後、ボッ!と白木の鞘の一閃が振り落とされる。



「ふん!」


「!」


バックステップで砂皿の斬撃を交わす。


「ほう…流石特殊部隊出身だけある…その瞬発力は賞賛しよう」


「…はっ!上から目線でどーも、どーも……砂皿…てめぇのは薩摩の示現流…?」
799 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/03/14(月) 04:21:37.35 ID:cchNeYqBo

「ご名答。二の太刀いらずの示現流だ」


剣技こそが武士のステイタスとされていたはるか昔の日本は鎮西(九州一帯)で編み出された殺人剣、それが示現流。
相手を一撃で殺害する事を目論んだ九州の剛剣だ。


「へぇ…じゃ、俺も全力でお前に答えなきゃならねぇなぁ…!」


砂皿は数多の発言に目を細める。
猟犬部隊の隊員のいかめしい装備の格好とは違い、研究者然とした博士の様な格好の男。


しかし、砂皿は彼の醸し出す雰囲気にただならぬものを感じた。
彼は日本刀を構えている砂皿が一足飛びで跳んでくるかどうかのぎりぎりの距離で手袋を嵌める。



「…それで日本刀の斬撃を防ごうと?」



「あぁ、これはだな、炭素繊維を編み上げた特殊な手袋でな、結構良いんだわ、コレ」


数多はそう言うと真っ黒の一見ただの革手袋に見えるそれが嵌っている両の手を思いっきり合わせる。


ガッツツツキィィィン!


まるで鉄が弾けるような轟音が駐車場に響き渡っていく。



「ほう…かなりの強度だな…」
800 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/03/14(月) 04:22:48.74 ID:cchNeYqBo

「テニスラケットが千五百回か?これは…そうだなぁ一万回以上編み上げているからな」


数多はそう言うと恐るべき敏捷さで砂皿の懐に入り込む。
先ほどとは逆に砂皿がバックステップで避けようと思うよりも早く、数多のボディブローが炸裂する。


「…ごッ…ブ…!」


強力な一撃を頂いた砂皿はその場によろめくが倒れる事はしなかった。


「やるじゃねぇか、炭素繊維の手袋の一撃を食らって倒れねぇなんて」


「…はぁ…!クッ…!」


一撃で大打撃だった。
砂皿は痛みで焼ける様な痛みを放っている腹部をさすってやる。



防弾チョッキの上からでこの痛み。生身で喰らっていたら恐らくその場で吐瀉物をまき散らして這い回っていた事だろう。
最悪、死も充分考えられる。


(ふむ…注意せねばなるまい…油断禁物…)


砂皿はちらと日本刀を見る。
すると先ほどの炭素繊維の手袋に触れた部分が刃こぼれを起こしていた。


カラァン!


砂皿は刃こぼれを起こしている日本刀を地下駐車場の冷たい床に投擲する。
801 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/03/14(月) 04:23:17.10 ID:cchNeYqBo

「良いのか?得物を捨てちまって…」


「なに、一つじゃないさ…これは……良く研いだアーミーナイフだ…」


砂皿はそう言うとマリーン用の迷彩パンツを軽くめくると長い包丁ほどの大きさのアーミーナイフが出てきた。


「自衛隊の特殊作戦群に所属していたときからずっと使っているナイフだ…切れ味は抜群」


「口上垂れてねぇで掛かってこい」


砂皿は言われなくとも、と一言言うとベイツのブーツの前方にぐっと力を込める。
そして一気に踏み込む。


刺突(しとつ)!


高速で繰り出されるナイフ捌きを数多は冷静に見切っていく。
ひゅん、ヒュン!と風の鳴る音が聞こえる。


他の猟犬隊員はその動きを見守ることしかできなかった。



砂皿が左手にナイフを持ち替える。
直後高速の突き。それは躱(か)される。


次弾は右手による掌底!
しかし、これも回避される。


砂皿はナイフを一瞬だけ構える。
その動作に数多は機敏に反応し、さっと身構えた。
802 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/03/14(月) 04:53:06.52 ID:cchNeYqBo
するとそこにはぶっとい血管が浮かび上がっていた。


「ふぅ…ナイフだけじゃねぇだろぉが…取り敢えず武器破壊っと…」


「ふむ…とてつもない力だな、貴様」


砂皿は柄からぽっきりと折れているナイフだったモノをぽいと捨てる。



(…いったいですねぇ…ちょっと気ぃ飛んでましたね…)


ステファニーは殴られて出血している後頭部をさする。
既に血は固まりはじめていた。ブロンドの美しい髪は後頭部の部分がどす黒い血の色に染まっていた。


そんな彼女がうっすらと瞳を開けていくと目の前で鬼の様な形相で取っ組み合っている二人がいた。
うつぶせになっているステファニーから少し離れたところで砂皿と数多は肉弾戦を繰り広げていた。


(敵の他の奴らは…居ないですね…応援を呼びに行ったんでしょうか?)


先ほどまでいた猟犬部隊はステファニーが気絶から目覚めるといなくなっていた。
彼女は砂皿達が戦っている間にトヨタのランドクルーザーの運転席に移動しようとする。



(体が鉛の様に重いですね…にゃはは…)



彼女はよろけた足の地下あを振り絞って車高の高いランクルに乗るとエンジンを入れるためにキーを思い切り回す。
するとぶぉん!と心地よいエンジン音が聞こえてくる。
803 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/03/14(月) 04:53:32.43 ID:cchNeYqBo

(これで…砂皿さんを拾ってフレンダを迎えにいかなきゃ…!)


どうやって砂皿をランクルに乗せる?
顔面にトライバルの刺青が入っているあの男を振り切れるのか?
寧ろ、あの男の部下はもしかして地下駐車場で虎視眈々と私達の事を迎え撃とうとして言うかもしれない?


いくつもの疑問が浮かび上がってそれらは決して氷解する事はなく、頭にうずたかくたまっていく。



(チックショ…こうなりゃ、やけですよ!)


ズキズキと痛む後頭部を気にかけながらも砂皿と数多が戦っている所へ向かって行くランクル。



「乗って下さい!砂皿さん」


ステファニーは運転席の窓を思いっきり開けて声を張り上げる。
砂皿の耳にも彼女の声は届いているに違いないだろう。


「俺は構わん!いけ!妹と会うんだ!」


「…させるかよ!コラ!」


数多は先ほど砂皿が捨てた仕込み杖の日本刀を拾い上げると一気にそれを投擲する。
ランクルの後部のミラーに鈍い音を響かせ、刀は落ちていく。


数多は日本刀がミラーを貫通せず、ランクルを逃した事に舌打ちする。


「よそ見するな」
804 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/03/14(月) 04:53:59.88 ID:cchNeYqBo
瞬間、砂皿の渾身の一撃が数多の腹部で炸裂する。
喰らった数多は「う…が…!」とうめきつつダウンした。


ここでとどめを刺しておきたいところだったが、ステファニーを追撃しなければならない。
後腐れはなし、といきたいところだったが、猟犬部隊他所に散らばっている隊員達を集めて攻撃してこないとも限られない。


砂皿は痛みに悶えている数多はその場に放置していち早く手近にあったインフィニティのスカイラインのドアをたたき割る。
彼はきーの差し込み口に細工をしてエンジンを起動させると、自分の携帯でステファニーの携帯から発信されているGPS電波を追従する。


(フレンダとの合流までだいぶ時間が掛かったな…先についているか?)


フレンダとの待ち合わせは学園都市第三学区の個室サロンだ。
休憩するにしても宿泊するにしてもかなりの金額が取られてしまうがそれでも学生達から利用されるのは、このサロンが学生達が他者から完全に目が触れることがない隔離空間だからだろう。

そこだったら一時的にフレンダをかくまうことが出来るし、仮に追撃者がいれば彼女の存在を―これも一時的だが―秘匿出来る。



(ここから第三学区…クッソ少し遠い…)


第七学区から第三学区までは三十分ほど時間が掛かる。
その間に追撃してくるものが居なければ良いのだが、と思案しつつ砂皿はインフィニティ使用のスカイラインのアクセルをべたっと踏み、一気にスカイラインを加速させた。
805 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/03/14(月) 04:54:25.23 ID:cchNeYqBo
眠い。寝ます
806 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/14(月) 04:57:32.78 ID:DMdNICRFo
俺も寝る
807 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/14(月) 05:00:51.23 ID:XW36I9LB0
乙かれさまです
808 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/14(月) 11:57:40.36 ID:nDBCG4PAO
死亡フラグしか見えない
809 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/14(月) 12:24:12.61 ID:lNZdD5Zmo
あの世で再会フラグか…
810 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/03/15(火) 17:52:31.98 ID:ZmrClH2Ho
こんばんわ。レス有り難うございます。
輪番停電の番が回ってきました。


その前に少しだけ投下しましょう。


あらすじ

佐天と美琴は偶然ファミレスで遭遇してしまった。
しかも、フレンダと一緒に居るところを目撃されたのだ!
彼女達は話し合った一方、今日は自分になにもしないでほしいと佐天が一方的に提案する。

一方、砂皿と木原数多の戦いの軍配は辛くも砂皿に軍配があがった。
彼は先行するステファニーを追う。


ステファニーはランクルを飛ばし、フレンダとの集合場所に向かって行く。
811 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/03/15(火) 17:54:24.53 ID:ZmrClH2Ho

――学園都市第三学区

紆余曲折を得て、アイテムのメンバー三人と浜面は別ルートを辿ってアイテムのアジトがある第三学区の個室サロンに集合した。


「お前等、大丈夫だったか?」


浜面はその場にいるアイテムのメンバーに声をかける。
しかし、声をかけられた当の麦野、滝壺、絹旗の三人は思い思いにメイクしていたり、映画を見たり、携帯を見たりしている。


全く聞いちゃいねぇ様子だ。と、思ったら返答が帰ってきた。


「遅いよー、浜面」
(良かった…死んじゃったかと思ったじゃない…)


「あ、はまづら。良かった生きてたんだ」
(はまづらが死ななくて良かった)


「…超浜面ですか…逃げ切ったんですね」
(戻ってこれたのは三人だけですか……)


浜面の問いかけに三人が一様に答える。
しかし彼女達の返答に頷きつつも、浜面は違和感を感じた。
そしてそれを声に出す。


「フレンダはどうしたんだ?」


浜面は素粒子工学研究所内に入らずに待機していたところ、麦野の合図で車を出し、襲撃され、走って…さんざんな体でこのアジトに戻ってきた。
なので別行動を取っていた絹旗とフレンダがどこにいったのかわからない。


(絹旗はここにいる…けど…フレンダは…?)


「消えた」
812 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/03/15(火) 17:56:24.37 ID:ZmrClH2Ho

おそろしい程に落ち着いた口調で言い放つ麦野。
あっさりと答える彼女に浜面は寒気を感じる。



メールが帰ってこない。
フレンダは戦渦の中にいるのだろうか?それとももう学園都市を脱出したのだろうか?


(どこにいったの?フレンダ)


滝壺は携帯のフォルダを見るが、返信は来ない。
午前中の素粒子工学研究所で一緒に居たのが最後だった。


どうか無事に生きていて欲しい、そう祈願した。
恐らく、フレンダが学園都市から脱出しようと考えてるなんて露ほども知らないだろう、浜面を眠気眼に映し出す。
あれ?浜面がけがをしている。



「はまづら。怪我してる」


顔面に僅かながら傷が出来ている。軽い裂傷のようだ。
滝壺が怪我を指摘すると、麦野はメイクをやめて浜面の顔を見、次に滝壺の顔を見る。


自分が気づかなくても、滝壺が気づいた。その事がちょっと悔しかった。
怪我をしている浜面は何でもねぇよ、と鷹揚に相づちをうって答える。



「フレンダ、どこいったんだろうな?」


浜面がぼそとつぶやくが誰ももう答えなかった。
代わりに今後どういった対応を取るかを麦野が説明していく。
813 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/03/15(火) 17:59:17.80 ID:ZmrClH2Ho

――ファミレスのジョセフ



「『見届けたい人が居る』かぁ…佐天さん…何を、誰を、見届けたいんだろう…?」


美琴はついさっきまで一緒に話していた佐天の発言を思い出す。
彼女の友人でもある佐天は知らない所で学園都市の暗部に墜ちていた。


(佐天さんが暗部に墜ちた理由は…無能力者に対する能力者の傲慢に辟易したから…?)


能力者、それは自分たちの事だろう。
佐天の周りに能力者の友人は自分達しかない。


佐天の友達も幻想御手に手を出したと初春から聞いたことがある。
彼女の周りは無能力者の人達もいるのかもしれない。


(そしたら、普段の何気ない言葉が彼女に取っては耐えられない事だったのかも知れないわね……)


美琴は自分が佐天に対して何を言ってきたか、それすら思い出せない。
日常会話に自分がどんな事をいっていたか…。しかし、そんな何気ない会話の節々に佐天を暗部に堕とすまでの言葉を吐いていたか?と美琴は思う。


(いくら何でも…佐天さんがそんな理由で暗部に墜ちる?)


実際は人材派遣(マネジメント)の男の甘言で釣られた事も佐天を暗部に堕とした大きな要因と言えよう。
しかし、美琴にはそうした勧誘があった事を確認することはできない。


(でも、佐天さんは自分の意志で、って言ってた。気の強い所もある佐天さんなら…自分の状況に飽き飽きして…っていうのも有り得るかも知れないわね…)


結局は自分の意志か、と美琴は思う。
814 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/03/15(火) 17:59:54.40 ID:ZmrClH2Ho

佐天を縛るモノはなにも無かったのだ。この仕事も自分の意志でやっていると言っていた。


例えそれが罪悪感を引き起こさせる仕事であるにも関わらずだ。



それでも、許すことは出来ない。
あの計画にいかなる形で協力していた奴は…。


人を殺す事に対する免罪符を得たい、そう彼女は言っていた。
その免罪符を得るために、彼女は見届けたい人がいるといっていた。


その人の事を見送れば…佐天はどうするつもりなのだろうか。
美琴の興味は尽きない。


美琴はこれ以上一人で思案しても始まらない、と思い何と無しに空を見上げると飛行船が飛んでいた。
飛行船は電光掲示板が横に貼り付けられており、天気や各種情報を放映している。


『ただいま…第三学区、第七学区、第二十三学区の出歩きは禁止します…正体不明の集団が戦闘を続けている模様です…』


(まさか…佐天さんはこれを見届けるって事?)


集団…美琴は学園都市の暗部に所属している集団を一つだけ知っている。



アイテム。
かつて美琴と戦火を交えた事もある、女の集団だ。



(見届けたいって…あいつらの事…?それに…第七学区…ここじゃない!!)
815 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/03/15(火) 18:00:57.00 ID:ZmrClH2Ho

実際にはアイテムのメンバーは第七学区から第三学区に移っているのだが、美琴は自分の肌が粟立つのを知覚した。
美琴は伝票を持って立ちあがる。


(佐天さんが何をしたいかはわからない…けど、もし、あの計画に連なるものだったら?)


どこに行けばいいのか分からない、しかし、美琴は店を出ると第七学区のビル群に向かうことにした。


ジョセフを出て暫く歩いて行くと、いつもなら賑わっている市街地。
しかし、待ちを行く人は少なかった。ビルの電光掲示板に目を通すと、何らかの勢力が依然として学園都市で破壊活動に従事している模様だった。





(学園都市で何かが起きてる事は間違いない…)




美琴は休日の歩行者天国で車の通行が途絶えた道路に一人ぽつねんと立ち尽くした。
816 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/03/15(火) 18:02:39.26 ID:ZmrClH2Ho

――甲州街道

ステファニーは地下駐車場からランクルで飛び出し、目下全力で第三学区のフレンダとの合流地点に向かっていた。



(砂皿さん、無事ですかね……?)


ステファニーは助手席に置いてある武器、砂皿の中距離狙撃銃SR25を見る。
今砂皿が持っている武器は仕込み杖の日本刀とアーミーナイフにハンドガンのみ。
それだけであの顔面凶器の男に勝てるかステファニーは不安になる。


(あの顔面トライバルの男に負けちゃったんですか…?)


負ける…それが戦場で何を意味しているか知悉しているステファニーは最悪の状況を想像する。
そして自分だけで学園都市から逃げ切れるのか否か、自分の思考が暗澹たる気持ちでしめられていく。



(…いつも…砂皿さんは帰ってきてくれる…。だから暗いことを考えるのはやめましょ!!)


砂皿はいかなる戦場からでも生還してくる。それは変わらない。
彼の口癖をステファニーは思い出す。


(“私なら、どんな状況であっても爆薬で死ぬ事だけは絶対にありえない”そうですよ…砂皿さんは死ぬはずがない)


爆薬で死ぬ事はない、その口癖はいつしかステファニーにとって、彼は戦場では絶対に死なない、と解釈するようになった。


(そう。砂皿さんなら絶対に死なないはずです…!)


ステファニーは車を走らせつつ彼の無事を祈りながら、第三学区へと向かって行く。
817 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/03/15(火) 18:03:19.45 ID:ZmrClH2Ho

――第三学区の個室サロン


「未元物質は、この建物の中に居る」


AIM追跡者である滝壺が体晶を使って敵対組織であるスクールのメンバー垣根帝督のサーチを行った結果だった。
アイテムの一同は息を呑む。

なっ…!と動揺する間にガァン!とアイテムの個室サロンのドアが蹴破られた。


麦野と未元物質もとい、垣根がなにやら雑談を交えているようだったが、絹旗はお構いなしに手近にあったテーブルを投擲するが、効果はなかった。
絹旗も垣根に致命傷を与えたとは思っていない。少しでも傷を与えられれば良い位の考えだった。


「ったく…いてぇな…、そしてムカついた。まずはてめぇから粉々にしてやる」


絹旗は垣根の殺気を孕んだ視線に冷や汗を流すが、決して動揺せず、浜面と滝壺に逃げるように指示する。
そして窒素装甲でサロンの壁を破壊し、脱出通路を造り出す。


「早く脱出して下さい、浜面と滝壺さんではあの男には勝てません。車を確保してとっとと遠くへ行って下さい」


絹旗はそう言うとちらと麦野の方を見る。
麦野も同意しているようで無言で頷く。ただ、麦野は滝壺と浜面に寂しそうな表情を一瞬だけ覗かせたのを絹旗は見逃さなかった。


麦野は滝壺達から垣根に視線を移す。
そして勢いよく原子崩しを放出する。


先の研究所では未元物質に全く太刀打ち出来なかった。
しかし、立ち向かわなければなるまい。もし麦野が倒れたら、アイテムの他のメンバーに、いや、浜面に危険が及ぶ。それだけは避けなければなるまい。


「おい、原子崩し、まずはあのセーター一枚の糞アマ殺させろよ、頭きてんだ、俺ァ」
818 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/03/15(火) 18:06:36.50 ID:ZmrClH2Ho

「させるかっての、私にも色々あってね」


ふぅん、と垣根は鼻で笑うと未元物質を顕現させる…と言ってもみえないのだが。



「二位と四位の差はデカすぎんだよ」


垣根はそう言うと一気に未元物質を破裂させる。辺りには強風が渦巻き、麦野はサロンの個室の壁まで一気に吹き飛ばされ、背中を強打した。



「殺さなかっただけ、感謝するんだな、ま、これも昔のよしみって奴か、はは。ってかAIM追跡者がどこにいったか教えろよ?」


「う…ぐ…っ。教えてどーすんのよ?」


麦野は飛びそうな意識を必死に制御し、壁から離れる。
原子崩しを顕現させても垣根にはまるで効果がない。



「……滝壺を利用して、どしたいのかってきいてんだよっ!」


「ん?あぁ、あの女か、アイテムは学園都市の治安維持部隊の一角だろ?統括理事長の野郎との交渉権を獲得する為にはいくつか組織を潰して俺の力をアピールしなけりゃならねぇ」


「……ふん、高校性のガキ一人でまともにこの学園都市を相手取ろうって?」


「あぁ。一応そのつもり。その為にはAIM追跡者の能力が必要なんだよ。あいつの力があればどんな能力者に対しても先制攻撃をかけられるからな」


麦野の目に映し出される垣根の表情には迷いは一切感じられず、寧ろ自身に満ち溢れていた。
819 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/03/15(火) 18:07:03.25 ID:ZmrClH2Ho

「ふーん…そう。…でも、簡単に滝壺を渡す訳にはいかないわね」


「だったら取引しよう」


「取引……?」


「滝壺とさっき一緒にいた男がどこに向かうか教えてくれたらお前の命は救ってやるよ」


「は?バカじゃないの、わざわざ組織の仲間を売る程墜ちたくはないわね」


「ふ、はっはっ…ふふ…おもしれぇ」


垣根は思わず、といった様にせせら笑う。


「何か面白い事言ったかしら?」


「いやぁ、同じ組織でもここまでズレがあるとはなぁ…」


垣根の一言に麦野は眉をひそめる。この男は何かを知っている。


「なに?仲間を売らない、ってそんな事当たり前じゃないの?」


「当たり前ねぇ……お前ん所のフレンダ、何で集合場所に来ないんだと思う?」


「…………まさか」
820 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/03/15(火) 18:08:05.15 ID:ZmrClH2Ho

麦野の脳裏にフレンダの顔が浮かぶ。
まさか、アイツ!裏切りやがったのか?
彼女は自分の頭に一気に血が上り沸騰する感覚を覚える。



「そのまさかだぜ?そもそも俺がアイテムの集合場所であるこのサロンの存在を知ってるのがおかしい話しだって思わなかったか?」


「……」


麦野の表情は怒りの表情になっていく。
自分が垣根に太刀打ち出来ない事が判り、しかもアイテムから裏切り者が出た事実に彼女は崩れ落ちそうになった。



「ここで絶望するか?」


さっと垣根は手をかざす。
麦野は掌に原子崩しを顕現させる。垣根には効果がないと分かっても、この苛立ちを誰かにぶつけなければ気が済まなかった。


「抵抗するなら…命の保証は出来ねぇぞ?原子崩し」


「うっさい…未元物質」


垣根はそうですか、と軽い調子頷きつつ話すと二人のいるサロンに(といっても半壊状態だが)赤いドレスを着た女がやってきた。
白のINEDの薄いカーディガンを羽織っているその姿はこの半壊したサロンの空間とあまりにも不釣り合いだったが、逆に奇妙にマッチングしている様にもみえた。


「あら、取り込み中かしら?帝督」


「心理定規じゃねぇか、どうした?」
821 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/03/15(火) 18:08:38.07 ID:ZmrClH2Ho

「狙撃手からピンセット貰ってきたわよ?その直後に狙撃手はお宅の窒素使いにやられて重傷だけどね」


心理定規はアタッシュケースに詰められたケースごと垣根に手渡すと、麦野がいるにも関わらずそれを手に嵌める。


「うお!これかっけぇな」


自分の手からかぎ爪の様に伸びたピンセットを少年の様に見つめる垣根をよそに、心理定規は麦野に問いかける。


「大人しく投降すれば?原子崩しさん?」


「はっ…誰が降伏なんざするかっての」


麦野は戦意未だ衰えずと言った調子だ。
確かに彼女が崩れればアイテムが恐らく壊滅する。彼女が最後の砦なのだ。
この最終防衛ラインを突破された場合、恐らくアイテムの下部組織で働いている浜面にも被害が及ぶかも知れない。


「…ここを突破されたら後がねぇんだよ!!」


怒声を張り上げ、麦野は原子崩しを放出する。
しかし、それらは大気中に張り巡らされている未元物質の前に立ち消えになる。


(クッソ…!滝壺……浜面!逃げたか…?…????…………体が動かねぇ……!)


次なる攻撃をしようと麦野はステップを踏もうと思い動こうとするも、体が動かなかった。



「うちらが投降進めたのによぉ…ったく、原子崩し」
822 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/03/15(火) 18:09:53.03 ID:ZmrClH2Ho
垣根はそう言うと心理定規にくいっと麦野のそばに行くように首で指示する。
命令された心理定規ははいはい、と悪態をつきつつも麦野のそばにゆっくりと寄っていく。


立ち尽くしている麦野の額の辺りに心理定規はさっと手を添える。


「ふーん……さっき逃げた男の名前は…浜面仕上…付き合ってるんだ、あなたたち」


「…っク…の、覗くんじゃねぇ…!コラ!」


「で、フレンダに対しての距離が…あちゃーだいぶ離れてるわね……えーっと、滝壺理后はっと…あら?この状況で嫉妬してるの?一緒に逃げたことに?」


「滝壺さんに大好きな彼氏を取られたくない」


「……何がしてーんだ…このクソアマぁ」


怒りの中にも一抹の不安な表情を浮かべる麦野は心理定規が手をかざして自分の方に向かってくるのを直視する。


「平気よ、滝壺さんに対する嫉妬の感情をちょっとだけ強くして、あなたの浜面クンに対する距離をちょっとだけ離すだけだから…」


麦野は距離?と心理定規の言ったことに首をかしげる。


「そう、私の能力は人間に生まれる感情を距離として測定して、それを調節出来る力なの」


「……まさか…」








「ちょっとだけいじらせて貰うわね?」
823 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/03/15(火) 18:13:18.23 ID:ZmrClH2Ho
「…な、オイ!待て!……!待って!」


先ほどまで威勢の良かった麦野は心理定規の能力の説明を聞かされ、大人しくなる。
しかし、心理定規のすらっとした細い腕は麦野の頭のあたりにぴたと触れる。


「頼む…!ま、待て!ま…待って下さい……!」
(やだ!やだ!それだけは…やめて!)


「ふふ、今更そんな事言っても通じないわよ?」


心理定規はそう言うと麦野の頭に手を当てた。
麦野は絶望にうちひしがれている様な表情で、「…い、やだ…」とつぶやき、その双眸は心なしか濡れている様にも見える。



「あーあー流石の原子崩しもまさか自分の感情が操られるなんて思ってもなかったか」



垣根は腰に両手を当て、麦野の様子を見る。
自分の思いが攪拌され、つい数秒前の自分の記憶はあるのにその感情にならない。
そしてその感情の歪みを歪みと思えない状況になっていた。
824 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/03/15(火) 18:14:30.19 ID:ZmrClH2Ho

「未元物質、解除するぞ」


「えぇ。恐らく、彼女にはもう抵抗する気力はないから、平気よ」


未元物質が付近から消え失せると麦野は脱力したようにその場にぺたっと座り込んでしまった。


「……」


自分の頭を抱えながら麦野は何かを思い出そうと記憶を辿ろうとする。
しかし、わからない。今、自分は誰も好きな人など居ない。


(このペアリングは誰としたやつよ?男の知り合い…浜面は普通にパシリだし)


(…でも…滝壺と浜面…うーん…パシリの男と私が付き合ってるわけが…ないか…)



彼女が頭を抱えて考えている間に垣根と心理定規は同じサロンにいる絹旗を撃破すると、アイテムのレーダーであり、照準補佐役でもある滝壺を捉えに向かって行く。
825 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/03/15(火) 18:14:55.96 ID:ZmrClH2Ho

ここまでっす!
826 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/15(火) 18:24:29.30 ID:ijfUozmDO
心理定規って「自分と相手の距離を調整する」んじゃなかったっけ?
827 :作者 携帯から :2011/03/15(火) 18:42:07.04 ID:HYaTPUODO
うわ!心理定規の力拡大解釈してた……。すまねぇ!
828 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/15(火) 20:17:08.12 ID:Brb9AZnw0
確かにそこまでいくと常盤台のレベル5くらいだわな
829 :作者 携帯から :2011/03/15(火) 20:35:10.65 ID:HYaTPUODO
なんどもすいませんが、お詫び申し上げます。
心理定規の件、マジですいません。


心理定規=人の心の距離を調節する、って解釈してました。


原作とは違いますが、どうかご了承お願いします。
申し訳ありません。

このSSでは彼女の能力は原作より高いです。
830 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga ]:2011/03/15(火) 21:00:34.28 ID:rpyahPNF0
気にしない気にしない。SSだもの。あなたの作品ですから。

スピーディで面白い。期待してます。
831 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/03/19(土) 04:10:51.67 ID:k76KLL5go
投下遅くなりました。すいません。
スピーディな投下全く出来てませんね…。申し訳ありません。


あらすじ

フレンダはスクールにアイテムの隠れ家を吐いた。
その代わりにスクールからの処刑を帳消しにした。

その情報を元にスクールはアイテムの隠れ家を攻撃した。
そこで麦野は心理定規によって自分の人間関係の距離を調節されるてしまう。

彼女は一体どうするのか…?
832 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/03/19(土) 04:12:38.97 ID:k76KLL5go

――第三学区の半壊した個室サロン


心理定規の能力によって他者との距離を調節された麦野沈利。
垣根の未元物質から受けた傷は多少痛むが、麦野の能力の使用に関して大きな影響を及ぼすほどのモノではなかった。


(滝壺と浜面は絹旗が逃がした…そしたらうざったいスクールに復讐しなきゃ…滝壺の能力が使えるならピンポイントで未元物質が展開される前に垣根の野郎を即殺出来る)


にやりと麦野の表情が暴悪に歪む。
それは笑いともとれない、寧ろ悲しそうな表情の様にも見える。


彼女はお気に入りの黄色いコートのポケットにある携帯電話を取り出して、滝壺と一緒に逃げた浜面に電話をかける。



「はーまづらあ。そっちに滝壺利后はいるかな?」


電話越しに出た浜面はどうやらまだ滝壺と一緒に居るようだった。
浜面のうわずった声で分かる。


「ゴチャゴチャと騒ぐなよ。これから「スクール」に逆襲開始。滝壺のチカラを使って追跡させるの。そっちにいるならさっさと連れてきて。死んでも結果を出してきてもらうからね」


彼女はそう言うとまだ電話の先でなにやら騒いでいる浜面の独り言には耳を貸さず話し続ける。
833 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/03/19(土) 04:16:19.65 ID:k76KLL5go

「スクールの追っ手がそっちに行ってるけど、適当に逃げてこっちに向かってきて頂戴。GPS電波でこっちに来てね☆死んだら許さないからねぇ☆」


冷静に考えて浜面と滝壺で垣根と心理定規から逃げて麦野の元に向かう事など出来るわけなどないのだが、そんな簡単な事も考えられない程、麦野は冷静さを欠いていた。
彼女はピッ!と電話を切ると、半壊している個室サロンから出て行く。



(まずは…スクールを叩きつぶす…あのドレスのクソビッチと垣根の野郎には原子崩しでダルマにして市中引きずり回しの刑だにゃん☆)


麦野はコートに着いている汚れを手でぱっぱと払い、サロンの部屋を出て、エレベーターを降りていく。
フロントはサロンの上階で起きた騒動で慌てふためいている。


(…浜面と滝壺…はこっちに向かってくるとして、絹旗も呼ばなきゃね☆)


そこで麦野はもう一人、ふと思い出す。フレンダだ。


(まずは裏切り者から消さなきゃ……!)


麦野はフレンダに電話をかけるものの、通じない。
電話を拒否しているのだろうか?


麦野は内心ではスクールに勝てないと思っていた。
しかし、研究所と先ほどのサロンの戦いで大敗し、このまま負け続きでは…という思考が働いた。
834 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/03/19(土) 04:16:59.84 ID:k76KLL5go

(そうよ…裏切り者を倒してから…そ、その次にスクールよ……!)


麦野は冷や汗をぬぐってサロンを出るとサロンで起きた抗争でいち早く警備員や風紀委員が集まっていた。
彼らは付近に飛び散ったガラス等を回収している。


そして、その光景を見ようと集まっている人だかりの中に金髪のブロンドの女がいた。



(あれ?フレンダ…あんな所でなにしてるのかにゃん?)


麦野はサロンの入り口からヒールの音をこつこつと立てて階段を下りていく。
その最中にフレンダが偶然にも彼女の方をちらと見た。



「フレンダーそんな所でなにしてるのかにゃー?☆」




話しかけられたフレンダは麦野の姿を認めると一目散に走っていった。
鬼の様な形相を浮かべている麦野はフレンダを追撃していく。
835 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/03/19(土) 04:19:23.17 ID:k76KLL5go

フレンダは走る。全力で!
振り向けば麦野が追撃してきていた。


「はっ…は…はっ……」


背後には狙撃銃や様々なツールを収納しているケースを背負っている。
七から八キロほどある重荷を途中で捨てればよかったと思ったフレンダだったが、そこまで考える余裕はなかった。


フレンダは重荷を背負い、走りつつ、スカートのポケットから携帯を取り出し、ステファニーに連絡する。
予め作っておいた未送信メールには集合地点の座標が指示されている。
そこに行けば姉と会えるという寸法だ。



(集合場所に行けばお姉ちゃんと会えるって訳よ!だから、そこまで、何とか捕まらないように走って…逃げなきゃ…!)


フレンダは未送信メールを送信する。
送信結果が出ると直ぐに携帯をしまって再び走っていく。



(結局…サロンの野次馬が気になったからこんなヘマやらかしたんだわ…ったく私のミスって訳よ……!)



しかも、彼女は自分がスクールにアイテムの居場所を教え、その内の一カ所のサロンにちょうど麦野達が退避していたのも不運だった。
しかし、今はそんな事を後悔したり、愚痴ったりしている場合ではない。
自分の生命の危機だ。後ろを見れば、怒りに身を任せた麦野が追撃してくるではないか。
836 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/03/19(土) 04:20:59.90 ID:k76KLL5go

フレンダはいち早くステファニーと決められた場所へ向かう。
それが先決だった。彼女は携帯のGPSに登録されている座標を確認しつつ、足を運んでいく。


麦野はまだ着いてきているが、姉が先に居るはずだ。


着けば助かる!


そう信じてフレンダは集合場所にやっとの思いで着く。そこは立体駐車場だった。
多くの車が止められている。


(ここにお姉ちゃんがいるの…?)


フレンダは足音が麦野にばれないように静かに歩いて行く。
ついさっきまで追跡していた麦野は居なくなったようだったが、まだ油断は出来ない。
フレンダは周囲を見回し、麦野がいない事を確認し、車と車の間で携帯を取り出す。


(お姉ちゃん、今どこにいるの?)


辺りを見回すと車やバイクが整然と置かれているだけだった。
麦野はどこなんだ?フレンダは辺りをキョロキョロと見渡し、がばっと背後を振り向くと、とそこには笑いとも言えない、ただ、口元をぐにゃりと歪めている女がいた。
837 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/03/19(土) 04:22:29.88 ID:k76KLL5go

「どこに逃げようとしてるのかにゃん?フレンダぁ!?」


甘ったるい麦野の声がフレンダの耳朶に響く。
その声を聞くやいなや、フレンダの体全体が震える。


「む、むぎ、麦野…」


「ったく噛みすぎだっつーの…おもしれー……ふふ…この裏切り者の白豚が」


裏切り者、その一言がフレンダの胸にぐさっと突き刺さる。


「あ…あは…えへ、へ…結局謝るって訳よ…はは…」


「はーーーー?」


麦野は「アタマ大丈夫?」と人を小馬鹿にするように耳に手を当ててフレンダに話しかける。


「フレンダちゃん☆そんな大きい荷物持ってどこにいこうっていうのかにゃー?まさか脱走ぅぅ?」


「あ…あはは、これは…その、私の武器入れてるケースだから……」


「ふーん…そっかぁ」


じゃあ、と麦野は一言。
838 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/03/19(土) 04:26:03.04 ID:k76KLL5go

「何で裏切ったんだぁ?フレンダぁ!!オイ!!!!」


麦野に裂帛の気合いで怒鳴られたフレンダは小さく「ひっ!」と震えた声を上げる。
彼女は抗弁することも出来ず、じりと歩み寄ってくる麦野にただ足をがたがたと震わせる事しかできない。



「麦野、その、本当にごめん…謝るって訳よ……麦野なら負けないと思ってさ……!」


フレンダは謝りつつ思った。
姉と一緒にこの学園都市から、いや、麦野沈利から逃げ切ることなど無理だ、と。
フレンダにそう思わせるだけの気迫が麦野にはあった。


(スクールに負けたから、裏切り者の私を消しに来たって事?)


スクールのリーダー垣根帝督と心理定規。
彼等の能力を持ってすればアイテムを壊滅させる事など容易い事だった。
麦野がここにいるということはスクールを倒したか、スクールに負け、それを補完する為に何か新しい事をしようと目論んでいるのかも知れない。


(結局、麦野が私の事を許せない気持ちは理解出来るって訳よ……私が仲間を売ったわけだし……)


「麦野?私、そのゴメン…」


フレンダは気づけば今にも泣き出しそうな表情で麦野に謝罪していた。
しかし、その程度でアイテムの女王がフレンダを赦すわ訳でもない。


「改まっても無駄だっつーのゴミ」
839 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/03/19(土) 04:28:54.77 ID:k76KLL5go

「……」


「あーむかつくわ。お前ここで死ね」


麦野はそう言うと掌から鮮やかに光る、原子崩しを顕現させる。
こうなったらいよいよヤバイ。フレンダはあたふたと辺りを見回すが誰もいない。ただ静謐を保ったうす暗い立体駐車場がたたずんでいるだけだ。


立体駐車場から数十メートルも走れば明るい市街地に繋がるのだが、それはフレンダにとってどこか遠い世界のように感じられた。


「ま、待って!麦野!結局、裏切ったのは謝るから、ね?」


「今更、命乞い?フレンダ」


「否定は……しないわ」


フレンダは麦野の目を見てそう言うと「ダメかな?」と潤んだ目で彼女の機嫌を伺う。
しかし、麦野はフレンダの懇願に頑として答える気はなかった。


「アイテム売っといて今更そんなの聞き入れるわけねぇだろ、バカかお前。頭にウジでも沸いてるんじゃねぇの?」


「……本当に、もう二度と、裏切らないから…今度こそ」


「ホント?なら生まれ変わったら次のアイテムでは裏切らないようにするんだなぁ!フレンダァ!!」


麦野はそう言うと原子崩しを極細の形状で顕現させると右足のふくらはぎの辺りを小さく撃ち抜く。
フレンダは「あ…」とぼーっと自分の撃ち抜かれた傷を見る。
一拍の間を置いてから貫通した傷口からごぽっと勢いよく血が出始めた。
840 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/03/19(土) 04:30:02.33 ID:k76KLL5go

「…ッ…ああ!!」


麦野の放った原子崩しはフレンダのふくらはぎに一pほどの貫通穴を作った。
そして後には肌の焼ける独特の臭いが辺りに立ちこめた。


「む、むぎのぉ…いたいよ、すごくいたいよぉ…!」


「ぷ、ふふふ!ほんのちょっと貫通しただけじゃないーフレンダぁー☆まだまだ☆」


「じゃ、次はどこにしようかなぁー?」


まるで無邪気な子供の様な調子で麦野はフレンダに指を指しながら次の原子崩しをどこに照射するか吟味している様だ。


「まって!お願いだから!…何でも言うこと聞くから……!」


ごく僅かな傷だけでこの痛み。
もっと大きい傷が出来たら痛みは尋常ではないだろう。


「何でも言うこと聞く?じゃあ……そうだなぁ、ここで死ね」


「…そ、それ以外で……!だ、だめ……?絶対にミスしないからさ……?死にたくないよ…ね?」


フレンダの思考の中には既にここで姉と合流する事は消え失せていた。
麦野に命乞いをして助けて貰う、その事で彼女の頭はいっぱいになっていた。


「ミスじゃねぇんだよ!何度も言わすな、フレンダっ!!」
841 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/03/19(土) 04:31:51.24 ID:k76KLL5go

口角泡を飛ばしながら麦野は怒鳴る。


「お前の戦い方は確かに無能力者の中でも最高峰の部類だと思う、けどな、フレンダ。お前は裏切ったんだよ、この私を、アイテムをっ!」


「……う、うん……」


「だったらけじめつけなきゃ納得できねぇんだよ!こっちだってスクールと戦って、意味不明な能力で原子崩しもきかねぇ!で、垣根の野郎からはフレンダは裏切っただぁ?」


麦野は自分の怒りを洗いざらいぶちまける。
それを目の前で見ているフレンダはただ、出血する足を押さえ、恐怖に震えながら麦野の弁を聞く事しかできなかった。


「だから、殺す。絶対にゆるさねぇ!私はな、スクールの奴らに捕まって何だかしらねぇけど心理定規とかいう奴に頭いじられてんだよ!!何が何だか、もうわかんねぇんだよッ!」


「む、麦野…」


「何でお前がスクールに情報を売って逃げて、私は心理定規に頭を覗かれなきゃいけんぇんだよぉぉぉぉぉ!!!」



瞬間、ゴアっ!と勢いよく原子崩しが放たれる。
あらゆる遮蔽物に妨害されることなく彼女の粒機波形高速砲の光が拡散する。


「…私はなぁ…この指輪だって誰としてた指輪だったかつぅのもわからねぇんだ…」


「……」


麦野は自分の右手に嵌っているペアリングを大切そうに抑える。
それが誰と一緒に買いに行ったものなのかも分からないのに。
842 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/03/19(土) 04:33:05.44 ID:k76KLL5go

「……お前だけまんまとこの学園都市の闇から逃げようなんて絶対に許せねぇ!」


フレンダは返す言葉が全く思い浮かばなかった。
スクールに投降したフレンダと、同じく投降する意志を最後に見せた麦野の違いは?


「フレンダ!お前は前にファミレスで集まったとき言ったよな?裏切らないってなぁ!それが結局どうなったよ?今やお前が裏切ったせいでこんなざまになっちまった!!」


ここまでアイテムが崩壊してしまった理由は他にも挙げられるだろうが、しかし、フレンダの裏切りがもたらしたものが大きいだろう。


フレンダは思う。
麦野の指輪。あれは恐らく浜面と買った物だろう。
心理定規は能力を使って浜面と彼女の距離を引き剥がしたのだろう。



「お前を殺さなきゃ気が済まねぇ…!大人しく私に殺されろ、フレンダ」


「……結局…………」


フレンダは麦野のモノを見る様な目で完全に射すくめられ、再び自分の体が震える感覚を覚える。
彼女は恐怖の余り、歯はカチカチと不協和音を立て、体のありとあらゆる水分が下半身に集まっていく感覚を覚える。


ここで惨めに体液を流すような醜態は晒したくない。
フレンダの最低限の生理反応が彼女の失禁という最悪な行為を食い止めようとする。


麦野はフレンダにさらに歩み寄ってくる。
身構えるフレンダに対して彼女は思いっきり蹴足を喰らわせる。


「…っが…っ…!」
843 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/03/19(土) 04:40:46.99 ID:k76KLL5go

「がっは…!い、っ……!」


「いーざまだぁ。こりゃ。よし!ここで提案しましょ☆このまま撲殺されるか、原子崩しであっさり殺されるか、どっちがいいかにゃん?」



麦野に謝罪して赦して貰えるならば、生かして貰えるならば、何でも良い!
とにかく、生きたい!死にたくない!

フレンダは生への執着を渇望した。今回はダメでも、またやり直せば良い!いつかまた脱出する機会をうかがえば良い!
その時に姉を見つければいい!


「…死に…たく…ない……!」


死にたくない。それがフレンダの本音だった。



「まだそんな事言うのかよ!てめぇは!!白豚!仲間を売った醜悪な態度を晒し腐りやがれっ!!」


麦野はそう言うと踏みつけていたフレンダの背中から一度ヒールを離し、今度は先ほど出来たふくらはぎの傷口を思いっきり踏みつけた。


「や…ひぃ……っがっっ…!」


「痛いかぁ?フレンダ?さぁ、どっちのこーすで死にたいのかにゃん?☆」


諦念。
フレンダはステファニーが来ない、と思い、痛くない方が良いな…と消え入りそうな声で言った。
つい先ほどまで考えていた生への渇望は消え失せていた。この痛みには耐えられそうにない。

フレンダは力を振り絞って後ろを見ると麦野のヒールがずぶずぶとフレンダのふくらはぎの貫通穴に入り込んでいるではないか。
844 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/03/19(土) 04:42:52.53 ID:k76KLL5go

「…はぁい、フレンダちゃんはもれなくぅーーーー、原子崩しで真っ二つの刑に決まりましたぁ!パチパチ」


「…痛くし…な、っう…!」


「ゴチャゴチャうっせぇんだよ、フレンダ」


麦野はそう言うと原子崩しを顕現させる。
彼女は光の刀のようにまっすぐに伸びた原子崩しを演算し、補強し顕現させる。



「あぁ…麦野、結局、ゴメン…ね、迷惑かけて……」


フレンダは覚悟を決めたその時、立体駐車場に間の抜けた着信音が響き渡る。






♪I believe miracles can happen









DAISHI DANCEの着信音が立体駐車場に響き渡る。
845 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/03/19(土) 04:43:43.50 ID:k76KLL5go

フレンダは“信じれば奇跡は起きる”このフレーズが大好きで、わざわざ有料のサイトに登録してダウンロードしてしまったくらいだ。
この曲をかければ姉にも会えるかも、とフレンダは思い、それ以降、着信音はずっとこれ。ゲン担ぎの様なものだ。


この着信音がなったと言うことはステファニーがここに来た事を知らせる合図だった。



「オイオイ、裏切りモンが奇跡を信じるってかぁ?そりゃおかしいんじゃねぇのか?」


「…こ…こ…だよ……!」


「あん?誰に向かって叫んでるんだ?それとも愉快なキチガイ時報時計になっちゃたのかにゃん?」







「お姉ちゃん――――――――――!!!」







フレンダの叫び声が響き渡る。
立体駐車場がごうんごうん、と大きな音を立てて動きはじめた。
するとランクルが他の階層からやってきた。


その中にいるドライバーは女。白人で麦野よりも年上でモデル体型。
彼女はランクルの運転席からずいっと半身を乗り出し、SR25を構えている。
846 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/03/19(土) 04:47:26.00 ID:k76KLL5go

「砂皿さんの見よう見まねですけど……」


ステファニーは立体駐車場の中をだいぶ探した。
そしてやっと見つけた!妹、フレンダ。



ランクルから半身を乗り出し、砂皿の愛用しているSR25を構える。
既に弾は装填してある。


リュポールド社製のスコープ一杯に映し出される栗色の髪の女。アイテムのリーダー、麦野だ。



「私の妹に手を出さないでほしいですねー」



ステファニーは軽い調子で言いつつ、麦野に照準を合わせる。
普段狙撃などした事のない彼女がこの場で砂皿の銃を選んだ理由は、今まで高確率で狙撃を成功させてきた彼に対する験担(げんかつ)ぎの意味合いもあった。


普段は派手に弾丸をばらまくステファニーはしかし、今回はしっかりと麦野のこめかみにターゲットを合わせる。


ぽかんとしている麦野としきりに姉の事を呼ぶフレンダ。
その光景を視野に入れつつ、ステファニーはSR25を構え、引き金を引く。
優しく、絞るようにしてゆっくりと、狙いは正確に。
847 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/03/19(土) 04:49:26.63 ID:k76KLL5go

タァン!



セミオートのマガジンから一発が薬室に装填され、撃鉄が高速で7.62mmNATO弾を打ち出す。
それは麦野が原子崩しを顕現し、ステファニーを車ごと、否、駐車場まるごと抹消しようとするよりも早く彼女に襲いかかる!



マッハ3を越えるスピードの弾丸と麦野の原子崩しの放出は後手に回った麦野にとって分が悪かった。
仮に同時に弾丸と原子崩しが発射された場合、弾丸は消滅するが、この場合は完全にステファニーに軍配が上がることになった。


「ぐ…っあ!」


ステファニーの弾丸が麦野の右目の付近を擦過していく。
砂皿と違ってピンポイントでの狙撃はやはり難しい。しかし、敵に傷を与えた事は確かだった。



(やっぱ砂皿さんみたいにうまくはいきませんか)


ステファニーはそう思いつつも麦野の行動を制した事でよしとする。
彼女の目標となった麦野は右目を押さえつつ、ランクルに乗っているステファニーをぎろっとにらめつける。


「誰だよ…!てめぇ…!」
848 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/03/19(土) 04:51:54.75 ID:k76KLL5go

「ぐ…っあ!」


ステファニーの弾丸が麦野の右目の付近を擦過していく。
砂皿と違ってピンポイントでの狙撃はやはり難しい。しかし、敵に傷を与えた事は確かだった。



(やっぱ砂皿さんみたいにうまくはいきませんか)


ステファニーはそう思いつつも麦野の行動を制した事でよしとする。
彼女の目標となった麦野は右目を押さえつつ、ランクルに乗っているステファニーをぎろっとにらめつける。


「誰だよ…!てめぇ…!」


「そこにいるフレンダの妹、ステファニー=ゴージャスパレス」


「…フレンダに姉が…?」


片目からの出血を抑えながらステファニーとフレンダを交互に見る麦野。
その姿は血の涙を流している様にも見えた。


「へぇ…そういう事かぁ…フレンダぁ…いいわねぇ…あんたには身内がいて…!」


麦野はそう言うと右目からぽたぽたと滴り落ちる血を気にせず、原子崩しを発動させようとするが、ステファニーがSR25で彼女の左腕を容赦なく撃ち抜く。


「がッ…!」






「私の妹に手を出すな!!」






穏やかで、しかし、激しい視線が麦野を射すくめた。
ステファニーにの気迫で麦野は自分の体が震えるのを知覚する。
849 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/03/19(土) 04:52:53.76 ID:k76KLL5go

直後、麦野は腕を押さえ、右目から血を流したまま、その場に倒れ込んだ。
フレンダは自分を抑えているものがなくなって,身軽になると痛む足を引きずってランクルの方にとぼとぼと歩いてきた。
ステファニーもランクルから降りると、SR25を持ったまま、フレンダの方に駆け寄ってくる。


「フレンダ!」


「お、お姉ちゃぁぁん!」


もう二度と離すことが無いようにステファニーはぎゅっと抱きしめる。



「大丈夫だったか、フレンダ?」


「うん!大丈夫だった…けど、」


けど?とステファニーは自分の首筋の辺りに顔を埋めているフレンダに優しく問いかける。


「色んな人、裏切っちゃった……」


「今は…自分が生き延びることだけを考えて…ね?」


ステファニーはそう言うとフレンダが返答するのを待たずに、彼女の華奢な腕を自分の肩に乗っけて歩き出す。


「…ここから…どこにいくの?」


「学園都市から出るよ…」
850 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/03/19(土) 04:53:35.51 ID:k76KLL5go

「護衛の人……砂皿さんは……?」


ステファニーはフレンダの質問に対して「わからない…」と不安げに漏らす。
けど、と彼女は語気を強くして言う。


「砂皿さんは絶対死なないよ、フレンダ。あの人はそんじゃそこらの奴と戦っても負けやしないよ」


そう言うとステファニーはランクルの助手席のドアを開けて、フレンダに入るように促す。
麦野が倒れているのを尻目に、ステファニーとフレンダを乗せたランクルが立体駐車場を出て行った。
851 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/03/19(土) 04:56:30.90 ID:k76KLL5go
今日はここまでです!

以前総合に投下した


フレンダ「麦野、本当にごめん…」


をアレンジしました。
見た事あるなぁ、と思ったかたすいませんでした。


では、また今度!近日中に投下します!
852 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/19(土) 06:40:45.70 ID:Jxc1sW6SO
853 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東日本) [sage saga ]:2011/03/19(土) 09:14:54.89 ID:YtZjj4080
とりあえずまっぷたつにならんでよかった
854 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/20(日) 03:07:01.08 ID:9Lfw6Sg/0

これは麦野どうなっちゃうんだろう
855 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) [sage]:2011/03/20(日) 03:48:02.11 ID:RZm4COZW0
>>1

ステファニーさん、妹になっとる はっ!フレメアなのか!
856 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/03/21(月) 03:58:42.12 ID:HhUvIBkbo
レスありがとうございます。


いやぁ、心理描写って難しいですね…。
某スレ見てちょっと反省です。
しかし、今更わめいたって仕方ない!書いていく内にクオリティはあがると信じて書きます。


あらすじ

麦野は心理定規の精神攻撃で人間関係の距離を変更させられ、混乱。
同時にフレンダの裏切り情報をも得て、フレンダを追撃することに。

フレンダは第三学区で麦野と遭遇し、必死になって逃げるが、とある立体駐車場で捕まる。
殺害されそうになっている所をちょうどGPSで追跡していたステファニーに見つかって九死に一生を得る。


※ステファニーとフレンダが姉妹という設定です。フレメアさんの出番はありません。

ステファニー=ゴージャスパレス
フレンダ=ゴージャスパレス
って感じ
857 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/03/21(月) 04:00:20.16 ID:HhUvIBkbo

――ランクルの車内

「さっきの女は…麦野って人?」


「うん…私の所属している組織のリーダーで、麦野沈利って言うんだ」


「そっか……あの人がリーダーだったんだ。フレンダ、一杯、苦労かけさせちゃったね」


「いや、結局、私もこんな暗部で命をすり減らすなんてまっぴらゴメンだったし、お姉ちゃんを捜すために入ったようなもんだし…」
(でも、麦野達、仲間を売ったっていう事実はやっぱ精神的にきついって訳よ…)


ステファニーはそっか、と一言言うと「ごめんね」と小さい声で言った。


「私が自分勝手に色んな事するからさ、ほら、こんな性格だしさ」


確かにステファニーは自分のやりたいことを続けて来た。
学園都市で教鞭を握っていたこともあるし、警備員としても活躍したこともあった。
そして、傭兵として世界の戦場を見て回った。


「ま、お姉ちゃんらしいって言ったら、お姉ちゃんらしいいけどさ」


フレンダはそう言うとにこりと笑った。
彼女の笑顔をみたステファニーは自分がここまで来て本当に良かったと思った。


「もう、フレンダには苦労かけないから、これからは一緒に居ようね?」


ステファニーの発言にフレンダはうん、と目を見据えて話す。
問題はこの後どうするかだった。再会の余韻に浸りたい気持ちはあるにはあるが、学園都市から脱出することを考えなければならない。
858 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/03/21(月) 04:02:55.23 ID:HhUvIBkbo

「フレンダ、取り敢えず、この後の予定としては第三学区の学園都市の出入国ゲートに行こうと思うんだけど?」


「結局、ここまで暴れといて学園都市に居続けれるわけ無いもんね」


ステファニーはそうねー、と軽い調子で答える。
しかし、ステファニーとフレンダだけではこの局面を乗り切れるのだろうか?
先ほど戦火を交えた猟犬部隊の他にも攻撃を仕掛けてくる組織もあり得る。


「ちょっと砂皿さんに連絡取ってみる…」


ステファニーは運転しながら携帯をかける。
数回のコールが鳴る。


(出て下さい、砂皿さん!こっちはフレンダと合流しましたよ!)


プルルルルルル……


長いコール音が続く。コール音が一回、二回と続くたびにステファニーの胸が詰まるようだ。
彼女が半ば諦めかけていた時だった。


ステファニーが外部音声に切り替えた時にちょうど砂皿が受話器を取ったようだった。
突然コール音が途切れたことで助手席に座っているフレンダはびくりと肩をふるわせた。


『俺だ砂皿だ!今どこにいる?』


「砂皿さん!こっちは今、第三学区です…フレンダとも合流しました!」


『そうか、GPSで大体の場所は把握している。このまますんなり学園都市外に逃げれるとは思えない。一度合流しないか』
859 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/03/21(月) 04:08:07.82 ID:HhUvIBkbo

「今後の作戦に関しては砂皿さんに任せます。今どこらへんにいるんですか?」


砂皿は現時点での座標をステファニーに教える。
彼女がそれを口頭で復唱するとフレンダがカーナビにその座標を入力していく。


「見つかりました。では、今からそっちに向かいますね」


『わかった。ではその場所で待機している』


「どうしましょう?私もフレンダも怪我してます。砂皿さんはトライバル刺青の男を倒したんですか?」


『殺しはしなかったが、致命傷は与えたつもりだ…お前等は怪我の手当はしたのか?』


砂皿はとどめを刺せなかったことを悔しそうにつぶやく。
ステファニーはフレンダの方を見て「まだです」と答える。


結局、ステファニーと砂皿が電話で話し合った結果、まずは三人合流することに。
敵の脅威は依然消えていないのだ。三人で集合して万全の状態で学園都市から離脱しなければならない。


ステファニーは気持ちを新たにする。
フレンダを救出して心のどこかで安心している自分を律した。
そう。ここからが本番なのだ。


フレンダと砂皿と一緒に学園都市から離脱しなければならない。
学園都市の組織に仮に捕まれば、命の保証はないとみていいだろう。
ステファニーは自分に課せられているものがずっしりと重たく感じられた。


(妹の命は是が非でも守る…絶対に…!けど…私と砂皿さんで出来るんですかね…?)


どうする?自分と砂皿さんだけでこの学園都市から脱出できるのか?
ステファニーはいつもの明るい雰囲気とは対照的に自分の気が沈んでいくような感じがした。
と、そこで意気消沈しかかっていたステファニーに声が掛かる。
860 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/03/21(月) 04:09:13.40 ID:HhUvIBkbo

「お姉ちゃんの相棒…だよね?その人」


ステファニーはうーん?とちょっと悩んだ表情をする。
たしかに相棒だけど、ちょっと違う、って思いたい。


ステファニーの迷いの表情にフレンダはんー?とからかうような視線を送る。
じっとりと見つめられたステファニーは運転しながらも段々と顔が紅くなっていく。


「あれ?結局惚れちゃってるの?うひひ」


「ばっ!だ!うっさい!フレンダ!」


「あれ?まさか本当に?」


フレンダの茶化しに耐え切れず、ステファニーは「いや、師弟の関係だし、それ以外でも以上でも未満でも切り上げ切り捨て……」と途中から訳のわからない事を言い始めた。


「……そしたら、お姉ちゃんの大切な想い人に合流しなきゃね?」


ステファニーは「にゃはは…想い人って」とフレンダの言うことに照れつつも否定はしなかった。


師であれ、好きな人であれ、ステファニーにとっては大切な人なのだ。
そして砂皿がいなければ今回の作戦はここまでうまくいかなかった筈だ。


「フレンダ、後ろに私のバックがあるから傷の手当したげる」


「いーよ。自分でやるって訳。一々車停めたらその分だけ合流するのが遅くなっちゃうって訳よ」
861 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/03/21(月) 04:11:00.54 ID:HhUvIBkbo

「いーよ。自分でやるって訳。一々車停めたらその分だけ合流するのが遅くなっちゃうって訳よ」


フレンダはそう言うと麦野に貫かれた足の痛みを堪えて、後部座席にある応急キットで処置をする。
そしてチェロのケースより少し小さいバックのファスナーをジジと開け、ばらしてある狙撃銃を組み立てる。



「いい銃持ってるじゃないの」


「へへへ、結局、狙撃専門だけどね」


アキュレシー・インターナショナルL96AWS。
A アークティック・W ウォーフェア・S サプレス。


極寒地での作戦遂行も可能であることを意味する。そして消音機能に関しても文句なしの一品だ。
狙撃銃の中では最高峰の性能を誇る。


「お姉ちゃんが派手好きなのは警備員の人から聞いたこともあるし、私はおしとやかだから綺麗に華麗に狙撃するって訳☆」


ステファニーはカーッ!よくゆーよ!と前を見ながら呆れるようなそぶりを見せる。
冗談を交わしつつ、フレンダはハンドガンの手入れも済ませていく。


(いつも見たいに、派手にぶっ放して、ぱーっとやって片付けちゃいましょ。そうすればうまくいくはずです!)


根拠など無い。
しかし、ステファニーについ先ほどまで妹を救えるかどうか逡巡していた面影はそこにはなかった。
862 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/03/21(月) 04:11:50.77 ID:HhUvIBkbo

――猟犬部隊の応急車輌内にて


数多はしばらくの間失神していた。
砂皿から受けた一撃は彼の意識を奪っていた。


「起きて下さい、砂皿さん!」


猟犬部隊の隊員のかけ声で数多は目を覚ました。
彼が目を覚ますとストレッチャーの上に乗せられており、証明が彼の顔を照らした。
その光を遮るように彼は手をかざす。


(猟犬部隊の緊急車両の中にいるのか…俺は…)


大型トラックほどの大きさの救急車に数多はいた。
最新の治療設備が整えられたこの車両で数多は失神している最中に応急手当を受けていた様だ。
「大丈夫ですか?」と名前も聞いたことのない数多の部下の隊員が話しかけてくる。



「お…俺は…寝てたのか……?」


「はい、昏倒していました」


「砂皿…っ…の野郎は…?」



腹部を押さえながら数多は猟犬部隊の隊員に話しかける。
すると隊員は気まずそうな顔をして「逃げられました…」とぽつりと言い放った。


「チックショウが!!!!」
863 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/03/21(月) 04:15:09.71 ID:HhUvIBkbo

救急車の側壁を数多は思いっきりたたく。
逃げられたのだ。学園都市外からやってきた得体の知れない傭兵に。しかも失神させられて。


「で、砂皿の野郎は今どこにいる?」


その質問に隊員は「…目下、全力で捜査中です……」と下を向いて答えた。


「要するに…行方をくらまされたって事か…」


「はい、申し訳ございません!!!」


がばっと謝罪する隊員の姿を見ること無く、数多は救急車の外を見る。
車輌は砂皿と戦った地下駐車場の外に出た所に駐車しており、移動はしていない。


数多は考えた。
恐らく、砂皿はあの金髪ブロンドのステファニーとか言う女と合流した。
いや、もしかしたら既にステファニーの妹のフレンダと合流している可能性も有り得る。


(希望的観測はするな…最悪の状況を考えて行動しろ…)


自分が倒れていた事を心底呪いたくなる反面、彼は次の対応策を考える。
ほぼ後手後手に回っている対応で苛立ちはピークに達していたが、ここで発狂すれば元も子もない。


全ては冷静に。いかにクールになれるか、こうした状況で最も元も得られるのは焦りと興奮ではなく、慎重さと冷静さだ。
そう自分に言い聞かせた数多はまず、ポケットに入っている携帯を取り出す。


(ったく、あの素人童貞の出番だな……)


携帯のフォルダから呼び出された名前は一方通行。
学園都市の無能力者に敗北し、その事で絶対能力進化計画は頓挫。
しかし、一方通行は未だその利用価値を学園都市に見いだされ、この街の闇に依然滞留している。
864 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/03/21(月) 04:16:04.62 ID:HhUvIBkbo

(ったく…アイツの組織も戦闘中か?電話に出ろ)


ストレッチャーに横になったまま数多は携帯を自分の受話器に宛がう。
すると出た。数コールの後に一方通行の「なンですかァ?木原クン」といううざったそうな声が数多の耳朶に届く。



「一方通行か…?俺だ」


『クッカカカ…何だ何だァ?そのよわっちィ声ェ…もしかして、負傷中ですかァ?』


「そんなトコだ、で、テメェの出番だ、一方通行」


『へいへい。こっちは順調に敵をぶっつぶしててつまンねェとこだったから、強敵大歓迎だぜェ?』


「ったく口がへらねぇ野郎だな、まぁいい。そしたら今から送る奴らを消せ」


『りょォかい。この命令はグループ全体で受け取っちまって良いのか?』


「かまわねぇ。上からは俺がどーとでもいっとくから安心しろ」


『流石木原家。やるねェ!』


一方通行の独特の口調に辟易した数多は携帯のタブを開いてデータを一方通行の携帯に送信する。
送信データは砂皿緻密とステファニーとフレンダの三人。


『こいつ等を消すのか?』


どうやらデータは一方通行に届いたようだった。
数多は「あぁ」と答える。
865 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/03/21(月) 04:17:46.95 ID:HhUvIBkbo

『こいつら全員無能力者じゃねェか』


「うるせぇな。黙って消せ、後裏切り者を出したアイテムにも容赦しなくていいぜ」


一方通行は受話器越しに「りょォかい」、と適当な返事を数多に寄越す。直後、彼の受話器越しにドかぁああン!と大きな破裂音が聞こえた。


「どぉした一方通行?今変な音が聞こえたが?」


『あー、わりぃ。先客だァ。木原君のオーダーも後でやってやっからよ、ただ、ちょいと席外すぜェ?第二位様のご来店だ』


数多は第二位?と一方通行に聞き返すが、電話は既にツーツーと無機質な機械音しか流さなかった。
一方通行の話す内容が正しければ、第二位の垣根帝督がやってきたことになる。


まさか仲良くお茶でもするわけがあるまい。
暗部の組織同士の戦いだろう。数多は内心にクソ!とつぶやく。
猟犬部隊と一方通行が使えなければ後はテレスティーナと妹達(シスターズ)のクローン部隊しかいない。


数多は目を閉じる。
冷静になれ、とことさら言い聞かせる。ここで焦っては一度は接触した砂皿達をみすみす逃がしてしまうかもしれない。
それだけは避けなければならない。


数多は電話を取ると猟犬部隊の隊員に招集をかけ、砂皿達の追跡経路の割り出しに当たらせる。
彼らがそれに当たっている最中、数多はテレスティーナに連絡をしてMARに増援要請を行った。


「あぁ。俺だ、木原数多だ」


『いきなりどうしたの?数多兄さん』
866 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/03/21(月) 04:18:16.65 ID:HhUvIBkbo

「援護要請だ。お前等の所の人員を割いて欲しい」


『了解。じゃ、座標指定してくれれば人員をそっちに回すから、お願いね』


数多は座標を送信すると受話器越しから『今座標に誘導する様に伝えた』と連絡が入る。
座標が指示しているポイントは学園都市と日本国の入り口。
第三学区の吉祥寺方面の境だ。


数多はテレスティーナに礼を言うと電話を切り、白衣を着ると救急車の運転手に連絡する。



「第三学区と日本の境目に向かうんだ。恐らく奴らはそこから出国する。警戒を厳にしてあたれ。クローン部隊、“モンスーン”にも連絡」


数多はそう言うと部下の報告を受ける。
その報告に耳を貸して救急車の窓を開けると付近に数台の車輌が集まっていた。
中にはMARと書かれた車輌も有り、テレスティーナの応援部隊も駆けつけたことを示していた。






「よぉし、第二ラウンドだぁ!圧倒的兵力でなぶり殺しにしてやるぜぇ?」
867 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/03/21(月) 04:19:07.16 ID:HhUvIBkbo
――第三学区の立体駐車場


「お、おい!麦野大丈夫か?」


「は、はまづ……ら?」


麦野は自分の事を呼び掛ける声に目をさます。


(……痛い痛い!って…パシリの浜面か…)


麦野の視界には自分の肩を揺する浜面の姿とその背後にいる滝壺の姿が映った。
垣根と心理定規の追跡から逃れてきたのだろう、浜面と滝壺の二人は息をはぁはぁと荒くしながら麦野を見ている。


「あれ…?あ、そっか。私倒れてた…」


気絶していた麦野の脳裏に浮かぶのは金髪ブロンドの女が銃をこちらに構えている光景。
そうだ、私は撃たれたんだ、と麦野はぼんやりとした思考で白人の女の表情を思い出す。


彼女は手と目の痛みに苛まされつつも当たりを見回す。
どうやら自分が倒れている最中にどこかに姿を消してしまったようだ。


「麦野!目と腕、撃たれてんぞ!大丈夫かよ?」


「あ、あぁ…」


麦野の意識は依然、朦朧としていた。
868 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/03/21(月) 04:19:51.88 ID:HhUvIBkbo

(あの白人女、確かフレンダの姉とか言ったか?…に私は、たしか、撃たれて倒れて……そっから……)


麦野は自分が撃たれた時の前後の一連の出来事を思い出す。
自分の腕と目が撃たれた痛みが屈辱、憎悪といったエネルギーに屈折し、変わっていくのが感じられた。


「浜面ぁ…ふ、フレンダが……逃げた。暗部、…から!」


「フレンダが……?そ、それよりもまずは傷の手当だ!お前の腕が!血が出て…!」



麦野を抱えている浜面の手はぶるぶると震えている。
彼女は自分の左手の感覚を確かめようとするが、それが出来ない。


ちらと左手を見ると二の腕辺りからどす黒い血が出血している。


(あー……これ、私の血かぁ…、感覚ねぇわー……やべーかもな…)


あまりの事態にどこか他人事のような麦野。
だんだんと記憶を取り戻しつつある彼女は頭を抱えようと左手を持ち上げようとするが、激烈な痛みに襲われてすかさず下ろす。


「くっ!あぁぁ!!浜面ぁ!いてぇ……」


今、救急車呼ぶからな、と浜面が言いぐっと麦野の体が持ち上がる。
すると不意に浜面の指に嵌まっている指輪が視界に入る。


「お、おい…は、浜面ぁ、その指輪…、誰と」


「は?お前と買いに行っただろ?忘れたのかよ!」
869 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/03/21(月) 04:21:15.35 ID:HhUvIBkbo

「え……、浜面と?」


麦野は記憶を思い返す。
たしかに浜面と一緒に買いに行った。


ケド、浜面に対して全く好意が沸かない。おかしい。たしか、ついさっき、心理定規に頭をいじられたような…?え?
彼女は自分の記憶には留めている事実がよくわからなかった。


好きでもない人となんで指輪をつけてるの?
ってか、滝壺!お前は浜面とくっつくんじゃねぇ!


訳のわからない思考の奔流で麦野の脳内は混乱した。
激痛と思考の混濁にさいなまされながらも麦野が出した命令はその場にいた浜面と滝壺を呆れさせた。


「救急車よりも、まずは…、滝壺!あんた…、体晶で、垣根の探索……」


麦野は浜面の背後にいる滝壺に声をかける。
殺気、いや、狂気を孕んだ麦野の視線に滝壺は自分の体がぶるっと震えるのを知覚した。


「待て!麦野。まずはお前の治療だろ!垣根は、お前ですら勝てなかったんだろ?た、体晶を使ってヤローを見つけてどーすんだよっ!?」


浜面が二人の会話に割って入ろうとする。


「ブチコロス」


「やってみろ!ただ、絶対に無理だ!お前じゃ垣根には勝てない!」


うるせぇ。麦野はそう言おうとしたが口が塞がれた。
浜面が麦野にキスしたから。
870 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/03/21(月) 04:23:30.66 ID:HhUvIBkbo

「なっ。何してんだよ…!はまづらぁッ!」


麦野にとっては浜面のキスもただの欝陶しい唇をくっつけるだけの動作程度にしか感じられなかった。
しかし浜面はそれでもキスをやめない。


「うぁぁぁ!」


麦野がめくらめっぽうに原子崩しを放出する。立体駐車場の車が何台か吹き飛ぶ。
浜面も頬を原始崩しが擦過し、ツツーと血が垂れていく。


「ゆるさねぇ。私の頭をいじくった奴ら、スクールも、脱走者のフレンダもゆるさねぇ!」


「馬鹿野郎……!まだそんな事言うのかよ!!」


浜面の渾身の思いを込めたキスも伝わらなかったのだろうか。
麦野は先ほどと同室の狂気を孕んだ視線を滝壺に送る。


「滝壺ッ!体晶、飲めよッ!」



麦野の怒声が立体駐車場に響く。
871 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/03/21(月) 04:24:28.88 ID:HhUvIBkbo

――第七学区オフィスビル群

美琴は目の前で繰り広げられている戦いに言葉を失っていた。


(な、なによ?こんな事人間に出来るの?)


美琴の数百メートル先にいるのはあの一方通行だ。そして戦っているのは…、茶髪の男。
羽が生えている。虫とかじゃなくて、なんだろう。天使のような羽。


「な、なによ、あれ……?」


突如として始まった戦い。


「いやァ、第二位様からきていただけるとはこれはこれは」


「しかたねーさ。今日の戦いの発端は俺っぽいしな。責任とってテメェもあの世行きにしてやるよ」


「出来るもンならやってみな」



第七学区のオフィス街の巨大な十字路で激突したレベル5。


一方通行はビルに指を当てると、そのままビルを投げた。
想像するのは難しいだろうが、投げたのだ。高層ビルを。


グワァァァァ!と大音響を響かせてビルが垣根に当たる。しかし垣根の回りにはビルは当たらず、融解していく。
872 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/03/21(月) 04:24:56.63 ID:HhUvIBkbo

「おもしれー力だなオマエ。背中から翼も生えてるぜェ?」


「仕様だ。じゃ、つぎは俺の番だな?」



垣根はそういうと、ぱっと手を広げて一方通行に向ける。
首を傾げる一方通行を余所に垣根は死ね、と一言言い放つ。


「もう真空だよ、そこ」



一方通行は途端に呼吸が出来なくなる。恐らく垣根の力で真空地帯を作りだしたのだろう。


「がっ、は……!」
(息が出来ねェ!)


一方通行の肺が酸素を求める。肺が灼熱している。
彼は焼けるように熱い肺に手を当ててアスファルトの床をふみくだく。


地割れが垣根に向かって延びていく。地割れを起こしたアスファルトから空気が流入する。
急死に一生を得た一方通行はグン!と勢いよく垣根に突撃する。


「ぶっ、はっ!ずいぶんやってくれるじゃねェか!」


「ちっ、やっぱあれくらいじゃ死なねぇか」


垣根はそう言うとちらと後ろを見る。ビルの間からちょこっと頭一つ覗かせている心理定規に逃げるよう合図を送る。
873 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/03/21(月) 04:26:01.30 ID:HhUvIBkbo

「よそ見してるひまありますかァ?」
(ん?あの女、垣根の女かァ…?)


一気に迫る一方通行に垣根は振り向く。


「演算終わったぞ」


垣根がつぶやくと彼と一方通行はぐっと腕を組む姿勢になる。


「反射のベクトルを逆算した。なんて事はなかったな」


「へェ、反射が効かねェとは、いいねいいね!サイッコーにおもれェよ!」


めきめきと音を立てていくアスファルト。そのまま地面にめり込んでいくのかと思う瞬間、二人は上空に居た。


「お前、跳べるのか」


一方通行は見下すように吐き捨てる垣根に訂正しろ、と鬱陶しそうに呟く。


「訂正しろ。飛べるンだよ、クソメルヘン」


一方通行はそう言うと、ドン!と派手な音を周囲にとどろかせて、一気に加速する。その音は彼が音速に突入した事を意味する加速音だった。
垣根の視野に一方通行は捕らえられない。


「どこにいきやがった?」


垣根は未元物質を周囲に張り巡らす。レーダーの役割を果たす未元物質に一方通行は引っ掛からない。
874 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/03/21(月) 04:27:05.44 ID:HhUvIBkbo

音速を越えたスピードなら一足飛びで垣根に相対するはずだ。
そう考えた矢先、垣根の鳥肌がズアッと粟立つつ。


(やべぇ!まさか心理定規を?)



垣根の頭に血が上っていく。天使の羽根を一気に羽ばたかせて心理定規の隠れているビルに向かう。


(無事でいろ!頼む!)


時間にしてほんの二秒程。しかし、この二秒は一方通行に攻撃の隙を与えるには余りに長すぎた。




垣根は高度を一気に下げてビルの合間に下りる。しかし、そこには――…


「ゲームオーバァでェす…!」



ニタリと暴悪な笑みを浮かべる一方通行。彼の靴の回りには肉片が散らばっていた。



「て…テメェ……!し、心理定規に何をしたッ!!!」


「殺した」


冷淡に、いや、冷淡さすら感じない。ただ自分のやった行為を正直に告げる子供の様に一方通行は自分の行為を垣根に告げる。
875 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/03/21(月) 04:27:39.15 ID:HhUvIBkbo

「そこまでだ、スクールのリーダー、垣根帝督」


やじ馬の中から出て来る三人の男女。その中の一人、金髪頭でBVLGARIのサングラスを掛けた男が告げる。学ランを着ているが下には派手なアロハシャツ。


「降伏する気にはなりませんかねぇ?スクールのリーダー、垣根さん。結標さんからも何とか言ってあげてください」


その男は優男といった印象を垣根に与えた。
彼も恐らく一方通行と同一の組織なのだろう。彼が話しかけた結標とかいう女も気付けば垣根の背後に立っていた。


「投降すれば悪いようにはしないわ。統括理事会もそう言ってる」


垣根は気付けばそいつらに囲まれていた。
身動きの取れない状態になった垣根は決断を迫られていた。


「決めろ、第二位」


一方通行は垣根に吐き捨てる。
目の前の血だまりを見て垣根はわなわなと震える両手をぐっと握りしめる。


「バカか、てめぇら、愛してる女殺されて降伏?冗談じゃねぇ」


垣根はそう言うと一瞬で上空に跳ね上がる。
手の平にキィィィと音を立てて光球が形成されていく。





「砕けろ、てめぇら…!俺の未元物質に常識は通用しねぇ…!」
876 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/03/21(月) 04:30:33.91 ID:HhUvIBkbo

――柵川中学の学生寮


陽がくれはじめている。
長かった一日が終わりを告げようとしている。


佐天は学生寮の二階の自室でひとりぽつねんと座り、タブレット型携帯電話を起動させる。


彼女は思った。自分にはなんらかの罰が下ると。
学園都市から脱出する人間を幇助したのだから。

(アイテムの連中からも連絡こないわね…大丈夫かな…。今日は色んな組織が戦ってるっていう情報も入ってるし……)


佐天は学園都市の戦いの動向が気になっていた。
しかし、それよりもと言ったら失礼になるかもしれないが、もっと気にしている事があった。それは、フレンダの脱出作戦成否だった。


(フレンダから連絡こないなぁ。何してるんだろう…もうとっくに脱出したのかな?携帯の電池が切れたのかな)


佐天はフレンダを逃がすことになんら抵抗は……ないと言えば嘘になる。
しかし、それよりもフレンダが脱出した瞬間に自分が得られるであろう、人を助けたという、かつて人を殺す命令をだしていた事を帳消しにする免罪符を得れる
のではないかと思い気が気でなかった。


散々人を殺す命令を出しておいていまさら、人一人を学園都市から逃がすだけで一体何が赦されるのかは甚だ疑問だ。当の佐天もそれを理解している。


(自分の都合のいい理由付けだって事はわかってる、ただ私は自分の意志で人を助けたいって思う)



フレンダが学園都市から脱出すれば佐天は自分の意志で人を助けた事になる。
その瞬間に得られるものが何か、彼女は見てみたかった。
877 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/03/21(月) 04:32:38.79 ID:HhUvIBkbo

――第三学区と日本国の境界線付近

「随分な数の警備だな」


砂皿が超々望遠カメラを覗きつつ、後ろにいるフレンダとステファニーに言う。
彼の保有しているカメラは横田の米軍から譲り受けたカメラで30キロ先から対象を見れる事が出来る代物だ。


今彼らは境界線の検問所から15キロ程の地点にあるビル郡の一角にいた。
学園都市の独立記念日という事で多くの企業が休んでいるのが幸いし、潜入し休息を取れたのは彼らにとって大きかった。


「薄暮の頃合いに行くぞ」


「「はい」」


二人の姉妹の勢いのいい返事が聞こえる。砂皿は望遠鏡に目を押し当てたまま、いい返事だ、と答える。


「恐らく学園都市側は俺ら三人が脱出を目論んでいるのを察知しているだろう、相当な軍備で待ち構えているだろう」


姉妹二人が顔を合わせる。
フレンダがステファニーに引き寄せられて彼女の胸の中に顔を埋める。
ここから脱出出来るかどうか不安なのだろう。


砂皿は望遠レンズから目を離すと疲労の色が滲んでいるフレンダと彼女の肩を優しくなでているステファニーに向かって宣言した。


「君達は死なせない。何が起きてもだ。学園都市からも脱出させる」


砂皿も数多との激闘で負傷し、疲労している。しかし、幾田の戦場を駆け抜けて来た男には失敗は許されなかった。
878 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/03/21(月) 04:35:47.79 ID:HhUvIBkbo

姉妹二人を学園都市から脱出させる。ステファニーだけではできないだろうと思い砂皿は同行した。


(俺がやらねば誰が!二人に幸せをもたらせる?俺以外にいない。たとえ、俺の命を使い果たしたとしても二人は脱出させる……!)


砂皿は二人を見た後、グッと強く拳を握る。すると、ステファニーがフレンダに座るように目配せする。
フレンダが座るとステファニーが砂皿の後ろに立つ。フレンダから見ると夕日に真っ赤に照らされている二人が立ちすくんでいる様に見えた。


「砂皿さん、あんまり考えすぎないで下さいね?自分だけが死ぬなんて考えてないですよね?」


まさか、と砂皿は望遠レンズを覗きながら答える。しかし彼女の質問は砂皿の心理状態を的確に表している事は間違いない。
ステファニーはそれを見透かしたかの様にふふ、と笑う。
そして砂皿がレンズを覗き、視界が塞がれている方に軽快なステップ歩いて回り込んでいく。


「がんばりましょうね?砂皿さん☆」


そう言うと、砂皿が振り向くより前に彼の頬に優しく口付けをする。


「砂皿さんも一緒に学園都市から脱出しましょうね?にゃはは…」



砂皿さんは私のキス、なんとも思ってないのかな?ステファニーは無反応な砂皿を見てむすっとするがそんな事はなかった。


夕日に照らされてよくはわからなかったが砂皿の顔は俄かに朱くなっていた。勿論、ステファニーの頬も。



「い、いくぞ!準備出来次第出発だ!」



まるで恥ずかしさを払拭する様に砂皿は声を張り上げる。
フレンダとステファニーは目を見合わせて、クスリと笑い、カチャカチャと銃器の手入れを行っていく。


脱出の時刻が来た。
いかなる軍備が待ち受けていようがもう後退は出来ない。
879 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/03/21(月) 04:36:55.23 ID:HhUvIBkbo

今日はここまで!寝ます!

いつも読んでくれるかたありがとう!!感謝です!!
880 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(中部地方) [sage saga]:2011/03/21(月) 04:50:10.90 ID:v3+4LhHWo

みんな死ぬ未来しか見えないのは気のせいか?
881 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(徳島県) [sage]:2011/03/21(月) 14:41:07.13 ID:K2lIUs0D0
乙だが>>862
「起きて下さい、砂皿さん!」
は木原さんの間違いだよな?
882 :作者 携帯から :2011/03/21(月) 18:20:03.89 ID:seYgyTfDO
あー、すいません>>881さんのご指摘の通りです。間違い、申し訳ありません!!
883 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/21(月) 22:14:00.39 ID:ThzxcBUx0

884 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) [sage]:2011/03/22(火) 01:17:46.80 ID:pec4FOLp0
てか、麦野かわいそうだ
>>848 「そこにいるフレンダの妹、ステファニー=ゴージャスパレス」
妹ってwwwww
885 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/22(火) 10:17:24.26 ID:St4K0xrDO
>>884

誤植すいません。ご指摘ありがとうございます。

読者の方々には迷惑かけてしまい申し訳ありません。
>>848
「妹」→「姉」ですね。
大事なシーンなのにミスっちまった…!!


投下は二、三日な間にやります!
886 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) [sage]:2011/03/22(火) 10:25:17.87 ID:wR++oBmC0
一方マジ外道乙
887 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/03/23(水) 02:20:51.01 ID:tfAIRlH5o
誤字脱字、すいません。
ってかこのスレながいなぁ。


ここまで読んでくれた人、本当に感謝ですわ。


あらすじ

麦野は滝壺にスクールの追撃を行うために体晶の服用を強要する。
木原数多はフレンダ達が学園都市を脱出しようと企んでいる事を一方通行に知らせる。
彼の増援を期待したが、当の本人は第七学区で垣根との激闘に従事していた。
888 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/03/23(水) 02:22:07.15 ID:tfAIRlH5o

――第三学区と日本国の境界線


「おせぇぞ、一方通行」


「わりわり、垣根のヤローがよ、最後に抵抗しやがってよ、クックッ…にしても哀れなヤローだったぜ」


一方通行は垣根の最後の姿を思い出し笑っている。
心理定規を殺害され、怒り狂った垣根はグループの四人に渾身の一撃を放った。


一方通行はベクトル変換能力で回避。結標達は重傷を負って戦線離脱した。
今この第三学区のゲートにいるのは一方通行と木原数多とその配下の猟犬部隊の隊員とMARの隊員達とモンスーンと呼ばれる妹達四人だった。


「一方通行、今ん所こっちに向かってくるのは恐らく、砂皿、フレンダ、ステファニーだ。
で、離反者を出した組織アイテムは今下部構成員の男を加えて四人、同じく第三学区にいて今撤退中との事だ」


数多はどうする?と一方通行に促す。このままここでフレンダ達を殺戮するか、撤退中のアイテムを襲撃してアイテムを壊滅させるか。


「第三学区からこちらに向かう奴らは全員無能力者だ。こちらで十分対処できる。しかし、手負いとはいえレベル5とレベル4を三人抱えているアイテムは正直まともな軍備て勝てる見込はない」


「じゃ、俺ァ、アイテムを潰してくるわ。生死は?」


一方通行はにやぁと口元を歪めて笑う。数多も同じくにやと笑って「問わないぜ」と言う。


「へェ、じゃ、自由に暴れてもいいンだな?」


「好きにしろ、上にはテキトーに言っとくから。まずは、離反者を出した組織を徹底的に粛正しなきゃなぁ」
889 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/03/23(水) 02:24:40.77 ID:tfAIRlH5o

数多の発言を聞くと一方通行は、能力で高く飛び上がり、崩壊しかけているアイテムに引導を渡すために第三学区の立体駐車場へと向かって行った。
その後姿を見送りながら、数多は目の前にいる隊員達を整列させる。


「お前等の何十倍も死線をくぐり抜けてきた戦争の犬どもがやってくる!」


猟犬部隊とMARの隊員達、そして妹達四人が聞き入っている。
総勢数十名ほどの学園都市の応急に構成された治安維持部隊の前に訓辞を行っていく。
訓辞を聞いている彼らは夜のとばりが降りつつある学園都市の夕日に照らされている。


「最年少の女、フレンダ、その姉、ステファニー、そしてその師匠格の男砂皿」


「最高の敬意をもって……皆殺しにしろ!」



「ハッ!」


第三学区の出入国ゲート前の大型駐車場が隊員達の声で大きく揺れる。
数多はその光景を見てにやと笑う。この軍備を越えられるモノなら越えてみろ。


圧倒的な兵力。三人を数十人で潰す。数多はそれがアンフェアだとか、なんだとか言われようが構わなかった。
敵を潰す。それだけで彼の任務は遂行されるのだから。
890 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/03/23(水) 02:26:34.26 ID:tfAIRlH5o

――第三学区 暗部組織モンスーンの狙撃手が待機しているビル

日が沈み始める。
薄暮(はくぼ)の頃合い。


太陽はその影を奥多摩の山々に映し出し、徐々にその身を沈めていく。
出入国ゲートは平常通り機能しているのだが、警備にあたる兵力はいつもの数十倍という異様な光景だ。


警備に当たっている部隊“モンスーン”の構成員の一人、妹達は出入国ゲートの付近の高層ビルの屋上で伏せた状態で警備行動に当たっていた。



(敵はいつになったら来るのでしょうか…?)



狙撃手の仕事は射撃ではなく、待つことだと言えよう。
敵が来なければ、結局はその場で待機し続けるだけ。狙撃手が構えている間に敵がよそで鎮圧されていたなんて事もある。


妹達の内の一人はメタルイーターと呼ばれる大型の対物ライフルを構えながら待機していた。
数多の訓辞後に配布された冊子を見る。その冊子には三人の顔写真と経歴が記載されている。



「ったくいつになったら来るんですかね?とミサカは苛立ちを隠さずに質問します」


メタルイーターを構えている妹達の一人に話しかけているのは、もう一人の妹達。
対物ライフルの狙撃判定を行う、補助役の妹達。


「待つのが狙撃手の任務ですよ」


「そうですね…」
891 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/03/23(水) 02:28:01.66 ID:tfAIRlH5o

狙撃手を務めている妹達の一人はスコープを学園都市を走っている車輌に合わせて行く。
祝日という事で交通量は少ないが、それでも学園都市と日本の首都圏をつないでいるこのゲートは数々の車輌や人がいる。


各車両を一台一台チェックしていく。ターゲットの三人は変装しているかも知れない。
あらゆる可能性を考慮する必要がある。


高層ビル群から見える日本国の夕景。
新宿の高層ビル群の赤色ランプがコウコウチカチカと灯っている。


(三人は学園都市から出て、どこにいくんでしょうか?)


狙撃手を務める妹達が内心につぶやく。
山々に残っている太陽の残滓の光は学園都市のビルを真っ赤な光で舐め尽くそうとしているかの様だった。
その光がスコープに入ってくる。狙撃手の妹達の一人が太陽光を見るのを避けようとした時だった。


不意に腹部に痛みが走る。
続いて、胸、どちらも人体急所に該当する部位だった。


(ど、どこから…?)


まさかと思い、妹達の内の一人は高層ビル群に視線を合わせる。
乱立するビルの中から狙撃手を見つけ出すのは難しい。
窓は太陽光を乱反射してまぶしい。


「こ、こちら…モンスーン、狙撃を受けました…!」


狙撃手はちらっと狙撃助手を務める妹達を見るが、その彼女も既に敵に発砲されている様で、絶命していた。
892 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/03/23(水) 02:33:23.05 ID:tfAIRlH5o

――第三学区のとあるビル


前衛部隊だろうか?とにかく砂皿は敵の狙撃部隊を制圧したことに安堵する。
彼はSR25で中距離狙撃を敢行して敵の組織とおぼしき狙撃犯を射殺したのだった。


「警備の狙撃手を倒した、望遠レンズで確認した。今から、出入国ゲートに向かうぞ」


「「はぁい」」


二人の姉妹の仲の良さそうな返事が聞こえてくる。
傷の手当てを済ませたステファニーとフレンダは中型のトラックの荷台に乗り込んでいく。
二人が乗り込むのを確認すると砂皿は自分の武器である狙撃銃を大きいダッシュボードに折りたたんで隠していく。


途中の路上で拝借した中型トラックの中は引っ越しに使うマットや梱包用のベルト、段ボールなどが山積みにされていた。
その中で身を寄せ合うようにして座るステファニーとフレンダ。運転手は砂皿が務める。




「フレンダ、私の隣に座ってな?」


「うん」


トラックの中ではライトがともっている。
二人は肩を並べて仲良く座っている。


「この後、ゲートを抜けたら、さっさと日本からおさらばしよう」


「砂皿さんはどうするの?一緒にいくの?」
893 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/03/23(水) 02:34:40.01 ID:tfAIRlH5o

「そうだね、一緒に帰って、カナダで住もうか!?ふふ」


「砂皿さん、ウィンタースポーツとか出来なさそうじゃない?結局傭兵だけが取り柄だ!見たいなカタイ人みたいな感じがする訳だけど…」


フレンダの会話にあちゃーと額に手を当てるステファニー。
当の発言主のフレンダは首をかしげる。だって窓は通気口もしまってるから、この会話は運転席にいる砂皿さんは聞こえないはずじゃ?


『このトラックには無線が詰んであってだな…その、何だ、聞こえてたぞ……フレンダ』


「っひぃ!すいません><」


フレンダはびくっと肩をふるわせる。
ステファニーは、あはは…と苦笑いを浮かべている。


『俺がオーストリアの特殊部隊に居たときは、フィンランド軍との合同訓練もやったからなぁ…スキー、スノーボードはお手の物だ』


フレンダはすいません!と叫ぶと「ま、いい」と無骨な声が帰ってくる。
その声に彼女は肩をなで下ろすと、今度はステファニーが質問する。


「砂皿さん、聞こえてたなら答えて下さいね〜?」


『……なんだ?』


ステファニーはトラックの天井部分を見つめて話す。


「さっき言ったこと、ダメですか?」


『さっき言ったこと?』
894 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/03/23(水) 02:35:32.70 ID:tfAIRlH5o

はい、とステファニーは答えると「カナダで一緒に……って話しですよ」とつぶやくように話す。


『……』


砂皿は答えなかった。
恐らくステファニーの声は聞こえているはず。


「私じゃ、やっぱ弟子みたいな感じですかね?にゃはは…」
(戦う前に私はなんてこと言ってるんですか!?)


そう思いつつも彼女はどうしても伝えたかった。
自分が砂皿に対して師弟関係以外でも好意を抱き始めているという事を。


「あはは、冗談ですよ!?砂皿さん。砂皿さんだって私とフレンダの学園都市脱出作戦に関わってるから逃げる場所とかないかなって思っただけです!行く当てがあるなら、無理には…」


ステファニーは明るい反面、自分が傷つくのを恐れる傾向ある。
砂皿からの回答が来なかったので、彼女は傷つく前に自虐に持ち込もうとしていたのだが、その必要は無かった。


『で、ではそうさせてもらおう。オマエは一人にしておくと危険だからな、そう思うだろ?フレンダ?』


「ははー、結局お姉ちゃんも、砂皿さんも照れ隠ししてるって訳よ!私はしらなーい!好きにしてくださーい!」


フレンダがそう言うとステファニーと砂皿の会話が途切れる。ってか喋れ、こいつら。
895 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/03/23(水) 02:37:16.34 ID:tfAIRlH5o

「じゃ、じゃあ、その、砂皿さんもカナダに来たら…その美味しい店とか一杯、あの、その…!」



ステファニーのあたふたとしている姿を見ながら、フレンダは幼少時代に遊んだカナダの事を思い出す。
カルガリーの市内中心部にあるタワー。そこから見る夜景とオーロラは本当に綺麗だった。

その市街地を出れば広い一本道とその両脇にあるだだっぴろい牧草地が広がっている。
東京の西多摩地区がいくつも入ってしまう広大な土地、それがフレンダの生まれ育ったカナダのカルガリーという所だった。



(この三人で必ず帰る…!カナダの土を踏むまで死んでたまるかって訳よ…!)



決意を新たにするフレンダ。
と、そこでトラックの荷台の部分にいるフレンダたちに無線が入る。



『お前らはここで降りろ。俺に考えがある』




フレンダとステファニーは顔を見合わせた。
896 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/03/23(水) 02:41:31.39 ID:tfAIRlH5o

――第三学区 立体駐車場


体晶を飲め、そんな提案には決してうなずけない。
滝壺は麦野の刺す様な視線から目をそらさずに首を横に振る。


「勝てる見込みがあるなら、体晶を使っても良いよ。ケド、むぎのは今日の朝の闘いでもスクールの垣根に勝てなかったよね?」


「うるせぇ…!いいから飲め!」


「麦野っ!こんな馬鹿な争いはやめて今日は退こう!フレンダだって死んだ訳じゃ無いんだろ?明日探せばいい!」


麦野の頬に一筋の涙が伝っていく。


「わからねぇんだよ…!なにしたら良いか…!」


「むぎの…」


「帰ろうぜ…?麦野。心理定規だかなんだかしらねぇが、傷の手当をして、休んでまずはそっからだろ?」


浜面の説得に麦野の心が動かされたのだろうか?
麦野はまだ見える右の目から伝う涙をぬぐうこともせず、小さく、ほんの小さく頷いた。



「なぁ、滝壺、絹旗はどこに行ったか分かるか?スクールと戦ってから姿みてなくないか?」


「確かに…。大まかな方角だったら分かるけど…。距離は体晶を使わなきゃ分からないよ」


浜面は「そうか」と言うと携帯を取り出して絹旗を呼び出そうとする。
その時、ちょうどタイミング良く絹旗から電話が掛かってきた。


スクールとの戦闘で負傷したので出るか不安だったが、すぐに出る。
浜面が「おう、絹旗」と言いかけた時、絹旗の声が先に浜面の受話器に届いた。
897 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/03/23(水) 02:42:41.79 ID:tfAIRlH5o

『浜面!今どこにいるんですか?』


「あぁ?俺達は今第三学区の立体駐車場だけど、それがどうかしたのか?っていうかお前スクールと戦ってて、それで負傷してたんじゃ…?」


『はぁ!はぁ!スクールとの闘いの後、失神してましたけど、その後、起きて…そしたら…!』


どうしたのだろうか?絹旗の様子がおかしい。何かあったのだろうか?


「オイ!絹旗何でお前そんなに息があがってんだよ!つか、今どこに居るんだ?」


『私ですか…?私は今浜面達のいる所に向かってますよ!』


浜面は律儀に集合するなんて偉いな、程度にしか思わなかったが、それは違った。


「今日は…麦野も怪我してるし、帰って良いぞ?わざわざ来る必要なんて無いぞ?な?」


浜面は絹旗と電話しつつ、負傷している麦野と疲れている滝壺を見つめると彼女達も浜面の意見に同意の様で、頷いている。
これで今日の任務は終わりかと思われた。


しかし、絹旗は電話を切ろうとはしなかった。
むしろ、休む事を提案している浜面に『超それどころじゃないんです!』と告げた。
浜面が聞き返すよりも早く、絹旗が怒鳴る。









『第一位が私達を殺しに来るんですよ!』
898 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/03/23(水) 02:43:25.59 ID:tfAIRlH5o

「は?意味わかんねーよ!確かに第一位が暗部墜ちしたって話しは聞くけど…」


第一位。その呼称を聞いて麦野と滝壺の動きが止まる。


「はまづら。第一位ってどういう事?」


滝壺が浜面の方に近寄ってくる。
麦野もその後をとぼとぼと歩いてくる。


『あー!GPSでそっちのいる場所追ってたんでもうつきます!とにかく、逃げますよ!浜面!足の確保を!』


浜面は「お、おう!」と返事を返す。
絹旗との電話は既に切れており、携帯をポケットに入れると同時に、立体駐車場のドアがバタン!と勢いよく開けられた。


「はぁ…はぁ…はぁ…!は、浜面!」


「絹旗!すげぇ汗だぞ…!どんだけ走ったんだ…!?」


その話しは後!と絹旗は浜面との会話を打ち切る。
肩で呼吸している絹旗に滝壺と麦野が近寄る。


「多分、もうすぐ…はぁ、はぁ、来ます…よ!」


浜面はその言葉を聞くやいなや、急いで近くにあった車をピッキングして開錠する。
899 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/03/23(水) 02:44:00.67 ID:tfAIRlH5o
「よし、お前ら、乗れ!」


浜面がアイテムのメンバーに乗車を促したその時だった。


チーン!
一基の立体駐車場のエレベーターが浜面達の居る階に到達した事を知らせるベル音が木霊する。






「どォも、どォも、アイテム抹殺命令を受けてやってまいりましたァ…」






最狂であり、最強。そしてアイテムの彼女達にとっては最凶の男、一方通行が目の前に現れた。
たじろぐアイテム、彼女達に勝機はあるのか。
900 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福井県) [sage]:2011/03/23(水) 02:45:24.55 ID:xK/bqSpAo
OMG...
901 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/03/23(水) 02:45:26.04 ID:tfAIRlH5o

短くて申し訳ないが、今日はここまでっす!
近日中に投下します!


レスくれたり間違い指摘ありがとうございます。
それらを励みにして頑張ります!ありがとう!
902 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2011/03/23(水) 02:53:06.48 ID:7FetEbWF0

一方通行(ver.鬼畜)によるレイプレイか…
色々と熱くなるな
903 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(中部地方) [sage]:2011/03/23(水) 04:42:33.23 ID:WYuqIqLeo
暗部の陰部や臀部が…
904 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福島県) [sage]:2011/03/23(水) 15:36:45.99 ID:4XfEYrv10
原作読んでないんだけど一方さんが素人童貞なのは公式設定なの? 
905 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/23(水) 20:08:05.77 ID:kchODLQZ0
>>904
公式じゃないと思う
原作の一方さんはそこまではできなさそう、あくまで理想像的なのだけど

此処の一方さんも鬼畜で大好きだぜ
906 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東) [sage]:2011/03/23(水) 23:30:15.69 ID:FMzqrJcAO
乙。こんな鬼畜一方さん誰がとめられんの?佐天さんが打ち止め役になっちゃうの?
907 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/03/24(木) 13:26:10.61 ID:Mj+dOVNSo
こんにちわ。
今日明日と私事で投下出来ないので、少しだけ投下します。

レス嬉しいです。感謝です。
今回の投下では性描写は無いですが、今後ちょっとだけ入る可能性があります。
しかもちょっとえげつないかも。


あらすじ

ステファニーとフレンダ、そして砂皿の三人は脅威を排除しつつ、学園都市と日本国の出入国ゲートに向かって行く。
一方、第三学区の立体駐車場に取り残されたアイテムのメンバーの元には抹殺命令を受けた一方通行が立ちはだかっていた。
908 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/03/24(木) 13:31:07.06 ID:Mj+dOVNSo

――第三学区 出入国ゲート付近


「各自持場に就いたまま聞け」


数多の無線が第三学区で警備行動についている隊員達の耳に行き届く。
彼ら―猟犬部隊の隊員とMAR、残っているモンスーンに所属している二人の妹達―は数多の無線に耳を傾ける。


「つい先ほど入った連絡だぁ。モンスーンの二人がやられちまった様だ」


「ケド、驚くことはねぇ。これで三人の目的が明らかになった。第三学区の出入国ゲートに向かってる」


「今第三学区の出入国ゲートに待機してるのは…俺と猟犬部隊の隊員数名、MARの隊員数名とモンスーンの二人だ」


「今更警備範囲の再検討をしてる場合じゃねぇ。それは混乱を生むだけだ。なんで、各自その場を全力で死抜きで守れ。まぁ、死んでもらってもかまわねぇけど」


「とにかくだぁ、三人を学園都市から出すな。出したら今後、世界に対して数十年の技術先行で優位性を保ってきた学園都市の危機になりかねない」


「だぁかぁら、絶対にこの三人を出すな」


数多は命令に対する返答を待たずして無線を切る。
そして再び第三学区の出入国ゲートの付近に停まっている車輌群の警備を猟犬部隊の隊員に任せ、彼は大型トラックの無線車の中の椅子に腰を下ろす。



(早く来いよ、三人組…!)



数多がそう思った矢先だった。
外の出入国ゲートから大きな音が聞こえた。
909 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/03/24(木) 13:32:52.38 ID:Mj+dOVNSo

(あぁ?何だ?事故か?)


数多が大型無線車のドアをガチャリと開ける。
薄暮で一瞬、数多の視界が歪む。


よく見てみると、運転の下手な車が前の車の後方からぶつかってしまっている様だった。


(ったく、トラックのドライバーなにぶつかってんだよ…この非常事態によぉ)


そう思った数多は付近にいた猟犬部隊の隊員二人に対応させるように命令する。
隊員達は頷くと後方からぶつかったトラックのドライバーに話しかける。



「すいません…ちょっと身分証を提示して頂いてよろしいでしょうか?」


「あ、あぁ」


後方からぶつかったトラックの運転手は事故を起こしたせいで非常に緊張していた。
運転席の窓から半身を出している男は助手席側にあるダッシュボードをあける素振りをしている。


(あの黒縁眼鏡…まさか、砂皿の野郎か…?)


引っ越し業者のトラック。途中で強奪したならば日用品や生活用品も詰んである可能性が高い。
その中にたまたま黒縁眼鏡が入っていたのだろう。


ヤバイ。ダッシュボードから出そうとしてるのは財布でも免許証でもない!!
数多は猟犬部隊の隊員達に声をかけようとするが遅かった。
910 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/03/24(木) 13:34:17.59 ID:Mj+dOVNSo

ダッシュボードからずいっと出されたのは黒い硬質な塊。拳銃だった。
グロック26拳銃。コンパクトなデザインで洗練されたそれは砂皿の手に握られている。


「免許証はないんだ」


そう言うと砂皿はためらいもなく引き金を引いた。


ダン!ダン!


二発の銃弾が猟犬部隊の頭部にめりこみ、鮮やかな血飛沫を上げた直後に螺旋状にループした弾丸に絡まった脳髄が派手にはじけ飛ぶ。
まるで果物をたたき割ったような状態になった二人の猟犬部隊の隊員達の頭。


つい先ほどまで理路整然と行われていた出入国ゲートが一転して地獄の様な惨状を醸し出していた。
一般車両の人達は目の前でおきた惨劇に慌てふためき、当たりは阿鼻叫喚の様相を呈し始めていた。


「おーおー、派手な登場だねぇ、砂皿ちゃん☆」


数多は好敵手現れたり、と言わんばかりにつぶやく。


「オイオイ、お前一人かよ。囮か?可哀想に」


「あいにく俺は脱出するつもりはないんでな。彼女達は平穏を求めた、俺には…平穏は要らない」


「かっこつけんなってクソ野郎が」


砂皿は「ふん」と鼻で笑うと運転席の窓を閉める。
そこで後方にいる車両にお構いなくバックギヤを入れる。

ギャギャギャ!!!とトラックが悲鳴を上げると無謀にも何人かの猟犬部隊の隊員が止めようとやってくるがそれらは砂皿の射撃の的にしかならなかった。
911 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/03/24(木) 13:35:59.66 ID:Mj+dOVNSo

「ったくぅ、てめぇらバカかよ。いつ俺が、止めろなんていったぁ?」


数多はそう言うと無線トラックからスティンガーミサイルを取り出すとカチャリと構える。


「俺がぶっ壊してやるぜぇ?」
(女二人がどこにいったかわからねぇが…取り敢えずあの車ぶっ壊すか)


元々は対空ミサイルとして開発されたスティンガーを対戦車仕様にカスタムしたモデル。
まだ周囲には逃げている人が居るにもかかわらず数多は引き金を躊躇無く引いた。


バシュン!


と発射音が周囲にとどろく。数多はロケット砲ほどではないにしろ強烈な後方墳者煙に耐える。


ドォン!


トラックの至近で炸裂したロケットは派手に弾ける。
燃えさかる車輌群の中からずいっと砂皿が出てきた。


「またお前か」


「そりゃこっちのセリフ」


今日一日だけで二度目の邂逅。
お互いの戦い方は熟知している。


「おまえらぁ。こいつは俺の得物だからなぁ。手を出すな!!」
912 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/03/24(木) 13:37:24.86 ID:Mj+dOVNSo

数多はそう言うと先ほど戦った様に、ポケットから炭素繊維で編み上げられた手袋を嵌める。


「そんなに肉弾戦が好きか…」


「いやぁ?別に何でも良いんだぜ?寧ろ俺はお前にチャンスを与えてるんだぜ?銃器を使ったら、付近にいる猟犬部隊や他の支援部隊がお前をソッコウでただの肉の塊にしちまう」


「……」


こないなら、こっちから行くぜ!?数多はドン!っと一気に重心を前のめりにして砂皿に飛びかかってくる。
砂皿はそれを避けることをしないで一気に前に進んでいく。


猟犬部隊の隊員達が「木原隊長!!」と吠える。
数多はそれに答えるかのようににやっと笑うとぐっと腕を組む。


「平穏は要らないって?砂皿ぁ!!嘘つくんじゃねぇよ!お前や俺みたいのは戦いの中に平穏を見いだしてんじゃねぇか!!」


「ほう。それが、平穏か……面白い考えだ」


グググ…!
二人の指がどんどん真っ青になっていく。
握力はほぼ同じ。砂皿が来ている半袖からのび出ている太い血管が露わになっていく。


砂皿の右足からブォン!と蹴りが繰り出される。
片足で器用にバランスを取っている砂皿から繰り出されるキックはそのまま数多の首を刈り取ろうとしている。


数多は砂皿の蹴りに合わせてそちらに首を振る。
蹴りのエネルギーが完全になる前に数多が先手を封じたのだ。
鈍い音とは対照的に、数多の首に当たった蹴りはさして効果がなかった。
913 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/03/24(木) 13:38:31.30 ID:Mj+dOVNSo

「チッ」


砂皿は軽く舌打ちをする。
まさか蹴足が命中する前に先に自分から合わせてくるとは予想外だった。
蹴りで片足になった砂皿の不安定な体勢を数多は見逃さなかった。



グアッ!と飛び立った数多は砂皿と組み合った状態のまま一気に空に上がる。
一メートルほど飛び、その場でとっさに体育座りのようにくるまった体勢に移行する。
この時に警戒して手をほどいた砂皿は防御の姿勢を取る。


(来る…!)


ぐっと腹部に力を入れる砂皿。どこに来る?顔か?首か?腹か?
一瞬の思考の逡巡の内にボッ!っと数多の両脚がまるでカタパルトの様な勢いで砂皿の顔に迫ってくる!


とっさに両手を顔の付近に構える。
腕の辺りに数多の蹴りが炸裂し、砂皿の手は冗談ではなく、ビリビリとしびれる感覚を覚えた。
914 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/03/24(木) 13:38:57.97 ID:Mj+dOVNSo

(なんていう力だ…!)


砂皿は踏ん張るが、それでも数多の剛力から繰り出される蹴り足によろめいた。



(コイツ…つい数時間前に俺が気絶させた奴と同じ人間とは思えん……!!)


しかし、ここで諦めるわけにはいかない。
出入国ゲートはもう目の前だ。


「オイオイ、砂皿クン〜?俺はさっき気絶させられて起きたとき、ドタマぁかち割れそうなくらい腹立ったんだわ…!ホラ、さっさと来いよぉ?」

砂皿は言われなくとも!と強く答える。
そして再び数多の間合いに飛び込んでいく。



(フレンダ、ステファニー、あいつらはちゃんと俺の言った通りに行動しているか?)


出入国ゲートの前で降ろした二人は今頃は周囲の猟犬部隊の掃討を行ってるはずだ。
砂皿は脳裏に二人の姉妹の姿を思い浮かべ、戦いの世界に没入していく。
915 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/03/24(木) 13:40:08.71 ID:Mj+dOVNSo

――第三学区 立体駐車場


「どォも、どォも、アイテム抹殺命令を受けてやってまいりましたァ…」


「てっ、てめぇは…!」


「あン?誰だ?テメェ…?ってか誰に口聞いてンだ?麦野さンンンン?」


一方通行はへらへらと笑いながらゆっくりアイテムの方に歩み寄ってきた。
その姿を見て学園都市第四位を誇る麦野ですら、なにも出来なかった。


「…オイ、どうすればいいんだよ…!?」
(何で第一位がこんな所に来るんだ?)


浜面は立ち尽くしたまま誰に話しかけるわけでもなくつぶやく。



「第一位?何故あなたがここに?」


「いいぜェ?冥土の土産に教えてやるよ」


一方通行は立ち尽くしている絹旗達にアイテムから脱走者を生み出した事実を教えた。
脱走者。それは言わずともわかった。


「フレンダが、脱走したって事ですか……そうですか」


絹旗は一方通行の口から聞かされた事をうんうん、と頷き理解する。
916 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/03/24(木) 13:41:54.19 ID:Mj+dOVNSo

(なるほど、フレンダが超大脱走したって事ですか…で、脱走者を出したアイテムに制裁を加えるために第一位がここに来た…)


「超浜面と麦野と滝壺さんを連れて早く避難して下さい」


「ひっ、避難ってどこに行けばいいんだ?っていうか、絹旗!おまえは!?」


「私のことはどうでもいいので、とにかくどこでもいーから早く逃げて下さいッ!」


浜面の声は絹旗の怒声に掻き消される。「お、おう!」と上擦った声をあげて浜面は車に乗り込む。
絹旗は「滝壺さん!」と呼び掛ける。その呼び声に滝壺は振り向く。


「体晶、貸してください!」


「え?……きぬはた。どーゆー事?」


滝壺は絹旗の発言を聞き返す。絹旗はたしかに言った。「体晶」と。


「私の能力は目の前にいるあの男の思考回路や演算体系を埋め込まれたもの、体晶を使えば、もしかしたら……可能性を見いだせるかもしれません」


可能性。
はたしてそれが絹旗の一方通行にたいする勝利を収める事が出来る可能性か。
或いは滝壺達が脱出出来るまでの可能性か。

それはわからない。
とにかく、絹旗は一方通行に視線を合わせたまま、滝壺に体晶を出すように促す。


「できないよ。きぬはた。あれには適性があるかどうかで決まるから、今、絹旗に体晶を渡す事はできない。むしろ適正があっても渡すことは出来ないよ!」


「そんな悠長な事を超言ってる場合ですかッ!?滝壺さんっ!」
917 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/03/24(木) 13:42:43.88 ID:Mj+dOVNSo

絹旗はそういうと、「滝壺さん、すいませんっ!」と一礼すると滝壺のお腹を殴る。
怯んだ滝壺のポケットを彼女がまさぐっていく。するとポケットの中にシャープペンの芯入れほどの大きさのケースを見つけた。
絹旗はそれをぐっと握る。


「…な、…んで?きぬはた」


「気の迷いですよ、今日初めて本格的に戦った学園都市第二位には歯が立ちませんでした。それは能力を理解してないからです。でも、目の前にいる男は違う」


絹旗はそういうと、滝壺に浜面がピッキングした車に乗り込むように指示する。
観念した滝壺はよろめいた足で車に向かっていった。


「き、ぬはた。死なないでね…」


「なぁに言ってるんですか?滝壺さん!気の迷い位で死ぬ訳にはいきませんよ?明日も映画見に行く予定が控えてるんです!ほらっ、行った!」


滝壺は頷くと浜面が運転する車に乗り込む。
彼らの車が絹旗の横を通り過ぎる。


真っ赤に光った車のテールランプを見つめ、
絹旗は安堵の息を漏らす。


「ふぅ、これで一先ず安心です」


「安心ー?お前の身の安全が確保されてませンけどォ?」


小ばかにしたような口調で絹旗に話しかける一方通行。悪意で顔をゆがめた彼は「じゃ、そろそろいくぜ?」と絹旗に向けて言い放つと一気に距離を詰めていく。
絹旗はその姿を見て、シャープペンのようなケースから白い粉をトントンと手の甲に落とす。


(これを舐めれば良いんですよね?)
918 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/03/24(木) 13:44:22.26 ID:Mj+dOVNSo

絹旗は手の甲に落ちた体晶の粉を恐る恐る舐める。瞬間、絹旗の頭に激痛が走る。


(カッ……は!な、ななな、なんて、なんてい、痛みですか?)


「ははァ、なるほどねェ。一時的に能力を誘発させようってかァ?」


「わ、私とあ、なたの能力はよく似ています…!体晶を使えば一時的にあな、あー、あなたと同じ、いや、防護性にと、特化……!」


あまりの激痛に絹旗は頭を両手で抱える。
一方通行は攻撃をする事なく、苦痛に悶えている絹旗をヘラヘラ笑いながら見つめている。
彼は笑いつつも目の前にいる絹旗を冷静に分析していた。


(…コイツは、恐らく俺の演算体系を思考に組み込ンでいる。なら、一時的にしろ反射しあう。反射攻撃をすればそれが帰ってくる)


一方通行は暗闇の五月計画と呼ばれた学園都市の計画を思い出す。
学園都市に体よく捨てられた子供の内の何人かに一方通行の演算体型を移植したというおぞましい計画。


(元々、コイツの適正は窒素。木原くンのバンクにはそう書いてあった。体晶で一時的に俺と同等になろうってか?)



同等。それは一方通行の最も嫌うモノ。



(待て。俺より強い奴はいねェ。そォゆゥ陳腐な、俺と並ぼうって考えるのもばからしくなる位、俺は誰よりも強くなきゃいけねェ……!)


目の前の苦しんでる少女をさっさと消さねば。
彼女は自分と同じ立ち位置に立とうとしているのではないか。
919 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/03/24(木) 13:45:30.91 ID:Mj+dOVNSo

(今日の第二位との喧嘩、それに、あン時の、俺を殴った三下の野郎もそォだ…皆、俺に戦いを挑ンで来やがった……)


第二位は潰した。ケド、三下は?
絶対能力進化計画を頓挫させたあの無能力者の男。


認めたくはないが一方通行は完敗した。今回目の前に立っている絹旗とか言う女は?


(気に食わねェなァ…、この女…)


一方通行の本能が告げていた。
さっさと破壊しろ、と。



(前に戦いを挑んできた三下相手には油断して敗北した。……今回は油断ならねェ…)


一方通行は前々回、即ち彼が敗北したときの戦いを思い返し、気を引き締める。
自分がもう二度と敗北しないために。しかし、その思考が一方通行の足かせになってしまうのだが。


絹旗は片耳から血を出しており、顔は青ざめている。
しかし、先程迄苦しんでいたような雰囲気は彼女からは感じられず、むしろ、すっくと立ち上がる。


一方通行から見て、顔色と耳からの出血以外は取り立てて異常を感じられなかった。
ただ、彼の気に障ったのが彼女の口調だった。


「いきますよ?第一位?覚悟は出来てますかァ?」



「クカカカ…どォぞどォぞ…てめェの手がこの俺に触れるこが出来たら、それだけで褒めてやンよ?」
(コイツ…口調が変わった…?)
920 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/03/24(木) 13:46:20.02 ID:Mj+dOVNSo

一方通行は喋りながら、何かうぜェ、そう思った。
しかし、その先の思考が突如として中断される。絹旗の攻撃を受けたから。


絹旗は地を這うようにして一方通行に飛び掛かると、目の前で飛び上がる。
窒素を繊細に操った彼女は一気に重力ベクトルを下方に調整する。


そして、ギロチンの勢いで華奢な脚を一方通行の大腿骨の辺りに振り下ろす――!。


「あぶねェなァ、いきなり」


「――――――チッ」


絹旗は小さく舌打ちすると、一方通行の会話に反応する事はなく、再び攻撃を続行する。


「一つ試してみますね?」


絹旗はそういうと一方通行の間合いに移動する。
そしてそのまま一方通行を殴ろうとした。


「おいおい!真っ向からですかァ?効きませんよォ?」



「まァ、みてて下さいよ」
(思いつきですけどうまくいきますかねェ?)


絹旗のかほそい腕から繰り出されるパンチ。
彼女の形成している窒素の膜に一方通行の反射が影響しているぎりぎりの範囲。
すなわち一方通行の体に接触するかいなか。その瞬間に絹旗が自分の繰り出した拳を引いた。
921 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/03/24(木) 13:47:38.72 ID:Mj+dOVNSo

ドゴン!


絹旗が拳を引いた直後、鈍い音が一方通行から聞こえた。


「いってェなァ…」
(一体どォゆー理論だ?何で反射をデフォで設定している俺の事を殴れるンだ?)


「き、効いたようですね…!?窒素ぱンちってトコですかね?」


一方通行に触れる直前に引くパンチ。
彼の反射に反応するかいなかで引けば反射が逆方向に作用するという理論。
理論と言うよりも寧ろ、子供じみた考えだったが、絹旗はそれを即座に行動に移した。


常識的な戦法では一方通行には勝てない。
そう考えた彼女の窮余の打開策が直前に拳を引く、という超々繊細な動作だったが、それは


「絹旗、とか言ったか?クカカ…褒めてやるよ。よく触れられたなァ…この俺に」
(まさか…窒素と俺の反射の膜が触れる空間を見切って、拳を引いている?)


「どうしたンですか?まさか、体晶使って超強くなったこの私に勝てない、とか思ったりしてませンか?」


「だー。うっせェ。今、どうてめェを料理してるか考えてるンだよ。後、その口調辞めろ、殺意が湧く」
(元々窒素の使い手ならそれくらい容易い。体晶を使って一時的にその感覚が鋭敏になってもおかしくねェ)


一方通行は推論に過ぎないが、絹旗が自分に触れることが出来た理論を推測する。
それは恐ろしく幼稚な理論だったが、触れるにはそれしか方法がない。


どうすれば絹旗から攻撃を受けずに済むか。一方通行は考えた。
922 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/03/24(木) 13:48:38.29 ID:Mj+dOVNSo

(攻撃か?やっぱり。ってか、それしかねェよなァ?)


にやぁと笑うと一方通行は一気に絹旗の間合いに飛び込む。
それは絹旗が身構えるよりも早く彼女の間合いに侵入してきた。


「は、早い…!」


「残念でしたァ」


一方通行はまんまと絹旗の間合いに潜入するとそのままとんと指を触れようとする。
しかし、絹旗は窒素薄い膜に触れた瞬間にさっと防御態勢を取るのでうまく攻撃が出来ない。


「ったく、さっさと殺させろよ?楽だぜェ?」


「あいにくですが、超お断りします!」


べっと絹旗は舌を出す。
顔色は相変わらず悪い。それでもなお交戦を続ける。


絹旗は正直今にもぶっ倒れそうな位だったが、彼女は思った。
第一位とも渡り合えるんだ、と。そしてあわよくば、本当にあわよくば、勝てるんではないか、と。


絹旗は手の甲に更に体晶の白い粉をかける。
そしてそれをぺろりと舐める。再び絹旗の頭に激痛が走る。


「いき…、ギ、…あ、ます、よ!」


「来い、薬中女ァ」
923 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/03/24(木) 13:50:45.94 ID:Mj+dOVNSo

今日はここまで。

稚拙な文章を読んでくれる皆様には感謝です。
ではまた近日中に!

木原クンが原作で使った木原神拳を絹旗も使えるのでは…という俺の妄想を書いてみました。
924 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2011/03/24(木) 17:34:33.68 ID:0MicfxZSo
やめて! 有効打がでてるときに薬を追加するのは死亡フラグよ!
925 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) [sage]:2011/03/24(木) 22:28:29.67 ID:oUGXHRXz0
 >>1
一方禁書でも絹旗の有効性あったな
しかし、着地点が見えない >>1はどんなエンディング見せてくれるんだ
超楽しみですよ
926 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/03/28(月) 18:21:10.37 ID:qK/F6skHo

さて更新遅くなってすいません。
多分今日最後まで投下します。


灰村キヨタカの画集買ったらステファニーと砂皿の絵が無くて泣いた。


あらすじ

一方通行は絹旗は滝壺か体晶を受け取って一時的に能力を引き上げて一方通行と対峙する。
ステファニー達は依然学園都市と日本国の出入国ゲートで戦っている。

二方面で行われている戦いはそれぞれ、どうなるのだろうか?
927 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/03/28(月) 18:24:26.90 ID:qK/F6skHo

――第三学区出入国ゲート前

フレンダとステファニーはゲートに到達する前にトラックの荷台から降りていた。
彼女達は砂皿が数多を引きつけている間に他の部隊を必要最低限排除することだった。


一般にも利用される出入国ゲートなので多くの民間人が居た。


彼らは避難するか、砂皿と数多の戦いを遠巻きに見たり、車の中からクラクションをプープーと鳴らしている。
相当数の人がいるこの状況でフレンダとステファニーの二人は避難している人達の群に紛れ込んでゲート付近に近づきつつあった。


アタッシュウェポンケースの取っ手の部分にあるレバーには手が掛かっており、いつでも発砲出来る状態だ。
猟犬部隊やMARの隊員は砂皿と数多の戦いに注目しており、注意力に欠けていた。



「(よし…、フレンダ行くよ?)」


「(了解!)」


フレンダとステファニーは一気に飛び出すと出入国ゲートに構えている警備の隊員達に向かって発砲する。
アタッシュウェポンケースから発射された弾丸はゲートの踏切の当たりに派手に火花を散らす。
すると敵もフレンダ達の存在に気づいたようで、反撃をしてきた。


「まさか、実の妹と一緒に戦うことになるとはねー!」


「結局!私も想像してなかったって訳よ!」


二人はアタッシュウェポンケースの鍵を開錠するとそのままクルツ短機関銃を取り出す。
そしてそのまま派手に弾丸を四方にバラまいた。


消音器によって音はかき消されているものの、短機関銃を発砲しているのはやはり人目について、周囲で見ていた人達の間からは悲鳴が聞こえてきた。
その中には透明の容器に収納されている超強力なVXガスが入っているケースがあるのだが、これは使わない。一般人が多すぎる。
928 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/03/28(月) 18:25:05.45 ID:qK/F6skHo
すまん私事勃発。
また後で投下します!
929 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/03/28(月) 21:08:28.90 ID:qK/F6skHo

フレンダとステファニーが放った弾丸は車や出入国ゲートの窓ガラスを手当たり次第にぶち破っていった。


ダダダダダ……!


マガジンを全て撃ち尽くすと即座にマガジンを取り返る。
そうして敵に反撃の隙を与えない様にしつつ、徐々に二人は出入国ゲートに近づきつつあった。


ゲートは高速道路の入り口にある様なスペースよりも少し大きくなっており、猟犬部隊の隊員二人がそこを防護しているが、彼らは伏せて反撃の機会をうかがっている様だった。
ステファニーはそこに背負っていたHMK416を構えると容赦なくグレネードをぶち込んだ。

下部レールから射出されたそれは間の抜けた音を周囲に響かせる。
しかし、その音とは対照的に、直後、派手な炸裂音が聞こえた。出入国ゲートの一部が吹っ飛んだのだ。


「おーおー!あっちでも派手にやってるじゃねぇの!!」


数多が暴れているステファニーとフレンダを遠巻きに見つつ、どこか他人事のように喋る。


「てめぇが囮だったって事か?砂皿ちゃん」


「囮ではないさ、陽動だよ、陽動」


「結局、どっちも同じ事だろッ?」


二人は再び戦いの世界に没入していく。
930 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/03/28(月) 21:11:29.54 ID:qK/F6skHo

ステファニーはフレンダと共に制圧して出入国ゲートに入る。
目の前はもう日本国だった。


(この先を越えれば、…が、学園都市から出れる…!)


ステファニーは銃を構えつつ待機している。
隣にいるフレンダも周囲の様子をキョロキョロと見回している。


あらかたの敵は排除したつもりだった。
あとは後方で木原数多と戦っている砂皿を迎えて脱出して、おしまい。
しかし、まだ残っている敵は数多と戦っている砂皿とフレンダ達を分断しようと目論んでいるようで、フレンダ達に猛攻撃を加えてきた。


「お姉ちゃん!相手は砂皿さんと私達の間を分断しようとしてるよッ!」


「分かってる!」


そうはさせない、一緒にカナダに行くと砂皿さんは言ったんだ!
ステファニーはHMK416を背中に再び持って行き、クルツのトリガーをぐっと絞る。
トリガーを絞られたクルツは再び高速で弾丸を吐き出していく。


「ぐ、がッ、ハッ!」


猟犬部隊の隊員達は高速で射出される弾丸の前に倒れつつも次第に車の影から身を伏せて抵抗する様になっていく。


「フレンダ!ここ、あんまり持ちそうにないかも!」


「まだ持ち堪えなきゃ!砂皿さんが来てないもん!!」


フレンダは狙撃銃で狙撃を敢行しているものの、敵が段々と接近してきているので狙撃銃を捨てて拳銃で敵を退けようとする。
931 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/03/28(月) 21:13:09.01 ID:qK/F6skHo

「ダメだ、敵が多すぎる!」


ステファニーの悲鳴の様な叫びが聞こえる。
撃ち続けなきゃ!!フレンダは弱気になってる姉に向かって檄を飛ばしつつ、拳銃を撃つが既に弾丸はなくなりつつあった。


猟犬部隊等の学園都市の治安維持部隊に囲まれつつある。
既にフレンダとステファニーは満身創痍の状態だった。


「クッソ…!あれを使うしかないのか?」


「あれってまさか、あの毒ガス!?お姉ちゃん!!」


ステファニーはフレンダの問いかけには答えずにアタッシュウェポンケースに収納されている透明の球状の容器を取り出す。
そしてそれをグレネードの弾丸に装填する。


「BC兵器は…ダメだよ…!まだ民間人が沢山いる…!一般人にも、被害が出ちゃうよ!!」


「で、でも…!」


ステファニーは自分達と砂皿が分断されつつある状況を打開しようと判断し、BC兵器(バイオ化学兵器)に手を出そうとしている。
砂皿を救う点ではその使用は正しい。けれど、一般人が多数いるこの状況でそれを使うとなれば話しが違う。

フレンダの僅かばかりの道徳心がその使用をためらわせていた。


「信じようよ、お姉ちゃん、砂皿さんは必ず勝つ!それまで普通の武器で戦おう!」


彼女の発言を聞いてステファニーは装填していたグレネードランチャーのBC兵器の弾丸を手にとって再びケースに収納する。
そして間髪入れずにクルツを短発モードに切り替えて発砲を始める。
932 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/03/28(月) 21:14:18.26 ID:qK/F6skHo

「私達と砂皿さんが分断されないためには…ここを持ち堪えて、なおかつ砂皿さんがここに来るまでまたなきゃいけない!フレンダ、我慢出来る?」


「出来るよ!!」


暫くして銃声が聞こえなくなる。
恐らく、猟犬部隊やその他の増援部隊を斃したのだろう。


フレンダは出入国ゲートからにょきっと顔を出す。
すると200メートルくらい離れたところで砂皿と数多が依然、激闘を繰り広げていた。


フレンダはこの距離なら、と思いアキュレシー・インターナショナルを取り出す。
ヘンソルト十倍のスコープに映し出された数多の姿。しかし、激しく入り乱れての戦いのため、狙撃は出来なかった。


「ダメだ。狙撃が出来ない。放置された車両の中に敵の残党が居る可能性もあるから、援護にも行けないよ…!」


フレンダがステファニーにそう告げて身をかがめようとした時だった。


「まだ終わってないですよ?」


「…!」


二人の前に全く同じ顔のクローンが現れる。
全く同じ容姿の彼女を見てステファニーはポカンとするが、フレンダは見覚えがある顔だった。


「まさか…超…電磁砲?」


「いえ、違います。容姿は似ていますが正確にはお姉様のクローンですね、とミサカは脱走者のフレンダ=ゴージャスパレスとそれを幇助した姉に向かって事実を話します」
933 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/03/28(月) 21:16:12.58 ID:qK/F6skHo

脱走者ねぇ……クローンのあなたにもいつか思う時がくるって訳よ!この腐った街から脱出したいってね!」


妹達にそう告げるとフレンダは痛む足を押さえつつ、腰に差しているククリ刀を抜刀する。
ステファニーもアーミーナイフを出して身構え、もう一人の妹達に備える。


「白兵戦ですか、とミサカはつぶやきます」


「結局はあなた達もそれを望んでるんでしょ?こんな勢いよく飛び出てきちゃってさ」


フレンダはそう言うと一気にゲートの中から飛び出て戦う。
車のボンネットの上を器用にステップを踏んで歩いているモンスーンの妹達の一人と対照的に足を麦野に撃ち抜かれているフレンダでは明らかに妹達に分があった。


「おや?足を怪我をしてるのですか?」


「まぁね。ちょいと仲間を裏切った罰よ、罰!でも、あんたらにはこれで十分って訳☆」


ダァン!ダァン!と音を立ててステップを踏んでいく二人。
車のボンネットは彼女達の足跡を刻んでいく。


(クッ……あ!だいぶ痛むって訳よ……!)


「痛そうですね?苦痛に表情が歪んでますよ?とミサカは裏切り者の白豚に哀れな視線を送ります」


「かー。超電磁砲とそっくりなその容姿。ウザイって訳よ。大量生産のクローンにはそんな事、言われたくないわねぇ」


フレンダはそう言うと痛みをこらえて一気に飛び込む。
ククリ刀の歪な形状が妹達の首筋を捉えようとしている。しかし、それも敵わなかった。
というのも妹達の周りに一瞬殺気が感じられたから。
934 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/03/28(月) 21:17:56.21 ID:qK/F6skHo

「あっぶないモン持ってるじゃない!」


「チッ、気づかれましたか、とミサカは舌打ちをして悪態をつきます」


常盤台の制服とは全く似合わない黒い手袋。
そこから伸びている細い糸。


「へぇ?ピアノ線か何か?」


「学園都市製の糸です。本来の斬鋼線、と言うものは硬質な物質だけしか切れません。しかし、学園都市の開発したハードサイエンスによって柔らかい物質も切れるように改良されました」


モンスーンに所属している妹達の一人は恐ろしいことを平然と言うと試し切りと言わんばかりに目の前の車にひゅっと糸を当てた。
すると車が真っ二つにした様に切断されてしまった。


「へぇ…おっそろしい武器持ってるわね?」


けど、負けるわけにはいかない。あと少しで日本の土を踏めるのだ、そしてその先には故郷のカナダが待っている!


「はぁ、結局、私は御坂関係とは相容れ居ない関係なのかな?」


「?」


妹達は首をかしげる。
フレンダは「あなたはしらないでしょーけど」と一言言い放つと一気に間合いに侵入する!
ブォン!とククリ刀をふるう。間一髪でそれを避けると妹達は両手に嵌っている手袋の先端に構築されている斬鋼線をゆらぁとフレンダに向ける。

風に靡かれるような勢いでフレンダに向かってくる緩やかな斬撃を彼女は上半身と下半身をひねって回避する。


「へぇ…裏切り者のくせに、結構やりますね、と御坂はフレンダの身体能力に感嘆します」
935 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/03/28(月) 21:19:01.71 ID:qK/F6skHo

妹達がにやっと笑った時だった。
フレンダ達が戦っている後方、つまり、砂皿と数多が戦っている方でどよめきが起こった。
それは見ている野次馬達からもたらされたものだった。


そのどよめきが示す意味。恐らく、彼らの戦いに決着がついたのだろう。
フレンダとステファニー、はては二人の妹達もお互いに武器を持ったまま、立ち尽くす。


彼女達は戦いの帰趨が気になるようで、互いの得物を持ったまま、硝煙から出て来る影を凝視した。


「砂皿さぁぁぁぁん!」


ステファニーはいても立ってもいられなくなり、その名前を叫ぶ。頼む!応えて!砂皿さんっ!
祈るような気持ちで彼女は腹の底にぐっと力を込めてあらん限りの大声で叫ぶ。


「う、うるさ…い、そんなに大きな声を出さなくてもきこ、えるわ」


硝煙の中からずいっと出てきたのは砂皿だった。その時、びゅうっと強風がふいて煙りが取り払われる。すると、数多が地にはいつくばる形で倒れていた。


「や、殺ったんですか?」


「いや、昏倒しているだけだ。殺してはいない」


そう言う砂皿は片足を引いている。かなりの強敵だったのだろう。


(敵ながら、いや、一博士としては無類の力を誇るだろう…、よくやったぞ、木原数多)


砂皿は歩きながら素直に数多を内心で称賛した。立ち往生している車列を縫うようにして、とぼとぼとした足取りでステファニー達のいるゲートに向かう。


ステファニーは目の前でポカンとしている妹達そっちのけで砂皿の方に向かって走っていく。
936 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/03/28(月) 21:21:05.19 ID:qK/F6skHo

「砂皿さん!大丈夫ですか!?」


早く手当てをしなければヤバイ。ステファニーはそう思い、いてもたってもいられなくなり砂皿に駆け寄った。
砂皿がここまで打ちのめされているところをステファニーは今まで見た事がなかった。彼女にとっては衝撃的な光景だった。


「だ、大丈夫ですか?」


「ば、馬鹿やろ、俺には構うな…!早く、ゲートを越えろ……まだ敵がいるんだぞ?」


彼は早くゲートを越えるように促す。
しかし、ステファニーは砂皿の注意にも顧みず、砂皿の肩に自分の手をかける。


「ダメです!砂皿さんも、一緒に帰るって約束したじゃないですか!!」


そう、三人で一緒に帰ると決めたんだ。
しかし、砂皿はその言葉を否定する。


「お、俺の帰る場所は……や、やっぱり戦場(ここ)なんだよ、ステファニー」


彼にとっての平穏とはは戦場なのかもしれない。
砂皿はそう言うとふふと自嘲気味に嗤った。


「な、なに言ってるんですか?砂皿さん!ホラ、ゲートまで後少しですっ!一緒に、行きましょうよ!」


「あぁ、あと少しだ、な…だから早く、いけ!」


砂皿は数多との戦いでかなりの深手を負っていた。しかし、猟犬部隊やモンスーン、MARの増援部隊は彼にをとどめをさせなかった。
フレンダが肩で息をしながらも必死にクルツを構えて、砂皿達を守っているからともいえるが、何より砂皿という数多を倒した化け物に対して畏怖の念が彼らの心中に去来していた事が大きい。


ステファニーは砂皿を肩で支えたまま、ゆっくり、しかし着実にゲートに近づきつつあった。ゲートまであと少しだ!
彼女はゲートの中にいたフレンダに先に出る様に大声で指示する。
937 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/03/28(月) 21:22:42.14 ID:qK/F6skHo

「フレンダぁ!!そのままゲートを越えて!!」


「うん!」


フレンダはクルツを構え、ゲートから出る。
すぐ目の前にいるクローンにバイバイ、と小さい声で話し掛ける。


「チッ!じゃあな、糞ビッチとミサカは白豚の裏切り脱走者を見送ります」


妹達の罵声にフレンダはふっとは鼻で笑う。まるで自由を噛みしめるかのように、そして、妹達を見下したような表情で告げた。


「ほざいてろっての。私は今から自由って訳よ☆」


「自由?」



フレンダは「そ☆」とクローンにウインクをするとゲートを跨いで日本にはいる。
その後をステファニーと砂皿が着いてくる。彼女達も日本に入った。


その光景をみたフレンダ。姉の肩に手をかけている砂皿。
フレンダから見た砂皿とステファニー。夕日の残滓の明かりを背景に歩いているその二人の姿は数年来の信頼関係をそれだけで証明していた。


フレンダはその光景を見て頼もしいと思った。同時に、日本に入った事で、フレンダは自分の頬の筋肉がゆるんでいくのを知覚する。
緊張状態から脱出したのだ、という安心感と油断が彼女をそうさせたのだ。しかし、ステファニーの声でフレンダはびくっと肩をふるわせた。


「フレンダっ!まだ気を抜いちゃだめ!取り敢えず、どんなんでもいーから車の確保っ!」


「う、うん!」
938 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/03/28(月) 21:23:38.47 ID:qK/F6skHo

日本側ゲートもかなり混乱しており、遠くから、警察のサイレン音が聞こえている。間もなくこの現場に来るパトカーの音だろう。

一方、境界線にいたモンスーンの二人は学園都市の技術の粋である自分達を見せまいといち早く退避する。
残った猟犬部隊は既に自分達の任務が失敗した事に怯え、その場で自決し始めた。


パァン!パァン!


渇いた銃声がゲートから聞こえてくる。
それを見たステファニーとフレンダは唖然とした。


「………任務を失敗してその後に彼らを待っているのは死ぬよりも辛い事なの?」


「結局、あの部隊の人達も哀れって訳よ…」


二人が話しながら近くにある車を物色する。
キーが入ったままの車がゲート付近にあったのが幸いだった。


「す、砂皿さん!乗ってください!」


フレンダが砂皿に話し掛ける。かなりの重傷だ。手当てをしなければ。
そう。日本に入ったからと言って直ぐに気を抜いて良い訳ではないのだ。砂皿は依然重傷。
ステファニーとフレンダにしても疲労困憊状態だ。予断を許されないのだ。




と、その時、一発の乾いた発砲音が周囲に響き渡った。




パァン!


その時、間延びした発砲音。
それは猟犬部隊の隊員達の自決と違って、明らかにこちらに向けて放たれたものだった。
939 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/03/28(月) 21:24:36.01 ID:qK/F6skHo

日本側ゲートもかなり混乱しており、遠くから、警察のサイレン音が聞こえている。間もなくこの現場に来るパトカーの音だろう。

一方、境界線にいたモンスーンの二人は学園都市の技術の粋である自分達を見せまいといち早く退避する。
残った猟犬部隊は既に自分達の任務が失敗した事に怯え、その場で自決し始めた。


パァン!パァン!


渇いた銃声がゲートから聞こえてくる。
それを見たステファニーとフレンダは唖然とした。


「………任務を失敗してその後に彼らを待っているのは死ぬよりも辛い事なの?」


「結局、あの部隊の人達も哀れって訳よ…」


二人が話しながら近くにある車を物色する。
キーが入ったままの車がゲート付近にあったのが幸いだった。


「す、砂皿さん!乗ってください!」


フレンダが砂皿に話し掛ける。かなりの重傷だ。手当てをしなければ。
そう。日本に入ったからと言って直ぐに気を抜いて良い訳ではないのだ。砂皿は依然重傷。
ステファニーとフレンダにしても疲労困憊状態だ。予断を許されないのだ。




と、その時、一発の乾いた発砲音が周囲に響き渡った。




パァン!


その時、間延びした発砲音。
それは猟犬部隊の隊員達の自決と違って、明らかにこちらに向けて放たれたものだった。
940 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/03/28(月) 21:25:58.08 ID:qK/F6skHo

「クッソ!!!」


自分がつい先ほど油断してしまったことに怒りがこみ上げてくる。
フレンダは拳銃を撃った数多がにやと笑いながらその場で這いつくばっていくのを目視した。


(結局、とどめを刺すべきなの?)


フレンダはクルツを構える。クルツを向けられた数多はフレンダ達の方を見るとにやっと笑い、そのまま仰臥する。
恐らく、最後の力を振り絞って砂皿のことを撃ったのだろう。
彼はフレンダがとどめを刺すまでもなく、程なくして、絶命した。


木原数多が死んだ。フレンダはそう思うとクルツを再び背負って車に砂皿を乗っけようとする。
ここからどこかにいって砂皿の手当をするのが先決だった。


「お姉ちゃん!砂皿さんを車に乗せて!早くいかなきゃ、警察が来る…!」


「うん…!わ、分かってる!!」


浮ついた声でステファニーはフレンダに向かって答えると砂皿を後部座席に乗せる。
ステファニーは既に双眸に涙を一杯にため込んで、今にも決壊しそうな勢いだった。


「お姉ちゃん、泣かないで!まだ諦めるな!」


「う、うん!じゃ、フレンダ、行くよ!!砂皿さんの事しっかり見ててね!」


ステファニーはそう言うとフレンダの「うん!」という返事が来るより早く、運転席に放置してあった、キーを差し込んでぐいっと回す。
一拍の間を置いてエンジンが小気味のいい音を立てるのを確認する。




彼女達を乗せた車は学園都市と日本国の出入国ゲートから脱出していった。
すぐ直後に警備員と日本国の警察が到着したが、その時は既にステファニー達はそこにはいなかった。
941 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/03/28(月) 21:27:37.63 ID:qK/F6skHo

――第三学区 立体駐車場


「ったく。手こずらせやがってよォ」
(結局俺は攻撃出来なかった。ま、勝手にコイツが潰れたから良いけど、腑に落ちねェ…)


「ダメですね、やっぱり、超勝てませンでした」


「よく頑張ったと思うぜェ…?」
(体晶を使ったコイツは厄介だったな、さっさと犯して殺しちとするか)


絹旗は一方通行の前にひれ伏していた。
一方通行が絹旗に何かしたというわけではない。彼女が体晶の衝撃に耐えきれず事切れたのだった。


「あ、あなたは超強いですね…」


「あンがとよォ。でもな、俺はお前に触れてねェ。それは誇れるべきだぜ?」


「あ、ありがとうございます…。……ホラ、アイテムの抹殺命令を受けてるんですよね……?さっさとひと思いに殺して下さいよ」


絹旗は観念した、という風に、突っ伏している状態からごろんと仰向けになる。
抵抗の意志がないことを示していた。

一方通行はふふんと笑うと、絹旗に手をかざした。


「じゃァ、お言葉に甘えて☆」


一方通行はそう言うとぴとっと絹旗のセーターに手を当てる。
引き裂いたわけでもないのにセーターがびりびりと破れていく。
942 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/03/28(月) 21:28:23.90 ID:qK/F6skHo
下着姿になっても絹旗は動揺しなかった。
その挙措に一方通行は僅かに顔をしかめる。これでは彼が今まで殺してきたクローンと全く同じ。


「今からてめェをグチャグチャにして殺すぜェ?何か言い残すこととかねェか?それか、未練がましく暴れてみたりしねェのか?」


「ひと思いに殺してくれるんでは?」
(…正直、超怖いです…)


一方通行の質問に絹旗は毅然と答える。
これでは全く面白くない、彼はそう思った。
なので、彼は絹旗の発言を「だァめ」と禍々しく頬を歪めて、拒否する。


「そうですか…」


「気丈に振る舞いやがってよォ…むかつくなァ。命乞いしねェのか?てめェもあのクローンと同じかよ」


絹旗は「あのクローン?」と首をかしげるが、当の一方通行本人は絹旗の質問には答えずに喋り続ける。


「むかついたぜ、絹旗ちゃン」


一方通行はそう言うと下着の表面を一気に能力で引き裂く。
絹旗の裸体が露わになり、「いや…」と小さくつぶやいた。


絹旗の諦めの声を一方通行は聞き逃さなかった。


「く、ク、クククク…カカ、アヒャ、ギャ…は…ハハハハハハ!そォ!それ!俺の聞きたい声ェ!そォいうの待ってたんだよォねェ!」


倒れている絹旗の前で高笑いを浮かべる一方通行。その姿は絹旗の目には狂人として映った。
943 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/03/28(月) 21:30:08.11 ID:qK/F6skHo
「なァーンだァ!やっぱ、怖いンじゃねェか!絹旗ちゃン?ンンンンン?」


「…………ッ!」


絹旗はまだ膨れていない胸と薄く毛の生えた恥部を両手で隠す。
しかし、一方通行にはそんな事は全くお構いなしに絹旗の恥部をまさぐる。



窒素の壁が構築されている彼女は男を寄せ付けることはなかったが、一方通行のベクトル操作の前では彼女の窒素装甲は為す術がなかった。


「や、辞めて下さい…!」


絹旗が一方通行に懇願する。
先ほどまで気丈を装っていた彼女はしかし、目の前にいる一方通行を前にして恐怖したのだった。


絹旗の懇願も虚しく、一方通行はにやりと笑うだけだ。
彼にとっては懇願ですら今後の展開を盛り上げるスパイス位にしか感じられないのである。


一方通行はまずは絹旗の恥部に手を宛がい、一気に粘液を引き出す。
絹旗は既に全てを諦めたのだろうか、立体駐車場の天井を見上げている。


「ンじゃ、濡れてるから挿入しまァーす☆」


ふざけた調子で言う一方通行だったが、彼の股間は今から行われるであろう性行為を前にして興奮し、いきり立っている。
絹旗は今からされるであろう行為を見たくないと思い、意図的に天井を見続けていた。


その間に絹旗の膣内に一方通行の性器が侵入してきた。


「…!」
(超痛いですッ!)
944 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/03/28(月) 21:31:13.02 ID:qK/F6skHo

しかし、絹旗は思った。絶対に声を出してたまるか!
絹旗は一方通行に少しでも不快な思いをさせてやろうと思い、声を出すのを必死にこらえていた。


一方、腰を振っている一方通行は気持ちが良い事には変わりなかったのだが、全くつまらなかった。

これじゃァ、あのクローンと一緒だ…!
一方通行はそう思った。途端、彼の頭の中でブチンと何かが切れる音がした。


(あー、コイツはつまンねェ)


かつて妹達に強要していた性行為と全く一緒だった。
自分だけが気持ちよくて、相手は全く気持ちの良さそうな反応を寄越さない。


妹達は特になにも言わず、無言で性行為を済ますだけだった。
それはクローンだから、と割り切っていたが、しかし、今目の前にいる絹旗も今まで一方通行が殺してきた妹達同様になにも言わなかった。


その素振りが彼をひどく不機嫌にさせた。
一方通行は腰を振りながらも絹旗の額に手をあてる。


「な、何をする気ですか?」


絹旗の視界に映る一方通行の手。
その手が当たった瞬間に彼女の意識は消え失せていった。


「てめェもつまンねェクローンかよ、ったく」


一方通行は目の前で事切れていた絹旗に向かって捨てセリフを吐き捨てると、一人勝手に絶頂を迎えて既に死んでいる絹旗の膣内に射精した。



「ふゥ…ったく、このクソ女が!」
945 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/03/28(月) 21:32:55.46 ID:qK/F6skHo

一方通行は裸体でそのまま絶命している絹旗を思い切り蹴りつける。
能力を使って蹴ったので彼女の死体はそのままどこかに飛んで行ってしまった。



「クッソ…絹旗に攻撃できなかったし、ったく後味もわりィぜ…」



一方通行はそう言うと降ろしていたズボンを履き、その場から去っていく。
絹旗と戦い、性行為をしていた事で残りのアイテムのメンバーがどこに向かって行ったか分からなかった。
一方通行は内心に畜生、とつぶやく。


(どこに残りの奴らは居るンだ…?)


速効殺してさっさと追撃すれば良かったな、と後悔するがもう、そんなのどうでも良かった。
自分の脅威になり得るであろう女は死んだ。第二位も潰した。


(ゲートで戦ってる木原くンには連絡すっか?いや、また素人童貞だなンだって言われンのも腹立つからなァ…)


それに、絹旗と戦う前に思い出した、自分を負かした三下の少年の姿をも一方通行は思い出す。


(ったく…うざってェ…畜生が…!)


さっさと自分のアジトに帰って寝たい。一方通行の本能がそう告げている。


(無能力者三人は木原くンが潰してるだろうから、帰るかねェ…)


正直、一方通行は数多にまた馬鹿にされるのがいやだから、という理由があるのだが、そういうのを全てひっくるめてめんどくさいと思った彼は一気に飛び立って帰ることにした。
946 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/03/28(月) 21:33:52.10 ID:qK/F6skHo

――柵川中学学生寮

佐天はテレビに釘付けになっていた。
美琴とファミレスで話した後、学生寮に帰った佐天はフレンダからの脱出の連絡が来るまでなにも出来なかった。


時間つぶしにテレビを見ていると、どうやら学園都市の中で様々な組織が目まぐるしく抗争を繰り広げていた。
いや、抗争と言う表現よりも寧ろ戦争といった方が良いかも知れない。


たまたま居合わせた報道カメラマンが撮影した幾つかの学区で行われた戦いは一般市民の目に触れることになった。
そしてまた新たに情報が入ってきている様で、ニュースキャスターがイレギュラーで読み慣れていない原稿を読んでいる様がテレビに映し出されていた。


テレビの中継は学園都市の第三学区の出入国ゲートから脱出する三人組をしきりに報道している。



(これ…フレンダ達よね…?)


佐天はテレビを食い入るように見つめている。
映し出されているのは銃を発砲し、ゲートの中に立てこもっているフレンダ達を一般人が撮影した動画だった。


キャスター曰く、この三人組の内、二人が学園都市から脱出した様だった。
佐天は一人で要るにもかかわらず、「え?」と素っ頓狂な声を上げる。


(三人とも脱出したんじゃないの?)


佐天はキャスターが何か間違えて言っているのだ、と思いたかったが、死亡した男の身元が明らかになり、自分の体が震えるのを知覚する。
テレビでは車に乗り込もうとしているステファニーの肩に担がれてぐだぁっと脱力している砂皿の後姿が映し出されていた。


あの様子だと砂皿は確かに死亡と判断して良いだろう。


『えー、ただいま入った情報ですと、死亡したのは砂皿緻密という傭兵で、現在、来学した目的などを警備員が調査しており…』
947 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/03/28(月) 21:34:29.72 ID:qK/F6skHo

テレビから流れてくるキャスターの声を聞くと、砂皿が死んだ事はどうやら確実だったそうだ。
しかし、残りの二人に関しては脱出したとしきりに伝えているので佐天はほっと肩をなでおろした。


(フレンダとお姉さんは学園都市から逃げれたのかな…?)


佐天は安心したものの、フレンダから連絡が来ないのでまだ安心できない。


(どうなったんだろう、フレンダ、それにあいつら…大丈夫かな?)


佐天はフレンダの安否の他にもう一つ心配な事があった。



(アイテムの奴ら、スクールと戦うって言ってたけど、平気だったのかな?)


仕事が終わると普段麦野から連絡が来るはずなのだが、珍しく今日は来なかった。
フレンダが脱出したという事は何かしらアイテムの内部にも何か変化があったのかも知れない。しかし、佐天はそれを知るよしも無い。



(取り敢えず…連絡待ちかな…)


そう思った矢先だった。
佐天の仕事用の携帯がなる。メールが送られてきており、送り主はフレンダからだった。
948 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/03/28(月) 21:42:45.99 ID:qK/F6skHo

From:フレンダ


Sub:連絡遅れたって訳よ

涙子、脱出成功しました。
もう日本にいます。砂皿さんは車内で死んじゃったけど、私達は無事です。

じゃ、バイバイ、涙子。
949 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/03/28(月) 21:48:18.15 ID:qK/F6skHo

フレンダから送られてきたメールは佐天を安心させた。
彼女はフレンダを脱出させたことで安堵した。
自分が誰かを助けたんだと、佐天は思った。そう考えるとちょっと嬉しくなった。


しかし、砂皿は死んだ。
彼女達を助けようとして。


その厳然とした事実が佐天の前に立ちはだかっている。
確かに佐天はフレンダとステファニーを学園都市から脱出させることに一役買った。


それでも、その功績を帳消しにする砂皿の死。
人一人を脱出させるのに一人の命が失われた。
佐天はそう考えると何とも言えない気持ちになり、フレンダから送られてきたメールを読むと、そのまま静かに携帯の電源を切った。
950 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/03/28(月) 21:49:50.50 ID:qK/F6skHo

――翌日 「アイテム」のアジト 第七学区にて


麦野を医者に連れて行って、その後アイテムのメンバーは昨日の戦いの格好のままアジトにつくやいなや寝てしまった。
そして、絹旗はついに帰ってこなかった。
死んでしまったのかも知れない。



「おい、起きろ――!」


浜面はソファで倒れ込むように寝ている二人を起こす。
滝壺、麦野、そして浜面。


当初は四人いたアイテムも今や二人。下部組織の構成員である浜面も入れて三人という有様になってしまった。


「う…は、はまづら。きぬはたはまだ帰ってない?」


「あ、あぁ…まだ帰ってない…」


滝壺は浜面の沈痛な表情を見て、「そっか」と一言小さくつぶやく。
結局、昨日の夜、絹旗は一方通行に殺されてしまったのだろうか。滝壺は体晶を使って絹旗の居場所を確かめようと思い、ジャージのポケットに手を伸ばす。


しかし、滝壺が絹旗に体晶を渡してしまった事を思いだし、その手をポケットから再び出した。
あの時渡さなければ、絹旗は助かったのに…。そんな考えが彼女の脳裏に浮かぶ。


「絹旗、あいつはうちらの為に戦ってくれたんだよ…」


「わたしが体晶を渡さなければよかったんだ…」


「そしたら、あの場に居たみんなが死んでたぞ。あの第一位の狂った表情を見なかったのか?」


「……」


体晶を渡した事で自責の念に駆られる滝壺をしかし、浜面はいなす。
951 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/03/28(月) 21:51:07.43 ID:qK/F6skHo

「…あんたら…起きてたの……?」


「むぎの」「麦野」


二人が同時にソファの方に振り向く。
すると黄色いコートを羽織ったまま寝ていた麦野がずいっと体を起こそうとしていた。
片目と片腕に包帯を巻いている姿は痛々しい印象を滝壺と浜面に与えた。


「絹旗はやっぱり帰ってきてないか…」


「そうだな…」


「クッソ…この後どうすればいいんだ?」


「組織としての体は正直保てないわね。私と滝壺…それに浜面だけじゃ…」


麦野はそこまで言うと黙ってしまった。
昨日の今日で起こった出来事にまだ頭が追いつかない。


「取り敢えず、電話の女に連絡してみるか…?」


「良いのか?麦野。あっちは学園都市の息がかかっているかもしれないんだぜ?」


浜面はそう言うと滝壺にも翻意を促そうと思い「な?」と首をかしげる。
しかし滝壺は「うん」とは言わなかった。


「多分、大丈夫だよ…電話の女は平気なはずだよ…」


「え?」


浜面はきょとんとした面持ちになる。麦野は自分の眉間に僅かに皺がよった。
952 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/03/28(月) 21:53:00.85 ID:qK/F6skHo

「電話の女が平気ってどういう事?滝壺」


「……夏休みに何回か遊んだから…」


本当はフレンダを逃がす為に学園都市を彼女も一役買ってるからだよ、とは死んでも言えなかった。
なので、滝壺は適当に話しをしていく。
麦野も滝壺の発言をおかしいと思ったものの、早く今後の指示を仰ぎたいと思い、携帯を取り出して佐天に電話をかけた。


『もしもし…!?麦野?無事だった…?』


「あぁ。何とか。ただ、絹旗が帰ってこない。それに…」


『……それに?』


「フレンダが脱走した」


『……そうなんだ』


「上からあんたに向かって何か連絡は来てないの?」


『いや、特に来てないよ…』


麦野はそっかと言うと「何かあったら連絡ちょうだいね」と一言言って電話を切った。


「電話の女の方にも特に連絡は来てないみたい…」


彼女は独り言の様にそうつぶやくとふらふらした足取りで風呂場に向かっていく。
昨日の怪我は病院の凄腕の医者に看て貰い、ある程度回復していた。
953 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/03/28(月) 21:56:21.27 ID:qK/F6skHo
風呂場に向かって行く途中に麦野が浜面に声をかける。


「浜面、お腹減った、シャケ弁お願い」


「あ、じゃあ何か買ってくるよ。滝壺、お前は?」


「私は…パンが良い」


浜面は二人の要望を聞くと、近くのコンビニに弁当を買いに出かけていった。
麦野はバスルームに行き、既にシャワーを浴びている様だった。


(きぬはたが死んで、フレンダは学園都市から脱出成功かぁ……)


滝壺の周りから二人の人が居なくなってしまった。
一人は永遠に合うことが出来ない。もう一人も会おうと思っておいそれと会える相手ではなくなってしまった。


(これから、アイテムはどうなっちゃうんだろうなぁ…)


自分の居場所。結局はアイテムという組織の中にもないのだろうか。
浜面に好意を寄せていた時もあったが、浜面が麦野とつきあい始めた時から次第に興味は薄れていった。


結局はここにも自分の居場所が無かったのかも知れない。
滝壺はそう考えると少し悲しい気持ちになった。


かつて自分に居場所が出来るといいね、と言ってくれたフレンダは帰るべき所に向かって行った。
そして今は既にこの学園都市には居ない。


(自分の居場所、私も探そうかな?)


滝壺はソファに身を沈める。
風呂に入りたい、麦野がシャワーを浴び終わったら私も入ろう、そう思った。
954 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/03/28(月) 21:56:53.31 ID:qK/F6skHo

――柵川中学学生寮前

今日は学校の日だ。というか既に遅刻確定。
昨日の夜遅くまで、自分のやった行為を考え直していた佐天。
結局、自分のやった行いは正しかったのか。いや、それとも間違っていたのか。


そんな葛藤に駆られながら彼女は寝て、そして起きた。
そしてついさっきまで麦野と電話していた。


(あぁ…今日は学校かぁ…なんだか行く気がしないなー…)




ピンポーン…




(え?こんな朝に誰?)


佐天はパジャマ姿のまま、眠そうな表情でドアを開ける。
するとそこにいたのは美琴だった。


今更居留守を使ったとしても直ぐにばれてしまうだろう。
佐天は覚悟を決めて、ドアを開けた。


「御坂さん…?」


「おはよう、佐天さん」


「こんな朝早くにごめんね、時間平気かしら?」


佐天は腕に嵌っているハミルトンの時計を見る。
遅刻確定の時間だったが、別に構わなかった。
955 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/03/28(月) 21:58:50.48 ID:qK/F6skHo

佐天は美琴に部屋に入るように促す。


「佐天さん、今後どうするつもり?」


「……正直なにも考えていません……」


「そっか……」


「私はね、自分の話しになるけど、あなたと同様、人を傷つけた事がある。それは間接的にだけれども…」


「……そうなんですか」


うん、と美琴は頷く。佐天はその事に関して深く聞こうとは思わなかった。


「友達を続けるっていうのは……やっぱり難しいと思う……結局あの計画の事を思い出しちゃうから……」


「そうですか…」


「でも、一緒に佐天さんのやった事を考えつづけたいって思うの。自分勝手だけどさ」


佐天はえぇ、と美琴の自嘲気味な呟きに同調する。
少し意外そうな顔をした美琴だったがその表情のまま床に目を落とす。


「私は確かに人を殺しました。自分では手を下していませんが、命令を伝達した立場として。その非は認めます。
フレンダを学園都市から逃がす事を幇助して免罪符を得たかったんですけど、それでもやっぱり人は死んじゃった」


「御坂さんの気持ちはすっごい嬉しいですよ?ただ、私は学園都市の闇にとっぷり浸かってますよ?このままみんなハッピーに終わるなんて事、あり得ないです」
956 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/03/28(月) 22:00:20.62 ID:qK/F6skHo

佐天の言うことに美琴は反論出来なかった。
いくら美琴が佐天の事を考えると言っても結局はそこまでなのだ。一緒に考える。それは確かに嬉しい。自分の境遇を理解してくれる理解者が居たら嬉しい。


「でも、御坂さん?私は御坂さんの言う計画に加担してたんじゃないんですか?それは御坂さんにとって思い出したくない、嫌な事。そんな事に加担した私の事を考える事が出来ますか?」


言いよどむ美琴を前にして佐天はしゃべり続ける。


「私は御坂さんの事をちゃんと考えた事はありません。いつも能力が使える凄い人っていうフィルタを通してみてました。
もうレベル5の御坂さんと私じゃ、境遇が違いすぎますよ…」


「でも、一緒に考える事は出来る。自分が周りの環境に呑み込まれるんじゃなくて、自分を貫き通す意志があれば、佐天さんも決してこの街の闇には屈しない!私はそう信じてる」


「貫き通す意志……ですか。それこそがパーソナルリアリティ(自分だけの現実)の強さってヤツなのかもしれませんね…」


ため息混じりに佐天はそう言うと立ちあがってカーテンを開けた。
唐突にパーソナルリアリティの話しを振られた美琴はきょとんとした表情だ。

残暑も終わり、徐々に肌寒くなっていく西東京、学園都市の朝の光を浴びて佐天はつぶやく。


「自分を貫き通す事って難しいんだよなぁ…人を助けたと思っても、それで他の人の人生を台無しにしてるんだから…」


「……」


しばらくの沈黙の後、美琴は「また今度連絡する……」とつぶやき、寮を出ていった。
957 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/03/28(月) 22:01:53.23 ID:qK/F6skHo

美琴が帰ってから少し時間が経ってから、再び寮のインターホンが鳴る。


『佐天さん?私です。テレスティーナ。覚えてるかしら?』


「あ、はい」
(て、テレスティーナ!?)

かつてフレンダに砂皿の連絡先を教えてくれた人物だったが、結局は佐天達に尾行をつけるのを認めさせた女だ。

がちゃりとドアを開けるとキャリアウーマンといった出で立ちで立っているテレスティーナが居た。


「ど、どうも…」
(今日は御坂さんの他にもお客さんが来ますねー)


「佐天さん?あなたに学園都市から逮捕状が出てるわよ?」

テレスティーナはそう言うとにっこりと笑って逮捕状を見せる。
初めて見る逮捕状に佐天は動揺を隠しきれなかった。

「え?これが……私に…?」


「えぇ。あなた、ゴージャスパレス姉妹の学園都市脱出を幇助した疑いがあるのよね?どう?ご同行お願いしても良いかしら?」


「……わかりました……」


ありがとね、とテレスティーナは言うと後ろに立たせていたMARの隊員達を首でしゃくる。
すると佐天の両サイドに屈強な隊員がガードするような格好になり、彼女は連れてかれてしまった。
958 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/03/28(月) 22:03:22.70 ID:qK/F6skHo
――府中 学園都市刑務所 面会室

ドラマでよく見るような部屋に佐天はいた。
ここは府中刑務所の面会室。佐天はMARの隊員達に連れてこられたのだ。


「ここで誰と話すんですか?」


佐天はテレスティーナに聞くが、彼女は「ふふ」と笑うだけで答えなかった。
同じくMARの隊員達もなにも答えずに部屋から出て行ってしまった。


(誰なんだろう…?)


捕まった事で佐天は動揺し、今さらここから走って逃げようなどとは思わなかったが、自分と面会をしようとしている人物が誰だかわからず、相手が来るまでどきどきしていた。


「もう少しでくるわよ?じゃ、私達はここらへんで」


テレスティーナはそう言うと配下の隊員達を従えてそのまま去っていく。
その直後、入れ替わりで、ガラスに仕切られた反対側の部屋から人が入ってきた。


面会希望人は一人ではなかった。金髪でサングラスの男、真っ赤な髪でツインテールのように髪を結っている女、ポーカーフェイスでにこにこ笑っている男、そして――。
959 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/03/28(月) 22:04:38.33 ID:qK/F6skHo

――アイテムのアジト


浜面がシャケ弁と適当にチョイスしたパンを買ってきた。
麦野がちょうど風呂に出て、新しい服に着替えた後だった。滝壺は麦野と交代で風呂に入っているようだ。


「弁当買ってきたぞ。ほら、シャケ弁だぞ」


「ん。ありがと」


麦野は浜面から弁当を受け取る。


「ねぇ…浜面」


「あん?何だよ」


「私とあんたって付き合ってたのよね」


「あぁ、付き合ってたな」


「今は?」


麦野は浜面に問いかける。
質問された浜面はその答えに戸惑う。


「付き合ってるつーか…なんと言うか…お前が多分俺と付き合ったって事が信じられないのは、スクールにいた女に頭の中いじくられたからだろうな」


「そうね…」


浜面と付き合っている事実は確かにあるのに、全く好意が湧かない。
麦野の心理状態は心理定規に操作されて、次の日に当たる今日も、全く回復しなかった。
960 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2011/03/28(月) 22:04:46.84 ID:NHb36Sl8o
なん・・・だと・・・!?
961 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/03/28(月) 22:05:16.28 ID:qK/F6skHo

「…私、どうしたらいいかな?浜面」


麦野が髪をかき分けつつつぶやく。
かき分けるときにちらっと薬指に嵌っている指輪が見えた。


「指輪…つけててくれたんだな…」


「……うん」


「俺とお前の距離だかなんだかしらねぇけどさ、今からやり直せばいいだろ?麦野」


「そう……なのかな?私、全然浜面に好意湧かないよ……?」


「そしたら、それでも良い。これから色々大変だと思うけどさ、頑張ろうぜ?恋人としてじゃなくて、アイテムと下部組織の構成員って関係からで良いからさ」


麦野は小さくこくんと頷く。
滝壺と麦野、そして浜面。これから三人はどうなるのだろうか。
962 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/03/28(月) 22:06:30.48 ID:qK/F6skHo

――府中刑務所 面会室

佐天のいる部屋とは反対側にいる四人の男女。
正確に言えば男三人と女一人。


その中でも白髪でひょろい男がどかっと椅子に座った。
サングラスをかけている男に早く本題に入れ、と言われている。


白髪、いや、銀髪の男は「うっせぇな」と悪態をつきつつも佐天に向かって話し始めた。


「よォ。昨日はご苦労様ってことだ」


「は?何のことですか?」


「まァそう謙遜すンなって。クカカ…アイテムの連絡係さン?」


「……」


佐天は思った。
目の前にいるこいつ等は自分の事を知っていると。


「私に何の用ですか?まさか死刑?」


「そンなンじゃねェって。統括理事会が独立記念日に起こった事は全てチャラにするってお達しを伝えに来た」


「チャラ…?」
(じゃあ、フレンダ達が脱出したことも不問に?)


「…ま、何を考えてるかわからねェが、お前ン所の脱走者の件やそォいうの全てチャラって事だよ。お前もここで釈放だァ」


「私も…?」
963 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/03/28(月) 22:11:48.05 ID:qK/F6skHo
銀髪の男は「あァ」と頷く。
すると隣にいる金髪のサングラスの男が今度は椅子に座って、話し始めた。


「ま、そういう事だにゃー。みんなハッピーエンドになったって事かな?生きてる奴は」


最後の言葉を協調した金髪のチンピラの様な男はサングラス越しからその双眸を佐天に向ける。


「ただ、お前は釈放の代わりに条件があるんだにゃー、佐天涙子」


「……私の釈放の代わりに……条件?」


金髪のグラサン男は無言で首肯する。


「アイテムは壊滅状態。恐らく、近々解散するだろう。その連絡はお前経由でリーダーの麦野にしておいてくれ。その代わりに…」


「私が解散するアイテムの次にあなた達の連絡係になってくれって事ですか?」


金髪でサングラスをかけた男は「察しが良いな」とつぶやく。そして弁を続けた。

「返事は今しなくても良い。近い内に聞かせてくれ。ただ、お前は本来なら学園都市の技術を漏洩し、長期間独房で過ごす或いは無期懲役だ。
それをよく考えて、どっちが良いか、判断してほしいにゃー」


金髪の男はそう言うと部屋から出て行くが去り際に「良い返事を聞かせて欲しい」と言い、にやっと笑った。
そして、その男の後ろを他の三人がついていく。その光景を見ていた佐天は小さくつぶやいた。


「釈放する代わりに…また闇に逆戻りかぁ…どうしようかな…?」


美琴と話した事やフレンダ、滝壺、砂皿色々な人の顔が彼女の脳裏に浮かび上がってくる。
どうしようか。またあの闇に戻るのか。それともうす暗い刑務所の独房でずっと暮らすのか…?


彼女は思考の海にゆっくりと沈んでいく……
964 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/03/28(月) 22:13:15.79 ID:qK/F6skHo

――カナダ・カルガリー 快晴


カルガリー市街地から十七キロほど離れた所に位置している国際空港にステファニーとフレンダは到着した。
そこからバスに乗って市街地へ向かって行く。


「フレンダ?久しぶりだね、カナダ」


「うん。英語、喋れるかな?ちょっぴり自信ないよ」


フレンダはそう言うとバスの窓から外を見る。
バスは川沿いを走っていく。黄金色に輝いている葉はひらひらと落ちていき、水面や道に落ちていき、フレンダ達の視界一面全てを金色に染め上げていた。


「綺麗だねー」


「本当だね」


フレンダにしろ、ステファニーにしろ、昨日の戦いの傷はまだ癒えていない。
フレンダは足に包帯、ステファニーも後頭部に医療用テープが貼られている状態だ。


それでも、傷を負っていても、二人の姉妹は笑顔を絶やさなかった。
もう人を殺す世界には行かないのだ。
二人は砂皿という大事な人を失ってしまったが、それでも、彼女達はそれを乗り越えて前に進まなければならない。
965 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/03/28(月) 22:15:03.54 ID:qK/F6skHo

「もう、二度とフレンダから離れないからね?」


「…うん。ありがとう。お姉ちゃん…」


フレンダはそう言うと隣の座席に座っているステファニーの肩の辺りにすとんと頭をもたげる。
ステファニーはフレンダの肩に手を回して引き寄せる。




もう離れない。
絶対に。



「ねぇ、フレンダ。帰ったらまずは砂皿さんの遺体を庭に埋めてあげたいんだけど、どうかな?」


「良いよ」


砂皿の遺体は冷凍状態で日本からカナダに後日送られてくる。
ステファニーは彼の遺体を丁寧に土葬しよう、と提案した。


「ねぇ…フレンダ?私ってひどい人間かな?」


「いきなりどうしたの?お姉ちゃん」


「お前の事なんかそっちのけで勝手に色んな所に行ったりして、師匠で、私の大好きだった砂皿さんを見殺しにするような人だよ?」


「そんな事言わないでよ…。私は結局お姉ちゃんがいなかったら、あのまま学園都市の闇に引きずられてたって訳よ…他のアイテムの人達には悪いけど、抜けれて良かったって思う。
だからそこから掬い上げてくれたお姉ちゃんは決してひどい人じゃないよ。砂皿さんもね」
966 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/03/28(月) 22:18:19.17 ID:qK/F6skHo

「そっか…」


フレンダは「うん」と微笑む。
ステファニーはそう言うと安堵の表情を浮かべる。



ここで彼女達が乗っているバスが停まる。
終点だった。
フレンダ達以外の乗客が先に、皆降りていく。



最後に残った彼女達は荷物をぐいっと肩で背負うとバスのステップに足をかける。
ステップの先に見えるカルガリーの市街地。フレンダとステファニーの鼻腔にカルガリーの新鮮な空気が入ってくる。





バスから降りれば、そこから先はまだ見た事のないフレンダ=ゴージャスパレスとステファニー=ゴージャスパレスの明日が待っているはずだ。




                                                         ――おしまい
967 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2011/03/28(月) 22:19:31.01 ID:NHb36Sl8o
うおー!佐天「・・・グループ?」もやってほしい!
968 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [saga]:2011/03/28(月) 22:28:25.85 ID:qK/F6skHo

以上でおしまいです。
読んでくれ人、本当にありがとう!

















以下、作者の一人語りなので興味無い人はスルーして下さい。



相変わらず到らない所ばっか。
書きため遅いし、誤字脱字ばっか。
心理描写下手だし、実際の地名とかブランド名出して…癖のあるSSですが、読んでくれて本当にありがとう。
これから精進したいです。



佐天がどういう答えを出すかは皆さんの想像の中で考えて頂ければ、と思い、あの様な形にしました。

元々、禁書目録の原作15巻のテンション高い電話の女と15巻のアイテムの挿絵に佐天がいる事から、「あれ?まさか同一人物だったら?」という妄想から話は始まりました。
そして、ステファニーとフレンダ同じ白人じゃん!って事で勝手に姉妹妄想した次第です。


四月から働くんで、SS書くスピード遅くなるけど、今度は以前の作品(?)みたいベタな恋愛もの書こうと思ってます。
エツァリと美琴、超アステカ砲のカップリングに挑戦したなーなんて。


お前等ときたらー!!多くのレスありがとね!!ではまたね!
もう少しで外出するので明日html依頼出します。
969 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM [sage]:2011/03/28(月) 22:30:01.57 ID:qK/F6skHo

>>967
レス感謝。

今度総合に投下出来たらやってみます…!!!!
ここまで読んでくれてありがとう
970 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/28(月) 22:38:17.70 ID:x4gCr0hTo

楽しかったよ
971 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東日本) [sage saga ]:2011/03/28(月) 22:51:46.72 ID:5YSsVm0D0
うーん、唐突な終わり方だなぁ
途中までが良かっただけに。
972 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/03/28(月) 23:05:13.45 ID:WI4imu730
乙です!
書き手としてこの纏め方は参考になります!

楽しかったぜぇ
973 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) [sage]:2011/03/28(月) 23:30:41.65 ID:6fzrXiaz0
乙 てっきりアイテムの面々で一方さん攻略しちゃうのかと思ったよ
滝壺に反射いじられて、原子崩しに絶対絶命状態で黒翼!とかね
あとフレ/ンダは、麦野がフレンダを逃がすためのフェイクで とか
フレンダ姉妹の終わりはアレでも良いと思うけど、佐天さんの今後がね
なんで連絡係なのかと 前の奴どうなったのかと 
どうせなら、妹達が佐天さんを迎えに来て、美琴と鉢合わせしてって
次回以降につながるような展開を期待したかった お疲れ様です
974 :作者 携帯から [sage]:2011/03/29(火) 01:04:06.35 ID:s7Kr7O2DO
>>971、973
ご指摘ありがとうございます。色々考えさせられました。

>>972
拙稿が役に立てたならうれしい限りです
975 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/29(火) 01:56:11.12 ID:8LjQ5ZkL0
絹旗が一番可哀想なンだが
それと砂皿さンと木原くンかっこよかった
976 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/03/29(火) 02:26:20.71 ID:E5Vh0Fzso
なんやかんやで結局超乙って訳よ!
977 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(中部地方) [sage]:2011/03/29(火) 02:29:22.90 ID:s3bV4lyMo
バスから降りれば、そこから先はまだ見た事のないフレンダ=ゴージャスパレスとステファニー=ゴージャスパレスの明日が待っているはずだ。



そして、2つの銃声が響いた。





                                                         ――おしまい



ってなると思ったのに…

978 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(九州) [sage]:2011/03/29(火) 03:39:29.51 ID:4ArTzfbAO
乙でした
もっといっぱい死ぬかと思ってました
979 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/29(火) 04:10:34.01 ID:r18qmbDd0
俺はどちらかと言えばフレンダの事嫌いじゃないんだが、今回ばかりは>>977でもいいんじゃないかなと思った
絹旗…………
980 :投げんな匙 ◆ZBFBxXwTUM :2011/03/29(火) 12:40:51.56 ID:RUB9YW0/o
皆さんありがとうございました!
では、これにてhtml依頼出して来ます。

皆様のレスは今後の参考にし、活かしたいと思います。

あー、砂皿とステファニーのSSもっと増えろ…!


ではまた!どこかで!
981 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2011/03/29(火) 13:46:49.44 ID:r6teUcyfo
乙乙
楽しかったよ
982 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/29(火) 21:17:57.29 ID:vwHomnESo
おつかれさまー

面白かったけど、これ主役佐天さんじゃなくてフレンダだね…
983 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/30(水) 03:31:38.10 ID:kZDQq7CIO
超乙です。

本格派だなあ。
更新の日には夢中になって読みました。
984 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/30(水) 11:16:22.56 ID:xC3HtM6T0
絹旗好きの俺にはつらいラストだった
仲間をかばって体晶を使った挙句レイプされて強制信号で脳焼ききられるとか…………
985 :投げんな匙 ◆t4xyS9bQ1M [sage]:2011/03/30(水) 12:14:58.73 ID:QfajaG8R0
まだhtml化されてないし、レス返し。

こんなにも読者の方が居て驚いています。
主役は…確かにフレンダっぽいね。最初だけ佐天主人公っぽかったけど…。

>>983
本格派?雑な文章で伏線回収もままならない拙稿をここまで評価して頂き、マジで嬉しい限りです。

>>984
体晶使ったら、一方通行と戦えるんじゃないかっていう俺の妄想を書きたかったんで、彼女には今回辛い役回りをお願いしました…><
986 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/30(水) 14:43:57.76 ID:ltGPK6+fo
乙、一方通行ェ・・・
987 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(鹿児島県) [sage]:2011/03/30(水) 22:25:13.88 ID:mPrx4AIEo
乙 乙
楽しめたよ
988 :作者 携帯 [sage]:2011/03/30(水) 23:42:39.39 ID:5ciwf54DO
おまえらマジでありがとう!!
こんなにレスついたの初めてで恐縮だけど、次回はもっと良い作品かけるように頑張りますわ
989 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東) [sage]:2011/03/31(木) 04:45:36.74 ID:bvXxyL+AO
乙でした。完結して良かったぜ
990 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします [sage]:2011/03/31(木) 14:59:34.01 ID:7AppqCkT0

後10は絹旗への超追悼にしようぜ
991 :作者 携帯から [sage]:2011/03/31(木) 16:10:32.07 ID:iMQyJiGDO
レス着いた数やべぇ。ションベンちびりそうだわ。

のこり9レス。果たして読んでる人がいるか……!?
992 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/31(木) 16:17:38.00 ID:At+Qd2vQo
絹旗が不憫やでえ
993 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/31(木) 16:55:21.55 ID:cOoSus/so
994 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新潟県) [sage]:2011/03/31(木) 19:08:11.25 ID:T+VRyNmjo
乙華麗
995 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/31(木) 21:41:51.08 ID:R+/W7epco
乙でした

ここの一方さんは原作とは違う意味で子供っぽくて新鮮だった
アリの巣に水入れたりカナブンの羽もいでポイするノリでタチ悪くてかわいい
996 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/31(木) 22:50:11.70 ID:auX9K6xP0
>>995
とんぼの頭でこぴーんしたりな
997 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2011/04/01(金) 00:04:22.92 ID:Rv3HcLxmo
乙乙
998 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2011/04/01(金) 03:22:48.90 ID:KavubqWQo

ここまで怖い第一位は他にはいないw
999 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/04/01(金) 06:09:12.49 ID:OsVddFNSO
おつ
1000 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/04/01(金) 06:10:34.74 ID:OsVddFNSO
1000なら砂皿復活
1001 :1001 :Over 1000 Thread
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  エIIエ ふ イ 大. お  |// //// // /.| ||i;゛、   ヽ ヽ  、
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  、 ァ .つ | 十    |///| { ,,;;;;i :: |.|ii ii、 i  !    i  i
  ┐用 .う  .レ.cト、   |シ从|.|,,,;;;" ̄~"|.|.ii ヾ、、 ヽ    i  i|
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